(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025041038
(43)【公開日】2025-03-26
(54)【発明の名称】ドロスの処理方法
(51)【国際特許分類】
C22B 7/00 20060101AFI20250318BHJP
C22B 21/00 20060101ALI20250318BHJP
C22B 1/00 20060101ALI20250318BHJP
【FI】
C22B7/00 Z
C22B21/00
C22B1/00 601
C22B7/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023148087
(22)【出願日】2023-09-13
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000241485
【氏名又は名称】豊田通商株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】519016181
【氏名又は名称】豊通スメルティングテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113664
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 正往
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100149320
【弁理士】
【氏名又は名称】井川 浩文
(72)【発明者】
【氏名】八百川 盾
(72)【発明者】
【氏名】日比 加瑞馬
(72)【発明者】
【氏名】箕浦 琢真
(72)【発明者】
【氏名】仁木 大輝
(72)【発明者】
【氏名】筒井 亮作
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA02
4K001BA13
4K001BA22
4K001KA08
4K001KA13
(57)【要約】
【課題】アルミニウム系ドロスから、Al(合金)を効率的に回収できるドロスの処理方法を提供する。
【解決手段】本発明は、Al基溶湯上で生じたドロスを溶融塩溜へ入れる供給工程を備え、ドロスに含まれる非金属分と金属分を溶融塩中で分離するドロスの処理方法である。少なくとも、その金属分を取り出す回収工程をさらに備えるとよい。溶融塩は、例えば、塩化物を溶解して調製され、その温度は金属分の融点以上にされる。ドロスは、例えば、粒状にして溶融塩溜へ添加される。ドロスは、例えば、Al基材のスクラップから再生Al基地金を製造する過程で生じる。本発明によれば、非金属分や不純物元素が分離除去された金属分の効率的な回収が可能となる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Al基溶湯上で生じたドロスを溶融塩溜へ入れる供給工程を備え、
該ドロスに含まれる非金属分と金属分を該溶融塩中で分離するドロスの処理方法。
【請求項2】
前記溶融塩は、塩化物を溶解して調製される請求項1に記載のドロスの処理方法。
【請求項3】
前記溶融塩は、前記金属分の融点以上にされる請求項1に記載のドロスの処理方法。
【請求項4】
前記ドロスは、粒状である請求項1に記載のドロスの処理方法。
【請求項5】
前記非金属分は、酸化物および/または窒化物を含み、
前記金属分は、Al合金を含む請求項1に記載のドロスの処理方法。
【請求項6】
前記Al基溶湯は、スクラップを溶解して調製される再生Al基溶湯である請求項1に記載のドロスの処理方法。
【請求項7】
前記金属分および/または前記非金属分を取り出す回収工程をさらに備える請求項1~6のいずれかに記載のドロスの処理方法。
【請求項8】
前記金属分からAl基地金を得る請求項7に記載のドロスの処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム系ドロスの処理方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウムの製錬は、膨大なエネルギー消費と二酸化炭素(CO2)発生を伴うため、(再生)地金等の製造過程で生じるアルミニウム系ドロス(単に「ドロス」という。)からも、Alを回収してAlを有効活用することが、環境負荷低減や循環型社会構築等の観点から重要である。
【0003】
このようなドロスの処理方法に関する提案は多くなされており、例えば、下記の特許文献に関連する記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6-100956
【特許文献2】特開平9-310129
【特許文献3】特開2002-322519
【特許文献4】特開2020-142190
【特許文献5】特開2006-312766
【特許文献6】特開2015-83711
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1や特許文献2に記載されている高温加熱処理法では、酸化によるAlロスが多くなる。特許文献3または特許文献4に記載されている水熱処理法または湿式処理法では、ドロスに含まれる窒化アルミニウム(AlN)が水と反応したときに発生するアンモニアが処理されるに留まる。つまりドロスからAlを有効に回収できない。
【0006】
特許文献5は、加熱したドロスを機械的に撹拌や圧搾してAlを回収する灰搾り方法(装置)に関する。特許文献6は、灰搾りするドロスの発熱剤となるフラックスを提案している。このような従来の灰搾りでは、ドロスを大気中で高温加熱するため、酸化によるAlロスが多くなる。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みて為されたものであり、従来とは異なる新たなドロスの処理方法等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者はこの課題を解決すべく鋭意研究した結果、溶融塩へドロスを投入することにより、ドロスに含まれる金属分と非金属分を効率的に分離できることを新たに見出した。この成果を発展させることにより、以降に述べる本発明を完成するに至った。
【0009】
《ドロスの処理方法》
(1)本発明は、例えば、Al基溶湯上で生じたドロスを溶融塩溜へ入れる供給工程を備え、該ドロスに含まれる非金属分と金属分を該溶融塩中で分離するドロスの処理方法である。
【0010】
(2)本発明によれば、ドロスに含まれる金属分の効率的な回収が可能となる。この機序は次のように考えられる。
【0011】
溶融塩に接触したドロスは、非金属分が溶融塩へ取り込まれ、非金属分が金属分と分離する。非金属分と分離した金属分は、溶融塩中で分散等した後、通常、溶融塩との比重差により下方(例えば容体の底側)へ移動(沈降)して凝集し得る。
【0012】
この金属分は、非金属分が除去された精製状態であると共に、溶融塩により外界(例えば大気雰囲気)から遮蔽されて酸化や窒化等が抑制された状態となっている。このため本発明によれば、原料となるドロスから、Alロスやアンモニア発生等を抑制しつつ、良質な状態でAlを効率よく回収できる。
【0013】
《Al基材/その製造方法》
本発明は、ドロスを処理して得られた金属分からなるAl基材またはその製造方法としても把握される。Al基材は、純AlまたはAl合金からなる液相(溶湯)または固相(鋳塊(地金)、部材等)である。
【0014】
《その他》
特に断らない限り本明細書でいう「x~y」は下限値xおよび上限値yを含む。本明細書に記載した種々の数値または数値範囲に含まれる任意の数値を新たな下限値または上限値として「a~b」のような範囲を新設し得る。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】ドロス(一例)を分析して得られたX線回折パターンである。
【
図2】そのドロスの処理後に得られた塩化物を分析して得られたX線回折パターンである。
【
図4】ドロスとその処理後に得られた塩化物および金属塊とに係る成分分析例である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
上述した本発明の構成要素に、本明細書中から任意に選択した一つまたは二つ以上の構成要素を付加し得る。本明細書で説明する内容は、方法的な構成要素であっても物(例えばAl基材)に関する構成要素ともなり得る。
【0017】
《ドロス》
ドロスは、Al基溶湯中に含まれる不純物や不要成分元素を低減または除去する除滓処理(脱滓処理を含む。)で生じる副産物である。ドロスは、製錬時に生じたものでも、精錬(精製)時にできたものでも、所望組成のAl基溶湯の調製時にできたものでもよい。
【0018】
ドロスには、金属分(MP:Metal Products)の他、種々の非金属分(NMP:Non-Metal Products)が含まれる。非金属分は、主に化合物からなる。化合物は、Alの酸化物や窒化物の他、例えば、溶解させる原料等に含まれる不純物元素や合金元素の化合物、除滓処理に用いるフラックスやガス等に含まれる成分の化合物である。具体的にいうと、Si、Fe、Mg、Cu、Mn、Zn等の酸化物(複合酸化物(例えばAl2O3MgO(スピネル)等を含む。)、窒化物、塩化物(ハロゲン化物、炭酸塩、硫酸塩等)、金属間化合物等である。Feの酸化物は、FeO、Fe3O4、Fe2O3の他、スピネル型(FeAl2O4等)等でもよい。
【0019】
Alを主成分とする金属分は、純AlでもAl合金でもよく、形態(形状、大きさ)は問わない。ドロス中の金属分は、通常、その外表面の全部または一部が非金属分で覆われている。
【0020】
ドロスは、固形状でも、流動状でもよい。例えば、Al基溶湯の坩堝等から取り出した直後の固液共存状態のドロスを処理してもよいし、それを冷却・凝固させた固形状のドロスを処理してもよい。
【0021】
《溶融塩》
溶融塩は、例えば、安定な金属ハロゲン化物(特に塩化物および/または臭化物)を溶解して調製される。ハロゲン化物を構成する金属元素は、例えば、Ca、Na、Li、Sr、K、Mg、Cs、Ba等の一種以上である。Naおよび/またはKのハロゲン化物(特に塩化物)は、安価で安定しており溶融塩に好適である。なお、当然ながら、溶融塩の成分組成は、ドロス処理の進行に伴い初期値から変動する。例えば、塩化物(NaCl、KCl等)のみを溶解して調製した溶融塩でも、ドロスに含まれていた成分(フラックスの残留成分等)により、Cl以外のハロゲン元素(F等)を含むようになり得る。
【0022】
溶融塩は、複数種の金属ハロゲン化物が混在した混合塩(例えばNaClとKCl)でもよい。溶融塩の配合(成分調整)により、溶融温度、密度等が調整されてもよい。溶融塩が金属分(主にAl)よりも低密度(比重)なら、金属分を沈降させて回収できる。溶融塩は、単層に限らず複層でもよい。
【0023】
溶融塩は、ドロスに含まれる金属分と非金属分を分離できれば足る。このため溶融塩は、金属分(主にAl)の融点未満でもよい。もっとも、溶融塩がその融点以上であると、金属分の溶解、凝集、一体化等が生じ易くなり、その回収性が向上する。
【0024】
溶融塩量は、ドロスの処理量により調整されるとよい。例えば、溶融塩溜は、供給されたドロスを浸漬させられる深さ(層厚)があるとよい。その層厚は、例えば、5~100mm、15~50mmでもよい。
【0025】
《Al基溶湯》
ドロスを生じるAl基溶湯は、例えば、地金やスクラップ(廃材)等を溶解して得られる。スクラップを溶解した再生Al基溶湯の精製等で生じたドロスを処理対象にすると、Al資源のさらなる有効活用(回収率の向上)が図られる。
【0026】
《処理方法》
(1)供給工程
ドロスを溶融塩溜へ入れる形態は問わない。ドロスの溶融塩溜への供給(添加、投入等)は、連続的になされても断続的になされてもよい。
【0027】
粒状にしたドロスを、溶融塩へ投入または散布等すると、溶融塩との反応促進、金属分の回収効率向上等が図られる。粒状のドロスは、例えば、塊状(固形状)のドロスを所望サイズに解砕または粉砕して得られる。その粒子サイズは、例えば、50mm以下、25mm以下または10mm以下である。その下限値は問わないが、例えば、1mm以上または5mm以上としてもよい。ここでいう粒子サイズ(粒径)は、例えば、篩いサイズ(目開きの大きさ)により特定される。
【0028】
(2)回収工程
金属分の回収形態は問わない。金属分は、連続的に回収されても、断続的に回収されてもよい。例えば、溶融した金属分(処理溶湯)なら、溶融塩溜の下方から連続的に取り出されてもよい。また、溶融塩と共に冷却凝固させた金属分を、固形塩を除去(水洗等)して回収してもよい。回収された金属分は、そのまま鋳造等に供されてもよいし、Al基地金(原料)として供されてもよい。
【実施例0029】
Al基再生地金の製造過程で生じるドロスから、金属分(Al基合金)を回収する具体例に基づいて、本発明をより詳しく説明する。
【0030】
《ドロス》
(1)供試材
Al基部材のスクラップ(原料)を溶解して除滓処理を行なった。再生Al基溶湯上にできたドロスを坩堝外へ取り出し、ドロスクーラにより冷却した。固形状のドロスをさらに破砕および分級して粒状にした。粒状のドロスを供試材として用いた。それらの最大粒長は5mm以下(粒長:約1~5mm程度)であった。
【0031】
(2)観察・分析
供試材(粒状のドロス)をX線回折装置(Malvern PANalytical社製EMPYREAN)により分析した。得られた回折パターンを
図1に示した。
【0032】
その回折パターンから、ドロス表面は少なくとも、窒化アルミニウム(AlN)、酸化アルミニウム(Al
2O
3)、スピネル(MgAl
2O
4)、ケイ素(Si)、酸化鉄(FeO)などの非金属分で覆われていることがわかった。X線回折法(XRD)では、測定対象物の表面に存在する物質しか分析できない。このため、AlまたはAl合金などの金属分を示す回折ピークは
図1に現れなかったと考えられる。
【0033】
供試材に含まれる元素を、蛍光X線分析装置(日本電子株式会社製JSX-1000S)で分析した。その結果を
図4の表1に示した。本実施例では、全体に対する質量割合(質量%)で、各元素の濃度を示した(以下同様)。
【0034】
表1から明らかなように、供試材の大部分(約3/4)はAlからなり、原料であるスクラップに由来すると思われる合金元素(Si、Mg、Cu、Mn、Zn、Ti等)や不純物元素(Fe等)が相応に含まれていることがわかった。また、徐滓処理で用いたフラックスに由来すると思われる成分元素(Na、K、Ca、Cl、S等)も検出された。蛍光X線分析法による測定元素範囲は11Na~92Uである。このため、7N、8O等は表1の分析結果に含まれていない。
【0035】
図1と表1(
図4)の分析結果から、ドロスの大部分を占める金属分(純AlまたはAl合金)は、非金属分により殆ど被覆された状態にあったと推察される。
【0036】
《溶融塩溜》
混合塩化物(KCl-44質量%NaCl):2000gを、黒鉛坩堝内で加熱して溶解させた。こうして溶融塩溜(800℃)を調製した。
【0037】
《ドロス処理》
(1)供給工程
供試材(ドロス):1000gを、その溶融塩溜へ添加し(供給工程)、その後の様子を観察した。粒状のドロスは、表面側にあった非金属分が先行して溶融塩中に分散し、金属分と分離した(分離過程)。現れた粒状の金属分は少し遅れて溶解し、溶融塩中で表面張力によって球状化した。さらに球状化した金属分は、溶融塩中で徐々に一体化して、坩堝の底部へ沈降して堆積した。このような一連の様子を
図3に模式的に示した。
【0038】
(2)回収工程
非金属分を含む溶融塩層とその下方にある金属層とに2層分離した状態の坩堝全体を冷却した。金属層が凝固した金属塊と、溶融塩が凝固した塩化物とをそれぞれ回収した(回収工程)。
【0039】
表面に付着していた塩化物を水洗除去した金属塊(Al基地金)は650gであった。つまり、ドロスの65%を金属分として回収できた。
【0040】
(3)分析
回収した金属塊の成分組成をスパーク放電発光分光分析法により分析した。その結果を
図4の表2に示した。表2から明らかなように、その金属塊の成分組成は、ダイカスト用アルミニウム合金(ADC12)の成分組成に近かった。これは、ドロスの生成に用いたスクラップ(再生Al基合金の原料)の合金組成を反映していると思われる。
【0041】
また、表1と表2の比較から明らかなように、金属塊中のFe濃度は、ドロス中のFe濃度よりもかなり低くなった。つまり、上述したドロス処理より、ドロスに含まれていたFe(または酸化鉄)がほとんど混入しない精製Al合金塊が得られることがわかった。
【0042】
さらに、回収した塩化物を上述したX線回折装置で分析して得られた回折パターンを
図2に示した。
【0043】
その回折パターンでは、溶融塩原料である塩化ナトリウム(NaCl)および塩化カリウム(KCl)に加えて、少なくとも、窒化アルミニウム(AlN)、酸化アルミニウム(Al2O3)およびスピネル(MgAl2O4)を示すピークが観られた。このような非金属分(主に化合物)が、処理後の塩化物中に捕捉されていることも確認された。処理後の塩化物を水洗等すれば、そのような非金属分の回収も可能である。
【0044】
処理後の塩化物に含まれる元素を、上述した蛍光X線分析装置で分析した。その結果を
図4の表3に示した。表3から明らかなように、その塩化物には、溶融塩原料であるCl、KおよびNaに加えて、Feが10質量%以上も含まれていた。溶融塩がFeを取り込むことにより、Fe濃度の低い精製された金属塊が得られることが改めてわかった。
【0045】
《比較例》
ドロス(灰)から灰搾りにより金属分を回収する比較実験も行なった。具体的には次の通りである。
【0046】
上述した供試材(ドロス):914gを黒鉛坩堝に入れて、大気中で800℃に加熱した。この際、坩堝内で溶融した金属分を、黒鉛棒で撹拌しつつ一体化させた。なお、黒鉛棒による撹拌中、坩堝内でドロスが発熱した。これは、溶融した金属分(Al)の酸化熱によると考えられる。
【0047】
溶融した金属分のみを分析型に注湯して、冷却凝固させた。こうして得られた金属塊は500g(回収率:54.7%)であった。
【0048】
その金属塊も、既述したスパーク放電発光分光分析法により分析した。その結果を
図4の表4に示した。表4から明らかなように、その金属塊の成分組成も、スクラップの合金組成(ADC12)に近かった。但し、表2と表4を比較すると明らかなように、その金属塊中のFe濃度は2.1質量%もあった。つまり、従来のような灰搾りでは、ドロスに含まれていたFe(または酸化鉄)が金属塊中にも溶け込み、Feが殆ど除去されないこともわかった。
【0049】
以上から、本発明の処理方法によれば、非金属分(Al2O3、AlN、MgAl2O4、FeO等)や不純物元素が除去された金属分を、ドロスから効率的に回収できることが確認された。