(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025039874
(43)【公開日】2025-03-21
(54)【発明の名称】豆類タンパク質由来の豆臭マスキング剤
(51)【国際特許分類】
A23L 27/00 20160101AFI20250313BHJP
A23L 27/20 20160101ALI20250313BHJP
A23L 11/00 20250101ALI20250313BHJP
A23L 13/00 20160101ALI20250313BHJP
A23L 9/10 20160101ALI20250313BHJP
A61Q 13/00 20060101ALI20250313BHJP
A61K 8/49 20060101ALI20250313BHJP
A61K 47/22 20060101ALI20250313BHJP
A61K 8/63 20060101ALI20250313BHJP
A61K 47/14 20170101ALI20250313BHJP
A61K 8/33 20060101ALI20250313BHJP
A61K 47/08 20060101ALI20250313BHJP
A61K 8/37 20060101ALI20250313BHJP
A61K 8/34 20060101ALI20250313BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20250313BHJP
A23J 3/14 20060101ALN20250313BHJP
C07D 493/08 20060101ALN20250313BHJP
C07D 307/33 20060101ALN20250313BHJP
C07D 309/40 20060101ALN20250313BHJP
C07D 317/54 20060101ALN20250313BHJP
C07D 307/48 20060101ALN20250313BHJP
【FI】
A23L27/00 Z
A23L27/20 D
A23L11/00 F
A23L11/00 A
A23L13/00 Z
A23L9/10
A61Q13/00 101
A61K8/49
A61K47/22
A61K8/63
A61K47/14
A61K8/33
A61K47/08
A61K8/37
A61K8/34
A61K47/10
A23J3/14
C07D493/08
C07D307/33
C07D309/40
C07D317/54
C07D307/48
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2025006468
(22)【出願日】2025-01-16
(62)【分割の表示】P 2020522597の分割
【原出願日】2019-05-30
(31)【優先権主張番号】P 2018105589
(32)【優先日】2018-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000175283
【氏名又は名称】三栄源エフ・エフ・アイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】越前谷 一成
(72)【発明者】
【氏名】大畑 都子
(72)【発明者】
【氏名】桐村 朋奈
(57)【要約】
【課題】豆由来タンパク質を用いて加工食品、医薬品または医薬部外品を調製した際に知覚される豆由来のにおいを抑制すること。
【解決手段】以下のA群~F群からなる群より選択される少なくとも1種の化合物を豆類タンパク質由来の豆臭マスキング剤として使用する;(A群)1,4-シネオール、γ-ヘプタラクトン、6-メチル-5-ヘプテン-2-オン、乳酸メンチル、及びローズオキシド、(B群)1,4-シネオール、γ-ヘプタラクトン、乳酸メンチル、乳酸エチル、γ-ヘキサラクトン、アセトアルデヒドジエチルアセタール、及びサリチル酸メチル、(C群)アセト酢酸エチル、イソ酪酸マルトール、及びマロン酸ジエチル、(D群)ジャスモン酸メチル、ジヒドロジャスモン酸メチル、ヘリオトロピン、ピルビン酸エチル、ブチリル乳酸ブチル、ステアリン酸、及びγ-ブチロラクトン、(E群)乳酸エチル、2-ブタノン、及びネロール、(F群)フルフラール、けい皮酸メチル、及び5(6)-デセン酸。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下のA群~F群からなる群より選択される少なくとも1種の化合物を含有する、豆類タンパク質由来の豆臭マスキング剤;
(A群)1,4-シネオール、γ-ヘプタラクトン、6-メチル-5-ヘプテン-2-オン、乳酸メンチル、及びローズオキシド、
(B群)1,4-シネオール、γ-ヘプタラクトン、乳酸メンチル、乳酸エチル、γ-ヘキサラクトン、アセトアルデヒドジエチルアセタール、及びサリチル酸メチル、
(C群)アセト酢酸エチル、イソ酪酸マルトール、及びマロン酸ジエチル、
(D群)ジャスモン酸メチル、ジヒドロジャスモン酸メチル、ヘリオトロピン、ピルビン酸エチル、ブチリル乳酸ブチル、ステアリン酸、及びγ-ブチロラクトン、
(E群)乳酸エチル、2-ブタノン、及びネロール、
(F群)フルフラール、けい皮酸メチル、及び5(6)-デセン酸。
【請求項2】
上記豆臭がヘキサナール、(E,E)-2,4-デカジエナール、グアイアコール、trans-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナール、2-イソブチル-3-メトキシピラジン、及び2,5-ジメチルピラジンからなる群より選択される少なくとも1種の化合物に起因するにおいである、請求項1に記載する豆臭マスキング剤。
【請求項3】
さらに1種または2種以上の香料成分を含有する請求項1又は2に記載する豆臭マスキング剤。
【請求項4】
香料組成物である、請求項1~3のいずれか1項に記載する豆臭マスキング剤。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載する豆臭マスキング剤、及び香料成分を含有する香料組成物。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか1項に記載する豆臭マスキング剤または請求項5に記載する香料組成物を、豆類タンパク質を含有する組成物に配合する工程を有する、豆臭のマスキング方法。
【請求項7】
上記豆臭が、ヘキサナール、(E,E)-2,4-デカジエナール、グアイアコール、trans-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナール、2-イソブチル-3-メトキシピラジン、及び2,5-ジメチルピラジンからなる群より選択される少なくとも1種の化合物に起因するにおいである、請求項6に記載する豆臭のマスキング方法。
【請求項8】
請求項1~4のいずれか1項に記載する豆臭マスキング剤または請求項5に記載する香料組成物を、豆類タンパク質を含有する食品、医薬品または医薬部外品またはその原料に配合する工程を有する、上記食品、医薬品または医薬部外品の製造方法。
【請求項9】
上記食品、医薬品または医薬部外品がヘキサナール、(E,E)-2,4-デカジエナール、グアイアコール、trans-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナール、2-イソブチル-3-メトキシピラジン、及び2,5-ジメチルピラジンからなる群より選択される少なくとも1種の化合物を含有するものである、請求項8に記載する製造方法。
【請求項10】
豆類タンパク質を含む食品、医薬品または医薬部外品であって、
請求項1~4のいずれか1項に記載する豆臭マスキング剤または請求項5に記載する香料組成物が配合されてなる、食品、医薬品または医薬部外品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、2018年5月31日に出願された、日本国特許出願第2018-105589号明細書(その開示全体が参照により本明細書中に援用される)に基づく優先権を主張する。
【0002】
本発明は豆臭マスキング剤及びその使用方法に関する。より詳細には、本発明は豆由来タンパク質を用いて加工食品、医薬品または医薬部外品を調製した際に知覚される豆由来のにおいであって、マスキングを要するにおい(豆類タンパク質由来の豆臭)を抑制するために好適に使用される豆臭マスキング剤、及び当該豆臭マスキング剤を用いた豆臭のマスキング方法に関する。
【背景技術】
【0003】
食品に関して、従来、栄養、生理機能または物性(起泡性、乳化性、結着性等)等を付与若しくは改善するために、動植物性のタンパク質またはその分解物(ペプチドを含む)が用いられている。なかでも大豆等の豆類のタンパク質またはその分解物は、消化吸収性がよく栄養的に優れているうえ、低カロリーであり、また中性脂肪及びコレステロールを低下する等の優れた生理作用を有するため、各種の健康食品に利用されている。
【0004】
しかし、豆由来タンパク質を用いて加工食品、医薬品または医薬部外品を調製すると、豆に由来する特有のにおいを有する。
【0005】
かかる状況の下、豆由来タンパク質を用いた加工食品等については、当該特有のにおいが低減され、豆由来タンパク質を用いていない同様の加工食品に類似する風味を示すことが所望されることも多い。このため、従来、豆類タンパク質に起因する豆臭(特異臭、不快臭、異臭等と表現される場合もある)のマスキング(低減、改善等と表現される場合もある)の方法が種々提案されている。具体的には、いずれも大豆タンパク質の豆臭を対象とするものであって、これをマスキングする方法として、マルチトール及びアルギニンを配合する方法(特許文献1)、香辛料を配合する方法(特許文献2)、ソーマチンを配合する方法(特許文献3)、モルトエキスを配合する方法(特許文献4)、還元糖及びアミノ基含有化合物を配合する方法(特許文献5)、トレハロースを配合する方法(特許文献6)、乳清蛋白質を配合する方法(特許文献7)、茶類より抽出されたポリフェノール類を配合する方法(特許文献8)、食用油に野菜を加えて加熱抽出した風味油を配合する方法(特許文献9)、エチルデカノエートを配合する方法(特許文献10)、メラノイジン及び卵白分解物を配合する方法(特許文献11)等が提案されている。
しかし、大豆のみならず豆類全般に対しても有効な、豆類タンパク質に起因する豆臭をマスキングできる新たな方法の開発が熱望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2017-093349
【特許文献2】特開2017-051161
【特許文献3】特開2011-004699
【特許文献4】特開2010-246449
【特許文献5】特開2000-312562
【特許文献6】特開平10-066516
【特許文献7】特開平08-173050
【特許文献8】特開平08-103225
【特許文献9】特開昭61-274661
【特許文献10】特開2006-197857
【特許文献11】特開平03-155759
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、前記従来の問題である、豆由来タンパク質を用いて加工食品、医薬品または医薬部外品を調製した際に知覚される豆由来のにおいを抑制することである。なお、本発明では豆由来タンパク質を用いて加工食品、医薬品または医薬部外品を調製した際に知覚される豆由来のにおいであって、マスキングを要するにおいを豆臭と総称する。本発明において豆臭はいわゆる不快臭に限られず、食品等に豆由来タンパク質が配合されていることを感じさせるためマスキングを要するにおいも包含される。当該豆臭は主に豆類タンパク質中のタンパク質成分(及び/又はその加熱加工等による分解物)、及び/又は豆類タンパク質粉末等に通常、少量含まれる油脂成分(及び/又はその加熱加工等による分解物)に由来するものと考えられる。従って、本発明は上記豆臭のマスキング剤、及びその用途を提供することを課題とする。また当該豆臭マスキング剤を用いた豆臭のマスキング方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討した結果、豆由来タンパク質を用いて加工食品等を調製した際に知覚される、豆臭を構成する主要なにおい物質を特定した。また、本発明者らは、これらの豆臭を構成するにおい物質に対しマスキング効果を有することが知られていなかったマスキング剤成分を特定した。
【0009】
本発明はかかる知見に基づいて、さらに検討を重ねて完成したものであり、下記の実施態様を包含するものである。
【0010】
項1.以下のA群~F群からなる群より選択される少なくとも1種の化合物を含有する、豆類タンパク質由来の豆臭マスキング剤;
(A群)1,4-シネオール、γ-ヘプタラクトン、6-メチル-5-ヘプテン-2-オン、乳酸メンチル、及びローズオキシド、
(B群)1,4-シネオール、γ-ヘプタラクトン、乳酸メンチル、乳酸エチル、γ-ヘキサラクトン、アセトアルデヒドジエチルアセタール、及びサリチル酸メチル、
(C群)アセト酢酸エチル、イソ酪酸マルトール、及びマロン酸ジエチル、
(D群)ジャスモン酸メチル、ジヒドロジャスモン酸メチル、ヘリオトロピン、ピルビン酸エチル、ブチリル乳酸ブチル、ステアリン酸、及びγ-ブチロラクトン、
(E群)乳酸エチル、2-ブタノン、及びネロール、
(F群)フルフラール、けい皮酸メチル、及び5(6)-デセン酸。
【0011】
項2.上記豆臭がヘキサナール、(E,E)-2,4-デカジエナール、グアイアコール、trans-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナール、2-イソブチル-3-メトキシピラジン、及び2,5-ジメチルピラジンからなる群より選択される少なくとも1種の化合物に起因するにおいである、項1に記載する豆臭マスキング剤。
【0012】
項3.さらに1種または2種以上の香料成分を含有する項1又は2に記載する豆臭マスキング剤。
【0013】
項4.香料組成物である、項1~3のいずれか1項に記載する豆臭マスキング剤。
【0014】
項5.項1~4のいずれか1項に記載する豆臭マスキング剤、及び香料成分を含有する香料組成物。
【0015】
項6.項1~4のいずれか1項に記載する豆臭マスキング剤または項5に記載する香料組成物を、豆類タンパク質を含有する組成物に配合する工程を有する、豆臭のマスキング方法。
【0016】
項7.上記豆臭が、ヘキサナール、(E,E)-2,4-デカジエナール、グアイアコール、trans-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナール、2-イソブチル-3-メトキシピラジン、及び2,5-ジメチルピラジンからなる群より選択される少なくとも1種の化合物に起因するにおいである、項6に記載する豆臭のマスキング方法。
【0017】
項8.項1~4のいずれか1項に記載する豆臭マスキング剤または項5に記載する香料組成物を、豆類タンパク質を含有する食品、医薬品または医薬部外品またはその原料に配合する工程を有する、上記食品、医薬品または医薬部外品の製造方法。
【0018】
項9.上記食品、医薬品または医薬部外品がヘキサナール、(E,E)-2,4-デカジエナール、グアイアコール、trans-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナール、2-イソブチル-3-メトキシピラジン、及び2,5-ジメチルピラジンからなる群より選択される少なくとも1種の化合物を含有するものである、項8に記載する製造方法。
【0019】
項10.豆類タンパク質を含む食品、医薬品または医薬部外品であって、
項1~4のいずれか1項に記載する豆臭マスキング剤または項5に記載する香料組成物が配合されてなる、食品、医薬品または医薬部外品。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、豆臭の新規マスキング剤、当該新規マスキング剤を用いた新規マスキング方法及び食品、医薬品または医薬部外品の製造方法、ならびに当該製造方法により得られる食品、医薬品または医薬部外品を提供することができる。
【0021】
なお、本発明において「豆臭を抑制する」または「豆臭をマスキングする」とは、上記豆臭を有する組成物に、本発明のマスキング化合物を添加することで、当該マスキング化合物を添加する前と比較して、当該豆臭が低減または消失することを意味する。また、本発明は経時的または所定の処理(加熱、光照射等)により前記豆臭を発生するような組成物に対しても適用することができ、この場合、当該組成物に対して本発明のマスキング化合物を添加しておくと、当該マスキング化合物を添加しない場合と比較して、所定の処理(加熱、光照射、保存等)後においても、当該豆臭が抑制(低減)されていることを意味する。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本明細書中、語句「含む」又は語句「含有する」は、語句「からなる」、及び語句「のみからなる」を包含することを意図して用いられる。
本明細書中に記載の操作、及び工程は、特に記載のない限り、室温で実施され得る。
本明細書中、用語「室温」は、技術常識に従って理解され、例えば、10℃~35℃の範囲内の温度を意味することができる。
そうでないことが示されない限り、本明細書中、「豆類タンパク質を含有する組成物(食品、医薬品または医薬部外品等)」には、豆類タンパク質及び/又はその分解物を含み、さらに豆類タンパク質粉末等に通常、少量含まれる油脂及び/又はその分解物を含有する組成物(食品、医薬品または医薬部外品等)が包含される。同様に、そうでないことが示されない限り、本明細書中、「豆類タンパク質由来の豆臭」には、豆類タンパク質成分、その分解物、豆類タンパク質粉末等に少量含まれる油脂成分、及び/又はその分解物に由来する豆臭が包含される。
【0023】
以下、本発明について、詳細に説明する。
(I)豆臭マスキング剤
本発明の豆臭マスキング剤が対象とするにおいである豆臭とは、前述の通り、豆由来タンパク質を用いて加工食品、医薬品または医薬部外品を調製した際に知覚される豆由来のにおいであって、マスキングを要するにおいを意味する。
【0024】
本発明において、「豆類タンパク質」(本明細書において豆由来タンパク質と示すこともある)とは、豆類タンパク質成分を主成分とする食品用素材を意味し、これにはタンパク質粉末等に少量含まれる豆類由来の油脂成分等を含有する上記食品用素材も包含される。豆由来タンパク質としては、制限されないものの、例えば、大豆、エンドウ豆、ヒヨコ豆、ヒラ豆(レンズ豆)、インゲン豆、ソラ豆等に由来するタンパク質を制限なく例示することができ、大豆、エンドウ豆、ヒヨコ豆等に由来するタンパク質が好ましい。豆由来タンパク質及び/又はその分解物は、豆に含有されるタンパク質及び/又はその分解物を分離・精製したものであればその製造方法は特に限定されない。また、豆由来タンパク質及び/又はその分解物は、商業的に入手できるものを使用することもできる。大豆タンパク質は、例えば丸大豆等をヘキサン、エタノールなどの有機溶剤で脱脂した脱脂大豆、当該脱脂大豆からタンパク質を水抽出した豆乳、さらに豆乳より酸沈殿あるいはアルコール沈殿等の方法により得られる分離大豆タンパク質、濃縮大豆タンパク質などが挙げられる。エンドウ豆タンパク質は、例えば、豆種子の外皮を除去した後粉砕し、タンパク質を水抽出後、濃縮、乾燥したものを挙げることができる。ヒヨコ豆タンパク質は、例えば、大豆、エンドウ豆と同様に分離・精製したものを使用することができる。上記豆由来タンパク質は、市販のものも含め、通常、タンパク質成分100%ではなく、油脂等が少量混在しており、豆臭にも影響を与え得る。従って、本発明において、豆由来タンパク質は、当該豆に由来する油脂を少量含んだものであってもよい。
【0025】
後記実施例に記載するように、本発明者らは、本発明に関し、豆由来タンパク質に起因する豆臭における主要におい物質を同定した。このような主要におい物質の好適な具体例は、ヘキサナール、(E,E)-2,4-デカジエナール、グアイアコール、trans-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナール、2-イソブチル-3-メトキシピラジン、及び2,5-ジメチルピラジンを包含する。
【0026】
本発明の豆臭マスキング剤は、下記A~F群からなる群に属する化合物が有する、上記豆臭に対するマスキング作用(豆臭抑制作用)を利用したものであり、これらの化合物のなかから選択される少なくとも1つの化合物を有効成分として含むことを特徴とする:
(A群)1,4-シネオール、γ-ヘプタラクトン、6-メチル-5-ヘプテン-2-オン、乳酸メンチル、及びローズオキシド、
(B群)1,4-シネオール、γ-ヘプタラクトン、乳酸メンチル、乳酸エチル、γ-ヘキサラクトン、アセトアルデヒドジエチルアセタール、及びサリチル酸メチル、
(C群)アセト酢酸エチル、イソ酪酸マルトール、及びマロン酸ジエチル、
(D群)ジャスモン酸メチル、ジヒドロジャスモン酸メチル、ヘリオトロピン、ピルビン酸エチル、ブチリル乳酸ブチル、ステアリン酸、及びγ-ブチロラクトン、
(E群)乳酸エチル、2-ブタノン、及びネロール、
(F群)フルフラール、けい皮酸メチル、及び5(6)-デセン酸。
【0027】
これらの化合物(以下、これらを総称して「マスキング化合物」と称する)は、いずれも商業的に入手可能な公知の化合物である。本発明において「5(6)-デセン酸」とは、5-デセン酸と6-デセン酸との混合物を示す。5-デセン酸と6-デセン酸との配合比は特に限定されないが、例えば、前者1質量部に対し、後者0.01~100質量部、好ましくは0.1~10質量部のものを使用することができる。また、本発明の作用効果を損なわない範囲において、当該化合物を含有する天然香料を本発明のマスキング剤として使用することができる。このような天然香料としては、これらに限定されるものではないが、例えば:1,4-シネオールを含有する天然香料としてライム香料;γ-ヘキサラクトンを含有する天然香料としてアプリコット香料;ヘリオトロピンを含有する天然香料としてバニラ香料;フルフラールを含有する天然香料としてコーヒー香料等が挙げられる。これらのマスキング化合物は本発明の豆臭マスキング剤の有効成分としていずれも好適に使用することができる。
【0028】
本発明の豆臭マスキング剤は、有効成分として上記マスキング化合物の1種のみを含むものであってもよいし、また2種以上を任意に組み合わせて含有するものであってもよい。
【0029】
A群に記載された化合物である、1,4-シネオール、γ-ヘプタラクトン、6-メチル-5-ヘプテン-2-オン、乳酸メンチル、及びローズオキシドは、豆臭マスキング剤として有効に機能する化合物であり、及び特に、前記した豆臭の主要におい物質の1つである、ヘキサナールに対するマスキング剤として効果的に機能する。従って、A群に属する化合物を用いる場合、本発明のマスキング剤は、ヘキサナールに起因するにおいを抑制することにより豆由来タンパク質を含む加工食品、医薬品または医薬部外品の豆臭をマスキングするために用いることができる。これらA群に記載された化合物は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0030】
B群に記載された化合物である、1,4-シネオール、γ-ヘプタラクトン、乳酸メンチル、乳酸エチル、γ-ヘキサラクトン、アセトアルデヒドジエチルアセタール、及びサリチル酸メチルは、豆臭マスキング剤として有効に機能する化合物であり、及び特に、前記した豆臭の主要におい物質の1つである、(E,E)-2,4-デカジエナールに対するマスキング剤として効果的に機能する。従って、B群に属する化合物を用いる場合、本発明のマスキング剤は、(E,E)-2,4-デカジエナールに起因するにおいを抑制することにより豆由来タンパク質を含む加工食品、医薬品または医薬部外品の豆臭をマスキングするために用いることができる。これらB群に記載された化合物は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0031】
C群に記載された化合物である、アセト酢酸エチル、イソ酪酸マルトール、及びマロン酸ジエチルは、豆臭マスキング剤として有効に機能する化合物であり、及び特に、前記した豆臭の主要におい物質の1つである、グアイアコールに対するマスキング剤として効果的に機能する。従って、C群に属する化合物を用いる場合、本発明のマスキング剤は、グアイアコールに起因するにおいを抑制することにより豆由来タンパク質を含む加工食品、医薬品または医薬部外品の豆臭をマスキングするために用いることができる。これらC群に記載された化合物は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0032】
D群に記載された化合物である、ジャスモン酸メチル、ジヒドロジャスモン酸メチル、ヘリオトロピン、ピルビン酸エチル、ブチリル乳酸ブチル、ステアリン酸、及びγ-ブチロラクトンは、豆臭マスキング剤として有効に機能する化合物であり、及び特に、前記した豆臭の主要におい物質の1つである、trans-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナールに対するマスキング剤として効果的に機能する。従って、D群に属する化合物を用いる場合、本発明のマスキング剤は、trans-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナールに起因するにおいを抑制することにより豆由来タンパク質を含む加工食品、医薬品または医薬部外品の豆臭をマスキングするために用いることができる。本発明の好ましい実施形態において、ジャスモン酸メチル、ヘリオトロピン、ブチリル乳酸ブチル、及びステアリン酸からなる群より選択される少なくとも一種が用いられ得る。これらD群に記載された化合物は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0033】
E群に記載された化合物である、乳酸エチル、2-ブタノン、及びネロールは、豆臭マスキング剤として有効に機能する化合物であり、及び特に、前記した豆臭の主要におい物質の1つである、2-イソブチル-3-メトキシピラジンに対するマスキング剤として効果的に機能する。従って、E群に属する化合物を用いる場合、本発明のマスキング剤は、2-イソブチル-3-メトキシピラジンに起因するにおいを抑制することにより豆由来タンパク質を含む加工食品、医薬品または医薬部外品の豆臭をマスキングするために用いることができる。これらE群に記載された化合物は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0034】
F群に記載された化合物である、フルフラール、けい皮酸メチル、及び5(6)-デセン酸は、豆臭マスキング剤として有効に機能する化合物であり、及び特に、前記した豆臭の主要におい物質の1つである、2,5-ジメチルピラジンに対するマスキング剤として効果的に機能する。従って、F群に属する化合物を用いる場合、本発明のマスキング剤は、2,5-ジメチルピラジンに起因するにおいを抑制することにより豆由来タンパク質を含む加工食品、医薬品または医薬部外品の豆臭をマスキングするために用いることができる。これらF群に記載された化合物は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0035】
本発明の劣化臭マスキング剤は、前記A~F群からなる群より選ばれる化合物(すなわち、A群に属する化合物、B群に属する化合物、C群に属する化合物、D群に属する化合物、E群に属する化合物及びF群に属する化合物を全て含む化合物群)の1種又は2種以上を含有することを特徴とする。本発明において、「前記A~F群からなる群より選ばれる化合物の2種以上の化合物」には、特にそうでないことが明示されていない限り、異なる群に属する化合物を含む2種以上の化合物だけでなく、同一の群に属する化合物のみを2種以上含む場合も包含される。
当該マスキング効果は、前記化合物の1種のみを用いることで得ることができ、前記化合物の2種以上を用いることでより良好な効果を得ることができ、及び前記化合物の3種以上を用いることで更に良好な効果を得ることができる。
【0036】
本発明においては、当該良好なマスキング効果の点から、
A~F群のうちの2群以上からそれぞれ選択した各1種以上(計2種以上)の化合物を組み合わせて用いることが好ましく、
A~F群のうちの3群以上からそれぞれ選択した各1種以上(計3種以上)の化合物を組み合わせて用いることがより好ましく、
A~F群のうちの4群以上からそれぞれ選択した各1種以上(計4種以上)の化合物を組み合わせて用いることが更により好ましく、
A~F群のうちの5群以上からそれぞれ選択した各1種以上(計5種以上)の化合物を組み合わせて用いることが更により好ましく、
A~F群の6群全てからそれぞれ選択した各1種以上(計6種以上)の化合物を組み合わせて用いることが特により好ましい。
【0037】
上記マスキング剤化合物のうち、1,4-シネオール、γ-ヘプタラクトン、及び乳酸メンチルはそれぞれA群及びB群の2つの群に属し、乳酸エチルはB群及びE群の2つの群に属している。本発明においては、これらの2つの群に属する化合物の1種を配合したマスキング剤は、当該化合物が属する2つの群に属する化合物が配合された態様であるため、「A~F群のうちの2群以上からそれぞれ選択した各1種以上(計2種以上)の化合物の組み合わせを含むマスキング剤」に包含される。例えば、マスキング剤に1,4-シネオールを配合することにより当該マスキング剤はA群及びB群の2つの群に属する化合物を含むことになるため、1,4-シネオールを単独で含むマスキング剤は「A~F群のうちの2群からそれぞれ選択した各1種以上(計2種以上)の化合物の組み合わせを含むマスキング剤」に包含される。また、本発明において、マスキング剤化合物として、複数の群に属する化合物を用いる場合、当該化合物を単独で用いてもよいが、当該化合物以外のマスキング剤化合物を組み合わせて用いてもよい。
【0038】
本発明のマスキング剤は、マスキング剤化合物として、属する群が互いに一致しない(異なる群に属する)複数の化合物(例えば、2種以上、好ましくは3種以上、より好ましくは4種以上、より好ましくは5種以上、より好ましくは6種)の組合せを含むことが好ましい。ここで、「属する群が互いに一致しない(異なる群に属する)」は、複数の化合物について、これらの化合物が属する群が一部重複するものの一部が一致しない場合を含む。従って、本発明においては、「属する群が互いに一致しない(異なる群に属する)」化合物の組合せには、1,4-シネオール(A群、B群)と乳酸エチル(B群、E群)との組み合わせのように一部重複するものの一部が一致しない場合が包含される。
【0039】
本発明のマスキング剤は、上記A~F群のうち、A~D群のうちの少なくとも1群から選択した1種以上の化合物を含んでいることが好ましい。また、豆類のうち大豆、ヒヨコ豆等に対して用いる実施形態においては、A~D群のうちの少なくとも1群から選択した1種以上の化合物を用いることが好ましく、
A~D群のうちの2群以上からそれぞれ選択した各1種以上(計2種以上)の化合物を組み合わせて用いることが好ましく、
A~D群のうちの3群以上からそれぞれ選択した各1種以上(計3種以上)の化合物を組み合わせて用いることがより好ましく、
A~D群のうちの4群以上からそれぞれ選択した各1種以上(計4種以上)の化合物を組み合わせて用いることが更により好ましい。豆類のうちエンドウ豆等に対して用いる実施形態においては、A群~F群からなる群より選択される少なくとも1種の化合物をいずれも好適に使用することができる。従って、豆類のうちエンドウ豆等に対して用いる実施形態においては、マスキング剤組成物は、A~D群のうちの少なくとも1群から選択した1種以上の化合物を含んでいてもよく、E~F群のうちの少なくとも1群から選択した1種以上の化合物を含んでいてもよい。
【0040】
本発明のマスキング剤は、その好ましい実施形態において、ヘキサナール、(E,E)-2,4-デカジエナール、グアイアコール、trans-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナール、2-イソブチル-3-メトキシピラジン、及び2,5-ジメチルピラジンの6種のにおい物質の1種以上(好ましくは2種以上、より好ましくは3種以上、より好ましくは4種以上、より好ましくは5種以上、より好ましくは6種全て)に対してマスキング効果を有するマスキング剤化合物を含む。本発明のいくつかの好ましい実施形態において、本発明のマスキング剤としては、豆臭がヘキサナール、(E,E)-2,4-デカジエナール、グアイアコール、trans-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナール、2-イソブチル-3-メトキシピラジン、及び2,5-ジメチルピラジンからなる群より選択される少なくとも1種に起因するにおいであって、前記群より選択される少なくとも1種(好ましくは少なくとも2種、より好ましくは少なくとも3種、より好ましくは少なくとも4種、より好ましくは少なくとも5種、より好ましくは6種)の豆臭をマスキングするものが挙げられる。本発明においては、上記におい物質のうち、ヘキサナール、(E,E)-2,4-デカジエナール、グアイアコール及びtrans-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナールからなる群より選択される少なくとも1種に起因するにおいであって、前記群より選択される少なくとも1種(好ましくは少なくとも2種、より好ましくは少なくとも3種、より好ましくは4種)の豆臭をマスキングするものが好ましい。豆類のうちエンドウ豆等に対して用いる実施形態においては、上記6種類のにおい物質のうちいずれの豆臭をマスキングするものも好適に使用できる。
【0041】
本発明におけるマスキング化合物の使用量(例えば、本発明のマスキング剤の食品、医薬品または医薬部外品に対する含有量)は、豆臭のマスキング効果を奏する量であればよく、具体的には
当該化合物各々の豆由来タンパク質含有食品等全体に対する濃度が、
0.00001ppb~10000ppbの範囲内となるように使用することが好ましく、
0.0001ppb~1000ppbの範囲内となるように使用することがより好ましく、及び
0.001ppb~100ppbの範囲内となるように使用することが更に好ましい。
前記マスキング剤化合物自体が有する香り及び/又は味が豆由来タンパク質含有食品、医薬品または医薬部外品の香り及び/又は味に望まない影響を与えることを抑えつつ、豆臭のマスキング効果を十分にもたらす観点から、マスキング化合物の使用量を上記範囲とすることが好ましい。
【0042】
本発明においては、A~F群の各一群の化合物の合計質量(又は合計濃度)が、それぞれの群のマスキングの好適な対象(すなわち、マスキング剤として効果的に機能する対象)であるにおい物質(すなわち、A群に記載された化合物に対するヘキサナール、B群に記載された化合物に対する(E,E)-2,4-デカジエナール、C群に記載された化合物に対するグアイアコール、D群に記載された化合物に対するtrans-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナール、E群に記載された化合物に対する2-イソブチル-3-メトキシピラジン、F群に記載された化合物に対する2,5-ジメチルピラジン)の質量(又は濃度)に対し、例えば、1:100000~100000:1の範囲の比、1:10000~10000:1の範囲内の比、1:1000~1000:1の範囲内の比、1:100~100:1の範囲内の比、又は1:10~10:1の範囲内の比であることが好ましい。本発明において、マスキング剤化合物として複数の群に属する化合物を用いる場合、上記比率の算出においては、複数の群に属する化合物は、当該化合物が属するいずれの群の化合物でもある(例えば、1,4-シネオールはA群の化合物でもあり、B群の化合物でもある)として計算する。
【0043】
本発明は、前記A群~F群からなる群より選ばれる化合物の1種又は2種以上を用いることによって、豆由来タンパク質含有食品、医薬品または医薬部外品の製造、流通、保管、及び販売等の各段階で、豆臭を、簡便に、かつ安全性が高く、しかも最終製品の香り、及び/又は味に影響を与えることなく、マスキングすることができる。
【0044】
本発明の豆臭マスキング剤は、当該マスキング剤化合物以外の化合物を含有してもよい。本発明の豆臭マスキング剤の形態、及び当該他の化合物の種類及び量は、適宜、本発明の豆臭マスキング剤の使用態様等に応じて、設定することができる。
【0045】
本発明の豆臭マスキング剤は、当該マスキング剤化合物だけからなるものであってもよいし、またマスキング剤化合物に加えて適当な希釈剤(増粘剤)若しくは担体を含有するものであってもよい。この場合、豆臭マスキング剤中の上記マスキング剤化合物の割合は、当該豆臭マスキング剤が豆類タンパク質由来の豆臭を抑制する効果を発揮するように0.00000001~99質量%(0.0001~990000ppm)の範囲から適宜設定調整することができる。
【0046】
マスキング剤化合物と併用する希釈剤若しくは担体としては、マスキング剤化合物の豆類タンパク質由来の豆臭抑制作用を損なわないものであればよく、その限りにおいて特に制限されるものではない。一例を挙げると、例えばアラビアガム、デキストリン、サイクロデキストリン、グルコース、スクロース等の固体状の希釈剤若しくは担体;又は水、エタノール、プロピレングリコール、グリセリン、グリセリン脂肪酸エステル、食用油脂等の液状の希釈剤若しくは担体を挙げることができる。これらの希釈剤若しくは担体には、本発明の豆臭マスキング剤を所望の形状(剤型)に調製するために用いられる添加剤、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、乳化剤、溶解剤、増粘剤、滑沢剤、矯味剤、着色料等が含まれる。なかでも乳化剤は、液状の希釈剤中にマスキング剤化合物を分散させて水溶液(分散液、懸濁液)又は乳液状の豆臭マスキング剤を調製するために好適に使用することができる。かかる乳化剤としては、制限されないものの、例えばショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、レシチン、酵素分解レシチン、キラヤ抽出物、サポニン、ポリソルベート、アラビアガム、及びガティガムなどを挙げることができる。かかる希釈剤若しくは担体を用いることで、本発明の豆臭マスキング剤は、液状、懸濁液状、乳液状、ペースト状、粉末状、顆粒状、及びその他、任意の剤型にすることができる。当該本発明の豆臭マスキング剤の剤型は、豆類タンパク質由来の豆臭を抑制する対象物の種類、その形状等に応じて、適宜設定することができる。
【0047】
また本発明の豆臭マスキング剤は、前述するマスキング剤化合物を溶解又は分散した水溶液にデキストリン等の賦形剤を配合し、噴霧乾燥又は凍結乾燥等の定法に従って粉末化して粉末製剤として調製されてもよいし、さらに造粒されることで顆粒製剤として調製されてもよい。
【0048】
本発明の豆臭マスキング剤は、豆由来タンパク質を含有する食品(飲料を含む。本明細書において同じ)、医薬品、または医薬部外品(典型的には前述するにおい物質の少なくとも1種を含有する食品、医薬品、または医薬部外品)に添加して用いられることで、上記豆臭を抑制することができる。このため、本発明の豆臭マスキング剤は、前述する豆由来タンパク質を含有する食品、医薬品、または医薬部外品の添加物(食品添加物、医薬品添加物、医薬部外品添加物)として有効に使用することができる。当該添加物には、食品、医薬品または医薬部外品の製造段階で、これらの製造原料に添加配合して使用される添加物が含まれ、これらの添加物には例えば香料組成物などが含まれる。
【0049】
タンパク類を含有する食品、医薬品、または医薬部外品(対象組成物)に対する本発明の豆臭マスキング剤の配合割合は、対象組成物に含まれるにおい物質の種類及びその量、及び本発明の豆臭マスキング剤が有効成分とするマスキング化合物の種類及び量に応じて適宜選択調整することができる。
【0050】
好ましい実施形態において、本発明の豆臭マスキング剤によれば、有効成分として含有するマスキング化合物の配合量を調整することで、当該マスキング化合物そのものの風味による影響を抑えながら、上記マスキング効果を発揮することができる。また、本発明で用いるマスキング化合物は、他の香料成分の香調にほとんど影響を与えないことから、他の香料成分と併用することで、上記豆臭をマスキングする作用を有する香料組成物として調製でき、好適に使用することができる。
【0051】
また後述する実験例9~12に示すように、豆類タンパク質を含有する対象組成物(豆類タンパク質含有組成物)に含まれる豆類タンパク質10000質量部に対して本発明の豆臭マスキング剤に含まれる各マスキング化合物の割合を下記のように設定することもできる。但し、これは一例であり、当該割合に制限されるものではない。
A群に属する化合物:豆類タンパク質10000質量部に対し0.000002質量部以上、好ましくは0.000002~0.002質量部、より好ましくは0.00002~0.0002質量部;
B群に属する化合物:豆類タンパク質10000質量部に対し0.0000002質量部以上、好ましくは0.0000002~0.002質量部、より好ましくは0.000002~0.0002質量部;
C群に属する化合物:豆類タンパク質10000質量部に対し0.00000002質量部以上、好ましくは0.00000002~0.002質量部、より好ましくは0.0000002~0.0002質量部;
D群に属する化合物:豆類タンパク質10000質量部に対し0.0000002質量部以上、好ましくは0.0000002~0.002質量部、より好ましくは0.000002~0.0002質量部;
E群に属する化合物:豆類タンパク質10000質量部に対し0.000002質量部以上、好ましくは0.000002~0.002質量部、より好ましくは0.00002~0.0002質量部;
F群に属する化合物:豆類タンパク質10000質量部に対し0.00000002質量部以上、好ましくは0.00000002~0.02質量部、より好ましくは0.0000002~0.002質量部。
なお、ここで豆類タンパク質含有組成物に含まれるタンパク質の量は、食品表示法第4条第1項に基づく食品表示基準の別表第九の第3欄に記載の「窒素定量換算法」により分析し定量することができる(消費者庁HP/食品表示法等(法令及び一元化情報)参照)。なお、前記窒素定量換算法の詳細は、「食品表示基準について 別添 栄養成分等の分析方法等」(平成27年3月30日 消食表第139号 消費者庁次長通知)の「1 たんぱく質 (1)窒素定量換算法」に示される。
【0052】
(II)香料組成物
本発明の豆臭マスキング剤は、香料製剤の形態を有し、香料組成物として使用することもできる。このため、本発明は、上記本発明の豆臭マスキング剤の香料組成物としての用途、並びに上記豆臭マスキング剤を含有する香料組成物を提供するものでもある。当該香料組成物は、前述するマスキング化合物を1種または2種以上含有し、さらに香料製剤の形態に応じて、前述する希釈剤または担体を含有するものであってもよいし、また1種または2種以上の他の香料成分(本発明のマスキング化合物以外の香料化合物)を含有するものであってもよい。本発明の香料組成物は、前述するように、豆臭をマスキングために用いることができる。
【0053】
かかる他の香料成分は、前述するマスキング化合物と併用することで本発明の効果を損なうものでなければよく、またマスキング化合物と併用することで他の香料成分の香気が抑制されるものでないことが好ましい。このような香料成分としては、例えば日本国特許庁編集の「特許庁公報 周知・慣用技術集(香料)第II部食品用香料」(平成12年1月14日発行)に記載されている天然香料及び合成香料などを挙げることができる。具体的には、シトラス系果実(オレンジ、レモン、ライム、グレープフルーツ、ユズ・スダチ等)の香りを有するシトラス系香料(88~135頁)、シトラス系果実以外の果実(アップル、グレープ、イチゴ、バナナ、ピーチ、メロン、アンズ、ウメ、サクランボ、ベリー類等)の香りを有するフルーツ系香料(136~257頁)、乳製品の香りを有するミルク系香料(ミルクフレーバー、バターフレーバー、チーズフレーバー、クリームフレーバー、ヨーグルトフレーバー等)(258~347頁)、バニラビーンズの香りを有するバニラ系香料(348~366頁)、緑茶、烏龍茶、紅茶などの香りを有する茶系香料(367~426頁)、ココア及びチョコレートの香りを有するココア・チョコレート香料(427~446頁)、コーヒーの香りを有するコーヒー香料(447~475頁)、ペパーミント、スペアミントなどの香りを有するミント系香料(476~495頁)、香辛料の香りを有するスパイス系香料(496~580頁)、アーモンドなどのナッツ類の香りを有するナッツ系香料(581~608頁)、洋酒(例えばワイン、ウイスキー、ブランデー、ラム酒、ジン、リキュール等)の香りを有する洋酒系香料(759~825頁)、花の香りを有するフラワー系香料(826~836頁)、野菜(例えばオニオン、ガーリック、ネギ、人参、ゴボウ、椎茸、松茸、三つ葉等)の香りを有する野菜系香料(837~907頁)などを例示することができる。好ましくはシトラス系香料、フルーツ系香料、ミルク系香料、ココア・チョコレート系香料、コーヒー系香料、ナッツ系香料を挙げることができる。
【0054】
本発明の香料組成物は、本発明の効果を奏することを限度として、前述する1種または2種以上のマスキング化合物を0.0000001~99質量%の割合で含有するものであればよい。本発明の香料組成物が、上記マスキング化合物以外に他の香料成分を含有する場合、当該他の香料成分の配合割合として、制限されないものの0.0000001~99質量%、好ましくは0.000001~50質量%の割合を例示することができる。なお、この場合、香料組成物に配合するマスキング化合物そのものの風味が、別途配合する他の香料成分の香調に影響を及ぼさないように、マスキング化合物の配合割合を調整することが好ましい。
【0055】
(III)豆臭がマスキングされた組成物(食品、医薬品、医薬部外品等)の製造方法
前述する本発明の豆臭マスキング剤または香料組成物を、前述する豆類タンパク質を含有する組成物に配合することで、当該豆臭が抑制された豆類タンパク質含有組成物を製造することができる。
【0056】
ここで対象とする豆類タンパク質含有組成物は、前記(I)に記載の豆類タンパク質を含有する組成物であり、典型的には、ヘキサナール、(E,E)-2,4-デカジエナール、グアイアコール、trans-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナール、2-イソブチル-3-メトキシピラジン、及び2,5-ジメチルピラジンからなる群より選択される少なくとも1種の化合物に起因して豆臭を有し得る組成物であり、具体的には食品、医薬品若しくは医薬部外品を例示することができる。
【0057】
前記食品、医薬品、医薬部外品の具体例としては、これらに限定されるものではないが、例えば、食肉加工品(ハンバーグ、ソーセージ、パティ、ナゲット等)、水産加工品(魚肉ソーセージ、かまぼこ、ちくわ等)、加工用調味液または調味料(ピックル液、ドレッシング、マヨネーズ等)、乳加工品(乳飲料、ヨーグルト、アイスクリーム等)、卵加工品(厚焼き玉子、プリン等)、栄養補助食品(粉末タンパク質食品等)、飲料(豆乳、乳代替ミルク、プロテイン含有ゼリー飲料、滋養強壮ドリンク剤等)等を挙げることができる。
【0058】
制限されないものの、豆類タンパク質含有組成物のタンパク含量としては0.1~100質量%、好ましくは0.5~90質量%を例示することができる。また豆類タンパク質含有組成物に含まれるにおい物質の量としては、例えば、ヘキサナール、(E,E)-2,4-デカジエナール、グアイアコール、trans-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナール、2-イソブチル-3-メトキシピラジン、及び2,5-ジメチルピラジンの総量として0.0001ppm以上、好ましくは0.0005~10ppm、より好ましくは0.001~1ppmを例示することができる。
【0059】
豆類タンパク質含有組成物に対する本発明の豆臭マスキング剤または香料組成物の配合割合は、豆類タンパク質含有組成物に含まれるにおい物質の種類及びその量、及び本発明の豆臭マスキング剤及び香料組成物に含まれるマスキング化合物の種類及び量に応じて適宜選択調整することができる。
【0060】
これらの豆類タンパク質含有組成物に本発明の豆臭マスキング剤または香料組成物を配合する時期及びその方法は特に限定されず、これらの製品を製造する任意の段階で定法に従って行うことができる。例えば、食品、医薬品若しくは医薬部外品の原材料に、本発明の豆臭マスキング剤または香料組成物を添加し、定法に従って食品、医薬品若しくは医薬部外品を製造する方法を挙げることができる。
【0061】
当該原材料には、食品、医薬品若しくは医薬部外品に配合する豆類タンパク質が含まれる。当該豆類タンパク質としては、前記(I)で説明したものを挙げることができ、ここに当該記載を援用することができる。その他、原材料として、対象とする食品、医薬品または医薬部外品等の各種製品に応じて種々の成分を用いることができ、特に制限されるものではない。
【0062】
こうした本発明の製造方法によれば、豆類タンパク質を含有しながらも、豆臭がマスキングされた食品、医薬品若しくは医薬部外品を調製することができる。
【0063】
(IV)豆臭のマスキング方法
本発明はまた、前述の豆臭マスキング剤または香料組成物を、豆類タンパク質を含有する組成物に配合する工程を有する、豆臭のマスキング方法を提供する。
【0064】
当該方法は、前記「(III)豆臭がマスキングされた組成物(食品、医薬品、医薬部外品等)の製造方法」の欄に記載する方法に従って実施することでき、当該記載はここに援用することができる。
【実施例0065】
以下、実験例及び実施例を用いて本発明を説明する。但し、本発明はこれらの実験例及び実施例に制限されるものではない。
以下の例において、量、及び濃度を示す数値は、特に限定が無い限り、質量に基づくことができる。
【0066】
実験例1
(豆タンパク臭成分の同定)
<ヒヨコ豆の脱脂>
ひよこ豆粉((株)アールティージャパン製)100gにヘキサン1Lを投入し、15分攪拌した。15分静置後、濾紙にて濾別した。濾過残に更に1Lのヘキサンを投入し、15分攪拌、15分静置、再度濾過を行い、残渣を得た。この操作をさらに3回実施し、すなわち、ヘキサンを合計5L使用してひよこ豆粉の脱脂を行った。残渣を50mmHgの減圧下、30℃で30分間真空乾燥を行い、ヘキサンを除去して、脱脂ひよこ豆粉92.3gを得た。
【0067】
<豆タンパク質5%溶液の調製>
イオン交換水に市販のエンドウ豆タンパク質粉末100gを添加して攪拌し計2000gの溶液を得た。200mL缶に充填後、ボイル殺菌し(85℃30分)エンドウ豆タンパク質粉末5%溶液を調製した。またエンドウ豆タンパク質粉末に代えて大豆タンパク質粉末(不二製油(株)製)、上記<ヒヨコ豆の脱脂>記載のヒヨコ豆脱脂粉末を用いる以外上記と同様にして、大豆タンパク質粉末5%溶液、ヒヨコ豆脱脂粉末5%溶液を調製した。
【0068】
<豆臭の主要におい物質の同定>
調製したエンドウ豆タンパク質粉末5%溶液100gにジクロロメタン100mLを加えて1時間撹拌し香気成分を抽出した。ジクロロメタン層を分層後、濃縮し、抽出物を得た。抽出物をGC/MSおよびGC/Oにより分析し、エンドウ豆タンパク質粉末における豆臭の主要におい物質として、ヘキサナール、(E,E)-2,4-デカジエナール、グアイアコール、trans-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナール、2-イソブチル-3-メトキシピラジン、及び2,5-ジメチルピラジンの6種類の化合物を同定した。
【0069】
大豆タンパク質粉末、ヒヨコ豆脱脂粉末についても同様に、豆臭における主要におい物質として、ヘキサナール、(E,E)-2,4-デカジエナール、グアイアコール、trans-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナールの4種類の化合物を同定した。
【0070】
<GC/MSの測定条件>
・GC/MS装置:5975B inert XL MSD(Agilent Technologies社製)
・カラム:DB-WAX/長さ60m、内径0.25mm(Agilent Technologies社製)
・カラム温度条件:50℃(2分保持)~220℃、3℃/分昇温
・キャリアガス:ヘリウム。
【0071】
<GC/Oの測定条件>
・GC/O装置:6890N(Agilent Technologies社製)/CharmAnalysis(TM)(Datu社製)
・カラム:DB-WAX/長さ15m、内径0.32mm(Agilent Technologies社製)
・カラム温度条件:40~220℃、6℃/分昇温
・キャリアガス:ヘリウム。
【0072】
実験例2
(同定した豆臭成分の検証)
<評価溶液の調製>
(1)エンドウ豆タンパク質粉末5%溶液をイオン交換水で5倍に希釈して、エンドウ豆タンパク質粉末1%溶液を調製した。
(2)エンドウ豆タンパク質粉末1%溶液に、以下の6種の化合物を添加して豆臭成分検証用評価溶液を調製した。なお、6種化合物の添加量は、添加した後の量が、エンドウ豆タンパク質粉末5%溶液中の6種化合物の量と同等になる量とした(即ち、4%溶液分の6種化合物量を添加した):
エンドウ豆タンパク質の豆臭成分(6種化合物)
ヘキサナール:80ppb
(E,E)-2,4-デカジエナール:8ppb
グアイアコール:0.1ppb
trans-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナール:0.5ppb
2,5-ジメチルピラジン:5ppb
2-イソブチル-3-メトキシピラジン:0.01ppb。
【0073】
大豆タンパク質の豆臭成分検証用評価溶液についても、エンドウ豆タンパク質の6種化合物に代えて、以下の4種の化合物を添加したこと以外は、同様の手順により調製した:
大豆タンパク質の豆臭成分(4種化合物)
ヘキサナール:80ppb
(E,E)-2,4-デカジエナール:8ppb
グアイアコール:0.1ppb
trans-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナール:0.5ppb。
【0074】
<豆臭成分の添加>
(1)エンドウ豆タンパク質の豆臭検証溶液
ヘキサナール、(E,E)-2,4-デカジエナール、グアイアコール、trans-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナール、2,5-ジメチルピラジン、2-イソブチル-3-メトキシピラジンを95%エタノールに溶解した液を調製し、各成分の濃度が上記の量となるようにエンドウ豆タンパク質粉末1%溶液に添加した。
(2)大豆タンパク質の豆臭検証溶液
ヘキサナール、(E,E)-2,4-デカジエナール、グアイアコール、trans-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナールを95%エタノールに溶解した液を調製し、各成分の濃度が上記の量となるように大豆タンパク質粉末1%溶液に添加した。
【0075】
<評価基準>
豆タンパク質5%溶液の豆臭に近い
豆タンパク質1%溶液の豆臭に近い
<評価結果>
上記で調製した豆臭検証溶液について、においの官能評価についてよく訓練されたパネラー4名により、上記の評価基準に基づき官能評価を行った。評価結果を下記表1に示す。
【0076】
【0077】
上記主要におい物質を添加することにより、豆類タンパク質を含む組成物における豆臭が良好に再現されることを確認した。
【0078】
実験例3
(ヘキサナールに対するA群化合物のマスキング効果)
ヘキサナールを95%エタノール中に0.01質量%濃度となるように溶解し、この溶液を、ヘキサナールの濃度が20ppbとなるようにイオン交換水に添加した。このようにして調製したヘキサナール含有水溶液に、A群の化合物(1,4-シネオール、γ-ヘプタラクトン、6-メチル-5-ヘプテン-2-オン、乳酸メンチル、ローズオキシド)の各々を95%エタノールに溶解した液を、表2に記載の濃度となるようにそれぞれ添加して、ヘキサナールに対するマスキング効果を官能評価により確認した。
官能評価は、前記のヘキサナールを20ppb含有するイオン交換水の評価を「ヘキサナール臭を強く感じる:4点」とし、またイオン交換水の評価を「ヘキサナール臭を全く感じない:0点」として、以下の評価基準を設定し、4名のパネラー(パネラーの熟練度は上記に同じ/以降も同様)により、評価点をつけることにより行った。評価点の平均を表2に示した。
<評価基準>
ヘキサナール臭を強く感じる:4点
ヘキサナール臭を感じる:3点
ヘキサナール臭を少し感じる:2点
ヘキサナール臭を殆ど感じない:1点
ヘキサナール臭を全く感じない:0点
【0079】
【0080】
また、ヘキサナールに対するA群化合物の濃度とマスキング効果との関係について検討した。
ヘキサナール濃度が20ppbである前記水溶液に、6-メチル-5-ヘプテン-2-オンを表3に記載の濃度となるように添加して、6-メチル-5-ヘプテン-2-オンの量とヘキサナールに対するマスキング効果の関係を、前記と同様の方法により評価した。評価結果を表3に示した。
【0081】
【0082】
表3に示すように、6-メチル-5-ヘプテン-2-オンの風味を感じない限度で評価点(平均)が最も小さく(ヘキサナール臭を感じない)のは6-メチル-5-ヘプテン-2-オン濃度1ppbの試験であった。上記結果からA群の化合物のマスキング効果は、におい物質の濃度に対する、マスキング剤化合物の濃度の比が0.5~5に近づく程高い傾向があることがわかった。
【0083】
実験例4
((E,E)-2,4-デカジエナールに対するB群化合物のマスキング効果)
実験例3において、A群化合物をB群化合物(1,4-シネオール、γ-ヘプタラクトン、乳酸メンチル、乳酸エチル、γ-ヘキサラクトン、アセトアルデヒドジエチルアセタール、又はサリチル酸メチル)に、ヘキサナールを(E,E)-2,4-デカジエナールに、また(E,E)-2,4-デカジエナールの95%エタノール中の濃度を0.001質量%にして、試験液中の(E,E)-2,4-デカジエナールの濃度を2ppbに変更した以外は、実験例3と同様の方法により、B群化合物の(E,E)-2,4-デカジエナールに対するマスキング効果、及び乳酸エチルの添加量に対するマスキング効果を評価した。
<評価基準>
(E,E)-2,4-デカジエナール臭を強く感じる:4点
(E,E)-2,4-デカジエナール臭を感じる:3点
(E,E)-2,4-デカジエナール臭を少し感じる:2点
(E,E)-2,4-デカジエナール臭を殆ど感じない:1点
(E,E)-2,4-デカジエナール臭を全く感じない:0点
※前記の(E,E)-2,4-デカジエナールを2ppb含有するイオン交換水の評価を「(E,E)-2,4-デカジエナール臭を強く感じる:4点」とした。
評価結果を表4及び表5に示した。
【0084】
【0085】
【0086】
上記結果からB群の化合物のマスキング効果は、におい物質の濃度に対する、マスキング剤化合物の濃度の比が0.5~5に近づく程高い傾向があることがわかった。
【0087】
実験例5
(グアイアコールに対するC群化合物のマスキング効果)
実験例3において、A群化合物をC群化合物(アセト酢酸エチル、イソ酪酸マルトール、及びマロン酸ジエチル)に、ヘキサナールをグアイアコールに、またグアイアコールの95%エタノール中の濃度を0.001質量%にして、試験液中のグアイアコールの濃度を1ppbに変更した以外は、実験例3と同様の方法により、C群化合物のグアイアコールに対するマスキング効果、及びマロン酸ジエチルの添加量に対するマスキング効果を評価した。
<評価基準>
グアイアコール臭を強く感じる:4点
グアイアコール臭を感じる:3点
グアイアコール臭を少し感じる:2点
グアイアコール臭を殆ど感じない:1点
グアイアコール臭を全く感じない:0点
※前記のグアイアコールを1ppb含有するイオン交換水の評価を「グアイアコール臭を強く感じる:4点」とした。
評価結果を表6及び表7に示した。
【0088】
【0089】
【0090】
上記結果からC群の化合物のマスキング効果は、におい物質の濃度に対する、マスキング剤化合物の濃度の比が0.1に近づく程高い傾向があることがわかった。
【0091】
実験例6
(trans-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナールに対するD群化合物のマスキング効果)
実験例3において、A群化合物をD群化合物(ジャスモン酸メチル、ジヒドロジャスモン酸メチル、ヘリオトロピン、ピルビン酸エチル、ブチリル乳酸ブチル、ステアリン酸、又はγ-ブチロラクトン)に、ヘキサナールをtrans-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナールに、またtrans-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナールの95%エタノール中の濃度を0.0001質量%にして、試験液中のtrans-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナールの濃度を0.6ppbに変更した以外は、実験例3と同様の方法により、D群化合物のtrans-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナールに対するマスキング効果、及びヘリオトロピンの添加量に対するマスキング効果を評価した。
<評価基準>
trans-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナール臭を強く感じる:4点
trans-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナール臭を感じる:3点
trans-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナール臭を少し感じる:2点
trans-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナール臭を殆ど感じない:1点
trans-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナール臭を全く感じない:0点
※前記のtrans-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナールを0.6ppb含有するイオン交換水の評価を「trans-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナール臭を強く感じる:4点」とした。
評価結果を表8及び表9に示した。
【0092】
【0093】
【0094】
上記結果からD群の化合物のマスキング効果は、におい物質の濃度に対する、マスキング剤化合物の濃度の比が5/3に近づく程高い傾向があることがわかった。
【0095】
実験例7
(2-イソブチル-3-メトキシピラジンに対するE群化合物のマスキング効果)
実験例3において、A群化合物をE群化合物(乳酸エチル、2-ブタノン、又はネロール)に、ヘキサナールを2-イソブチル-3-メトキシピラジンに、また2-イソブチル-3-メトキシピラジンの95%エタノール中の濃度を0.001質量%にして、試験液中の2-イソブチル-3-メトキシピラジンの濃度を1ppbに変更した以外は、実験例3と同様の方法により、E群化合物の2-イソブチル-3-メトキシピラジンに対するマスキング効果、及び乳酸エチルの添加量に対するマスキング効果を評価した。
<評価基準>
2-イソブチル-3-メトキシピラジン臭を強く感じる:4点
2-イソブチル-3-メトキシピラジン臭を感じる:3点
2-イソブチル-3-メトキシピラジン臭を少し感じる:2点
2-イソブチル-3-メトキシピラジン臭を殆ど感じない:1点
2-イソブチル-3-メトキシピラジン臭を全く感じない:0点
※前記の2-イソブチル-3-メトキシピラジンを1ppb含有するイオン交換水の評価を「2-イソブチル-3-メトキシピラジン臭を強く感じる:4点」とした。
評価結果を表10及び表11に示した。
【0096】
【0097】
【0098】
上記結果からE群の化合物のマスキング効果は、におい物質の濃度に対する、マスキング剤化合物の濃度の比が10~100に近づく程高い傾向があることがわかった。
【0099】
実験例8
(2,5-ジメチルピラジンに対するF群化合物のマスキング効果)
実験例3において、A群化合物をF群化合物(フルフラール、けい皮酸メチル、又は5(6)-デセン酸)に、ヘキサナールを2,5-ジメチルピラジンに、また2,5-ジメチルピラジンの95%エタノール中の濃度を0.001質量%にして、試験液中の2,5-ジメチルピラジンの濃度を4ppbに変更した以外は、実験例3と同様の方法により、F群化合物の2,5-ジメチルピラジンに対するマスキング効果、及びフルフラールの添加量に対するマスキング効果を評価した。
<評価基準>
2,5-ジメチルピラジン臭を強く感じる:4点
2,5-ジメチルピラジン臭を感じる:3点
2,5-ジメチルピラジン臭を少し感じる:2点
2,5-ジメチルピラジン臭を殆ど感じない:1点
2,5-ジメチルピラジン臭を全く感じない:0点
※前記の2,5-ジメチルピラジン臭を4ppb含有するイオン交換水の評価を「2,5-ジメチルピラジン臭を強く感じる:4点」とした。
評価結果を表12及び表13に示した。
【0100】
【0101】
【0102】
上記結果からF群の化合物のマスキング効果は、におい物質の濃度に対する、マスキング剤化合物の濃度の比が2.5に近づく程高い傾向があることがわかった。
【0103】
実験例9
(豆タンパク5%溶液に対するマスキング剤による豆臭マスキング効果1)
<豆タンパク5%溶液の調製>
前記した実験例1の<豆タンパク質5%溶液の調製>と同様にして、エンドウ豆タンパク質粉末、大豆タンパク質粉末、及びヒヨコ豆脱脂粉末の5%溶液を調製した。
【0104】
<マスキング剤成分の添加>
上記の3種の豆タンパクの5%溶液に対して、予め95%エタノールに溶解しておいた下記表14のマスキング剤成分を、当該表中の量になるように添加した。
【0105】
<評価基準>
上記の3種類の豆タンパクの5%溶液にイオン交換水を添加することにより豆タンパク濃度1%~4%の豆タンパク溶液を調製し、以下の評価点を設定して豆臭の評価基準とした:
6点 豆臭が、5%溶液より強い
5点 豆臭が、5%溶液と同程度
4点 豆臭が、4%溶液と同程度
3点 豆臭が、3%溶液と同程度
2点 豆臭が、2%溶液と同程度
1点 豆臭が、1%溶液と同程度
0点 豆臭が、1%溶液より弱い
<評価結果>
上記評価基準により、前述の<マスキング剤成分の添加>で調製した各種豆タンパクの5%溶液について、パネラー(においの官能評価についてよく訓練された者)4名による豆臭の評価を行った。評価点(平均)を下記表14に示す。また、いずれの試験においても、マスキング化合物自体のにおいは感じられなかった。
【0106】
【0107】
実験例10
(豆タンパク5%溶液に対するマスキング剤による豆臭マスキング効果2)
実験例9記載の方法で調製したエンドウ豆タンパク質粉末の5%水溶液に、下記表15のマスキング剤を当該表中の量となるように添加した。得られた、豆タンパク5%溶液について、実験例9と同様にしてマスキング剤添加濃度の違いによるマスキング効果を評価した。結果を表15に示す。また、いずれの試験においても、マスキング化合物自体のにおいは感じられなかった。
【0108】
【0109】
表14~15の結果から、1,4-シネオール(A群、B群)、γ-ヘプタラクトン(A群、B群)、6-メチル-5-ヘプテン-2-オン(A群)、乳酸メンチル(A群、B群)、ローズオキシド(A群)、乳酸エチル(B群、E群)、γ-ヘキサラクトン(B群)、アセトアルデヒドジエチルアセタール(B群)、サリチル酸メチル(B群)、アセト酢酸エチル(C群)、イソ酪酸マルトール(C群)、マロン酸ジエチル(C群)、ジャスモン酸メチル(D群)、ジヒドロジャスモン酸メチル(D群)、ヘリオトロピン(D群)、ピルビン酸エチル(D群)、ブチリル乳酸ブチル(D群)、ステアリン酸(D群)、γ-ブチロラクトン(D群)、2-ブタノン(E群)、ネロール(E群)、フルフラール(F群)、けい皮酸メチル(F群)、及び5(6)-デセン酸(F群)は、豆タンパク5%溶液における豆臭を効果的にマスキングできることがわかった。
【0110】
実験例11
(豆タンパク質含有ハンバーグにおけるマスキング剤の豆臭マスキング効果)
<大豆タンパク質含有ハンバーグの調製>
下記表16の処方に示す原料を混合し、成形(50g/1個)した後、170℃で片面1分ずつ焼成し、90℃10分間スチーム処理した。なお、表中の数値は質量部を示す。
【0111】
【0112】
<エンドウ豆タンパク質含有ハンバーグの調製>
下記表17の処方に示す原料を混合し、成形(50g/1個)した後、170℃で片面1分ずつ焼成し、90℃10分間スチーム処理した。なお、表中の数値は質量部を示す。
【0113】
【0114】
<評価基準>
コントロール品(マスキング剤無添加豆タンパク質含有ハンバーグ)の豆臭と同等の臭気の評価を「4点 豆臭を強く感じる」とし、また標準品(豆タンパク質を含有しないハンバーグ)を「0点 豆臭を全く感じない」として、以下の評価点を設定して豆臭の評価基準とした:
4点 豆臭を強く感じる
3点 豆臭を感じる
2点 豆臭を少し感じる
1点 豆臭をほとんど感じない
0点 豆臭を全く感じない
<評価結果>
上記評価基準により、前述の<大豆タンパク質含有ハンバーグの調製>及び<エンドウ豆タンパク質含有ハンバーグの調製>で調製した、マスキング剤添加ハンバーグについて、パネラー(においの官能評価についてよく訓練された者)4名による豆臭の評価を行った。評価点(平均)を下記表18に示す。また、いずれの試験においても、マスキング化合物自体のにおいがハンバーグの風味を損なうことはなかった。
【0115】
【0116】
実験例12
(エンドウ豆タンパク質含有プリンにおけるマスキング剤の豆臭マスキング効果)
<エンドウ豆タンパク質含有プリンの調製>
下記表19に掲げる処方のうち、水、ヤシ油に、撹拌機で撹拌しながら、砂糖、エンドウ豆タンパク、脱脂粉乳、ゲル化剤および乳化剤の粉体混合物を添加し、80℃10分間加熱撹拌溶解した。
【0117】
水にて全量補正した後、撹拌均質化し、93℃に昇温した。マスキング剤溶液を添加し、容器に充填し、冷やし固めてプリンを調製した。なお、表中の数値は質量部を示す。
【0118】
【0119】
<評価基準>
コントロール品(マスキング剤無添加豆タンパク質含有プリン)の豆臭と同等の臭気の評価を「4点 豆臭を強く感じる」とし、また標準品(豆タンパク質を含有しないプリン)を「0点 豆臭を全く感じない」として、以下の評価点を設定して豆臭の評価基準とした:
4点 豆臭を強く感じる
3点 豆臭を感じる
2点 豆臭を少し感じる
1点 豆臭をほとんど感じない
0点 豆臭を全く感じない
<評価結果>
上記評価基準により、前述の<エンドウ豆タンパク質含有プリンの調製>で調製したマスキング剤添加プリンについて、パネラー(においの官能評価についてよく訓練された者)4名による豆臭の評価を行った。評価点(平均)を下記表20に示す。また、いずれの試験においても、マスキング化合物自体のにおいがプリンの風味を損なうことはなかった。
【0120】
【0121】
上記表18及び20の結果から、上記A~F群に属するマスキング化合物は、豆臭を効果的にマスキングできることがわかった。尚、上記実験例3~12において、同一サンプルに対しパネラーがつけた評価点の範囲(最大値と最小値との差)は、多くのサンプルについて0又は1であり、全てのサンプルについて0~2の範囲内であった。