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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025008250
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】炭素濃度の測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/3563 20140101AFI20250109BHJP
【FI】
G01N21/3563
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023110244
(22)【出願日】2023-07-04
(71)【出願人】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(74)【代理人】
【識別番号】100215142
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 徹
(72)【発明者】
【氏名】生垣 賢
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 温
【テーマコード(参考)】
2G059
【Fターム(参考)】
2G059AA01
2G059CC12
2G059EE01
2G059EE12
2G059HH01
2G059MM01
(57)【要約】      (修正有)
【課題】FT-IR法により、5×1017atoms/cm以上1×1020atoms/cm以下の濃度範囲でエピタキシャル層に炭素を含有するエピタキシャルウェーハを測定する際、SIMS法から求めた炭素濃度から乖離しない炭素濃度評価法を提供することを目的とする。
【解決手段】FT-IR法によるシリコン単結晶中の置換型炭素濃度を測定する方法であって、測定対象のシリコン単結晶に赤外光を照射し得られる吸光度スペクトルから炭素が含まれない参照用のシリコン単結晶に赤外光を照射し得られる吸光度スペクトルを差し引いて得られる差吸光度スペクトルにおいて、置換型炭素の局在振動吸収ピークから得られる差吸光度と前記測定対象の厚さから、差吸収係数を算出し、
[炭素濃度(atoms/cm)]=1.2×1017×[差吸収係数]
の関係式を用いて、前記測定対象のシリコン単結晶の炭素濃度を求める炭素濃度の測定方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
FT-IR法によるシリコン単結晶中の置換型炭素濃度を測定する方法であって、
前記炭素濃度測定の有効範囲は5×1017atoms/cm以上1×1020atoms/cm以下の濃度であり、
測定対象のシリコン単結晶に赤外光を照射し得られる吸光度スペクトルから炭素が含まれない参照用のシリコン単結晶に赤外光を照射し得られる吸光度スペクトルを差し引いて得られる差吸光度スペクトルにおいて、置換型炭素の局在振動吸収ピークから得られる差吸光度と前記測定対象の厚さから、差吸収係数を算出し、
[炭素濃度(atoms/cm)]=1.2×1017×[差吸収係数]
の関係式を用いて、前記測定対象のシリコン単結晶の炭素濃度を求めることを特徴とする炭素濃度の測定方法。
【請求項2】
前記測定対象のシリコン単結晶の炭素濃度は、シリコンエピタキシャルウェーハのエピタキシャル層中の炭素濃度であることを特徴とする請求項1に記載の炭素濃度の測定方法。
【請求項3】
前記差吸収係数は、
[差吸収係数]=[差吸光度]×23.03÷[測定対象の厚さ(mm)]
の関係式を用いて算出することを特徴とする請求項1又は2に記載の炭素濃度の測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素濃度の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコンウェーハに含まれる炭素原子や酸素原子などの不純物は、ウェーハの電気的品質を支配する重要な因子である。近年の半導体デバイスの微細化及び高集積化に伴い、シリコンウェーハ中の炭素がリーク電流を引き起こす原因と考えられているため、一般には極力低減することが望まれている。その一方で、減圧CVD炉を用いた成膜技術の進化により、シリコンウェーハを基板として局所的に高濃度炭素を含有したエピタキシャル層を形成することが可能となり、これまでにない新たな用途も検討され始めている。以上の背景から、シリコンウェーハやエピタキシャルウェーハにおける炭素濃度の評価技術は、極低濃度(1×1015atoms/cm以下)から固溶度を大きく上回るほどの高濃度(5×1017atoms/cm以上)まで幅広く対応することが求められている。
【0003】
シリコンウェーハやエピタキシャルウェーハ中の炭素濃度評価手法としてPL(Photoluminescence)法やSIMS(Secondary ion mass spectrometry)法が知られている。これらの手法は大変精度よく確立されているものの、測定前に電子線照射が必要なことや、測定時間が長いために、大規模な製品出荷検査に適さない。そこで、シリコンウェーハやエピタキシャルウェーハ中の炭素濃度を迅速に測定する方法としてFT-IR(Fourier Transform Infrared Spectroscopy)法による定量が広く採用されている。FT-IR法は、非破壊で基板深さ方向の炭素濃度を迅速に測定することができる点で優れており、実際には、評価試料の吸光度スペクトルと、実質的に炭素が含まれない参照試料(リファレンス試料)を測定した吸光度スペクトルとの差吸光度スペクトルから置換型炭素(Cs)の局在振動吸収ピークを求め、その差吸収係数から炭素濃度に換算する方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-012772号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】JEITA EM-3503
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、様々な濃度範囲の炭素を含有したシリコンウェーハやエピタキシャルウェーハを簡便なFT-IR法で評価することが求められてきた。例えば、特許文献1では、FT-IR法において、極めて低い炭素濃度(5×1015atoms/cm以下)を定量する手法が開示されている。非特許文献1では、差吸光度スペクトルから605cm-1における炭素の差吸収係数を決定し、
[シリコンウェーハの炭素濃度(atoms/cm)]=8.2×1016×[差吸収係数] …(1)
の関係式を用いて炭素濃度を見積もる手法が記載されている。
【0007】
しかしながら、この関係式が適応されるシリコンウェーハの炭素濃度は非特許文献1の本文中に記載がある通り2×1015~3×1017atoms/cmの範囲であり、エピタキシャル層において固溶度を大きく上回る濃度で炭素を含有するエピタキシャルウェーハを測定した場合には、SIMS法等から求まる実際の炭素濃度から乖離してしまう。
【0008】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、FT-IR法により、5×1017atoms/cm以上1×1020atoms/cm以下の高い濃度範囲で炭素を含有するシリコン単結晶を測定する際、SIMS法から求めた炭素濃度から乖離しない炭素濃度測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記目的を達成するためになされたものであり、FT-IR法によるシリコン単結晶中の置換型炭素濃度を測定する方法であって、前記炭素濃度測定の有効範囲は5×1017atoms/cm以上1×1020atoms/cm以下の濃度であり、測定対象のシリコン単結晶に赤外光を照射し得られる吸光度スペクトルから炭素が含まれない参照用のシリコン単結晶に赤外光を照射し得られる吸光度スペクトルを差し引いて得られる差吸光度スペクトルにおいて、置換型炭素の局在振動吸収ピークから得られる差吸光度と前記測定対象の厚さから、差吸収係数を算出し、
[炭素濃度(atoms/cm)]=1.2×1017×[差吸収係数] …(2)
の関係式を用いて、前記測定対象のシリコン単結晶の炭素濃度を求めることを特徴とする炭素濃度の測定方法を提供する。
【0010】
このような炭素濃度の測定方法を用いることで、局所的に高濃度炭素を含有するシリコン単結晶を測定する際、FT-IR法から求まる炭素濃度が、高精度なSIMS法から求まる炭素濃度と大きく乖離することなくより正確に測定することができる。
【0011】
このとき、前記測定対象のシリコン単結晶の炭素濃度は、シリコンエピタキシャルウェーハのエピタキシャル層中の炭素濃度とすることができる。
【0012】
これにより、シリコンエピタキシャルウェーハのエピタキシャル層において局所的に高濃度炭素を含有する試料を測定する際、FT-IR法から求まる炭素濃度が、高精度なSIMS法から求まる炭素濃度と大きく乖離することなくより正確に測定することができる。
【0013】
このとき、前記差吸収係数は、
[差吸収係数]=[差吸光度]×23.03÷[測定対象の厚さ(mm)] …(3)
の関係式を用いて算出することができる。
【0014】
これにより、前記シリコン単結晶又は前記エピタキシャル層において、FT-IR法から求まる炭素濃度が、高精度なSIMS法から求まる炭素濃度と大きく乖離することなくより正確に測定することができる。
【発明の効果】
【0015】
以上のように、本発明の炭素濃度の測定方法であれば、5×1017atoms/cm以上1×1020atoms/cm以下の高い濃度範囲で炭素を含有するシリコン単結晶、特にエピタキシャルウェーハに対しても、FT-IR法によってSIMS法並みの精度で簡便かつ迅速に非破壊で炭素濃度を測定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の炭素濃度測定フローを示す。
図2】ベースラインの引き方を示す差吸光度スペクトルの例を示す。
図3】実験例における、エピタキシャル層中の炭素濃度を振ったエピタキシャルウェーハの差吸光度スペクトル(ベースライン補正後)を示す。
図4】実験例における差吸光度スペクトルから読み取った差吸光度とSIMS法で測定した炭素濃度との関係を示す。
図5】実験例における、FT-IR法から示されたエピタキシャル層の差吸収係数とSIMS法で測定されたエピタキシャル層の炭素濃度との関係を示す。
図6】実施例1~5で示したエピタキシャルウェーハの炭素濃度を本発明の炭素濃度測定方法で測定した結果を示す。
図7】比較例1~5で示したエピタキシャルウェーハに対して本発明の炭素濃度測定方法と既存の炭素濃度測定方法とを適用した場合における炭素濃度の差を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0018】
上述のように、5×1017atoms/cm以上1×1020atoms/cm以下の高い濃度範囲で炭素を含有するシリコン単結晶、特にエピタキシャルウェーハに対しても、FT-IR法によってSIMS法並みの精度で炭素濃度を測定することが求められていた。
【0019】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討を重ねた結果、FT-IR法によるシリコン単結晶中の置換型炭素濃度を測定する方法であって、前記測定の有効範囲は5×1017atoms/cm以上1×1020atoms/cm以下の濃度であり、測定対象のシリコン単結晶の吸光度スペクトルから炭素が含まれない参照用のシリコン単結晶の吸光度スペクトルを差し引いて得られる差吸光度スペクトルから差吸収係数を導出し、関係式(2)を用いて炭素濃度を求めることにより、前記濃度範囲で炭素を含有するシリコン単結晶に対しても、FT-IR法によってSIMS法並みの精度で炭素濃度を測定することができることを見出し、本発明を完成した。
【0020】
本発明者らはまた、本発明の炭素濃度の測定方法は、シリコンエピタキシャルウェーハのエピタキシャル層中の炭素濃度の測定に適用することが好ましいことを見出した。
【0021】
本発明において使用するリファレンス試料やベースライン補正の方法は特に限定されないが、例えばリファレンス試料は、測定精度の観点から評価試料と同じシリコンウェーハを基板として、本質的に炭素を含有しないエピタキシャル層を評価試料と同じ膜厚で形成したエピタキシャルウェーハとすることができる。また、ベースライン補正については、非特許文献1に倣い640cm-1と560cm-1が両端となるように引く事ができる。
このようなものであれば、測定者による誤差を防ぐことができ、より精度の高い炭素濃度評価法となる。
【0022】
[炭素濃度測定方法]
以下、本発明の炭素濃度の測定方法について図1を参照しながら説明する。本発明の炭素濃度の測定は、図1に示す工程に沿って実施される。
【0023】
(工程1)
まず、評価試料であるエピタキシャルウェーハと、リファレンス試料として用いるエピタキシャルウェーハを準備する。これらのシリコン基板として、同じ厚さ・抵抗率を有し、表面研磨されたものを準備する。例えば、炭素濃度を測定する場合、厚さ2.0mmで、導電型がp型であれば抵抗率が3Ω・cm以上、n型であれば1Ω・cm以上のシリコン基板を準備してよい。また、シリコン基板上に成膜するエピタキシャル層として、同じ膜厚・抵抗率を有し、炭素濃度のみが異なるように準備すると良い。評価試料のエピタキシャル層には5×1017atoms/cm以上1×1020atoms/cm以下の濃度範囲で炭素が含有されており、リファレンス試料のエピタキシャル層には実質的には炭素を含まないものを準備する。
【0024】
このとき、前記シリコン及び炭素を含有する混合ガス雰囲気のシリコンソースとして、SiH、SiHCl、SiHClのうち少なくとも一つを用いることができる。また、前記シリコン及び炭素を含有する混合ガス雰囲気のカーボンソースとして、SiH(CH)、SiH(CH、SiH(CH、CH、C、Cのうち少なくとも一つを用いることができる。
【0025】
(工程2)
評価試料及びリファレンス試料をそれぞれFT-IR装置の光路に配置し、赤外光を照射することで吸光度スペクトルを得る。このとき、FT-IR装置における試料室のガス雰囲気や積算回数は特に制限されないが、真空ポンプの利用によって大気の影響を除去したり、例えば積算回数を40000回にしたりすることで高精度な吸光度スペクトルが得られる。そして、評価試料の吸光度スペクトルから、リファレンス試料の吸光度スペクトルを減算することで差吸光度スペクトルが得られる。図2に示すように、640cm-1と560cm-1が両端となるように引いた直線をベースラインとすることで、605cm-1付近に確認されるCsの局在振動吸収ピークとベースラインとの距離を読み取り、これを差吸光度とする。
【0026】
(工程3)
工程2から得られた差吸光度とエピタキシャル層の膜厚を以下のような非特許文献1の関係式(3)に代入し、差吸収係数を算出する。
[差吸収係数]=[差吸光度]×23.03÷[測定対象の厚さ(mm)] …(3)
【0027】
前記差吸収係数を、下記の関係式(2)に適用することで、エピタキシャルウェーハのエピタキシャル層に含まれる炭素濃度を見積もる。
[炭素濃度(atoms/cm)]=1.2×1017×[差吸収係数] …(2)
【0028】
このような本発明の炭素濃度測定法によって、固溶度を大きく上回る炭素濃度でエピタキシャル層に炭素を含有するエピタキシャルウェーハの炭素濃度をFT-IR法で見積もることができる。
【0029】
[炭素濃度算出式の導出]
次に、工程3記載の関係式(2)を導いた過程を実験例に沿って説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0030】
実験の一つとして、5×1017atoms/cm以上1×1020atoms/cm以下の濃度範囲でエピタキシャル層に炭素を含有するエピタキシャルウェーハを準備した。
即ち、シリコン基板上に減圧CVD装置を利用してシリコンエピタキシャル膜(炭素濃度:5.0×1017、2.0×1018、7.0×1018、2.0×1019、1.0×1020atoms/cm狙い、膜厚:1又は5.5μm)を形成し、これを評価試料とした。なお、シリコンエピタキシャル膜の炭素濃度と厚さの調整は、減圧CVD炉における原料ガスの供給量や処理時間を変えることにより行った。
【0031】
リファレンス試料として、上記炭素を含有するエピタキシャルウェーハの成膜に使用したシリコン基板と同じ水準のシリコン基板に対して、炭素を含む原料ガスを供給せずに成膜することでシリコンエピタキシャル膜を形成した。
【0032】
前記評価試料に対して、室温におけるFT-IR測定を実施することで吸光度スペクトルを取得した。同様の装置で、前記リファレンス試料に対しても吸光度スペクトルを取得し、前記評価試料の吸光度スペクトルから前記リファレンス試料の吸光度スペクトルを減算することで差吸光度スペクトルを得た。
【0033】
前記評価試料と前記リファレンス試料から計算された前記差吸光度スペクトルにおいて、図2に示すように640cm-1と560cm-1が両端となるように引いた直線をベースラインとし、605cm-1付近に確認されるCsの局在振動吸収ピークと前記ベースラインとの距離を読み取って差吸光度を求めた。前記各差吸光度スペクトルを図3に、読み取った前記差吸光度と前記評価試料をSIMS法で測定した炭素濃度との関係を図4に示す。図3に示すように、炭素濃度が高くなるほどCsの局在振動吸収ピークとベースラインとの距離が大きくなっている。また図4に示すように、評価試料のエピタキシャル層における炭素濃度が高くなるほど差吸光度が大きくなっていることがわかる。なお図4において、炭素濃度が1×1020atoms/cmの試料で線形性が崩れているように見える理由は、膜厚の差(該試料の膜厚は1μm狙い、他の4評価試料の膜厚は5.5μm狙い)によるものである。
【0034】
前記差吸光度を非特許文献1の関係式(3)に代入し、差吸収係数を算出した。この際、エピタキシャル層の膜厚は別で測定したSIMS測定のプロファイルから判断した値を利用した。
【0035】
前記各評価試料について、SIMS法で測定した前記炭素濃度と、FT-IR法から導出した前記差吸収係数との関係を調査した結果を図5に示す。図5に示すとおり、両者は比例関係にあることが判明し、y=axをフィッティング関数として、SIMS法による炭素濃度からの誤差が最小になるよう比例定数aを求めた。その結果、本発明における炭素濃度算出のための関係式(2)を導出した。なお、図5中の関係式の「α」は[差吸収係数]を示す。
【実施例0036】
以下、本発明の実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0037】
(実施例1)
前記工程1において、減圧CVD装置により、シリコン単結晶上へ炭素のソースガスとしてモノメチルシランを用いたエピタキシャル膜(炭素原子濃度:5.0×1017atoms/cm狙い、膜厚:5.5μm狙い)を形成し、これを評価試料とした。リファレンス試料として、前記評価試料と同じ水準のシリコン単結晶の基板上に実質的に炭素を含まないエピタキシャル膜を5.5μm形成し、これをリファレンス試料とした。
【0038】
前記工程2では、FT-IR装置を用いて前記評価試料と前記リファレンス試料の吸光度スペクトルを測定し、前記評価試料の吸光度スペクトルから前記リファレンス試料の吸光度スペクトルを減算することで差吸光度スペクトルを得た。前記差吸光度スペクトルにおいて、640cm-1と560cm-1が両端となるように引いた直線をベースラインとし(以下、「ベースライン補正」と言う。)、605cm-1付近に確認されるCsの局在振動吸収ピークと前記ベースラインとの距離を読み取って差吸光度を求めた結果、該差吸光度は約0.00081であることが判明した。
【0039】
前記工程3では、前記工程2で得られた差吸光度と前記シリコン単結晶に形成したエピタキシャル膜の膜厚(5.7μm(SIMSプロファイルから判断))から差吸収係数を算出した(このときの差吸収係数は約3.3)。前記差吸収係数を本発明の関係式(2)に代入した結果、前記シリコン単結晶に形成したエピタキシャル膜中の炭素濃度は約4.0×1017atoms/cmであることが示された。SIMS法から求めた前記シリコン単結晶に形成したエピタキシャル膜中の炭素濃度は約5.0×1017atoms/cmであったため、誤差は約20%であった。図6に前記結果を示す。図6は、実施例1~5において導出した差吸収係数を本発明の関係式(2)に代入して求めた前記シリコン単結晶に形成したエピタキシャル膜中の炭素濃度と、SIMS法により前記シリコン単結晶に形成したエピタキシャル膜中の炭素濃度を測定した測定結果の関係を示したものである。
【0040】
(実施例2)
前記工程1において、エピタキシャル膜中の炭素濃度が2.0×1018atoms/cm狙いであること以外は実施例1と同じ条件でエピタキシャルウェーハを製造し、これを評価試料とした。リファレンス試料として、前記評価試料と同じ水準のシリコン単結晶の基板上に実質的に炭素を含まないエピタキシャル膜を5.5μm形成し、これをリファレンス試料とした。
【0041】
前記工程2では、FT-IR装置を用いて前記評価試料と前記リファレンス試料の吸光度スペクトルを測定し、前記評価試料の吸光度スペクトルから前記リファレンス試料の吸光度スペクトルを減算することで差吸光度スペクトルを得た。前記差吸光度スペクトルにおいて、ベースライン補正後、605cm-1付近に確認されるCsの局在振動吸収ピークと前記ベースラインとの距離を読み取って差吸光度を求めた結果、該差吸光度は約0.0031であることが判明した。
【0042】
前記工程3では、前記工程2で得られた差吸光度と前記シリコン単結晶に形成したエピタキシャル膜の膜厚(5.1μm(SIMSプロファイルから判断))から差吸収係数を算出した(このときの差吸収係数は約13.9)。前記差吸収係数を本発明の関係式(2)に代入した結果、前記シリコン単結晶に形成したエピタキシャル膜中の炭素濃度は約1.7×1018atoms/cmであることが示された。SIMS法から求めた前記シリコン単結晶に形成したエピタキシャル膜中の炭素濃度は約1.4×1018atoms/cmであったため、誤差は約20%であった(図6参照)。
【0043】
(実施例3)
前記工程1において、エピタキシャル膜中の炭素濃度が7.0×1018atoms/cm狙いであること以外は実施例1と同じ条件でエピタキシャルウェーハを製造し、これを評価試料とした。リファレンス試料として、前記評価試料と同じ水準のシリコン単結晶の基板上に実質的に炭素を含まないエピタキシャル膜を5.5μm形成し、これをリファレンス試料とした。
【0044】
前記工程2では、FT-IR装置を用いて前記評価試料と前記リファレンス試料の吸光度スペクトルを測定し、前記評価試料の吸光度スペクトルから前記リファレンス試料の吸光度スペクトルを減算することで差吸光度スペクトルを得た。前記差吸光度スペクトルにおいて、ベースライン補正後、605cm-1付近に確認されるCsの局在振動吸収ピークと前記ベースラインとの距離を読み取って差吸光度を求めた結果、該差吸光度は約0.011であることが判明した。
【0045】
前記工程3では、前記工程2で得られた差吸光度と前記シリコン単結晶に形成したエピタキシャル膜の膜厚(5.1μm(SIMSプロファイルから判断))から差吸収係数を算出した(このときの差吸収係数は約48.2)。前記差吸収係数を本発明の関係式(2)に代入した結果、前記シリコン単結晶に形成したエピタキシャル膜中の炭素濃度は約5.8×1018atoms/cmであることが示された。SIMS法から求めた前記シリコン単結晶に形成したエピタキシャル膜中の炭素濃度は約5.1×1018atoms/cmであったため、誤差は約13%であった(図6参照)。
【0046】
(実施例4)
前記工程1において、エピタキシャル膜中の炭素濃度が2.0×1019atoms/cm狙いであること以外は実施例1と同じ条件でエピタキシャルウェーハを製造し、これを評価試料とした。リファレンス試料として、前記評価試料と同じ水準のシリコン単結晶の基板上に実質的に炭素を含まないエピタキシャル膜を5.5μm形成し、これをリファレンス試料とした。
【0047】
前記工程2では、FT-IR装置を用いて前記評価試料と前記リファレンス試料の吸光度スペクトルを測定し、前記評価試料の吸光度スペクトルから前記リファレンス試料の吸光度スペクトルを減算することで差吸光度スペクトルを得た。前記差吸光度スペクトルにおいて、ベースライン補正後、605cm-1付近に確認されるCsの局在振動吸収ピークと前記ベースラインとの距離を読み取って差吸光度を求めた結果、差吸光度は約0.028であることが判明した。
【0048】
前記工程3では、前記工程2で得られた差吸光度と前記シリコン単結晶に形成したエピタキシャル膜の膜厚(5.1μm(SIMSプロファイルから判断))から差吸収係数を算出した(このときの差吸収係数は約125.9)。前記差吸収係数を本発明の関係式(2)に代入した結果、前記シリコン単結晶に形成したエピタキシャル膜中の炭素濃度は約1.5×1019atoms/cmであることが示された。SIMS法から求めた前記シリコン単結晶に形成したエピタキシャル膜中の炭素濃度は約1.5×1019atoms/cmであったため、誤差は約0%であった(図6参照)。
【0049】
(実施例5)
前記工程1において、エピタキシャル膜中の炭素濃度が1.0×1020atoms/cm狙い、膜厚が1μm狙いであること以外は実施例1と同じ条件でエピタキシャルウェーハを製造し、これを評価試料とした。リファレンス試料として、前記評価試料と同じ水準のシリコン単結晶の基板上に実質的に炭素を含まないエピタキシャル膜を1μm形成し、これをリファレンス試料とした。
【0050】
前記工程2では、FT-IR装置を用いて前記評価試料と前記リファレンス試料の吸光度スペクトルを測定し、前記評価試料の吸光度スペクトルから前記リファレンス試料の吸光度スペクトルを減算することで差吸光度スペクトルを得た。前記差吸光度スペクトルにおいて、ベースライン補正後、605cm-1付近に確認されるCsの局在振動吸収ピークと前記ベースラインとの距離を読み取って差吸光度を求めた結果、差吸光度は約0.027であることが判明した。
【0051】
前記工程3では、前記工程2で得られた差吸光度と前記シリコン単結晶に形成したエピタキシャル膜の膜厚(1.1μm(SIMSプロファイルから判断))から差吸収係数を算出した(このときの差吸収係数は約558.2)。前記差吸収係数を本発明の関係式(2)に代入した結果、前記シリコン単結晶に形成したエピタキシャル膜中の炭素濃度は約6.7×1019atoms/cmであることが示された。SIMS法から求めた前記シリコン単結晶に形成したエピタキシャル膜中の炭素濃度は約8.7×1019atoms/cmであったため、誤差は約23%であった(図6参照)。
【0052】
(比較例1)
実施例1と同じ評価試料において、FT-IR法から示された差吸収係数を非特許文献1の関係式(1)に代入して炭素濃度を見積もったところ、前記シリコン単結晶に形成したエピタキシャル膜中の炭素濃度は約2.7×1017atoms/cmであることが示された。SIMS法から求めた前記シリコン単結晶に形成したエピタキシャル膜中の炭素濃度は約5.0×1017atoms/cmであったため、誤差は約46%であった(図7参照)。
【0053】
(比較例2)
実施例2と同じ評価試料において、FT-IR法から示された差吸収係数を非特許文献1の関係式(1)に代入して炭素濃度を見積もったところ、前記シリコン単結晶に形成したエピタキシャル膜中の炭素濃度は約1.1×1018atoms/cmであることが示された。SIMS法から求めた前記シリコン単結晶に形成したエピタキシャル膜中の炭素濃度は約1.4×1018atoms/cmであったため、誤差は約21%であった(図7参照)。
【0054】
(比較例3)
実施例3と同じ評価試料において、FT-IR法から示された差吸収係数を非特許文献1の関係式(1)に代入して炭素濃度を見積もったところ、前記シリコン単結晶に形成したエピタキシャル膜中の炭素濃度は約4.0×1018atoms/cmであることが示された。SIMS法から求めた前記シリコン単結晶に形成したエピタキシャル膜中の炭素濃度は約5.1×1018atoms/cmであったため、誤差は約23%であった(図7参照)。
【0055】
(比較例4)
実施例4と同じ評価試料において、FT-IR法から示された差吸収係数を非特許文献1の関係式(1)に代入して炭素濃度を見積もったところ、前記シリコン単結晶に形成したエピタキシャル膜中の炭素濃度は約1.0×1019atoms/cmであることが示された。SIMS法から求めた前記シリコン単結晶に形成したエピタキシャル膜中の炭素濃度は約1.5×1019atoms/cmであったため、誤差は約33%であった(図7参照)。
【0056】
(比較例5)
実施例5と同じ評価試料において、FT-IR法から示された差吸収係数を非特許文献1の関係式(1)に代入して炭素濃度を見積もったところ、前記シリコン単結晶に形成したエピタキシャル膜中の炭素濃度は約4.6×1019atoms/cmであることが示された。SIMS法から求めた前記シリコン単結晶に形成したエピタキシャル膜中の炭素濃度は約8.7×1019atoms/cmであったため、誤差は約47%であった(図7参照)。
【0057】
以上のとおり、本発明の実施例1~5によれば、図6に示すとおり、本発明の計算式(2)を用いて算出された炭素濃度とSIMS法で測定された炭素濃度との誤差は約20%以下であることが判明した。また、既存のFT-IR法として利用される非特許文献1の関係式(1)を適応した場合(比較例1~5)、図7に示すとおり、SIMS法による実際の炭素濃度から大きく乖離することが判明した。
以上のことから、炭素濃度5×1017atoms/cm以上1×1020atoms/cm以下の範囲でFT-IR法によるシリコン単結晶中の置換型炭素濃度を測定する場合、本発明の炭素濃度測定方法を用いることで、高精度なSIMS法から求まる炭素濃度と大きく乖離することなくより簡便かつ正確に非破壊で測定することができることが確認された。
【0058】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7