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特開2025-91428アルミニウム原子を含有するシリカ粒子を含むセメンチング組成物及びセメンチング方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025091428
(43)【公開日】2025-06-19
(54)【発明の名称】アルミニウム原子を含有するシリカ粒子を含むセメンチング組成物及びセメンチング方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/02 20060101AFI20250612BHJP
   C04B 22/06 20060101ALI20250612BHJP
   C04B 22/12 20060101ALI20250612BHJP
   C01B 33/14 20060101ALI20250612BHJP
   C09K 8/487 20060101ALI20250612BHJP
【FI】
C04B28/02
C04B22/06 A
C04B22/12
C01B33/14
C09K8/487
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022047140
(22)【出願日】2022-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】弁理士法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】古野 純平
(72)【発明者】
【氏名】村上 智
【テーマコード(参考)】
4G072
4G112
【Fターム(参考)】
4G072AA28
4G072AA36
4G072BB05
4G072CC01
4G072DD06
4G072EE01
4G072GG02
4G072TT01
4G072TT19
4G072UU30
4G112MA01
4G112MB08
4G112PA03
4G112PA10
4G112PA11
(57)【要約】
【課題】 油田及びガス油田に用いられ、100℃以上、特に150℃以上もの高温環境下においてもセメントスラリーからの遊離水の発生を抑制できるセメンチング組成物であり、セメンチング組成物を混練する際に塩水を使用した場合であっても、地下の充填箇所に到達するまでの間において十分な流動性を確保し、遊離水の発生を抑制してなる十分な安定性を有するセメンチング組成物を提供すること。
【解決手段】セメント、シリカ粒子、及び塩水を含み、油田及びガス油田に用いる塩水混練セメンチング用組成物であって、該シリカ粒子はアルミニウム原子がシリカ(SiO)の質量に対してAl換算で0.1~4.0質量%の割合で含有されるシリカ粒子である、上記セメンチング組成物、好ましい態様において前記シリカ粒子は、窒素ガス吸着法により測定して得られる比表面積径(等価球換算粒子径)が5~200nmの粒子であり、前記塩水は塩分を0.1~4.0質量%含有する水溶液であり、前記塩水は塩分含有陸水、又は海水である、セメンチング組成物。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント、シリカ粒子、及び塩水を含み、油田及びガス油田に用いる塩水混練セメンチング用組成物であって、
該シリカ粒子はアルミニウム原子がシリカ(SiO)の質量に対してAl換算で0.1~4.0質量%の割合で含有されるシリカ粒子である、上記セメンチング組成物。
【請求項2】
前記シリカ粒子が、窒素ガス吸着法により測定して得られる比表面積径(等価球換算粒子径)が5~200nmの粒子である、請求項1に記載のセメンチング組成物。
【請求項3】
前記塩水が、塩分を0.1~4.0質量%含有する水溶液である、請求項1又は請求項2に記載のセメンチング組成物。
【請求項4】
前記塩水が、塩分含有陸水、又は海水である、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のセメンチング組成物。
【請求項5】
塩分濃度3.6質量%、シリカ濃度1質量%に設定した前記シリカ粒子の塩水分散液を20℃、1時間保管する塩水耐性試験において、(該試験後におけるシリカ粒子の動的光散乱法による平均粒子径)/(該試験前におけるシリカ粒子の動的光散乱法による平均粒子径)で表される比が1.0~100である、請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のセメンチング組成物。
【請求項6】
前記シリカ粒子が、セメントに対して、シリカ固形分として0.01%~10%BWOC(BWOCは、セメントの乾燥固形分に基づく質量%を意味する)の割合にて含有される、請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載のセメンチング組成物。
【請求項7】
さらにセメント遅硬剤及びその他添加剤を含み、
前記セメントに対して、前記シリカ粒子をシリカ固形分として0.01%~10%BWOCの割合で、前記塩水を30~60%BWOCの割合で、前記セメント遅硬剤を0.1~5%BWOCの割合で、及びその他の添加剤を0.001~10%BWOCの割合で、それぞれ含有するセメンチング組成物であって、
前記その他の添加剤は、脱水調整剤、消泡剤、速硬剤、低比重骨材、高比重骨材、セメント分散剤、セメント強度安定剤、及び逸泥防止剤からなる群より選ばれた少なくとも1種の添加剤である、請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載のセメンチング組成物。
【請求項8】
油田又はガス油田の掘削において、100℃以上300℃以下の高温・高圧環境下から石油又はガスを採掘するにあたり、地層とケーシングパイプとの空隙部を油井セメントで充填するためのセメンチング材料として、請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載のセメンチング組成物を用いることを特徴とする、セメンチング工法。
【請求項9】
請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載のセメンチング組成物を坑井中に導入する工程、及び前記セメンチング組成物を凝結させる工程、を含む、
セメンチング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温・高圧の環境にある油田及びガス油田のフィールドの坑井掘削時に使用するセメンチング用セメントスラリーにおいて、該スラリーからの遊離水の発生を抑制することにより優れた流動性を実現するセメント組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
油田やガス田等の坑井掘削では、坑井仕上の際、坑井内に内枠として挿入したケーシングパイプの固定や補強、腐食防止、また地下水の坑井内への流入防止のため、ケーシングパイプと地層(坑壁)との空隙(環状の間隙:annulas(アニュラス)などとも称されることがある)にセメントスラリーを注入するセメンチング作業が実施される。セメンチングとは、坑井内の様々な箇所、あるいはケーシング内・外に、セメント及び水あるいは添加剤を含む溶解水で作られたセメントスラリーを適用すること指し、プライマリー及びセカンダリーセメンチングに分別される。プライマリーセメンチングは、前述したように、ケーシング降下後にケーシングアニュラス部(外側)にセメントを充填するセメンチングを指し、通常のケーシングに際しては必ず実施される。またセカンダリーセメンチングは、その後の二次的なセメンチングであり、必要に応じて局所的に実施されるセメンチングを指す。
【0003】
油田やガス田等の坑井掘削は、ビット(削孔用具)による掘削作業と上記のセメンチング作業が繰り返し実施され、油井が深くなるに従い、作業現場の温度は上昇し、圧力も上昇することとなる。近年、掘削技術が向上し、深さ500~1000m以上の深層の油田及びガス油田層の掘削が行われており、高温・高圧環境下においてもセメンチングが可能となるセメントスラリーの設計が求められる。また近年、油田及びガス油田層の生産層を水平に掘り進んで生産量を増やすことができる、水平坑井の頻度が増している。水平坑井は、従来の垂直井、傾斜井と異なり、掘削中の泥水性状やセメンチングに使用するセメントスラリーデザインに注意を払う必要が生じている。
【0004】
セメンチング用セメントスラリーは、上述したような坑井条件に合わせて設計され、セメントと水に加え、セメント速硬剤、セメント遅硬剤、低比重骨材、高比重骨材、セメント分散剤、セメント脱水調整剤、セメント強度安定剤、逸泥防止剤などの添加剤を加えて調製される。
またセメンチングに使用されるセメント(油井セメント、地熱井セメントなどとも称する)は、一般構造用のセメントとは異なる要求性能を有し、例えば高温・高圧下でもスラリー流動性や強度発現性といった施工性と耐久性を備えることが要求される。
こうした要求性能を考慮した規格として、API規格(American Petroleum Institute(アメリカ石油協会)が定めた石油に関する規格)では、各種の油井セメントがクラス別・耐硫酸塩別に規定され、中でもクラスGセメントは、油井掘削用として最も使用されているセメントである。
しかし、上記のAPI規格を満たしていても、海水などの塩水使用環境下や高温及び高圧の環境下では、セメントスラリーからの遊離水の発生量が増大し、その結果、セメントスラリーの流動性やセメント強度が損なわれるといった問題があり、上記の坑井環境下においても遊離水の発生を抑制できる手段が求められている。
【0005】
セメントスラリーからの遊離水の抑制を図った提案として、例えば、窒素吸着による比表面積値(BET(N))が10~500m/gであり、水蒸気吸着による比表面積値(BET(HO))が5~65m/gであるシリカ粒子を含有するセメンチング組
成物が開示されている(特許文献1参照)。
また、海水を使用したモルタルにおいて初期強度と長期強度の発現を図った提案として、例えば、セメントと海水と骨材と特定組成を有するモルタル混和剤とを混合させた海水配合モルタルが開示されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2020/059213号
【特許文献2】特開2012-017215号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、油田及びガス油田に用いられ、100℃以上、特に150℃以上もの高温環境下においても、セメントスラリーからの遊離水の発生を抑制できるセメンチング組成物を提供することを課題とするものであり、更にセメンチング組成物を混練する際に塩水を使用した場合に、地下の充填箇所に到達するまでの間において十分な流動性を確保し、遊離水の発生を抑制してなる十分な安定性を有するセメンチング組成物を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は第1観点として、セメント、シリカ粒子、及び塩水を含み、油田及びガス油田に用いる塩水混練セメンチング用組成物であって、該シリカ粒子はアルミニウム原子がシリカ(SiO)の質量に対してAl換算で0.1~4.0質量%の割合で含有されるシリカ粒子である、上記セメンチング組成物、
第2観点として、前記シリカ粒子が、窒素ガス吸着法により測定して得られる比表面積径(等価球換算粒子径)が5~200nmの粒子である、第1観点に記載のセメンチング組成物、
第3観点として、前記塩水が、塩分を0.1~4.0質量%含有する水溶液である、第1観点又は第2観点に記載のセメンチング組成物、
第4観点として、前記塩水が、塩分含有陸水、又は海水である、第1観点乃至第3観点のいずれか一つに記載のセメンチング組成物、
第5観点として、塩分濃度3.6質量%、シリカ濃度1質量%に設定した前記シリカ粒子の塩水分散液を20℃、1時間保管する塩水耐性試験において、(該試験後におけるシリカ粒子の動的光散乱法による平均粒子径)/(該試験前におけるシリカ粒子の動的光散乱法による平均粒子径)で表される比が1.0~100である、第1観点乃至第4観点の何れか一つに記載のセメンチング組成物、
第6観点として、前記シリカ粒子が、セメントに対して、シリカ固形分として0.01%~10%BWOC(BWOCは、セメントの乾燥固形分に基づく質量%を意味する)の割合にて含有される、第1観点乃至第5観点のいずれか一つに記載のセメンチング組成物、第7観点として、さらにセメント遅硬剤及びその他添加剤を含み、前記セメントに対して、前記シリカ粒子をシリカ固形分として0.01%~10%BWOCの割合で、前記塩水を30~60%BWOCの割合で、前記セメント遅硬剤を0.1~5%BWOCの割合で、及びその他の添加剤を0.001~10%BWOCの割合で、それぞれ含有するセメンチング組成物であって、前記その他の添加剤は、脱水調整剤、消泡剤、速硬剤、低比重骨材、高比重骨材、セメント分散剤、セメント強度安定剤、及び逸泥防止剤からなる群より選ばれた少なくとも1種の添加剤である、第1観点乃至第5観点のいずれか一つに記載のセメンチング組成物、
第8観点として、油田又はガス油田の掘削において、100℃以上300℃以下の高温・高圧環境下から石油又はガスを採掘するにあたり、地層とケーシングパイプとの空隙部を油井セメントで充填するためのセメンチング材料として、第1観点乃至第7観点のいずれ
か一つに記載のセメンチング組成物を用いることを特徴とする、セメンチング工法、及び第9観点として、第1観点乃至第7観点のいずれか一つに記載のセメンチング組成物を坑井中に導入する工程、及び
前記セメンチング組成物を凝結させる工程、を含む、セメンチング方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明のセメンチング組成物は、100℃以上、特に150℃以上300℃以下の高温油層における掘削時に使用したとき、強度低下の原因になるセメンチング組成物(セメントスラリー)からの遊離水の発生を抑制することができ、且つ、現場で塩水(特には海水)を使用する場合に優れた流動性を実現し、また施工不備(例えば、セメントがやせ細って地層との隙間が埋められず、ケーシングの固定が不十分になる)を抑制することができる。
従って、本発明のセメンチング組成物を用いることにより、高温環境下であっても、坑井仕上を安定して、生産性よくセメンチングを実施することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明はセメント、シリカ粒子、及び塩水を含み、油田及びガス油田に用いる塩水混練セメンチング用組成物を対象とする。
以下、本発明のセメンチング組成物に使用される各成分について詳述する。
【0011】
<シリカ粒子>
本発明で使用するシリカ粒子は、アルミニウム原子がシリカ(SiO)(質量)に対してAl換算で0.1~4.0質量%で含有されるシリカ粒子であり、好ましくはアルミニウム原子が同0.1~2.0質量%、更に好ましくは同0.1~1.5質量%の割合で含有されるシリカ粒子である。
上記シリカ粒子において、アルミニウム原子の含有形態は特に限定されず、シリカやケイ素原子と化学的な結合をしていてもよいし、また原子レベルで固溶体を形成していてもよい。
【0012】
本発明のセメンチング組成物に含まれるシリカ粒子は、水性シリカゾルに由来するシリカ粒子を用いることができ、セメンチング組成物の一成分として、水性シリカゾルの形態にて添加することができる。
水性シリカゾルは、水性溶媒を分散媒とし、コロイダルシリカ粒子を分散質とするコロイド分散系をいい、水ガラス(ケイ酸ナトリウム水溶液)等のケイ酸アルカリ水溶液を原料として公知の方法により製造することができる。
水ガラス(ケイ酸ナトリウム水溶液)を原料にして水性シリカゾルを製造する場合、水ガラスを陽イオン交換して活性ケイ酸を製造し、その活性ケイ酸を加熱することによりケイ酸の重合体を形成させ、水性媒体中でシリカ粒子に成長させることにより、水性シリカゾルを得ることができる。この製造工程において、活性ケイ酸が得られる段階、又はシリカ粒子が形成される段階でアルミニウム原子を含有する化合物を添加することにより、アルミニウム原子を含むシリカ粒子が形成される。このアルミニウム原子を含有する化合物は例えば、アルミン酸アルカリ(例えばアルミン酸ナトリウム)を用いることができる。
より具体的には、アルミン酸アルカリ水溶液を活性ケイ酸水溶液に添加し、あるいは、アルミン酸アルカリ水溶液をシリカゾルに添加し、得られた混合液を加熱することにより、アルミニウム原子を含むシリカ粒子が分散したシリカゾルを得ることができる。
このような方法にて得られたシリカ粒子(水性シリカゾル)は、シリカのネットワーク中のケイ素の一部がアルミニウム原子に置き換えられたアルミノシリケート構造を形成していると考えられる。該アルミニウム原子がプラスの電荷を有し、シリカ粒子に対してプラスの電荷を与えることとなるため、該シリカ粒子は塩水等のイオン成分を多く含む媒体中においても、凝集などが生じず、分散安定性が高い粒子となっていると考えられる。
本発明においてシリカ粒子として使用する水性シリカゾルにおけるシリカ(SiO)濃度は特に限定されないが、例えば5~55質量%とすることができる。
【0013】
本発明で使用するシリカ粒子の平均粒子径は、窒素吸着法により測定して得られる比表面積(BET(N)から算出された等価球換算粒子径)によって表される。また、シリカ粒子の平均粒子径は、動的光散乱法(DLS法)による粒子径によって表すこともできる。水性シリカゾルの形態にてシリカ粒子を用いる場合、分散質であるコロイダルシリカ粒子の平均粒子径をいう。
上記動的光散乱法(DLS法)による粒子径(以下、DLS平均粒子径と称する)は、2次粒子径(分散粒子径)の平均値を表しており、完全に分散している状態のDLS平均粒子径は、平均粒子径(窒素吸着法(BET法)により測定して得られる比表面積径であり、1次粒子径の平均値を表す)の2倍程度あると言われている。そして、DLS平均粒子径が大きくなるほど、例えば水性シリカゾル中のシリカ粒子が凝集状態になっていると判断できる。
【0014】
窒素吸着法により測定して得られる比表面積径(BET(N)から算出された等価球換算粒子径)D(nm)は、窒素吸着法で測定される比表面積S(m/g)から、D(nm)=2720/Sの式によって与えられる。
本発明で用いるシリカ粒子の比表面積径(BET(N)から算出された価球換算粒子径)は、好ましくは5~200nmであり、例えば10~100nm、又は10~80nm、又は10~70nmとすることができる。
【0015】
また、本発明で用いるシリカ粒子の動的光散乱法による粒子径は、好ましくは10~200nmであり、例えば10~100nm、又は10~80nm、又は10~70nmとすることができる。
【0016】
本発明で用いるシリカ粒子は、下記に示す塩水耐性試験の前後において平均粒子径の変化率が特定の範囲にあることが望ましい。
詳細には、塩分濃度3.6質量%、シリカ濃度1質量%に設定したシリカ粒子の塩水分散液を、20℃、1時間保管する塩水耐性試験において、(該試験後におけるシリカ粒子の動的光散乱法による平均粒子径)/(該試験前におけるシリカ粒子の動的光散乱法による平均粒子径)で表される比が1.0~100、好ましくは1.0~10、又は1.0~5.0、更に好ましくは1.0~2.0となるシリカ粒子を用いることが望ましい。
塩水耐性試験前後の粒子径の変化の割合が小さいシリカ粒子は、これを添加したセメンチング組成物において、流動性が優れるだけでなく、遊離水量を低く抑えることができる。
【0017】
<セメンチング用組成物>
本発明のセメンチング組成物(セメンチング用セメントスラリー)は、上述のようにセメント、シリカ粒子及び塩水を含む。本発明で使用するセメントとしては油井セメントが好ましい。
詳細には、本発明のセメンチング組成物は、セメントに対してシリカ粒子(例えば水性ゾルの形態)、シリカ固形分として0.1%~10%BWOC(BWOCは、セメントの乾燥固形分に基づく質量%(By Weight of Cement)を意味する)の割合で含有する。
【0018】
また本発明のセメンチング組成物は、前記セメントとシリカ粒子(水性シリカゾル)、塩水に加え、セメント遅硬剤、並びにその他の添加剤を含有していてもよい。このとき、各成分の配合量は、セメントに対して、前記シリカ粒子をシリカ固形分として0.01%~10%BWOCの割合で、塩水を30~60%BWOCの割合で、セメント遅硬剤を0
.1~5%BWOCの割合で、及びその他の添加剤を0.001~10%BWOCの割合で、それぞれ配合することができる。
また前記その他の添加剤としては、脱水調整剤、消泡剤、速硬剤、低比重骨材、高比重骨材、セメント分散剤、セメント強度安定剤、及び逸泥防止剤からなる群より選ばれた少なくとも1種類の添加剤を挙げることができる。
【0019】
本発明で使用するセメントは、上述したように好ましくは油井セメントであり、前記油井セメントとしては、API(American Petroleum Institute)の規格「APISPEC 10A Specification for Cements and Materials for Well」のクラスAセメント~クラスHセメントのいずれも使用できる。中でも、クラスGセメント及びクラスHセメントは、添加剤により成分調整が容易であり、広範囲の深度や温度に使用できるためより好ましい。
【0020】
前記セメント遅硬剤は、作業終了までのセメンチング組成物の適正な流動性を保ち、シックニングタイムを調整するために使用される。
セメント遅硬剤は、主成分としてリグニンスルホン酸塩類、ナフタレンスルホン酸塩類、ホウ酸塩類等を含む。
【0021】
前記脱水調整剤は、水に鋭敏な地層の保護やスラリー(セメンチング組成物)の早期脱水防止などを目的として使用することができ、主成分として有機高分子ポリマー、ビニルアミドビニルスルホン酸共重合物等を含む。
前記消泡剤は、主成分としてシリコン系化合物、高級アルコール等を含む。
前記低比重骨材は、逸水層や低圧層がある場合にセメンチング組成物の比重を下げることなどを目的として使用することができ、主成分としてベントナイト、ギルソナイト、珪藻土、パーライト、中空パーライト中空粒子、フライアッシュ中空粒子、アルミナケイ酸ガラス中空粒子、ホウケイ酸ソーダ中空粒子、アルミナ中空粒子、又はカーボン中空粒子等を含む。
前記高比重骨材は、高圧層抑圧泥水と置換効率を良好にするためにセメンチング組成物の比重を上げることなどを目的として使用することができ、主成分として硫酸バリウム、ヘマタイト、又はイルメナイト等を含む。
また前記セメント分散剤は、セメンチング組成物の粘性を下げ、泥水との置換効率を高めることなどを目的として使用することができ、主成分としてナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリアクリル酸縮合物、又はスルホン化メラミン縮合物等を含む。
前記セメント強度安定剤は、主成分としてフライアッシュ、ケイ石粉等を含む。
前記逸泥防止剤は、逸水防止に使用され、セメントの性質に影響を与えない不活性粒状のものが挙げられ主成分としてクルミの殻、ヒル石、ギルソナイト、雲母、セロハン屑等を含む。
そして前記(セメント)速硬剤は、初期強度や硬化待ち時間の短縮等を目的として使用され、主成分として塩化カルシウム、水ガラス、石膏等を含む。
【0022】
また本発明のセメンチング組成物には、上記のセメント、シリカ粒子(水性シリカゾル)、セメント遅硬剤、並びにその他の添加剤に加えて、一般構造用のセメント組成物やコンクリート組成物に使用する各種セメントや骨材、これらセメント組成物等に使用されるその他添加剤を含有していてもよい。
例えば従来慣用の一般構造用のセメントとして、ポルトランドセメント(例えば普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、低熱・中庸熱ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント等)、各種混合セメント(高炉セメント、シリカセメント、フライアッシュセメント等)、白色ポルトランドセメント、アルミナセメント、超速硬セメント(1クリンカー速硬性セメント、2クリンカー速
硬性セメント、リン酸マグネシウムセメント)、グラウト用セメント、低発熱セメント(低発熱型高炉セメント、フライアッシュ混合低発熱型高炉セメント、ビーライト高含有セメント)、超高強度セメント、セメント系固化材、エコセメント(都市ごみ焼却灰、下水汚泥焼却灰の一種以上を原料として製造されたセメント)などを使用してもよく、さらに、混和材として高炉スラグ、フライアッシュ、シンダーアッシュ、クリンカーアッシュ、ハスクアッシュ、シリカヒューム、シリカ粉末、石灰石粉末等の微粉体や石膏を添加してもよい。
また、骨材としては、砂利、砕石、水砕スラグ、再生骨材等以外に、珪石質、粘土質、ジルコン質、ハイアルミナ質、炭化珪素質、黒鉛質、クロム質、クロマグ質、マグネシア質等の耐火骨材が使用可能である。
セメント組成物等に使用されるその他添加剤としては、高性能AE減水剤、高性能減水剤、AE減水剤、減水剤、空気連行剤(AE剤)、起泡剤、分離低減剤、増粘剤、収縮低減剤、養生剤、撥水剤等など、公知のセメント・コンクリート添加剤を配合することができる。
【0023】
<塩水>
本発明のセメンチング組成物は、塩水として、塩分を例えば0.1~4.0質量%含有する塩水を用いることができる。塩水は塩分含有陸水や、海水を用いることができる。
例えば海水として水分96.5~97質量%と塩分とを含み、塩分中にアルカリ金属イオンとしてナトリウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、カリウムイオン等を含み、陰イオンとして塩素イオン、硫酸イオン等を含むものを使用することができる。これらの塩分(合計100質量%)は、例えば塩化ナトリウム78質量%、塩化マグネシウム9.6質量%、硫酸マグネシウム6.0質量%、硫酸カルシウム4.0質量%、塩化カリウム2.0質量%として含まれる。
【0024】
<セメンチング工法>
本発明は、前述のセメンチング組成物を用いるセメンチング工法も対象とする。
本発明のセメンチング工法は、油田又はガス油田の掘削において、100℃以上、特に150℃以上300℃以下の高温・高圧環境下から石油又はガスを採掘するにあたり、地層とケーシングパイプとの空隙部を油井セメントで充填するためのセメンチング材料として、前述の本発明に係るセメンチング組成物を用いることを特徴とする。
【0025】
<セメンチング方法>
本発明はまた、前述のセメンチング組成物を坑井中に導入する工程、及び前記セメンチング組成物を凝結させる工程を含む、セメンチング方法も対象とする。
【0026】
本発明に係るシリカ粒子を含むセメンチング組成物は、該組成物を100℃以上、特に150℃以上300℃以下の環境下で使用した場合において、該組成物が施工箇所に到達するまで優れた流動性を有し、凝集や離水が抑制され高い安定性を有し、施工箇所へ到達した後は硬化により硬度の高い硬化物が得られることが期待できる。
【実施例0027】
以下、実施例、及び比較例に基づいてさらに詳述するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0028】
[測定装置・方法]
評価に用いた水性シリカゾルの分析(シリカ固形分濃度、DLS法による平均粒子径、BET法による比表面積径、Al/SiO比、塩水耐性評価)は、以下の手順及び装置を用いて行なった。
【0029】
(シリカ固形分濃度)
水素型陽イオン交換樹脂で水性シリカゾルのアルカリ分を除いた後、乾燥したものの1000℃焼成残分から、シリカ固形分濃度を求めた。なお後述するように、この“シリカ固形分濃度”の“シリカ固形分”には、シリカ(SiO)だけでなく、水性シリカゾルのシリカ粒子に含まれるアルミニウム原子やナトリウム原子が含まれる。
【0030】
(DLS法による平均粒子径(動的光散乱法による平均粒子径):DLS平均粒子径、DLS粒子径とも称する)
動的光散乱法粒子径測定装置 ゼーターサイザー ナノ(スペクトリス(株)マルバーン事業部製)を用い、DLS平均粒子径を求めた。
【0031】
(BET法による比表面積径:BET法による平均一次粒子径、BET粒子径とも称する)
陽イオン交換樹脂で水性シリカゾルにおける水溶性の陽イオン分を除去した後、290℃乾燥したものを測定試料とした。比表面積測定装置 Monosorb(カンタクローム・インスツルメンツ・ジャパン合同会社製)を用い、窒素吸着法(BET法)により測定試料の比表面積値を測定し、得られた比表面積値より比表面積径を求めた。
【0032】
(シリカ粒子のAl/SiO質量比)
硝酸水溶液に水性シリカゾルを溶解させた後、NaO量を原子吸光分光光度計(島津製作所(株)製)にて、Al量をICP発光分析装置(パーキンエルマー(株)製)にて、それぞれ測定した。SiO量は、前述のシリカ固形分濃度よりシリカ固形分量を算出し、ここから上記NaO量と上記Al量を除いた量とした。得られたSiO量とAl量より、Al/SiOの質量比(%)を[(Al量/SiO量)×100]にて算出した。
【0033】
(塩水耐性評価(DLS平均粒子径変化率))
水性シリカゾルをシリカ固形分濃度が1.0質量%になるように塩水(マリンアートSF-1 試験研究用・人工海水、富田製薬(株)製)で希釈し、塩分濃度を3.6質量%に調整して、20℃で1時間撹拌した(20℃、1時間保管する塩水耐性試験)。試験後のサンプルについて、DLS法による平均粒子径測定を実施し、塩水耐性試験の実施による、塩水分散液中のシリカ粒子のDLS法による平均粒子径の変化率を、(試験後におけるシリカ粒子の動的光散乱法による平均粒子径)/(試験前のシリカ粒子の動的光散乱法による平均粒子径)にて算出した。
【0034】
[評価に供したシリカゾルA~E]
日産化学(株)製シリカゾルA:BET法による比表面積径(平均一次粒子径)11.5nm、シリカ固形分濃度20.1質量%、Al/SiO質量比=0.23質量%、DLS法による平均粒子径19.6nm
日産化学(株)製シリカゾルB:BET法による比表面積径(平均一次粒子径)11.5nm、シリカ固形分濃度20.4質量%、Al/SiO質量比=0.88質量%、DLS法による平均粒子径21.5nm
日産化学(株)製シリカゾルC:BET法による比表面積径(平均一次粒子径)22.1nm、シリカ固形分濃度40.4質量%、Al/SiO質量比=0.92質量%、DLS法による平均粒子径40.7nm
日産化学(株)製シリカゾルD:BET法による比表面積径(平均一次粒子径)11.6nm、シリカ固形分濃度19.34質量%、Al/SiO質量比=1.70質量%、DLS法による平均粒子径23.3nm
日産化学(株)製シリカゾルE:BET法による比表面積径(平均一次粒子径)22.5nm、シリカ固形分濃度31.0質量%、Al/SiO質量比=1.70質量
%、DLS法による平均粒子径40.8nm
【0035】
[セメンチング組成物の調製]
セメンチング組成物の調製は、API規格(アメリカ石油協会が定めた石油に関する規格)10B-2に準拠して、専用の装置及び表1に示す材料及び仕込量で行った。即ち、専用ミキサーに塩水(マリンアートSF-1、試験研究用・人工海水、富田製薬(株)製、塩分濃度が3.6質量%)を投入し、撹拌翼を4,000rpmで回転させながら、90秒間で表1に示す配合量にて、市販の脱水調整剤、水性シリカゾルA~E、市販の遅硬剤及び消泡剤、クラスGセメント(宇部三菱セメント(株)製)、並びにシリカフラワー(シリカパウダーであり粒子径は2~7.5μm、(有)竹折砿業所製)を投入した後、撹拌翼の回転数を12,000rpmに上げ、35秒間撹拌してセメンチング組成物(セメントスラリー)を調製した。
尚、水性シリカゾルはシリカゾルの性能を評価するため、セメンチング組成物1000gあたりの表面積量が275mになるように添加した。また、比較例として、水性シリカゾルを添加していないセメンチング組成物を調製した。
調製した各セメンチング組成物について、下記手順によりセメンチング組成物の流動性を評価するとともに、さらにAPI規格に準拠して遊離水量(フリーウォーター)について評価した。
【0036】
1.セメンチング組成物の流動性評価
調製したセメンチング組成物150ccを分取し、300mL撹拌オートクレーブ(耐圧硝子工業(株)製)に投入後、1時間かけて180℃まで昇温し、同温度で30分間保持してコンディショニング(所定温度での養生)を行った。
30分間の高温保持後、30分間かけて88℃までセメンチング組成物を冷却した後にセメンチング組成物を装置から取り出した時、流動性のある未固化セメンチング組成物の量を確認し、以下の評価基準にて評価した。なお未固化セメンチング組成物の量とは、オートクレーブ内に投入したセメンチング組成物に対する体積割合である。
《セメンチング組成物の流動性評価基準》
A:流動性のある未固化セメンチング組成物が8割以上(大半のセメンチング組成物が流動性を保っている状態)
B:流動性のある未固化セメンチング組成物が8割未満(一部のセメンチング組成物が固化している状態)
【0037】
2.遊離水量(フリーウォーター)の測定
前記<1.セメンチング組成物の流動性評価>に記載した方法でセメンチング組成物をコンディショニングした後、30分間かけて88℃までセメンチング組成物を冷却した。冷却後、セメンチング組成物を装置から取り出し、そのセメンチング組成物100ccを対象容量100ccの樹脂製メスシリンダーに投入し、該メスシリンダーを45度に傾けて、2時間静置した。静置後2時間の時点でセメンチング組成物(スラリー)上部に遊離した水をスポイトで採取し、その量(100ccのセメンチング組成物に対する体積%)を遊離水量とした。
なおAPI規格には、遊離水量の数値範囲に関する特段の規定はないものの、2体積%以下が好適とされる。
【0038】
表1に、実施例1~5及び比較例1のセメンチング組成物の処方を、また表2に、実施例1~5で使用した水性シリカゾルA~Eのシリカ粒子の物性を、そして表3に、各セメンチング組成物の評価(流動性評価及び遊離水量の測定)結果を夫々示す。
なお表1のセメンチング組成物における各成分の配合量の単位を%BWOCで示し、表1中、“-”は成分未添加であることを示す。
【0039】
【表1】
【0040】
【表2】
【0041】
【表3】
【0042】
表1~表3に示すように、Al/SiO質量比が0.23質量%以上1.70質量%以下のシリカ粒子を含有するシリカゾルA~Eを使用した実施例1~実施例5は、何れも流動性に優れ、2体積%以下の遊離水量を示した。本発明に係るシリカ粒子におけるAl/SiO質量比は0.1~4.0質量%であるが、好ましくは0.1~2.0質量%、更に好ましくは0.1~1.5質量%とすることにより、遊離水量を1.0体積%未満にする事が可能であり、より好ましい態様となることが確認された。
特に塩水耐性試験(20℃、1時間保管)後のDLS平均粒子径と試験前のDLS平均粒子径との比で表される変化率が2.0未満のシリカゾルA、B及びCを使用した実施例1、2及び3は、何れも流動性に優れ、0.80~0.40体積%の非常に少ない遊離水量を示した。
なお、水性シリカゾルを使用しない場合(比較例1)、セメント粒子乃至その他のセメント添加剤が塩水使用環境かつ高温環境下にて硬化反応が不均一に進み、5.0体積%の遊離水を示すことが確認され、セメンチング用の組成物としては不適であった。
【0043】
以上の結果より、0.1~4.0質量%のAl/SiO質量比を有するシリカ粒子の添加により、塩水使用環境かつ高温環境下でセメントスラリーからの遊離水の発生を抑制できるセメンチング組成物となることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、油田及びガス油田に用いられ、100℃以上、特に150℃以上もの高温環境下においてもセメントスラリーからの遊離水の発生を抑制できるセメンチング組成物を提供することであり、更にセメンチング組成物を混練する際に塩水を使用した場合であっても、地下の充填箇所に到達するまでの間において十分な流動性を確保し、遊離水の発生を抑制してなる安定性を有するセメンチング組成物を提供する。