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特開2025-87942CAR-T細胞活性化、造血幹細胞増殖、iPS細胞分化を制御する組成物およびその用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025087942
(43)【公開日】2025-06-11
(54)【発明の名称】CAR-T細胞活性化、造血幹細胞増殖、iPS細胞分化を制御する組成物およびその用途
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/071 20100101AFI20250604BHJP
   C12N 15/19 20060101ALI20250604BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20250604BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20250604BHJP
   C07K 14/47 20060101ALI20250604BHJP
   C07K 14/52 20060101ALI20250604BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20250604BHJP
   C07K 14/705 20060101ALI20250604BHJP
   C12N 15/85 20060101ALI20250604BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20250604BHJP
   C12N 5/0735 20100101ALI20250604BHJP
   C12N 5/074 20100101ALI20250604BHJP
   A61K 35/12 20150101ALI20250604BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20250604BHJP
   A61P 7/06 20060101ALI20250604BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20250604BHJP
【FI】
C12N5/071 ZNA
C12N15/19
C12N15/12
C12N15/62 Z
C07K14/47
C07K14/52
C07K19/00
C07K14/705
C12N15/85 Z
C12N5/10
C12N5/0735
C12N5/074
A61K35/12
A61P35/00
A61P7/06
A61P43/00 107
A61P43/00 121
【審査請求】未請求
【請求項の数】61
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022071611
(22)【出願日】2022-04-25
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、「先端的バイオ創薬等基盤技術開発事業」「人工エクソソームを用いた革新的免疫制御法の開発」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(71)【出願人】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】華山 力成
(72)【発明者】
【氏名】山野 友義
(72)【発明者】
【氏名】的場 一隆
(72)【発明者】
【氏名】木田 克彦
(72)【発明者】
【氏名】阿武 志保
(72)【発明者】
【氏名】西野 泰斗
【テーマコード(参考)】
4B065
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065AA94X
4B065AB01
4B065AC14
4B065AC20
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA25
4B065CA44
4B065CA46
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB63
4C087CA04
4C087CA47
4C087NA05
4C087NA14
4C087ZA55
4C087ZB22
4C087ZB26
4C087ZC75
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045CA40
4H045DA50
4H045DA76
4H045DA86
4H045EA28
4H045FA74
(57)【要約】      (修正有)
【課題】サイトカイン分子を共投与するよりも効率よく特定細胞を活性化(すなわち、増殖及び/又は分化)させる、新規な細胞活性化法、細胞活性化用組成物およびその用途を提供する。
【解決手段】[0]少なくとも1種のサイトカインを膜外に提示する細胞外小胞;
[1]少なくとも1種のターゲット因子を膜外に提示する細胞外小胞;又は
[2]少なくとも1種のターゲット因子及び少なくとも1種のサイトカインを膜外に提示する細胞外小胞を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗原を膜外に提示する細胞外小胞。
【請求項2】
T細胞刺激性サイトカインを膜外に更に提示する、請求項1に記載の細胞外小胞。
【請求項3】
請求項2に記載の細胞外小胞であって、その膜に以下:
(B)前記抗原を含む、該抗原を膜外に提示可能なタンパク質;及び
(A)前記T細胞刺激性サイトカイン又はそのサブユニットを含む、該細胞刺激性サイトカインを膜外に提示可能なタンパク質;
を含む、細胞外小胞。
【請求項4】
請求項2に記載の細胞外小胞であって、その膜に以下:
(C)前記抗原と、前記T細胞刺激性サイトカイン又はそのサブユニットを含む、抗原及びT細胞刺激性サイトカインを膜外に提示可能なタンパク質
を含む、細胞外小胞。
【請求項5】
タンパク質(B)が、抗原と、細胞外小胞の膜に局在することが可能な膜タンパク質又は細胞外小胞の膜に結合することが可能なタンパク質との融合タンパク質である、請求項3に記載の細胞外小胞。
【請求項6】
タンパク質(A)が、前記T細胞刺激性サイトカイン又はそのサブユニットと、細胞外小胞の膜に局在することが可能な膜タンパク質又は細胞外小胞の膜に結合することが可能なタンパク質との融合タンパク質である、請求項3に記載の細胞外小胞。
【請求項7】
タンパク質(C)が、
前記抗原と、
前記T細胞刺激性サイトカイン又はそのサブユニットと、
細胞外小胞の膜に局在することが可能な膜タンパク質又は細胞外小胞の膜に結合することが可能なタンパク質
との融合タンパク質である、請求項4に記載の細胞外小胞。
【請求項8】
細胞外小胞の膜に局在することが可能な膜タンパク質又は細胞外小胞の膜に結合することが可能なタンパク質が、テトラスパニン若しくはその膜貫通ドメイン又はMFG-E8若しくはその膜結合ドメインを含む、請求項5~7のいずれか一項に記載の細胞外小胞。
【請求項9】
タンパク質(C)が、
N末端側から、
(C-1)抗原ペプチド、
(C-2)存在していてもよいスペーサー配列、及び
(C-3)テトラスパニン又はその膜貫通ドメインあるいはMFG-E8又はその膜貫通ドメインと、前記T細胞刺激性サイトカイン又はそのサブユニットを含む融合ペプチドを、この順番でコードするアミノ酸配列を含む、請求項4に記載の細胞外小胞。
【請求項10】
細胞外小胞が、エクソソームである、請求項1~9のいずれか一項記載の細胞外小胞。
【請求項11】
(a)請求項3で定義されるタンパク質(A)をコードするポリヌクレオチド;
(b)請求項3で定義されるタンパク質(B)をコードするポリヌクレオチド;又は
(c)請求項4で定義されるタンパク質(C)をコードするポリヌクレオチド。
【請求項12】
請求項11に記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
【請求項13】
(a)請求項3で定義されるタンパク質(A)をコードするポリヌクレオチド;及び/又は
(b)請求項3で定義されるタンパク質(B)をコードするポリヌクレオチドを含む、単一のベクター又は2以上のベクターの組み合わせにより形質転換された細胞。
【請求項14】
(c)請求項4で定義されるタンパク質(C)をコードするポリヌクレオチドを含むベクターにより形質転換された細胞。
【請求項15】
請求項13又は14に記載の細胞を培養して得られる培養上清。
【請求項16】
請求項15記載の培養上清に含まれる、細胞外小胞。
【請求項17】
請求項1又は2に記載の細胞外小胞を製造するための方法であって、
1)請求項13又は14に記載の細胞を培養する工程、
2)培養後の培養上清を回収する工程、及び
3)任意選択で回収された培養上清から細胞外小胞を精製する方法を含む、方法。
【請求項18】
請求項1又は2に記載の細胞外小胞、又は請求項15に記載の培養上清を含む、医薬組成物。
【請求項19】
前記抗原特異的なキメラ抗原受容体遺伝子導入T細胞(CAR-T細胞)を増殖させるための医薬組成物であって、請求項1又は2に記載の細胞外小胞を含む、医薬組成物。
【請求項20】
前記抗原を発現するがん細胞を含むがんを治療するための医薬組成物であって、請求項1又は2に記載の細胞外小胞を含み、前記抗原特異的なキメラ抗原受容体遺伝子導入T細胞(CAR-T細胞)を投与された患者に投与される、医薬組成物。
【請求項21】
前記抗原がHer2タンパク質又はその断片である、請求項19又は20に記載の医薬組成物。
【請求項22】
トロンボポエチン(TPO)と幹細胞因子(SCF)を膜外に提示する細胞外小胞。
【請求項23】
請求項22に記載の細胞外小胞であって、その膜に以下:
(A)―1 前記TPOを含む、該TPOを膜外に提示可能なタンパク質;及び
(A)―2 前記SCFを含む、該SCFを膜外に提示可能なタンパク質;
を含む、細胞外小胞。
【請求項24】
請求項22に記載の細胞外小胞であって、その膜に以下:
(A)―3 前記TPOと、前記SCFを含む、TPO及びSCFを膜外に提示可能なタンパク質
を含む、細胞外小胞。
【請求項25】
(B)L-selectin又はCXCL12を含み、L-selectin又はCXCL12を膜外に提示可能なタンパク質をさらに含む、請求項22~24のいずれか一項に記載の細胞外小胞。
【請求項26】
タンパク質(A)―1が、TPOと、細胞外小胞の膜に局在することが可能な膜タンパク質又は細胞外小胞の膜に結合することが可能なタンパク質との融合タンパク質である、請求項23に記載の細胞外小胞。
【請求項27】
タンパク質(A)―2が、SCFと、細胞外小胞の膜に局在することが可能な膜タンパク質又は細胞外小胞の膜に結合することが可能なタンパク質との融合タンパク質である、請求項23に記載の細胞外小胞。
【請求項28】
タンパク質(A)―3が、
前記TPOと、
前記SCFと、
細胞外小胞の膜に局在することが可能な膜タンパク質又は細胞外小胞の膜に結合することが可能なタンパク質
との融合タンパク質である、請求項24に記載の細胞外小胞。
【請求項29】
タンパク質(B)が、
前記L-selectin又はCXCL12と、
細胞外小胞の膜に局在することが可能な膜タンパク質又は細胞外小胞の膜に結合することが可能なタンパク質
との融合タンパク質である、請求項25に記載の細胞外小胞。
【請求項30】
細胞外小胞の膜に局在することが可能な膜タンパク質又は細胞外小胞の膜に結合することが可能なタンパク質が、テトラスパニン若しくはその膜貫通ドメイン又はMFG-E8若しくはその膜結合ドメインを含む、請求項26~29のいずれか一項に記載の細胞外小胞。
【請求項31】
細胞外小胞が、エクソソームである、請求項22~30のいずれか一項記載の細胞外小胞。
【請求項32】
(a)―1 請求項23で定義されるタンパク質(A)―1をコードするポリヌクレオチド;
(a)―2 請求項23で定義されるタンパク質(A)―2をコードするポリヌクレオチド;
(a)―3 請求項24で定義されるタンパク質(A)―3をコードするポリヌクレオチド;又は
(b) 請求項25で定義されるタンパク質(B)をコードするポリヌクレオチド。
【請求項33】
請求項22に記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
【請求項34】
(a)―1 請求項23で定義されるタンパク質(A)―1をコードするポリヌクレオチド;及び
(a)―2 請求項23で定義されるタンパク質(A)―2をコードするポリヌクレオチドを含む、単一のベクター又は2以上のベクターの組み合わせにより形質転換された細胞。
【請求項35】
(a)―3 請求項24で定義されるタンパク質(A)―3をコードするポリヌクレオチドを含むベクターにより形質転換された細胞。
【請求項36】
(d)請求項25で定義されるタンパク質(B)をコードするポリヌクレオチドをさらに含む、請求項34又は35に記載の細胞。
【請求項37】
請求項34~36のいずれか一項に記載の細胞を培養して得られる培養上清。
【請求項38】
請求項37に記載の培養上清に含まれる、細胞外小胞。
【請求項39】
請求項22に記載の細胞外小胞を製造するための方法であって、
1)請求項34~36のいずれか一項に記載の細胞を培養する工程、
2)培養後の培養上清を回収する工程、及び
3)任意選択で回収された培養上清から細胞外小胞を精製する方法を含む、方法。
【請求項40】
請求項22に記載の細胞外小胞を含む、医薬組成物。
【請求項41】
造血幹細胞をin vivo又はin vitroで活性化及び/又は増殖させるため医薬組成物であって、請求項22に記載の細胞外小胞を含む、医薬組成物。
【請求項42】
対象において再生不良性貧血を治療するための医薬組成物であって、請求項22に記載の細胞外小胞を含み、造血幹細胞を投与された対象に投与される、医薬組成物。
【請求項43】
対象において血液がんや免疫不全症を治療するための医薬組成物であって、請求項22に記載の細胞外小胞を含み、前記対象が、化学療法及び/又は放射線治療処置後、造血幹細胞を投与されている、医薬組成物。
【請求項44】
ActivinAを膜外に提示する細胞外小胞。
【請求項45】
請求項44に記載の細胞外小胞であって、その膜に以下:
(A)前記ActivinAを含む、該ActivinAを膜外に提示可能なタンパク質
を含む、細胞外小胞。
【請求項46】
さらにBc2Lcを膜外に提示する、請求項45に記載の細胞外小胞。
【請求項47】
請求項46に記載の細胞外小胞であって、その膜に以下:
(A)前記ActivinAを含む、該ActivinAを膜外に提示可能なタンパク質;及び
(B)前記Bc2Lcを含む、該Bc2Lcを膜外に提示可能なタンパク質;
を含む、細胞外小胞。
【請求項48】
請求項46に記載の細胞外小胞であって、その膜に以下:
(C)前記Bc2Lcと、前記ActivinAを含む、Bc2Lc及びActivinAを膜外に提示可能なタンパク質
を含む、細胞外小胞。
【請求項49】
タンパク質(A)が、ActivinAと、細胞外小胞の膜に局在することが可能な膜タンパク質又は細胞外小胞の膜に結合することが可能なタンパク質との融合タンパク質である、 請求項45又は47に記載の細胞外小胞。
【請求項50】
タンパク質(B)が、Bc2Lcと、細胞外小胞の膜に局在することが可能な膜タンパク質又は細胞外小胞の膜に結合することが可能なタンパク質との融合タンパク質である、請求項47に記載の細胞外小胞。
【請求項51】
タンパク質(C)が、
前記Bc2Lcと、
前記ActivinAと、
細胞外小胞の膜に局在することが可能な膜タンパク質又は細胞外小胞の膜に結合することが可能なタンパク質
との融合タンパク質である、請求項48に記載の細胞外小胞。
【請求項52】
細胞外小胞の膜に局在することが可能な膜タンパク質又は細胞外小胞の膜に結合することが可能なタンパク質が、テトラスパニン若しくはその膜貫通ドメイン又はMFG-E8若しくはその膜結合ドメインを含む、請求項49~51のいずれか一項に記載の細胞外小胞。
【請求項53】
細胞外小胞が、エクソソームである、請求項44~52のいずれか一項記載の細胞外小胞。
【請求項54】
(a)請求項47で定義されるタンパク質(A)をコードするポリヌクレオチド;
(b)請求項47で定義されるタンパク質(B)をコードするポリヌクレオチド;又は
(c)請求項48で定義されるタンパク質(C)をコードするポリヌクレオチド。
【請求項55】
請求項54に記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
【請求項56】
(a)請求項47で定義されるタンパク質(A)をコードするポリヌクレオチド;及び/又は
(b)請求項47で定義されるタンパク質(B)をコードするポリヌクレオチドを含む、単一のベクター又は2以上のベクターの組み合わせにより形質転換された細胞。
【請求項57】
(c)請求項48で定義されるタンパク質(C)をコードするポリヌクレオチドを含むベクターにより形質転換された細胞。
【請求項58】
請求項56又は請求項57のいずれか一項に記載の細胞を培養して得られる培養上清。
【請求項59】
請求項58に記載の培養上清に含まれる、細胞外小胞。
【請求項60】
請求項44又は46に記載の細胞外小胞を製造するための方法であって、
1)請求項56又は57に記載の細胞を培養する工程、
2)培養後の培養上清を回収する工程、及び
3)任意選択で回収された培養上清から細胞外小胞を精製する方法を含む、方法。
【請求項61】
請求項44又は46に記載の細胞外小胞を含む、iPS細胞又はES細胞の分化誘導剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CAR-T細胞活性化、造血幹細胞増殖、iPS細胞分化を制御する組成物およびその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
生体によるがん細胞等の排除や、自己抗原、アレルギー性物質等に対する応答の調節等の免疫反応には、抗原特異的なT細胞(例えば、細胞傷害性T細胞、ヘルパーT細胞等)が中心的な働きをしていることが知られている。抗原特異的なT細胞は、樹状細胞やマクロファージ等の抗原提示細胞の細胞表面のMHC分子と、がん、アレルギー性物質等に由来する抗原との結合複合体をT細胞受容体で認識して活性化、増殖、分化等する。活性化等した抗原特異的なT細胞は、抗原を提示しているがん細胞等を特異的に傷害することや、自己抗原、アレルギー性物質等に対する応答を調節する。したがって、抗原特異的なT細胞を活性化、増殖、分化等させることが、免疫反応において特に重要であると考えられている。
【0003】
抗原特異的なT細胞を活性化等させる方法としては、既に実用化されているT細胞にキメラ抗原受容体を発現させる方法だけでなく、その他の方法も開発されている。例えば、特許文献1は、MHC分子とT細胞共刺激分子とを表面上に含むナノ粒子が、抗原特異的なT細胞を増殖させることを開示している。また、非特許文献1は、PTGFRNを介してIL-12を膜上に発現させたエクソソームが、モデル抗原特異的なCD8陽性T細胞を増殖させることを開示している。
【0004】
本願発明者らも、抗原を提示するMHC分子とT細胞共刺激分子とをその表面に含むエクソソームを用いて、各種T細胞を活性化させる方法を開示している(特許文献2及び3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2016-520518号公報
【特許文献2】国際公開2021/172595号公報
【特許文献3】国際公開2021/172596号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Katherine Kirwin, et al., “Exosome Surface Display of IL-12 Results in Tumor-Retained Pharmacology with Superior Potency and Limited Systemic Exposure Compared to Recombinant IL-12”, 令和1年11月6日, 34th Annual Meeting of the Society for Immuno-therapy of Cancer
【非特許文献2】Journal of Extracellular Vesicles(2018);7:1535750
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
サイトカイン分子を共投与するよりも効率よく特定細胞を活性化(すなわち、増殖及び/又は分化)させる、新規な細胞活性化法、細胞活性化用組成物およびその用途を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究の結果、MHC分子を用いなくても、サイトカイン又はターゲット因子を膜外に提示する細胞外小胞であれば、特定の細胞(たとえばCAR-T細胞、造血幹細胞、iPS細胞)を活性化(すなわち、増殖及び/又は分化)できることを新たに見出し、本願発明を完成させた。
【0009】
したがって、本発明は、以下のものを含む:
[0] 少なくとも1種のサイトカインを膜外に提示する細胞外小胞。
[1] 少なくとも1種のターゲット因子を膜外に提示する細胞外小胞。
[2] 少なくとも1種のターゲット因子及び少なくとも1種のサイトカインを膜外に提示する細胞外小胞。
【0010】
[0A]
前記ターゲット因子が抗原である、[1]に記載の細胞外小胞。
[1A]
前記ターゲット因子が抗原であり、前記サイトカインがT細胞刺激性サイトカインである、[2]に記載の細胞外小胞。
[2A]
[0A]に記載の細胞外小胞であって、その膜に以下:
(B)前記抗原を含む、該抗原を膜外に提示可能なタンパク質;
を含む、細胞外小胞。
[3A]
[1A]に記載の細胞外小胞であって、その膜に以下:
(1)(A)前記T細胞刺激性サイトカイン又はそのサブユニットを含む、該T細胞刺激性サイトカインを膜外に提示可能なタンパク質;及び
(B)前記抗原を含む、該抗原を膜外に提示可能なタンパク質;
又は
(2)(C)前記抗原と、前記T細胞刺激性サイトカイン又はそのサブユニットを含む、抗原及びT細胞刺激性サイトカインを膜外に提示可能なタンパク質
を含む、細胞外小胞。
[4A]
タンパク質(B)が、
抗原と、
細胞外小胞の膜に局在することが可能な膜タンパク質又は細胞外小胞の膜に結合することが可能なタンパク質
との融合タンパク質である、[2A]又は[3A]に記載の細胞外小胞。
[5A]
タンパク質(A)が、
前記T細胞刺激性サイトカイン又はそのサブユニットと、
細胞外小胞の膜に局在することが可能な膜タンパク質又は細胞外小胞の膜に結合することが可能なタンパク質
との融合タンパク質である、[3A]に記載の細胞外小胞。
[6A]
タンパク質(C)が、
前記抗原と、
前記T細胞刺激性サイトカイン又はそのサブユニットと、
細胞外小胞の膜に局在することが可能な膜タンパク質又は細胞外小胞の膜に結合することが可能なタンパク質
との融合タンパク質である、[3A]に記載の細胞外小胞。
[7A]
細胞外小胞の膜に局在することが可能な膜タンパク質又は細胞外小胞の膜に結合することが可能なタンパク質が、テトラスパニン若しくはその膜貫通ドメイン又はMFG-E8若しくはその膜結合ドメインを含む、[4A]~[6A]のいずれか一項に記載の細胞外小胞。
[8A]
タンパク質(C)が、
N末端側から、
(C-1)抗原ペプチド、
(C-2)存在していてもよいスペーサー配列、及び
(C-3)テトラスパニン又はその膜貫通ドメインあるいはMFG-E8又はその膜貫通ドメインと、前記T細胞刺激性サイトカイン又はそのサブユニットを含む融合ペプチドを、この順番でコードするアミノ酸配列を含む、[3A]に記載の細胞外小胞。
[9A]
タンパク質(C)が、
N末端側から、
(C-1)テトラスパニン又はその膜貫通ドメインあるいはMFG-E8又はその膜貫通ドメインと、前記T細胞刺激性サイトカイン又はそのサブユニットを含む融合ペプチド
(C-2)存在していてもよいスペーサー配列、及び
(C-3)抗原ペプチドを、
この順にコードするアミノ酸配列を含む、[3A]に記載の細胞外小胞。
[10A] 前記融合ペプチドが、N末端側から、
(1)膜貫通ドメイン1、小型細胞外ループ、膜貫通ドメイン2、小型細胞内ループ及び膜貫通ドメイン3を含むテトラスパニンの部分配列、
(2)存在していてもよいスペーサー配列、
(3)前記T細胞刺激性サイトカイン又はそのサブユニット、
(4)存在していてもよいスペーサー配列、並びに
(5)膜貫通ドメイン4を含むテトラスパニンの部分配列
をこの順番でコードするアミノ酸配列を含む、[8A]又は[9A]に記載の細胞外小胞。
[11A] 前記融合ペプチドが、N末端側から、
(1)前記T細胞刺激性サイトカイン又はそのサブユニット、
(2)存在していてもよいスペーサー配列、及び
(3)MFG-E8
をこの順番でコードするアミノ酸配列を含む、[8A]又は[9A]に記載の細胞外小胞。
[12A] 細胞外小胞が、エクソソームである、[0A]~[11A]のいずれか一項記載の細胞外小胞。
【0011】
[13A]
(a)[3A]で定義されるタンパク質(A)をコードするポリヌクレオチド;
(b)[2A]又は[3A]で定義されるタンパク質(B)をコードするポリヌクレオチド;又は
(c)[3A]で定義されるタンパク質(C)をコードするポリヌクレオチド。
[14A]
[13A]に記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
[15A]
(a)[3A]で定義されるタンパク質(A)をコードするポリヌクレオチド;及び
(b)[2A]又は[3A]で定義されるタンパク質(B)をコードするポリヌクレオチド
を含む、単一のベクター又は2以上のベクターの組み合わせにより形質転換された細胞。
[16A]
(c)[3A]で定義されるタンパク質(C)をコードするポリヌクレオチドを含むベクターにより形質転換された細胞。
[17A]
[15A]又は[16A]に記載の細胞を培養して得られる培養上清。
[18A]
[17A]に記載の培養上清に含まれる、細胞外小胞。
[19A]
[1A]に記載の細胞外小胞を製造するための方法であって、
1)[15A]又は[16A]に記載の細胞を培養する工程、
2)培養後の培養上清を回収する工程、及び
3)任意選択で回収された培養上清から細胞外小胞を精製する方法を含む、方法。
【0012】
[20A]
[0A]又は[1A]に記載の細胞外小胞を含む、医薬組成物。
[21A]
前記抗原に特異的なキメラ抗原受容体遺伝子導入T細胞(CAR-T細胞)をin vivo又はin vitroで増殖させるため医薬組成物であって、[0A]又は[1A]に記載の細胞外小胞を含む、医薬組成物。
[22A]
前記抗原を発現するがん細胞を含むがんを治療するための医薬組成物であって、[0A]又は[1A]に記載の細胞外小胞を含み、前記抗原特異的なキメラ抗原受容体遺伝子導入T細胞(CAR-T細胞)を投与された患者に投与される、医薬組成物。
[23A]
前記抗原がHer2タンパク質又はその断片である、[21A]又は[22A]に記載の医薬組成物。
【0013】
[24A]
前記抗原特異的なキメラ抗原受容体遺伝子導入T細胞(CAR-T細胞)を投与された対象において、該CAR-T細胞を活性化及び/又は増殖させるための方法であって、対象に[0A]又は[1A]に記載の細胞外小胞を投与することを含み、
ここで、CAR-T細胞のキメラ抗原受容体と細胞外小胞の膜外に提示された前記抗原が反応し、好ましくは更にCAR-T細胞上のT細胞刺激性サイトカイン受容体と細胞外小胞の膜外に提示された前記T細胞刺激性サイトカインが反応することにより、CAR-T細胞が対象内で活性化及び/又は増殖する、方法。
[25A]
対象において前記抗原を発現するがん細胞を含むがんを治療するための方法であって、
対象に、前記抗原特異的なキメラ抗原受容体遺伝子導入T細胞(CAR-T細胞)を投与し、その後、[0A]又は[1A]に記載の細胞外小胞を投与することを含み、
ここで、CAR-T細胞のキメラ抗原受容体と細胞外小胞の膜外に提示された前記抗原が反応し、好ましくは更にCAR-T細胞上のT細胞刺激性サイトカイン受容体と細胞外小胞の膜外に提示された前記T細胞刺激性サイトカインが反応することにより、CAR-T細胞が対象内で活性化及び/又は増殖し、活性化及び/又は増殖したCAR-T細胞が前記がん細胞を攻撃することにより、がん細胞の増殖を抑制してがんを治療する、方法。
[26A]
前記抗原がHer2タンパク質又はその断片である、[24A]又は[25A]に記載の方法。
【0014】
[27A]
前記抗原特異的なキメラ抗原受容体遺伝子導入T細胞(CAR-T細胞)を投与された対象において、該CAR-T細胞を活性化及び/又は増殖させるための医薬の製造における[1A]に記載の細胞外小胞の使用。
[28A]
対象において前記抗原を発現するがん細胞を含むがんを治療するための医薬の製造における[1A]に記載の細胞外小胞の使用であって、前記抗原特異的なキメラ抗原受容体遺伝子導入T細胞(CAR-T細胞)が対象に投与されている、使用。
[29A]
前記抗原がHer2タンパク質又はその断片である、[27A]又は[28A]に記載の方法。
【0015】
[1B]
前記サイトカインがトロンボポエチン(TPO)及び/又は幹細胞因子(SCF)である、[0]に記載の細胞外小胞。
[2B]
[1B]に記載の細胞外小胞であって、その膜に以下:
(A)-1 前記TPOを含む、該TPOを膜外に提示可能なタンパク質;及び
(A)-2 前記SCFを含む、該SCFを膜外に提示可能なタンパク質;
を含む、細胞外小胞。
[3B]
[1B]に記載の細胞外小胞であって、その膜に以下:
(A)―3 前記TPOと、前記SCFを含む、TPO及びSCFを膜外に提示可能なタンパク質
を含む、細胞外小胞。
[4B]
(B)L-selectin及び/又はCXCL12を含み、L-selectin及び/又はCXCL12を膜外に提示可能なタンパク質をさらに含む、[1B]~[3B]のいずれか一項に記載の細胞外小胞。
[5B]
タンパク質(A)―1が、TPOと、細胞外小胞の膜に局在することが可能な膜タンパク質又は細胞外小胞の膜に結合することが可能なタンパク質との融合タンパク質である、[2B]に記載の細胞外小胞。
[6B]
タンパク質(A)―2が、SCFと、細胞外小胞の膜に局在することが可能な膜タンパク質又は細胞外小胞の膜に結合することが可能なタンパク質との融合タンパク質である、[2B]に記載の細胞外小胞。
[7B]
タンパク質(A)―3が、
前記TPOと、
前記SCFと、
細胞外小胞の膜に局在することが可能な膜タンパク質又は細胞外小胞の膜に結合することが可能なタンパク質
との融合タンパク質である、[3B]に記載の細胞外小胞。
[8B]
タンパク質(B)が、
前記L-selectin又はCXCL12と、
細胞外小胞の膜に局在することが可能な膜タンパク質又は細胞外小胞の膜に結合することが可能なタンパク質
との融合タンパク質である、[4B]に記載の細胞外小胞。
[9B]
細胞外小胞の膜に局在することが可能な膜タンパク質又は細胞外小胞の膜に結合することが可能なタンパク質が、テトラスパニン若しくはその膜貫通ドメイン又はMFG-E8若しくはその膜結合ドメインを含む、[5B]~[8B]のいずれか一項に記載の細胞外小胞。
[10B]
細胞外小胞が、エクソソームである、[1B]~[8B]のいずれか一項記載の細胞外小胞。
[11B]
(a)―1 [2B]で定義されるタンパク質(A)―1をコードするポリヌクレオチド;
(a)―2 [2B]で定義されるタンパク質(A)―2をコードするポリヌクレオチド;
(a)―3 [3B]で定義されるタンパク質(A)―3をコードするポリヌクレオチド;又は
(b) [4B]で定義されるタンパク質(B)をコードするポリヌクレオチド。
[12B]
[11B]に記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
[13B]
(a)―1 [2B]で定義されるタンパク質(A)―1をコードするポリヌクレオチド;及び/又は
(a)―2 [2B]で定義されるタンパク質(A)―2をコードするポリヌクレオチドを含む、単一のベクター又は2以上のベクターの組み合わせにより形質転換された細胞。
[14B]
(a)―3 [3B]で定義されるタンパク質(A)―3をコードするポリヌクレオチドを含むベクターにより形質転換された細胞。
[15B]
(d)[4B]で定義されるタンパク質(B)をコードするポリヌクレオチドをさらに含む、[13B]又は[14B]に記載の細胞。
[16B]
[13B]~[15B]のいずれか一項に記載の細胞を培養して得られる培養上清。
[17B]
[16B]に記載の培養上清に含まれる、細胞外小胞。
[18B]
[1B]に記載の細胞外小胞を製造するための方法であって、
1)[13B]~[15B]のいずれか一項に記載の細胞を培養する工程、
2)培養後の培養上清を回収する工程、及び
3)任意選択で回収された培養上清から細胞外小胞を精製する方法を含む、方法。
[19B]
[1B]に記載の細胞外小胞、又は[16B]記載の培養上清を含む、医薬組成物。
【0016】
[20B]
造血幹細胞をin vivo又はin vitroで活性化及び/又は増殖させるため医薬組成物であって、[1B]に記載の細胞外小胞を含む、医薬組成物。
[21B]
対象において再生不良性貧血を治療するための医薬組成物であって、[1B]に記載の細胞外小胞を含み、造血幹細胞を投与された対象に投与される、医薬組成物。
[22B]
対象において血液がんや免疫不全症を治療するための医薬組成物であって、[1B]に記載の細胞外小胞を含み、前記対象が、化学療法及び/又は放射線治療処置後、造血幹細胞を投与されている、医薬組成物。
【0017】
[23B]
造血幹細胞を投与された対象において、該造血幹細胞を活性化及び/又は増殖させるための方法であって、対象に[1B]に記載の細胞外小胞を投与することを含み、
ここで、造血幹細胞上のサイトカインレセプターと細胞外小胞の膜外に提示されたサイトカインが反応することにより、造血幹細胞が対象内で活性化及び/又は増殖する、方法。
[23B]
前記対象が、再生不良性貧血を患っている、[22B]に記載の方法。
[24B]
対象において血液がんや免疫不全症を治療するための方法であって、
対象に、化学療法及び/又は放射線治療処置後、造血幹細胞を投与し、その後、[1B]に記載の細胞外小胞を投与することを含み、
ここで、投与された造血幹細胞上のサイトカインレセプターと細胞外小胞の膜外に提示されたサイトカインが反応することにより、造血幹細胞が対象内で活性化及び/又は増殖して、対象における造血機能が回復する、方法。
【0018】
[25B]
造血幹細胞を投与された対象において、該造血幹細胞を活性化及び/又は増殖させるための医薬の製造における、[1B]に記載の細胞外小胞の使用。
[26B]
前記対象が、再生不良性貧血を患っている、[25B]に記載の使用。
[27B]
対象において血液がんや免疫不全症を治療するための医薬の製造における、[1B]に記載の細胞外小胞の使用であって、
ここで、前記対象が、化学療法及び/又は放射線治療処置後、造血幹細胞を投与されており、投与された造血幹細胞上のサイトカインレセプターと細胞外小胞の膜外に提示されたサイトカインが反応することにより、造血幹細胞が対象内で活性化及び/又は増殖して、対象における造血機能が回復する、使用。
【0019】
[1C]
前記サイトカインがActivinAである、[0]に記載の細胞外小胞。
[2C]
前記ターゲット因子がBc2Lcであり、前記サイトカインがActivinAである、[1]に記載の細胞外小胞。
[3C]
[1C]に記載の細胞外小胞であって、その膜に以下:
(A)前記ActivinAを含む、該ActivinAを膜外に提示可能なタンパク質を含む、細胞外小胞。
[4C]
[2C]に記載の細胞外小胞であって、その膜に以下:
(A)前記ActivinAを含む、該ActivinAを膜外に提示可能なタンパク質;及び
(B)前記Bc2Lcを含む、該Bc2Lcを膜外に提示可能なタンパク質;
を含む、細胞外小胞。
[5C]
[2C]に記載の細胞外小胞であって、その膜に以下:
(C)前記Bc2Lcと、前記ActivinAを含む、Bc2Lc及びActivinAを膜外に提示可能なタンパク質
を含む、細胞外小胞。
[6C]
タンパク質(B)が、Bc2Lcと、細胞外小胞の膜に局在することが可能な膜タンパク質又は細胞外小胞の膜に結合することが可能なタンパク質との融合タンパク質である、[4C]に記載の細胞外小胞。
[7C]
タンパク質(A)が、ActivinAと、細胞外小胞の膜に局在することが可能な膜タンパク質又は細胞外小胞の膜に結合することが可能なタンパク質との融合タンパク質である、 [3C]又は[4C]に記載の細胞外小胞。
[8C]
タンパク質(C)が、
前記Bc2Lcと、
前記ActivinAと、
細胞外小胞の膜に局在することが可能な膜タンパク質又は細胞外小胞の膜に結合することが可能なタンパク質
との融合タンパク質である、[5C]に記載の細胞外小胞。
[9C]
細胞外小胞の膜に局在することが可能な膜タンパク質又は細胞外小胞の膜に結合することが可能なタンパク質が、テトラスパニン若しくはその膜貫通ドメイン又はMFG-E8若しくはその膜結合ドメインを含む、[6C]~[8C]のいずれか一項に記載の細胞外小胞。
[10C]
細胞外小胞が、エクソソームである、[1C]~[9C]のいずれか一項記載の細胞外小胞。
[11C]
(a)[3C]又は[4C]で定義されるタンパク質(A)をコードするポリヌクレオチド;
(b)[4C]で定義されるタンパク質(B)をコードするポリヌクレオチド;又は
(c)[5C]で定義されるタンパク質(C)をコードするポリヌクレオチド。
[12C]
[11C]に記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
[13C]
(a)[3C]又は[4C]で定義されるタンパク質(A)をコードするポリヌクレオチド;及び/又は
(b)[4C]で定義されるタンパク質(B)をコードするポリヌクレオチドを含む、単一のベクター又は2以上のベクターの組み合わせにより形質転換された細胞。
[14C]
(c)[5C]で定義されるタンパク質(C)をコードするポリヌクレオチドを含むベクターにより形質転換された細胞。
[15C]
[11C]又は[12C]のいずれか一項に記載の細胞を培養して得られる培養上清。
[16C]
[15C]に記載の培養上清に含まれる、細胞外小胞。
[17C]
[1C]に記載の細胞外小胞を製造するための方法であって、
1)[11C]又は[12C]に記載の細胞を培養する工程、
2)培養後の培養上清を回収する工程、及び
3)任意選択で回収された培養上清から細胞外小胞を精製する方法を含む、方法。
[18C]
[1C]に記載の細胞外小胞、又は[13C]記載の培養上清を含む、iPS細胞又はES細胞の分化誘導剤。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、主要組織適合遺伝子複合体(Major Histocompatibility Complex、以下、「MHC」ともいう。)分子を用いなくても、サイトカインを膜外に提示する細胞外小胞であれば、特定の細胞を活性化(すなわち、増殖及び/又は分化)できる。さらに特定の細胞を認識するターゲット因子を共存させることにより、選択的に特定の細胞を活性化(すなわち、増殖及び/又は分化)できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】実施例1.2.1.における細胞外小胞の膜に含まれる融合タンパク質のフローサイトメトリー解析の結果。上段:サンプル3の細胞外小胞;下段:サンプル4の細胞外小胞。
図2】実施例1.3.1.におけるヒト骨髄CD34陽性前駆細胞を用いた細胞増殖評価の結果。
図3】実施例2.2.1.における細胞外小胞の膜に含まれる融合タンパク質のフローサイトメトリー解析の結果。
図4】実施例2.3.2.におけるActivin A発現細胞外小胞を用いたiPSC分化誘導実験の結果。
図5】実施例3.1.における、各遺伝子構成の模式図。
図6】実施例3.2.3.における細胞外小胞の膜に含まれる融合タンパク質のフローサイトメトリー解析の結果。
図7】実施例3.3.におけるIn vitroでの細胞外小胞の評価の結果。
図8】実施例3.4.の実験スケジュールとその結果。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本明細書において「含む」(comprising)は、「実質的に含む」態様(substantially comprising)、「必須に含む」態様(essentially comprising)、「本質的に…からなる」態様(consiting essentially of)、及び「からなる」態様(consisting of)を包含する。
【0023】
本明細書中で用いられる「細胞外小胞」とは、細胞から分泌される小胞である限り特段限定されるものではないが、例えば、Exosomes(エクソソーム)、Microvesicles(MV;微小小胞体)、Apoptotic Bodies(アポトーシス小体)等が挙げられる。
【0024】
本明細書中で用いられる「エクソソーム」とは、エンドサイト-シス・パスウエイに由来する、約20~約500nm(好ましくは約20~約200nm、より好ましくは約25~約150nm、更に好ましくは約30~約100nm)の小胞を意味する。エクソソームの構成成分としては、例えば、タンパク質、核酸(mRNA、miRNA、ノン・コーティングRNA)等が挙げられる。エクソソームは、細胞間コミュニケーションを司る機能を有しうる。エクソソームのマーカー分子としては、例えば、Alix、Tsg101、テトラスパニン、flotillin、フォスファチジルセリン等が挙げられる。
【0025】
本明細書中で用いられる「微小小胞体」とは、細胞質膜に由来する、約50~約1000nmの小胞を意味する。微小小胞体の構成成分としては、例えば、タンパク質、核酸(mRNA、miRNA、ノン・コーティングRNA等)等が挙げられる。微小小胞体は、細胞間コミュニケーションを司る機能等を有しうる。微小小胞体のマーカー分子としては、例えば、インテグリン、セレクチン、CD40、CD154等が挙げられる。
【0026】
本明細書中で用いられる「アポトーシス小体」とは、細胞質膜に由来する、約500~約2000nmの小胞を意味する。アポトーシス小体の構成成分としては、例えば、断片化された核、細胞小器官(オルガネラ)等が挙げられる。アポトーシス小体は、ファゴサイトーシスを誘導する機能等を有しうる。アポトーシス小体のマーカー分子としては、例えば、Annexin V、フォスファチジルセリン等が挙げられる。
【0027】
「サイトカイン (cytokine)」 は、細胞から分泌されるタンパク質の生理活性物質をいう。特に限定しないが、インターフェロン(IFN)、インターロイキン(IL)、ケモカイン(CCLなど)、幹細胞因子(SCF)、造血因子(コロニー刺激因子(CSF)、エリスロポエチン(EPO)、トロンボポエチン(TPO)など)、腫瘍壊死因子(TNF)、増殖因子(EGF、FGF、TGF-βなど)、アクチビン、インヒビンなどが挙げられる。
本明細書においては、未成熟(不活性型)又は成熟(活性型)なサイトカインだけでなく、その部分配列、活性型のサイトカインのサブユニットもサイトカインに含めてよい。
サイトカインは、任意の動物種由来のものであってもよい。例えば、マウス、ラット等のげっ歯類;ウサギ等のウサギ目;ブタ、ウシ、ヤギ、ウマ、ヒツジ等の有蹄類;イヌ、ネコ等のネコ目;ヒト、サル、アカゲザル、カニクイザル、マーモセット、オランウータン、チンパンジー等の霊長類等の哺乳動物等の動物に由来するものが挙げられる。本明細書中に記載のサイトカインは、好ましくは、げっ歯類又は哺乳類動物に由来するものであり、より好ましくは、マウス又はヒトに由来するものである。
本明細書中に記載のサイトカインは、その機能を発揮することができるものである限り、その野生型のアミノ酸配列に対して、アミノ酸配列同一性が、80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、更に好ましくは98%以上、より更に好ましくは99%以上のものであってもよい。或いは、本明細書中に記載のサイトカインは、その機能を発揮することができるものである限り、その野生型のアミノ酸配列に対して、1個又は複数個のアミノ酸の欠失、挿入、付加及び/又は置換等されたものであってもよい。
【0028】
「T細胞刺激性サイトカイン」とは、T細胞の膜上に発現する受容体等を介して、T細胞を刺激(例えば、活性化、抑制等)することが可能なサイトカインである。T細胞刺激性サイトカインとしては、これらに限定されるものではないが、例えば、IL-2、IL-4、IL-6、IL-7、IL-12、TGF-β、IFN-α、IFN-γ等が挙げられる。これらのうち、ホモ若しくはヘテロのサブユニットの多量体を形成しうるもの(例えば、IL-12、TGF-β等)は、機能的である限り(即ち、所望の薬理活性を有しうる限り)、場合によりペプチドリンカー等を介して連結された、連続したアミノ酸配列のものであってもよい。
【0029】
本明細書中で用いられる「ターゲット因子」とは、本願発明に係る細胞外小胞が刺激する細胞の表面に存在する分子と結合できる分子を指す。細胞の表面に存在する分子としては、特に限定しないが、抗体、受容体、細胞接着分子、糖鎖(及び糖鎖タンパク質)などが挙げられる。細胞の表面に存在する分子が抗体の場合は、その抗体が認識する抗原;細胞の表面に存在する分子が受容体の場合はそのリガンド(たとえばCXCL12のようなケモカイン);細胞接着因子の場合はその細胞接着分子と結合する分子;細胞の表面に存在する分子が糖鎖(及び糖鎖タンパク質)の場合はその糖鎖と結合する糖鎖結合タンパク質(たとえば、L-selectinのようなセレクチンやBc2Lcのようなレクチン)等がターゲット因子に相当する。
【0030】
本明細書中で用いられる「抗原」とは、抗原性を有しうるものである限り特段限定されるものではなく、ペプチド性の抗原(すなわち、抗原ペプチド)だけでなく、リン脂質、複合炭水化物等の非ペプチド性の抗原(例えば、ミコール酸、リポアラビノアンナン等の細菌性膜構成要素等)も包含される。
【0031】
本明細書中で用いられる「抗原ペプチド」は、抗原となりうる2以上のアミノ酸で構成されるペプチド(50超のアミノ酸で構成されるものを含む)である限り特段限定されるものではなく、天然由来のものであっても、合成由来のものであっても、市販されているものであってもよい。抗原ペプチドは、遺伝子産物の全長アミノ配列又はその部分アミノ酸配列を含んでもよい。抗原ペプチドは、これらに限定されるものではないが、例えば、Axl、BAFF-R、B7-H3、BCMA、CAIX、CD19、CD20、CD22、CD38、CD70、CD138、CEA、CLDN6、EpCAM、FAP、Flt3、葉酸受容体-α、GD2、Glypican 3、GM-CSF受容体、GRP78、GPC1、HGFR、Integrinαvβ6、IL3R、IL13Ra2、TAG72、Mesothelin、MUC1、MUC16、PSCA、PSMA、ROR1、5T4、WT-1、α-胎児タンパク質、MAGE-1、MAGE-3、胎盤アルカリ性ホスファターゼシアリル-ルイスX、CA-125、CA-19、TAG-72、上皮糖タンパク質2、α胎児タンパク質受容体、M2A、チロシナーゼ、Ras、p53、Her-2/neu、EGF-R、エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体、myc、BCR-ABL、HPV型16、メラノトランスフェリン、MUC1、CD10、CD37、CD45R、IL-2受容体α鎖、T細胞受容体、前立腺酸性ホスファターゼ、GP100、MelanA/Mart-1、gp75/ブラウン、BAGE、S-100、イトケラチン、CYFRA21-1等の腫瘍関連抗原ペプチド(その全長配列及び部分配列を含む);インスリン、グルタミン酸デカルボキシラーゼ、ICA512/IA-2タンパク質チロシンホスファターゼ、ICA12、ICA69、プレプロインスリン、HSP60、カルボキシペプチダーゼH、ペリフェリン、GM1-2、ビトロネクチン、βクリスタリン、カルレティキュリン、セロトランスフェリン、ケラチン、ピルビン酸カルボキシラーゼ、C1、ビリン2、ヌクレオソーム、リボヌクレオタンパク質、ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質、ミエリン関連糖タンパク質、ミエリン/オリゴデンドロサイト塩基性タンパク質、オリゴデンドロサイト特異的タンパク質、ミエリン塩基性タンパク質、プロテオリピドアポタンパク質等の自己抗原ペプチド(その全長配列及び部分配列を含む);原生動物(例えば、マラリア原虫、リーシュマニア種、トリパノソーマ種)、細菌(例えば、グラム陽性球菌、グラム陽性桿菌、グラム陰性細菌、嫌気性菌)、真菌(例えば、アスペルギルス、ブラストミセス、カンジダ、コクシジオイデス、クリプトコッカス、ヒストプラスマ、パラコクシジオイデス、スポロスリックス)、ウイルス(例えば、アデノウイルス、単純ヘルペスウイルス、パピローマウイルス、呼吸シンシチアウイルス、ポックスウイルス、HIV、インフルエンザウイルス、SARS-CoVやSARS-CoV2のようなコロナウイルス)、細胞内寄生体(例えば、クラミジア科、マイコプラズマ科、アコレプラスマ科、リケッチア科)、蠕虫(例えば、線虫、吸虫、条虫)等の感染病原体に由来する抗原ペプチド(その全長配列及び部分配列を含む);プリオン等のその他の抗原ペプチド(その全長配列及び部分配列を含む)等が挙げられる。
抗原ペプチドは、アレルギー症状を引き起こすアレルゲンを含んでもよい。アレルゲンとしては、上記原生動物、細菌、真菌、細胞内寄生体及び蠕虫に由来するペプチド以外に、外来性のペプチド、たとえば、ハウスダスト、ダニ、動物(たとえばネコ、イヌなどのコンパニオンアニマル)、及び花粉(たとえば、スギやヒノキ)由来のペプチド等が例示される。より詳細には、 Cryj1などのスギ花粉に含まれるタンパク質(その全長配列及び部分配列を含む)が例示される。あるいは、アレルギー症状を引き起こすアレルゲンは、食物由来のものであってよい。食物に対するアレルギー症状を引き超すアレルゲンとしては、鶏卵、牛乳、小麦、そば、かに、えび及び落花生由来のペプチド(その全長配列及び部分配列を含む)等が例示される。
抗原ペプチドは、任意のプロセシングや修飾(たとえば、リン酸化や糖鎖修飾)をされていてもよい。
【0032】
サイトカイン又はターゲット因子を「膜外に提示する細胞外小胞」とは以下に規定される(A)、(B)、(C)に規定されるタンパク質を膜に含むことによって、サイトカイン又はターゲット因子を膜外に提示させてもよい。
あるいは、単離した細胞外小胞にあとから、その膜表面にサイトカイン又はターゲット因子を付着させてもよい。付着させる方法は特に限定しないが、サイトカイン又はターゲット因子に各々リン脂質を結合し、細胞外小胞の膜に新脂質部分を取り込ませることにより、膜表面にサイトカイン又はターゲット因子を付着させてもよい。細胞外小胞にはフォスファチジルセリンが表面に存在している。従って、フォスファチジルセリンと結合するMFG-E8に、提示させたいサイトカイン又はターゲット因子を融合させたタンパク質を各々合成精製して、その融合タンパク質と細胞外小胞を混合することにより、膜表面にサイトカイン又はターゲット因子を提示する細胞外小胞を作製することができる。また、ペプチドネオエピトープ(PNE)ナノボディをあらかじめ発現させた細胞外小胞に、後からPNEtagを付けたサイトカイン又はターゲット因子を加えて細胞外小胞の膜表面に提示させてもよい。ストレプトアビジンを発現させた細胞外小胞にビオチン化したサイトカイン又はターゲット因子を加えて、細胞外小胞の膜表面に提示させてもよい。
【0033】
本明細書中で用いられる「XXXを含む、該XXXを膜外に提示可能なタンパク質」とは、XXXを少なくとも含み、細胞外小胞の膜外に該XXXを提示することが可能なタンパク質を意味する。「XXXを膜外に提示可能なタンパク質」は、XXXが細胞又は細胞外小胞の膜に発現するように、プラスミド等を用いて、XXXと膜タンパク質又はその膜貫通ドメインを含むフラグメント等とを含む融合タンパク質として発現させたものであってもよい。或いは、「XXXを含む、XXXを膜外に提示可能なタンパク質」は、可溶性のXXX(これらに限定されるものではないが、例えば、XXXそのもの;XXXと抗体のFc部分との融合タンパク質;XXXと、XXXを認識する抗体、又はその抗原結合性フラグメント(例えば、scFv、Fab若しくはナノボディ)等と、の複合体等)を用いる場合、可溶性のXXXと細胞外小胞とを、必要に応じて脂質リンカー、ペプチドリンカー等を介して、細胞外小胞の膜に結合させたものであってもよい(例えば、特開2018-104341号公報等に記載の方法を参考にしてもよい)。或いは、可溶性のXXXのN末端側又はC末端側に所望のタグ(例えば、Hisタグ、FLAGタグ、PNEタグを付加したもの(該タグは、例えば、他の構成要素とともに融合タンパク質として発現させてもよいし、別途用意した可溶性のXXXに、必要に応じてリンカー等を介して結合させてもよい)と、該タグに対する抗体又はその抗原結合性フラグメント(例えば、scFv、Fab若しくはナノボディ)等を含むタンパク質(例えば、必要に応じてリンカー等を介して細胞外小胞の膜に結合した、該タグに対する抗体又はその抗原結合性フラグメント(例えば、scFv、Fab若しくはナノボディ)等自体;細胞外小胞の膜に発現することが可能な膜タンパク質又はその膜貫通ドメインのN末端側又はC末端側に、該タグに対するナノボディが結合した、融合タンパク質等)を膜に含む細胞外小胞とを、所望の条件で混合したものであってもよい(例えば、Raj D, et al., Gut., 2019 Jun;68(6):1052-1064等に記載の、PNEタグと該タグに対する抗体等とを用いる方法を参考にしてもよい)。なお、サブユニットの多量体で形成されるXXXの場合、そのサブユニットの1つが、細胞外小胞の膜外に提示することが可能なタンパク質であれば、残りのサブユニットは膜外に提示可能な態様である必要はない。そのサブユニットの1つが、細胞外小胞の膜外に提示することが可能なタンパク質であれば、他のサブユニットを添加又は共発現させることにより、機能的なXXXが細胞外小胞の膜外に構築されうる。
【0034】
本明細書中で用いられる「細胞外小胞の膜に発現することが可能な膜タンパク質若しくはその膜貫通ドメイン」としては、細胞外小胞の膜に発現することが可能なものである限り、任意の膜タンパク質又はその膜貫通ドメインを選択することができる。「細胞外小胞の膜に発現することが可能な膜タンパク質又はその膜貫通ドメイン」は、細胞外小胞(例えば、エクソソーム等)に発現しうることが知られている膜タンパク質(例えば、テトラスパニン、CD58、ICAM-1、PTGFRN(例えば、非特許文献1、国際公開第2019/183578号等を参照)等)、又はこれらの膜貫通ドメイン等が好ましい。
【0035】
本明細書中で用いられる「細胞外小胞の膜に結合することが可能なタンパク質若しくはそのドメイン」としては、細胞外小胞の膜に結合することが可能なものである限り、任意のタンパク質又はそのドメインを選択することができる。「細胞外小胞の膜に結合することが可能なタンパク質若しくはそのドメイン」は、細胞外小胞(例えば、エクソソーム等)の膜に結合しうることが知られているもの(例えば、MFG-E8、又はそのドメイン(例えば、Alain Delcayre, et al., Blood Cells, Molecules, and Diseases 35 (2005) 158-168に記載のMFG-E8のC1、C2ドメイン))等が好ましい。
【0036】
本明細書中に記載の「細胞外小胞の膜に発現することが可能な膜タンパク質若しくはその膜貫通ドメイン」又は「細胞外小胞の膜に結合することが可能なタンパク質若しくはそのドメイン」は、任意の動物種由来のものであってもよい。例えば、マウス、ラット等のげっ歯類;ウサギ等のウサギ目;ブタ、ウシ、ヤギ、ウマ、ヒツジ等の有蹄類;イヌ、ネコ等のネコ目;ヒト、サル、アカゲザル、カニクイザル、マーモセット、オランウータン、チンパンジー等の霊長類等の哺乳動物等の動物に由来するものが挙げられる。本明細書中に記載の「細胞外小胞の膜に発現することが可能な膜タンパク質若しくはその膜貫通ドメイン」又は「細胞外小胞の膜に結合することが可能なタンパク質若しくはそのドメイン」は、好ましくは、げっ歯類又は哺乳類動物に由来するものであり、より好ましくは、マウス又はヒトに由来するものである。
【0037】
非特許文献2によると、哺乳動物の細胞外小胞のマーカーは以下のように分類される。
細胞外小胞のマーカータンパク質として用いることのできる膜タンパク質又はGPIアンカータンパク質としては、
1)組織非特異的なもの
テトラスパニン(CD63,CD9,CD81,CD82),他の複数膜貫通型の膜タンパク質(CD47やヘテロ3量体Gタンパク質(GNA:Guanine nucleotide-binding proteins)など)
MHC クラスI(HLA-A/B/C,H2-K/D/Q),
インテグリン(ITGA/ITGB)、トランスフェリン受容体(TFR2);
LAMP1/2;
ヘパラン硫酸プロテオグリカン(シンデカン(SDC)を含む);
細胞外マトリックスメタロプロテアーゼ誘導物質(EMMPRIN)(BSG又はCD147ともいう);
ADAM10;
GPIアンカー型の5’ヌクレオチダーゼであるCD73(NT5E),
GPIアンカー型の補体結合タンパク質であるCD55及びCD59;
ソニックヘッジホッグタンパク質(SHH)
2)細胞/組織特異的なもの
いくつかのテトラスパニン:TSPAN8(上皮細胞特異的)、CD37及びCD53(白血球特異的);
PECAM1(内皮細胞特異的);
ERBB2(乳癌特異的);
EPCAM(上皮性特異的);
CD90(THY1)(間葉系幹細胞特異的);
CD45(PTPRC)(免疫細胞特異的)、CD41(ITGA2B)又はCD42a(GP9)(血小板特異的);
グリコホリンA(GYPA)(赤血球特異的);
CD14(単球特異的),MHCクラスII(HLA-DR/DP/DQ,H2-A);
CD3(T細胞特異的);
アセチルコリンエステラーゼ/AChE-S(神経細胞特異的)、AChE-E(赤血球特異的);
アミロイドβA4/APP(神経細胞特異的);
などが挙げられる。
従って、これらに限定しないが、細胞外小胞のマーカーであるタンパク質を本発明における「細胞外小胞の膜に発現することが可能な膜タンパク質」又は「細胞外小胞の膜に結合することが可能なタンパク質」として用いてもよい。
【0038】
本明細書中で用いられる「テトラスパニン」とは、テトラスパニンファミリーに属するタンパク質(これらに限定されるものではないが、例えば、CD9、CD53、CD63、CD81、CD82、CD151等)を意味する。テトラスパニンは、通常、N末端側から、膜貫通ドメイン1(以下、「TM1」ともいう。)、小型細胞外ループ(以下、「SEL」ともいう。)、膜貫通ドメイン2(以下、「TM2」ともいう。)、小型細胞内ループ(以下、「SIL」ともいう。)、膜貫通ドメイン3(以下、「TM3」ともいう。)、大型細胞外ループ(以下、「LEL」ともいう。)、及び膜貫通ドメイン4(以下、「TM4」ともいう。)を有することから、4回膜貫通型であり、かつ、N末端側及びC末端側の両方が細胞質側に存在する。例えば、テトラスパニンがマウスCD63の場合、通常、アミノ酸配列 約1~約110において、TM1、SEL、TM2、SIL及びTM3を含み、アミノ酸配列 約111~約200において、LELを含み、アミノ酸配列 約201~約238において、TM4を含みうる。
【0039】
本明細書中に記載の「テトラスパニン」における各ドメイン(例えば、TM1、SEL、SIL、LTL等)は、同一のテトラスパニン由来のものであってもよいし、全部又は一部が異なるテトラスパニン由来のものであってもよい。
【0040】
本明細書中に記載のテトラスパニンは、細胞外小胞の膜に発現することが可能なものである限り、その野生型のアミノ酸配列に対して、アミノ酸配列同一性が、80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、更に好ましくは98%以上、より更に好ましくは99%以上のものであってもよい。或いは、本明細書中に記載のテトラスパニンは、細胞外小胞の膜に発現することが可能なものである限り、その野生型のアミノ酸配列に対して、1個又は複数個のアミノ酸の欠失、挿入、付加及び/又は置換等されたものであってもよい。
【0041】
本明細書中に記載のテトラスパニンの部分配列(例えば、各ドメイン;TM1、SEL、TM2、SIL及びTM3を含む部分配列;TM4を含む部分配列)は、その野生型のアミノ酸配列に対して、アミノ酸配列同一性が、80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、更に好ましくは98%以上、より更に好ましくは99%以上のものであってもよい。或いは、本明細書中に記載のテトラスパニンの部分配列は、その野生型のアミノ酸配列に対して、1個又は複数個のアミノ酸の欠失、挿入、付加及び/又は置換等されたものであってもよい。
【0042】
本明細書中に記載のMFG-E8は、細胞外小胞の膜に結合することが可能なものである限り、その野生型のアミノ酸配列に対して、アミノ酸配列同一性が、80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、更に好ましくは98%以上、より更に好ましくは99%以上のものであってもよい。或いは、本明細書中に記載のMFG-E8は、細胞外小胞の膜に結合することが可能なものである限り、その野生型のアミノ酸配列に対して、1個又は複数個のアミノ酸の欠失、挿入、付加及び/又は置換等されたものであってもよい。
【0043】
本明細書中に記載のCD58、PTGFRN等は、細胞外小胞の膜に発現することが可能なものであるか、又は細胞外小胞の膜に結合することが可能なものである限り、その野生型のアミノ酸配列に対して、アミノ酸配列同一性が、80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、更に好ましくは98%以上、より更に好ましくは99%以上のものであってもよい。或いは、本明細書中に記載のCD58、PTGFRN等は、細胞外小胞の膜に発現することが可能なものであるか、又は細胞外小胞の膜に結合することが可能なものである限り、その野生型のアミノ酸配列に対して、1個又は複数個のアミノ酸の欠失、挿入、付加及び/又は置換等されたものであってもよい。
【0044】
本明細書中で用いられる「スペーサー配列(以下、「ペプチドリンカー配列」又は「リンカー配列」ともいう)」とは、2以上のタンパク質又はその部分配列若しくはドメイン等の間に存在する、少なくとも1つのアミノ酸残基を有する任意の配列を意味する。スペーサー配列は、例えば、2以上のタンパク質又はその部分配列若しくはドメイン等を連結する際に使用されうる。スペーサー配列は、アミノ酸残基の長さとして、通常、1~約50であり、好ましくは、約2~約28であり、より好ましくは、約4~約25である。スペーサー配列としては、これらに限定されるものではないが、例えば、(GGGXS)(式中、Xは出現するごとに独立して、A又はGであり、nは、1~8であり、mは、0~3である);T(GGX)(式中、Xは出現するごとに独立して、S又はTであり、nは、1~8であり、mは、0~3であり、aは、0又は1であり、bは、0又は1である);等が挙げられる。
【0045】
本明細書中で用いられる「ポリヌクレオチド」は、一本鎖又は二本鎖DNA分子、RNA分子又はDNA-RNAキメラ分子等を意味する。ポリヌクレオチドには、ゲノムDNA、cDNA、hnRNA、mRNA等、及びこれらの全ての天然に存在するか又は人工的に修飾された誘導体等が含まれる。ポリヌクレオチドは、鎖状であっても、環状であってもよい。
【0046】
本発明の一実施態様では、少なくとも1つ(1、2、3、4又は5種)のサイトカイン(各々のサイトカインを識別するために、以下、第一のサイトカイン、第二のサイトカイン、それ以上のサイトカイン等と呼称する場合がある)を膜外に提示する細胞外小胞を提供する。
本発明の一実施態様では、少なくとも1つ(1、2、3、4又は5種)のターゲット因子(各々のターゲット因子を識別するために、以下、第一のターゲット因子、第二のターゲット因子、それ以上のターゲット因子等と呼称する場合がある)を膜外に提示する細胞外小胞を提供する。
本発明の一実施態様では、少なくとも1つ(1、2、3、4又は5種)のサイトカインとすくなくとも1つ(1、2、3、4又は5種)のターゲット因子を膜外に提示する細胞外小胞を提供する。
【0047】
本発明の一実施態様では、すくなくとも1つのサイトカインを膜外に提示する細胞外小胞であって、その膜に以下:
(A)すくなくとも1つのサイトカイン又はそのサブユニットを含む、該サイトカインを膜外に提示可能なタンパク質;
を含む、細胞外小胞を提供する。
本発明の一実施態様では、すくなくとも1つのターゲット因子を膜外に提示する細胞外小胞であって、その膜に以下:
(B)すくなくとも1つのターゲット因子又はそのサブユニットを含む、該ターゲット因子を膜外に提示可能なタンパク質;
を含む、細胞外小胞を提供する。
本発明の一実施態様では、すくなくとも1つのサイトカインとすくなくとも1つのターゲット因子を膜外に提示する細胞外小胞であって、その膜に以下:
(A)すくなくとも1つのサイトカイン又はそのサブユニットを含む、該サイトカインを膜外に提示可能なタンパク質;及び
(B)すくなくとも1つのターゲット因子又はそのサブユニットを含む、該ターゲット因子を膜外に提示可能なタンパク質;
を含む、細胞外小胞を提供する。
【0048】
本発明の一実施態様では、T細胞刺激性サイトカインと抗原を膜外に提示する細胞外小胞であって、その膜に以下:
(C)第1のサイトカイン又はそのサブユニット及びターゲット因子を含む、該第1のサイトカイン及びターゲット因子を膜外に提示可能なタンパク質を含む、細胞外小胞を提供する。
【0049】
構成要件(A)
上記(A)の「サイトカイン又はそのサブユニットを含む、該サイトカインを膜外に提示可能なタンパク質」は、サイトカインを細胞外小胞の膜外に提示可能なタンパク質である限り、他のタンパク質又はそのドメイン等を含んでいてもよい。
【0050】
本発明の一実施態様では、上記(A)は、サイトカイン又はそのサブユニットと、細胞外小胞の膜に発現することが可能な膜タンパク質若しくはその膜貫通ドメイン又は細胞外小胞の膜に結合することが可能なタンパク質若しくはそのドメインを含む、該抗原を膜外に提示可能な融合タンパク質又はタンパク質複合体である。
【0051】
本発明の一実施態様では、上記(A)は、
(A)第1のサイトカイン又はそのサブユニットと、テトラスパニンの部分配列とを含む、該第1のサイトカインを膜外に提示可能な融合タンパク質であって、該テトラスパニンの部分配列が、2つの膜貫通ドメインを少なくとも有し、該第1のサイトカイン又はそのサブユニットが、該2つの膜貫通ドメインの間に配置されている、融合タンパク質、又は
(A)第1のサイトカイン又はそのサブユニットと、MFG-E8又はそのドメインとを含む、該第1のサイトカインを膜外に提示可能な融合タンパク質である。
【0052】
本明細書中で用いられる「テトラスパニンの部分配列が、2つの膜貫通ドメインを少なくとも有し、該第1のサイトカイン又はそのサブユニットが、該2つの膜貫通ドメインの間に配置されている」とは、例えば、テトラスパニンの部分配列がテトラスパニンのTM1とTM2とを少なくとも含み、かつ該第1のサイトカイン又はそのサブユニットがTM1とTM2との間に配置されている場合、テトラスパニンの部分配列がテトラスパニンのTM3とTM4とを少なくとも含み、かつ該第1のサイトカイン又はそのサブユニットがTM3とTM4との間に配置されている場合等が挙げられる。
【0053】
本発明の一実施態様では、上記(A)は、
1.(A)N末端側から、
(A-1)N末端側から、膜貫通ドメイン1、小型細胞外ループ、膜貫通ドメイン2、小型細胞内ループ及び膜貫通ドメイン3を含むテトラスパニンの部分配列、
(A-2)存在していてもよいスペーサー配列、
(A-3)第1のサイトカイン又はそのサブユニットのアミノ酸配列、
(A-4)存在していてもよいスペーサー配列、並びに
(A-5)膜貫通ドメイン4を含むテトラスパニンの部分配列
からなるアミノ酸配列を含む、該第1のサイトカインを膜外に提示可能なタンパク質;
2.(A)N末端側から、
(A-3)第1のサイトカイン又はそのサブユニットのアミノ酸配列、
(A-4)存在していてもよいスペーサー配列、及び
(A-5)MFG-E8のアミノ酸配列;
からなるアミノ酸配列を含む、該第1のサイトカインを膜外に提示可能なタンパク質;
又は
3.(A)N末端側から、
(A-3)第1のサイトカイン又はそのサブユニットのアミノ酸配列、
(A-4)存在していてもよいスペーサー配列、並びに
(A-5)任意の膜貫通ドメインとテトラスパニンを含む配列;
からなるアミノ酸配列を含む、該第1のサイトカインを膜外に提示可能なタンパク質
である。
【0054】
国際公開第2016/139354号で開示されているとおり、テトラスパニンは、その大型細胞外ループ(LEL)が全体的に又は部分的に異なるアミノ酸配列に置き換えられていても、膜に発現しうることが報告されている。したがって、(A-3)の第1のサイトカイン又はそのサブユニットは、存在していてもよいスペーサー配列を介して、テトラスパニンのLELに替えて挿入されていてもよいし、テトラスパニンのLEL中又はその部分配列中の任意の位置に挿入されていてもよい。
【0055】
(A-1)の「膜貫通ドメイン1、小型細胞外ループ、膜貫通ドメイン2、小型細胞内ループ及び膜貫通ドメイン3を含むテトラスパニンの部分配列」は、通常、テトラスパニンの膜貫通ドメイン4を含まない。(A-1)の「膜貫通ドメイン1、小型細胞外ループ、膜貫通ドメイン2、小型細胞内ループ及び膜貫通ドメイン3を含むテトラスパニンの部分配列」は、大型細胞外ループ又はその部分配列を含んでいてもよい。(A-1)における、膜貫通ドメイン1、小型細胞外ループ、膜貫通ドメイン2、小型細胞内ループ及び膜貫通ドメイン3の各ドメインは、それぞれ別のテトラスパニン由来の配列であってもよいし、全て同じテトラスパニン由来の配列であってもよい。好ましくは、(A-1)における、膜貫通ドメイン1、小型細胞外ループ、膜貫通ドメイン2、小型細胞内ループ及び膜貫通ドメイン3の各ドメインは、全て同じテトラスパニン由来の配列である。
【0056】
本発明の一実施態様では、(A-1)における、膜貫通ドメイン1、小型細胞外ループ、膜貫通ドメイン2、小型細胞内ループ及び膜貫通ドメイン3を含むテトラスパニンの部分配列が、全て、CD9由来、CD63由来又はCD81由来の部分配列である。本発明の一実施態様では、(B-1)の膜貫通ドメイン1、小型細胞外ループ、膜貫通ドメイン2、小型細胞内ループ及び膜貫通ドメイン3を含むテトラスパニンの部分配列は、全てCD63又はCD81由来の部分配列である。
【0057】
(A-5)の「膜貫通ドメイン4を含むテトラスパニンの部分配列」は、通常、テトラスパニンの膜貫通ドメイン1、小型細胞外ループ、膜貫通ドメイン2、小型細胞内ループ及び膜貫通ドメイン3を含まない。(A-5)の「膜貫通ドメイン4を含むテトラスパニンの部分配列」は、大型細胞外ループ又はその部分配列を含んでいてもよい。(A-5)における膜貫通ドメイン4は、(A-1)とは別のテトラスパニン由来の配列であってもよいし、(A-1)と同じテトラスパニン由来の配列であってもよい。好ましくは、(A-5)における膜貫通ドメイン4は、(A-1)と同じテトラスパニン由来の配列である。本発明の一実施態様では、(A-5)における、膜貫通ドメイン4を含むテトラスパニンの部分配列が、CD9由来、CD63由来又はCD81由来の部分配列である。本発明の一実施態様では、(A-5)の膜貫通ドメイン4を含むテトラスパニンの部分配列は、CD63又はCD81由来の部分配列である。
【0058】
本発明の一実施態様では、(A-1)の「膜貫通ドメイン1、小型細胞外ループ、膜貫通ドメイン2、小型細胞内ループ及び膜貫通ドメイン3を含むテトラスパニンの部分配列」は、CD63由来の部分配列であり、かつ、(A-5)の「膜貫通ドメイン4を含むテトラスパニンの部分配列」が、CD63由来の部分配列である。本発明の一実施態様では、(A-1)の「膜貫通ドメイン1、小型細胞外ループ、膜貫通ドメイン2、小型細胞内ループ及び膜貫通ドメイン3を含むテトラスパニンの部分配列」は、CD81由来の部分配列であり、かつ、(A-5)の「膜貫通ドメイン4を含むテトラスパニンの部分配列」が、CD81由来の部分配列である。
【0059】
上記(A-5)の「MFG-E8」は、好ましくは、配列番号37、63、73、83等、又はこれに対してアミノ酸配列同一性が80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、更に好ましくは98%以上、より更に好ましくは99%以上のものである。
【0060】
テトラスパニンのN端は細胞外小胞の内側に存在する。それ故、(A-3)のサイトカイン又はそのサブユニットが、細胞外小胞の外側に提示されるように、上記(A-5)の「任意の膜貫通ドメインとテトラスパニンを含む配列」は、(A-5)のN端が細胞外小胞の外側に存在するように、任意の奇数(1,3,5)の膜貫通ドメインをコードするアミノ酸配列とテトラスパニンの配列が融合したものであることが好ましい。
本発明の一実施態様では、CD8(一回膜貫通型タンパク質)(配列番号5、21、53等;又はこれに対してアミノ酸配列同一性が80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、更に好ましくは98%以上、より更に好ましくは99%以上のものである)とCD81(配列番号7、13、23、55、99等;又はこれに対してアミノ酸配列同一性が80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、更に好ましくは98%以上、より更に好ましくは99%以上のものである)の融合タンパク質をコードする配列である。
【0061】
本明細書中に記載の細胞外小胞は、第1のサイトカインに加えて、第2(又はそれ以上)のサイトカインを更に含んでいてもよい。したがって、本発明の一実施態様では、本明細書中に記載の細胞外小胞は、第2(又はそれ以上)のサイトカインを更に含んでもよい。
【0062】
第2(又はそれ以上)のサイトカインは、例えば、上記(A)中に挿入されていてもよい(例えば、(A-3)の「第1のサイトカイン」のN末端側及び/又はC末端側に、必要に応じてスペーサー配列等を介して、第2(又はそれ以上)のサイトカインが連結されていてもよい)。或いは、第2(又はそれ以上)のサイトカインは、本明細書中に記載の構成要件(A)と同様の構成を有することにより、本明細書中に記載の構成要件(A)のタンパク質(又は融合タンパク質)とは別個のタンパク質(又は融合タンパク質)として、第1のサイトカインと同様に、本明細書中に記載の抗原提示細胞外小胞の膜に含まれていてもよい。
【0063】
上記各実施態様の(A-2)及び(A-4)における「存在していてもよいスペーサー配列」は、存在する場合、独立して選択されうる。(A-2)は、存在する場合、例えば、配列番号31、35、45、49、61,71,81、87等のスペーサー配列であってもよい。(A-4)は、存在する場合、例えば、配列番号31、35、45、49、61,71,81、87等のスペーサー配列であってもよい。
【0064】
本発明の一実施態様では、サイトカインが複数のサブユニットとマルチマー(ホモ/ヘテロマー)を形成して活性を有する場合、
(A-6)活性を有するために必要なサブユニット
を、細胞外小胞はさらに含んでもよい。
【0065】
構成要件(B)
上記(B)の「ターゲット因子又はそのサブユニットを含む、該ターゲット因子を膜外に提示可能なタンパク質」は、ターゲット因子を細胞外小胞の膜外に提示可能なタンパク質である限り、他のタンパク質又はそのドメイン等を含んでいてもよい。
【0066】
本発明の一実施態様では、上記(B)は、ターゲット因子又はそのサブユニットと、細胞外小胞の膜に発現することが可能な膜タンパク質若しくはその膜貫通ドメイン又は細胞外小胞の膜に結合することが可能なタンパク質若しくはそのドメインを含む、該抗原を膜外に提示可能な融合タンパク質又はタンパク質複合体である。
【0067】
本発明の一実施態様では、上記(B)は、ターゲット因子又はそのサブユニットと、細胞外小胞の膜に発現することが可能な膜タンパク質若しくはその膜貫通ドメイン又は細胞外小胞の膜に結合することが可能なタンパク質若しくはそのドメインを含む、該抗原を膜外に提示可能な融合タンパク質又はタンパク質複合体である。
【0068】
本発明の一実施態様では、上記(B)は、
(B)第1のターゲット因子又はそのサブユニットと、テトラスパニンの部分配列とを含む、該第1のターゲット因子又はそのサブユニットを膜外に提示可能な融合タンパク質であって、該テトラスパニンの部分配列が、2つの膜貫通ドメインを少なくとも有し、該第1のサイトカインが、該2つの膜貫通ドメインの間に配置されている、融合タンパク質、又は
(B)第1のターゲット因子又はそのサブユニットと、MFG-E8又はそのドメインとを含む、該第1のターゲット因子を膜外に提示可能な融合タンパク質である。
【0069】
本明細書中で用いられる「テトラスパニンの部分配列が、2つの膜貫通ドメインを少なくとも有し、該第1のターゲット因子又はそのサブユニットが、該2つの膜貫通ドメインの間に配置されている」とは、例えば、テトラスパニンの部分配列がテトラスパニンのTM1とTM2とを少なくとも含み、かつ該第1のターゲット因子又はそのサブユニットがTM1とTM2との間に配置されている場合、テトラスパニンの部分配列がテトラスパニンのTM3とTM4とを少なくとも含み、かつ該第1のターゲット因子又はそのサブユニットがTM3とTM4との間に配置されている場合等が挙げられる。
【0070】
本発明の一実施態様では、上記(B)は、
1.(B)N末端側から、
(B-1)N末端側から、膜貫通ドメイン1、小型細胞外ループ、膜貫通ドメイン2、小型細胞内ループ及び膜貫通ドメイン3を含むテトラスパニンの部分配列、
(B-2)存在していてもよいスペーサー配列、
(B-3)第1のターゲット因子又はそのサブユニットのアミノ酸配列、
(B-4)存在していてもよいスペーサー配列、並びに
(B-5)膜貫通ドメイン4を含むテトラスパニンの部分配列
からなるアミノ酸配列を含む、該第1のターゲット因子を膜外に提示可能な融合タンパク質;
2.(B)N末端側から、
(B-3)第1のターゲット因子又はそのサブユニットのアミノ酸配列、
(B-4)存在していてもよいスペーサー配列、及び
(B-5)MFG-E8のアミノ酸配列
からなるアミノ酸配列を含む、該第1のターゲット因子を膜外に提示可能な融合タンパク質;
又は
3.(B)N末端側から、
(B-3)第1のターゲット因子又はそのサブユニットのアミノ酸配列、
(B-4)存在していてもよいスペーサー配列、並びに
(B-5)任意の膜貫通ドメインとテトラスパニンを含む配列;
からなるアミノ酸配列を含む、該第1のターゲット因子を膜外に提示可能な融合タンパク質である。
【0071】
国際公開第2016/139354号で開示されているとおり、テトラスパニンは、その大型細胞外ループ(LEL)が全体的に又は部分的に異なるアミノ酸配列に置き換えられていても、膜に発現しうることが報告されている。したがって、(B-3)の第1のターゲット因子又はそのサブユニットは、存在していてもよいスペーサー配列を介して、テトラスパニンのLELに替えて挿入されていてもよいし、テトラスパニンのLEL中又はその部分配列中の任意の位置に挿入されていてもよい。
【0072】
(B-1)の「膜貫通ドメイン1、小型細胞外ループ、膜貫通ドメイン2、小型細胞内ループ及び膜貫通ドメイン3を含むテトラスパニンの部分配列」は、通常、テトラスパニンの膜貫通ドメイン4を含まない。(B-1)の「膜貫通ドメイン1、小型細胞外ループ、膜貫通ドメイン2、小型細胞内ループ及び膜貫通ドメイン3を含むテトラスパニンの部分配列」は、大型細胞外ループ又はその部分配列を含んでいてもよい。(B-1)における、膜貫通ドメイン1、小型細胞外ループ、膜貫通ドメイン2、小型細胞内ループ及び膜貫通ドメイン3の各ドメインは、それぞれ別のテトラスパニン由来の配列であってもよいし、全て同じテトラスパニン由来の配列であってもよい。好ましくは、(A-1)における、膜貫通ドメイン1、小型細胞外ループ、膜貫通ドメイン2、小型細胞内ループ及び膜貫通ドメイン3の各ドメインは、全て同じテトラスパニン由来の配列である。
【0073】
本発明の一実施態様では、(B-1)における、膜貫通ドメイン1、小型細胞外ループ、膜貫通ドメイン2、小型細胞内ループ及び膜貫通ドメイン3を含むテトラスパニンの部分配列が、全て、CD9由来、CD63由来又はCD81由来の部分配列である。本発明の一実施態様では、(B-1)の膜貫通ドメイン1、小型細胞外ループ、膜貫通ドメイン2、小型細胞内ループ及び膜貫通ドメイン3を含むテトラスパニンの部分配列は、全てCD63又はCD81由来の部分配列)である。
【0074】
(B-5)の「膜貫通ドメイン4を含むテトラスパニンの部分配列」は、通常、テトラスパニンの膜貫通ドメイン1、小型細胞外ループ、膜貫通ドメイン2、小型細胞内ループ及び膜貫通ドメイン3を含まない。(B-5)の「膜貫通ドメイン4を含むテトラスパニンの部分配列」は、大型細胞外ループ又はその部分配列を含んでいてもよい。(B-5)における膜貫通ドメイン4は、(B-1)とは別のテトラスパニン由来の配列であってもよいし、(B-1)と同じテトラスパニン由来の配列であってもよい。好ましくは、(B-5)における膜貫通ドメイン4は、(B-1)と同じテトラスパニン由来の配列である。本発明の一実施態様では、(B-5)における、膜貫通ドメイン4を含むテトラスパニンの部分配列が、CD9由来、CD63由来又はCD81由来の部分配列である。本発明の一実施態様では、(B-5)の膜貫通ドメイン4を含むテトラスパニンの部分配列は、CD63又はCD81由来の部分配列である。
【0075】
本発明の一実施態様では、(B-1)の「膜貫通ドメイン1、小型細胞外ループ、膜貫通ドメイン2、小型細胞内ループ及び膜貫通ドメイン3を含むテトラスパニンの部分配列」は、CD63由来の部分配列であり、かつ、(B-5)の「膜貫通ドメイン4を含むテトラスパニンの部分配列」が、CD63由来の部分配列である。本発明の一実施態様では、(B-1)の「膜貫通ドメイン1、小型細胞外ループ、膜貫通ドメイン2、小型細胞内ループ及び膜貫通ドメイン3を含むテトラスパニンの部分配列」は、CD81由来の部分配列であり、かつ、(B-5)の「膜貫通ドメイン4を含むテトラスパニンの部分配列」が、CD81由来の部分配列である。
【0076】
上記(B-5)の「MFG-E8」は、好ましくは、配列番号37、63、73、83等、又はこれに対してアミノ酸配列同一性が80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、更に好ましくは98%以上、より更に好ましくは99%以上のものである。
【0077】
テトラスパニンのN端は細胞外小胞の内側に存在する。それ故、(B-3)のターゲット因子又はそのサブユニットが、細胞外小胞の外側に提示されるように、上記(B-5)の「任意の膜貫通ドメインとテトラスパニンを含む配列」は、(B-5)のN端が細胞外小胞の外側に存在するように、任意の奇数(1,3,5)の膜貫通ドメインをコードするアミノ酸配列とテトラスパニンの配列が融合したものであることが好ましい。
本発明の一実施態様では、CD8(一回膜貫通型タンパク質;例えば配列番号5又は21、あるいはこれに対してアミノ酸配列同一性が80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、更に好ましくは98%以上、より更に好ましくは99%以上のものである)とCD81の融合タンパク質をコードする配列である。
【0078】
本明細書中に記載の細胞外小胞は、第1のターゲット因子に加えて、第2(又はそれ以上)のターゲット因子を更に含んでいてもよい。したがって、本発明の一実施態様では、本明細書中に記載の細胞外小胞は、第2(又はそれ以上)のターゲット因子を更に含んでもよい。
【0079】
第2(又はそれ以上)のターゲット因子又はそのサブユニットは、例えば、上記(B)中に挿入されていてもよい(例えば、(B-3)の「第1のターゲット因子又はそのサブユニット」のN末端側及び/又はC末端側に、必要に応じてスペーサー配列等を介して、第2(又はそれ以上)のターゲット因子又はそのサブユニットが連結されていてもよい)。或いは、第2(又はそれ以上)のターゲット因子又はそのサブユニットは、本明細書中に記載の構成要件(B)と同様の構成を有することにより、本明細書中に記載の構成要件(B)のタンパク質(又は融合タンパク質)とは別個のタンパク質(又は融合タンパク質)として、第1のターゲット因子と同様に、本明細書中に記載の抗原提示細胞外小胞の膜に含まれていてもよい。
【0080】
上記各実施態様の(B-2)及び(B-4)における「存在していてもよいスペーサー配列」は、存在する場合、独立して選択されうる。(B-2)は、存在する場合、例えば、配列番号31、35、45、49、61,71,81、87等のスペーサー配列であってもよい。(B-4)は、存在する場合、例えば、配列番号31、35、45、49、61,71,81、87等のスペーサー配列であってもよい。
【0081】
本発明の一実施態様では、ターゲット因子が複数のサブユニットとマルチマー(ホモ/ヘテロマー)を形成して活性を有する場合、
(B-6)活性を有するために必要なサブユニット
を、細胞外小胞はさらに含んでもよい。
【0082】
本発明の一実施態様では、上記(A)及び(B)について、(A)と(B)が融合して、1分子となっていてもよい。かかる融合分子は、(A)及び(B)間にスペーサー配列を含む又は含まない形で1つのタンパク質分子として翻訳されていてもよいし、(A)及び(B)のタンパク質が化学的に架橋されること(たとえばシステイン残基間のジスルフィド結合)によって融合して1分子となっていてもよい。
あるいは、上記(A)及び(B)は、そのタンパク質が細胞外小胞に局在するための要素、すなわち、「細胞外小胞の膜に発現することが可能な膜タンパク質若しくはその膜貫通ドメイン」又は「細胞外小胞の膜に結合することが可能なタンパク質若しくはそのドメイン」の部分を共有することにより、機能的に融合していてもよい。
【0083】
構成要件(C)
上記(C)の「サイトカイン又はそのサブユニット及びターゲット因子又はそのサブユニットを含む、該サイトカイン及び該ターゲット因子を膜外に提示可能なタンパク質」は、サイトカイン及びターゲット因子を細胞外小胞の膜外に提示可能なタンパク質である限り、他のタンパク質又はそのドメイン等を含んでいてもよい。
本発明の一実施態様では、上記(C)は、サイトカイン又はそのサブユニットと、ターゲット因子又はそのサブユニットと、細胞外小胞の膜に局在することが可能な膜タンパク質若しくはその膜貫通ドメインあるいは細胞外小胞の膜に結合することが可能なタンパク質若しくはその膜結合ドメインとを含んでもよい。
【0084】
本発明の一実施態様では、前記細胞外小胞の膜に局在することが可能な膜タンパク質又は細胞外小胞の膜に結合することが可能なタンパク質は、テトラスパニン又はMFG-E8であってもよい。
前記融合タンパク質は、N末端側から、
(C-3)ターゲット因子又はそのサブユニットのアミノ酸配列、
(C-4)存在していてもよいスペーサー配列、及び
(C-5)テトラスパニン又はその膜貫通ドメインあるいはMFG-E8又はその膜貫通ドメインと、前記すくなくとも1種のサイトカインを含む融合ペプチドを、この順番でコードするアミノ酸配列を含んでもよい。
前記融合タンパク質は、N末端側から、
(C-1)テトラスパニン又はその膜貫通ドメインあるいはMFG-E8又はその膜貫通ドメインと、前記すくなくとも1種のサイトカインを含む融合ペプチド
(C-2)存在していてもよいスペーサー配列、及び
(C-3)ターゲット因子又はそのサブユニットのアミノ酸配列を、
この順にコードするアミノ酸配列を含んでもよい。
ここで、前記融合ペプチドは、N末端側から、
(1)膜貫通ドメイン1、小型細胞外ループ、膜貫通ドメイン2、小型細胞内ループ及び膜貫通ドメイン3を含むテトラスパニンの部分配列、
(2)存在していてもよいスペーサー配列、
(3)前記すくなくとも1つのサイトカインのアミノ酸配列、
(4)存在していてもよいスペーサー配列、並びに
(5)膜貫通ドメイン4を含むテトラスパニンの部分配列
をこの順番でコードするアミノ酸配列を含んでもよい。
前記融合ペプチドは、N末端側から、
(1)前記すくなくとも1のサイトカインのアミノ酸配列、
(2)存在していてもよいスペーサー配列、及び
(3)MFG-E8又はその膜結合ドメインのアミノ酸配列
をこの順番でコードするアミノ酸配列を含んでもよい。
【0085】
本発明の一実施態様では、サイトカイン又は/及びターゲット因子が複数のサブユニットとマルチマー(ホモ/ヘテロマー)を形成して活性を有する場合、
(C-6)活性を有するために必要なサブユニット
を、細胞外小胞はさらに含んでもよい。
【0086】
本発明の一実施態様では、上記各実施態様のサイトカインは、T細胞刺激性サイトカインである。本発明の一実施態様では、T細胞刺激性サイトカインが、IL-2(好ましくは、配列番号89、又はこれに対してアミノ酸配列同一性が80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、更に好ましくは98%以上、より更に好ましくは99%以上のもの)、IL-4、TGF-β、IL-7(好ましくは、配列番号93、又はこれに対してアミノ酸配列同一性が80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、更に好ましくは98%以上、より更に好ましくは99%以上のもの)である。これらのうち、ホモ若しくはヘテロのサブユニットの多量体を形成しうるもの(例えば、IL-12、TGF-β等)は、機能的である限り(即ち、所望の薬理活性を有しうる限り)、場合によりペプチドリンカー等を介して連結された、連続したアミノ酸配列のものであってもよい。これらのT細胞刺激性サイトカインは、T細胞、B細胞、NK細胞などの細胞表面に存在する対応する受容体と結合し、細胞内へシグナルが伝達されることで、T細胞、B細胞、NK細胞、単球、マクロファージなどを分化・増殖させる。
【0087】
本発明の一実施態様では、上記各実施態様のサイトカインは、トロンボポエチン(TPO;Megakaryocyte Stimulating Factorともいう)及び/又は幹細胞因子(SCF;Kit ligandともいう)である。本発明の一実施態様では、上記各実施態様における第1のサイトカインが、TPO(好ましくは、配列番号19、又はこれに対してアミノ酸配列同一性が80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、更に好ましくは98%以上、より更に好ましくは99%以上のもの)であり、第2のサイトカインが、SCF(好ましくは、配列番号29又は33、又はこれに対してアミノ酸配列同一性が80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、更に好ましくは98%以上、より更に好ましくは99%以上のもの)である。
TPO遺伝子は353アミノ酸残基のタンパク質をコードするが、21残基がシグナル配列であり、除去された後に60-70kDaの糖タンパク質として分泌される。TPO受容体であるc-mplと結合し、細胞内へシグナルが伝達されることで、造血幹細胞の増殖、巨核球の成熟・増殖を刺激、血小板の形成促進等をする。本明細書においては受容体結合ドメインのみをもつTPOの断片ペプチドもTPOに含まれる。
SCF遺伝子は273残基のタンパク質をコードするが、N端25残基がシグナル配列であり、26~273残基が糖修飾された膜タンパク型のSCFとして分泌され、その細胞外ドメインがプロセシングにより、可溶型SCFとして遊離する。SCFは、ホモダイマーでc-Kit(CD117)として知られる受容体(2分子)に結合し(ヘテロテトラマー化)、KIT分子が自己リン酸化して細胞内へシグナルが伝達されることで、造血幹細胞の増殖および維持等を行う。本明細書においては、膜タンパク型、可溶型、リンカーで結合したそれらのホモダイマー、いずれもSCFに含まれる。
【0088】
本発明の一実施態様では、上記各実施態様のサイトカインは、アクチンビン(Activin)又はそのサブユニットである。アクチンビンは、inhibin βA chain preproprotein(inhibin βA subunit precousorともいう)遺伝子産物からプロセシング酵素により切断されたそのC末端側ペプチドであるβサブユニットがSS結合によりホモダイマー化したアクチンビンA;inhibin βB chain preproprotein(inhibin βB subunit precousorともいう)遺伝子産物からプロセッシング酵素により切断されたそのC末端側ペプチドであるβサブユニットがSS結合によりホモダイマー化したアクチンビンB;βサブユニットとβサブユニットがSS結合によりヘテロダイマー化したアクチンビンABが存在する。本発明の一実施態様では、サイトカインは、変異を有しているためプロセシングを受けなくてもアクチンビンとして機能しうるinhibin β A chain preproprotein遺伝子産物そのもの又はその断片(たとえば、配列番号59、又はこれに対してアミノ酸配列同一性が80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、更に好ましくは98%以上、より更に好ましくは99%以上のもの);あるいはβサブユニット(たとえば配列番号69、又はこれに対してアミノ酸配列同一性が80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、更に好ましくは98%以上、より更に好ましくは99%以上のもの)であってよい。これらは細胞内で活性型のアクチンビンAとなり機能しうる。アクチビンAは、アクチビンI型受容体の2形態(RI-AおよびRI-B)およびアクチビンII型受容体の2形態(RII-AおよびRII-B)に特異的に結合して細胞内へシグナルが伝達されることで、iPSC(人工多能性幹細胞)/ESC(胚性幹細胞)を分化誘導する。
【0089】
本発明の一実施態様では、上記各実施態様のターゲット因子は抗原である。本発明の一実施態様では、ターゲット因子は抗原ペプチドである。本発明の一実施態様では、ターゲット因子は、HER2又はその断片(好ましくは、配列番号77又は97、又はこれらに対してアミノ酸配列同一性が80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、更に好ましくは98%以上、より更に好ましくは99%以上のもの)である。抗原ペプチドのうち、ホモ若しくはヘテロのサブユニットの多量体を形成しうるものは、機能的である限り(即ち、所望の薬理活性を有しうる限り)、場合によりペプチドリンカー等を介して連結された、連続したアミノ酸配列のものであってもよい。
【0090】
本発明の一実施態様では、上記各実施態様のターゲット因子は、L-セレクチン及び/又はCXCL12である。本発明の一実施態様では、ターゲット因子が、L-セレクチン(CD62Lともいう)(好ましくは、配列番号11、又はこれに対してアミノ酸配列同一性が80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、更に好ましくは98%以上、より更に好ましくは99%以上のもの)又はCXCL12(SDF1ともいう)(好ましくは、配列番号3、又はこれに対してアミノ酸配列同一性が80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、更に好ましくは98%以上、より更に好ましくは99%以上のもの)である。また、本発明の一実施態様では、第1のターゲット因子が、L-セレクチンであり、第2のターゲット因子が、CXCL12であってもよい。L-セレクチンは造血幹細胞(CD34陽性)上のCD34を認識し、CXCL12はケモカイン (C-X-C motif) 受容体4を認識する。
【0091】
本発明の一実施態様では、上記各実施態様のターゲット因子はレシチン又はそのサブユニットである。本発明の一実施態様では、Burkholderia cenocepacia菌のレクチン(糖鎖結合タンパク質)Bc2Lcである。本発明の一実施態様では、ターゲット因子は、Bc2Lc遺伝子産物又はリンカーを介して結合したその多量体(たとえば配列番号43、47、51;又はこれらに対してアミノ酸配列同一性が80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、更に好ましくは98%以上、より更に好ましくは99%以上のもの;あるいはこれらの多量体)であってもよい。Bc2Lcは多量体でiPSC(人工多能性幹細胞)/ESC(胚性幹細胞)細胞表面の糖鎖修飾タンパク質(たとえばFucα1-2Galβ1-3GalNAcのついたポドカリキシン)を認識する。
【0092】
本発明の一実施態様では、細胞外小胞が、エクソソームである。
【0093】
本明細書中に記載の細胞外小胞は、その膜内又は膜中に、治療上有益でありうる物質(例えば、低分子化合物、核酸等)が包含されていてもよいし、結合されていてもよい。細胞外小胞の膜内に該物質を封入する方法は、これらに限定されるものではないが、例えば、該物質と本明細書中に記載の細胞外小胞とを好適な溶媒中で混合する方法等が挙げられる。
本発明の一実施態様では、細胞外小胞は、任意のタンパク製剤を含んでもよい。タンパク製剤としては、特に限定しないが、エリスロポエチンなどの天然にも存在しうるタンパク質でも、イムノグロブリン-CTLA4融合タンパクのように天然には存在しない合成タンパク質であってもよく、モノクローナル抗体またはその活性断片でもよい。これらのタンパク製剤は、細胞外小胞の膜に局在することが可能な膜タンパク質若しくはその膜貫通ドメイン細胞外小胞の膜に結合することが可能なタンパク質若しくはその膜結合ドメインとの融合タンパク質として細胞外小胞の表面に局在させてもよい。かかる細胞外小胞は、融合タンパク質を発現させるためのベクターを細胞外小胞を産生する細胞にトランスフェクションし、その細胞から細胞外小胞を分泌させることにより得られる。
【0094】
本明細書中に記載の細胞外小胞の膜に含まれる各融合タンパク質又はタンパク質複合体あるいはタンパク製剤は、1つ又は複数の検出可能な標識を含んでいてもよい。例えば、融合タンパク質又はタンパク質複合体あるいはタンパク製剤は、従来の方法で、特定のリポータ分子、発蛍光団、放射性材料、又は酵素(例えば、ペルオキシダーゼ、ホスファターゼ)等で標識されていてもよい。これらは、例えば、融合タンパク質又はタンパク質複合体あるいはタンパク製剤の構成要素として、該融合タンパク質又はタンパク質複合体あるいはタンパク製剤のN末端側又はC末端側に連結されていてもよい。
【0095】
本発明の一実施態様では、本明細書中に記載の細胞外小胞の膜に含まれる(A)、(B)、(C)における各タンパク質(又は融合タンパク質)をコードするポリヌクレオチドを提供する。
本発明の一実施態様では、
(a) すくなくとも1種のサイトカイン又はそのサブユニットを含む、サイトカインを細胞外小胞の膜外に提示可能な融合タンパク質(A)をコードする配列;
(b) すくなくとも1種のターゲット因子又はそのサブユニットを含む、ターゲット因子を細胞外小胞の膜外に提示可能な融合タンパク質(B)をコードする配列;
(c) すくなくとも1種のサイトカイン又はそのサブユニットと、すくなくとも1種のターゲット因子またはそのサブユニットを含み、該サイトカインと該ターゲット因子を細胞外小胞の膜外に提示可能な融合タンパク質(C)をコードする配列;
からなる群から選択されるすくなくとも1つの配列を含むポリヌクレオチド
を提供する。
上記配列は(a)~(c)は本願明細書に具体的記載された配列及び相同性の高い配列(好ましくは、90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは99%以上の相同性)を含むが、特に限定しない。同等の機能を有するものであればパラログ(遺伝子重複によって生じた遺伝子配列)やオーソログ(異なる生物に存在する相同な機能を持った遺伝子群)であってもよく、配列情報の改変(不可、欠失、置換など)された配列も含むものとする。
【0096】
上述した(A)~(C)における各タンパク質(又は融合タンパク質)をコードするポリヌクレオチドは、当業者であれば、上記融合タンパク質又はタンパク質複合体のアミノ酸配列を参考に適宜決定しうる。なお、(A)~(C)における各融合タンパク質又はタンパク質複合体のアミノ酸配列は、各融合タンパク質又はタンパク質複合体における各構成要素(例えば、(A)の場合であれば、(A-1)~(A-5)又は(A-3)~(A-5)、場合により(A-6))のアミノ酸配列を参考に適宜決定しうる。ポリヌクレオチドを決定する際に使用されるコドンの種類は、任意のものを選択することができる。例えば、該ポリヌクレオチドを含むベクターを使用して形質転換させる細胞のコドンの頻度等を考慮して、ポリヌクレオチドを決定してもよい。
【0097】
上述した(A)~(C)における各タンパク質(又は融合タンパク質)をコードするポリヌクレオチドのN末端側には、必要に応じてシグナルペプチド(シグナルシークエンス)をコードするポリヌクレオチドを付加してもよい。
【0098】
シグナルペプチドのアミノ酸配列は、任意のものを使用することができ、例えば、発現させようとする融合タンパク質のアミノ酸配列等を考慮して決定してもよい。シグナルペプチドをコードするポリヌクレオチドとしては、例えば、CD8のシグナルペプチド(例えば、配列番号1、17、41)をコードするポリヌクレオチド(例えば、配列番号2、18、42)、MEG-E8のシグナルペプチド(例えば、配列番号27)をコードするポリヌクレオチド(例えば、配列番号28)等が挙げられる。
【0099】
上述した(A)~(C)における各タンパク質(又は融合タンパク質)の各構成要素(例えば、(A)の場合であれば、(A-1)~(A-5)又は(A-3)~(A-5)、場合により(A-6))、及びシグナルペプチド等のアミノ酸配列、並びにこれらをコードするポリヌクレオチドの情報は、例えば、公知の文献やNCBI(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/guide/)等のデータベースを検索して適宜入手してもよい。また、テトラスパニンの部分配列におけるアミノ酸配列及びこれをコードするポリヌクレオチドは、国際公開第2016/139354号を参考にしてもよい。
【0100】
本発明の一実施態様では、本明細書中に記載のポリヌクレオチドから選択される少なくとも1種のポリヌクレオチドを含むベクターを提供する。
【0101】
本明細書中で用いられる「ベクター」とは、任意のベクター(これらに限定されるものではないが、例えば、プラスミドベクター、コスミドベクター、ファージ等のファージベクター、アデノウイルスベクター、バキュロウイルスベクター等のウイルスベクター、人工染色体ベクター等を含む)を意味する。ベクターは、発現ベクター、クローニングベクター等を含む。発現ベクターは、一般的に、所望のコード配列、及び宿主生物(例えば、植物、昆虫、動物等)又はインビトロでの発現系における作動可能に連結されたコード配列の発現に必要な適切なポリヌクレオチドを含有していてもよい。クローニングベクターは、所望のポリヌクレオチド断片を操作及び/又は増幅させるために使用してもよい。クローニングベクターは、所望のポリヌクレオチド断片の発現に必要とされる機能的な配列を欠失していてもよい。
【0102】
本発明の一実施態様では、本明細書中に記載のポリヌクレオチドは、これらが作動可能に挿入されうる限り、全て同一のベクター内に挿入されていてもよし、2以上のポリヌクレオチドが別個のベクターに挿入されていてもよい。本発明の一実施態様では、本明細書中に記載のポリヌクレオチドから選択される少なくとも1種のポリヌクレオチドを含んでなる2種以上のベクターを組み合わせたキットを提供する。
【0103】
形質転換細胞
本発明の一実施態様では、以下:
(i)本明細書中に記載のすくなくとも1つの(A)のタンパク質(又は融合タンパク質)をコードするポリヌクレオチド、
(ii)本明細書中に記載のすくなくとも1つの(B)のタンパク質(又は融合タンパク質)をコードするポリヌクレオチド、及び/又は
(iii)本明細書中に記載のすくなくとも1つの(C)のタンパク質(又は融合タンパク質)をコードするポリヌクレオチドを含む、単一のベクター又は2以上のベクターの組み合わせにより形質転換された細胞を提供する。
【0104】
本発明の一実施態様では、以下:
(i) 本明細書中に記載のすくなくとも1つの(a)のポリヌクレオチド、
(ii) 本明細書中に記載のすくなくとも1つの(b)のポリヌクレオチド、及び/又は
(iii)本明細書中に記載のすくなくとも1つの(c)のポリヌクレオチド
を含む、単一のベクター又は2以上のベクターの組み合わせにより形質転換された細胞を提供する。
【0105】
「単一のベクター又は2以上のベクターの組み合わせにより形質転換された」とは、例えば、細胞が、上記(i)~(iii)のポリヌクレオチドが全て同一のベクター内に挿入されたものにより形質転換されてもよいし、これらのうち2以上が別個のベクターに挿入された2以上のベクターの組み合わせにより形質転換されてもよいことを意味する。
【0106】
形質転換させる細胞は、形質転換させた後に本明細書中に記載の細胞外小胞を得ることができるものである限り特段限定されるものではなく、初代培養細胞であっても、継代細胞であっても、株化細胞であってもよく、これらは正常細胞であっても、がん化又は腫瘍化した細胞を含む病変細胞であってもよい。また、形質転換させる細胞の由来は、特段限定されるものではないが、例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット等のげっ歯類、ウサギ等のウサギ目、ブタ、ウシ、ヤギ、ウマ、ヒツジ等の有蹄類、イヌ、ネコ等のネコ目、ヒト、サル、アカゲザル、カニクイザル、マーモセット、オランウータン、チンパンジー等の霊長類等の哺乳動物等の動物由来の細胞;植物由来の細胞;昆虫由来の細胞等が挙げられる。形質転換させる細胞としては、好ましくは動物由来の細胞である。動物由来の細胞としては、これらに限定されるものではないが、例えば、ヒト胚腎臓細胞(HEK293T細胞等を含む)、ヒトFL細胞、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)、COS-7、Vero、マウスL細胞、ラットGH3等が挙げられる。
【0107】
細胞を形質転換させる方法は、細胞に目的のポリヌクレオチドを導入しうる方法であれば特に限定されるものではない。例えば、エレクトロポレーション法、マイクロインジェクション法、リン酸カルシウム法、カチオン性脂質法、リポソームを使用する方法、ポリエチレンイミン等の非リポソーム性のものを使用する方法、ウイルス感染法等であってもよい。
【0108】
形質転換された細胞は、(A)、(B)及び/又は(C)のタンパク質(又は融合タンパク質)を、一過性に発現する形質転換細胞であってもよいし、安定的に発現する形質転換細胞(安定細胞株)であってもよい。
【0109】
形質転換された細胞の培養条件は、特段限定されるものではない。例えば、形質転換された細胞が動物由来の細胞である場合、例えば、細胞培養等に一般に使用されている培地(例えば、RPMI1640培地、EagleのMEM培地、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM培地)、Ham F12培地、又はこれらの任意の組み合わせ等)、又はこれにウシ胎児血清、抗生物質、アミノ酸等の他の成分を添加した培地等を使用し、例えば、約1~約10%(好ましくは約2~約5%)COの存在下、約30~約40℃(好ましくは約37℃)で、所望の時間(例えば、約0.5時間~約240時間(好ましくは、約5~約120時間、より好ましくは、約12~約72時間))、培養(例えば、静置下又は振盪下)してもよい。
【0110】
形質転換された細胞を培養して得られてなる培養上清中には、本明細書中に記載の細胞外小胞が含まれうる。そのため、本明細書中に記載の抗原提示細胞外小胞を得る目的で形質転換細胞を培養する際、必要に応じて、エクソソーム等の細胞外小胞を除去した培地(例えば、エクソソームを除去した約1~約5%ウシ胎児血清を含むダルベッコ改変イーグル培地等)を用いてもよい。
【0111】
本発明の一実施態様では、本明細書中に記載の形質転換された細胞を培養して得られてなる、培養上清を提供する。
【0112】
本明細書中に記載の培養上清中に含まれる細胞外小胞は、例えば、該培養上清を精製(例えば、遠心分離、クロマトグラフィー等)、濃縮、単離等をすることにより、回収することができる。
本発明の一実施態様では、本明細書中に記載の培養上清から得られる、細胞外小胞を提供する。
【0113】
本明細書中に記載の細胞外小胞は、これらに限定されるものではないが、例えば、当業者に公知の遺伝子組み換え技術等の手段により(例えば、以下に記載の方法により、若しくは実施例に記載の方法により、又はこれらに類似する方法により、得てもよい。
通常の遺伝子組み換え技術により、上記(A)、(B)又は(C)のタンパク質(又は融合タンパク質)をそれぞれコードするポリヌクレオチド(あるいは上記(a)、(b)又は(c)のポリヌクレオチド)を得、これらを同一の又は別個のベクターに作動可能に挿入することができる。2種以上のポリヌクレオチドを同一のベクターに挿入する場合、それぞれが同一の又は別個のプロモーターに作動可能に連結されていてもよい。
得られた単一の又は2以上のベクターを、細胞に同時に又は逐次的に形質転換させ、形質転換細胞(これら融合タンパク質を、一過性に発現する形質転換細胞であってもよいし、安定的に発現する形質転換細胞(安定株)であってもよい)を得ることができる。得られた形質転換細胞を所望の条件下で培養して培養上清を得、得られた培養上清を必要に応じて精製(例えば、遠心分離、抗体(例えば、細胞外小胞の膜に含まれるタンパク質等を認識する抗体)、クロマトグラフィー、フローサイトメトリー等を用いた精製)、濃縮(例えば、限外濾過等)、乾燥等することで、本明細書中に記載の細胞外小胞を得ることができる。
【0114】
本明細書中に記載の細胞外小胞は、例えば、フローサイトメトリー、ELISA、ウェスタンブロッティング等の手法により、(A)及び/又は(B)(あるいは(A)と(B)の代わりに(C))が膜に含まれていることを確認してもよい。
【0115】
本発明の一実施態様では、本明細書中に記載の抗原提示細胞外小胞を製造するための方法であって、本明細書中に記載の形質転換された細胞を培養して得られてなる培養上清を回収することを含む、方法を提供する。
【0116】
本発明の一実施態様では、本明細書中に記載の細胞外小胞を製造するための方法であって、
(i)本明細書中に記載の(A)のタンパク質(又は融合タンパク質)をコードするポリヌクレオチド(あるいは(a)のポリヌクレオチド)、
(ii)本明細書中に記載の(B)のタンパク質(又は融合タンパク質)をコードするポリヌクレオチド(あるいは(b)のポリヌクレオチド)、及び/又は
(iii)本明細書中に記載の(C)のタンパク質(又は融合タンパク質)をコードするポリヌクレオチド(あるいは(c)のポリヌクレオチド)、
を含んでなる、単一のベクター又は2以上のベクターの組み合わせを、細胞に同時又は逐次的に(好ましくは、同時に)形質転換させることと、
得られた形質転換細胞を培養して得られてなる培養上清を回収することと
を含む、方法を提供する。
【0117】
本発明の一実施態様では、本明細書中に記載の抗原提示細胞外小胞、ポリヌクレオチド及び/又はこれを含むベクター、並びに/又は形質転換細胞及び/又はその培養上清、を含む組成物(例えば、医薬組成物)を提供する。本発明の一実施態様では、本明細書中に記載の抗原提示細胞外小胞、又は本明細書中に記載の培養上清を含む医薬及び試薬を提供する。
【0118】
本明細書中に記載の組成物(例えば、医薬用や試薬用)は、これらに限定されるものではないが、例えば、賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤、pH調整剤、溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤、無痛化剤、防腐剤、抗酸化剤、着色剤、甘味剤、界面活性剤等の添加剤を含むことができる。これら添加剤の種類、その使用量等は、目的に応じて当業者が適宜選択しうる。医薬組成物として用いる場合、これらの添加剤は薬理学的に許容できる担体であることが好ましい。さらに、本明細書中に記載の組成物がポリヌクレオチドを含む場合、必須ではないが、核酸のDD(ドラッグデリバリー)に適した担体を含むことが好ましく、これらの担体として脂質ナノ粒子(LNP)及びポリマー(たとえばPEI)が挙げられる。
【0119】
本明細書中に記載の組成物(例えば、医薬用や試薬用)は、上述した添加剤と共に、自体公知の方法により、例えば、錠剤、被覆錠剤、口腔内崩壊錠、チュアブル剤、丸剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、硬カプセル剤、軟カプセル剤、液剤(例えば、シロップ剤、注射剤、ローション剤等を含む)、懸濁剤、乳剤、ゼリー剤、貼付剤、軟膏剤、クリーム剤、吸入剤、坐剤等に製剤化することができる。これらは、経口剤であってもよいし、非経口剤であってもよい。製剤化されたものは、その目的に応じて、有益な他の成分(例えば、治療上有益な他の成分)を更に含んでいてもよい。
【0120】
本発明の一実施態様である組成物は、実施例3が示すように、ターゲット因子として抗原を用いた場合、その抗原を認識する遺伝子改変T細胞、たとえば、その抗原を認識して結合するT細胞受容体(TCR)を強制発現させたT細胞(TCR-T細胞);その抗原を認識して結合する領域(たとえば、VHおよびVLを含む単鎖可変領域scFv(single chain Fv)や重鎖のみから成る免疫グロブリン(抗体)の可変領域を含むナノボディのような抗体の標的抗原認識部分)とリンパ球活性化分子(たとえば、CD28の細胞内ドメインやmCD3zの細胞内ドメイン)を含む融合蛋白(Chimeric antigen receptor:CAR)を強制発現させたT細胞(CAR-T細胞)等を特異的に増殖可能である。従って、本発明の一実施態様である医薬組成物の対象への投与によって、TCR-T細胞又はCAR―T細胞を投与された対象の体内において、TCR-T細胞のT細胞受容体又はCAR-T細胞のキメラ抗原受容体と細胞外小胞の膜外に提示された前記抗原が反応し、好ましくは更にTCR-T細胞又はCAR-T細胞上のT細胞刺激性サイトカイン受容体と細胞外小胞の膜外に提示された前記T細胞刺激性サイトカインが反応することにより、TCR-T細胞又はCAR-T細胞が対象内で活性化及び/又は増殖する。活性化及び/又は増殖したTCR-T細胞又はCAR-T細胞がその抗原又はその断片を表面に発現するがん細胞を攻撃することにより、がん細胞の増殖を抑制してがんを治療する。
【0121】
がんとしては、何れの固形がん及び血液がんが含まれ、これらに限定されるものではないが、例えば、小細胞肺がん、非小細胞肺がん、乳がん、食道がん、胃がん、小腸がん、大腸がん、結腸がん、直腸がん、膵臓がん、前立腺がん、骨髄がん、腎臓がん(腎細胞がん等を含む)、副甲状腺がん、副腎がん、尿管がん、肝がん、胆管がん、子宮頸がん、卵巣がん(例えば、その組織型が、漿液性腺がん、粘液性腺がん、明細胞腺がん等)、精巣がん、膀胱がん、外陰部がん、陰茎がん、甲状腺がん、頭頸部がん、頭蓋咽頭がん、咽頭がん、舌がん、皮膚がん、メルケル細胞がん、黒色腫(悪性黒色腫等)、上皮がん、扁平上皮細胞がん、基底細胞がん、小児がん、原発不明がん、繊維肉腫、粘膜肉腫、脂肪肉腫、軟骨肉腫、骨原生肉腫、脊索腫、血管肉腫、リンパ管肉腫、リンパ管内皮肉腫、カポジ肉腫、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、滑膜腫、中皮腫、ユーイング腫瘍、精上皮腫、ウィルムス腫瘍、脳腫瘍、神経膠腫、膠芽腫、星状細胞腫、骨髄芽腫、髄膜腫、神経芽細胞腫、髄芽腫、網膜芽細胞腫、脊椎腫瘍、悪性リンパ腫(例えば、非ホジキンリンパ腫、ホジキンリンパ腫等)、慢性又は急性リンパ球性白血病、成人T細胞白血病等が挙げられる。
【0122】
また、本発明の一実施態様である組成物は、実施例1が示すように、in vitro又はin vivoで、内在する又は外部から移植された造血幹細胞の活性/増殖が可能である。従って、再生不良性貧血やがん放射線治療後においての血球細胞減少に対する、造血幹細胞の回復治療に用いることができる。
再生不良性貧血では赤血球、好中球、血小板が減少することによって、さまざまな症状が現れる。健常な造血幹細胞を移植して、患者の造血力を再生することにより再生不良性貧血を治療又は予防する。
造血幹細胞移植は、通常の化学療法や免疫抑制療法だけでは治すことが難しい血液がんや免疫不全症などに対して、完治させることを目的としても行われる。造血幹細胞移植では、大量の化学療法や全身への放射線治療などからなる移植前処置のあとに、自分またはドナーから事前に採取した造血幹細胞を点滴で投与する。血液やリンパのがんなど化学療法や放射線治療が効きやすいがんが治療に好適である。移植前処置の目的は、腫瘍細胞を減少させ、患者自身の免疫細胞を抑制することである。これによって、移植された造血幹細胞が患者の骨髄に根づき(生着する)、正常な造血機能が回復する。また、ドナーから提供された造血幹細胞を移植する同種造血幹細胞移植(同種移植)の場合は、ドナーのリンパ球が患者の腫瘍細胞を攻撃する移植片対白血病効果(GVL効果)も期待できる。
【0123】
また、本発明の一実施態様である組成物は、実施例2が示すように、in vitro又はin vivoで、iPS細胞/胚性幹細胞の分化誘導が可能である。
【0124】
上述した各種疾患を処置又は予防する対象となる被験体は、これらに限定されるものではないが、例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット等のげっ歯類;ウサギ等のウサギ目;ブタ、ウシ、ヤギ、ウマ、ヒツジ等の有蹄類;イヌ、ネコ等のネコ目;ヒト、サル、アカゲザル、カニクイザル、マーモセット、オランウータン、チンパンジー等の霊長類;等の哺乳動物等の動物、或いは植物が挙げられるが、好ましくは動物であり、より好ましくはげっ歯類又は霊長類であり、更に好ましくはマウス又はヒトである。
【0125】
本明細書中に記載の抗原提示細胞外小胞、ポリヌクレオチド及び/又はこれを含むベクター、並びに/又は形質転換細胞及び/又はその培養上清、或いはこれらを含む組成物又はこれを製剤化したものの投与量は、投与する被験体の性別、年齢、体重、健康状態、病状の程度若しくは食事;投与時間;投与方法;他の薬物との組み合わせ;その他の要因を考慮して適宜決定することができる。
【実施例0126】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、これら実施例は、本発明の範囲を何ら限定するものではない。
【0127】
実施例1.造血幹細胞への影響
1.1.プラスミドの調製
CD8Aのシグナルペプチド(配列番号1)をコードするポリヌクレオチド(配列番号2)、CXCL12の全長配列(配列番号3)をコードするポリヌクレオチド(配列番号4)、シグナルペプチドを除いたCD8Aの全長配列(配列番号5)をコードするポリヌクレオチド(配列番号6)、CD81の全長配列(配列番号7)をコードするポリヌクレオチド(配列番号8)から構成される人工合成した遺伝子配列(配列番号9)をコードするポリヌクレオチド(配列番号10)をpcDNA(商標)3.1(+)Mammalian Expression Vector(Thermo Fisher Scientific社製)に挿入し、CXCL-12を細胞外小胞の膜上に発現させるためのベクターを作製した。
同様の方法で、L―Selectinの全長配列(配列番号11)をコードするポリヌクレオチド(配列番号12)、CD81の全長配列(配列番号13)をコードするポリヌクレオチド(配列番号14)から構成される人工合成した遺伝子配列(配列番号15)をコードするポリヌクレオチド(配列番号16)をpcDNA(商標)3.1(+)Mammalian Expression Vector(Thermo Fisher Scientific社製)に、CD8Aのシグナルペプチド(配列番号17)をコードするポリヌクレオチド(配列番号18)、Thrombopoietin(TPO)の全長配列(配列番号19)をコードするポリヌクレオチド(配列番号20)、シグナルペプチドを除いたCD8Aの全長配列(配列番号21)をコードするポリヌクレオチド(配列番号22)、CD81の全長配列(配列番号23)をコードするポリヌクレオチド(配列番号24)から構成される人工合成した遺伝子配列(配列番号25)をコードするポリヌクレオチド(配列番号26)をpcDNA(商標)3.1/Zeo (+) Mammalian Expression Vector(Thermo Fisher Scientific社製)に、MFG-E8のシグナルペプチド(配列番号27)をコードするポリヌクレオチド(配列番号28)、Stem cell factor(SCF)の全長配列(配列番号29)をコードするポリヌクレオチド(配列番号30)、ペプチドリンカー1(配列番号31)をコードするポリヌクレオチド(配列番号32)、Stem cell factor(SCF)の全長配列(配列番号33)をコードするポリヌクレオチド(配列番号34)、ペプチドリンカー2(配列番号35)をコードするポリヌクレオチド(配列番号36)、MFG-E8の48番目のDをEに変更したシグナルペプチドを除いた全長配列(配列番号37)をコードするポリヌクレオチド(配列番号38)から構成される人工合成した遺伝子配列(配列番号39)をコードするポリヌクレオチド(配列番号40)をpcDNA(商標)3.1/Hygro(+) Mammalian Expression Vector(Thermo Fisher Scientific社製)にそれぞれ挿入し、L―Selectin、TPO、SCFを細胞外小胞の膜上に発現させるためのベクターを作製した。
構築した各ベクターはE. coli DH5α Competent Cells(タカラバイオ社製)に形質転換した。形質転換した大腸菌に関してLB培地を用いて増幅し、EndoFree Plasmid Maxi Kit(QIAGEN社製)を用いてベクターの大量調製を行った。
用いた配列情報を以下の表1~3に示す。
【0128】
【表1-1】

【表1-2】

【表1-3】

【表1-4】

【表1-5】
【0129】
【表2-1】

【表2-2】

【表2-3】
【0130】
【表3-1】

【表3-2】

【表3-3】
【0131】
1.2.細胞外小胞の調製
1.2.1.HEK293細胞由来細胞外小胞の取得及び細胞外小胞の膜に含まれる融合タンパク質のフローサイトメトリー解析
ヒト胎児腎由来HEK293細胞(JCRB細胞バンク製)は10%FBS含有E-MEM培地(L-グルタミン、フェノールレッド含有)(富士フイルム和光純薬社製)を用いて前培養を行った。1×106cells/10mL/10cm dishとなるようにHEK293を播種し、COインキュベーター(37℃、5%CO)内にて静置状態で24時間培養した。24時間後、Lipofectamine(登録商標) 3000 Reagent(Thermo Fisher Scientific社製)及びOpti-MEM(商標)I Reduced Serum Medium, no phenol red(Thermo Fisher Scientific社製)を用いて、ベクター未導入群(サンプル1)、SCF及びTPO発現ベクター導入群(サンプル2)、SCF、TPO及びL―Selectin発現ベクター導入群(サンプル3)、SCF、TPO及びCXCL12発現ベクター導入群(サンプル4)を5μgずつ導入し、COインキュベーター(37℃、5%CO)内にて24時間培養した。24時間後、D-PBS(富士フイルム和光純薬社製)で洗浄した各10cm dishに10%Fetal Bovine Serum, exosome-depleted, One Shot(商標)format(Thermo Fisher Scientific社製)含有E-MEM培地(L-グルタミン、フェノールレッド含有)を10mL添加し、COインキュベーター(37℃、5%CO)内にて48時間培養した。48時間後、培養上清を回収した。回収した培養上清は、Vivaspin 20(100k)(Sartorius社製)を用いて濃縮し、濃縮した溶液を用いてPS Capture(商標) エクソソームフローサイトメトリーキット(富士フイルム和光純薬株式会社製)によって、製造業者の指示にしたがって免疫染色を行った。染色に使用した抗体は以下のとおりである。染色時間は1次抗体、2次抗体共に60分間、4℃で反応させた。染色後、各融合タンパク質の発現を、フローサイトメーターLSRFortessaX-20(BDバイオサイエンシス社製)で検出した。
【0132】
【表4】
【0133】
結果を図1に示す。SCF、TPO及びL―SelectinもしくはCXCL12の3つのベクターを発現させた細胞外小胞において、各分子の発現が認められた。
【0134】
1.2.2.HEK293細胞由来細胞外小胞の取得並びにSCF及びTPO定量評価
ヒト胎児腎由来HEK293細胞(JCRB細胞バンク製)は10%FBS含有E-MEM培地(L-グルタミン、フェノールレッド含有)(富士フイルム和光純薬社製)を用いて前培養を行った。1×106cells/10mL/10cm dishとなるようにHEK293を播種し、COインキュベーター(37℃、5%CO)内にて静置状態で24時間培養した。24時間後、Lipofectamine 3000 Reagent(Thermo Fisher Scientific社製)及びOpti-MEM I Reduced Serum Medium, no phenol red(Thermo Fisher Scientific社製)を用いて、ベクター未導入群(サンプル1)、SCF及びTPO発現ベクター導入群(サンプル2)、SCF、TPO及びL―Selectin発現ベクター導入群(サンプル3)、SCF、TPO及びCXCL12発現ベクター導入群(サンプル4)を5μgずつ導入し、COインキュベーター(37℃、5%CO)内にて24時間培養した。24時間後、D-PBSで洗浄した各10cm dishに10%Fetal Bovine Serum,exosome-depleted, One Shot format(Thermo Fisher Scientific社製)含有E-MEM培地(L-グルタミン、フェノールレッド含有)を10mL添加し、COインキュベーター(37℃、5%CO)内にて48時間培養した。48時間後、培養上清を回収した。回収した培養上清は2000xgで10分間遠心し上清を回収後、0.22μmフィルター(ミリポア社製)を通過させた。処理を行った培養上清をUCチューブ(ベックマン・コールター社製)に添加し、SW41Ti(ベックマン・コールター社製)にセットし、Optima L-90K(ベックマン・コールター社製)を用いて35000rpm、4℃の条件で70分間遠心した。遠心後、上清を除去し、UCチューブにD-PBSを10mL添加し、35000rpm、4℃の条件で70分間遠心した。遠心後、上清を除去し、50μLのD-PBSに懸濁した。
細胞外小胞上に発現したSCF及びTPOを定量するために、Human SCF ELISA Kit(abcam社製)及びHuman Thrombopoietin ELISA Kit(abcam社製)を用いた。それぞれ用いるプレートに10倍希釈した細胞外小胞溶液もしくは段階希釈した検量線溶液を50μL添加した。そこへAntibody Diluent CPIもしくはAntibody Diluent 5BIで終濃度が1×Capture Antibodyと1×Detector Antibodyとなるように調製したAntibody Cocktailを50μL添加し、1時間室温下で振とうした。1時間後に、溶液を捨て350uLの1×Wash Buffer PTで3回洗浄を行った。続いて、100μLのTMB Development Solution室温で10分間振とうした。最後に、100μLのStop Solutionを添加して反応を停止させた後、450nmの吸光度を測定した。各検量線の吸光度からサンプル1からサンプル4に含まれるSCF及びTPO濃度を算出した。
【0135】
その結果、サンプル2からサンプル4では表5に示すような発現量が認められた。一方、サンプル1ではいずれも定量下限値未満となった。
【表5】
【0136】
1.3.In vitroでの効果
1.3.1. ヒト骨髄CD34陽性前駆細胞を用いた細胞増殖評価
ヒト骨髄CD34陽性前駆細胞(Lonza社製)を37℃の湯浴で溶解させ、StemSpan(商標)Serum-Free Expansion Medium(STEMCELLtechnologies社製)10mLに懸濁した。300xgで10分間遠心後、上清を除き、培地で再懸濁し、5000cells/80uL/wellとなるように96ウェル透明平底未処理セルカルチャープレート(Falcon社製)に播種した。SCF及びTPOが終濃度でSCF:3pg/mL、TPO:1.63pg/mL(サンプル2);SCF:3pg/mL、TPO:3.69pg/mL(サンプル3)及びSCF:3pg/mL、TPO:2.92pg/mL(サンプル4)となるように上記1.2.2で調製した各細胞外小胞溶液を添加した。また、最も添加量が多かったサンプル2に合わせる形でサンプル1の添加を行った。さらに、サンプル2からサンプル4と同様の終濃度となるようにレコンビナントSCF(R&DSystems社製)及びレコンビナントTPO(Peprotech社製)の処置も行った(サンプル5~7)。対照として、D―PBS処置群(control)を置いた。いずれの群も最終的な容量は100μLとなるように培地及びD―PBS溶液で調節した。処置を行ったプレートはCOインキュベーター(37℃、5%CO)内にて96時間培養した。96時間後に100uLのCellTiter-Glo(登録商標) Luminescent Cell Viability Assay(Promega社製)を添加し、10分間反応させたのち、Enspire(PerkinElmer社製)を用いて発光度を測定することで各時点における細胞数を測定した。算出された発光度をもとに、controlに対する値を% of controlとして各群で求めた。
【0137】
その結果、サンプル2、サンプル3及びサンプル4を処置した群においてcontrol、サンプル1及びサンプル5、サンプル6及びサンプル7と比較して発光度の増加が認められた(図2)。
【0138】
実施例2.iPSC分化誘導
2.1.プラスミドの調製
CD8のシグナルペプチド(配列番号41)をコードするポリヌクレオチド(配列番号42)、Bc2l-Cのフラグメント1(配列番号43)をコードするポリヌクレオチド(配列番号44)、ペプチドリンカー(配列番号45)をコードするポリヌクレオチド(配列番号46)、Bc2l-Cのフラグメント2(配列番号47)をコードするポリヌクレオチド(配列番号48)、ペプチドリンカー(配列番号49)をコードするポリヌクレオチド(配列番号50)、Bc2l-Cのフラグメント3(配列番号51)をコードするポリヌクレオチド(配列番号52)、CD8の細胞外ドメイン、膜貫通ドメイン、細胞質ドメイン(配列番号53)をコードするポリヌクレオチド(配列番号54)、CD81の全長配列(配列番号55)をコードするポリヌクレオチド(配列番号56)から構成される人工合成した遺伝子配列(配列番号57)をコードするポリヌクレオチド(配列番号58)をpcDNA(商標)3.1/Hygro(+)Mammalian Expression Vector(Thermo Fisher Scientific社製)に挿入し、Bc2l-Cを細胞外小胞の膜上に発現させるためのベクターを作製した。
同様の方法で、C35S、C244S、C247Sの変異をさせたMutation ActivinAの全長配列(配列番号59)をコードするポリヌクレオチド(配列番号60)、ペプチドリンカー(配列番号61)をコードするポリヌクレオチド(配列番号62)、シグナルペプチドを除いたMFGE8の全長配列(配列番号63)をコードするポリヌクレオチド(配列番号64)から構成される人工合成した遺伝子配列(配列番号65)をコードするポリヌクレオチド(配列番号66)をpcDNA(商標)3.1/Zeo(+)Mammalian Expression Vector(Thermo Fisher Scientific社製)に、MFGE8のシグナルペプチド(配列番号67)をコードするポリヌクレオチド(配列番号68)、Mature Activin Aのうちアミノ酸 306~426(配列番号69)をコードするポリヌクレオチド(配列番号70)、ペプチドリンカー(配列番号71)をコードするポリヌクレオチド(配列番号72)、シグナルペプチドを除いたMFGE8の全長配列(配列番号73)をコードするポリヌクレオチド(配列番号74)から構成される人工合成した遺伝子配列(配列番号75)をコードするポリヌクレオチド(配列番号76)をpcDNA(商標)3.1/Zeo(+)Mammalian Expression Vector(Thermo Fisher Scientific社製)にそれぞれ挿入し、Mutation Activin AおよびMature Activin Aを細胞外小胞の膜上に発現させるためのベクターを作製した。構築した各ベクターはE. coli DH5α Competent Cells(タカラバイオ社製)に形質転換した。形質転換した大腸菌に関してLB培地を用いて増幅し、EndoFree Plasmid Maxi Kit(QIAGEN社製)を用いてベクターの大量調製を行った。
用いた配列情報を以下の表6~8に示す。
【0139】
【表6-1】

【表6-2】

【表6-3】

【表6-4】

【表6-5】
【0140】
【表7-1】

【表7-2】

【表7-3】

【表7-4】
【0141】
【表8-1】

【表8-2】

【表8-3】
【0142】
2.2.細胞外小胞の調製
2.2.1.HEK293細胞由来細胞外小胞の取得及び細胞外小胞の膜に含まれる融合タンパク質のフローサイトメトリー解析
ヒト胎児腎由来HEK293細胞(JCRB細胞バンク製)は10%FBS含有E-MEM培地(L-グルタミン、フェノールレッド含有)(富士フイルム和光純薬社製)を用いて前培養を行った。8×10cells/10mL/10cm dishとなるようにHEK293を播種し、COインキュベーター(37℃、5%CO)内にて静置状態で24時間培養した。24時間後、Lipofectamine(登録商標) 3000 Reagent(Thermo Fisher Scientific社製)及びOpti-MEM(商標)I Reduced Serum Medium, no phenol red(Thermo Fisher Scientific社製)を用いて、Mutation Activin A発現ベクター導入群、Mature Activin A発現ベクター導入群を7.5μg、となるように導入し、COインキュベーター(37℃、5%CO)内にて24時間培養した。24時間後、D-PBS(富士フイルム和光純薬社製)で洗浄した各10cm dishに10%Fetal Bovine Serum, exosome-depleted, One Shot(商標)format(Thermo Fisher Scientific社製)含有E-MEM培地(L-グルタミン、フェノールレッド含有)を10mL添加し、COインキュベーター(37℃、5%CO)内にて48時間培養した。48時間後、培養上清を回収した。回収した培養上清は、Capturem(商標)Extracellular Vesicle Isolation Kit(Maxi)(タカラバイオ社製)を用いて細胞外小胞を精製し、得られた溶液をAmicon Ultra-0.5,PLGC Ultracel,10kDa(メルクミリポア社製)を用いて濃縮し、D-PBS(-)に置換した。濃縮した溶液を用いてPS Capture(商標) エクソソームフローサイトメトリーキット(富士フイルム和光純薬株式会社製)によって、製造業者の指示にしたがって免疫染色を行った。染色には、AlexaFluor(登録商標)647コンジュゲート抗ヒトActivin A抗体(Bioss antibodies社製)を用い、室温にて60分反応させた。染色後、各融合タンパク質の発現を、フローサイトメーターLSRFortessaX-20(BDバイオサイエンシス社製)で検出した。
【0143】
結果を図3に示す。2通りのベクターにてActivin Aを発現させた細胞外小胞において、いずれもActivin Aの発現が認められた。
【0144】
2.2.2.HEK293細胞由来細胞外小胞の取得及びActivin A定量評価
ヒト胎児腎由来HEK293細胞(JCRB細胞バンク製)は10%FBS含有E-MEM培地(L-グルタミン、フェノールレッド含有)(富士フイルム和光純薬社製)を用いて前培養を行った。8×10cells/10mL/10cm dishとなるようにHEK293を播種し、COインキュベーター(37℃、5%CO)内にて静置状態で24時間培養した。24時間後、Lipofectamine 3000 Reagent(Thermo Fisher Scientific社製)及びOpti-MEM I Reduced Serum Medium, no phenol red(Thermo Fisher Scientific社製)を用いて、Mutation Activin A発現ベクター導入群(実施例条件1)では7.5μg、Bc2l-C及びMutation Activin A発現ベクター導入群(実施例条件2)では各ベクター3.75ug、Mature Activin A発現ベクター導入群(実施例条件3)ではベクター7.5μgとなるように導入し、COインキュベーター(37℃、5%CO)内にて24時間培養した。同様に操作したベクター未導入群を比較例とした。24時間後、D-PBSで洗浄した各10cm dishに10%Fetal Bovine Serum, exosome-depleted, One Shot format(Thermo Fisher Scientific社製)含有E-MEM培地(L-グルタミン、フェノールレッド含有)を10mL添加し、COインキュベーター(37℃、5%CO)内にて48時間培養した。48時間後、培養上清を回収した。回収した培養上清は、Capturem(商標)Extracellular Vesicle Isolation Kit(Maxi)(タカラバイオ社製)を用いて細胞外小胞を精製し、得られた溶液をAmicon Ultra-0.5,PLGC Ultracel,10kDa(メルクミリポア社製)を用いて濃縮し、D-PBS(-)に置換した。細胞外小胞上に発現したActivin Aを定量するために、濃縮した溶液をHuman Activin A ELISA(RayBiotech社製)にて測定した。また、同溶液中に含まれる細胞外小胞の粒子数および平均粒子径をナノ粒子トラッキング解析装置ZetaView(DKSHジャパン社製)にて測定した。
【0145】
その結果、いずれのサンプルにおいても平均粒子径が50~150nmの細胞外小胞が得られた。Activin Aの定量結果はサンプル2からサンプル5では表に示すような発現量が認められた一方で、サンプル1ではいずれも定量下限値未満となったことから、ベクターの導入により、細胞外小胞にActivinAを発現させることができたことが明らかとなった。
【0146】
【表9】
【0147】
2.3.In vitroでの効果
2.3.1.HEK293細胞由来Activin A発現細胞外小胞を用いたiPSC分化誘導実験
上記で得られたActivin Aを発現させた細胞外小胞がヒトiPSCを分化誘導できるか検証した。ヒトiPSC(RPChiPS771株、リプロセル社製)をiMatrix-511 silk(マトリクソーム社製)を0.5μg/cmとなるようにコーティングした6ウェルプレートにてStemFit(登録商標)AK02N(味の素ヘルシーサプライ社製)にて培養した。得られた細胞を0.5mM EDTA溶液を加えて37℃で10分間インキュベートし、シングルセルにて剥離した。得られた細胞を10μM Y-27632(富士フイルム和光純薬社製)を添加したStemFit(登録商標)培地に懸濁し、iMatrix-511を0.5μg/cmとなるようにコーティングした24ウェルプレートに2×10cells/wellとなるように播種し、COインキュベーター(37℃、5%CO)内にて静置状態で24時間培養した。(Day-1)。播種翌日、細胞が接着していることを確認し、分化培地に培地を交換し分化を開始した(Day0)。分化培地には、2mM L-glutamine(DSファーマバイオメディカル社製)、1%MEM非必須アミノ酸溶液(×100)(富士フイルム和光純薬社製)、0.1mM 2-メルカプトエタノール(Thermo Fisher Scientific社製)、2%B-27サプリメントXenoFreeCTS(Thermo Fisher Scientific社製)、ペニシリンストレプトマイシンを含むDMEM(high glucose)(富士フイルム和光純薬社製)を用いた。この分化培地に実施例2.2.1.にて得られたHEK293由来Activin A発現細胞外小胞を添加し、COインキュベーター(37℃、5%CO)内にて静置状態で3日間培養した。比較対象として、用いたHEK293由来Activin A発現細胞外小胞のELISA定量結果と同じ濃度になるように、リコンビナントActivin Aタンパク質(Shenandoah社製)を加え、3日間培養した。
分化3日後に得られた細胞よりRNeasy Mini Kit(キアゲン社製)を用いてRNAを回収し、PrimeScript(商標) RT Master Mix(Perfect Real Time)(タカラバイオ社製)を用いて逆転写後、Premix Ex Taq(Perfect Real Time)およびApplied Biosystems 7500 Real-Time PCR System(Thermo Fisherc Scientific社製)を用いて遺伝子発現を解析した。遺伝子発現の解析には表10のTaqManプローブ(いずれもThermo Fisher Scientific社製)を使用し、各遺伝子の発現量はハウスキーピング遺伝子であるGAPDHの発現量で補正した。その結果を表11に示す。
【0148】
【表10】
【0149】
【表11】
【0150】
その結果、同じ添加濃度となるようにリコンビナントタンパク質とHEK293由来Activin A発現細胞外小胞を用いてiPSCの分化誘導をしたところ、細胞外小胞を用いた群において、中胚葉マーカーTや内胚葉マーカーSOX17およびFOXA2の発現が顕著に増加することが明らかとなった。したがって、リコンビナントタンパク質と比べてActivin A発現細胞外小胞はより低濃度でiPSCの分化を誘導できることが示唆された。
【0151】
2.3.2.HEK293細胞由来Activin A発現細胞外小胞を用いたiPSC分化誘導実験
上記の条件3と同様にして、HEK293細胞にMature Activin Aベクターを導入して得られた細胞外小胞を得た。iPSCの分化誘導において、この細胞外小胞の添加量と分化マーカーの発現について評価した。
ヒトiPSC(RPChiPS771株、リプロセル社製)を上記と同様にしてシングルセルにて剥離した。得られた細胞を10μM Y-27632(富士フイルム和光純薬社製)を添加したStemFit(登録商標)培地に懸濁し、iMatrix-511を0.5μg/cmとなるようにコーティングした48ウェルプレートに2×10cells/wellとなるように播種し、COインキュベーター(37℃、5%CO)内にて静置状態で24時間培養した。(Day-1)。播種翌日、細胞が接着していることを確認し、分化培地に培地を交換し分化を開始した(Day0)。分化培地には、ELISAにてActivinA濃度を定量したHEK293由来Mature Activin A発現細胞外小胞を0.05、0.1、0.2、0.5ng/mLとなるように添加し、3日間培養した。比較対象として、ActivinAリコンビナントタンパク質(Shenandoah社製)を0、1、10、100ng/mLになるように加え、比較対照群では毎日培地交換を実施した。上記と同様にして、分化3日後の遺伝子発現を評価した結果を図4に示す。
【0152】
その結果、リコンビナントタンパク質と比較して低濃度で中胚葉マーカーTや内胚葉マーカーSOX17およびFOXA2の発現が増加することが明らかとなった。特に内胚葉マーカーTについては、今回の細胞外小胞の添加濃度でリコンビナントタンパク質での発現量を大きく超えて高い発現が確認され、特に中胚葉への分化に有用である可能性が示唆された。また、リコンビナントタンパク質の場合は、3日間の分化期間において、培地交換を行い、都度リコンビナントタンパク質の添加が必要であるが、細胞外小胞の場合は、初日の添加のみで培地交換をせずにiPSCの分化誘導が可能であった。これらの点から、Activin Aを発現させた細胞外小胞は、低濃度で安定的にiPSCの分化を誘導できることが示唆された。
【0153】
実施例3.CAR-T細胞への影響
3.1. プラスミドの調製
3.1.0.CAR-P2A-Venus
Her2を認識するキメラ抗原受容体(CAR)(配列番号105)をコードするポリヌクレオチド(配列番号106)、2Aペプチドの1つであるP2A(配列番号107)をコードするポリヌクレオチド(配列番号108)、Venus(配列番号109)をコードするポリヌクレオチド(配列番号110)から構成される人工合成した遺伝子配列CAR-P2A-Venus(配列番号111)をコードするポリヌクレオチド(配列番号112)をpMXベクターに挿入し、CAR-T細胞を作製するためのベクターを作製した。2Aペプチド配列はリボソームスキッピングを起こすので、CAR-P2A-Venusをコードする配列が実際に翻訳された場合、独立したCARを含むタンパク質と独立したVenusを含むタンパク質が翻訳される。
3.1.1.Her2-MEGE8
Her2のシグナルペプチド(配列番号79)をコードするポリヌクレオチド(配列番号80)、Her2(細胞外ドメイン)(配列番号77)をコードするポリヌクレオチド(配列番号78)、ペプチドリンカー(配列番号81)をコードするポリヌクレオチド(配列番号82)、及び、MFG-E8(配列番号83)をコードするポリヌクレオチド(配列番号84)から構成される人工合成した遺伝子配列Her2-MFG-E8(配列番号85)をコードするポリヌクレオチド(配列番号86)をpCAG-puroベクター挿入し、Her2を細胞外小胞の膜上に発現させるためのベクターを作製した。
3.1.2.Her2-MEGE8-IL-2及びHer2-MEGE8-IL-7
上記で構成したHer2-MFG-E8に更にリンカー(配列番号87)を介してIL-2(配列番号89)又はIL-7(配列番号93)をC端に融合させた遺伝子配列Her2-MEGE8-IL-2(配列番号91)又はHer2-MEGE8-IL-7(配列番号95)を各々コードするポリヌクレオチド(配列番号92又は96)をpCAG-puroベクターに挿入し、Her2及びIL-2、又はHer2及びIL-7を細胞外小胞の膜上に発現させるためのベクターを作製した。
2.1.3.Her2-CD81
Her2(シグナルペプチド、細胞外ドメイン、膜貫通ドメイン及び一部の細胞内ドメインを含む)(配列番号97)をコードするポリヌクレオチド(配列番号98)、及び、CD81(配列番号99)をコードするポリヌクレオチド(配列番号100)から構成される人工合成した遺伝子配列Her2-CD81(配列番号101)をコードするポリヌクレオチド(配列番号102)をpCAG-puroベクターに挿入し、Her2を細胞外小胞の膜上に発現させるためのベクターを作製した。
2.1.3.Her2-CD81-IL-2
上記で構成したHer2-CD81の2nd loopにリンカー8(配列番号87)~シグナルペプチドを除いたIL-2の配列~リンカー8(配列番号87)からなる配列を導入して、Her2-CD81-IL-2(配列番号103)をコードするポリヌクレオチド(配列番号92又は96)をpCAG-puroベクターに挿入し、Her2及びIL-2を細胞外小胞の膜上に発現させるためのベクターを作製した。
図5に各遺伝子構成の模式図を示し、表12~14にその配列情報を示す。
【0154】
【表12-1】

【表12-2】

【表12-3】

【表12-4】

【表12-5】

【表12-6】

【表12-7】

【表12-8】

【表12-9】

【表12-10】

【表12-11】

【表12-12】

【表12-13】

【表12-14】

【表12-15】

【表12-16】

【表12-17】
【0155】
【表13-1】

【表13-2】

【表13-3】

【表13-4】

【表13-5】

【表13-6】

【表13-7】

【表13-8】

【表13-9】

【表13-10】
【0156】
【表14-1】

【表14-2】

【表14-3】

【表14-4】

【表14-5】
【0157】
3.2. CAR-T細胞と細胞外小胞の調製
3.2.1.CAR-T細胞の調製
PLAT―E細胞(レトロウイルスパッケージング細胞株)を細胞培養ディッシュに播種し、2%ウシ胎児血清及びペニシリン/ストレプトマイシンを加えたダルベッコ改変イーグル培地で培養した。約50%コンフルエンスの細胞に、製造業者の指示にしたがって、CAR-P2A-VenusをコードするpMXベクターをPolyethylenimine“Max”(Polysciences社製)を用いてトランスフェクトした。トランスフェクションの12時間後に培地を交換し、トランスフェクションの60時間後、上清を回収し、300gで5分間遠心分離した。回収した上清をウイルス粒子として用いた。回収したウイルス粒子を製造業者の指示にしたがってRetroNectionをcoatしたプレートに撒いた。
C57BL/6マウスから摘出したリンパ節を100μmフィルター上で破砕し、リンパ節細胞懸濁液を得た。リンパ節細胞 2×10個を、10%ウシ胎児血清、50μM 2-メルカプトエタノール及びペニシリン/ストレプトマイシン、10ng/ml mIL-2を加えたRPMI1640培地 200μLに懸濁し、製造業者の指示にしたがってDynabeads Mouse T-Activator CD3/CD28を加え2日間培養した.培養後、Dynabeadsを取り除き、2×10個の細胞を上記ウイルス粒子がcoatされたプレートに撒き、500g 10分間遠心した後、O/Nで培養したものをCAR-T細胞とした。
【0158】
3.2.2.Her2分子及びT細胞刺激性サイトカインを膜に含む細胞外小胞の調製
HEK293T細胞を細胞培養ディッシュに播種し、2%ウシ胎児血清及びペニシリン/ストレプトマイシンを加えたダルベッコ改変イーグル培地で培養した。約50%コンフルエンスの細胞に、製造業者の指示にしたがって、プラスミド(Her2-CD81、Her2-CD81-IL-2、Her2-MFG-E8またはHer2-MFG-E8-IL-2をコードするpCAGベクター)をPolyethylenimine“Max”(Polysciences社製)を用いてトランスフェクトした。トランスフェクションの6時間後に培地を交換し、トランスフェクションの24時間後にエクソソームを除去した2%ウシ胎児血清及びペニシリン/ストレプトマイシンを加えたダルベッコ改変イーグル培地に培地を交換した。トランスフェクションの72時間後、上清を回収し、該上清を0.22μmフィルターに通した後、300gで5分間遠心分離した。上清を回収し、該上清を2,000g、20分間、遠心分離した。上清を回収し、該上清を10,000g、30分間、遠心分離した。上清を回収し、該上清を100,000gで2時間遠心分離した後、上清を取り除き、ペレットをPBSで洗浄した。ペレットにPBSを加え、100,000gで2時間、遠心分離した後、上清を取り除き、ペレットを100μLのPBSで懸濁したものを、実施例3の細胞外小胞として用いた。細胞外小胞の濃度は、BCAタンパクアッセイキット(Thermo Fisher Scientific社製)を用い、製造業者の指示にしたがって測定した。コントロールとしてプラスミドをトランスフェクトしないHEK293細胞から同様の条件で細胞外小胞を回収した(以下コントロールエクソソーム又は293エクソソームと呼称する)。
【0159】
3.2.3.細胞外小胞の膜に含まれる融合タンパク質のフローサイトメトリー解析
3.2.2で調製した抗原提示細胞外小胞を、PS Capture(商標) エクソソームフローサイトメトリーキット(富士フイルム和光純薬株式会社製)によって、製造業者の指示にしたがって免疫染色を行った。染色に使用した抗体は以下のとおりである(染色時間:15分、温度:4℃)。染色後、各融合タンパク質の発現を、以下の抗体を用いてフローサイトメーターFACSCantoII(BDバイオサイエンシス社製)で検出した。
・APCコンジュゲート抗マウスIL-2抗体(JES6-5H4 Biolegend社製)
・PEコンジュゲート抗ヒトCD340(HER2)抗体(24D2 Biolegend社製)
結果を図6に示す。
【0160】
3.3.In vitroでの効果
CAR-T細胞活性化細胞外小胞がCAR-T細胞を活性化等するかどうかを調べるために、in vitroにおいて以下の試験を実施した。
実施例3.2.1.で作製したCAR-T細胞2×10個を、10%ウシ胎児血清、50μM 2-メルカプトエタノール及びペニシリン/ストレプトマイシンを加えたRPMI1640培地 200μLに懸濁し、実施例3.2.2.の細胞外小胞(Her2-CD81-IL-2)又コントロールの細胞外小胞(293exosome)を最終濃度20μg/ml)を加え、96穴丸底プレートで4日間培養した後、Venusの発現をフローサイトメーターFACSCantoII(BDバイオサイエンシス社製)で検出した。
結果を図7に示す。Her2-CD81-IL-2を発現する細胞外小胞はVenusを発現するCAR-T細胞を顕著に増殖させた。
【0161】
3.4.In vivoでの効果
3.4.1.In vivoでのCAR-T細胞活性化
CAR-T細胞活性化用の細胞外小胞がCAR-T細胞を活性化等するかどうかを調べるために、in vivoにおいて以下の試験を実施した。
CD45.1/CD45.2コンジェニックマウスに実施例3.2.1.で作製したCAR-T細胞4×10個を移入し、同時にCAR-T細胞活性化用の細胞外小胞(Her2MFGE8又はHer2CD81)又はコントロールの細胞外小胞(Control exosome)200μgをレシピエントマウスの尾静脈から移入した。細胞移入4日後、レシピエントマウスから脾臓を摘出し、リンパ球懸濁液を調製し、免疫染色を行った。染色には以下の抗体を用いる(染色時間:15分、温度:4℃)。染色後、移入したCAR-T細胞増殖見るためにVenusをフローサイトメーターFACSCantoII(BDバイオサイエンシス社製)で検出した。
・APCcy7コンジュゲート抗マウスCD45.1抗体(A20 Biolegend社製)
・Percpcy5 コンジュゲート抗マウスCD45.2抗体(104 Biolegend社製)
結果を図8に示す。Her2MFGE8又はHer2CD81を発現する細胞外小胞はVenusを発現するCAR-T細胞を顕著に活性化及び増殖させた。
【0162】
3.4.2.In vivoでの抗腫瘍効果
CD45.1/CD45.2コンジェニックマウスに、マウス大腸がん由来のHer2を発現するMC38細胞を1×10個を移植する。その後、実施例3.2.1.で作製したCAR-T細胞4×10個を移入し、同時にCAR-T細胞活性化用の細胞外小胞(Her2MFGE8、Her2CD81又はHer2-CD81-IL-2)又はコントロールの細胞外小胞(Control exosome)200μgをレシピエントマウスの尾静脈から移入する。細胞移入4日後、レシピエントマウス体内に形成されたMC38細胞を含む主要組織の大きさを測定する。
CAR-T細胞活性化用の細胞外小胞をCAR-T細胞と共投与すると、CAR-T細胞がレシピエントマウス体内で活性化し、Her2を発現するがん細胞に対する抗腫瘍効果が増強して、腫瘍組織の大きさがCAR-T細胞単独投与に比して減ずる。
【0163】
以下表15に実施例で用いた配列情報の詳細を示す。
【表15-1】

【表15-2】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【配列表】
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