(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025041535
(43)【公開日】2025-03-26
(54)【発明の名称】食感予測モデル生成方法、食感予測方法、食感予測モデル生成システム、食感予測システム、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G01N 3/40 20060101AFI20250318BHJP
G01N 19/00 20060101ALI20250318BHJP
G01N 3/00 20060101ALI20250318BHJP
G01N 3/08 20060101ALI20250318BHJP
G01N 33/02 20060101ALI20250318BHJP
【FI】
G01N3/40 A
G01N19/00 E
G01N3/00 K
G01N3/08
G01N33/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024139187
(22)【出願日】2024-08-20
(31)【優先権主張番号】P 2023148028
(32)【優先日】2023-09-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】000175283
【氏名又は名称】三栄源エフ・エフ・アイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中馬 誠
(72)【発明者】
【氏名】石原 清香
【テーマコード(参考)】
2G061
【Fターム(参考)】
2G061AA02
2G061AB01
2G061BA19
2G061CA20
2G061CB03
2G061DA12
2G061EA01
2G061EB03
2G061EC04
(57)【要約】
【課題】簡素な測定方法で実現可能な食感予測技術を提供する。
【解決手段】食感予測モデル生成方法は、食品の押圧時に食品から受ける力の変化を示す複数の測定値[F
1、…、F
780](またはF
1、…、F
180)を入力とし、食感評価値[X
1~X
85]を出力とする教師データD1を取得するステップと、教師データD1を用いて機械学習することにより、食感評価値[X
1~X
85]を出力する食感予測モデル20を生成するステップと、を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
食品の押圧時に前記食品から受ける力の変化を示す複数の測定値を入力とし、食感評価値を出力とする教師データを取得するステップと、
前記教師データを用いて機械学習することにより、食感評価値を出力する食感予測モデルを生成するステップと、
を含む、食感予測モデル生成方法。
【請求項2】
前記複数の測定値は、前記食品が所定歪変形する度の力の大きさを示す値である、請求項1に記載の食感予測モデル生成方法。
【請求項3】
前記複数の測定値は、所定時間経過する度の力の大きさを示す値である、請求項1に記載の食感予測モデル生成方法。
【請求項4】
前記複数の測定値は、1つの測定点における力の変化を示す値である、請求項1に記載の食感予測モデル生成方法。
【請求項5】
前記複数の測定値は、押圧子が食品を押圧する動作の際に測定される値と、前記押圧後に前記押圧子を前記食品の押圧から戻す動作の際に測定される値と、を含む、請求項1~3のいずれかに記載の食感予測モデル生成方法。
【請求項6】
食品の押圧時に前記食品から受ける力の変化を示す複数の測定値を取得するステップと、
複数の測定値を入力として食感評価値を出力するように機械学習された食感予測モデルに対して、前記取得した複数の測定値を入力して、前記食感評価値を出力するステップと、
を含む、食感予測方法。
【請求項7】
前記複数の測定値は、前記食品が所定歪変形する度の力の大きさを示す値である、請求項6に記載の食感予測方法。
【請求項8】
前記複数の測定値は、所定時間経過する度の力の大きさを示す値である、請求項6に記載の食感予測方法。
【請求項9】
前記複数の測定値は、1つの測定点における力の変化を示す値である、請求項6に記載の食感予測方法。
【請求項10】
前記複数の測定値は、押圧子が食品を押圧する動作の際に測定される値と、前記押圧後に前記押圧子を前記食品の押圧から戻す動作の際に測定される値と、を含む、請求項6~8のいずれかに記載の食感予測方法。
【請求項11】
食品の押圧時に前記食品から受ける力の変化を示す複数の測定値を入力とし、食感評価値を出力とする教師データを取得する教師データ取得部と、
前記教師データを用いて機械学習することにより、食感評価値を出力する食感予測モデルを生成する学習部と、
を備える、食感予測モデル生成システム。
【請求項12】
食品の押圧時に前記食品から受ける力の変化を示す複数の測定値を取得する予測対象測定値取得部と、
複数の測定値を入力として食感評価値を出力するように機械学習された食感予測モデルに対して、前記取得した複数の測定値を入力して、前記食感評価値を出力する予測部と、
を備える、食感予測システム。
【請求項13】
請求項1又は6に記載の方法を1又は複数のプロセッサに実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、機械学習を用いた食品の食感予測技術に関する。
【背景技術】
【0002】
食感はヒトの感覚特性に基づく官能評価によって定義される。官能評価は、ヒトの感覚がそのまま数値化されるというメリットがあるが、再現性の高い評価のためには、訓練された評価者(パネル)を数多く養成する必要があり、コストと時間がかかる。
【0003】
これに対し、機器を用いた物理測定によって食感を評価する研究・開発が行われている。特許文献1には、食品の押圧時の1軸反力の測定ではヒトの食感を評価することが原理的に難しいと考えられることが開示されている。また、特許文献1には、測定装置による食品の押圧時に食品から受ける圧力分布を示す圧力分布画像を取得し、取得した圧力分布画像に基づいて食感評価値を出力する畳み込みニューラルネットワークを学習させることが開示されている。また、非特許文献1には、破断を伴う食品について計測した力を用いて機械学習技術により食品を判別することについての言及がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Shunsuke Yoshida, Makoto Takemasa: Food texture analysis based on machine learning: The 34th Annual Conference of the Japanese Society for Artificial Intelligence, 2020
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の手法では、食品の押圧時に食品から受ける圧力分布を測定する必要があり、より簡素な測定方法により食感予測が可能な技術が求められる。
【0007】
本開示は、簡素な測定方法で実現可能な食感予測技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の食感予測モデルの生成方法は、食品の押圧時に前記食品から受ける力の変化を示す複数の測定値を入力とし、食感評価値を出力とする教師データを取得するステップと、前記教師データを用いて機械学習することにより、食感評価値を出力する食感予測モデルを生成するステップと、を含む。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1実施形態の食感予測モデル生成システム1、及び食感予測システム2を示すブロック図である。
【
図2】測定装置3の構成を示す模式的な説明図である。
【
図3】第1実施形態で用いる85種類の食感評価値[X
1、X
2、…、X
85]に関する説明図である。85種類の中から一部を抜粋して示している。
【
図4】食感予測モデル生成システム1が実行する処理を示すフローチャートである。
【
図5】食感予測システム2が実行する処理を示すフローチャートである。
【
図6】食感予測モデル20の生成に利用した複数の食品のうちの一部の食品(豆腐)について、測定装置3で測定した複数の荷重値[F
1、F
2、…、F
780]をプロットした図である。
【
図7】4食品における官能評価値の上位5位と食感予測モデル20で得られた食感評価値(推定値)とを対比して示す図である。
【
図8】上記4食品の食感評価値の予測に用いた荷重値の時系列の波形を示す図である。
【
図9】上記4食品の食感評価値の予測に用いた荷重値の歪系列の波形を示す図である。
【
図10】4食品における上位5位の官能評価値と、荷重値の歪系列の波形データを用いた食感予測モデル20で得られた食感評価値(推定値)とを対比して示す図である。
【
図11】力の歪系列の波形データに基づいて食感予測モデル20で得られた食感評価値(推定値)と36食品における官能評価値との決定係数、および、力の時系列の波形データに基づいて食感予測モデル20で得られた食感評価値(推定値)と36食品における官能評価値との決定計数を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[第1実施形態]
以下、本開示の第1実施形態を、図面を参照して説明する。
図1は、第1実施形態の食感予測モデル生成システム1、及び食感予測システム2を示すブロック図である。
図2は、測定装置3の構成を示す模式的な説明図である。
【0011】
<食感予測モデル生成システム1、食感予測システム2>
図1に示すように、食感予測モデル生成システム1は、教師データD1を用いて食感予測モデル20を機械学習で構築する。食感予測システム2は、予測対象の食品の一軸押圧時に測定される力の変化データG1(詳細は後述する。力の波形データとも呼称する場合がある)に基づいて食感評価値(推定値)を予測する。食感予測システム2は、食感予測モデル生成システム1によって予め機械学習により生成された食感予測モデル20を用いる。
【0012】
食感予測システム2は、予測対象測定値取得部21と、予測部22と、を有する。食感予測モデル生成システム1は、教師データ取得部10と、教師データD1と、学習部11と、を有する。教師データD1はメモリ1aに記憶される。教師データ取得部10及び学習部11は、プロセッサ1bで実現される。予測対象測定値取得部21及び予測部22はプロセッサ2bにより実現される。本実施形態では、1つの装置におけるプロセッサ1b、2bが各部を実現しているが、これに限定されない。例えば、ネットワークを用いて各処理を分散させ、複数のプロセッサ1b、2bが各部の処理を実行するように構成してもよい。すなわち、1又は複数のプロセッサ1b、2bが処理を実行する。
【0013】
予測対象測定値取得部21は、予測対象の食品の一軸押圧時に測定される力の変化データG1を取得する。力の変化データG1は、
図2に模式的に示すセンサ30及び押圧子31を有する測定装置3によって得ることが可能である。押圧子31は、食品Sを圧縮する方向UD1(押圧方向、下方)に移動する押圧動作が可能であると共に、所定距離圧縮した後に食品Sの押圧から戻す方向UD2(押圧方向の逆方向、上方)に移動する復帰動作が可能に構成されている。押圧子31には、ロードセル等のセンサ30が関連付けてあり、押圧子31の押圧動作及び復帰動作の際に押圧子31が食品Sから受ける力(荷重値[N]もしくは圧力値[Pa])を検出可能である。よって、センサ30で測定される力の変化データG1は、食品Sの押圧時に食品Sから受ける力の変化を示す複数の測定値で構成されている。本実施形態では、複数の測定値は、1つの測定点における力の変化を示す。1つの測定点とは、食品Sから受ける力を測定するセンサが一つであってもよいし、複数のセンサそれぞれの測定値を、平均等の統計処理により1つの測定値にすることも含まれる。本実施形態では、複数の測定値は、所定時間経過する度に測定された値であり、所定時間経過する度の力の大きさを示す値である。
なお、後述する教師データD1に含まれる複数の測定値は、上記予測対象測定値取得部21が取得する力の変化データG1と同様の方法でデータを取得可能である。
【0014】
図6は、食感予測モデル20の生成に利用した複数の食品のうちの一部の食品(豆腐)について、測定装置3で測定した複数の荷重値[F
1、F
2、…、F
780]をプロットした図である。横軸が経過時間を示し、縦軸が荷重値を示している。荷重値の正値は、押圧子31が食品Sを押圧する動作の際に測定される値であり、荷重値の負値は、押圧後に押圧子31を食品Sの押圧から戻す動作の際に測定される値である。本実施形態における複数の測定値(荷重値もしくは圧力値)は、押圧子31を食品の押圧から戻す動作の際に測定される値が含まれているが、押圧子31が食品Sを押圧する動作の際に測定される値が含まれていれば、これに限定されない。なお、測定値の正負は、センサ30の検出方向によって入替可能であるので、押圧子31が食品Sを押圧する動作の際に測定される値を負値とし、押圧子31を食品Sの押圧から戻す動作の際に測定される値を正値としてもよい。
【0015】
図6は、同一食品について5回計測した際の荷重値の時系列変化を示す波形が表れている。同一食品であっても計測する度に波形データが毎回異なっているが、各食品の特徴が波形として現れていると考える。
【0016】
図1に示すように、予測部22を構成する食感予測モデル20は、食品Sの一軸圧縮により1つの測定点で測定された複数の測定値[F
1、F
2、…、F
780]と、あらかじめ官能評価によって得点化された食品Sの食感評価値[X
1、X
2、…、X
85]とを関連付けた教師データD1を用いて、複数の測定値F
iを説明変数として入力し、食感評価値[X
1、X
2、…、X
85]を目的変数として出力するように機械学習で構築されたモデルである。
図3は、本実施形態で用いる85種類の食感評価値[X
1、X
2、…、X
85]に関する説明図である。本実施形態において、食感評価値は、
図3に示すように85項目あり、各々の値は食感評価値[X
1、X
2、…、X
85]で表現可能である。X
j(j=1~M、M=85)とも表記できる。1つの食感評価値に対して1つのモデルが必要となるため、本実施形態における食感予測モデル20は、評価したい食感評価項目の数に等しい数の85個のモデルを含んでいる。すなわち、1つのモデルに対して780個の測定値が入力され、1つの食感評価値が出力される。本実施形態では、1つの力の波形データに基づいて、複数の食感評価値を推定できる。本実施形態ではモデルには、knimeのGradient Boosted Decision Tree(勾配ブースティング決定木)を用いているが、教師有りの機械学習モデルであれば、これに限定されない。例えば、線形回帰、回帰木、ランダムフォレスト、サポートベクターマシン、ニューラルネットワーク、アンサンブル等の種々のモデルを利用可能である。
【0017】
食感評価値[X
1、X
2、…、X
85]は、
図3に示すように、85個である。食感評価値[X
1、X
2、…、X
85]は官能評価に基づき、食感を表す各項目に対する評価値として求められる。食感を表す項目として、オノマトペ用語を用いることが好ましい。オノマトペ用語は擬音語や擬態語であり、食感を表現するのに使われる用語から、例えば「ぷるぷる」、「ぷるん」、「ぷるっ」といった2音の繰り返しや2音に「ん、り、っ」などの補助的な音が付属した用語を抽出することで選択できる。また上記評価に用いる食感を表す項目は、類似したものをまとめることにより、集約することもできる。食感評価値は例えば0~5までの6段階で得点化する(「0」が感じない、「5」が非常に強く感じる、とする)。食感評価値は複数の被験者の得点の平均値であってもよいが、被験者(パネル)による個人差が生じるおそれがあるため、各々の食品の複数人の食感評価値[X
1、X
2、…、X
85]に対してノーマライズ処理(平均値及び分散を統一する標準化処理)を実行して、Zスコアにすることが好ましい。これにより、複数人の食感評価値を比較可能になり、個人差を低減又は無くして、好ましい教師データD1を生成して取得することが可能になる。
【0018】
教師データ取得部10は、食品の圧縮試験で測定される複数の測定値[F1、F2、…、F780]を取得すると共に、その食品の食感評価値[X1、X2、…、X85]を取得し、両者を関連付けた教師データD1を取得し、メモリ1aに記憶する。本実施形態では、教師データ取得部10は、教師データD1を生成して取得しているが、教師データ取得部10が教師データD1を生成せずに、既に外部で生成された教師データD1を取得してもよい。学習部11は、教師データD1を用いて食感予測モデル20を学習させる。
【0019】
<食感予測モデル生成方法>
図4は、食感予測モデル生成システム1が実行する処理を示すフローチャートである。
図4に示すように、ステップST1において、教師データ取得部10は、食品の押圧時に食品から受ける力の変化を示す複数の測定値を入力とし食感評価値を出力とする教師データD1を取得する。ステップST2において、学習部11は、教師データD1を用いて機械学習することにより、食感評価値を出力する食感予測モデル20を生成する。
【0020】
<食感予測方法>
図5は、食感予測システム2が実行する処理を示すフローチャートである。
図5に示すように、ステップST101において、予測対象測定値取得部21は、予測対象の食品の押圧時に食品から受ける力の変化を示す複数の測定値を取得する。ステップST102において、予測部22は、食感予測モデル20に対して、取得した複数の測定値を入力して、食感評価値(推定値)を出力する。
【0021】
[本開示の効果]
実施例1
上記の本開示の効果を示すために、実施例1を下記に示す。試料として市販の21種類のゲル状食品を用いている。各々の食品について一軸押圧による力の変化(力の時系列変化)の測定(所定時間経過する度の荷重値の測定)を5回行った。また、官能評価を行い、85種類の食感評価値[X
1~X
85]を求めた。官能評価では、8名の被験者(男性6名、女性2名、平均年齢36±8.5歳)により、
図3に示す85種類のオノマトペ用語(評価項目)で示される食感の感覚強度の8名の平均値を食感評価値として設定した(「0」が感じない、「5」が非常に強く感じる)。食品の試料は5℃に調温し、後述する押圧試験と同サイズで約5cm
3となるようにカットした。1回~4回目の力の変化データと85種類の食感評価値[X
1~X
85]とを含む教師データD1を用いた機械学習により食感予測モデル20を生成した。生成した食感予測モデル20に対して5回目の力の変化データを予測対象測定値として入力し、21種類の食品についてそれぞれ85項目の食感評価値(推定値)を予測した。
【0022】
力の測定について、具体的には、0.005秒ごとに測定した780個の力の測定値[F1、F2、…、F780]である。力の測定値Fi(i=1~N、N=780)で表現可能である。測定時間は0.005秒×780=約3.9秒である。測定装置3として、Stable Microsystems社製のテクスチャーアナライザTA-XT2iを用いた。食品の試料温度は5℃に調温している。食品のサイズは、後述する官能評価試験と同一サイズであり、直径23mmで高さ12mmの円柱状としている。押圧子31は直径3mmのステンレス製の円柱形状である。圧縮速度は10mm/sとしている。クリアランスは1mmとした。押圧子31の押圧面は、食品よりも小さい。クリアランスは、最も食品の試料を圧縮している状態の押圧子31の先端と、食品の試料を載置している試料台との距離である。
【0023】
図7は、4食品における上位5位の官能評価値と食感予測モデル20で得られた食感評価値(推定値)とを対比して示す図である。
図8は、上記4食品の食感評価値の予測に用いた荷重値の時系列の波形を示す図である。
図7及び
図8では、4食品のみを示しているが、21種類の食品について各々の食品の上位5位の官能評価値と、食感予測モデル20で得られた食感評価値(推定値)とを比較した。決定係数(R
2)が0.968であり、RMSE(二乗平均平方根誤差)が0.121である。上位5位の官能評価値について、対応する食感評価値を荷重値の波形データに基づいて良好に予測できていると考える。
【0024】
上記の結果より、マトリックス状に配置される複数の計測点における圧力分布画像ではなく、1つの計測点における力の変化データG1(力の波形データ、複数の測定値)により、食感評価値の予測は可能であることが理解できる。
【0025】
[第2実施形態]
本開示の第2実施形態について説明する。第2実施形態と第1実施形態の相違は、力の変化データG1である。すなわち、第1実施形態では、所定時間経過する度の力の大きさを測定値としている力の時系列データであるのに対し、第2実施形態では、食品が所定歪変形する度の力の大きさを測定値としている力の歪系列データである。歪は、プランジャ(押圧子31)の移動距離を食品Sの高さ(移動方向に沿った寸法)で除した値である。速度と時間を乗算することで押圧子31の移動距離を算出可能であるので、一定速度で移動する押圧子31の移動時間や移動距離は、歪に変換可能である。
力の値を食品が所定歪変形する度の値にすることで、食品のサイズを同一形状にしなければならない等の制限がなくなる。そのため、容器に入った食品や容器から取り出した食品を測定可能となる。また、容器に入れた状態で測定可能となるので、保形できない食品の食感を予測可能となる。
【0026】
実施例2
上記の本開示の効果を示すために、実施例2を下記に示す。試料として市販の21種類のゲル状食品を用いている。各々の食品について一軸押圧による力の変化の測定を10回以上行い、力の時系列変化を力の歪変化に換算して用いた。官能評価は実施例1と同様に上記段落[0021]に記載の方法と同様に行った。
【0027】
具体的には、押圧子31は直径5mmのステンレス製の円柱形状である。圧縮速度は10mm/sとしている。トリガー荷重を0.005Nに設定し(0.005Nの荷重を検出した時点を、押圧子31が試料表面に触れた初期位置としてデータの取り込みを開始し)、初期位置を歪0%として、食品Sの高さを100%とした場合に、初期位置の歪0%から歪90%まで押し込んだのち、同じ速度で引き上げる(すなわち、クリアランスは10%となる)。歪1%ごとの計180点の測定値を説明変数として用いた。測定は繰り返し10回以上行った。具体的な一例としては、0.005秒ごとに測定した多数の力の測定値を、歪1%毎の対応する代表値に換算している。例えば、歪1%の測定値は、食品Sが歪1%変形するために必要な時間内に測定された複数の値の統計値(例えば平均値)とすることが挙げられる。
【0028】
図10は、4食品における上位5位の官能評価値と、荷重値の歪系列の波形データを用いた食感予測モデル20で得られた食感評価値(推定値)とを対比して示す図である。
図9は、上記4食品の食感評価値の予測に用いた荷重値の歪系列の波形を示す図である。具体的に、
図9は、4食品(豆腐1、豆腐 2、ゼリー 1、ゼリー 2)について、測定装置3で測定した複数の荷重値[F
1、F
2、…、F
180]をプロットした図である。横軸が歪を示し、縦軸が荷重値を示している。荷重値の正値は、押圧子31が食品Sを押圧する動作の際(
図9では「押込」と表記)に測定される値であり、荷重値の負値は、押圧後に押圧子31を食品Sの押圧から戻す動作の際(
図9では「引上」と表記)に測定される値である。
図9及び
図10では、4食品のみを示しているが、21種類の食品について各々の食品の上位5位の官能評価値と、食感予測モデル20で得られた食感評価値(推定値)とを比較した。決定係数(R2)が0.967であり、RMSE(二乗平均平方根誤差)が0.120である。上位5位の官能評価値について、対応する食感評価値を荷重値の歪系列の波形データに基づいて良好に予測できていると考える。
【0029】
図11は、さらに食品数を36に増やし、力の歪系列の波形データに基づいて食感予測モデル20で得られた食感評価値(推定値)と36食品における官能評価値との決定係数、および、力の時系列の波形データに基づいて食感予測モデル20で得られた食感評価値(推定値)と36食品における官能評価値との決定計数を示す図である。36食品のうち、ランダムに6食品を選抜して未知試料とし、残りの30食品を訓練データとして食感予測モデル20を作成し、上記6食品の力の変化データ(荷重値の歪系列の波形データ)から、食感評価値(推定値)を求める。これを6回繰り返すクロスバリデーションにより、36食品すべてについて、機器測定の繰り返し回数分だけ食感評価値(推定値)が得られ、官能評価値と食感評価値(推定値)との決定係数を求めることができる。
力の歪変化を説明変数とした場合にも、食感評価値を荷重値の歪系列の波形データに基づいて良好に予測できていると考える。
また、
図11によれば、力の時系列データに基づく決定係数よりも力の歪系列データに基づく決定係数の方が相対的に大きいことが看取でき、力の時系列データよりも力の歪系列データを用いた方が予測精度が高まっていると理解できる。
【0030】
[1]
以上、本実施形態のように、食感予測モデル生成方法は、食品Sの押圧時に食品Sから受ける力の変化を示す複数の測定値[F1、…、F780](またはF1、…、F180)を入力とし、食感評価値[X1~X85]を出力とする教師データD1を取得するステップと、教師データD1を用いて機械学習することにより、食感評価値(推定値)[X1~X85]を出力する食感予測モデル20を生成するステップと、を含む、としてもよい。
このように、力の変化データG1(複数の測定値)により、食感評価値の予測は可能となる。よって、簡素な測定方法で実現可能な食感予測技術を提供可能となる。
【0031】
[2]
上記[1]に記載の食感予測モデル生成方法であって、複数の測定値[F1、…、F180]は、食品Sが所定歪変形する度の力の大きさを示す値である、としてもよい。
第2実施形態に対応する。第2実施形態のように、測定値を食品が所定歪変形する度の値にすることで、食品のサイズを同一形状にしなければならない等の制限がなくなる。そのため、容器に入った食品や容器から取り出した食品を測定可能となる。また、容器に入れた状態で測定可能となるので、保形できない食品の食感を予測可能となる。
【0032】
[3]
上記[1]に記載の食感予測モデル生成方法であって、複数の測定値[F1、…、F780]は、所定時間経過する度の力の大きさを示す値である、としてもよい。第1実施形態に対応する。
【0033】
[4]
上記[1]~[3]のいずれかに記載の食感予測モデル生成方法であって、複数の測定値[F1、…、F780](またはF1、…、F180)は、1つの測定点における力の時系列変化を示す値である、としてもよい。
マトリックス状に配置される複数の計測点における圧力分布画像ではなく、1つの計測点における力の変化データG1(圧力値の波形データ、複数の測定値)により、食感評価値の予測は可能であることが理解できる。
【0034】
[5]
上記[1]~[4]のいずれかに記載の食感予測モデル生成方法であって、複数の測定値[F1、…、F780](またはF1、…、F180)は、押圧子31が食品Sを押圧する動作の際に測定される値と、押圧後に押圧子31を食品Sの押圧から戻す動作の際に測定される値と、を含む、としてもよい。
押圧子31が食品Sを押圧する動作の際に測定される値は、弾力や硬さ、丈夫さに関する食感評価値に関連する情報であり、押圧後に押圧子31を食品Sの押圧から戻す動作の際に測定される値は、付着性に関する食感評価値に関連する情報であると考えられるので、種々の食感評価値を予測可能になると考えられる。特に付着性を有するゲル状の食品の評価に好ましい。
【0035】
[6]
本実施形態のように、食感予測方法は、食品Sの押圧時に食品Sから受ける力の時系列変化を示す複数の測定値[F1、…、F780](またはF1、…、F180)を取得するステップと、複数の測定値[F1、…、F780](またはF1、…、F180)を入力として食感評価値[X1~X85]を出力するように機械学習された食感予測モデル20に対して、取得した複数の測定値[F1、…、F780]を入力して、食感評価値(推定値)[X1~X85]を出力するステップと、を含む、としてもよい。
このように、力の変化データG1(複数の測定値)により、食感評価値の予測は可能となる。よって、簡素な測定方法で実現可能な食感予測技術を提供可能となる。
【0036】
[7]
上記[6]に記載の食感予測方法であって、複数の測定値[F1、…、F180]は、食品Sが所定歪変形する度の力の大きさを示す値である、としてもよい。
第2実施形態に対応する。第2実施形態のように、測定値を食品が所定歪変形する度の値にすることで、食品のサイズを同一形状にしなければならない等の制限がなくなる。そのため、容器に入った食品や容器から取り出した食品を測定可能となる。また、容器に入れた状態で測定可能となるので、保形できない食品の食感を予測可能となる。
【0037】
[8]
上記[6]に記載の食感予測方法であって、複数の測定値[F1、…、F780]は、所定時間経過する度の力の大きさを示す値である、としてもよい。第1実施形態に対応する。
【0038】
[9]
上記[6]~[8]のいずれかに記載の食感予測方法であって、複数の測定値[F1、…、F780](またはF1、…、F180)は、1つの測定点における力の変化を示す値である、としてもよい。
マトリックス状に配置される複数の計測点における圧力分布画像ではなく、1つの計測点における圧力値の変化データG1(圧力値の波形データ、複数の測定値)により、食感評価値の予測は可能であることが理解できる。
【0039】
[10]
上記[6]~[9]のいずれかに記載の食感予測方法であって、複数の測定値[F1、…、F780](またはF1、…、F180)は、押圧子31が食品Sを押圧する動作の際に測定される値と、押圧後に押圧子31を食品Sの押圧から戻す動作の際に測定される値と、を含む、としてもよい。
押圧子31が食品Sを押圧する動作の際に測定される値は、弾力や硬さ、丈夫さに関する食感評価値に関連する情報であり、押圧後に押圧子31を食品Sの押圧から戻す動作の際に測定される値は、付着性に関する食感評価値に関連する情報であると考えられるので、種々の食感評価値を予測可能になると考えられる。特に付着性を有するゲル状の食品の評価に好ましい。
【0040】
[11]
本実施形態のように、食感予測モデル生成システム1は、食品Sの押圧時に食品Sから受ける力の時系列変化を示す複数の測定値[F1、…、F780](またはF1、…、F180)を入力とし、食感評価値[X1~X85]を出力とする教師データD1を取得する教師データ取得部10と、教師データD1を用いて機械学習することにより、食感評価値(推定値)[X1~X85]を出力する食感予測モデル20を生成する学習部11と、を備える、としてもよい。
【0041】
[12]
本実施形態のように、食感予測システム2は、食品Sの押圧時に食品Sから受ける力の時系列変化を示す複数の測定値[F1、…、F780](またはF1、…、F180)を取得する予測対象測定値取得部21と、複数の測定値[F1、…、F780](またはF1、…、F180)を入力として食感評価値[X1~X85]を出力するように機械学習された食感予測モデル20に対して、取得した複数の測定値[F1、…、F780]を入力して、食感評価値(推定値)[X1~X85]を出力する予測部22と、を備える、としてもよい。
【0042】
[13]
本実施形態のように、プログラムは、上記[1]~[10]のいずれかに記載の方法を1又は複数のプロセッサ1b、2bに実行させる、としてもよい。
【0043】
本実施形態に係るコンピュータに読み取り可能な一時記録媒体は、上記プログラムを記憶している。
【0044】
以上、本開示の実施形態について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態に限定されるものでないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記した実施形態の説明だけではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0045】
上記の各実施形態で採用している構造を他の任意の実施形態に採用することは可能である。各部の具体的な構成は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【0046】
(A)例えば、上記第1実施形態において、圧力値の数が780個であるが、測定時間の長さやサンプリング周波数を異ならせることができ、種々変更可能である。
【0047】
(B)第1実施形態において、食感評価値の種類数が85個であるが、これに限定されない。1つの種類の食感評価値で足りるのであれば、食感評価値の種類数が1つであってもよく、また、食感評価値の種類数も種々変更可能である。
【0048】
(C)第1実施形態において、食感予測モデル20の生成に、21種類の食品について4つの力の波形データ(複数の測定値)を用いているが、これに限定されない。食品の種類及び力の波形データの数は変更可能である。食品の種類及び力の波形データの数は、いずれも多い方が、予測精度の向上という観点で好ましい。
【0049】
(D)上記測定装置3による測定において、押圧子31の形状やサイズ、押圧子31の移動速度、食品の試料のサイズ、試料の温度などは、上記に限定されず、適宜変更可能である。
また、食感評価値の官能評価の手法については、上記に限定されない。例えば、評価値の段階数(6段階)に限定されず、段階数を変更してもよい。また、評価者の人数などの適宜変更可能である。
【0050】
(F)上記実施形態においてゲル状食品を一例に挙げているが、本開示の食感推定技術は、ゲル状食品に限定されず、幅広い食品に適用可能である。
【符号の説明】
【0051】
1 :食感予測モデル生成システム
1b、2b :プロセッサ
2 :食感予測システム
10 :教師データ取得部
11 :学習部
20 :食感予測モデル
21 :予測対象測定値取得部
22 :予測部
31 :押圧子
D1 :教師データ
F1~F780 :測定値(荷重値の時間系列の変化データ)
F1~F180 :測定値(荷重値の歪系列の変化データ)
S :食品
X1~X85 :食感評価値