(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025095454
(43)【公開日】2025-06-26
(54)【発明の名称】複数の線状体が交差した構造体の線状体の張力及び曲げ剛性の算定方法
(51)【国際特許分類】
G01L 5/102 20200101AFI20250619BHJP
G01L 1/10 20060101ALI20250619BHJP
【FI】
G01L5/102
G01L1/10 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023211465
(22)【出願日】2023-12-14
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 1.令和5年度土木学会全国大会での発表 集会名:令和5年度土木学会全国大会 開催日:令和5年9月11日~15日 2.前記土木学会全国大会の予稿集への掲載 刊行物名:参加者向け講演概要集 発行年月日:令和5年8月1日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 1.冬季合同ゼミでの発表 集会名:京都大学・金沢大学・岐阜大学・神戸大学・福井高専冬季合同ゼミ 開催日:令和4年12月17日,18日 2.前記冬季合同ゼミの予稿集への掲載 刊行物名:金沢大学・京都大学・神戸大学・岐阜大学・福井高専冬季合同ゼミ予稿集 京都大学 発行年月日:令和4年12月17日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 1.公聴会での発表 集会名:社会基盤工学/都市社会工学専攻令和4年度修士論文公聴会 開催日:令和5年2月16日 2.社会基盤工学/都市社会工学専攻令和4年度修士論文への掲載 刊行物名:社会基盤工学/都市社会工学専攻令和4年度修士論文 発行年月日:令和5年2月
(71)【出願人】
【識別番号】000192626
【氏名又は名称】神鋼鋼線工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100137143
【弁理士】
【氏名又は名称】玉串 幸久
(72)【発明者】
【氏名】古川 愛子
(72)【発明者】
【氏名】高鶴 憲正
(72)【発明者】
【氏名】武市 知大
【テーマコード(参考)】
2F051
【Fターム(参考)】
2F051AB04
(57)【要約】
【課題】交差部において把持装置により把持された2つの線状体を有している構造体において、これらの線状体の張力等を算定する方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本出願は、互いに交差した2つの線状体を有している構造体において、これらの線状体の張力等を算定する算定方法を開示する。この算定方法は、各線状体の振動に基づいて各線状体のピーク振動数についてn個(nは、自然数)の実測値を得る実測工程を有している。そして、これらの実測値の中からm個(mは、nより小さな自然数)の実測値を選択しつつ、線状体の張力等が算定される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに交差するように延設された第1線状体及び第2線状体の交差部を把持装置により把持した構造体において、前記第1線状体及び前記第2線状体を包含した面に対して直角の面外方向における振動の固有振動数に基づき、前記第1線状体及び前記第2線状体の張力及び曲げ剛性を算定する方法であって、
前記第1線状体及び前記第2線状体のうち少なくとも一方の線状体の前記面外方向の振動が卓越する振動数についてn個(nは、自然数)の実測値を得る実測工程と、
前記交差部が前記把持装置により把持されていることを表す境界条件を用いて設定された算定基準式と、前記n個の実測値と、を用いて、前記n個の実測値から前記構造体の固有振動数を選択するとともに、各線状体の張力及び曲げ剛性を算定する算定工程と、を備え、
前記算定基準式は、各線状体の張力、曲げ剛性及び任意のモード次数の固有振動数間の関係を表すように、前記張力、前記曲げ剛性及び前記固有振動数の変数を含む関数が所定の値に等しくなる式として表されており、
前記算定工程は、
(i)前記関数の前記固有振動数の変数に各実測値を代入して、前記張力及び前記曲げ剛性の変数を含むn個の算定式を取得する段階と、
(ii)各算定式について、前記張力の変数及び前記曲げ剛性の変数に代入される代入値を変更しながら各算定式の値を前記所定の値に近づける段階と、
(iii)前記実測値の中で最小の実測値を構造体の固有振動数のうち1つとして決定する段階と、
(iv)前記最小の実測値に対応する算定式の値と前記所定の値との差、並びに、前記最小の実測値を除く(n-1)個の実測値に対する各算定式のうち前記所定の値に近い値が得られた(m-1)個(mは、nより小さい自然数)の算定式の値と前記所定の値との差の二乗和が小さくなるときの前記張力の前記変数及び前記曲げ剛性の前記変数への代入値を前記張力及び前記曲げ剛性として算定する段階と、を含んでいる、線状体の張力及び曲げ剛性の算定方法。
【請求項2】
前記境界条件は、前記交差部において前記第1線状体及び前記第2線状体に作用する力が釣り合うことを表わすように、前記把持装置の質量の変数を含んでいる釣合式を用いて設定されており、
前記算定基準式は、各線状体がi次モードで振動しているときにおける張力、曲げ剛性、固有振動数及び前記把持装置の質量間の関係を表すように、前記張力、前記曲げ剛性、前記固有振動数及び前記把持装置の質量の変数を含む関数が所定の値に等しくなる式として表されており、
前記n個の算定式を取得する段階において、前記把持装置の質量の値を前記把持装置の質量の変数に代入する、請求項1に記載の線状体の張力及び曲げ剛性の算定方法。
【請求項3】
前記構造体は、前記第1線状体及び前記第2線状体を包含した前記面内において延設されて、前記第2線状体とは異なる位置で前記第1線状体と交差する第3線状体と、前記第1線状体と前記第3線状体との交差部を把持する他の把持装置と、を含んでおり、
前記算定基準式は、前記第1線状体と前記第2線状体との前記交差部が前記把持装置により把持されていることを表す前記境界条件と、前記第1線状体と前記第3線状体との交差部が前記他の把持装置により把持されていることを表す境界条件と、を用いて設定されており、
前記実測工程では、前記第1線状体乃至前記第3線状体のうち少なくとも1つの線状体の前記面外方向の振動が卓越する振動数についてn個(nは、自然数)の実測値を取得し、
前記算定工程は、
(i)前記算定基準式の前記固有振動数の変数に、各実測値を代入して、n個の算定式を取得する段階と、
(ii)各算定式について、前記張力の変数及び前記曲げ剛性の変数に代入される代入値を変更しながら、前記所定の値に最も近くなるときの算定式の値をn個取得する段階と、
(iii)前記実測値の中で最小の実測値を構造体の固有振動数のうち1つとして決定する段階と、
(iv)前記最小の実測値に対応する算定式の値と前記所定の値との差、並びに、前記最小の実測値を除く(n-1)個の実測値に対する各算定式のうち前記所定の値に近い値が得られた(m-1)個(mは、nより小さい自然数)の算定式の値と前記所定の値との差の二乗和が小さくなるときの前記張力の前記変数及び前記曲げ剛性の前記変数への代入値を各線状体の前記張力及び前記曲げ剛性として算定する段階と、を含んでいる、請求項1に記載の線状体の張力及び曲げ剛性の算定方法。
【請求項4】
前記算定基準式は、モード次数の変数を含むことなく、張力、曲げ剛性及び任意のモード次数の固有振動数間の関係を表している、請求項1又は2に記載の線状体の張力及び曲げ剛性の算定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、互いに交差するように延設された複数の線状体の交差部を把持装置により把持した構造体において、これらの線状体の張力及び曲げ剛性の算定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1では、互いに交差するように延設された複数の線状体の交差部を把持装置により把持した構造体において、これらの線状体の張力を算定している。この張力の算定において、加速度センサをこれらの線状体に設置してこれらの線状体の振動が卓越する振動数が実測される。そして、実測された振動数がこれらの線状体の固有振動数として利用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
単数の線状体だけを有している構造体では、この線状体の軸に対して直角の軸直角方向の固有振動数は、軸直角方向であれば、どの方向に加速度センサを設置しても理論上同じ固有振動数を計測し得る。しかし、互いに交差するように延設された複数の線状体の交差部を把持装置により把持した構造体は、単数の線状体だけを有している構造体よりも複雑であり、振動の方向により、固有振動数が相違し得る。すなわち、複数の線状体を包含している面内における面内方向と、この面に対して直角の面外方向と、では、固有振動数が相違し得る。仮に、面外方向の固有振動数を測定する目的で加速度センサを設置したとしても、加速度センサの設置向きの誤差に起因して、計測された振動波形に面外方向だけでなく面内方向の振動が含まれ得る。この場合、面外方向の固有振動数の利用を前提とした算定手法により算定された張力は、真値から大きく離れ得る。
【0005】
本発明は、互いに交差するように延設された複数の線状体の交差部を把持装置により把持した構造体において、この構造体の線状体の張力及び曲げ剛性の算出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一の局面に係る算定方法は、互いに交差するように延設された第1線状体及び第2線状体の交差部を把持装置により把持した構造体において、第1線状体及び第2線状体を包含した面に対して直角の面外方向における振動の固有振動数に基づき、第1線状体及び第2線状体の張力及び曲げ剛性を算定するために利用可能である。この算定方法は、第1線状体及び第2線状体のうち少なくとも一方の線状体の面外方向の振動が卓越する振動数についてn個(nは、自然数)の実測値を得る実測工程と、交差部が把持装置により把持されていることを表す境界条件を用いて設定された算定基準式と、n個の実測値と、を用いて、n個の実測値から構造体の固有振動数を選択するとともに、各線状体の張力及び曲げ剛性を算定する算定工程と、を備えている。算定基準式は、各線状体の張力、曲げ剛性及び任意のモード次数の固有振動数間の関係を表すように、張力、曲げ剛性及び固有振動数の変数を含む関数が所定の値に等しくなる式として表されている。算定工程は、(i)関数の固有振動数の変数に各実測値を代入して、張力及び曲げ剛性の変数を含むn個の算定式を取得する段階と、(ii)各算定式について、張力の変数及び曲げ剛性の変数に代入される代入値を変更しながら各算定式の値を所定の値に近づける段階と、(iii)実測値の中で最小の実測値を構造体の固有振動数のうち1つとして決定する段階と、(iv)最小の実測値に対応する算定式の値と所定の値との差、並びに、最小の実測値を除く(n-1)個の実測値に対する各算定式のうち所定の値に近い値が得られた(m-1)個(mは、nより小さい自然数)の算定式の値と所定の値との差の二乗和が小さくなるときの張力の前記変数及び曲げ剛性の前記変数への代入値を張力及び曲げ剛性として算定する段階と、を含んでいる、を含んでいる。
【0007】
単数の線状体だけを有する構造体では、この線状体の振動が卓越する振動数の実測値は、この線状体の固有振動数として取り扱い得る。しかし、第1線状体及び第2線状体の交差部を把持装置が把持している構造体では、第1線状体及び第2線状体を包含した面内における面内方向の固有振動数と、この面に対して直角の面外方向の固有振動数と、が相違し得る。そして、構造体の面外方向の固有振動数を得られるように、第1線状体及び第2線状体のうち少なくとも一方の線状体の面外方向の振動が卓越する振動数が実測されたとしても、この実測値が面内方向の振動の影響を受け、面外方向の固有振動数を精度よく表しているとは限らない。すなわち、これらの実測値の中には、構造体の固有振動数の真値から大きく外れたものが含まれ得る。上述の構成では、固有振動数の真値から大きく外れた実測値を除外するように、算定工程が行われる。
【0008】
算定工程では、算定基準式が用いられるが、この算定基準式は、第1線状体及び第2線状体の交差部が把持装置により把持されていることを表す境界条件を用いて設定されている。このため、算定基準式は、第1線状体及び第2線状体が交差部において一体的に振動するという振動態様を表すことができる。
【0009】
この算定基準式は、張力、曲げ剛性及び固有振動数の変数を含む関数が所定の値に等しくなる式として表される。固有振動数の変数に面外方向の振動が卓越する振動数のn個の実測値それぞれを代入することにより、n個の算定式を得ることができる。これらの算定式には、張力の変数及び曲げ剛性の変数が含まれる。これらの変数に代入される代入値を変更することにより、算定式の値を変動させることができる。なお、n個の実測値のうち最小のものは、張力等の算定への影響が大きいので、構造体の固有振動数のうち1つとして選択される。
【0010】
算定式に代入された振動数の実測値が構造体の固有振動数の真値に近ければ、算定式の値は、算定基準式がとる所定の値に近づき得る。一方、算定式に代入された実測値が構造体の固有振動数の真値から大きく外れていれば、この算定式がとる値は、固有振動数の真値に近い実測値を代入することにより得られた算定式がとる値ほどには所定の値に近づかない。このため、算定基準式がとる所定の値に近い値が得られた(m-1)個(mは、nより小さな自然数)の算定式に対応する実測値を構造体の固有振動数として選択する。言い換えると、残りの算定式(すなわち、(n-m)個の算定式)に対応する実測値は、固有振動数の真値から大きく外れている可能性が高いので、これらの実測値を排除した上で、張力及び曲げ剛性が算定される。
【0011】
張力及び曲げ剛性の算定において、選択された固有振動数に対応する算定式の値と所定の値との差の二乗和が小さければ小さいほど、張力及び曲げ剛性に代入された値が真値に近似していると考えられるので、この二乗和が小さくなるときの張力の変数及び曲げ剛性の変数への代入値が張力及び曲げ剛性として算定される。
【0012】
上述の構成に関して、境界条件は、交差部において第1線状体及び第2線状体に作用する力が釣り合うことを表わすように、把持装置の質量の変数を含んでいる釣合式を用いて設定されていてもよい。算定基準式は、各線状体がi次モードで振動しているときにおける張力、曲げ剛性、固有振動数及び把持装置の質量間の関係を表すように、張力、曲げ剛性、固有振動数及び把持装置の質量の変数を含む関数が所定の値に等しくなる式として表されていてもよい。n個の算定式を取得する段階において、把持装置の質量の値を把持装置の質量の変数に代入してもよい。
【0013】
上述の構成では、釣合式は、交差部において第1線状体及び第2線状体に作用する力が釣り合うことを表わしている。したがって、この釣合式を用いて設定された算定基準式は、第1線状体及び第2線状体が交差部において一体的に振動するという振動態様を表すことができる。
【0014】
釣合式は、把持装置の質量の変数を含んでいるので、この釣合式を用いて設定された算定基準式も把持装置の質量の変数を含んだ形で表される。この変数には、把持装置の質量の値が代入されるので、張力及び曲げ剛性は、把持装置の質量を考慮して精度よく算定される。
【0015】
上述の構成に関して、構造体は、第1線状体及び第2線状体を包含した面内において延設されて、第2線状体とは異なる位置で第1線状体と交差するように延設された第3線状体と、第1線状体と第3線状体との交差部を把持する他の把持装置と、を含んでいてもよい。算定基準式は、第1線状体と第2線状体との交差部が把持装置により把持されていることを表す境界条件と、第1線状体と第3線状体との交差部が他の把持装置により把持されていることを表す境界条件と、を用いて設定されていてもよい。実測工程では、第1線状体乃至第3線状体のうち少なくとも1つの線状体の面外方向の振動が卓越する振動数についてn個(nは、自然数)の実測値を取得してもよい。算定工程は、(i)関数の固有振動数の変数に各実測値を代入して、張力及び曲げ剛性の変数を含むn個の算定式を取得する段階と、(ii)各算定式について、張力の変数及び曲げ剛性の変数に代入される代入値を変更しながら各算定式の値を所定の値に近づける段階と、(iii)実測値の中で最小の実測値を構造体の固有振動数のうち1つとして決定する段階と、(iv)最小の実測値に対応する算定式の値と所定の値との差、並びに、最小の実測値を除く(n-1)個の実測値に対する各算定式のうち所定の値に近い値が得られた(m-1)個(mは、nより小さい自然数)の算定式の値と所定の値との差の二乗和が小さくなるときの張力の前記変数及び曲げ剛性の前記変数への代入値を各線状体の張力及び曲げ剛性として算定する段階と、を含んでいる、を含んでいてもよい。
【0016】
上述の構成では、第2線状体だけでなく第3線状体もが第1線状体に交差している構造体においても、張力及び曲げ剛性が算定され得る。
【0017】
上述の構成に関して、算定基準式は、モード次数の変数を含むことなく、張力、曲げ剛性及び任意のモード次数の固有振動数間の関係を表していてもよい。
【0018】
上述の構成では、算定基準式は、モード次数の変数を含んでいないので、ピーク振動数の実測値とモード次数とを対応付けることなく、算定基準式中の関数に振動数の実測値を代入して、n個の算定式を取得することができる。
【発明の効果】
【0019】
上述の技術は、互いに交差するように延設された複数の線状体の交差部を把持装置により把持した構造体において、構造体の線状体の張力及び曲げ剛性を精度よく算定することを可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】2つの線状体が交差した構造を有している構造体の概略図である。
【
図2】線状体を一次元梁としてモデル化した振動モデルの概略図である。
【
図3】線状体の振動の時刻歴応答値に対するフーリエ変換を行って得られたデータである。
【
図4】線状体の固有振動数の探索処理を表しているグラフである。
【
図5】3つの線状体が交差した構造を有している構造体の概略図である。
【
図6】線状体を一次元梁としてモデル化した振動モデルの概略図である。
【
図7】線状体を一次元梁としてモデル化した振動モデルの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<第1実施形態>
図1は、2つの線状体121,122(第1線状体及び第2線状体)が互いに交差した構造を有している構造体100の概略的な平面図である。線状体121,122として、橋梁用のケーブルが用いられている。線状体121,122は、張力を与えられた状態で固定されている。線状体121,122それぞれの両端部は、固定端になるように支持されている。
【0022】
線状体121,122の交差部には、把持装置130が取り付けられている。把持装置130は、線状体121,122の交差部においてこれらの線状体121,122を把持するように構成されている。したがって、交差部において、両線状体121,122の振動振幅及び振動方向は等しくなる。
【0023】
交差部に取り付けられた把持装置130により、線状体121,122はそれぞれ、2つのスパンに分けられる。
図1における線状体121の左端から把持装置130までの線状体121の長さ部分を、以下の説明では、「スパン171」と称する。
図1における線状体121の右端から把持装置130までの線状体121の長さ部分を、以下の説明では、「スパン172」と称する。
図1における線状体122の左端から把持装置130までの線状体121の長さ部分を、以下の説明では、「スパン173」と称する。
図1における線状体121の右端から把持装置130までの線状体122の長さ部分を、以下の説明では、「スパン174」と称する。
【0024】
線状体121のスパン171には、加速度センサ141が取り付けられており、線状体122のスパン173には、加速度センサ143が取り付けられている。加速度センサ141,143は、線状体121,122のうち少なくとも一方に与えられた衝撃によって線状体121,122に生じた振動の加速度を検出するように構成されている。なお、本実施形態では、線状体121,122は、線状体121,122を含む面に対して直角の方向(
図1の紙面に直角の方向)において加振される。以下の説明では、線状体121,122を含む面に対して直角の方向を「面外方向」と称する。
【0025】
加速度センサ141,143は、データ収集装置160(たとえば、パーソナルコンピュータ)に電気的に接続され、加速度センサ141,143によって取得された加速度のデータは、時刻歴応答値としてデータ収集装置160に蓄積される。データ収集装置160は、加速度のデータに対して所定の解析処理を行うように構成され、この解析処理を通じて線状体121,122の固有振動数(面外方向の固有振動数)の実測値のデータが得られる。得られた固有振動数のデータに基づき、線状体121,122それぞれの張力等が算定される。
【0026】
固有振動数の実測データを得るために、データ収集装置160は、加速度のデータに対してフーリエ解析処理を実行してもよい。この場合、面外方向における線状体121,122の振動が卓越する複数の振動数(すなわち、振動強度がピークとなって現れる複数のピーク振動数)のデータが取得され得る。これらの振動数が張力等の算定において固有振動数として取り扱われ得る。しかし、
図1に示す構造体100は、単一の線状体が張設された構造体よりも複雑であり、面外方向における固有振動数は、線状体121,122が包含される面内の方向における固有振動数とは相違し得る。このため、加速度センサ141,143が精度よく線状体121,122に取り付けられていなければ、得られたピーク振動数の実測値が線状体121,122の面外方向における固有振動数を表していないことがあり得る。このため、取得されたピーク振動数の中から線状体121,122の固有振動数を選択した上で、線状体121,122の張力等を算定する算定工程が行われる。
【0027】
<算定基準式の導出>
上述の算定工程のために、線状体121,122に対する振動方程式に基づく算定基準式が導出される。なお、算定基準式は、固有振動数、張力及び曲げ剛性といった変数を含む関数が所定の値に等しくなるという式で表される。算定基準式の関数がとる所定の値を基準として、ピーク振動数の実測値の中から真値に近い固有振動数が選択される。
【0028】
算定基準式は、
図2に示すように、線状体121,122それぞれを、両端が固定端になっている一次元梁としてモデル化することにより設定可能である。
図2において、下付文字kは、1又は2の値をとる。以下の説明において、「線状体k」との用語は、線状体121,122のうち一方を意味しており、「k」が1の値をとるとき、「線状体k」との用語は、線状体121を意味している。また、「k」が2の値をとるとき、「線状体k」との用語は、線状体122を意味している。
【0029】
図2において、線状体k上に交差部131が示されている。交差部131は、線状体121,122が交差している部分(すなわち、
図1の把持装置130の把持位置)を意味している。以下の説明において、線状体kの左端から交差部131までのスパン(すなわち、線状体121,122のスパン171,173)の長さをL
k1とする。交差部131から線状体kの他端部までのスパン(すなわち、線状体121,122のスパン172,174)の長さをL
k2とする。線状体kの全長(L
k1+L
k2)をL
kとする。
【0030】
図2において、線状体kの左端を原点として右方に延びるx
k1軸と、交差部131を原点として右方に延びるx
k2軸と、が設けられている。また、
図2の紙面に対して直角の向きを面外方向とし、この方向における線状体kの変位量をw
kdで示す。下付文字dは、線状体kのスパンを示すために用いられており、1又は2の値をとる。1の値をとる下付文字dは、線状体kの左側のスパンを示している。2の値をとる下付文字dは、線状体kの右側のスパンを示している。すなわち、変位量「w
11」は、線状体121のスパン171の面外方向における変位量を示している。変位量「w
12」は、線状体121のスパン172の面外方向における変位量を示している。変位量「w
21」は、線状体122のスパン173の面外方向における変位量を示している。変位量「w
22」は、線状体122のスパン174の面外方向における変位量を示している。
【0031】
時刻tにおける線状体kの振動方程式は、線状体kを張力がかかったオイラーベルヌーイ梁とみなすと、以下のように与えられる。
【0032】
【0033】
数1の振動方程式を変数分離法で解くと、以下の関係式が得られる。
【0034】
【0035】
数2を上述の振動方程式(数1)に代入すると、モード関数Wkd(xkd)の一般解は、以下のように表され得る。
【0036】
【0037】
線状体kの両端は、固定端であるので、線状体kの両端における変位及び撓み角は0である。したがって、線状体kの両端における境界条件は、以下のように与えられる。
【0038】
【0039】
交差部131において、左側のスパン及び右側のスパンの変位、撓み角及び曲げモーメントは互いに等しい。したがって、交差部131における変位、撓み角及び曲げモーメントについて、以下の境界条件式が得られる。
【0040】
【0041】
交差部131が把持装置130によって把持されている場合、交差部131では、線状体1及び線状体2の変位は等しく、これらに作用する力も釣り合っている。すなわち、これらの関係は、交差部131が把持装置130によって把持されていることを表す境界条件になる。したがって、線状体1及び線状体2について、以下の境界条件式が得られる。なお、以下の力の釣り合いの式は、把持装置130の質量mcの変数を含んでいるので、把持装置130の質量mcが考慮される。
【0042】
【0043】
数4~6は、数7の行列で表される。なお、数7中の行列Dは、16行16列の行列である。この行列の第1行~第7行は、線状体1に関する方程式の係数であり、第8行~第14行は、線状体2に関する方程式の係数である。第15行は、数6の交差部131における変位に関する境界条件式の係数であり、第16行は、数6の交差部131における力の釣り合いに関する境界条件式の係数である。これらの係数を数9~数24に示す。なお、数9~数24に示されていない行列成分は、全て0である。
【0044】
また、以下の行列Zは、未知数により構成されるベクトルであり、このベクトルを数8に示す。
【0045】
【0046】
【0047】
行列Dのi行,k列の成分を、行列D(i,j)と表記する。この表記を用いて、行列Dの成分を以下に示す。
【0048】
【0049】
【0050】
【0051】
【0052】
【0053】
【0054】
【0055】
【0056】
【0057】
【0058】
【0059】
【0060】
【0061】
【0062】
【0063】
【0064】
上述の数7中の未知数を減らすための演算を以下に説明する。行列Dの第i行~第j行,第k列~第l列を抜き出したものを、以下、行列D(i:j,k:l)と表す。
【0065】
線状体1についての7つの方程式について、行列D(1:7,1:8)と行列Z(1:8)との積は、0ベクトルである。この積を表す式を、以下の数25に示すように変形することができる。
【0066】
【0067】
数25により、7つの未知数は、1つの未知数に減らされ得る。
【0068】
線状体2についても、同様の変形を行い、未知数を低減することができる。すなわち、線状体2についての7つの方程式について、行列D(8:14,9:16)と行列Z(9:16)との積は、0ベクトルである。この積を表す式を、以下の数26に示すように変形することができる。
【0069】
【0070】
さらに、行列D(15:16,1:16)と行列Z(1:16)との積は、0ベクトルである。この積を表す式を、以下の数27に示すように変形することができる。
【0071】
【0072】
線状体1に関するZ(8)を乗じる係数は、以下の数28のように書き換えられる。また、線状体2に関するZ(16)を乗じる係数は、以下の数29のように書き換えられる。
【0073】
【0074】
【0075】
なお、数28及び数29中の関数fun1a,fun1b,fun2a及びfun2bについて、情報落ち、桁落ち又は無限大同士の割り算が生ずることを防止するための演算処理がなされてもよい。たとえば、これらの関数の分母及び分子を底eの指数関数でまとめた上で、分母の指数関数の中で底eの指数が最も大きくなる項で、分母及び分母を割ることにより、上述の演算処理における不都合を回避し得る。
【0076】
数25,数26,数28及び数29を用いて、数27は、以下の数30のように書き換え可能である。
【0077】
【0078】
この数30が0以外の解を持つためには、以下の数31が成り立つ必要がある。本実施形態では、数31の最下段の式を算定基準式として用いる。この算定基準式中のfun1a,fun1b,fun2a,fun2bは、線状体kがi次モードで振動しているときにおける線状体kの固有振動数fk
i、線状体kの張力Tk,曲げ剛性EkIk及び把持装置130の質量mcなどの変数を含んでいる。以下の算定基準式は、これらの変数を含む関数が所定の値(本実施形態では、0)に等しくなる式として表されており、線状体kの固有振動数fk
i、線状体kの張力Tk,曲げ剛性EkIk及び把持装置130の質量mcなどの間の関係を表している。なお、以下の算定基準式中のfun1a,fun1b,fun2a,fun2bは、線状体kの振動モードの変数を含んでいない。
【0079】
【0080】
(線状体の張力等を算定するための目的関数の導出)
数31の算定基準式は、線状体kの張力Tk及び曲げ剛性EkIkを算定するために利用される。すなわち、この算定に用いられる式は、以下のように定義され得る。
【0081】
【0082】
数32の式において、左辺に代入される値が全て真値であれば、左辺の値は、0になる。そして、左辺に代入される値が真値から外れれば外れるほど、左辺の値は、大きくなる。このような関係を利用して、線状体kの張力Tk及び曲げ剛性EkIkを算定するための目的関数Jは、以下のように設定され得る。この目的関数Jの値は、数31の算定基準式の左辺がとる値であるゼロと算定基準式の左辺の変数に数値を代入して得られた値との差の二乗和を表している。
【0083】
【0084】
<固有振動数、張力及び曲げ剛性を算定するための算定工程>
数33の目的関数の左辺の関数のfun1a,fun1b,fun2a,fun2b中には、以下の変数が含まれているが、モード次数iは変数として含まれていない。
・線状体kの全長:Lk
・交差部131の位置(すなわち、線状体kのスパンの長さ):Lk1,Lk2
・把持装置130の質量:mc
・線状体kの密度:ρk
・線状体kの断面積:Ak
・線状体kの固有振動数:fk
i
・線状体kの張力:Tk
・線状体kの曲げ剛性:EkIk
ここで、数33の目的関数Jの括弧内の式を、以下、算定式Giと称し、この算定式Giは、以下の数34のように定義され得る。
【0085】
【0086】
算定式G
i中の変数の中で、線状体kの全長L
k,交差部131の位置L
k1,L
k2,把持装置130の質量m
c,線状体kの密度ρ
k及び線状体kの断面積A
kは、
図1に示す構造体100の設計図等により得られる数値である。これらの数値は、高い精度を有していると考えられるので、算定工程では固定値として算定式G
iに代入される。
【0087】
線状体kの固有振動数の変数f
kには、
図1に示す構造体100の線状体121,122を実際に振動させることにより得られたピーク振動数が代入される(実測工程)。ピーク振動数は、例えば、以下のように取得される。
【0088】
すなわち、線状体121,122の加速度が加速度センサ141,143によって取得され、この加速度の時刻歴応答値がデータ収集装置160に蓄積される。データ収集装置160に蓄積された時刻歴応答値のデータに対して、フーリエ解析が行われると、例えば、
図3に示すような解析結果が得られる。
図3に示す解析結果からは、振動強度がピークになるピーク振動数(線状体kの固有振動数の実測値)が分かる。なお、1つの線状体のみを有している単純な構造体では、ピーク振動数は、この線状体の固有振動数としてそのまま取り扱われ得る。しかし、
図1に示す構造体100では、2つの線状体121,122が交差しており、これらの線状体121,122の振動形態は複雑である。このため、ピーク振動数がこれらの線状体121,122の固有振動数に近い値になっているとは限らない。
【0089】
使用者は、
図3に示す解析結果から、n個(たとえば、12個)のピーク振動数を取得する。好ましくは、
図3に示す解析結果において、最も小さなピーク振動数と、残りの小さなピーク振動数から(n-1)個のピーク振動数が取得される。これは、小さなピーク振動数は、低次の固有振動数を表している可能性が高く、低次の固有振動数ほど線状体121,122の張力T
kの算出精度に与える影響が大きいためである。
【0090】
図3に示す解析結果から得られたn個のピーク周波数それぞれを固有振動数の変数f
kに代入して、n個の算定式G
1~G
nが得られる。上述のように、線状体kの全長L
k等は、固定値であるので、算定式G
1~G
nの変数、すなわち、目的関数Jの変数は、線状体kの張力T
k及び曲げ剛性E
kI
kだけになる。張力T
k及び曲げ剛性E
kI
kに代入する数値を変化させつつ目的関数Jの最小値を探索する探索処理が行われる。たとえば、この探索処理に、MultiStart法が利用され得る。
【0091】
たとえば、目的関数Jの値は、線状体kの張力T
k及び曲げ剛性E
kI
kへの代入値により、
図4に示すように変動し得る。そして、
図4では、これらの代入値について、6通りの初期値が設定されている。そして、各初期値から線状体kの張力T
k及び線状体kの曲げ剛性E
kI
kへの代入値を増加及び減少させることにより、目的関数Jの4つ極小値が得られる。これらの極小値の中で最も小さな値が目的関数Jの最小値として記録される。
【0092】
目的関数Jに対する探索処理に当たって、以下の条件1又は2を満たすm個の算定式が用いられる。
【0093】
(条件1) 実測工程で得られたピーク振動数の中で最小の値を代入することにより得られた算定式(すなわち、算定式G1)。
【0094】
(条件2) 条件1を満たさないが、探索処理において、比較的ゼロに近い値が得られる(m-1)個の算定式。
【0095】
条件1を満たす算定式が用いられるのは、小さな振動数は、張力Tk及び曲げ剛性EkIkの算出への影響が大きいためである。好ましくは、モード次数1の振動を表すピーク振動数が用いられるが、このような振動数が実測工程で得られない場合には、得られたピーク振動数の中で最も小さなものが用いられ得る。
【0096】
条件2を満たす算定式が用いられるのは、算定式を得るために代入されたピーク振動数が固有振動数の真値に近いと考えられるからである。
【0097】
なお、数33の目的関数Jでは、「fun1a・fun2b」が分母になっているので、この目的関数Jは、「fun1a・fun2b」の値が0になる振動モードでは成立しない。しかし、「fun1a・fun2b」の値が0になる振動モードに対応するピーク振動数が目的関数Jに代入されると、上述の探索処理で得られる最小値は、他のピーク振動数が代入された場合の最小値よりも大きくなる。このため、n個のピーク振動数のうち比較的大きな最小値が得られたものを排除することにより、目的関数Jが成立する条件でのピーク振動数のみを固有振動数として取り扱うことが許容される。
【0098】
数31の算定基準式には、数6の境界条件式(交差部131における力の釣り合いに関する境界条件式)が用いられている。この境界条件式には、把持装置130の質量mcの変数が含まれている。このため、固有振動数fk
i及び張力Tk等の算定は、把持装置130の質量mcを考慮して行われる。したがって、固有振動数fk
iの値及び張力Tk等の値の精度が高くなり得る。なお、演算負荷を低減するために、質量mcが無視されてもよい。この場合、交差部131における力の釣り合いに関する境界条件式(数6)の左辺は、0の値としてもよい。
【0099】
図1では、加速度センサ141,143を用いて、線状体121,122それぞれのピーク振動数が測定されている。しかし、これらの線状体121,122は、把持装置130によって一体的に振動するので、ピーク振動数は、加速度センサ141,143の間で大きな差は生じないこともある。このため、線状体121,122のうち一方にのみ加速度センサが設置されていてもよい。そして、数33の目的関数J中の固有振動数の変数f
kには、同じ実測値が代入されてもよい。
【0100】
<第2実施形態>
第1実施形態では、構造体100は、2本の線状体121,122が交差した構造を有している。しかし、ニールセン橋梁では、
図5に示すように、3本の線状体121~123が交差する場合もあり得る。
図5の構造体100では、線状体122,123が互いに異なる位置で線状体121に交差している。そして、線状体121,122の交差部は、把持装置130によって把持されており、線状体121,123の交差部は、把持装置132によって把持されている。
【0101】
以下の説明では、これらの線状体121~123を記号kで表す。「k=1」のとき、線状体121を表す。「k=2」のとき、線状体122を表す。「k=3」のとき、線状体123を表す。
【0102】
線状体121(k=1)は、
図6に示すようにモデル化される。また、線状体122,123(k=2,3)は、
図7に示すようにモデル化される。線状体121,122の交差部は、
図6及び
図7において、符号「131」で示されており、線状体121,123の交差部は、
図6及び
図7において、符号「133」で示されている。
【0103】
図6及び
図7において、線状体121~123の両端部は、固定端になっている。このため、線状体121(k=1)について、以下の境界条件式が成り立つ。
【0104】
【0105】
また、交差部131では、以下の境界条件式が成り立つ。以下の境界条件式は、把持装置130が交差部131を把持していることを表している。
【0106】
【0107】
さらに、交差部133では、以下の境界条件式が成り立つ。以下の境界条件式は、把持装置132が交差部133を把持していることを表している。
【0108】
【0109】
交差部131における線状体121,122(k=1,2)間の関係を考慮すると、数38に示す境界条件式が成立する。なお、数38に示す境界条件式において、把持装置130の質量を変数mc1で表しており、この点を除いて、数38は、上述の数6と同じである。
【0110】
【0111】
数38と同様に、交差部133においては、数39に示す境界条件式が成立する。なお、数39に示す境界条件式において、把持装置132の質量mc2は、変数で表されている。
【0112】
【0113】
数36~数39の境界条件式を、第1実施形態と同様に、以下の行列で表す。以下の行列において、行列Dは、28行28列の行列であり、線状体121(k=1)に関する方程式の係数は、1~10行に記載される。また、線状体122(k=2)に関する方程式の係数は、11行~17行に記載される。そして、線状体123(k=3)に関する方程式の係数は、18行~24行に記載される。さらに、25行及び26行には、数38及び数39に示す「交差部131,133における変位に関する境界条件式」の係数が記載される。残りの27行及び28行には、数38及び数39に示す「交差部131,133における力の釣り合いに関する境界条件式」の係数が記載される。
【0114】
【0115】
数9~数15に示す行列成分は、数40の行列Dにそのまま適用可能であるので、残りの係数を以下の数41~数63に示す。なお、数9~数15及び数41~数63に示されていない行列成分は、全て0である。
【0116】
【0117】
【0118】
【0119】
【0120】
【0121】
【0122】
【0123】
【0124】
【0125】
【0126】
【0127】
【0128】
【0129】
【0130】
【0131】
【0132】
【0133】
【0134】
【0135】
【0136】
【0137】
【0138】
【0139】
上述の行列D中の未知数を減らすための演算を以下に説明する。行列Dの第i行~第j行,第k列~第l列を抜き出したものを、以下、行列D(i:j,k:l)と表す。
【0140】
線状体121(k=1)について、行列D(1:10,1:12)と行列Z(1:12)との積が0ベクトルであることを利用して、Z(1:10)={C111・・・C132}Tは、Z(11:12)={C133 C134}Tで表し得る。これにより、未知数は、2個に低減され得る。この未知数の低減処理のために、行列D(1:5,1:8)と行列Z(1:8)との積は、0ベクトルであることが利用される。この積を表す式は、以下の数64に示すように変形され得る。
【0141】
【0142】
また、行列D(6:10,1:12)と行列Z(1:12)との積は、0ベクトルであるので、この積を表す式は、以下の数65に示すように変形され得る。
【0143】
【0144】
数65の行列Z1は、5×5の行列であり、数64を適用すると、以下の数66が得られる。
【0145】
【0146】
ここで、数65を行列Z(6:10)について解くと、以下の数67が得られる。
【0147】
【0148】
さらに、行列Z(11:12)の係数を、以下のように、行列Z2で表す。
【0149】
【0150】
行列Z1,Z2を用いて、行列Z(1:5)及び行列Z(6:10)は、以下のように表される。
【0151】
【0152】
線状体122(k=2)についても、未知数を以下のように低減可能である。すなわち、行列D(11:17,13:20)と行列Z(13:20)との積が0ベクトルであるので、Z(13:19)={C211・・・C223}Tは、Z(20)=C224で表し得る。線状体122(k=2)についての未知数を低減するための演算処理を以下に示す。行列D(11:17,13:20)と行列Z(13:20)との積を表す式は、以下の数70に示すように変形され得る。
【0153】
【0154】
ここで、行列Z(20)の係数を、以下のように、行列Z3で表す。
【0155】
【0156】
そして、数69は、行列Z3を用いて、以下のように書き換えられる。
【0157】
【0158】
線状体123(k=3)についても、未知数を以下のように低減可能である。すなわち、行列D(18:24,21:28)と行列Z(21:28)との積は、0ベクトルであるので、Z(21:27)={C311・・・C323}Tは、Z(28)=C324で表し得る。線状体123(k=3)についての未知数を低減するための演算処理を以下に示す。行列D(18:24,21:28)と行列Z(21:28)との積を表す式は、以下の数73に示すように変形され得る。
【0159】
【0160】
ここで、行列Z(28)の係数を、以下のように、行列Z4で表す。
【0161】
【0162】
そして、数72は、行列Z4を用いて、以下のように書き換えられる。
【0163】
【0164】
さらに、行列D(25:28,1:28)と行列Z(1:28)との積は、0ベクトルである。この積を表す式を、以下の数76に示すように変形することができる。
【0165】
【0166】
上記の数76において、行列Z(11:12)は、線状体121(k=1)に関するものである。また、行列Z(20)は、線状体122(k=2)に関するものである。そして、行列Z(28)は、線状体123(k=3)に関するものである。これらの行列に乗じる係数を以下の数77に示すように置き換える。
【0167】
【0168】
そして、数76は、数69、数72、数75及び数77を用いて、以下のように書き換えられる。
【0169】
【0170】
なお、数78中の関数fun1a~fun1h,fun2a,fun2c,fun3b及びfun3dについて、情報落ち、桁落ち又は無限大同士の割り算が生ずることを防止するための演算処理がなされてもよい。たとえば、これらの関数の分母及び分子を底eの指数関数でまとめた上で、分母の指数関数の中で底eの指数が最も大きくなる項で、分母及び分母を割ることにより、上述の演算処理における不都合を回避し得る。
【0171】
上述の数78が0以外の解を持つためには、以下の数79が成り立つ必要がある。
【0172】
【0173】
数79を以下のように変形して、以下の算定基準式を得ることができる。なお、数79中の行列成分は、振動モードの次数の変数を含んでいない。このため、以下の算定基準式も振動モードの次数の変数を含まない。この算定基準式は、固有振動数の選択、並びに、張力及び曲げ剛性の算定に用いられる。
【0174】
【0175】
数80の算定基準式を用いて固有振動数が選択された場合には、固有振動数の真値から大きく外れたピーク振動数が固有振動数として用いられることが防止される。また、数80中の分母が0になる条件での振動モードに対応するピーク振動数が固有振動数として選択されることも防止される。
【0176】
また、数80の算定基準式の左辺を用いて、線状体121~123の張力等を算定するための目的関数Jが以下のように設定され得る。なお、張力等を算定するための算定工程は、第1実施形態の算定工程と同様である。算定工程には、上述の条件1又は2を満たす算定式が用いられるので、張力等は、精度よく算定され得る。
【0177】
【0178】
なお、数80に代えて、以下の算定基準式を数79から得ることも可能である。この算定基準式を用いて、第1実施形態の算定工程と同様の手法で張力及び曲げ剛性が算定されてもよい。
【0179】
【0180】
数82の算定基準式を用いて固有振動数が選択された場合にも、固有振動数の真値から大きく外れたピーク振動数が固有振動数として選択されることが防止される。また、数82中の分母が0になる条件での振動モードに対応するピーク振動数が固有振動数として選択されることも防止される。
【0181】
また、数82の算定基準式の左辺を用いて、線状体121~123の張力等を算定するための目的関数Jが以下のように設定され得る。なお、張力等を算定するための算定工程は、第1実施形態の算定工程と同様である。算定工程には、上述の条件1又は2を満たす算定式が用いられるので、張力等は、精度よく算定され得る。
【0182】
【0183】
第2実施形態において、線状体121~123それぞれについてピーク振動数が測定されてもよいし、これらの線状体121~123のうち1つについてピーク振動数が測定されてもよい。これらの線状体121~123のうち1つについてピーク振動数が測定される場合には、固有振動数の変数fkには、同じ実測値が代入されてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0184】
上述の実施形態に関連して説明された技術は、一次元梁としてモデル化可能な様々な線状体に作用している張力及び剛性の調査に好適に利用される。
【符号の説明】
【0185】
100・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・構造体
121~123・・・・・・・・・・・・・・・・線状体
130,132・・・・・・・・・・・・・・・・把持装置
131,133・・・・・・・・・・・・・・・・交差部