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▶ 三栄源エフ・エフ・アイ株式会社の特許一覧

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025003033
(43)【公開日】2025-01-09
(54)【発明の名称】炭酸感増強方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 2/00 20060101AFI20241226BHJP
   A23L 2/54 20060101ALI20241226BHJP
   A23L 2/56 20060101ALI20241226BHJP
   C12G 3/04 20190101ALI20241226BHJP
   A23L 2/02 20060101ALI20241226BHJP
【FI】
A23L2/00 B
A23L2/00 T
A23L2/54
A23L2/56
C12G3/04
A23L2/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023103478
(22)【出願日】2023-06-23
(71)【出願人】
【識別番号】000175283
【氏名又は名称】三栄源エフ・エフ・アイ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】石原 清香
(72)【発明者】
【氏名】堀井 謙
(72)【発明者】
【氏名】幸野 将也
【テーマコード(参考)】
4B115
4B117
【Fターム(参考)】
4B115LG02
4B115LH11
4B115LP02
4B117LC02
4B117LC03
4B117LG02
4B117LK04
4B117LK06
4B117LK07
4B117LK08
4B117LK12
4B117LL01
(57)【要約】      (修正有)
【課題】炭酸飲料に対して炭酸感を増強するための技術を提供する。
【解決手段】炭酸飲料に苦味物質、ピぺリン、メンチルエステル及びフーゼルオイルを配合する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭酸飲料の炭酸感を増強する方法であって、炭酸飲料に苦味物質、ピぺリン、メンチルエステル及びフーゼルオイルを配合することを特徴とする、前記方法。
【請求項2】
苦味物質、ピぺリン、メンチルエステル及びフーゼルオイルを含有する、炭酸飲料に対する炭酸感増強剤。
【請求項3】
メンチルエステルがメンチルイソバレレート、メンチルラクテート、メンチルアセテート及びメンチル 3-ヒドロキシブチレートからなる群より選択される1種以上である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
苦味物質、ピぺリン、メンチルエステル及びフーゼルオイルを含有する、炭酸飲料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭酸飲料に対する炭酸感を増強する方法に関する。また、炭酸飲料に対する炭酸感増強剤に関する。また、炭酸感が増強された炭酸飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
炭酸飲料は、飲用時に炭酸ガスによる特有の爽快な刺激が得られ、広く普及している飲料である。炭酸飲料の炭酸ガスがもたらすこのような炭酸感を増強するためには、炭酸ガスの注入圧を高めるとよいが、容器の耐圧性、開栓後に炭酸ガスが脱気した場合に飲料の炭酸感が不足することがある等の問題がある。
【0003】
特許文献1には、ピペリンを含むブラックペッパー抽出物が炭酸飲料の炭酸感を増強することが開示されている。特許文献2には、ナリンギン等が炭酸飲料の炭酸感を増強することが開示されている。特許文献3には、乳酸メンチル等が炭酸飲料の炭酸感を増強することが開示されている。
しかし、苦味物質、ピぺリン、メンチルエステル及びフーゼルオイルを組み合わせることで、炭酸飲料が有する炭酸感をより一層増強できることは知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-12-623号公報
【特許文献2】特開2017-104046号公報
【特許文献3】特開2021-93949号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、炭酸飲料が有する炭酸感を増強する方法、炭酸感増強剤、及び炭酸感が増強された炭酸飲料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意検討を重ねていたところ、炭酸飲料に苦味物質、ピぺリン、メンチルエステル及びフーゼルオイルを添加することで、実際よりも多くの炭酸が含まれているかの如く、炭酸感が増強されることを見出した。
本発明は下記の実施形態を有する。
【0007】
(I)炭酸飲料の炭酸感増強方法
炭酸飲料の炭酸感を増強する方法であって、炭酸飲料に苦味物質、ピぺリン、メンチルエステル及びフーゼルオイルを配合することを特徴とする、前記方法。
【0008】
(II)炭酸感増強剤
苦味物質、ピぺリン、メンチルエステル及びフーゼルオイルを含有する、炭酸飲料に対する炭酸感増強剤。
【0009】
(III)炭酸飲料
苦味物質、ピぺリン、メンチルエステル及びフーゼルオイルを含有する、炭酸飲料。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、炭酸飲料が有する炭酸感を増強する方法を提供できる。かかる方法によれば、実際の炭酸濃度よりも強く炭酸感を感じることができる炭酸飲料を調製し、提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(I)用語の説明
炭酸感とは、炭酸飲料を口腔内に入れた際に感じる炭酸特有の感覚をいう。本発明が対象とする「炭酸感」は、前記の炭酸感のうち、炭酸飲料を摂取する際に舌に感じられるピリピリとした刺激である。
【0012】
本発明において「炭酸感の増強」とは、本来含有する炭酸ガスのガス圧以上の炭酸ガスが含まれているかのような感覚を飲用者に与えることである。
【0013】
本発明は、苦味物質、ピぺリン、メンチルエステル及びフーゼルオイルを有効成分とすることを特徴とする。
【0014】
(苦味物質)
苦味物質は、飲料に配合することによって味覚に苦味を知覚せしめる物質であれば特に制限されず、天然物を抽出した物を用いることもできるし、市販される食品添加物(苦味料など)を配合することもできる。具体的には、例えば、ナリンギン、糖転移ナリンギン、キナ抽出物、苦丁茶抽出物、クエン酸エステル類(例えトリブチルシトレート、トリエチルシトレート等)、クワシン、ホップ由来成分、カフェイン等を挙げることができるが、ナリンギン、糖転移ナリンギン、キナ抽出物、苦丁茶抽出物及びトリブチルシトレートからなる群より選択される1種以上を用いることが好ましい。
ナリンギンは、ナリンゲニン(5,7,4´-トリヒドロキシフラバノン)の7位の水酸基にL-ラムノシル-(α1→2)-グルコースがβ結合した構造を有するフラボノイド配糖体の一種であり、柑橘果皮などに多く含まれる苦味を呈する化合物であって、ナリンジンとも呼ばれる。また、酵素処理によりナリンギンにグルコースを付加することで水溶性を向上させた糖転移ナリンギンも知られており、市販品としては例えば林原株式会社製の「ナリンビッド」が挙げられる。 キナ抽出物は、例えば、キナ属植物〔例えば、アカキナ(Cinchona succirubra)〕の樹皮などと、精製水、エチルアルコール、1,3-ブチレングリコールなどの抽出溶媒とを用いて抽出を行なうことによって得られ、市販品を用いてもよい。
苦丁茶抽出物は、例えば、苦丁茶の基原植物の一部又は全部を水蒸気蒸留し、水蒸気蒸留工程後に残った基原植物の一部又は全部を、水又は水と水溶性有機溶媒との混合液を用いて抽出処理し、抽出液を回収することによって得られ、市販品を用いてもよい。
トリブチルシトレートは、ヒドロキシ酸エステル類のなかのクエン酸エステル類の1種である。
【0015】
(ピペリン)
ピペリンは、コショウの辛味の主要成分である。コショウの果実をそのまま、あるいは必要に応じて、乾燥、破砕、粉砕処理等を行った後に抽出することにより得られる。抽出処理方法は、特に限定されず、常法に従って行うことができる。
【0016】
(メンチルエステル)
メンチルエステルは、例えば、メンチルプロピオネート、メンチルヘプタノエート、メンチルノナノエート、メンチルバレレート、メンチルイソバレレート、メンチルラクテート、メンチルアセテート、メンチルフェニルアセテート、メンチルカプリレート、メンチルブチレート、メンチル 3-ヒドロキシブチレート、メンチルカプレート、メンチルカプロエート、メンチル 2-メチルブチレートなどが挙げられ、メンチルイソバレレート、メンチルラクテート、メンチルアセテート及びメンチル 3-ヒドロキシブチレートからなる群より選択される1種以上を用いることが好ましい。
【0017】
(フーゼルオイル)
フーゼルオイルは、デンプンや糖類の発酵でエタノールをつくる際、精製時の副産物として分離される高級アルコールの混合物である。
【0018】
上記有効成分は個々に炭酸飲料に配合してもよいし、製剤化したものを配合してもよく、その添加方法は、特に制限はされない。例えば、炭酸飲料に本発明に係る有効成分をそのまま添加することができるが、水、アルコール、グリセリン、プロピレングリコール等の単独又は混合の溶剤に溶解させた希釈液剤として炭酸飲料に添加してもよい。また、例えば、本発明に係る有効成分を、天然香料・合成香料などを原料素材とする香料組成物に配合した製剤として炭酸飲料に添加してもよく、更に、例えば、上記有効成分をデキストリン等の賦形剤を用いて噴霧乾燥した粉末製剤として炭酸飲料に添加してもよい。
【0019】
上記有効成分は、炭酸飲料の製造に際して原料の一つとして用いることができる。または、炭酸飲料を飲用する際に、これらの飲料に添加して用いることができる。
こうすることで、炭酸飲料が有する炭酸感が増強され、本来含有する炭酸ガスのガス圧以上の炭酸ガスが含まれているかのような感覚を飲用者に与えることができる。
【0020】
炭酸飲料への苦味物質の配合量としては特に制限されないが、苦味物質がナリンギン及び/又は糖転移ナリンギンの場合は1~100ppmの範囲を挙げることができ、好ましくは2~50ppm、より好ましくは5~30ppmである。また、苦味物質がキナ抽出物の場合は、10~600ppmの範囲を挙げることができ、好ましくは30~500ppm、より好ましくは50~300ppmである。また、苦味物質が苦丁茶抽出物の場合は、5~500ppmの範囲を挙げることができ、好ましくは10~300ppm、より好ましくは30~200ppmである。また、苦味物質がトリブチルシトレートの場合は、0.5~100ppmの範囲を挙げることができ、好ましくは1~50ppm、より好ましくは2~20ppmである。
【0021】
炭酸飲料へのピペリンの配合量としては、0.02~5.0ppmの範囲を挙げることができる。好ましくは0.05~3.0ppm、より好ましくは0.1~2.0ppmである。
【0022】
炭酸飲料へのメンチルエステルの配合量としては特に制限されないが、メンチルエステルがメンチルイソバレレート、メンチルラクテート、メンチルアセテート及びメンチル 3-ヒドロキシブチレートからなる群より選択される1種以上である場合は0.001~0.5ppmの範囲を挙げることができ、好ましくは0.002~0.2ppm、より好ましくは0.005~0.1ppmである。
【0023】
炭酸飲料へのフーゼルオイルの配合量としては、0.1~20ppmの範囲を挙げることができる。好ましくは0.2~15ppm、より好ましくは0.5~10ppmである。
【0024】
本発明において「炭酸飲料」とは、飲料を製造する工程のいずれかの段階において炭酸ガスを含有させた清涼飲料であれば制限されない。例えば、コーラ飲料、透明炭酸飲料、果汁入り炭酸飲料、果実着色炭酸飲料、乳類入り炭酸飲料、炭酸水及び栄養ドリンク炭酸飲料が挙げられる。具体的にはサイダー、ラムネ、コーラ、ジンジャーエール、トニックウォーター、クリームソーダ、フルーツソーダ等である。発泡性酒類(例えば、ビール、発泡酒、その他酒類のうちアルコール分が10度未満で発泡性を有するもの);酒類をベースとして炭酸ガスまたは炭酸ガス入り飲用水を加えて調製されるアルコール含有炭酸飲料(例えば、チューハイ、ハイボール、スパークリングワイン等);発泡性酒類又はアルコール含有炭酸飲料に擬似したアルコールテイストを有しながらも、エタノール濃度が0.05体積%未満であるアルコールテイスト炭酸飲料(例えば、ビールテイスト飲料、発泡酒テイスト飲料、チューハイテイスト飲料、ノンアルコールスパーリングワイン等)が含まれる。
【0025】
炭酸飲料に含有させる炭酸ガスのガス圧は、特に制限はなく一般のガス圧でよい。具体的には0.2kg/cm~4kg/cm程度(20℃時)が例示できる。本発明により炭酸感が増強できることから、通常よりも低めに設定することも任意で可能である。炭酸ガスのガス圧が0.2kg/cm以下になると、炭酸飲料特有の発泡による爽快感が減少し、4kg/cm以上とすると飲料中に炭酸ガスを溶解させておくことが困難となり、好ましくない。
【0026】
炭酸ガスは、通常の方法により、予め炭酸ガスを溶解させた高圧ソーダ水を用いて希釈するか、カーボネーターにより所定のガス圧まで炭酸ガスを溶解させて飲料に含有させることができる。
【0027】
本発明に係る有効成分を含有することで炭酸飲料の炭酸感が増強されているか否かは、本発明に係る有効成分を配合した飲料と、本発明に係る有効成分を配合しない以外は同じ飲料(対照飲料)とを飲み比べることで評価することができる。その詳細は、後述する実験例の記載を参照することができ、それに基づいて実施することができる。対照飲料と比較して、炭酸感が増強されていれば、本発明に係る有効成分を含有することで炭酸飲料の炭酸感が増強されていると判断することができる。
【0028】
本発明による炭酸飲料は、好ましくは、容器詰飲料として提供される。本発明による炭酸飲料に使用される容器は、飲料の充填に通常使用される容器であればよく、例えば、金属缶、樽容器、プラスチック製ボトル( 例えば、PETボトル、カップ)、紙容器、瓶、パウチ容器等が挙げられるが、好ましくは、金属缶、プラスチック製ボトル、瓶である。
【0029】
以上、本明細書において、「含む」及び「含有する」の用語には、「からなる」及び「から実質的になる」という意味が含まれる。
【実施例0030】
以下、本発明の構成及び効果について、その理解を助けるために、実験例を用いて本発明を説明する。但し、本発明はこれらの実験例によって何ら制限を受けるものではない。
以下の実験は、特に言及しない限り、室温(25±5℃)、及び大気圧条件下で実施した。
【0031】
また、各実験例で採用した被験者はいずれも、飲食品の風味やフレーバーの官能評価に従事し訓練して社内試験に合格した官能評価適格者である。各被験者は各実験にあたり、被験対象の飲料のうち、コントロール飲料を飲用し、各飲料の炭酸感(炭酸飲料を摂取する際に舌に感じられるピリピリとした刺激)を確認し、被験者間同士でその感覚とその程度を確認しあった後、評価基準を摺り合わせて、各自の内的基準が互いに等しくなるように調整した。
【0032】
以下の実験例で使用した原料は下記の通りである。
(1)ナリンギン
(2)ピペリン
(3)メンチルイソバレレート
(4)フーゼルオイル
イソペンタノール70~85%、イソブタノール10~25%、ブタノール1~3%、プロパノール1~10%、エタノール1%未満の割合で含む。
【0033】
実験例1 炭酸水の炭酸感増強効果の評価
市販の炭酸水(ガス圧3.65kg/cm)に表1に記載する素材を添加した被験試料(実施例1、比較例1-1~1-4)を調製し、5℃に冷却しておいた被験試料を開封した直後に、5名の被験者に各被験試料を摂取させた。
【0034】
【表1】
【0035】
被験試料の炭酸感の強さを、下記の基準に従い各被験者にスコアを付けさせた。
[評価基準]
3点:コントロール(参考例1)よりも炭酸感を有する。
2点:コントロール(参考例1)よりもやや炭酸感を有する。
1点:コントロール(参考例1)と同等の炭酸感を有する。
【0036】
被験試料の評価結果を表2に示す。
【0037】
【表2】
【0038】
表2に示すように、各素材を単独で添加した比較例1-1~1-4に比べ、素材を組み合わせて添加した実施例1-1では炭酸感を増強する効果が優れることが確認された。
【0039】
実験例2 果汁入り炭酸飲料の炭酸感増強効果の評価
被験試料(実施例2-1及び2-2)として、表3及び4に記載する素材を添加した果汁入り炭酸飲料を調製し、5℃に冷却しておいた被験試料を開封した直後に、実験例1と同様に、5名の被験者に各被験試料を摂取させ、被験試料の炭酸感の強さを評価させた。
【0040】
【表3】
【0041】
【表4】
【0042】
被験試料の炭酸感の強さを、下記の基準に従い各被験者にスコアを付けさせた。
[評価基準]
3点:コントロール(参考例2)よりも炭酸感を有する。
2点:コントロール(参考例2)よりもやや炭酸感を有する。
1点:コントロール(参考例2)と同等の炭酸感を有する。
【0043】
被験試料の評価結果を表5に示す。
【0044】
【表5】
【0045】
表5に示すように、素材を組み合わせて添加した実施例2では炭酸感を増強する効果が優れることが確認された。
【0046】
実験例3 炭酸入りアルコール飲料の炭酸感増強効果の評価
被験試料(実施例3)として、表6及び7に記載する素材を添加した炭酸入りレモンチューハイ(アルコール度数3%換算)を調製し、5℃に冷却しておいた被験試料を開封した直後に、実験例1と同様に、5名の被験者に各被験試料を摂取させ、被験試料の炭酸感の強さを評価させた。
【0047】
【表6】
【0048】
【表7】
【0049】
被験試料の炭酸感の強さを、下記の基準に従い各被験者にスコアを付けさせた。
[評価基準]
3点:コントロール(参考例3)よりも炭酸感を有する。
2点:コントロール(参考例3)よりもやや炭酸感を有する。
1点:コントロール(参考例3)と同等の炭酸感を有する。
【0050】
被験試料の評価結果を表8に示す。
【0051】
【表8】
【0052】
表8に示すように、素材を組み合わせて添加した実施例3では炭酸感を増強する効果が優れることが確認された。