(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025090590
(43)【公開日】2025-06-17
(54)【発明の名称】抗体医薬品溶液の保存容器
(51)【国際特許分類】
A61J 1/05 20060101AFI20250610BHJP
C08F 220/18 20060101ALI20250610BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20250610BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20250610BHJP
【FI】
A61J1/05 311
C08F220/18
A61K39/395 N
A61K39/395 D
A61K47/32
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2025020924
(22)【出願日】2025-02-12
(62)【分割の表示】P 2022518150の分割
【原出願日】2021-04-30
(31)【優先権主張番号】P 2020081334
(32)【優先日】2020-05-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】上田 祐揮
(72)【発明者】
【氏名】廣飯 美耶
(72)【発明者】
【氏名】広井 佳臣
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 宏之
(57)【要約】 (修正有)
【課題】本発明はコーティング処理による簡単で汎用的な技法によって、抗体医薬品の凝集体形成を抑制するだけでなく、容器表面への吸着を抑制することができるコーティング膜形成用組成物、及びそれにより製造できる抗体医薬品溶液の保存容器を提供する。
【解決手段】親水性を有するコーティング膜を表面の少なくとも一部に備える、抗体医薬品溶液の保存容器であり、前記コーティング膜が、親水性官能基を有するモノマーの重合体を含むことが好ましい。前記親水性官能性基が、リン酸、ホスホン酸及びそれらのエステル構造;ベタイン構造;アミド構造;アルキレングリコール残基;アミノ基;並びにスルフィニル基から選ばれることが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性を有するコーティング膜を表面の少なくとも一部に備える、抗体医薬品溶液の保存容器であって、前記コーティング膜が、リン酸、ホスホン酸及びそれらのエステル構造;ベタイン構造;アミド構造;アルキレングリコール残基;アミノ基;並びにスルフィニル基から選ばれる親水性官能基を有するモノマーの重合体を含み、かつ水中(25±5℃)での気泡の接触角が150°以上である、容器。
【請求項2】
前記コーティング膜が、下記式(a)で表される基を含む繰り返し単位と、下記式(b)で表される基を含む繰り返し単位と、下記式(c)で表される基を含む繰り返し単位とを含む共重合体:
【化1】
[式中、
U
a1、U
a2、U
b1、U
b2及びU
b3は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1~5の直鎖若しくは分岐アルキル基を表し;
R
cは、炭素原子数4~18の直鎖若しくは分岐アルキル基、炭素原子数3~10の環式炭化水素基、炭素原子数6~10のアリール基、炭素原子数7~14のアラルキル基又は炭素原子数7~14のアリールオキシアルキル基(ここで、前記アリール部分は、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1~5の直鎖若しくは分岐アルキル基で置換されていてもよい)を表し;
An
-は、ハロゲン化物イオン、無機酸イオン、水酸化物イオン及びイソチオシアネートイオンからなる群から選ばれる陰イオンを表す]を含むコーティング膜である、請求項1に記載の抗体医薬品溶液の保存容器。
【請求項3】
上記抗体医薬品の凝集が抑制される、請求項1又は2に記載の抗体医薬品溶液の保存容器。
【請求項4】
上記抗体医薬品が、抗体とその抗原結合断片の少なくとも一方を含む、請求項1~3何れか1項に記載の抗体医薬品溶液の保存容器。
【請求項5】
上記抗体医薬品が、キメラ抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、及びこれらのドメイン抗体からなる群から選択される少なくとも1つを含む、請求項1~4何れか1項に記載の抗体医薬品溶液の保存容器。
【請求項6】
上記抗体医薬品が、オファツムマブ、セツキシマブ、トシリズマブ、ベバシズマブ、カナキヌマブ、ゴリムマブ、ウステキヌマブ、エクリズマブ、オマリズマブ、トラスツズマブ、ペルツズマブ、アダリムマブ、デノスマブ、モガムリズマブ、リツキシマブ、ラニビズマブ、インフリキシマブ、アフリベルセプト、アバタセプト、エタネルセプト、ゲムツズマブオゾガマイシン、パニツムマブ、バシリキシマブ、セルトリズマブ ペゴル及びパリビズマブからなる群から選択される少なくとも1つを含む、請求項1~5何れか1項に記載の抗体医薬品溶液の保存容器。
【請求項7】
リン酸、ホスホン酸及びそれらのエステル構造;ベタイン構造;アミド構造;アルキレングリコール残基;アミノ基;並びにスルフィニル基から選ばれる親水性官能基を有するモノマーの重合体、及び溶媒
を含む、抗体医薬品溶液の保存容器製造用コーティング膜形成用組成物であって、水中(25±5℃)での気泡の接触角が150°以上であるコーティング膜を与えるものである、組成物。
【請求項8】
(i)下記式(a)で表される基を含む繰り返し単位と、下記式(b)で表される基を含む繰り返し単位と、下記式(c)で表される基を含む繰り返し単位とを含む共重合体:
【化2】
[式中、
U
a1、U
a2、U
b1、U
b2及びU
b3は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1~5の直鎖若しくは分岐アルキル基を表し;
R
cは、炭素原子数4~18の直鎖若しくは分岐アルキル基、炭素原子数3~10の環式炭化水素基、炭素原子数6~10のアリール基、炭素原子数7~14のアラルキル基又は炭素原子数7~14のアリールオキシアルキル基(ここで、前記アリール部分は、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1~5の直鎖若しくは分岐アルキル基で置換されていてもよい)を表し;
An
-は、ハロゲン化物イオン、無機酸イオン、水酸化物イオン及びイソチオシアネートイオンからなる群から選ばれる陰イオンを表す]及び
(ii)溶媒
を含む、抗体医薬品溶液の保存容器製造用コーティング膜形成用組成物。
【請求項9】
抗体医薬品溶液中の抗体医薬品の凝集を抑制する方法であって、リン酸、ホスホン酸及びそれらのエステル構造;ベタイン構造;アミド構造;アルキレングリコール残基;アミノ基;並びにスルフィニル基から選ばれる親水性官能基を有するモノマーの重合体を含むコーティング膜を表面の少なくとも一部に備える容器中に、抗体医薬品溶液を保存する工程を含む、抗体医薬品溶液中の抗体医薬品の凝集を抑制する方法。
【請求項10】
前記コーティング膜が、水中(25±5℃)での気泡の接触角が150°以上である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
抗体医薬品溶液中の抗体医薬品の凝集を抑制する方法であって、
下記式(a)で表される基を含む繰り返し単位と、下記式(b)で表される基を含む繰り返し単位と、下記式(c)で表される基を含む繰り返し単位とを含む共重合体:
【化3】
[式中、
U
a1、U
a2、U
b1、U
b2及びU
b3は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1~5の直鎖若しくは分岐アルキル基を表し;
R
cは、炭素原子数4~18の直鎖若しくは分岐アルキル基、炭素原子数3~10の環式炭化水素基、炭素原子数6~10のアリール基、炭素原子数7~14のアラルキル基又は炭素原子数7~14のアリールオキシアルキル基(ここで、前記アリール部分は、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1~5の直鎖若しくは分岐アルキル基で置換されていてもよい)を表し;
An
-は、ハロゲン化物イオン、無機酸イオン、水酸化物イオン及びイソチオシアネートイオンからなる群から選ばれる陰イオンを表す]を含むコーティング膜を表面の少なくとも一部に備える容器中に、抗体医薬品溶液を保存する工程を含む、抗体医薬品溶液中の抗体医薬品の凝集を抑制する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は抗体医薬品の凝集体の形成及び保存容器への吸着を抑制するため処理方法及び、容器に関する。
【背景技術】
【0002】
抗体医薬品を保存する際に、抗体間の会合と凝集が起こり、それらが不純物となり、副作用などの問題を及ぼす可能性が懸念されている。これらを解決すべく、凝集阻害剤の導入が提案されているが、阻害剤の混入による長期的な安定性や安全性の懸念の課題がある。特許文献1には、非イオン性界面活性剤の濃度が低いタンパク質溶液製剤を充填した場合であっても、長期保存後のタンパク質の凝集を抑制しうるプレフィルドシリンジが記載されている。特許文献2には、生体物質の付着抑制能を有するイオンコンプレックス材料及びそれを用いた生体物質付着抑制コーティング材料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2020/026926号
【特許文献2】国際公開第2016/093293号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明はコーティング処理による簡単で汎用的な技法によって、抗体医薬品の凝集体形成を抑制するだけでなく、容器表面への吸着を抑制することができるコーティング膜形成用組成物、及びそれにより製造できる抗体医薬品溶液の保存容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は以下を包含する。
[1]
親水性を有するコーティング膜を表面の少なくとも一部に備える、抗体医薬品溶液の保存容器。
【0006】
[2]
前記コーティング膜が、親水性官能基を有するモノマーの重合体を含む、[1]に記載の抗体医薬品溶液の保存容器。
【0007】
[3]
前記親水性官能性基が、リン酸、ホスホン酸及びそれらのエステル構造;ベタイン構造;アミド構造;アルキレングリコール残基;アミノ基;並びにスルフィニル基から選ばれる、[2]に記載の抗体医薬品溶液の保存容器。
【0008】
[4]
前記コーティング膜が、下記式(a)で表される基を含む繰り返し単位と、下記式(b)で表される基を含む繰り返し単位と、下記式(c)で表される基を含む繰り返し単位とを含む共重合体:
【化1】
[式中、
U
a1、U
a2、U
b1、U
b2及びU
b3は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1~5の直鎖若しくは分岐アルキル基を表し;
R
cは、炭素原子数4~18の直鎖若しくは分岐アルキル基、炭素原子数3~10の環式炭化水素基、炭素原子数6~10のアリール基、炭素原子数7~14のアラルキル基又は炭素原子数7~14のアリールオキシアルキル基(ここで、前記アリール部分は、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1~5の直鎖若しくは分岐アルキル基で置換されていてもよい)を表し;
An
-は、ハロゲン化物イオン、無機酸イオン、水酸化物イオン及びイソチオシアネートイオンからなる群から選ばれる陰イオンを表す]を含むコーティング膜である、[1]に記載の抗体医薬品溶液の保存容器。
【0009】
[5]
上記抗体医薬品の凝集が抑制される、[1]~[4]何れか1に記載の抗体医薬品溶液の保存容器。
【0010】
[6]
上記抗体医薬品が、抗体とその抗原結合断片の少なくとも一方を含む、[1]~[5]何れか1に記載の抗体医薬品溶液の保存容器。
【0011】
[7]
上記抗体医薬品が、キメラ抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、及びこれらのドメイン抗体からなる群から選択される少なくとも1つを含む、[1]~[6]何れか1に記載の抗体医薬品溶液の保存容器。
【0012】
[8]
上記抗体医薬品が、オファツムマブ、セツキシマブ、トシリズマブ、ベバシズマブ、カナキヌマブ、ゴリムマブ、ウステキヌマブ、エクリズマブ、オマリズマブ、トラスツズマブ、ペルツズマブ、アダリムマブ、デノスマブ、モガムリズマブ、リツキシマブ、ラニビズマブ、インフリキシマブ、アフリベルセプト、アバタセプト、エタネルセプト、ゲムツズマブオゾガマイシン、パニツムマブ、バシリキシマブ、セルトリズマブ ペゴル及びパリビズマブからなる群から選択される少なくとも1つを含む、[1]~[7]何れか1に記載の抗体医薬品溶液の保存容器。
【0013】
[9]
親水性官能基を有するモノマーの重合体、及び溶媒
を含む、抗体医薬品溶液の保存容器製造用コーティング膜形成用組成物。
【0014】
[10]
(i)下記式(a)で表される基を含む繰り返し単位と、下記式(b)で表される基を含む繰り返し単位と、下記式(c)で表される基を含む繰り返し単位とを含む共重合体:
【化2】
[式中、
U
a1、U
a2、U
b1、U
b2及びU
b3は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1~5の直鎖若しくは分岐アルキル基を表し;
R
cは、炭素原子数4~18の直鎖若しくは分岐アルキル基、炭素原子数3~10の環式炭化水素基、炭素原子数6~10のアリール基、炭素原子数7~14のアラルキル基又は炭素原子数7~14のアリールオキシアルキル基(ここで、前記アリール部分は、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1~5の直鎖若しくは分岐アルキル基で置換されていてもよい)を表し;
An
-は、ハロゲン化物イオン、無機酸イオン、水酸化物イオン及びイソチオシアネートイオンからなる群から選ばれる陰イオンを表す]及び
(ii)溶媒
を含む、抗体医薬品溶液の保存容器製造用コーティング膜形成用組成物。
【0015】
[11]
抗体医薬品溶液中の抗体医薬品の凝集を抑制する方法であって、親水性官能基を有するモノマーの重合体を含むコーティング膜を表面の少なくとも一部に備える容器中に、抗体医薬品溶液を保存する工程を含む、抗体医薬品溶液中の抗体医薬品の凝集を抑制する方法。
【0016】
[12]
抗体医薬品溶液中の抗体医薬品の凝集を抑制する方法であって、
下記式(a)で表される基を含む繰り返し単位と、下記式(b)で表される基を含む繰り返し単位と、下記式(c)で表される基を含む繰り返し単位とを含む共重合体:
【化3】
[式中、
U
a1、U
a2、U
b1、U
b2及びU
b3は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1~5の直鎖若しくは分岐アルキル基を表し;
R
cは、炭素原子数4~18の直鎖若しくは分岐アルキル基、炭素原子数3~10の環式炭化水素基、炭素原子数6~10のアリール基、炭素原子数7~14のアラルキル基又は炭素原子数7~14のアリールオキシアルキル基(ここで、前記アリール部分は、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1~5の直鎖若しくは分岐アルキル基で置換されていてもよい)を表し;
An
-は、ハロゲン化物イオン、無機酸イオン、水酸化物イオン及びイソチオシアネートイオンからなる群から選ばれる陰イオンを表す]を含むコーティング膜を表面の少なくとも一部に備える容器中に、抗体医薬品溶液を保存する工程を含む、抗体医薬品溶液中の抗体医薬品の凝集を抑制する方法。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】実施例1で得られた塗布チューブ、及び未処理チューブに保管された抗体医薬品溶液の、試験例1の各保管条件に付した後の外観写真である。
【
図2】実施例2~5で得られた塗布チューブ2~5、及び未処理チューブに保管された抗体医薬品溶液の、試験例1-2の保管条件に付した後の外観写真である。
【
図3】実施例6で得られた塗布チューブ6、未処理チューブ及び市販の比較チューブ1~3に保管された抗体医薬品溶液の、試験例1-3の保管条件に付した後の外観写真である。
【
図4】実施例6で得られた塗布チューブ6、及び未処理チューブに保管された抗体医薬品溶液の、試験例1-4の保管条件に付した後の外観写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
≪用語の説明≫
本発明において用いられる用語は、他に特に断りのない限り、以下の定義を有する。
【0019】
本発明において、「ハロゲン原子」は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子を意味する。
【0020】
本発明において、「アルキル基」は、直鎖若しくは分岐の、飽和脂肪族炭化水素の1価の基を意味する。「炭素原子数1~5の直鎖若しくは分岐アルキル基」としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、1-メチルブチル基、2-メチルブチル基、3-メチルブチル基、1,1-ジメチルプロピル基、1,2-ジメチルプロピル基、2,2-ジメチルプロピル基又は1-エチルプロピル基が挙げられる。「炭素原子数1~18の直鎖若しくは分岐アルキル基」としては、「炭素原子数1~5の直鎖若しくは分岐アルキル基」の例に加え、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基又はオクタデシル基、あるいはそれらの異性体が挙げられる。
【0021】
本発明において、「ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1~5の直鎖若しくは分岐アルキル基」は、上記炭素原子数1~5の直鎖若しくは分岐アルキル基を意味するか、あるいは1以上の上記ハロゲン原子で置換された上記炭素原子数1~5の直鎖若しくは分岐アルキル基を意味する。「炭素原子数1~5の直鎖若しくは分岐アルキル基」の例は、上記のとおりである。一方「1以上のハロゲン原子で置換された炭素原子数1~5の直鎖若しくは分岐アルキル基」は、上記炭素原子数1~5の直鎖若しくは分岐アルキル基の1以上の任意の水素原子が、ハロゲン原子で置き換えられているものを意味し、例としては、フルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、クロロメチル基、ジクロロメチル基、トリクロロメチル基、ブロモメチル基、ヨードメチル基、2,2,2-トリフルオロエチル基、2,2,2-トリクロロエチル基、ペルフルオロエチル基、ペルフルオロブチル基、又はペルフルオロペンチル基等が挙げられる。
【0022】
本発明において、「エステル結合」は、-C(=O)-O-若しくは-O-C(=O)-を意味し、「アミド結合」は、-NHC(=O)-若しくは-C(=O)NH-を意味し、エーテル結合は、-O-を意味する。
【0023】
本発明において、「ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1~10の直鎖若しくは分岐アルキレン基」は、炭素原子数1~10の直鎖若しくは分岐アルキレン基、あるいは1以上のハロゲン原子で置換された炭素原子数1~10の直鎖若しくは分岐アルキレン基を意味する。ここで、「アルキレン基」は、上記アルキル基に対応する2価の有機基を意味する。「炭素原子数1~10の直鎖若しくは分岐アルキレン基」の例としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、1-メチルプロピレン基、2-メチルプロピレン基、ジメチルエチレン基、エチルエチレン基、ペンタメチレン基、1-メチル-テトラメチレン基、2-メチル-テトラメチレン基、1,1-ジメチル-トリメチレン基、1,2-ジメチル-トリメチレン基、2,2-ジメチル-トリメチレン基、1-エチル-トリメチレン基、ヘキサメチレン基、オクタメチレン基及びデカメチレン基等が挙げられ、これらの中で、エチレン基、プロピレン基、オクタメチレン基及びデカメチレン基が好ましく、例えば、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基等の炭素原子数1~5の直鎖若しくは分岐アルキレン基がより好ましく、特にエチレン基又はプロピレン基が好ましい。「1以上のハロゲン原子で置換された炭素原子数1~10の直鎖若しくは分岐アルキレン基」は、上記アルキレン基の1以上の任意の水素原子が、ハロゲン原子で置き換えられているものを意味し、特に、エチレン基又はプロピレン基の水素原子の一部又は全部がハロゲン原子で置き換えられているものが好ましい。
【0024】
本発明において、「炭素原子数3~10の環式炭化水素基」は、炭素原子数3~10の、単環式若しくは多環式の、飽和若しくは部分不飽和の、脂肪族炭化水素の1価の基を意味する。この中でも、炭素原子数3~10の、単環式若しくは二環式の、飽和脂肪族炭化水素の1価の基が好ましく、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基又はシクロヘキシル基等の炭素原子数3~10のシクロアルキル基、あるいはビシクロ[3.2.1]オクチル基、ボルニル基、イソボルニル基等の炭素原子数4~10のビシクロアルキル基が挙げられる。
【0025】
本発明において、「炭素原子数6~10のアリール基」は、炭素原子数6~10の、単環式若しくは多環式の、芳香族炭化水素の1価の基を意味し、例えば、フェニル基、ナフチル基又はアントリル基等が挙げられる。「炭素原子数6~10のアリール基」は、1以上の上記「ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1~5の直鎖若しくは分岐アルキル基」で置換されていてもよい。
【0026】
本発明において、「炭素原子数7~14のアラルキル基」は、基-R-R’(ここで、Rは、上記「炭素原子数1~5のアルキレン基」を表し、R’は、上記「炭素原子数6~10のアリール基」を表す)を意味し、例えば、ベンジル基、フェネチル基、又はα-メチルベンジル基等が挙げられる。「炭素原子数7~14のアラルキル基」のアリール部分は、1以上の上記「ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1~5の直鎖若しくは分岐アルキル基」で置換されていてもよい。
【0027】
本発明において、「炭素原子数7~14のアリールオキシアルキル基」は、基-R-O-R’(ここで、Rは、上記「炭素原子数1~5のアルキレン基」を表し、R’は、上記「炭素原子数6~10のアリール基」を表す)を意味し、例えば、フェノキシメチル基、フェノキシエチル基、又はフェノキシプロピル基等が挙げられる。「炭素原子数7~14のアリールオキシアルキル基」のアリール部分は、1以上の上記「ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1~5の直鎖若しくは分岐アルキル基」で置換されていてもよい。
【0028】
本発明において、「ハロゲン化物イオン」とは、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン又はヨウ化物イオンを意味する。
【0029】
本発明において、「無機酸イオン」とは、炭酸イオン、硫酸イオン、リン酸イオン、リン酸水素イオン、リン酸二水素イオン、硝酸イオン、過塩素酸イオン又はホウ酸イオンを意味する。
【0030】
上記An-として好ましいのは、ハロゲン化物イオン、硫酸イオン、リン酸イオン、水酸化物イオン及びイソチオシアネートイオンであり、特に好ましいのはハロゲン化物イオンである。
【0031】
本発明において、(メタ)アクリレート化合物とは、アクリレート化合物とメタクリレート化合物の両方を意味する。例えば(メタ)アクリル酸は、アクリル酸とメタクリル酸を意味する。
【0032】
<抗体医薬品溶液の保存容器>
(親水性を有するコーティング膜)
本発明の抗体医薬品溶液の保存容器は、親水性を有するコーティング膜を、抗体医薬品溶液が接する容器表面の少なくとも一部に備える。抗体医薬品(抗体=免疫グロブリン(蛋白質))の凝集は、該蛋白質の変性が発生することにより小さな凝集体が核となって起こることが知られている。本発明の抗体医薬品溶液の保存容器は、抗体医薬品溶液が接する容器表面が親水性であることにより、親水性の抗体医薬品が容器表面に接しても変性等の構造変化が起こらず、抗体の溶解状態が維持できると考えられる。
【0033】
コーティング膜が親水性であるとは、例えば、接触角計(例えば、全自動接触角計(協和界面化学株式会社、DM-701))を用いる静的接触角測定において、水中(常温、例えば、25±5℃)での気泡の接触角が140°以上、好ましくは150°以上であることをいう。
上記親水性を有するコーティング膜は、後述する容器に抗体医薬品溶液が接する表面の少なくとも一部に備えられればよいが、抗体医薬品溶液が接する表面全面にわたってコーティング膜が形成されていることが好ましい。
【0034】
(親水性官能基を有するモノマーの重合体)
前記親水性を有するコーティング膜が、親水性官能基を有するモノマーの重合体を含むことが好ましい。
【0035】
本発明に係る親水性官能基を有するモノマーの重合体は、親水性の官能基又は構造を有するエチレン性不飽和モノマー、又は多糖類若しくはその誘導体の重合体であってよい。エチレン性不飽和モノマーの例としては、(メタ)アクリル酸及びそのエステル;酢酸ビニル;ビニルピロリドン;エチレン;並びにビニルアルコールからなる群より選択される1種又は2種以上のエチレン性不飽和モノマーを挙げることができる。多糖類又はその誘導体の例としては、ヒドロキシアルキルセルロース(例えば、ヒドロキシエチルセルロース又はヒドロキシプロピルセルロース)等のセルロース系高分子、デンプン、デキストラン、カードランを挙げることができる。
【0036】
前記親水性官能基(すなわち、親水性の官能基又は構造)は、リン酸、ホスホン酸及びそれらのエステル構造;ベタイン構造;アミド構造;アルキレングリコール残基;アミノ基;並びにスルフィニル基から選ばれることが好ましい。
【0037】
ベタイン構造は、第4級アンモニウム型の陽イオン構造と、酸性の陰イオン構造との両性中心を持つ化合物の一価又は二価の基を意味し、例えば、ホスホリルコリン基:
【化4】
を挙げることができる。そのような構造を有するエチレン性不飽和モノマーの例としては、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)等を挙げることができる。
【0038】
アミド構造は、下記式:
【化5】
[ここで、R
16、R
17及びR
18は、互いに独立して、水素原子又は有機基(例えば、メチル基、ヒドロキシメチル基又はヒドロキシエチル基等)である]
で表される基を意味する。そのような構造を有するエチレン性不飽和モノマーの例としては、(メタ)アクリルアミド、N-(ヒドロキシメチル)(メタ)アクリルアミド等を挙げることができる。さらに、そのような構造を有するモノマー又はポリマーは、例えば、特開2010-169604号公報等に開示されている。
【0039】
アルキレングリコール残基は、アルキレングリコール(HO-Alk-OH;ここでAlkは、炭素原子数1~10の直鎖若しくは分岐アルキレン基である)の片側端末又は両端末の水酸基が他の化合物と縮合反応した後に残るアルキレンオキシ基(-Alk-O-)を意味し、アルキレンオキシ単位が繰り返されるポリ(アルキレンオキシ)基も包含する。そのような構造を有するエチレン性不飽和モノマーの例としては、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等を挙げることができる。さらに、そのような構造を有するモノマー又はポリマーは、例えば、特開2008-533489号公報等に開示されている。
【0040】
アミノ基は、式:-NH2、-NHR19又は-NR20R21[ここで、R19、R20及びR21は、互いに独立して、有機基(例えば、炭素原子数1~5の直鎖若しくは分岐アルキル基等)である]で表される基を意味する。本発明におけるアミノ基には、4級化又は塩化されたアミノ基を包含する。そのような構造を有するエチレン性不飽和モノマーの例としては、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2-(t-ブチルアミノ)エチル(メタ)アクリレート、メタクリロイルコリンクロリド等を挙げることができる。
【0041】
スルフィニル基は、下記式:
【化6】
[ここで、R
22は、有機基(例えば、炭素原子数1~10の有機基、好ましくは、1個以上のヒドロキシ基を有する炭素原子数1~10のアルキル基等)である]
で表される基を意味する。そのような構造を有するポリマーとして、特開2014-48278号公報等に開示された共重合体を挙げることができる。
【0042】
本発明の抗体医薬品溶液の保存容器がその表面の少なくとも一部に備えるコーティング膜に含まれる重合体は、下記式(a)で表される基を含む繰り返し単位と、下記式(b)で表される基を含む繰り返し単位と、下記式(c)で表される基を含む繰り返し単位とを含む共重合体であってもよい:
【化7】
[式中、
U
a1、U
a2、U
b1、U
b2及びU
b3は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1~5の直鎖若しくは分岐アルキル基を表し;
R
cは、炭素原子数4~18の直鎖若しくは分岐アルキル基、炭素原子数3~10の環式炭化水素基、炭素原子数6~10のアリール基、炭素原子数7~14のアラルキル基又は炭素原子数7~14のアリールオキシアルキル基(ここで、前記アリール部分は、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1~5の直鎖若しくは分岐アルキル基で置換されていてもよい)を表し;
An
-は、ハロゲン化物イオン、無機酸イオン、水酸化物イオン及びイソチオシアネートイオンからなる群から選ばれる陰イオンを表す]。
【0043】
<コーティング膜の形成>
本発明の抗体医薬品溶液保存容器は、公知の親水性を有するコーティング膜を形成し得る組成物(コーティング膜形成用組成物)を後述する容器内面の少なくとも一部に、好ましくは容器内面の溶液と接する面に、より好ましくは容器の内面全面に公知の方法で塗布することで製造することができる。
親水性を有するコーティング膜の説明は、前述の通りである。
【0044】
本発明の一実施態様において、コーティング膜は、(i)下記式(a)で表される基を含む繰り返し単位と、下記式(b)で表される基を含む繰り返し単位と、下記式(c)で表される基を含む繰り返し単位とを含む共重合体:
【化8】
[式中、U
a1、U
a2、U
b1、U
b2及びU
b3は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1~5の直鎖若しくは分岐アルキル基を表し;R
cは、炭素原子数4~18の直鎖若しくは分岐アルキル基、炭素原子数3~10の環式炭化水素基、炭素原子数6~10のアリール基、炭素原子数7~14のアラルキル基又は炭素原子数7~14のアリールオキシアルキル基(ここで、前記アリール部分は、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1~5の直鎖若しくは分岐アルキル基で置換されていてもよい)を表し;An
-は、ハロゲン化物イオン、無機酸イオン、水酸化物イオン及びイソチオシアネートイオンからなる群から選ばれる陰イオンを表す]と、(ii)溶媒とを含むコーティング膜形成用組成物を、基体に塗布する工程を含む方法により得られる。
【0045】
本発明のコーティング膜に係る共重合体は、上記式(a)で表される基を含む繰り返し単位と、上記式(b)で表される基を含む繰り返し単位と、上記式(c)で表される基を含む繰り返し単位を含む共重合体であれば特に制限は無い。なお、本発明において、上記式(c)で表される基を含む繰り返し単位は、上記式(a)で表される基を含む繰り返し単位及び上記式(b)で表される基を含む繰り返し単位とは異なる。該重合体は、上記式(a)で表される基を含むモノマーと、上記式(b)で表される基を含むモノマーと、上記式(c)で表される基を含むモノマーとをラジカル重合して得られたものが望ましいが、重縮合、重付加反応させたものも使用できる。共重合体の例としては、オレフィンが反応したビニル重合ポリマー、ポリアミド、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリウレタン等が挙げられるが、これらの中でも特にオレフィンが反応したビニル重合ポリマー又は(メタ)アクリレート化合物を重合させた(メタ)アクリルポリマーが望ましい。
【0046】
本発明のコーティング膜に係る共重合体中における式(a)で表される基を含む繰り返し単位の割合は、3モル%~80モル%であり、好ましくは3.5モル%~50モル%であり、さらに好ましくは4モル%~30モル%である。なお、本発明に係る共重合体は、2種以上の式(a)で表される基を含む繰り返し単位を含んでいてもよい。
本発明のコーティング膜に係る共重合体中における式(b)で表される基を含む繰り返し単位の割合は、3モル%~80モル%であり、好ましくは5モル%~70モル%であり、さらに好ましくは8モル%~65モル%である。なお、本発明に係る共重合体は、2種以上の式(b)で表される基を含む繰り返し単位を含んでいてもよい。
本発明に係る共重合体中における式(c)で表される基を含む繰り返し単位の割合は、全共重合体に対して上記式(a)及び(b)を差し引いた残部全てでも良いし、上記式(a)及び(b)と下記に記述する第4成分との合計割合を差し引いた残部であってもよいが、例えば1モル%~90モル%であり、好ましくは3モル%~88モル%である。さらに好ましくは5モル%~87モル%である。最も好ましくは50モル%~86モル%である。なお、本発明に係る共重合体は、2種以上の式(c)で表される基を含む繰り返し単位を含んでいてもよい。
【0047】
本発明に係る共重合体中における上記式(a)、式(b)及び式(c)で表される基を含む繰り返し単位の割合の組み合わせは、
好ましくは、
式(a):3モル%~80モル%、式(b):3モル%~80モル%、式(c):1モル%~90モル%、
より好ましくは、
式(a):3.5モル%~50モル%、式(b):5モル%~70モル%、式(c):3モル%~88モル%、
さらに好ましくは、
式(a):4モル%~30モル%、式(b):8モル%~65モル%、式(c):5モル%~87モル%、
最も好ましくは、
式(a):4モル%~30モル%、式(b):8モル%~65モル%、式(c):50モル%~86モル%、
である。
【0048】
本発明に係るコーティング膜形成用組成物に含まれる共重合体としては、下記式(a1)、(b1)及び(c1)の繰り返し単位を含む共重合体が特に好ましく用いられる。
【化9】
式中、T
a、T
b、T
c、U
a1、U
a2、U
b1、U
b2及びU
b3は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1~5の直鎖若しくは分岐アルキル基を表し、Q
a及びQ
bは、それぞれ独立して、単結合、エステル結合又はアミド結合を表し、Q
cは、単結合、エーテル結合又はエステル結合を表し、R
a及びR
bは、それぞれ独立して、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1~10の直鎖若しくは分岐アルキレン基を表し、R
cは、炭素原子数4~18の直鎖若しくは分岐アルキル基、炭素原子数3~10の環式炭化水素基、炭素原子数6~10のアリール基、炭素原子数7~14のアラルキル基又は炭素原子数7~14のアリールオキシアルキル基(ここで、前記アリール部分は、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1~5の直鎖若しくは分岐アルキル基で置換されていてもよい)を表し、An
-は、ハロゲン化物イオン、無機酸イオン、水酸化物イオン及びイソチオシアネートイオンからなる群から選ばれる陰イオンを表し、mは、0~6の整数を表す。
式(a1)において、mは0~6の整数を表すが、好ましくは1~6の整数を表し、より好ましくは1~5の整数を表し、特に好ましくは1である。
【0049】
上記共重合体は、下記式(A)、(B)及び(C):
【化10】
[式中、
T
a、T
b、T
c、U
a1、U
a2、U
b1、U
b2及びU
b3は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1~5の直鎖若しくは分岐アルキル基を表し;
Q
a及びQ
bは、それぞれ独立して、単結合、エステル結合又はアミド結合を表し、Q
cは、単結合、エーテル結合又はエステル結合を表し;
R
a及びR
bは、それぞれ独立して、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1~10の直鎖若しくは分岐アルキレン基を表し、R
cは、炭素原子数1~18の直鎖若しくは分岐アルキル基、炭素原子数3~10の環式炭化水素基、炭素原子数6~10のアリール基、炭素原子数7~14のアラルキル基又は炭素原子数7~14のアリールオキシアルキル基(ここで、前記アリール部分は、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1~5の直鎖若しくは分岐アルキル基で置換されていてもよい)を表し;
An
-は、ハロゲン化物イオン、無機酸イオン、水酸化物イオン及びイソチオシアネートイオンからなる群から選ばれる陰イオンを表し;
mは、0~6の整数を表す]
で表される化合物を含むモノマー混合物を、溶媒中にて反応(重合)させることにより得られる共重合体、である。
T
a、T
b及びT
cとしては、水素原子、メチル基又はエチル基が好ましく、水素原子又はメチル基がより好ましい。U
a1、U
a2、U
b1、U
b2及びU
b3としては、水素原子、メチル基、エチル基又はt-ブチル基が好ましく、式(a)のU
a1及びU
a2には水素原子、式(b)のU
b1、U
b2及びU
b3には水素原子、メチル基、エチル基又はt-ブチル基がより好ましい。
【0050】
本発明の別の実施態様では、該共重合体は、さらに任意の第4成分から誘導される単位を含んでいてもよい。例えば、第4成分として2以上の官能基を有する(メタ)アクリレート化合物から誘導される架橋構造を含んでいてもよい。そのような第4成分として、例えば、リン酸ビス(メタクリロイルオキシメチル)、リン酸ビス[(2-メタクリロイルオキシ)エチル]、リン酸ビス[3-(メタクリロイルオキシ)プロピル]、トリアクリル酸ホスフィニリジントリス(オキシ-2,1-エタンジイル)等が挙げられる。
【0051】
さらに第4成分として、下記式(D):
【化11】
(式中、
T
dは、それぞれ独立して、水素原子または炭素原子数1~5の直鎖若しくは分岐アルキル基を表し、R
dは、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1~10の直鎖または分岐アルキレン基を表し、nは、1~30の整数を表す)
で表される化合物が挙げられる。
【0052】
上記式(D)の化合物の具体例としては、ポリ(エチレングリコール)ジ(メタ)アクリレート、ポリ(トリメチレングリコール)ジ(メタ)アクリレート、ポリ(プロピレングリコール)ジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0053】
例えば、ジ(エチレングリコール)ジメタクリレート、ポリ(エチレングリコール)ジメタクリレート、ポリ(プロピレングリコール)ジメタクリレートの構造式は、それぞれ下記式(D-1)~式(D-3)で表される。
【0054】
【0055】
例えば、上記共重合体中における第4成分から誘導される単位の割合は、0モル%~50モル%であり、好ましくは5モル%~45モル%であり、最も好ましくは10モル%~40モル%である。
【0056】
前述のコーティング膜形成用組成物に含まれる溶媒としては、水、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、アルコールが挙げられる。アルコールとしては、炭素数2乃至6のアルコール、例えば、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、イソブタノール、t-ブタノール、1-ペンタノール、2-ペンタノール、3-ペンタノール、1-ヘプタノール、2-ヘプタノール、2,2-ジメチル-1-プロパノール(=ネオペンチルアルコール)、2-メチル-1-プロパノール、2-メチル-1-ブタノール、2-メチル-2-ブタノール(=t-アミルアルコール)、3-メチル-1-ブタノール、3-メチル-3-ペンタノール、シクロペンタノール、1-ヘキサノール、2-ヘキサノール、3-ヘキサノール、2,3-ジメチル-2-ブタノール、3,3-ジメチル-1-ブタノール、3,3-ジメチル-2-ブタノール、2-エチル-1-ブタノール、2-メチル-1-ペンタノール、2-メチル-2-ペンタノール、2-メチル-3-ペンタノール、3-メチル-1-ペンタノール、3-メチル-2-ペンタノール、3-メチル-3-ペンタノール、4-メチル-1-ペンタノール、4-メチル-2-ペンタノール、4-メチル-3-ペンタノール及びシクロヘキサノールが挙げられ、単独で又はそれらの組み合わせの混合溶媒を用いてもよいが、共重合体の溶解の観点から、水、PBS、エタノール、プロパノール、及びそれらの混合溶媒から選ばれるのが好ましく、水、エタノール、及びそれらの混合溶媒から選ばれるのがより好ましい。
【0057】
本発明に係るコーティング膜形成用組成物中の固形分の濃度としては、均一にコーティング膜を形成させるために、0.01~50質量%が望ましい。また、コーティング膜形成用組成物中の共重合体の濃度としては、好ましくは0.01~4質量%、より好ましくは0.01~3質量%、特に好ましくは0.01~2質量%、さらに好ましくは0.01~1質量%である。共重合体の濃度が0.01質量%以下であると、得られるコーティング膜形成用組成物の共重合体の濃度が低すぎて十分な膜厚のコーティング膜が形成できず、4質量%以上であると、コーティング膜形成用組成物の保存安定性が悪くなり、溶解物の析出やゲル化が起こる可能性がある。
【0058】
本発明のコーティング膜を形成すべく、上記のコーティング膜形成用組成物を容器の表面の少なくとも一部に塗布する。塗布方法としては特に制限は無く、通常のスピンコート、ディップコート、溶媒キャスト法等の塗布法が用いられる。
【0059】
本発明に係るコーティング膜を備える容器を得るための方法は、上述の塗布工程に加えて、コーティング膜の乾燥工程を含んでいてもよい。コーティング膜の乾燥工程は、大気下又は真空下にて、好ましくは、温度-200℃~200℃の範囲内で行なう。乾燥工程により、上記コーティング膜形成用組成物中の溶媒を取り除くと共に、本発明に係る共重合体の式(a)及び式(b)同士がイオン結合を形成して容器へ完全に固着する。
【0060】
コーティング膜は、例えば室温(10℃~35℃、例えば25℃)での乾燥でも形成することができるが、より迅速にコーティング膜を形成させるために、例えば40℃~50℃にて乾燥させてもよい。またフリーズドライ法による極低温~低温(-200℃~-30℃前後)での乾燥工程を用いてもよい。フリーズドライは真空凍結乾燥と呼ばれ、通常乾燥させたいものを冷媒で冷却し、真空状態にて溶媒を昇華により除く方法である。フリーズドライで用いられる一般的な冷媒は、ドライアイスとメタノールの混合媒体(-78℃)、液体窒素(-196℃)等が挙げられる。
【0061】
乾燥温度が-200℃以下であると、一般的ではない冷媒を使用しなければならず汎用性に欠けることと、溶媒昇華のために乾燥に長時間を要し効率が悪い。乾燥温度が200℃以上であると、コーティング膜表面のイオン結合反応が進みすぎて該表面が親水性を失い、生体物質付着抑制能が発揮されない。より好ましい乾燥温度は10℃~180℃、より好ましい乾燥温度は25℃~150℃である。
【0062】
乾燥後、該コーティング膜上に残存する不純物、未反応モノマー等を無くすため、さらには膜中の共重合体のイオンバランスを調節するために、水及び電解質を含む水溶液から選ばれる少なくとも1種の溶媒で洗浄する工程を実施してもよい。洗浄は、流水洗浄又は超音波洗浄等が望ましい。上記水及び電解質を含む水溶液は例えば40℃~95℃の範囲で加温されたものでもよい。電解質を含む水溶液は、PBS、生理食塩水(塩化ナトリウムのみを含むもの)、ダルベッコリン酸緩衝生理食塩水、トリス緩衝生理食塩水、HEPES緩衝生理食塩水及びベロナール緩衝生理食塩水が好ましく、PBSが特に好ましい。固着後は水、PBS及びアルコール等で洗浄してもコーティング膜は溶出せずに基体に強固に固着したままである。形成されたコーティング膜は生体物質が付着してもその後水洗等にて容易に除去することができる。
【0063】
必要に応じて、滅菌のためにγ線、エチレンオキサイド、オートクレーブ等の処理がされる場合もある。
【0064】
本発明のコーティング膜の膜厚は、好ましくは10~1000Åであり、さらに好ましくは10~500Åであり、最も好ましくは20~400Åである。
【0065】
(容器)
本発明の抗体医薬品溶液の保存容器の形状としては、抗体医薬品溶液(室温で液体)のものを保管できる形状であれば、瓶形状、チューブ形状等特に制限されない。密栓が可能な蓋等を容器上部に有し、密封保管できることが好ましい。
【0066】
本発明の抗体医薬品溶液の保存容器の材質としては、ガラス、金属含有化合物若しくは半金属含有化合物又は樹脂を挙げることができるが、汎用性の観点からガラス又は樹脂成形物が好ましく用いられる。金属含有化合物若しくは半金属含有化合物は、例えば基本成分が金属酸化物で、高温での熱処理によって焼き固めた焼結体であるセラミックス、シリコンのような半導体、金属酸化物若しくは半金属酸化物(シリコン酸化物、アルミナ等)、金属炭化物若しくは半金属炭化物、金属窒化物若しくは半金属窒化物(シリコン窒化物等)、金属ホウ化物若しくは半金属ホウ化物などの無機化合物の成形体など無機固体材料、アルミニウム、ニッケルチタン、ステンレス(SUS304、SUS316、SUS316L等)が挙げられる。樹脂としては、天然樹脂若しくはその誘導体、又は合成樹脂いずれでもよく、天然樹脂若しくはその誘導体としては、セルロース、三酢酸セルロース(CTA)、ニトロセルロース(NC)、デキストラン硫酸を固定化したセルロース等、合成樹脂としてはポリアクリロニトリル(PAN)、ポリイミド(PI)、ポリエステル系ポリマーアロイ(PEPA)、ポリスチレン(PS)、ポリスルホン(PSF)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリウレタン(PU)、エチレンビニルアルコール(EVAL)、ポリエチレン(PE)、ポリエステル、ポリプロピレン(PP)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリカーボネート(PC)、シクロオレフィンポリマー(COP)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、超高分子量ポリエチレン(UHPE)、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂(ABS)又はテフロン(登録商標)が好ましく用いられる。
【0067】
本発明の容器を使用すると、抗体医薬品の凝集を抑制しつつ保管することが可能となる。上記抗体医薬品の凝集を抑制するとは、実施例に示すように一定時間経過後、目視観察にて抗体医薬品溶液の濁りの有無で確認することができる。
【0068】
(抗体医薬品)
抗体医薬品とは、抗体を利用した医薬品であり、抗体は免疫グロブリンからなる蛋白質である。
上記抗体医薬品が、抗体とその抗原結合断片の少なくとも一方を含むことが好ましい。
上記抗体医薬品が、キメラ抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、及びこれらのドメイン抗体からなる群から選択される少なくとも1つを含むことが好ましい。
【0069】
上記抗体医薬品の具体例としては、オファツムマブ(商品名「アーゼラ(登録商標)」)、セツキシマブ(商品名「アービタックス(登録商標)」)、トシリズマブ(商品名「アクテムラ(登録商標)」)、ベバシズマブ(商品名「アバスチン(登録商標)」)、カナキヌマブ(商品名「イラリス(登録商標)」)、ゴリムマブ(商品名「シンポニー(登録商標)」)、ウステキヌマブ(商品名「ステラーラ(登録商標)」)、エクリズマブ(商品名「ソリリス(登録商標)」)、オマリズマブ(商品名「ゾレア(登録商標)」)、トラスツズマブ(商品名「ハーセプチン(登録商標)」)、ペルツズマブ(商品名「パージェタ(登録商標)」)、アダリムマブ(商品名「ヒュミラ(登録商標)」)、デノスマブ(商品名「プラリア(登録商標)」、商品名「ランマーク(登録商標)」)、モガムリズマブ(商品名「ポテリジオ(登録商標)」)、リツキシマブ(商品名「リツキサン(登録商標)」)、ラニビズマブ(商品名「ルセンティス(登録商標)」)、インフリキシマブ(商品名「レミケード(登録商標)」)、アフリベルセプト(商品名「アイリーア(登録商標)」)、アバタセプト(商品名「オレンシア(登録商標)」)、エタネルセプト(商品名「エンブレル(登録商標)」)、ゲムツズマブオゾガマイシン(商品名「マイロターグ(登録商標)」)、パニツムマブ(商品名「ベクティビックス(登録商標)」)、バシリキシマブ(商品名「シムレクト(登録商標)」)、セルトリズマブ ペゴル(商品名「シムジア(登録商標)」)、及びパリビズマブ(商品名「シナジス(登録商標)」)が挙げられる。
【0070】
これらの中でも単一の抗体産生細胞に由来するクローンから得られた抗体、あるいは抗体分子であるモノクローナル抗体を含んでいることが好ましく、抗ヒトCD20ヒト・抗体からなるモノクローナル抗体であることが好ましく、リツキシマブ又はアバタセプトを含んでいることが好ましい。
なお、抗体医薬品は1種の抗体を含んでいてもよいし、2種以上の抗体を含んでいてもよい。すなわち、本発明の抗体医薬品は、抗体と抗原結合断片の双方を含んでいてもよいし、2種以上の抗体を含んでいてもよいし、2種以上の抗原結合断片を含んでいてもよい。
【0071】
上記抗体医薬品は、通常溶媒に溶解させた溶液状態で保管されることが多い。
抗体医薬品溶液の溶媒としては、水、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、酢酸緩衝液及びクエン酸緩衝液等の水性緩衝液が用いられる。
【0072】
抗体医薬品溶液のpHは、特に限定されないが、例えば3.0以上8.0以下とすることができる。
【0073】
ここで、抗体医薬品溶液中における抗体医薬品の濃度は、0.005mg/mL以上であることが好ましく、0.01mg/mL以上であることがより好ましく、0.05mg/mL以上であることが更に好ましく、500mg/mL以下であることが好ましく、300mg/mL以下であることがより好ましく、200mg/mL以下であることが更に好ましい。抗体医薬品溶液中における抗体の濃度が0.005mg/mL以上であれば、抗体医薬品を人体などに投与した際に当該抗体医薬品の所期の効果を十分に得ることができ、500mg/mL以下であれば、抗体医薬品を長期保存した際に、抗体医薬品溶液中における抗体の凝集を十分に抑制することができる。
【0074】
<抗体医薬品溶液の保存容器製造用コーティング膜形成用組成物>
本発明の抗体医薬品溶液の保存容器製造用コーティング膜形成用組成物は、(i)上記親水性官能基を有するモノマーの重合体、好ましくは下記式(a)で表される基を含む繰り返し単位と、下記式(b)で表される基を含む繰り返し単位と、下記式(c)で表される基を含む繰り返し単位とを含む共重合体:
【化13】
[式中、
U
a1、U
a2、U
b1、U
b2及びU
b3は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1~5の直鎖若しくは分岐アルキル基を表し;
R
cは、炭素原子数4~18の直鎖若しくは分岐アルキル基、炭素原子数3~10の環式炭化水素基、炭素原子数6~10のアリール基、炭素原子数7~14のアラルキル基又は炭素原子数7~14のアリールオキシアルキル基(ここで、前記アリール部分は、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1~5の直鎖若しくは分岐アルキル基で置換されていてもよい)を表し;
An
-は、ハロゲン化物イオン、無機酸イオン、水酸化物イオン及びイソチオシアネートイオンからなる群から選ばれる陰イオンを表す]及び
(ii)溶媒
を含む。
【0075】
本発明に係るコーティング膜形成用組成物は、所望の重合体を、所望の溶媒にて所定の濃度に希釈することにより調製してもよい。
(共)重合体及び溶媒の具体的態様は、上記<コーティング膜の形成>のとおりである。
【0076】
本発明に係るコーティング膜形成用組成物中の固形分の濃度としては、均一にコーティング膜を形成させるために、0.01~50質量%が望ましい。また、コーティング膜形成用組成物中の共重合体の濃度としては、好ましくは0.01~4質量%、より好ましくは0.01~3質量%、特に好ましくは0.01~2質量%、さらに好ましくは0.01~1質量%である。共重合体の濃度が0.01質量%以下であると、得られるコーティング膜形成用組成物の共重合体の濃度が低すぎて十分な膜厚のコーティング膜が形成できず、4質量%以上であると、コーティング膜形成用組成物の保存安定性が悪くなり、溶解物の析出やゲル化が起こる可能性がある。
【0077】
さらに本発明のコーティング膜形成用組成物は、上記重合体と溶媒の他に、必要に応じて得られるコーティング膜の性能を損ねない範囲で他の物質を添加することもできる。他の物質としては、防腐剤、界面活性剤、基材との密着性を高めるプライマー、防カビ剤及び糖類等が挙げられる。
【0078】
本発明に係るコーティング膜形成用組成物中の重合体のイオンバランスを調節するために、本発明のコーティング膜を得る際には、さらにコーティング膜形成用組成物中のpHを予め調整する工程を含んでいてもよい。pH調整は、例えば上記重合体と溶媒を含む組成物にpH調整剤を添加し、該組成物のpHを3.0~13.5、好ましくは3.5~8.5、さらに好ましくは3.5~5.5とするか、あるいは好ましくは8.5~13.5、さらに好ましくは10.0~13.5とすることにより実施してもよい。使用しうるpH調整剤の種類及びその量は、上記重合体の濃度や、そのアニオンとカチオンの存在比等に応じて適宜選択される。
【0079】
pH調整剤の例としては、アンモニア、ジエタノールアミン、ピリジン、N-メチル-D-グルカミン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン等の有機アミン;水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属水酸化物;塩化カリウム、塩化ナトリウム等のアルカリ金属ハロゲン化物;硫酸、リン酸、塩酸、炭酸等の無機酸又はそのアルカリ金属塩;コリン等の4級アンモニウムカチオン、あるいはこれらの混合物(例えば、リン酸緩衝生理食塩水等の緩衝液)を挙げることができる。これらの中でも、アンモニア、ジエタノールアミン、水酸化ナトリウム、コリン、N-メチル-D-グルカミン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンが好ましく、特にアンモニア、ジエタノールアミン、水酸化ナトリウム及びコリンが好ましい。
【0080】
したがって本発明は、(i)上記親水性官能基を有するモノマーの重合体、好ましくは上記式(a)で表される基を含む繰り返し単位と、上記式(b)で表される基を含む繰り返し単位と、上記式(c)で表される基を含む繰り返し単位とを含む共重合体、(ii)溶媒、及び場合により(iii)pH調整剤を含む、コーティング膜形成用組成物に関する。重合体、溶媒及びpH調整剤の具体例は、上記のとおりである。
本発明のコーティング膜、共重合体、コーティング膜形成用組成物は、国際公開第2016/093293号公報に記載されているコーティング膜、共重合体、コーティング膜形成用組成物を使用することができる。
【0081】
<抗体医薬品溶液中の抗体医薬品の凝集を抑制する方法>
本発明の抗体医薬品溶液中の抗体医薬品の凝集を抑制する方法は、
(i)上記親水性官能基を有するモノマーの重合体、好ましくは下記式(a)で表される基を含む繰り返し単位と、下記式(b)で表される基を含む繰り返し単位と、下記式(c)で表される基を含む繰り返し単位とを含む共重合体:
【化14】
[式中、
U
a1、U
a2、U
b1、U
b2及びU
b3は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1~5の直鎖若しくは分岐アルキル基を表し;
R
cは、炭素原子数4~18の直鎖若しくは分岐アルキル基、炭素原子数3~10の環式炭化水素基、炭素原子数6~10のアリール基、炭素原子数7~14のアラルキル基又は炭素原子数7~14のアリールオキシアルキル基(ここで、前記アリール部分は、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1~5の直鎖若しくは分岐アルキル基で置換されていてもよい)を表し;
An
-は、ハロゲン化物イオン、無機酸イオン、水酸化物イオン及びイソチオシアネートイオンからなる群から選ばれる陰イオンを表す]を含むコーティング膜を表面の少なくとも一部に備える容器中に、抗体医薬品溶液を保存する工程を含む、抗体医薬品溶液中の抗体医薬品の凝集を抑制する方法、である。
【0082】
本方法により、抗体医薬品溶液を容器に保管する場合、凝集が抑制され溶液状態が維持できる。
抗体医薬品溶液は、通常常温(15℃以上~35℃未満、好ましくは20℃以上30℃未満)下で保管されるが、10℃以上~50℃未満の間であってよく、冷凍(マイナス30℃以上~マイナス18℃程度)、冷蔵(3~10℃程度)、高温(35℃以上~50℃程度)で保管される場合もある。
【実施例0083】
以下、合成例、実施例、試験例等に基づいて、本発明をさらに詳細に説明するが本発明はこれらに限定されない。
【0084】
<合成例1>
アシッドホスホオキシエチルメタアクリレート(製品名;ホスマーM、ユニケミカル(株)製、乾固法100℃・1時間における不揮発分:91.8%、アシッドホスホオキシエチルメタクリレート(44.2質量%)、リン酸ビス[2-(メタクリロイルオキシ)エチル](28.6質量%)、その他の物質(27.2質量%)の混合物)260gをエタノール390gに投入し、35℃以下に冷却しながらコリン(48-50%水溶液:東京化成工業(株)製)310gを加えて均一になるまで撹拌した。この混合液にメタクロイルコリンクロリド80%水溶液(東京化成工業(株)製)220g、メタクリル酸ブチル(東京化成工業(株)製)300g加え、追加でエタノール260gを加え撹拌した。さらに、2,2’-アゾビス(N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン)n-水和物(製品名;VA-057、富士フイルム和光純薬(株)製)22gを純水230gに溶解させた水溶液を35℃以下に保ちながら上記の溶液に加え、十分に攪拌して均一となった上記全てのものが入った混合液を、滴下ポンプを介した3つ口フラスコに導入した。一方で、別途純水650gとエタノール980gを冷却管付きの3つ口フラスコに加えて窒素フローし、撹拌しながらリフラックス温度まで昇温した。この状態を維持しつつ、上記混合液をテフロンチューブで介した滴下ポンプにて、1.5時間かけて純水とエタノールの沸騰液内に滴下した。滴下後、2時間上記環境を維持した状態で加熱撹拌した。2時間後に冷却することで固形分約24.20質量%の共重合体含有ワニス3610gを得た。得られた液体のゲル濾過クロマトグラフィー(GFC)における重量平均分子量は約23,225であった。
【0085】
<合成例2>
アシッドホスホオキシポリプロピレングリコールモノメタクリレート(プロピレンオキサイドの平均付加モル数5)(製品名:PPM-5P、東邦化学工業(株)製、絶対質量%(純度)97.3質量%)5.03g、メタクロイルコリンクロリド約80%水溶液(東京化成工業(株)製)2.10g、メタクリル酸ブチル(東京化成工業(株)製)2.02g、及びエチレングリコールジメタクリラート(東京化成工業(株)製)2.06gを、エタノール(純正化学(株)製)48.6gに投入し、ジメチル-1,1′-アゾビス(1-シクロヘキサンカルボキシレート)(製品名:VE-073、富士フイルム和光純薬(株)製)107.1mgを加えて均一に撹拌し混合液を調製した。一方で、エタノール(純正化学(株)製)48.6gを冷却管付きの4つ口フラスコに加えてフラスコ内を窒素置換し、撹拌しながらリフラックス温度まで昇温した。この状態を維持しつつ、上記混合液を滴下ポンプにて1.5時間かけてエタノール沸騰液内に滴下し、滴下後24時間上記環境を維持した状態で加熱撹拌した。反応終了後に冷却することで固形分約9.7質量%の共重合体含有溶液を得た。得られた共重合体含有液体を貧溶媒であるヘキサンにて再沈殿させ、析出物を濾過により回収し減圧乾燥した。得られた粉体のGFCにおける重量平均分子量は約220,000であった。
【0086】
<合成例3>
アシッドホスホオキシポリプロピレングリコールモノメタクリレート(プロピレンオキサイドの平均付加モル数5)(製品名:PPM-5P、東邦化学工業(株)製、絶対質量%(純度)97.3質量%)5.01g、メタクロイルコリンクロリド約80%水溶液(東京化成工業(株)製)2.10g、メタクリル酸ブチル(東京化成工業(株)製)2.31g、及びエチレングリコールジメタクリラート(東京化成工業(株)製)1.62gを、エタノール(純正化学(株)製)47.9gに投入し、ジメチル-1,1′-アゾビス(1-シクロヘキサンカルボキシレート)(製品名:VE-073、富士フイルム和光純薬(株)製)54.3mgを加えて均一に撹拌し混合液を調製した。一方で、エタノール(純正化学(株)製)47.9gを冷却管付きの4つ口フラスコに加えてフラスコ内を窒素置換し、撹拌しながらリフラックス温度まで昇温した。この状態を維持しつつ、上記混合液を滴下ポンプにて1.5時間かけてエタノール沸騰液内に滴下し、滴下後24時間上記環境を維持した状態で加熱撹拌した。反応終了後に冷却することで固形分約9.8質量%の共重合体含有溶液を得た。得られた共重合体含有液体を貧溶媒であるヘキサンにて再沈殿させ、析出物を濾過により回収し減圧乾燥した。得られた粉体のGFCにおける重量平均分子量は約260,000であった。
【0087】
<合成例4>
アシッドホスホオキシポリプロピレングリコールモノメタクリレート(プロピレンオキサイドの平均付加モル数5)(製品名:PPM-5P、東邦化学工業(株)製、絶対質量%(純度)97.3質量%)5.51g、メタクロイルコリンクロリド約80%水溶液(東京化成工業(株)製)2.30g、メタクリル酸ブチル(東京化成工業(株)製)1.27g、及びエチレングリコールジメタクリラート(東京化成工業(株)製)1.78gを、エタノール(純正化学(株)製)47.2gに投入し、ジメチル-1,1′-アゾビス(1-シクロヘキサンカルボキシレート)(製品名:VE-073、富士フイルム和光純薬(株)製)105.7mgを加えて均一に撹拌し混合液を調製した。一方で、エタノール(純正化学(株)製)47.2gを冷却管付きの4つ口フラスコに加えてフラスコ内を窒素置換し、撹拌しながらリフラックス温度まで昇温した。この状態を維持しつつ、上記混合液を滴下ポンプにて1.5時間かけてエタノール沸騰液内に滴下し、滴下後24時間上記環境を維持した状態で加熱撹拌した。反応終了後に冷却することで固形分約9.8質量%の共重合体含有溶液を得た。得られた共重合体含有液体を貧溶媒であるヘキサンにて再沈殿させ、析出物を濾過により回収し減圧乾燥した。得られた粉体のGFCにおける重量平均分子量は約220,000であった。
【0088】
<合成例5>
アシッドホスホオキシポリプロピレングリコールモノメタクリレート(プロピレンオキサイドの平均付加モル数5)(製品名:PPM-5P、東邦化学工業(株)製、絶対質量%(純度)97.3質量%)6.01g、メタクロイルコリンクロリド約80%水溶液(東京化成工業(株)製)1.69g、メタクリル酸ブチル(東京化成工業(株)製)1.16g、及びエチレングリコールジメタクリラート(東京化成工業(株)製)1.60gを、エタノール(純正化学(株)製)45.9gに投入し、ジメチル-1,1′-アゾビス(1-シクロヘキサンカルボキシレート)(製品名:VE-073、富士フイルム和光純薬(株)製)101.1mgを加えて均一に撹拌し混合液を調製した。一方で、エタノール(純正化学(株)製)45.9gを冷却管付きの4つ口フラスコに加えてフラスコ内を窒素置換し、撹拌しながらリフラックス温度まで昇温した。この状態を維持しつつ、上記混合液を滴下ポンプにて1.5時間かけてエタノール沸騰液内に滴下し、滴下後24時間上記環境を維持した状態で加熱撹拌した。反応終了後に冷却することで固形分約10.0質量%の共重合体含有溶液を得た。得られた共重合体含有液体を貧溶媒であるヘキサンにて再沈殿させ、析出物を濾過により回収し減圧乾燥した。得られた共重合体のGFCにおける重量平均分子量は約210,000であった。
【0089】
<調製例1>
上記合成例1で得られた共重合体含有ワニス568gに、1mol/L塩酸(1N)(関東化学(株)製)157gと純水1697g、エタノール4456gを加えて十分に撹拌し、コーティング膜形成用組成物を調製した。pHは2.6であった。
【0090】
<調製例2>
上記合成例2で得られた共重合体0.80gに、エタノール27.51gと純水11.76gを加えて十分に撹拌し、コーティング膜形成用組成物を調製した。pHは2.9であった。
【0091】
<調製例3>
上記合成例3で得られた共重合体0.25gに、エタノール8.59gと純水3.70gを加えて十分に撹拌し、コーティング膜形成用組成物を調製した。pHは2.8であった。
【0092】
<調製例4>
上記合成例4で得られた共重合体0.26gに、エタノール8.60gと純水3.69gを加えて十分に撹拌し、コーティング膜形成用組成物を調製した。pHは2.8であった。
【0093】
<調製例5>
上記合成例5で得られた共重合体0.30gに、エタノール10.30gと純水4.01gを加えて十分に撹拌し、コーティング膜形成用組成物を調製した。pHは2.9であった。
【0094】
<実施例1>
調製例1で得られたコーティング膜形成用組成物をポリプロピレン(PP)製マイクロチューブ(FCR&Bio社製、#JRDS-0M)に1.5mLずつ入れ、25℃で0.5時間静置した。チューブよりコーティング膜形成用組成物を除去後、25℃で3時間乾燥させた。その後、チューブを純水で十分に洗浄することで、コーティング膜が形成されたPP製チューブを得た。以後、『塗布チューブ』とし、コーティング膜形成用組成物処理をおこなっていないチューブを『未処理チューブ』とする。
【0095】
<実施例2~5>
調製例2~5で得られたコーティング膜形成用組成物をそれぞれポリプロピレン(PP)製マイクロチューブ(日本ジェネティクス社製、#11510)に1.5mLずつ入れ、25℃で0.5時間静置した。チューブよりコーティング膜形成用組成物を除去後、50℃で3時間乾燥させた。その後、チューブを純水で十分に洗浄することで、コーティング膜が形成されたPP製チューブを得た。以後、調整例2~5で得られたコーティング膜形成用組成物で処理をおこなったPP製チューブをそれぞれ『塗布チューブ2』~『塗布チューブ5』とする。
【0096】
<実施例6>
調製例1で得られたコーティング膜形成用組成物100μgをポリプロピレン(PP)製マイクロチューブ(日本ジェネティクス社製、#11510)に市販のスプレーコーティング・洗浄装置を用いて塗布し、チューブの底に溜まった液を吸引除去した。その後、チューブをセットしたラックを180°回転させ、チューブを逆さにした状態で30℃、3時間乾燥させた。続いて超純水1.7mLを加え、吸引除去する作業を3回繰り返し、チューブを洗浄した後、チューブを逆さにして30℃、3時間乾燥させることでコーティング膜が形成されたPP製チューブを得た。以後、『塗布チューブ6』とする。
【0097】
<試験例1>
リツシキマブ溶液(リツキサン点滴静注、中外製薬(株)製、#R1102AC)を精製し、濃度1.0mg/mLに調整した後、滅菌環境下で0.22μmフィルターによるろ過滅菌処理を行った。調製したリツキシマブ溶液0.5mLを実施例1で得られた未処理チューブと処理チューブにそれぞれ0.5mLずつ充填し、4±3℃で24時間静置保管し、またマイクロチューブ攪拌振蕩機にセットし、22±3℃、2500rpmで24時間振蕩した。それぞれの条件で保管したチューブを目視で白濁の有無を確認した。外観写真を
図1に示す。
未処理チューブでは、撹拌振蕩後に明らかな濁りが確認されており、塗布チューブではそれが見られない。つまり、凝集を明らかに抑えていることが確認できる。
【0098】
<試験例1-2>
リツキサン点滴静注(全薬工業(株)製)を溶媒交換し、濃度1.0mg/mLのリツキシマブ溶液を調整した後、滅菌環境下で0.22μmフィルターによるろ過滅菌処理を行った。調製したリツキシマブ溶液を実施例2~5で得られた塗布チューブ2~5と未塗布チューブにそれぞれ0.5mLずつ充填し、マイクロチューブ攪拌振蕩機にセットして22±3℃、2500rpmで24時間振蕩した。攪拌振蕩後のチューブを透明バイアルに溶液を入れ換え、目視で白濁の有無を確認した。外観写真を
図2に示す。
未処理チューブでは、撹拌振蕩後に明らかな濁りが確認されている一方、塗布チューブ2~5では未処理チューブと比較して濁りが抑えられており、凝集体発生を抑えていることが確認できる。
【0099】
<試験例1-3>
リツキサン点滴静注(中外製薬(株)製)を溶媒交換し、濃度1.0mg/mLのリツキシマブ溶液を調整した後、滅菌環境下で0.22μmフィルターによるろ過滅菌処理を行った。調製したリツキシマブ溶液を実施例6で得られた塗布チューブ6、及び未処理チューブ、プロテオセーブSS 1.5mLマイクロチューブ(住友ベークライト(株)製、#MS-4215M、以後、比較チューブ1とする)、1.5mLタンパク吸着制御サンプリングチューブ(ザルスタット社製、#72.41152.006、以後、比較チューブ2とする)、Protein LoBind Tube 1.5mL(Eppendorf、#0030108116、以後、比較チューブ3とする)にそれぞれ0.5mLずつ充填し、4±3℃で24時間静置保管、またはマイクロチューブ攪拌振蕩機にセットして22±3℃、2500rpmで24時間振蕩した。22℃/24時間撹拌振蕩後のチューブを目視で白濁の有無を確認した。外観写真を
図3に示す。
未処理チューブ、及び比較チューブ1~3では、撹拌振蕩後に明らかな濁りが確認されている一方、塗布チューブ6では濁りが抑えられており、凝集体発生を抑えていることが確認できる。
【0100】
<試験例1-4>
オレンシア点滴静注用(ブリストル・マイヤーズ スクイブ社製)を溶媒交換し、濃度1.0mg/mLのアパタセプト溶液を調整した後、滅菌環境下で0.22μmフィルターによるろ過滅菌処理を行った。調製したアパタセプト溶液を実施例6で得られた塗布チューブ6と未塗布チューブにそれぞれ0.5mLずつ充填し、マイクロチューブ攪拌振蕩機にセットして22±3℃、2500rpmで24時間振蕩した。攪拌振蕩後のチューブを透明バイアルに溶液を入れ換え、目視で白濁の有無を確認した。外観写真を
図4に示す。
未処理チューブでは、撹拌振蕩後に明らかな濁りが確認されており、塗布チューブ6では未処理チューブと比較して濁りが抑えられており、凝集体発生を抑えていることが確認できる。
【0101】
<試験例2>
上記、試験例1で得られた22℃/24時間振蕩した未処理チューブと塗布チューブを、サイズ排除クロマトグラフィー;SEC(HPLCシステムe2695、Alliance社製)によるLC用UV/Vis検出器2489 UV/Vis Detectorを用い、215nm及び280nmのUVを検出することにより分析をした。カラムはTSKgel G3000SWXL(東ソー(株)製)を使い、PBS溶液pH 7.4、流速0.5mL/min、カラム温度30oCで試料20μLを溶出した。表1には4℃/24時間静置後の塗布済みチューブのTotal peak areaの平均値を100%とした時の各条件におけるTotal peak areaの割合(%)を示す。
22℃/24時間振蕩後の未処理チューブでは、22℃/24時間振蕩後の塗布チューブのTotal peak areaの割合が20%程度しか確認されない。同量、同濃度の測定にもかかわらず22℃振蕩後の未処理チューブのTotal peak areaの割合が減少していることから、凝集発生に伴う溶液への溶解量が減っていることが確認できる。
【0102】
【0103】
<試験例2-2>
上記、試験例1-3で得られた22℃/24時間振蕩した塗布チューブ6と未処理チューブを、試験例2と同様の条件でSEC分析を実施した。表Aには上清20μLあたりのモノマー面積の値と4℃/24時間静置後の塗布チューブ6のモノマー面積平均値を100%とした時の各条件におけるモノマー面積の割合(%)を示す。
【0104】
【0105】
22℃/24時間振蕩後の未処理チューブでは、モノマーpeak area割合が4℃/24時間静置後の塗布チューブ6の0.1%以下となり、22℃/24時間振蕩後の塗布チューブ6では97.8%であった。同量、同濃度の測定にもかかわらず22℃振蕩後の未処理チューブのモノマー割合が大幅に減少していることから、凝集発生に伴う溶液への溶解量が減っていることが確認できる。
【0106】
<試験例3>
上記、試験例1で得られた22℃/24時間振蕩した未処理チューブと塗布チューブを、フローイメージング装置(FlowCam8100,Fluid Imaging Technologies社製)により粒子計測を行った結果を表2に示す。なお、未処理のチューブは粒子濃度が高く測定できなかったため、100倍希釈して測定した。
未処理チューブは22℃/24時間振蕩後では、4℃/24時間静置後に比べて粒子濃度が数10,000~数100,000倍高い。塗布チューブでは粒子濃度が数10~数100倍高くなる程度であった。つまり、22℃/24時間振蕩後は、未処理チューブは塗布チューブに比べて、数100倍高い粒子濃度を示した。これらの結果から、塗布済みチューブは未処理のチューブに比べて、攪拌による粒子濃度の増加を抑制することが示された。
【0107】
【0108】
<試験例3-2>
上記、試験例1-3で得られた22℃/24時間振蕩した塗布チューブ6、未処理チューブ、比較チューブ1~3、及び試験例1-4で得られた22℃/24時間振蕩した塗布チューブ6と未処理チューブのフローイメージング装置を用いた粒子計測を試験例3と同様の条件で行った。リツキシマブ溶液を用いた結果を表B、アパタセプト溶液を用いた結果を表Cに示す。なお、リツキシマブ溶液を用いて試験した未処理チューブは粒子濃度が高く測定できなかったため、100倍希釈して測定した。
【0109】
【0110】
【0111】
リツキシマブ溶液を用いた試験では、塗布チューブ6の粒子濃度は未処理チューブの粒子濃度の約40倍低く、凝集体発生を抑える効果が確認された。一方、比較チューブ1~3では未処理チューブの粒子濃度よりも高く、凝集体発生を抑える効果は見られなかった。
アパタセプト溶液を用いた試験では、塗布チューブ6の粒子濃度は未処理チューブの粒子濃度の約1000倍低く、凝集体発生を抑える効果が確認された。
【0112】
<試験例4>
上記、試験例1-3で得られた22℃/24時間振蕩した塗布チューブ6と未処理チューブについて、共振式質量計測システムArchimedes(Malvern Panalytical社製)を用いることで5μm以下サイズの凝集体を計測した。結果を表Dに示す。なお、未処理チューブは粒子濃度が装置の測定限界以上の濃度となったため、100倍希釈して測定した。
【0113】
【0114】
塗布チューブ6の粒子濃度は未処理チューブの粒子濃度の約20倍低く、サブミクロンサイズの凝集体発生を抑える効果が確認された。