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特開2025-23818高速定量NMRスペクトル取得のためのシステムおよび方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025023818
(43)【公開日】2025-02-17
(54)【発明の名称】高速定量NMRスペクトル取得のためのシステムおよび方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 24/00 20060101AFI20250207BHJP
   G01R 33/46 20060101ALI20250207BHJP
【FI】
G01N24/00 530J
G01R33/46
G01N24/00 530H
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024107581
(22)【出願日】2024-07-03
(31)【優先権主張番号】23189885
(32)【優先日】2023-08-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.ブルートゥース
2.WCDMA
(71)【出願人】
【識別番号】524252873
【氏名又は名称】ブルカー バイオスピン ゲーエムベーハー アンド カンパニー ケージー
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】フィッシャー,ミスター クリスチャン
(72)【発明者】
【氏名】ラッチ,ミスター カール‐フリードリヒ
(72)【発明者】
【氏名】モリオ,ミスター ファブリス
(57)【要約】      (修正有)
【課題】試料に対して行われる複数のNMRスキャンに関する高速定量NMRデータ取得のためのシステム、方法を提供する、
【解決手段】試料に対して複数のスキャンバッチを行う。各バッチは、上記核のほぼ完全な緩和を確実にする長期遅延間隔の後に行われる長期遅延スキャンと、その後に続く、各々が長期遅延間隔よりも短い短期遅延間隔の後に行われる短期遅延スキャン(SDS)のセットとを備える。各スキャン時点について平均積分損失が計算される。スキャンバッチの各NMRスペクトルについて、それぞれの関心領域に関連する積分値に対応する補正係数が乗算される。全てのバッチ(B1~B3)における補正されたNMRスペクトルに関連する積分値が合計され、上記試料の関心領域におけるNMR信号強度の表現が得られる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料(201)に対して行われる複数のNMRスキャンに関する高速定量NMRデータ取得のためのコンピュータ実装方法(1000)であって、
NMRスペクトルの積分領域として、前記試料のそれぞれの核に対応する関心領域(ROI1)を取得すること(1100)と、
前記試料に対し複数のスキャンバッチ(B1~B3)を開始すること(1200)であって、各バッチは、前記複数のバッチにおけるNMRスキャン(202-1~202-t)の総数が、前記試料のためのNMRスキャンの最小必要数以上となるように、前記核のほぼ完全な緩和を確実にする長期遅延間隔の後に行われる長期遅延スキャン(LDS)および、その後に続く、各々が前記長期遅延間隔よりも短い短期遅延間隔の後に行われる短期遅延スキャン(SDS)のセットを備え、各スキャンは、前記それぞれのスキャンバッチの前記長期遅延スキャンの時点に関連して対応するスキャン時点(t1~t6)に関連付けられることと、
対応するスキャン時点の各々について、前記関心領域にわたる積分によって、前記関心領域内の集約NMRスペクトル部分(Saa~Saf)を決定すること(1300)であって、前記対応するスキャン時点における前記集約NMRスペクトル部分は、経時的な減衰を示すことと、
前記減衰に指数関数的減衰関数(610)を適合させること(1400)と、
前記適合関数を各スキャン時点に適用することによって、各スキャン時点に関する平均積分損失を計算(1500)し、前記積分損失が補償されるように、前記平均積分損失から各スキャン時点の補正係数を決定すること(1600)と、
前記複数のスキャンバッチの各NMRスペクトルについて、前記それぞれの関心領域に関連する積分値に前記対応する補正係数を乗算すること(1700)と、
前記試料(201)の前記関心領域における前記NMR信号強度の表現(202-sf)を得るために、全てのバッチ(B1~B3)における前記補正されたNMRスペクトルに関連する前記積分値を合計すること(1800)と
を備える方法。
【請求項2】
前記試料のほぼ完全な緩和のための前記長期遅延間隔(LD)は、前記試料の99%を超える緩和を可能にするために30秒~120秒の範囲から選択され、前記1または複数の短期遅延間隔(SD)は、0秒~2秒の範囲から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
長期遅延間隔を取得することは、実験を介して前記長期遅延間隔を決定することを備え、前記1または複数の短期遅延間隔は、0秒~2秒の範囲から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記短期遅延間隔は、各スキャンバッチの全ての短期遅延スキャンに使用される単一の短期遅延値を有する、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
各バッチの少なくとも2つの対応する短期遅延間隔が異なる遅延値を用いる、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
スキャンバッチ内の前記短期遅延スキャンのセットは、3~9回の短期遅延スキャンを備える、請求項1~5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
既に処理されたスキャンバッチにおける補正された個々のNMRスペクトルの全ての前記積分値を合計することによって、各スキャンバッチの後、前記試料の前記関心領域における推定NMR信号強度(202-si)を提供すること
をさらに備える、請求項1~6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記個々のNMRスペクトルを得るために前記試料に印加される励起パルスは、0°より大きく90°以下のフリップ角を有する、請求項1~7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記フリップ角は、30°~45°の範囲である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記補正係数は、前記それぞれのバッチの個々のNMRスペクトルの前記関心領域内の全ての点について計算および適用される、請求項1~9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記補正係数は、前記それぞれのバッチの個々のNMRスペクトルの全ての点について計算および適用され、補正された個々のNMRスペクトルは全て、単一の集約NMRスペクトルに合計される、請求項1~10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
現在の個々のNMRスキャンの前記遅延間隔の後、かつ後続の励起パルスが前記試料に印加される前に、残留横方向磁化を除去するために、前記試料へのトリムパルスの印加を開始すること
をさらに備える、請求項1~11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
決定すること(1600)は、
各スキャン時点について対応する個々のNMRスペクトル(S1a~S1f、S2a~S2f、S3a~S3f)を得るために、個々のNMRスキャンにフーリエ変換を適用し、前記複数のスキャンバッチ内の対応するスキャン時点(t1~t6)に関連する前記個々のNMRスペクトルの対応する部分を、前記関心領域内の前記集約NMRスペクトル部分(Saa~Saf)に集約すること、または
対応するスキャン時点の前記個々のNMRスキャンをそれぞれの集約NMRスキャンに集約し、前記集約NMRスキャンにフーリエ変換を適用して、前記関心領域内の前記対応するスキャン時点に関する前記集約NMRスペクトル部分(Saa~Saf)を得ること
を備える、請求項1~12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
コンピューティングデバイスのメモリ内にロードされ、前記コンピューティングデバイスの1または複数のプロセッサによって処理されると、前記コンピューティングデバイスに、請求項1~13のいずれかに記載の方法に従って、試料に対して行われる複数のNMRスキャンに関する高速定量NMRデータ取得のためのステップを実行させるコンピュータ可読命令を備えるコンピュータプログラム製品。
【請求項15】
試料に対して行われる複数のNMRスキャンに関する高速定量NMRデータ取得のためのコンピュータシステムであって、複数の機能モジュールを実装するコンピュータ可読命令を格納するメモリと、請求項1~14のいずれかに記載の方法に従ってステップを実行するために前記機能モジュールをインスタンス化するために前記コンピュータ可読命令を実行するための前記コンピューティングデバイスの1または複数のプロセッサとを備えるコンピュータシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に試料の分光測定に関し、特に、高精度での高速定量NMRスペクトル取得のためのシステムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0002】
核磁気共鳴(NMR)は、強い磁場における原子核の挙動を測定することによって分子の特性を研究するために用いられる技術である。NMRは、特定の原子核がスピンと呼ばれる特性を有することにより、小さな磁石のように作用するという事実を利用する。分子の試料を強い磁場内に載置すると、原子核が磁場と位置を合わせる。この平衡状態において、核は、その向きによってわずかに異なるエネルギを有する。試料が磁場内に載置され、高周波(RF)パルスで核試料を励起して核磁気共鳴を生じさせることにより、NMR信号が生成され、高感度RF受信器で検出される。分子内の原子の周囲の分子内磁場は、共鳴周波数を変化させるので、分子の電子構造および個々の官能基の詳細にアクセスすることができる。たとえば、NMR分光法は、単分子の有機化合物、タンパク質、および他の複合分子を識別するために用いられる。識別以外にも、NMR分光法は、分子の構造、動態、反応状態、および化学的環境に関する詳細な情報を提供する。一般的な種類のNMRは、プロトンおよび炭素13NMR分光法であるが、NMRは、スピンを有する核を含む任意の種類の試料に適用可能である。
【0003】
詳しくは、NMR分光法において、化学シフトとは、磁場内での原子核の基準に対して相対的な共鳴周波数である。化学シフトの位置および前記位置におけるピーク強度は、試料中の分子の量を示す。通常、化学シフトδは、
【数1】

から計算されるため、周波数ごとに100万分の1(ppm)で表され、式中、Vsampleは試料の絶対共鳴周波数であり、Vrefは、同じ印加磁場B0で測定された標準参照化合物の絶対共鳴周波数である。通常、分子はヘルツで、分母はメガヘルツで表されるので、δはppmで表される。
【0004】
核をより高いエネルギ状態にする高周波(典型的には60~1000MHz)で試料を励起すると、本明細書において自由誘導減衰(FID)と称される核磁気共鳴応答が得られる。FIDは、非常に弱い信号であり、ピックアップするために高感度RF受信器が必要である。生の時間領域FIDから周波数領域スペクトルを抽出するためにフーリエ変換が適用され得る。単一のFIDから得たスペクトルは、通常、低い信号対雑音比を有する。このスペクトルは、各原子核の周囲の化学環境に特有の信号(「ピーク」)を含み、試料中の成分/分子の種類を識別するために用いられ得る。各ピークの強度は、それぞれの核の数に正比例するため、試料中でそれが属する化合物の質量/濃度に正比例する。特に希薄(低濃度)試料の正確な定量化のために、これらのFIDが数十や数百取得され、累積される。
【0005】
通常、秒単位で測定される励起の減衰時間は、軽い核および固体については速く、重い核および溶液については遅いという緩和の効果に依存して、気体中では非常に長くなり得る。緩和時間定数は、スペクトル内の信号ごとに個別である。
【0006】
正確な結果を確実にするために高い信号/雑音比に到達するには、個々のスキャンで著しい数のFIDが取得される必要があるため、定量NMR取得は緩慢である(時間がかかる)。その後、個々のスキャンが合計され、最終的なFIDとなる。先行技術の解決策では、試料を緩和させるために、そのような個々のスキャン測定間の遅延が必要である。有利には、試料は完全に緩和される。そうでなければ、信号振幅がスキャンからスキャンで平衡値に向かって低下する。(緩和遅延または再生遅延としても知られている)遅延時間は、これらの連続的な取得(個々のスキャン)間の期間である。これにより、スピンが熱力学的平衡に戻ることが可能である。これが過度に短く設定された場合、「緩和」が不完全であり、連続取得における信号強度が低下する。定量NMRに関して、この緩和の時定数T1の5倍または7倍が推奨され、それぞれ99.3%または99.9%の緩和がもたらされる。99%を超える緩和は、本明細書においてほぼ完全な緩和と称される。しかしながら、T1の値は先験的に知られておらず、一般に、スペクトル内の各信号について異なる。“Practical guide for selection of 1H qNMR acquisition and processing parameters confirmed by automated spectra evaluation.Magn Reson Chem.2017 Nov;55(11):996-1005.doi:10.1002/mrc.4622.Epub 2017 Jun 20.PMID:28561374.”という論文において、著者のMonakhova YB、Diehl BWKは、体系的かつ自動化された方法で過去に行われてこなかった、特に開発された自動化ルーティンおよび一般に定量NMR(qNMR)に対する取得の影響および取得後のパラメータに着目している。これらは、取得パラメータをどのように選択するかのガイドを提供する。試料の完全な緩和を確実にするために、最長遅延の7×T1が推奨である。
【0007】
遅延の不適切な選択は、定量バイアスをもたらす。安全のため、通常、個々のスキャン後に実際に必要な遅延よりも長い遅延(たとえば60秒~90秒)が用いられる。TI時定数を決定するための標準的な実験が存在するが、大幅な追加時間を必要とする。たとえば、Loening NM、Thrippleton MJ、Keeler J、Griffin RGは、“Single-scan longitudinal relaxation measurements in high-resolution NMR spectroscopy.J Magn Reson.2003 Oct;164(2):321-8.doi:10.1016/s1090-7807(03)00186-1.PMID:14511600.”という論文で、高速T1測定を説明している。
【発明の概要】
【0008】
したがって、特に関心対象の成分が低濃度である試料に関して、高速定量NMRスペクトル取得のための方法およびシステムを提供することが課題である。たとえば、標準的な先行技術の取得方法を用いる場合、低濃度試料の完全な緩和を保証するために60秒の遅延を用いる場合の合計取得時間は容易に30分を超え、多くの実用的用途には不適切である。独立請求項に従って本明細書に開示される高速かつ正確なNMRスペクトル取得アプローチは、高レベルの定量化精度を維持しながら、合計取得時間を先行技術の方法に必要な時間の3分の1未満まで低減することができる。
【0009】
すなわち、上述した技術的問題は、独立請求項に記載されるコンピュータ実装方法、コンピュータプログラム製品、およびコンピュータシステムの実施形態によって解決される。
【0010】
1つの実施形態において、試料に対して行われる複数のNMRスキャンに関する高速定量NMRデータ取得のためのコンピュータ実装方法が提供される。この方法は、ランタイムにおいてコンピュータ実装方法の様々なステップを行うように適合されたコンピュータシステムの機能モジュールを実装するそれぞれのコンピュータプログラムを実行するコンピュータシステムによって行われ得る。
【0011】
最初に、方法は、NMRスペクトルの積分領域として、関心領域を取得する。関心領域は、NMR分光法における一般的な用語であり、分析される物理的試料に含まれる特定の分子(すなわち上記分子の核)の特徴である関連信号情報を有するNMRスペクトル部分(すなわち波数範囲)を表す。関心領域における信号強度の積分値は、通常、上記分子の濃度の指標である。したがって、NMRスペクトルの一点は、NMR分光法の性質により、既に周波数範囲に対応している。すなわち、NMRスペクトルの一点における強度値は既に、基礎となる周波数範囲の強度積分を表すと考えることができる。通常、関心領域は、特定の成分に関心を持つユーザから受け取られる。あるいは、関心領域は、様々な成分に関する関心領域情報を格納するそれぞれのデータベースから取得され得る。たとえば、この方法は、測定されたNMRスペクトルの複数の関心領域を連続的に分析するために用いられ得る。
【0012】
本明細書に開示されるアプローチは、個々のNRMスキャン間で上記核の緩和(すなわちそれぞれのスピンの緩和)を可能にするために長期遅延間隔および1または複数の短期遅延間隔を用いる。一般に、本明細書で用いられる遅延間隔は、それぞれの取得時間間隔後に上記核のさらなる緩和を可能にするために、それぞれのNMRスキャンの取得時間間隔に後続する時間間隔を定義する。通常、励起パルスの後、核の緩和によって生じる信号強度の減衰を測定するために、取得時間間隔中にNMRスキャンが行われる。しかしながら、取得時間間隔の終わりに、核は未だ完全に緩和されていない。したがって、取得時間間隔の後に、核のさらなる緩和を可能にする遅延時間間隔が追加され得る。そのような追加の遅延時間がない場合、通常、試料の低濃度成分に関する測定結果は、後続のNMRスキャンの各々で劣化し、信号対雑音比が非常に劣悪になる。一方、特に工業的な測定シナリオにおいて、低濃度成分のために必要な一連のNMRスキャンを可能な限り速く行うことが望まれる。本明細書に開示されるアプローチは、数回の短期遅延スキャンの後に(長期遅延スキャンと称される)長期遅延間隔を有するNMRスキャンが再び行われる限り、非常に短い遅延間隔を有するNMRスキャンのシーケンス(短期遅延スキャンと称される)を用いても高精度の測定が行われ得るという驚くべき効果を利用する。したがって、長期遅延間隔の期間は、それぞれの核のほぼ完全な緩和を可能にするように選択される。本明細書で使用される場合、試料のほぼ完全な緩和とは、逆転スピンの少なくとも99%が元の方向に戻った試料の状態を表す。短期遅延間隔の期間は、長期遅延間隔の期間よりも短い。
【0013】
たとえば1つの実装において、試料のほぼ完全な緩和のための長期遅延間隔は、試料の99%を超える緩和を可能にするために30秒~120秒の範囲から選択され得る。別の実装において、長期遅延間隔は、実験によって決定され、上述した範囲よりも短くなる場合もある。短期遅延間隔は、通常、0秒~2秒の範囲から選択される。したがって、本明細書に開示されるアプローチによる非常に良好な結果は、0秒の短期遅延間隔(無視できるほどの遅延)でも達成された。すなわち、NMRスキャンのシーケンスは、長期遅延スキャンが適切な数の短期遅延スキャンの後に行われる場合、先行のNMRスキャンの取得時間間隔に短期遅延間隔を全く追加せずとも行われ得る。長期遅延間隔後の試料の緩和は、後続の短期遅延スキャンに関して再び良好な強度値を得るために十分であることがわかった。
【0014】
この目的のために、方法は、試料に対して複数のスキャンバッチを行う。各バッチは、複数のバッチにおけるNMRスキャンの総数が、試料のためのNMRスキャンの最小必要数以上となるように、(少なくとも上記核のほぼ完全な緩和を確実にする長期遅延間隔の後に行われる)長期遅延スキャンと、その後に続く短期遅延スキャンとを備える(各短期遅延スキャンは、長期遅延間隔よりも短い短期遅延間隔の後に行われる)。留意点として、測定の開始時、試料は通常、完全に緩和しているため、第1のバッチの第1のスキャンは、定義上、長期遅延スキャンである。各スキャンは、それぞれのスキャンバッチの長期遅延スキャンの時点に関連して対応するスキャン時点に関連付けられる。すなわち、各バッチは常に、対応する長期遅延スキャン時点LDTを定義する長期遅延スキャンで開始する。各バッチにおける第1の短期遅延スキャンは、対応するスキャン時点SDT1において行われ、第2の短期遅延スキャン点は、対応するスキャン時点SDT2において行われ、以下同様であると考えられる。全ての短期遅延スキャンが対応するスキャン時点に関連付けられ、これは、各バッチ内の短期遅延スキャンの数が同じであることを示す。
【0015】
1つの実装において、短期遅延間隔は、全ての短期遅延スキャンに関して同じである。代替の実装において、バッチの短期遅延スキャンに異なる短期遅延間隔が用いられ得る。すなわち、この実装において、スキャンバッチの少なくとも2つの短期遅延スキャンが異なる短期遅延間隔を用いる。留意点として、第1のバッチに関して異なる短期遅延間隔が用いられる場合、後続するバッチは全て、有意な結果を導出するために第1のバッチと同じ順序で異なる遅延間隔を適用する必要がある。有利には、スキャンバッチ内の短期遅延スキャンのセットは、3~9回の短期遅延スキャンを備える。バッチの数は、試料およびそれぞれの低濃度成分に必要なNMRスキャンの総数に依存する。
【0016】
方法は続き、対応するスキャン時点の各々について、関心領域にわたる信号の積分により、上記関心領域内の集約NMRスペクトル部分が決定される。すなわち、全てのバッチの関心領域内の強度値が、LDT1、SDT1、SDT2などについて加算される。したがって、(ほぼ完全な緩和後の)LDTにおける集約NMRスペクトル部分は最も高く、後続の対応する短期遅延スキャン時点における集計値は、経時的な減衰を示す。留意点として、集約NMRスペクトル部分を得るためには、方法が全ての個々のNMRスキャンに最初にフーリエ変換を適用し、次に、得られた個々のNMRスペクトルを集約するか、最初に個々のNMRスキャンを(対応するスキャン時点ごとに)集約NMRスキャンに集約し、次に、集約NMRスキャンにフーリエ変換を適用して集約NMRスペクトル部分を得るかは無関係である。動作は可換的であるため、結果は同じである。
【0017】
その後、対応するスキャン時点にわたる集約NMRスペクトル部分の減衰曲線に指数関数的減衰関数が適合される。各スキャン時点に適合関数を適用することで、各スキャン時点に関する平均積分損失が計算される。決定された平均積分損失から、各スキャン時点に関して、積分損失が補償されるように補正係数が決定される。
【0018】
その後、各NMRスペクトルについて、それぞれの関心領域に関連付けられた積分値に対応する補正係数を乗算することによって、複数のスキャンバッチから得られた全てのNMRスペクトルに補正係数が適用される。この補正により、短期遅延スキャンの小さな寄与が、それぞれのバッチの長期遅延スキャンほどの値に補正されることも確実になる。したがって、関心領域がスペクトル内の一点に対応するような場合、補正は、スペクトル内の一点のみに適用され得る。最後に、方法は、上記試料の関心領域におけるNMR信号強度の表現を得るために、全てのバッチ内の補正されたNMRスペクトルに関連する積分値を合計する。
【0019】
1つの実施形態において、補正係数は、それぞれのバッチの個々のNMRスペクトルの関心領域内の全ての点について計算および適用され得る。補正係数は、それぞれのバッチの個々のNMRスペクトルの全ての点について計算および適用されてもよく、その後、全ての補正された個々のNMRスペクトルは、単一の集約NMRスペクトルに合計され得る。
【0020】
本明細書に開示されるアプローチは、必要なスキャンのほとんどが短期遅延スキャンとして行われるため、試料中の低濃度成分の高速NMR測定を行うことを可能にする。よって、測定時間は主に、複数のバッチ内の少数の長期遅延スキャンによって決定される。結果は、一連の長期遅延スキャンのみを用いた場合とほぼ同じ程度正確であり、試料の緩和が臨界閾値(たとえば99%)を下回る値まで長期遅延値が短縮された測定よりも正確である。異なるアプローチの対照測定に関する詳細は、発明を実施するための形態に示される。
【0021】
1つの実施形態において、方法は、既に処理されたスキャンバッチにおける全ての補正された個々のNMRスペクトルの積分値を合計することによって、各スキャンバッチの後、上記試料の関心領域における推定NMR信号強度を提供してよい。すなわち、方法は、各バッチの最後に上述した分析を継続的に行い、それぞれの中間結果をユーザに提供する。
【0022】
1つの実施形態において、個々のNMRスペクトルを得るために試料に印加され得る励起パルスは、0°より大きく90°以下のフリップ角を有する。有利には、フリップ角は30°~45°の範囲である。
【0023】
1つの実施形態において、現在の個々のNMRスキャンの遅延間隔の後、かつ試料に後続の励起パルスが印加される前に、残留横方向磁化を除去するために試料にトリムパルスが印加され得る。すなわち、NMRスペクトロメータは、そのようなトリムパルスを印加するように(たとえばコンピュータ実装方法を実行しているコンピュータシステムによって)指示される。
【0024】
1つの実施形態において、コンピューティングデバイスのメモリ内にロードされ、コンピューティングデバイスの1または複数のプロセッサによって処理されると、コンピューティングデバイスに、本明細書に開示されるコンピュータ実装方法に従って、試料に対して行われる複数のNMRスキャンに関する高速定量NMRデータ取得のためのステップを実行させるコンピュータ可読命令を有するコンピュータプログラム製品が提供される。
【0025】
1つの実施形態において、試料に対して行われる複数のNMRスキャンに関する高速定量NMRデータ取得のためのコンピュータシステムが提供される。このシステムは、複数の機能モジュールを実装するコンピュータ可読命令を格納するメモリと、本明細書に開示されるコンピュータ実装方法に従ってステップを実行するために上記機能モジュールをインスタンス化するためにコンピュータ可読命令を実行するための1または複数のプロセッサとを有する。
【0026】
本発明のさらなる態様は、添付の特許請求の範囲に特に示される要素および組み合わせによって実現および達成される。理解すべき点として、上記の一般的な説明および以下の詳細な説明は、いずれも例示的かつ説明的なものにすぎず、特許請求の範囲に記載される本発明を制限するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】実施形態に係る、高速定量NMRデータ取得のためのコンピュータシステムを示すブロック図である。
図2】実施形態に係る、高速定量NMRデータ取得のためのコンピュータ実装方法のフローチャートである。
図3】遅延時間間隔が後続する、取得時間間隔の例を示す。
図4図4A図4B、および図4C。2つの関心領域を有する試料から取得されたNMRスペクトル例を示す。
図5】単一のNMRスキャンバッチを用いて試料に対し行われたNMRスキャンのシーケンスを示す。
図6A】実施形態に係る、長い遅延間隔で分離された複数のNMRスキャンバッチを用いて試料に対し行われたNMRスキャンのシーケンスを示す。
図6B】同じ長さの短い遅延間隔対異なる長さの短い遅延間隔を用いて試料に対し行われた後続のNMRスキャンに関するシミュレートされた指数関数的減衰を示す。
図7】実施形態に係る、試料に対し行われた個々のNMRスキャンの差および不完全緩和のための補正を示す。
図8図8A図8B。実施形態に従って取得された、補正された正規化積分の例を示す。
図9図9A図9I。同じ試料に適用されたスキャンバッチに関する異なるセットアップ間のROI積分の結果の比較を示す。
図10】本明細書で説明される技術とともに使用され得る汎用コンピュータデバイスおよび汎用モバイルコンピュータデバイスの例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
図1は、NMR分光計200を用いて試料201に対して行われる複数のNMRスキャンに関する高速定量NMRデータ取得のためのコンピュータシステム100のブロック図を示す。システム100は、高速定量NMRデータ取得のための様々なデータ処理タスクを行うように構成された複数の機能モジュールを実装する。本明細書において詳しく説明される機能モジュールは、有利にはソフトウェアに実装されるが、プログラム可能なハードウェア構成要素またはASICによって実装されてもよい。ソフトウェア実装を用いる場合、ソフトウェアのコンピュータ可読命令は、システムのメモリに読み込まれ、システムの1または複数のプロセッサによって処理される。コンピュータ可読命令がランタイムに実行されると、それぞれのモジュールのランタイムインスタンスがインスタンス化され、図2のフローチャートに示すような実施形態のコンピュータ実装方法1000を行う。システム100は、方法1000の文脈でより詳しく説明され、両図の参照番号は、以下の説明において適宜使用される。
【0029】
NMR測定の場合、通常、NMR分光計200のオペレータは、上記試料中の関心分子に関するスペクトル情報を提供するNMRスペクトル内の領域を画定する1または複数の関心領域(ROI)301を指定する。システム100は、オペレータからの情報を受け取るように適合されたインタフェース機能(たとえばヒューマンマシンインタフェース)をサポートし、マシン間データ交換を可能にするインタフェース機能もサポートするインタフェース110を有する。上記分子のNMR応答特性に依存して、正確なNMR測定結果を得るためにそれぞれのNMRスキャン数が必要とされ得る。特に、低濃度の分子の場合、上記試料201中の上記分子の濃度に関する信頼性の高い推定値を導出することを可能にする測定結果に到達するために、より多い数の後続するNMRスキャンが必要とされ得る。あるいは、必要なスキャンの数は、それぞれ適合されたインタフェース110を介して様々な分子のそれぞれの情報を格納するデータストア(たとえばデータベース)から得られてもよい。
【0030】
バッチコンポーザ120は、試料201のNMR測定のために必要なNMRスキャン302の数を取得1100し、各バッチが長い遅延スキャンの後に一連の短い遅延スキャンを有して開始する複数のスキャンバッチに必要なスキャン数を分配する、試料測定のためのバッチスケジュールを作成してよい。バッチコンポーザ120は、システム100の任意選択的な構成要素であってよく、あるいは、オペレータのための(たとえばオペレータのスマートフォンやタブレットコンピュータなどのデバイス上で実行する)外部支援ツールであってよい。あるいは、NMR分光計200のオペレータは、必要なスキャン数、および長い遅延間隔と短い遅延間隔とを有する様々なスキャンバッチにそれらをどのように分配すべきかに関する情報を、それに従って分光計200に指示するためにシステム100に手動で提供してよい。
【0031】
図3を簡単に参照すると、グラフ300は、特定のNMRスキャンのFID311を示す。遅延時間間隔は、一般に、先行の取得時間間隔後に試料のさらなる緩和を可能にするための、それぞれのNMRスキャンの取得時間間隔に後続する時間間隔を定義する。図3の例では、取得時間間隔AT1(FID311の減衰時間)は1.5秒の期間を有し、その後に1秒の期間を有する遅延時間間隔DT1が続く。NMRスキャンのシーケンスにおける第1のバッチの第1のスキャンは、試料が励起パルスを長時間受けておらず、核スピンの完全な緩和が想定されるため、常に長期遅延スキャンであると考えられる。後続のスキャンバッチにおいて、次のスキャンバッチを開始する長期遅延スキャンが実行される前に試料のほぼ完全な緩和を可能にするように長い遅延間隔が選択される。典型的には、低濃度の分子の場合、それぞれの核の99%を超える緩和を可能にするために、長い遅延間隔は30秒~120秒の範囲である。あるいは、長い遅延間隔は、長い遅延間隔をより短くすることを可能にし得る実験を介して決定され得る。短い遅延間隔は、長い遅延間隔よりも小さく、典型的には0秒~2秒の範囲である。すなわち、短い遅延間隔が0秒である場合、スキャンバッチにおける一連の短期遅延スキャンは、先行の取得時間間隔の終了直後に各短い遅延スキャン取得時間間隔をトリガする。有利には、スキャンバッチは、長期遅延スキャンの後に3~9回の短期遅延スキャンを含む。短い遅延間隔は、各スキャンバッチの全ての短期遅延スキャンに関して同じ持続期間を有してよい。別の実装では、スキャンバッチは、異なる短期遅延スキャンに異なる短期遅延値を用いてよい。これらの代替実装に関する詳細は、図6Bの文脈で説明される。
【0032】
コンピュータシステムは、提供されたスキャンバッチのスケジュールに従ってNMRスキャン202-1~202tを行うようにNMR分光計200に指示することによって、一連のNMRスキャンを開始1200する。図6Aを簡単に参照すると、複数のスキャンバッチB1~B3(スキャンバッチのスケジュール600)が試料201に対し行われる。各バッチは、上記核のほぼ完全な緩和を確実にする長期遅延間隔LDの後に行われる(または第1のバッチB1の初期スキャンとしての)長期遅延スキャンLDSを備え、その後、短期遅延スキャンSDSのセットが後続する。各短期遅延スキャンSDSは、長期遅延間隔LDよりも短い短期遅延間隔SDの後に行われる。複数のバッチB1~B3におけるNMRスキャン202-1~202-tの総数は、試料のための最小必要NMRスキャン数以上である。したがって、各スキャンは、それぞれのスキャンバッチの長期遅延スキャン時点に関して対応するスキャン時点t1~t6に関連付けられる。この例では、t1は、それぞれの長期遅延スキャンLDSに対応するスキャン時点であり、t2~t5は、各スキャンバッチの短期遅延スキャンSDS1~SDS5に対応するスキャン時点である。図6Aの例では、全ての短時間遅延SDは同じ長さを有する。全ての取得時間間隔が同じ長さを有するので、対応するスキャン時点t1~t6は等距離にある。
【0033】
全てのバッチのNMRスキャン201-1~202-tは、インタフェース110を介してシステム100のバッチプロセッサモジュール130によって受信される。上記スキャンの分析のためにNMR分光計とコンピュータシステムとの間でデータを交換するためのインタフェースは、当技術分野において周知である。バッチプロセッサ130は、ROI情報301も(オペレータまたはそれぞれのデータベースのいずれかから)受信する。その後、バッチプロセッサ130は、対応する各スキャン時点t1~t6に関して、関心領域301内の集約NMRスペクトル部分Saa~Saf(図6Aを参照)を、上記関心領域にわたる積分を介して決定1300する。対応するスキャン時点における集約NMRスペクトル部分は、経時的な減衰を示す。NMRスペクトル部分を集約するために、2つの同等の実装が用いられ得る。第1の実装において、高速フーリエ変換モジュール131は、受信された各NMRスキャンを対応するNMRスペクトルS1a~S3fに変換する。その後、バッチプロセッサ130のアグリゲータモジュール132は、各バッチに関する対応するスキャン時点のNMRスペクトルを集計する。すなわち、集約スペクトルSaaに関しては、全てのバッチB1~B3の長期遅延スキャンのスペクトルS1a、S2a、S3aが集約される。集約スペクトルSabに関しては、全てのバッチB1~B3の第1の遅延スキャンSDS1のスペクトルS1b、S2b、S3bが集約され、以下同様である。最初に、アグリゲータ132が対応する時点の元のNMRスキャン(FID)を集約し、次に、FFTモジュール131が集約NMRスキャンを対応する集約NMRスペクトルに変換する場合、同じ集約結果がもたらされる。
【0034】
バッチプロセッサ130のフィッティングモジュール133は、対応する時点にわたる集約NMRスペクトルの減衰に指数関数的減衰関数を適合1400させる。指数関数的減衰関数は、図6Aの点線610として示され、集約スペクトルSaa~Safの左ピーク(関心領域)の減衰曲線に適合される。この例では、NMRスペクトルにおける左ピークに対応する関心領域内の信号強度は、対応する時点にわたり強い減衰を示すが、スペクトルにおける右ピーク周囲の関心領域内の信号強度は、短期遅延スキャンにほとんど影響を受けない。解釈としては、左側関心領域に対応する分子は、それぞれの核の緩和が欠如して信号強度が急速に悪化する低濃度の分子である可能性が高い。
【0035】
図4A~4Bは、この現象をより詳しく示す。図4Aは、2つの関心領域ROI1およびROI2が画定された所与の試料のNMRスペクトル410を示す。この例におけるNMRスキャンの総数は32であるため、結果として32のスペクトルが生じる。以下のバッチスケジュールが適用された。各バッチは、長期遅延スキャンと、2秒の短期遅延時間間隔を有する7回の短期遅延スキャンとを含む。長期遅延間隔は60秒であった。4つのバッチが実行された。ROI2内のピーク411は、短期遅延スキャンの影響をほとんど受けないが、スペクトルの右側に対する小さなピークは強い依存性を示す。ピーク412hの信号強度410-yは、長期遅延スキャンによって得られるが、各バッチの最後の短期遅延スキャンは、ピーク412lによって示すように大きく減少した信号強度しかもたらさない。図4Aおよび図4Bは、2つの関心領域410-RIO2および410-ROI1に関する集約スペクトルの拡大図を示す。ROI2(図4B)の場合、各バッチの8つの対応する時点における集約スペクトル411-1~411-8間でほとんど偏差が見られない。すなわち、各取得時間間隔の最後に既に試料中のROI2核のほぼ完全な緩和が存在する。ROI1(図4C)の場合、(長期遅延スキャンで得られた)集約スペクトル412-1と(各バッチの最後の短期遅延スキャンで得られた)集約スペクトル412-8との間にはNMR信号強度の有意な偏差が存在する。412-1と412-8との間の残りのスペクトルの強度の減衰は、対応する時点にわたる集約スペクトルの減衰を示し、これは試料中の低濃度分子の典型的な挙動である。
【0036】
図5は、2つの関心領域51a、51bを有する複数の18回のNMRスキャン50から得られたNMRスペクトル5a~5rを示す。この実験では、全てのスキャンは、第1のスキャン5aのみが長期遅延スキャンに対応する単一のバッチで行われた。後続するスキャンは全て、短期遅延スキャンとして行われた。実験において、ROI51a(低濃度分子)は、指数関数的減衰を示す。T1緩和は指数関数的減衰であり、T1は減衰定数である。
【数2】

以下の一般関数
DF(T)=s・e-t・a+c
を用いて、ROI51aの指数関数的減衰に指数関数的減衰を適合させ、ROI51aに関連する核の信号強度の結果を得ることができる。しかしながら、既に第4のスキャン5dの後、信号は非常に低くなっており、ROI51aに関するスキャン5dの後、全てのスキャンの劣悪な信号対雑音比によって測定データへの指数関数的減衰関数の適合が難しくなるため、信号強度の正確な決定は困難になる。この問題は、後続の短期遅延スキャンのために低濃度分子に対応するROIにおける信号品質を回復させるために、各バッチの最後の短期遅延スキャンの後に長期遅延スキャンが挿入される、図6Aの文脈で説明するような一連のスキャンバッチを用いることによって克服される。
【0037】
上述したように、(図6Aの例のように)全ての短期遅延スキャンの短期遅延間隔は、全て同じ値を有し、等距離の対応する時点をもたらし得る。しかしながら、バッチ内で短期遅延間隔を変動させることも可能である。同じ変動が全てのスキャンバッチで用いられる。図6Bは、等距離のスキャン時点0~8(x記号で示す)に関するシミュレートされた正規化指数関数的減衰関数620を示す。このシナリオは、(図6Aのように)全てのスキャンバッチ内の全ての短期遅延間隔に単一の値を用いる実装に対応する。指数関数的減衰関数における黒点(個別)は、バッチ内の短期遅延スキャンに異なる短期遅延間隔が用いられるシナリオを示す。縦の破線は、短期遅延スキャンのスキャン時点間の異なる時間間隔を示す。それでもなお、変動する短期遅延間隔による対応するスキャン時点のシフトは、測定された強度値が全て正規化指数関数遅延関数620上にあることを確実にする。すなわち、バッチ内で短期遅延間隔が変動するシナリオにおいても、指数関数的減衰関数は、対応するスキャン時点におけるそれぞれの集約スペクトル部分に適合し得る。スキャンバッチ内の各スキャン間で変動する遅延dt(n)が用いられる場合、緩和時間定数T1、個々の遅延dt(n)、および印加されたパルス角度から予想される積分強度を考慮して、より正確に反復計算される変形指数関数が用いられ得る。
【0038】
図1に戻ると、バッチプロセッサ130の補正モジュール134は、各スキャン時点に適合関数を適用することによって各スキャン時点に関する平均積分損失を計算1500し、平均積分損失から、積分損失が補償されるように各スキャン時点の補正係数を決定1600するために用いられる。たとえば、以下の式が適用され得る。
CorrectionFactor(t)=Integral(timepoint0)/fit(t)
その後、複数のスキャンバッチの各NMRスペクトルについて、それぞれの関心領域に関連する積分値に対応する補正係数が乗算1700される。図7は、関心領域ROI7に関するこの補正メカニズムの概念を示す。取得されたNMRスペクトルの拡大図701は、それぞれのスキャン時点にわたる信号強度の減衰を示す。適合および補正ステップ1400、1500、1600、および1700が適用される。その結果、拡大された部分702内の補正されたスペクトルは全て、ほぼ同じ信号強度を示す。
【0039】
図8Aおよび図8Bは、図4Aおよび図4Bの例で得られたスペクトルの補正の例をより詳しく示す。図8Aは、対応するスキャン時点1~8にわたる2つの関心領域ROI1およびROI2に関する集約スペクトルの正規化積分810-ROI1および810-ROI2を示す。全ての対応するスキャン時点に関して積分が実質的に同じであるため、ROI2のピークは、短期遅延スキャンによる影響を受けないままであることがわかる。しかしながら、ROI1のピークは、対応するスキャン時点にわたる指数関数的減衰を示す。810-ROI1の正規化積分が、対応するスキャン時点8において対応するスキャン時点7よりも大きいという効果は、それぞれのスキャンバッチにおいて第7の短期遅延スキャンが行われた時、それぞれの低濃度分子に関する信号対雑音比が既に非常に低いという事実に起因する。それでもなお、適合および補正ステップの後、補正された正規化積分820-ROI1は、理想値「1」を有する良好なコヒーレンスを示す。補正後、ROI1に関する全ての補正された積分値の広がりは0.97~1.03であり、これは、0.98~1.02の補正された積分値を有するROI2(短期遅延スキャンによる影響を受けていない関心領域)の広がりとほぼ同じ程度良好である。原理的に、上述した補正メカニズムは、第1の対応するスキャン時点における対応する強度値(すなわち、全てのバッチの長期遅延スキャンに関連する集約スペクトル)に対するそれぞれの減衰関数値の比として、対応する各スキャン時点の補正係数を導出する。
【0040】
最後に、システム100のバッチ積分器140は、全てのバッチB1~B3における補正されたNMRスペクトルに関連する積分値を合計1800する。留意点として、適合および補正ステップの後、各バッチの各短期遅延スキャンの各補正されたスペクトルは、それぞれの長期遅延スキャンから得られた補正されたスペクトルと同様の強度値を有する。その結果、最後のスキャンバッチが完了した後、バッチアグリゲータ140は、低濃度分子の場合でも、低濃度分子に関して長期遅延スキャンのみを用いる通常の測定時間と比べて比較的短い取得時間で、上記試料201の関心領域におけるNMR信号強度の非常に正確な表現202-sfを得る。
【0041】
1つの実施形態において、バッチ積分器140は、既に処理されたスキャンバッチにおける補正された個々のNMRスペクトル全ての積分値を合計することによって、各スキャンバッチの後、上記試料の関心領域における推定NMR信号強度202-siを提供し得る。いくつかのシナリオでは、オペレータが第1のバッチ後に既に推定202-siを知り、全てのバッチの完了後の最終結果202-sfを待たないことが有利になり得る。
【0042】
表1は、同じ試料に対する異なるNMR測定の実験データを示す。
【表1】
【0043】
表1の1行目には、標準的な取得のNMR測定に関するデータが示される。標準的な取得セットアップにおいて、60秒の長期遅延時間間隔を有する一連の32回の長期遅延スキャンのみが行われた。合計測定時間は33分18秒に達した(取得および遅延時間間隔を含む)。2つのそれぞれのROIに関連する2つの積分値の比は、1.6421と決定された。各スキャン前の核のほぼ完全な緩和の後、一連のNMRスキャンによって決定されたこの比は、決定される比の一種のグラウンドトゥルースとして見ることができる。
【0044】
表1の2行目において、さらなる「長期遅延スキャンのみ」の測定が32回の長期遅延スキャンで行われた。しかしながら、合計測定時間を低減するために、長期遅延間隔は30秒に短縮され、その結果、合計測定時間は17分30秒となった。比は1.6548と決定され、グラウンドトゥルースから0.8%の偏差を示した。
【0045】
表1の3行目において、2秒の短期遅延間隔を有する32回の短期遅延スキャンを用いることによって「短期遅延スキャンのみ」の測定が行われた。合計測定時間は、2分25秒まで大幅に低減された。各々のNMRスペクトルにおけるそれぞれの関心領域に指数関数的減衰関数を適合させ、スペクトルの正規化のために第1のNMRスキャンを用いることによって、図5の文脈で説明した単一のバッチスキームに従って補正が適用された。しかしながら、比は1.5418と決定され、グラウンドトゥルースから6%の大きな偏差を示した。そのような偏差を有する結果は、低濃度分子に関連する信号強度/積分値を得るために十分な精度ではない。
【0046】
4行目において、請求項1に記載されるスキームに係る、図6Aで説明されたバッチワイズNMR測定は、各バッチが60秒の長期遅延間隔後の長期遅延スキャンで開始し、その後、2秒の短期遅延間隔を有する7回の短期遅延スキャンが続く5つのスキャンバッチで行われた。この測定におけるスキャン総数は40であり、測定時間は、2行目の精度の低い測定のおよそ3分の1である6分30秒であった。比は、1.6493と決定され、グラウンドトゥルースから0.4%の偏差しか示さなかった。すなわち、測定時間が2行目の測定時間の約3分の1まで低減されたにもかかわらず、決定された比は、2行目の短縮された長期遅延スキャンの場合よりも2倍正確であった。
【0047】
図9A~9Iは、同じ試料に適用されたスキャンバッチに関する異なるセットアップ間のROI積分の結果の比較を示す。図9Aは、試料から得られたNMRスペクトル90を示す。スペクトル90は、試料に含まれた2つの異なる分子に関する2つのROIA、Bを含む。この例では、ROIAに関連する分子は、NMRスペクトルにおける3つの多重ピークA1、A2、およびA3を示す既知の芳香族化合物である。ROIBに関連する分子は、ジメチルスルホキシド(DMSO)に対応し、NMRスペクトルにおけるピークB1をもたらす。実験において、A3に関連する積分値は、A3をもたらす核緩和が、短期遅延スキャンA3の後でもほぼ完全な緩和を示すほど速いという意味で、短期遅延間隔による影響を受けないことが示されている。しかしながら、対応するスキャン時点にわたる指数関数的減衰の形で、A1、A2、およびB1のそれぞれのピーク積分に対する一連の短期遅延スキャンの大きな影響がある。拡大グラフA1、およびさらに拡大されたズーム領域A1zに示すように、ピークA1に関して、長期遅延スキャンの後に7回の短期遅延スキャンを用いる4つのスキャンバッチにおける32回のNMRスキャンで、8つの集約スペクトルA1_1~A1_8が得られる。集約スペクトルA1_1~A1_8は、有意な偏差を示す。ピークA2の集約スペクトルA2_1~A2_8およびピークB1の集約スペクトルB1_1~B1_8にも同じことが言える。
【0048】
図9Bは、60秒の長期遅延間隔を有する長期遅延スキャンのみを含む32回のNMRスキャンによって上記試料から得られた結果を示す。32回の長期遅延スキャンの合計測定時間は、33分22秒であった。表91-1は、ROIAおよびBにおける4つのピークに関連する積分値の比を示す。留意点として、ピークA1およびA2は、複数の比較的幅広いサブピークを含むが、ピークA3は、複数の非常に狭いサブピークを含む。この理由により、A3の積分はA2の積分とほぼ同じサイズであるが、A1の積分はA2およびA3の積分の約2倍の大きさである。この例では、既知の芳香族化合物の理論的積分比は、A1:A2:A3=2:1:1である。これは、A1対A2の積分比が2.001であり、A1対A3の積分比が2.014である、表91-1にまとめられた長期遅延スキャン測定によって確認される。A1対B1の積分比は0.832である。1.0057であるA2対A3の比は、理論比1に近い。A1対B1の比は、測定から0.832と導出される。表91-2は、導出された積分比に関するそれぞれの相対誤差を示す。「長期遅延スキャンのみ」のスキャンの場合、全ての相対誤差が1%未満である。
【0049】
図9Cは、2秒の短期遅延間隔を有する短期遅延スキャンのみを含む32回のNMRスキャンによって上記試料から得られた結果を示す。32回の短期遅延スキャンの合計測定時間は、2分30秒であった。表92-1における理論比からのA1:A2:A3積分比の偏差は、図9Bの長期遅延スキャンセットアップよりも大幅に大きい。しかしながら、A*対B1の比の間の偏差は、「短期遅延スキャンのみ」のセットアップにおいて非常に大きい。表92-2を見ると、それぞれの相対誤差は、12%~18%の程度である。通常、2つの関心領域の積分値間の比は、スペクトルから導出される関連情報である。したがって、「短期遅延スキャンのみ」のセットアップから得られた結果は非常に不正確であり、NMRスキャン結果からDMSO濃度を決定するという分析目的には有用でない。
【0050】
図9Dの表93は、図9Bの「長期遅延スキャンのみ」の測定に対する図9Cの「短期遅延スキャンのみ」の測定の偏差を示す。特にA3に関して、A3は、短期遅延スキャンによる影響を受けない短い緩和時間を有するため、実質的に偏差がない。しかしながら、A1およびA2に関して、「短期遅延スキャンのみ」の積分は、それぞれ「長期遅延スキャンのみ」の積分の94%および93%にしか到達しない。最も関心の高いB1の積分に関して、最も高い偏差が見られる。「短期遅延スキャンのみ」の積分値は、「長期遅延スキャンのみ」の積分値のわずか83%である。すなわち、未だ緩和していない核に対する測定によって生じるNMR信号強度の大きな損失により、「短期遅延スキャンのみ」のセットアップで決定されたこれらの積分値の精度は低くなる。
【0051】
図9E~9Gは、それぞれA1、A2、およびB1に関して対応するスキャン時点にわたる集約スペクトルの積分値における減衰、ならびに対応する補正値を示す。グラフ94はA1に関し、(円で表される)集約スペクトル積分値によって画定された曲線は、指数関数的減衰関数で適合された結果、曲線94-2が得られる。補正値はxアイコンで表され、結果として得られる補正曲線94-2は、対応するスキャン時点にわたりほぼ一定である。指数関数的減衰適合曲線95-2、96-2および結果として得られる補正値曲線95-1および96-1を有するそれぞれのグラフ95および96に見られるように、同じことがA2およびB1にも言える。
【0052】
図9H図9Iは、本明細書に開示されるアプローチに従ってスキャンバッチを用いることによって上記試料から得られた結果を示す。図9Hにおいて、スキャンバッチの長期遅延スキャンの前の長期遅延間隔は60秒であった。スキャンバッチ内の7回の短期遅延スキャンの全てに用いられた短期遅延間隔は1秒であった。4つのスキャンバッチ全ての合計測定時間は、6分であった。表97-1は、補正されたスペクトルから導出されたROIAおよびBのピーク間の積分比を示す。Aに関連する既知の分子の比は、相対誤差表97-2に示すように、0.5%未満の相対誤差で理論比とほぼ同一である。また、B1に関して補正されたスペクトルから導出された積分比は、わずか1%以下程度の非常に小さな相対誤差を示す。
【0053】
図9Iは、わずかに異なるセットアップで得られた結果を示す。延長された短期遅延間隔がさらに高い精度をもたらすかを検証するために、7回の短期遅延スキャンの全てに用いられた短期遅延間隔は2秒であった。このセットアップにおける4つのスキャンバッチ全ての合計測定時間は7分20秒であった。表98-1における補正されたスペクトルから導出された積分比の結果は、図9Hのより短い短期遅延間隔1秒で得られた結果の精度とほぼ等しい精度を示す。表98-2における相対誤差は、再び1%程度である。評価の後、比A2/B1(0.42)とA3/B1(0.42)との間の相対誤差の差は、比の示されない桁における差に起因することが認識された。表98-1における視覚化のために、比は、小数点第2位に四捨五入された。
【0054】
本明細書に開示されるアプローチは、非常に短い「短期遅延間隔」でも補正された積分値に関して同等の高精度の結果を達成することにより、低濃度の物質を有する試料のNMRスキャンの合計測定時間の大幅な低減をもたらす。
【0055】
図10は、ここで説明される技術とともに使用され得る汎用コンピュータデバイス900および汎用モバイルコンピュータデバイス950の例を示す図である。いくつかの実施形態において、コンピュータデバイス900は、システム100(図1を参照)に関連してよい。コンピューティングデバイス950は、たとえばパーソナルデジタルアシスタント、携帯電話、スマートフォン、および他の同様のコンピューティングデバイスなど、モバイルデバイスの様々な形態を表すことが意図されている。本開示の文脈において、コンピューティングデバイス950は、ユーザがコンピューティングデバイス900とインタラクトするための(たとえば提供されたプレビュー画像をユーザに表示するための)I/O手段を提供してよい。ここに示す構成要素、それらの接続および関係、およびそれらの機能は、単に典型例であることが意図され、本明細書において説明および/または特許請求対象となる本発明の実装を制限することは意図されない。
【0056】
コンピューティングデバイス900は、プロセッサ902、メモリ904、ストレージデバイス906、メモリ904および高速拡張ポート910に接続する高速インタフェース908、および低速バス914およびストレージデバイス906に接続する低速インタフェース912を含む。構成要素902、904、906、908、910、および912の各々は、様々なバスを用いて相互接続され、共通マザーボード上に、あるいは適宜他の方式で搭載され得る。プロセッサ902は、たとえば高速インタフェース908に結合されたディスプレイ916などの外部入力/出力デバイス上にGUIのためのグラフィカル情報を表示するために、メモリ904またはストレージデバイス906に格納された命令を含む、コンピューティングデバイス900内で実行するための命令を処理してよい。他の実装において、複数のプロセッサおよび/または複数のバスが、適宜、複数のメモリおよび複数の種類のメモリとともに使用され得る。また、複数のコンピューティングデバイス900が接続されてもよく、各デバイスは、(たとえばサーババンク、ブレードサーバのグループ、またはマルチプロセッサシステムとして)必要な動作の一部を提供する。
【0057】
メモリ904は、コンピューティングデバイス900内の情報を格納する。1つの実装において、メモリ904は、1または複数の揮発性メモリユニットである。別の実装において、メモリ904は、1または複数の不揮発性メモリユニットである。メモリ904は、たとえば磁気ディスクまたは光ディスクなどの別の形態のコンピュータ可読媒体であってもよい。
【0058】
ストレージデバイス906は、コンピューティングデバイス900のための大量記憶装置を提供することができる。1つの実装において、ストレージデバイス906は、たとえばフロッピーディスクデバイス、ハードディスクデバイス、光ディスクデバイス、またはテープデバイス、フラッシュメモリ、または他の同様のソリッドステートメモリデバイス、またはストレージエリアネットワークや他の構成のデバイスを含むデバイスのアレイなどのコンピュータ可読媒体であってよく、またはそれを含んでよい。コンピュータプログラム製品は、情報担体に有形的に具体化され得る。コンピュータプログラム製品は、実行されると、たとえば上述したような1または複数の方法を行う命令も含んでよい。情報担体は、たとえばメモリ904、ストレージデバイス906、またはプロセッサ902上のメモリなどのコンピュータ可読媒体または機械可読媒体である。
【0059】
高速コントローラ908は、コンピューティングデバイス900のための帯域幅集約型動作を管理し、低速コントローラ912は、低帯域幅集約型動作を管理する。そのような機能の割当ては例示にすぎない。1つの実装において、高速コントローラ908は、メモリ904、(たとえばグラフィックプロセッサまたはアクセラレータを介して)ディスプレイ916、および様々な拡張カード(不図示)を受け入れ得る高速拡張ポート910に結合される。この実装では、低速コントローラ912は、ストレージデバイス906および低速拡張ポート914に結合される。様々な通信ポート(たとえばUSB、ブルートゥース、イーサネット、無線イーサネット)を含み得る低速拡張ポートは、たとえばキーボード、ポインティングデバイス、スキャナ、またはたとえばネットワークアダプタを介してスイッチやルータなどのネットワーキングデバイスといった1または複数の入力/出力デバイスに結合され得る。
【0060】
コンピューティングデバイス900は、図示するように多数の異なる形態で実装され得る。たとえば、コンピューティングデバイス900は、標準サーバ920として実装され、またはそのようなサーバのグループで複数実装され得る。また、ラックサーバシステム924の一部として実装されてもよい。加えて、コンピューティングデバイス900は、たとえばラップトップコンピュータ922などのパーソナルコンピュータに実装され得る。あるいは、コンピューティングデバイス900の構成要素は、たとえばデバイス950などのモバイルデバイス(不図示)内の他の構成要素と結合され得る。そのようなデバイスの各々は、コンピューティングデバイス900、950、およびシステム全体は、互いに通信する複数のコンピューティングデバイス900、950で構成され得る。
【0061】
コンピューティングデバイス950は、様々な構成要素の中でも特に、プロセッサ952、メモリ964、たとえばディスプレイ954などの入力/出力デバイス、通信インタフェース966、およびトランシーバ968を含む。デバイス950には、追加のストレージを提供するために、たとえばマイクロドライブまたは他のデバイスなどのストレージデバイスも提供され得る。構成要素950、952、964、954、966、および968などの各々は、様々なバスを用いて相互接続され、構成要素のいくつかは、共通マザーボード上に、または適宜他の方式で搭載され得る。
【0062】
プロセッサ952は、メモリ964内に格納された命令を含むコンピューティングデバイス950内の命令を実行することができる。プロセッサは、個別の複数のアナログおよびデジタルプロセッサを含むチップのチップセットとして実装され得る。プロセッサは、たとえば、ユーザインタフェースの制御、デバイス950によって実行されるアプリケーション、およびデバイス950による無線通信など、デバイス950の他の構成要素の調整を提供してよい。
【0063】
プロセッサ952は、ディスプレイ954に結合された制御インタフェース958およびディスプレイインタフェース956を介してユーザと通信してよい。ディスプレイ954は、たとえばTFT LCD(薄膜トランジスタ液晶ディスプレイ)またはOLED(有機発光ダイオード)ディスプレイ、または他の適切なディスプレイ技術であってよい。ディスプレイインタフェース956は、ディスプレイ954を駆動してグラフィカル情報および他の情報をユーザに提示するための適切な回路を備えてよい。制御インタフェース958は、ユーザからのコマンドを受け取り、それらをプロセッサ952に提示するために変換してよい。また、デバイス950と他のデバイスとの近距離通信を可能にするために、プロセッサ952と通信する外部インタフェース962が提供され得る。外部インタフェース962は、たとえば、いくつかの実装では有線通信を、他の実装では無線通信を提供してよく、複数のインタフェースが使用されてもよい。
【0064】
メモリ964は、コンピューティングデバイス950内の情報を格納する。メモリ964は、1または複数のコンピュータ可読媒体、1または複数の揮発性メモリユニット、または1または複数の不揮発性メモリユニットの1または複数として実装され得る。拡張メモリ984も提供されてよく、たとえばSIMM(シングルインラインメモリモジュール)カードインタフェースを含み得る拡張インタフェース982を介してデバイス950に接続され得る。そのような拡張メモリ984は、デバイス950のための余分な記憶空間を提供してよく、あるいはデバイス950のアプリケーションまたは他の情報を格納してもよい。具体的には、拡張メモリ984は、上述したプロセスを実行または補足する命令を含んでよく、安全な情報も含んでよい。したがって、たとえば拡張メモリ984はデバイス950のためのセキュリティモジュールとして機能してよく、デバイス950の安全な使用を可能にする命令でプログラムされ得る。また、安全なアプリケーションは、たとえばハッキング不可能な方法でSIMMカードに識別情報を設けるといった、追加の情報とともにSIMMカードを介して提供され得る。
【0065】
メモリは、たとえば後述するようにフラッシュメモリおよび/またはNVRAMメモリを含んでよい。1つの実装において、コンピュータプログラム製品は、情報担体に有形的に具体化される。コンピュータプログラム製品は、実行されると、たとえば上述したような1または複数の方法を行う命令を含む。情報担体は、たとえばトランシーバ968や外部インタフェース962を介して受信され得る、たとえばメモリ964、拡張メモリ984、またはプロセッサ952上のメモリなどのコンピュータ可読媒体または機械可読媒体である。
【0066】
デバイス950は、必要に応じてデジタル信号処理回路を含んでよい通信インタフェース966を介して無線で通信してよい。通信インタフェース966は、たとえば特にGSM音声通話、SMS、EMS、またはMMSメッセージング、CDMA、TDMA、PDC、WCDMA、CDMA2000、またはGPRSなどの様々なモードまたはプロトコル下で通信を提供してよい。そのような通信は、たとえば無線周波数トランシーバ968を介して起こり得る。また、たとえばブルートゥース、WiFi、または他のそのようなトランシーバ(不図示)を用いて、短距離通信が起こり得る。また、GPS(グローバルポジショニングシステム)受信器モジュール980は、デバイス950に追加のナビゲーションおよび位置関連無線データを提供してよく、それらは、デバイス950上で実行中のアプリケーションによって適宜使用され得る。
【0067】
デバイス950は、ユーザからの音声情報を受け取り、それを使用可能なデジタル情報に変換し得るオーディオコーデック960を用いて、音声で通信してもよい。オーディオコーデック960は、同様に、たとえばデバイス950のヘッドセット内のスピーカを介して、ユーザのために可聴音を生成してよい。そのような音は、音声通話からの音を含んでよく、録音された音(たとえば音声メッセージ、音楽ファイルなど)を含んでよく、デバイス950で動作しているアプリケーションによって生成された音を含んでもよい。
【0068】
コンピューティングデバイス950は、図示するように、多数の異なる形態で実装され得る。たとえば、コンピューティングデバイス950は、携帯電話980として実装され得る。また、スマートフォン982、パーソナルデジタルアシスタント、または他の同様のモバイルデバイスの一部として実装されてもよい。
【0069】
ここで説明されるシステムおよび技術の様々な実装は、デジタル電子回路、集積回路、特別設計されたASIC(特定用途向け集積回路)、コンピュータハードウェア、ファームウェア、ソフトウェア、および/またはそれらの組み合わせにおいて実現され得る。これらの様々な実装は、ストレージシステム、少なくとも1つの入力デバイス、および少なくとも1つの出力デバイスからデータおよび命令を受け取り、それらにデータおよび命令を送信するために結合された、専用または汎用であってよい少なくとも1つのプログラム可能なプロセッサを含むプログラム可能なシステム上で実行可能および/または解釈可能な1または複数のコンピュータプログラムでの実装を含み得る。
【0070】
これらの(プログラム、ソフトウェア、ソフトウェアアプリケーションまたはコードとしても知られる)コンピュータプログラムは、プログラム可能なプロセッサのための機械命令を含み、高レベルの手続き型および/またはオブジェクト指向プログラミング言語で、および/またはアセンブリ/機械言語で実装され得る。本明細書で使用される場合、「機械可読媒体」「コンピュータ可読媒体」という用語は、プログラム可能なプロセッサに機械命令および/またはデータを提供するために使用される任意のコンピュータプログラム製品、装置、および/またはデバイス(たとえば磁気ディスク、光ディスク、メモリ、プログラム可能論理デバイス(PLD))を指し、機械可読信号として機械命令を受け取る機械可読媒体を含む。「機械可読信号」という用語は、プログラム可能なプロセッサに機械命令および/またはデータを提供するために使用される任意の信号を指す。
【0071】
ユーザとのインタラクションを提供するために、ここで説明されるシステムおよび技術は、ユーザに情報を表示するためのディスプレイデバイス(たとえばCRT(陰極線管)またはLCD(液晶ディスプレイ)モニタ)と、ユーザがコンピュータへの入力を提供することを可能にするキーボードおよびポインティングデバイス(たとえばマウスまたはトラックボール)とを有するコンピュータに実装され得る。ユーザとのインタラクションを提供するために他の種類のデバイスが同様に使用されてもよく、たとえばユーザに提供されるフィードバックは、任意の形態の感覚フィードバック(たとえば視覚フィードバック、聴覚フィードバック、または触覚フィードバック)であってよく、ユーザからの入力は、音響、音声、または触覚入力を含む任意の形態で受信され得る。
【0072】
ここで説明されるシステムおよび技術は、(たとえばデータサーバとして)バックエンド構成要素を含むコンピューティングデバイス、またはミドルウェア構成要素(たとえばアプリケーションサーバ)を含むコンピューティングデバイス、またはフロントエンド構成要素(たとえば、ユーザがここで説明されるシステムおよび技術の実装とインタラクトすることを可能にするグラフィカルユーザインタフェースまたはウェブブラウザを有するクライアントコンピュータ)を含むコンピューティングデバイス、またはそのようなバックエンド、ミドルウェア、またはフロントエンド構成要素の任意の組み合わせで実装され得る。システムの構成要素は、デジタルデータ通信の任意の形態または媒体(たとえば通信ネットワーク)によって相互接続され得る。通信ネットワークの例は、ローカルエリアネットワーク(「LAN」)、広域ネットワーク(「WAN」)、およびインターネットを含む。
【0073】
コンピューティングデバイスは、クライアントおよびサーバを含んでよい。クライアントおよびサーバは、一般に互いに遠隔にあり、通常、通信ネットワークを介してインタラクトする。クライアントとサーバとの関係は、それぞれのコンピュータで実行し、互いにクライアント-サーバ関係を有するコンピュータプログラムによって生じる。
図1
図2
図3
図4-1】
図4-2】
図5
図6A
図6B
図7
図8
図9-1】
図9-2】
図9-3】
図9-4】
図10
【外国語明細書】