(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025026830
(43)【公開日】2025-02-26
(54)【発明の名称】飛翔虫捕獲糸、飛翔虫捕獲ネット、翔虫捕獲糸と飛翔虫捕獲ネットを使用した飛翔虫捕獲器とこれらの設置方法
(51)【国際特許分類】
A01M 1/14 20060101AFI20250218BHJP
【FI】
A01M1/14 S
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024130191
(22)【出願日】2024-08-06
(31)【優先権主張番号】P 2023131738
(32)【優先日】2023-08-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】523308753
【氏名又は名称】大場 靖典
(74)【代理人】
【識別番号】100195970
【弁理士】
【氏名又は名称】本夛 伸介
(74)【代理人】
【識別番号】100204847
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 佳代子
(72)【発明者】
【氏名】大場 靖典
【テーマコード(参考)】
2B121
【Fターム(参考)】
2B121AA12
2B121BA02
2B121BB03
2B121EA13
2B121FA01
2B121FA20
(57)【要約】
【課題】本発明は、飛翔害虫を捕獲する糸、及び当該糸から構成されるネット、及びその設置方法、飛翔虫捕獲糸と飛翔虫捕獲ネットを使用した飛翔虫捕獲器提供することを目的とする。
【解決手段】
粘着剤を塗布又は含浸した、線径が1.5mmから3mmの糸、及び当該糸を用いて構成されるネットであって、飛翔害虫を捕獲するために設置する。複数の糸を設置する場合には、それぞれの糸の間において少なくともその一部に3cmから5cmの空白となる距離を設け、ネットを構成する場合においても、ネットの網目を構成する糸の間において少なくともその一部に5cmから15cmの空白となる距離を設けるものである。
当該技術の活用により、畜産業の営みにおいて有害な飛翔害虫捕獲が効率的に図られ、牛や豚などの肉質の改善と安定な食肉加工の生産に資することが可能となる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
飛翔する虫を粘着によって捕獲するための糸であって、
該糸は、その線径が1.5mmから3mmの範囲からなり、粘着剤を塗布又は含浸してなること、を特徴とする飛翔虫捕獲糸。
【請求項2】
前記飛翔虫捕獲糸を複数本組み合わせて形成されるネットであって、
該ネットを構成する各飛翔虫捕獲糸は、その隣り合う、又は交差する飛翔虫捕獲糸との距離が少なくともその一部において5cmから15cm離れること、を特徴とする飛翔虫捕獲ネット。
【請求項3】
前記飛翔虫捕獲糸、若しくは前記飛翔虫捕獲ネットを張った可動式の飛翔虫捕獲器であって、該飛翔虫捕獲糸、又は該飛翔虫捕獲ネットを張る枠部を少なくとも1つ備え、該枠部を支える支持部と、当該支持部を受け飛翔虫捕獲器全体を支える土台部と、を備えることを特徴とする飛翔虫捕獲器。
【請求項4】
前記飛翔虫捕獲糸、前記飛翔虫捕獲ネット、前記飛翔虫捕獲器に捕獲される飛翔する虫は、主としてサシバエ、アブ、ブユ、蚊及びその他ハエ類であること、を特徴とする請求項1に記載の飛翔虫捕獲糸、又は請求項2に記載の飛翔虫捕獲ネット、若しくは請求項3に記載の飛翔虫捕獲器。
【請求項5】
請求項1に記載の飛翔虫捕獲糸、若しくは請求項2に記載の飛翔虫捕獲ネットを設置する方法であって、該飛翔虫捕獲糸、又は該飛翔虫捕獲ネットを、捕獲対象となる飛翔虫の飛行方向に対して略Z字型に設置すること、を特徴とする飛翔虫捕獲糸又は飛翔虫捕獲ネットの設置方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飛翔害虫を捕獲する捕獲具に係るものであり、より具体的には、飛翔害虫を捕獲する糸、及び当該糸から構成されるネット、及びその設置方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
農家や畜産農家においては、飛翔害虫(ハエ、蚊、蛾、ウンカ、カメムシ、アブラムシ等)による農作物、家畜への被害を防ぐべく、様々な対策が取られている。飛翔害虫への主な対策としては、薬剤の散布による防除、防虫ネットによる侵入の阻止、粘着シートによる捕獲が行われている。
例えば、特許文献1、及び特許文献2には、ネットに粘着剤を処理した飛翔虫の捕獲ネットが開示されている。
特許文献1に記載の飛翔害虫粘着捕獲シ-トは、片面または両面に粘着剤を塗布した網シ-トを引っ張って網目の拡張により粘着剤塗布膜を孔開き状態としたことを特徴とし、前記網目の大きさは交差点(糸の融着点)の間隔で表わして5mm~30mm程度とすることが好ましいものである。そして、網シ-トの網目を拡張させて網目の粘着剤膜を破って糸曳き状態で開口させることができるものであり、当該糸曳き状態を蜘蛛の網のようにして、網目を通過しようとする飛翔害虫を効率よく捕獲できるようにするものである。
しかしながら、当該特許文献1に記載の飛翔害虫粘着捕獲シ-トは、そもそも栽培ハウス内での飛翔害虫の発生状況を察知すること目的としており、その大きさも小サイズとするものであって、本願発明におけるような広範囲な飛翔害虫の侵入経路等に捕獲シートを配置して捕虫することの記載もその示唆もない。
また、特許文献1に記載の飛翔害虫粘着捕獲シ-トは、飛翔害虫粘着捕獲シ-トの網目を飛翔害虫が通過できずに粘着部に捕獲されるものであり、仮に特許文献1に記載の捕獲シートを本願発明と同様に設置した場合には、その網目は5mmから30mmと小さいことからホコリによる目詰まりが起こりやすく、通気性が悪化し易いものである。飛翔害虫粘着捕獲シ-トの通気性の低下によって、ハウスや畜舎内部の換気が悪くなることとなり、農作物や家畜へストレスをかけることになる。
【0003】
特許文献2に記載の粘着捕獲具は、粘着剤を処理したネットにより飛翔性害虫を捕獲するものであり、ポリエチレン製で網目が5mm、縦50cm、横50cmのネットを粘着剤に浸漬した粘着捕獲具、切り込みを施したコート紙に、11mmの切り込みを、縦方向の間隔は3mm、横方向の間隔は2mmでそれぞれ施し、粘着剤を処理した粘着捕獲具が記載されている。前記粘着捕獲具は、害虫発生源を覆うことで飛翔性の害虫類を発生直後に、また被覆場所との隙間が生じていても害虫がそれを見つける前に付着させることができるような捕獲性能を付与したものである。
当該特許文献2記載の技術の本質は、飛翔害虫の発生源を覆うものであるが、飛翔害虫の発生源はハウス内にとどまらず、ハウス外にも存在し、しかも前記発生源は複数個所にも及ぶことが通常である一方、飛翔害虫の種類によっては、被害の対象となるハウスから数キロメートル離れた場所を発生源とすることもあることから、広範囲に多数存在するすべての発生源のそれぞれすべてを覆うことは不可能である。
そして、ハウス外の発生源にて発生した飛翔害虫は成虫となりハウスに侵入することから、上記特許文献2による技術では、飛翔害虫による被害を効率的になくすことはできない。
【0004】
ここで、畜産農家においては、飛翔害虫の中でも特に、サシバエへの対策が課題となっている。サシバエは小形のハエで、口は針状となっており、牛馬豚等に集まり吸血する。サシバエの成虫は3mmから8mm程度の大きさである。
サシバエは、その吸血性からハエと違い家畜に対して大きなストレスを与える。サシバエに刺された家畜は、刺された痛みと痒み等から異常に神経質となり、飼料の摂取量が落ち、朝から夕方まで立ったままの状態で過ごす。さらには、畜舎内で騒動する家畜もみられ、事故につながりかねない状況となることも懸念され、飼養効率からも無視することのできない飛翔害虫である。
この点、特許文献1乃至特許文献2は、いずれも、前記家畜に対して深刻な被害を与えるサシバエ対策に着目して考案された技術を提供するものではなく、寧ろ、野菜等のハウス栽培や栽培作業者に有害な飛翔虫を予防する対策に重点が置かれているものであり、サシバエ対策としての技術の提供が待たれていた。
【0005】
一方、特許文献3には、特許文献1及び特許文献2に係る捕獲ネットとは異なり、粘着シートを用いて飛翔性害虫の捕獲をするシンプルな捕獲技術が開示されている。また、当該特許文献3においては、飛翔害虫の捕獲若しくはその装置等の提供という点では、特許文献1及び特許文献2の技術課題とも共通するが、これらの課題とは異なる点を含み、飛翔性害虫の中でも、特に刺咬性を有していたり、牛等から吸血を行うサシバエ(Stomoxys calcitrans、stable fly)等の畜産業へ及ぼす深刻な課題解決策を含めた技術思想が開示されている。
しかしながら、特許文献3によれば、作業環境に優れ、雨等によっても捕獲性能が低下し難く、低コストであり、かつ交換や廃棄が容易な飛翔昆虫捕獲装置を提供することを目的とするが、従来の粘着シートの安定捕獲に留まること、及びサシバエの移動習性や特異性(後述する出願人の研究成果等)を十分考慮した捕獲装置とはなっておらず、サシバエの捕獲選択性や捕獲効率の点で不十分である。
サシバエの対策としては、非特許文献1に記載の通り、発生場所の清掃、薬剤散布、防虫ネットの設置、休息場所の排除などが行われることは公知である。
しかし、これらの対策も種々の点で十分ではない。
例えば、薬剤の場合には、水和剤や煙霧剤はハエや蚊には一定の効果が見られるが、サシバエは一時的に退避し、すぐに戻ってくる。脱皮阻害剤は、畜舎外部への散布は広範囲となり散布量が課題であり、土壌汚染の問題ともなる。休憩場所の排除に関しても、畜舎の周りの環境によっては草むらの排除等が難しい場合も多いことから、自ずと限界がある。
特に、防虫ネットにおいては、ネットの目合(網目)は2mm以下が好ましいとしており、当該目合では畜舎内の風通しが悪くなり、サシバエの発生時期である5月から晩秋にかけて、畜舎内の温度の上昇が懸念される。先に述べた通り、畜舎内の温度の上昇は家畜への過度なストレスとなる。
また、非特許文献1によれば、防虫ネットを設置した畜舎と、防虫ネットを設置しない畜舎との畜舎内の温度に差はないとの記載があるが、これは当該畜舎が暑熱対策を行っている畜舎であるためであって、暑熱対策を行っていない畜舎ではこの限りではない。
また、ネットの目合が好適には2mm以下とのことであるが、予防上はともかく、ネットに付着した埃がネットの目を詰まらせることから、定期的に埃を落とす必要があり、妥当性を欠いている。
この他、防虫ネットを設置する場合、サシバエは「入りにくく、出にくい」環境に置かれることになるが、これはつまり、一度防虫ネット内に入ったサシバエは外に出られず防虫ネット内に生存することになる。そして、防虫ネット内のサシバエが防虫ネット内側にとまっているのを発見し、これに向けて殺虫剤を噴射しても、サシバエの致死量を噴射する間にサシバエはネットから飛びたって逃げてしまい、殺虫に及ばない。加えて、畜舎内全体に殺虫剤を噴射すれば、畜舎内は防虫ネットによる通気性の低下によって密閉状態に近いことから、サシバエの致死量を噴射することは畜舎内の家畜への影響が懸念される。このように、一度防虫ネット内に入ったサシバエは外に出られず、殺虫することも難しいため、畜舎内で生存し、繁殖することに繋がってしまう。
そこで本願発明者は、以上の従来技術に鑑みて、サシバエの移動習性や特異性を捉え、抜本的な対策を講じることを試みた。
【0006】
(サシバエの習性を発見)
サシバエの休息場所は、畜舎周辺の草地である。その休息場所をよく観ると、サシバエは、線状の草や凹凸のある樹木に多く休んでいるのが分かった。これは、サシバエが持って生まれた習性である。
その裏付けは、サシバエが家畜から吸血をする際の動向からみえてくる。サシバエは、目標物に針を刺す際、自身が刺す力の反発力に抗うため自身を目的物に固定する必要がある。また、吸血の過程で自重が増すことから、自身が目的物から振り落とされないようにしなければならない。このようなことから、サシバエは、目標物をしっかり掴む(抱き着く)ことが必要となる。
上記のサシバエが線状及び凹凸の草木等に多く休むことは、サシバエが生きていくための習性であることが分かった。この習性の発見は、本願発明の基本構成に繋がった。
【0007】
(不規則な特殊行動を発見)
サシバエは、一般的に南面を中心に、南東や南西面の陽の射す場所からの侵入が多い。侵入する高さは、地面から1mまでがほとんどで、畜舎の端から端まで対象となる。
サシバエは、畜舎内に侵入する前に畜舎周囲で不規則な行動をすることが分かった。断定はできないが、偵察行動か交尾行動と思われる。
そして、サシバエは、畜舎周囲を中心に内外に2mの範囲内でジグザグ飛行を繰り返すことが分かった。この行動の発見は、本願発明の設置場所のヒントに繋がった。
【0008】
(サシバエが安心して通過できる本願記載の発明)
上記の習性から、サシバエは凹凸の無い面的物体には好んで止まらない。それは、外部から畜舎に侵入する際に、畜舎の外壁等にはほとんど止まらないことからも推察される。サシバエにとって面的物体は、進入路を妨げる障害物であり、それを避けて空間から侵入することは必然と思われる。なお、面的物体とは、例えば壁であり、サシバエの体長よりも大きい面積を有する面のようなものを言う。
このことから、発明者は、サシバエの侵入する空間(地面から1m、畜舎周囲を中心に内外に2mの範囲内)に、サシバエが通過できかつ休むことができる場所(線状であってサシバエが抱き着ける場所)を造ることを着想し、本願発明を成し遂げたものである。本願発明をサシバエが侵入する空間に設置したところ、サシバエの捕獲数において多大な成果に繋がった。
【0009】
この他、本願発明は、サシバエが侵入するであろう箇所すべてに張ることができるため、さらなるサシバエの捕獲数の向上に繋がるものである。
上述の非特許文献1に記載の防虫ネットは目合いが好適には2mm以下であり、この他にも、サシバエの侵入を防ぐネットとして、目合いが2mm×4mmや6mm×6mmの防虫ネットが販売されている。
しかしながら、いずれのネットにおいても風を通過させるには目合が細かく、設置した防虫ネットは風の影響を受けやすい。そのため、サシバエが畜舎へ侵入する箇所が広範である場合、すべての侵入箇所に防虫ネットを設置すると畜舎内の風通りが悪くなり、気温も上昇することから、家畜へのストレス付加となる。
この点、本願発明は、糸や網目の間隔が少なくとも5cmから15cmのネットの形状であることから、畜舎内の風通りを損なうことがなく、風の影響を受けることがないため、サシバエが侵入するすべての箇所に設置できるものである。
よって、より広範な範囲に本願発明を設置することで、より多くの数のサシバエの捕獲に繋がるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平11-289949号公報
【特許文献2】特開平6-62714公報
【特許文献3】WO2014/115246
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】兵庫「The Fly Project」チーム 作成責任者 兵庫県立農林水産技術総合センター 企画調整・経営支援部 専門技術員 永井 秀樹「牛舎のサシバエ対策」 平成22年3月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、飛翔害虫を捕獲する糸、及び当該糸から構成されるネット、及びその設置方法、飛翔虫捕獲糸と飛翔虫捕獲ネットを使用した飛翔虫捕獲器提供することを目的とし、特に、サシバエの捕獲性能に優れた前記の技術を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上記課題解決のため、サシバエの習性と行動特異性に関し観察を続け、捕獲した飛翔虫につき、その種類と数を解析した結果、効率的かつ選択性に優れた飛翔虫捕獲糸、ネット、ネットの設置方法および特殊な捕獲器に係る本発明を着想するに至り、完成するに至ったものである。
すなわち、本発明によれば、次の(1)乃至(5)の構成によって、所望の目的が達成されるものである。
(1)請求項1に記載の発明によれば、飛翔する虫を粘着によって捕獲するための糸であって、該糸は、その線径が1.5mmから3mmの範囲からなり、粘着剤を塗布又は含浸してなることを特徴とする飛翔虫捕獲糸が提供される。
(2)請求項2に記載の発明によれば、前記飛翔虫捕獲糸を複数本組み合わせて形成されるネットであって、該ネットを構成する各飛翔虫捕獲糸は、その隣り合う、又は交差する飛翔虫捕獲糸との距離が少なくともその一部において5cmから15cm離れることを特徴とする飛翔虫捕獲ネットが提供される。
(3)請求項3に記載の発明によれば、前記飛翔虫捕獲糸、若しくは前記飛翔虫捕獲ネットを張った可動式の飛翔虫捕獲器であって、該飛翔虫捕獲糸、又は該飛翔虫捕獲ネットを張る枠部を少なくとも1つ備え、該枠部を支える支持部と、当該支持部を受け飛翔虫捕獲器全体を支える土台部と、を備えることを特徴とする飛翔虫捕獲器が提供される。
(4)請求項4に記載の発明によれば、前記飛翔虫捕獲糸、前記飛翔虫捕獲ネット、前記飛翔虫捕獲器に捕獲される飛翔する虫は、主としてサシバエ、アブ、ブユ、蚊及びその他ハエ類であること、を特徴とする請求項1に記載の飛翔虫捕獲糸、又は請求項2に記載の飛翔虫捕獲ネット、若しくは請求項3に記載の飛翔虫捕獲器が提供される。
(5)請求項5に記載の発明によれば、請求項1に記載の飛翔虫捕獲糸、若しくは請求項2に記載の飛翔虫捕獲ネットを設置する方法であって、該飛翔虫捕獲糸、又は該飛翔虫捕獲ネットを、捕獲対象となる飛翔虫の飛行方向に対して略Z字型に設置することを特徴とする飛翔虫捕獲糸又は飛翔虫捕獲ネットの設置方法が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、上記のとおり、飛翔虫捕獲糸、ネット、ネットの設置方法および特殊な捕獲器を提供することによって、畜産業の営みにおいて有害な飛翔害虫、特にサシバエを中心に効率的な有害虫の捕獲をすることができ、結果、牛、馬や豚などの肉質の改善と安定な食肉加工の生産に資するものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本実施形態における飛翔虫捕獲糸1の設置の例を表す図である。
【
図2】本実施形態における飛翔虫捕獲ネット2の構成の一例を表した図である。
【
図3】本実施形態における飛翔虫捕獲ネット2を略波型に配置するための構造の一例を示す図である。
【
図4】本実施形態における捕虫部材3の構成の一例を表したものである。
【
図5】本実施形態における支柱枠の構成の一例を表したものである。
【
図6】本実施形態における飛翔虫捕獲器4の構成の一例(据置型)を表したものである。
【
図7】本実施形態における設置後に回収した飛翔虫捕獲ネット2を表したものである。
【
図8】本実施形態における設置後に回収した飛翔虫捕獲ネット2の一部を拡大したものである。
【
図9】設置後に回収した粘着シートを表したものである。
【
図10】設置後に回収した粘着シートの表したものである。
【
図11】本実施形態における飛翔虫捕獲器4の構成の一例(据置型の制作例)を表したものである。
【
図12】本実施形態における飛翔虫捕獲器4の構成の変形例(移動型;伸縮腕木式移動捕獲器)を表したものである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の飛翔虫捕獲糸、及び飛翔虫捕獲ネットにおける好適な実施の形態について、
図1から
図6及び
図12を参照して詳細に説明するが、本願発明の目的と効果が損なわれない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
(1)実施形態の概要
粘着剤を塗布又は含浸した、線径が1.5mmから3mmの糸、及び当該糸を用いて構成されるネットであって、飛翔害虫を捕獲するために設置する。複数の糸を設置する場合には、それぞれの糸の間において少なくともその一部に3cmから5cmの空白となる距離を設け、ネットを構成する場合においても、ネットの網目を構成する糸の間において少なくともその一部に5cmから15cmの空白となる距離を設けるものである。
【0017】
(2)実施形態の詳細
飛翔虫捕獲糸1は、糸11と、糸11に粘着剤を塗布又は含浸して形成される粘着部12からなる。
糸11は単糸、または撚糸で構成される。
単糸は一本の糸から構成され、撚糸は複数の単糸を撚り合わせて構成される。
単糸においては、その材質は、例えば、ナイロン、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン等であって、その糸の太さである線径が1.5mmから3mmの範囲であるものであれば良い。
撚糸であれば、単糸の場合と同様に、例えば、材質はナイロン、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン等であって、その構成は、400デニールの10本撚りなどで、撚糸全体の線径が1.5mmから3mmの範囲であるものであれば良い。
【0018】
飛翔虫捕獲糸1を構成する糸11は、単糸であっても、撚糸であっても、サシバエの体長から、サシバエが止まる際にその脚で抱き込むのに好適であると思われる太さに鑑みて、その線径が1.5mmから3mmから成るものが好ましい。飛翔虫捕獲糸1の線径がサシバエの体長に対して細すぎれば、飛翔虫捕獲糸1にサシバエが止まったとしても飛翔虫捕獲糸1が有する粘着部12とサシバエとの接地面が少なくなるため、飛翔虫捕獲糸1からサシバエが飛び立つ可能性が高くなる。また、飛翔虫捕獲糸1が太すぎればサシバエが飛翔虫捕獲糸1を抱き込むことができず、サシバエが飛翔虫捕獲糸1に止まる可能性が低くなるためである。
【0019】
飛翔虫捕獲糸1の色は、黄、緑、茶、黒などの色を用いることができる。サシバエにおいては飛翔虫捕獲糸1の色の違いによる捕獲数の変化は見られなかったが、サシバエ以外の飛翔害虫の捕獲をする場合であって、当該飛翔害虫の性質によって飛翔虫捕獲糸1の色に応じて捕獲数が向上する場合には、捕獲する対象となる飛翔害虫の性質に応じて、飛翔虫捕獲糸1の色を適宜選択することができる。例えば果物や野菜を栽培するハウスにおいては、蛾やウンカ、カメムシ等の害虫の飛翔があり、これらの害虫の駆除が必要なところ、飛翔虫捕獲糸1を設置することで当該害虫の捕獲が可能であり、飛翔虫捕獲糸1の糸11の色を黄とすることで、更なる害虫の捕獲が期待できるものである。
【0020】
粘着部12は、飛翔虫捕獲糸1を構成する糸11に、液状の粘着剤を塗布、または含浸して形成される。飛翔虫捕獲糸1を構成する糸11がその材質によって液体をしみこませることが可能である場合には、飛翔虫捕獲糸1を構成する糸11に粘着剤を含浸して粘着部12を形成することができる。飛翔虫捕獲糸1を構成する糸11がその材質によって液体をしみこませることできない場合や、粘着剤が時間の経過とともに飛翔虫捕獲糸1を構成する糸11の表面へ滲みでない場合等には、飛翔虫捕獲糸1を構成する糸11に粘着剤を塗布することができる。
例えば、糸11がポリエステルから成る単糸である場合には、粘着部12は糸11に粘着剤を塗布することによって形成され、糸11がポリエステルから成る撚糸である場合には、撚糸を構成する各糸と糸との間にも粘着剤が含まれるよう、粘着部12は糸11に粘着剤を含浸することにより形成される。
【0021】
粘着部12を構成する粘着剤は、天候や季節に応じ、公知の粘着剤を任意に選択し、種々使用することができる。
粘着剤は、シロキサン結合を主骨格にもつポリマーからなるシリコーン系粘着剤、アクリルポリマーからなるアクリル系粘着剤、イソシアネート基とヒドロキシ基をもつ化合物同士を縮合し得られるポリウレタンからなるウレタン系粘着剤及び天然ゴム系のいずれも使用でき、組み合わせて使用することも任意である。中でもその成分は、好適にはポリブテン等を用いるのが望ましい。
前記粘着剤の適用形態は、液状の塗布タイプ、スプレータイプいずれも使用可能であるが、前項に記載したとおり、糸の材質にあったものを適宜選択使用することができる。
また、粘着部12は、飛翔虫捕獲糸1に止まったサシバエが安易に飛び立つことのない強度が必要である。
【0022】
次に、以上のように構成された実施形態の動作について説明する。
本発明では、畜舎で飼育される家畜の代表として牛を想定するが、豚や馬等でも同様である。
飛翔虫捕獲糸1は畜舎外、もしくは畜舎内に設置される。
サシバエは日光を好むため、サシバエの畜舎への侵入は北面側からに比べて南面側からの方が多い。このため、飛翔虫捕獲糸1を畜舎の南面を重点に配置することで多くのサシバエの捕獲が期待される。この他、休息場所からの侵入、人の出入りのある場所からのサシバエ侵入も多く見られることから、畜舎周辺の環境に応じて、休息場所付近、人の出入りする出入り口等に飛翔虫捕獲糸1を設置することで、サシバエの畜舎内への侵入を防ぐことができる。
【0023】
飛翔虫捕獲糸1を畜舎外に設置する場合には、サシバエのジグザクの飛行、つまりサシバエの飛行を上方から見た場合には略Z字型、の左右の飛行の幅である2mに基づき、畜舎からの距離がおおよそ1mから2mあたりとなる位置に、畜舎に対して並行に飛翔虫捕獲糸1を設置する。
飼槽が畜舎の外部側に設けられる畜舎においては、飼槽から1mから2mあたり、通路の外側となる位置へ飛翔虫捕獲糸1を設置する。
飼槽が畜舎の内側に設けられる畜舎の場合には、牛房の外柵から1mから2mあたりとなる位置へ飛翔虫捕獲糸1を設置する。
飛翔虫捕獲糸1を畜舎内に設置する場合には、その設置場所は畜舎の構造によって適宜選択することができる。
【0024】
この他、家畜が直接に畜舎から畜舎の外へ移動できる、つまり畜舎が併設する放牧場を有する場合には、畜舎の周囲に飛翔虫捕獲糸1を設置するのではサシバエの捕獲は十分ではなく、放牧場の周辺に飛翔虫捕獲糸1を設置する必要がある。この場合、飛翔虫捕獲糸1は放牧場とその他の地を区別するための柵の外側であって、家畜の頭部、具体的には角や口が届かない位置に設置される。家畜が誤って飛翔虫捕獲糸1を口にしたりしないようにするためである。
【0025】
上述の通り、サシバエの多くは、地上擦れ擦れからおおよそ1mの高さを飛行する。このことから、飛翔虫捕獲糸1の設置位置は、飛翔虫捕獲糸1が地面に接触しない程度の位置から地上1mの位置に設けることが好ましい。しかしながら、捕獲対象がサシバエ以外の飛翔虫である場合や、サシバエの発生量如何によっては、飛翔虫捕獲糸1は地上1mを超える位置に設けることができる。
【0026】
図1は、飛翔虫捕獲糸1の設置(張り方)の例を表す図である。
飛翔虫捕獲糸1の設置は、地面に対して垂直(以下、「縦張」という)、もしくは水平(以下、「横張」という)、又は地面に対して傾斜をつけて(以下、「斜め張」という)、一本もしくは複数本設置する。設置においては飛翔虫捕獲糸1の両端をそれぞれ固定するための支柱を設けても良いし、既存の柱、例えば畜舎を支える柱等に飛翔虫捕獲糸1の端を固定しても良い。
飛翔虫捕獲糸1を複数本設置する場合には、XまたはY方向において飛翔虫捕獲糸1と飛翔虫捕獲糸1のそれぞれの間の少なくとも一部に3cmから5cmの空白とる。
【0027】
図1(a)に示すように、飛翔虫捕獲糸1を同一方向に複数設置する場合には、飛翔虫捕獲糸1をそれぞれ3cmから5cm離して設置する。また、
図1(b)が示すように、各飛翔虫捕獲糸1が必ずしも直線状に並ぶ必要はなく、Z方向において、つまり飛翔虫捕獲糸1を正面から見た場合、各飛翔虫捕獲糸1が前後するように、平面から見ればジグザク(以下、単に略Z字型ということがある)となるように設置してもよい。
図1(c)に示すように、飛翔虫捕獲糸1を縦張と横張とを組み合わせて設置してもよい。この場合において、飛翔虫捕獲糸1を3本以上設置する際に、縦張の飛翔虫捕獲糸1と横張の飛翔虫捕獲糸1とが接して交差し、マス目を形成する場合には、当該形成されるマス目の少なくともその一部、例えば対角線上において、その距離が10cmから15cmとなるよう飛翔虫捕獲糸1が設置されればよい。
【0028】
図1(d)に示すように、2本の飛翔虫捕獲糸1を斜め張とする場合には、各飛翔虫捕獲糸1の設置角度に指定はなく、飛翔虫捕獲糸1と飛翔虫捕獲糸1とがいずれかの位置で3cmから5cm以上離れていればよい。複数の飛翔虫捕獲糸1を斜め張とする場合であって、各飛翔虫捕獲糸1とが接して交差する場合にはマス目が形成されるが、この場合においてもマス目の少なくとも一部が5cmから15cm離れるよう飛翔虫捕獲糸1が設置されればよい。
飛翔虫捕獲糸1を上記いずれの張り方をした場合においても、複数の飛翔虫捕獲糸1をZ方向にそれぞれずらして設置する場合には、X及びY方向において飛翔虫捕獲糸1が重複数する位置とならないように配置することが好ましい。サシバエがその進行方向に対して左右に振れながら飛翔するという習性に基づき、同一の高さに複数の飛翔虫捕獲糸1を設置するよりも、飛翔虫捕獲糸1を設置する高さをずらして設置するほうがサシバエの止まる確率が上がると推察されるためである。また、Z方向における各飛翔虫捕獲糸1間の距離の指定はないが、飛翔虫捕獲糸1が他の飛翔虫捕獲糸1と接触しない距離をとることが好ましい。
【0029】
飛翔虫捕獲糸1を縦張、横張にした場合のいずれであっても、サシバエの捕獲数には大きな変化はない。サシバエは家畜に取り付く際、家畜の被毛を抱き込んで取り付くが、サシバエの多くは、取り付く位置が家畜の足回りであれば頭を上にして被毛を抱き込み、家畜の下腹であれば下から被毛を抱き込む形をとる。これと同様に、飛翔虫捕獲糸1に止まるサシバエの姿の多くは、飛翔虫捕獲糸1が縦張であれば、多くのサシバエは頭を上にして糸11を抱き込み、飛翔虫捕獲糸1が横張であれば、多くのサシバエは糸11を下から抱き込む、つまり糸11にぶら下がるものである。かかるサシバエの習性から、飛翔虫捕獲糸1が縦張であるか、横張であるかはサシバエの捕獲数に有意差のある影響を与えないと推察され、飛翔虫捕獲糸1においてサシバエの捕獲数を上げるためには、飛翔虫捕獲糸1の周りに空白の空間があることが重要である。
【0030】
以上説明したように本実施形態の好適な飛翔虫捕獲糸1によれば、粘着部12を有する、線径1.5mmから3mmの糸11を、少なくともその一部において3cmから5cm、若しくは5cmから15cmの範囲で他の飛翔虫捕獲糸1のない空白部分を設けて設置することとしたので、サシバエを含む飛翔害虫を効率よく捕獲することができる。
【0031】
次に、第2の好適な実施形態について説明する。
先の第1実施形態では「糸」としたのに対し、この第2実施形態では、第1実施形態の飛翔虫捕獲糸1を「ネット」として構成するようにしたものである。
図2は、第2実施形態における飛翔虫捕獲ネット2の構成の一例を表したものである。
【0032】
飛翔虫捕獲ネット2を構成する各糸は飛翔虫捕獲糸1を用いることができる。
ネットの網目の形状は、
図2に示すように、方形、ひし形等の形状を取る。網目の形状としては種々の形状を取ることができるが、各網目においては、第1実施形態で述べたように、飛翔虫捕獲ネット2を構成する各飛翔虫捕獲糸1間の距離が少なくとも網目のその一部において、5cmから15cm離れるよう構成される。
網目の形状については、後に述べる試験結果からもわかるように、その形状如何によってサシバエの捕獲率が如実に変化するものではなく、飛翔虫捕獲ネット2が、その網目において少なくともその一部が、5cmから15cm離れるよう構成されることが肝要である。
【0033】
飛翔虫捕獲ネット2の高さは、1m程度が好適である。上述の通り、サシバエの多くが地上からおおよそ1mの範囲を飛行するためである。
飛翔虫捕獲ネット2の幅は、飛翔虫捕獲ネット2を設置する際の張り易さの観点からは6m程度が好適である。飛翔虫捕獲ネット2の幅は、飛翔虫捕獲ネット2を構成する飛翔虫捕獲糸1の素材によっても適宜選択することができる。例えば、飛翔虫捕獲糸1が絡みやすい素材からなる場合は、飛翔虫捕獲ネット2もより絡みやすくなるため、飛翔虫捕獲ネット2の幅はあまり長くないほうがその設置に際しての取扱がしやすいためである。
【0034】
続いて、飛翔虫捕獲ネット2の設置(張り方)について説明する。
飛翔虫捕獲ネット2の設置においては、飛翔虫捕獲ネット2の両端をそれぞれ固定するための支柱を設けても良いし、既存の柱、例えば畜舎を支える柱等に飛翔虫捕獲ネット2の端をそれぞれ固定しても良い。
飛翔虫捕獲ネット2の設置場所については、第1実施形態で述べたとおりである。
飛翔虫捕獲ネット2の設置位置も第1実施形態と同様に、飛翔虫捕獲ネット2が地面に接触しない程度の位置から地上1m程度の位置に設けることが好ましい。
【0035】
飛翔虫捕獲ネット2においても、第1実施形態に示すように、Z方向において、つまり飛翔虫捕獲ネット2を略Z字型となるように設置してもよい。この場合において、
図1(b)に示すように、複数の支柱を用いることで飛翔虫捕獲ネット2を略Z字型に張ることができる。
図3は、飛翔虫捕獲ネット2を略Z字型に配置するために複数の支柱を設けるのではなく、飛翔虫捕獲ネット2を2本の親糸間にジグザクに渡すことで飛翔虫捕獲ネット2を略Z字型に設置可能とするものである。
図3に示すように、飛翔虫捕獲ネット2は、2本の親糸間を親糸に飛翔虫捕獲ネット2が略Z字型になるよう固定される。飛翔虫捕獲ネット2が親糸に固定される位置は適宜選択可能であるが、飛翔虫捕獲ネット2を設置する際に2本の親糸間の距離は、30cm~50cmとなるような位置で固定されることが好ましい。
Y方向において、親糸は、飛翔虫捕獲ネット2の上端と下端も設けられるが、上下端の親糸のみでは飛翔虫捕獲ネット2の略Z字型を維持できない場合には、飛翔虫捕獲ネット2の高さに応じて、適宜親糸を追加することができる。例えば、Y方向の中間地点等に親糸を追加することができる。
【0036】
このほか、サシバエの発生量が多い場合には、飛翔虫捕獲ネット2を2列並行して設置してもよい。この場合、前列と後列のネットの網目枠単位を交互にずらして設置することも任意である。
また、サシバエを含む他の飛翔害虫、例えば蚊やハエなど、を捕獲する場合には、飛翔虫捕獲ネット2を地上から1m程度に設置したその上部に飛翔虫捕獲ネット2を設置しても良い。
【0037】
次に、第3の好適な実施形態について説明する。
第3実施形態は、先の第1実施形態の飛翔虫捕獲糸1及び第2実施形態の飛翔虫捕獲ネット2に捕虫部材3を備えるものである。
図4は、第3実施形態における捕虫部材3の構成の一例を表したものである。
【0038】
捕虫部材3は、サシバエの捕獲率の向上を目的として飛翔虫捕獲糸1や飛翔虫捕獲ネット2に設けられる。
上述の通り、サシバエは線状の物体を好んで止まるものであり、この習性を踏まえて飛翔虫捕獲糸1や飛翔虫捕獲ネット2は構成されるものである。
また、サシバエはジグザグに飛行することから、例えば、飛翔虫捕獲ネット2であれば、その網目の間を通過するものである。
そして、本発明は、飛翔虫捕獲糸1の周囲、飛翔虫捕獲ネット2の網目をサシバエが飛行し、偶然にサシバエが飛翔虫捕獲糸1や飛翔虫捕獲ネット2に接触して飛翔虫捕獲糸1や飛翔虫捕獲ネット2の粘着部にサシバエが捕獲されることを期待するものではない。
すなわち、本発明は、サシバエの飛行に関する習性、好んで止まる場所に関する習性に鑑みて、飛行するサシバエが自ら、飛翔虫捕獲糸1や飛翔虫捕獲ネット2に止まるように構成されるものである。
捕虫部材3は、飛翔虫捕獲糸1や飛翔虫捕獲ネット2の周囲や網目を通過するサシバエが止まる部位をより増やすことでサシバエの捕獲率の向上を目指すものである。
【0039】
具体的には、捕虫部材3は、5cmから15cmの長さとした飛翔虫捕獲糸1により構成される捕獲短糸31からなる。捕虫部材3は、1本から複数の捕獲短糸31から構成される。サシバエの飛行のための空間が必要なことから、捕虫部材3は、複数の捕獲短糸31からなる場合には、相互の捕獲短糸31の間の少なくとも一部に5cmから15cmの距離と取る。
図4(a)は、飛翔虫捕獲糸1に捕虫部材3を取り付けた1例である。
捕虫部材3は、飛翔虫捕獲糸1に対し飛び出すように取り付けられる。捕虫部材3が飛び出す方向は、捕虫部材3が取り付けられる飛翔虫捕獲糸1に対して特に取り付けの角度に制限はなく、捕虫部材3とこれが取り付けられる飛翔虫捕獲糸1との間において少なくともその一部に10cmから15cmの距離があればよい。複数の捕虫部材3を取り付ける際も同様に、各捕虫部材3の間、及び捕虫部材3とこれが取り付けられる飛翔虫捕獲糸1との間、それぞれの間において少なくともその一部に10cmから15cmの距離があればよい。
図4(b)は、飛翔虫捕獲ネット2に捕虫部材3を取り付けた1例である。捕虫部材3を飛翔虫捕獲ネット2に取り付ける場合も、飛翔虫捕獲糸1に取り付ける場合と同様に、捕虫部材3は飛翔虫捕獲ネット2に対して飛び出すように取り付けられる。
図4(b)においては飛翔虫捕獲ネット2の網目の所謂結節部分に取り付けられる。
【0040】
捕虫部材3は、飛翔虫捕獲糸1や飛翔虫捕獲ネット2に、捕虫部材3を構成する捕獲短糸31を結束して取り付けることができる。例えば、捕獲短糸31の長さを10cmから30cmとし、当該捕獲短糸31の中央を飛翔虫捕獲糸1や飛翔虫捕獲ネット2に結束し、5cmから15cmの2本の捕獲短糸31することができる。
この他、捕虫部材3は取付部32、及び捕獲短糸保持部33を有する構成としても良い。取付部32は、飛翔虫捕獲糸1や飛翔虫捕獲ネット2を構成する飛翔虫捕獲糸1の線径に係合する凹部を備え、捕虫部材3は、当該取付部32の凹部を飛翔虫捕獲糸1や飛翔虫捕獲ネット2に係合して取り付けられる。捕獲短糸保持部33は取付部32に対向する位置に設けられ、捕獲短糸31を把持する。捕獲短糸31がその自重によって所望の位置に留まることができずに飛翔虫捕獲糸1や飛翔虫捕獲ネット2に添うように垂れ下がる場合には、捕獲短糸保持部33は捕獲短糸31を所望の位置に留めるための捕獲短糸31を支える捕獲短糸支持部34を有しても良い。捕獲短糸支持部34は、例えば、捕獲短糸31の線径より細い針金等であって、捕獲短糸31の他端から捕獲短糸31に挿入され、捕獲短糸31を支持する。
【0041】
捕虫部材3は、捕虫部材3が取り付けられる飛翔虫捕獲糸1や飛翔虫捕獲ネット2の素材と同一である必要はない。例えば、捕獲短糸31を撚糸で形成した場合、使用する撚糸によっては、捕獲短糸31はその撚糸の自重等により、捕虫部材3が取り付けられる飛翔虫捕獲糸1や飛翔虫捕獲ネット2に沿うように垂れてしまうことがある。捕虫部材3は、飛翔虫捕獲糸1や飛翔虫捕獲ネット2から飛び出すように取り付けられことでサシバエをより止まりやすくするため、このような場合には、飛翔虫捕獲糸1や飛翔虫捕獲ネット2は撚糸で構成されていても、捕獲短糸31は撚糸より張りのある単糸で形成することが好ましい。
【0042】
図5は、支柱枠5の構成の一例を表したものである。
支柱枠5は、飛翔虫捕獲糸1や飛翔虫捕獲ネット2を張るための枠である。
先の第1から第3の好適な実施形態では、いずれの場合も、飛翔虫捕獲糸1や飛翔虫捕獲ネット2の設置においては、設置場所の既存の柱等を用いるか、支柱を用意してこれに固定するものである。したがって、設置した飛翔虫捕獲糸1や飛翔虫捕獲ネット2を移動するには、基本的には飛翔虫捕獲糸1や飛翔虫捕獲ネット2を支柱ごと外し、その後、所望の位置に再度設置することになる。飛翔虫捕獲糸1や飛翔虫捕獲ネット2の設置に移動可能な支柱を使用した場合、飛翔虫捕獲糸1や飛翔虫捕獲ネット2の移動は飛翔虫捕獲糸1や飛翔虫捕獲ネット2を支柱から外すことなく支柱ごとの移動が可能である。
【0043】
飛翔虫捕獲糸1や飛翔虫捕獲ネット2の粘着部2は雨で濡れるとその粘着力が低下することがある。このため、飛翔虫捕獲糸1や飛翔虫捕獲ネット2を支持枠5に張ることによって雨天時には支柱枠5を軒下等へ移動して、飛翔虫捕獲糸1や飛翔虫捕獲ネット2が雨に濡れることを容易に避けることができ、粘着力の低下を防げる。
また再度の設置においても支柱枠5を所望の位置へ設置するだけでよい。
図5に示す支柱枠5は四方を囲む枠であり、上下左右の各ポールから構成される。受部材51は、凹部を有し、当該凹部に支柱枠5のポールを掛止する。係止部材52は、支柱枠5のポールに飛翔虫捕獲ネット2を係止する。固定部材53は、上下のポールのそれぞれ両端に備えられ、飛翔虫捕獲ネット2の両端を係止する。
【0044】
図5に示すように、受部材51は、畜舎の既存の柱等に取り付けられる。
上述の通り、サシバエの多くは、地上擦れ擦れからおおよそ1mの高さを飛行する。このサシバエの習性を活かして本実施形態におけるサシバエの捕獲効果を上げるために、支柱枠5に張られる飛翔虫捕獲糸1や飛翔虫捕獲ネット2の下端が、できるだけ地面に近傍となるようにすることが好ましい。
上下ポールをそれぞれ掛止する受部材51の取り付け位置は、支柱枠5に使用する飛翔虫捕獲ネット2の高さによって決定する。より具体的には、下のポールを掛止する受部材51の取り付け位置は、下ポールが土間擦れ擦れとなる位置に取り付けられ、上ポールを掛止する受部材51の取り付け位置は、上下ポールがそれぞれ受け部51に掛止される際に、上下ポールの係止部材52に係止する飛翔虫捕獲ネット2がその高さ方向において撓むことなく支柱枠5に係止される位置に取り付けられる。
支柱枠5に飛翔虫糸1を係止する場合も同様である。
【0045】
係止部材52はリング状であって、上下のポールにそれぞれ複数個挿入され、各係止部材52に飛翔虫捕獲ネット2が係止される。
固定部材53は、上下のポールのそれぞれ両端に固定され、飛翔虫捕獲ネット2の両端を係止して飛翔虫捕獲ネット2が支柱枠5内でたわむことを防ぐものである。
係止部材52の径はポールの径より大きく、係止部材52とポールの間には遊びがあり、係止部材52はポールを挿入した状態でポール上を移動可能である。これによって、上下ポールの一端の固定部材53から飛翔虫捕獲ネット2の一端を外し、他端側へ飛翔虫捕獲ネット2を寄せることができる。雨天時において、雨に打たれないよう支柱枠5自体を移動することなく、支柱枠5内の一端へ飛翔虫捕獲ネット2を寄せ、これにビニール等の雨を防ぐシート等をかぶせることで、飛翔虫捕獲ネット2が雨で濡れることを防ぐことができる。この場合においては、支柱枠5自体を移動することがないことから、支柱枠5は、左右のポールをなくし、上下のポールのみとすることができる。なくしたポールの位置に飛翔虫捕獲ネット2を挿入するための袋を備えてもよい。
【0046】
続いて、第4の好適な実施形態について説明する。
図6、
図11及び
図12は、第4実施形態における飛翔虫捕獲器4の構成の一例乃至その変形例を表したものである。
飛翔虫捕獲器4は、1から複数の枠部41、枠部41を支持する支柱部42、支柱部42を支持する土台部43からなる。枠部41、支柱部42を構成する素材は、金属、塩ビ等の素材を適宜用いることができ、雨や腐食に強く、軽い素材が好適である。
飛翔虫捕獲器4の高さはサシバエの飛行の習性から1m程度が好適である。
【0047】
枠部41は、飛翔虫捕獲糸1や飛翔虫捕獲ネット2を張るための枠である。
図6に示すように、枠部41(a)は、上下のみで側面は開放としたものである。飛翔虫捕獲糸1を縦張にする場合や飛翔虫捕獲ネット2を使用することができる。枠部41(b)は、側面を閉じた形状であり、飛翔虫捕獲糸1を横張にする場合等に使用することができる。
枠部41に飛翔虫捕獲糸1や飛翔虫捕獲ネット2を取り付ける方法は適宜選択できる。飛翔虫捕獲糸1であれば枠部41へ直接結びつけて取り付けてもよいし、各飛翔虫捕獲糸1や飛翔虫捕獲ネット2を固定するためのフック等の固定部材を枠部41に設け、当該固定部材に飛翔虫捕獲糸1や飛翔虫捕獲ネット2を取り付けてもよい。枠部41に複数の飛翔虫捕獲糸1を張る場合には、上述の通り、各飛翔虫捕獲糸1の間には少なくとも3cmから5cmの間隔を設けて取り付ける。
【0048】
枠部41の幅は、飛翔虫捕獲器4の設置場所に応じて適宜決定することできる。例えば飛翔虫捕獲器4を幅1mの通路に設置する場合であって、
図6に示すように、複数の枠41がそれぞれ支柱部42を中心に対角線状に配される際には、枠41の幅は50cm以下であることが望ましい。飛翔虫捕獲器4全体の幅が1mを超えることとなり、設置場所を通行できなくなるためである。このほか、枠部41を支柱42から取り外し可能とし、設置場所において通行の妨げとなるなどの障害となる枠部41を適宜取り外して使用するようにしてもよい。
枠部41は支柱42を中心として回転可能に取り付けられる。
サシバエは地面擦れ擦れを飛行することから、枠部41の下端は飛翔虫捕獲器4を設置する地面との距離が近いほうが好ましい。
図6に示す飛翔虫捕獲器4においては、枠部41は、土台部43に枠部41の下端が接しない程度の位置になるよう構成されている。しかしながら、例えば土台部43の高さが20cmを超えるなど、土台43の形状によって枠部41の下端と飛翔虫捕獲器4を設置する地面との距離が離れ、サシバエの捕獲率に影響がでると思われ場合には、枠部41は、枠部41の下端を、土台部43を避け、飛翔虫捕獲器4を設置する地面近傍まで延出するように構成しても良い。この場合においては、枠部41は、支柱部42を中心に回転する際に、当該延出部分が土台部43へ接触しない形状をとる。
【0049】
支柱部42は、1から複数の枠部41を支持する。本実施例においては、
図6に示すように、飛翔虫捕獲器4は4つの枠部41を有する。支柱部42に取り付けられる各枠部41は、その隣り合う枠部41同士が、少なくとのその一部において5cmから15cm以上の距離を確保できるものとし、支柱部42は、当該距離を確保できる範囲で、複数の枠部41を取り付けることができる。
【0050】
土台43は、支柱部42、及び枠部41を支え、また、飛翔虫捕獲器4が容易に転倒することのないようにするものである。土台43は、飛翔虫捕獲器4の設置の際に、飛翔虫捕獲器4が転倒することのない重量を有する必要があるが、その重量は、土台43そのものに持たせても良いし、飛翔虫捕獲器4を設置する際に土台43に加えるようにしても良い。
飛翔虫捕獲器4を設置する際に土台43に重量を加える場合には、例えば、土台43は開脚する3本の脚からなり、当該脚に重りとなるブロック等をのせ、飛翔虫捕獲器4を支えるようにしても良い。
また、土台43が重量を有する場合には、土台43は、飛翔虫捕獲器4の移動を容易とするために、飛翔虫捕獲器4は車輪を有するよう構成しても良い。飛翔虫捕獲器4を移動するための車輪は、土台43の底部に直接設けてもよく、土台43を載荷するための台に車輪を設け、当該台に土台43を積載するようにしてもよい。
ここで、これらの具体的な変形例として
図12を開示する。
図12は、伸縮腕木式移動捕獲器を構成するものであり、移動の便宜の他、ネットも自体が伸縮できるよう、枠部にも伸縮機能を備え構成したものである。
当該伸縮腕木式移動捕獲器は、畜舎外面に設置し、雨に当たる場合は腕木を折りたたんで内部へ移動出来る。
また、内部においても、作業の支障に応じて腕木を伸縮出来る。
実際の利用方法を以下、簡単に説明する。
枠部内部において、支柱中央部分には、使用前の粘着ネットを巻き込んだ筒を取り付ける。筒の材質は好適にはプラスチック製で、内筒と外筒の2重構造からなる。
取付前、内筒にネットを巻き込み、外筒の蓋をしたのちに粘着剤を投入し、ネットに含侵させる。
その後、捕獲器にセットする。粘着ネットを張る場合は、外筒を取り外し、腕木の先端部まで引っ張りリングに止める。
残った粘着ネットは、乾燥しないように蓋をする。
また、筒の底部には粘着剤の残液溜まりを施す。使用後のネットは、リングから取り外して、可燃ごみとして処分する。
【0051】
先に述べた土台43の素材は、土台43の重量を土台43そのものが有する場合と、飛翔虫捕獲器4の使用時に土台43に重量を加える場合とで異なり、金属やコンクリートなど、適宜選択可能である。
土台43の形状は、直方体、四角錐台や三角錐台などの錐台、円柱などの形状のほか、上述の通り開脚する脚などの形状を適宜選択可能である。
土台43を形成する素材や形状によるが、一般には、例えば、土台43の高さを低くすれば、飛翔虫捕獲器4を設置する地面に接する土台部43の底面積は広くなり、土台43の高さを高くすれば土台43の底面積は狭くなる。
枠部41を土台部43に枠部41の下端が接しない程度の位置になるよう構成する場合には、枠部41の下端と地面との距離が近くなるよう、土台43の高さは低く構成することが好ましい。サシバエが地面スレスレを飛行する習性から、地面から枠部41の下部までの距離を10cm程度までとすることにより、サシバエの捕獲が望める。土台部43の素材として、高さがなく重量のある鉄板を用いても良い。
【0052】
上記、実施形態1から4で得た、飛翔虫捕獲糸1、飛翔虫捕獲ネット2、飛翔虫捕獲器4、及び捕虫部材3を取り付けた飛翔虫捕獲糸1、飛翔虫捕獲ネット2、飛翔虫捕獲器4につき捕獲試験を行った。
(捕獲試験1)
1.目的
市販の捕虫シートと本願発明との飛翔虫の捕獲性能の違い、及び本願実施形態における飛翔虫の捕獲性能の試験を行う。
2.方法
(1)日時:令和4年9月8日から令和4年9月28日
(台風通過のため休止:令和4年9月16日から令和4年9月20日)
(2)場所:佐賀県多久市東多久 畜舎
(3)捕獲方法:
(試験A)捕虫シートの粘着部33cm×30cm=約0.1平方メートル
(試験1から試験9)飛翔虫捕獲糸1、及び飛翔虫捕獲ネット2の設置面積0.1平方メートル
【0053】
3.結果
試験開始時においては、畜舎周囲から畜舎内へのサシバエの侵入を目視できる状態になかった。例年であればサシバエを目視できる時期であるが、台風の影響から令和4年9月15日までは気温が35度程度の日が続き、サシバエが発生するには気温が高温過ぎたためと推察する。
台風通過後の令和4年9月20日以降の気温は30度程度となり、サシバエの発生にはやや気温が高いものの、台風通過以前よりもサシバエの発生数が多くなっている。それでも調査期間におけるサシバエの発生数は例年に比べ少ないものであった。調査実施場所は、調査実施場所を含む周辺一帯が調査実施前年に洪水に見舞われた場所であることから、サシバエの繁殖場所が冠水し、サシバエの卵や蛹が水没して死滅したためと推察される。
【0054】
この他、本願実施形態における飛翔虫の捕獲数につき影響のある要因として、粘着部2への「おがくず」の付着による粘着部2の粘着力の低下が考えられる。調査を実施した畜舎は、家畜の寝床として「おがくず」を畜舎の床に敷き込んでいる。試験期間中の気温の高さから、畜舎内の天井には大型扇風機が高速で回転して稼働しており、畜舎内から畜舎外へ「おがくず」の微粉末が流れ出ていた。当該おがくずの微粉末が設置した飛翔虫捕獲糸1等の粘着部2へ付着し、当該粘着部2の粘着力が低下したものと推察する。
また、調査期間中、台風の通過のため、設置した飛翔虫捕獲糸1、飛翔虫捕獲ネット2、飛翔虫捕獲器4を撤収した。撤収した各飛翔虫捕獲糸1、飛翔虫捕獲ネット2、飛翔虫捕獲器4が捕獲したサシバエは、当該捕獲されたサシバエが死後乾燥していたことから、撤収時にその殆どが粘着部2から剥離してしまった。このため、撤去時におけるサシバエの捕獲数は把握できず、台風通過後の再設置においてはサシバエの捕獲数はカウントできなかった。なお、捕虫シートについては、飛翔虫の体全体が当該シートの粘着部に粘着していることから、撤収時、再設置時において捕獲された飛翔虫の剥離はない。
【0055】
表1はサシバエの捕獲数を表すデータである。
【表1】
【0056】
試験Aは市販の捕虫シートである。
図9、
図10は、本試験後に回収した粘着シートを表したものである。
図9、
図10に示すように、捕虫シートには、多種類の生物が捕獲されていた。その多くは、サシバエよりかなり大きい型のハエであり、オオイエバエ、ニクバエ、クロバエ、キンバエ、ヤドリバエ、ガガンボ等であった。捕虫シートに捕獲された生物数は325であったが、そのうちの約2割、約70弱がサシバエであった。
試験1から試験9のいずれの試験においても、サシバエの捕獲数は捕虫シートを上回っており、本発明の効果を確認することができる。
また、本試験結果においては、粘着部2にサシバエの全身が残るサシバエのみをカウントしたが、粘着部2を観察すると無数の足が粘着部2に残されている。
図8は、調査後に回収した飛翔虫捕獲ネット2の一部を拡大したものである。サシバエの頭や胴体がなく、足のみが粘着していることが確認できる。粘着部2に粘着したサシバエは、サシバエの全身が粘着する捕虫シートとは異なり、飛翔虫捕獲糸1、飛翔虫捕獲ネット2、飛翔虫捕獲器4の糸11を足のみで掴むため、死後4から5日で乾燥した頭部や胴体部が風によって粘着部2から散り落ちて、足のみが粘着部2に残る結果となる。つまり、捕獲されたサシバエが死後乾燥してその頭部や胴体が粘着部2から剥離してしまったものであり、実際にはこの度の試験結果での捕獲数よりも多くのサシバエが捕獲されたものである。
【0057】
図7は、試験5後に回収した飛翔虫捕獲ネット2を表したものである。
試験1から試験9が示すように、いずれの形態においてもサシバエの捕獲数は捕虫シートを上回り、この結果は、サシバエが面よりも線型のものに止まる率が高いことの証明である。
図7の飛翔虫捕獲ネット2捕獲状況が示すように、アブやブユその他ハエ類が全体の2割程度に対し、8割はサシバエであったことからも、サシバエが線型を好む裏付けとなった。
以下、より具体的に試験結果につき述べる。
試験1と試験2は、飛翔虫捕獲糸1を5cmの間隔で5列設置したものである。
試験1と試験2は、飛翔虫捕獲糸1の糸11を単糸として、これを縦張、横張にしたもので、縦張と横張との効果の違いを比較したものである。捕獲数をみるに縦張(捕獲数103)は横張(捕獲数151)に比べやや少ないが、このことから一概に縦張りより横張のほうが効果あるとも言えない。試験4から試験9におけるネットでの捕獲おいては、縦糸と横糸でその捕獲数はほぼ変わらないためである。
【0058】
試験3は、飛翔虫捕獲糸1の糸11を撚糸として、これを縦張にし、捕虫部材3を取り付けたものである。飛翔虫捕獲糸1に捕虫部材3を取り付けた際の捕獲数を試験するものである。捕虫部材3は3cm間隔で飛翔虫捕獲糸1に複数取り付けられ、捕獲短糸31の長さは10cmである。
試験3(捕獲数121)は、試験2より幾分捕獲数が多い。また、捕獲部品3の粘着部2からのサシバエの剥離が多く見られた。
サシバエは、捕獲短糸31が飛翔虫捕獲糸1に添って垂れ下がる捕虫部材3に比べ、捕獲短糸31が飛翔虫捕獲糸1から直線的に飛び出している捕虫部材3への粘着が多かった。これにより、捕虫部材3の捕獲短糸31が飛翔虫捕獲糸1から直線的に飛び出すよう構成されることが望ましいことがわかる。
【0059】
試験4から試験9は、10cmの正方形の網目の飛翔虫捕獲ネット2を配置したものである。
試験4(捕獲数180)と試験5(捕獲数159)、試験6(捕獲数195)と試験7(捕獲数165)は、それぞれネットの色を黒と黄、黒と茶として、ネットの色に違いによる捕獲数の違いを試験したものである。試験結果から、サシバエの捕獲においてはネットの色によってその捕獲数に大きな違いはないが、あえてネットの色を指定するならば黒が好適かと思われる。
試験4と試験6は、糸11が単糸の場合と撚糸である場合を比較するものである。試験4と試験6から、飛翔虫捕獲ネット2を構成する糸11が単糸である場合も撚糸である場合も、捕獲数に差は見られない。仮に捕獲数に差が見られる場合は、粘着部2の粘着力の低下が原因と思われる。
【0060】
試験8(捕獲数160)と試験9(捕獲数162)は、飛翔虫捕獲ネット2に捕虫部材3を取り付けたものである。捕虫部材3は飛翔虫捕獲ネット2の結節部分に取り付けられ、捕獲短糸31の長さは10cm、撚糸で構成される。
捕獲単糸31は撚糸であるため、捕獲短糸31が飛翔虫捕獲ネット2に添って垂れ下がるものが多く、試験3の場合と同様に、捕虫部材3の粘着部へのサシバエの粘着は少なかった。サシバエが捕虫部材3へ止まらない原因としては、捕獲短糸31が飛翔虫捕獲ネット2に添って垂れ下がるものが多いことでサシバエの飛行の障害となっていると考えられる。したがって、試験8、試験9の結果をもって、捕虫部材3に捕獲の効果がないとの判断はできない。
【0061】
(捕獲試験2)
1.目的
本願実施形態4で述べた飛翔虫捕獲器4における飛翔虫の捕獲性能の試験を行う。
2.方法
(1)日時:令和4年9月10日から令和4年9月15日
(2)場所:佐賀県多久市東多久 畜舎
(3)捕獲方法:
(試験11、試験12、試験15)飛翔虫捕獲糸1の設置面積0.36平方メートル
(試験13、試験14)飛翔虫捕獲糸1の設置面積0.18平方メートル
【0062】
3.結果
表2はサシバエの捕獲数を表すデータである。
【表2】
【0063】
本捕獲試験2において、飛翔虫捕獲器4は畜舎内部に配置した。上述の通り、試験期間前半は気温が非常に高く、畜舎天井に設置された大型扇風機が高速で稼働していたため、畜舎内の床に敷き詰められたおがくずの微粉末が空気中に舞っており、令和4年9月16日に飛翔虫捕獲器4を撤収する際には、各枠部に配設された飛翔虫捕獲糸1や飛翔虫捕獲ネット2の粘着部にはおがくずの微粉末が付着し、粘着部は粘着力を失っていた。このことから、飛翔虫捕獲器4のサシバエの捕獲数は多くない。しかしながら、おがくずの微粉末の影響の少ない位置への飛翔虫捕獲器4の設置や粘着部の粘着力回復を行えば、さらなるサシバエ捕獲が期待できるものである。
【0064】
試験11は、糸11を単糸、正方形の網目10cmとした飛翔虫捕獲ネット2を二重(以下、ネットA及びネットB)に張ったものである。飛翔虫捕獲ネット2を二重に張るにあたり、ネットAとネットBの網目の位置が縦横それぞれ5cmずれるように配置し、またネットAとネットBの間には10cmから15cmの距離を取って設置したものである。捕獲数をみるにネットA(捕獲数69)とネットB(捕獲数63)とで大きな差はない。
試験12(捕獲数68)、試験13(捕獲数19)は、縦張と横張、及び各飛翔虫捕獲糸1の間隔による効果の違いを比較したものである。
試験12は、飛翔虫捕獲糸1の糸11を単糸及び撚糸として、3cmの間隔で4本、5cmの間隔で5本を縦張にしたものである。
試験13は、飛翔虫捕獲糸1の糸11を単糸及び撚糸として、3cmの間隔で7本、5cmの間隔で4本を横張にしたものである
試験12の縦張に比べ試験13の横張の捕獲数が少ないが、その原因は試験13の設置面積は試験12の半分であること、及び飛翔虫捕獲糸1の間隔が3cmではサシバエが通過するには狭いためと思われる。
【0065】
試験14(捕獲数19)、試験15(捕獲数108)は、捕虫部材3を備える飛翔虫捕獲糸1の縦張と横張による効果の違いを比較したものである。
試験14は、飛翔虫捕獲糸1の糸11を単糸として、これを横張にし、捕虫部材3を取り付けたものである。捕虫部材3は3cm間隔で飛翔虫捕獲糸1に複数取り付けられ、捕獲短糸31の長さは10cmである。
試験15は、飛翔虫捕獲糸1の糸11を単糸として、これを横張にし、捕虫部材3を取り付けたものである。飛翔虫捕獲糸1に捕虫部材3を取り付けた際の捕獲数を調査するものである。捕虫部材3は3cm間隔で飛翔虫捕獲糸1に複数取り付けられ、捕獲短糸31の長さは10cmである。
試験15の縦張に比べ試験14の横張の捕獲数が少ないが、その原因は試験14の設置面積は試験15の半分であることが挙げられる。試験15の設置面積を半分とした場合にはサシバエの捕獲数も半分であると仮定するならば、試験15のサシバエの捕獲数は108の半数である54であることから、捕虫部材3を備える飛翔虫捕獲糸1の縦張と横張による捕獲数に大きな差はない。
【0066】
捕獲試験2における試験11から試験15は、捕獲試験1よりも調査実施期間が短いものの、試験1から試験9の同時期(令和4年9月15日時点)において、サシバエの捕獲数は試験Aの数を超えており、試験1から試験9の捕獲数に比べ遜色ない結果となっている。したがって、飛翔虫捕獲器4においても、本発明の効果を確認することができる。
【0067】
以上、本発明の飛翔虫を捕獲する糸、及び当該糸から構成されるネットにおける実施形態について説明したが、本発明は説明した実施形態に限定されるものではなく、本願発明の目的と効果を損なわない限り、各請求項に記載した範囲において各種の変形を行うことが可能である。
この他、本願記載の発明では、飛翔虫の捕獲する方法として粘着剤を用いているが、粘着剤の代わりに、或いは粘着剤中に殺虫成分を含有する糸を採用しても良い。
【符号の説明】
【0068】
1 飛翔虫捕獲糸
11 糸
12 粘着部
2 飛翔虫捕獲ネット
3 捕虫部材
31 捕獲短糸
4 飛翔虫捕獲器
41 枠部
42 支柱部
43 土台部
5 支柱枠