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  • 特開-下穴加工用ドリル 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025040626
(43)【公開日】2025-03-25
(54)【発明の名称】下穴加工用ドリル
(51)【国際特許分類】
   B23B 51/00 20060101AFI20250317BHJP
【FI】
B23B51/00 T
B23B51/00 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023147546
(22)【出願日】2023-09-12
(71)【出願人】
【識別番号】591286982
【氏名又は名称】株式会社MSTコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(72)【発明者】
【氏名】溝口 春機
【テーマコード(参考)】
3C037
【Fターム(参考)】
3C037AA02
3C037BB17
3C037DD01
3C037DD06
(57)【要約】
【課題】寸法精度と形状精度に優れた下穴をあけることができる下穴加工用ドリルを提供する。
【解決手段】軸線Oまわりに回転されるドリル本体2と、ドリル本体2の軸方向前端に取り付けられた3枚のインサートチップ3a,3b,3cとを有し、3枚のインサートチップ3a,3b,3cが、軸線Oに最も近い径方向位置に配置される内径側インサート3aと、軸線Oから最も遠い径方向位置に配置される外径側インサート3cと、内径側インサート3aと外径側インサート3cの中間の径方向位置に配置される中間インサート3bとからなり、内径側インサート3aと中間インサート3bと外径側インサート3cとが互いに周方向に間隔をおいて配置されている下穴加工用ドリル。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線(O)まわりに回転されるドリル本体(2)と、
前記ドリル本体(2)の軸方向前端に取り付けられた3枚のインサートチップ(3a,3b,3c)とを有し、
前記3枚のインサートチップ(3a,3b,3c)には、それぞれ径方向に延びる切れ刃(4)が形成され、
前記3枚のインサートチップ(3a,3b,3c)が、前記軸線(O)に最も近い径方向位置に配置される内径側インサート(3a)と、前記軸線(O)から最も遠い径方向位置に配置される外径側インサート(3c)と、前記内径側インサート(3a)と前記外径側インサート(3c)の中間の径方向位置に配置される中間インサート(3b)とからなり、
前記内径側インサート(3a)と前記中間インサート(3b)と前記外径側インサート(3c)とが互いに周方向に間隔をおいて配置されている、下穴加工用ドリル。
【請求項2】
軸方向から見て、前記内径側インサート(3a)の前記切れ刃(4)の径方向外端(9a)と前記中間インサート(3b)の前記切れ刃(4)の径方向外端(9b)との間の前記軸線(O)を中心とする中心角、前記中間インサート(3b)の前記切れ刃(4)の径方向外端(9b)と前記外径側インサート(3c)の前記切れ刃(4)の径方向外端(9c)との間の前記軸線(O)を中心とする中心角、前記外径側インサート(3c)の前記切れ刃(4)の径方向外端(9c)と前記内径側インサート(3a)の前記切れ刃(4)の径方向外端(9a)との間の前記軸線(O)を中心とする中心角の3つの中心角がそれぞれ90°以上150°以下の範囲に設定されている請求項1に記載の下穴加工用ドリル。
【請求項3】
3本の切り屑排出溝(5a,5b,5c)が前記ドリル本体(2)の外周に周方向に間隔をおいて形成され、
前記3本の切り屑排出溝(5a,5b,5c)のうちの第1の切り屑排出溝(5a)の軸方向前端部に形成された回転方向前方を向く内径側インサート座(7a)に、前記内径側インサート(3a)が取り付けられ、
前記3本の切り屑排出溝(5a,5b,5c)のうちの第2の切り屑排出溝(5b)の軸方向前端部に形成された回転方向前方を向く中間インサート座(7b)に、前記中間インサート(3b)が取り付けられ、
前記3本の切り屑排出溝(5a,5b,5c)のうちの第3の切り屑排出溝(5c)の軸方向前端部に形成された回転方向前方を向く外径側インサート座(7c)に、前記外径側インサート(3c)が取り付けられている請求項1または2に記載の下穴加工用ドリル。
【請求項4】
前記外径側インサート(3c)に形成された前記切れ刃(4)の径方向外端(9c)の回転軌跡の直径が30mm以上に設定されている請求項1または2に記載の下穴加工用ドリル。
【請求項5】
前記ドリル本体(2)に、ドリル本体(2)の内部を軸方向に延びて前記ドリル本体(2)の軸方向前端に開口するクーラント穴(6)が形成されている請求項1または2に記載の下穴加工用ドリル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、寸法精度と形状精度に優れた下穴をあけることができる下穴加工用ドリルに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、高い仕上げ精度をもつ円筒状の穴をワークに形成する場合、まず、ドリルでワークに下穴(仕上げ加工前の穴)をあけ、次に、その下穴の内面に中仕上げ加工と仕上げ加工とを順に行なうことで、所定の仕上げ寸法(目標寸法)に仕上げることが多い。
【0003】
ここで、中仕上げ加工は、その後の仕上げ加工を精度よく行なうために、仕上げ加工の取り代(切り込み深さ)を残して穴の内面を削る加工である。すなわち、ドリルで形成した下穴は、通常、穴の内面の寸法精度や形状精度が低いため、ドリルで形成した下穴の内面にそのまま仕上げ加工を行なったのでは、穴の内面の取り代が一定せず、穴を精度よく仕上げることができない。そのため、仕上げ加工における穴の内面の取り代を一定させて穴を精度よく仕上げるため、仕上げ加工の前に中仕上げ加工(例えばバランスカットボーリングバーを用いた中ぐり加工)が行なわれる。
【0004】
一方、ワークに穴をあけるドリルとして、例えば、特許文献1のものが知られている。特許文献1のドリルは、軸線まわりに回転されるドリル本体と、ドリル本体の軸方向前端に取り付けられた2枚のインサートチップとを有する。2枚のインサートチップは、軸線に近い径方向位置に配置される内径側インサートと、軸線から遠い径方向位置に配置される外径側インサートとからなり、それぞれ径方向に延びる切れ刃が形成されている。内径側インサートと外径側インサートは、軸方向から見て約180°の周方向間隔で配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-079517号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本願の発明者は、高い仕上げ精度をもつ円筒状の穴をワークに形成するときに、従来は、ドリルであけた下穴の内面に、中仕上げ加工と仕上げ加工とを順に行なっていたところ、ドリルで下穴をあけるときに、寸法精度と形状精度に優れた下穴をあけることができれば、ドリルで下穴をあけた後、中仕上げ加工を行なわずに、そのまま仕上げ加工をすることが可能となり、加工工程を減らすことができると考えた。
【0007】
そこで、発明者は、ドリルで寸法精度と形状精度に優れた下穴をあけることを可能とするため、特許文献1のような従来のドリルであけた下穴について、穴の内面の寸法精度や形状精度が低くなる理由を検討したところ、特許文献1のドリルは、軸方向から見て約180°の周方向間隔で2枚のインサートチップが配置された構成であることから、穴あけ加工中の穴の内面によるドリル先端の支持が2点支持となり、ドリル本体の軸線の振れが生じやすく、その結果、ドリルで形成される下穴の内面の寸法精度や形状精度が低くなっていることに気づいた。また、各インサートチップで生じる切り屑が穴あけ加工中の穴から排出される際にその切り屑によって穴の内面が傷付き、下穴の内面の面粗さが悪くなるという問題もある。
【0008】
この発明が解決しようとする課題は、寸法精度と形状精度に優れた下穴をあけることができる下穴加工用ドリルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明では、上記の課題を解決するため、以下の構成の下穴加工用ドリルを提供する。
[構成1]
軸線まわりに回転されるドリル本体と、
前記ドリル本体の軸方向前端に取り付けられた3枚のインサートチップとを有し、
前記3枚のインサートチップには、それぞれ径方向に延びる切れ刃が形成され、
前記3枚のインサートチップが、前記軸線に最も近い径方向位置に配置される内径側インサートと、前記軸線から最も遠い径方向位置に配置される外径側インサートと、前記内径側インサートと前記外径側インサートの中間の径方向位置に配置される中間インサートとからなり、
前記内径側インサートと前記中間インサートと前記外径側インサートとが互いに周方向に間隔をおいて配置されている、下穴加工用ドリル。
【0010】
この構成を採用すると、3枚のインサートチップ(内径側インサート、中間インサート、外径側インサート)が互いに周方向に間隔をおいて配置された構成であることから、穴あけ加工中の穴の内面によるドリル先端の支持が3点支持となり、ドリル本体の軸線の振れが生じにくい。そのため、寸法精度と形状精度に優れた下穴をあけることができる。また、3枚のインサートチップ(内径側インサート、中間インサート、外径側インサート)で下穴を径方向に3分割して切削することから、各インサートチップで生じる切り屑の幅を小さく抑えることができる。そのため、各インサートチップで生じる切り屑が穴あけ加工中の穴から排出される際にその切り屑によって穴の内面が傷付きにくく、穴の内面の面粗さに優れた下穴をあけることができる。
【0011】
[構成2]
軸方向から見て、前記内径側インサートの前記切れ刃の径方向外端と前記中間インサートの前記切れ刃の径方向外端との間の前記軸線を中心とする中心角、前記中間インサートの前記切れ刃の径方向外端と前記外径側インサートの前記切れ刃の径方向外端との間の前記軸線を中心とする中心角、前記外径側インサートの前記切れ刃の径方向外端と前記内径側インサートの前記切れ刃の径方向外端との間の前記軸線を中心とする中心角の3つの中心角がそれぞれ90°以上150°以下の範囲に設定されている構成1に記載の下穴加工用ドリル。
【0012】
この構成を採用すると、内径側インサート、中間インサート、外径側インサートの相互間の中心角がそれぞれ90°以上150°以下の範囲とされているので、穴あけ加工中の穴の内面によるドリル先端の3点支持のバランスが良く、ドリル本体の軸線の振れを効果的に抑えることができる。
【0013】
[構成3]
3本の切り屑排出溝が前記ドリル本体の外周に周方向に間隔をおいて形成され、
前記3本の切り屑排出溝のうちの第1の切り屑排出溝の軸方向前端部に形成された回転方向前方を向く内径側インサート座に、前記内径側インサートが取り付けられ、
前記3本の切り屑排出溝のうちの第2の切り屑排出溝の軸方向前端部に形成された回転方向前方を向く中間インサート座に、前記中間インサートが取り付けられ、
前記3本の切り屑排出溝のうちの第3の切り屑排出溝の軸方向前端部に形成された回転方向前方を向く外径側インサート座に、前記外径側インサートが取り付けられている構成1または2に記載の下穴加工用ドリル。
【0014】
この構成を採用すると、穴あけ加工中に内径側インサートで生じる切り屑、中間インサートで生じる切り屑、外径側インサートで生じる切り屑を、それぞれ第1の切り屑排出溝、第2の切り屑排出溝、第3の切り屑排出溝を通って円滑に排出することができる。
【0015】
[構成4]
前記外径側インサートに形成された前記切れ刃の径方向外端の回転軌跡の直径が30mm以上に設定されている構成1から3のいずれかに記載の下穴加工用ドリル。
【0016】
この構成を採用すると、直径の大きい下穴(具体的には30mm以上の直径の下穴)を、優れた寸法精度と形状精度をもって形成することが可能となる。
【0017】
[構成5]
前記ドリル本体に、ドリル本体の内部を軸方向に延びて前記ドリル本体の軸方向前端に開口するクーラント穴が形成されている構成1から4のいずれかに記載の下穴加工用ドリル。
【0018】
この構成を採用すると、穴あけ加工中に生じる切り屑を、クーラント穴から噴射するクーラントで円滑に排出することができるので、切り屑によって下穴の内面が傷付くのを効果的に防止することができる。
【発明の効果】
【0019】
この発明の下穴加工用ドリルは、3枚のインサートチップ(内径側インサート、中間インサート、外径側インサート)が互いに周方向に間隔をおいて配置された構成であることから、穴あけ加工中の穴の内面によるドリル先端の支持が3点支持となり、ドリル本体の軸線の振れが生じにくい。そのため、寸法精度と形状精度に優れた下穴をあけることができる。また、3枚のインサートチップ(内径側インサート、中間インサート、外径側インサート)で下穴を径方向に3分割して切削することから、各インサートチップで生じる切り屑の幅を小さく抑えることができる。そのため、各インサートチップで生じる切り屑が穴あけ加工中の穴から排出される際にその切り屑によって穴の内面が傷付きにくく、穴の内面の面粗さに優れた下穴をあけることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】この発明の実施形態にかかる下穴加工用ドリルを示す平面図
図2図1の下穴加工用ドリルを軸方向前端の側から見た部分断面図
図3図2に示す下穴加工用ドリルの軸方向前端の近傍の斜視図
図4図2に示す3枚のインサートチップ(内径側インサート、中間インサート、外径側インサート)の位置関係を示す図
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1に、この発明の実施形態にかかる下穴加工用ドリルを示す。この下穴加工用ドリルは、図示しない工作機械の主軸に取り付けられるシャンク1と、シャンク1から軸方向前方(図では上方)に延びるドリル本体2と、ドリル本体2の軸方向前端に取り付けられた3枚のインサートチップ3a,3b,3cとを有する。
【0022】
ドリル本体2は、シャンク1の回転により軸線Oまわりに回転されるように、シャンク1と一体に鋼材で形成されている。3枚のインサートチップ3a,3b,3cは、それぞれ超硬合金で形成されている。
【0023】
図4に示すように、3枚のインサートチップ3a,3b,3cは、ドリル本体2の軸線Oに最も近い径方向位置に配置される内径側インサート3aと、軸線Oから最も遠い径方向位置に配置される外径側インサート3cと、内径側インサート3aと外径側インサート3cの中間の径方向位置に配置される中間インサート3bとからなる。内径側インサート3aと中間インサート3bと外径側インサート3cは、それぞれ径方向に延びる切れ刃4が形成されている。
【0024】
図2図3に示すように、ドリル本体2の外周には、周方向に間隔をおいて3本の切り屑排出溝5a,5b,5cが形成されている。3本の切り屑排出溝5a,5b,5cは、それぞれドリル本体2の軸方向前端に開放して形成されている。また、ドリル本体2には、ドリル本体2の内部を軸方向に延びてドリル本体2の軸方向前端に開口するクーラント穴6が形成されている。
【0025】
図2に示すように、内径側インサート3aは、3本の切り屑排出溝5a,5b,5cのうちの第1の切り屑排出溝5aの軸方向前端部に形成された回転方向前方を向く内径側インサート座7aにクランプねじ8で着脱可能に取り付けられている。同様に、中間インサート3bは、3本の切り屑排出溝5a,5b,5cのうちの第2の切り屑排出溝5bの軸方向前端部に形成された回転方向前方を向く中間インサート座7bにクランプねじ8で着脱可能に取り付けられている。また、外径側インサート3cは、3本の切り屑排出溝5a,5b,5cのうちの第3の切り屑排出溝5cの軸方向前端部に形成された回転方向前方を向く外径側インサート座7cにクランプねじ8で着脱可能に取り付けられている。
【0026】
図4に示すように、軸方向から見て、内径側インサート3aの切れ刃4の径方向外端9aの軸線Oまわりの回転軌跡は、中間インサート3bの切れ刃4と交差し、中間インサート3bの切れ刃4の径方向外端9bの軸線Oまわりの回転軌跡は、外径側インサート3cの切れ刃4と交差している。なお図では回転軌跡を一点鎖線で示している。
【0027】
また、軸方向から見て、内径側インサート3aの切れ刃4の径方向外端9aの軸線Oまわりの回転軌跡の直径は、外径側インサート3cの切れ刃4の径方向外端9cの軸線Oまわりの回転軌跡の直径(すなわち下穴の穴径)の20%以上40%以下の大きさに設定されている。また、中間インサート3bの切れ刃4の径方向外端9bの軸線Oまわりの回転軌跡の直径は、外径側インサート3cの切れ刃4の径方向外端9cの軸線Oまわりの回転軌跡の直径(下穴の穴径)の60%以上80%以下の大きさに設定されている。外径側インサート3cの切れ刃4の径方向外端9cの回転軌跡の直径(下穴の穴径)は、30mm以上に設定されている。
【0028】
内径側インサート3aと中間インサート3bと外径側インサート3cは、互いに周方向に間隔をおいて配置されている。軸方向から見て、内径側インサート3aの切れ刃4の径方向外端9aと中間インサート3bの切れ刃4の径方向外端9bとの間の軸線Oを中心とする中心角、中間インサート3bの切れ刃4の径方向外端9bと外径側インサート3cの切れ刃4の径方向外端9cとの間の軸線Oを中心とする中心角、外径側インサート3cの切れ刃4の径方向外端9cと内径側インサート3aの切れ刃4の径方向外端9aとの間の軸線Oを中心とする中心角の3つの中心角がそれぞれ90°以上150°以下の範囲に設定されている。
【0029】
図4では、内径側インサート3aと中間インサート3bと外径側インサート3cは、切れ刃4が軸線Oを通って径方向に延びる直線に一致するように配置したが、軸線Oを通って径方向に延びる直線に対して回転方向後方に平行にオフセットした位置に切れ刃4がくるように配置してもよい。
【0030】
この下穴加工用ドリルは、図4に示すように、3枚のインサートチップ3a,3b,3cが互いに周方向に間隔をおいて配置された構成であることから、穴あけ加工中の穴の内面によるドリル先端の支持が3点支持となり、ドリル本体2の軸線Oの振れが生じにくい。そのため、寸法精度(下穴の穴径の精度)と形状精度(下穴の内面の円筒度や真円度など)に優れた下穴をあけることができる。また、3枚のインサートチップ3a,3b,3cで下穴を径方向に3分割して切削することから、各インサートチップ3a,3b,3cで生じる切り屑の幅を小さく抑えることができる。そのため、各インサートチップ3a,3b,3cで生じる切り屑が、切り屑排出溝5a,5b,5cを通って穴あけ加工中の穴から排出される際にその切り屑によって穴の内面が傷付きにくく、穴の内面の面粗さに優れた下穴をあけることができる。したがって、この下穴加工用ドリルで下穴をあけた後、中仕上げ加工を行なわずに、そのまま仕上げ加工をすることが可能である。
【0031】
例えば、仕上げ加工後の穴径が40mmの穴を形成する場合、一般には、まず、ドリルで穴径が39.0mm程度の下穴をあけ、次に、その下穴の内面に中仕上げ加工(バランスカットボーリングバーを用いた中ぐり加工など)を行なって39.8mmの穴径(つまり仕上げ加工の取り代0.2mmを残した穴径)にし、その後、仕上げボーリングバーで穴の内面を仕上げ加工して40.0mm(目標寸法)の穴径に仕上げることが多い。これに対し、この下穴加工用ドリルを使用すれば、寸法精度と形状精度と面粗さに優れた下穴をあけることができることから、まず、下穴加工用ドリルを使用して穴径が39.8mm(つまり仕上げ加工の取り代0.2mmを残した穴径)の下穴をあけ、その後、中仕上げ加工を行なわずに、そのまま仕上げボーリングバーで穴の内面を仕上げ加工して40.0mm(目標寸法)の穴径に仕上げることが可能となる。
【0032】
また、この下穴加工用ドリルは、図4に示すように、内径側インサート3a、中間インサート3b、外径側インサート3cの相互間の中心角がそれぞれ90°以上150°以下の範囲とされているので、穴あけ加工中の穴の内面によるドリル先端の3点支持のバランスが良く、ドリル本体2の軸線Oの振れを効果的に抑えることができる。
【0033】
また、この下穴加工用ドリルは、穴あけ加工中に生じる切り屑を、図3に示すクーラント穴6から噴射されるクーラントで、切り屑排出溝5a,5b,5cを通って円滑に排出することができるので、切り屑によって下穴の内面が傷付くのを効果的に防止することができる。
【符号の説明】
【0034】
2 ドリル本体
3a 内径側インサート(インサートチップ)
3b 中間インサート(インサートチップ)
3c 外径側インサート(インサートチップ)
4 切れ刃
5a,5b,5c 切り屑排出溝
6 クーラント穴
7a 内径側インサート座
7b 中間インサート座
7c 外径側インサート座
9a,9b,9c 切れ刃の径方向外端
O 軸線
図1
図2
図3
図4