(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025027418
(43)【公開日】2025-02-27
(54)【発明の名称】電子部品・デバイス用の植物絶縁油系浸漬冷却液
(51)【国際特許分類】
H01M 10/653 20140101AFI20250219BHJP
H01M 10/613 20140101ALI20250219BHJP
【FI】
H01M10/653
H01M10/613
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024015003
(22)【出願日】2024-02-02
(31)【優先権主張番号】202311016094.7
(32)【優先日】2023-08-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(71)【出願人】
【識別番号】524047589
【氏名又は名称】南方▲電▼▲網▼▲調▼峰▲調▼▲頻▼(▲広▼▲東▼)▲儲▼能科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】CSG POWER GENERATION (GUANGDONG) ENERGY STORAGE TECHNOLOGY CO.,LTD
【住所又は居所原語表記】No.34 Longkou East Road, Tianhe District, Guangzhou,Guangdong 510635 China
(74)【代理人】
【識別番号】110003915
【氏名又は名称】弁理士法人岡田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】汪志▲強▼
(72)【発明者】
【氏名】▲劉▼邦金
(72)【発明者】
【氏名】董超
(72)【発明者】
【氏名】▲呉▼家声
(72)【発明者】
【氏名】王▲勁▼
(72)【発明者】
【氏名】周▲躍▼利
(72)【発明者】
【氏名】彭▲せい▼
(72)【発明者】
【氏名】▲張▼敏
(72)【発明者】
【氏名】▲呉▼斌
(72)【発明者】
【氏名】汪林威
(72)【発明者】
【氏名】林▲祺▼▲華▼
(72)【発明者】
【氏名】▲鄭▼▲暁▼▲東▼
(72)【発明者】
【氏名】翁正
(72)【発明者】
【氏名】▲趙▼少▲華▼
(72)【発明者】
【氏名】▲鄒▼▲倫▼森
(72)【発明者】
【氏名】▲鐘▼国彬
(72)【発明者】
【氏名】余▲菲▼
(72)【発明者】
【氏名】▲羅▼嘉
(72)【発明者】
【氏名】▲劉▼▲軒▼
(72)【発明者】
【氏名】徐▲凱▼▲き▼
(72)【発明者】
【氏名】王超
【テーマコード(参考)】
5H031
【Fターム(参考)】
5H031EE03
5H031HH03
(57)【要約】 (修正有)
【課題】植物絶縁油の粘度を効果的に低下させ、その流動性を向上させる電子部品・デバイス用の植物絶縁油系浸漬冷却液を提供する。
【解決手段】電子部品・デバイス用の植物絶縁油系浸漬冷却液は、植物絶縁油を含む基油と、ポリオルガノシロキサン系化合物、シリコン系ホスフェート系化合物及びシリコン系ホスファイト系化合物のうちの1つ又は複数の組み合わせを含み、粘度が0.02mm2/s~1.05mm2/sである粘度低下添加剤と、を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子部品・デバイス用の植物絶縁油系浸漬冷却液であって、
植物絶縁油を含む基油と、
ポリオルガノシロキサン系化合物、シリコン系ホスフェート系化合物及びシリコン系ホスファイト系化合物のうちの1つ又は複数の組み合わせを含み、粘度が0.02mm2/s~1.05mm2/sである粘度低下添加剤と、を含む、ことを特徴とする電子部品・デバイス用の植物絶縁油系浸漬冷却液。
【請求項2】
前記植物絶縁油は、FR3植物絶縁油、NP植物絶縁油、RDB植物絶縁油、VinsOil植物絶縁油、BIOTEMP植物絶縁油、MIDEL植物系油、及びPFAE植物絶縁油のうちの1つ又は複数の組み合わせを含む、ことを特徴とする請求項1に記載の浸漬冷却液。
【請求項3】
前記ポリオルガノシロキサン系化合物は、ジメチルジメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルシロキサン、低重合度ジメチルシロキサン、トリメチルシラン、トリメトキシシラン、ペンタメチルジシロキサン、及びメトキシトリエチレンオキシプロピルトリメトキシシランのうちの1つ又は複数の組み合わせを含み、
及び/又は、
前記シリコン系ホスフェート系化合物は、トリス(トリメチルシリル)ホスフェート及びビストリメチルシリル化ビニルホスフェートのうちの1種又は2種の組み合わせを含み、
及び/又は、
前記シリコン系ホスファイト系化合物は、モノ(トリメチルシリル)ホスファイト、トリス(トリメチルシリル)ホスファイト及びジエチルトリメチルシリルホスファイトのうちの1つ又は複数の組み合わせを含む、ことを特徴とする請求項1に記載の浸漬冷却液。
【請求項4】
絶縁性フィラーである無機熱伝導性フィラーをさらに含む、ことを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の浸漬冷却液。
【請求項5】
前記無機熱伝導性フィラーは、少なくとも窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化亜鉛及び酸化マグネシウムのうちの1つ又は複数の組み合わせを含む、ことを特徴とする請求項4に記載の浸漬冷却液。
【請求項6】
前記浸漬冷却液において、前記基油の質量パーセントが50%~90%であり、前記粘度低下添加剤の質量パーセントが10%~50%であり、前記無機熱伝導性フィラーの質量パーセントが1%~10%である、ことを特徴とする請求項4に記載の浸漬冷却液。
【請求項7】
前記電子部品・デバイスはリチウムイオン電池である、ことを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の浸漬冷却液。
【請求項8】
前記浸漬冷却液は、それに含まれる各成分を混合して撹拌することによって製造される、ことを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の浸漬冷却液。
【請求項9】
前記撹拌の時間は2h~5hである、ことを特徴とする請求項8に記載の浸漬冷却液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、電子部品・デバイスの液冷技術分野に関し、特に、電子部品・デバイス用の植物絶縁油系浸漬冷却液に関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品・デバイスは、電子部品と電子デバイスの総称であり、抵抗器、コンデンサ、インダクタ、半導体分離デバイス、電気音響デバイス、レーザデバイス、光電気デバイス、センサ、電源、集積回路、CPU、プリント回路基板などを含むことができる。
【0003】
IT技術の発展に伴い、CPU、マザーボード、メモリスティック、ハードディスク、電源、プリント回路基板などの電子部品・デバイスの放熱がますます重要になってきている。特に、エネルギー貯蔵市場における現在のリチウムイオン電池の占有率は、絶えず向上しており、リチウムイオン電池のエネルギー貯蔵システムの寿命と安全性を向上させることが極めて重要である。リチウムイオン電池のエネルギー貯蔵システムは、電力及び発熱量が大きく、電池の配列が密で放熱空間が限られているため、熱が速くかつ均一に放出されにくく、電池パックの間の熱の蓄積、動作温度の過大などの現象を引き起こしやすく、それによって電池の寿命及び安全性を損なってしまう。
【0004】
風冷技術に比べて、液冷技術、特に浸漬液冷技術は、搬送熱量が大きく、流動抵抗が低く、熱交換効率が高いという特徴を有し、電子部品・デバイスの放熱技術分野で広く用いられている。例えば、従来技術において植物絶縁油は良好な熱伝達効果を有し、且つ絶縁性であり、高い発火点と引火点を有し、且つ生分解率が95%以上と高いため、主に油浸絶縁の変圧器などの高電圧機器の液冷に適用されており、リチウムイオン電池のエネルギー貯蔵システムへの適用が少なく、その主な原因は、植物絶縁油の主成分がトリグリセリドであり、加水分解反応が起こりやすく、その絶縁性能が劣化してしまうからである。したがって、リチウムイオン電池のエネルギー貯蔵システムに適用した安定性の高い浸漬冷却液を如何に開発することが特に重要となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これに基づいて、従来技術において植物絶縁油の粘度が大きく、流動性が悪く、及び加水分解が起こりやすく、それによってリチウムイオン電池のエネルギー貯蔵システムへの適用に不利であるという問題を解決するために、電子部品・デバイス用の植物絶縁油系浸漬冷却液を提供する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願は、電子部品・デバイス用の植物絶縁油系浸漬冷却液であって、植物絶縁油を含む基油と、ポリオルガノシロキサン系化合物、シリコン系ホスフェート系化合物及びシリコン系ホスファイト系化合物のうちの1つ又は複数の組み合わせを含み、粘度が0.02mm2/s~1.05mm2/sである粘度低下添加剤と、を含む浸漬冷却液を提供する。
【0007】
可能な実施形態では、前記植物絶縁油は、FR3植物絶縁油、NP植物絶縁油、RDB植物絶縁油、VinsOil植物絶縁油、BIOTEMP植物絶縁油、MIDEL植物油、及びPFAE植物絶縁油のうちの1つ又は複数の組み合わせを含む。
【0008】
可能な実施形態では、前記ポリオルガノシロキサン系化合物は、ジメチルジメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルシロキサン、低重合度ジメチルシロキサン、トリメチルシラン、トリメトキシシラン、ペンタメチルジシロキサン、及びメトキシトリエチレンオキシプロピルトリメトキシシランのうちの1つ又は複数の組み合わせを含み、
及び/又は、
前記シリコン系ホスフェート系化合物は、トリス(トリメチルシリル)ホスフェート及びビストリメチルシリル化ビニルホスフェートのうちの1種又は2種の組み合わせを含み、
及び/又は、
前記シリコン系ホスファイト系化合物は、モノ(トリメチルシリル)ホスファイト、トリス(トリメチルシリル)ホスファイト及びジエチルトリメチルシリルホスファイトのうちの1つ又は複数の組み合わせを含む。
【0009】
可能な実施形態では、前記浸漬冷却液は、絶縁性フィラーである無機熱伝導性フィラーをさらに含む。
【0010】
可能な実施形態では、前記無機熱伝導性フィラーは、少なくとも窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化亜鉛及び酸化マグネシウムのうちの1つ又は複数の組み合わせを含む。
【0011】
可能な実施形態では、前記浸漬冷却液において、前記基油の質量パーセントが50%~90%であり、前記デカン系添加剤の質量パーセントが10%~50%であり、前記無機熱伝導性フィラーの質量パーセントが1%~10%である。
【0012】
可能な実施形態では、前記電子部品・デバイスはリチウムイオン電池である。
【0013】
可能な実施形態では、前記浸漬冷却液は、それに含まれる各成分を混合して撹拌することによって製造される。
【0014】
可能な実施形態では、前記撹拌の時間は2h~5hである。
【発明の効果】
【0015】
上記の電子部品・デバイス用の植物絶縁油系浸漬冷却液の有益な効果は、以下のとおりである。
植物絶縁油にポリオルガノシロキサン系化合物、シリコン系ホスフェート系化合物及びシリコン系ホスファイト系化合物のうちの1つ又は複数の組み合わせを添加することにより、これらの粘度低下添加剤の粘度が0.02mm2/s~1.05mm2/sであることから、これらの粘度低下添加剤は植物絶縁油の粘度を効果的に低下させ、その流動性を向上させることができ、それによって当該浸漬冷却液の熱伝達及び熱伝導効果を向上させることができる。一方、これらの粘度低下添加剤にシロキサン結合が含まれており、シロキサン結合の存在は浸漬冷却液中の水分を除去することができ、それによって当該浸漬冷却液の安定性を向上させ、植物絶縁油が加水分解されて絶縁性能が劣化するなどの問題を減少させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本願の上記目的、特徴及び利点をより明確に分かりやすくするために、本願の具体的な実施形態について、以下に詳細に説明する。本願の十分な理解を容易にするために、以下の説明において、多くの具体的な詳細が記載されている。しかし、本願は、本明細書に記載されたものとは異なる多くの他の方式で実施することができ、当業者は、本願の内容に反することなく同様の改良を行うことができる。したがって、本願は、以下に開示される具体的な実施例に限定されない。
【0017】
文脈上別段の要件がない限り、「含む」という用語は、明細書及び特許請求の範囲全体において、オープンで、包含的であるという意味と解釈され、即ち「含むが、限定されない」である。本明細書の記述において、「一実施例」、「いくつかの実施例」、「例示的な実施例」、「例示的に」、又は「いくつかの例」などの用語は、当該実施例又は例に関連する特定の特徴、構造、材料、又は特性が本開示の少なくとも1つの実施例又は例に含まれることを示すことを意図している。上記用語の概略的な表現は、必ずしも同一の実施例又は例を指すわけではない。さらに、前述した特定の特徴、構造、材料、又は特性は、任意の適切な方式で任意の1つ又は複数の実施例又は例に含まれてもよい。
【0018】
「A及び/又はB」は、Aのみ、Bのみ、及びAとBの組み合わせの3つの組み合わせを含む。
【0019】
本明細書において、特に断りのない限り、「1つ以上」は、1つ又は2つ以上を意味する。
【0020】
本明細書において、「例えば」、「など」、「例」、「例示」などは、説明目的のためのものであり、先行技術案と後続技術案との間にカバーした内容に関連性があることを示しているが、先行技術案に対する限定であると理解すべきではなく、また本明細書の保護範囲に対する限定であると理解すべきではない。本明細書において、他に説明がない限り、「A(例えばB)」は、BがAの非限定的な例であることを示しており、AがBに限定されないと理解できる。
【0021】
本明細書において、「選択可能に」、「選択可能な」、「選択可能」は、あってもなくてもよいことをいい、すなわち、「あり」又は「なし」の2つの並列案のいずれかから選択されることをいう。1つの技術案に複数の「選択可能」が存在する場合、特に明記しない限り、且つ矛盾や相互の制約関係がない限り、各「選択可能」は、それぞれ独立している。
【0022】
本明細書において、「選択可能に含む」、「選択可能に包含する」などの記述は、「含むか含まない」を表す。「選択可能な成分X」は、成分Xが存在するか、存在しないか、又は当該成分Xが含まれているか、含まれていないかを示す。
【0023】
本明細書において、「第1態様」、「第2態様」などにおいて、「第1」、「第2」などの用語は、単に説明のためのものであり、相対的な重要性又は数を示すか又は示唆するものと理解されるべきではなく、また示された技術的特徴の重要性又は数を示唆するものと理解されるべきではない。
【0024】
特に定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術的及び科学的用語は、本願の技術分野に属する当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書において本願の明細書で使用される用語は、具体的な実施例を説明するためのものだけであり、本願を限定することを意図していない。
【0025】
本明細書において、オープン形式で説明された技術的特徴には、列挙された特徴からなるクローズドな技術案も含まれ、列挙された特徴を含むオープンな技術案も含まれる。
【0026】
本明細書において、数値区間(即ち数値範囲)について、特に明記しない限り、当該数値区間内の選択可能な数値の分布は、連続的であると見なされ、且つ当該数値区間の2つの数値端点(即ち最小値及び最大値)、並びにこの2つの数値端点の間の各数値を含む。特に明記しない限り、数値区間が当該数値区間内の整数のみを指す場合、当該数値範囲の2つの端点整数、及び2つの端点の間の各整数を含み、各整数を直接列挙することに相当する。特徴又は特性を説明する複数の数値範囲が提供される場合、それらの数値範囲は組み合わされてもよい。換言すれば、特に明記しない限り、本明細書に開示された数値範囲は、その中に含まれる任意の及び全てのサブ範囲を含むものと理解されるべきである。当該数値区間における「数値」は、任意の定量値、例えば、数字、パーセント、割合などであってもよい。「数値区間」は、パーセント区間、割合区間、比値区間などの数値区間タイプを広義に含むことが可能である。
【0027】
本明細書において、温度パラメータについて、特に限定されない限り、恒温処理と一定温度区間での処理の両方を許容する。前記の恒温処理は、機器制御の精度範囲内での温度変動を許容する。
【0028】
本明細書において、「室温」又は「常温」という用語は一般に4℃~35℃、例えば20℃±5℃を指す。本明細書のいくつかの実施例では、「室温」又は「常温」は、10℃~30℃を指す。本明細書のいくつかの実施例では、「室温」又は「常温」は、20℃~30℃を指す。
【0029】
本明細書において、パーセント濃度について、特に明記しない限り、いずれも終濃度を指す。前記終濃度とは、添加成分の、当該成分を添加した系における割合である。
【0030】
エネルギー貯蔵は、電力システムにおけるエネルギー緩衝装置として、エネルギーの迅速な吸収、貯蔵及び放出によって、エネルギーの時空間移動及び変換を実現することができ、再生可能エネルギーの開発が直面するランダム性、間欠性及び変動性などの挑戦を緩和することができる。大容量のリチウムイオン電池のエネルギー貯蔵システムは、新しいエネルギーの高効率利用と伝統的な電力網の改善に対して重要な意義を持っている。エネルギー貯蔵市場におけるリチウムイオン電池の占有率が高まるにつれて、リチウムイオン電池のエネルギー貯蔵システムの寿命及び安全性を向上させることが極めて重要となる。リチウムイオン電池のエネルギー貯蔵システムは、電力及び発熱量が大きく、電池の配列が密で放熱空間が限られているため、熱が速くかつ均一に放出されにくく、電池パックの間の熱の蓄積、動作温度の過大などの現象を引き起こしやすく、それによって電池の寿命及び安全性を損なってしまう。電池の熱管理は、エネルギー貯蔵システムの継続的な安全運転を保証する重要なポイントであり、エネルギー貯蔵システム内部の温度をリチウム電池の運転に最適な温度(10~35℃)に制御し、且つ電池パック内部の温度の均一性を保証することで、電池の寿命の減衰や熱暴走のリスクを低下させ、エネルギー貯蔵の安全、効率、寿命、性能などに重要な役割を果たす。
【0031】
現在のエネルギー貯蔵熱管理の主な技術的手段は、風冷及び液冷である。風冷技術は、気体を冷却媒体として利用し、対流により電池の温度を低下させ、構造が簡単で、メンテナンスが容易で、コストが低いなどの利点を有するが、放熱効率、放熱速度及び均温性が悪く、主にエネルギー貯蔵基地局などの帯電量が小さく、電力密度が小さく、発熱率が低い場合によく見られる。液冷は、液体を冷却媒体とし、対流・熱交換により電池で発生した熱を奪う。現在、媒体としては、水、エチレングリコールや水溶液、フッ素化液及び絶縁油などが一般的である。全体として液冷システムの熱交換係数が高く、比熱容量が大きく、冷却速度が速い。将来の新しいエネルギープラント、オフネットエネルギー貯蔵などのより大きな電池容量、より高いシステム電力密度への需要に伴い、液冷技術の占有率は迅速に上昇する。一般的な液体冷却方式は、コールドプレート式、スプレー式、及び浸漬式の3つを含み、浸漬液冷は、発熱する電子部品を冷却液に直接浸漬し、冷却液が電子部品に直接接触することで熱交換を行って熱を奪い、新規な高効率、環境に優しい省エネルギーの熱管理技術である。
【0032】
浸漬液冷技術の大容量高出力エネルギー貯蔵電池システムへの移行を実現するために、絶縁油を冷却媒体とする油浸液冷技術が迅速に発展し、電池パック全体を冷却液に浸漬し、液体循環によって超低領域温度差(±2℃)を実現し、セルの熱暴走リスクを熱源から低減し、電池の循環寿命を延長する。また、電池システムを空気から完全に分離させ、例えば、一部のセルは熱暴走が発生すると、火に燃えにくくなる難燃性冷却液は、循環を促進して局所的な熱を奪い、電池クラスタの燃焼爆発を防止し、エネルギー貯蔵システムの安全性を向上させ、損失を低減することができる。油浸液冷技術のエネルギー貯蔵電池への広範な適用は、依然として多くの問題に直面しており、特に、セルと直接かつ連続的に接触する冷却液は、その特性によって油浸液冷システムの使用効果に直接的に影響する。
【0033】
植物絶縁油は良好な熱伝達効果を有し、且つ絶縁性であり、高い発火点と引火点を有し、且つ生分解率が95%以上と高く、環境に優しい浸漬液冷技術の冷却液の潜在候補である。現在、植物絶縁油は、主に油浸絶縁の変圧器などの高電圧機器に用いられているが、リチウムイオン電池のエネルギー貯蔵の熱管理への適用が少ない。植物絶縁油の主成分がトリグリセリドであり、加水分解反応が起こりやすく、研究により、加水分解が進むにつれて、植物絶縁油の絶縁破壊電圧が低下し、誘電損失率が増加し、絶縁性能が劣化することが分かった。また、植物絶縁油自体の粘度が大きく、流動性に影響して冷却液の熱伝達効果に影響する。したがって、植物絶縁油を浸漬液冷電池エネルギー貯蔵の冷却液に適用する場合、粘度及び水分含有量の重要な問題を解決することが急務となる。
【0034】
以上に基づいて、第1態様によれば、本願のいくつかの実施例は、電子部品・デバイス用の植物絶縁油系浸漬冷却液を提供し、当該浸漬冷却液は、基油と、粘度低下添加剤と、を含む。ここで、基油は、植物絶縁油を含み、粘度低下添加剤は、ポリオルガノシロキサン系化合物、シリコン系ホスフェート系化合物及びシリコン系ホスファイト系化合物のうちの1つ以上を含み、当該粘度低下添加剤の粘度は、0.02mm2/s~1.05mm2/sである。
【0035】
植物絶縁油にエステル基を有しており、当該エステル基中の酸素原子が水と水素結合を形成することができ、これにより植物油の吸水能力が高く、それによって電子部品・デバイスの水を植物油に吸収させてその特性に影響を与えない。
【0036】
ポリオルガノシロキサン系化合物とは、Si-O-Si結合を主鎖構造として含む重合体であり、このような重合体は、耐高温性、耐低温性、耐酸化性、低粘性係数、耐剪断性、低蒸気圧、低表面張力、撥水性、消泡性、脱型性、電気絶縁性及び生理的不活性などの特徴を有する。
【0037】
シリコン系ホスフェート系化合物は、良好な熱安定性、耐摩耗性、耐薬品性などの優れた性能を有する。
【0038】
本願の実施例にて提供される浸漬冷却液において、植物絶縁油にポリオルガノシロキサン系化合物、シリコン系ホスフェート系化合物及びシリコン系ホスファイト系化合物のうちの1つ又は複数の組み合わせを添加することにより、これらの粘度低下添加剤の粘度が0.02mm2/s~1.05mm2/sであることから、これらの粘度低下添加剤は植物絶縁油の粘度を効果的に低下させ、その流動性を向上させることができ、それによって当該浸漬冷却液の熱伝達及び熱伝導効果を向上させることができる。一方、これらの粘度低下添加剤にシロキサン結合が含まれており、シロキサン結合の存在は浸漬冷却液中の水分を除去することができ、それによって当該浸漬冷却液の安定性を向上させ、植物絶縁油が加水分解されて絶縁性能が劣化するなどの問題を減少させることができる。
【0039】
また、ポリオルガノシロキサン系化合物に比べて、シリルホスホネート系化合物及びシリコン系ホスファイト系化合物は、難燃作用も有し、当該浸漬冷却液の安定性をさらに向上させることができる。
【0040】
いくつかの実施例において、上記植物絶縁油は、FR3植物絶縁油、NP植物絶縁油、RDB植物絶縁油、VinsOil植物絶縁油、BIOTEMP植物絶縁油、MIDEL植物油、及びPFAE植物絶縁油のうちの1つ又は複数の組み合わせを含む。
【0041】
いくつかの実施例において、ポリオルガノシロキサン系化合物は、ジメチルジメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルシロキサン、低重合度ジメチルシロキサン、トリメチルシラン、トリメトキシシラン、ペンタメチルジシロキサン、及びメトキシトリエチレンオキシプロピルトリメトキシシランのうちの1つ又は複数の組み合わせを含む。
【0042】
いくつかの実施例において、シリコン系ホスフェート系化合物は、トリス(トリメチルシリル)ホスフェート及びビストリメチルシリル化ビニルホスフェートのうちの1種又は2種の組み合わせを含む。
【0043】
いくつかの実施例において、シリコン系ホスファイト系化合物は、モノ(トリメチルシリル)ホスファイト、トリス(トリメチルシリル)ホスファイト及びジエチルトリメチルシリルホスファイトのうちの1つ又は複数の組み合わせを含む。
【0044】
いくつかの実施例において、当該浸漬冷却液は、絶縁性フィラーである無機熱伝導性フィラーをさらに含む。
【0045】
これらの実施例では、無機熱伝導性フィラーを添加することにより、浸漬冷却液の熱伝導及び熱伝達効果をさらに向上させることができる。
【0046】
いくつかの実施例において、上記無機熱伝導性フィラーは、少なくとも窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化亜鉛及び酸化マグネシウムのうちの1つ又は複数の組み合わせを含む。
【0047】
これらの実施例では、これらの無機熱伝導性フィラーは、良好な熱伝導及び熱伝達効果を有する。
【0048】
上記植物絶縁油に上記粘度低下添加剤が添加されない場合、酸化アルミニウムは、極性媒体として植物絶縁油の媒体損失と粘度を増加させ、浸漬液冷技術への適用に不利である。これらの実施例では、植物絶縁油に粘度低下添加剤を添加することにより、植物絶縁油の粘度を低下させることができる一方、酸化アルミニウムなどの極性媒体を無機熱伝導性フィラーとして用いる場合、酸化アルミニウムを極性媒体とすることによる植物絶縁油の媒体損失と粘度増加を相殺することができ、それによって当該植物絶縁油の浸漬液冷技術への適用に有利である。
【0049】
いくつかの実施例において、浸漬冷却液において、基油の質量パーセントが50%~90%であり、粘度低下添加剤の質量パーセントが10%~50%であり、無機熱伝導性フィラーの質量パーセントが1%~10%である。
【0050】
いくつかの実施例において、上記電子部品・デバイスはリチウムイオン電池である。
【0051】
これらの実施例では、浸漬冷却液は、大規模なエネルギー貯蔵分野に適用してリチウムイオン電池に良好に液冷を行うことができる。
【0052】
いくつかの実施例において、浸漬冷却液は、それに含まれる各成分を混合して撹拌することによって製造される。
【0053】
これらの実施例では、浸漬冷却液に含まれる各成分を混合して撹拌することにより、浸漬冷却液に含まれる基油、粘度低下添加剤及び無機熱伝導性フィラーを均一に混合することができ、それによって浸漬冷却液冷却の均一性を向上させることができる。
【0054】
いくつかの実施例において、上記撹拌の時間は2~5hである。
【0055】
これらの実施例では、撹拌時間を上記範囲内に制御することにより、均一な浸漬冷却液を製造することができる。
【0056】
第2態様によれば、本願のいくつかの実施例は、第1態様に記載の浸漬冷却液の液冷システムにおける適用を提供する。
【0057】
いくつかの実施例において、液冷システムは、リチウムイオン電池の電池パックと集積され、大流量の浸漬冷却液によって電池パック又は複数の電池モジュールと接触し、且つ循環によって電池パックを放熱し、又は電池モジュール間の熱を再分配することができる。
【0058】
本願の実施例の技術的効果を客観的に評価するために、以下の実施例及び比較例で本願を詳細に例示的に説明する。
【0059】
以下の実施例及び比較例において、全ての原料は、いずれも市販品として入手することができ、実験の信頼性を維持するために、以下の実施例及び比較例で用いた原料は、いずれも同一の物理的及び化学的パラメータを有するか、又は同一の処理方法で製造されたものである。
【0060】
(実施例1)
実施例1にて提供される浸漬冷却液は、FR3植物絶縁油及びジメチルジメトキシシランを含み、質量パーセントで計算すると、FR3植物絶縁油の質量パーセントが90%であり、ジメチルジメトキシシランの質量パーセントが10%であった。上記成分を室温で2h機械的に撹拌して均一にすることにより、当該浸漬冷却液を得た。
【0061】
(実施例2)
実施例2にて提供される浸漬冷却液は、FR3植物絶縁油及びジメチルジメトキシシランを含み、質量パーセントで計算すると、FR3植物絶縁油の質量パーセントが80%であり、ジメチルジメトキシシランの質量パーセントが20%であった。上記成分を室温で2h機械的に撹拌して均一にすることにより、浸漬冷却液を得た。
【0062】
(実施例3)
実施例3にて提供される浸漬冷却液は、FR3植物絶縁油及びジメチルジメトキシシランを含み、質量パーセントで計算すると、FR3植物絶縁油の質量パーセントが50%であり、ジメチルジメトキシシランの質量パーセントが50%であった。上記成分を室温で2h機械的に撹拌して均一にすることにより、浸漬冷却液を得た。
【0063】
(実施例4)
実施例4にて提供される浸漬冷却液は、FR3植物絶縁油及びジメチルジメトキシシランを含み、質量パーセントで計算すると、FR3植物絶縁油の質量パーセントが60%であり、ジメチルジメトキシシランの質量パーセントが40%であった。上記成分を室温で2h機械的に撹拌して均一にすることにより、浸漬冷却液を得た。
【0064】
(実施例5)
実施例5にて提供される浸漬冷却液は、FR3植物絶縁油及びトリス(トリメチルシリル)ホスフェートを含み、質量パーセントで計算すると、FR3植物絶縁油の質量パーセントが50%であり、トリス(トリメチルシリル)ホスフェートの質量パーセントが50%であった。上記成分を室温で2h機械的に撹拌して均一にすることにより、浸漬冷却液を得た。
【0065】
(実施例6)
実施例6にて提供される浸漬冷却液は、FR3植物絶縁油、ジメチルジメトキシシラン及び窒化ホウ素を含み、質量パーセントで計算すると、FR3植物絶縁油の質量パーセントが70%であり、ジメチルジメトキシシランの質量パーセントが20%であり、窒化ホウ素の質量パーセントが10%であった。上記成分を室温で5h機械的に撹拌して均一にすることにより、浸漬冷却液を得た。
【0066】
(実施例7)
実施例7にて提供される浸漬冷却液は、FR3植物絶縁油、ジメチルジメトキシシラン及び窒化ホウ素を含み、質量パーセントで計算すると、FR3植物絶縁油の質量パーセントが74%であり、ジメチルジメトキシシランの質量パーセントが25%であり、窒化ホウ素の質量パーセントが1%であった。上記成分を室温で5h機械的に撹拌して均一にすることにより、浸漬冷却液を得た。
【0067】
(実施例8)
実施例8にて提供される浸漬冷却液は、FR3植物絶縁油、ジメチルジメトキシシラン及びトリス(トリメチルシリル)ホスフェートを含み、質量パーセントで計算すると、FR3植物絶縁油の質量パーセントが70%であり、ジメチルジメトキシシランの質量パーセントが25%であり、トリス(トリメチルシリル)ホスフェートの質量パーセントが5%であった。上記成分を室温で2h機械的に撹拌して均一にすることにより、浸漬冷却液を得た。
【0068】
(比較例1)
FR3植物絶縁油を浸漬冷却液とした。
【0069】
実施例1~7及び比較例1で得られた浸漬冷却液の性能試験を行った。
【0070】
ASTM D7896『過渡熱線液体熱伝導率法によるエンジン冷却材及び関連流体の熱伝導率、熱拡散率及び体積熱容量の標準試験法』に従って熱伝導率試験を行い、熱伝達性能を具現化し、GB/T 6682『分析実験室の水使用規格と試験方法』に従って導電率試験を行い、絶縁性能を具現化し、GB/T 265『石油製品の動粘度測定法と動粘度計算法』に従って動粘度試験を行った。
【0071】
試験結果を下記の表1に示す。
【0072】
【0073】
上記の試験結果から、以下の結論が得られる。
(1)元のFR3植物絶縁油と実施例1とを比較すると、実施例1では浸漬冷却液がより低い粘度を有することから、ポリオルガノシロキサン系化合物が植物絶縁油の粘度を効果的に低下させることができ、浸漬冷却液の流動性を増加させ、消費電力を減少させるのに有利であることが示された。
(2)実施例1、実施例2、実施例3及び実施例4を比較すると、植物絶縁油の含有率が低下するにつれて、浸漬冷却液の粘度は徐々に低下するが、粘度低下添加剤の含有量が増加すると、当該浸漬冷却液の熱伝導率は低下する。
(3)実施例3と実施例5とを比較すると、ポリオルガノシロキサン系化合物の代わりにシリコン系ホスフェート系化合物を用いた場合、浸漬冷却液の特性はあまり変化せず、シリコン系ホスフェート系化合物がポリオルガノシロキサン系化合物の機能を部分的に代替できることが示された。
(4)実施例3、実施例6、実施例7及び実施例8を比較すると、無機熱伝導性フィラー(例えば窒化ホウ素)の添加は、浸漬冷却液の熱伝導性を著しく高めることができるが、過剰な無機熱伝導性フィラーの添加は、浸漬冷却液の粘度に深刻な影響を与え、無機熱伝導性フィラーの添加は適量でなければ冷却液の粘度と熱伝導性のバランスを達成できないことが示された。
【0074】
以上のように、本願は、植物絶縁油を主とする浸漬冷却液を提供する。当該植物絶縁油に粘度低下添加剤を添加することにより、当該粘度低下添加剤は、一方では比較的低い粘度を有し、当該浸漬冷却液の粘度を低下させることができ、他方では、当該粘度低下添加剤にシロキサン結合が含まれ、当該浸漬冷却液中の遊離水を除去することができ、さらに当該浸漬冷却液の安定性を向上させることができる。また、無機熱伝導性フィラーを添加することにより、植物絶縁油の含有量を低減しながら浸漬冷却液の熱伝導性を効果的に向上させることができ、且つ無機熱伝導性フィラー及び粘度低下添加剤の添加量を合理的に設定することにより、当該浸漬冷却液の粘度と熱伝導のバランスを両立させることができる。
【0075】
上記実施例の各技術的特徴は、任意に組み合わせることが可能であり、説明の簡潔化のため、上記実施例の各技術的特徴の全ての可能な組み合わせを記載していないが、これらの技術的特徴の組み合わせに矛盾が生じない限り、本明細書に記載の範囲と考えるべきである。
【0076】
上記実施例は、本願のいくつかの実施形態を示すだけであり、その記述は、より具体的且つ詳細であるが、特許請求の範囲を制限するものと理解することはできない。なお、当業者にとって、本願の概念から逸脱することなく、いくつかの変形及び改良を行うことができ、これらは全て本願の保護範囲内に含まれる。したがって、この特許出願の保護範囲は、添付の特許請求の範囲によって決定されるべきである。