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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025024625
(43)【公開日】2025-02-20
(54)【発明の名称】均一分流デバイスおよび流体システム
(51)【国際特許分類】
   B01F 33/301 20220101AFI20250213BHJP
   B01F 23/45 20220101ALI20250213BHJP
   B01F 35/75 20220101ALI20250213BHJP
   B01F 35/71 20220101ALI20250213BHJP
   B01J 19/00 20060101ALI20250213BHJP
   B01J 19/02 20060101ALI20250213BHJP
   B01J 14/00 20060101ALI20250213BHJP
   B01F 101/44 20220101ALN20250213BHJP
【FI】
B01F33/301
B01F23/45
B01F35/75
B01F35/71
B01J19/00 321
B01J19/02
B01J14/00 Z
B01F101:44
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023128872
(22)【出願日】2023-08-07
(71)【出願人】
【識別番号】523090537
【氏名又は名称】北森微流體研發股▲ふん▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100177426
【弁理士】
【氏名又は名称】粟野 晴夫
(72)【発明者】
【氏名】佐野 大樹
(72)【発明者】
【氏名】北森 武彦
(72)【発明者】
【氏名】小西 賢則
(72)【発明者】
【氏名】三留 敬人
(72)【発明者】
【氏名】林 衍辰
(72)【発明者】
【氏名】陳 致真
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 喜重
【テーマコード(参考)】
4G035
4G036
4G037
4G075
【Fターム(参考)】
4G035AB37
4G035AE13
4G035AE17
4G036AC70
4G037AA02
4G037AA11
4G037EA01
4G075AA13
4G075AA39
4G075BA10
4G075BB05
4G075BD01
4G075DA02
4G075EA02
4G075EB50
4G075FA12
4G075FB02
4G075FB04
4G075FB06
4G075FB12
4G075FC09
(57)【要約】
【課題】複数の流体デバイスに液体を精度よく分流することができる均一分流デバイス、および、流体システムを提供する。
【解決手段】本開示の均一分流デバイスは、一つの導入口と複数の吐出口との間を接続する流路が設けられた単一の基板を備える。前記流路は、前記基板の前記導入口に導入される液体を前記吐出口に繋がる複数の分岐流路に分流する分流部と、前記分流部の下流側に位置し、それぞれの前記分岐流路に流路抵抗を与える流路抵抗部とを含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一つの導入口と複数の吐出口との間を接続する流路が設けられた単一の基板を備え、
前記流路は、
前記基板の前記導入口に導入される液体を前記吐出口に繋がる複数の分岐流路に分流する分流部と、
前記分流部の下流側に位置し、それぞれの前記分岐流路に流路抵抗を与える流路抵抗部と
を含む均一分流デバイス。
【請求項2】
前記分流部は、前記流路を順次各段で2つに分岐させる1段以上の分岐部を備える、請求項1に記載の均一分流デバイス。
【請求項3】
前記分流部は、前記分岐部を3段備え、前記流路を8つの分岐流路に分岐させる、請求項2に記載の均一分流デバイス。
【請求項4】
前記分流部は、前記導入口を含む対称軸について線対称の形状を有する、請求項1に記載の均一分流デバイス。
【請求項5】
前記流路抵抗部において、複数の前記分岐流路は、流路抵抗の変動係数が5%未満である、請求項1に記載の均一分流デバイス。
【請求項6】
前記流路抵抗部において、複数の前記分岐流路は、互いに等しい形状となるように形成される、請求項1に記載の均一分流デバイス。
【請求項7】
前記流路抵抗部において、複数の前記分岐流路は、前記分流部における流路よりも幅および深さの少なくともいずれかにおいて小さく形成される、請求項1に記載の均一分流デバイス。
【請求項8】
前記流路抵抗部において、前記分岐流路は、前記基板内を往復する流路として形成される、請求項1に記載の均一分流デバイス。
【請求項9】
複数の前記分岐流路の長さは互いに略等しい、請求項1に記載の均一分流デバイス。
【請求項10】
複数の前記吐出口から吐出される前記液体の流量の最大値と最小値との差異が、前記流量の平均値の5%以下である、請求項1に記載の均一分流デバイス。
【請求項11】
前記基板は、耐薬品性を有する材料により形成される、請求項1に記載の均一分流デバイス。
【請求項12】
前記耐薬品性を有する材料は、ガラス、ポリエーテルエーテルケトン材、セラミクス、または、金属である、請求項11に記載の均一分流デバイス。
【請求項13】
一つの導入口と複数の吐出口との間を接続する流路が設けられた単一の基板を備え、前記流路は、前記基板の前記導入口に導入される液体を前記吐出口に繋がる複数の分岐流路に分流する分流部と、前記分流部の下流側に位置し、それぞれの前記分岐流路に流路抵抗を与える流路抵抗部とを含む均一分流デバイスと、
前記均一分流デバイスの前記導入口に液体を送液する送液機構と、
前記均一分流デバイスの前記吐出口のそれぞれから吐出される液体に対して操作を行う複数の流体デバイスと
を備える流体システム。
【請求項14】
前記流路抵抗部のいずれの分岐流路の流路抵抗による降下圧力は、該分岐流路の下流に位置する前記流体デバイスの流路抵抗による降下圧力より大きい、請求項13に記載の流体システム。
【請求項15】
前記流路抵抗部の複数の前記分岐流路の流路抵抗の平均値は、複数の前記流体デバイスの流路抵抗の平均値よりも大きい、請求項13に記載の流体システム。
【請求項16】
前記流路抵抗部の複数の前記分岐流路の流路抵抗の平均値は、複数の前記流体デバイスの流路抵抗の平均値よりも10倍以上大きい、請求項13に記載の流体システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、均一分流デバイスおよび流体システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、基板に流路幅がマイクロメートルのオーダーの流路が形成されたマイクロ流体デバイス、および、これを用いて液体の混合及び化学反応処理等を行う流体システムが提案されている。マイクロ流体デバイスでは、一つのデバイスで処理できる液体の量が少ないが、複数の流体デバイスを並列に接続して並列処理を行うことにより処理量を拡大することができる。しかし、流体デバイスは、個体差によりそれぞれ流路抵抗が異なる。流路抵抗の異なる流体デバイスを並列に接続した場合、流体デバイスを流れる液体の流量にばらつきが生じる。そこで、複数の流体デバイスを用いて並列処理を行うに際し、各流体デバイスに供給される液体の流量を均一にする方法についての提案がなされている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
例えば、特許文献1では、送液ポンプに複数に枝分かれした接続配管を接続し、この枝分かれした配管と、互いに並列に配置された複数の流体デバイスの個々の流体デバイスとを、補正配管を用いて接続している。補正配管は、内径を小さくし、および/または、長さを長くすることにより、大きい流路抵抗を有する。特許文献1は、補正配管の流路抵抗を下流側の流体デバイスの流路抵抗よりも十分大きく設定することにより、液体を流体デバイスに均一に分流することを意図している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特願2006-263546号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の方法では、接続配管の枝分かれした個々の配管の間で流路抵抗にばらつきが生じうる。また、接続配管と補正配管との接続部でも流路抵抗にばらつきが生じうる。その結果、特許文献1の方法では、各流路の流路抵抗にばらつきが大きいため、液体を精度よく分流することが困難であった。
【0006】
したがって、これらの点に着目してなされた本開示の目的は、複数の流体デバイスに液体を精度よく分流することができる均一分流デバイス、および、流体システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本開示の一態様である均一分流デバイスは、一つの導入口と複数の吐出口との間を接続する流路が設けられた単一の基板を備え、前記流路は、前記基板の前記導入口に導入される液体を前記吐出口に繋がる複数の分岐流路に分流する分流部と、前記分流部の下流側に位置し、それぞれの前記分岐流路に流路抵抗を与える流路抵抗部とを含む。
【0008】
(2)上記(1)の均一分流デバイスにおいて、前記分流部は、前記流路を順次各段で2つに分岐させる1段以上の分岐部を備えることができる。
【0009】
(3)上記(1)または(2)の均一分流デバイスにおいて、前記分流部は、前記分岐部を3段備え、前記流路を8つの分岐流路に分岐させることができる。分岐段数を増やすことにより、分岐数を増やすことができる。
【0010】
(4)上記(1)から(3)のいずれかの均一分流デバイスにおいて、前記分流部は、前記導入口を含む対称軸について線対称の形状を有してよい。
【0011】
(5)上記(1)から(4)のいずれかの均一分流デバイスにおける前記流路抵抗部において、複数の前記分岐流路は、流路抵抗の変動係数が5%未満であってよい。
【0012】
(6)上記(1)から(5)のいずれかの均一分流デバイスにおける前記流路抵抗部において、複数の前記分岐流路は、互いに等しい形状となるように形成されてよい。
【0013】
(7)上記(1)から(6)のいずれかの均一分流デバイスにおける前記流路抵抗部において、複数の前記分岐流路は、前記分流部における流路よりも幅および深さの少なくともいずれかにおいて小さく形成されてよい。
【0014】
(8)上記(1)から(7)のいずれかの均一分流デバイスにおける前記流路抵抗部において、前記分岐流路は、前記基板内を往復する流路として形成されてよい。
【0015】
(9)上記(1)から(8)のいずれかの均一分流デバイスにおいて、複数の前記分岐流路の長さは互いに略等しくてよい。
【0016】
(10)上記(1)から(9)のいずれかの均一分流デバイスにおいて、複数の前記吐出口から吐出される前記液体の流量の最大値と最小値との差異が、前記流量の平均値の5%以下であってよい。
【0017】
(11)上記(1)から(10)のいずれかの均一分流デバイスにおいて、前記基板は、耐薬品性を有する材料により形成されてよい。
【0018】
(12)上記(11)の均一分流デバイスにおいて、前記耐薬品性を有する材料は、ガラス、ポリエーテルエーテルケトン材、セラミクス、または、金属とすることができる。
【0019】
(13)本開示の一態様である流体システムは、均一分流デバイスと、送液機構と、複数の流体デバイスとを含む。前記均一分流デバイスは、一つの導入口と複数の吐出口との間を接続する流路が設けられた単一の基板を備える。前記流路は、前記基板の前記導入口に導入される液体を前記吐出口に繋がる複数の分岐流路に分流する分流部と、前記分流部の下流側に位置し、それぞれの前記分岐流路に流路抵抗を与える流路抵抗部とを含む。前記送液機構は、前記均一分流デバイスの前記導入口に液体を送液する。複数の前記流体デバイスは、前記均一分流デバイスの前記吐出口のそれぞれから吐出される液体に対して操作を行う。
【0020】
(14)上記(13)の流体システムにおいて、前記流路抵抗部の任意の分岐流路の流路抵抗による降下圧力は、該分岐流路の下流に位置する前記流体デバイスの流路抵抗による降下圧力より大きくてよい。
【0021】
(15)上記(13)または(14)の流体システムにおいて、前記流路抵抗部の複数の前記分岐流路の流路抵抗の平均値は、複数の前記流体デバイスの流路抵抗の平均値よりも大きくてよい。
【0022】
(16)上記(13)から(15)のいずれかの流体システムにおいて、前記流路抵抗部の複数の前記分岐流路の流路抵抗の平均値は、複数の前記流体デバイスの流路抵抗の平均値よりも10倍以上大きくてよい。
【発明の効果】
【0023】
本開示の均一分流デバイスおよび流体システムによれば、均一分流デバイスの単一の基板に、液体を複数の分岐流路に分流する分流部と、分岐流路に流路抵抗を与える流路抵抗部とを設けたので、複数の流体デバイスに液体を精度よく分流することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】一実施形態に係る流体システムの一例を示す概略構成図である。
図2図1の均一分流デバイスの一例を示す平面図である。
図3図1の流体デバイスの一例を示す平面図である。
図4】一実施例に係る均一分流デバイスの評価装置の構成を示す図である。
図5】一実施例に係る均一分流デバイスの評価結果の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0026】
本開示の一実施形態に係る流体システム1は、図1に示すように均一分流デバイス10、送液機構である送液ポンプ20、および、複数の流体デバイス30を含む。流体デバイス30は流路幅が500μm(マイクロメートル)程度までの微小な流路を有するマイクロ流体デバイスであってよい。流体システム1はマイクロ流体デバイスを含むマイクロ流体システムであってよい。
【0027】
マイクロ流体デバイスである流体デバイス30は、液体どうしの混合および/または反応等の操作を行うことができる。流体デバイス30は、流路幅が数mm(ミリメートル)以上の従来技術による流体デバイスでは得られなかった種々の利点がある。例えば、混合操作においては、流路幅を従来技術の1/10にすると、その混合時間は、約1/100になることが知られている。従って従来技術では1時間を要していた操作を1分以内で完了することが可能になる。また、反応操作においては、瞬時に反応が完了するため副生成物の生成が抑制され、反応収率が格段に向上する。
【0028】
流体システム1は、送液ポンプ20から供給される液体を、均一分流デバイス10で略均一となるように精度よく分流し、均一分流デバイス10に並列に接続された複数の流体デバイス30に供給する。複数の流体デバイス30は、同一の液体に対して同一の操作を行うデバイスである。しかし、個々の流体デバイス30は、流路の高さ、幅、および長さに寸法公差があること等による個体差が大きいため、しばしば異なる流路抵抗を有する。本実施形態とは異なり、同一の送液機構から供給される液体を、複数に分岐した配管で複数の流体デバイス30に接続した場合、各流体デバイス30に供給される液体の流量は、流体デバイス30の流路抵抗の差異に起因して不均一となりうる。具体的には、液体は、流路抵抗の低い流路へより多く流れる。複数の流体デバイス30に流れる液体が互いに等流量でなくなると、流体デバイス30内の反応効率が低下する可能性がある。
【0029】
このため、本実施形態の均一分流デバイス10は、同一基板上に形成された流路14により、液体を略均一となるように精度よく分流するとともに、流体デバイス30の流路抵抗に比べて高い流路抵抗を有するように構成される。以下に、流体システム1の各部の構成について説明する。
【0030】
なお、流路抵抗とは、流体を流路に流そうとする際に生じる、流体の流れとは反対向きに発生する力である。マイクロ流路デバイスでは、微細な流路構造のために流路抵抗の増大を招きやすい。流路抵抗によりエネルギーを損失することを圧力損失という。流体では圧力損失により上流の圧力に比べ下流側の圧力が低下する。
【0031】
(均一分流デバイス)
均一分流デバイス10は、単一の基板11を備える。基板11には、一つの導入口12と、複数の吐出口13とを接続する流路14が形成されている。流路14は、送液ポンプ20から供給される液体の流れる方向に基づいて、上流側と下流側とが定義される。均一分流デバイス10からみて、送液ポンプ20側が上流側であり、流体デバイス30側が下流側である。
【0032】
基板11は、平面視において矩形の板状の部材である。ただし、基板11の形状はこれに限定されない。基板11の大きさは任意に設定できる。例えば、基板11の大きさは、平面視において数cm(センチメートル)から数十cmのオーダーとすることができる。また、基板11の厚さは、数mmから数cmのオーダーとすることができる。また、基板11は、耐薬品性を有する材料により形成される。耐薬品性を有する材料は、例えば、ガラスまたはポリエーテルエーテルケトン(PEEK:Poly Ether Ether Ketone)材であるが、これらに限られない。耐薬品性を有する材料として、セラミクス、または、金属を採用することもできる。
【0033】
導入口12は、均一分流デバイス10に対して外部から供給される液体を受け入れる開口部である。導入口12は、流路14の上流側の端部に位置する。導入口12は、基板11の最も広い平面の一方、例えば、上面に配置されてよい。導入口12は、送液ポンプ20に、チューブ41を介して接続される。送液ポンプ20とチューブ41との接続部、および、チューブ41と導入口12との接続部は、液体の漏れがないように、強固に密封される。以下に説明する他のチューブ42,43,44と任意のデバイスとの接続部も同様である。チューブ41は、送液ポンプ20から供給される液体を導入口12に送液する。チューブ41および以下に説明するチューブ42,43,44は、耐薬品性、耐熱性、および、耐圧性等の観点からPEEK樹脂からなるチューブを使用することができる。
【0034】
吐出口13は、均一分流デバイス10の流路14を流れた流体を均一分流デバイス10の外部に吐出するための開口部である。吐出口13は、それぞれの分岐流路17の下流側の端部に位置する。吐出口13は、基板11の最も広い平面の一方、例えば、上面に配置されてよい。図1および図2に図示する例において、吐出口13の数は8としたが、吐出口13の数はこれに限られない。複数の吐出口13は、それぞれ何れかの流体デバイス30とチューブ42により接続される。
【0035】
流路14は、例えば、流路幅がμmオーダーの微細なマイクロ流路である。ただし、流路14の幅は、この範囲に限られない。流路14は、上流側から下流側に向けて流体を通過させる。流路14は、基板11内に公知の技術を用いて形成することができる。例えば、流路14は、基板11を2層構造とし、第1層目の基板に流路14となる開溝を形成した後、第2層目の基板を、開溝を塞ぐように接合することにより形成することができる。
【0036】
流路14は、分流部15と分流部15の下流側に位置する流路抵抗部16とのそれぞれの流路14を含む。
【0037】
分流部15において、流路14は、基板11の導入口12に導入される液体を吐出口13に繋がる複数の分岐流路17に略均一となるように精度よく分流する。分岐流路17は、流路14の一部である。分流部15は、流路14を均等に2つの流路に分岐させる分岐部15a,15b,15cをひとつ以上含んで構成される。
【0038】
分流部15は、流路14を順次各段で2つに分岐させる1段以上の分岐部15a,15b,15cを備えてよい。各段において、分流部15は上の段で分岐された流路14を、さらに、2つずつの流路に均等に分岐させる。基板11に垂直な方向からみたとき、すなわち、平面視において、分流部15は、導入口12を含み流露抵抗部側へ延びる対称軸について線対称の形状を有してよい。
【0039】
例えば、図1および図2の例では、分流部15は、分岐部15a,15b,15cを3段備え、流路14を8つの分岐流路17a~17hに分岐させる。分岐流路17a~17hは、複数の分岐流路17に含まれる個々の分岐流路17である。導入口12に最も近い上流に、第1段分岐部15aが配置される。第1段分岐部15aは、導入口12から繋がる流路14を2つの流路14に均等に分岐させる。第1分岐部15aの下流側のそれぞれの流路14に第2段分岐部15bが配置される。第2段分岐部15bは、第1段分岐部15aで分岐された2つの流路14を、それぞれ2つの流路14に均等に分岐させる。すなわち、2つの第2段分岐部15bにより流路14は、合計4つに均等に分岐される。第3段分岐部15cは、第2段分岐部15bで分岐された4つの流路を、それぞれ2つの流路14に均等に分岐させる。すなわち、4つの第3段分岐部15cにより流路14は、合計8つの分岐流路17a~17hに均等に分岐される。ここで、各分岐部15a,15b,15cは、上流の流路14を、左右対称的に配置された略同一形状の下流の流路14に分岐させる。ここで、本願において、流路を「均等に分岐する」ことは、分岐部15a,15b,15cを流れる液体が、下流側の流路抵抗が等しい条件下で、製造誤差等を考慮した範囲内で均一に分流されることを意味する。また、液体を「均一に分流する」ことは、液体を等しい量に分流することを意味する。すなわち、分岐部15a,15b,15cが流路14を均等に分岐させていても、下流側の流路抵抗により液体は均一に分流されないことがある。
【0040】
例えば、仮に分岐部が流路14を3つに分岐する場合、分岐された中央の流路と両側の流路とは、対称の位置にないため流量を均一にするように分岐させることは難しい。これに対して、分岐部15a,15b,15cは、流路14をそれぞれ2つに分岐するので、分岐後の2つの流路は互いに対称となるように配置することができる。そのため、下流側の流路抵抗が同じであれば、液体を均一となるように精度よく分流することができる。本開示の均一分流デバイス10では、流路を均一に2つに分岐する分岐部15a,15b,15cを1段階以上配置したので、流路14を複数の分岐流路17に均等となるように精度よく分岐させることできる。
【0041】
流路抵抗部16は、分流部15の下流側に位置し、それぞれの分岐流路17に流路抵抗を与える。流路抵抗部16の各分岐流路17の流路抵抗は、導入口12から分流部15により分岐流路17に分岐されるまでの流路抵抗よりも、10倍以上または100倍以上大きい。これによって、分流部15により分岐される流路14の間で不均一が生じた場合でも、各分岐流路17の流量への影響を小さくすることができる。
【0042】
流路抵抗部16は、任意の分岐流路17の流路抵抗による流体システム1内を流れる液体の降下圧力が、当該分岐流路17の下流に位置する流体デバイス30の流路抵抗による液体の降下圧力より大きくなるように構成することができる。分岐流路17の流路抵抗による降下圧力は、流体デバイス30の流路抵抗による降下圧力の10倍以上であってよい。
【0043】
また、流路抵抗部16の各分岐流路17の流路抵抗の平均値は、各分岐流路17が接続される各流体デバイス30の流路抵抗の平均値よりも大きい。例えば、流路抵抗部16の各分岐流路17の流路抵抗の平均値は、各分岐流路17が接続される各流体デバイス30の流路抵抗の平均値の10倍以上であってよい。また、流路抵抗部16の各分岐流路17の流路抵抗は、当該分岐流路17が接続される流体デバイス30の流路抵抗よりも大きくてよい。例えば、流路抵抗部16の各分岐流路17の流路抵抗は、当該分岐流路17が接続される個別の流体デバイス30の流路抵抗の10倍以上であってよい。また、複数の分岐流路17を通過する液体の流路抵抗部16における圧力損失の平均値は、複数の流体デバイス30を通過する液体の流体デバイス30における圧力損失の平均値よりも、1倍以上または10倍以上大きくてよい。
【0044】
流路抵抗を大きくするため、流路抵抗部16において、複数の分岐流路17は、分流部15における流路14よりも幅および深さの少なくともいずれかにおいて小さく形成されてよい。また、流路抵抗を大きくするため、流路抵抗部16において、分岐流路17は、基板11内の分岐流路17ごとに割り当てられた所定領域を往復する流路として形成されてよい。これにより、分岐流路17の長さが長くなるとともに、流路に屈曲を含むことにより流路抵抗が大きくなる。
【0045】
複数の分岐流路17は、互いに流路抵抗が略等しくなるように構成される。このため、複数の分岐流路17は、互いに略等しい形状となるように形成されてよい。また、複数の分岐流路17の長さは、誤差の分を除き互いに略等しくてよい。複数の分岐流路17は、流路抵抗の変動係数が5%未満であることが好ましい。流路抵抗の変動係数は、すべての分岐流路17の流路抵抗の偏差値を平均値で割って得られる値である。流路抵抗の変動係数が5%未満であれば、複数の分岐流路17の流路抵抗は、互いに略等しいとみなしうる。
【0046】
(送液ポンプ)
送液ポンプ20は、流体デバイス30における化学反応の原料となる液体を、チューブ41を介して均一分流デバイス10に供給する装置である。送液ポンプ20は、原料タンクなどに貯蔵される液体をチューブ41に送液する。送液ポンプ20は、例えば、シリンジポンプまたはダイヤフラムポンプであるが、これらに限定されない。送液ポンプ20として、他の種類のポンプを使用することもできる。
【0047】
(流体デバイス)
流体デバイス30は、図3に示すように、基板31を含んで構成される。一例として、基板31には、第1導入口32および第2導入口33と、吐出口34とを接続する流路35が形成されている。
【0048】
第1導入口32は、チューブ42を介して均一分流デバイス10の対応する吐出口13に接続される。チューブ42は、均一分流デバイス10の吐出口13から吐出された液体を第1導入口32に送液する。第1導入口32は、均一分流デバイス10で分流された液体の一つを受け入れる。
【0049】
第2導入口33は、チューブ43を介して、他の送液機構または他の流体デバイスと接続される。チューブ43は、送液ポンプ20から供給された液体と混合および化学反応させるため、これら他の送液機構または他の流体デバイスからの液体を、流体デバイス30に供給する。
【0050】
第1導入口32および第2導入口33から繋がる流路35は、第1導入口32および第2導入口33の下流側の合流部36で合流する。合流部36の下流側には基板31内を複数回往復するように配置された混合・反応流路37が配置されている。第1導入口32から導入される液体と、第2導入口33から導入される液体とは、流路35の一部である混合・反応流路37を流れる過程で混合されつつ、それぞれの液体に含まれる反応物質により化学反応が進行する。
【0051】
混合・反応流路37における化学反応の結果生成された生成物を含む液体は、吐出口34からチューブ44に吐出される。図1に示すように、複数の流体デバイス30が並列して配置されることにより、流体デバイス30の数に応じて生成物の収量を増大させることができる。
【0052】
以上のような構成により、本実施形態に係る均一分流デバイス10は、同一の基板11に、分流部15と流路抵抗部16とを配置した。これにより、分流部15と流路抵抗部16とを別個の構成要素とし、それらの間を、流路抵抗にばらつきを生じさせ易いコネクタおよび送液用チューブ等を用いて接続した場合に比べ、流路抵抗のばらつきを抑制することができる。また、分流部15を、流路14を均等に2つに分岐させる分岐部15a,15b,15cを1段以上設ける構成にしたことにより、均一分流デバイス10は、さらに均一に液体を分流することが可能になる。
【0053】
また、本実施形態に係る流体システム1は、均一分流デバイス10の流路抵抗部16の流路抵抗が互いにほぼ等しくその平均値が、流体デバイス30の流路抵抗の平均値よりも大きい。そのため、個々の流体デバイス30の流路抵抗に個体差があっても、全体としての流路抵抗のばらつきの割合を抑制することができる。その結果、各流体デバイス30に供給される液体の流量を、互いに均一な流量に近づけることができる。
【0054】
とくに、流路抵抗部16の複数の分岐流路17の流路抵抗の平均値を、複数の流体デバイス30の流路抵抗の平均値よりも10倍以上大きくすることにより、流体デバイス30を流れる液体の流量は、より均一になる。また、流路抵抗部16において、複数の分岐流路17の流路抵抗の変動係数が5%未満である場合、流路抵抗部16の流路抵抗のばらつきによる流体デバイス30に供給される液体の流量のばらつきへの影響を低く抑制することができる。
【0055】
(実施例)
本発明者らは、図4に示す装置構成により均一分流デバイス10による分流の性能を検証した。図4では参照符号のいくつかを省略しているが、以下の説明では適宜図1から図3で付した参照符号を用いて説明をする。この均一分流デバイス10では、基板11として板厚1.4mmのホウケイ酸ガラスを使用した。また、分流部15における流路14は、幅0.5mm、深さ0.5mmとし、図1図2の例と同じように8分岐する構成とした。さらに、流路抵抗部16の分岐流路17は、幅0.1mm、深さ0.03mm、長さ50mmとした。
【0056】
上記均一分流デバイス10に対して、送液ポンプ20から流量60μL/minのIPA(Isopropyl Alcohol)溶液を送液した。流路抵抗部16を通過した後各吐出口13から回収容器52に吐出されたIPA溶液の流量を、精密天秤でそれぞれ測定した。なお、チューブ41の途中には、チューブ41内の圧力を測定する圧力センサ51が設けられている。圧力センサ51は、リーク、気泡混入又は閉塞等の異常を検出するために使用される。
【0057】
図5(a)~(f)は、それぞれ異なる均一分流デバイス10について合計6回行った測定結果を示す。各図5(a)~(f)中の8つの棒グラフは、それぞれ、8つの吐出口13から吐出された溶液の流量を示す。グラフの右側には、7.50μL/minに対する差分を百分率により示している。7.50μL/minは、送液ポンプ20の流量60μL/minを8等分した値である。このように、分流前の液体を均一に分流した場合の流量に対する、実際に分流された流量の差異の割合を送液精度と呼ぶ。図5(a)~(f)のいずれの場合も、送液精度は±2.5%未満となった。このように、吐出口13から吐出される液体の流量の最大値と最小値との差異が、流量の平均値の5%以下であれば、送液精度は高いということができる。
【0058】
上記測定は、下流に流体デバイス30を接続していない状態で行ったものである。しかし、それぞれの吐出口13に対して、さらに流体デバイス30を接続したとしても、流体デバイス30の流路抵抗が、流路抵抗部16の流路抵抗よりも小さい限り、均一分流デバイス10で分岐された各流路に係る合計の流路抵抗に与える影響は相対的に小さい。例えば、流路抵抗部16の流路抵抗の平均値が、流体デバイス30の流路抵抗の平均値の10倍であるような場合を想定する。流体デバイス30の流路抵抗に30%のばらつきが生じたとしても、分流部15で分岐した後の各流路全体の流路抵抗からみた場合、3%程度のばらつきが生じるに過ぎない。
【0059】
なお、本発明者らは、均一分流デバイス10を用いずに、従来技術と同様に送液ポンプ20に8つに枝分かれする接続配管を接続し、それぞれの分岐した配管に、内径0.05mm、長さ50cmの細径チューブを接続して、同様の測定を行った。その結果の送液精度は、±10~20%であった。また、この送液精度は、装置を組み立てるごとに変化したことから、人的要因により発生する誤差の影響が大きいと考えられる。人的要因として、最も影響の大きい原因は、細径チューブを切断するとき生じるチューブ断面の変形と想定される。細径チューブをカッター等で切断するとチューブ断面が塑性変形して断面積が減少することがある。また、細径チューブが中心軸に対して垂直に切断されない場合、チューブ端面とデバイスまたはシール材とが均一に接触せず、チューブ先端が変形して流路が一部閉塞することなどが生じうる。
【0060】
したがって、本実施例に用いた均一分流デバイス10は、従来技術と比較して送液精度が高い。これは、同一の基板11上に、分流部15と流路抵抗部16とを設けたことによる。本実施例に用いた均一分流デバイス10を流体システム1に適用した場合、従来技術に比べて流体デバイス30に対してより均一な流量の液体を送液することが可能になる。
【0061】
なお、本発明は、上記実施形態にのみ限定されるものではなく、幾多の変形または変更が可能である。上記実施形態の均一分流デバイス10、流体デバイス30、および、流体システム1の構成等は一例に過ぎない。本開示の主旨から逸脱しない範囲内で、適宜構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。
【0062】
本開示の流体デバイス30は、流路の幅がμmオーダーのマイクロ流体デバイスとして説明した。しかし、本開示の流体デバイス30の流路の寸法はこれに限られない。流体デバイス30は、幅1mm以上の流路、または、幅1μm未満の流路を有するものであってもよい。
【0063】
例えば、上記実施形態では、均一分流デバイス10の分流部15は流路14を3段階で分岐させた。しかし、分流部15は、流路を1段階、2段階または4段階以上で分岐させてもよい。分岐段数を増やすことにより、分岐数を増やすことができる。図1および図2に示した均一分流デバイス10の分流部15および流路抵抗部16の流路14の形状および配置は一例に過ぎない。均一分流デバイス10として、種々の流路構成のデバイスを作成することができる。また、上記実施形態では、導入口12および吐出口13は、基板11の上面に配置されていた。しかし、導入口12および吐出口13の配置はこれに限られない。導入口12および吐出口13は、例えば基板11の側面に配置されてもよい。
【0064】
上記実施形態では、流体デバイス30は、液体の混合および化学反応等の操作を実行するとした。しかし、流体デバイス30が実行する操作はこれらに限られない。流体デバイス30が実行する操作は、液相混合、液相反応、気液混合、気液反応、抽出、蒸留、濃縮、スラリー混合、固相抽出、粒子の分離・分液、晶析、および細胞培養等を含んでよい。また、均一分流デバイス10および流体デバイス30の流路を通る流体は、液体のみに限られず気体を含んでもよい。
【符号の説明】
【0065】
1 流体システム
10 均一分流デバイス
11 基板
12 導入口
13,13a-13h 吐出口
14 流路
15 分流部
15a 第1段分岐部
15b 第2段分岐部
15c 第3段分岐部
16 流路抵抗部
17,17a-17h 分岐流路
20 送液ポンプ(送液機構)
30 流体デバイス
31 基板
32 第1導入口
33 第2導入口
34 吐出口
35 流路
36 合流部
37 混合・反応流路
41-44 チューブ
51 圧力センサ
52 回収容器
図1
図2
図3
図4
図5