(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025024667
(43)【公開日】2025-02-20
(54)【発明の名称】耐腐食性ニッケル基合金の表面処理方法及びその構造
(51)【国際特許分類】
C23C 8/10 20060101AFI20250213BHJP
C23G 1/20 20060101ALI20250213BHJP
【FI】
C23C8/10
C23G1/20
【審査請求】有
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024043051
(22)【出願日】2024-03-19
(31)【優先権主張番号】112129556
(32)【優先日】2023-08-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(71)【出願人】
【識別番号】524106299
【氏名又は名称】翔名科技股▲分▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】Feedback Technology Corp.
【住所又は居所原語表記】No.221,Niupu S.Rd.,Xiangshan Dist.,Hsinchu City300,Taiwan
(74)【代理人】
【識別番号】100185694
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 隆志
(72)【発明者】
【氏名】▲呉▼宗豐
(72)【発明者】
【氏名】廖俊智
(72)【発明者】
【氏名】▲黄▼柏嘉
(72)【発明者】
【氏名】邱國揚
(72)【発明者】
【氏名】林佳▲徳▼
(72)【発明者】
【氏名】陳柏翰
【テーマコード(参考)】
4K053
【Fターム(参考)】
4K053PA07
4K053QA04
4K053RA05
4K053RA14
4K053RA22
4K053RA23
4K053RA25
4K053SA06
4K053SA18
4K053YA02
(57)【要約】
【課題】ニッケル基合金の表面に安定して均質な鈍化層を形成するとともにエネルギーを節約して合金の固有性能を保持できるニッケル基合金の表面処理方法を提供する。
【解決手段】
本発明の抗腐食性を有するニッケル基合金の表面処理方法は、ニッケル基合金を第一の中性またはアルカリ性溶液に浸漬することによって表面の汚染物質を除去するステップと、洗浄された前記ニッケル基合金を第二の中性またはアルカリ性溶液に浸漬することによって、前記ニッケル基合金の表面に官能基を形成するステップと、前記ニッケル基合金を低温熱処理プロセスにて処理することによって、前記ニッケル基合金の少なくとも一つの表面に鈍化層を形成するステップと、を含み、前記低温熱処理プロセスは、酸素及び保護ガスを含む環境で行われ、前記鈍化層の表面粗さは0.04μm以下であって、かつ厚さは5nm以上200nm以下であることを特徴とする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗腐食性を有するニッケル基合金の表面処理方法であって、
前記ニッケル基合金を第一の中性またはアルカリ性溶液に浸漬することによって表面の汚染物質を除去するステップと、
洗浄された前記ニッケル基合金を第二の中性またはアルカリ性溶液に浸漬することによって、前記ニッケル基合金の表面に官能基を形成するステップと、
前記ニッケル基合金を低温熱処理プロセスにて処理することによって、前記ニッケル基合金の少なくとも一つの表面に鈍化層を形成するステップと、を含み、
前記第一の中性またはアルカリ性溶液のpH値は、7以上12以下であり、
前記第二の中性またはアルカリ性溶液のpH値は、7以上12以下であり、
前記低温熱処理プロセスは、酸素及び保護ガスを含む環境で行われ、
前記鈍化層の表面粗さは0.04μm以下であって、かつ厚さは5nm以上200nm以下である、抗腐食性を有するニッケル基合金の表面処理方法。
【請求項2】
前記官能基が、ヒドロキシ基、カルボニル基及びカルボキシル基からなる群から選択される一種以上であることを特徴とする請求項1に記載の抗腐食性ニッケル基合金の表面処理方法。
【請求項3】
前記第一の中性またはアルカリ性溶液が、水酸化ナトリウム、酢酸、水酸化カリウム及び塩化ナトリウムからなる群から選択される一種以上を含むことを特徴とする請求項1に記載の抗腐食性ニッケル基合金の表面処理方法。
【請求項4】
前記第二の中性またはアルカリ性溶液が、水酸化ナトリウム、酢酸、水酸化アンモニウム、水酸化カリウム、過酸化水素及び塩化ナトリウムからなる群から選択される一種以上を含むことを特徴とする請求項1に記載の抗腐食性ニッケル基合金の表面処理方法。
【請求項5】
前記ニッケル基合金が、前記第一の中性またはアルカリ性溶液に1時間以上3時間以下浸漬され、かつその温度が25℃以上50℃以下であることを特徴とする請求項1に記載の抗腐食性ニッケル基合金の表面処理方法。
【請求項6】
前記ニッケル基合金が、前記第一の中性またはアルカリ性溶液に浸漬される際に、超音波振動処理が行われることを特徴とする請求項1に記載の抗腐食性ニッケル基合金の表面処理方法。
【請求項7】
前記ニッケル基合金が、前記第二の中性またはアルカリ性溶液に1時間以上12時間以下浸漬され、かつその温度が25℃以上60℃以下であることを特徴とする請求項1に記載の抗腐食性ニッケル基合金の表面処理方法。
【請求項8】
前記低温熱処理プロセスの温度が250℃以上600℃以下であり、ガスの流量が5sccm以上200sccm以下であり、圧力が0.1気圧以上1気圧以下であり、かす処理時間が1時間以上6時間以下であることを特徴とする、請求項1に記載の抗腐食性ニッケル基合金の表面処理方法。
【請求項9】
前記保護ガスが、窒素又はアルゴンを含むことを特徴とする、請求項1に記載の抗腐食性ニッケル基合金の表面処理方法。
【請求項10】
抗腐食性を有するニッケル基合金であって、
ニッケル基合金から構成される基板と、
前記基板の少なくとも一つの表面に設置される鈍化層と、を含み、
前記鈍化層の表面粗さは0.04μm以下であり、厚さは5nm以上200nm以下である抗腐食性を有するニッケル基合金。
【請求項11】
前記ニッケル基合金のニッケル含有量が50%以上であることを特徴とする請求項10に記載の抗腐食性ニッケル基合金。
【請求項12】
前記ニッケル基合金が、クロム(Cr)及びマンガン(Mn)金属を含むことを特徴とする請求項11に記載の抗腐食性ニッケル基合金。
【請求項13】
前記鈍化層が、ニッケルを含む酸化層、マンガン(MnOx)を含む酸化層、及びクロム(CrOx)を含む酸化層からなる群から選択される一種以上を含むことを特徴とする請求項10に記載の抗腐食性ニッケル基合金。
【請求項14】
前記鈍化層が、ニッケル(NiOx)を含む酸化層であることを特徴とする、請求項11に記載の抗腐食性ニッケル基合金。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐腐食性合金の表面処理方法及び耐腐食性合金に関し、特に、耐腐食性ニッケル基合金の表面処理方法及び耐腐食性ニッケル基合金に関する。
【背景技術】
【0002】
ニッケル基合金は、優れた機械的性能と高い耐腐食性のため、多くの産業分野で広く使用されている。これらの合金は特に、高温、高圧、腐食性材料が存在する過酷な環境、例えば化学処理、航空宇宙、エネルギー分野に適している。ニッケル基合金はある程度の耐腐食性を持つが、特に極端な条件下や長期間の使用時には、特定の種類の腐食に対して脆弱であることがある。
【0003】
ニッケル基合金を使用する主要な課題の一つは、合金表面に安定した保護的な鈍化層を形成することである。この層は通常、金属酸化物で構成され、基材金属のさらなる腐食を防ぐ障壁として機能する。しかし、ニッケル基合金上に均一で密な安定した鈍化層を形成することは、挑戦的である場合がある。従来の方法は通常、高温熱処理プロセスを伴い、これはエネルギー集約的であり、合金の微細構造や機械的性質に不利な変化を引き起こす可能性がある。さらに、表面の汚染物質(例えば有機残留物)の存在は、効果的な鈍化層の形成を妨げる。これらの汚染物質は層内に不均一性を生じさせ、局部的な腐食感受性を高める。したがって、これらの汚染物質を鈍化層の形成前に効果的に除去する方法が必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のこれらの課題を踏まえ、ニッケル基合金の処理方法を改善し、その耐腐食性を向上させることが非常に求められている。具体的には、合金表面に安定して均一な鈍化層を効果的に形成し、同時にエネルギーを節約し、合金の固有性能を保持する方法が必要である。これらの問題をどのように解決するかは、本分野の一般的な知識を持つ者にとって考慮すべき重要な課題である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の問題を解決するため、本発明の目的は、耐腐食性ニッケル基合金の表面処理方法及び耐腐食性ニッケル基合金を提供することである。
【0006】
上述の目的及びその他の目的に基づき、本発明は耐腐食性ニッケル基合金の表面処理方法及び得られた合金を提供する。この方法には以下のステップが含まれる。まず、ニッケル基合金を第一の中性またはアルカリ性溶液に浸漬して表面の汚染物質を除去する。該溶液のpH値は7以上12以下である。次に、清潔化されたニッケル基合金を第二の中性またはアルカリ性溶液に浸漬し、合金表面に官能基を形成する。第二の中性またはアルカリ性溶液のpH値も7以上12以下である。その後、ニッケル基合金に低温熱処理プロセスを施し、合金の少なくとも一つの表面に鈍化層を形成する。この低温熱処理プロセスは、酸素と保護ガスを含む環境で行われる。ここで、鈍化層の表面粗さは0.04μm以下で、厚さは5nm以上200nm以下である。
【0007】
一つの実施例では、ニッケル基合金表面に形成される官能基は、ヒドロキシ基、カルボニル基、カルボキシル基から成る群から選択される。さらに、第一の中性またはアルカリ性溶液及び第二の中性またはアルカリ性溶液は、水酸化ナトリウム、酢酸、水酸化カリウム、塩化ナトリウムなどの様々な化合物から選択されることができる。
【0008】
別の実施例では、ニッケル基合金を25℃以上50℃以下の温度で第一溶液に1時間以上3時間以下浸漬することができる。この浸漬期間中、超音波振動処理を行うことができる。合金を25℃以上60℃以下の温度で第二の中性またはアルカリ性溶液に1時間以上12時間以下浸漬することができる。
【0009】
別の実施例では、低温熱処理プロセスの温度は250℃以上600℃以下であり、ガスの流量は5sccm以上200sccm以下であり、処理時間は1時間以上6時間以下である。使用される保護ガスは、窒素またはアルゴンであってもよい。
【0010】
上記の方法によって得られた耐腐食性ニッケル基合金は、ニッケル基合金から構成される基板と、基板の少なくとも一つの表面に設置される鈍化層を含む。ニッケル基合金のニッケル含量は50%以上であり、合金にはクロム(Cr)、マンガン(Mn)金属も含まれることがある。鈍化層は、ニッケルを含む酸化層、マンガン(MnOx)を含む酸化層、クロム(CrOx)を含む酸化層、またはその組み合わせであってもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、耐腐食性ニッケル基合金の効率的な表面処理方法を提供するものであり、特定の中性またはアルカリ性溶液と低温熱処理プロセスを用いて、ニッケル基合金表面に鈍化層を形成し、その耐腐食性を向上させる。この方法では、合金表面に特定の官能基を形成し、特定の表面粗さ及び厚さを有する鈍化層を形成することができる。これによりニッケル基合金は優れた耐腐食性を有し、この特性が必要な様々な用途に適用可能である。本発明の表面処理方法によって得られた耐腐食性ニッケル基合金を提供することができ、ニッケル含量が50%以上であり、クロム(Cr)、マンガン(Mn)金属を含んでもよい。すなわち、鈍化層は、酸化ニッケル層(NiOx)、酸化マンガン層(MnOx)、酸化クロム層(CrOx)であり、特定の用途の要望に応じて柔軟に対応することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の耐腐食性ニッケル基合金の表面処理方法のフローチャートである。
【
図2A】本発明の耐腐食性ニッケル基合金の表面処理方法を構成するステップの概念図である。
【
図2B】本発明の耐腐食性ニッケル基合金の表面処理方法を構成するステップの概念図である。
【
図2C】本発明の耐腐食性ニッケル基合金の表面処理方法を構成するステップの概念図である。
【
図2D】本発明の耐腐食性ニッケル基合金の表面処理方法を構成するステップの概念図である。
【
図2E】本発明の耐腐食性ニッケル基合金の表面処理方法を構成するステップの概念図である。
【
図2F】本発明の耐腐食性ニッケル基合金の表面処理方法を構成するステップの概念図である。
【
図2G】本発明の耐腐食性ニッケル基合金の表面処理方法を構成するステップの概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1及び
図2Aから
図2Gを参照し、
図1は本発明の耐腐食性ニッケル基合金の表面処理方法のフローチャートを示し、
図2Aから
図2Gは本発明の耐腐食性ニッケル基合金の表面処理方法の各ステップの概念図である。
【0014】
まず、ステップS110において、必要なニッケル基合金を選択する。ニッケル基合金は、優れた機械的性能と高い耐腐食性を持ち、化学処理、航空宇宙、エネルギー分野など様々な産業で理想的な選択肢を有する。本実施形態では、選択されるニッケル基合金のニッケル含有量は50%以上であることが推奨され、これによりニッケル基合金の一定の耐腐食性が保証される。また本発明において、ニッケル基合金には、クロム(Cr)やマンガン(Mn)などの他の金属も含むこともある。これらの金属は、合金の耐腐食性や機械的性能をさらに強化することができる。実際の用途におけるニッケル基合金の具体的な成分は、予定される用途と必要な特定の性能に依存する。本実施例では、選択されたニッケル基合金は基板の形で準備される。さらに、次のステップに進む前に、基板を初期の清掃作業で洗浄することにより、効果的な鈍化層の形成を妨げる可能性のある任意の表面汚染物質、例えば有機残留物を除去することができる。この初期の清掃は、層内の不均一性を生じさせ、局部的な腐食感受性を高める汚染物質の防止に効果的である。
【0015】
ステップS110では、清掃プロセスには、業界で一般的に使用される標準的な技術を含むことがある。例えば、適切な溶剤での超音波清掃に続いて、すすぎと乾燥が行われる。さらに、清掃プロセス中に新しい汚染物質が導入されないように注意することが重要である。この初期清掃は、本発明の表面処理方法の後続ステップのベースとなるものである。一度、ニッケル基合金が初期処理されたら、次のステップS120に進み、
図2Aに示されるニッケル基合金110を第一の中性またはアルカリ性溶液10に浸漬します。注意すべきことは、初期処理を行ったとしても、ニッケル基合金110には、初期処理で除去できない表面汚染物質120が残っているため、次のステップS120が必要である。
図2Aでは、ニッケル基合金110の一つの表面にのみ表面汚染物質が示されるが、本分野の一般的な知識を有する者は、表面汚染物質がニッケル基合金110の全表面に存在する可能性があることを理解する。
【0016】
ステップS120及び
図2Bを参照し、ニッケル基合金110が初期処理を完了した後、ステップS120では、ニッケル基合金110を第一の中性またはアルカリ性溶液10に浸漬する。本実施例では、第一の中性またはアルカリ性溶液10のpH値は7以上12以下である。この範囲は、ニッケル基合金110の表面汚染物質120を除去するのに好適であり、ニッケル基合金110の表面を損傷する可能性のある不良反応を引き起こさない程度である。具体的には、中性から弱アルカリ性の溶液は、有機及び無機残留物を含むほとんどの表面汚染物質を除去し、溶解させつつ、ニッケル基合金110の過度な腐食や溶解は引き起こさない。
【0017】
本実施例では、該浸漬プロセスに使用される具体的な溶液(すなわち、第一の中性またはアルカリ性溶液10)には、水酸化ナトリウム、酢酸、水酸化カリウム、塩化ナトリウムなどが含まれ、濃度は1mmol以上1mol以下である可能性がある。どの成分と濃度を選択するかは、必要な官能基と形成される鈍化層の要件に依存し、これらの溶液は、金属表面を効果的に清掃することができる。
【0018】
本実施例では、該浸漬プロセスに使用される具体的な溶液(すなわち、第一の中性またはアルカリ性溶液10)には、水酸化ナトリウム、酢酸、水酸化カリウム、塩化ナトリウムなどが含まれ、濃度は1mmol以上1mol以下である可能性がある。どの成分と濃度を選択するかは、必要な官能基と形成される鈍化層の要件に依存します。これらの溶液は、金属表面を効果的に清掃することができる。
【0019】
また、浸漬時間と温度は、清掃プロセスに一定の影響を及ぼす。ニッケル基合金を25℃以上50℃以下で溶液に1時間以上3時間以下浸漬することで、汚染物質の効果的な除去と、不要な反応や過度な金属溶解の防止との間のバランスを保つことができる。さらに、浸漬中に超音波振動を行う。超音波エネルギーの使用は、ニッケル基合金110の表面に微小な気泡の内爆を引き起こすことにより清掃プロセスを強化し、これは空化と呼ばれるプロセスである。この操作は、ニッケル基合金110表面の汚染物質を除去し、より徹底的な清掃プロセスを実現するのに効果的である。ステップS120が完了すると、ニッケル基合金110はより徹底的に清掃され、ニッケル基合金110の表面汚染物質が大幅に減少し(
図2C参照)、次のステップS130の準備が整う。
【0020】
ステップS130及び
図2Dを参照し、ステップS130では、ニッケル基合金110は第二の中性またはアルカリ性溶液20に浸漬される。このステップの目的は、ニッケル基合金110の表面に官能基結合を形成し、後に鈍化層の形成時に触媒作用を発揮し、鈍化層の形成を加速するためである。第二の中性またはアルカリ性溶液20の具体的な成分は、水酸化ナトリウム、酢酸、水酸化アンモニウム、水酸化カリウム、過酸化水素、及び塩化ナトリウムからなる群より選択される1種以上の組み合わせから選択され、濃度は1mmol以上1mol以下である。どの成分と濃度を選択するかは、必要な官能基と形成される鈍化層の要件に依存する。第二の中性またはアルカリ性溶液20のpH範囲は7以上12以下であり、このpH範囲は、必要な官能基の形成を保証しつつ、ニッケル基合金110の不良な表面反応や溶解を引き起こさないようにする。ステップS130では、形成される官能基にはヒドロキシ基、カルボニル基、及びカルボキシル基からなる群より選択される一種以上が含まれる可能性がある。これらの官能基は化学的に活性があり、特にヒドロキシ基は、酸化物層の形成において触媒の役割を果たし、鈍化層の形成に必要な温度を低減する。
【0021】
また、第二の中性またはアルカリ性溶液20での浸漬時間と温度も重要である。例えば、1時間以上12時間以下の浸漬時間は、ニッケル基合金110の表面に官能基が形成されるために十分な時間を確保する。さらに、25℃以上60℃以下の温度範囲の選択は、官能基の形成を最適化し、望ましくない副反応やニッケル基合金110の過度な溶解を防ぐためである。低い温度では反応速度が遅くなる可能性があり、高い温度では不良な副反応やニッケル基合金110の微細構造の変化を引き起こす可能性がある。ステップS130が完了すると、ニッケル基合金110の表面には官能基層130が形成される(
図2E参照)、これは後の低温熱処理プロセスの基盤を築く。
【0022】
ステップS140及び
図2Fを参照し、ステップS130を完了した後、ニッケル基合金110は低温熱処理プロセスにかけられる。ステップS140では、ニッケル基合金110は熱処理室40の内部空間で低温熱処理プロセスを受ける。低温熱処理プロセスでは、熱処理室40の内部条件がニッケル基合金110上に鈍化層140を形成するために重要な役割を果たす。熱処理室40内の温度、気流、圧力、処理時間を慎重に制御することにより、密で均一、安定した鈍化層140を形成し、ニッケル基合金110の耐腐食性を顕著に向上させることができる。ニッケル基合金表面の官能基の触媒作用により、熱処理室40内の温度が250℃以上600℃以下で鈍化層を形成することができる。この温度範囲は、伝統的な鈍化層形成方法で使用される温度よりもかなり低く、従来の方法では、通常、高温熱処理が行われるが、このように低温熱処理をすることにより、エネルギー消費を削減し、鈍化層をより密にすることができる。
【0023】
さらに、熱処理室40には、気流用の入口41と出口42がある。酸素と保護ガス(例えば窒素またはアルゴン)は、入口41から熱処理室40の内部空間に導入され、出口42は、余分なガスと熱処理プロセス中の副産物を排除する。本実施例では、気体の流量は5sccm以上200sccm以下で制御され、圧力は0.1気圧以上1気圧以下である。保護ガスは、窒素またはアルゴンであり、酸化過程を制御することにより、望ましくない反応を防ぐことができる。
【0024】
ステップS140では、ニッケル基合金110を熱処理室40内で1時間から6時間保持します。この熱処理時間は、鈍化層140が完全に形成されるのに十分な時間を与える一方で、鈍化層140の過度な成長による表面の粗さや不均一性を防ぎます。もちろん、具体的な持続時間は、ニッケル基合金110の具体的な成分、鈍化層140の必要な性能、及び熱処理の温度など、様々な要因に依存する。また、低温熱処理プロセス中の圧力制御も重要である。熱処理室40内の圧力と反応ガス濃度を制御することにより、均一な処理を保証し、望ましくない反応を防ぐことができる。さらに、低温熱処理プロセスの終了後、熱処理室40は室温まで制御された方法で冷却される。急激な冷却は新たに形成された鈍化層140に熱ストレスを引き起こし、損傷を与える可能性があるため、本実施例では冷却プロセスは通常ゆっくりと行われる。
【0025】
ステップS140の低温熱処理プロセスを経た後、ニッケル基合金110は少なくとも一つの表面に鈍化層140を形成し、
図2Gに示される耐腐食性ニッケル基合金100となる。本実施例では、鈍化層140の表面粗さは0.04μm未満で、厚さは5nm以上200nm以下である。これにより鈍化層140は表面が滑らかで、内部が密で均一であり、鈍化層140の下のニッケル基合金110を腐食から効果的に保護することができる。
【0026】
図1に示された表面処理方法を経た後に形成される耐腐食性ニッケル基合金100について、さらに詳しく説明する。耐腐食性ニッケル基合金100の基板は、ニッケル基合金110で構成される。ニッケル基合金110の選択は、固有の機械強度と耐腐食性に基づいている。本実施例では、ニッケル基合金110のニッケル含量は50%以上であり、ニッケル基合金110の一定の耐腐食性能が保証される。この高いニッケル含量により、ニッケル基合金110は、高温や腐食性環境などの過酷な条件下でも、その強度と耐腐食性を維持することができる。ニッケル以外にも、ニッケル基合金110には、クロム(Cr)やマンガン(Mn)などの他の金属が含まれている場合があり、これらの追加金属の存在は、合金の耐腐食性とその他の性能をさらに強化することができる。
【0027】
さらに、鈍化層140は、ニッケル基合金110の少なくとも一つの表面に形成された保護層であり、下部のニッケル基合金110を環境の侵害から効果的に保護し、その耐腐食性を顕著に向上させる。鈍化層140は、
図1のステップS140で説明された低温熱処理プロセスによって形成される金属酸化物層である。
【0028】
一つの実施例では、ニッケル基合金110には、クロム(Cr)やマンガン(Mn)などの追加金属を含み、その結果、鈍化層140は異なる金属酸化物の混合物で構成される可能性がある。これらの混合物には、酸化ニッケル、酸化クロム(CrOx)、酸化マンガン(MnOx)が含まれる場合があり、これらの酸化層は合金の耐腐食性能を向上させることができる。
【0029】
さらに、鈍化層140の表面粗さは0.04μm以下で、厚さは5nm以上から200nm以下である。これらの特性により、緻密で均一な鈍化層140が形成され、下部のニッケル基合金110を効果的に保護することができる。鈍化層140の適切な厚さは合金の耐腐食性を維持し、低い表面粗さは汚染物質の蓄積を防ぎ、局部的な腐食のリスクを減少させる。
【0030】
以上の実施例は、本発明の耐腐食性ニッケル基合金の表面処理方法及びそれによって生じる耐腐食性ニッケル基合金を示している。この方法には、ニッケル基合金を中性またはアルカリ性溶液に浸漬し、その後低温熱処理プロセスを行い、ニッケル基合金上に安定で均一な鈍化層を形成するステップが含まれる。この鈍化層を形成することにより、ニッケル基合金の耐腐食性を著しく向上させ、高温、高圧、腐食性のある厳しい環境条件に適用することができる。さらに、鈍化層は制御された表面粗さと厚さを有し、下部のニッケル基合金を効果的に保護する堅牢な防腐食バリアとして機能する。鈍化層は、ニッケル基合金の成分に基づいて、さまざまな金属酸化物を形成することができ、各金属酸化物は耐腐食性に寄与する。
【0031】
本発明の耐腐食性ニッケル基合金の表面処理方法は、効率とエネルギー消費の面で従来の方法を改善するものであり、ニッケル基合金の本来の性能を保持することができる。これにより、ニッケル基合金の寿命と信頼性が非常に重要な分野にとって理想的な解決策となり得る。
【符号の説明】
【0032】
10 第一中性またはアルカリ性溶液
20 第二中性またはアルカリ性溶液
40 熱処理室
41 入口
42 出口
100 耐腐食性ニッケル基合金
110 ニッケル基合金
120 表面汚染物
130 官能基層
140 鈍化層
S110~S140 フローチャート記号