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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025027479
(43)【公開日】2025-02-28
(54)【発明の名称】包装米飯の製造方法、および包装米飯
(51)【国際特許分類】
   A23L 7/10 20160101AFI20250220BHJP
【FI】
A23L7/10 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023132202
(22)【出願日】2023-08-15
(71)【出願人】
【識別番号】523310468
【氏名又は名称】株式会社フレッシュダイナー
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【弁理士】
【氏名又は名称】右田 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100158698
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 基樹
(72)【発明者】
【氏名】吉田 昌弘
【テーマコード(参考)】
4B023
【Fターム(参考)】
4B023LC05
4B023LC08
4B023LE11
4B023LK05
4B023LP05
4B023LP07
4B023LP08
4B023LP18
4B023LP19
4B023LP20
(57)【要約】
【課題】収容されている炊飯米が全体において芯飯感が極めて少なく、且つ、この炊飯米が収容容器から分離し易い包装米飯を提供する。
【解決手段】耐熱性を有する収容容器における収容領域の内表面に食用油脂を噴霧または塗布して、この食用油脂の量がこの内表面に対して0g/cm2超0.008g/cm2以下となるようにコーティングする油脂コーティング工程と、食用油脂がコーティングされたこの収容容器の収容領域に、浸漬処理および液切り処理された浸漬米ならびに水を、水1.0質量部に対して浸漬米が1.3質量部以上2.0質量部以下となるように充填する充填工程と、この充填工程の後に、95℃以上の水蒸気によって、浸漬米を収容領域の内部において5分間以上30分間以下加熱処理する加熱処理工程と、この加熱処理工程の後に、収容領域の内部の品温が70℃以上となっている間にこの収容領域を密封する密封工程と、を備える方法により包装米飯を製造する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐熱性を有する収容容器に炊飯米が収容されて密封されている包装米飯の製造方法であって、
前記収容容器における収容領域の内表面に食用油脂を噴霧または塗布して、前記食用油脂の量が前記内表面に対して0g/cm2超0.008g/cm2以下となるようにコーティングする油脂コーティング工程と、
前記食用油脂がコーティングされた前記収容容器の前記収容領域に、浸漬処理および液切り処理された浸漬米ならびに水を、前記水1.0質量部に対して前記浸漬米が1.3質量部以上2.0質量部以下となるように充填する充填工程と、
前記充填工程の後に、95℃以上の水蒸気によって、前記浸漬米を前記収容領域の内部において5分間以上30分間以下加熱処理する加熱処理工程と、
前記加熱処理工程の後に、前記収容領域の内部の品温が70℃以上となっている間に前記収容領域を密封する密封工程と、を備える、
包装米飯の製造方法。
【請求項2】
前記加熱処理工程が、105℃以上120℃以下の水蒸気によって加熱処理する工程である、請求項1に記載の包装米飯の製造方法。
【請求項3】
前記密封工程が、クラス10000以下の清浄度であるクリーンブース内において前記収容領域を密封する工程である、請求項1または2に記載の包装米飯の製造方法。
【請求項4】
前記密封工程が、前記収容領域の内部を窒素ガス置換して前記収容領域を密封する工程である、請求項1または2に記載の包装米飯の製造方法。
【請求項5】
さらに、前記密封工程の後に、前記収容容器における密封された前記収容領域の内部の品温を20℃以下まで冷却する冷却工程を備える、請求項1または2に記載の包装米飯の製造方法。
【請求項6】
前記充填工程で充填する前記浸漬米が、糯米を含む浸漬米である、請求項1または2に記載の包装米飯の製造方法。
【請求項7】
前記収容容器の前記収容領域は、複数の収容凹部が連結されて形成されている、請求項1または2に記載の包装米飯の製造方法。
【請求項8】
耐熱性を有する収容容器に炊飯米が収容されて密封されている包装米飯であって、
前記炊飯米の一部に食用油脂が付着しており、且つ、前記炊飯米のうち、前記収容容器の収容領域の内表面に接触している前記炊飯米の前記食用油脂の合計付着量が、前記収容容器の前記収容領域の前記内表面に接触していない前記炊飯米の前記食用油脂の合計付着量よりも多い、
包装米飯。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、包装米飯の製造方法、および包装米飯に関する。
【背景技術】
【0002】
炊飯米が収容されて密封されている包装米飯は、そのまま電子レンジ等により加熱して喫食したり、これを利用して簡単に米飯加工食品としたりすることができる利便性の高いものである。そして、このような包装米飯は、例えば、炊飯処理された炊飯米を容器に充填し、密封する方法などにより製造されている。
【0003】
けれども、炊飯処理された炊飯米は、その表面の粘性が高いため、容器に充填する際において付着ロスなどが生じ易く、充填重量を安定させることが難しい。また、製造ロス増加などの問題も生じ易い。そのため、浸漬米を容器に充填し、加水して、容器内に収容された状態で加熱処理して炊飯する製造方法も開発されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、水で洗浄し、水に浸漬して、水切りした米と、有機酸でpH調整した炊水とを、所定の割合となるよう容器に入れて加圧加熱下で炊飯した後、この容器をシールする容器詰め無菌米飯の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001-224321号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、容器内において浸漬米を加熱処理すると加熱ムラが発生し易い傾向があり、その一部に芯飯感(芯のある米粒の食感)が残り易い傾向がある。そして、この容器内の炊飯米が全体において芯飯感が極めて少ないものとなるようにするために加熱処理条件を調整すると、得られる炊飯米の付着性がより高まって、容器から分離しにくくなってしまう(飯離れしにくくなってしまう)場合が多い。つまり、これらを両立させることがかなり難しい。
【0007】
そこで本発明は、収容されている炊飯米が全体において芯飯感が極めて少なく、且つ、この炊飯米が収容容器から分離し易い包装米飯を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本発明者は鋭意検討し、耐熱性を有する収容容器における収容領域の内表面に食用油脂を噴霧または塗布して、この食用油脂の量がこの内表面に対して0g/cm2超0.008g/cm2以下となるようにコーティングする油脂コーティング工程と、食用油脂がコーティングされたこの収容容器の収容領域に、浸漬処理および液切り処理された浸漬米ならびに水を、水1.0質量部に対して浸漬米が1.3質量部以上2.0質量部以下となるように充填する充填工程と、この充填工程の後に、95℃以上の水蒸気によって、この浸漬米を収容領域の内部において5分間以上30分間以下加熱処理する加熱処理工程と、この加熱処理工程の後に、収容領域の内部の品温が70℃以上となっている間にこの収容領域を密封する密封工程と、を備える製造方法により、収容されている炊飯米が全体において芯飯感が極めて少なく、且つ、この炊飯米が収容容器から分離し易い包装米飯を製造できることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は次の<1>~<8>である。
<1>耐熱性を有する収容容器に炊飯米が収容されて密封されている包装米飯の製造方法であって、前記収容容器における収容領域の内表面に食用油脂を噴霧または塗布して、前記食用油脂の量が前記内表面に対して0g/cm2超0.008g/cm2以下となるようにコーティングする油脂コーティング工程と、前記食用油脂がコーティングされた前記収容容器の前記収容領域に、浸漬処理および液切り処理された浸漬米ならびに水を、前記水1.0質量部に対して前記浸漬米が1.3質量部以上2.0質量部以下となるように充填する充填工程と、前記充填工程の後に、95℃以上の水蒸気によって、前記浸漬米を前記収容領域の内部において5分間以上30分間以下加熱処理する加熱処理工程と、前記加熱処理工程の後に、前記収容領域の内部の品温が70℃以上となっている間に前記収容領域を密封する密封工程と、を備える、包装米飯の製造方法。
<2>前記加熱処理工程が、105℃以上120℃以下の水蒸気によって加熱処理する工程である、<1>に記載の包装米飯の製造方法。
<3>前記密封工程が、クラス10000以下の清浄度であるクリーンブース内において前記収容領域を密封する工程である、<1>または<2>に記載の包装米飯の製造方法。
<4>前記密封工程が、前記収容領域の内部を窒素ガス置換して前記収容領域を密封する工程である、<1>~<3>のいずれか1つに記載の包装米飯の製造方法。
<5>さらに、前記密封工程の後に、前記収容容器における密封された前記収容領域の内部の品温を20℃以下まで冷却する冷却工程を備える、<1>~<4>のいずれか1つに記載の包装米飯の製造方法。
<6>前記充填工程で充填する前記浸漬米が、糯米を含む浸漬米である、<1>~<5>のいずれか1つに記載の包装米飯の製造方法。
<7>前記収容容器の前記収容領域は、複数の収容凹部が連結されて形成されている、<1>~<6>のいずれか1つに記載の包装米飯の製造方法。
<8>耐熱性を有する収容容器に炊飯米が収容されて密封されている包装米飯であって、前記炊飯米の一部に食用油脂が付着しており、且つ、前記炊飯米のうち、前記収容容器の収容領域の内表面に接触している前記炊飯米の前記食用油脂の合計付着量が、前記収容容器の前記収容領域の前記内表面に接触していない前記炊飯米の前記食用油脂の合計付着量よりも多い、包装米飯。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、収容されている炊飯米が全体において芯飯感が極めて少なく、且つ、この炊飯米が収容容器から分離し易い包装米飯を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明に係る包装米飯の製造方法の一例を工程図として示したものである。
図2】本発明に係る包装米飯の製造方法に使用する収容容器の一例(トレー容器)の斜視図である。
図3】実施例1で測定された、トレー容器内における加熱処理された米の経過時間毎の品温変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明について説明する。
本発明は、耐熱性を有する収容容器における収容領域の内表面に食用油脂を噴霧または塗布して、この食用油脂の量が内表面に対して0g/cm2超0.008g/cm2以下となるようにコーティングする油脂コーティング工程と、食用油脂がコーティングされたこの収容容器の収容領域に、浸漬処理および液切り処理された浸漬米ならびに水を、水1.0質量部に対して浸漬米が1.3質量部以上2.0質量部以下となるように充填する充填工程と、この充填工程の後に、95℃以上の水蒸気によって、浸漬米を収容領域の内部において5分間以上30分間以下加熱処理する加熱処理工程と、この加熱処理工程の後に、収容領域の内部の品温が70℃以上となっている間にこの収容領域を密封する密封工程と、を備える包装米飯の製造方法、ならびに、耐熱性を有する収容容器に収容されて密封されている炊飯米の一部に食用油脂が付着しており、且つ、この炊飯米のうち、収容容器の収容領域に接触している炊飯米の食用油脂の合計付着量が、収容容器の収容領域に接触していない炊飯米の食用油脂の合計付着量よりも多い包装米飯である。以下においては、これらを「本発明に係る包装米飯の製造方法」、ならびに、「本発明の包装米飯」という場合もある。
なお、本発明に係る包装米飯の製造方法の一例として、図1に製造工程例を示した。
【0013】
最初に、本発明に係る包装米飯の製造方法の各工程等について詳細に説明する。
【0014】
<油脂コーティング工程>
本発明に係る包装米飯の製造方法では、まず、炊飯米を収容および密封包装するための収容容器を準備する。この収容容器は、後述する加熱処理工程で容器内での浸漬米の水蒸気による加熱処理を可能とするために、耐熱性を有する収容容器である必要がある。
ここで、この「耐熱性を有する」とは、上記したように加熱処理に用いる95℃以上の水蒸気に対する耐熱性を有することを意味し、この水蒸気雰囲気下において温度による変形や溶解、破損などが生じないことを意味するが、例えば、95~120℃の水蒸気に対して耐熱性を有する収容容器であると好ましい。
【0015】
この収容容器の形状は、炊飯米(加熱処理前においては浸漬米および水)を収容可能な収容領域を有する限り特に限定されないが、容器上面側(収容容器が載置面に載置された状態での天面側)が開口した凹形状の収容領域を有するトレー容器などが例示される。特に、収容領域が、複数の収容凹部が連結されて形成されている形状であるのがより好ましい。例えば、図2に示されるような、収容領域11が、容器上面側が開口した凹形状の収容凹部15(容器上部側が開口した俵形凹形状の収容凹部15など)が連結部17を介するなどにより2以上連結されて形成されている形状であると好適である。このような収容凹部が複数連結されて形成されている収容領域を有する収容容器であることにより、後述する加熱処理工程において、容器底面側の表面積がより大きくなってこの加熱処理工程での熱交換効率が向上するとともに、容器底面側も含めて収容された浸漬米全体の米粒中心部まで熱が伝わり易くなって、全体に均一に加熱処理し易くなるからである。なお、この形状では、図2に示されるように、複数の収容凹部15が連結されている部位である連結部17にも浸漬米等が収容可能であってもよく、あるいは、収容領域としては一体であるが収容されている浸漬米等は収容凹部毎に区分されるような連結部の形状であってもよい。
【0016】
また、この収容容器の材質も、前述した耐熱性を有するものとすることができる限り特に限定されないが、樹脂により構成された収容容器であると、形状等を設計し易く且つ樹脂フィルムなどを用いてヒートシール等による密封をし易いため好適である。例えば、ポリプロピレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレン樹脂などにより構成された(つまりこれらのいずれかを主原料として50質量%超含む樹脂材料により構成された)収容容器が具体例として示される。特に、ポリプロピレン樹脂により構成された収容容器がより好適である。
【0017】
そして、油脂コーティング工程では、上記のような収容容器(浸漬米などの収容物が収容されていない状態の収容容器)における収容領域の内表面(米と直接接触し得る側の表面)に食用油脂を噴霧または塗布して、この食用油脂の量が内表面に対して0g/cm2超0.008g/cm2以下となるようにコーティングを行う。これにより、炊飯米の状態で収容容器から分離し易い包装米飯とすることができる。また、開口した容器内において浸漬米を水蒸気により加熱処理すると、特に開口側と容器底面側とで加熱ムラが生じ易い傾向があるが、この油脂コーティング工程と後述する所定の密封工程との組み合わせにより、このような容器内において浸漬米を水蒸気により加熱処理する方法を採用しても上記のような加熱ムラが生じ難くなり、且つ、特に容器底面側の内表面付近の炊飯米の芯飯感を低減し易い。そして、収容容器からの分離性も高度に維持される。さらに、前述したような複数の収容凹部が連結されて形成されている収容領域を有する収容容器を用いて油脂コーティングを行うとこれらの効果がより得られ易い。
この食用油脂は、収容領域の内表面に噴霧または塗布してコーティングすることができる食用油脂である限り限定はされないが、常温(5~35℃)において液状である食用油脂であるのが好ましく、常温において液状である食用植物油脂であるのがより好ましい。特に、風味等への影響がより少ないことから、なたね油、米油、ひまわり油、べに花油、大豆油などが好適である。しかしながら、常温で流動性を有する食用動物油脂などを使用することも可能であり、また、常温で固形状の食用油脂を融解させて用いることも可能である。
【0018】
そして、この食用油脂のコーティング量は、上記したように、収容領域の内表面に対して0g/cm2超0.008g/cm2以下となるようにするが、収容容器からの分離性向上効果や密封工程との組み合わせによる内表面付近の炊飯米の芯飯感低減効果などをより発揮し易くなることから、この下限は0.001g/cm2以上であるのがより好ましく、0.002g/cm2以上であるのがさらに好ましく、0.003g/cm2以上であるのがさらに好ましく、0.004g/cm2以上であるのがさらに好ましい。上限は、収容されている炊飯米の食味や食感等を高度に維持する観点から、0.007g/cm2以下であるのがより好ましく、0.006g/cm2以下であるのがさらに好ましい。
ここで、この油脂コーティングは、実質的に収容領域の内表面の全面に対して行われるが、この収容領域の内表面以外の面については油脂コーティングを行う必要はない。例えば、後述する密封工程においてヒートシールを行う場合には、このヒートシールに用いる部位(図2に示されるフランジ部13など)の表面には油脂がコーティングされない構成であるのが好ましい。
【0019】
本発明に係る包装米飯の製造方法では、このような、収容容器における収容領域の内表面に所定量の食用油脂をコーティングする油脂コーティング工程を行うことが、炊飯米が収容容器から分離し易い包装米飯を得るために極めて重要である。つまり、この油脂コーティング工程を行わない場合、浸漬時の水に食用油脂を添加したり浸漬米および水とともに食用油脂を単に収容領域に充填したりしても上記効果が十分に発揮されない。また、この油脂コーティング工程は、前述したように、所定の密封工程との組み合わせにより、開口した容器内において浸漬米を水蒸気により加熱処理する所定の加熱処理工程を経た収容領域の内表面付近の炊飯米について芯飯感を低減させ易いという効果も発揮される。
【0020】
<充填工程>
次に、本発明に係る包装米飯の製造方法では、内表面が油脂コーティングされた収容容器の収容領域に、浸漬処理および液切り処理された浸漬米ならびに水を、水1.0質量部に対して浸漬米が1.3質量部以上2.0質量部以下となるように充填する充填工程を行う。
【0021】
この充填工程で充填する浸漬米に用いる原料米としては、粳米や糯米の玄米、精白米、無洗米などを使用でき、米の品種も含めて特段限定はされない。また、インディカ米などのいわゆる外米を原料米として使用することもできる。なお、本発明に係る包装米飯の製造方法では、この充填工程で充填する浸漬米が糯米を含む浸漬米(糯米100%の浸漬米、あるいは糯米と粳米などの糯米以外の米とが混合された米の浸漬米)でも本発明の効果が発揮されることが特徴である。
ここで、玄米とは、籾から籾殻を取り除いた状態であり且つ胚芽、果皮、種皮および糊粉層(いわゆる米糠)が除去されていない米であり、これを発芽させた発芽玄米も包含される。そして、精白米とは、前述した玄米から胚芽、果皮、種皮および糊粉層が精白により除去された米であり、無洗米とは、前述した精白米から米粒表面に残存している肌糠(粘着性を有する米糠)が除去された米である。
【0022】
そして、本発明に係る包装米飯の製造方法では、充填工程の前準備工程として、上記のような原料米を水に一定時間浸漬させる浸漬処理をして吸水がされた浸漬米を得る浸漬工程を行うが、必要であれば、この原料米を洗米する洗米工程を行い、この洗米工程により洗米された米を浸漬処理しても良い。また、この洗米された米に無洗米などの原料米をさらに混合して浸漬処理を行っても良い。なお、この洗米工程は、原料米の表面の肌糠や汚れなどを水で洗い流して除去する工程であり、公知の方法により常温(5~35℃)の水を用いて原料米の洗米を行えばよい。
また、浸漬工程では、上記のような米(洗米された米など)を常温の水に10~150分間程度浸漬処理して浸漬米を得ることができる。なお、この浸漬処理に用いる水に、天然色素成分、pH調整剤、酸化防止剤などを添加してもよい。そして、液切り(固液分離)を行い、収容容器の収容領域への充填を行う。液切り後の浸漬米の質量は、限定されるものではないが、原料米(洗米および浸漬を行う前の米)の質量に対して110~150質量%程度であるのが好ましい。
【0023】
上記のようにして得られた浸漬米および水の収容容器への充填は、公知の方法により行うことができる。例えば、浸漬米は計量カップなどを用いて充填を行うことができ、水は配管等に接続された計量吐出が可能なノズルなどを用いて充填を行うことができる。そして、水1.0質量部に対して浸漬米が1.3質量部以上2.0質量部以下となるようにして収容容器の収容領域に充填する。この浸漬米の質量は、水1.0質量部に対して1.5質量部以上であるのがより好ましく、また、1.8質量部以下であるのがより好ましい。
なお、この充填工程において、これら以外の成分等(例えば調味料、具材、雑穀など)をあわせて充填してもよいが、この充填工程において浸漬米および水だけを充填する場合、本発明の効果がより発揮され易い。
【0024】
<加熱処理工程>
次に、本発明に係る包装米飯の製造方法では、前述した充填工程の後に、95℃以上の水蒸気によって(水蒸気雰囲気下により)、浸漬米を密封されていない収容領域の内部において5分間以上30分間以下加熱処理する加熱処理工程を行う。つまり、容器内の浸漬米または水に水蒸気が直接接触可能な状態で所定の加熱処理を行う。この水蒸気の温度は98℃以上であるのがより好ましく、100℃超(過熱水蒸気)であるのがさらに好ましく、105℃以上であるのがさらに好ましい。また、加熱処理時間(所定温度の水蒸気雰囲気に曝す時間)は、8分間以上であるのが好ましく、10分間以上であるのがより好ましく、12分間以上であるのがさらに好ましい。この上限は、25分間以下とするのが好ましく、20分間以下とするのがより好ましく、15分間以下とするのがさらに好ましい。
例えば、この加熱処理工程は、95℃以上120℃以下の水蒸気によって加熱処理する工程であるとより好適であり、105℃以上120℃以下の水蒸気(過熱水蒸気)によって加熱処理する工程であるとさらに好適である。このような過熱水蒸気によって直接加熱処理することにより、熱交換効率がより向上し、得られる炊飯米の品質がより向上し易いからである。
【0025】
本発明に係る包装米飯の製造方法では、この容器内での浸漬米の加熱処理として水蒸気での加熱処理を採用し、さらに、他の工程(所定の油脂コーティング工程および密封工程)を組み合わせることによって、収容領域の内表面付近も含めた全体の炊飯米を適度な炊飯状態として芯飯感を低減し且つ収容容器からの分離性を向上させる(これらの両立)という本発明の効果が発揮されるものであって、他の加熱処理を採用した場合にはこの効果が発揮できない可能性がある。
【0026】
<密封工程>
次に、本発明に係る包装米飯の製造方法では、前述した加熱処理工程の後に、収容領域の内部の品温(加熱処理された米の品温)が70℃以上となっている間に収容領域を密封する密封工程を行う。
この密封工程は、加熱処理された米が外気(容器外部の気体)と直接接触できない状態となるような気密性を有する密封を行えばよく、その手段は特段限定されないが、例えば、図2のトレー容器において収容領域11の開口を覆うようにフランジ部13に樹脂フィルム(ポリオレフィン系樹脂により構成されたラミネートフィルムなど)を被せて、フランジ部13においてこのフィルムとフランジ部13をヒートシールする方法などが例示される。このヒートシールの条件は、用いるフィルムや収容容器の材質などによって適宜設計すればよいが、例えば、95℃以上110℃以下で0.5秒間以上3秒間以下シールする(圧着する)条件などが示される。
【0027】
そして、この密封工程では、収容領域の内部の品温(加熱処理された米の品温)が70℃以上となっている間に収容領域を密封する必要がある(ホットシール)。これにより、密封後において、加熱処理された米が密封された収容領域内において緩やかな温度低下をすることとなり、この品温が米澱粉のα化開始温度(61℃)以上に保持される時間が比較的長く確保できることによって米粒の芯部や収容領域の容器底部側の内表面に近い米粒なども含めて米粒のα化が適度に進み、均一なα化と水分の均一性を達成することができ、前述した油脂コーティング工程の効果などとも組み合わさって、得られる炊飯米の全体の食感が優れたものとなる。このため、収容されている炊飯米が全体において芯飯感が極めて少ないものとするために加熱処理工程での加熱処理条件を過度に高くする必要がない。したがって、前述した油脂コーティング工程の効果も含めて、収容容器からの分離性も高度に維持される。加えて、このホットシールにより、保存性を向上させる成分(例えばグリシン、pH調整剤など)が不使用であっても、つまりこのような成分を実質的に含まない場合でも、包装米飯の微生物による汚染を抑制する効果(保存性を向上させる効果)を得られ易い。
なお、この密封時における収容領域の内部の品温は、上記した効果がより発揮され易くなることから、75℃以上であるのがより好ましく、80℃以上であるのがさらに好ましく、85℃以上であるのがさらに好ましく、90℃以上であるのがさらに好ましく、95℃以上であるのがさらに好ましい。
【0028】
また、この密封工程は、クラス10000以下の清浄度であるクリーンブース内において収容領域を密封する工程であるのが好適であり、クラス1000以下の清浄度であるクリーンブース内であるのがさらに好ましく、クラス100以下の清浄度であるクリーンブース内であるのがさらに好ましい。前述したホットシールとの相乗効果により、包装米飯の微生物による汚染を抑制する効果(保存性を向上させる効果)をより得られ易くなるからである。
ここで、この「クラス10000以下の清浄度」とは、FED規格(アメリカ連邦規格)による基準での清浄度であり、1立法フィートあたりの空気中に含まれる粒径0.5μm以上の大きさの粒子数が10000個以下の清浄度を意味する。「クラス1000以下の清浄度」および「クラス100以下の清浄度」も同様である。
【0029】
さらに、この密封工程は、収容領域の内部を窒素ガス置換して収容領域を密封する工程(ガス置換包装、MAP包装)であるのが好適である。つまり、真空処理などの後に窒素ガスに置換された雰囲気下において収容領域を密封する工程、あるいは収容領域の内部の空気を窒素ガスに置換すると同時に収容領域を密封する工程であるのが好ましい。前述したホットシールとの相乗効果により、包装米飯の微生物による汚染を抑制する効果をより得られ易くなり、また、炊飯米の品質(特に香り)も高度に保ち易くなるからである。
【0030】
本発明に係る包装米飯の製造方法は、上記したような油脂コーティング工程、充填工程、加熱処理工程、および密封工程を備えるが、さらに、密封工程の後に、収容容器における密封された収容領域の内部の品温(加熱処理された米の品温)を20℃以下まで冷却する冷却工程を備えていてもよい。この冷却は、20℃以下の雰囲気温度に保管する方法などにより行うことができる。
そして、この冷却温度は、チルド品とする場合などでは、15℃以下であってもよく、10℃未満であってもよく、5℃以下であってもよい。冷凍品とする場合などでは、0℃未満であってもよく、-5℃以下であってもよく、-10℃以下であってもよく、-15℃以下であってもよく、-20℃以下であってもよい。
【0031】
さらに、本発明に係る包装米飯の製造方法では、本発明の効果に大きな影響を与えない範囲において、上記以外の任意の工程を含んでも良い。例えば、流通させる温度帯によっては、紫外線等を用いた殺菌工程などを備えていてもよい。しかしながら、10℃未満(冷凍も含む)の温度において流通販売される包装米飯を製造する場合や、特段の殺菌工程を施さなくても流通温度帯での保存性を担保できるような場合には、このような殺菌工程を省略することも可能である。
なお、前述したように、本発明に係る包装米飯の製造方法の一例として、耐熱性を有する収容容器を準備し、この収容容器の収容領域への所定の油脂コーティングを行い、その収容領域に所定量の浸漬米および水の充填を行い、この収容領域内で所定の水蒸気による所定の加熱処理を行い、その後、クリーンブース内での所定のホットシールによる密封を行い、さらに冷却を行う工程を備える、包装米飯の製造工程例を図1に示した。
【0032】
以上のような本発明に係る包装米飯の製造方法によって製造される包装米飯は、収容されている炊飯米が全体において芯飯感が極めて少なく、且つこの炊飯米が収容容器から分離し易い(飯離れし易い)ものとなる。そして、収容領域全体の炊飯米が十分に炊飯された状態であり且つ食感が優れたものとなる。
【0033】
次に、本発明の包装米飯について詳細に説明する。
【0034】
本発明の包装米飯は、耐熱性を有する収容容器に炊飯米が収容されて密封されている包装米飯であって、この炊飯米の一部に食用油脂が付着しており、且つ、この炊飯米のうち、収容容器の収容領域の内表面に接触している炊飯米(米粒)の食用油脂の合計付着量が、収容容器の収容領域の内表面に接触していない炊飯米(米粒)の食用油脂の合計付着量よりも多いという特徴を有する。このような特徴により、収容されている炊飯米が全体において芯飯感が極めて少ないものであり(収容領域の全体において炊飯米の食感が優れ)、且つ、収容容器から分離し易い包装米飯となっている。そして、このような特徴を有する本発明の包装米飯は、上記した本発明に係る包装米飯の製造方法によって製造することができる。
【0035】
ここで、この耐熱性を有する収容容器とは、前述と同様の意味である。また、収容容器の収容領域の内表面に接触している炊飯米(米粒)の食用油脂の合計付着量は、この内表面に接触している全ての炊飯米の米粒に付着している食用油脂の合計量であり、内表面に接触している全ての米粒を分離回収して油脂分析(ソックスレー抽出など)を行うことにより測定することができる。また、収容容器の収容領域の内表面に接触していない炊飯米(米粒)の食用油脂の合計付着量は、この内表面に接触していない全ての炊飯米の米粒に付着している食用油脂の合計量であり、これも内表面に接触していない全ての米粒を分離回収して油脂分析を行うことにより測定することができる。そして、これらの「付着」には、付着後に米粒内部に浸透している一部の食用油脂も含まれる。さらに、食用油脂については、前述と同様のものであってよい。
【0036】
なお、本発明の包装米飯は、容器内に密封された炊飯米において、上記構成を満たし且つ本発明の効果に大きな影響を与えない範囲において任意の添加成分等を含んでいてもよい。例えば、調味成分や具材、雑穀などを含んでいてもよい。しかしながら、炊飯米および食用油脂のみが密封されている場合(原材料が米、水、および食用油脂のみである場合)に本発明の効果がより発揮され易い。また、流通温度帯は特に限定されず、20℃以下、さらには10℃未満の温度において流通販売される包装米飯などとすることができる。
さらに、本発明の包装米飯は、例えば図2に示すようなトレー容器(複数の収容凹部が連結されて形成された収容領域を備える樹脂製トレー容器)の収容領域に炊飯米が収容され密封されている包装米飯であるのがより好ましい。
【0037】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内において様々な変形が可能である。
【実施例0038】
(実施例1)
図2に示される形状のトレー容器(ポリプロピレン製、廣川社製品)を2つ用意し、これらの収容領域の内表面に、植物油脂(食用なたね油)を、その量がこの内表面に対して0.005g/cm2となるように塗布(コーティング)した。そして、これらの収容領域に浸漬処理および液切り処理された浸漬米(粳米、原料米に対する質量は約120質量%)ならびに水を、水1.0質量部に対して浸漬米が1.73質量部となるように充填し、これらを105℃の過熱水蒸気によって収容領域の内部においてそれぞれ12.5分間加熱処理した。さらに、一方のサンプルはこの加熱処理直後(収容領域内の加熱処理された米の品温は95℃)にポリオレフィン系樹脂により構成されたラミネートフィルム(NASCO社製品)をフランジ部にヒートシール(トップシール)して収容領域を密封した(サンプル1:フィルム有、収容領域内部の品温の計測は可能な状態)。もう一方のサンプルは、フィルムでの密封は行わず、収容領域が開放された状態のままとした(サンプル2:フィルム無)。
【0039】
そして、これらを25℃の雰囲気下で静置して保管しながら、加熱処理直後(0分)から5分毎に収容領域内部の品温(加熱処理された米の品温)を計測した。この結果を下記表1(上段:サンプル1、下段:サンプル2)および図3(丸印:サンプル1、三角印:サンプル2)に示した。
【0040】
【表1】
【0041】
この結果から、加熱処理直後に(加熱処理された米の品温が95℃において)収容領域を密封することで、収容領域内部の品温が61℃(米澱粉のα化開始温度)以上に保持される時間を密封しない場合よりも約8分程度長くすることができることが明らかとなった。
【0042】
(実施例2)
図2に示される形状のトレー容器(ポリプロピレン製、廣川社製品)を3つ用意し、これらの収容領域の内表面に、植物油脂(食用なたね油)を、その量がこの内表面に対して下記表2に記載の量となるように塗布(コーティング)した(サンプル4~6)。そして、油脂コーティングをしていない図2に示される形状のトレー容器(ポリプロピレン製、廣川社製品)も1つ用意し(サンプル3)、これらの収容領域に浸漬処理および液切り処理された浸漬米(粳米、原料米に対する質量は約120質量%)ならびに水を、水1.0質量部に対して浸漬米が1.73質量部となるように充填し、これらを105℃の過熱水蒸気によって収容領域の内部においてそれぞれ12.5分間加熱処理した。さらに、この加熱処理直後(収容領域内の加熱処理された米の品温は95℃)に、クラス1000以下の清浄度であるクリーンブース内においてポリオレフィン系樹脂により構成されたラミネートフィルム(NASCO社製品)をフランジ部にヒートシールして収容領域を密封した。
【0043】
そして、これらのサンプルについて、20℃以下まで冷まして品温が安定した後、収容領域底面への米飯の付着の有無(トレー容器からの分離のし易さ)、ならびに、収容領域底面付近の米飯の品質(外観および食感)を、訓練され識別能力を備えた10名のパネリストにより確認した。さらに、これらを踏まえて、以下の基準(絶対評価)で採点して総合評価も行った。
5:良好
4:概ね良好
3:可
2:やや不良
1:不良
【0044】
この結果(各サンプルの油脂コーティング量および評価結果)を下記表2に示した。
【0045】
【表2】
【0046】
この結果から、収容領域の油脂コーティングをしていないサンプル3は米飯の食感が良好ではあるものの収容領域底面への米飯の付着があり、つまり容器から分離し難いものであった。一方で、収容領域の油脂コーティングをしているサンプル4~6は収容領域底面への米飯の付着がなく、つまり容器から米飯(炊飯米)を分離し易いものであり、且つ収容領域底面付近の米飯の品質が概ね良好であった。特に、収容領域の油脂コーティング量が0.003g/cm2または0.005g/cm2であるサンプル4、5は、収容領域底面への米飯の付着がなく且つ収容領域底面付近を含めた米飯の品質が非常に良好であった。
【0047】
(実施例3)
図2に示される形状のトレー容器(ポリプロピレン製、廣川社製品)を3つ用意し、これらの収容領域の内表面に、植物油脂(食用なたね油)を、その量がこの内表面に対して0.005g/cm2となるように塗布(コーティング)した。そして、これらの収容領域に浸漬処理および液切り処理された浸漬米(粳米、原料米に対する質量は約120質量%)ならびに水を、水1.0質量部に対して浸漬米が1.73質量部となるように充填し、これらを120℃の過熱水蒸気によって収容領域の内部においてそれぞれ12.5分間加熱処理した。さらに、クラス1000以下の清浄度であるクリーンブース内において、この加熱処理後の収容領域内部の品温(加熱処理された米の品温)を確認しながら、品温95℃(加熱処理直後、サンプル9)、品温70℃(サンプル8)、または品温65℃(サンプル7)においてポリオレフィン系樹脂により構成されたラミネートフィルム(NASCO社製品)をフランジ部にヒートシールして収容領域を密封した。
【0048】
そして、これらのサンプルについて、20℃以下まで冷まして品温が安定した後、米飯の品質(芯飯感の残存の有無および米飯全体の食味・食感)を訓練され識別能力を備えた10名のパネリストにより確認した。さらに、これらを踏まえて、以下の基準(絶対評価)で採点して総合評価も行った。
5:良好
4:概ね良好
3:喫食可
2:やや不良
1:不良
【0049】
この結果(各サンプルの評価結果)を下記表3に示した。
【0050】
【表3】
【0051】
この結果および前述した実施例1の結果から、加熱処理後において、収容領域内部の品温が70℃以上となっている間に密封することにより、密封後においてこの収容領域内の米のα化がより進行し易くなり、芯飯感がある米飯の残存が低減して食味・食感の評価がより高まった包装米飯となることが明らかとなった。
【0052】
以上より、本発明に係る包装米飯の製造方法により、容器に収容されている炊飯米が全体において芯飯感が極めて少なく、且つこの炊飯米がこの容器から分離し易い包装米飯を得ることができることが示された。
【符号の説明】
【0053】
100 トレー状収容容器
11 収容領域
13 フランジ部
15 収容凹部
17 連結部
図1
図2
図3