(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025007208
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】診断システム及び診断方法
(51)【国際特許分類】
G01N 29/24 20060101AFI20250109BHJP
G01N 29/48 20060101ALI20250109BHJP
G01M 99/00 20110101ALI20250109BHJP
【FI】
G01N29/24
G01N29/48
G01M99/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023108458
(22)【出願日】2023-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111121
【弁理士】
【氏名又は名称】原 拓実
(74)【代理人】
【識別番号】100200218
【弁理士】
【氏名又は名称】沼尾 吉照
(72)【発明者】
【氏名】田中 翔
(72)【発明者】
【氏名】竹内 文章
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 達也
(72)【発明者】
【氏名】原口 智
(72)【発明者】
【氏名】高橋 栄也
(72)【発明者】
【氏名】水出 隆
【テーマコード(参考)】
2G024
2G047
【Fターム(参考)】
2G024AA03
2G024BA25
2G024CA13
2G024DA12
2G024FA02
2G024FA06
2G024FA15
2G047AA05
2G047AC07
2G047BC03
2G047BC05
2G047CA04
2G047GA20
2G047GD01
2G047GD02
2G047GF28
(57)【要約】 (修正有)
【課題】配電盤等の盤間を接続する導体のボルト締結部の緩み確認において、全締結部を増し締めする方法では、膨大な時間と労力がかかるうえ、ボルトに接触するため通電時には増し締めすることが出来ないといった問題を解消する診断システムを提供する。
【解決手段】電力を負荷に供給する第1の導体に非接触で振動を加える加振手段と、前記加振手段によって前記第1の導体に与えられた振動と、所定の締結部材によって前記第1の導体と締結された第2の導体に伝達した後の振動とを、それぞれ非接触で計測する計測手段と、前記計測手段によって計測された前記第1の導体の振動の情報と前記第2の導体に伝達した後の振動の情報を取得し、前記締結部材による締結部を診断するための診断情
報を生成する診断情報生成部と、前記診断情報が前記締結部の異常に関する所定の条件を満たす場合に、前記締結部に異常があると診断する診断部とを備える診断システム。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力を負荷に供給する第1の導体に非接触で振動を加える加振手段と、
前記加振手段によって前記第1の導体に与えられた振動と、所定の締結部材によって前
記第1の導体と締結された第2の導体に伝達した後の振動とを、それぞれ非接触で計測す
る計測手段と、
前記計測手段によって計測された前記第1の導体の振動の情報と前記第2の導体に伝達
した後の振動の情報とを取得し、前記振動の情報から前記締結部材による締結部の異常の
有無を診断するための診断情報を生成する診断情報生成部と、
前記診断情報生成部によって生成された診断情報が前記締結部の異常に関する所定の条
件を満たす場合に、前記締結部に異常があると診断する診断部と、
を備える診断システム。
【請求項2】
前記診断情報が、前記第2の導体に伝達した後の振動の振動加速度を前記第1の導体に
与えられた振動の振動加速度で除算して算出される振動の伝達率である、
請求項1に記載の診断システム。
【請求項3】
前記加振手段の加振及び前記計測手段の計測が、前記第1の導体及び前記第2の導体が
有する面のうち最も面積が大きい面に対して行われるように前記加振手段及び前記計測手
段が配置される、
請求項1又は請求項2に記載の診断システム。
【請求項4】
前記加振手段の加振の方向及び前記計測手段の計測の方向が、前記所定の締結部材であ
るボルトの軸方向と同一方向であるように前記加振手段及び前記計測手段が配置される、
請求項1又は請求項2に記載の診断システム。
【請求項5】
前記加振手段の加振及び前記計測手段の計測が、前記所定の締結部材による締結部の近
傍で行われるように前記加振手段及び前記計測手段が配置される、
請求項1又は請求項2に記載の診断システム。
【請求項6】
前記加振手段が、レーザ照射装置である、
請求項1又は請求項2に記載の診断システム。
【請求項7】
前記加振手段が、圧力波発生装置である、
請求項1又は請求項2に記載の診断システム。
【請求項8】
前記計測手段がレーザドップラ式の計測装置である、
請求項1又は請求項2に記載の診断システム。
【請求項9】
前記計測手段が音圧センサである、
請求項1又は請求項2に記載の診断システム。
【請求項10】
診断装置が、
電力を負荷に供給する第1の導体に加振手段によって非接触で振動を加えるステップと、
前記加振手段によって前記第1の導体に与えられた振動の情報と、所定の締結部材によっ
て前記第1の導体と締結された第2の導体に伝達した後の振動の情報とを前記第1の導体
及び前記第2の導体からそれぞれ非接触で計測するステップと、
前記計測された振動の情報から診断情報生成部によって生成される診断情報が前記締結部
材による締結部の異常に関する所定の条件を満たす場合に、診断部が前記締結部に異常が
あると診断する、
診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、診断システム及び診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
受変電設備では機器の保全のため、定期的な保守点検作業や状態監視が行われている。
点検項目の1つとして配電盤、分電盤等の盤間を接続する導体のボルト締結部の緩み確認
がある。これは、このボルト締結部が緩むと導体接続部の接触抵抗が増加し、電気抵抗増
加部に電流が流れることで過熱され焼損等の事故に繋がる恐れがあるためである。
【0003】
従来は、このボルト締結部の点検方法として全締結部を増し締めする方法が採用されて
いた。ここでの増し締めとは、締結しているボルトに対して規定のトルクでの締め直しを
おこなうことで緩みの発生がないかを確認する作業である。
【0004】
また、導体に振動を加えることで、ボルト締結部の緩みを検知する方法も採用されてい
る。これは、検知対象となる導体の正常状態の振動特性を予め取得し、保守点検時の振動
特性と比較することでボルト締結部の緩みを検知できるものである。
【0005】
また、特許文献1には、複数の連続して連結された導体のボルト締結部の緩み診断技術
として、連結された導体の一端をハンマー等で物理的に加振し、もう一端で振動を計測し
、複数の導体の振動特性を比較することでボルト締結部の緩みの状態を診断する手法が提
案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した従来の全締結部を増し締めする方法では、膨大な時間と労力がかかるうえ、作
業員がボルトに接触するため通電時には増し締めすることが出来ないという問題があった
。
【0008】
また、導体に振動を加える方法でも、検査対象となる導体の正常状態の振動特性を予め
取得しておくことが必要となる問題があった。
【0009】
さらに、特許文献1の方法においても、加振する際に接触式の加振装置および振動セン
サを想定しており、導体に高電圧の通電時は地絡の恐れがあって診断が難しいため、通電
時には作業を実施出来ず常時監視に適さないといった問題があった。さらに、検査対象の
導体の締結部の異常を診断するにあたって、他の導体との比較が必要となり、他の導体も
診断する必要があるため作業が煩雑という問題もあった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで、上記課題を解決するために、実施形態の診断システムは、電力を負荷に供給す
る第1の導体に非接触で振動を加える加振手段と、前記加振手段によって前記第1の導体
に与えられた振動と、所定の締結部材によって前記第1の導体と締結された第2の導体に
伝達した後の振動とを、それぞれ非接触で計測する計測手段と、前記計測手段によって計
測された前記第1の導体の振動の情報と前記第2の導体に伝達した後の振動の情報とを取
得し、前記振動の情報から前記締結部材による締結部の異常の有無を診断するための診断
情報を生成する診断情報生成部と、前記診断情報生成部によって生成された診断情報が前
記締結部の異常に関する所定の条件を満たす場合に、前記締結部に異常があると診断する
診断部と、を備える。
【0011】
また、実施形態の診断方法は、診断部が、電力を負荷に供給する第1の導体に加振手段
によって非接触で振動を加えるステップと、前記加振手段によって前記第1の導体に与え
られた振動の情報と、所定の締結部材によって前記第1の導体と締結された第2の導体に
伝達した後の振動の情報とを前記第1の導体及び前記第2の導体からそれぞれ非接触で計
測するステップと、前記計測された振動の情報から診断情報生成部によって生成される診
断情報が前記締結部材による締結部の異常に関する所定の条件を満たす場合に、前記締結
部に異常があると診断する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】第1の実施形態に係る加振装置及び計測装置の配置イメージ図
【
図3】第1の実施形態に係る加振位置及び計測位置の配置詳細図
【
図4】第1の実施形態に係るシステムフローチャート
【
図6】第2の実施形態に係る加振装置及び計測装置の配置イメージ図
【
図7】第3の実施形態に係る加振装置及び計測装置の配置イメージ図
【
図8】第1の実施形態に係る導体11Aの三面図と、加振装置、計測装置の配置の関係を示す図
【発明を実施するための形態】
【0013】
(第1の実施形態)
以下、図面を参照して発明を実施するための第1の実施形態について説明する。
【0014】
本実施形態に係る診断システムの構成を
図1に、本実施形態に係る加振装置及び計測装
置の配置イメージ図を
図2に、本実施形態に係る加振位置及び計測位置の配置詳細図を図
3に、本実施形態に係るシステムフローチャートを
図4に示す。
【0015】
本実施形態に係る診断システムは、
図1に示すように、導体11に振動を加える加振手
段である加振装置12と導体11の振動を計測する計測手段である計測装置13と診断装
置10とを備える。診断装置10は、計測装置13によって計測された振動の情報を取得
する通信部14と、通信部14によって取得された振動の情報から締結部の異常を診断す
るための診断情報を生成する診断情報生成部15と、診断情報生成部15によって生成さ
れた診断情報に基づいて締結部の異常を診断する診断部16と、診断結果を出力する出力
部17とを備えている。
【0016】
図2は、本実施形態における締結部の緩みを検知するための加振装置12及び計測装置
13の配置の一具体例を示すイメージ図である。導体11は、
図2に示すように、導体1
1A~11Eがそれぞれ締結部31A~31Dで締結されて連結して、一連の導体を構成
している。導体11の両端(第1の導体である導体11Aの一端と、第2の導体である導
体11Eの一端)はそれぞれ固定部32A,32Bによって固定されている。計測装置1
3は、
図2に示すように、加振装置12によって振動が加えられる加振位置近傍の導体1
1Aの振動を計測する計測装置13Aと、固定部32B近傍の導体11Eの振動を計測す
る計測装置13Bを構成する。
【0017】
図3は
図2の導体11を加振装置12が設置される方向から見た図(固定部と締結部は
図示しない)であって、本実施形態における加振装置12によって加振される位置である
加振位置a、計測装置13A,13Bによってそれぞれ計測される計測位置b,b′、締
結部31A~31Dにそれぞれ使用される締結部用孔52~55、固定部32A,32B
にそれぞれ使用される固定部用孔51,56の位置関係を示す。
【0018】
導体11A~11Eは、遮断機、断路器、変流器又は変圧器等の機器(いずれも不図示
)によって構成される産業用の電力機器によって供給される電力を、工場設備やビル設備
等の負荷に供給する導体であって、それぞれ締結部31A~31Dで締結されて連結して
いる。導体11A~11Eは、銅又はアルミ等の素材であって、樹脂等の絶縁体で覆われ
ている場合もある。
【0019】
産業用の電力機器は三相三線式交流であることが多いが、三線の導体はいずれも同じ構
成であるため、本実施形態においては三線のうちの一線について
図2を用いて説明する。
なお、電力機器は三相であっても単相であっても、電力を供給する電力線であればどのよ
うな機器であってもよい。
【0020】
図2に示すように、導体11A~11Eは連結して一連の導体を構成しており、各導体
11A~11Eはボルト、ナットである締結部31A~31Dによって締結されている(
図では締結具であるボルト、ナットと締結部とを纏めて締結部31A~31Dとして記載
してある)。導体11Aの一端と導体11Eの一端はそれぞれ固定部32A,32Bで固
定されている。固定部32A,32Bは、例えば、碍子であって導体を安定して保持し、
導体11A,11Eが構造物等と電気的に導通することを防ぐ(絶縁する)ことができる
ため漏電や短絡を防止することができるものである。
【0021】
加振装置12は、第1の導体である導体11Aに非接触で振動を与えることができる加
振装置である。例えば、レーザ照射装置であって、導体11Aにレーザを照射することで
レーザアブレーションによる振動を与えることができる。ここで、レーザアブレーション
とはレーザ照射により対象の表面を溶融、蒸発することであり、それにより瞬間的な加振
力を得ることが可能となる。レーザアブレーションでは装置を数メートル離した位置での
加振が可能であり、加振対象となる設備に接近することが難しい個所でも適用可能である
。
【0022】
なお、レーザアブレーションを用いた手法では加振対象となる導体11Aに対して直接
レーザを照射する必要があるため、加振装置12と導体11A間に障害となる要素がない
よう配置を行うことが原則必要であるが、加振装置12と導体11A間の障害が排除でき
ない場合はミラーを用いて反射することでレーザの照射角度を変更し照射することも可能
である。また、導体11Aが金属露出している状態である場合は、導体の表面でレーザ反
射の可能性があるため、粒度の荒い研磨等による事前の表面処理が必要である。
【0023】
本実施形態の
図2に示す例では導体11Aに振動を加え、加振位置近傍の第1の導体で
ある導体11Aの振動と、導体11A~11E及び締結部31A~31Dを伝達した後の
第2の導体である導体11Eの振動を計測する。このため、計測装置13Aと計測装置1
3Bは締結部31A~31Dを挟む形で配置される。このような配置であると、締結部3
1A~31Dの緩みを纏めて検出することができる。ここで計測される振動とは、例えば
、振幅の絶対値であっても良いし、振動速度や振動加速度であっても良いし、周波数解析
された固有振動数であっても良い。
【0024】
本実施形態では、
図3に示すように、加振装置12によって加振される導体11A上の
加振位置aは、固定部32Aのボルトが挿通される固定部用孔51と締結部31Aのボル
トが挿通される締結部用孔52との間であって、固定部用孔51の近傍に配置する。計測
装置13Aによって導体11Aの振動が計測される計測位置bは、締結部31Aのボルト
が挿通される締結部用孔52と固定部32Aのボルトが挿通される固定部用孔51の間で
あって、加振位置aの近傍に配置する。これは、診断装置10の診断精度を高めるために
、加振装置12によって加えられた振動そのものに近い振動を計測装置13Aで計測する
ためである。
【0025】
計測装置13Bによって導体11Eの振動が計測される計測位置b′は、締結部31D
のボルトが挿通される締結部用孔55と固定部32Bのボルトが挿通される固定部用孔5
6の間であって、固定部用孔56の近傍に配置する。これは、計測装置13Bは、加振装
置12によって加えられ、導体11A~11E、締結部31A~31Dを伝達したあとの
振動を計測するためである。
【0026】
上述した加振装置12、計測装置13A,13B、締結部31A~31D及び固定部3
2A,32Bの配置関係について
図3を用いて詳細について説明する。
【0027】
導体11A~11Eは締結部31A~31Dで連結されて、一連の導体を構成している
。
図3に示すように、固定部と締結部を不図示にすると、導体11Aと導体11Eには連
結した一連の導体を固定するための固定部を設置する固定部用孔51,56が設けられて
いる。さらに、各導体には締結部設置用の締結部用孔52~55が設けられている。
【0028】
加振装置12から照射されるレーザの照射位置である加振位置aは、上述したように固
定部用孔51の近傍であって、導体11Aが直方体であるとすると導体11Aの最も広い
面に設けられる。
【0029】
計測装置13Aによって計測される振動の計測位置である計測位置bは、上述したよう
に加振位置a近傍であって、加振位置aと同様に導体11Aが直方体であるとすると導体
11Aの最も広い面積の位置に設けられる。
【0030】
計測装置13Bによって計測される振動の計測位置である計測位置b′は、上述したよ
うに固定部用孔56近傍であって、計測位置bと同様に導体11Eが直方体であるとする
と導体11Eの最も広い面積を有する面に設けられる。
【0031】
さらに詳述すると、
図8に導体11Aの三面図を示すと、導体11Aはボルト、ナット
である締結部31Aによって強固に固定できるように平板形状に形成されることが多い。
図8に示すような平板の導体11Aであれば、固定部用孔51、締結部用孔52が形成さ
れている面積の広い面に対して加振装置12によって加振するように加振装置12を配置
するのが好ましい。また、計測装置13も平板の最も広い面積の面の振動を計測するよう
に配置するのが好ましい。
【0032】
これは、例えば、導体11Aの断面が正方形でない直方体であるとすると、最も狭い面
積の有する面に加振装置12によって振動を加えても、導体11A自体の振動が顕著に表
れない可能性があるためである。同様に、例えば、締結部31Aがボルト、ナットである
とすると、ボルトの軸方向と同一方向にレーザを照射することが望ましい。ボルトの軸方
向に最も強い振動成分が生じていると、ボルトの緩み検出の効果が高いためである。
【0033】
なお、導体11A全体が平板で構成されているとは限らず、導体11A自体は断面が円
形であっても、端部のみがボルト、ナットによって締結しやすいように圧延によって平面
化されている場合は、その平面化された面積の広い面に対して加振するとともに、広い面
積の面の振動を計測するように加振装置12及び計測装置13を配置することが好ましい
。
【0034】
計測装置13A,13Bは、加振装置12と同様に非接触式でそれぞれ導体11A,1
1Eの振動を計測することができる装置である。計測装置13A,13Bは、例えば、レ
ーザドップラ式の計測装置である。レーザドップラ式とは、計測対象の振動により、計測
対象に照射したレーザの光路長の変化から振動の絶対値を測定する計測手法である。また
、計測装置13A,13Bは渦電流センサ式の計測装置であっても良い。渦電流センサ式
とは、導体の近傍に配置したコイルにより高周波の磁界を発生させ計測対象の金属に渦電
流が発生することで、センサコイルのインピーダンスの変化で距離(振動)の絶対値を測
定する計測手法である。
【0035】
また、計測装置13A,13Bも加振装置12と同様に計測面はそれぞれの導体11A
、11Eにおいて最も広い面積を有する面であることが望ましく、計測方向についても締
結部31A~31Dであるボルトの軸方向と同一方向で計測することが望ましい。
【0036】
また、計測装置13A,13Bは計測した振動を診断装置10へ伝送する機能も併せ持
つ。
【0037】
診断装置10の有する通信部14は、ネットワークを介して、外部の通信装置と通信し
て情報を取得する。例えば、無線LAN(Local Area Network)、有線LAN、Blue
tooth(登録商標)又はLTE(Long Term Evolution)(登録商標)等の通信方式
で通信してもよい。実施形態に係る診断システムにおいては、計測装置13A,13Bと
の通信にて計測した振動の情報を取得する。
【0038】
診断情報生成部15は、計測された振動の情報に基づいて診断情報を生成する。具体的
には、診断情報生成部15は、計測装置13A,13Bからそれぞれ通信部14を経て振
動の情報を取得する。診断情報生成部15は、取得された振動の情報に基づいて診断情報
を生成する。診断情報は、導体締結部31A~31Dのいずれかに異常があるか否かの診
断に用いられる情報である。
【0039】
診断情報生成部15は、例えば、振動加速度と周波数とを対応付けた情報を診断情報と
して生成する。計測装置13Aによって計測された振動の振動加速度と、計測装置13B
によって計測された振動加速度とに基づいて得られる振動の伝達率を、診断情報として生
成する。振動の伝達率の具体例としては、計測装置13Bによって計測された振動加速度
を計測装置13Aによって計測された振動加速度で除算して算出(生成)する加速度比で
ある。
【0040】
診断部16は、上述したように生成した診断情報に基づいて、締結部31A~31Dの
いずれかに異常があるか否かを診断する。具体的には、例えば、導体11A~11Eを締
結している締結部31A~31Dのいずれかが緩むと、導体11A~11E間で振動の伝
達が阻害され、計測装置13Bによって計測された振動は、締結部31A~31Dが正常
に締結されている場合よりも大きく減衰する。この結果、上述した診断情報である振動の
伝達率は締結部31A~31Eが正常に締結されている場合よりも小さくなる。診断部1
6は、このような振動の減衰に伴う振動の伝達率の変化を所定の条件として、締結部31
A~31Dのいずれかの異常を診断する。
【0041】
また、診断部16は、診断結果を出力部17に出力する。診断結果は、締結部31A~
31Dのいずれかに異常があるか否かを示す情報を含む。
【0042】
さらに、診断部16は、診断結果について通信部14を介して外部の通信装置に送信し
てもよい。診断部16は、例えば電子メール、SMS(Short Message Service)又はメ
ッセンジャー等の予め定められた通信手段を用いて診断結果を送信してもよい。この場合
、診断部16は、通信手段及び診断結果の送信先を予め記憶している。
【0043】
出力部17は、診断装置10のユーザに対してデータの出力を行う。出力部17は、例
えば画像や文字を画面に出力する装置を用いて構成されても良い。例えば、出力部17は
、CRT(Cathode Ray Tube)や液晶ディスプレイや有機EL(Electro Luminescence)
ディスプレイ等を用いて構成できる。また、出力部17は、画像や文字をシートに印刷(
印字)する装置を用いて構成されても良い。例えば、インクジェットプリンタやレーザー
プリンタ等を用いて構成できる。
【0044】
また、出力部17は、文字を音声に変換して出力する装置を用いて構成されても良い。
この場合、音声合成装置及び音声出力装置(スピーカー)を用いて構成できる。
【0045】
さらに、出力部17は、LED(Light Emitting Diode)等の発光装置を用いて構成さ
れてもよい。出力部17は、診断装置10に設けられた通信部14を介して他の情報処理
装置のユーザに対し判定結果を送信してもよい。ユーザは、例えば、電気機器の締結部材
の点検を行う点検員であってもよい。
【0046】
制御部20は、診断装置10の各部の動作を制御する。制御部20は、例えばCPU(
Central Processing Unit)等のプロセッサ及びRAM(Random Access Memory)を備え
た装置により実行される。制御部20は、診断プログラムを実行することによって診断情
報生成部15及び診断部16として機能する。
【0047】
次に本実施形態に係る診断方法のシステムフローチャートについて
図4を用いて説明す
る。
【0048】
図4は、本実施形態の締結部31A~31Dの異常診断の処理の流れを示すフローチャ
ートである。導体締結部の診断は、所定のタイミングで行われる。所定のタイミングとは
、導体締結部の定期メンテナンスのタイミングであってもよいし、導体締結部に異常が発
生したタイミングであってもよい。
【0049】
まず、ユーザは、加振装置12から照射されるレーザが、固定部32A近傍の導体11
A上に照射されるように、導体11Aと非接触で加振装置12を配置する(ステップS1
01)。
【0050】
次に、ユーザは、加振装置12から照射されるレーザ照射位置(加振位置)近傍の導体
11Aの振動を計測できるように、導体11Aと非接触で計測装置13Aを配置する。加
えて、ユーザは、固定部32B近傍の導体11Eの振動を計測できるように、導体11E
と非接触で計測装置13Bを配置する(ステップS102)。ここで、加振装置12及び
計測装置13A,13Bは、計測の都度設置するものでなく、常時設置してあってもよい
。これは、その都度設置する場合は、導体が通電状態であると、設置するユーザが感電の
虞があるため、通電状態で計測するためには、常時設置してあったほうが好ましいからで
ある。
【0051】
次に、加振装置12は、導体11Aに非接触で振動を与える(ステップS103)。上
述したように加振装置12は、本実施形態においてはレーザ照射装置である。
【0052】
計測装置13Aは、加振装置12によって導体11Aに与えられた振動を計測し、計測
装置13Bは導体11A~11E及び締結部31A~31Dを伝達した後の導体11Eの
振動を計測する(ステップS104)。
【0053】
診断情報生成部15は、通信部14を介して計測装置13A,13Bからそれぞれの振
動の情報を取得し(ステップS105)、取得された振動の情報に基づいて診断情報を生
成する(ステップS106)。本実施形態における診断情報は、例えば、振動の伝達率で
あって、計測装置13Bによって計測された振動加速度を計測装置13Aによって計測さ
れた振動加速度で除算して算出(生成)される加速度比である。
【0054】
診断部16は、診断情報に基づいて締結部31A~31Dのいずれかに異常があるか否
かを診断する(ステップS107)。例えば、診断情報生成部15で生成された振動伝達
率が70%以下であるとき異常があると診断する。異常があると診断された場合(ステッ
プS107のYES)、診断部16は、締結部31A~31Dのいずれかに異常があるこ
とを示す診断結果を出力部17に出力する(ステップS108)。異常がないと診断され
た場合(ステップS107のNO)、診断部16は、締結部31A~31Dのいずれにも
異常がないこと示す診断結果(正常であること)を出力部17に出力する(ステップS1
09)。
【0055】
ここで、
図5は、診断波形の一具体例を示す図である。診断部16は所定の条件を満た
している場合に締結部31A~31Dのいずれかに異常があると診断するが、
図5は所定
の条件の一例を示している。
図5では、縦軸に振動加速度比を横軸に周波数を表示してお
り、グラフ1が正常締結時であって、グラフ2が締結部緩み時の計測結果である。縦軸に
表示された振動加速度比は分析周波数帯の入出力の割合である指標値であって、指標値は
出力振動加速度を入力振動加速度で除算して算出されるため、指標値は各周波数の振動の
伝達率を表している。縦軸の指標値が小さくなればなるほど入力振動加速度に対する出力
振動加速度の割合が小さくなっている、すなわち振動が減衰していることを意味する。
【0056】
図5におけるグラフ2に示されるように、締結部31A~31Dのいずれかに締め付け
不良又は緩み等の異常がある場合は、いずれかの周波数帯の指標値が大きく減少する等の
特異な挙動を示す。診断部16は、この診断情報である指標値に基づいて締結部31A~
31Dのいずれかの異常の有無を診断する。
図5には正常締結時の状況を示すグラフ1を
記載しているが、これは、例えば、現場施工時に締結部の緩み確認のために計測した結果
であって、検査対象外の導体についての計測結果ではない。また、上述した診断部16で
は、指標値の算出に振動加速度を用いていたが、これは振幅、振動速度を用いても良いし
、指標値は出力振動を入力振動で除算する形式に限られない。
【0057】
なお、本実施形態では4つの締結部31A~31Dが2つの計測装置13A,13Bに
挟まれる構成であったが、この構成に限定されるものではない。例えば、計測装置13A
,13Bとの間に締結部が4つ以上挟まれても良いし、1つであっても良い。
【0058】
また、各締結部を挟む形で計測装置を配置すれば、それぞれの締結部について異常の有
無を診断することも可能となり、異常のある締結部をより特定することが可能となる。
【0059】
さらに、診断装置10は、ネットワークを介して通信可能に接続された複数台の情報処
理装置を用いて実装されてもよい。この場合、診断装置10が備える各機能部は、複数の
情報処理装置に分散して実装されても良い。例えば、診断情報生成部15と診断部16と
はそれぞれ異なる情報処理装置に実装されてもよい。
【0060】
上記各実施形態では、診断情報生成部15及び診断部16はソフトウェア機能部である
ものとしたが、LSI等のハードウェア機能部であってもよい。
【0061】
以上より、本実施形態によれば、以下に示すような効果が得られる。
【0062】
非接触式の加振装置及び計測装置を用いて、導体に振動を加えてその振動の伝達率を算
出する。この結果、検知対象となる導体の正常状態の振動特性を予め取得せずに、また、
他の導体とも比較することなく、導体が通電していても導体締結部の異常を作業性良く診
断することが出来る。
【0063】
(第2の実施形態)
次に第2の実施形態に係る診断システムについて、以下説明する。
【0064】
本実施形態に係る診断システムについて、
図6を参照して説明するが、本実施形態に係
る診断システムは、構成の一部が第1の実施形態と異なるものであるため、第1の実施形
態に係る診断システムと同等の構成については、第1の実施形態と同じ符号を付与してお
り、説明を省略する。
【0065】
本実施形態における診断システムは第1の実施形態と加振装置61の加振方式が異なる
ものである。
【0066】
本実施形態においては加振装置61のレーザ照射による加振方法として、レーザ照射誘
起プラズマによる加振方法を採用する。レーザ照射誘起プラズマとは、加振対象の表面近
傍にレーザの焦点をおきプラズマを発生させることで衝撃波を生じさせて対象を加振する
。この手法も、レーザアブレーションと同様に、加振装置61と導体11A間に障害とな
る要素がないよう配置を行うことが原則必要であるが、加振装置61と導体11A間の障
害が排除できない場合はミラーを用いて反射することでレーザの照射角度を変更し照射す
ることも可能である。
【0067】
以上より、本実施形態によれば、以下に示すような効果が得られる。
【0068】
レーザアブレーションと比較して、対象を直接溶融、蒸発させないため導体にアブレー
ジョン跡を残さない加振が可能である。
【0069】
(第3の実施形態)
次に第3の実施形態に係る診断システムについて、以下説明する。
【0070】
本実施形態に係る診断システムについて、
図7を参照して説明するが、本実施形態に係
る診断システムは、構成の一部が第1の実施形態と異なるものであるため、第1の実施形
態に係る診断システムと同等の構成については、第1の実施形態と同じ符号を付与してお
り、説明を省略する。
【0071】
本実施形態における診断システムは、
図7に示すように第1の実施形態と加振装置71
の加振方式及び計測装置72A,72Bの計測方式が異なるものである。
【0072】
本実施形態においては加振装置71の加振方法としてスピーカ等の圧力波(音圧)を発
生させるような加振装置を採用する。スピーカ等の圧力波発生装置から圧力波を発生させ
、圧力波により導体11Aを加振する。圧力波の減衰は一般的に距離の2乗にて減衰する
ため圧力波発生装置は対象の近傍に配置することが望ましい。若しくは、面音源とするこ
とで圧力波に指向性をもたせ減衰を少なくする。
【0073】
さらに、本実施形態においては、計測装置72A,72Bは、マイク(音圧センサ)で
ある。計測対象の加振により生じた振動から発する音圧をマイク等の音圧センサで計測す
ることで、計測対象の振動値と相関がある音圧の変動から振動値の相対変化を推定するこ
とが可能である。
【0074】
以上より、本実施形態によれば、以下に示すような効果が得られる。
【0075】
第1の実施形態であるレーザアブレーションを用いた手法や第2の実施形態であるレー
ザ照射誘起プラズマを用いた手法と比較して、本実施形態は装置規模を小さくすることが
可能であるため、設備内部へ加振装置を常設することが容易となる。
【0076】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示
したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの新規な実施形態
は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で
、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発
明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲
に含まれる。
【符号の説明】
【0077】
10…診断装置、11,11A,11B,11C,11D,11E…導体、12…加振装
置、13,13A,13B…計測装置、14…通信部、15…診断情報生成部、16…診
断部、17…出力部、20…制御部、31A,31B,31C,31D…締結部、32A
,32B…固定部、51,56…固定部用孔、52,53,54,55…締結部用孔、a
…加振位置、b,b′…計測位置、61…加振装置、71…加振装置、72A,72B…
計測装置