(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025087354
(43)【公開日】2025-06-10
(54)【発明の名称】塩化カリウムによる苦味の低減剤
(51)【国際特許分類】
A23L 27/00 20160101AFI20250603BHJP
A23L 27/30 20160101ALI20250603BHJP
A23L 13/75 20230101ALI20250603BHJP
A23B 4/02 20060101ALN20250603BHJP
【FI】
A23L27/00 Z
A23L27/00 F
A23L27/30 C
A23L27/30 Z
A23L13/75
A23B4/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023201948
(22)【出願日】2023-11-29
(71)【出願人】
【識別番号】000113067
【氏名又は名称】プリマハム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100182305
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 鉄平
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100221958
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 真希恵
(74)【代理人】
【識別番号】100192441
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 仁
(72)【発明者】
【氏名】中島 祥美
(72)【発明者】
【氏名】中川 俊之
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼間 顕佑
【テーマコード(参考)】
4B042
4B047
【Fターム(参考)】
4B042AC09
4B042AD01
4B042AD02
4B042AG03
4B042AH01
4B042AK01
4B042AK02
4B042AK10
4B042AK16
4B042AP07
4B047LB08
4B047LB09
4B047LF10
4B047LG05
4B047LG16
(57)【要約】
【課題】塩化カリウムが含まれた、いわゆる減塩食肉加工品におけるえぐ味や苦味を減らすための手段を提供すること。
【解決手段】アスパルテームとスクラロースを、アスパルテーム100質量部に対してスクラロース120~300質量部の割合で配合して塩化カリウムによる苦味の低減剤とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスパルテームとスクラロースを、アスパルテーム100質量部に対してスクラロース120~300質量部の割合で配合されていることを特徴とする塩化カリウムによる苦味の低減剤。
【請求項2】
アスパルテーム100質量部に対してスクラロース200質量部の割合で配合されていることを特徴とする請求項1記載の苦味の低減剤。
【請求項3】
ピックル液であることを特徴とする請求項1記載の苦味の低減剤。
【請求項4】
ピックル液中のアスパルテーム含量が0.0001~1質量%、スクラロース含量が0.00012~3質量%であることを特徴とする請求項3記載の苦味の低減剤。
【請求項5】
ピックル液が、アスパルテーム及びスクラロースに加えてグリシンを含有することを特徴とする請求項3記載の苦味の低減剤。
【請求項6】
ピックル液中のグリシン含量が0.002~10質量%であることを特徴とする請求項5記載の苦味の低減剤。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか記載の苦味の低減剤が添加された塩化カリウム含有塩漬肉。
【請求項8】
請求項7記載の塩漬肉から調製された食肉加工品。
【請求項9】
以下の工程(A)~(C)を順次備える食肉加工品の製造方法。
(A)請求項1~6のいずれか記載の塩化カリウムによる苦味の低減剤をピックル液として調製する工程;
(B)工程(A)で調製したピックル液を食肉塊に添加して塩漬肉を調製する工程;
(C)工程(B)で調製した塩漬肉を加熱及び/又は乾燥して食肉加工品を調製する工程;
【請求項10】
食肉加工品が、ロースハム又はベーコンであることを特徴とする請求項9記載の食肉加工品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩化カリウムによる苦味の低減剤に関し、より詳細には、アスパルテームとスクラロースとが含まれ、アスパルテーム100質量部に対してスクラロース100~300質量部の割合で配合されている塩化カリウムによる苦味の低減剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ハム・ソーセージ類等の食肉加工品の食感は、主として肉中のタンパク質のうち、塩溶性タンパク質と呼ばれるものが加熱により互いに結合し、立体的な網目構造をつくり、その網目の中に水分や脂肪を抱き込むことから得られることが知られている。塩により溶出する塩溶性タンパク質に網目構造をつくらせるには十分に溶出させることが重要とされ、そのために食塩等を添加することが必要とされてきた。
【0003】
近年の健康志向の高まりにより、例えば高血圧症の予防・治療のために、食品における食塩の含有量を減らすことが推奨される場合があり、塩化ナトリウムを全部又は一部代替する代替塩として塩化カリウムを添加した減塩食品の開発が盛んに行われている。しかし、塩味の低減を補填するために十分な量の塩化カリウムを添加すると、塩化カリウムの独特の苦味やえぐ味が食品の味に好ましくない影響を与える場合があることも知られている。
【0004】
塩化カリウムの苦味等を抑制する手段としては、イノシトールと、フラクトオリゴ糖と、環状オリゴ糖と、高甘味度甘味料とを含有するマスキング組成物を配合することを特徴とする塩化カリウムの不快味マスキング方法(例えば、特許文献1参照)や、トレハロース及び酒石酸又はその塩とを共存させる、塩化カリウム又は塩化マグネシウムによる異味の低減方法(例えば、特許文献2参照)や、塩化カリウムと、アスパラギン酸塩と、甘味料と、アスパラギン酸塩以外の1種以上の旨味成分とを含有することを特徴とする調味用組成物(例えば、特許文献3参照)が提案されているが、これらの塩化カリウム含有製品において十分に呈味が改善されたとは言い難い。
【0005】
一方、近年、メタボリックシンドローム(肥満・糖尿病・脂肪肝等)などの予防や治療のため、低糖質・糖質ゼロ食品も市場に多く出回っている。糖質の低減の度合いは、食品の種類により様々であるが、食肉加工品においては、ショ糖、還元水飴等の糖類を人工甘味料に代替した100%オフ(糖質ゼロ)の製品も多数開発されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2018-143128号公報
【特許文献2】特開2020-074691号公報
【特許文献3】特開2021-013377号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、塩化カリウムが含まれた、いわゆる減塩食肉加工品におけるえぐ味や苦味を減らすための手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、現在販売中の塩化カリウムと人工甘味料とを含む食肉加工品について、苦味やえぐ味が感じられると評価される場合があることに対し、当該食肉加工品に使用されている原料を変更することにより、苦味やえぐ味の程度を改善するための検討を進めてきたが、従来のアセスルファームカリウムとアドバンテームとアスパルテームの人工甘味料の組合せの代わりに、アスパルテームとスクラロースとを組み合わせて使用することにより、苦味が顕著に減少することを見い出した。例えば、アスパルテームとスクラロースの配合割合について検討をすすめたところ、アスパルテーム100質量部に対してスクラロース120~300質量部の割合で配合したピックル液を使用した場合に、塩化カリウムを使用しながら、食肉加工品の苦味やえぐ味を効果的に低減することができ、かつ、従来品と比べて人工甘味料の種類を減らし、かつ配合量を格段に減らしながらも、かかる食肉加工品が甘すぎず、甘さのバランスがよくなることを確認して、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]アスパルテームとスクラロースを、アスパルテーム100質量部に対してスクラロース120~300質量部の割合で配合されていることを特徴とする塩化カリウムによる苦味の低減剤。
[2]アスパルテーム100質量部に対してスクラロース200質量部の割合で配合されていることを特徴とする上記[1]記載の苦味の低減剤。
[3]ピックル液であることを特徴とする上記[1]記載の苦味の低減剤。
[4]ピックル液中のアスパルテーム含量が0.0001~1質量%、スクラロース含量が0.00012~3質量%であることを特徴とする上記[3]記載の苦味の低減剤。
[5]ピックル液が、アスパルテーム及びスクラロースに加えてグリシンを含有することを特徴とする上記[3]記載の苦味の低減剤。
[6]ピックル液中のグリシン含量が0.002~10質量%であることを特徴とする上記[5]記載の苦味の低減剤。
[7]上記[1]~[6]のいずれか記載の苦味の低減剤が添加された塩化カリウム含有塩漬肉。
[8]上記[7]記載の塩漬肉から調製された食肉加工品。
【0010】
また、本発明は以下のとおりである。
[9]以下の工程(A)~(C)を順次備える食肉加工品の製造方法。
(A)上記[1]~[6]のいずれか記載の塩化カリウムによる苦味の低減剤をピックル液として調製する工程;
(B)工程(A)で調製したピックル液を食肉塊に添加して塩漬肉を調製する工程;
(C)工程(B)で調製した塩漬肉を加熱及び/又は乾燥して食肉加工品を調製する工程;
[10]食肉加工品が、ロースハム又はベーコンであることを特徴とする上記[9]記載の食肉加工品の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の苦味の低減剤によると、人工甘味料の種類や配合量を従来品よりも低減された塩化カリウム含有ピックル液を使用した場合に、えぐ味を生じることなく、苦味が低減され、また、適度な甘さを感じることができる食肉加工品を調製することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の塩化カリウムによる苦味の低減剤(以下、単に「苦味低減剤」ということもある)としては、アスパルテームとスクラロースとを、アスパルテーム100質量部に対してスクラロース120~300質量部の割合で配合された苦味低減剤であれば特に制限されず、塩化カリウム含有ピックル液として好適に使用できる苦味低減剤である。かかるピックル液は、もともとは腐敗の可能性がある食肉加工品を長期保存のために食塩に漬けるための液体を意味したが、本発明においては、塩味をつけるとともに、調味液等を含む液体を含めることができる。
【0013】
上記塩化カリウムとは、KClで表される化合物であり、本発明においては、塩化カリウムとして、精製された塩化カリウムの粉末、顆粒、溶液や、海水から塩化ナトリウムを精製する際に副生する「にがり」などの塩化カリウムを含有する素材を用いることもできる。
【0014】
本発明におけるピックル液中の塩化カリウムの含量としては、塩漬肉中で0.03~3質量%となる量を例示することができ、0.2~2質量%が好ましく、0.3~1質量%がより好ましい。
【0015】
本発明における塩漬肉中の塩化カリウムの濃度としては、食肉加工品中で0.033~3.3質量%となる濃度を例示することができ、0.22質量%~2.2質量%が好ましく、0.33~1.1質量%がより好ましい。
【0016】
上記アスパルテームとは、N‐(L‐α‐アスパルチル)‐L‐フェニルアラニン1‐メチルエステル(L‐アスパラギン酸とフェニルアラニンのメチルエステルが結合したジペプチド)であって、砂糖の約200倍の甘味を有する高甘味度甘味料として知られている。
【0017】
上記アスパルテームの製造方法としては特に制限されず、化学的方法又は生化学的方法いずれかの公知の方法を挙げることができ、市販品を利用することもできる。
【0018】
本発明におけるピックル液中のアスパルテームの含量としては、加工後の塩漬肉中で0.00006~0.0125質量%となる量を例示することができ、0.00025~0.01質量%が好ましく、0.0006~0.003質量%がより好ましい。
【0019】
本発明における塩漬肉中のアスパルテームの濃度としては、食肉加工品中で0.00007~0.01389質量%となる濃度を例示することができ、0.00028~0.01111質量%が好ましく、0.00067~0.00333質量%がより好ましい。
【0020】
上記スクラロースとは、スクロースの4位、1’位及び6’位の3つの水酸基が塩素原子に置換された構造を有する、1,6-ジクロロ-1,6-ジデオキシ-β-D-フルクトフラノシル4-クロロ-4-デオキシ-α-D-ガラクトピラノシドであって、ショ糖の約600倍の甘味を有する高甘味度甘味料として知られている。
【0021】
上記スクラロースの製造方法としては、ショ糖のヒドロキシ基のうち3つを選択的に塩素で置換することができる方法であれば特に制限されず、公知の製造方法により製造することができるが、市販品を利用することもでき、市販品としては、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製「スクラロース」等を挙げることができる。
【0022】
上記ピックル液中のスクラロースの含量としては、加工後の塩漬肉中で0.00012~0.025質量%となる量を例示することができ、0.0005~0.018質量%が好ましく、0.0012~0.006質量%がより好ましい。
【0023】
本発明における塩漬肉中のスクラロースの濃度としては、食肉加工品中で0.00013~0.02778質量%となる濃度を例示することができ、0.00056~0.02質量%が好ましく、0.00133~0.00667質量%がより好ましい。
【0024】
本発明の苦味低減剤には、アスパルテーム100質量部に対してスクラロース120~300質量部の割合で配合されているが、アスパルテーム100質量部に対してスクラロース140~300質量部の割合が好ましく、アスパルテーム100質量部に対してスクラロース140~280質量部の割合がより好ましく、アスパルテーム100質量部に対してスクラロース150~250質量部の割合がさらに好ましく、アスパルテーム100質量部に対してスクラロース200質量部の割合が特に好ましい。
【0025】
本発明の苦味低減剤には、アスパルテーム及びスクラロースに加えて、苦みを低減させるために、グリシンをさらに含有させることもでき、上記グリシンとは、カルボキシル基が結合した炭素(α-炭素)にアミノ基が直結しているCH2(NH2)COOHという構造を有する非極性側鎖アミノ酸に分類される非必須アミノ酸である。
【0026】
上記グリシンとしては、食品用途に使用できるグレードであれば生物から抽出等した天然物でもよく、化学的に合成された物でもよく、市販品を含め適宜選択することができる。
【0027】
本発明におけるピックル液中のグリシンの含量としては、食肉加工品中で0.00111~1.11111質量%となる量を例示することができ、0.01111~0.61111質量%が好ましく、0.02222~0.12222質量%がより好ましい。
【0028】
上記塩化カリウムによる苦味の低減剤について、食肉加工品の原料の食肉塊に含有させる量としては、従来公知のピックル液の場合と同様であり、食肉加工食品の種類等に応じて適宜設定することができるが、肉:ピックル液=100:10~100:250を例示することができる。
【0029】
本発明の苦味低減剤が添加された食肉加工品においては、塩化カリウムとアスパルテームとスクラロース、又は塩化カリウムとアスパルテームとスクラロースとグリシンが併存した状態になりうるが、本発明の苦味低減剤は、本発明の苦味低減剤が使用される食肉塊、調味料等にあらかじめ含まれる及び/又は食肉加工品に別途添加される調味液や、付随するソース、タレ等に含まれる、塩化カリウム、アスパルテーム、スクラロース及び/又はグリシンと併存することを妨げるものではない。
【0030】
上記塩化カリウムによる苦味の低減剤には、上記アスパルテームとスクラロースとグリシンの他、食塩;肉繊維に水を結びつける作用を有するリン酸及び/又はポリリン酸のナトリウム塩・カリウム塩等の塩;文字通りの意味では増量剤であるが、筋繊維中に均一に分散させることにより保水物質として使用されることができるエクステンダー;異種タンパク;風味を加えるためのスパイスや調味料;エキス・スープ類;レシチン等の乳化剤;ビタミンC等の酸化防止剤;発色剤;油脂;保存料;を必要に応じて適量添加することができる。
【0031】
上記エクステンダーとしては、卵白、大豆タンパク質、卵タンパク質、乳タンパク質、ブタ血液タンパク質、豚皮コラーゲン等の異種タンパク質類;カラーギーナン、キサンタンガム、グアガム、ペクチン、アラビアガム等の増粘多糖類;酵素等を挙げることができる。
【0032】
上記スパイスとしては、ブラックペッパー、ホワイトペッパー、グリーンペッパー、セージ、メース、カルダモン、ガーリック、コリアンダー、キャラウエー、オールスパイス、シナモン、オレガノ、マジョラム、オニオン、タイム、クローブ、アンゼリカ、アニス、シソ、ジンジャー、タラゴン、チリペッパー、ケーパー、ターメリック、バジル、ローレル、ディルシード、ホースラディッシュ、ナツメグ、フェンネル、パプリカ、パセリ、ペパーミント、ローズマリー、サフラン、チャイブ、セロリ、シロガラシ、セサミ、スターアニス、バニラ、マスタード等から目的に応じて選ばれる1種又は2種以上を挙げることができる。
【0033】
上記スパイスをピックル液に使用する場合は、そのままではピックル液に溶解しない場合が多いので、スパイスの抽出液を作製し、ピックル液に配合することが好ましい。
【0034】
上記調味料としては、醤油、味噌、砂糖、水あめ、酵母エキス、アラニン、アルギニン、プロリン、ラード、グルコン酸、グルタミン酸、アスパラギン酸、イノシン酸等の調味料を例示することができる。
【0035】
本発明の塩化カリウムによる苦味の低減剤を用いて、減塩された食肉加工品を製造方法する方法としては、塩化カリウムによる苦味の低減剤をピックル液として調製する工程(A);と、工程(A)で調製したピックル液を食肉塊に添加して塩漬肉を調製する工程(B);と、工程(B)で調製した塩漬肉を加熱及び/又は乾燥して食肉加工品を調製する工程(C);とを備える製造方法であれば特に制限されず、上記食肉加工品を構成する食肉としては、豚肉、牛肉、羊肉、馬肉、猪肉、鶏肉、合鴨肉等の畜肉及び家禽肉を具体的に例示することができる。
【0036】
上記工程(A)において、塩化カリウム含有ピックル液の苦味低減剤は、常法により配合成分を撹拌して溶解及び/又は混合分散することによって調製することができる。
【0037】
上記工程(B)において、ピックル液を食肉に注入して塩漬肉を調製する方法としては、公知の方法を用いることができるが、細切肉に混合する方法やピックル液を食肉塊にインジェクションする方法や、ブロック状の食肉塊を前記ピックル液中に浸漬する方法等を例示することができ、その形状や大きさが種々異なる原料肉に対しては、肉質を損なうことなく、食肉塊中に均一にピックル液を分散させることにより塩漬や調味を達成することができるピックルインジェクターを用いて塩漬肉を調製するインジェクション法が好ましい。
【0038】
上記食肉塊とは、畜種・禽種又は部位で限定されるものではないが、処理のしやすさなどを考慮すると、結合組織を除去した食肉が好ましく、具体的には、豚のロース肉、モモ肉、ヒレ肉、肩ロース肉、バラ肉や、牛のサーロイン肉、リブロイン肉、テンダロイン肉、モモ肉、肩ロース肉、ランプ肉、バラ肉や、鶏のササ身、ムネ肉、モモ肉等を挙げることができ、具体的な形状としては、ブロック状や、ハム等を調製するために筒状に丸めた形状を挙げることができる。
【0039】
上記工程(C)において、塩漬肉を乾燥又は加熱して食肉加工品を調製する手段としては、蒸煮、フライ、ボイル、オーブン、燻煙、電子レンジ、熱風乾燥、冷風乾燥、送風乾燥、通風乾燥、除湿乾燥、加湿乾燥、静置乾燥等の常法の手段から適宜選択して塩漬肉を(加熱)乾燥する方法を挙げることができ、その際、加熱温度、相対湿度、乾燥時間等のその他の条件についても適宜設定することができる。なお、工程(C)の乾燥工程を経た食肉加工品の乾燥処理歩留としては、50%~100%を例示することができる。本発明における乾燥処理歩留とは、乾燥工程前の塩漬肉の質量に対する、乾燥後の食肉加工品の質量を意味する。
【0040】
上記各工程の他、必要に応じて、工程(B)の後に、例えば、1~10rpmにて60~360分間マッサージ処理を行う工程(B1)を備えてもよく、工程(C)のあとに、熟成工程(D)を備えることも可能であり、上記の方法で製造された食肉加工品としては、ハム、ベーコン、プレスハム、焼豚、ローストポーク、ローストビーフ、スモークタン、スモークチキン、ステーキ用加工肉やその他の肉加工品を挙げることができ、ハム及び/又はベーコンを好適に挙げることができる。かかる食肉加工品は、ピックル液を含むことにより、良好な硬さ、弾力を備えるとともに、実質的に糖類が添加されておらず、減塩されているにもかかわらず適度な塩味を呈することができる。
【0041】
本発明の苦味低減剤を使用することにより調製される減塩された食肉加工品としては、食塩:塩化カリウムが、5:1~1:5で含まれる食肉加工品を挙げることができ、4:1~1:4が好ましく、3:1~1:3がより好ましく、2:1~1:2がさらに好ましい。
【0042】
以下、実施例により、本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例0043】
[試験例1]
現行品の苦味が感じられるピックル液を改良するために、まず、ピックル液の原料変更を検討することとした。以下の表1に示す処方に従い各試験用ピックル液を調製し、食肉加工品の開発担当者が官能検査を行った。
【0044】
【0045】
まず、塩化カリウム濃度を現行の3質量部に固定し、アスパルテーム、アセスルファームカリウム、アドバンテーム等の人工甘味料、グリシン、グルタミン酸高含有のペースト状の酵母エキス、L-アラニンについて、効率的な官能検査のために実際のピックル液含有量のそれぞれ3倍の濃度のものを添加した従来品の検討用濃縮液を調製した。
【0046】
ついで、1)塩化カリウムのみ、2)塩化カリウム+アスパルテーム、3)塩化カリウム+アセスルファームカリウム、4)塩化カリウム+アドバンテーム、5)塩化カリウム+グリシン、6)塩化カリウム+酵母エキス、7)塩化カリウム+L-アラニンのそれぞれの組合せによる各試験用ピックル液を調製した。さらに、従来品には使用していなかった甘味料としてスクラロースを選択し、8)塩化カリウム+スクラロースの組合せからなる試験用ピックル液を調製して、塩化カリウムによる苦味の低減効果を評価することとした。結果を以下の表2に示す。
【0047】
【0048】
上記表2から明らかなとおり、塩化カリウム水溶液にアスパルテームを単独で添加した試験用ピックル液2)は、甘味を強く感じ、苦味が少なかったが、少しえぐ味を感じた。また、塩化カリウム水溶液にグリシンを単独で添加したピックル液5)は、苦味低減効果が認められた。塩化カリウム水溶液にアセスルファームカリウムを添加した試験用ピックル液3)は甘味とともに苦味が強く、塩化カリウム水溶液にアドバンテームを添加した試験用ピックル液4)は、甘味が濃いが、えぐ味も強かった。塩化カリウム水溶液にL-アラニンを添加した試験用ピックル液7)は、苦味は少し減ったが効果は十分でなかった。一方、塩化カリウム水溶液にスクラロースを単独で添加した試験用ピックル液8)は、非常に甘く、また、ボディー感がある甘さであった。また、少し苦味を感じたが、上記試験用ピックル液3)のアセスルファームカリウムや試験用ピックル液4)のアドバンテームと比較すると、試験用ピックル液8)のスクラロースを使用した場合、さわやかな甘さを与え、苦味、えぐ味が少なかった。
【0049】
[実施例1]
[ピックル液の調製]
上記試験例1にて甘味を感じ苦みが少なかった、試験用ピックル液2)に含まれるアスパルテームと、試験用ピックル液8)に含まれるスクラロースとを組み合わせて使用する、塩化カリウムの苦味低減剤についてさらに検討することとした。アスパルテームとスクラロースとの配合割合(アスパ:スクラ)を変更した混合ピックル液を、以下の表3に示すとおり調製した。
【0050】
【0051】
上記6種類の混合ピックル液について官能評価とランク付けを行った。結果を以下の表4に示す。
【0052】
【0053】
(結果)
表4から明らかなとおり、アスパルテーム:スクラロース=1:2の割合で配合されている混合ピックル液の評価が一番よく、アスパルテーム:スクラロース=1:3の割合で配合されている混合ピックル液の評価が二番目によかった。アスパルテーム:スクラロースが、1:1、1:4、1:5の場合は、苦味は少なくなったが、えぐ味を感じた。
【0054】
[実施例2]
[減塩ベーコンの作製]
アスパルテーム:スクラロース=1:2の割合で配合されているピックル液について検討を続けた。人工甘味料(アスパルテーム+アセスルファームカリウム+アドバンテーム)を含むピックル液を注入した従来品相当品の減塩ベーコン(T0)と、アスパルテームとスクラロースとをアスパルテーム:スクラロース=1:2の比率で含むが、添加された量が異なるピックル液を注入した食肉加工品として、4種類(T7,T10,T13,及びT17)のベーコンを作製し、官能検査を行うこととした。実際に豚肉に注入されるピックル液の処方を表5に示す。
【0055】
【0056】
上記各ピックル液は、水に対して豚肉以外の原材料を同時に又は順次加えて撹拌、溶解させることにより調製された。調製されたピックル液をピックルインジェクターを用いてベーコン原木(食肉塊)に注入して、ピックルインジェクション後のベーコン原木を調製した。
【0057】
上記ピックルインジェクション後のベーコン原木を5℃において16時間タンブリングを行うことによりマッサージ処理を施して、塩漬肉を調製した。かかる塩漬肉をスモークハウスにて、乾燥処理(65℃、30分)、スモーク(70℃、30分)、乾燥(80℃、4時間)、水冷(30分)を行い、一晩冷蔵保存し、減塩ベーコン製造し、官能試験に供した。
【0058】
(結果)
上記アスパルテーム30に対し、アセスルファームカリウム13、アドバンテーム240の比率で含むピックル液(T0)が注入された、従来品相当品のベーコン(塩漬肉中のアスパルテーム0.0093質量%、アセスルファームカリウム0.004質量%、アドバンテーム0.0745質量%)は、苦味が強く甘みも感じなかった。
【0059】
アセスルファームカリウムとアドバンテームを使用せず、アスパルテーム:スクラロース=1:2の比とし、アスパルテームの含量を従来品相当品よりも増やしたピックル液(T7)を使用したベーコン(塩漬肉中のアスパルテーム0.0124質量%、スクラロース0.0248質量%)は、コクがあるがえぐ味があった。
【0060】
アスパルテームの添加量を従来品相当品より減らして、アスパルテーム:スクラロース=1:2の比率で含むピックル液(T10)を使用したベーコン(塩漬肉中のアスパルテーム0.0087質量%、スクラロース0.0174質量%)は、苦味は弱くなったが、甘すぎた。アスパルテームの含量をさらに半減させて、アスパルテーム:スクラロース=1:2の比率で含むピックル液(T13)を使用したベーコン(塩漬肉中のアスパルテーム0.0043質量%、スクラロース0.0087質量%)は、苦味は弱くなったが、依然として甘味が強かった。
【0061】
一方、アスパルテームの添加量をさらに半減させて、アスパルテーム:スクラロース=1:2の比率で含むピックル液(T17)を注入することにより作製されたベーコン(塩漬肉中のアスパルテーム0.0022質量%、スクラロース0.0043質量%)は、苦味が弱く、甘味も強すぎず、味覚的に良好であった。
【0062】
(まとめ)
アスパルテームとスクラロースとをアスパルテーム:スクラロース=1:2の比で、甘味料としてピックル液に添加した場合、T0に代表される従来の減塩食肉加工品(従来品)と比較すると、アセスルファームカリウムとアドバンテームの添加が不要となり、さらに、アスパルテームの添加量を従来品の4分の1以下にすることができた。新たに添加することとなったスクラロースも、アスパルテームの添加量の2倍とはなるが、従来品のアスパルテームの添加量の2分の1以下に抑えることができた。そして、甘味料として塩漬肉中アスパルテームを0.0022質量%及びスクラロースを0.0043質量%となるように、1:2の比率で含むピックル液を添加した場合、従来品において問題となっていた強い苦味やえぐ味を解消することができるとともに、従来品では感じることが少なかった甘味について感じることができるようになり、人工甘味料の種類を減らし、また添加量を減らしているにもかかわらず、甘すぎないが、適度な甘みを感じる優れた塩化カリウムを含むベーコン製品を作製できることを確認した。
【0063】
[実施例3]
[減塩ロースハムの作製]
アスパルテーム:スクラロース=1:2の割合で配合されているピックル液について検討を続けた。上記ピックル液に含まれる甘味料として、現行品に使用されている人工甘味料(アスパルテーム+アセスルファームカリウム+アドバンテーム)を含むピックル液を注入したロースハム(R0)と、アスパルテームとスクラロースとをアスパルテーム:スクラロース=1:2の比率で含むが、添加される含量が異なるピックル液を注入した食肉加工品として、2種類(R1及びR2)のロースハムを作製し、官能検査を行うこととした。実際に豚肉に注入されるピックル検討液の処方を表6に示す。
【0064】
【0065】
上記各ピックル検討液は、水に対して豚肉以外の原材料を同時に又は順次加えて撹拌、溶解させることにより調製された。調製されたピックル液をピックルインジェクターを用いてロースハム原木(食肉塊)に注入して、ピックルインジェクション後のロースハム原木を調製した。
【0066】
上記ピックルインジェクション後のロースハム原木を5℃において16時間タンブリングを行うことによりマッサージ処理を施して、塩漬肉を調製した。かかる塩漬肉をファイブラスケーシングに充填し、スモークハウスにて、乾燥処理(65℃、30分)、スモーク(70℃、30分)、蒸煮(80℃、4時間)、水冷(30分)を行い、一晩冷蔵保存し、減塩ロースハムを製造し、官能試験に供した。
【0067】
(結果)
上記アスパルテーム30に対し、アセスルファームカリウム13、アドバンテーム238の比率で含むピックル液(R0)が注入された、従来品相当品のロースハム(塩漬肉中のアスパルテーム0.0133質量%、アセスルファームカリウム0.0057質量%、アドバンテーム0.1058質量%)については、評価者の中に苦味を非常に強く感じ、甘みを感じなかった者がいた。
【0068】
アセスルファームカリウムとアドバンテームを添加しない代わりに、アスパルテーム:スクラロース=1:2の比率で含むピックル液(R1)を使用したロースハム(塩漬肉中のアスパルテーム0.0027質量%、スクラロース0.0053質量%)は、苦味がないが、甘味が強すぎた。
【0069】
アスパルテームの添加量をアスパルテーム:スクラロース=1:2の比率のまま、さらに減らしてR1の半分にしたピックル液(R2)を使用したロースハム(塩漬肉中のアスパルテーム0.0013質量%、スクラロース0.0027質量%)は、苦味がなく、甘味も強すぎず、味覚的に良好であった。
【0070】
(まとめ)
アスパルテームとスクラロースとをアスパルテーム:スクラロース=1:2の比で、甘味料としてピックル液に添加した場合、R0に代表される従来の減塩食肉加工品(従来品)と比較して、アセスルファームカリウムとアドバンテームの添加が不要となり、さらに、アスパルテームの添加量を従来品の10分の1にすることができた。新たに添加することとなったスクラロースも、アスパルテームの添加量の2倍とはなるが、従来品のアスパルテームの添加量の5分の1に抑えることができた。そして、甘味料としてスクラロースを塩漬肉中0.0027質量%及びアスパルテームを塩漬肉中0.0013質量%となるようにピックル液を添加した場合、従来品において問題となっていた強い苦味やえぐ味を解消することができるとともに、従来品では感じることが少なかった甘味について感じることができるようになり、人工甘味料の種類を減らし、また添加量を減らしているにもかかわらず、甘すぎないが、適度な甘みを感じる塩化カリウムを含むロースハム製品を作製できることを確認した。