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特開2025-5284電力系統監視装置、電力系統運用監視方法、およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025005284
(43)【公開日】2025-01-16
(54)【発明の名称】電力系統監視装置、電力系統運用監視方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   H02J 3/00 20060101AFI20250108BHJP
   H02J 13/00 20060101ALI20250108BHJP
【FI】
H02J3/00 170
H02J13/00 301A
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023105431
(22)【出願日】2023-06-27
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100124372
【弁理士】
【氏名又は名称】山ノ井 傑
(74)【代理人】
【識別番号】100217940
【弁理士】
【氏名又は名称】三並 大悟
(72)【発明者】
【氏名】下尾 高廣
(72)【発明者】
【氏名】上田 隆司
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 健二
(72)【発明者】
【氏名】大成 高顕
(72)【発明者】
【氏名】加瀬 高弘
(72)【発明者】
【氏名】佐伯 尚志
(72)【発明者】
【氏名】中村 正
(72)【発明者】
【氏名】平戸 康太
(72)【発明者】
【氏名】舘小路 公士
【テーマコード(参考)】
5G064
5G066
【Fターム(参考)】
5G064AA01
5G064AA04
5G064AC09
5G064BA02
5G064CB08
5G064DA03
5G066AA03
5G066AE01
5G066AE03
5G066AE09
5G066HB06
(57)【要約】
【課題】潮流値の予測の不確実性を評価することが可能な電力系統監視装置を提供する。
【解決手段】一実施形態に係る電力系統監視装置は、複数の気象予測パターンに対応する複数の気象予測値を示す気象データを、予め設定された時間単位で受信する受信部と、複数の気象予測値に基づいて、電力系統に設置された送配電設備の潮流値を、予め定められた定格値から変更した複数の第1更新定格値として計算する更新定格値計算部と、を備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の気象予測パターンに対応する複数の気象予測値を示す気象データを、予め設定された時間単位で受信する受信部と、
前記複数の気象予測値に基づいて、電力系統に設置された送配電設備の潮流値を、予め定められた定格値から変更した複数の第1更新定格値として計算する更新定格値計算部と、
を備える、電力系統監視装置。
【請求項2】
前記複数の気象予測値が、前記複数の気象予測値に対応する複数のアンサンブルメンバーを有するアンサンブル予報によって設定される、請求項1に記載の電力系統監視装置。
【請求項3】
前記複数の第1更新定格値の確率分布を計算する確率分布計算部をさらに備える、請求項1または2に記載の電力系統監視装置。
【請求項4】
前記確率分布の中で所定値を下回る下振れ確率を計算し、前記下振れ確率としきい値との比較結果に応じて、前記複数の第1更新定格値、または前記複数の第1更新定格値とは異なるか若しくは前記複数の第1更新定格値の一部である複数の第2更新定格値を採用する下振れ確率計算部をさらに備える、請求項3に記載の電力系統監視装置。
【請求項5】
前記下振れ確率が前記しきい値以上である場合に、前記下振れ確率計算部は前記複数の第2更新定格値を採用し、
採用された複数の第2更新定格値が、前記定格値以下の値、前記複数の第1更新定格値の中で大きさが下位から所定順位か若しくは特定の特定のパーセンタイル値以下となる値、または前記複数の第1更新定格値の累積確率が予め設定された設定値以下となる値である、請求項4に記載の電力系統監視装置。
【請求項6】
前記送配電設備の一つである送電線の各区間で同一の気象予測パターンに対応する第1更新定格値または第2更新定格値を採用する、請求項1に記載の電力系統監視装置。
【請求項7】
前記複数の第1更新定格値と前記複数の第2更新定格値のうち、前記下振れ確率計算部によって採用された複数の更新定格値の各々から得られる収益の期待値を計算する収益期待値計算部と、
前記複数の更新定格値の中から、前記期待値が最大となる更新定格値を選定して前記電力系統の発電設備の発電計画を作成する発電計画作成部と、
をさらに備える、請求項4に記載の電力系統監視装置。
【請求項8】
前記収益の期待値に、更新定格値が下振れした際の、発電計画の再計画費用を含む損失の期待値を含むことを特徴とする、請求項7記載の電力系統監視装置。
【請求項9】
前記更新定格値計算部は、前記送配電設備の一つである送電線の区間ごとに、前記複数の気象予測値の中で発生確率が最尤値となる1つの気象予測値に基づく第1更新定格値と、前記1つの気象予測値に対応する気象実測値に基づく第3更新定格値と、を計算し、各区間における前記第1更新定格値と前記第3更新定格値との誤差に応じて残りの第1更新定格値を計算するか否かを判断する、請求項4に記載の電力系統監視装置。
【請求項10】
前記更新定格値計算部は、前記送配電設備の一つである送電線の各区間における、前記複数の気象予測値の中で発生確率が最尤値となる1つの気象予測値と、前記1つの気象予測値に対応する気象実測値との誤差に応じて前記複数の第1更新定格値を計算するか否かを判断する、請求項4に記載の電力系統監視装置。
【請求項11】
前記複数の気象予測値が、前記複数の気象予測パターンの予測地点における予測風速および予測風向を示す風況予測値に基づいて、任意の地理間隔ごとに複数の風況予測値として推定される、請求項1または2に記載の電力系統監視装置。
【請求項12】
複数の気象予測パターンに対応する複数の気象予測値を示す気象データを、予め設定された時間単位で受信し、
前記複数の気象予測値に基づいて、電力系統に設置された送配電設備の潮流値を、予め定められた定格値から変更した複数の第1更新定格値として計算する、
電力系統運用監視方法。
【請求項13】
複数の気象予測パターンに対応する複数の気象予測値を示す気象データを、予め設定された時間単位で受信する処理と、
前記複数の気象予測値に基づいて、電力系統に設置された送配電設備の潮流値を、予め定められた定格値から変更した複数の第1更新定格値として計算する処理と、
をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、電力系統監視装置、電力系統運用監視方法、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
昨今の電力自由化により風力発電装置や太陽光発電装置などの再生可能エネルギー発電装置等により発電された電力が、既設の送配電設備を介し送配電される場合も多くなった。再生可能エネルギー発電装置の有効利用を推進するとともに、既設の送配電設備をどのように有効活用するかという議論が盛んに行われている。
【0003】
その中で、気象条件(気温、風、日照)を考慮して最大電流量を決めるダイナミックラインレーティングの適用が期待されている。ダイナミックラインレーティングとは、予め定められた送配電設備の潮流値に対して、送配電設備が上限温度以下となる潮流値に変更して、電力系統の送電容量を増加させる技術である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2022-94441号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ダイナミックラインレーティングでは、例えば送配電設備の一つである送電線の電流容量が、気象条件を考慮して動的に設定される。この電流容量は、送電線の熱容量によって制限される。この熱容量は、ジュール熱、太陽光の熱吸収、風による対流損失、および外気温との温度差で生じる放射損失によって変化する。対流冷却および放射冷却については、気象の影響が大きい。このように、潮流値の予測は、気象予測に依存するため、不確実性を有する。例えば、実際の風速値が風速予測値を下回ると、対流冷却および放射冷却が予測よりも少なくなる。そのため、熱容量の上限を超える電流が送電線を流れるといった事態が起こり得る。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、潮流値の予測の不確実性を評価することが可能な電力系統監視装置、電力系統運用監視方法、およびプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一実施形態に係る電力系統監視装置は、複数の気象予測パターンに対応する複数の気象予測値を示す気象データを、予め設定された時間単位で受信する受信部と、複数の気象予測値に基づいて、電力系統に設置された送配電設備の潮流値を、予め定められた定格値から変更した複数の第1更新定格値として計算する更新定格値計算部と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本実施形態によれば、潮流値の予測の不確実性を評価することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】一実施形態に係る電力系統監視装置を用いた電力運用システムの全体構成を示すブロック図である。
図2】一実施形態に係る電力系統監視装置の構成を示すブロック図である。
図3】アンサンブル予報を説明するための模式図である。
図4】メソアンサブル予報を説明するための模式図である。
図5】電力系統監視装置が電力系統を監視する動作の手順を示すフローチャートである。
図6】下振れ確率の計算方法を説明するための図である。
図7】更新定格値の累積確率密度の一例を示すグラフである。
図8】発電計画作成処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。下記の実施形態は、本発明を限定するものではない。
【0011】
図1は、一実施形態に係る電力系統監視装置を用いた電力運用システムの全体構成を示すブロック図である。図1に示す電力運用システムは、電力系統監視装置1、電力制御装置8、および電力系統3を備える。
【0012】
まず、電力系統3について説明する。電力系統3は、電力を供給する電力供給網である。電力系統3は、発電機4、再生可能エネルギー発電装置5、変圧器6、および送電線7を有する。電力系統3は、一例として複数の電力系統3a、3b、3c、3d、3eにより構成される。電力系統3は、遮断器、断路器、および調相器等を有していてもよい。
【0013】
電力系統3aは、発電機4a、変圧器6a、および送電線7aにより構成される。発電機4aは、水力、火力、原子力等により発電を行う設備である。発電機4aは、出力電力を電力制御装置8により制御される。変圧器6aは、発電機4aから出力された電力の変圧を行う。変圧器6aは、電圧切替用のタップを有する。送電線7aは、変圧器6aにより変圧された電力を送電する。
【0014】
電力系統3bは、発電機4b、変圧器6b、および送電線7bにより構成される。発電機4bにより発電された電力は、変圧器6bにより変圧されて送電線7bにより送電される。
【0015】
電力系統3cは、再生可能エネルギー発電装置5、変圧器6c、および送電線7cにより構成される。再生可能エネルギー発電装置5は、風力や太陽光などの再生可能エネルギーにより発電を行う装置である。再生可能エネルギー発電装置5は、出力電力を電力制御装置8により制御される。
【0016】
電力系統3dは、変圧器6d、および送電線7dにより構成される。変圧器6dは、電力系統3a、電力系統3b、および電力系統3cからそれぞれ供給された電力を変圧する。送電線7dは、変圧器6aにより変圧された電力を送電する。
【0017】
電力系統3eは、変圧器6e、および送電線7eにより構成される。電力系統3a、電力系統3b、電力系統3cからそれぞれ供給された電力は、変圧器6eにより変圧されて送電線7eにより送電される。
【0018】
電力系統3a~3eの各変圧器6a~6eには、それぞれ測定装置61a~61eが設けられる。測定装置61は、変圧器6における現在の温度、電力、電圧、電流、および周波数を測定する。測定装置61は、温度、電力、電圧、電流、および周波数の測定回路および送受信回路により構成される。
【0019】
電力系統3a~3eの各送電線7a~7eには、それぞれ測定装置71a~71eが設けられる。測定装置71は、送電線7における現在の温度、電力、電圧、電流、および周波数を測定する。測定装置71は、温度、電力、電圧、電流、および周波数の測定回路および送受信回路により構成される。
【0020】
電力系統監視装置1は、定義された定格値に制限されることなく、既設の送配電設備の温度が予め定められた上限値以下となる発電機4または再生可能エネルギー発電装置5より発電される発電量を計算する装置である。
【0021】
電力系統監視装置1は、通信線91を介して電力系統3に接続されるとともに、通信線93を介して電力制御装置8に接続される。電力系統監視装置1は、コンピュータ等により構成される。電力系統監視装置1は、電力系統3の監視または制御を行う事業者の事務所等に設置される。ここで、図2を参照して電力系統監視装置1の構成について説明する。
【0022】
図2は、一実施形態に係る電力系統監視装置1の構成を示すブロック図である。電力系統監視装置1は、受信部11、送信部12、演算部13、記憶部14、および表示部15を備える。以下、各部について説明する。
【0023】
受信部11は、通信線91を介し電力系統3の測定装置61、測定装置71に接続される。通信線91は、有線または無線により通信を行う専用線、インターネット回線、電話回線等であってよい。
【0024】
受信部11は、測定データD11、気象データD12、需給計画データD13、および系統データD14を受信する。このとき、受信部11の受信動作は、演算部13により制御される。また、受信部11は、受信したデータを演算部13に転送する。
【0025】
測定データD11は、測定装置61により測定された変圧器6の温度、電力、電圧、電流、周波数をそれぞれ示すデータ、および測定装置71により測定された送電線7の温度、電力、電圧、電流、および周波数をそれぞれ示すデータである。
【0026】
気象データD12は、例えば気象庁のMEPS(Meso-scale Ensemble Prediction System)から配信されるメソアンサブル予報に代表されるアンサンブル予報に基づく気象データである。ここで、図3を参照して、アンサンブル予報について説明する。
【0027】
図3は、アンサンブル予報を説明するための模式図である。アンサンブル予報とは、数値予報の処理過程(初期値作成、時間積分など)において生じ得る誤差の要因に対応する、わずかなばらつき(摂動)を加えた複数のアンサンブルメンバーによる複数の気象予測パターンを用いた気象予測方法である。
【0028】
図3には、複数の気象予測パターンの気象予測値にそれぞれ対応する複数のアンサンブルメンバーM~M(nは自然数)が示されている。複数のアンサンブルメンバーM~Mにでは、1つの代表メンバーMが存在する。また、残りのアンサンブルメンバーM~Mの値は、中心メンバーMに対して摂動を加えて設定される。また、この摂動には、発生確率が対応付けられている。すなわち、気象データD12には、アンサンブルメンバーM~Mの値と、その値の発生確率とが対応付けられている。アンサンブル予報の結果から、アンサンブルメンバーの確率分布等の統計量を計算することによって、気象予測の信頼度や確率情報などを取得することができる。すなわち、気象予測の不確実性を導出することができる。
【0029】
図4は、メソアンサブル予報を説明するための模式図である。MEPSによるメソアンサンブル予測では、メソ数値予報モデル(MSM:Meso Scale Model)を用いた気象予測に対して、信頼度等の情報を提供するために複数の気象予測パターンを予測する。例えば大雨や暴風など災害をもたらす異常気象が発生する可能性について、1つのメソ数値予報モデルの気象予測結果のみでは把握が難しい場合でも、複数の気象予測結果を用いることによって、早い段階で異常気象を把握することができる。
【0030】
メソ数値予報モデルでは、図4に示すように予測対象エリアCは、複数の予測地点pによって格子状に区切られる。予測地点pは、水平方向に間隔dをおいて配置される。電力系統3の送配電設備は、予測対象エリアC内の予測地点pで囲まれる少なくとも1つ以上の区域内に属する。気象データD11には、気象予測値が予測地点pごとに存在する。そのため、アンサンブル予報は、予測地点p単位で実行される。なお、図4には、一例として送電線7が予測対象エリアC内に配置されている。この送電線7は、3つの区間α、β、γで構成され、各区間には予測地点pが存在する。
【0031】
なお、本実施形態では、気象データD12には、気象庁から配信されるデータが用いられているが、気象データD12に用いるデータは特に限定されない。例えば、気象データD12には、ヨーロッパ中期予報センタから配信されるEnsemble forecastingという数値予報データを用いてもよい。
【0032】
需給計画データD13は、発電機4a、4bおよび再生可能エネルギー発電装置5に関する、例えば30分毎または5分ごとの発電計画を示すデータである。受信部11は、需給計画データD13を、外部装置(不図示)から受信してもよいし、電力制御装置8から受信してもよい。
【0033】
系統データD14は、電力系統3に設置される発電設備や送配電設備に関連するデータを含む。例えば、系統データD14は、発電機4a、4b、再生可能エネルギー発電装置5、変圧器6、および送電線7の定格電力や上限温度等のデータが含まれる。
【0034】
送信部12は、送信回路により構成される。送信部12は、通信線93を介して電力制御装置8に接続される。通信線93は、有線または無線により通信を行う専用線、インターネット回線、電話回線等であってよい。また、送信部12は、演算部13に接続される。送信部12は、演算部13により作成された種々のデータを電力制御装置8に送信する。
【0035】
表示部15は、液晶表示器、プラズマ表示器等により構成される。表示部15は、演算部13により作成された種々のデータを表示する。
【0036】
演算部13は、コンピュータにより構成される。演算部13は、受信部11、送信部12、記憶部14、および表示部15にそれぞれ接続される。演算部13は、更新定格値計算部131、更新定格値分布計算部132、下振れ確率計算部133、再計画費用計算部134、収益期待値計算部134、発電計画作成部135、および制御指令作成部136を有する。各部は、コンピュータ内の演算部または、ソフトウェアモジュールにより構成される。
【0037】
更新定格値計算部131は、測定データD11、気象データD12、および系統データD14に基づいて送配電設備の更新定格値(第1更新定格値)を計算する。この更新定格値は、送配電設備の定格潮流値を変更した値である。更新定格値には、送配電設備の上限温度を超えない範囲内で定格潮流値よりも大きな潮流値や、定格潮流値よりも小さな潮流値が含まれる。更新定格値計算部131は、気象データD12に基づいて、各予測地点pにおける複数の気象予測パターンの更新定格値を計算する。計算された更新定格値は、更新定格値データD21として記憶部14に記憶される。
【0038】
確率分布計算部132は、更新定格値計算部131によって計算された更新定格値の確率分布を計算する。計算された確率分布は、確率分布データD22として記憶部14に記憶される。
【0039】
下振れ確率計算部133は、確率分布計算部132によって計算された確率分布を用いて下振れ確率を計算する。下振れ確率は、上記確率分布の中で所定値を下回る確率である。計算された下振れ確率は、下振れ確率データD23として記憶部14に記憶される。また、下振れ確率計算部133は、計算した下振れ確率としきい値との比較結果に応じて、更新定格値または保守的な更新定格値(第2更新定格値)のどちらを採用するか判断する。
【0040】
収益期待値計算部134は、下振れ確率計算部133によって採用された更新定格値に基づく発電計画で得られる収益の期待値を計算する。計算された収益期待値は、収益期待値データD24として記憶部14に記憶される。
【0041】
発電計画作成部135は、需給計画データD13と、収益期待値計算部134によって計算された収益期待値とを用いて、送配電設備の温度が上限温度以下となる範囲内で電力系統3の発電計画データD25を作成する。需給計画データD13は、発電機4a、4bおよび再生可能エネルギー発電装置5において、未来における例えば30分毎または5分ごとの初期の発電計画を示すデータである。
【0042】
制御指令作成部136は、発電計画作成部135により作成された発電計画データD25に基づいて、電力系統3の発電設備の制御指令を作成する。
【0043】
記憶部14は、半導体メモリやハードディスクのような記憶媒体にて構成される。記憶部14は、演算部13に接続される。記憶部14は、演算部13によりデータの書き込み、読出しが制御される。記憶部14は、更新定格値データD21、確率分布データD22、下振れ確率データD23、再計画費用データD24、収益期待値データD24、および発電計画データD25を記憶する。
【0044】
次に、電力制御装置8について説明する。電力制御装置8は、電力系統3の実際の制御を行う装置である。図1に示すように、電力制御装置8は、通信線92を介して電力系統3に接続されるとともに、通信線93を介して電力系統監視装置1に接続される。電力制御装置8は、コンピュータ等により構成される。電力制御装置8は、電力系統3の監視または制御を行う一般送配電事業者の変電所などに設置される。
【0045】
電力制御装置8は、需給計画データD13に基づいて例えば発電機4、再生可能エネルギー発電装置5の発電量の制御を指示する。また、電力制御装置8は、電力系統監視装置1から制御指令を受信する。電力制御装置8は、受信した制御指令に基づいて電力系統3の制御を行う。
【0046】
以下、上述した電力系統監視装置1が電力系統3を監視する動作について説明する。
【0047】
図5は、本実施形態に係る電力系統監視装置1が電力系統を監視する動作の手順を示すフローチャートである。
【0048】
図5に示すフローチャートでは、まず、受信部11が、監視動作に必要なデータを受信する(ステップS11)。ステップS11では、受信部11は、測定データD11、気象データD12、需給計画データD13、および系統データD14を受信する。このとき、受信部11は、演算部13の制御に従って、例えば1分、5分、30分等の予め設定された時間単位で各データを受信する。受信部11で受信された各データは、演算部13へ転送される。
【0049】
次に、演算部13の更新定格値計算部131が、気象データD12を用いて電力系統3の送配電設備の更新定格値を計算する(ステップS12)。ステップS12について詳しく説明する。
【0050】
更新定格値計算部131は、予め設定された時間単位で気象データD12を取得する。各時刻の気象データD12は、図4に示す格子状に配列された複数の予測地点pごとに存在する。本実施形態では、気象データD12は、アンサンブル予報によって作成されている。そのため、各予測地点pの気象データD12には、互いに異なる複数の気象予測パターンの気象予測値をそれぞれ示す複数のアンサンブルメンバーM~Mが含まれる。更新定格値計算部131は、アンサンブルメンバーごとに送配電設備の更新定格値を計算する。
【0051】
電力系統3a~3eに配置された送配電設備である変圧器6、送電線7は、系統データD14により定格電力が定義される。系統データD14に示された定格電力は、一定の温度において送配電設備が送配電することができる値に、更にマージンを与えた値として定義される。したがって変圧器6、送電線7は、周囲の温度等の条件により、定格電力以上の電力を許容することができる。
【0052】
例えば電力系統3aに配置された変圧器6a、送電線7aは、変圧器6a、送電線7aの温度が上限温度以下となる更新定格値による送配電を許容することができる。変圧器6a、送電線7aの上限温度は、それぞれを構成する部材のうち、最小の上限温度を有する部材により決定される。例えば変圧器6a、送電線7aの上限温度は、構成部品である絶縁材料の上限温度に基づいて決定される。
【0053】
電力系統3aの更新定格値は、変圧器6a、送電線7aの現在の温度と上限温度との差分に応じ計算される。また、変圧器6a、送電線7aの温度は、変圧器6a、送電線7aの周囲の気温、風速、日射量等に基づいて変動する。例えば送電線7の上限温度と更新定格値との関係は(式1)に示す通りとなる。(式1)に基づいて、上限温度を入力すると、想定する気象条件に見合った電流値(潮流値)の更新定格値が計算される。(式1)は熱流入項と熱流出項が均衡した平衡点における式(定常状態の式)であるが、平衡点に達する手前で熱流入項と熱流出項が釣り合わない状態で用いられる微分方程式(過渡状態の式)を用いてもよい。
【0054】
【数1】
・・・・・(式1)
更新定格値計算部131は、気象データD12に示された各アンサンブルメンバーMの温度、日射量、風況(風速および風況)等に関する気象予測値、系統データD14に示された変圧器6a、送電線7aの上限温度、測定データD11に示された変圧器6a、送電線7aの現在温度に基づいて、変圧器6a、送電線7aの両者が上限温度以下となる潮流値であり、変圧器6a、送電線7aの少なくとも一方が定格値以上となる潮流値を更新定格値として計算する。例えば、上記式(1)の対流損失qおよび放射損失qの値は、気象データD12の中で予測地点pにおける各アンサンブルメンバーの予測風向および予測風速を示す風況予測値に基づいて設定される。このとき、更新定格値計算部131は、予測地点pにおける風況予測値に基づいて、さらに細かい地点の風況予測値を推定してもよい。すなわち、更新定格値計算部131は、任意の地理間隔ごとに複数の風況予測値を推定してもよい。
【0055】
更新定格値は、送配電設備の定格値に制限されることなく計算される。更新定格値計算部131は、所定の時間間隔で、複数の気象予測パターンごとに各予測地点pにおける更新定格値を計算する。
【0056】
なお、更新定格値は、予め定められた一定の時間後に、変圧器6aまたは送電線7aの上限温度に達する潮流値として計算されるようにしてもよい。更新定格値計算部131は、例えば、発電計画の時間帯に対応する時間である1分、5分または30分後に、変圧器6aまたは送電線7aの上限温度に達する潮流値を最大潮流値として計算するようにしてもよい。
【0057】
変圧器6aまたは送電線7aは、定格電力を超える潮流値にかかる電力が供給された場合であっても、上限温度に達するまでに時間を要する。したがって予め定められた時間に対応し、定格電力を超える潮流値を更新定格値とすることができる。更新定格値をこのように計算することにより、より大きい電力を電力系統3a~3eに供給することができる。
【0058】
更新定格値計算部131は、更新定格値の計算が終了すると、計算した更新定格値を更新定格値データD21として記憶部14に格納する。
【0059】
次に、確率分布計算部132が、更新定格値計算部131によって計算された更新定格値の確率分布を計算する(ステップS13)。ステップS13では、確率分布計算部132は、各時刻の各予測地点pにおける複数の気象予測パターンにそれぞれ対応する更新定格値を確率変数とする確率分布を計算する。
【0060】
次に、下振れ確率計算部133が、確率分布計算部132によって計算された確率分布に基づいて下振れ確率を計算する(ステップS14)。ここで、図6を参照してステップS14について説明する。
【0061】
図6は、下振れ確率の計算方法を説明するための図である。図6には、ある時刻のある予測地点pにおける更新定格値の確率分布を示す。この確率分布では、横軸は更新定格値を示し、縦軸は発生確率を示す。図6に示す更新定格値は、電力値であるが、電流値であってもよい。また、横軸は、更新前の定格電力に対する更新定格値の比率であってもよい。下振れ確率計算部133は、この確率分布において更新定格値が所定値以下となる確率を下振れ確率として計算する。具体的には、所定値が例えば最尤値1000MWに設定されている場合、下振れ確率計算部133は、図6のグラフにおいて更新定格値が1000MW以下となる確率の面積sを下振れ確率として計算する。
【0062】
次に、下振れ確率計算部133は、ステップS14で計算した下振れ確率が予め設定されたしきい値以上であるか否かを判断する(ステップS15)。下振れ確率が大きくなるにつれて、送電線7等の送配電設備の温度が上限温度を逸脱するリスクが高くなる。
【0063】
そこで、本実施形態では、下振れ確率が上記しきい値以上である場合、下振れ確率計算部133は、保守的な更新定格値を採用する(ステップS16)。例えば、下振れ確率計算部133は、送配電設備の定格値以下の潮流値を保守的な更新定格値として採用することができる。または、下振れ確率計算部133は、同時刻の同じ予報地点pにおける複数の更新定格値の中で、その大きさが下位から所定順位以下または特定のパーセンタイル値以下となる値を保守的な更新定格値として採用してもよい。
【0064】
図7は、更新定格値の累積確率密度の一例を示すグラフである。図7において、横軸は更新定格値を示し、縦軸は更新定格値の累積確率を示す。図7に示す更新定格値は、電力値であるが、電流値であってもよい。また、横軸は、更新前の定格電力に対する更新定格値の比率であってもよい。ステップS16では、下振れ確率計算部133は、図7に示す累積確率が予め設定された設定値以下となる更新定格値を保守的な更新定格値として採用してもよい。
【0065】
なお、ステップS16では、図4に示すように、送電線7の区間α、β、γごとに異なる予測地点pが存在する場合、更新定格値計算部131は、各区間で採用する保守的な更新定格値を、同一のアンサンブルメンバーの気象予測値に対応する更新定格値とする。下振れ確率計算部133は、例えば区間αでアンサンブルメンバーM1に対応する更新定格値を採用した場合、区間βおよび区間γについてもアンサンブルメンバーM1に対応する更新定格値を採用する。これにより、送電線7の各区間で同一の気象予測パターンの更新定格値を採用することができる。
【0066】
ステップS15で下振れ確率がしきい値未満であるとき、またはステップS16で保守的な更新定格値が採用されると、電力系統3の発電計画の作成処理が実行される(ステップS17)。ここで、図8を参照して、発電計画作成処理について詳しく説明する。
【0067】
図8は、発電計画作成処理のフローチャートである。このフローチャートでは、まず、収益期待値計算部134が収益期待値を計算する(ステップS171)。ステップS171では、まず、収益期待値計算部134は、送配電設備の潮流値を定格値以下とする発電計画、換言するとダイナミックラインレーティングを採用しない従来の発電計画で発生する発電コスト(第1発電コスト)と、送配電設備の潮流値をステップS12で計算された更新定格値またはステップS16で採用された更新定格値とする発電計画で発生する発電コスト(第2発電コスト)との差分を計算する。なお、発電コストは、例えば、発電設備の発電量や送配電設備の送配電量をパラメータとする数式にて計算することができるものとする。
【0068】
上記差分が正数であるとき、従来の発電計画に対して収益が発生する。反対に、上記差分が負数であるとき、従来の発電計画に対して再計画費用、すなわち発電コストの増分が発生する。
【0069】
続いて、収益期待値計算部134は、続いて、収益期待値計算部134は、更新定格値ごとに上記差分と、ステップS13で計算された確率分布の発生確率とを乗算する。収益期待値計算部134は、この乗算値を収益期待値とする。
【0070】
上記のように収益期待値が計算されると、発電計画作成部135が、収益期待値に基づいて発電計画の対象となる更新定格値を決定する(ステップS172)。発電計画作成部135は、例えば収益期待値が最大となる更新定格値を計画対象の更新定格値として選定する。なお、ステップS171において、保守的な更新定格値を採用した結果、計算した差分のすべてが発電コストの増分であった場合、発電計画作成部135は、この増分と発電確率との乗算値が最小となる保守的な更新定格値を計画対象の更新定格値として選定する。
【0071】
続いて、発電計画作成部135は、選定した更新定格値に基づいて発電設備の発電量および送配電設備の送配電量を設定する。このようにして、発電計画作成部135は、需給計画データD13を修正して収益を考慮した最適な発電計画データD25を作成する。なお、従来の発電計画に対して発電コストの増分の発生が予測される場合には、表示部15および送信部12からアラームが出力されるようにしてもよい。表示部15が、警報ランプ等の表示による警報装置や音声による警報装置を備えるように構成し、これらの警報装置によりアラームが出力されるようにしてもよい。
【0072】
上記のように発電計画データD25が作成されると、図5に示すように、制御指令作成部136が最後に制御指令を作成する(ステップS18)。制御指令は、発電計画データD25で計画された電力が、電力系統3a~3eにおいて供給されるための制御を示すデータである。制御指令は、例えば発電機4、再生可能エネルギー発電装置5の発電量の制御を指示する。また、電力系統3a~3eにおける電流の遮断を判断する保護リレー(不図示)の遮断電流値の変更を指示するものであってもよい。
【0073】
以上説明した本実施形態によれば、気象データD12には、複数の気象パターンに対応する複数の気象予測値が含まれている。また、更新定格値計算部131が、複数の気象予測値に基づいて、電力系統3に設置された送配電設備の複数の更新定格値を計算する。これにより、送配電設備の潮流値が複数の気象パターンの各々に対して計算される。そのため、例えば複数の更新定格値の確率分布を計算するといった統計処理を行うと、潮流値の予測の不確実性を評価することが可能となる。
【0074】
また、本実施形態では、下振れ確率計算部133が、更新定格値の確率分布を分析して、送配電設備が上限温度を逸脱するリスクの状況を判断する。このリスクが高い場合には、下振れ確率計算部133は、保守的な更新定格値を採用する。さらに、発電計画作成部135が、採用された更新定格値に基づいて発電設備の発電計画を作成する。そのため、発電計画は、送配電設備の上限温度を超えない範囲内で最適化される。さらに、本実施形態では、発電計画作成部135は、収益期待値計算部134によって計算された収益期待値に基づいて発電計画を作成する。これにより、収益についても最適化することが可能となる。
【0075】
(変形例1)
以下、上述した実施形態の変形例1について説明する。上述した実施形態では、ステップS11において受信部11が気象データD12を受信すると、更新定格値計算部131は、ステップS12において複数の気象予測パターンに対応する複数の更新定格値を毎回計算している。
【0076】
一方、本変形例では、更新定格値計算部131は、特定の条件を満たした場合に全ての更新定格値を計算する処理を行う。具体的には、更新定格値計算部131は、まず、気象データD12から発生確率が最尤値である1つの気象予測パターンの気象予測値を抽出し、抽出した1つの気象予測値に基づいて更新定格値を計算する。
【0077】
続いて、更新定格値計算部131は、気象実測値に基づいて実測更新定格値(第3更新定格値)を計算する。この気象実測値は、例えば、予測時刻と同じ時刻および同じ予測地点pにおいて過去に実測された値である。気象実測値は、気象データD12に含まれていてもよいし、記憶部14に記憶されていてもよい。
【0078】
続いて、更新定格値計算部131は、実測更新定格値と更新定格値との誤差を計算する。送配電設備が例えば図4に示す送電線7である場合、更新定格値計算部131は、送電線7の区間α、β、γごとに誤差を計算する。そして、誤差の平均値、最大値、中央値、または最低値のいずれかが、予め定められた第1基準値以上となる区間に対して、更新定格値計算部131は、複数の気象予測パターンに対応する全ての更新定格値を計算する。
【0079】
以上説明した本変形例によれば、ダイナミックラインレーティングの推定誤差が大きい区間にのみアンサンブル予報を用いた不確実性の評価を適用する。これにより、全ての区間について評価する場合に比べて、評価時間を短縮することができる。
【0080】
(変形例2)
以下、上述した実施形態の変形例2について説明する。ここでは、上述した変形例1と異なる点を中心に説明する。
【0081】
上述した変形例では、更新定格値計算部131は、実測更新定格値に対する更新定格値の誤差に基づいて、全ての更新定格値を計算するか否かを判断する。
【0082】
一方、本変形例では、更新定格値計算部131は、送電線7の区間α、β、γごとに発生確率が最尤値である1つの気象予測パターンの気象予測値と、気象実測値との誤差を計算する。そして、この誤差の平均値、最大値、中央値、または最低値のいずれかが、予め定められた第2基準値以上となる区間に対して、更新定格値計算部131は、複数の気象予測パターンに対応する全ての更新定格値を計算する。
【0083】
以上説明した本変形例によれば、気象予測値の推定誤差が大きい区間にのみアンサンブル予報を用いた不確実性の評価を適用する。これにより、全ての区間について評価する場合に比べて、評価時間を短縮することができる。また、本変形例では、実測更新定格値の計算処理が不要になるため、変形例1に比べて評価時間をさらに短縮することができる。
【0084】
以上、いくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例としてのみ提示したものであり、発明の範囲を限定することを意図したものではない。本明細書で説明した新規なシステムは、その他の様々な形態で実施することができる。また、本明細書で説明したシステムの形態に対し、発明の要旨を逸脱しない範囲内で、種々の省略、置換、変更を行うことができる。添付の特許請求の範囲およびこれに均等な範囲は、発明の範囲や要旨に含まれるこのような形態や変形例を含むように意図されている。
【符号の説明】
【0085】
1:電力系統監視装置
11:受信部
131:更新定格計算部
132:確率分布計算部
133:下振れ確率計算部
134:収益期待値計算部
135:発電計画作成部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8