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特開2025-25916食物アレルギーを予防するための栄養組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025025916
(43)【公開日】2025-02-21
(54)【発明の名称】食物アレルギーを予防するための栄養組成物
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/125 20160101AFI20250214BHJP
   A61P 3/02 20060101ALI20250214BHJP
   A61K 31/702 20060101ALI20250214BHJP
   A61P 37/08 20060101ALI20250214BHJP
   A61K 31/715 20060101ALI20250214BHJP
   A23C 9/152 20060101ALI20250214BHJP
   A23L 2/52 20060101ALI20250214BHJP
【FI】
A23L33/125
A61P3/02
A61K31/702
A61P37/08
A61K31/715
A23C9/152
A23L2/00 F
A23L2/52 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023131157
(22)【出願日】2023-08-10
(71)【出願人】
【識別番号】711002926
【氏名又は名称】雪印メグミルク株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】502392559
【氏名又は名称】雪印ビーンスターク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】弁理士法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 敏幸
(72)【発明者】
【氏名】河野 通生
(72)【発明者】
【氏名】樋口 淳一
(72)【発明者】
【氏名】福留 博文
(72)【発明者】
【氏名】酒井 史彦
(72)【発明者】
【氏名】辻森 祐太
【テーマコード(参考)】
4B001
4B018
4B117
4C086
【Fターム(参考)】
4B001AC01
4B001AC05
4B001AC06
4B001AC15
4B001BC03
4B001BC08
4B001EC05
4B001EC06
4B018LB07
4B018LB08
4B018LB10
4B018LE03
4B018LE05
4B018MD09
4B018MD25
4B018MD27
4B018MD29
4B018MD34
4B018MD52
4B018ME07
4B117LC04
4B117LE10
4B117LG03
4B117LK08
4B117LK11
4B117LK12
4B117LP14
4B117LP17
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA01
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA52
4C086NA14
4C086ZB13
4C086ZC21
4C086ZC51
(57)【要約】
【課題】本発明は、母乳の成分から食物アレルギーの発症を予防するための成分を見出し、新たな栄養組成物を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明は、3-フコシルラクトース、ラクト-N-フコペンタオースII、ルイスX構造を有する糖鎖を有効成分として含むことを特徴とする、食物アレルギーの発症を予防するための栄養組成物に関する。本栄養組成物は、乳児だけでなく食物アレルギーのリスクが高い成人にも有効な成分となることから、成人向けの食品、栄養組成物に配合して、食物アレルギーの発症を予防する栄養組成物としても有効である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖鎖を有効成分とする食物アレルギーを予防するための栄養組成物であって、3-フコシルラクトース、ルイスX構造を有する糖鎖及びラクト-N-フコペンタオースIIからなる群のいずれか1以上を有効成分として含む前記栄養組成物。
【請求項2】
前記ルイスX構造を有する糖鎖が以下の(1)または(2)に示す構造のO結合型糖鎖である、請求項1に記載の栄養組成物。
(1)Neu5Acα2-3Galβ1-3[Galβ1-4(Fucα1-3)GlcNAcβ1-6]GalNAc
(2)Galβ1-4(Fucα1-3)GlcNAcβ1-3GalNAc
【請求項3】
乳幼児用である、請求項1又は請求項2に記載の栄養組成物。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の食物アレルギーを予防するための栄養組成物を含む、食物アレルギー予防用飲食品。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の食物アレルギーを予防するための栄養組成物を含む、食物アレルギー予防用医薬品。
【請求項6】
Neu5Acα2-3Galβ1-3[Galβ1-4(Fucα1-3)GlcNAcβ1-6]GalNAcを3.1mg/100g固形以上含む乳幼児用栄養組成物。
【請求項7】
Galβ1-4(Fucα1-3)GlcNAcβ1-3GalNAcを0.14mg/100g固形以上含む乳幼児用栄養組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食物アレルギーを予防するための栄養組成物に関する。特に詳しくは、3-フコシルラクトース、ラクト-N-フコペンタオースII及びルイスX構造を有する糖鎖からなる群から選ばれる1種以上を有効成分として含む食物アレルギーを予防するための栄養組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
食物アレルギーとは、食物によって引き起こされる抗原特異的な免疫学的機序を介して生体にとって不利益な症状が惹起される現象と定義される。特定の食物を摂取したり、触れたりすることで、アレルギー反応が現れる疾患であり、食品によってはアナフィラキシーショックを発症して命に係わることもある。一部の集団では、後にアトピー性皮膚炎や喘息へと進展する。
【0003】
食物アレルギーは、多くは乳幼児期に発症し、鶏卵と牛乳が主要な原因である。成人期以降では、甲殻類、小麦、果物、魚介類などが主要な食物アレルギーの原因食品である。食物アレルギーは0歳時を頂点にして年齢と共に有病率は減っていくものの、成人になっても管理が必要な場合も多い。また、成人してから突発的に発症することもある。
【0004】
したがって、全ての人にとって食物アレルギーを予防することは、健康な社会生活を営む上で重要であり、その予防法については、様々な検討がなされてきた。例えば、妊娠中や授乳中の母親の食事制限や、離乳食の開始時期などにより、食物アレルギーが予防される可能性が示されている。しかし、未だに十分なエビデンスはなく、効果的な食物アレルギーの予防法はない。
【0005】
ところで、母乳には、乳児にとって有用な様々な成分が含まれていることが知られている。本発明者らは、食物アレルギーの発症を予防する有効成分を探索するにあたり、母乳に含まれる成分に注目した。母乳には、様々な有用な成分が含まれており、特に、母乳に含まれるオリゴ糖を中心とした糖質によって、アレルギー反応が緩和されたり、低減されたりする可能性が報告されている(特許文献1、特許文献2)。しかし、母乳成分が具体的に食物アレルギーの発症自体を予防せしめることが可能か否かは不明であり、母乳中のどのような成分が食物アレルギーの発症を予防することが可能かを類推することはできなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2000―504019号公報
【特許文献2】特開2021―130665号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、母乳の成分の中に食物アレルギーの発症を予防せしめる成分を見出すことができれば、その成分を乳児用栄養組成物に配合することで、食物アレルギーの発症を予防する乳児用栄養組成物を供給することができるのではないかと考えた。また、当該成分は、乳児だけでなく成人にも有効な成分となることから、成人や高齢者向けの食品、栄養組成物に配合して、食物アレルギーの発症を予防する栄養組成物として供給することも可能であると考えた。
本発明の課題は、母乳の成分から食物アレルギーの発症を予防するための成分を見出し、新たな栄養組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、母乳中の食物アレルギーの発症を予防する成分を探索するため、母乳中の糖質成分の量と乳児の食物アレルギー発症歴との関係を統計的に解析し、食物アレルギーの発症を予防する新たな成分について鋭意検討した結果、母乳中の、3-フコシルラクトース(以下、単に3-FLということがある)、ラクト-N-フコペンタオース-II(以下、単にLNFP-IIということがある)、および2種類のO結合型糖鎖(O結合型糖鎖A、O結合型糖鎖B)が食物アレルギーの予防に効果を有することを見出した。さらに、O結合型糖鎖A、およびO結合型糖鎖Bの構造を解析した結果、両者は共通のルイスX構造を有するO結合型糖鎖であることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、3-FL,LNFP-II、またはルイスX構造を有する糖鎖を有効成分として含むことを特徴とする、食物アレルギーの発症を予防する、乳児用栄養組成物、および栄養組成物である。
具体的には、本発明は以下の構成を有する。
【0009】
<1>
糖鎖を有効成分とする食物アレルギーを予防するための栄養組成物であって、3-フコシルラクトース、ルイスX構造を有する糖鎖及びラクト-N-フコペンタオースIIからなる群のいずれか1以上を有効成分として含む前記栄養組成物。
<2>
前記ルイスX構造を有する糖鎖が以下の(1)または(2)に示す構造であるO結合型糖鎖である、<1>に記載の栄養組成物。
(1)Neu5Acα2-3Galβ1-3[Galβ1-4(Fucα1-3)GlcNAcβ1-6]GalNAc
(2)Galβ1-4(Fucα1-3)GlcNAcβ1-3GalNAc
<3>
乳幼児用である、<1>又は<2>に記載の栄養組成物。
<4>
<1>又は<2>に記載の食物アレルギーを予防するための栄養組成物を含む、食物アレルギー予防用飲食品。
<5>
<1>又は<2>に記載の食物アレルギーを予防するための栄養組成物を含む、食物アレルギー予防用医薬品。
<6>
Neu5Acα2-3Galβ1-3[Galβ1-4(Fucα1-3)GlcNAcβ1-6]GalNAcを3.1mg/100g固形以上含む乳幼児用栄養組成物。
<7>
Galβ1-4(Fucα1-3)GlcNAcβ1-3GalNAcを0.14mg/100g固形以上含む乳幼児用栄養組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、食物アレルギーを予防する新規な栄養組成物が提供される。当該栄養組成物は、有効成分として、3-FL、LNFP-II、およびルイスX構造を有する糖鎖からなる群から1以上を含むものであり、これを摂取することで、食物アレルギーの発症を予防することができる。また、当該成分は、乳児だけでなく、成人や高齢者の食物アレルギーの発症をも予防することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】母乳中の3-FLの濃度が乳児の食物アレルギーの発症に与える影響を示す。
図2】母乳中のLNFP-IIの濃度が乳児の食物アレルギーの発症に与える影響を示す。
図3】母乳中のO結合型糖鎖Aの濃度が乳児の食物アレルギーの発症に与える影響を示す。
図4】母乳中のO結合型糖鎖Bの濃度が乳児の食物アレルギーの発症に与える影響を示す。
図5】母乳中のルイスX糖鎖の濃度が乳児の食物アレルギーの発症に与える影響を示す。
図6】ヒト大腸杯細胞モデルLS174T細胞に10mg/mlのルイスX糖鎖を添加して48時間後のTFF3遺伝子(腸管バリア関連遺伝子)の発現量を示す。図中、P<0.05を示す。
図7】ヒト単球由来細胞株THP-1を樹状細胞様に分化させたTDDCにLPSと各種糖鎖を添加して3日間後のHLA-DR(樹状細胞活性化マーカー)の発現量を示す。図中、小文字アルファベットは異なる文字間で有意差があることを示す。
図8】ヒト単球由来細胞株THP-1を樹状細胞様に分化させたTDDCにLPSと各種糖鎖を添加して3日間後のCD86(樹状細胞活性化マーカー)の発現量を示す。図中、小文字アルファベットは異なる文字間で有意差があることを示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(有効成分)
本発明の食物アレルギーを予防するための栄養組成物は、3-フコシルラクトース、ラクト-N-フコペンタオースII及びルイスX構造を有する糖鎖からなる群のいずれか1以上を有効成分として含むことを特徴としている。また、本発明の栄養組成物には、食物アレルギーを予防するための有効量の前記糖鎖が含まれる。以下に各有効成分及び栄養組成物の固形物100gあたりの必要量の好ましい範囲について説明する。
【0013】
(3-フコシルラクトース(3-FL))
本発明に用いられる3-フコシルラクト―スは、フコースとラクトースが結合したオリゴ糖(3-O-(α-L-Fucopyranosyl)-4-O-(β-D-galactopyranosyl)-D-glucopyranose)である。
本発明において、3-FLは、乳由来、遺伝子組換え細菌の発酵法由来でもよく、合成品、半合成品、又は天然品のいずれであってもよい。また、天然品を含有する天然の材料をそのまま供給源として、本発明の栄養組成物に配合してもよい。ここで、天然品とは、3-FLを含有する天然の材料から公知の方法によって抽出されたもの、粗精製されたもの、又はそれらを更に高度に精製したものを意味する。
本発明の3-FLを有効成分とする栄養組成物は、3-FLを70.1mg/100g固形以上含むことが好ましく、さらに好ましくは348mg/100g固形以上である。なお、栄養組成物が粉ミルクの場合、調乳後の乳には91.1mg/L以上の3-FLが含まれることが好ましく、さらに好ましくは452mg/L以上である。
【0014】
(ラクト-N-フコペンタオース-II(LNFP-II))
本発明において、LNFP-IIは、乳由来、遺伝子組換え細菌の発酵法由来でもよく、合成品、半合成品、又は天然品のいずれであってもよい。また、天然品を含有する天然の材料をそのまま供給源として、本発明の栄養組成物に配合してもよい。ここで、天然品とは、LNFP-IIを含有する天然の材料から公知の方法によって抽出されたもの、粗精製されたもの、又はそれらを更に高度に精製したものを意味する。
本発明のLNFP-IIを有効成分とする栄養組成物は、LNFP-IIを0.68mg/100g固形以上含むことが好ましく、さらに好ましくは243mg/100g固形以上である。なお、調乳後の乳に0.88mg/L以上のLNFP-IIが含まれることが好ましく、さらに好ましくは315mg/L以上である。
【0015】
(ルイスX構造を有する糖鎖)
本発明におけるルイスX構造を有する糖鎖とは、糖鎖構造中にGalβ1-4(Fucα1-3)GlcNAc構造を有し、食物アレルギーの発症を低下させる糖鎖をいう。具体的には、Neu5Acα2-3Galβ1-3[Galβ1-4(Fucα1-3)GlcNAcβ1-6]GalNAc(以下、単にO結合型糖鎖Aということがある)や、Galβ1-4(Fucα1-3)GlcNAcβ1-3GalNAc(以下、単にO結合型糖鎖Bということがある)を指す。他にも、例えば、Galβ1-4(Fucα1-3)GlcNAcβ1-3Gal、Galβ1-4(Fucα1-3)GlcNAcβ1-3Galβ1-4Glc、Galβ1-4(Fucα1-3)GlcNAcβ1-3Galβ1-4Glc、Galβ1-4(Fucα1-3)GlcNAcβ1-2Manα1-3(Neu5Acα2-6Galβ1-4GlcNAcβ1-2Manα1-6)Manβ1-4GlcNAcβ1-4(Fucα1-6)GlcNAcなどが挙げられる。ルイスX構造を有する糖鎖を以下、単に「ルイスX糖鎖」ということがある。
【0016】
本発明のルイスX糖鎖は、遊離した状態であっても、ペプチド及び/又はタンパク質に結合した状態であってもよい。また、乳由来、卵由来、肉由来、微生物由来、遺伝子組換え細菌の発酵法由来でもよく、合成品、半合成品、又は天然品のいずれであってもよい。また、天然品を含有する天然の材料をそのまま供給源として、本発明の栄養組成物に配合してもよい。ここで、天然品とは、ルイスX糖鎖を含有する天然の材料から公知の方法によって抽出されたもの、粗精製されたもの、又はそれらを更に高度に精製したものを意味する。
【0017】
本発明のルイスX糖鎖を有効成分とする栄養組成物は、ルイスX糖鎖を3.3μmol/100g固形以上であることが好ましく、さらに好ましくは7.8μmol/100g固形以上である。なお、調乳後の乳に4.3μmol/L以上のルイスX糖鎖が含まれることが好ましく、さらに好ましくは10.1μmol/L以上である。
【0018】
(O結合型糖鎖A)
本発明において、O結合型糖鎖AであるNeu5Acα2-3Galβ1-3[Galβ1-4(Fucα1-3)GlcNAcβ1-6]GalNAcを有効成分とする栄養組成物は、O結合型糖鎖Aを3.1mg/100g固形以上含むことが好ましく、さらに好ましくは8.0mg/100g固形以上である。なお、調乳後の乳に4.0mg/L以上のO結合型糖鎖Aが含まれることが好ましく、さらに好ましくは10.4mg/L以上である。
【0019】
(O結合型糖鎖B)
本発明において、O結合型糖鎖BであるGalβ1-4(Fucα1-3)GlcNAcβ1-3GalNAcを有効成分とする栄養組成物は、O結合型糖鎖Bを0.14mg/100g固形以上含むことが好ましく、さらに好ましくは0.25mg/100g固形以上である。なお、調乳後の乳に0.18mg/L以上のO結合型糖鎖Bが含まれることが好ましく、さらに好ましくは0.33mg/L以上である。
【0020】
(食物アレルギーの予防効果)
本発明の食物アレルギーを予防するための栄養組成物は、3-FL、LNFP-II、ルイスX糖鎖を有効量摂取することにより、食物アレルギーの発症を予防できるという効果を有するものであり、作用機序としては、後述する実施例に示すように腸管バリア機能の強化や樹状細胞の活性化抑制作用などが挙げられる。当該作用を有することで食物の種類を問わず食物アレルギーの予防効果を奏すると考えられる。
【0021】
(栄養組成物、飲食品、医薬品)
本発明の3-FL、LNFP-II、ルイスX糖鎖(以下、これらをまとめて単に3-FL等ということがある)を有効成分として含む食物アレルギーを予防するための栄養組成物は、3-FL等を有効量含む組成物であればよく、有効成分以外にタンパク質、脂肪、糖質、ビタミン類及びミネラル類などを含むことができ、乳幼児用の栄養組成物のほか、成人や高齢者用の栄養組成物として用いられる。
乳幼児用栄養組成物としては、乳児用調製粉乳および調製液状乳、幼児用調製粉乳(フォローアップミルクおよびグローイングアップミルク)、低出生体重児用調製粉乳、牛乳アレルギー疾患用アレルゲン除去食品および乳糖不耐症用乳糖除去食品などが挙げられる。
また、成人や高齢者用の栄養組成物としては、成人用調製粉乳および調製液状乳、牛乳アレルギー疾患用アレルゲン除去食品、乳糖不耐症用乳糖除去食品、サプリメントなどが挙げられる。
また、本発明の3-FL等を含む食物アレルギーを予防するための飲食品としては、3-FL等を有効量含む飲食品であればどのような飲食品に配合しても良く、飲食品の製造工程中に原料に添加しても良い。飲食品の例としては、チーズ、発酵乳、乳酸菌飲料、バター、マーガリンなどの乳製品、乳飲料、果汁飲料、清涼飲料などの飲料、ゼリー、キャンディー、プリン、マヨネーズなどの卵加工品、バターケーキなどの菓子・パン類、などを挙げることができるが特に限定されるものではない。
本発明の食物アレルギーを予防するための栄養組成物は、そのまま医薬品の原材料として用いることができ、錠剤、カプセル、粉末、シロップ等の常法により製造すれば良い。
したがって、本発明の3-FL等を有効成分として含む食物アレルギー予防用の組成物を有効成分として含む医薬品の製剤化に際しては、製剤上許可されている賦型剤、安定剤、矯味剤などを適宜混合して製剤化するほか、3-FL等を含む組成物をそのまま乾燥して粉末剤、散剤として用いることもできる。また、食物アレルギー予防効果を妨げない範囲で、賦型剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、矯味矯臭剤、懸濁剤、コーティング剤、その他の任意の薬剤を混合して製剤化することもできる。剤形としては、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、粉剤、シロップ剤などが可能である。
【0022】
(乳幼児用栄養組成物)
本発明のさらなる態様は、特定のルイスX糖鎖を一定以上含む乳幼児用栄養組成物に関する。すなわち、Neu5Acα2-3Galβ1-3[Galβ1-4(Fucα1-3)GlcNAcβ1-6]GalNAcを3.1mg/100g固形以上含む乳幼児用栄養組成物、または、Galβ1-4(Fucα1-3)GlcNAcβ1-3GalNAcを0.14mg/100g固形以上含む乳幼児用栄養組成物である。
【実施例0023】
[試験例1]
155検体の母乳試料について各種糖質成分を測定し、乳児の生後1年間の食物アレルギーの発症の有無との関係をロジスティック回帰で解析した。以下に、その方法と結果を示す。
【0024】
1.方法
(1)母乳サンプルと乳児の感染履歴の調査
雪印ビーンスターク(株)が2014年から2019年の間に実施した日本人の母乳成分と母子の健康状態との関係を調査するための前向きコホート研究(UMIN ID 000015494)において、1210人の母親から集められた母乳サンプルと母子の健康状態を調査したアンケート結果を本調査に使用した。さらに、1210人の検体からランダムに200検体を選抜した。分析に供する母乳サンプルとして、出産後1から2か月までの間に採取された母乳を使用した。乳児の健康状態を調査したアンケートは、出産後1年の間に2か月おきに計6回を親が記入し、その結果を収集した。そのアンケート結果の中から、乳児が出産後1年間に医師から食物アレルギーの発症と診断されたか否かの結果を集計した。診断の有無について記載が不明の場合は、調査から除外した。その結果、1年間計6回のアンケートにおいて、食物アレルギーの診断の有無を適正に回答されたものは155検体であり、それらを本調査の分析対象とした。155検体のうち、出産後1年間に乳児が食物アレルギーと診断されたものは、18検体であった。
【0025】
(2)母乳の各種糖質成分の測定
(2-1)オリゴ糖の測定
分析対象とした155検体の母乳20μLに対して、580μLの超純水を添加した後、分画分子量10,000の限外ろ過膜処理を行い、透過液をHPLCで分析した。HPLCは、電気化学検出器を接続したDIONEX ICS-5000DPシステム(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社)、カラムはCarboPac PA1カラム(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社)を使用した。移動相には超純水(A液)、200mM水酸化ナトリウム溶液(B液)、および600mM 酢酸ナトリウムを含む100mM 水酸化ナトリウム溶液(C液)の3液を流速1mL/minで通液した。開始から10分間B液50%で通液し、その後18分までにB液を47.5%まで直線的に減少、C液を5%まで直線的に増加させた。18分から28分にかけてはB液47.5%、C液5%で通液した。28分から32分にかけて、B液を42%まで直線的に減少、C液を16%まで直線的に増加させた。32分から39分にかけてはB液42%、C液16%で通液した後、39分から43分にかけてB液30%、C液40%で通液した。濃度既知の2’-フコシルラクトース(2’-FL)、3-フコシルラクトース(3-FL)、3’-シアリルラクトース、6’-シアリルラクトース、ラクトジフコテトラオース、ラクト-N-テトラオース、ラクト-N-ネオテトラオース、ラクト-N-フコペンタオースI、ラクト-N-フコペンタオースII(LNFP-II)、ラクト-N-ジフコヘキサオースI、およびラクト-N-ジフコヘキサオースIIの標準品を用いて作成した検量線から、各母乳検体中の各オリゴ糖含量を算出した。
【0026】
(2-2)N結合型糖鎖の測定
分析対象とした155検体の母乳20μLに対して、10μLの3M水素化ホウ素ナトリウム水溶液を添加し、室温で30分間静置した。続いて、7.5μLの酢酸を添加し、室温で30分間静置した。15μLの1M炭酸水素アンモニウム水溶液、および7.5μLの超純水を添加した。続けて、5μLの5%のラウリル硫酸ナトリウムを含む400mMジチオスレイトール水溶液を添加し、100℃で10分間加熱してタンパク質変性させた。室温まで放冷し、10μLの123mMヨードアセトアミド水溶液を添加して、室温で1時間静置した。7μLの500mM酢酸ナトリウム水溶液(pH 6.0)、および9μLの10% NP-40溶液を添加後、10μLの500units/μL Peptide-N-glycanase F溶液を添加し、37℃で24時間静置して、N結合型糖鎖を遊離した。109μLの超純水を加えた後、全量を分画分子量10,000のVivaspin 500(ザルトリウス株式会社)へ導入し、15,000×g、25℃で10分間遠心分離処理し、透過液を回収した。50μLの透過液に50μLのアセトニトリルを加え、LC/MS分析に供した。LC/MS分析は以下のように行った。HPLCはUltiMate 3000(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社)、MSはQ-Exactive(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社)を用いた。カラムはGlycanPac AXH-1(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社)を使用し、カラム温度は40℃に設定した。移動相はアセトニトリル(A液)、およびpHを4.4に調整した50mMギ酸アンモニウム水溶液(B液)を使用し、流速は0.4mL/分で通液した。試料導入後、55分までにB液の割合を10%から35%まで直線的に増加させた後、55分から65分までB液35%で通液した。ESIプローブのスプレー電圧は3.5kV、キャピラリー温度は275℃、Sheath gas、auxiliary gas、およびcollision gasには窒素ガスを用いた。S-Lens RF Levelは90に設定した。MSスペクトルは、ポジティブモードでm/z 400-2000の範囲でフルスキャン測定により取得した。取得したMSスペクトルは、Compound Discover 2.1(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社)を用いて解析した。既報の乳タンパク質のN結合型糖鎖から構築した糖鎖データベースと照合することで、糖鎖を検出した。また、Compound Discoverにより各糖鎖の分子イオンピークに対応する抽出クロマトグラムを作成し、各母乳検体中の検出した各糖鎖のシグナル面積値を算出した。算出した糖鎖のシグナル面積値を各糖鎖の相対定量値とした。
【0027】
(2-3)O結合型糖鎖の測定
分析対象とした155検体の母乳に対して、O結合型糖鎖解析キットEZGlyco Prep kit(住友ベークライト株式会社)に付属の糖鎖遊離試薬を添加し、50℃で20分間加熱した。超純水で希釈した後、分画分子量10,000のVivaspin 500へ導入し、15,000×g、25℃で15分間遠心分離処理し、透過液を回収した。50μLの透過液に50μLのアセトニトリルを加え、LC/MS分析に供した。HPLCはUltiMate 3000、MSはQ-Exactiveを用いた。カラムはGlycanPac AXH-1を使用し、カラム温度は40℃に設定した。移動相はアセトニトリル(A液)、およびpHを4.4に調整した50mMギ酸アンモニウム水溶液(B液)を使用し、流速は0.4mL/分で通液した。試料導入後、55分までにB液の割合を10%から35%まで直線的に増加させた後、55分から65分までB液35%で通液した。ESIプローブのスプレー電圧は3.5kV、キャピラリー温度は275℃、Sheath gas、auxiliary gas、およびcollision gasには窒素ガスを用いた。S-Lens RF Levelは90に設定した。MSスペクトルは、ポジティブモードでm/z 300-2000の範囲でフルスキャン測定により取得した。取得したMSスペクトルは、Compound Discover 2.1(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社)を用いて解析した。O結合型糖鎖データベースと照合することで、糖鎖を検出した。また、Compound Discoverにより各糖鎖の分子イオンピークに対応する抽出クロマトグラムを作成し、各母乳検体中の検出した各糖鎖のシグナル面積値を算出した。算出した糖鎖のシグナル面積値を各糖鎖の相対定量値とした。
【0028】
(3)O結合型糖鎖AおよびO結合型糖鎖Bの構造決定
(3-1)構造解析
上記「O結合型糖鎖の測定」において調製した155検体の試料のうちの1検体について、LC/MS/MS測定を行い、O結合型糖鎖AおよびO結合型糖鎖Bの構造解析を行った。LC/MS/MS分析は以下のように行った。HPLCはUltiMate 3000、MSはQ-Exactiveを用いた。カラムはGlycanPac AXH-1を使用し、カラム温度は40℃に設定した。移動相はアセトニトリル(A液)、およびpHを4.4に調整した50mMギ酸アンモニウム水溶液(B液)を使用し、流速は0.4mL/分で通液した。試料導入後、55分までにB液の割合を10%から35%まで直線的に増加させた後、55分から65分までB液35%で通液した。ESIプローブのスプレー電圧は3.5kV、キャピラリー温度は275℃、Sheath gas、auxiliary gas、およびcollision gasには窒素ガスを用いた。S-Lens RF Levelは90に設定した。MS/MSスペクトルは、ポジティブモードで、データ依存的にTop10モードで取得した。取得したMS/MSスペクトルは、SimGlycan Software(PREMIER Biosoft International)を使用して解析し、O結合型糖鎖AおよびO結合型糖鎖Bの構造を解析した。
【0029】
(3-2)結合様式の決定
O結合型糖鎖Aに含まれるN-アセチルノイラミン酸の結合様式を決定するため、α2,3結合を特異的に分解するシアリダーゼ、またはα2,3とα2,6結合の両方を分解するシアリダーゼ、のいずれかで処理した後にLC/MSで解析した。また、O結合型糖鎖AおよびO結合型糖鎖Bに含まれるフコースの結合様式を決定するため、α1,2結合を特異的に分解するフコシダーゼ、α1,3およびα1,4結合を特異的に分解するフコシダーゼ、またはα1,2、α1,4およびα1,6結合を特異的に分解するフコシダーゼ、のいずれかで処理した後にLC/MSで解析した。さらに、ガラクトースの結合様式を決定するため、α1,3およびα1,4結合を特異的に分解するフコシダーゼと同時にβ1,3結合を特異的に分解するガラクトシダーゼ、またはα1,3およびα1,4結合を特異的に分解するフコシダーゼと同時に、β1,4結合を特異的に分解するガラクトシダーゼ、のいずれかで処理した後にLC/MSで解析した。上記(3-1)と同一の1検体について、10μLのO結合型糖鎖溶液に、27μLの超純水と5μLの酵素に付属の緩衝液、5μLの酵素に付属のウシ血清アルブミン溶液を添加した後、3μLの各酵素溶液を添加し、37℃で1時間インキュベートした。沸騰水中で5分間加熱して酵素を失活させた後、上記(2-4)と同じ方法で処理してLC/MS分析に供した。LC/MS分析は以下のように行った。HPLCはUltiMate 3000、MSはQ-Exactiveを用いた。カラムはGlycanPac AXH-1を使用し、カラム温度は40℃に設定した。移動相はアセトニトリル(A液)、およびpHを4.4に調整した50mMギ酸アンモニウム水溶液(B液)を使用し、流速は0.4mL/分で通液した。試料導入後、55分までにB液の割合を10%から35%まで直線的に増加させた後、55分から65分までB液35%で通液した。ESIプローブのスプレー電圧は3.5kV、キャピラリー温度は275℃、Sheath gas、auxiliary gas、およびcollision gasには窒素ガスを用いた。S-Lens RF Levelは90に設定した。取得したMSスペクトルは、FreeStyleソフトウェア(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社)を使用して解析した。
【0030】
(4)O結合型糖鎖AおよびO結合型糖鎖Bの絶対定量
食物アレルギーの発症と関連性が認められたO結合型糖鎖AおよびO結合型糖鎖Bについて、母乳中の絶対量を測定した。O結合型糖鎖AおよびO結合型糖鎖Bの含有量は、O結合型糖鎖AおよびO結合型糖鎖Bを蛍光標識した後に、質量分析計(MS)と蛍光検出器(FL)を接続したHPLCで測定した。別途算出したO結合型糖鎖解析キットの回収率で除することで、母乳中のO結合型糖鎖AおよびO結合型糖鎖Bの含有量を算出した。
【0031】
O結合型糖鎖AおよびO結合型糖鎖Bの測定について、詳細を以下に記す。分析対象とした155検体の母乳から無作為に選択した1検体の母乳10μLを、O結合型糖鎖解析キットEzGlyco O-glycan Prep kit(住友ベークライト)を使用して、2-アミノベンズアミド(AB)標識および精製を行った後、LC/MS分析に供した。HPLCはUltiMate 3000、MSはQ-Exactiveを用いた。カラムはGlycanPac AXH-1を使用し、カラム温度は40℃に設定した。移動相はアセトニトリル(A液)、およびpHを4.4に調製した50mMギ酸アンモニウム水溶液(B液)を使用し、流速は0.4mL/分で通液した。試料導入後、55分までにB液の割合を10%から35%まで直線的に増加させた後、55分から65分までB液35%で通液した。ESIプローブのスプレー電圧は3.5kV、キャピラリー温度は275℃、Sheath gas、auxiliary gas、およびcollision gasには窒素ガスを用いた。S-Lens RF Levelは90に設定した。MS測定は、ポジティブモードでm/z 853.3566、およびm/z 1306.5049の選択イオンモニタリング測定を行った。蛍光測定は、励起波長330nm、および蛍光波長420nmで行った。取得したMSクロマトグラム、および蛍光クロマトグラムはFreeStyleソフトウェアを使用して解析し、O結合型糖鎖AおよびO結合型糖鎖Bの蛍光面積値を得た。濃度既知の蛍光標識O結合型糖鎖標準品(Neu5Acα2,3Galβ1,3GalNAc-AB)を使用して作成した検量線から、O結合型糖鎖AおよびO結合型糖鎖Bを定量した。さらに、別途算出した当該キットの回収率で除することで、母乳中のO結合型糖鎖AおよびO結合型糖鎖Bの含有量を算出した。上記「O結合型糖鎖の測定」により取得済みの155検体の母乳の相対定量値を使用して、155検体のそれぞれの母乳中のO結合型糖鎖AおよびO結合型糖鎖Bの絶対定量値を得た。
【0032】
(5)母乳中の各種糖質成分の含有量と食物アレルギーとの関連性の解析
155検体の母乳について、分泌型母乳(2’-FL>100 mg/L)と非分泌型母乳(2’-FL<100 mg/L)の2群に分け、食物アレルギーとの関係をFisherの正確確率検定により評価した。また、オリゴ糖、N結合型糖鎖、およびO結合型糖鎖の濃度と、乳児の食物アレルギーの発症との関係をロジスティック回帰で分析した。調整因子として、乳児の性別、兄姉の有無、出産方法(自然分娩、帝王切開)、出生体重を用いた。
【0033】
(6)ルイスX糖鎖と腸管バリア機能との関連性の評価
(6-1)細胞および試薬
ヒト大腸杯細胞モデルLS174T細胞(EC87060401-F0)は、株式会社ケー・エー・シーより購入した。培地は、アール塩、NEAA、L-グルタミン含有MEM(21443-15, nacalai)に10% FBS(Gibco)および1% P/S(15140-122, Gibco)を添加したものを使用した。培養は37℃、5% CO条件下で行った。ルイスX(OL06490)はBiosynthより購入した。
【0034】
(6-2)LS174T細胞へのサンプル添加試験
LS174T細胞を1×10 cells/wellとなるように48-well plate(3830-048, AGCテクノグラス株式会社)に播種した。一晩培養したのち、PBSで1回洗浄して、各種サンプルを5または10mg/ml含む培地に培地交換し、48時間培養した。
【0035】
(6-3)RNA抽出、cDNA合成、遺伝子発現量測定
細胞をPBSで1回洗浄し、核酸抽出試薬(Maxwell(R) RSC simplyRNA Tissue,AS1340,Promega)および装置(Maxwell(R) RSC Instrument,Promega)を使用してtotal RNAを抽出した。抽出したtotal RNAをReverTra Ace qPCR RT Master Mix(FSQ-201,Toyobo)を使用して逆転写し、cDNAを得た。得られたcDNAについて、THUNDERBIRD(R) NextSYBR(R) qPCR Mix(QPX-201,Toyobo)とQuantStudio 6 Pro(Therno Fisher Scientific)を使用して、TFF3遺伝子(TFF3)およびハウスキーピング遺伝子である18S rRNA遺伝子(18S rRNA)の発現量を測定した。いずれの遺伝子についても検量線を作成して相対発現量を算出し、18S rRNA発現量で補正した。使用したプライマーは下表に示した。
【0036】
【表1】
【0037】
(6-4)統計解析
データは相加平均+標準偏差で示した。二群比較はStudent’s t-testにて実施した。コントロール群との多重比較はDunnett’s testにて実施した。有意水準はP=0.05とした。
【0038】
(7)3-FLと樹状細胞との関連性の評価
(7-1)細胞および試薬
ヒト単球由来細胞株THP-1は、ATCCより入手した。培地は、RPMI 1640培地(30264-85,Nacalai)に10% FBS(Gibco)、1% P/S(15140-122,Gibco) および0.05mM 2-メルカプトエタノール(133-14571, 富士フィルム和光純薬株式会社)を添加したものを使用した。培養は37℃、5% CO条件下で行った。
Lactose Monohydrate(128-00095)は富士フィルム和光純薬株式会社より購入した。2’-FL(OF137553)及び3-FL(OF05673)はCarbosynthより購入した。Lewis A Trisaccharide (OL04541)及びLewis X Trisaccharide(OL06490)はBiosynthより購入した。Human Recombinant GM-CSF(17365-88)およびHuman Recombinant IL-4(19268-08)はPeproTechより購入した。Cell Staining buffer (420201, Biolegend)、FITC anti-human CD86 Antibody(374203)、PE anti-human HLA-DR Antibody(307605)、FITC Mouse IgG1, κ Isotype Ctrl Antibody(400107)、PE Mouse IgG2a,κ isotype Ctrl Antibody(400211)、Zombie Aqua Fixable Viability Kit(423101)およびHuman TruStain FcXTM (422302)はBiolegendより購入した。
【0039】
(7-2)THP-1由来樹状細胞(HP-1 erived endritic ell, TDDC)へのサンプル添加試験
THP-1細胞を5×10 cells/mlとなるように6-well plate (3810-006, AGCテクノグラス株式会社)に播種し、1500 U/ml GM-CSF、1500 U/ml IL-4を含む培地で6日間培養 (3日目に培地交換) してTDDCに分化させた。6日目にTDDCを回収し、2×10 cells/wellとなるように96-well plate(3860-096, AGCテクノグラス株式会社) に播種し、100 ng/ml LPSおよび10 mg/mlの各種糖鎖 (2’-FL, 3-FL、ルイスA糖鎖、ルイスX糖鎖) を含む培地で3日間培養した。
【0040】
(7-3)表面抗原染色およびFACS解析
回収したTDDCをPBSで洗浄し、生細胞数が1×10cells/tube以上になるようにFACS用チューブに入れた。遠心して上清を除き、Zombie Dye/PBSを添加して室温、暗所で15分間反応させた。15分後、Cell Staining bufferにて洗浄した。遠心して上清を除き、0.1%PFA/PBSを添加して室温、暗所で20分間反応させた。20分後、Cell Staining bufferにて洗浄した。遠心して上清を除き、Human TruStain FcXTM/Cell Staining bufferを添加して4℃、暗所で10分間反応させた。10分後、Cell Staining bufferにて洗浄した。遠心して上清を除き、Cell Staining bufferで希釈した各種細胞表面染色液を添加し、暗所で30分間反応させた。30分後、Cell Staining bufferにて洗浄し、BDFACSCantoTM II flow cytometer(BD Biosciences)で分析した。フローサイトメトリーの分析結果から、HLA-DRおよびCD86のMedian Fluorescence Intensity(MFI)を算出した。
【0041】
(7-4)統計解析
データは相加平均±標準偏差で示した。群間比較はTukey-Kramer’s testにて実施した。有意水準はP=0.05とした。
【0042】
2.結果
(1)分泌型母乳と非分泌型母乳における各種糖質成分の含有量と乳児の食物アレルギー発症との関係
155検体の母乳について、分泌型母乳(2’-FL>100 mg/L)と非分泌型母乳(2’-FL<100 mg/L)の2群に分けたところ、非分泌型母乳を摂取した乳児では食物アレルギーの発症は認められなかった(表2)。また、両者での乳児の食物アレルギーの発症との関係をFisherの正確確率検定に供した結果、p<0.05以下となり、非分泌型母乳を飲んだ乳児の方が、食物アレルギーの発症率が有意に低いことが示された。
【0043】
【表2】
【0044】
上記の結果から、非分泌型母乳を飲んだ乳児では食物アレルギーの発症リスクが低下することが明らかとなった。そこで、非分泌型母乳中のどの成分が食物アレルギーの発症予防に関係するのかを探索した。
分泌型母乳と比較して非分泌型母乳で含量が高かったオリゴ糖(4種類)、N結合型糖鎖(2種類)、およびO結合型糖鎖(5種類)について、母乳中でのそれぞれの濃度と乳児の食物アレルギーの発症との関係をロジスティック回帰で解析した。解析結果の一部を表3に示した。
解析の結果、3-FL(p=0.034)、LNFP-II(p=0.035)、O結合型糖鎖A(p=0.022)と、食物アレルギーとの間に有意な関連性が認められ、O結合型糖鎖B(p=0.089)と食物アレルギーとの間に関連性がある傾向が認められた。これら糖質成分と食物アレルギーの発症との間では回帰係数が負であり、オッズ比は1未満であったことから、3-FL、LNFP-II、O結合型糖鎖A、またはO結合型糖鎖Bの含量が多い母乳を飲んだ乳児では食物アレルギーの発症リスクが低下することが示された。
【0045】
【表3】
【0046】
(2)3-FLについての乳児の食物アレルギー発症予防効果の確認
乳児の食物アレルギーの発症の有無で母乳サンプルを2群に分け、母乳の3-FLの濃度を比較した結果、食物アレルギーの発症が無かった乳児が飲んだ母乳の方が、発症した乳児が飲んだ母乳よりも3-FL濃度が高い傾向を示した(図1)。このことは、乳児用栄養組成物において食物アレルギーの発症リスクを下げるには、食物アレルギーの発症が無かった乳児が飲んだ母乳と同等レベルの3-FLを含有する乳児用栄養組成物が有効であることを示している。食物アレルギーの発症が無かった乳児が飲んだ母乳の3-FL濃度の分布範囲は38~2341mg/Lであり、中央値は557mg/Lであった(表4)。3-FL濃度の分布は、正規分布とは異なり濃度の高い方に裾の広がりを示す分布であった。このような分布は、乳幼児の身長や体重の分布でも認められており、乳幼児の発育曲線を作成する際には、全体の分布の3から97パーセンタイルの間を基準としている(平成12年乳幼児身体発育調査報告書)。これを参考にして、母乳における3-FL濃度の範囲として、3から97パーセンタイルを基準とした。食物アレルギーの発症が無かった乳児が飲んだ母乳の3-FL濃度としては、分布で3パーセンタイルに相当する91.1mg/Lが最低値であった。また、母乳中の3-FL濃度を452mg/L以上の検体と以下の検体の2群に分け、食物アレルギーの発症の有無との関係をFisherの正確確率検定に供した結果、p<0.05以下となり、母乳中の3-FL濃度が452mg/L以上では、食物アレルギーの発症リスクが低くなることが示された。
したがって、食物アレルギーの発症を予防する乳児用栄養組成物としては、調乳後の乳に91.1mg/L以上の3-FLが含まれることが必要であり、好ましくは452 mg/L以上が望まれる。調乳濃度を13%とすると、乳児用栄養組成物の固形100gあたり最低で70.1mg以上の3-FLを配合することが必要であり、好ましくは348mg以上の3-FLを配合することが望まれる。
また、食物アレルギーの発症の機序は、乳児と成人で同じであることから、この乳児用栄養組成物の配合は、食物アレルギーのリスクが高い成人や高齢者にも有効であると考えられる。したがって、上記と同じ3-FL含量を配合した成人向けの栄養組成物としても有効である。
【0047】
【表4】
【0048】
(3)LNFP-IIについての乳児の食物アレルギー発症予防効果の確認
乳児の食物アレルギーの発症の有無で母乳サンプルを2群に分け、母乳のLNFP-II濃度を比較した結果、食物アレルギーの発症が無かった乳児が飲んだ母乳の方が、発症した乳児が飲んだ母乳よりもLNFP-II濃度が高い傾向を示した(図2)。このことは、乳児用栄養組成物において食物アレルギーの発症リスクを下げるには、食物アレルギーの発症が無かった乳児が飲んだ母乳と同等レベルのLNFP-II濃度を含有する乳児用栄養組成物が有効であることを示している。食物アレルギーの発症が無かった乳児が飲んだ母乳におけるLNFP-II濃度の分布の範囲は0~4123mg/Lであり、中央値は388mg/Lであった(表4)。3-FLの分布と同様に、母乳のLNFP-II濃度の分布も正規分布では無く、濃度の高い方に裾が広がる分布であったため、3~97パーセンタイルを母乳のLNFP-IIの濃度範囲とした。食物アレルギーの発症が無かった乳児が飲んだ母乳のLNFP-II濃度は、3パーセンタイル以上に相当する0.88mg/L以上と考えられる。また、母乳中のLNFP-II濃度が315mg/L以上の検体と以下の検体の2群に分け、食物アレルギーの発症の有無との関係をFisherの正確確率検定で評価した結果、p<0.05となり、母乳中のLNFP-II濃度が315mg/L以上では、食物アレルギーの発症リスクが低くなることが示された。
したがって、食物アレルギーの発症を予防する乳児用栄養組成物としては、調乳後の乳に0.88mg/L以上のLNFP-IIが含まれることが必要であり、好ましくは315mg/L以上が望まれる。調乳濃度を13%とすると、乳児用栄養組成物の固形100gあたり最低で0.68mg以上のLNFP-IIを配合することが必要であり、好ましくは243mg以上のLNFP-IIを配合することが望まれる。食物アレルギーの発症の機序は、乳児と成人で同じであることから、この乳児用栄養組成物の配合は、食物アレルギーのリスクが高い成人や高齢者にも有効であると考えられる。したがって、上記と同じLNFP-II含量を配合した成人向けの栄養組成物としても有効である。
【0049】
(4)O結合型糖鎖Aについての乳児の食物アレルギー発症予防効果の確認
乳児の食物アレルギーの発症の有無で母乳サンプルを2群に分け、母乳のO結合型糖鎖Aの濃度を比較した結果、食物アレルギーの発症が無かった乳児が飲んだ母乳の方が、発症した乳児が飲んだ母乳よりもO結合型糖鎖A量が有意に高いレベルであった(図3)。このことは、乳児用栄養組成物において食物アレルギーの発症リスクを下げるには、食物アレルギーの発症が無かった乳児が飲んだ母乳と同等レベルのO結合型糖鎖Aの濃度を含有する乳児用栄養組成物が有効であることを示している。食物アレルギーの発症が無かった乳児が飲んだ母乳におけるO結合型糖鎖A濃度の分布の範囲は0.33~321mg/Lであり、中央値は15.2mg/Lであった(表4)。3-FLの分布と同様に、母乳のO結合型糖鎖Aの濃度分布も正規分布では無く、濃度の高い方に裾が広がる分布であったため、3~97パーセンタイルを母乳のO結合型糖鎖Aの濃度範囲とした。食物アレルギーの発症が無かった乳児が飲んだ母乳のO結合型糖鎖A濃度は、3パーセンタイル以上に相当する4.0mg/L以上と考えられる。また、母乳中のO結合型糖鎖A濃度が10.4mg/L以上の検体と以下の検体の2群に分け、食物アレルギーの発症の有無との関係をFisherの正確確率検定で評価した結果、p<0.05となり、母乳中のO結合型糖鎖Aの濃度が10.4mg/L以上では、食物アレルギーの発症リスクが低くなることが示された。
したがって、食物アレルギーの発症を予防する乳児用栄養組成物としては、調乳後の乳に4.0mg/L以上のO結合型糖鎖Aが含まれることが必要であり、好ましくは10.4mg/L以上が望まれる。調乳濃度を13%とすると、乳児用栄養組成物の固形100gあたり最低で3.1mg以上のO結合型糖鎖Aを配合することが必要であり、好ましくは8.0mg以上のO結合型糖鎖Aを配合することが望まれる。食物アレルギーの発症の機序は、乳児と成人で同じであることから、この乳児用栄養組成物の配合は、食物アレルギーのリスクが高い成人や高齢者にも有効であると考えられる。したがって、上記と同じO結合型糖鎖A含量を配合した成人向けの栄養組成物としても有効である。
【0050】
(5)O結合型糖鎖Bについての乳児の食物アレルギー発症予防効果の確認
乳児の食物アレルギーの発症の有無で母乳サンプルを2群に分け、母乳のO結合型糖鎖Bの濃度を比較した結果、食物アレルギーの発症が無かった乳児が飲んだ母乳の方が、発症した乳児が飲んだ母乳よりもO結合型糖鎖B量が有意に高いレベルであった(図4)。このことは、乳児用栄養組成物において食物アレルギーの発症リスクを下げるには、食物アレルギーの発症が無かった乳児が飲んだ母乳と同等レベルのO結合型糖鎖Bの濃度を含有する乳児用栄養組成物が有効であることを示している。食物アレルギーの発症が無かった乳児が飲んだ母乳におけるO結合型糖鎖B濃度の分布の範囲は0.07~22.1mg/Lであり、中央値は1.26mg/Lであった(表4)。3-FLの分布と同様に、母乳のO結合型糖鎖B濃度の分布も正規分布では無く、濃度の高い方に裾が広がる分布であったため、3~97パーセンタイルを母乳のO結合型糖鎖Bの濃度範囲とした。食物アレルギーの発症が無かった乳児が飲んだ母乳のO結合型糖鎖B濃度は、3パーセンタイル以上に相当する0.18mg/L以上と考えられる。また、母乳中のジO結合型糖鎖Bの濃度が0.33mg/L以上の検体と以下の検体の2群に分け、食物アレルギーの発症の有無との関係をFisherの正確確率検定で評価した結果、p<0.05以下となり、母乳中のO結合型糖鎖Bの濃度が0.33mg/L以上では、食物アレルギーの発症リスクが低くなることが示された。
したがって、食物アレルギーの発症を予防する乳児用栄養組成物としては、調乳後の乳に0.18mg/L以上のO結合型糖鎖Bが含まれることが必要であり、好ましくは0.33mg/L以上が望まれる。調乳濃度を13%とすると、乳児用栄養組成物の固形100gあたり最低で0.14mg以上のO結合型糖鎖Bを配合することが必要であり、好ましくは0.25mg以上のO結合型糖鎖Bを配合することが望まれる。食物アレルギーの発症の機序は、乳児と成人で同じであることから、この乳児用栄養組成物の配合は、食物アレルギーのリスクが高い成人や高齢者にも有効であると考えられる。したがって、上記と同じO結合型糖鎖B含量を配合した成人向けの栄養組成物としても有効である。
【0051】
(6)O結合型糖鎖AおよびO結合型糖鎖Bの構造の決定
乳児の食物アレルギーの発症との関係性が認められた母乳中のO結合型糖鎖AおよびO結合型糖鎖Bの構造を調べるため、LC/MS測定、およびLC/MS/MS測定を実施した結果、O結合型糖鎖AはNeu5Ac-Galβ1-3[Gal-(Fuc-)GlcNAcβ1-6]GalNAc、O結合型糖鎖BはGal-(Fuc-)GlcNAcβ1-3GalNAcと推定された。O結合型糖鎖AおよびO結合型糖鎖Bにおけるフコースの結合様式を決定するため、α1,2結合を特異的に分解するフコシダーゼ、α1,3およびα1,4結合を特異的に分解するフコシダーゼ、またはα1,2、α1,4およびα1,6結合を特異的に分解するフコシダーゼ、のいずれかで処理した後にLC/MS測定を行ったところ、α1,3およびα1,4結合を特異的に分解するフコシダーゼを使用したときのみ、O結合型糖鎖AおよびO結合型糖鎖Bの分解が認められたことから、O結合型糖鎖AおよびO結合型糖鎖Bのフコースはα1,3結合であることが明らかとなった。同様に、α1,3およびα1,4結合を特異的に分解するフコシダーゼと同時に、β1,4結合を特異的に分解するガラクトシダーゼを作用させた場合に糖鎖の分解が認められたことから、O結合型糖鎖AおよびO結合型糖鎖BのGlcNAcに結合したガラクトースはβ1,4結合であることが明らかとなった。さらに、O結合型糖鎖Aはα2,3結合を特異的に分解するシアリダーゼにより分解されたことから、O結合型糖鎖AのN-アセチルノイラミン酸はα2,3結合であることが明らかとなった。以上よりO結合型糖鎖AおよびO結合型糖鎖Bは、下記の構造で表されるO結合型糖鎖であることが示された。
【0052】
<O結合型糖鎖A>
Neu5Acα2-3Galβ1-3[Galβ1-4(Fucα1-3)GlcNAcβ1-6]GalNAc
<O結合型糖鎖B>
Galβ1-4(Fucα1-3)GlcNAcβ1-3GalNAc
【0053】
O結合型糖鎖AおよびO結合型糖鎖Bは、共通してルイスX構造(Galβ1-4(Fucα1-3)GlcNAc)を有していたことから、ルイスX糖鎖が食物アレルギーの予防効果を示すと考えられる。
【0054】
(7)ルイスX糖鎖についての乳児の食物アレルギー予防効果の確認
O結合型糖鎖AとO結合型糖鎖Bは、両者ともに、非還元末端に、共通してルイスX構造を有する糖鎖であったことから、ルイスX糖鎖が食物アレルギーの予防効果を示すと考えられた。そこで、O結合型糖鎖AとO結合型糖鎖Bの母乳中の物質量(モル濃度)の合算値であるルイスX糖鎖の母乳中での物質量(モル濃度)と食物アレルギーの発症歴との関連性をロジスティック回帰で解析した。その結果、p=0.016であり、ルイスX糖鎖の母乳中での物質量(モル濃度)と食物アレルギーの発症歴との間には、統計的に有意な関連性があることが判明した(表5)。これらの関連性は、回帰係数がマイナス値であり、オッズ比が1未満であることから、母乳中のルイスX糖鎖の物質量(モル濃度)が高い母乳を飲んだ乳児では、食物アレルギーの発症リスクが低下することが示された。
【0055】
【表5】
【0056】
乳児の食物アレルギーの発症歴の有無で母乳サンプルを2群に分け、母乳のルイスX糖鎖の物質量(モル濃度)を比較した結果、食物アレルギーの発症歴の罹患が無かった乳児が飲んだ母乳の方が、発症した乳児が飲んだ母乳よりもルイスX糖鎖の物質量(モル濃度)が有意に高いレベルであった(図5)。このことは、乳児用栄養組成物において食物アレルギーの発症リスクを下げるには、食物アレルギーの発症が無かった乳児が飲んだ母乳と同等レベルのルイスX糖鎖を含有する乳児用栄養組成物が有効であることを示している。食物アレルギーの発症が無かった乳児が飲んだ母乳におけるルイスX糖鎖の物質量の分布の範囲は0.66~301.4μmol/Lであり、中央値は16.9μmol/Lであった(表6)。3-FLの分布と同様に、母乳のルイスX糖鎖の分布も正規分布では無く、濃度の高い方に裾が広がる分布であったため、3~97パーセンタイルを母乳のルイスX糖鎖の濃度範囲とした。食物アレルギーの発症が無かった乳児が飲んだ母乳のルイスX糖鎖は、3パーセンタイル以上に相当する4.3μmol/L以上と考えられる。また、母乳中のルイスX糖鎖が10.1μmol/L以上の検体と以下の検体の2群に分け、食物アレルギーの罹患の有無との関係をFisherの正確確率検定で評価した結果、p<0.05となり、母乳中のルイスX糖鎖が10.1μmol/L以上では、食物アレルギーの発症リスクが低くなることが示された。
【0057】
【表6】
【0058】
したがって、食物アレルギーの発症を予防する乳児用栄養組成物としては、調乳後の乳に4.3μmol/L以上のルイスX糖鎖が含まれることが必要であり、好ましくは10.1μmol/L以上が望まれる。調乳濃度を13%とすると、乳児用栄養組成物の固形100gあたり最低で3.3μmol以上のルイスX糖鎖を配合することが必要であり、好ましくは7.8μmol以上のルイスX糖鎖を配合することが望まれる。食物アレルギーの発症の機序は、乳児と成人で同じであることから、この乳児用栄養組成物の配合は、食物アレルギーの発症リスクが高い成人や高齢者にも有効であると考えられる。したがって、上記と同じルイスX糖鎖を配合した成人向けの栄養組成物としても有効である。
【0059】
(8)ルイスX構造を有する糖鎖が腸管バリア機能に及ぼす影響の評価
上記結果を踏まえ、ルイスX糖鎖が食物アレルギーに関連する機能に影響するか否かを検証した。食物アレルギーの発症・進展には、腸管バリアの破綻によるアレルゲンの流入が関与している。そこで、ルイスX糖鎖が、腸管バリア関連遺伝子の発現に及ぼす影響を評価した。
【0060】
ヒト大腸杯細胞のモデルであるLS174T細胞に、10mg/mlのルイスX糖鎖(Trisaccharideの形態で投与)を添加して48時間培養し、TFF3(バリア機能を強化するタンパク質)の発現量を評価した。その結果、ルイスX糖鎖の添加でTFF3発現の有意な増加が認められた(図6)。すなわち、ルイスX糖鎖はTFF3発現増強作用を持つことが示された。
【0061】
TFF3は、ムチンの結合強化、粘膜修復、炎症抑制や抗菌ペプチド産生誘導等の様々な作用を介して総合的に腸管バリア機能強化に寄与することが知られている。したがって、ルイスX糖鎖は、TFF3発現増強作用を介して腸管バリアを強化し、食物アレルギーに対して予防効果を持つことが示唆された。
【0062】
(9)3-FL、ルイスA糖鎖、ルイスX糖鎖が樹状細胞に及ぼす影響の評価
食物アレルギーの発症・進展には、腸管バリア機能だけでなく、免疫細胞の一つである樹状細胞の応答性が関わることが知られている。そこで、各種糖鎖が、樹状細胞の活性化に及ぼす影響を評価した。なお、LNFP-IIはルイスA構造を持つ糖鎖(ルイスA糖鎖ともいう)であるため、LNFP-IIの代替としてルイスA糖鎖を評価した。
【0063】
THP-1由来樹状細胞(TDDC)をLPS含有培地にて3日間培養することで、樹状細胞を活性化させた。LPSの刺激によって、樹状細胞の活性化マーカーであるHLA-DRおよびCD86の発現が増加したことから、樹状細胞が活性化していることが示された(図7、8)。LPSに加えて、各種糖鎖(ラクトース、2’-FL、3-FL、ルイスA糖鎖(Trisaccharideの形態で投与)、ルイスX糖鎖(Trisaccharideの形態で投与))を添加して培養すると、ラクトースはHLA-DRおよびCD86のいずれの発現にも影響しなかった(図7、8)。2’-FLとルイスA糖鎖は、HLA-DRの発現には影響しなかったが(図7)、LPSによるCD86の発現増加を有意に抑制した(図8)。3-FLとルイスXは、HLA-DRとCD86のいずれの発現も強く抑制することが示された(図7)。したがって、2’-FL、3-FL、ルイスA糖鎖及びルイスX糖鎖は、いずれも樹状細胞活性化抑制効果を持つことが示された。HLA-DRは、獲得免疫におけるT細胞への抗原提示を行うMHCクラスII分子であり、HLA-DR発現の低下は、樹状細胞の抗原提示能低下を意味し、自己免疫疾患やアレルギーに対して抑制的に作用する。またCD86は、抗原提示に必要な補助シグナルを伝える共刺激分子の一つであり、CD86遺伝子をノックダウンしたマウスではアレルギー症状が緩和されることが報告されている。したがって、3-FL、LNFP-II等などのルイスA糖鎖及びルイスX糖鎖は、樹状細胞の活性化を抑制することで、食物アレルギーに対して予防効果を持つことが示唆された。
【0064】
〔実施例1〕3-FL配合調製粉乳の調製
ホエイ粉52.7kg、脱脂乳239kg、および3-FL 348gを水500kgに溶解し、この溶液に植物油23.9kgを混合し、均質化した。得られた溶液を殺菌し、定法により濃縮、乾燥して粉乳99kgを得た。粉乳とビタミンとミネラル成分1kgを粉混合し、最終的に粉乳100kgを得た。得られた粉乳の3-FL量は、348mg/100g固形であった。
【0065】
〔実施例2〕LNFP-II配合調製粉乳の調製
ホエイ粉52.7kg、脱脂乳239kg、およびLNFP-II 242gを水500kgに溶解し、この溶液に植物油23.9kgを混合し、均質化した。得られた溶液を殺菌し、定法により濃縮、乾燥して粉乳99kgを得た。粉乳とビタミンとミネラル成分1kgを粉混合し、最終的に粉乳100kgを得た。得られた粉乳のLNFP-II量は、242mg/100g固形であった。
【0066】
〔実施例6〕ムチン配合粉乳の調製
ホエイ粉52.7kg、脱脂乳239kg、およびO結合型糖鎖A含有素材としてブタ胃由来ムチン素材32gを水500kgに溶解し、この溶液に植物油23.9kgを混合し、均質化した。得られた溶液を殺菌し、定法により濃縮、乾燥して粉乳99kgを得た。粉乳とビタミンとミネラル成分1kgを混合し、最終的に調製粉乳100kgを得た。得られた粉乳のO結合型糖鎖A量は8.0mg/100g固形であった。
【0067】
〔実施例4〕糖ペプチド配合粉乳の調製
ホエイ粉52.7kg、脱脂乳239kg、およびO結合型糖鎖B粉末250mgを水500kgに溶解し、この溶液に植物油23.9kgを混合し、均質化した。得られた溶液を殺菌し、定法により濃縮、乾燥して粉乳99kgを得た。粉乳とビタミンとミネラル成分1kgを混合し、最終的に調製粉乳100kgを得た。得られた粉乳のO結合型糖鎖B量は0.25mg/100g固形であった。
【0068】
〔実施例5〕サプリメントの製造
3-FL粉末1gに、ビタミンCとクエン酸の等量混合物40g、グラニュー糖100g、コーンスターチと乳糖の等量混合物60gを加えて混合した。混合物をスティック状袋に詰め、本発明の食物アレルギーの予防用サプリメントを製造した。
【0069】
〔実施例6〕飲料の製造
下表に示した配合により原料を混合し、容器に充填した後、加熱殺菌して、本発明の食物アレルギーの予防用飲料を製造した。
【0070】
【表7】
【0071】
〔実施例7〕飲料の製造
下表に示した配合により原料を混合し、容器に充填した後、加熱殺菌して、本発明の食物アレルギーの予防用飲料を製造した。
【0072】
【表8】
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明によれば、3-FL、LNFP-II、またはルイスX構造を有する糖鎖を有効成分とする栄養組成物により、食物アレルギーの発症を予防することができる。また、当該成分は、乳児だけでなく食物アレルギーのリスクが高い成人にも有効な成分となることから、成人の食物アレルギーの発症をも予防することが可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【配列表】
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