(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025009315
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】粒子線照射システム
(51)【国際特許分類】
A61N 5/10 20060101AFI20250110BHJP
【FI】
A61N5/10 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023112232
(22)【出願日】2023-07-07
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】龍頭 啓充
【テーマコード(参考)】
4C082
【Fターム(参考)】
4C082AA01
4C082AC04
4C082AE01
4C082AT00
4C082AT04
(57)【要約】
【課題】都市部などの限られた敷地に粒子線照射システムを効率よく設けることができ、かつ建設コストの抑制に寄与する。
【解決手段】粒子線照射システム1は、第1建屋21と、第1建屋21とは異なる第2建屋22と、第1建屋21に設けられ、荷電粒子ビームBを加速する加速器4と、加速器4で加速された荷電粒子ビームBを導くビーム輸送ライン5,6と、第2建屋22に設けられ、ビーム輸送ライン5,6により導かれた荷電粒子ビームBを照射対象Pに照射する照射装置51とを備える。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1建屋と、
前記第1建屋とは異なる第2建屋と、
前記第1建屋に設けられ、荷電粒子ビームを加速する加速器と、
前記加速器で加速された前記荷電粒子ビームを導くビーム輸送ラインと、
前記第2建屋に設けられ、前記ビーム輸送ラインにより導かれた前記荷電粒子ビームを照射対象に照射する照射装置と、
を備える、
粒子線照射システム。
【請求項2】
道路用敷地を挟んで隣接する2つの建屋用敷地の一方に前記第1建屋が建設され、他方に前記第2建屋が建設されている、
請求項1に記載の粒子線照射システム。
【請求項3】
前記ビーム輸送ラインにおいて、前記第1建屋と前記第2建屋とを繋いでいる部分が直線状になっている、
請求項1または請求項2に記載の粒子線照射システム。
【請求項4】
前記ビーム輸送ラインにおいて、前記第1建屋と前記第2建屋とを繋いでいる部分が地下に設けられている、
請求項1または請求項2に記載の粒子線照射システム。
【請求項5】
前記加速器が設けられる加速器室の床面と前記照射装置が設けられる照射室の床面の高さが異なる、
請求項1または請求項2に記載の粒子線照射システム。
【請求項6】
前記加速器が設けられる加速器室の階層と前記照射装置が設けられる照射室の階層が異なる、
請求項1または請求項2に記載の粒子線照射システム。
【請求項7】
前記照射装置は、前記照射対象が配置されるアイソセンタに向かって前記荷電粒子ビームを出射する角度が固定され、水平方向以外の角度で前記荷電粒子ビームを出射する固定型照射装置である、
請求項1または請求項2に記載の粒子線照射システム。
【請求項8】
前記照射装置は、前記照射対象が配置されるアイソセンタを中心として前記アイソセンタから等距離の位置を全周に亘って移動し、前記アイソセンタに対する前記荷電粒子ビームの照射方向を変更可能な照射ノズルを備える、
請求項1または請求項2に記載の粒子線照射システム。
【請求項9】
前記照射装置は、前記照射対象が配置されるアイソセンタを中心として前記アイソセンタから等距離の位置を周方向に移動し、この移動する範囲が240度以下であり、前記アイソセンタに対する前記荷電粒子ビームの照射方向を変更可能な照射ノズルを備える、
請求項1または請求項2に記載の粒子線照射システム。
【請求項10】
前記照射装置は、前記照射対象が配置されるアイソセンタを中心として周方向に延びるスリットが形成され、前記スリットから前記アイソセンタに向かって任意の角度で前記荷電粒子ビームを出射するスリット型照射装置である、
請求項1または請求項2に記載の粒子線照射システム。
【請求項11】
前記照射装置で前記荷電粒子ビームの軌道を偏向しないときの基準軌道が水平方向から傾くように、前記照射装置が傾けられた状態で据え付けられている、
請求項10に記載の粒子線照射システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、粒子線照射システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、放射線治療用の回転ガントリなどの照射装置を備えた粒子線治療設備がある。この粒子線治療設備を都市部などの限られた敷地に設けるために、1つの建屋の内部で、粒子加速器が設けられる階層と照射装置が設けられる階層を、上階と下階に分ける技術が知られている。しかし、基礎部分である地面から離れた上階に加速器または回転ガントリなどの大型な装置を設けようとすると、建屋を強固に建設する必要がある。さらに、上階と下階を繋ぐビーム輸送ラインの形状が、多くの屈曲部を有する複雑な形状となり、多数の偏向電磁石を設けなければならない。そのため、建設コストが嵩んでしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5437527号公報
【特許文献2】特開2019-180654号公報
【特許文献3】特開2020-779号公報
【特許文献4】特開2021-153759号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、都市部などの限られた敷地に粒子線照射システムを効率よく設けることができ、かつ建設コストの抑制に寄与することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の実施形態に係る粒子線照射システムは、第1建屋と、前記第1建屋とは異なる第2建屋と、前記第1建屋に設けられ、荷電粒子ビームを加速する加速器と、前記加速器で加速された前記荷電粒子ビームを導くビーム輸送ラインと、前記第2建屋に設けられ、前記ビーム輸送ラインにより導かれた前記荷電粒子ビームを照射対象に照射する照射装置と、を備える。
【発明の効果】
【0006】
本発明の実施形態により、都市部などの限られた敷地に粒子線照射システムを効率よく設けることができ、かつ建設コストの抑制に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】第1実施形態の粒子線照射システムを示す平面図。
【
図2】第1実施形態の粒子線照射システムを示す側面図。
【
図3】変形例の照射装置としてのハーフガントリを示す側面図。
【
図4】第2実施形態の粒子線照射システムを示す側面図。
【
図5】第3実施形態の粒子線照射システムを示す側面図。
【
図6】第3実施形態の照射装置としてのスリット型照射装置を示す側面図。
【
図7】第3実施形態の照射装置としてのスリット型照射装置を示す正面図。
【
図8】第3実施形態のビーム輸送ラインを示す側面図。
【
図10】第4実施形態の粒子線照射システムを示す側面図。
【
図11】第5実施形態の粒子線照射システムを示す側面図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(第1実施形態)
以下、図面を参照しながら、粒子線照射システムの実施形態について詳細に説明する。まず、第1実施形態について
図1から
図2を用いて説明する。
【0009】
図1の符号1は、第1実施形態の粒子線照射システムである。この粒子線照射システム1は、治療用放射線としての炭素イオンなどの荷電粒子ビームを照射対象としての患者Pの病巣組織(がん)に照射して治療を行う所謂粒子線がん治療装置である。
【0010】
粒子線照射システム1を用いた放射線治療技術は、重粒子線がん治療技術などとも称される。この技術は、がん病巣(患部)を炭素イオンがピンポイントで狙い撃ちし、がん病巣にダメージを与えながら、正常細胞へのダメージを最小限に抑えることが可能とされる。なお、荷電粒子ビームとは、放射線のなかでも電子より重いものと定義され、陽子線、重粒子線などが含まれる。このうち重粒子線は、ヘリウム原子より重いものと定義される。
【0011】
なお、本実施形態は、炭素が用いられた荷電粒子ビームを例示しているが、その他の態様でもよい。例えば、ヘリウム、酸素、またはネオンが用いられた荷電粒子ビームでもよい。
【0012】
重粒子線を用いるがん治療では、従来のエックス線、ガンマ線、陽子線を用いたがん治療と比較してがん病巣を殺傷する能力が高く、患者Pの体の表面では放射線量が弱く、がん病巣において放射線量がピークになる特性を有している。そのため、照射回数と副作用を少なくすることができ、治療期間をより短くすることができる。
【0013】
例えば、荷電粒子ビームは、患者Pの体内を通過する際に運動エネルギーを失って速度が低下するとともに、速度の二乗にほぼ反比例する抵抗を受け、或る一定の速度まで低下すると急激に停止する。この荷電粒子ビームの停止点はブラッグピークと呼ばれ、高エネルギーが放出される。粒子線照射システム1は、このブラッグピークを患者Pの病巣組織(患部)の位置に合わせることにより、正常組織のダメージを抑えつつ、病巣組織のみを死滅させることができる。
【0014】
粒子線照射システム1は、イオン発生器2と線形加速器3と円形加速器4とメイン輸送ライン5とサブ輸送ライン6と回転ガントリ7とを備える。なお、メイン輸送ライン5とサブ輸送ライン6とでビーム輸送ラインが構成されている。
【0015】
イオン発生器2は、荷電粒子である炭素イオンのイオン源を有し、この炭素イオンによって荷電粒子ビームが生成される。線形加速器3は、平面視で直線状を成し、イオン発生器2で発生させたイオンを加速して荷電粒子ビームとする。そして、線形加速器3は、この荷電粒子ビームを円形加速器4に導入させる。
【0016】
円形加速器4は、平面視でリング状を成し、荷電粒子ビームをさらに加速する。ここで、荷電粒子ビームは、円形加速器4を約百万回周回する間に光速の約70%まで加速される。そして、円形加速器4で加速された荷電粒子ビームが、メイン輸送ライン5とサブ輸送ライン6により回転ガントリ7まで輸送される。この回転ガントリ7の内部には、荷電粒子ビームが照射される患者Pが配置される。回転ガントリ7の内部には、荷電粒子ビームが最も集中して照射される位置であるアイソセンタCが設定されており、このアイソセンタCに患者Pの患部が配置される。
【0017】
なお、イオン発生器2と線形加速器3と円形加速器4とメイン輸送ライン5とサブ輸送ライン6は、内部が真空にされ、一体的に延びる真空ダクト8(ビームパイプ)を備える。この真空ダクト8の内部を荷電粒子ビームが進行する。この真空ダクト8によって、荷電粒子ビームをイオン発生器2から回転ガントリ7まで導く輸送経路が形成されている。つまり、真空ダクト8は、荷電粒子ビームを通過させるために、充分な真空度を有する密閉された連続空間である。
【0018】
円形加速器4は、高周波加速空洞9と偏向電磁石10と収束電磁石11とを備える。高周波加速空洞9は、磁場と加速電場の周波数を制御することで炭素イオンを加速するものである。
【0019】
メイン輸送ライン5は、偏向電磁石12と収束電磁石13とを備える。メイン輸送ライン5は、円形加速器4から延びている。メイン輸送ライン5の直線状をなす部分には、複数のサブ輸送ライン6が連結されている。
【0020】
それぞれのサブ輸送ライン6は、偏向電磁石14と収束電磁石15とを備える。本実施形態では、1本のメイン輸送ライン5に対して2本のサブ輸送ライン6が連結されている。それぞれのサブ輸送ライン6は、回転ガントリ7まで延びている。
【0021】
つまり、メイン輸送ライン5と複数のサブ輸送ライン6から成るビーム輸送ラインは、円形加速器4で加速された荷電粒子ビームを回転ガントリ7まで導くものである。
【0022】
詳細な図示は省略するが、回転ガントリ7は、円筒形状をなす装置である。この回転ガントリ7は、その円筒の軸が水平方向を向くように配置される。この水平軸を中心として回転ガントリ7が全周に亘って回転可能となっている。この回転ガントリ7が、第1実施形態の照射装置となっている。
【0023】
この回転ガントリ7の前端縁と後端縁には、エンドリング(図示略)が固定されている。これらのエンドリングの下方位置には、エンドリングを回転可能な状態で支持し、かつ駆動モータを備える回転駆動部(図示略)が設けられている。これらの回転駆動部は、躯体に支持されている。回転駆動部の駆動力は、エンドリングを介して回転ガントリ7に与えられ、回転ガントリ7が水平軸周りに回転される。
【0024】
また、回転ガントリ7は、偏向電磁石16と収束電磁石17と照射ノズル18とを備える。ここで、照射ノズル18と偏向電磁石16と収束電磁石17が、回転ガントリ7に支持され、回転ガントリ7とともに回転可能となっている。
【0025】
回転ガントリ7には、サブ輸送ライン6から続く真空ダクト8が設けられている。真空ダクト8は、まず、回転ガントリ7の端部からその水平軸に沿って内部に導かれる。そして、真空ダクト8は、回転ガントリ7の外周面よりも外側に向けて一旦延びた後、再び回転ガントリ7の内側に向けて延びる。この真空ダクト8の先端部が配置される照射ノズル18は、患者Pに近接する位置まで延びる。
【0026】
なお、真空ダクト8において、回転ガントリ7の水平軸に沿う部分には、所定の回転機構(図示略)が設けられている。真空ダクト8は、この回転機構よりも外側の部分が静止した状態であり、この回転機構よりも内側の部分が回転ガントリ7の回転とともに回転するようになっている。
【0027】
照射ノズル18は、真空ダクト8の先端部に設けられ、偏向電磁石16と収束電磁石17により導かれた荷電粒子ビームを患者Pに向けて照射する。この照射ノズル18は、回転ガントリ7の内周面に固定されている。なお、荷電粒子ビームは、照射ノズル18から水平軸に対して直交する方向に照射される。
【0028】
患者Pは水平軸の位置に配置され、回転ガントリ7を回転させることで、静止している患者Pを中心として照射ノズル18を回転させることができる。例えば、患者P(水平軸)を中心として照射ノズル18を、回転ガントリ7の周方向において、一方と他方に180度ずつ回転し、合計で360度の任意の角度に回転させることができる。そして、患者Pの周囲のいずれの方向からも荷電粒子ビームを照射させることができる。つまり、回転ガントリ7は、サブ輸送ライン6により導かれた荷電粒子ビームの患者Pに対する照射方向を変更可能な装置である。そのため、患者Pの負担を軽減しつつ、最適な方向から荷電粒子ビームを正確に患部に照射することができる。
【0029】
照射ノズル18は、照射対象である患者Pが配置されるアイソセンタCを中心として、このアイソセンタCから等距離の位置を全周に亘って移動し、アイソセンタCに対する荷電粒子ビームの照射方向を変更可能となっている。
【0030】
詳細な図示は省略するが、照射ノズル18は、走査電磁石、ビームモニタ、エネルギー変調器などの機器を備える。走査電磁石は、流れる電流量と電流の向きを調整することで、照射ノズル18から出射される荷電粒子ビームの進行方向を微調整し、比較的狭い範囲で荷電粒子ビームを走査するものである。ビームモニタは、荷電粒子ビームを監視し、ビームの線量と照射位置と平坦度を計測する。エネルギー変調器は、荷電粒子ビームのエネルギーを調整して荷電粒子ビームが患者Pの体内に到達するときの深さを調整する。このエネルギー変調器は、例えば、レンジモジュレータ、散乱体、リッジフィルタ、コリメータ、ボーラス、アプリケータ、または、これらの組み合わせである。
【0031】
なお、前述した偏向電磁石10,12,14,16と収束電磁石11,13,15,17は、荷電粒子ビームの輸送経路を形成する磁場を発生させる電磁石であり、真空ダクト8の外周を囲むように配置されている。ここで、偏向電磁石10,12,14,16は、真空ダクト8に沿って荷電粒子ビームの進行方向を変更するものである。また、収束電磁石11,13,15,17は、荷電粒子ビームの収束および発散を制御するものである。なお、収束電磁石11,13,15,17は、四極電磁石または六極電磁石などで構成される。
【0032】
なお、本実施形態の偏向電磁石10,12,14,16と収束電磁石11,13,15,17は、超電導電磁石で構成されてもよい。
【0033】
図1から
図2に示すように、第1実施形態の粒子線照射システム1は、第1建屋21と、この第1建屋21とは異なる第2建屋22と、これらを接続する接続部23とを備える。第1建屋21と第2建屋22は、階層構造の建築物となっている。例えば、第1建屋21と第2建屋22のそれぞれが、地面Gよりも高い位置に床面Fが構築された地上1階と、地面Gよりも低い位置に床面Fが構築された地下1階を備える。なお、第1建屋21と第2建屋22のそれぞれの地下1階の床面Fは、同じ位置になるように構築されている。
【0034】
第1建屋21の地下1階には、線形加速器3と円形加速器4などの装置が設けられる加速器室24が形成されている。また、第2建屋22の地下1階には、回転ガントリ7などの装置が設けられる照射室25が形成されている。
【0035】
図1から
図2の例では、理解を助けるために簡略化して図示しているが、実際の回転ガントリ7は、大きな装置である。そのため、円形加速器4などが設けられる加速器室24と比較して、回転ガントリ7が設けられる照射室25は、床面Fが低く、天井も高く形成されている場合がある。
【0036】
さらに、第1建屋21には、加速器室24以外の領域も形成されており、例えば、線形加速器3と円形加速器4を制御するスタッフが居る加速器制御室26などが形成されている。第2建屋22には、照射室25以外の領域も形成されており、例えば、回転ガントリ7を制御するスタッフが居る照射制御室27などが形成されている。
【0037】
第1建屋21と第2建屋22とは、地下に建設された接続部23を介して接続されている。メイン輸送ライン5は、接続部23を介して加速器室24から照射室25まで延びている。なお、特に図示はしないが、第1建屋21と第2建屋22との間には、接続部23とは別に、人が第1建屋21と第2建屋22との間を行き来するための通路が設けられてもよい。
【0038】
第1建屋21と第2建屋22の内部は、加速器室24と照射室25が設けられる放射線管理区域とそれ以外の通常区域とに分けられる。放射線管理区域とは、人が放射線の不必要な被ばくを防ぐため、放射線量が一定以上ある場所を明確に区分けし、人の不必要な立ち入りを防止するために設けられる区域である。この放射線管理区域の構築は、法令により取り決められている。なお、接続部23も放射線管理区域の一部である。
【0039】
線形加速器3と円形加速器4とメイン輸送ライン5とサブ輸送ライン6と回転ガントリ7は、運転中に放射線を放射する装置であるため、放射線管理区域に設けられている。放射線管理区域は、放射線を遮蔽する遮蔽壁で仕切られている。一方、通常区域は、放射線の遮蔽を想定していない通常壁で仕切られている。
【0040】
一般に、遮蔽壁の厚さTは、1~2m以上となっている。なお、遮蔽壁の内部に鉛または鉄などの金属板が設けられている場合には、遮蔽壁の厚さTが1m未満でもよい。ここでいう遮蔽壁は、放射線管理区域の天井と床とを含む。
【0041】
粒子線照射システム1の設計者は、その設計時にビーム輸送ラインの直線状の部分を第1建屋21と第2建屋22とを繋いでいる位置に設けるようにする。例えば、
図1に示すように、メイン輸送ライン5において、第1建屋21と第2建屋22とを繋いでいる部分が直線状になっている。つまり、接続部23に配置されるメイン輸送ライン5の一部が、直線状である。このようにすれば、メイン輸送ライン5の周囲に設けられる放射線の遮蔽壁を薄くすることができ、建設コストを抑制することができる。
【0042】
また、
図2に示すように、接続部23は地下に設けられている。つまり、メイン輸送ライン5において、第1建屋21と第2建屋22とを繋いでいる部分が地下に設けられている。このようにすれば、メイン輸送ライン5から放射線が屋外に漏れることがない。
【0043】
第1実施形態では、道路用敷地30を挟んで隣接する2つの建屋用敷地31,32の一方に第1建屋21が建設され、他方に第2建屋22が建設されている。このようにすれば、人または車両が通行する道路を維持したまま粒子線照射システム1を建設することができる。例えば、都市部などの土地の取得が限られている場所に粒子線照射システム1を建設することができる。なお、ここでいう道路用敷地30は、歩道と車道と鉄道(線路)と水路(河川、運河)に用いる敷地を含む。道路は、屋外の道路、トンネル、地下道を含む。
【0044】
つぎに、変形例について
図3を用いて説明する。前述した実施形態では、照射装置として回転ガントリ7を例示したが、本変形例では、照射装置として半回転型の所謂ハーフガントリ40を例示する。なお、
図3の紙面右側をハーフガントリ40の正面側(前方側)として説明する。
【0045】
ハーフガントリ40は、アイソセンタCに対する荷電粒子ビームBの照射方向を変更可能な照射ノズル18を備える。この照射ノズル18は、照射対象としての患者Pが配置されるアイソセンタCを中心として、アイソセンタCから等距離の位置を周方向に移動する。この移動する範囲は、240度以下である。つまり、ハーフガントリ40は、その回転範囲が全周の3分の2以下(240度以下)の照射装置を示す。このハーフガントリ40は、全周回転型のガントリと比較して小型となっている。
【0046】
本変形例のハーフガントリ40の照射ノズル18は、アイソセンタCを中心として、その周方向に移動する範囲が180度に設定されている。例えば、荷電粒子ビームBを水平方向に照射するときの照射ノズル18の位置を0度とした場合、+90度から-90度の範囲に亘って照射ノズル18が移動可能となっている。周方向の一方と他方に90度ずつ回転し、合計で180度の任意の角度に回転させることができる。例えば、照射ノズル18は、ハーフガントリ40の筐体41に設けられた側面視でC字形状をなすC字レール42に沿って移動する。
【0047】
照射ノズル18が移動する範囲内であれば、アイソセンタCに対する荷電粒子ビームBの照射方向が変更可能となっている。例えば、照射ノズル18が+90度の位置にあるときに、荷電粒子ビームBが患者Pの直上から照射される。また、照射ノズル18が-90度の位置にあるときに、荷電粒子ビームBが患者Pの直下から照射される。
【0048】
患者Pは、移動載置台43に載置される。この移動載置台43は、移動アーム44により支持され、患者Pを載置した状態で移動し、患者Pの患部をアイソセンタCに配置する。この移動載置台43の移動によって患者Pを荷電粒子ビームBの照射位置に移動させて位置合わせを行うことができる。そのため、患者Pの病巣組織に最適な精度で荷電粒子ビームBを照射することができる。
【0049】
移動載置台43は、ハーフガントリ40の開いている部分から患者Pを進入させてアイソセンタCに配置することができる。例えば、ハーフガントリ40の正面の方向(
図3の矢印Dの方向)から、患者Pを載せた移動載置台43を進入させることができる。このようにすれば、患者Pを適切な方向から進入させてアイソセンタCに配置することができる。
【0050】
第1実施形態では、線形加速器3と円形加速器4などの装置が設けられる第1建屋21と、回転ガントリ7とハーフガントリ40などの装置が設けられる第2建屋22とが分けられて建設されている。このようにすれば、都市部などの限られた敷地に粒子線照射システム1を効率よく設けることができ、かつ建設コストの抑制に寄与することができる。
【0051】
(第2実施形態)
つぎに、第2実施形態について
図4を用いて説明する。なお、前述した実施形態に示される構成部分と同一構成部分については同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0052】
第2実施形態では、照射装置として固定型照射装置50を例示する。固定型照射装置50は、照射対象としての患者Pが配置されるアイソセンタCに向かって荷電粒子ビームを出射する角度が固定されているものである。例えば、水平方向以外の角度であって、垂直方向から患者Pに向かって荷電粒子ビームを出射する固定型照射装置50が照射室25に設けられている。
【0053】
第2実施形態では、1つの建屋用敷地33に第1建屋21と第2建屋22と接続部23とが建設されている。第1建屋21は、地上1階を備える。第2建屋22は、地上1階と地下1階を備える。さらに、接続部23は、地上に建設されている。
【0054】
円形加速器4などの装置が設けられる加速器室24は、第1建屋21の地上1階に形成されている。一方、固定型照射装置50が設けられる照射室25は、第2建屋22の地下1階に形成されている。つまり、加速器室24の階層と照射室25の階層が異なり、加速器室24の床面Fと照射室25の床面Fの高さが異なっている。なお、加速器室24が地下1階に設けられ、かつ照射室25が地下2階に設けられている場合もある。
【0055】
メイン輸送ライン5は、第1建屋21の加速器室24から接続部23を介して第2建屋22の地上1階の所定の部屋28まで延びる。サブ輸送ライン6は、この部屋28から下方に向けて屈曲され、第2建屋22の地下1階の照射室25まで延びる。荷電粒子ビームは、サブ輸送ライン6の偏向電磁石14により軌道が下方に向けて曲げられる。
【0056】
第2実施形態では、サブ輸送ライン6から固定型照射装置50に対して垂直方向または斜め方向に荷電粒子ビームを入射させる場合に、偏向電磁石14の個数を減らすことができる。例えば、加速器室24の階層と照射室25の階層が同じ場合には、円形加速器4から水平方向に向けて飛翔する荷電粒子ビームの軌道を、一旦上方に向け、つぎに水平方向に向けた後に、下方に向けなければならない。つまり、最低3個の偏向電磁石14が必要である。しかし、第2実施形態では、円形加速器4から水平方向に向けて飛翔する荷電粒子ビームの軌道を、下方に向けるための1個の偏向電磁石14が有れば充分である。
【0057】
(第3実施形態)
つぎに、第3実施形態について
図5から
図8を用いて説明する。なお、前述した実施形態に示される構成部分と同一構成部分については同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0058】
図5に示すように、第3実施形態では、照射装置としてスリット型照射装置51を例示する。また、第1建屋21と第2建屋22は、道路用敷地30を挟んで隣接する2つの建屋用敷地31,32の一方と他方に建設されている。第1建屋21は、地下1階を備える。第2建屋22は、地上1階と地下1階を備える。さらに、接続部23は、地下に建設されている。
【0059】
円形加速器4などの装置が設けられる加速器室24は、第1建屋21の地下1階に形成されている。スリット型照射装置51が設けられる照射室25は、第2建屋22の地下1階に形成されている。
【0060】
ここで、第1建屋21の地下1階と第2建屋22の地下1階は、同じ階層でも構築された深さが互いに異なり、加速器室24の床面Fと照射室25の床面Fの高さが異なっている。例えば、加速器室24の床面Fは、照射室25の床面Fよりも高い位置に設けられている。つまり、スリット型照射装置51は、円形加速器4よりも低い位置に据え付けられている。
【0061】
図6から
図7を参照してスリット型照射装置51について説明する。なお、
図6の紙面右側をスリット型照射装置51の正面側(前方側)として説明する。サブ輸送ライン6の真空ダクト8が延びる方向であって、荷電粒子ビームBが飛んで来る方向をX方向とした場合に、これに直行する紙面上下方向をY方向とし、これらに直行する方向をZ方向として説明する。
【0062】
まず、サブ輸送ライン6の真空ダクト8の端部に、偏向電磁石52が設けられている。この偏向電磁石52から側面視で三角形状(扇型)に広がる拡大ダクト53が設けられている。拡大ダクト53は、サブ輸送ライン6の真空ダクト8の端部からY方向に広がる。この拡大ダクト53の先端部に本体54が接続されている。本体54は、側面視で縦長の長方形状をなしている。拡大ダクト53と本体54の内部は、サブ輸送ライン6の真空ダクト8から連続する真空度を有する密閉空間となっている。
【0063】
本体54の内部には、広い角度範囲から入射する荷電粒子ビームBを偏向し、アイソセンタCに収束させる多数の偏向電磁石55(
図7)が設けられている。これらの偏向電磁石55は、有効磁場領域R(
図6)を生成する。
【0064】
例えば、本体54の内部には、Z方向に一対をなす偏向電磁石55が設けられている。2組の偏向電磁石55は、Y方向に並んで配置されている。1組の偏向電磁石55で1つの有効磁場領域Rが生成される。
図6の例では、上下2組の偏向電磁石55で上下2つの有効磁場領域Rを生成することができる。
【0065】
有効磁場領域Rは、側面視で三日月形状(クレセント形状)をなすように生成される。有効磁場領域Rの強さを制御することで、荷電粒子ビームBの軌道を制御することができる。アイソセンタCを中心として、任意の角度で荷電粒子ビームBを照射することができる。例えば、荷電粒子ビームBの軌道を偏向しないときの基準軌道の傾きを0度とした場合、アイソセンタCを中心として、+85度から-85度の範囲に亘って荷電粒子ビームBの照射角度を変更することができる。
【0066】
なお、基準軌道とは、荷電粒子ビームBが真空ダクト8からアイソセンタCに向かって真っすぐに飛ぶ軌道のことである。
【0067】
図6の例では、上下2つの有効磁場領域Rが同一形状で同一の強さとなっている。つまり、上下対称の有効磁場領域Rが生成されるが、その他の態様でもよい。例えば、有効磁場領域Rが上下非対称でもよい。つまり、上下2つの有効磁場領域Rが異なる形状と強さであってもよい。さらに、上下のいずれか一方に1つの有効磁場領域Rが生成される態様でもよい。なお、アイソセンタCを中心として周方向に変化する荷電粒子ビームBの角度の範囲の中央が、荷電粒子ビームBの基準軌道からずれていてもよい。
【0068】
本体54の正面側は、側面視で半円形に凹んだ凹部56となっている。この凹部56に患者Pが配置される。移動載置台43は、本体54の正面側の凹部56から患者Pを進入させてアイソセンタCに配置することができる。例えば、スリット型照射装置51の正面の方向(
図6の矢印Dの方向)から、患者Pを載せた移動載置台43を進入させることができる。このようにすれば、患者Pを適切な方向から進入させてアイソセンタCに配置することができる。
【0069】
本体54の正面側には、照射対象としての患者Pが配置されるアイソセンタCを中心として周方向に延びるスリット57が形成されている。例えば、縦長のスリット57(
図7)が形成されている。スリット型照射装置51は、このスリット57からアイソセンタCに向かって任意の角度で荷電粒子ビームBを出射する。なお、スリット57は、超耐熱・超耐寒性ポリイミドフィルムで閉鎖されており、荷電粒子ビームBが通過可能な状態で本体54の内部の真空が保たれている。
【0070】
スリット型照射装置51は、アイソセンタCに対する荷電粒子ビームBの照射方向を変更可能な照射ノズル18を備える。この照射ノズル18は、照射対象としての患者Pが配置されるアイソセンタCを中心として、アイソセンタCから等距離の位置を周方向に移動する。この移動する範囲は、180度以下であって、例えば、170度以下の範囲である。
【0071】
例えば、荷電粒子ビームBの基準軌道の傾きを0度とした場合+85度から-85度の範囲に亘って照射ノズル18が移動可能となっている。周方向の一方と他方に85度ずつ回転し、合計で170度の任意の角度に回転させることができる。例えば、照射ノズル18は、スリット型照射装置51の本体54の凹部56に設けられた側面視でC字形状をなすC字レール58に沿って移動する。
【0072】
照射ノズル18は、側面視で有効磁場領域Rの出射側の形状(境界形状)に沿うように移動する。有効磁場領域Rの出射側からアイソセンタCに向かう荷電粒子ビームBは、照射ノズル18を通過し、照射ノズル18により荷電粒子ビームBの進行方向が微調整される。
【0073】
図6から
図7では、理解を助けるために、スリット型照射装置51のX方向と水平方向とを一致させた状態で図示している。しかし、実際にスリット型照射装置51を据え付ける場合は、
図8に示すように、スリット型照射装置51の全体が傾けられた状態となる。例えば、本体54の長手方向(Y方向)が傾斜した状態で床面Fに据え付けられる。
【0074】
第3実施形態では、本体54の上部が患者Pに向かうように傾けられている。荷電粒子ビームBの照射範囲は、アイソセンタCを中心として170度の範囲であるが、スリット型照射装置51が傾いていることで、患者Pの直上から荷電粒子ビームBを照射することができる。
【0075】
つまり、スリット型照射装置51で荷電粒子ビームBの軌道を偏向しないときの基準軌道が水平方向(水平軸)から傾くように、スリット型照射装置51が傾けられた状態で据え付けられている。このようにすれば、照射対象である患者Pに対して荷電粒子ビームBが照射される角度の範囲が実用的なものとなる。
【0076】
また、スリット型照射装置51の長手方向を照射室25の床面Fに対して傾斜させて配置することにより、スリット型照射装置51の配置に必要な天井の高さを低く抑えることができる。
【0077】
第3実施形態では、水平軸に対する荷電粒子ビームBの基準軌道(X軸)の傾きの角度は、25度となっている。なお、この角度は、20度から90度の範囲であればよい。
【0078】
このようなスリット型照射装置51が傾けられた場合において、
図5に示すように、照射室25の床面Fが、加速器室24の床面Fよりも低い位置に設けられている。このようにすれば、サブ輸送ライン6からスリット型照射装置51に対して斜め方向(または縦方向)に荷電粒子ビームBを入射させる場合に、サブ輸送ライン6の偏向電磁石14の個数を減らすことができる。
【0079】
図9は、従来例(比較例)のビーム輸送ラインとしてのメイン輸送ライン5とサブ輸送ライン6を示している。この従来例では、加速器室24の床面Fと照射室25の床面Fが同じ高さであることを前提とし、スリット型照射装置51が傾けられた状態で据え付けられている。この場合において、メイン輸送ライン5から延びる真空ダクト8は、まず、水平方向に向けて延び、サブ輸送ライン6で一旦斜め上方に曲がり、つぎに水平方向に延びた後に、斜め下方に曲がらなければならない。そのため、
図9の例では、サブ輸送ライン6に3個の偏向電磁石14が必要となっている。
【0080】
これに対して第3実施形態では、
図8に示すように、メイン輸送ライン5から延びる真空ダクト8は、まず、水平方向に向けて延び、サブ輸送ライン6において、スリット型照射装置51の近傍で斜め下方に曲がるだけで済む。つまり、サブ輸送ライン6に1個の偏向電磁石14があれば充分である。
【0081】
なお、第3実施形態では、スリット型照射装置51の本体54の上部が患者Pに向かうように傾けられているが、この本体54の上部が患者Pから離れるように傾けられてもよい。また、スリット型照射装置51が傾けられずに用いられてもよい。
【0082】
(第4実施形態)
つぎに、第4実施形態について
図10を用いて説明する。なお、前述した実施形態に示される構成部分と同一構成部分については同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0083】
第4実施形態では、照射装置としてスリット型照射装置51を例示する。スリット型照射装置51は、その全体が傾けられた状態で据え付けられている。この第4実施形態では、前述した第3実施形態(
図8)とは逆に、本体54の上部が患者Pから離れるように傾けられている。
【0084】
第4実施形態の第1建屋21と第2建屋22は、道路用敷地30を挟んで隣接する2つの建屋用敷地31,32の一方と他方に建設されている。第1建屋21は、地下1階を備える。第2建屋22は、地上1階を備える。さらに、接続部23は、地下に建設されている。第2建屋22の地下には、接続部23から続く地下溝29が形成されている。
【0085】
円形加速器4などの装置が設けられる加速器室24は、第1建屋21の地下1階に形成されている。スリット型照射装置51が設けられる照射室25は、第2建屋22の地上1階に形成されている。つまり、加速器室24の階層と照射室25の階層が異なり、加速器室24の床面Fと照射室25の床面Fの高さが異なっている。
【0086】
例えば、加速器室24の床面Fは、照射室25の床面Fよりも低い位置に設けられている。つまり、スリット型照射装置51は、円形加速器4よりも高い位置に据え付けられている。
【0087】
メイン輸送ライン5は、第1建屋21の加速器室24から接続部23を介して第2建屋22の地下溝29まで延びる。サブ輸送ライン6は、この地下溝29から斜め上方に向けて屈曲され、第2建屋22の地上1階の照射室25まで延びる。荷電粒子ビームは、サブ輸送ライン6の偏向電磁石14により軌道が斜め上方に向けて曲げられる。
【0088】
このようなスリット型照射装置51が傾けられた場合において、照射室25の床面Fが、加速器室24の床面Fよりも高い位置に設けられている。このようにすれば、サブ輸送ライン6からスリット型照射装置51に対して斜め方向(または縦方向)に荷電粒子ビームを入射させる場合に、サブ輸送ライン6の偏向電磁石14の個数を減らすことができる。
【0089】
なお、第4実施形態では、スリット型照射装置51の本体54の上部が患者Pから離れるように傾けられているが、本体54の上部が患者Pに向かうように傾けられてもよい。また、スリット型照射装置51が傾けられずに用いられてもよい。
【0090】
(第5実施形態)
つぎに、第5実施形態について
図11を用いて説明する。なお、前述した実施形態に示される構成部分と同一構成部分については同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0091】
第5実施形態では、照射装置としてスリット型照射装置51を例示する。また、1つの建屋用敷地34に1つの建屋35が建設されている。建屋35は、地上1階と地下1階を備える。
【0092】
円形加速器4などの装置が設けられる加速器室24は、建屋35の地上1階に形成されている。一方、スリット型照射装置51が設けられる照射室25は、建屋35の地下1階に形成されている。つまり、加速器室24の階層と照射室25の階層が異なり、加速器室24の床面Fと照射室25の床面Fの高さが異なっている。
【0093】
メイン輸送ライン5は、建屋35の地上の加速器室24から地下の照射室25まで延びる。荷電粒子ビームは、メイン輸送ライン5の偏向電磁石12により軌道が曲げられながら、照射室25まで導かれる。
【0094】
このメイン輸送ライン5は、スリット型照射装置51の近傍まで延び、スリット型照射装置51よりも高い位置で水平方向に延びる。そして、サブ輸送ライン6は、メイン輸送ライン5から斜め下方に延び、スリット型照射装置51に接続されている。荷電粒子ビームは、サブ輸送ライン6の偏向電磁石14により軌道が下方に向けて曲げられる。
【0095】
このようなスリット型照射装置51が傾けられた場合において、スリット型照射装置51がメイン輸送ライン5よりも低い位置に設けられている。このようにすれば、サブ輸送ライン6からスリット型照射装置51に対して斜め方向(または縦方向)に荷電粒子ビームを入射させる場合に、サブ輸送ライン6の偏向電磁石14の個数を減らすことができる。
【0096】
以上、本発明が第1実施形態から第5実施形態に基づいて説明されているが、いずれかの実施形態において適用された構成が他の実施形態に適用されてもよいし、各実施形態において適用された構成が組み合わされてもよい。
【0097】
なお、前述の実施形態は、荷電粒子ビームの照射対象として、人間である患者Pを例示しているが、その他の態様でもよい。例えば、犬、猫などの動物が照射対象でもよい。これらの動物に対して放射線治療を施す際に粒子線照射システム1が用いられてもよい。
【0098】
以上説明した少なくとも1つの実施形態によれば、第1建屋21と第2建屋22とを備えることにより、都市部などの限られた敷地に粒子線照射システム1を効率よく設けることができ、かつ建設コストの抑制に寄与することができる。
【0099】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができる。これら実施形態またはその変形は、発明の範囲と要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0100】
1…粒子線照射システム、2…イオン発生器、3…線形加速器、4…円形加速器、5…メイン輸送ライン、6…サブ輸送ライン、7…回転ガントリ、8…真空ダクト、9…高周波加速空洞、10…偏向電磁石、11…収束電磁石、12…偏向電磁石、13…収束電磁石、14…偏向電磁石、15…収束電磁石、16…偏向電磁石、17…収束電磁石、18…照射ノズル、21…第1建屋、22…第2建屋、23…接続部、24…加速器室、25…照射室、26…加速器制御室、27…照射制御室、28…部屋、29…地下溝、30…道路用敷地、31,32,33,34…建屋用敷地、35…建屋、40…ハーフガントリ、41…筐体、42…C字レール、43…移動載置台、44…移動アーム、50…固定型照射装置、51…スリット型照射装置、52…偏向電磁石、53…拡大ダクト、54…本体、55…偏向電磁石、56…凹部、57…スリット、58…C字レール、B…荷電粒子ビーム、C…アイソセンタ、F…床面、G…地面、P…患者、R…有効磁場領域。