(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025090415
(43)【公開日】2025-06-17
(54)【発明の名称】粘着シート
(51)【国際特許分類】
C09J 7/38 20180101AFI20250610BHJP
C09J 201/00 20060101ALI20250610BHJP
【FI】
C09J7/38
C09J201/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023205620
(22)【出願日】2023-12-05
(71)【出願人】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100173428
【弁理士】
【氏名又は名称】藤谷 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100091292
【弁理士】
【氏名又は名称】増田 達哉
(74)【代理人】
【識別番号】100091627
【弁理士】
【氏名又は名称】朝比 一夫
(72)【発明者】
【氏名】福井 千晃
【テーマコード(参考)】
4J004
4J040
【Fターム(参考)】
4J004AA10
4J004AA13
4J004AB01
4J004DB02
4J004EA06
4J004FA08
4J040DG001
4J040EC031
4J040JA03
4J040JB09
4J040MB10
(57)【要約】
【課題】再剥離型の粘着シートにおいて、粘着剤層にバイオマスを利用しつつ、再剥離性、および、粘着剤層と基材との密着性に優れた粘着シートを提供すること。
【解決手段】本発明の粘着シートは、基材と、前記基材の一方の面側に設けられた再剥離型の粘着剤層とを有し、前記粘着剤層は、エポキシ系架橋剤により架橋されたバイオマス系のエマルション型粘着剤の架橋物を含むことを特徴とする。前記エポキシ系架橋剤がグリセロールポリグリシジルエーテルであることが好ましい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
前記基材の一方の面側に設けられた再剥離型の粘着剤層とを有し、
前記粘着剤層は、エポキシ系架橋剤により架橋されたバイオマス系のエマルション型粘着剤の架橋物を含むことを特徴とする粘着シート。
【請求項2】
前記エポキシ系架橋剤がグリセロールポリグリシジルエーテルである請求項1に記載の粘着シート。
【請求項3】
前記エマルション型粘着剤の官能基封鎖率が10mol%以上50mol%以下である請求項1に記載の粘着シート。
【請求項4】
前記粘着剤層における、前記エマルション型粘着剤:100質量部に対する前記エポキシ系架橋剤の割合が0.2質量部以上1.0質量部以下である請求項1または2に記載の粘着シート。
【請求項5】
曲面を有する被着体の該曲面部分に貼付される請求項1または2に記載の粘着シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘着シートに関する。
【背景技術】
【0002】
被着体への貼着後、比較的容易に剥離することが可能な再剥離型の粘着シート(再剥離型粘着シート)は、取扱いが容易で、各種のラベル等に使用されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
従来、粘着シートの粘着剤層を形成するための粘着剤組成物には、有機溶剤型の粘着剤組成物が用いられていた。しかし、塗工の際に有機溶剤が揮発することが問題であった。また、粘着シートの粘着剤層に有機溶剤がわずかに残存することも問題であった。
【0004】
一方、エマルション型の粘着剤組成物は、有機溶剤型の粘着剤組成物に比べて、環境面、安全面、および、衛生面等の観点において優れている。
【0005】
そのため、近年では、粘着シートの粘着剤層を形成するための粘着剤組成物として、エマルション型の粘着剤組成物を用いることが多くなってきている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
また、近年、地球温暖化等の環境問題が重視されており、二酸化炭素等の温室効果ガスの排出抑制の規制が強化されている。かかる観点から、植物由来の成分等を配合することによって、化石資源系材料の使用量を減らし、焼却処分時等に温室効果ガスの排出量を低減することができる粘着シートも提案されている。
【0007】
しかしながら、再剥離型の粘着シートにおいて、粘着剤層のバイオマス度を高めると、再剥離性や、粘着剤層の基材に対する密着性が低下してしまうという問題があった。
【0008】
また、粘着シートを貼付する対象となる被着体は、曲面を有するものが多い。そのため、特に曲面に対する貼付性に優れる粘着シートも求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2010-174087号公報
【特許文献2】特開2016-088962号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、再剥離型の粘着シートにおいて、粘着剤層にバイオマスを利用しつつ、再剥離性、および、粘着剤層と基材との密着性に優れた粘着シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
このような目的は、下記(1)~(5)に記載の本発明により達成される。
(1) 基材と、
前記基材の一方の面側に設けられた再剥離型の粘着剤層とを有し、
前記粘着剤層は、エポキシ系架橋剤により架橋されたバイオマス系のエマルション型粘着剤の架橋物を含むことを特徴とする粘着シート。
【0012】
(2) 前記エポキシ系架橋剤がグリセロールポリグリシジルエーテルである上記(1)に記載の粘着シート。
【0013】
(3) 前記エマルション型粘着剤の官能基封鎖率が10mol%以上50mol%以下である上記(1)または(2)に記載の粘着シート。
【0014】
(4) 前記粘着剤層における、前記エマルション型粘着剤:100質量部に対する前記エポキシ系架橋剤の割合が0.2質量部以上1.0質量部以下である上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の粘着シート。
【0015】
(5) 曲面を有する被着体の該曲面部分に貼付される上記(1)ないし(4)のいずれかに記載の粘着シート。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、再剥離型の粘着シートにおいて、粘着剤層にバイオマスを利用しつつ、再剥離性、および、粘着剤層と基材との密着性に優れた粘着シートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の粘着シートの一構成例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0019】
[1]粘着シート
図1は、本発明の粘着シートの一構成例を示す断面図である。
粘着シート1は、基材10と、基材10の一方の面側に設けられた再剥離型の粘着剤層20とを有している。そして、粘着剤層20は、エポキシ系架橋剤により架橋されたバイオマス系のエマルション型粘着剤の架橋物を含んでいる。
【0020】
粘着シート1は、被着体の表面の少なくとも一部を覆うように貼着されるものである。
なお、本明細書において「シート」にはフィルムの概念が含まれるものとする。
【0021】
この粘着シート1によれば、粘着剤層20が、バイオマス系の粘着剤を含んでいることにより、環境負荷を低減することができる。
【0022】
なお、本明細書において、バイオマス系の粘着剤とは、生物由来の成分等(以下、「バイオマス材料」ともいう)が配合されている粘着剤のことを言う。
【0023】
植物由来の成分等のバイオマス材料は、燃焼等によって温室効果ガスである二酸化炭素を放出するが、当該二酸化炭素は、元をたどれば、典型的には植物の成長過程で光合成により大気中から吸収したものであるため、大気中の二酸化炭素の増加を実質的にもたらさない。つまり、バイオマス材料は、地球環境において比較的短期間のうちに循環することによって、炭素の増減を実質的にもたらさないカーボンニュートラルな材料とみなすことができる。
【0024】
そして、バイオマス材料がカーボンニュートラルな材料であることによって、バイオマス材料を配合し、化石資源系材料の使用量を減らした粘着シート1は、焼却処分時等に、化石資源系材料に由来する二酸化炭素の排出量、言い換えると、比較的短期間のうちには再生が困難な材料に由来する二酸化炭素の排出量が低減され、焼却処分時等に温室効果ガスの排出量が低減される。
【0025】
また、この粘着シート1によれば、粘着剤層20が、エポキシ系架橋剤により架橋された粘着剤の架橋物を含んでいることにより、該架橋物は、粘着剤層20内で好適な網目構造を形成することで、粘着剤層20の凝集力を好適に向上させ、適度な粘着力を有するものとすることができる。
【0026】
これにより、粘着シート1は、粘着剤層20と基材10との密着性が向上し、再剥離性に優れたものとなる。
【0027】
また、粘着シート1では、粘着剤として、非溶剤系の粘着剤であるエマルション型粘着剤を用いている。そのため、粘着シート1の製造時の揮発性有機化合物(VOC)の排出量を削減できるほか、製造後の製品の残留溶剤量を削減することができる。
【0028】
したがって、この粘着シート1では、粘着剤層20のバイオマス度を高めて環境負荷を低減しつつ、再剥離性、および、粘着剤層20と基材10との密着性が優れたものとなる。また、粘着シート1は、曲面貼付性にも優れたものとなる。
【0029】
これに対し、上記のような条件を満たさない場合には、満足のいく結果が得られない。例えば、粘着剤層が、架橋剤により架橋されたバイオマス系のエマルション型粘着剤の架橋物を含むものであっても、当該架橋剤がエポキシ系架橋剤ではなく、エポキシ系架橋剤以外の架橋剤の場合には、貼付後に日数が経つと粘着力が上昇し、再剥離性が低下する。
【0030】
[1-1]基材
粘着シート1が備える基材10としては、例えば、紙類、合成紙、合成樹脂フィルム等が挙げられる。
なお、基材10は、単層であってもよく、2層以上を積層した複層であってもよい。
【0031】
基材10として用いられる紙類としては、例えば、クラフト紙、上質紙、アート紙、コート紙、キャストコート紙、ホイル紙、感熱紙、熱転写紙等が挙げられる。
【0032】
基材10として用いられる合成紙としては、例えば、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリエステル等の樹脂から構成された合成紙等が挙げられる。
【0033】
なお、粘着シート1において、紙基材を用いたとしても、粘着シート1は、優れた再剥離性を有するため、当該粘着シート1を被着体から剥離する際に、当該紙基材の破断が生じ難いものとなる。
【0034】
基材10として用いられる合成樹脂フィルムを構成する樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-ビニルアルコール共重合体等のビニル系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂;ポリスチレン;アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体;三酢酸セルロース;ポリカーボネート;ポリウレタン、アクリル変性ポリウレタン等のウレタン樹脂;ポリメチルペンテン;ポリスルホン;ポリエーテルエーテルケトン;ポリエーテルスルホン;ポリフェニレンスルフィド;ポリエーテルイミド、ポリイミド等のポリイミド系樹脂;ポリアミド系樹脂;アクリル樹脂;フッ素系樹脂等が挙げられる。
【0035】
これらの中でも、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリスチレン、および、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体が好ましい。
【0036】
ここで、合成樹脂フィルムを構成する樹脂は、リサイクル樹脂であることが好ましい。これにより、環境負荷をより効果的に低減することができる。
【0037】
リサイクル樹脂としては、例えば、リサイクルのポリエチレンテレフタレート(PET)等が挙げられる。
【0038】
また、合成樹脂フィルムのいずれか一方の面には、アルミ蒸着、錫蒸着等の金属調光沢層を設けてもよい。
【0039】
なお、合成樹脂フィルムには、各種添加剤が含有されていてもよい。
このような添加剤としては、例えば、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、充填剤、着色剤等が挙げられる。
【0040】
基材10の厚さは、用途に応じて適宜設定されるが、5μm以上1000μm以下であるのが好ましく、10μm以上700μm以下であるのがより好ましく、20μm以上500μmであるのがさらに好ましい。
これにより、粘着シート1は、取扱い性が特に優れたものとなる。
【0041】
なお、粘着シート1において、印刷の際に、インク等の密着を良好とする観点から、基材10の粘着剤層20とは反対側の表面上に、さらに易接着層等を有していてもよい。また、粘着シート1への印刷方式は、特に限定されず、フレキソ印刷、グラビア印刷、オフセット印刷、スクリーン印刷、インクジェット印刷、デジタル印刷、レーザー印刷等が挙げられる。
【0042】
[1-2]粘着剤層
粘着剤層20は、粘着シート1を被着体に貼着する際に、被着体に接触、接合する部位である。
【0043】
上述したように、粘着剤層20は、再剥離型の粘着剤層であり、エポキシ系架橋剤により架橋されたエマルション型粘着剤の架橋物を含む。
【0044】
また、上述したように、粘着剤層20は、植物由来の成分が配合された、バイオマス系の粘着剤を含んでいる。
【0045】
植物由来の成分としては、例えば、植物油(例えば、パーム油、ヤシ油、松脂)、米ぬか、コーンコブ、綿、パルプ、種子等を原料としたアルコールをエステル化した(メタ)アクリル酸アルキルエステルを、モノマーの少なくとも一部に用いて重合して得られたポリマー等が挙げられる。
【0046】
[1-2-1]エマルション型粘着剤
エマルション型粘着剤は、粘着剤成分またはその前駆体を分散質として含むエマルションである粘着剤組成物を用いて形成された粘着剤である。通常、粘着剤層20を構成するエマルション型粘着剤自体は、前記粘着剤組成物の分散媒成分をほとんど含んでおらず、前記粘着剤組成物の分散媒成分を含む場合であっても、当該成分は、分散媒としての機能を有していない。
【0047】
前記粘着剤組成物は、アクリル系共重合体を含む水性エマルションであるのが好ましい。
【0048】
エマルション型粘着剤は、例えば、炭素数4以上12以下のアルキル基を含有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル、カルボキシル基含有不飽和単量体、カルボニル基含有不飽和単量体、および、必要に応じて、その他の不飽和単量体を含む単量体混合物を乳化重合させることにより得ることができる。なお、本明細書において、「(メタ)アクリル酸」とは、「アクリル酸」と「メタクリル酸」の両方を含む概念である。後述の「(メタ)アクリレート」、「(メタ)アクリロ」、「(メタ)アリル」についても同様である。
【0049】
炭素数4以上12以下のアルキル基を含有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、イソウンデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、イソドデシル(メタ)アクリレート等が挙げられ、これらから選択される1種または2種以上を組み合わせて用いることができるが、中でも、n-オクチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシルアクリレートが好ましい。
【0050】
カルボキシル基含有不飽和単量体としては、例えば、アクリル酸、アクリル酸ダイマー、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸等が挙げられ、これらから選択される1種または2種以上を組み合わせて用いることができるが、中でも、アクリル酸、メタクリル酸が好ましい。
【0051】
さらに、その他の不飽和単量体としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート等の炭素数1以上3以下のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルや、トリデシル(メタ)アクリレート、イソトリデシル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート等の炭素数13以上のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2-メトキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、スチレン、α-メチルスチレン、酢酸ビニル等が挙げられる。
【0052】
不飽和単量体としては、上記の他に、官能基含有不飽和単量体、例えば、水酸基含有不飽和単量体、エポキシ基含有不飽和単量体、アルコキシシリル基含有不飽和単量体、アミド基やメチロール基を含有する不飽和単量体、多官能性不飽和単量体等を用いてもよい。
【0053】
水酸基含有不飽和単量体としては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0054】
アミド基やメチロール基を含有する不飽和単量体としては、例えば、アクリルアミド、メタクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、ブトキシN-メチロールアクリルアミド等が挙げられる。
【0055】
粘着シート1は、粘着剤層20においてエマルション型粘着剤を構成する重合体の構成モノマーの少なくとも一部に、バイオマス系の材料を用いたものであればよいが、バイオマス系の単量体として、n-オクチル(メタ)アクリレートを用いることが好ましい。
【0056】
これにより、ガラス転移温度が低く、柔軟性を有し、粘着力が好適に発揮されるアクリル系共重合体を得ることができ、粘着剤層20において粘着力と再剥離性とのバランスの取れた特性を得ることができる。
【0057】
n-オクチル(メタ)アクリレートの含有率は、粘着剤層20中に含まれるアクリル系共重合体を構成する単量体成分の総量に対し、50質量%以上80質量%以下であるのが好ましく、55質量%以上75質量%以下であるのがより好ましく、60質量%以上70質量%以下であるのがさらに好ましい。
これにより、上述した効果をより顕著なものとすることができる。
【0058】
ただし、バイオマス材料は高価であるため、バイオマス材料の割合を高くしつつも、原料コストを抑えるために、アクリル系共重合体の単量体として、n-オクチル(メタ)アクリレートに加えて、2-エチルヘキシルアクリレートを組み合わせて用いることが好ましい。
【0059】
また、2-エチルヘキシルアクリレートを用いることで、n-オクチル(メタ)アクリレートを用いた場合と近い性質、言い換えると、ガラス転移温度が低い、柔軟性を有し、粘着力が好適に発揮されるといった性質を有するアクリル系共重合体を得ることができる。
【0060】
特に、n-オクチル(メタ)アクリレートと2-エチルヘキシルアクリレートとを併用することにより、上述したような、粘着剤層20の粘着力と再剥離性とのバランスを特に優れたものとしつつ、原料コストを好適に抑制することができる。
【0061】
2-エチルヘキシルアクリレートの含有率は、粘着剤層20中に含まれるアクリル系共重合体を構成する単量体成分の総量に対し、5質量%以上20質量%以下であるのが好ましく、7質量%以上18質量%以下であるのがより好ましく、10質量%以上15質量%以下であるのがさらに好ましい。
これにより、上述した効果をより顕著なものとすることができる。
【0062】
粘着剤層20中に含まれるアクリル系共重合体を構成する単量体成分の総量に対する、
n-オクチル(メタ)アクリレートの含有率をX1[質量%]、2-エチルヘキシルアクリレートの含有率をX2[質量%]としたとき、0.10≦X2/X1≦0.20の関係を満たすことが好ましく、0.12≦X2/X1≦0.19の関係を満たすことがより好ましく、0.13≦X2/X1≦0.18の関係を満たすことがさらに好ましい。
これにより、上述した効果をより顕著なものとすることができる。
【0063】
粘着シート1では、粘着剤層20においてエマルション型粘着剤を構成する官能基含有モノマーとして、アクリル酸を用いることが好ましい。
【0064】
アクリル酸が有するカルボキシル基は、粘着剤層20を形成後、エージングの際に、エポキシ系架橋剤と反応して、粘着剤層20内でより好適な網目構造を形成することができる。
【0065】
これにより、粘着シート1の再剥離性、粘着剤層20と基材10との密着性、および、曲面貼付性のバランスをより好適なものとすることができる。
【0066】
アクリル酸の含有率は、粘着剤層20中に含まれるアクリル系共重合体を構成する単量体成分の総量に対し、0.5質量%以上5.0質量%以下であるのが好ましく、0.7質量%以上3.0質量%以下であるのがより好ましく、0.8質量%以上2.0質量%以下であるのがさらに好ましい。
これにより、上述した効果をより顕著なものとすることができる。
【0067】
エマルション型粘着剤の製造方法は、特に限定されず、例えば、上述のモノマーを含む単量体混合物に、乳化剤および重合開始剤を添加し、乳化重合することで好適に製造することができる。
【0068】
なお、乳化重合において、重合安定性の観点から、単量体混合物は、乳化剤(または乳化剤の一部)を、単量体混合物に溶解しておくか、または、予めO/W型の乳化液の状態としておくことが好ましい。
【0069】
粘着剤層20におけるエマルション型粘着剤の含有率は、50質量%以上100質量%以下であるのが好ましく、70質量%以上100質量%以下であるのがより好ましく、90質量%以上100質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0070】
粘着剤層20におけるエマルション型粘着剤の含有率が前記下限値未満であると、基材10に対する粘着剤層20の密着性や、被着体に対する粘着シート1の密着性が低下してしまう可能性がある。一方、粘着剤層20におけるエマルション型粘着剤の含有率が前記上限値を超えると、被着体に対する粘着剤層20の密着性が高くなりすぎてしまい、粘着シート1を被着体から剥離したときに、被着体に粘着剤層20の一部が残留してしまう可能性がある。
【0071】
粘着剤層20のエマルション型粘着剤の平均粒子径は、80nm以上1000nm以下であるのが好ましく、200nm以上800nm以下であるのがより好ましく、300nm以上600nm以下であるのがさらに好ましい。
【0072】
エマルション型粘着剤の平均粒子径が前記下限値未満であると、被着体に対する粘着剤層20の密着性が高くなりすぎてしまい、粘着シート1を被着体から剥離したときに、被着体に粘着剤層20の一部が残留してしまう可能性がある。一方、エマルション型粘着剤の平均粒子径が前記上限値を超えると、基材10に対する粘着剤層20の密着性が低下する可能性や、被着体に対する粘着シート1の粘着性が低下してしまう可能性がある。
なお、本明細書において、「平均粒子径」とは、体積基準の平均粒子径をいう。
【0073】
[1-2-2]エポキシ系架橋剤
エポキシ系架橋剤は、粘着剤組成物の加熱およびシーズニングによりエマルション型粘着剤を架橋し、三次元網目構造の架橋構造を良好に形成することができる成分である。これにより、粘着剤層20は、所定の凝集力を有するものとなり、機械的強度、基材10との密着性、再剥離性に優れたものとなる。特に、曲面への貼り付け性が良好なものとなる。
【0074】
エポキシ系架橋剤としては、1分子中に2個以上のエポキシ基またはグリシジル基を有する化合物であることが好ましい。
【0075】
このようなエポキシ系架橋剤としては、例えば、1,3-ビス(N,N’-ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-m-キシリレンジアミン、ソルビトールポリグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル等が挙げられる。エポキシ系架橋剤は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0076】
中でも、エポキシ系架橋剤としては、ソルビトールポリグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテルを用いることが好ましく、グリセロールポリグリシジルエーテルを用いることがより好ましい。
【0077】
これにより、粘着剤層20において、三次元網目構造をより好適に形成することができ、基材10との密着性、再剥離性をより優れたものとすることができる。特に、エポキシ系架橋剤としてグリセロールポリグリシジルエーテルを用いることで、曲面貼付性を優れたものとすることができる。
【0078】
なお、本明細書において、グリセロールポリグリシジルエーテルは、1つのグリセロールと、複数のグリシジルエーテルを有し、一般式 C3H5O3H3-n(C3H5O)n (nは2または3)で表される化合物であり、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、および、ジグリセロールポリグリシジルエーテルとは区別される。
【0079】
エマルション型粘着剤の官能基は、エポキシ系架橋剤のエポキシ基またはグリシジル基によって、封鎖されていることが好ましい。
【0080】
エマルション型粘着剤の官能基封鎖率は、10mol%以上50mol%以下であるのが好ましく、20mol%以上40mol%以下であるのがより好ましく、25mol%以上35mol%以下であるのがさらに好ましい。
【0081】
これにより、粘着シート1の被着体から再剥離性をより優れたものとすることができ、粘着剤による被着体の汚染をより好適に防止することができる。
【0082】
これに対し、官能基封鎖率が前記下限値未満であると、官能基含有不飽和単量体中の官能基と被着体との相互作用によって被着体への粘着力が上がることに起因して、粘着剤により被着体が汚染される可能性がある。一方、官能基封鎖率が前記上限値を超えると、架橋反応をしなかったエポキシ系架橋剤が被着体に残留することにより、被着体が汚染される可能性がある。
【0083】
なお、本明細書において、官能基封鎖率は、エマルション型粘着剤を構成するアクリル系共重合体の官能基に対する、エポキシ系架橋剤のエポキシ基またはグリシジル基のmol%として求めることができる。
【0084】
粘着剤層20における、エマルション型粘着剤:100質量部に対するエポキシ系架橋剤の割合は、0.2質量部以上1.0質量部以下であるのが好ましく、0.4質量部以上0.8質量部以下であるのがより好ましく、0.5質量部以上0.7質量部以下であるのがさらに好ましい。
【0085】
これにより、粘着剤層20は、より適切な凝集力を有するものとなり、再剥離性、および、粘着剤層20の基材10への密着性を、より優れたものとすることができる。特に、粘着剤層20の耐しみ出し性および粘着シート1の曲面貼付性を優れたものとすることができる。
【0086】
これに対し、エポキシ系架橋剤量が上記下限値未満であると、粘着剤の凝集力が不足し、粘着剤層20の耐しみ出し性が低下してしまう可能性がある。一方、エポキシ系架橋剤量が上記上限値を超えると、粘着剤層20の濡れ性が低下し、曲面貼付性が低下してしまう可能性がある。
【0087】
粘着剤層20のバイオマス度は、10%以上60%以下であるのが好ましく、20%以上55%以下であるのがより好ましく、30%以上50%以下であるのがさらに好ましい。
【0088】
これにより、環境負荷をより好適に低減しつつ、粘着剤層20の粘着力をより好適なものとすることができ、例えば、より優れた曲面貼付性を発揮することができる。
【0089】
これに対し、粘着剤層20のバイオマス度が前記下限値未満であると、環境負荷を減らす効果が低下する。また、粘着剤層20のバイオマス度が前記上限値を超えると、曲面貼付性が低下しやすくなる。
【0090】
ここで、本明細書において、バイオマス度とは、バイオマス由来の炭素の割合(質量%)をいい、ASTM D6866-22により測定される。粘着剤層のバイオマス度は、バイオマス由来の(メタ)アクリル酸アルキルエステルのバイオマス度に、粘着剤組成物の固形分におけるその質量%を乗じることにより、算出することができる。
【0091】
粘着剤層20のゲル分率は、40%以上90%以下であるのが好ましく、44%以上80%以下であるのがより好ましく、48%以上72%以下であるのがさらに好ましい。
【0092】
これにより、粘着剤層20の耐しみ出し性や、曲面への貼付性をより優れたものとすることができる。
【0093】
これに対し、粘着剤層20のゲル分率が上記下限値未満であると、粘着剤層20の凝集力が不足し、粘着シート1を被着体の曲面部分に貼付した際に、シート端部から粘着剤または粘着剤を構成する成分の染み出しが発生し易くなる。また、粘着剤層20のゲル分率が上記上限値を超えると、粘着剤層20の柔軟性が低下し、被着体の曲面部分への貼付の際に、粘着剤層20と被着体との界面に浮きや剥がれが発生し易くなる。
【0094】
なお、本明細書において、エマルション型粘着剤の架橋物のゲル分率は、後述する実施例に記載の方法により測定された値を意味する。
【0095】
粘着剤組成物は、上述した成分の他、必要に応じて、その他の成分が配合されていてもよい。
【0096】
その他の成分としては、例えば、分散剤、酸化防止剤、重合開始剤、紫外線吸収剤、光安定剤、熱安定剤、軟化剤、シランカップリング剤、充填剤、着色剤、帯電防止剤等が挙げられ、これらから選択される1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0097】
粘着剤層20の厚さは、5μm以上100μm以下であるのが好ましく、10μm以上50μm以下であるのがより好ましい。
【0098】
これにより、粘着シート1の被着体への粘着力がより良好に発揮されるとともに、粘着シート1の被着体への貼着時や、粘着シート1の被着体からの剥離時の作業性がより優れたものになる。
【0099】
[1-3]剥離ライナー
未使用の粘着シート1の粘着剤層20の表層は、
図1に示されているように、剥離ライナー30によって覆われているのが好ましい。
【0100】
これにより、被着体に貼着される前の粘着剤層20を好適に保護できるとともに、未使用の粘着シート1が取り回しやすくなる。
【0101】
剥離ライナー30は、粘着剤層20に対して剥離性を有する。そして、剥離ライナー30は、少なくとも粘着シート1の保存時において、粘着剤層20を保護する機能を有する。なお、粘着シート1は、被着体へ貼着する際には、剥離ライナー30が粘着剤層20から剥離された状態になっている。
【0102】
剥離ライナー30の構成材料としては、例えば、クラフト紙、上質紙、グラシン紙等の紙、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン等の各種プラスチック、金属等が挙げられ、これらから選択される1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0103】
剥離ライナー30は、剥離処理が施されたものであってもよい。剥離処理に用いる剥離処理剤としては、例えば、シリコーン、オレフィン系樹脂、イソプレン系樹脂、ブタジエン系樹脂、長鎖アルキル系樹脂、アルキド系樹脂等が挙げられる。
【0104】
剥離ライナー30の厚さは、特に限定されないが、10μm以上150μm以下であるのが好ましく、20μm以上140μm以下であるのがより好ましい。
【0105】
[2]粘着シートの用途
粘着シート1は、基材10と粘着剤層20との密着性に優れるとともに、適度な粘着力を有し、被着体からの再剥離性にも優れている。これにより、被着体が曲面を有する容器や包装体等であっても、粘着シート1の浮きや剥がれを抑えて、粘着シート1を好適に貼付することができる。また、粘着シート1の再剥離時に、粘着剤層20と基材10との界面での剥離や、被着体への糊残りが好適に抑制される。
【0106】
粘着シート1では、粘着剤層20に植物由来の成分を配合することによって、粘着剤層20のバイオマス度が高められ、化石資源系材料の使用量が相対的に低減されている。そのため、粘着剤層20中において、焼却処分時等に大気中の二酸化炭素の増加を実質的にもたらさないカーボンニュートラルな材料の割合を増やし、化石資源系材料のように比較的短期間のうちには再生が困難な材料の割合を低減することができる。したがって、焼却処分時等に温室効果ガスである二酸化炭素の排出量を低減できるという利点も有する。
【0107】
また、粘着シート1では、粘着剤層20が、エマルション型粘着剤組成物から形成されていることから、安全面、衛生面、および、環境面においても優れている。
【0108】
粘着シート1は、特に、曲面貼付性に優れていため、曲面を有する被着体の曲面部分に貼付されて用いられるものであることが好ましい。
【0109】
具体的には、粘着シート1は、例えば、飲料用の容器(例えば、PETボトル等)、食品用の容器(例えば、卵ケース等)および包装、文房具、化粧品容器、台所用品用の容器、および、バス用品用の容器等のような、曲面を有する被着体の表示ラベルやアイキャッチラベル(アテンションシール、ポップラベル、および、ポップシート等)として好適に用いることができる。
【0110】
また、粘着シート1は、OA機器用ラベル、値札シール、運送ダンボール用ラベル、電子機器用のラベル、物流管理ラベル等の各種ラベルとしても好適に用いることができる。
【0111】
[3]粘着シートの製造方法
粘着シート1は、いかなる方法で製造されてもよいが、例えば、エマルション型粘着剤とエポキシ系架橋剤とを含む粘着剤組成物を製造する第1の工程と、基材10に粘着剤組成物を付与する第2の工程と、基材10上に付与された粘着剤組成物を架橋する第3の工程とを備える方法を用いて好適に製造することができる。
【0112】
[3-1]第1の工程
第1の工程では、エマルション型粘着剤と、エポキシ系架橋剤とを混合することにより、粘着剤組成物を製造する。
【0113】
[3-2]第2の工程
第2の工程では、基材10の一方の面側に、粘着剤組成物を塗工する。
【0114】
本工程は、例えば、粘着剤組成物を基材10の表面に塗布することにより行うことができる。
【0115】
また、本工程は、例えば、剥離ライナー30上に粘着剤組成物を塗布し、所定時間、乾燥させた後、この剥離ライナー30上に付与された粘着剤組成物を基材10の一方の面に転写することにより好適に行うことができる。
【0116】
粘着剤組成物の基材10または剥離ライナー30への塗布方法は特に限定されず、例えば、ロールコーター、ナイフコーター、エアーナイフコーター、バーコーター、ブレードコーター、スロットダイコーター、リップコーター、グラビアコーター等の公知の塗布装置を用いて塗布することができる。
【0117】
[3-3]第3の工程
第3の工程では、エマルション型粘着剤を架橋して粘着剤層20を形成する。
エマルション型粘着剤の架橋は、加熱処理によって行うことができる。この加熱処理は、粘着剤組成物の塗布後の乾燥処理と兼ねることもできる。
【0118】
加熱処理の温度は、50℃以上150℃以下であるのが好ましく、70℃以上120℃以下であるのがより好ましい。また、加熱処理の時間は、10秒間以上10分間以下であるのが好ましく、50秒間以上2分間以下であるのがより好ましい。
これにより、架橋反応を好適に進行させることができる。
【0119】
加熱処理後、必要に応じて、常温(例えば、23℃、50%RH)で1週間ないし2週間程度のシーズニング期間を設けてもよい。このシーズニング期間が必要な場合はシーズニング期間経過後に、シーズニング期間が不要な場合には加熱処理終了後に、粘着剤層20が形成される。
【0120】
上記の加熱処理(およびシーズニング)により、エポキシ系架橋剤を介してエマルション型粘着剤が十分に架橋される。このようにして得られる粘着剤層20は、優れた凝集力を有するものとなる。
【0121】
上記のような方法により、基材10の表面に粘着剤層20を形成し、粘着シート1を得ることができる。
【0122】
また、粘着剤として、非溶剤系であるエマルション型粘着剤を用いることで、粘着シート製造時の揮発性有機化合物(VOC)の排出量を削減できるほか、製造後の製品の残留溶剤量を削減することができる。
【0123】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0124】
例えば、本発明に係る粘着シートは、前述した以外の構成をさらに備えるものであってもよい。例えば、本発明に係る粘着シートは、コート層(例えば、印刷用コート層等)や中間層を備えていてもよい。
【0125】
また、本発明の粘着シートは、いかなる方法で製造されたものであってもよく、前述した実施形態で述べたような方法で製造されたものに限定されない。
【実施例0126】
以下、本発明を具体的な実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。以下の実施例中の処理、測定で、温度条件を示していないものについては、室温(23℃)で行った。
【0127】
[4]粘着シートの製造
(実施例1)
(アクリル系共重合体のエマルションの合成)
固形分比で、n-オクチルアクリレート(バイオマス度72%):64質量部、2-エチルヘキシルアクリレート:10質量部、n-ブチルアクリレート:5質量部、メチルメタクリレート:20質量部、アクリル酸:1質量部からなる単量体混合物の合計100質量部(固形分比)に対して、アニオン系乳化剤としてのポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム塩:4質量部(固形分比)、および、イオン交換水:56質量部を加えて、混合し、乳化させて、乳化液を調製した。
【0128】
次に、温度計、撹拌機、滴下装置、還流冷却管および窒素導入管を備えた反応装置内に、イオン交換水:28質量部を加え、窒素を封入して反応装置内の温度を80℃まで昇温させて80℃に保ちながら、重合開始剤として、濃度10質量%の過硫酸アンモニウム水溶液:2質量部(固形分比:0.2質量部)を添加した後、直ちに、上記の乳化液を連続的に4時間かけて滴下して乳化重合した。また、並行して濃度5質量%の過硫酸アンモニウム水溶液:4質量部(固形分比:0.2質量部)を滴下した。
【0129】
滴下終了後、80℃で4時間熟成し、その後、室温(23℃)まで冷却し、アンモニア水を添加して中和した後、イオン交換水を更に加えて、アクリル系共重合体のエマルションの溶液を得た。
【0130】
(エマルション型粘着剤組成物の調製)
上記のようにして得られたアクリル系共重合体のエマルション溶液:100質量部に対し、エポキシ系架橋剤としてグリセロールポリグリシジルエーテル:0.7質量部を混合し、撹拌して、エマルション型粘着剤組成物を調製した。
【0131】
(粘着シートの製造)
上記のようにして調製したエマルション型粘着剤組成物を、剥離ライナーの剥離処理面上に、ロールナイフコーターを用いて塗布し、乾燥させて、厚さ20μmの粘着剤層を形成した。
【0132】
次いで、形成した粘着剤層の表面上に、厚さ45μmの合成紙(商品名:テープ用ユポ(登録商標)SKS45、ユポ・コーポレーション社製)を貼り合わせて粘着シートを製造した。
【0133】
このようにして得られた粘着シートにおいて、粘着剤層のバイオマス度は、46%であり、エマルション型粘着剤の官能基封鎖率は、35%であった。
【0134】
(実施例2)
エマルション型粘着剤組成物の調製において、エポキシ系架橋剤としてグリセロールポリグリシジルエーテルの代わりに、ソルビトールポリグリシジルエーテル:0.9質量部を用いた以外は、前記実施例1と同様にして、エマルション型粘着剤組成物を調製し、粘着シートを製造した。
【0135】
(実施例3~5)
エマルション型粘着剤組成物の調製において、エポキシ系架橋剤の添加量を表1に示すとおりに変更した以外は、前記実施例1と同様にしてエマルション型粘着剤組成物を調製し、粘着シートを製造した。
【0136】
(比較例1)
エマルション型粘着剤組成物の調製において、エポキシ系架橋剤の代わりにカルボジイミド系架橋剤:1.7質量部を用いた以外は、前記実施例1と同様にして、エマルション型粘着剤組成物を調製し、粘着シートを製造した。
【0137】
(比較例2)
エマルション型粘着剤の代わりに溶剤系再剥離粘着剤を用いた以外は、前記実施例1と同様にして粘着シートを製造した。
【0138】
[5]評価
前記各実施例および各比較例の粘着シートについて、以下のような評価を行った。
【0139】
[5-1]粘着力(24時間後粘着力、促進3日後粘着力)
JIS Z0237の180°引き剥がし粘着力測定に準じて測定した。
具体的には、前記各実施例および各比較例の粘着シートを幅25mmに切断し、SUS304鋼板に貼り付け、質量2000gのローラーで1往復圧着した。
【0140】
そして、23℃50%RHの環境において24時間静置した後、引き剥がし速度300mm/分にて、当該紙基材付き粘着シートをSUS304鋼板から引き剥がして、24時間後粘着力を測定した。
【0141】
また、貼付後、60℃、95%RH(相対湿度)の環境下で3日間静置した後、23℃50%RHの環境において、引き剥がし速度300mm/分にて、当該紙基材付き粘着シートをSUS304鋼板から引き剥がして、経時粘着力を測定した。
【0142】
[5-2]ゲル分率の測定
前記各実施例および各比較例の粘着シートを80mm×80mmのサイズに裁断して、その粘着剤層をポリエステル製メッシュ(メッシュサイズ200)に包み、その質量を精密天秤にて秤量し、上記メッシュ単独の質量および基材の質量を差し引くことにより、粘着剤のみの質量を算出した。このときの質量をM1とした。
【0143】
次に、上記ポリエステル製メッシュに包まれた粘着シートを、室温下(23℃)で酢酸エチルに3日間浸漬させた。その後粘着剤を取り出し、温度23℃、相対湿度50%の環境下で、24時間風乾させ、さらに80℃のオーブン中にて12時間乾燥させた。乾燥後、その質量を精密天秤にて秤量し、上記メッシュ単独の質量および基材の質量を差し引くことにより、粘着剤のみの質量を算出した。このときの質量をM2とした。
ゲル分率(%)は、(M2/M1)×100で表される。
【0144】
[5-3]基材密着性
前記各実施例および各比較例の粘着シートから剥離ライナーを剥離し、粘着剤層に対してカッターナイフで十字の切り込み(30mm×30mm)を入れた。そして、切り込みを入れた部位の粘着剤層を指の腹で擦り、粘着剤層の脱落度合いを確認し、以下の基準で基材密着性を評価した。
【0145】
○…粘着剤層が基材から脱着せず、良好な密着性を維持している。
△…粘着剤層の一部が基材から脱着するが、ある程度の密着性を維持している。
×…粘着剤層全体が基材から脱着し、密着性が不足している。
【0146】
[5-4]曲面貼付性
前記各実施例および各比較例の粘着シートの基材を厚さ80μmの合成紙(商品名:ユポタック(登録商標)原紙 SGS80、ユポ・コーポレーション社製)に変え、23℃、50%RH環境下で、25mm×40mmにカットして試験片とした。この試験片を、直径15mmφの、ポリエチレン(PE)製丸棒被着体に対し、長辺方向が外周上に巻きつくように貼付した。貼付から3日間静置した後、長辺方向の剥がれ具合を測定した。
【0147】
[5-5]耐しみ出し性
前記各実施例および各比較例の粘着シートを20mm×100mmに切断し、60℃の環境において、荷重0.42KN/cm2を24時間かけた後、23℃50%RHの環境で、長辺において粘着剤層のしみ出し長さ(mm)を測定した。
【0148】
[5-6]再剥離性
前記各実施例および各比較例の粘着シートを、23℃、50%RH環境下で、30mm×50mmにカットして試験片とした。この試験片を、被着体(SUS306鋼板)に貼付した。60℃、95%RH環境下で7日間静置した後に、23℃、50%RH環境下へと戻し、1日静置後試験サンプルとした。0.3m/分(低速)および30m/分(高速)の速度にて手で剥がし、剥離状態を観察した。
【0149】
If:粘着剤層と被着体の界面で剥離し、被着体には粘着剤層が残っていない。
G:被着体に汚染または曇りがある
これらの結果を、表1にまとめて示す。表1中、架橋剤の添加量は、アクリル系共重合体のエマルション溶液:100質量部に対して添加した架橋剤の量を質量部の単位で示すものである。
【0150】
【0151】
表1から明らかなように、本発明の粘着シートでは、優れた結果が得られた。また、本発明の粘着シートでは、十分な、粘着剤層と基材との密着性、再剥離性および曲面貼付性を有することが確認された。これに対し、比較例では、満足のいく結果が得られなかった。
【0152】
また、粘着剤組成物の製造において、エマルション型粘着剤の官能基封鎖率を10%以上50%以下の範囲で種々変更した以外は、前記実施例と同様にして粘着シートを製造し、評価したところ、上記と同様に良好な結果が得られた。