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  • 特開-画像生成方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025027917
(43)【公開日】2025-02-28
(54)【発明の名称】画像生成方法
(51)【国際特許分類】
   G06T 1/00 20060101AFI20250220BHJP
【FI】
G06T1/00 500A
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2023141816
(22)【出願日】2023-08-16
(71)【出願人】
【識別番号】518014405
【氏名又は名称】有限会社ひわだや
(71)【出願人】
【識別番号】304020177
【氏名又は名称】国立大学法人山口大学
(72)【発明者】
【氏名】長 篤志
(72)【発明者】
【氏名】織田 勝己
(72)【発明者】
【氏名】小池 長
【テーマコード(参考)】
5B057
【Fターム(参考)】
5B057CA08
5B057CA12
5B057CA16
5B057CB08
5B057CB12
5B057CB16
5B057CC01
5B057DB02
5B057DB09
5B057DC25
(57)【要約】      (修正有)
【課題】撮影した画像から自然や人工的な対象画像のパワースペクトルの傾きを変えて新たな画像を生成することにより新たな意匠を実現する方法を提供する。
【解決手段】画像生成方法は、対象画像作成ステップと、前記対象画像の空間周波数とスペクトル強度の関係を示すパワースペクトルを算出するパワースペクトル算出ステップと、前記空間周波数と前記スペクトル強度を2軸にとった両対数グラフ上で前記パワースペクトルを直線に近似する直線近似ステップと、前記直線近似ステップで得られた近似線の傾きを変更するパワースペクトルの傾き変更ステップと、前記パワースペクトルの傾き変更ステップにより変更された傾きの画像を生成する画像生成ステップと、を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象画像作成ステップと、
前記対象画像の空間周波数とスペクトル強度の関係を示すパワースペクトルを算出するパワースペクトル算出ステップと、
前記空間周波数と前記スペクトル強度を2軸にとった両対数グラフ上で前記パワースペクトルを直線に近似する直線近似ステップと、
前記直線近似ステップで得られた近似線の傾きを変更するパワースペクトルの傾き変更ステップと、
前記パワースペクトルの傾き変更ステップにより変更された傾きの画像を生成する画像生成ステップ、
とを有する画像生成方法。
【請求項2】
前記対象画像は撮影した画像をグレースケールに変換したものであり、前記対象画像のパワースペクトルを算出し、
前記パワースペクトルの傾き変更ステップで変更した傾きの値でパワースペクトルを定義し、
各空間周波数における位相スペクトルを-πから+πの一様乱数で設定し、
前記パワースペクトルと前記位相スペクトルを入力とし、逆フーリエ変換をして乱数を横方向の1ライン分生成し、
予め測定しておいた対象画像の明度と色相と彩度の情報とを組み合わせて、1ライン分の画像データの色情報として1ライン分のデータを作成し、
前記ラインを縦方向にずらしながら前記対象画像の縦方向分だけ画像データを作成してゆき、これらの画像データを連続させることにより新たな画像を生成することを特徴とする請求項1記載の画像生成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は元になる画像から新たな画像を生成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
元になる画像の空間周波数を利用して画像の画質を向上する技術は数多く知られている。
例えば撮像画像に生じたモアレに対応する空間周波数成分を除去又は低減するといったものが知られている。(例えば、特許文献1参照)
しかし、この技術は対象となる画像の画質を向上する技術であり、新たな画像を生成するものではなかった。
また、木目柄の空間周波数とスペクトル強度の関係を示すパワースペクトル分布を利用する画像評価方法が知られている。(例えば、特許文献2参照)
しかし、この技術は画像を評価する技術であり、新たな画像を生成するものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6877052号公報
【特許文献2】特許第6728887号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の技術では元になる画像の画質を向上させたり、画像を評価したりすることはできるが、元になる画像から新たな画像を生成するための技術ではなかった。
水面の波や砂漠の風紋等の自然の画像や桧皮葺の屋根等の人工物の画像やある種の抽象画が良い印象を与えるのは、それらのパワースペクトルが1/f(パワースペクトルの傾き-1)のゆらぎ成分を有しているからとされている。
これらの良い印象を与える画像のパワースペクトル分布の研究を進める中で、パワースペクトルの傾きを変えることにより、全く異なる印象の画像が得られることを見出した。
また、これらの画像が新しい意匠として利用できることを見出した。
【0005】
本発明は従来の技術では実現できなかった、元になる画像から新たな画像を生成する方法を実現することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上記目的を達成するために、対象画像作成ステップと、前記対象画像の空間周波数とスペクトル強度の関係を示すパワースペクトルを算出するパワースペクトル算出ステップと、前記空間周波数と前記スペクトル強度を2軸にとった両対数グラフ上でパワースペクトルを直線に近似する直線近似ステップと、前記直線近似ステップで得られた近似線の傾きを変更するパワースペクトルの傾き変更ステップと、前記パワースペクトルの傾き変更ステップにより変更された傾きの画像を生成する画像生成ステップ、とを有する構成とした。
【0007】
また、第2の課題解決手段は、前記対象画像は撮影した画像をグレースケールに変換したものであり、前記対象画像のパワースペクトルを算出し、前記パワースペクトルの傾き変更ステップで変更した傾きの値でパワースペクトルを定義し、各空間周波数における位相スペクトルを-πから+πの一様乱数で設定し、前記パワースペクトルと前記位相スペクトルを入力とし、逆フーリエ変換をして乱数を横方向の1ライン分生成し、予め測定しておいた対象画像の明度と色相と彩度の情報とを組み合わせて、1ライン分の画像データの色情報として1ライン分のデータを作成し、前記ラインを縦方向ずらしながら前記対象画像の縦方向分だけ画像データを作成してゆき、これらの画像データを連続させることにより新たな画像を生成する構成とした。
【発明の効果】
【0008】
上述したように本発明の画像生成方法は、対象画像のパワースペクトルの傾きを変えることにより新しい画像を生成することができる。つまり、自然や人工的な対象画像のパワースペクトルの傾きを変えて新たな画像を生成することにより新たな意匠を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】 本発明の実施形態を示す画像生成方法のフローチャート
図2】 パワースペクトルの傾きが-1の画像
図3】 パワースペクトルの傾きが-2の画像
図4】 パワースペクトルの傾きが-0.1の画像
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施の形態を図1に基づいて説明する。
【0011】
(対象画像作成ステップ1)
対象画像は対象物を画像化して作成する。例えば、対象物をデジタルカメラで撮影した画像を使用することができる。
対象画像はRGB画像からグレースケール画像に変換したものでもよいし、彩度や色相の画像をグレー画像に変換して用いても良い。
以下の説明は対象画像としてRGB画像からグレースケール画像に変換した場合で説明する。
対象物としては、特に限定はされないが、人工的に作成したものや自然現象が挙げられる。
【0012】
(パワースペクトル算出ステップ2)
空間周波数の範囲は、特に限定されることはなく任意に設定できる。つまり、空間周波数の範囲は対象画像の種類によっても異なるし、新たに得る画像の利用分野によっても異なるが、人の目に鈍感な高周波数の範囲を除くことが好ましい。
対象画像を横方向に1ライン毎にスペクトル解析を行い、パワースペクトルを算出する。パワースペクトルは空間周波数の帯域に分けて算出することもできる。
パワースペクトルは対象画像の縦方向の幅に渡ってラインを所定のピッチで移動させてライン毎に算出する。
ラインのピッチは任意に設定できるが、対象画像の特徴をとらえられる十分小さなピッチにする必要がある。
また、対象画像の横方向、縦方向は任意に設定できるが、横方向と縦方向は直交することが好ましい。
【0013】
(直線近似ステップ3)
1ライン毎に算出したパワースペクトルに対して、それぞれ空間周波数とスペクトル強度を2軸にとった両対数グラフを直線に近似し、その傾きを求める。直線に近似する方法としては、限定はされないが最小二乗法を用いることが好適である。
対象画像の縦方向の幅に渡って求められた、ライン毎の直線の傾きの頻度分布を作成し対象画像全体の直線の傾きを算出することができる。算出する方法としては、限定はされないが、例えば、最頻値で求めることができる。
また、直線の傾きは空間周波数を帯域に分けて求めることもできる。
【0014】
(パワースペクトルの傾き変更ステップ4)
傾きは任意に変更することができる。つまり、傾きが-1ではない場合に-1に変更することができる。また、傾きを-1から大きく離れた数値、例えば-0.05~-3.5の間の数値とすることもできる。
つまり、任意の傾きを異なる傾きに変更することができる。
【0015】
(画像生成ステップ5)
対象画像から新たな画像は以下の手順で生成する。
まず、直線近似ステップで得られた傾きの値や、パワースペクトル傾き変更ステップで変更した傾きの値でパワースペクトルの傾き-αを設定し、パワースペクトルP=f-αを定義する。パワースペクトルの直流成分(f=0)は0とする。周波数帯毎にパワースペクトルの傾き-αを設定する場合は、作成する画像のパワースペクトルPを周波数f(帯域i)に対してP=A×f(帯域i)-αiとする。パワースペクトルの直流成分(f=0)は0とし、各周波数帯域の境界となる周波数においてパワースペクトルが連続するようにAを設定することができる。
ここで、パワースペクトルは必ずしも連続するようにする必要はないが、連続させた方が自然な画像を生成することができる。
また、設定した帯域の傾きだけを用いて新たな画像を生成することもできる。
【0016】
次に、各周波数における位相スペクトルを-πから+πの一様乱数で設定する。
続いて、パワースペクトルと位相スペクトルを入力とし、逆フーリエ変換をして乱数を1ライン分生成する。
さらに、対象画像の平均濃淡(明るさ)の平均と標準偏差を設定し、上記乱数の各値の平均と標準偏差をそれぞれの値に合わせる。その値の配列を1ライン分の明るさとし、予め測定しておいた元となる画像の平均色相と平均彩度とを組み合わせて、1ライン分の画像データ(色情報)とする。
ただし、色相と彩度に対しても上述の濃淡(明るさ)と同様の処理を行って乱数を生成した場合、これらの乱数の値を組み合わせて1ライン分の画像データ(色情報)とする。
以上で1ライン分のデータが作成される。ラインをずらしながら対象画像の縦方向分だけ画像データを作成してゆく。
これらの画像データを連続させることにより新たな画像が生成される。
【実施例0017】
(対象画像作成ステップ1)
対象となる画像を得るために、桧皮パネルを作成した。
桧皮パネルを作成するために、桧の樹皮を長さ30mm、幅10mm~30mmに切断して桧皮チップを製作した。ここで、長さとは桧の樹皮の長さ方向(繊維に平行方向)の寸法である。
厚さ5.5mm、縦600mm、横960mmの合板の上端部に桧皮チップを隙間なく1列に並べて接着し、その上に1列目の桧皮チップの上端から12mmずらして2列目の桧皮チップを隙間なく並べて接着した。桧皮チップを並べた方向を横方向、桧皮の長さ方向を縦方向とする。
このように順次桧皮チップの列を接着して600mm×960mmの桧皮パネルを作成した。
上記桧皮パネルをデジタルカメラで撮影したものを元となる画像とした。
【0018】
(パワースペクトル算出ステップ2)
空間周波数の範囲を1.04サイクル/m(以下c/mと表す)以上460c/m以下として対象となる画像の横方向1ライン毎にスペクトル解析を行い、それぞれの空間周波数とスペクトル強度の関係を示すパワースペクトルを算出した。
対象画像は元となる画像のRGB画像からグレースケール画像に変換したものであり、各画素が256諧調で表した。
対象画像の解像度は0.920ピクセル/mmとした。ピクセル数は縦883ピクセル、横1178ピクセルとした。
【0019】
長さ(mm)については対象画像における1ピクセルの幅を、上述した解像度で対応する実空間の長さに変換して用いた。また、1.04c/m間隔の空間周波数ごとにスペクトル強度を算出してスペクトル分布とした。
【0020】
(直線近似ステップ3)
画像横方向1ライン毎に算出したパワースペクトルに対して、それぞれ空間周波数とスペクトル強度を2軸にとった両対数グラフ上で最小二乗法を用いて直線に近似した。そして、直線の傾きの頻度分布を作成した。
周波数の範囲を設定し、それぞれの範囲における直線の傾きの最頻値を求めたところ、波数1~10c/mで-0.9~-1.0、10~100c/mで-0.9~-1.0、100c/m以上で-2.4~-2.5であった。
つまり、波数1~100c/mで人が心地よいと感じる自然なゆらぎ成分を有していることが分かった。
【0021】
(パワースペクトルの傾き変更ステップ4)
次に実物の桧皮パネルと類似のパワースペクトルの特徴を持つ画像を生成した。ただし、桧皮パネルにおいて自然なゆらぎ成分を持つ波数1~100c/mの範囲におけるスペクトルの傾きを変更した。
図2は波数1~100c/mの範囲におけるスペクトルの傾きが-1の対象画像、図3は傾き-2の画像、図4は傾き-0.1の画像である。これらの画像のパワースペクトルにおいて100c/m以上の傾きは-2.5とした.
画像の生成手法を述べる。画像は以下の手順により上から横方向1ラインずつ画像データを作成していった。
【0022】
(画像生成ステップ5)
1.周波数帯域毎にパワースペクトルの傾き-αを設定し、作成する画像のパワースペクトルPを、周波数fに対してP=A×f-αとする。このときパワースペクトルの直流成分(f=0)は0とし、各周波数帯域の境界となる周波数においてパワーが連続するようにAを設定した。
2.各周波数における位相スペクトルを-πから+πの一様乱数で設定する。
3.パワースペクトルと位相スペクトルを入力とし、逆フーリエ変換をすることによって乱数を1ライン分生成した。
4.乱数の各値の平均値と標準偏差が実物の桧皮パネルの平均濃淡値(明るさ)と標準偏差に等しくなるように乱数の各値を調製した。
5.手順4で作成した値の配列を1ライン分の明るさとし、あらかじめ測定しておいた実物の桧皮パネルの平均色相と平均彩度とを組み合わせて、1ライン分の画像データ(色情報)とした。
6.手順5で作成した1ライン分の画像データを,葺足(桧皮を上下にずらす幅)分だけ複製した。
7.桧皮の重なり部分を表現するため,灰色のラインを追加した。
8.手順2から7を必要なだけ繰り返した。
【0023】
(画像の評価)
得られた新たな画像を年齢22~25の大学生20名に対して印象評価を行った。
図2の画像に関する印象評価は「木らしい」「自然な」「上品な」「好ましい」であったのに対し、図3の画像では「上品な」「好ましい」印象はそのままに「木らしくない」「人工的な」印象に近づき、図4の画像では「木らしくない」「人工的な」印象を与えると共に上品さや好ましさが低下した。
【0024】
このように元となる画像の印象とは大きく異なる印象の画像が得られた。つまり、近似線の傾きを変えることにより、新たな印象の画像が得られる。
【0025】
以上の実施例では近似線の傾きが-1となる画像を対象にしたが、近似線の傾きが-1とは異なる画像を対象として、近似線の傾きが-1となる画像を得ることも可能である。
【0026】
また、近似線の傾きが-1に近い画像としては波や雲、桧皮葺きや瓦葺きの伝統的な日本家屋の屋根等多く知られている。これらを元になる画像として新たな画像を生成することができる。
また、対象となる画像によって適切な空間周波数の範囲を選ぶこともできる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
元となる画像から新たな画像をコンピューターの中で生成することができる。つまり、一つの画像から無数の新たな画像を生成することができ、ユーザーのニーズに合った画像を得ることができる。
この技術を利用することにより、例えば新たな壁クロスの意匠を実現できる。また、天然の木材とは異なる印象の木目の内装材を製造することができる。
さらに、パワースペクトルの傾きが-1から離れた対象となる画像の傾きを-1に変更して、人が心地よく感じる意匠を作り出すこともできる。
【符号の説明】
【0028】
1 対象画像作成ステップ
2 パワースペクトル算出ステップ
3 直線近似ステップ
4 パワースペクトルの傾き変更ステップ
5 画像生成ステップ
図1
図2
図3
図4