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特開2025-75745チタンニオブ複合酸化物粉末、それを用いた電極、及び非水電解質蓄電デバイス
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  • 特開-チタンニオブ複合酸化物粉末、それを用いた電極、及び非水電解質蓄電デバイス 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025075745
(43)【公開日】2025-05-15
(54)【発明の名称】チタンニオブ複合酸化物粉末、それを用いた電極、及び非水電解質蓄電デバイス
(51)【国際特許分類】
   C01G 33/00 20060101AFI20250508BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20250508BHJP
   H01M 4/485 20100101ALI20250508BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20250508BHJP
   H01G 11/46 20130101ALI20250508BHJP
【FI】
C01G33/00 A
H01M10/0562
H01M4/485
H01M4/36 A
H01G11/46
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023187126
(22)【出願日】2023-10-31
(71)【出願人】
【識別番号】000000206
【氏名又は名称】UBE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】弁理士法人とこしえ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川辺 和幸
(72)【発明者】
【氏名】大谷 慎一郎
(72)【発明者】
【氏名】島本 圭
(72)【発明者】
【氏名】藤井 輝昭
【テーマコード(参考)】
4G048
5E078
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
4G048AA03
4G048AB02
4G048AC06
4G048AD03
4G048AE05
5E078AA01
5E078AA02
5E078AB02
5E078BA27
5E078BA44
5E078BA53
5E078DA03
5E078DA06
5E078DA11
5E078FA12
5H029AJ02
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL03
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL08
5H029AL11
5H029AM02
5H029AM03
5H029AM04
5H029AM07
5H029AM12
5H029HJ00
5H029HJ01
5H029HJ02
5H029HJ05
5H029HJ10
5H050AA02
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050FA17
5H050HA00
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA05
5H050HA10
(57)【要約】
【課題】非水電解質蓄電デバイスの電極材料として用いられ、初期容量を維持しながら充放電レート特性に優れ、さらに全固体電池でも充放電レート特性に優れた、チタンニオブ複合酸化物粉末、それを用いた蓄電デバイス用電極、及び非水電解質蓄電デバイスを提供する。
【解決手段】 一般式Ti1-x/2(M yNb2-z7-x(式中のMはAlまたはCuから選ばれる少なくとも1つの元素であり、0≦x<2、0≦y<0.5、0≦z<1)で表されるチタンニオブ複合酸化物粉末であって、蒸留水4.5gに前記チタンニオブ複合酸化物粉末0.5gを投入し、5分間振とうした後にpH測定器にて測定されるpH値が4.2以上7以下であり、かつ、顕微ラマン分光によって得られるスペクトルにおいて次式(I)を満たすことを特徴とするチタンニオブ複合酸化物粉末。
IA/IC≦0.2 (I)
IA:430~460cm-1に現れるピークAの強度
IC:260~280cm-1に現れるピークCの強度
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式Ti1-x/2(M yNb2-z7-x(式中のMはAlまたはCuから選ばれる少なくとも1つの元素であり、0≦x<2、0≦y<0.5、0≦z<1)で表されるチタンニオブ複合酸化物粉末であって、蒸留水4.5gに前記チタンニオブ複合酸化物粉末0.5gを投入し、5分間振とうした後にpH測定器にて測定されるpH値が4.2以上7以下であり、かつ、顕微ラマン分光によって得られるスペクトルにおいて次式(I)を満たす、チタンニオブ複合酸化物粉末。
IA/IC≦0.2 (I)
IA:430~460cm-1に現れるピークAの強度
IC:260~280cm-1に現れるピークCの強度
【請求項2】
一般式Ti2―x(M yNb14+z39(式中のMはAlまたはCuから選ばれる少なくとも1つの元素であり、0≦x<2、0≦y<0.5、0≦z<1)で表されることを特徴とする、請求項1に記載のチタンニオブ複合酸化物粉末。
【請求項3】
前記のチタンニオブ複合酸化物粉末の一次粒子のD50が次式(II)を満たすことを特徴とする、請求項1または2に記載のチタンニオブ複合酸化物粉末。
0.6μm≦D50≦2.0μm (II)
(D50とはレーザー回折散乱法による体積基準粒度分布において一次粒子の粒径の累積体積分布が50%となる点の粒径を示す。)
【請求項4】
前記のチタンニオブ複合酸化物粉末であって、フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)を用いた赤外拡散反射スペクトルにおいて、1430±30cm-1、1500±30cm-1、または2350±30cm-1の領域に炭酸イオンに帰属されるピークを有しないことを特徴とする、請求項1または2に記載のチタンニオブ複合酸化物粉末。
【請求項5】
前記のチタンニオブ複合酸化物粉末であって、タンタル(Ta)、カリウム(K)、鉄(Fe)から選ばれる少なくとも1種の元素を含有し、かつ、その元素含有量が2400ppm以下であることを特徴とする、請求項1または2に記載のチタンニオブ複合酸化物粉末。
【請求項6】
前記チタンニオブ複合酸化物粉末の一次粒子表面に元素M(Mは、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、セリウム(Ce)、モリブデン(Mo)からなる元素群から選ばれるいずれか一つ以上)が局在化して存在することを特徴とする、請求項1または2に記載のチタンニオブ複合酸化物粉末。
【請求項7】
請求項1または2に記載のチタンニオブ複合酸化物粉末を活物質として含むことを特徴とする、非水電解質蓄電デバイス用の電極。
【請求項8】
請求項1または2に記載のチタンニオブ複合酸化物粉末と、無機固体電解質とを含む、非水電解質蓄電デバイス用の負極活物質組成物。
【請求項9】
請求項7に記載の電極を含むことを特徴とする、非水電解質蓄電デバイス。
【請求項10】
正極層、負極層および固体電解質層を備えた全固体二次電池であって、前記負極層が請求項8に記載の負極活物質組成物を含む層である、全固体二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質蓄電デバイスの電極材料等として好適なチタンニオブ複合酸化物粉末、それを用いた電極、及び非水電解質蓄電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車用の蓄電デバイスには、車体空間活用の観点から高い体積エネルギー密度が求められ、特にリチウムイオン電池は、電気自動車や電力貯蔵用の電源として広く使用されている。リチウムイオン電池の電極材料として種々の材料が研究されており、単位格子当たりの理論値として1,680mAh/cmと高い体積エネルギー密度を持つチタン酸ニオブを中心とするチタンニオブ複合酸化物を負極材料として活用する動きが見られている。また、現在市販されているリチウムイオン電池は、可燃性の有機溶媒を含む電解液が使用されているため、短絡時に備えて温度上昇を抑える安全装置の取り付けや短絡防止の構造が必要になる。このような状況下で有機電解液に代えて、無機固体電解質を用いることで、安全性や信頼性の改善に加えて高エネルギー密度化が可能な全固体二次電池が注目されている。
【0003】
特許文献1には、式Li(1-y)NbNb(7+δ)で表されるニオブ複合酸化物を含み、表面の少なくとも一部に炭酸リチウムが配されている電池用活物質であって、pHが7.4以上12.5以下であり、前記pHは、蒸留水50gに前記電池用活物質1gを投入し、1分間振とうし、5分間静置した後にpH測定器にて測定される電池用活物質が開示されている。特許文献1によれば、pHを7.4以上12.5以下とすることにより、固体酸点濃度を大幅に低減させ、活物質と電解液との反応性が抑制されることで初回充放電効率が高まり、また、大電流特性および優れた充放電サイクル性能をもたらす電池用活物質、そのような電池用活物質を含む非水電解質電池、およびそのような非水電解質電池を含む電池パックを提供することができるとされている。
【0004】
特許文献2には、特定のラマンバンドに対応するピーク強度が一定の範囲に入る、ルチル型酸化物を含有する単斜晶型ニオブ-チタン複合酸化物粒子を含むことを特徴とする非水電解質電池用活物質が開示されている。特許文献2によれば、含有されるルチル型酸化物が、充放電初期にリチウムを吸蔵することによって、単斜晶型ニオブ-チタン複合酸化物粒子の電子伝導性の向上に寄与し、結果、入出力特性とサイクル特性に優れる非水電解質電池用活物質、該活物質を用いた非水電解質電池が得られるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014-209443号公報
【特許文献2】国際公開第2015/140936号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の表面の少なくとも一部に炭酸リチウムが配されたpHが7.4以上12.5以下のニオブ複合酸化物について、負極活物質材料として適用した蓄電デバイスは1Cレート相当の充放電サイクル特性のみが検討されており、例えば、10Cレートといった更なる急速レートでの充放電特性に関する検討は一切なされていない。また、全固体二次電池に適用した場合の性能に関する記載は一切見られない。詳細は後述するが、塩基性を示す炭酸リチウムは非水電解液や固体電解質と反応し界面抵抗の要因となる分解物を形成することが分かった。そして、このような分解物の生成により、結果として、非水電解質二次電池の初期容量(電池容量)やレート特性が改善できないという課題があった。
【0007】
特許文献2の活物質では、ハイレートでの放電特性やサイクル特性が検討されているが、電池の初期容量(電池容量)や10Cハイレートでの充電特性の改善に関する知見は全く示されていない。実際、ルチル型酸化物を含有することで、電池の初期容量(電池容量)、10Cハイレートでの充電特性は低下する傾向にあり、加えて、単斜晶型ニオブ-チタン複合酸化物を全固体二次電池に適用した場合の性能に関する記載は一切見られない。
【0008】
以上の点から、特許文献1や特許文献2の負極活物質を電極に使用した非水電解質蓄電デバイスでは、初期容量を維持しつつハイレートでの入出力特性改善、ならびに全固体電池における性能は満足できるものではなく、両性能を両立することはできない。
【0009】
そこで本発明では、非水電解質蓄電デバイスの電極材料として用いられ、液系非水電解質蓄電デバイスにおける初期容量とレート特性、さらに全固体電池におけるレート特性を改善できるチタンニオブ複合酸化物粉末、それを用いた電極、及び非水電解質蓄電デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記の目的を達成すべくチタンニオブ複合酸化物の合成条件などを種々検討した結果、原料に合わせた合成時の焼成温度や解砕後の熱処理温度などを特定の範囲にて実施することで、pH値が4.2以上7以下であり、かつ、顕微ラマン分光によって得られるスペクトルの特定の2本のピークの強度比を0.2以下に制御したチタンニオブ複合酸化物粉末を得ることが出来た。本チタンニオブ複合酸化物粉末を電極材料として適用することにより、非水電解質蓄電デバイスの初期放電容量、及び、充放電レート特性に優れ、さらに全固体電池におけるレート特性を改善できることを見出し、本発明を完成した。このような効果は特許文献1または特許文献2には記載も示唆もされていない。すなわち、本発明は以下の事項に関する。
【0011】
[1]一般式Ti1-x/2(M yNb2-z7-x(式中のMはAlまたはCuから選ばれる少なくとも1つの元素であり、0≦x<2、0≦y<0.5、0≦z<1)で表されるチタンニオブ複合酸化物粉末であって、蒸留水4.5gに前記チタンニオブ複合酸化物粉末0.5gを投入し、5分間振とうした後にpH測定器にて測定されるpH値が4.2以上7以下であり、かつ、顕微ラマン分光によって得られるスペクトルにおいて次式(I)を満たすことを特徴とする、チタンニオブ複合酸化物粉末。
IA/IC≦0.2 (I)
IA:430~460cm-1に現れるピークAの強度
IC:260~280cm-1に現れるピークCの強度
[2]Ti2―x(M yNb14+z39(式中のMはAlまたはCuから選ばれる少なくとも1つの元素であり、0≦x<2、0≦y<0.5、0≦z<1)で表されることを特徴とする、[1]に記載のチタンニオブ複合酸化物粉末。
[3]前記のチタンニオブ複合酸化物粉末の一次粒子のD50が次式(II)を満たすことを特徴とする、[1]または[2]に記載のチタンニオブ複合酸化物粉末。
0.6μm≦D50≦2.0μm (II)
(D50とはレーザー回折散乱法による体積基準粒度分布において一次粒子の粒径の累積体積分布が50%となる点の粒径を示す。)
[4]前記のチタンニオブ複合酸化物粉末であって、フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)を用いた赤外拡散反射スペクトルにおいて、1430±30cm-1、1500±30cm-1、または2350±30cm-1の領域に炭酸イオンに帰属されるピークを有しないことを特徴とする[1]~[3]のいずれか一項に記載のチタンニオブ複合酸化物粉末。
[5]前記のチタンニオブ複合酸化物粉末であって、タンタル(Ta)、カリウム(K)、鉄(Fe)から選ばれる少なくとも1種の元素を含有し、かつ、その元素含有量が2400ppm以下であることを特徴とする[1]~[4]のいずれか一項に記載のチタンニオブ複合酸化物粉末。
[6]前記チタンニオブ複合酸化物粉末の一次粒子表面に元素M(Mは、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、セリウム(Ce)、モリブデン(Mo)からなる元素群から選ばれるいずれか一つ以上)が局在化して存在することを特徴とする、[1]~[5]のいずれか一項に記載のチタンニオブ複合酸化物粉末。
[7][1]~[6]のいずれか一項に記載のチタンニオブ複合酸化物粉末を活物質として含むことを特徴とする、非水電解質蓄電デバイス用の電極。
[8][1]~[6]のいずれか一項に記載のチタンニオブ複合酸化物粉末と、無機固体電解質とを含む、非水電解質蓄電デバイス用の負極活物質組成物。
[9][7]に記載の電極を含むことを特徴とする、非水電解質蓄電デバイス。
[10]正極層、負極層および固体電解質層を備えた全固体二次電池であって、前記負極層が[8]に記載の負極活物質組成物を含む層である、全固体二次電池。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、液系非水電解質蓄電デバイスにおいて、初期容量を維持しながら充放電レート特性に優れ、さらに全固体電池でも充放電レート特性に優れた、チタンニオブ複合酸化物粉末、それを用いた蓄電デバイス用電極、及び非水電解質蓄電デバイスを提供することができる。なお、非水電解質としては、水系の電解質以外であれば何でもよく、特に限定されないが、たとえば、有機電解液などの非水電解液や固体電解質などが挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、比較例2-5のチタンニオブ複合酸化物粉末の赤外拡散反射スペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[本発明のチタンニオブ複合酸化物粉末]
本発明のチタンニオブ複合酸化物粉末は、一般式Ti1-x/2(M yNb2-z7-x(式中のMはAlまたはCuから選ばれる少なくとも1つの元素であり、0≦x<2、0≦y<0.5、0≦z<1)で表されるチタンニオブ複合酸化物粉末である。具体的な化合物の例には、LiイオンやNaイオンを吸蔵・放出することが可能なチタンニオブ複合酸化物であるTiNb、TiNb1439、TiNb1437、TiNb19、等が含まれる。チタンニオブ複合酸化物については、一部に合成原料由来のチタン酸化物相(例えばルチル型TiO、TiOなど)やニオブ酸化物相(例えばNbO、NbO)を一部含んでもよい。チタンニオブ複合酸化物の場合、Nbのモル数とTiのモル数の比(Nb/Ti比)は、1.5~14の範囲が好ましく、さらに好ましいのは、1.8~7.0の範囲が好ましい。この範囲であると、複合酸化物の電子伝導性が向上し、レート特性に優れる。また、一般式中のMはAlまたはCuから選ばれる少なくとも1つの元素であるが、これらの元素で置換されたチタンニオブ複合酸化物は、さらに電子伝導性が向上し、レート特性に優れる。定かではないが、NbやTiと価数の異なる元素で置換することで結晶構造中に電子欠陥が形成され、電子伝導性が向上するものと推察される。本発明のチタンニオブ複合酸化物粉末は、非水電解質蓄電デバイスの電極用途に好適に用いられる。
【0015】
<一般式Ti2―x(M yNb14+z39(式中のMはAlまたはCuから選ばれる少なくとも1つの元素であり、0≦x<2、0≦y<0.5、0≦z<1)で表されるチタンニオブ複合酸化物粉末>
本発明のチタンニオブ複合酸化物粉末は、一般式Ti2―x(M yNb14+z39(式中のMはAlまたはCuから選ばれる少なくとも1つの元素であり、0≦x<2、0≦y<0.5、0≦z<1)で表されるチタンニオブ複合酸化物粉末が好ましい。前記の一般式Ti1-x/2(M yNb2-z7-x(式中のMはAlまたはCuから選ばれる少なくとも1つの元素であり、0≦x<2、0≦y<0.5、0≦z<1)に、一般式Ti2―x(M yNb14+z39(式中のMはAlまたはCuから選ばれる少なくとも1つの元素であり、0≦x<2、0≦y<0.5、0≦z<1)が含まれるためである。このチタンニオブ複合酸化物についても、一部に合成原料由来のチタン酸化物相(例えばルチル型TiO、TiOなど)やニオブ酸化物相(例えばNbO、NbO)を一部含んでもよい。
【0016】
本発明のチタンニオブ複合酸化物粉末は、蒸留水4.5gに前記チタンニオブ複合酸化物粉末0.5gを投入し、5分間振とうした後にpH測定器にて測定されるpH値が4.2以上7以下であることを特徴とする。原料の種類の選択、原料に合わせた合成時の焼成温度や、解砕条件、解砕後の熱処理温度などを特定の範囲にて実施し、チタンニオブ複合酸化物粉末の表面の酸塩基状態を中性~弱酸性に制御することで、非水電解質(非水電解液または固体電解質)との反応を抑制し、界面抵抗の要因となる分解物発生を抑制できる。特に、チタンニオブ複合酸化物粉末の表面に存在する細孔と非水電解質の反応性を定量的に測定するためには、特定のpH測定条件とする必要性を見出した。実際、特許文献1に記載された“1分間振とうし、5分間静置した後にpH測定”の条件では、チタンニオブ複合酸化物粉末の表面に存在する細孔まで測定溶液が浸透していない可能性が高い点を見出した。
【0017】
本発明のチタンニオブ複合酸化物粉末のpH値の上限は7以下であり、好ましくは6.5以下であり、より好ましくは6.2以下である。また、pH値の下限は4.2以上であり、好ましくは4.9以上である。前述した通り、チタンニオブ複合酸化物粉末の表面の酸塩基状態を制御することで、非水電解質(非水電解液または固体電解質)との反応を抑制し、結果、液系非水電解質電池における初期容量とレート特性、さらに全固体電池におけるレート特性を改善できるためである。
【0018】
本発明のチタンニオブ複合酸化物粉末は、顕微ラマン分光によって得られるスペクトルにおいて次式(I)を満たすことを特徴とする。
IA/IC≦0.2 (I)
IA:430~460cm-1に現れるピークAの強度
IC:260~280cm-1に現れるピークCの強度
好ましくは、IA/IC ≦0.1である。430~460cm-1に現れるピークAはルチル型酸化チタンに起因するピークであり、ルチル型酸化チタンの含有率が高いとIA/ ICの値が大きくなる。ルチル型酸化チタンを含有することで、液系非水電解質電池における初期容量とレート特性は低下する傾向があるためである。ルチル型酸化チタンの発生は使用する原料と焼成温度の影響を受けており、原料に合わせた合成時の焼成温度や解砕条件または熱処理温度条件などを特定の組み合わせにて実施することでルチル型酸化チタンの発生含有量の制御が可能となる。一方、260~280cm-1に現れるピークCはチタンニオブ複合酸化物に起因するピークである。顕微ラマン分光の測定方法詳細ついては、後述する実施例にて説明する。
【0019】
本発明のチタンニオブ複合酸化物粉末は、フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)を用いた赤外拡散反射スペクトルにおいて、1430±30cm-1、1500±30cm-1、または2350±30cm-1の領域に炭酸イオンに帰属されるピークを有しないことが好ましい。本発明のチタンニオブ複合酸化物粉末は粒子表面に炭酸リチウムが実質的に存在しないため、前記の炭酸イオンに帰属されるピークを有しない。前述したとおり、塩基性を示す炭酸リチウムを粒子表面に含有することで、非水電解液や固体電解質と反応し界面抵抗の要因となる分解物を形成し、液系非水電解質電池における初期容量、及びレート特性の低下を招く恐れがある。測定方法については、後述する実施例にて説明する。
【0020】
本発明のチタンニオブ複合酸化物粉末は、タンタル(Ta)、カリウム(K)、鉄(Fe)から選ばれる少なくとも1種の元素を含有し、かつ、その元素含有量が、前記チタンニオブ複合酸化物粉末1g当たり、2400ppm以下(チタンニオブ複合酸化物粉末全体100%に対して、2400ppm以下)であることが好ましい。これらの元素は本発明のチタンニオブ複合酸化物粉末を合成する際の原料に不純物として含まれており、特にニオブ源に含まれることが多い。原料の不純物量を制御することで、液系非水電解質電池における初期容量、及びレート特性を改善することができる。初期容量確保の観点から、前記の元素含有量は2400ppm以下であることが好ましく、より好ましくは1700ppm以下であり、さらに好ましくは1500ppm以下である。また、電子伝導性向上によるレート特性の観点から、好ましくは10ppm以上であり、より好ましくは40ppm以上である。元素含有量の測定方法については、誘導結合プラズマ発光分析(ICP-AES)または蛍光X線分析(XRF)またはX線光電子分光法(XPS)などが挙げられるが、詳細は後述する実施例にて説明する。
【0021】
本発明のチタンニオブ複合酸化物粉末は粒子の表面に元素M(アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、セリウム(Ce)、およびモリブデン(Mo)からなる元素群から選ばれるいずれか一つ以上を含む)が存在してもよい。なお、これらの元素は、2種以上含まれていてもよい。元素Mが存在するとは、本発明のチタンニオブ複合酸化物粉末の誘導結合プラズマ発光分析(ICP-AES)または蛍光X線分析(XRF)またはX線光電子分光法(XPS)において、元素Mが検出されることをいう。なお、誘導結合プラズマ発光分析による検出量の下限は、通常、0.001質量%である。
【0022】
また、本発明のチタンニオブ複合酸化物粉末が元素Mを含む場合、粉末を構成するチタンニオブ複合酸化物粒子の内部領域よりも、表面領域の方に元素Mが局在化して多く存在する。すなわち、元素Mは、チタンニオブ複合酸化物粒子の表面に存在し、より具体的には、チタンニオブ複合酸化物粒子の内部領域よりも、表面領域の方に元素Mが局在化して多く存在する。一例として、走査透過型電子顕微鏡を用いた、前記チタンニオブ複合酸化物粒子の断面分析において、エネルギー分散型X線分光法により測定される、前記チタンニオブ酸化物粒子の表面から20nm程度の深さまでのいわゆる表面近傍の領域において元素Mが多く含有されればよく、表面から100nmの深さ位置において、元素Mが検出されないことが好ましい。すなわち、エネルギー分散型X線分光法により測定した場合に、該測定による検出量以下であるとの意味であり、エネルギー分散型X線分光法による測定における検出量の下限は、測定する元素や状態によって値が前後するが、通常、0.5atm%である。この他にも、X線光電子分光法(XPS)やオージェ電子分光法(AES)による表面分析の手法が挙げられる。被覆量としては、液系非水電解質電池における初期容量とレート特性、さらに全固体電池におけるレート特性を改善できる観点から、下限値は0.2質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましく、0.7質量%以上がさらにより好ましく、0.7質量%以上がさらにより好ましい。上限値は2.6質量%以下が好ましく、1.8質量%以下がより好ましく、1.5質量%以下がさらにより好ましく、1.3質量%以下がさらにより好ましい。
【0023】
本発明のチタンニオブ複合酸化物粉末は、前記の元素M以外のさらなる異種元素として、F、B、Mo、W、及びSからなる元素群から選ばれる少なくとも1種の元素を含有してもよい。これらの中で、特にFまたはSがより好ましい。本発明のチタンニオブ複合酸化物粉末は、このような異種元素を、元素Mと共に含有することで、元素M単独含有よりもチタンニオブ複合酸化物粉末の粒子表面の電子伝導性が向上するためだと推測される。
【0024】
<D50>
本発明のチタンニオブ複合酸化物粉末の一次粒子のD50とは体積中位粒径の指標である。レーザー回折・散乱型粒度分布測定によって求めた体積分率で計算した累積体積頻度が、粒径の小さい方から積算して50%になる粒径を意味する。一次粒子のD50は、電極密度向上の観点から、下限値は0.6μm以上が好ましく、0.7μm以上がより好ましく、0.8μm以上がさらに好ましい。上限値は2.0μm以下が好ましく、1.8μm以下がより好ましく、1.6μm以下がさらに好ましい。測定方法については、後述する実施例にて説明する。
【0025】
本発明のチタンニオブ複合酸化物粉末について、一次粒子であっても、一次粒子が凝集した二次粒子であっても良い。チタンニオブ複合酸化物粒子からなる一次粒子が凝集した二次粒子を含む場合、その一部としては、二次粒子を形成しておらず、一次粒子そのものの形態となっていてもよい。
【0026】
本発明のチタンニオブ複合酸化物粉末が二次粒子の場合、二次粒子のD50は、電極密度向上の観点から、下限値は、5μm以上であることが好ましく、7μm以上がより好ましく、9μm以上がさらに好ましい。さらに、二次粒子のD50の上限値は、20μm以下であることが好ましく、18μm以下がより好ましく、14μm以下がさらに好ましい。
【0027】
<比表面積>
本発明のチタンニオブ複合酸化物粉末の比表面積とは、窒素を吸着ガスとして用いて、単位質量あたりの表面積のことである。本発明のチタンニオブ複合酸化物粉末は、比表面積の上限値が10m/g以下であり、8.0m/g以下が好ましく、6.0m/g以下がより好ましく、4.0m/g以下がさらに好ましい。他方、比表面積の下限値は、1.5m/g以上であり、2.0m/g以上が好ましく、2.1m/g以上がより好ましく、2.4m/g以上がさらに好ましく、3.0m/g以上がさらにより好ましい。上記範囲であれば、非水電解質蓄電デバイスの液系非水電解質電池において、初期容量、レート特性、及び、全固体電池において、レート特性に優れた蓄電デバイスを得ることができる。
【0028】
[本発明のチタンニオブ複合酸化物粉末の製造方法]
以下に、本発明のチタンニオブ複合酸化物粉末の製造方法の一例を、原料の調製工程、焼成工程に分けて説明するが、本発明のチタンニオブ複合酸化物粉末の製造方法はこれに限定されない。
【0029】
<原料の調製工程>
まず、出発原料を混合する。出発原料として、TiまたはNbとを含む酸化物や塩化合物に加えて、添加元素を含む場合は、Al、Cuから成る群から選択される少なくとも1つの元素を含む酸化物または塩化合物を用いて、本発明の目的組成となるような量論比で混合する。用いる塩化合物は、水酸化物塩、炭酸塩、硝酸塩のような、比較的低融点で分解して酸化物を生じる塩化合物であることが好ましい。また、一次粒子径を小さくするため、出発原料に平均一次粒径が2μm以下、好ましくは平均一次粒径が0.5μm以下の粉末を用いることが好ましい。
【0030】
原料の混合方法については、特に制限はなく、湿式混合または乾式混合のいずれの方法でも良い。例えば、ヘンシェルミキサー、超音波分散装置、ホモミキサー、乳鉢、ボールミル、遠心式ボールミル、遊星ボールミル、振動ボールミル、アトライター式の高速ボールミル、ビーズミル、ロールミル等を用いることができる。
【0031】
<焼成工程>
次に、上記で得られた混合物を焼成する。焼成は500~1200℃の温度範囲で行うのが好ましく、より好ましくは700~1150℃の範囲、さらに好ましくは900~1150℃の範囲で行う。焼成温度を1150℃以下で行うことで汎用の設備を利用することができる。なお、混合物を短時間で焼成する場合は、焼成前に混合物を構成する混合粉末を、レーザー回折・散乱型粒度分布測定機にて測定される粒度分布曲線におけるD95が5μm以下になるように調製することが好ましい。ここで、D95とは、体積分率で計算した累積体積頻度が、粒径の小さい方から積算して95%になる粒径のことである。
【0032】
前記条件で焼成できる方法であれば、焼成方法は特に限定されるものではない。利用できる焼成方法としては、固定床式焼成炉、ローラーハース式焼成炉、メッシュベルト式焼成炉、流動床式焼成炉、ロータリーキルン式焼成炉が挙げられる。ただし、短時間で効率的な焼成をする場合は、ローラーハース式焼成炉、メッシュベルト式焼成炉、ロータリーキルン式焼成炉が好ましい。
【0033】
<解砕工程>
焼成後のチタンニオブ複合酸化物粉末は、目的の粒子径を得るために解砕処理を行ってもよい。焼成物回収側から回収した焼成物を解砕する方法としては、ハンマーミル、ボールミル、ジェットミル、振動ミル、ビーズミルなどがあり、特にビーズミルが好ましい。ビーズミルを使用した場合の解砕方法としては、湿式解砕の循環式処理、湿式解砕のバッチ式処理または乾式解砕の循環処理、乾式解砕のバッチ式処理のいずれの方法も採用することができるが、解砕を均一に行うことが好ましく、その点においては湿式解砕の循環式処理が好ましい。循環条件は、焼成工程における焼成温度等と考慮して決定すればよいが、たとえば、循環条件を調整することで、チタンニオブ複合酸化物粉末の粒子径を好適に制御することができる。湿式解砕としては、水またはアルコール溶媒中に焼成後のチタン酸リチウム粉末を投入し、スラリー状態で混合させる。アルコール溶媒としてはメタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなど沸点が100℃以下のものが溶媒除去しやすい点で好ましい。また、回収、廃棄のしやすさから、工業的には水溶媒が好ましい。
【0034】
<表面処理工程>
また、上記で得られたチタンニオブ複合酸化物について、表面処理を実施してもよい。本発明のチタンニオブ複合酸化物は、粒子の表面に元素M(Mは、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、セリウム(Ce)、およびモリブデン(Mo)からなる元素群から選ばれるいずれか一つ以上を含む)が存在してもよく、電池の負極材料として適用した場合に緻密な負極層を形成することができるとともに優れた充電レート特性を付与することができる。前記焼成工程にて、前記元素Mを含有する化合物(以下、処理剤と記すことがある)を加えて、本発明のチタンニオブ複合酸化物粉末を製造することもできるが、より好ましくは、次のような表面処理工程などで、本発明のチタンニオブ複合酸化物粉末を製造することができる。特に、次のような表面処理工程を採用することで、適切かつ比較的簡便に、チタンニオブ複合酸化物粒子の表面に、元素Mが存在する状態とすることができる。
【0035】
基材のチタンニオブ複合酸化物粉末と前記元素Mを含有する化合物との混合方法に特に制限はなく、湿式混合または乾式混合のいずれの方法も採用することができるが、基材のチタンニオブ複合酸化物粉末を構成する粒子の表面に前記元素Mを含有する化合物を均一に分散させることが好ましく、その点においては湿式混合が好ましい。
【0036】
元素M(Mは、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、セリウム(Ce)、およびモリブデン(Mo)からなる元素群から選ばれるいずれか一つ以上を含む)を含有する化合物(処理剤)としては、特に限定されないが、例えば、酸化物、リン酸化物、水酸化物、硫酸化合物、硝酸化合物、フッ化物、塩化物、有機化合物、及びアンモニウム塩やリン酸塩などの金属塩化合物が挙げられる。具体的には前記元素MがAlの場合、例えば、酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、フッ化アルミニウム、塩化アルミニウム、酢酸アルミニウム、硫酸アルミニウムアンモニウム、あるいはアルミニウムアルコキシドなどが挙げられ、なかでも、硫酸アルミニウムおよびその水和物が好ましい。前記元素MがMgの場合、例えば、酸化マグネシウム、リン酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、硫酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、フッ化マグネシウム、塩化マグネシウム、酢酸マグネシウム、リン酸マグネシウムアンモニウム、あるいはマグネシウムアルコキシドなどが挙げられ、なかでも、硫酸マグネシウムおよびその水和物が好ましい。前記元素MがCeの場合、例えば、酸化セリウム、水酸化セリウム、フッ化セリウム、硫酸セリウム、硝酸セリウム、炭酸セリウム、酢酸セリウム、しゅう酸セリウム、塩化セリウム、ホウ化セリウム、りん酸セリウムなどが挙げられ、なかでも、硫酸セリウムおよびその水和物が好ましい。前記元素MがMoの場合、例えば、酸化モリブデン、三酸化モリブデン、三酸化モリブデン水和物、ほう化モリブデン、りんモリブデン酸、二けい化モリブデン、塩化モリブデン、硫化モリブデン、けいモリブデン酸水和物、酸化ナトリウムモリブデン、炭化モリブデン、酢酸モリブデン二量体、モリブデン酸リチウム、モリブデン酸ナトリウム、モリブデン酸カリウム、モリブデン酸カルシウム、モリブデン酸マグネシウム、モリブデン酸マンガン、モリブデン酸アンモニウム、などが挙げられ、なかでも、三酸化モリブデン、三酸化モリブデン水和物、塩化モリブデン、硫化モリブデン、モリブデン酸リチウムが好ましい。
【0037】
前記元素Mを含有する化合物の添加量としては、チタンニオブ複合酸化物中の前記元素Mの量が本発明の範囲内に収まれば、どのような量でも良いが、基材のチタンニオブ複合酸化物粉末に対して0.1質量%以上の割合で添加すればよい。また、基材のチタンニオブ複合酸化物粉末に対して12質量%以下の割合で添加することが好ましく、より好ましくは10質量%以下の割合であり、さらに好ましくは8質量%以下の割合である。
【0038】
<熱処理工程>
本発明のチタンニオブ複合酸化物粉末について、合成後に熱処理を行うことが好ましい。熱処理温度としては、基材のチタンニオブ複合酸化物が焼結することによる、粒径成長や比表面積の大幅な減少が発生しない温度が良い。熱処理温度の上限値としては700℃以下が好ましく、より好ましくは650℃以下である。熱処理温度の下限値としては、300℃以上が好ましく、より好ましくは400℃以上である。熱処理時間としては、好ましくは0.1時間~8時間であり、より好ましくは0.5時間~5時間である。また、元素Mを含む化合物を用いて上記の表面処理を実施する場合は、前記元素Mが、基材のチタンニオブ複合酸化物粉末の、少なくとも表面領域に拡散する温度及び時間は、前記金属元素を含有する化合物によって反応性が異なるため、適宜設定するのが良い。また、熱処理における加熱方法は特に限定されるものではない。利用できる熱処理炉としては、固定床式焼成炉、ローラーハース式焼成炉、メッシュベルト式焼成炉、流動床式焼成炉、ロータリーキルン式焼成炉などが挙げられる。熱処理時の雰囲気としては、大気雰囲気でも、窒素雰囲気などの不活性雰囲気のどちらでも良い。特に、表面処理に金属塩化合物を用いた場合は、粒子表面からアニオン種が除去されやすい大気雰囲気が好ましい。
【0039】
以上のようにして得られた熱処理後のチタンニオブ複合酸化物粉末は、軽度の凝集はあるものの、粒子を破壊するような粉砕を行わなくても良く、そのため、熱処理後には、必要に応じて凝集を解す程度の解砕や分級を行えば良い。
【0040】
本発明のチタンニオブ複合酸化物粉末は、表面処理工程で処理剤(元素Mを含有する化合物)と混合した後に造粒して熱処理を行い、一次粒子が凝集した二次粒子を含む粉末にしても良い。造粒は二次粒子ができるのであれば、どのような方法でも良いが、スプレードライヤーが大量に処理できるため好ましい。
【0041】
本発明のチタンニオブ複合酸化物粉末に含まれる水分量を低減させるために、熱処理工程で露点管理を行っても良い。熱処理後の粉末は、粒子を所望の最大粒径の範囲にするために必要に応じて分級を行っても良い。熱処理条件としては、温度と保持時間が特定の範囲にあることで二次粒子形態や表面処理工程に大きく影響する。熱処理温度としては、450℃以上が好ましく、550℃未満が好ましい。熱処理温度が550℃を超えると比表面積が大きく低下し、電池性能、特にレート特性が大幅に低下するためである。
【0042】
[活物質材料]
本発明の活物質材料は、本発明のチタンニオブ複合酸化物粉末を含むものである。本発明のチタンニオブ複合酸化物粉末以外の物質を1種又は2種以上含んでいてもよい。他の物質としては、例えば、炭素材料〔熱分解炭素類、コークス類、グラファイト類(人造黒鉛、天然黒鉛等)、有機高分子化合物燃焼体、炭素繊維〕、スズやスズ化合物、ケイ素やケイ素化合物、リチウムを含む金属酸化物が使用される。特に、リチウムを含む金属酸化物として、LiTi12を主成分とするチタン酸リチウムが挙げられる。
【0043】
[蓄電デバイス]
本発明の蓄電デバイスは、本発明の活物質材料を含む電極を備え、このような電極へのリチウムイオンのインターカレーション、脱インターカレーションを利用してエネルギーを貯蔵、放出するデバイスであって、例えば、ハイブリッドキャパシタやリチウム電池などが挙げられる。
【0044】
[ハイブリッドキャパシタ]
前記ハイブリッドキャパシタとしては、正極に、活性炭など電気二重層キャパシタの電極材料と同様の物理的な吸着によって容量が形成される活物質や、グラファイトなど物理的な吸着とインターカレーション、脱インターカレーションによって容量が形成される活物質や、導電性高分子などレドックスにより容量が形成される活物質を使用し、負極に本発明の活物質材料を使用するデバイスである。本発明の活物質材料は、通常、前記ハイブリッドキャパシタの電極シートの形態にて用いられる。
【0045】
[リチウム電池]
本発明のリチウム電池は、リチウム一次電池及びリチウム二次電池を総称する。また、本明細書において、リチウム二次電池という用語は、いわゆるリチウムイオン二次電池や全固体型リチウムイオン二次電池も含む概念として用いる。
【0046】
前記リチウム電池は、正極、負極及び非水溶媒に電解質塩が溶解されている非水電解液、または固体電解質等により構成されているが、本発明の活物質材料は電極材料として用いることができる。本発明の活物質材料は、通常、前記リチウム電池の電極シートの形態にて用いられる。この活物質材料は、正極活物質及び負極活物質のいずれとして用いてもよいが、以下には負極活物質として用いた場合を説明する。
【0047】
<負極>
負極は、負極集電体の片面または両面に、負極活物質(本発明の活物質材料)、導電剤及び結着剤を含む負極層を有する。この負極層は、通常、電極シートの形態とされる。多孔質体などで空孔を有する負極集電体の場合は、空孔中に負極活物質(本発明の活物質材料)、導電剤、結着剤を含む負極層を有する。
【0048】
前記負極用の導電剤としては、化学変化を起こさない電子伝導材料であれば特に制限はない。例えば、天然黒鉛(鱗片状黒鉛等)、人造黒鉛等のグラファイト類、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チェンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック等のカーボンブラック類、単相カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ(グラファイト層が多層同心円筒状)(非魚骨状)、カップ積層型カーボンナノチューブ(魚骨状(フィッシュボーン))、節型カーボンナノファイバー(非魚骨構造)、プレートレット型カーボンナノファイバー(トランプ状)等のカーボンナノチューブ類等が挙げられる。
【0049】
導電剤の添加量は、活物質の比表面積や導電剤の種類や組合せにより異なるため、最適化を行うべきであるが、負極層中に、好ましくは0.1質量%~10質量%であり、さらに好ましくは0.5質量%~5質量%である。0.1質量%未満では、負極層の導電性が確保できなくなり、10質量%超では、活物質比率が減少し、負極層の単位質量及び単位体積あたりの蓄電デバイスの放電容量が不十分になるため高容量化に適さない。なお、導電剤の添加形式は、電極作成時でもよく、活物質そのものに導電剤を被覆する形でも構わない。炭素繊維などの導電剤で被覆することで、負極層の導電性が更に向上しうるためである。
【0050】
前記負極用の結着剤としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリビニルピロリドン(PVP)、スチレンとブタジエンの共重合体(SBR)、アクリロニトリルとブタジエンの共重合体(NBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)等が挙げられる。
【0051】
前記結着剤の添加量は、活物質の比表面積や導電剤の種類や組合せにより異なるため、最適化を行うべきであるが、結着性を高め負極層の強度を確保する観点から、負極層中に、好ましくは0.2質量%~15質量%である。
【0052】
前記負極集電体としては、例えば、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケル、銅、チタン、焼成炭素、あるいはそれらの表面にカーボン、ニッケル、チタン、銀を被覆させたもの等が挙げられる。また、これらの材料の表面を酸化してもよく、表面処理により負極集電体表面に凹凸を付けてもよい。
【0053】
前記負極の作製方法としては、負極活物質(本発明の活物質材料を含む)、導電剤及び結着剤を溶剤中に均一に混合し塗料化した後、前記負極集電体上に塗布し、乾燥、圧縮することによって得ることができる。
【0054】
負極活物質(本発明の活物質材料)、導電剤及び結着剤を溶剤中に均一に混合し塗料化する方法としては、例えば、プラネタリーミキサーなどの混練容器内で攪拌棒が自転しながら公転するタイプの混練機、二軸押し出し型混練機、遊星式撹拌脱泡装置、ビーズミル、高速旋回型ミキサ、粉体吸引連続溶解分散装置などを用いることができる。また、製造工程として、固形分濃度によって工程を分け、これらの装置を使い分けてもよい。
【0055】
負極活物質(本発明の活物質材料)、導電剤及び結着剤を溶剤中に均一に混合するには、活物質の比表面積、導電剤の種類、結着剤の種類やこれらの組合せにより異なるため、最適化を行うべきであるが、プラネタリーミキサーなどの混練容器内で攪拌棒が自転しながら公転するタイプの混練機、二軸押し出し型混練機、遊星式撹拌脱泡装置などを用いる場合には、製造工程として固形分濃度によって工程を分け、固形分濃度が高い状態で混練した後、徐々に固形分濃度を下げ塗料の粘度を調製するのが好ましい。
【0056】
混合手順としては、特に限定されることはないが、負極活物質と導電剤と結着剤を同時に溶剤中で混合する方法、導電剤と結着剤をあらかじめ溶剤中で混合した後に負極活物質を追加混合する方法、負極活物質スラリーと導電剤スラリーと結着剤溶液をあらかじめ作製し、それぞれを混合する方法などが挙げられる。
【0057】
溶剤としては、有機溶媒を用いることができる。有機溶剤としては、1-メチル-2-ピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミドなど非プロトン性有機溶媒を単独、または2種類以上混合したものが挙げられ、好ましくは1-メチル-2-ピロリドンである。
【0058】
溶剤に有機溶剤を用いる場合には、結着剤をあらかじめ有機溶剤に溶解させて使用するのが好ましい。
【0059】
<正極>
正極は、正極集電体の片面または両面に、正極活物質、導電剤及び結着剤を含む正極層を有する。
【0060】
前記正極活物質としては、リチウムを吸蔵及び放出可能な材料が使用され、例えば、活物質としては、コバルト、マンガン、ニッケルを含有するリチウムとの複合金属酸化物やリチウム含有オリビン型リン酸塩などが挙げられ、これらの正極活物質は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。このような複合金属酸化物としては、例えば、LiCoO、LiMn、LiNiO、LiCo1-xNi(0.01<x<1)、LiCo1/3Ni1/3Mn1/3、LiNi1/2Mn3/2等が挙げられ、これらのリチウム複合酸化物の一部は他元素で置換してもよく、コバルト、マンガン、ニッケルの一部をB、Nb、Sn、Mg、Fe、Ti、Al、Zr、Cr、V、Ga、Zn、Cu、Bi、Mo、La等の少なくとも1種以上の元素で置換したり、Oの一部をSやFで置換したり、あるいは、これらの他元素を含有する化合物を被覆することができる。リチウム含有オリビン型リン酸塩としては、例えば、LiFePO、LiCoPO、LiNiPO、LiMnPO、LiFe1-xMxPO(MはCo、Ni、Mn、Cu、Zn、及びCdから選ばれる少なくとも1種であり、xは、0≦x≦0.5である。)等が挙げられる。
【0061】
前記正極用の導電剤及び結着剤としては、負極と同様のものが挙げられる。前記正極集電体としては、例えば、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケル、チタン、焼成炭素、アルミニウムやステンレス鋼の表面にカーボン、ニッケル、チタン、銀を表面処理させたもの等が挙げられる。これらの材料の表面を酸化してもよく、表面処理により正極集電体表面に凹凸を付けてもよい。
【0062】
<非水電解液>
非水電解液は、非水溶媒中に電解質塩を溶解させたものである。この非水電解液には特に制限は無く、種々のものを用いることができる。
【0063】
前記電解質塩としては、非水電解質に溶解するものが用いられ、例えば、LiPF、LiBF、LiPO、LiN(SOF)、LiClO等の無機リチウム塩、LiN(SOCF、LiN(SO、LiCFSO、LiC(SOCF、LiPF(CF、LiPF(C、LiPF(CF、LiPF(iso-C、LiPF(iso-C)等の鎖状のフッ化アルキル基を含有するリチウム塩や、(CF(SONLi、(CF(SONLi等の環状のフッ化アルキレン鎖を含有するリチウム塩、ビス[オキサレート-O,O’]ホウ酸リチウムやジフルオロ[オキサレート-O,O’]ホウ酸リチウム等のオキサレート錯体をアニオンとするリチウム塩が挙げられる。これらの中でも、特に好ましい電解質塩は、LiPF、LiBF、LiPO、及びLiN(SOF)であり、最も好ましい電解質塩はLiPFである。これらの電解質塩は、1種単独又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0064】
これら全電解質塩が溶解されて使用される濃度は、前記の非水溶媒に対して、通常0.3M以上が好ましく、0.5M以上がより好ましく、0.7M以上が更に好ましい。またその上限は、2.5M以下が好ましく、2.0M以下がより好ましく、1.5M以下が更に好ましい。
【0065】
一方、前記非水溶媒としては、環状カーボネート、鎖状カーボネート、鎖状エステル、エーテル、アミド、リン酸エステル、スルホン、ラクトン、ニトリル、S=O結合含有化合物等が挙げられ、環状カーボネートを含むことが好ましい。なお、「鎖状エステル」なる用語は、鎖状カーボネート及び鎖状カルボン酸エステルを含む概念として用いる。
【0066】
環状カーボネートとしては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、1,2-ブチレンカーボネート、2,3-ブチレンカーボネート、4-フルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン(FEC)、トランスもしくはシス-4,5-ジフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン(以下、両者を総称して「DFEC」という)、ビニレンカーボネート(VC)、ビニルエチレンカーボネート(VEC)、及び4-エチニル-1,3-ジオキソラン-2-オン(EEC)から選ばれる一種又は二種以上が挙げられ、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、1,2-ブチレンカーボネート、2,3-ブチレンカーボネート、4-フルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン及び4-エチニル-1,3-ジオキソラン-2-オン(EEC)から選ばれる一種以上が、蓄電デバイスの充電レート特性の向上や高温動作時のガス発生量を抑制する観点からより好適であり、プロピレンカーボネート、1,2-ブチレンカーボネート及び2,3-ブチレンカーボネートから選ばれるアルキレン鎖を有する環状カーボネートの一種以上が更に好適である。
【0067】
また、特に、全電解質塩の濃度が0.5M~2.0Mであり、前記電解質塩として、少なくともLiPFを含み、更に0.001M~1MのLiBF、LiPO、及びLiN(SOF)から選ばれる少なくとも一種のリチウム塩が含まれる非水電解液を用いることが好ましい。LiPF以外のリチウム塩が非水溶媒中に占める割合が0.001M以上であると、蓄電デバイスの充電レート特性の向上や高温動作時のガス発生量の抑制効果が発揮されやすく、1.0M以下であると蓄電デバイスの充電レート特性の向上や高温動作時のガス発生量の抑制効果が低下する懸念が少ないので好ましい。
【0068】
<リチウム電池の構造>
本発明のリチウム電池の構造は特に限定されるものではなく、正極、負極及び単層又は複層のセパレータを有するコイン電池、さらに、正極、負極及びロール状のセパレータを有する円筒型電池や角型電池等が一例として挙げられる。
【0069】
前記セパレータとしては、大きなイオン透過度を持ち、所定の機械的強度を持った絶縁性の薄膜が用いられる。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、セルロース紙、ガラス繊維紙、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド微多孔膜などが挙げられ、2種以上を組み合わせて構成された多層膜としたものも用いることができる。またこれらのセパレータ表面にPVDF、シリコン樹脂、ゴム系樹脂などの樹脂や、酸化アルミニウム、二酸化珪素、酸化マグネシウムなどの金属酸化物の粒子などをコーティングすることもできる。
【0070】
<負極活物質組成物>
本発明の負極活物質組成物は、本発明のチタンニオブ複合酸化物粉末と、周期律表第1族に属する金属イオンの伝導性を有する無機固体電解質と、を含む負極活物質組成物である。無機固体電解質の含有量は特に限定されないが、前記活物質組成物中に、1質量%以上であればよく、5質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましく、30質量%以上であることがさらに好ましい。無機固体電解質の含有量が多いほどチタンニオブ複合酸化物粉末と固体電解質の接触が得られやすいため好ましい。また無機固体電解質の含有量が多すぎると全固体二次電池の電池容量が小さくなるため、70質量%以下であればよく、60質量%以下であることが好ましい。通常、全固体二次電池の電池容量を大きくするため無機固体電解質の含有量は少ない方が好ましいが、含有量が少ない場合、チタンニオブ複合酸化物粉末と固体電解質の接触が取りづらくなる。本発明の負極活物質組成物に用いられる前記チタンニオブ複合酸化物粉末を用いることで無機固体電解質の含有量は少ない場合においても満足のいくチタンニオブ複合酸化物粉末と固体電解質の接触が得られる。本発明のチタンニオブ複合酸化物粉末及び無機固体電解質以外の物質を1種又は2種以上含んでいてもよい。他の物質としては、例えば、炭素材料〔熱分解炭素類、コークス類、グラファイト類(人造黒鉛、天然黒鉛等)、有機高分子化合物燃焼体、炭素繊維〕、スズやスズ化合物、ケイ素やケイ素化合物、リチウムを含む金属酸化物が使用される。特に、リチウムを含む金属酸化物として、LiTi12を主成分とするチタン酸リチウムが挙げられる。
【0071】
<周期律表>
本明細書の周期律表とは、IUPAC(国際純正応用化学連合)の規定に基づく長周期型の元素の周期律表をいう。
【0072】
<固体電解質>
固体電解質とは、その内部においてイオンを移動させることができる固体状の電解質のことである。特に、無機固体電解質は定常状態では固体であるため、通常カチオンおよびアニオンに解離または遊離していない。無機固体電解質は周期律表第1族に属する金属イオンの伝導性を有するものであれば特に限定されず電子伝導性をほとんど有さないものが一般的である。無機固体電解質は(A)硫化物無機固体電解質と(B)酸化物無機固体電解質と(C)塩化物無機固体電解質が代表例として挙げられる。特に、高いイオン伝導性を有し、室温での加圧のみで、粒界の少ない緻密な成形体が形成できるため、硫化物無機固体電解質が好ましく用いられる。ここで言う周期律表は長周期型の周期律表を指す。
【0073】
硫化物無機固体電解質は非結晶ガラスであっても良く、結晶化ガラスであっても良く、結晶性材料であっても良い。硫化物無機固体電解質として、具体的に以下の組み合わせが好適に挙げられるが特に限定されない。
LiS-P、LiS-P-Al、LiS-GeS、LiS-Ga、LiS-GeS-Ga、LiS-GeS-P、LiS-GeS-Sb、LiS-GeS-Al、LiS-SiS、LiS-Al、LiS-SiS-Al、LiS-SiS-P、Li10GeP12
【0074】
前記組み合わせのなかでも、LiS-Pを組み合わせて製造されるLPSガラスおよびLPSガラスセラミックスが好ましい。また上記以外の硫化物無機固体電解質として、LiPSClやLiPSBrなどのアルジェロダイト型固体電解質も好適に挙げられる。
【0075】
酸化物無機固体電解質は、酸素原子を含有し、かつ、周期律表第1族に属する金属イ
オン伝導性を有し、かつ、電子絶縁性を有するものが好ましい。
【0076】
酸化物無機固体電解質としては、例えば、LISICON(Lithium super ionic conductor)型結晶構造を有するLi3.5Zn0.25GeO、ペロブスカイト型結晶構造を有するLa0.55Li0.35TiO、NASICON(Natrium super ionic conductor)型結晶構造を有するLiTi12、ガーネット型結晶構造を有するLiLaZr12(LLZ)、リン酸リチウム(LiPO)、リン酸リチウムの酸素の一部を窒素で置換したLiPON、LiBO-LiSO、LiO-B-P、LiO-SiO、およびLiBaLaTa12等が好適に挙げられる。
【0077】
塩化物無機固体電解質としては、LiScCl、LiAlCl、Ln1-XOCl1-X(式中、Lnはいずれかの希土類元素を示し、Aは、アルカリ土類金属を示し、Xは、0<X<1)などが好適に挙げられる。
【0078】
無機固体電解質の体積平均粒径は特に限定されないが、0.01μm以上であることが好ましく、0.1μm以上であることがより好ましい。上限としては、100μm以下であることが好ましく、50μm以下であることがより好ましい。
【実施例0079】
次に、実施例及び比較例を挙げてより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、発明の趣旨から容易に類推可能な様々な組み合わせを包含する。
【0080】
(液系リチウムイオン二次電池)
[実施例1-1]
<原料調製工程>
ニオブ原料として斜方晶系のNb(ニオブ原料1g当たりTa+K+Feの合計含有量44ppm)、チタン原料としてアナターゼ型TiO(比表面積10m/g)をそれぞれモル比で1:1となるように秤量し混合した。この混合粉末について1,125℃で5時間焼成処理を施した。得られた焼成粉末試料について、サンプリング間隔0.01°、スキャン速度2°/minの条件にて粉末X線回折測定を実施した。リートベルト法による結晶構造解析結果から、合成した試料が目的とするチタンニオブ複合酸化物(TiNb:Titanium niobium oxide, ICDD(PDF2010)のPDFカード01-077-1374)であることが確認された。得られた焼成粉末試料を実施例1-1に係るチタンニオブ複合酸化物粉末とした。
【0081】
[実施例1-2~実施例1-15]
原料調製工程において表1に示す組成式になるように原料や混合比を変更し、また焼成温度を表1に示す温度とし、解砕処理または熱処理を表1に示すように適宜実施した以外は、実施例1-1と同様に行い、実施例1-2~実施例1-15に係るチタンニオブ複合酸化物粉末を製造した。なお、実施例1-2、1-8,1-9、1-10、1-11はニオブ原料として、Ta+K+Feの合計含有量が高いものを使用した(表1参照)。また、実施例1-3、1-12,1-13、1-14はAl元素置換源としてAlを、また、実施例1-15はCu元素置換源としてCuOを原料調製工程にて適量混合した。なお解砕処理は、焼成処理を施した粉末について、ペイントシェーカー装置にて所定の一次粒子D50が得られるように実施した。また、熱処理は、実施例1-4についてのみ行い、解砕処理の後に行った。
【0082】
[比較例1-1]
ニオブ原料として非晶質のNb(OH)とチタン原料としてアナターゼ型TiOをモル比で1:1となるように秤量し、混合した。この混合粉末を1150℃で5時間焼成処理を施し、比較例1-1に係るチタンニオブ複合酸化物粉末を合成した。
【0083】
[比較例1-2~1-4]
原料調製工程において表1に示す組成式になるように原料や混合比を変更し、また焼成温度を表1に示す温度とし、解砕処理を表1に示すように適宜実施した以外は、比較例1-1と同様に行い、比較例1-2~比較例1-4に係るチタンニオブ複合酸化物粉末を合成した。なお解砕処理は、焼成処理を施した粉末について、ペイントシェーカー装置にて所定の一次粒子D50が得られるように実施した。
【0084】
[原料ならびに合成品の物性測定など]
各実施例、比較例の原料ならびにチタンニオブ複合酸化物粉末の各種物性などを以下のようにして測定した。
【0085】
<pH値の測定>
各実施例、各比較例のチタンニオブ複合酸化物粉末について、蒸留水4.5gに前記チタンニオブ複合酸化物粉末0.5gを投入し、5分間振とうした後にpH測定器(堀場製作所製、ハンディタイプpHメーターD-51、防水プラスチックpH電極9625-10D)にて測定した結果を表1、表2、表3に示す。
【0086】
<顕微ラマン分光測定でのスペクトルピーク強度比の算出>
各実施例、各比較例のチタンニオブ複合酸化物粉末について、レーザーラマン分光装置(日本分光社製、NRS―3300)を使用してレーザ波長532nm、ビーム径4μm、レーザ強度0.8mWの条件にてラマンスペクトルを測定した。430~460cm-1に現れるピークAの強度をIA,260~280cm-1に現れるピークCの強度をICとして、2本のピーク強度比IA/ICを算出した結果を表1、表2、表3に示す。
【0087】
<FT-IRの測定>
各実施例、各比較例のチタンニオブ複合酸化物粉末について、フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR、Agilent社製、Cary670型)を使用して、分解能4cm-1、積算回数32回、の1回反射ATR法で赤外拡散反射スペクトルを測定した。得られたスペクトルから、1430±30cm-1、1500±30cm-1、および2350±30cm-1の領域でのピーク有無を確認した。
【0088】
<蛍光X線分析(XRF):タンタル(Ta)、カリウム(K)、鉄(Fe)の含有量同定>
蛍光X線誘分析装置(エスアイアイ・テクノロジー株式会社製、商品名「SPS5100」)を用いて、各実施例、各比較例のニオブ原料1gならびに合成品のチタンニオブ複合酸化物粉末1gに含まれる(ニオブ原料全体100%ならびにチタンニオブ複合酸化物粉末100%に含まれる)タンタル(Ta)、カリウム(K)、鉄(Fe)の全含有量(合計含有量)を定量分析した。結果を表1に示す。
【0089】
<D50の算出:乾式レーザー回折散乱法>
各実施例、各比較例、各参考例のチタンニオブ複合酸化物粉末の一次粒子のD50は、レーザー回折・散乱型粒度分布測定機(日機装株式会社製、マイクロトラックMT3300EXII)を使用して測定した粒度分布曲線より算出した。50mlのイオン交換水を測定溶媒として収容した容器に50mgの試料を投入し、測定溶媒をスラリーの透過率が適正範囲(装置の緑のバーで表示される範囲)になるまで加えて粒度分布測定を行った。得られた粒度分布曲線から、粉末の一次粒子のD50を算出した。
【0090】
[電池特性の評価]
各実施例、比較例、各参考例のチタンニオブ複合酸化物粉末を用いてコイン型電池を作製し、それらの電池特性を評価した。評価結果を表1に示す。
【0091】
<負極シートの作製:電極密度>
負極シートは、室温25℃、露点-20℃以下に管理された部屋で次のようにして作製した。各実施例、比較例のチタンニオブ複合酸化物粉末を、温度25℃、露点-20℃以下に管理された部屋でアルミラミネート袋から取り出した。取り出した各実施例、比較例のチタンニオブ複合酸化物粉末を活物質として85質量%、アセチレンブラックを導電剤として10質量%、ポリフッ化ビニリデンを結着剤として5質量%の割合で混合して塗料を作製した。得られた塗料をアルミニウム箔上に塗布し乾燥させて、後述のコイン電池に用いる負極片面シートを作製した。上記の要領で塗工した負極片面シートをロールプレス機(ロールφ60×150mm、プレス圧40MPa相当)でプレスした後、活物質層の厚み、面積、重量を測定し、活物質層の密度を“電極密度”とし測定計算した。測定結果を表1に示す。電極密度が高いと、一定体積当たりに、より多くの活物質を詰めることができ、結果、電池として利用できる容量が増えるため好ましい。
【0092】
<電解液の調製>
特性評価用の電池に用いる電解液は、次のように調製した。温度25℃で露点-70℃以下に管理されたアルゴングローブボックス内で、エチレンカーボネート(EC):ジメチルカーボネート(DMC)=1:2(体積比)の非水溶媒を調製し、これに電解質塩としてLiPFを1Mの濃度になるように溶解して後述のコイン電池用電解液を調製した。
【0093】
<コイン電池の作製>
前述の方法で作製した負極片面シートを直径14mmの円形に打ち抜き、2t/cmの圧力でプレス加工した後、120℃で5時間真空乾燥することによって評価電極を作製した。作製した評価電極と金属リチウム(厚み0.5mm、直径16mmの円形に成形したもの)をグラスフィルター(ADVANTEC製GA-100とワットマン製GF/Cを各1枚ずつ)を介して対向させ、前述の<電解液の調製>にて説明した方法で調製した非水電解液を加えて封止することによって、2032型コイン電池を作製した。
【0094】
<電池初期特性:初期容量・体積エネルギー密度>
25℃の恒温槽内にて、上述の<コイン電池の作製>で説明した方法で作製したコイン型電池に、評価電極にLiが吸蔵される方向を充電として、0.2mA/cmの電流密度で1Vまで充電を行い、さらに1Vで充電電流が0.05mA/cmの電流密度になるまで充電させる定電流定電圧充電を行った後、0.2mA/cmの電流密度で3Vまで放電させる定電流放電を行った。得られた放電容量(mAh)をチタンニオブ複合酸化物の質量で割ることで初期容量(mAh/g)を求めた。この初期放電容量に、前記で求めた電極密度をかけて、体積エネルギー密度を求めた。測定結果を表1に示す。体積エネルギー密度が高いと、電池として一定体積あたりに利用できる容量が増えるため、電池の小型化に繋がり好ましい。
【0095】
<10C充電レート、10C放電レートの測定>
初期容量の10Cに相当する電流で1Vまで充電を行い、さらに1Vで充電電流が0.05Cの電流密度になるまで充電させる定電流定電圧充電を行った後、10Cの電流で3Vまで放電させる定電流放電を行った。その10C定電流充電で得られた容量を初期容量で除することで10C充電レート(%)、10C定電流放電で得られた容量を初期容量で除することで10C放電レート(%)をそれぞれ算出した。結果を表1に示す。チタンニオブ複合酸化物の10C充放電レート特性が高いと、蓄電デバイスの電極材料として適用した場合に、蓄電デバイスの充放電レート特性の向上が期待できる。1CのCとは充放電するときの電流値を表す。例えば、1Cは理論容量を1/1時間で完全放電(もしくは完全充電)できる電流値を指し、0.1Cなら理論容量を1/0.1時間で完全放電(もしくは完全充電)できる電流値を指す。
【0096】
【表1】
<評価結果>
実施例1-1~1-15のチタンニオブ複合酸化物粉末を用いた電極は、比較例1-1~1-4のチタンニオブ複合酸化物粉末を用いた電極よりも、初期容量および体積エネルギー密度が高く、また、10C充放電レート特性が優れることが分かった。特に、実施例1-1と実施例1-3との比較、実施例1-7と実施例1-12との比較から、元素MとしてAlまたはCuから選ばれる少なくとも1つの元素で置換されたチタンニオブ複合酸化物は、さらに充放電レート特性に優れることが分かった。また、実施例1-7、実施例1-8、実施例1-9との比較から、チタンニオブ複合酸化物粉末1g中のタンタル(Ta)、カリウム(K)、鉄(Fe)の全含有量が2400ppm以下(チタンニオブ複合酸化物粉末全体100%に対して、2400ppm以下)であると、初期容量を維持しつつ、10C充放電レート特性を改善できる傾向が見られた。
【0097】
[実施例2-1]
実施例1-1で得られた焼成粉末試料について、解砕処理を実施した後に表面処理工程を実施した。具体的には、実施例1-1で得られた焼成粉末試料にペイントシェーカー装置にて解砕処理を行い、一次粒子D50を0.7μmまで制御した。その後に、スラリーの固形分濃度が30質量%となるようにイオン交換水を加え、処理剤としてフッ化アルミニウム(AlF)を解砕した焼成粉末100gに対して0.8質量%加え、混合スラリーを作製した。この混合スラリーを温度60℃で乾燥した後、次いで、マッフル炉を用いて450℃で熱処理することで、実施例2-1に係るチタンニオブ複合酸化物粉末を合成した。
【0098】
<X線光電子分光(XPS)分析の結果>
実施例2-1のチタンニオブ複合酸化物粉末に関して、アルバック・ファイ製QuanteraII走査型X線光電子分光装置を用いて、一次粒子表面近傍に局在化して存在する元素を測定した。試料をサンプリングした後、X線源AlKα(モノクロ, 1486.6eV,50W)、分析領域200μmφ、帯電中和機構利用(電子銃+Arイオン)で測定を実施した。実施例2-1のチタンニオブ複合酸化物粉末の表面では、TiやNbに加えてAl元素が検出された。さらに、加速電圧2kV、エッチングレート3.1nm/min(SiO換算)の条件でArイオンによるスパッタ処理を行い、一次粒子のAl1sデプスプロファイル測定を実施した。Al元素の濃度は粒子表面から粒子内部に向けて濃度が減少し、表面(0nmの深さ位置)のAl元素の濃度を100%とすると、表面から100nmの深さ位置におけるAl元素の濃度は5%未満であった。このことから、表面処理工程を導入することにより、チタンニオブ複合酸化物粒子表面にAl元素が局在化して存在するものであることを確認した。
【0099】
[実施例2-2~実施例2-3]
表2に示すように、焼成粉末試料の解砕処理や表面処理工程において処理剤や被覆量または熱処理温度を変更した以外は、実施例2-1と同様に行い、実施例2-2~実施例2-3に係るチタンニオブ複合酸化物粉末を合成した。なお、実施例2-2~2-3に係る表面処理したチタンニオブ複合酸化物は、実施例2-1と同様にX線光電子分光(XPS)分析を行い、Al元素が一次粒子表面に局在化して存在していることを確認した。
【0100】
[比較例2-1]
表面処理工程において、処理剤として硫酸アルミニウム16水和物(Al(SO・16HO)を解砕した焼成粉末100gに対して1.6質量%加え、混合スラリーを作製した。この混合スラリーを温度60℃で乾燥した後、次いで、マッフル炉を用いて600℃で熱処理した以外は、実施例2-1と同様に行い、比較例2-1に係るチタンニオブ複合酸化物粉末を合成した。
【0101】
[比較例2-2~比較例2-5]
表2に示すように、焼成粉末試料の解砕処理や表面処理工程において処理剤や被覆量または熱処理温度を変更した以外は、比較例2-1と同様に行い、比較例2-2~比較例2-5に係るチタンニオブ複合酸化物粉末を合成した。特に、比較例2-5においては、表面の少なくとも一部に炭酸リチウムが配されているチタンニオブ複合酸化物粉末(特許文献1に示される化合物)を合成するために、表面処理工程の処理剤として炭酸リチウムを適用した。
【0102】
実施例2-1~2-3、ならびに、比較例2-1~2-5チタンニオブ複合酸化物粉末を用いた以外は実施例1-1と同様にコイン型電池を作製し、それらの電池特性を評価した。結果を表2に示す。
【0103】
【表2】
<評価結果>
実施例2-1~2-3のチタンニオブ複合酸化物粉末を用いた電極は、比較例2-1~2-5のチタンニオブ複合酸化物粉末を用いた電極よりも、体積エネルギー密度が高く、また、10C充放電レート特性が優れることが分かった。この結果から、処理剤の種類や被覆量を適切に制御することで、チタンニオブ複合酸化物粉末表面の酸塩基状態を制御し、結果としてpH値を一定の範囲に収める事で優れた電池性能を引き出すことが可能となった。また、比較例2-5の表面の少なくとも一部に炭酸リチウムが配されているチタンニオブ複合酸化物粉末は、塩基性である高いpH値(11.4)を示し、フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)を用いた赤外拡散反射スペクトルにおいて、1430±30cm-1、1500±30cm-1の領域に炭酸イオンに帰属されるピークを有することを確認した。赤外拡散反射スペクトルの測定例を図1に示す。この比較例2-5のチタンニオブ複合酸化物粉末を用いた電極では、電池性能が低下する傾向が見られた。塩基性を示す炭酸リチウムがチタンニオブ複合酸化物粉末表面にあることで、非水電解液と反応し界面抵抗の要因となる分解物を形成した影響が出たものと推測される。
【0104】
(全固体二次電池)
[実施例3-1]
アルゴン雰囲気下のグローブボックス内で、上記実施例1-7のチタンニオブ複合酸化物粉末、硫化物固体電解質であるLiPSCl粉末(レーザー回折・散乱型粒度分布測定機を使用して得られる体積平均粒径:6μm)及び導電剤をチタンニオブ複合酸化物:LiPSCl:導電剤=60:40:6の質量比になるように秤量し、メノウ乳鉢ならびに遊星型ボールミル機で攪拌混合することで、実施例3-1の負極活物質組成物を得た。得られた負極活物質組成物を室温で10分プレス(360MPa)することで直径10mm、厚さ約0.7mmのペレット(成形体)を作製した。この負極活物質組成物を含むペレット状電極、セパレータ層としてペレット状の固体電解質層(LiS:P=75:25のモル比であるLPSガラス)、及び対極としてのリチウムインジウム合金箔をこの順で積層し、積層体をステンレススチール製の集電体で挟むことで全固体二次電池を作製し、電池特性を評価した。評価結果を表3に示す。
【0105】
[実施例3-2]
上記実施例3-1のチタンニオブ複合酸化物に、スラリーの固形分濃度が30質量%となるようにイオン交換水を加え、処理剤としてモリブデン酸リチウム(LiMоO)を、チタンニオブ複合酸化物100gに対して0.8質量%加え、混合スラリーを作製した。この混合スラリーを、ペイントシェーカーで3時間混合処理した後、温度100℃で、乾燥した後、マッフル炉を用いて500℃で、1時間熱処理することで、実施例3-2に係るモリブデン酸リチウムで表面処理したチタンニオブ複合酸化物を合成した。そして、得られたモリブデン酸リチウムで表面処理したチタンニオブ複合酸化物に変更したこと以外は実施例3-1と同様に行い、実施例3-2に係る全固体二次電池を作製し、電池特性を評価した。評価結果を表3に示す。
【0106】
[実施例3-3~実施例3-5]
表3に示すように、焼成粉末試料の解砕処理ならびに表面処理工程において被覆量または熱処理温度を変更した以外は、実施例3-2と同様に行い、実施例3-3~実施例3-5に係るモリブデン酸リチウムで表面処理したチタンニオブ複合酸化物粉末を合成した。そして、得られたモリブデン酸リチウムで表面処理したチタンニオブ複合酸化物に変更したこと以外は実施例3-1と同様に行い、実施例3-3~3-5に係る全固体二次電池を作製し、電池特性を評価した。評価結果を表3に示す。なお、実施例3-4においては、実施例1-12のチタンニオブ複合酸化物粉末を使用して表面処理および熱処理を行った。また、実施例3-5においては、実施例1-1のチタンニオブ複合酸化物粉末を使用して解砕処理、表面処理および熱処理を行った。
【0107】
[比較例3-1]
ニオブ原料として非晶質のNb(OH)とチタン原料としてアナターゼ型TiOをモル比で1:1となるように秤量し、混合した。この混合粉末を1125℃で5時間焼成処理を施し、比較例3-1に係るチタンニオブ複合酸化物粉末を合成した。得られたチタンニオブ複合酸化物粉末の一次粒子径D50は1.1μmであり、実施例3-1のチタンニオブ複合酸化物粉末と同じ一次粒子径であった。このことから、活物質の粒径差による電池性能の差は見られないものと推察される。このチタンニオブ複合酸化物を用いた以外は、実施例3-1と同様にして、比較例3-1の負極活物質組成物を得た後に全固体二次電池を作製し、電池特性を評価した。評価結果を表3に示す。
【0108】
[比較例3-2]
表3に示すように、比較例1-4のチタンニオブ複合酸化物粉末を使用した以外は、実施例3-1と同様に行い、比較例3-2に係る全固体二次電池を作製し、電池特性を評価した。評価結果を表3に示す。
【0109】
<1C充電レート、1C放電レートの測定>
25℃の恒温槽内にて、上述の方法で作製した全固体二次電池に、評価電極にLiが吸蔵される方向を充電として、チタンニオブ複合酸化物の理論容量の0.05Cに相当する電流で0.5Vまで充電を行い、さらに0.5Vで充電電流が0.01Cに相当する電流になるまで充電させる定電流定電圧充電を行い、充電容量(mAh)をチタンニオブ複合酸化物の質量で割ることで、初期充電容量(mAh/g)として求めた。その後、0.05Cに相当する電流で2Vまで放電させる定電流放電を行った。放電容量(mAh)をチタンニオブ複合酸化物の質量で割ることで、初期放電容量(mAh/g)として求めた。次に、チタンニオブ複合酸化物の理論容量の1Cに相当する電流で0.5Vまで充電し、1C充電容量を求めた。その0.4C充電容量を初期充電容量で除することで1C充電レート(%)を算出した。その後、チタンニオブ複合酸化物の理論容量の1Cに相当する電流で2Vまで放電し、1C放電容量を求めた。その1C放電容量を初期放電容量で除することで1C放電レート(%)を算出した。評価結果を表3に示す。
【0110】
【表3】
【0111】
<評価結果>
全固体電池においても本発明のチタンニオブ複合酸化物粉末を用いた電極は、比較例3-1および比較例3-2のチタンニオブ複合酸化物粉末を用いた電極よりも、1C充放電レート特性が優れることが分かった。また、モリブデン酸リチウムで表面処理をし、かつ、Al元素で置換されたチタンニオブ複合酸化物粉末を用いた実施例3-4は、更に1C充放電レート特性が高まることがわかった。なお、実施例3-2~3-5に係る表面処理したチタンニオブ複合酸化物は、実施例2-1と同様にX線光電子分光(XPS)分析を行い、Mo元素が一次粒子表面に局在化して存在していることを確認した。
【0112】
本発明で得られるチタンニオブ複合酸化物粉末は、初期容量を維持しながら、充放電レート特性が改善できるので、リチウムイオン電池の電極活物質として有用である。このチタンニオブ複合酸化物粉末を電極活物質として用いる非水電解質蓄電デバイスは、自動車や電子機器等、各種機器の駆動用またはバックアップ用、家庭や事務所等での夜間電力貯蔵用の二次電池として有用である。非水電解質二次電池に代表されるリチウムイオン電池向け電極材料の社会への提供により、国際連合が制定する持続可能な開発目標(SDGs)の17の目標のうち、目標12(持続可能な生産消費形態を確保する)、目標3(あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する)、目標7(すべての人々の、安価かつ信頼できる持続可能な近代的エネルギーへのアクセスを確保する)、および目標11(包摂的で安全かつ強靭(レジリエント)で持続可能な都市および人間居住を実現する)の達成に貢献することができる。
図1