(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025095371
(43)【公開日】2025-06-26
(54)【発明の名称】緊張係留浮体用係留索
(51)【国際特許分類】
B63B 21/20 20060101AFI20250619BHJP
F03D 13/25 20160101ALI20250619BHJP
B63B 35/00 20200101ALI20250619BHJP
【FI】
B63B21/20 Z
F03D13/25
B63B35/00 T
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023211321
(22)【出願日】2023-12-14
(71)【出願人】
【識別番号】391064625
【氏名又は名称】三井海洋開発株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000192626
【氏名又は名称】神鋼鋼線工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101340
【弁理士】
【氏名又は名称】丸山 英一
(74)【代理人】
【識別番号】100205730
【弁理士】
【氏名又は名称】丸山 重輝
(74)【代理人】
【識別番号】100213551
【弁理士】
【氏名又は名称】丸山 智貴
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 茂
(72)【発明者】
【氏名】望月 幸司
(72)【発明者】
【氏名】チー シュウ
(72)【発明者】
【氏名】榊 一平
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 実
【テーマコード(参考)】
3H178
【Fターム(参考)】
3H178AA03
3H178AA26
3H178AA43
3H178BB77
3H178DD61X
3H178DD67X
(57)【要約】 (修正有)
【課題】緊張係留浮体を係留支持する各係留索束の各緊張係留索の長さを調整せずに、各緊張係留索に発生する張力を均等にすることができ、洋上の波周期との共振が防止された緊張係留浮体用の緊張係留索を提供すること。
【解決手段】本発明は、緊張係留浮体に形成された接続部5bと、海底103に固定された海底係留部9との間を連結する緊張係留浮体用係留索であって、緊張係留索7によって連結されることにより、緊張係留浮体5に生じる浮力により、緊張係留索7に張力が生じ、緊張係留浮体5が緊張係留状態で保持可能に構成され、緊張係留索7は、索材料の縦弾性係数と断面積を乗じた伸び剛性が低い低剛性係留索7bと、低剛性係留索7bに比べて伸び剛性が高い高剛性係留索7aとが連結具を介して連結されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
風力発電設備を洋上に支持する緊張係留浮体に形成された接続部と、海底に固定された海底係留部との間を連結する緊張係留浮体用係留索であって、
前記接続部と、前記海底係留部とが、前記緊張係留索によって連結されることにより、前記緊張係留浮体に生じる浮力により、前記緊張係留索に張力が生じ、前記緊張係留浮体が緊張係留状態で保持可能に構成され、
前記緊張係留索は、索材料の縦弾性係数と断面積を乗じた伸び剛性が低い低剛性係留索と、前記低剛性係留索に比べて伸び剛性が高い高剛性係留索とが連結具を介して連結されており、
前記低剛性係留索の前記索材料は、樹脂製ロープであり、前記高剛性係留索は、鋼製の素線を複数本束ねて構成される鋼製ワイヤケーブルであり、
前記緊張係留索は、前記樹脂製ロープの伸び剛性を1とした場合、前記鋼製ワイヤケーブルの伸び剛性が、前記樹脂製ロープの伸び剛性の2倍~5倍であることを特徴とする緊張係留浮体用係留索。
【請求項2】
風力発電設備を洋上に支持する緊張係留浮体に形成された接続部と、海底に固定された海底係留部との間を連結する緊張係留浮体用係留索であって、
前記接続部と、前記海底係留部とが、前記緊張係留索によって連結されることにより、前記緊張係留浮体に生じる浮力により、前記緊張係留索に張力が生じ、前記緊張係留浮体が緊張係留状態で保持可能に構成され、
前記緊張係留索は、低剛性係留索と、前記低剛性係留索に比べて伸び剛性が高い高剛性係留索とが連結具を介して連結されており、
前記低剛性係留索は、樹脂製ロープであり、前記高剛性係留索は、鋼製の素線を複数本、並列に束ねて構成される鋼製ワイヤケーブルであり、
前記緊張係留索は、全長のうち50%以上の長さが、前記高剛性係留索であることを特徴とする緊張係留浮体用係留索。
【請求項3】
前記樹脂製ロープは、ポリエステル製の素線を複数本撚って構成されたサブロープを、複数本用意し、複数本の該サブロープを並列に束ねて構成されたポリエステルロープであることを特徴とする請求項1又は2記載の緊張係留浮体用係留索。
【請求項4】
前記緊張係留浮体は、平面上で三角形状になるように配置された鉛直方向に延在する中空の柱状のカラムを少なくとも3本備え、前記3本のカラムのそれぞれの間を海面より上で連結される3本の上梁と、海面下で連結される3本の下梁とを備え、前記カラムのうち1本に前記風力発電設備が支持されていることを特徴とする請求項1又は2記載の緊張係留浮体用係留索。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緊張係留浮体用係留索に関し、詳しくは、緊張係留浮体を係留支持する各係留索束の各係留索の長さを調整せずに、各係留索に発生する張力を均等にすることができ、また、洋上の波周期、風車から生じる振動周期による共振が防止された緊張係留浮体用係留索に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、風力発電設備は、陸上に設置されるものが多かった。しかし、陸上では、山林や建築物のような風を遮る障害物があり、乱気流が生じ易く、風力が安定しない場合があった。
そこで、風力発電設備を洋上に設置することが提案された。洋上では、山林や建築物のような風を遮る障害物がなく、陸上と比べて乱気流が生じ難く、安定して大きな風力が生じている場合が多い。そのため、洋上に風力発電設備を設置すれば、陸上よりも安定して風力発電を行うことができ、大きな電力を供給できると考えられる。
【0003】
風力発電設備を洋上に設置する場合には、発電設備(風車及び発電機)を保持する構造物が必要である。このような構造物としては、海底に固定されて洋上に達し、洋上において風車及び発電機が搭載される着床式と、係留索で海底に係留される浮体からなり、この浮体上に風車及び発電機が搭載される浮体式とがある。
浮体式の方が、着床式よりも、深い海域に設置できるという利点がある。深い海域は、一般に沖合の海域であるから、風況が良く、安定して風力発電を行うことができる点で有利である。特に、日本においては、周辺海域が他国に比較して深いので、浮体式が有利である。
【0004】
浮体式の構造物としては、海底の係留設備と、浮体とを、係留索で緩やかに連結して位置保持を行うカテナリ係留式の構造物がある。
また、特許文献1のように、浮体を係留索により強制的に引き下げて一部を潜水させ、浮体の浮力によって係留索に張力を発生させ、位置保持を行う緊張係留浮体(Tension Leg Platform(TLP))もある。
緊張係留浮体は、浮体の位置を係留索の張力で保持するため、カテナリ係留式に比べて浮体の小型化が容易であり、かつ、係留索の緊張状態により高い安定性が得られる点でも有利である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
緊張係留浮体は、該浮体を構成するカラムのそれぞれに、複数本の係留索からなる係留索束を複数組設けることにより係留支持される。各係留索束の各係留索は、伸び剛性が高く伸び難い材料からなる鋼製ワイヤケーブルが用いられる場合がある。
一つのカラム各係留索束において、各係留索には、均等に張力が発生する必要がある。張力が均等でないと、ある係留索には張力が発生しないか、弱い張力しか発生しない状態となり、他の係留索に過剰に強い張力が発生してしまい、各係留索で偏荷重が生じ、偏荷重が生じた係留索や支持構造物が損傷する虞があり、耐久性にも問題が生ずるからである。
各係留索に発生する張力を均等にするためには、大型のウィンチ設備等を用いて、各係留索の長さを調整する必要がある。
しかし、大型のウィンチ設備等を用いることは、浮体上の設置物の重量増加を招き、浮体そのものを大型化しなければならず、製造コストの高騰も招くことになる。
【0007】
係留索の長さを調整する設備を不要とする構成としては、係留索の下端を海底に固定する杭基礎頂部までの深さを予め現地計測し、浮体側で係留索の上端を固定する係留索取付け部から、杭基礎頂部までの距離を、係留索の必要長さとして予め把握しておくことが考えられる。係留索は、陸上において、必要長さに製作しておき、浮体側の係留索の接続部により上端を固定し、杭基礎頂部により下端を固定する。
しかし、係留索の長さには、杭基礎頂部までの深さの計測における計測誤差、係留索の製作における製作誤差、温度変化による熱膨張、熱収縮など、各種誤差が含まれる。したがって、係留索を予め必要長さに製作しておくことでは、各係留索に発生する張力を均等にすることはできない。
【0008】
一方、ポリエステルロープ等のような伸び剛性が低い(柔らかい)材料を用いて係留索を製作し、ロープ自身の伸長によって誤差を吸収させることが考えられる。
しかし、剛性が低い材料を用いて係留索を製作すると、係留索のバネ定数kが小さくなり、緊張係留浮体に特有の鉛直及びロール-ピッチ方向の系の固有振動数が低くなり、風車による振動周期による鉛直方向の共振、及び洋上の波周によるロール-ピッチ方向の共振が生ずる虞がある。
【0009】
洋上の波周期及び風車による振動周期との共振が生ずると、係留索や支持構造物が損傷する虞があり、耐久性にも問題が生ずる。
【0010】
そこで、本発明の課題は、緊張係留浮体を係留支持する各係留索束の各係留索の長さを調整せずに、各係留索に発生する張力を均等にすることができ、また、洋上の波周期、風車による振動周期との共振が防止された緊張係留浮体用係留索を提供することにある。
さらに本発明の他の課題は、以下の記載によって明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題は以下の各発明によって解決される。
【0012】
(請求項1)
風力発電設備を洋上に支持する緊張係留浮体に形成された接続部と、海底に固定された海底係留部との間を連結する緊張係留浮体用係留索であって、
前記接続部と、前記海底係留部とが、前記緊張係留索によって連結されることにより、前記緊張係留浮体に生じる浮力により、前記緊張係留索に張力が生じ、前記緊張係留浮体が緊張係留状態で保持可能に構成され、
前記緊張係留索は、索材料の縦弾性係数と断面積を乗じた伸び剛性が低い低剛性係留索と、前記低剛性係留索に比べて伸び剛性が高い高剛性係留索とが連結具を介して連結されており、
前記低剛性係留索の前記索材料は、樹脂製ロープであり、前記高剛性係留索は、鋼製の素線を複数本束ねて構成される鋼製ワイヤケーブルであり、
前記緊張係留索は、前記樹脂製ロープの伸び剛性を1とした場合、前記鋼製ワイヤケーブルの伸び剛性が、前記樹脂製ロープの伸び剛性の2倍~5倍であることを特徴とする緊張係留浮体用係留索。
(請求項2)
風力発電設備を洋上に支持する緊張係留浮体に形成された接続部と、海底に固定された海底係留部との間を連結する緊張係留浮体用係留索であって、
前記接続部と、前記海底係留部とが、前記緊張係留索によって連結されることにより、前記緊張係留浮体に生じる浮力により、前記緊張係留索に張力が生じ、前記緊張係留浮体が緊張係留状態で保持可能に構成され、
前記緊張係留索は、低剛性係留索と、前記低剛性係留索に比べて伸び剛性が高い高剛性係留索とが連結具を介して連結されており、
前記低剛性係留索は、樹脂製ロープであり、前記高剛性係留索は、鋼製の素線を複数本、並列に束ねて構成される鋼製ワイヤケーブルであり、
前記緊張係留索は、全長のうち50%以上の長さが、前記高剛性係留索であることを特徴とする緊張係留浮体用係留索。
(請求項3)
前記樹脂製ロープは、ポリエステル製の素線を複数本撚って構成されたサブロープを、複数本用意し、複数本の該サブロープを並列に束ねて構成されたポリエステルロープであることを特徴とする請求項1又は2記載の緊張係留浮体用係留索。
(請求項4)
前記緊張係留浮体は、平面上で三角形状になるように配置された鉛直方向に延在する中空の柱状のカラムを少なくとも3本備え、前記3本のカラムのそれぞれの間を海面より上で連結される3本の上梁と、海面下で連結される3本の下梁とを備え、前記カラムのうち1本に前記風力発電設備が支持されていることを特徴とする請求項1又は2記載の緊張係留浮体用係留索。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、緊張係留浮体を係留支持する各係留索束の各係留索の一部が伸び剛性の低い材料を用いているため、各係留索の長さを調整せずに、剛性が低い部分の伸長によって、各係留索に発生する張力を均等にすることができ、各係留索での偏荷重による係留索や支持構造物の損傷を防止し、高い耐久性を実現することができる。
また、本発明によれば、各係留索の長さの調整が不要なので、大型のウィンチ設備等を用いる必要がなく、浮体上の設置物の重量を減少させ、浮体そのものの小型化が可能で、製造コストも低廉化することができる。
【0014】
さらに、本発明によれば、各係留索の全体を伸び剛性が低い材料のみを用いた場合に比較して、係留索のバネ定数が大きく、固有振動数が高いので、洋上の波周期、風車による振動周期の共振が防止されており、共振による係留索や支持構造物の損傷が防止され、高い耐久性を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施形態に係る緊張係留浮体用係留索が使用される緊張係留浮体を備えた洋上風力発電設備を示す正面図
【
図2】
図1の緊張係留浮体を示す斜視図であり、(A)は、一方から緊張係留浮体を示す斜視図であり、(B)は他方から見た緊張係留浮体を示す斜視図である。
【
図4】
図1の緊張係留浮体用の係留索(高剛性係留索)の断面図
【
図5】
図1の緊張係留浮体用の係留索における低剛性係留索の長さと合成された伸びとの関係を示すグラフ
【
図6】
図1の緊張係留浮体用の係留索における低剛性係留索の長さと合成されたバネ定数との関係を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について好ましい実施の形態について説明する。
【0017】
図1は、本発明の実施形態に係る緊張係留浮体用係留索が使用される緊張係留浮体を備える洋上風力発電設備1を示す正面図である。
洋上風力発電設備1は、
図1に示すように、風力発電設備3、風力発電設備3を搭載する緊張係留浮体(Tension Leg Platform(TLP))5(以下、場合によって単に浮体と称す。)、緊張係留浮体5に上端が固定された緊張係留索7、及び、緊張係留索7の下端が海底に固定される海底係留部9を備えて構成されている。
【0018】
本実施形態の緊張係留浮体用係留索は、風力発電設備3を搭載する緊張係留浮体5を強制的に引き下げて一部を潜水させ、緊張係留浮体5の浮力によって発生する張力により、緊張係留浮体5を定位置に保持する緊張係留索7である。
【0019】
〔風力発電設備〕
風力発電設備3は風力を電力に変換する発電設備であり、
図1に示すように、タワー31、ナセル33、ボス35、及びブレード37を備える。この実施形態では、風力発電設備3は、風力によりブレード37及びボス35が回転され、この回転力で、ボス35が接続されている発電機のロータが回転されることにより、風力を電力に変換する。
【0020】
タワー31は、風力発電設備3の全体を支持する支持柱であり、鉛直方向に延びる柱状の構造物である。タワー31の外形は、円柱状や、下方に向けて拡径した円錐状が好ましいが、風力発電設備3の全体を支持できる強度が得られるのであれば、特に限定されない。タワー31は、緊張係留浮体5のうち、海面101上に露出した部分の上面に設けられたカラム51が備えるフランジ部5aに、下端が連結されて支持される。
【0021】
ナセル33は、発電機を内蔵した中空の構造体であり、タワー31の上端に設けられ、軸方向が水平とされた紡錘形状となっている。ナセル33とタワー31の上端とは、鉛直軸を中心にナセル33を回転可能とする回転機構で連結されている。ナセル33は、最も風圧が強い向きに、ボス35の軸方向を向けられる。
ナセル33の内部には、ボス35の回転力を伝達する動力伝達軸、この動力伝達軸に接続された増速機(ギアボックス等)、緊急時(台風等)や点検時に動力伝達軸を止めるブレーキ、動力伝達軸にロータが連結された発電機が設けられている。
【0022】
ボス35は、ブレード37を支持する円筒状の部材であり、動力伝達軸の先端に同軸に連結されている。ボス35は、水平方向を中心軸に回転可能であり、ナセル33の水平方向の先端に位置している。
【0023】
ブレード37は、風力を回転力に変換する風車の羽根であり、ボス35の外周からボス35の径方向に複数が突設されている。この実施形態では、ブレード37は、ボス35の円周方向に等間隔に3本が突設されている。ブレード37は、風を受けると、ボス35を中心として、ボス35とともに回転される。ボス35が回転されることにより、発電機のロータが回転され、発電がなされる。
発電機が発電した電力は、図示しない海底送電ケーブルを経て、陸上に送電される。
【0024】
〔緊張係留浮体〕
図2は、
図1の緊張係留浮体を示す斜視図であり、
図2(A)は、一方から緊張係留浮体を見た斜視図であり、
図2(B)は、他方から緊張係留浮体を見た斜視図である。
【0025】
緊張係留浮体5は、風力発電設備3を支持する浮体である。緊張係留浮体5は、
図1に示すように、洋上に浮かんだ状態で、海面101上の部分に、風力発電設備3が搭載される。緊張係留浮体5は、内部に密閉された中空部を有することによって、外形全体としての比重が1未満となっており、洋上に浮くようになっている。
【0026】
また、緊張係留浮体5は、
図2に示すように、平面から見て、略正三角形状になるように配置された鉛直方向に延在する中空の柱状のカラムを少なくとも3本備えている。また、
図1及び
図2に示すように、カラム52とカラム53との間を、海面より上で、上梁(ブレーシング)54で連結され、海面101より下で、下梁(ポンツーン)57で連結され、同様に、カラム51とカラム52との間は、上梁(ブレーシング)55、下梁(ポンツーン)59で、カラム51とカラム53との間は、上梁(ブレーシング)56、下梁(ポンツーン)58で連結されている。
図示の例では、カラム51にフランジ部5aを備え、風力発電設備3を支持するように構成されている。
【0027】
カラム51、52、53は、図示の例では、六角柱であり、平面上、一部が突出した変形六角形状である場合が示されている。カラムの形状はこれに限定されず、平面上、正六角形状でもよいし、五角形状でもよいし、円形状でもよい。
【0028】
上梁54、55、56は、図示の例では、四角柱の形状であるが、これに限定されず、円柱状でもよいし、トラス構造で形成されていてもよい。
【0029】
本実施形態においては、緊張係留浮体5は、3本のカラム51、52、53の各々の内部に、図示しないバラストタンクを備えてもよい。バラストタンクへのバラスト水の注排水により、緊張係留浮体5の浮力及び喫水を調整することができる。緊張係留浮体5の設置時には、浮力を小さくすることによって、緊張係留索7の取付けを容易化することができる。
【0030】
また、
図1には、緊張係留浮体5に、各々のカラム51、52、53から3箇所ずつの3組とされた、計9箇所の接続部5bが設けられている例が示されている。これら接続部5bには、それぞれ緊張係留索7の上端が接続される。海底側の海底係留部9には、これら緊張係留索7の下端が接続されることによって、緊張係留浮体5は、海底103の係留設備である複数の海底係留部9に連結される。
【0031】
これによって、緊張係留浮体5の浮力により、緊張係留索7に生ずる張力が生じ、この結果、緊張係留浮体5は、定位置に保持される。つまり、緊張係留浮体5は、全体を海中に沈めたときには、重力の反対方向(上方)に作用する浮力が、下方に作用する重力よりも大きいので、浮力と重力とが釣り合う位置まで浮上しようとする。緊張係留浮体5の海面下に沈んだ部分の体積に比例して、浮力が生ずるからである。緊張係留索7は、緊張係留浮体5の浮力が重力よりも大きくなる深さに、緊張係留浮体5を保持する。
【0032】
この状態では、緊張係留浮体5の浮上を、緊張係留索7によって阻止されるので、重力よりも大きい分の浮力である緊張係留浮体5の強制浮力が、緊張係留索7に加えられる。強制浮力を加えられた緊張係留索7には、張力が生じ、緊張係留状態となる。緊張係留状態では、緊張係留索7に生じた張力により、緊張係留浮体5は、定位置に保持される。
【0033】
本実施形態においては、緊張係留浮体5は、潮汐による海面の昇降(海底深度の変化)があっても、緊張係留索7に所定範囲の張力が生じ、緊張係留状態が維持されるようになっている。
【0034】
〔海底係留部〕
海底係留部9は、この実施形態では、海底103に打ち込まれた杭基礎の頂部である。海底係留部9は、海底103の係留設備であって、緊張係留索7を介して、緊張係留浮体5を定位置に保持するものである。海底係留部9は、緊張係留索7の下端が連結されるためのフックやリング等の連結部を備えている。
【0035】
海底係留部9は、強制浮力で緊張係留浮体5の位置を保持する際に、緊張係留索7から加えられる引っ張り力で海底103から抜けない構造で、かつ、海中で容易に腐食しない耐食性を備えたものであれば、他の公知の係留設備を用いることもできる。具体的には、重力アンカー、パイルアンカー、サクションアンカー等を用いることもできる。本実施形態では、緊張係留索7の長さの調整を行わないので、緊張係留索7の下端の位置を確実に固定できる方法であればよく、特に限定されない。
【0036】
この実施形態では、1基の洋上風力発電設備1について、9基の海底係留部9が設けられている。9基の海底係留部9は、3基ずつが近接して1組となり、緊張係留浮体5のカラム51、52、53それぞれの鉛直方向の海底に設置され、計3組の海底係留部9が設けられている。
本実施形態では、カラム51、52、53の各々には、3か所の接続部5bが設けられ、緊張係留索7の上端が緊張係留浮体側の接続部5bに固定され、接続部5bから鉛直方向の海底には、接続部5bと同等の数の海底係留部9が設置される。接続部5bと海底係留部9は、3本の緊張係留索7からなる1組の係留索束が計3組固定される。これによって、緊張係留索7の上端は、緊張係留浮体5に設けられた接続部5bに固定され、緊張係留索7の下端は、海底係留部9に固定され、緊張係留浮体5が係留保持される。
【0037】
本実施形態において、海底係留部9の数及び緊張係留索7の本数は、強制浮力で緊張係留浮体5を定位置に保持する際に、海底103から抜けない程度に、緊張係留索7から加えられる引っ張り力を分散できる数の範囲で、適宜設定すればよい。例えば1基の洋上風力発電設備について、6基の海底係留部9及び6本の緊張係留索7を用いて、それぞれが2本の緊張係留索7からなる3組の係留索束によって、緊張係留浮体5を係留して保持してもよい。
【0038】
〔緊張係留索〕
緊張係留索7は、緊張係留浮体5と海底係留部9とを連結する係留索であり、緊張係留浮体5の浮力により生じた張力によって、緊張係留浮体5を緊張係留状態として、緊張係留浮体5を定位置に保持する。
【0039】
図3は、
図1の緊張係留浮体用の係留索の側面図である。
本実施形態の緊張係留索7は、
図3に示すように、伸び剛性が高い材料からなる 高剛性係留索7aと伸び剛性が低い材料からなる低剛性係留索7bとを直列に、連結具7cによって繋いだものである。連結具7cは、高剛性係留索7aの上端と、低剛性係留索7bの下端とを連結させる器具であって、フック状、リング状のものなど、種々のものを用いることができ、その構成は特に限定されない。緊張係留索7は、緊張係留浮体5の浮力により生ずる張力で降伏、破断しない強度と、海中で容易に腐食しない耐食性を備えている。
【0040】
図4は、
図1の緊張係留浮体用の係留索(高剛性係留索)の断面図である。
本実施形態では、高剛性係留索7aは、
図4に示すように、鋼製ワイヤケーブルであり、鋼製ワイヤケーブルは、複数本の素線(亜鉛メッキ鋼線)71aが並列に並んでおり、この素線の外周が保護層70aによって覆われたものである。本実施形態では、高剛性係留索7aは、素線本数が、例えば200本~400本程度、被覆直径が、例えば100mm~200mm程度である。
本実施形態において、図示の例では、複数本の素線を並列に束ねられている例が示されているが、これに限定されず、複数本の素線が束ねられていれば並列でなくてもよい。
【0041】
低剛性係留索7bは、樹脂製ロープであることが好ましい。樹脂製ロープの材料としては、ポリアミド、ポリエステル等が挙げられる。ポリアミドとしては、例えばナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12等が例示できる。樹脂製ロープとしては、ポリエステルロープが好ましい。ポリエステルロープは、素線(例えば、ポリエステル製の線条体)を撚り合わせたサブロープを複数本並列に束ねて、サンドフィルタを巻き、その外側を、保護層によって覆ったものが例示できる。保護層はポリエステル線を織ったもの、編んだものが例示できる。
この実施形態では、低剛性係留索7bは、直径が、例えば280mm程度のものである。
【0042】
本実施形態においては、
図1の例では、低剛性係留索7bが浮体側の接続部5bに取り付けられ、高剛性係留索7aが海底側の海底係留部9に取り付けられているが、低剛性係留索7bを海底側の海底係留部9に取り付け、高剛性係留索7aを浮体側の接続部5bに取り付けてもよい。
【0043】
この緊張係留索7は、設置時の長さ精度要求の緩和と、緊張係留浮体5の共振回避とを両立できるものである。
設置時の長さ精度要求とは、長さの誤差の許容範囲のことであり、精度要求が緩和されるとは、誤差の許容範囲が広いということである。前述したように、1組(3本)の緊張係留索7において、各緊張係留索7には、均等に張力が発生する必要がある。各緊張係留索7の長さに大きな誤差があると、長い緊張係留索7には張力が発生しないか、弱い張力しか発生しない状態となり、短い緊張係留索7に過剰に強い張力が発生してしまい、各緊張係留索7で偏荷重が生じ、過剰な張力が発生した短い緊張係留索7や支持構造物が損傷する虞があり、耐久性にも問題が生ずるからである。
実施形態の緊張係留索7では、長さの誤差が許容範囲であれば、短い緊張係留索7の低剛性係留索7bが伸びるので、長い緊張係留索7にも張力が発生し、短い緊張係留索7に過剰に強い張力が発生することがない。
【0044】
緊張係留浮体5の共振は、前述したように、鉛直方向については、風車の定格回転数による振動によって生じ、また、ロール-ピッチ方向については、波周期によって生じる。
波周期との共振については、緊張係留索7のバネ定数kが小さく、ロール、ピッチ方向の系の固有振動数F0(Hz)が低い場合に生ずることがある。鉛直方向においても同様に生じる場合がある。
本実施形態では、大型風車(10MW以上)をTLPで支持する場合がある。この場合、鉛直方向と風車の回転周期との共振、ロール-ピッチ方向と波周期との共振が問題となる。
本実施形態の緊張係留索7は、設置する風車の仕様により回転周期がどのような回転周期であったとしても、低剛性係留索7bと高剛性係留索7aとが連結具7cを介して連結された、低剛性係留索と高剛性係留索とのハイブリッド係留索であるため、伸び剛性を任意に変えることができるので、伸び剛性と比例関係にある、係留索の軸方向の軸剛性も任意に変えることができ、固有周期を変えることができ、その結果、共振を回避することができる。例えば、波周期は4~5秒以上~20秒程度の周期になる出現頻度が高い場合が多く、この出現頻度の高い波周期と固有周期をずらす必要がある。本発明の緊張係留索は、上述のようにハイブリッド係留索であるため、剛性を任意に変えられる結果、固有周期を変えることができる。この結果、ロール-ピッチ方向の固有周期を4秒以下の周期に収めることができるので、波周期との共振が生じないようにすることができる。
【0045】
実施形態の緊張係留索7について、1本あたりに生ずる定常張力(4,900kN(500トン))、全長(50m)、ポリエステルロープ(低剛性係留索7b)の伸び剛性(661,500kN)、及び、鋼製ワイヤケーブル(高剛性係留索7a)の伸び剛性(2,142,000kN)を、以下の表1に示した。なお、伸び剛性は、索材料の縦弾性係数(ヤング率)と断面積の積である。表1における高剛性係留索7aは、低剛性係留索7bの3倍以上の伸び剛性を有している例が示されている。
本発明の緊張係留索7は、低剛性係留索7bの伸び剛性を1とした場合、高剛性係留索7aの伸び剛性は、2倍~5倍の範囲であることが好ましい。このような範囲になる緊張係留索7を形成することにより、設置精度要求の緩和と、波周期や風車の振動による共振の回避とを両立できる。
【0046】
【0047】
以上の通り、緊張係留索7における、低剛性係留索7bと高剛性係留索7aとの伸び剛性の比率によって、設置精度要求の緩和、及び波周期や風車の振動による共振の回避が両立できることを説明したが、緊張係留索7における、低剛性係留索7bと高剛性係留索7aとの長さの比率によっても、施工設置精度の緩和と波周期との共振の回避との両立が実現できる。以下、低剛性係留索7bと高剛性係留索7aとの長さの比率による実施形態を説明する。
【0048】
図5は、
図1の緊張係留浮体用の係留索における低剛性係留索の長さと合成された伸びとの関係を示すグラフである。
図5、及び
図6に示す関係は、表1で示した低剛性係留索7bと高剛性係留索7aを用いた場合を示している。
図5に示すように、全長50mに対する低剛性係留索(ポリエステルロープ)7bの長さを横軸にとり、低剛性係留索7bと高剛性係留索7aを繋いだときの、4,900kNの軸力が作用した場合の緊張係留索7の伸びを示す。なお、左端の低剛性係留索7bが0mの場合は全て高剛性係留索7a、逆に右端の50mは全てが低剛性係留索7bであることを意味する。
図5より、低剛性係留索7bの割合が大きいほど、緊張係留索7の伸びは線形的に大きくなる。例えば、図示の例のように、緊張係留索の全長が50mの場合で、施工設置精度の緩和のために、緊張係留索7において、200mm以上の伸びが必要であるとすると、低剛性係留索7bの長さは、17m以上にすることで、施工設置精度の緩和を実現できる。
【0049】
図6は、
図1の緊張係留浮体用の係留索における低剛性係留索の長さと合成されたバネ定数との関係を示すグラフである。
図6に示すように、低剛性係留索(ポリエステルロープ)7bの長さを横軸にとり、低剛性係留索7bと高剛性係留索7aとを繋いだときの、合成されたバネ定数の結果を示す。
図6より、低剛性係留索7bの割合が少なく、高剛性係留索7aの割合が多いほど、合成されたバネ定数は非線形的に大きくなる。例えば、図示の例のように、緊張係留浮体5が洋上の波周期とのロール・ピッチ運動との共振を回避するために、仮に20,000kN/m以上のバネ定数が必要であるとすると、低剛性係留索7bの長さは、25m以下にすることで、波周期とロール-ピッチ運動との共振を回避することができる。
【0050】
以上のように、緊張係留索7の伸び及びバネ定数の検討から、緊張係留索7の全長が50mの場合における低剛性係留索7bの長さは17mから25m(34%~50%)の範囲に設定することで、設置精度要求の緩和と、緊張係留浮体5の共振回避とを両立することが可能である。
【0051】
本実施形態においては、水深が深く緊張係留索7の全長がより長くなると、緊張係留浮体5の固有振動数F0(Hz)は低くなる。この場合には、洋上の波周期との共振回避のために、緊張係留索7の全長50mの場合における高剛性係留索7aの割合を大きくしてもよい。本実施形態において、高剛性係留索7aの割合が大きくなることによる施工設置精度の要求については、高剛性係留索7aも全長に比例して伸びるので、高剛性係留索7aの割合を大きくしても、施工設置精度の要求は緩和できる。
【0052】
以上より、水深が深く緊張係留索7の全長が長くなるほど、低剛性係留索7bの好ましい長さは短く(比率も低く)なっていくため、高剛性係留索の割合は、水深が深くなればなるほど、長さは長く(比率も高く)することが可能であるので、低剛性係留索の長さを短くすることができる。
【0053】
一方、
図5、
図6に示す実施形態では、水深(海底係留部から浮体の接続部までの距離)が約50mの場合における緊張係留索7における高剛性係留索7aと低剛性係留索7bとの割合を示しているが、水深が浅くなった場合は、高剛性係留索7aの割合を減らし、低剛性係留索7bの割合を増やすこともできる。
【0054】
以上、実施形態を参照して本発明を説明したが、本発明は実施形態に限定されない。当業者であれば、本発明の技術思想の範囲内において各種変形例及び改良例に想到するのは当然のことであり、これらも本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0055】
1 :洋上風力発電設備
3 :風力発電設備
31 :タワー
33 :ナセル
35 :ボス
37 :ブレード
5 :緊張係留浮体
5a :フランジ部
5b :接続部
51、52、53 :カラム
54、55、56 :梁
57、58、59 :ポンツーン
7 :緊張係留索
7a :高剛性係留索
70a :保護層
71a :素線
7b :低剛性係留索
7c :連結具
9 :海底係留部
101 :海面
103 :海底