(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025007270
(43)【公開日】2025-01-17
(54)【発明の名称】多孔質焼結体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 35/64 20060101AFI20250109BHJP
C04B 38/00 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
C04B35/64
C04B38/00 304Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023108551
(22)【出願日】2023-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000173522
【氏名又は名称】一般財団法人ファインセラミックスセンター
(74)【代理人】
【識別番号】100094190
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 清路
(74)【代理人】
【氏名又は名称】平岩 康幸
(74)【代理人】
【識別番号】100151127
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 勝雅
(72)【発明者】
【氏名】末廣 智
(72)【発明者】
【氏名】木村 禎一
【テーマコード(参考)】
4G019
【Fターム(参考)】
4G019GA04
(57)【要約】
【課題】焼結用酸化物セラミックス粒子と焼結助剤とを用いて多孔質焼結体を効率よく製造する方法を提供する。
【解決手段】本発明は、数平均粒子径が1.2~25μmであり、且つ、粒度分布の狭い焼結用酸化物セラミックス粒子と、金属フッ化物を含む焼結助剤とを含有する混合粉末をプレス成形に供し、前駆成形体12を作製する工程と、前駆成形体12にレーザーを照射する工程とを備える多孔質焼結体30の製造方法、又は、数平均粒子径が0.1μm以上1.2μm未満の焼結用酸化物セラミックス粒子と、金属フッ化物を含む焼結助剤とを含有する混合粉末をプレス成形に供し、前駆成形体12を作製する工程と、前駆成形体12にレーザーを照射する工程とを備える多孔質焼結体30の製造方法である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
数平均粒子径が1.2~25μmであり、且つ、粒度分布の狭い焼結用酸化物セラミックス粒子と、金属フッ化物を含む焼結助剤とを含有する混合粉末をプレス成形に供し、前駆成形体を作製する工程と、
前記前駆成形体にレーザーを照射する工程とを、順次、備えることを特徴とする、多孔質焼結体の製造方法。
【請求項2】
数平均粒子径が0.1μm以上1.2μm未満の焼結用酸化物セラミックス粒子と、金属フッ化物を含む焼結助剤とを含有する混合粉末をプレス成形に供し、前駆成形体を作製する工程と、
前記前駆成形体にレーザーを照射する工程とを、順次、備えることを特徴とする、多孔質焼結体の製造方法。
【請求項3】
前記レーザーの波長が350~2500nmであり、出力が1~1000W/cm2である請求項1又は2に記載の多孔質焼結体の製造方法。
【請求項4】
前記金属フッ化物が、フッ化カルシウム、フッ化バリウム、フッ化アルミニウム、フッ化スカンジウム、フッ化イットリウム、フッ化ランタン、フッ化亜鉛、フッ化コバルト、フッ化鉛、フッ化ガリウム、フッ化インジウム、フッ化銀、フッ化クロム、フッ化鉄、フッ化ニッケル、フッ化ハフニウム、フッ化銅、フッ化ビスマス、フッ化マンガン、フッ化錫、フッ化アンチモン、フッ化チタン、フッ化ニオブ、フッ化タンタル、フッ化セリウム、フッ化プラセオジム、フッ化ネオジム、フッ化プロメチウム、フッ化サマリウム、フッ化ユウロピウム、フッ化ガドリニウム、フッ化テルビウム、フッ化ジスプロシウム、フッ化ホルミウム、フッ化エルビウム、フッ化ツリウム、フッ化イッテルビウム及びフッ化ルテチウムから選ばれた少なくとも1種である請求項1又は2に記載の多孔質焼結体の製造方法。
【請求項5】
前記前駆成形体を構成する前記焼結用酸化物セラミックス粒子及び前記焼結助剤の含有割合が、両者の合計を100体積%とした場合に、それぞれ、90~97体積%及び3~10体積%である請求項1又は2に記載の多孔質焼結体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザーを用いて酸化物セラミックスからなる多孔質焼結体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックスからなる多孔体は、電子材料、医薬品、食品等の分野における濾過、分離、濃縮等、あるいは、触媒の担体、軽量治具、防音材料等として利用されている。
【0003】
セラミックス多孔体を製造する方法としては、以下の技術が知られている。例えば、特許文献1には、セラミックス粒子の成形体を、所定のガス圧中で焼結させて所望の気孔径分布の焼結体を得ることを特徴とする多孔質セラミックスの製造方法が開示されている。
【0004】
特許文献2には、骨材としてのアルミナ粒子にアルミナゾルをコーティングし、成形した後、還元雰囲気中において1800℃以上で焼成することを特徴とする高アルミナ質多孔焼結体の製造方法が開示されている。
また、特許文献3には、セラミックスの粉末と、アスペクト比が5以上500以下である複数の第1の造孔材と、アスペクト比が1以上3以下である複数の第2の造孔材とを混合する工程と、混合する工程において得られた混合物にバインダを添加して、加熱しながら混練する工程と、混練する工程において得られた成形材料を成形する工程と、成形する工程において得られた成形体から造孔材およびバインダを除去する工程と、除去する工程において得られた脱脂体を焼成する工程とを備える、多孔質セラミックス焼結体の製造方法が開示されている。
【0005】
近年、製造時間が短縮化されることから、レーザーを用いてセラミックス材料を焼結してセラミックス多孔体を製造する方法が検討されてきた。
【0006】
特許文献4には、重装嵩密度が1.0g/cm3以下のセラミックス粉末を成形して、セラミックス物品を得る工程と、セラミックス物品の表面に炭素粉末含有層を形成して積層物を得る工程と、積層物の炭素粉末含有層の表面にレーザーを照射して、多孔質のセラミックス焼結部を形成する工程と、を含む多孔質セラミックス焼結体の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平2-83277号公報
【特許文献2】特開平2-149482号公報
【特許文献3】特開2014-227324号公報
【特許文献4】特開2022-166681号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、酸化物セラミックスからなる多孔質焼結体を効率よく製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下に示される。
1.数平均粒子径が1.2~25μmであり、且つ、粒度分布の狭い焼結用酸化物セラミックス粒子と、金属フッ化物を含む焼結助剤とを含有する混合粉末をプレス成形に供し、前駆成形体を作製する工程と、上記前駆成形体にレーザーを照射する工程とを、順次、備えることを特徴とする、多孔質焼結体の製造方法。
2.数平均粒子径が0.1μm以上1.2μm未満の焼結用酸化物セラミックス粒子と、金属フッ化物を含む焼結助剤とを含有する混合粉末をプレス成形に供し、前駆成形体を作製する工程と、上記前駆成形体にレーザーを照射する工程とを、順次、備えることを特徴とする、多孔質焼結体の製造方法。
3.上記レーザーの波長が350~2500nmであり、出力が1~1000W/cm2である上記項1又は2に記載の多孔質焼結体の製造方法。
4.上記金属フッ化物が、フッ化カルシウム、フッ化バリウム、フッ化アルミニウム、フッ化スカンジウム、フッ化イットリウム、フッ化ランタン、フッ化亜鉛、フッ化コバルト、フッ化鉛、フッ化ガリウム、フッ化インジウム、フッ化銀、フッ化クロム、フッ化鉄、フッ化ニッケル、フッ化ハフニウム、フッ化銅、フッ化ビスマス、フッ化マンガン、フッ化錫、フッ化アンチモン、フッ化チタン、フッ化ニオブ、フッ化タンタル、フッ化セリウム、フッ化プラセオジム、フッ化ネオジム、フッ化プロメチウム、フッ化サマリウム、フッ化ユウロピウム、フッ化ガドリニウム、フッ化テルビウム、フッ化ジスプロシウム、フッ化ホルミウム、フッ化エルビウム、フッ化ツリウム、フッ化イッテルビウム及びフッ化ルテチウムから選ばれた少なくとも1種である上記項1又は2に記載の多孔質焼結体の製造方法。
5.上記前駆成形体を構成する上記焼結用酸化物セラミックス粒子及び上記焼結助剤の含有割合が、両者の合計を100体積%とした場合に、それぞれ、90~97体積%及び3~10体積%である上記項1又は2に記載の多孔質焼結体の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の多孔質焼結体製造方法によれば、焼結用酸化物セラミックス粒子の粒径に応じて、孔径が均一な多孔質焼結体を効率よく製造することができる。このような多孔質焼結体は、電子材料、医薬品、食品等の分野における濾過、分離、濃縮等、あるいは、触媒の担体、軽量治具、防音材料等として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】前駆成形体にレーザーを照射して多孔質焼結体を製造する方法を示す概略説明図であり、(A)はレーザー照射工程の1例であり、(B)はレーザー照射後の成形体であり、(C)は、レーザー非照射部を除去した後の多孔質焼結体である。
【
図2】比較例1で得られた焼結体(Q1)の内部を示す画像である。
【
図4】実施例1の焼結体製造に用いたα-アルミナ単結晶粒子の平均粒子径測定用画像である。
【
図6】実施例1で得られた多孔質焼結体(P1)の内部を示す画像である。
【
図8】実施例2の焼結体製造に用いたα-アルミナ単結晶粒子の平均粒子径測定用画像である。
【
図10】実施例2で得られた多孔質焼結体(P2)の内部を示す画像である。
【
図11】実施例3で得られた多孔質焼結体(P3)の内部を示す画像である。
【
図12】実施例4で得られた多孔質焼結体(P4)の内部を示す画像である。
【
図14】実施例5で得られた多孔質焼結体(P5)の内部を示す画像である。
【
図16】実施例6で得られた多孔質焼結体(P6)の内部を示す画像である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の多孔質焼結体製造方法の第1態様(以下、「第1発明」という)は、数平均粒子径が1.2~25μmであり、且つ、粒度分布の狭い焼結用酸化物セラミックス粒子と、金属フッ化物を含む焼結助剤とを含有する混合粉末をプレス成形に供し、前駆成形体(以下、「前駆成形体(1)」という)を作製する工程と、この前駆成形体(1)にレーザーを照射する工程とを備える。また、本発明の多孔質焼結体製造方法の第2態様(以下、「第2発明」という)は、数平均粒子径が0.1μm以上1.2μm未満の焼結用酸化物セラミックス粒子と、金属フッ化物を含む焼結助剤とを含有する混合粉末をプレス成形に供し、前駆成形体(以下、「前駆成形体(2)」という)を作製する工程と、この前駆成形体(2)にレーザーを照射する工程とを備える。
【0013】
第1発明及び第2発明で用いられる焼結用酸化物セラミックス粒子及び焼結助剤は、以下に示される。
【0014】
焼結用酸化物セラミックス粒子を構成する酸化物は特に限定されず、酸化アルミニウム、ムライト、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化鉄、酸化イットリウム、酸化ジルコニウム、安定化ジルコニア、チタン酸バリウム等が挙げられる。
【0015】
焼結用酸化物セラミックス粒子の形状は特に限定されない。粒子形状は、いずれも中実体の、球状、楕円球状、多面体状等とすることができる。
【0016】
焼結助剤は、通常、固体粉末であり、金属フッ化物を含み、焼結用酸化物セラミックス粒子を構成する焼結用酸化物セラミックスの種類により、従来、公知の焼結助剤(以下、「他の焼結助剤」という)を更に含んでもよいが、通常、1種又は2種以上の金属フッ化物からなる。
【0017】
金属フッ化物としては、フッ化カルシウム、フッ化バリウム、フッ化アルミニウム、フッ化スカンジウム、フッ化イットリウム、フッ化ランタン、フッ化亜鉛、フッ化コバルト、フッ化鉛、フッ化ガリウム、フッ化インジウム、フッ化銀、フッ化クロム、フッ化鉄、フッ化ニッケル、フッ化ハフニウム、フッ化銅、フッ化ビスマス、フッ化マンガン、フッ化錫、フッ化アンチモン、フッ化チタン、フッ化ニオブ、フッ化タンタル、フッ化セリウム、フッ化プラセオジム、フッ化ネオジム、フッ化プロメチウム、フッ化サマリウム、フッ化ユウロピウム、フッ化ガドリニウム、フッ化テルビウム、フッ化ジスプロシウム、フッ化ホルミウム、フッ化エルビウム、フッ化ツリウム、フッ化イッテルビウム、フッ化ルテチウム等が挙げられる。
上記金属フッ化物を、一般式MFn(M:金属原子)で表すと、前駆成形体(1)及び前駆成形体(2)の製造には、焼結用酸化物セラミックス粒子を構成する焼結用酸化物セラミックスの金属原子と異なるMを含むMFnを用いることが好ましい。
【0018】
焼結助剤の形状及びサイズは、特に限定されない。
【0019】
第1発明に係る焼結用酸化物セラミックス粒子は、第2発明に係る焼結用酸化物セラミックス粒子に比べて数平均粒子径が大きいことに加えて、粒度分布が狭いことが必須である。第2発明に係る焼結用酸化物セラミックス粒子の粒度分布は特に限定されない。
ここで、前駆成形体(1)の作製に用いる「粒度分布の狭い焼結用酸化物セラミックス粒子」は、理想的には、粒子径のばらつきが小さい粒子群であり、粒子径を測定可能な装置(電子顕微鏡、粒径測定器等)を用いて、付属の解析ソフト又はマニュアル操作で100個以上の粒子サイズを測定した後、個数あたりの平均粒子径(数平均粒子径)及び標準偏差を算出し、数平均粒子径が1.2~25μmであり、標準偏差が20%以下である粒子群を意味する。
尚、粒度分布が広い焼結用酸化物セラミックス粒子及び焼結助剤を含有する前駆成形体にレーザー照射を行うと、多孔質ではなく緻密質の焼結体が得られる傾向にある。
【0020】
第1発明に係る前駆成形体(1)及び第2発明に係る前駆成形体(2)の製造方法は、特に限定されない。いずれも、焼結用酸化物セラミックス粒子及び焼結助剤を好ましい割合で混合して得られた混合粉末を、従来、公知のプレス成形法に供して製造することができる。各前駆成形体の形状及びサイズは特に限定されない。尚、プレス成形時の荷重は、通常、10MPa以上である。
【0021】
前駆成形体(1)及び前駆成形体(2)の製造に用いる各混合粉末における焼結用酸化物セラミックス粒子及び焼結助剤の割合は、前駆成形体へのレーザー照射により多孔質焼結部が効率よく形成されることから、両者の合計を100体積%とした場合に、それぞれ、好ましくは90~97体積%及び3~10体積%、より好ましくは92~96体積%及び4~8体積%、更に好ましくは93~95体積%及び5~7体積%である。
【0022】
第1発明及び第2発明において、各前駆成形体を作製した後、これらにレーザー照射を行う。
前駆成形体に照射するレーザーの種類は特に限定されず、固体レーザー、気体レーザー、半導体レーザー、ファイバーレーザー等を用いることができる。これらのうち、ファイバーレーザーが好ましい。
【0023】
ファイバーレーザーは、光ファイバー中で希土類元素等をドープしたコア中で誘導放電を起こさせ、レーザーをファイバー中に閉じ込めた状態で伝送するものである。ファイバーレーザーを発振する装置は、固体レーザー等の他のレーザーを発振する装置と連結して、より高い出力を有するレーザー発振装置としてもよい。
【0024】
レーザーの照射条件は、焼結用酸化物セラミックス粒子を構成するセラミックスの種類、焼結助剤の種類、前駆成形体に含まれる焼結用酸化物セラミックス粒子及び焼結助剤の割合等により、適宜、選択される。
【0025】
レーザーの波長は特に限定されず、300~10000nmとすることができるが、好ましくは350~2500nm、より好ましくは500~1500nmである。
レーザーの発振動作は、連続発振及びパルス発振のいずれでもよい。
【0026】
レーザーの出力は、円滑な焼結性の観点から、好ましくは1~1000W/cm2、より好ましくは100~500W/cm2である。
【0027】
本発明において、前駆成形体へのレーザー照射方法は特に限定されない。前駆成形体に対して大面積の焼結部を形成する場合、前駆成形体を固定した状態で、レーザーをスキャンさせながら若しくは光拡散レンズを介して光路を変化させながら照射する方法、又は、前駆成形体を移動させながら、光路を固定したレーザーを照射する方法を適用することができる。
【0028】
前駆成形体にレーザーを照射する場合、その雰囲気は、特に限定されず、大気、窒素、アルゴン、ヘリウム等とすることができる。
【0029】
また、レーザー照射の際には、必要に応じて、前駆成形体の予熱を行ってもよい。予熱方法は、特に限定されず、赤外線ランプ、ハロゲンランプ、抵抗加熱、高周波誘導加熱、マイクロ波加熱等とすることができる。
【0030】
第1発明及び第2発明において、各前駆成形体の構成によっては、前駆成形体へのレーザー照射により、酸化物セラミックス粒子と金属フッ化物(又はその分解生成物)とが反応し、反応生成物が多孔質焼結体の表面に堆積したり、焼結された酸化物セラミックス粒子同士の間(界面)に介在したりすることがある。
【0031】
図1は、第1発明及び第2発明の多孔質焼結体製造方法のレーザー照射工程を示す概略図である。
【0032】
図1(A)は、焼結用酸化物セラミックス粒子と金属フッ化物を含む焼結助剤とを含有する前駆成形体(1)又は前駆成形体(2)からなる前駆成形体12の表面に、レーザー光源14から発振されたレーザーを照射する多孔質焼結体製造装置10の概略図である。例えば、350~2500nmの波長のレーザーを、焼結用酸化物セラミックス及び金属フッ化物に、それぞれ、照射した場合、レーザーのエネルギー吸収率は酸化物セラミックスより金属フッ化物の方が高いので、レーザーを前駆成形体12に照射すると、前駆成形体12のレーザー照射部は瞬時に焼結用酸化物セラミックスが焼結可能な温度に達し、多孔質焼結部16が形成される(
図1(B)参照)。その後、非照射部15を除去することにより多孔質焼結部16が単離されて多孔質焼結体20を得ることができる(
図1(C)参照)。尚、言うまでもないが、
図1(A)において、前駆成形体12の全面にレーザーを照射した場合には、前駆成形体12を多孔質焼結体20に変換することができる。
【0033】
本発明者らは、前駆成形体12の作製に用いる焼結用酸化物セラミックス粒子の数平均粒子径を異なるとした第1発明及び第2発明において、多孔質焼結部16の形成メカニズムが異なるものと推測している。
【0034】
第2発明において、前駆成形体(2)に含まれる焼結用酸化物セラミックス粒子は、数平均粒子径が0.1μm以上1.2μm未満であり、比表面積が大きいため、前駆成形体(2)において焼結助剤と近接(接触を含む)しやすく、前駆成形体(2)にレーザーが照射されると、酸化物セラミックス粒子と金属フッ化物(又はその分解生成物)とが反応し、孔部を形成しながら反応生成物が粒成長し、多孔体が形成するものと考えられる。第2発明においてはパルス発振のレーザーを用いることが好ましい。
【0035】
一方、第1発明では、前駆成形体(1)に含まれる焼結用酸化物セラミックス粒子は、数平均粒子径が大きめであるものの、粒度分布の狭い粒子からなるため、前駆成形体(1)において隣り合う3つ、4つ又は5つの粒子から形成される空隙部の空間体積は、数平均粒子径が小さい焼結用酸化物セラミックス粒子を含む前駆成形体(2)におけるそれより大きく、また、隣り合う空隙部の体積のばらつきが少ない。このような前駆成形体(1)にレーザーが照射されて、焼結可能な温度に達すると、上記空隙部の空間体積が大きく縮小されることなく、空隙を残しつつ、隣り合う焼結用酸化物セラミックス粒子どうしを連結しネック成長しやすくなるものと考えられる。
【0036】
本発明の多孔質焼結体製造方法によると、レーザーが照射された前駆成形体12の表面から深さ方向に孔部形成及び焼結が進行し、前駆成形体12に含まれる焼結用酸化物セラミックスの種類によっては、形成された多孔質部16はレーザー透過性を有し、レーザーの減衰が大きくならない限り、前駆成形体12におけるレーザー照射部の深くまで孔部形成及び焼結を行うことができる。従って、レーザー照射条件を適切に設定することにより、多孔質部16又は多孔質焼結体30を得ることができる(
図1(B)及び(C)参照)。
【実施例0037】
以下、実施例を挙げて、本発明の実施の形態を更に具体的に説明する。但し、本発明は、これらの実施例に何ら制約されるものではない。
【0038】
以下の実験では、波長1070nmのレーザーを発振するファイバーレーザーを用い、ガルバノミラーを介して、α-アルミナ粒子と、フッ化イットリウム粉末(焼結助剤)とからなる円板型成形体(外径:15mm、厚さ:1.8mm)にレーザー照射を行った。
【0039】
比較例1
住友化学社製α-アルミナ単結晶粒子「アドバンストアルミナ」シリーズの「AA-3」(商品名、中心粒径:3.5μm)及び「AA-03」(商品名、中心粒径:0.40μm)を、体積比7:3で混合し、次いで、この混合粉末と、フッ化イットリウム粉末とを、体積比95:5で混合した。その後、この混合原料を荷重10MPaにて1軸加圧成形に供し、円板型成形体(前駆成形体)を得た。
次に、レーザーの出力を1000W/cm2、ビーム径をφ10mmとして、前駆成形体の全面を秒速100mmでスキャンさせながらレーザー照射を行い、焼結体(以下、「焼結体(Q1)」という)を得た。
【0040】
図2及びその拡大画像である
図3は、焼結体(Q1)を破断し、内部を電子顕微鏡により撮影した画像である。これらの画像から、焼結体(Q1)は緻密な組織を有する焼結体であって、多孔体ではないことが分かった。また、
図3において、アルミナ結晶相の中に粒界結晶相が分散していたため、焼結体(Q1)のX線回折測定を行ったところ、X線回折像(図示せず)から、この粒界結晶相がY
3Al
5O
12(以下、「YAG」という)のパターンを含むことが分かった。
【0041】
実施例1
比較例1の混合粉末に代えて、住友化学社製α-アルミナ単結晶粒子「アドバンストアルミナ」シリーズの「AA-1.5」(商品名)を用いた以外は、比較例1と同様の操作、即ち、前駆成形体の作製、及び、レーザー照射を行って、焼結体(以下、「焼結体(P1)」という)を得た。
この製品のカタログにおいて、中心粒径は1.7μmと記載されているが、走査型電子顕微鏡を用いて、2500倍に拡大して撮影された
図4の画像を2値化して(
図5参照)、
図5から粒子径を測定し、数平均粒子径を算出したところ、1.43±0.256μmであった。また、標準偏差は17%であり、粒度分布が狭い原料粒子であることが分かった。
【0042】
図6及びその拡大画像である
図7は、焼結体(P1)を破断し、内部を電子顕微鏡により撮影した画像である。これらの画像から、焼結体(P1)は多くの孔部を有し、多孔質焼結体であることが分かった。
【0043】
実施例2
比較例1の混合粉末に代えて、住友化学社製α-アルミナ単結晶粒子「アドバンストアルミナ」シリーズの「AA-3」(商品名)を用いた以外は、比較例1と同様の操作、即ち、前駆成形体の作製、及び、レーザー照射を行って、焼結体(以下、「焼結体(P2)」という)を得た。
この製品のカタログにおいて、中心粒径は3.5μmと記載されているが、走査型電子顕微鏡を用いて、2500倍に拡大して撮影された
図8の画像を2値化して(
図9参照)、
図9から粒子径を測定し、数平均粒子径を算出したところ、3.12±0.22μmであった。また、標準偏差は7%であり、粒度分布が狭い原料粒子であることが分かった。
【0044】
図10は、焼結体(P2)を破断し、内部を電子顕微鏡により撮影した画像である。この画像から、焼結体(P2)は多くの孔部を有し、多孔質焼結体であることが分かった。
【0045】
実施例3
比較例1の混合粉末に代えて、住友化学社製α-アルミナ単結晶粒子「アドバンストアルミナ」シリーズの「AA-3」(商品名)を用い、この単結晶粒子と、フッ化イットリウム粉末とを、体積比90:10で混合した混合原料を用いた以外は、比較例1と同様の操作、即ち、前駆成形体の作製、及び、レーザー照射を行って、焼結体(以下、「焼結体(P3)」という)を得た。
【0046】
図11は、焼結体(P3)を破断し、内部を電子顕微鏡により撮影した画像である。この画像から、焼結体(P3)は多くの孔部を有し、多孔質焼結体であることが分かった。
【0047】
実施例4
比較例1の混合粉末に代えて、住友化学社製α-アルミナ単結晶粒子「アドバンストアルミナ」シリーズの「AA-18」(商品名、カタログにおける中心粒径:20.3μm)を用いた以外は、比較例1と同様の操作、即ち、前駆成形体の作製、及び、レーザー照射を行って、焼結体(以下、「焼結体(P4)」という)を得た。
【0048】
焼結体(P4)を破断し、内部を電子顕微鏡により撮影したところ、多くの孔部を有し、多孔質焼結体であることが分かった(
図12及び
図13参照)。
【0049】
実施例5
比較例1の混合粉末に代えて、住友化学社製α-アルミナ単結晶粒子「アドバンストアルミナ」シリーズの「AA-03」(商品名)を用いた以外は、比較例1と同様の操作、即ち、前駆成形体の作製、及び、レーザー照射を行って、焼結体(以下、「焼結体(P5)」という)を得た。
この製品のカタログにおいて、中心粒径は0.40μmと記載されているが、走査型電子顕微鏡を用いて、20000倍に拡大して撮影された画像(図示せず)を2値化して(図示せず)、粒子径を測定し、数平均粒子径を算出したところ、0.31±0.13μmであった。また、標準偏差は41%であり、粒度分布が広い原料粒子であることが分かった。
【0050】
焼結体(P5)を破断し、内部を電子顕微鏡により撮影したところ、多くの孔部を有し、多孔質焼結体であることが分かった(
図14及び
図15参照)。
【0051】
実施例6
比較例1の混合粉末に代えて、住友化学社製α-アルミナ単結晶粒子「アドバンストアルミナ」シリーズの「AA-04」(商品名、カタログにおける中心粒径:0.47μm)を用いた以外は、比較例1と同様の操作、即ち、前駆成形体の作製、及び、レーザー照射を行って、焼結体(以下、「焼結体(P6)」という)を得た。
【0052】
焼結体(P6)を破断し、内部を電子顕微鏡により撮影したところ、多くの孔部を有し、多孔質焼結体であることが分かった(
図16及び
図17参照)。
本発明の多孔質焼結体製造方法によれば、特定の数平均粒子径を有する焼結用酸化物セラミックス粒子及び焼結助剤を含む前駆成形体にレーザーを照射することにより、多孔質焼結体を効率よく製造することができる。このような多孔質焼結体は、電子材料、医薬品、食品等の分野における濾過、分離、濃縮等、あるいは、触媒の担体、軽量治具、防音材料等として用いることができる。