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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025005085
(43)【公開日】2025-01-16
(54)【発明の名称】紙葉類処理装置および補正方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/64 20060101AFI20250108BHJP
   G07D 7/12 20160101ALI20250108BHJP
   G07D 7/00 20160101ALI20250108BHJP
【FI】
G01N21/64 F
G07D7/12
G07D7/00 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023105096
(22)【出願日】2023-06-27
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久禮 庄太
【テーマコード(参考)】
2G043
3E041
【Fターム(参考)】
2G043AA03
2G043CA07
2G043DA05
2G043EA01
2G043FA01
2G043KA02
2G043KA03
2G043LA03
2G043MA12
2G043NA01
3E041AA01
3E041AA02
3E041BB04
3E041DA01
(57)【要約】
【課題】温度消光の影響を精度よく補正し正確な蛍光画像を取得することが可能な紙葉類処理装置および補正方法を提供することにある
【解決手段】実施形態によれば、紙葉類処理装置は、蛍光インク印刷情報が付された紙葉類を搬送路に沿って搬送する搬送機構と、前記紙葉類に励起光を照射する光源装置と、励起光が照射された紙葉類の画像および蛍光インク印刷情報の蛍光画像を撮像する撮像装置と、複数色の蛍光体の温度消光特性と標準温度に対する蛍光発光強度の変化率との関係を示すデータテーブルを有し、撮像装置により撮像した蛍光画像の蛍光発光強度とデータテーブルとに基づき、対応する変化率に応じて撮像装置の感度を補正する制御部と、を備えている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛍光インク印刷情報が付された紙葉類を搬送する搬送機構と、
前記蛍光インク印刷情報を蛍光発光させる励起光を前記紙葉類に照射する光源装置と、
前記励起光が照射された前記紙葉類の画像および前記蛍光インク印刷情報の蛍光画像を撮像する撮像装置と、
標準温度、経過点温度、平衡点温度における複数色の蛍光体の蛍光発光強度を含む各色の蛍光体の温度消光特性と標準温度に対する蛍光発光強度の変化率との関係を示すデータテーブルを有し、前記撮像装置により撮像した蛍光画像の蛍光発光強度と前記データテーブルとに基づき、対応する変化率に応じて前記撮像装置の感度を補正する制御部と、
を備える紙葉類処理装置。
【請求項2】
前記データテーブルは、各色の蛍光体について、経過点温度あるいは平衡点温度での蛍光発光強度の変化率と、標準温度での蛍光発光強度に対する平衡点温度での蛍光発光強度の変化率と、の関係を含んでいる、請求項1に記載の紙葉類処理装置。
【請求項3】
前記撮像装置は、複数の画素を有するラインセンサであり、
前記制御部は、前記複数の画素の画素値が一定となるように前記ラインセンサの感度を補正する、請求項1に記載の紙葉類処理装置。
【請求項4】
紙葉類の蛍光インク印刷情報を撮像する撮像装置の感度を補正する補正方法であって、
複数色の蛍光体が塗布された校正チャート部材を設置し、
前記撮像装置により前記校正チャート部材を撮像し、標準温度時の各色の蛍光発光強度、および平衡点温度時の各色の蛍光発光強度を測定して保存し、
前記標準温度時の蛍光発光強度に対する前記平衡点温度時の蛍光発光強度の変化率を含むデータテーブルを作成し、
前記撮像装置により前記紙葉類の蛍光インク印刷情報を撮像し、前記データテーブルに基づき、平衡点温度時の蛍光発光強度を対応する変化率に応じて標準温度時の蛍光発光強度に変換し、前記撮像装置により撮像された蛍光画像の蛍光発光強度が前記変換した蛍光発光強度となるように前記撮像装置の感度を補正する、補正方法。
【請求項5】
前記データテーブルは、各色の蛍光体について、経過点温度での蛍光発光強度と平衡点温度での蛍光発光強度との差に対する前記経過点温度での蛍光発光強度の変化率と、標準温度での蛍光発光強度に対する平衡点温度での蛍光発光強度の変化率と、の関係を含んでいる、請求項4に記載の補正方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、紙葉類を処理する紙葉類処理装置および補正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有価証券または紙幣などの紙葉類を計数および鑑査し、鑑査結果に応じて紙葉類の施封処理や裁断処理を行う紙葉類処理装置が実用化されている。このような紙葉類処理装置は、紙葉類の画像を取得する画像読取装置を有している。画像読取装置は、搬送路を搬送される紙葉類をセンサで撮像することにより、紙葉類の画像を取得する。
紙葉類から読み取る情報の一つとして、蛍光インクにより印刷された印刷情報(以下、蛍光印刷情報と称する)がある。蛍光印刷情報を読み取る際は、一般的な白色照明では無く、蛍光インクを励起する励起光が用いられる。このとき、センサの感度は、蛍光基準部材に基づいて補正される。
一方、蛍光体に生じる温度消光は、印刷された蛍光体によって異なる。そのため、蛍光印刷情報を撮像する場合、例えば、RGBカラーなど複数色で撮像する場合、蛍光体の温度消光の影響を加味して撮像しないと、正確な蛍光画像を得られない場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-163297号公報
【特許文献2】特許第5325959号公報
【特許文献3】特開2020-046972号公報
【特許文献4】特開2021-085857号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この発明の実施形態の課題は、温度消光の影響を精度よく補正し正確な蛍光画像を取得することが可能な紙葉類処理装置および補正方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態によれば、紙葉類処理装置は、蛍光インク印刷情報が付された紙葉類を搬送する搬送機構と、前記蛍光インク印刷情報を蛍光発光させる励起光を前記紙葉類に照射する光源装置と、前記励起光が照射された前記紙葉類の画像および前記蛍光インク印刷情報の蛍光画像を撮像する撮像装置と、標準温度、経過点温度、平衡点温度における複数色の蛍光体の蛍光発光強度を含む各色の蛍光体の温度消光特性と標準温度に対する蛍光発光強度の変化率との関係を示すデータテーブルを有し、前記撮像装置により撮像した蛍光画像の蛍光発光強度と前記データテーブルとに基づき、対応する変化率に応じて前記撮像装置の感度を補正する制御部と、を備えている。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1図1は、実施形態に係る画像読取装置を模式的に示す側面図。
図2図2は、前記画像読取装置の斜視図。
図3図3は、前記画像読取装置の搬送機構および蛍光基準部材を模式的に示す平面図。
図4図4は、前記画像読取装置の動作状態を示す側面図。
図5図5は、前記画像読取装置の他の動作状態を示す側面図。
図6図6は、前記画像読取装置の撮像装置、光源装置、カラー蛍光体の波長分布を模式的に示す図。
図7図7は、前記画像読取装置で読み取った画像例の模式図。
図8図8は、RGB蛍光体の温度消光特性を示す図。
図9図9は、前記画像読取装置の校正チャート部材の撮像動作状態を示す側面図。
図10図10は、前記画像読取装置の画像取得部、制御部、および画像処理部を機能ブロックとして示すブロック図。
図11図11は、前記画像読取装置における画像処理工程を示すフロー図。
図12図12は、前記画像読取装置を備えた画像処理装置の一例を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、図面を参照しながら実施形態について、詳細に説明する。
なお、開示はあくまで一例にすぎず、当業者において、発明の主旨を保っての適宜変更であって容易に想到し得るものについては、当然に本発明の範囲に含有されるものである。また、図面は説明をより明確にするため、実際の態様に比べ、各部の寸法、形状等について模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。また、本明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には、同一の符号を付して、詳細な説明を適宜省略することがある。
【0008】
(第1実施形態)
図1は、紙葉類処理装置の一例として、実施形態に係る画像読取装置を概略的に示す側面図、図2は、上記画像読読取装置の斜視図、図3は、上記画像読読取装置の一部を模式的に示す平面図である。
図1および図2に示すように、画像読取装置10は、紙葉類の一例である紙幣Pを所定の搬送路に沿って搬送する搬送機構11、搬送路の中途部に対向して配置された蛍光基準部材17、撮像装置12、光源装置13、画像取得部14、制御部15、画像処理部16を備えている。
【0009】
搬送機構11は、複数の搬送ローラR1、R2および搬送ローラR1、R2に巻回された複数の無端の搬送ベルトB1、B2、少なくとも搬送ローラR1、R2の一方を回転駆動する図示しない駆動源等を有している。搬送ベルトB1、B2は一対ずつ互いに対向して配置され、これらの搬送ベルト間に紙幣Pを挟んだ状態で、紙幣Pを搬送する。本実施形態において、搬送機構11は、互いに平行に配置された2つの第1搬送ベルト対20a、および互いに平行に配置された2つの第2搬送ベルト対20bを有している。2つの第1搬送ベルト対20aは、それぞれ搬送路と平行に配置されているとともに、紙幣Pの幅よりも狭い間隔を置いて互いに平行に配置されている。2つの第2搬送ベルト対20bは、それぞれ搬送路と平行に配置されているとともに、紙幣Pの幅よりも狭い間隔を置いて互いに平行に配置されている。また、第2搬送ベルト対20bは、第1搬送ベルト対20aに対し、搬送方向Aに所定の間隔d1だけ離間して配置されている。各第2搬送ベルト対20bは、対応する第1搬送ベルト対20aと搬送方向Aに整列して配置されている。
なお、搬送機構11は、更に複数の搬送ベルト対を備えていてもよい。また、搬送機構11は、各無端ベルトに搬送方向に並ぶ複数の透孔を設け、吸引手段によりこれらの透孔を通して紙幣Pを吸引し搬送ベルトに吸着する構成としてもよい。
【0010】
蛍光基準部材17は、例えば、表面に蛍光インクが塗布された石英ガラス板で構成され、照射される励起照明の強度に応じた強度で蛍光発光を示すものである。蛍光基準部材17は、例えば、細長い平板状に形成されている。蛍光基準部材17は、搬送機構11の搬送ベルトと干渉しない位置に配設されている。本実施形態では、蛍光基準部材17は、第1搬送ベルト対20aと第2搬送ベルト対20bとの間で、搬送路に対向して配置されている。更に、蛍光基準部材17は、一方の表面が搬送路と平行に対向するように、例えば、一方の表面が鉛直方向上方を向くように、配置されている。図1に示す例では、蛍光基準部材17は、搬送路の下方に配置されている。
【0011】
図2および図3に示すように、蛍光基準部材17は、搬送方向Aと交差する方向、例えば、搬送方向Aと直交する方向に延在している。本実施形態によれば、蛍光基準部材17は、紙幣Pの幅よりも充分長い長さに形成されている。蛍光基準部材17の長手方向の両端部は、それぞれ紙幣Pの搬送経路の外側まで延出している。すなわち、蛍光基準部材17の両端部は、搬送される紙幣Pの両側縁PSと対向する位置に設けられている。これにより、紙幣Pが図3に破線で示す基準位置にある場合、および、図3に実線で示すように搬送方向Aに対して傾いて(スキュー)位置している場合、あるいは基準位置に対してずれて(スライド)いる場合のいずれにおいても、蛍光基準部材17は、蛍光基準部材17の上を通過する紙幣Pの両側縁PSを含む全面および側縁PSの外側の一定領域と対向する。
【0012】
図1および図2に示すように、光源装置13は、蛍光基準部材17および紙幣Pに蛍光発光を励起する光を照射する励起用の照明装置であり、光源として、例えば、キセノンランプ、水銀ランプ、メタルハライドランプ、あるいはLED等を備えている。光源装置13は、搬送路に対して、蛍光基準部材17の反対側に、すなわち、図においては、搬送路の上方に配置されている。また、光源装置13は、蛍光基準部材17に対して、搬送方向Aの上流側に設けられている。光源装置13は、その光軸が、蛍光基準部材17に垂直な方向に対して角度θをなすように配設されている。光源装置13は、蛍光基準部材17の上面全域に励起光を照射して蛍光基準部材17を蛍光発光させるとともに、蛍光基準部材17の上を通過する紙幣Pに励起光を照射して、紙幣Pの蛍光インク印刷領域を蛍光発光させるように機能する。
【0013】
撮像装置12は、搬送されている紙幣Pを一次元的に順次撮像するラインイメージセンサ(例えば、RGBカラーのラインCCDやラインCMOS)、あるいはカメラなどにより構成されている。本実施形態では、撮像装置12としてRGBカラーなどの複数色で撮像するラインイメージセンサを用いている。このラインイメージセンサは、搬送方向Aと直交する方向にライン状に並んで設けられた複数の撮像素子(画素)を有している。複数の撮像素子は、それぞれ受光した光を電気信号、すなわち画像に変換して出力する。撮像装置12は、搬送路の上方に配置され、搬送路を挟んで蛍光基準部材17に対向している。また、撮像装置12は、搬送方向Aと直交する方向に延在し、蛍光基準部材17の上面ほぼ全体に対向している。撮像装置12は、撮像素子により、紙幣Pが通過する所定範囲(撮像範囲)を順次撮像し、画像を取得する。
【0014】
画像取得部14は、撮像装置12により撮像した画像に対して、例えば、AGC補正、A/D変換などの種々の処理を施す。制御部15は、光源装置13、撮像装置12、画像取得部14、画像処理部16、および搬送機構11の動作を総合的に制御する。制御部15は、記憶手段として機能するメモリを備えている。メモリは、例えばROM、RAMあるいは不揮発性メモリ等により構成される。メモリは、制御用のプログラム、制御データ、及び、紙幣Pの判定の基準となる画像などを予め記憶している。また、RAMは、ワーキングメモリとして機能し、制御部15が処理中のデータなどを一時保管する。不揮発性メモリは、本装置により処理した紙幣Pから読み取った画像を蓄積して記憶する。
画像処理部16は、撮像装置12により取得した画像に基づいて、紙幣Pの位置及び傾きの検出、補正、画像特徴量の演算、並びに、紙幣Pの種類などの判定を行なう。画像取得部14、制御部15、および画像処理部16のより詳細な構成については後述する。
【0015】
画像読取装置10による蛍光画像の撮像動作について説明する。
図4および図5は、画像読取装置10の異なる動作状態をそれぞれ概略的に示す側面図である。図4に示すように、紙幣Pが撮像装置12の撮像範囲に存在していない場合、光源装置13から出射された励起光bは、蛍光基準部材17の全域に照射される。これにより、蛍光基準部材17が励起され蛍光発光を生じる。撮像装置12は、撮像範囲で生じている蛍光発光C(蛍光発光範囲)を受光する。この間、撮像装置12は、受光した蛍光発光Cの強度を検知し、検知した強度に基づいて、撮像装置12の受光感度を補正するようにしてもよい。蛍光発光Cは、紙幣Pが通過する直前の照明出力や受光感度の状態を示す情報であり、これを元に画像を補正することにより、安定した条件で画像を取得することが可能となる。
【0016】
次に、図5に示すように、制御部15の制御の下、搬送機構11は、搬送ベルトを駆動することにより紙幣Pを撮像範囲に搬送する。搬送機構11により紙幣Pを搬送路に沿って搬送方向Aに搬送し、蛍光基準部材17の上を通過させる、すなわち、蛍光発光範囲を通して紙幣Pを搬送する。同時に、光源装置13は、紙幣Pが通過する撮像範囲に励起光bを照射する。照射された励起光は、紙幣Pに印刷された蛍光インク領域を励起し、蛍光発光C’を生じる。撮像装置12は、撮像範囲で生じて蛍光発光を受光する。これにより、画像読取装置10は、蛍光発光範囲を撮像することにより、紙幣Pの蛍光画像を取得することが出来る。
【0017】
図6は、光源装置13が出射する励起光の波長λI、撮像装置12のカラー(例えば、RGB3色)の感度波長λR、λG、λB、蛍光基準部材17の蛍光発光波長λa、紙幣Pの蛍光インク印刷領域の蛍光発光波長λfの関係の一例を示す模式図である。図示のように、撮像装置12の感度波長λR、λG、λBは、例えば可視光波長(400~800nm)に設定されている。励起光の波長λIは、例えば紫外線波長(350~390nm)であり、感度波長λR、λG、λBの範囲外に設定されている。蛍光インク印刷領域の蛍光発光波長λfは例えば橙色光であり、感度波長λR、λG、λBお範囲内に設定されている。撮像装置12は、感度波長λR、λG、λBにおいて蛍光発光波長λfの発光強度をそれぞれ取得することで、RGB3色のカラー情報を取得する。
蛍光基準部材17の発光波長λaは、撮像装置12の感度波長λR、λG、λBの少なくともいずれか1つにピークを持つよう蛍光体を選択し、適用する。
励起光の波長λ1、感度波長λS、蛍光発光波長λfを上記のように選択した場合、励起光波長λ1がノイズとして撮像装置12に入ることを抑制することができる。紙幣Pの蛍光インク印刷領域の蛍光発光波長を除いた各種波長は、必要に応じて光学フィルタや材料の選定により選択することができる。
【0018】
図7は、画像読取装置10で、読み取った蛍光画像の一例を示している。図示の例は、紙幣Pのスライド、スキューが無い状態で撮像した画像の例を示している。図示のように、蛍光基準部材17の上に紙幣Pが無いときは蛍光基準部材17全体が発光することで、蛍光基準部材17の蛍光発光そのもの(以降、明基準とする)を明画像として読み取られる。紙幣Pが蛍光基準部材17の上を通過している間は、励起光が紙幣Pに遮られるため、蛍光基準部材17の大部分は蛍光発光せず、また、紙幣P自体は蛍光を示さないため、紙幣Pの通過位置は黒色画像として読み取られる。ただし、紙幣Pが通過する間、蛍光基準部材17の両端部は、紙幣Pと重ならないため、継続して蛍光発光し、紙幣Pの側縁PSの外側に位置する明画像として読み取られる。また、紙幣Pに蛍光インクで印刷された蛍光インク印刷領域(蛍光印刷情報と称する場合がある)EGは、蛍光発光を示し、明情報として読み取られる。
【0019】
次に、蛍光体の温度消光について説明する。
図8は、蛍光体の温度消光の一例を示す模式図である。図示のように、蛍光体は、一般的に、温度が高くなるにつれて発光効率(一定の励起光が照射された際の蛍光発光強度I)が低下する特性がある。発光効率がどの程度変化するかは、蛍光体によって異なる。例として記載した赤色蛍光体の発光強度Ir、緑色蛍光体の発光強度Ig、青色蛍光体の発光強度Ibの温度消光は、Irが一番大きく、Ibが一番小さい。
このように、蛍光体は、環境温度に応じて温度消光が生じることから、正確な蛍光画像を取得するためには、以下の項目のそれぞれにおいて、温度消光を考慮した補正が必要となる。そこで、本実施形態に係る画像読取装置10は、蛍光体の温度消光を考慮して撮像装置(ラインセンサ)12の蛍光感度を補正(RGB各色の感度…ホワイトバランスの校正)するように構成されている。
【0020】
以下、蛍光感度の校正方法(補正方法)について説明する。
図9に示すように、RGBカラーの蛍光体が塗布された板状あるいはシート状の校正チャート部材50を用意する。校正チャート部材50は、例えば、励起光を照射した際に赤(R)の発光を示す蛍光体、緑(G)の発光を示す蛍光体、および青(B)の発光を示す蛍光体を混ぜ合わせた蛍光インクが塗布された媒体である。校正チャート部材50を画像読取装置10にセットする。より詳細には、撮像装置12と蛍光基準部材17との間で、撮像装置12と対向する位置に校正チャート部材50を配置する。なお、図示しないが、画像読取装置10は、校正チャート部材50を装填可能なスロット等の保持部を備えている。
【0021】
次いで、光源装置13から校正チャート部材50の蛍光面に励起光bを照射すると、励起光bの強度と蛍光体の印刷濃度に応じたRGBの基準発光c0が生じる。この基準発光c0を撮像装置12で撮像したときの撮像装置12の各画素の画素値が一定の値となるよう、撮像装置(ラインセンサ)12の感度を調整する。以上が基本の感度補正方法となる。
【0022】
この際、前述したように、基準発光c0は温度消光の影響を受けるとともに、温度消光の影響がRGBの蛍光体それぞれで異なる。そのため、校正チャート部材50の印刷濃度が正しく制御されていても、基準発光c0におけるRGBの発光比は蛍光体の温度により異なってしまう。蛍光体の温度は、画像読取装置10の環境温度や励起光照射による校正チャート部材50の温度上昇により変動する。
【0023】
そこで、本実施形態では、上述した基本の補正方法に加え、データ処理のみで蛍光体の温度を推定し、温度消光の影響をキャンセルする補正方法を用いている。すなわち、光源装置13から照射する励起光の照射開始から照射を継続すると校正チャート部材50の温度が上昇する構成において、予め励起光照射開始から温度が平衡状態となるまでの温度変化および蛍光発光強度の変化をデータテーブルTB1として制御部のメモリに保存している。
【0024】
実際の校正時には、図8に示すように、撮像装置12により校正チャート部材50の画像データを複数回、取得してRGB各色の経時的な発光量変化(蛍光発光強度Ir、Ig、Ibの変化)を取得する。具体例では、200mW/cmのUV・LED照明光を合成紙に照射した場合、合成紙の温度が+30~40℃上昇した。
この際、RGB各色の蛍光体について、例えば照射開始直後(経過点T1)の発光強度と温度が平衡状態となったタイミング(平衡点T2)の発光強度との比を求め、RGB3色の比の値から平衡点T2の温度を算出する。現状の温度(標準温度T0)からどれだけ温度消光が起きている状態かをデータテーブルTB1に照合し、撮像装置12の感度補正へ反映することで、環境温度などの変動要因を排除して常に標準温度を想定した状態で撮像装置12の蛍光感度を校正することが可能となる。
【0025】
データテーブルTB1の具体例について説明する。
データテーブルTB1は、標準温度、経過点温度、平衡点温度における複数色の蛍光体の蛍光発光強度を含む各色の蛍光体の温度消光特性と標準温度に対する蛍光発光強度の変化率との関係を示すデータテーブルである。なお、標準温度T0=25℃、T1は想定すべき環境温度(例えば0℃~50℃)、T2は各T1に対応した平衡状態の温度とする。
より詳細には、以下のように励起光を照射開始直後(経過点T1)の蛍光発光強度と、照射開始から十分な時間(例えば、前記合成紙の場合は1分程度)が経過し、温度が平衡となる平衡点T2での蛍光発光強度と、の差を
ΔIr=Ir(T1)-Ir(T2)
ΔIg=Ig(T1)-Ig(T2)
ΔIb=Ib(T1)-Ib(T2)
とする。
【0026】
T1またはT2での各色の発光強度の変化率ΔR、ΔG、ΔB、
ΔR= ΔIr/Ir(T1)
ΔG= ΔIg/Ig(T1)
ΔB= ΔIb/Ib(T1)
と、標準温度T0に対する平衡点温度T2での各色の発光強度の変化率α、β、γ、
α= Ir(T0)/Ir(T2)
β= Ig(T0)/Ig(T2)
γ= Ib(T0)/Ib(T2)
と、を以下のデータテーブルTB1として制御部15のメモリに保存する。
TB1:{ΔR、ΔG、ΔB}{α、β、γ}
ここで、T1=0℃~50℃とする。
【0027】
撮像装置12の蛍光感度(ホワイトバランス)を補正する際、制御部15は、撮像装置12によりT1、T2での各色の蛍光発光強度を検出し、検出した蛍光発光強度に対応する変化率α、β、γをデータテーブルTB1に基づいて選択する。制御部15は、検出した各色の蛍光発光強度に選択した変化率α、β、γをそれぞれ乗算することにより、検出した蛍光発光強度を各色の標準温度T0での蛍光発光強度に換算する。
Ir(T0)= α×Ir(T2)
Ig(T0)= β×Ig(T2)
Ib(T0)= γ×Ib(T2)
そして、制御部15は、各色の蛍光発光強度が換算した蛍光発光強度となるように撮像装置12の蛍光感度(ホワイトバランス)を補正し、更に、各画素の画素値が一定となるように撮像装置12の感度を調整する。これにより、蛍光体の温度消光の影響を無くし、撮像装置12の蛍光感度を正確に補正することができ、その結果、正確な発光強度の蛍光画像を取得することが可能となる。
なお、撮像装置12がラインセンサである場合、発光強度の経時変化を詳細に測定することが可能なため、発光強度比の算出はT1、T2の2点に限らず、より多くのタイミングで強度比を算出し、より高次のデータテーブルを作成しても良い。
【0028】
次に、画像読取装置10の全体構成について説明する。
図10は、画像読取装置10の画像取得部、制御部、および画像処理部の有する機能をブロックとして示すブロック図である。
図示のように、画像取得部14は、アンプ(増幅器)41、アナログ/デジタル変換回路(A/D変換回路)42、および補正回路43を備えている。アンプ41は、撮像装置(ラインセンサ)12の出力信号(画像データ)を増幅して出力する。A/D変換回路42は、入力信号であるアナログ信号をデジタル信号に変換して出力信号として出力する。補正回路43は、予め記憶されている撮像装置12の各撮像素子の特性に基づいて入力信号のムラを補正する。また、補正回路43は、撮像装置12から受信した画像のうちの蛍光基準部材17に対応する画素の明るさと、規定の明るさの値とに基づいて、アンプ41の増幅率を算出し補正する。即ち、補正回路43は、撮像装置12から受信した出力信号のうちの蛍光基準部材17の蛍光発光に対応する画素の明るさが規定の明るさの値になるように撮像装置12の感度補正を行なう。
【0029】
制御部15は、画像メモリ51、判定基準メモリ52、および制御回路53を備えている。画像メモリ51は、画像読取装置10により読み取った画像を蓄積して記憶する。判定基準メモリ52は、紙幣Pの各種の判定の基準となる基準画像を紙幣の種類毎に予め複数記憶している。前述したデータテーブルTB1は、例えば、判定基準メモリ52に格納されている。制御回路53は、撮像装置12、画像取得部14、および画像処理部16の各部を統合的に制御する。例えば、制御回路53は、撮像装置12による撮像範囲の撮像を行なうタイミングを制御する。
画像処理部16は、位置・傾き検出部61、位置・傾き補正部62、画像特徴量演算部63、および判定部64を備えている。
【0030】
図11は、制御部15および画像処理部16による画像処理動作を示すフローチャートである。図示のように、制御部15の制御の下、光源装置13から励起光を照射した状態で、感度補正された撮像装置12により紙幣Pが搬送される撮像範囲(蛍光発光範囲)を連続的に撮像することにより紙幣の画像および蛍光基準部材の画像を取得する(S1)。取得した紙幣の画像には、蛍光インク印刷領域EGの蛍光発光を撮像した蛍光画像が含まれている。制御部15は、撮像された蛍光インク印刷領域EGの蛍光画像信号にデータテーブルTB1に基づいた補正係数を乗算することで蛍光画像データを補正する(S2)。取得および補正した画像データは画像処理部16へ送られる。
【0031】
位置、傾き検出部61は、取得した紙幣画像の境界(輪郭)、すなわち、紙幣画像の側縁(長辺、短辺)を検出し(S2)、検出した輪郭と予め記憶されている基準位置とを比較することにより、紙幣画像の位置ずれ(スライド)、および傾き(スキュー)を検出する(S3)。位置・傾き補正部62は、位置・傾き検出部61により検出した紙幣Pの位置ずれ、および傾きに応じて取得画像の位置および傾きを補正(アファイン変換)する(S4)。すなわち、位置・傾き補正部62は、取得画像中の紙幣Pの長辺(側縁PS)および短辺が基準位置と一致するように紙幣画像を補正する。
【0032】
画像特徴量演算部63は、位置および傾きを補正した画像と、判定基準メモリ52に記憶されている紙葉類の各基準画像とを比較し、例えば、画像中の紙幣P上に、所定の蛍光印刷情報EGが印刷されているかを検出する(S5)。すなわち、画像特徴量演算部63は、基準画像の各画素に比べて輝度の低い画素に対応する紙幣P上の領域は、所定の蛍光インク印刷領域が存在しないものと判定する。
【0033】
判定部64は、画像特徴量演算部63により得られた特徴量と判定基準メモリ52に記憶されている判定の基準量との比較により、蛍光印刷情報EGの有無、正しい位置にあるか、蛍光発光の量(蛍光発光強度)が適切であるかなどの判定を行う。判定部64は、撮像した紙幣に適切な印刷がされているか、汚損していないか、といった最終判定を行った後、判定結果を制御部15に出力する(S6)。
なお、上述した画像を取得した後の処理は、画像読取装置10で行なわれる紙幣Pの検査内容に応じて変わるものであり、上記した処理に限定されない。
【0034】
以上のように構成された紙葉類処理装置の画像読取装置10によれば、予め、RGBカラーの蛍光体が塗布された校正チャート部材を複数回撮像し撮像画像の蛍光発光強度に基づいて各色の蛍光体の温度消光特性を検出し、検出した温度消光特性と補正係数との関係を示すデータテーブルを作成し制御部に格納しておくことにより、撮像装置の感度調整時、画像データの処理のみでカラー蛍光体の温度を推定し、データテーブルに基づいて、温度消光の影響をキャンセルする補正係数を選択し、測定した蛍光画像の発光強度に前記補正係数を乗算することで標準温度での蛍光発光強度となるように撮像装置の蛍光感度を調整する。これにより、本実施形態に係る画像読取装置によれば、カラー蛍光体の温度消光の影響を考慮して撮像装置の蛍光感度を調整することができ、温度消光の影響を除いた正確な蛍光画像を取得することが可能となる。
以上により、本実施形態によれば、蛍光体の温度消光の影響を精度よく補正することが可能な画像読取装置および補正方法が得られる。
【0035】
次に、上述した画像読取装置10を備える紙葉類処理装置の一例について説明する。
図12は、実施形態に係る紙葉類処理装置の概略構成を示す断面図である。
図示のように、紙葉類処理装置は、処理装置本体100と処理装置本体100を操作及び制御するための制御装置200とを備えている。制御装置200が制御する処理装置本体100は、1台であっても、複数台であっても良い。処理装置本体100は、紙葉類としての紙幣Pを券種、正損等の種類に応じて区分し、区分した紙幣Pを種類毎に集積する区分集積装置100Aと所定数毎に紙幣Pを施封する施封装置100Bとを有している。処理装置本体100は、1つの区分集積装置100Aに対して任意の数の施封装置100Bが接続可能な構成となっている。
制御装置200は、処理装置本体100の制御、処理装置本体100に対する動作設定、あるいは処理装置本体100による処理データの管理などを行う。制御装置200は、例えば、パーソナルコンビュータにより構成される。制御装置200は、表示部、操作部および記憶部などを有している。
【0036】
次に、処理装置本体100の内部の構成について説明する。
図12に示すように、区分集積装置100Aは、複数の紙幣Pが投入される投入部104を有している。投入部104には、複数の種類が混在する複数の紙幣Pが一括して投入される。投入部104は、ステージ105、バックアッププレート106、および、取込手段としての取出しローラ110を有している。投入部104に投入された複数の紙幣Pは、ステージ105に載置され、バックアッププレート106およびバネ108によって取出しローラ110に押し付けられる。取出しローラ110の後段に、搬送路112が設けられている。搬送路112には、取出しローラ110により1枚ずつ取り出された紙幣Pが順に供給される。
搬送路112上に、前述した画像読取装置10が設けられている。上述したように、画像読取装置10は、搬送路112で搬送される紙幣Pの画像を読み取り、且つ、紙幣Pの位置および傾きを検出する鑑査装置として機能する。画像読取装置10は、読み取った画像に基づいて、搬送路112を搬送される紙幣Pの向きを判定する。また、画像読取装置10は、読み取った画像に基づいて、搬送路112を搬送される紙幣Pに対して後段の処理が可能か否かを判定する。
【0037】
画像読取装置10の後段に延設された搬送路112上に、紙幣Pの搬送方向を選択的に切換えるための複数のゲートG1~G9が設けられている。また、画像読取装置10の後段に搬送路112に沿って表裏反転機構(表裏反転部)134が設けられている。更に、表裏反転機構134の後端に、搬送路112に沿って複数の集積庫141~146が並んで配置されている。
表裏反転機構134は、2組の搬送ベルト133、135により構成される。画像読取装置10により裏面と反転された紙幣Pは、表裏反転機構134へ振り分けられ、搬送ベルト133、135により表裏反転される。
【0038】
表裏反転機構134により反転された紙幣Pおよび表裏反転機構134を通過することなく搬送される紙幣Pは、表裏を取り揃えられた状態で集積庫に送られる。送られた紙幣Pは、ゲートG5~G9により券種毎に振り分けられ、対応する集積庫141~146のいずれかに券種毎に集積される。また、送られた紙幣Pの一部は、ゲートG3により施封装置100Bに振分けられる。
【0039】
施封装置100Bは、集積庫151、集積庫152、供給部153、施封機構154、印刷機構155、帯供給部156を有している。集積庫151、152は、それぞれゲートG4を介して送り込まれた紙幣Pを集積する。各集積庫151、152には、それぞれ紙幣の有無を検知するセンサが設けられている。
供給部153は、集積庫151あるいは152に集積された所定枚数(例えば、100枚)の紙幣Pを施封機構154に供給する。施封機構154は、供給された100枚の紙幣束を紙帯で施封する施封機構である。印刷機構155は、施封機構154で使用する紙帯に所望の印刷データを印刷する。帯供給部156は、施封機構154に紙帯を供給する。所定枚数毎に施封された紙幣Pの束は、図示しないコンベアを介して装置外へ搬出される。
【0040】
以上のように構成された紙葉類処理装置によれば、画像読取装置10によって紙葉類の蛍光画像を正確に読み取り、紙葉類を安定して処理することが可能となる。
なお、上記した実施形態では、画像読取装置10が制御部15および画像処理部16を備えている構成としているが、これに限らず、例えば、処理装置本体100あるいは制御装置200に制御部15および画像処理部16を設ける構成としてもよい。
【0041】
本発明は上述した実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
例えば、処理対象となる紙葉類は、紙幣に限らず、有価証券等の他の紙葉類にも適用可能である。
【符号の説明】
【0042】
10…画像読取装置、11…搬送機構、12…撮像装置、13…光源装置、
14…画像取得部、15…制御部、16…、画像処理部、17…蛍光基準部材、
50…校正チャート部材、P…紙幣、EG…蛍光インク印刷領域、
TB1…データテーブル
図1
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