(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025070831
(43)【公開日】2025-05-02
(54)【発明の名称】情報処理装置、情報処理方法及び情報処理プログラム
(51)【国際特許分類】
G01R 31/08 20200101AFI20250424BHJP
【FI】
G01R31/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023181396
(22)【出願日】2023-10-20
(71)【出願人】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉田 武尊
(72)【発明者】
【氏名】大井 章弘
【テーマコード(参考)】
2G033
【Fターム(参考)】
2G033AA01
2G033AB01
2G033AC02
2G033AD16
2G033AD18
2G033AE07
2G033AF04
2G033AF05
2G033AG14
(57)【要約】
【課題】高い精度で故障点を標定できる情報処理装置を提供する。
【解決手段】電力系統に故障が発生した場合に故障点を標定する情報処理装置であって、電力系統の対地静電容量の第1測定値を取得する第1取得部と、第1測定値に基づいて、電力系統に設けられた複数のノード間の配電線それぞれにおける零相成分の対地静電容量、又は、故障点抵抗のうち少なくともいずれか一方を推定する推定部と、推定部による推定結果に基づいて、故障点を標定する標定部と、を含む、情報処理装置。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力系統に故障が発生した場合に故障点を標定する情報処理装置であって、
前記電力系統の対地静電容量の第1測定値を取得する第1取得部と、
前記第1測定値に基づいて、前記電力系統に設けられた複数のノード間の配電線それぞれにおける零相成分の対地静電容量、又は、故障点抵抗のうち少なくともいずれか一方を推定する推定部と、
前記推定部による推定結果に基づいて、前記故障点を標定する標定部と、
を含む、
情報処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載の情報処理装置であって、
前記推定部は、
前記第1測定値に基づいて、前記電力系統の配電線の単位長さあたりの零相成分の対地静電容量を計算することにより、前記ノード間の配電線それぞれにおける零相成分の対地静電容量を推定する、
情報処理装置。
【請求項3】
請求項1に記載の情報処理装置であって、
前記推定部は、
前記第1測定値と、前記電力系統の構造から予め計算された前記電力系統の零相成分の対地静電容量と、前記電力系統の構造から予め計算された前記ノード間の配電線それぞれの零相成分の対地静電容量とに基づいて、前記ノード間の配電線それぞれにおける零相成分の対地静電容量を推定する、
情報処理装置。
【請求項4】
請求項1から3の何れか一項に記載の情報処理装置であって、
前記電力系統に設置されたセンサから故障後の電圧及び電流を含む第2測定値を取得する第2取得部を含み、
前記標定部は、
前記電力系統に設けられた複数のノードのいずれか一を前記故障点と仮定した場合の前記第2測定値に対応する計算値を、前記推定した零相成分の対地静電容量又は前記推定した故障点抵抗のうち少なくともいずれか一方に基づいて計算し、計算した前記計算値と、前記第2測定値とに基づいて、前記故障点を標定する、
情報処理装置。
【請求項5】
請求項1に記載の情報処理装置であって、
前記電力系統に設置されたセンサから故障後の電圧及び電流を含む第2測定値を取得する第2取得部を含み、
前記標定部は、前記第2測定値を用いて得られた前記電力系統の周波数解析の結果に基づいて、前記電力系統の共振周波数を特定し、特定した前記共振周波数と、前記推定した故障点抵抗とに基づいて、前記故障点を標定する、
情報処理装置。
【請求項6】
情報処理装置が電力系統に故障が発生した場合に故障点を標定する情報処理方法であって、
前記電力系統の対地静電容量の第1測定値を取得するステップと、
前記第1測定値に基づいて、前記電力系統に設けられた複数のノード間の配電線それぞれにおける零相成分の対地静電容量、又は、故障点抵抗のうち少なくともいずれか一方を推定するステップと、
前記推定した結果に基づいて、前記故障点を標定するステップと、
を含む、
情報処理方法。
【請求項7】
電力系統に故障が発生した場合に故障点を標定する情報処理プログラムであって、
コンピュータに、
前記電力系統の対地静電容量の第1測定値を取得する第1取得部と、
前記第1測定値に基づいて、前記電力系統に設けられた複数のノード間の配電線それぞれにおける零相成分の対地静電容量、又は、故障点抵抗のうち少なくともいずれか一方を推定する推定部と、
前記推定部による推定結果に基づいて、前記故障点を標定する標定部と、
を実現させる、
情報処理プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報処理装置、情報処理方法及び情報処理プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、危険で手間がかかる人工地絡試験を行うことなく、配電系統の対地静電容量を簡単に測定できる装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、電力系統で地絡事故が発生したときには、支援システム等により故障点を標定するが、故障点の標定に電力系統の対地静電容量の測定値が利用されていないため、故障点を高い精度で標定することが難しかった。
【0005】
本発明はこのような課題を鑑みてなされたものであり、高い精度で故障点を標定できる情報処理装置、情報処理方法、及び情報処理プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための一の発明は、電力系統に故障が発生した場合に故障点を標定する情報処理装置であって、前記電力系統の対地静電容量の第1測定値を取得する第1取得部と、前記第1測定値に基づいて、前記電力系統に設けられた複数のノード間の配電線それぞれにおける零相成分の対地静電容量、又は、故障点抵抗のうち少なくともいずれか一方を推定する推定部と、前記推定部による推定結果に基づいて、前記故障点を標定する標定部と、を含む、情報処理装置である。
【0007】
また、情報処理装置が電力系統に故障が発生した場合に故障点を標定する情報処理方法であって、前記電力系統の対地静電容量の第1測定値を取得するステップと、前記第1測定値に基づいて、前記電力系統に設けられた複数のノード間の配電線それぞれにおける零相成分の対地静電容量、又は、故障点抵抗のうち少なくともいずれか一方を推定するステップと、前記推定した結果に基づいて、前記故障点を標定するステップと、を含む、情報処理方法である。
【0008】
また、電力系統に故障が発生した場合に故障点を標定する情報処理プログラムであって、コンピュータに、前記電力系統の対地静電容量の第1測定値を取得する第1取得部と、前記第1測定値に基づいて、前記電力系統に設けられた複数のノード間の配電線それぞれにおける零相成分の対地静電容量、又は、故障点抵抗のうち少なくともいずれか一方を推定する推定部と、前記推定部による推定結果に基づいて、前記故障点を標定する標定部と、を実現させる、情報処理プログラムである。本発明の他の特徴については、本明細書の記載により明らかにする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高い精度で故障点を標定できる情報処理装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】情報処理装置2が故障点を標定する電力系統1の一例を示す図である。
【
図3】ノードデータのデータ構成及びデータ例を示す概略図である。
【
図4】ブランチデータのデータ構成及びデータ例を示す概略図である。
【
図5】測定データのデータ構成及びデータ例を示す概略図である。
【
図6】変電所データのデータ構成及びデータ例を示す概略図である。
【
図7】情報処理装置2のハードウェア構成を説明する図である。
【
図8】情報処理装置2の機能ブロックを示す図である。
【
図9】情報処理装置2が実行する第1実効値方式標定処理を説明するフローチャートである。
【
図10】変換後測定データのデータ構成及びデータ例を示す概略図である。
【
図11】実効値解析用データのデータ構成及びデータ例を示す概略図である。
【
図12】情報処理装置2が実行する第2実効値方式標定処理を説明するフローチャートである。
【
図13】情報処理装置2が実行する共振周波数方式標定処理を説明するフローチャートである。
【
図14】共振周波数を特定する処理を説明する図である。
【
図15】共振周波数データのデータ構成及びデータ例を示す概略図である。
【
図16】共振周波数解析について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
=====第1の実施形態=====
まず、第1の実施形態について説明する。
【0012】
<<電力系統1>>
図1は、後述する情報処理装置2が故障点Pを標定する電力系統1の一例を示す図である。電力系統1は、配電変電所10と、配電線11と、遮断器12と、配電線11の所定の位置に設置された1又は複数の測定器13と、配電線11の所定の位置に設置された自動開閉器14a,14bと、対地静電容量測定装置16とを含む。
【0013】
[配電変電所10]
配電変電所10は、送電線(不図示)から供給される電圧を変圧し、6.6kVの電圧を配電線11へと出力する。
【0014】
[配電線11]
配電線11は、配電変電所10を起点(送り出しノード)とし、配電変電所10に放射状に複数接続されている。
図1では、一の配電線11のみが示されている。配電線11は、a相、b相、及びc相の三相交流電力を供給するための電力線である。
【0015】
[遮断器12]
遮断器12は、配電用遮断器又はフィーダ遮断器等の、電力系統1で短絡や地絡などの事故が起きたときに電力系統1を保護するために電流を遮断する機器である。図示する例では、遮断器12は、一の配電線11に対し一の遮断器12が設置されている。
【0016】
[測定器13]
測定器13は、設置された位置における測定値を、定周期で測定可能なセンサを有する開閉器(センサ付き開閉器)である。測定器13の測定値は、測定器13の設置点における配電線11の電圧及び配電線11に流れる電流を少なくとも含む。測定器13の測定値は、データベースDB(後述)に出力され、格納される。
【0017】
[自動開閉器14a,14b]
自動開閉器14a,14bは、電柱15に設置され、電路を自動的に開閉する電力機器である。自動開閉器14aと、自動開閉器14bとの間には複数の柱上変圧器が接続され、各需要家に電力が供給されている。電力系統1に地絡事故等が発生した場合には、当該地絡事故による故障点Pの両端にある自動開閉器14a,14bが配電系システム20により自動的に開放され、開放された自動開閉器14a,14bの間の区間が停電する。以下、地絡事故により停電した区間を「停電区間SC」と称する。停電区間SCには、故障点Pが含まれる。なお、本実施形態では、自動開閉器14aと、自動開閉器14bとの間にある柱上変圧器が複数である場合について説明するが、一つでもよい。
【0018】
[対地静電容量測定装置16]
対地静電容量測定装置16は、電力系統1に接続され、電力系統1の送り出しノードの対地静電容量及び対地抵抗を測定する測定装置である。対地静電容量測定装置16の測定値は、データベースDB(後述)に出力され、格納される。
【0019】
[配電系システム]
配電系システム20は、電力系統1を統括して制御するシステムである。例えば、配電系システム20は、保護リレー動作に基づき地絡事故等を検出した場合には、停電区間SCに当該地絡事故による故障点Pが含まれるように自動開閉器14a,14bを開放させる。配電系システム20は、データベースDB及び情報処理装置2を有する。
【0020】
なお、本実施形態では、配電系システム20にデータベースDB及び情報処理装置2が含まれる場合について説明するが、データベースDB及び情報処理装置2は、他のシステム(例えば、クラウド等)に設けてもよい。
【0021】
次いで、情報処理装置2の説明をする前に、データベースDBに格納される各種データについて説明する。データベースDBは、後述するノードブランチモデルに関するノードデータ及びブランチデータと、測定データと、変電所データとを予め記憶している。
【0022】
<ノードブランチモデル>
図2は、ノードブランチモデルを説明する図である。ノードブランチモデルは、電柱15をノードとし、ノード間の配電線11をブランチとして電力系統1をモデル化したものである。以下、説明の便宜を図るため、ノード名「NOi(iは自然数)」のノードをノードN
iと記す。ノード名は、各ノードNを識別する識別情報である。例えば、ノード名「NO1」のノードNは、ノードN
1と記す。なお、各ノードN
iに共通する事項については、ノード番号を省略し、単に「ノードN」又は「各ノードN」と記す。また、配電線11において配電変電所10に向かう方向を「上流側」、配電変電所10から離れる方向を「下流側」と定める。
【0023】
[ノード]
本実施形態では、ノードNは、電柱不図示)単位で管理されている集約単位である。ノードNには、柱上変圧器を介して負荷や太陽光発電設備等の需要家が接続されている。配電変電所10が配電線11へ出力した電力は、ノードNを介して需要家に供給される。
【0024】
図2に示す例では、地絡事故の発生により開放された自動開閉器14aのノードN
n(nは自然数)から自動開閉器14bのノードN
n+5までの間が停電区間SCである。よって、停電区間SCにあるノードN
n+1からノードN
n+4に接続されている需要家が停電となる。
【0025】
<ノードデータ>
図3は、ノードデータのデータ構成及びデータ例を示す概略図である。図示するように、ノードデータは、ノード名と、タイプと、負荷有効電力と、負荷無効電力との各項目を有する。タイプは、ノードN(電柱15)に設置されている付帯機器の種別である。付帯機器としては、例えば、遮断器12(FCB)、測定器13、自動開閉器14a,14b、又は柱上変圧器(不図示)等がある。負荷有効電力は、付帯機器に接続される負荷の有効電力(単位はkW(キロワット))である。負荷無効電力は、付帯機器に接続される負荷の無効電力(単位はkvar(キロバール))である。負荷有効電力及び負荷無効電力は、測定器13の測定値、又は各負荷(需要家)に設置されるスマートメータ等の測定値から計算される。
【0026】
なお、ノードデータは、位置情報を含んでいてもよい。位置情報は、ノードNの位置を特定するための情報である。位置情報は、地図上の位置である。地図上の位置は、緯度及び経度で表現することができる。
【0027】
<ブランチデータ>
図4は、ブランチデータのデータ構成及びデータ例を示す概略図である。図示するように、ブランチデータは、変電所側ノード名と、末端側ノード名と、径間長と、正相成分と、逆相成分と、零相成分との各項目を有する。変電所側ノード名は、ブランチの上流側に設けられたノードNのノード名である。末端側ノード名は、ブランチの下流側に設けられたノードNのノード名である。径間長は、ブランチにおける配電線11の径間長(単位はm(メートル))である。
【0028】
なお、詳細は後述するが、情報処理装置2は、零相、正相及び逆相で表現される対称座標系で表現された電圧、電流及びインピーダンスを用いて故障点の標定を行う。正相成分は、対称座標系を用いて表現される正相の抵抗(R)(単位はΩ(オーム))、誘導性リアクタンス(ωL)(単位はΩ)、及び対地静電容量の容量性リアクタンス(1/ωC)(単位はMΩ)である。逆相成分は、対称座標系を用いて表現される逆相の抵抗(R)、誘導性リアクタンス(ωL)、及び対地静電容量の容量性リアクタンス(1/ωC)である。零相成分は、対称座標系を用いて表現される零相の抵抗(R)、誘導性リアクタンス(ωL)、及び対地静電容量の容量性リアクタンス(1/ωC)である。各相の抵抗(R)、誘導性リアクタンス(ωL)、及び対地静電容量の容量性リアクタンス(1/ωC)は、配電線11の線間距離(径間長)、電柱15の高さ等の、電力系統1の幾何学的な構造により予め計算された値である。
【0029】
<測定データ>
図5は、測定データのデータ構成及びデータ例を示す概略図である。測定データは、過去の所定の期間内(例えば、1週間)において測定器13により測定された測定値である。測定データは、電力系統1で発生した故障前の測定値D1と、故障後の測定値D2とを含む。測定器13の測定値は、情報処理装置2が故障点Pの位置を標定する際に用いられる。図示するように、測定データは、測定器IDと、測定時間と、a相電圧と、a相電流と、b相電圧と、b相電流と、c相電圧と、c相電流との各項目を有する。測定器IDは、測定器13を識別す識別情報である。測定時間は、測定器13の測定値(a相電圧、a相電流、b相電圧、b相電流、c相電圧、及びc相電流)を測定した日時(年月日時分)である。a相電圧は、a相の電圧(単位はV(ボルト))である。a相電流は、a相に流れる電流(単位はA(アンペア))である。b相電圧は、b相の電圧である。b相電流は、b相に流れる電流である。c相電圧は、c相の電圧である。c相電流は、c相に流れる電流である。
【0030】
<変電所データ>
図6は、変電所データのデータ構成及びデータ例を示す概略図である。図示するように、変電所データは、変圧器容量と、変圧器%Zと、変電所対地静電容量と、変電所総亘長と、各フィーダの亘長との各項目を有する。変圧器容量は、配電変電所10に設置されている変圧器の容量(単位はMW(メガワット))である。変圧器%Zは、配電変電所10に設置されている変圧器のパーセントインピーダンスのうちリアクタンス分L
T1(単位は%(パーセント))である。変電所対地静電容量は、対地静電容量測定装置16が測定した、電力系統1の対地静電容量(単位はuF(マイクロファラド))である。変電所総亘長は、配電変電所10に接続されている配電線11全体の亘長(単位はkm(キロメートル))である。各フィーダの亘長は、配電変電所10に接続されている各フィーダそれぞれの配電線11の亘長(単位はkm)である。図示する例では、各フィーダの亘長は、1番目のフィーダ亘長と、2番目のフィーダ亘長と、3番目のフィーダ亘長と、4番目のフィーダ亘長とを含む。なお、変電所データは、配電変電所10の位置情報を含んでいてもよい。
【0031】
<<情報処理装置2>>
情報処理装置2は、事故等により電力系統1に故障が発生した場合に故障点Pを標定する装置である。以下、情報処理装置2のハードウェア構成及び機能ブロックの順に説明する。
【0032】
<情報処理装置2のハードウェア構成>
図7は、情報処理装置2のハードウェア構成を説明する図である。情報処理装置2は、CPU(Central Processing Unit)21と、メモリ22と、入力部23と、出力部24と、記憶部25と、記録媒体駆動部26と、ネットワーク接続部27とを有するコンピュータである。
【0033】
[CPU21]
CPU21は、メモリ22や記憶部25に記憶された情報処理プログラムを実行することにより、情報処理装置2が有する様々な機能を実現する。
【0034】
[メモリ22]
メモリ22は、例えばRAM(Random-Access Memory)等であり、様々なプログラムやデータ等の一時的な記憶領域として用いられる。
【0035】
[入力部23]
入力部23は、ユーザによるコマンドやデータの入力を受け付ける装置であり、キーボード、タッチパネルディスプレイ上でのタッチ位置を検出するタッチセンサなどの入力インタフェースを含む。
【0036】
[出力部24]
出力部24は、例えばディスプレイやプリンタなどの装置である。
【0037】
[記憶部25]
記憶部25は、CPU21によって、実行または処理される各種データを格納する非一時的な(例えば不揮発性の)記憶装置である。
【0038】
[記録媒体駆動部26]
記録媒体駆動部26は、SDカードやDVD、CDROM等の記録媒体に記録された情報処理プログラム等の様々なデータを読み取り、記憶部25に格納する。
【0039】
[ネットワーク接続部27]
ネットワーク接続部27は、ネットワークを介して、他のコンピュータと各種プログラムやデータの受け渡しを行う。
【0040】
<情報処理装置2の機能ブロック>
図8は、情報処理装置2の機能ブロックを示す図である。情報処理装置2は、第1取得部210と、第2取得部211と、推定部212と、標定部213と、出力部214とを含む。情報処理装置2は、CPU21が記憶部25に格納されたプログラムをメモリ22に読み出して実行することにより、第1取得部210、第2取得部211、推定部212、標定部213、及び出力部214の各機能を実現する。
【0041】
以下、それぞれについて説明するが、ここでは先ず概要について説明する。それぞれの詳細については後にフローチャートを用いて具体例を示しながら説明する。
【0042】
[第1取得部210]
第1取得部210は、電力系統1の送り出しノードにおける対地静電容量の測定値D0(「第1測定値」に相当)を、データベースDBから取得する。
【0043】
[第2取得部211]
第2取得部211は、測定器13のセンサで測定された故障前の測定値D1、及び、故障後の測定値D2(「第2測定値」に相当)を、データベースDBから取得する。ここでの測定値は、測定器13の設置点における配電線11の電圧及び配電線11に流れる電流を含む。
【0044】
[推定部212]
推定部212は、第1取得部210が取得した対地静電容量の測定値D0に基づいて、電力系統1に設けられた複数のノードN間の配電線11(ブランチ)それぞれにおける零相成分の対地静電容量、又は、故障点抵抗のうち少なくともいずれか一方を推定する。
【0045】
具体的には、推定部212は、対地静電容量の測定値D0に基づいて、電力系統1の配電線11の単位長さあたりの零相成分の対地静電容量を計算することにより、ノードN間の配電線11(ブランチ)それぞれにおける零相成分の対地静電容量を推定する。
【0046】
或いは、推定部212は、対地静電容量の測定値D0と、電力系統1の構造から予め計算された電力系統1の零相成分の対地静電容量と、電力系統の構造から予め計算されたノードN間の配電線11(ブランチ)それぞれの零相成分の対地静電容量とに基づいて、ノードN間の配電線11(ブランチ)それぞれにおける零相成分の対地静電容量を推定する。
【0047】
[標定部213]
標定部213は、電力系統1に故障が発生した場合に、推定部212による推定結果に基づいて、故障点Pを標定する。
【0048】
具体的には、標定部213は、電力系統1に設けられた複数のノードNのいずれか一を故障点Pと仮定した場合の故障後の測定値D2に対応する計算値Cを、推定した零相成分の対地静電容量又は推定した故障点抵抗のうち少なくともいずれか一方に基づいて計算し、計算した計算値Cと、故障後の測定値D2とに基づいて、故障点Pを標定する。
【0049】
なお、「故障後の測定値D2に対応する計算値C」とは、測定器13の設置点における配電線11の電圧及び配電線11に流れる電流の計算値であって、故障を模擬する計算によって得られた計算値である。
【0050】
[出力部214]
出力部214は、標定部213による標定結果(例えば、故障点P)を出力する。
【0051】
<<情報処理装置2が実行する処理>>
情報処理装置2が実行する処理について、フローチャートを用いて説明する。
図9は、情報処理装置2が実行する第1実効値方式標定処理を説明するフローチャートである。なお、以下では、電力系統1に一線地絡が発生した場合を例示して説明するが、実効値方式では地絡に限らず短絡が発生した場合であっても故障点Pを標定可能である。
【0052】
まず、ステップS101において、第1取得部210及び第2取得部211は、データベースDBから入力データ(ノードデータ、ブランチデータ、測定データ、及び変電所データ)を読み込む。このとき、第1取得部210は、変電所データから変電所対地静電容量(電力系統1の対地静電容量の測定値D0)を取得する。また、第2取得部211は、測定データから故障前の測定値D1及び故障後の測定値D2を取得する。
【0053】
次いで、ステップS102において、推定部212は、故障後の測定値D2に基づいて、電力系統1の周波数解析を行う(波形データを解析する)。具体的には、まず、推定部212は、次の式(1)により、零相の電圧V0、正相の電圧V1、及び逆相の電圧V2を計算する。
【0054】
【0055】
ここで、E’aは故障後のa相電圧であり、E’bは故障後のb相電圧であり、E’cは故障後のc相電圧である。また、a=cos120°+jsin120°である。
【0056】
また、推定部212は、次の式(2)により、零相の電流I0、正相の電流I1、及び逆相の電流I2を計算する。
【0057】
【0058】
ここで、I’aは故障後のa相電流であり、I’bは故障後のb相電流であり、I’cは故障後のc相電流である。推定部212は、故障後の測定時間のそれぞれについて零相の電圧V0、正相の電圧V1、逆相の電圧V2、零相の電流I0、正相の電流I1、及び逆相の電流I2を計算し、計算した電圧及び電流を時系列で表す変換後測定データを生成する。
【0059】
<変換後測定データ>
図10は、変換後測定データのデータ構成及びデータ例を示す概略図である。図示するように、変換後測定データは、測定器IDと、測定時間と、正相電圧と、正相電流と、逆相電圧と、逆相電流と、零相電圧と、零相電流との各項目を有する。
【0060】
次いで、ステップS103において、推定部212は、次の推定方法1又は推定方法2により、変電所対地静電容量に基づいて、各ブランチそれぞれにおける零相成分の対地静電容量を推定する。
【0061】
ブランチデータに含まれる各ブランチの零相成分の対地静電容量は、配電線11の線間距離、電柱15の高さ等の、電力系統1の幾何学的な構造等から計算された値である。しかし、実際の各ブランチにおける零相成分の対地静電容量は、柱上変圧器等の機器の影響、低圧配電線の影響、家屋や樹木等の影響、気象条件等の影響が加わり、計算された値から2倍~3倍程度の誤差が生じる。そのため、その誤差に起因して電力系統1の状態の推定精度が低下する。
【0062】
ここで、「電力系統1の状態」とは、具体的には、ノードNi(1≦i≦M)における配電線11の電圧及び配電線11を流れる電流である。
【0063】
これに対し、対地静電容量測定装置16で測定した電力系統1の対地静電容量を用いることにより、精度良く各ブランチの零相成分の対地静電容量を計算することができる。これにより、電力系統1の状態の推定精度を向上させることができる。
【0064】
[推定方法1]
推定方法1は、各ブランチの径間長に基づいて零相成分の対地静電容量を按分する方法である。推定方法1では、推定部212は、まず、次の式(3)により、単位亘長(単位長さ)当たりの零相成分の対地静電容量Cu0を計算する。
【0065】
【0066】
ここで、C0は、変電所対地静電容量の零相成分(対地静電容量測定装置16が測定した電力系統1の対地静電容量の測定値D0の零相成分)である。また、lΣは、変電所総亘長である。
【0067】
続いて、推定部212は、単位亘長当たりの零相成分の対地静電容量Cu0と、ブランチデータに含まれる各ブランチの径間長とに基づいて、次の式(4)により、各ブランチそれぞれにおける零相成分の対地静電容量を計算する。
【0068】
【0069】
ここで、Ci0は、i番目のブランチにおける零相成分の対地静電容量である。また、liは、i番目のブランチにおける径間長である。
【0070】
[推定方法2]
推定方法2は、ブランチデータに予め設定してある各ブランチの零相成分の対地静電容量の大きさに基づいて対地静電容量を按分する方法である。ブランチデータに予め設定してある各ブランチの零相成分の対地静電容量は、電力系統1の幾何学的な構造から予め計算された値である。推定方法2では、まず、推定部212は、次の式(5)により、電力系統1の幾何学的な構造から求めた電力系統1の零相成分の対地静電容量C0__geometricを計算する。
【0071】
【0072】
ここで、Cfi0_geometricは、ブランチデータに予め設定されている、電力系統1の幾何学的な構造から求めたf番目フィーダにおけるi番目のブランチにおける零相成分の対地静電容量である。Fは、電力系統1におけるフィーダ数である。Mは、f番目フィーダにおけるノード数である。
【0073】
なお、ここで計算した電力系統1の零相成分の対地静電容量C0_geometricは、上述した様々な要因により、誤差を含むため、変電所対地静電容量(測定値D0)の零相成分C0と必ずしも一致しない。
【0074】
続いて、推定部212は、次の式(6)により、各ブランチそれぞれにおける零相成分の対地静電容量を計算し、ブランチデータに上書きする(ブランチデータを更新する)。
【0075】
【0076】
ここで、Cfi0は、f番目フィーダにおけるi番目のブランチにおける零相成分の対地静電容量である。
【0077】
このように、電力系統1の状態を推定するためのパラメータ(各ブランチそれぞれにおける零相成分の対地静電容量)を修正することにより、パラメータの誤差を低減し、電力系統1の状態の推定精度を向上させることができる。
【0078】
次いで、ステップS110において、標定部213は、電力系統1の設備情報(ノードデータ、ブランチデータ、及び変電所データ)と、故障前の測定値D1とに基づいて、電力系統1の故障前の状態を推定する。
【0079】
具体的には、標定部213は、故障前の複数のノードNi(1≦i≦M)のそれぞれにおける電圧及び電流の値を推定する。
【0080】
次いで、ステップS111において、標定部213は、インピーダンス行列Zを生成する。インピーダンスZは、複数のノードNのそれぞれへの注入電流をI、複数のノードNのそれぞれの電圧をVとした場合に、次の式(7)で表わされる。
【0081】
【0082】
以下の説明において、電力系統1にはM個(Mは自然数)のノード(ノードN1~ノードNM)が設けられているとする。この場合、電圧Vは次の式(8)で、電流Iは次の式(9)で、インピーダンスZは次の式(10)で表わされる。
【0083】
【0084】
【0085】
【0086】
つまり、電圧V及び電流IはM行1列の行列であり、インピーダンスZはM行M列の行列である。以下では、特に、式(10)のインピーダンスZを「インピーダンス行列Z」と称する。
【0087】
式(8)において、電圧Vの成分Vi(1≦i≦M)はノードNiの電圧である。また、式(9)において、電流Iの成分Ii(1≦i≦M)はノードNiへの注入電流である。
【0088】
式(10)において、インピーダンス行列Zの成分Zij(1≦i≠j≦M)は、ノードNiとノードNjとの間のインピーダンスである。
【0089】
また、式(10)において、インピーダンス行列Zの対角成分Ziiは、ノードNiを基準とした場合の電力系統1全体のインピーダンスに相当する。
【0090】
次いで、ステップS112において、標定部213は、電力系統1に所定の故障条件を課した場合の電力系統1を模擬する計算を実行し、ステップS101において第2取得部211が取得した故障後の測定値D2に対応する計算値Cを計算する。このとき、標定部213は、電力系統1に所定の複数の故障条件のうちの一を課して計算する。
【0091】
故障条件とは、故障点Pに対応するノード、及び、故障点Pの故障点抵抗である。具体的には、「故障点Pに対応するノード」は、電力系統1のノードNi(1≦i≦M)のいずれかである。また、「故障点Pの故障点抵抗」とは、予め設定された複数の故障点抵抗の候補値Rfk(1≦k≦K)のいずれかである(k及びKは自然数)。候補値Rfkは、故障点Pの実際の故障点抵抗の値を含むと想定される範囲から抽出されたK個の値とすればよい。
【0092】
ステップS112において、標定部213は、故障後の状態として、ノードNiを故障点Pと仮定しつつ、候補値RfkをノードNiの故障点抵抗と仮定する。以下、故障点Pと仮定したノードNiを「模擬故障点」と称し、故障点抵抗と仮定した候補値Rfkを「模擬故障点抵抗」と称する。
【0093】
以下、ステップS112において標定部213が実行する計算の詳細について説明する。ステップS112における標定部213による計算は、具体的には、故障点Pの電圧及び電流を計算するステップと、測定器13の設置点の故障後の電圧及び電流を計算するステップとを含む。以下、詳細に説明する。
【0094】
[故障点Pの電圧及び電流を計算するステップ]
先ず、故障点Pと仮定したノードNiの電流及び電圧を定式化する。前述のように、この例では、発生した故障の種別は一線地絡である。この場合、次式を用いて計算される。
【0095】
【0096】
【0097】
前述のように、標定部213は対称座標系を用いて計算を行う。そのため、電流I、電圧V及びインピーダンス行列Zの成分には、対称座標系を用いた表現であることを示すための上付き文字が付されている。上付き文字「0」は零相、上付き文字「1」は正相、上付き文字「2」は逆相を意味する。以下の説明においても同様とする。
【0098】
式(11)及び式(12)において、「F」とは故障後であることを示している。また、式(11)の右辺の分母のRfkは、故障点Pの故障点抵抗の複数の候補値の一である。
【0099】
故障点Pと仮定したノードNiの電圧は、次の式(13)~式(15)で表現することができる。
【0100】
【0101】
【0102】
【0103】
式(14)の右辺のVi
1は、ノードNiの故障前の正相の電圧であり、ステップS110において推定された値を代入することができる。式(13)~式(15)のそれぞれの右辺の電流には、式(11)及び式(12)の電流を代入することができる。標定部213は、式(11)~式(15)を用いて、故障点Pと仮定したノードNiの電圧を計算する。
【0104】
[測定器13の設置点の故障後の電圧及び電流を計算するステップ]
次いで、測定器13の設置点の故障後の電圧及び電流を定式化する。前述のように、測定器13の設置点は、複数のノードのうちのいずれかに対応する位置であり、そのノードをノードNkとする。
【0105】
測定器13の設置点に対応するノードNkの電圧は、式(13)~式(15)とオームの法則を用いて、次の式(16)~式(18)を用いて計算される。
【0106】
【0107】
【0108】
【0109】
更に、測定器13の設置点に対応するノードNkの電流は、式(16)~式(18)とオームの法則を用いて、次の式(19)~式(21)を用いて計算される。
【0110】
【0111】
【0112】
【0113】
ここで、式(19)~式(21)のそれぞれは、ノードNkと、ノードNkに隣接するノードNjとの間の電流である。式(19)~式(21)のそれぞれの2つ目の等号の右辺の分母は、ノードNkと、ノードNjとの間のインピーダンスである。
【0114】
標定部213は、式(16)~式(21)を用いて、測定器13の設置点の故障後の電圧及び電流(計算値C)を計算することができる。
【0115】
次いで、ステップS113において、標定部213は、模擬故障点(ノードNi)、模擬故障点抵抗(候補値Rfk)、及び計算値Cを対応付けてデータベースDBに保存する。
【0116】
標定部213は、更に、故障後の測定値D2に対応する計算値Cを、全ての故障条件について上述の手順で計算し、データベースDBに保存する。
【0117】
つまり、標定部213は、この場合の故障後の測定値D2に対応する計算値Cを、ノードNi(1≦i≦M)ごとに、複数の故障点抵抗の候補値Rfk(1≦k≦K)に対応させて計算する。すなわち、標定部213は、S112,S113の処理を、模擬故障点(ノードNi(1≦i≦M))ごとに実行するループR1を、複数の模擬故障点抵抗Rfk(1≦k≦K)ごとに実行する(ループR2)。従って、標定部213は、M×K個の計算値Cを得る。
【0118】
なお、予め設定する候補値Rfkおよびその数Kには特に制限は無い。候補値Rfkは、故障点Pの実際の故障点抵抗の値を含むと想定される範囲から抽出されたK個の値とすればよい。
【0119】
例えば、故障点Pの実際の故障点抵抗の値を含むと想定される範囲をK-1等分するK個の値とすればよい。
【0120】
次いで、ステップS114において、標定部213は、故障後の測定値D2と、ステップS112において計算したM×K個の計算値Cとの夫々の類似度に基づいて、故障点Pを標定しつつ、故障点Pの故障点抵抗Rfを推定する。仮定した複数の故障条件のうち、対応する計算値Cが故障後の測定値D2に類似する故障条件ほど、故障後の電力系統1の状態に近いと考えられる。このことを用いて、標定部213は、故障点Pを標定しつつ、故障点Pの故障点抵抗Rfを推定する。
【0121】
具体的には、標定部213は、類似度を示す評価関数を用いて、故障点Pを標定する。評価関数は、零相、正相及び逆相で表現される対称座標系における各相の電圧及び電流についての測定値及び計算値Cの差に応じて変化する関数が用いられる。
【0122】
本実施形態においては、標定部213は、次の式(22)に示す評価関数Fを用いる。
【0123】
【0124】
【0125】
式(22)のpは、式(23)に示した変数であり、故障点Pと仮定したノードNiと、故障点Pの故障点抵抗の候補値Rfkの一をまとめて示したものである。
【0126】
式(22)の評価関数は、対称座標系における各相の電圧についての故障後の測定値D2及び計算値Cの差の絶対値と、各相の電流についての故障後の測定値D2及び計算値Cの差との夫々に所定の重みw1~w6を乗じた加重和である。
【0127】
標定部213は、故障の種別に応じて設定された所定の重みw1~w6を用いる。例えば、故障の種別が地絡のいずれかである場合には、零相電圧に関する重みw1及び零相電流に関する重みw4を1とし、他の重みを0としてもよい。あるいは、故障の種別が地絡でない場合には、零相電圧に関する重みw1及び零相電流に関する重みw4を0とし、他の重みを1としてもよい。
【0128】
なお、評価関数は式(22)の例に限られるものではない。他の例としては、式(22)の故障後の測定値D2及び計算値Cの差の絶対値に代えて、故障後の測定値D2及び計算値Cの差の絶対値が大きいほど大きくなる他の関数としてもよい。
【0129】
標定部213は、全ての故障条件(模擬故障点及び模擬故障点抵抗の組合せ)のそれぞれについて評価関数により評価値F(p)を計算し、計算した評価値を示す実効値解析用データを生成し、生成した実効値解析用データをデータベースDBに保存する。
【0130】
<実効値解析用データ>
図11は、実効値解析用データのデータ構成及びデータ例を示す概略図である。図示するように、実効値解析用データは、評価値と、模擬故障点抵抗(候補値R
fk)と、模擬故障点(ノードN
i)との各データ項目を有する。標定部213は、例えば、計算した評価値が小さい順にソートして実効値解析用データを生成する。
【0131】
次いで、ステップS115において、出力部214は、評価関数により計算した評価値の最も小さい故障条件(模擬故障点(ノードN
i)及び模擬故障点抵抗(候補値R
fk)の組合せ)を抽出し、抽出した模擬故障点(ノードN
i)及び模擬故障点抵抗(候補値R
fk)を標定結果(故障点P及び故障点抵抗R
f)として出力する。例えば、
図11に示すデータ例では、標定部213は、故障点PとしてノードN
100のノード名「NO100」を、故障点抵抗R
fとして「5Ω」を出力する。その後、本実効値方式標定処理を終了する。
【0132】
上述したように、各ブランチそれぞれにおける零相成分の対地静電容量は、配電線11の線間距離、電柱15の高さ等の、電力系統1の幾何学的な構造により値を求めることが可能である。しかし,実際には、変圧器等の機器の影響、低圧配電線の影響、家屋や樹木等の影響、又は気象条件等の影響が加わり、計算された対地静電容量から2倍~3倍程度の誤差が生じる。そのため、この誤差に起因して、実効値標定方式による故障点Pの標定精度が低下する。これに対し、本実施形態では、情報処理装置2は、対地静電容量測定装置16で測定した電力系統1の対地静電容量(変電所対地静電容量)に基づいて、各ブランチそれぞれの零相成分の対地静電容量を計算し、計算した値でブランチデータを書き換える。これにより、ノードブランチモデルにおけるブランチデータの零相成分の対地静電容量のモデル誤差を低減することができるため、実効値標定方式による故障点Pの標定精度を向上させることができる。
【0133】
=====第2の実施形態=====
次に、第2の実施形態について説明する。本実施形態では、情報処理装置2は、電力系統1の対地静電容量の測定値D0に基づいて故障点抵抗Rfを計算し、計算した故障点抵抗Rfを用いて故障点Pを標定する点が、第1の実施形態と異なる。情報処理装置2のハードウェア構成及び機能構成は、第1の実施形態と同様であるため、その説明を省略する。
【0134】
本実施形態における標定部213は、電力系統1に設けられた複数のノードNのいずれか一を故障点Pと仮定した場合の故障後の測定値D2に対応する計算値Cを、対地静電容量の測定値D0から推定した故障点抵抗に基づいて計算し、計算した計算値Cと、故障後の測定値D2とに基づいて、故障点Pを標定する。
【0135】
図12は、本実施形態における情報処理装置2が実行する第2実効値方式標定処理を説明するフローチャートである。本実施形態における第2実効値方式標定処理のステップS201~S203の処理は、第1の実施形態における第1実効値方式標定処理のステップS101~S103の処理と同様であるため、その説明を省略する。
【0136】
本実施形態では、ステップS203に続いて、ステップS204において、推定部212は、変電所対地静電容量(電力系統1の対地静電容量の測定値D0)に基づいて、故障点抵抗Rfを推定する。
【0137】
上述した式(1)で計算した零相電圧V0は、線路インピーダンスの絶対値が対地静電容量測定装置16の対地抵抗(例えば、10,000Ω程度)よりも十分小さいとした場合、次の式(24)で近似的に求めることができる。
【0138】
【0139】
ここで、Eは、健全相の線間電圧である。健全相とは、配電線11において故障が発生していない相である。また、ωは、電力系統の商用電源の角周波数である。また、R0は、対地静電容量測定装置16の対地抵抗である。対地抵抗R0は、対地静電容量測定装置16で事前に設定された値(例えば、約10000Ω)である。データベースDBは、角周波数ω及び対地抵抗R0を予め記憶している。
【0140】
推定部212は、上述した式(1)で計算した零相電圧V0、及び電力系統1の零相成分の対地静電容量C0を用いて、上述した式(24)から故障点抵抗Rfを計算する。
【0141】
標定部213は、ステップS212において、変電所対地静電容量に基づいて計算した故障点抵抗R
fを、故障点Pの抵抗と仮定して計算値Cを計算する。よって、本実施形態における第2実効値方式標定処理では、標定部213は、
図9に示す第1の実施形態における第1実効値方式標定処理のループR2を反復実行しない。本実施形態における第2実効値方式標定処理のステップS210~S215の他の処理は、第1の実施形態における第1実効値方式標定処理のステップS110~S115の処理と同様であるため、その説明を省略する。
【0142】
第1の実施形態では、故障点抵抗Rfが未知であるため、標定部213は、第1実効値方式標定処理において、各ノードNiのそれぞれの計算値Cを、K個の故障点抵抗Rfの候補値のそれぞれについて計算しなければならない。すなわち、第1の実施形態では、上述したループR2をK回反復実行する必要があるため、計算時間がかかる場合がある。
【0143】
これに対し、本実施形態では、標定部213は、電力系統1の対地静電容量の測定値D0に基づいて、故障点Pの故障点抵抗Rfを計算するため、第2実効値方式標定処理においてループR2を反復実行する必要がない。よって、第2実効値方式標定処理における計算時間を短縮することができる。具体的には、第1の実施形態では、M×K個の計算値Cを計算していたのに対し、本実施形態では、M個の計算値Cを計算すればよい。
【0144】
また、電力系統1の零相成分の対地静電容量C0を用いて故障点抵抗Rfを計算することにより、より精度良く故障点抵抗Rfを計算することができるため、故障点Pの標定精度を向上させることができる。
【0145】
=====第3の実施形態=====
次に、第3の実施形態について説明する。第1の実施形態及び第2の実施形態では、情報処理装置2は、実効値方式により故障点Pを標定しているが、本実施形態では、共振周波数方式により故障点Pを標定する点が異なる。情報処理装置2のハードウェア構成及び機能構成は、第1の実施形態と同様であるため、その説明を省略する。
【0146】
本実施形態における標定部213は、故障後の測定値D2を用いて得られた電力系統1の周波数解析の結果に基づいて、電力系統1の共振周波数を特定し、特定した共振周波数と、推定した故障点抵抗とに基づいて、故障点Pを標定する。
【0147】
図13は、本実施形態における情報処理装置2が実行する共振周波数方式標定処理を説明するフローチャートである。本実施形態における共振周波数方式標定処理のステップS301~S302の処理は、第1の実施形態における第1実効値方式標定処理のステップS101~S102の処理と同様であるため、その説明を省略する。
【0148】
本実施形態では、ステップS302に続いて、ステップS303において、標定部213は、零相電流の時系列の波形データから共振周波数を特定する。
【0149】
図14は、共振周波数を特定する処理を説明する図である。図示するグラフ1010は、縦軸が零相電流、横軸が時間であり、零相電流の時系列の波形データを表す。標定部213は、グラフ1010に示す零相電流の波形データを、グラフ1020のように、高速フーリエ変換(FFT)する。図示するグラフ1020の縦軸はパワースペクトルであり、横軸は周波数である。標定部213は、事前に設定したパワースペクトルの閾値αを超過する周波数のうち、パワースペクトルがピーク(符号1021)となる周波数を共振周波数f0とする。
【0150】
なお、本実施形態では、標定部213は、零相電流の波形データに基づいて共振周波数を特定しているが、これに限らず、零相電圧の波形データに基づいて共振周波数を特定してもよい。また、共振周波数を特定する方法は、上記に限られず、零相電流又は零相電圧の波形データに基づいて周波数解析(フーリエ変換)を行い、その解析結果に基づくものであればよい。
【0151】
次いで、ステップS304において、推定部212は、変電所対地静電容量(電力系統1の対地静電容量の測定値D0)に基づいて、故障点抵抗Rfを推定する。故障点抵抗Rfの推定方法は、第2の実施形態と同様であるため、その説明を省略する。
【0152】
次いで、ステップS305において、標定部213は、共振周波数特性を計算する。具体的には、標定部213は、ステップS301で読み込んだ入力データ、及び、ステップS304で求めた故障点抵抗Rfを用いて、次の式(25)~式(27)により、共振周波数fを計算する。
【0153】
【0154】
【0155】
【0156】
ここで、Rfは故障点抵抗、Ru1は故障が発生した配電線11の総抵抗(正相成分)、lfuは配電変電所10から故障点Pまでの距離、RT1は配電変電所10に設置してある変圧器の抵抗(正相成分)、Ru0は故障が発生した配電線11の総抵抗(零相成分)、Lu1は故障が発生した配電線11の総インダクタンス(正相成分)、LT1は配電変電所10に設置してある変圧器のインダクタンス(正相成分)、Lu0は故障が発生した配電線11の総インダクタンス(零相成分)である。
【0157】
標定部213は、配電変電所10から故障点Pまでの距離lfuを変更し、各距離lfuのそれぞれにおける共振周波数fを計算する。例えば、標定部213は、配電変電所10から各ノードNiまでの距離をそれぞれ距離lfuに代入して、各ノードNiのそれぞれを故障点Pと仮定した共振周波数fをそれぞれ計算する。
【0158】
次いで、ステップS306において、標定部213は、故障点抵抗Rf、配電変電所10から故障点Pまでの距離lfu、及び計算した共振周波数fを対応付け、共振周波数データとしてデータベースDBに保存する。
【0159】
<共振周波数データ>
図15は、共振周波数データのデータ構成及びデータ例を示す概略図である。共振周波数データは、FFTの結果と、故障点抵抗R
fと、配電変電所10からの距離l
fuと、共振周波数fとの各項目を有する。FFTの結果は、S303において周波数解析して特定した共振周波数f0(図に示す例では、「1200」)(単位はHz(ヘルツ))である。
【0160】
次いで、ステップS307において、標定部213は、共振周波数データと、ステップS303において求めた共振周波数f0とを照らし合わせて、故障点Pを標定する。
【0161】
図16は、共振周波数解析について説明する図である。共振周波数データは、グラフ1030に示すような特性を有する。グラフ1030の縦軸は共振周波数fであり、横軸は配電変電所10からの距離l
fuである。標定部213は、ステップS303において求めた共振周波数f0との差が最も小さい共振周波数fを共振周波数データから抽出し、抽出した共振周波数fに対応する距離l
fuにあるノードN
iを、故障点Pに標定する。
【0162】
例えば、
図15に示すデータ例では、標定部213は、共振周波数f0「1200」との差が最も小さい共振周波数f「1205」に対応する距離「7.5」にあるノード名「NO102」のノードN
102を、故障点Pに標定する。
【0163】
次いで、ステップS308において、出力部214は、標定した故障点Pを、標定結果として出力する。その後、本共振周波数方式標定処理を終了する。
【0164】
以上説明した手順によれば、電力系統1の零相成分の対地静電容量C0を用いて故障点抵抗Rfを計算することにより、より精度良く故障点抵抗Rfを計算することができる。そして、共振周波数方式において、計算した故障点抵抗Rfを用いて共振周波数fを計算することにより、共振周波数fをより精度良く計算することができるため、故障点Pの標定精度を向上させることができる。また、情報処理装置2は、上述した式(27)のC0に、対地静電容量測定装置16の測定値D0の零相成分を代入しているため、共振周波数fをより精度良く計算することができる。これにより、共振周波数方式による故障点Pの標定精度を向上させることができる。
【0165】
=====まとめ=====
以上、実施形態の情報処理装置2は、電力系統1に故障が発生した場合に故障点を標定する情報処理装置2であって、電力系統1の対地静電容量の第1測定値を取得する第1取得部210と、第1測定値に基づいて、電力系統1に設けられた複数のノードN間の配電線11それぞれにおける零相成分の対地静電容量、又は、故障点抵抗のうち少なくともいずれか一方を推定する推定部212と、推定部212による推定結果に基づいて、故障点を標定する標定部213と、を含む。
【0166】
このような構成によれば、測定した電力系統1の対地静電容量を用いているため、高い精度で故障点を標定できる
【0167】
また、情報処理装置2において、推定部212は、第1測定値に基づいて、電力系統1の配電線11の単位長さあたりの零相成分の対地静電容量を計算することにより、ノードN間の配電線11それぞれにおける零相成分の対地静電容量を推定する。
【0168】
このような構成によれば、簡単な計算で、より精度の良く、ノードN間の配電線11(各ブランチ)それぞれにおける零相成分の対地静電容量を推定することができる。
【0169】
また、情報処理装置2において、推定部212は、第1測定値と、電力系統1の構造から予め計算された電力系統1の零相成分の対地静電容量と、電力系統の構造から予め計算されたノードN間の配電線11それぞれの零相成分の対地静電容量とに基づいて、ノードN間の配電線それぞれにおける零相成分の対地静電容量を推定する。
【0170】
このような構成によれば、電力系統の構造から予め計算されたノードN間の配電線11それぞれの零相成分の対地静電容量を活用して、より精度良く、ノードN間の配電線11(各ブランチ)それぞれにおける零相成分の対地静電容量を推定することができる。
【0171】
また、情報処理装置2において、電力系統1に設置された測定器13から故障後の電圧及び電流を含む第2測定値を取得する第2取得部211を含み、標定部213は、電力系統に設けられた複数のノードNのいずれか一を故障点と仮定した場合の第2測定値に対応する計算値を、推定した零相成分の対地静電容量又は推定した故障点抵抗のうち少なくともいずれか一方に基づいて計算し、計算した計算値と、第2測定値とに基づいて、故障点を標定する。
【0172】
このような構成によれば、実効値方式による標定精度を向上させることが可能となる。
【0173】
また、情報処理装置2において、電力系統1に設置された測定器13から故障後の電圧及び電流を含む第2測定値を取得する第2取得部211を含み、標定部213は、第2測定値を用いて得られた電力系統1の周波数解析の結果に基づいて、電力系統の共振周波数を特定し、特定した共振周波数と、推定した故障点抵抗とに基づいて、故障点を標定する。
【0174】
このような構成によれば、共振周波数方式による標定精度を向上させることが可能となる。
【0175】
上記の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。また、本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更や改良され得るとともに、本発明にはその等価物が含まれるのはいうまでもない。
【0176】
例えば、上述したデータベースDBが記憶する各データは、CPU21が、記録媒体駆動部26を介して記録媒体に格納されたデータを読み込んでもよいし、ネットワーク接続部27を介して外部のコンピュータ又はサーバから取得してもよい。
【0177】
また、上述した変換後測定データ、実効値解析用データ、又は共振周波数データ等の情報処理装置2の各機能が生成する各種データは、CPU21が、記憶部25に格納してもよいし、記録媒体駆動部26を介して記録媒体に書き込んでもよいし、メモリ22上に構造体として格納してもよいし、標定結果とともに出力部24に出力してもよい。
【符号の説明】
【0178】
電力系統 1
配電変電所 10
配電線 11
遮断器 12
測定器 13
自動開閉器 14a,14b
電柱 15
対地静電容量測定装置 16
情報処理装置 2
CPU 21
メモリ 22
入力部 23
出力部 24
記憶部 25
記録媒体駆動部 26
ネットワーク接続部 27
第1取得部 210
第2取得部 211
推定部 212
標定部 213
出力部 214
データベース DB