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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025098296
(43)【公開日】2025-07-02
(54)【発明の名称】積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 7/08 20060101AFI20250625BHJP
   B22F 7/04 20060101ALI20250625BHJP
   H01L 21/52 20060101ALI20250625BHJP
   B32B 37/00 20060101ALI20250625BHJP
【FI】
B22F7/08 C
B22F7/04 A
H01L21/52 E
B32B37/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022061104
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】根本 拓
(72)【発明者】
【氏名】西田 卓生
(72)【発明者】
【氏名】中山 秀一
(72)【発明者】
【氏名】木田 智士
【テーマコード(参考)】
4F100
4K018
5F047
【Fターム(参考)】
4F100AB01B
4F100AK01B
4F100AT00A
4F100AT00C
4F100BA03
4F100BA06
4F100BA07
4F100DE00B
4F100EJ21
4F100EJ42
4F100GB32
4F100GB41
4F100JB16B
4F100JJ01
4K018AB01
4K018BA01
4K018BA02
4K018BA03
4K018BA04
4K018BA08
4K018BA13
4K018BA20
4K018BB03
4K018BB04
4K018BC29
4K018CA08
4K018DA21
4K018DA33
4K018HA08
4K018JA36
4K018KA32
5F047BA37
5F047BA53
5F047BB03
(57)【要約】
【課題】機械的な加圧手段の使用をせずに、又は、被着体全体に圧力を加えて積層体が得られる積層体の製造方法の提供。
【解決手段】第1の被着体と第2の被着体との間に金属粒子及びバインダー成分を含有するフィルム状焼成材料をはさむことで積層体前駆体を得る第1工程と、前記積層体前駆体を加熱し、かつ、前記積層体前駆体が存在する雰囲気を加圧し、バインダー成分を分解及び気化する第2工程と、を含む積層体の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の被着体と第2の被着体との間に金属粒子及びバインダー成分を含有するフィルム状焼成材料をはさむことで積層体前駆体を得る第1工程と、
前記積層体前駆体を加熱し、かつ、前記積層体前駆体が存在する雰囲気を加圧し、バインダー成分を分解及び気化する第2工程と、
を含む積層体の製造方法。
【請求項2】
前記雰囲気の圧力を0.15MPa以上3.00MPa以下とする請求項1に記載の積層体の製造方法。
【請求項3】
前記第2工程が、前記積層体前駆体を、前記バインダー成分に含まれる樹脂の分解開始温度以上、前記金属粒子の融点未満の温度で加熱しながら、前記雰囲気を加圧することで第2積層体前駆体を得る第1処理と、
前記第2積層体前駆体を前記金属粒子の融点以上の温度で加熱する第2処理と、を含む請求項1又は請求項2に記載の積層体の製造方法。
【請求項4】
前記第2工程が、オートクレーブ内で行う工程である請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の積層体の製造方法。
【請求項5】
前記バインダー成分が、分解開始温度が200℃以下である樹脂を含有する請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の積層体の製造方法。
【請求項6】
前記バインダー成分が、熱可塑性樹脂を含有し、バインダー成分全体の量に占める熱可塑性樹脂の含有量の割合が、50質量%以上である請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の積層体の製造方法。
【請求項7】
前記第1の被着体が、半導体素子である請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車、エアコン、パソコン等の高電圧化及び高電流化に伴い、これらに搭載される半導体素子(例えば、パワーデバイス)の需要が高まっている。半導体素子は、高電圧及び高電流下で使用されることがあり、この場合、半導体素子から大きな熱が発生しやすい。そのため、半導体素子から発生する熱を効率的に放出することが必要となる。
従来、半導体素子から発生した熱を外部に放出するため、半導体素子の周りに放熱体(例えば、ヒートシンク)が取り付けられる場合がある。そこで、放熱体と半導体素子との間での熱伝導性が良好な積層体が得られる方法が要求されている。また、パワー半導体素子と基板との接合材料を、熱伝導性が高く、耐熱性の高い金属から形成したいという要望がある。
【0003】
例えば、特許文献1には、「焼結性金属粒子及びバインダー成分を含有し、貼付対象の半導体チップと同形もしくは略同形であってかつ同じ大きさのフィルム状焼成材料を、支持シート上に設ける工程と、前記支持シート上の前記フィルム状焼成材料を、基板に貼付する工程と、前記支持シートを、前記基板及び前記フィルム状焼成材料から剥離させる工程と、前記基板上の前記フィルム状焼成材料に、前記半導体チップの裏面側を向い合せに貼付する工程と、前記フィルム状焼成材料を200℃以上に加熱することで、前記半導体チップと前記基板とを焼結結合させる工程と、を含む積層体の製造方法。」が提案されており、さらに、「前記フィルム状焼成材料を200℃以上に加熱するとともに、5MPa以上で加圧する」ことが提案されている。
例えば、特許文献2には、「熱硬化性樹脂と、揮発成分と、導電性粒子とを含む熱硬化性シートであって、200mL/minの窒素ガス気流下で、10℃/minの昇温条件にて、室温から100℃まで昇温し、100℃で30min保持させたときの重量減少率W1が0.5質量%以下であり、200mL/minの窒素ガス気流下で、10℃/minの昇温条件にて、100℃から200℃まで昇温し、200℃で30min保持させたときの重量減少率W2が2質量%以上である熱硬化性シート。」が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2021/039565号
【特許文献2】特開2021-077765号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、積層体を加圧するに際し、5MPa以上の比較的高圧条件を採用し、このような条件の場合には、フリップチップボンダー又は平板プレス機等の機械的な加圧手段で加圧することが一般的である。しかしながら、機械的に加圧する方法に用いる装置は半導体加工の分野では一般的でなく、このような熱伝導性の接合材料を用いた半導体加工のために新規に装置を導入しなければならなかった。また、これらの機械的な加圧手段は、半導体素子の厚さ方向と平行な方向にのみ圧力を加え得るものであるという限界があった。
【0006】
本開示の一実施形態が解決しようとする課題は、機械的な加圧手段(例えば、平板プレス機)の使用をせずに、又は、被着体全体に圧力を加えて(すなわち、被着体の厚さ方向及び被着体の厚さ方向以外の方向に圧力を加えて)積層体が得られる積層体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示には、以下の実施態様が含まれる。
<1> 第1の被着体と第2の被着体との間に金属粒子及びバインダー成分を含有するフィルム状焼成材料をはさむことで積層体前駆体を得る第1工程と、
前記積層体前駆体を加熱し、かつ、前記積層体前駆体が存在する雰囲気を加圧し、バインダー成分を分解及び気化する第2工程と、
を含む積層体の製造方法。
<2> 前記雰囲気の圧力を0.15MPa以上3.00MPa以下とする<1>に記載の積層体の製造方法。
<3> 前記第2工程が、前記積層体前駆体を、前記バインダー成分に含まれる樹脂の分解開始温度以上、前記金属粒子の融点未満の温度で加熱しながら、前記雰囲気を加圧することで第2積層体前駆体を得る第1処理と、
前記第2積層体前駆体を前記金属粒子の融点以上の温度で加熱する第2処理と、を含む<1>又は<2>に記載の積層体の製造方法。
<4> 前記第2工程が、オートクレーブ内で行う工程である<1>~<3>のいずれか1つに記載の積層体の製造方法。
<5> 前記バインダー成分が、分解開始温度が200℃以下である樹脂を含有する<1>~<4>のいずれか1つに記載の積層体の製造方法。
<6> 前記バインダー成分が、熱可塑性樹脂を含有し、バインダー成分全体の量に占める熱可塑性樹脂の含有量の割合が、50質量%以上である<1>~<5>のいずれか1つに記載の積層体の製造方法。
<7> 前記第1の被着体が、半導体素子である<1>~<6>のいずれか1つに記載の積層体の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本開示の一実施形態によれば、機械的な加圧手段(例えば、平板プレス機)の使用をせずに、又は、被着体全体に圧力を加えて(すなわち、被着体の厚さ方向及び被着体の厚さ方向以外の方向に圧力を加えて)積層体が得られる積層体の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本開示の一実施形態に係る支持シート付フィルム状焼成材料の概略断面図である。
図2】本開示の他の一実施形態に係る支持シート付フィルム状焼成材料の概略断面図である。
図3】本開示の他の一実施形態に係る支持シート付フィルム状焼成材料の概略斜視図である。
図4】第1工程の概略を示す概略断面図である。
図5】第2工程の概略を示す概略断面図である。
図6】第2工程が第1処理及び第2処理を含む場合の第2工程の概略を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一例である実施形態について説明する。これらの説明および実施例は、実施形態を例示するものであり、発明の範囲を制限するものではない。
本明細書中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本明細書中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
【0011】
各成分は該当する物質を複数種含んでいてもよい。
組成物中の各成分の量について言及する場合、組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計量を意味する。
【0012】
<積層体の製造方法>
本開示に係る積層体の製造方法は、第1の被着体と第2の被着体との間に金属粒子及びバインダー成分を含有するフィルム状焼成材料をはさむことで積層体前駆体を得る第1工程と、積層体前駆体を加熱し、かつ、積層体前駆体が存在する雰囲気を加圧し、バインダー成分を分解及び気化する第2工程と、を含む。
【0013】
本開示に係る積層体の製造方法によれば、機械的な加圧手段の使用をせずに、又は、被着体全体に圧力を加えて(すなわち、被着体の厚さ方向及び被着体の厚さ方向以外の方向に圧力を加えて)積層体が得られる。
ここで、積層体とは、第1の被着体、焼結体、及び第2の被着体がこの順で積層された積層体を意味する。
また、積層体に含まれる焼結体とは、第1工程及び第2工程を経ることでフィルム状焼成材料に含まれるバインダー成分が分解及び気化し、フィルム状焼成材料に含まれる金属粒子同士が溶融及び結合することで得られるものである。
【0014】
第1工程によって、第1の被着体と第2の被着体との間に金属粒子及びバインダー成分を含有するフィルム状焼成材料をはさむことで積層体前駆体を得る。そして、第2工程において積層体前駆体を加熱しながら、積層体前駆体が存在する雰囲気の加圧を行うことで、フィルム状焼成材料に含まれるバインダー成分が分解及び気化し、フィルム状焼成材料から排され、かつ、フィルム状焼成材料に含まれる金属粒子同士が溶融及び結合することで焼結体を形成する。そして、当該焼結体が第1の被着体と第2の被着体とを接合することで第1の被着体、焼結体、及び第2の被着体がこの順で積層された積層体を得ることができる。
【0015】
以下に、本開示に係る積層体の製造方法の詳細について説明するが、これに限定されるものではない。
【0016】
(第1工程)
第1工程は、第1の被着体と第2の被着体との間に金属粒子及びバインダー成分を含有するフィルム状焼成材料をはさむことで積層体前駆体を得る工程である。
【0017】
-被着体-
第1の被着体、及び第2の被着体は特に限定されないが、例えば、半導体ウエハ、半導体素子、基板、リードフレーム、放熱体(ヒートシンク等)などが挙げられる。本開示に係るフィルム状焼成材料は、半導体素子と、他の部品と、を接合する用途に適用されることが好ましい。したがって、少なくとも第1の被着体が半導体素子であることが好ましい。
第1の被着体が半導体素子である場合、第2の被着体としては、基板、他の半導体素子、リードフレーム、放熱体などが挙げられる。
放熱体としては、例えば、銅板等の金属板からなるヒートシンクが挙げられ、また、ヒートパイプ等を用いることもできる。
【0018】
第1の被着体、及び第2の被着体の組み合わせとしては、第1の被着体が半導体素子であり、第2の被着体が基板又は他の半導体素子であることが好ましい。
特に、接合対象の半導体素子としてはパワー半導体素子(定格電流が1A以上の半導体素子)であることが好ましく、半導体ウエハとしてはパワー半導体素子用の半導体ウエハであることが好ましい。
本開示に係る積層体の製造方法によれば、高い熱伝導率を有する焼結体を有する積層体を得ることができる。このことから、本開示に係る積層体の製造方法によれば、半導体素子から発生する熱をより効率的に放出することができる積層体を得ることができる。
【0019】
-フィルム状焼成材料-
フィルム状焼成材料は、金属粒子及びバインダー成分を含有する。
・金属粒子
フィルム状焼成材料は、金属粒子を含有する。
金属粒子を含むことにより、第2工程を経ることで金属粒子同士が溶融及び結合し、焼結体が得られる。当該焼結体を形成することで、フィルム状焼成材料に接していた第1の被着体及び第2の被着体が接合される。
【0020】
金属粒子の材質は、銀、金、銅、鉄、ニッケル、アルミニウム、ケイ素、パラジウム、白金、チタン等の金属;これらの金属の酸化物;これらの金属の少なくとも2つを含む合金;チタン酸バリウム;等が挙げられる。
比較的低温で溶融が可能となるように融点を調整しやすい焼結体とする観点から、金属粒子は銀を含有することが好ましい。金属粒子における銀含有量は、金属粒子の20質量%以上が好ましく、30質量%以上がより好ましい。金属粒子は、銀及びその酸化物の少なくとも一方からなる銀粒子であってもよい。
【0021】
バインダー成分との相溶性向上の観点から、金属粒子の表面は有機物で被覆されていてもよい。
有機物としては、炭素数が1~12のアルコール分子から誘導生成されるアルコール分子誘導体、アミン分子誘導体などが挙げられる。
【0022】
金属粒子の形状は、球状、板状等のいずれでもよく、球状であることが好ましい。球状の金属粒子は、真体又は楕円体であってもよい。
【0023】
金属粒子の粒径は、後述する焼結性金属粒子と、非焼結性金属粒子の含有量の比率により異なるが、0.1nm以上10000nm以下であってもよく、0.3nm以上3000nm以下であってもよく、0.5nm以上1000nm以下であってもよい。
【0024】
なお、金属粒子の粒径は、電子顕微鏡で測定する。
金属粒子の粒径の測定方法は以下の手順である。
フィルム状焼成材料を電子顕微鏡で観測し、無作為に100個以上の金属粒子を選択する。選択した金属粒子の投影面積を算出し、投影面積に相当する円相当径をそれぞれ算出する。算出した円相当径の数平均値を金属粒子の粒径とする。
【0025】
金属粒子は粒径の異なる2種以上の金属粒子を含んでもよい。
具体的には、粒径が100nm以下の金属粒子、及び粒径が100nmを超える金属粒子を含んでもよい。
ここで、粒径が100nm以下の金属粒子を「焼結性金属粒子」と称する。
また、粒径が100nmを超える金属粒子を「非焼結性金属粒子」と称する。
金属粒子は、ナノレベルまでサイズが小さくなると、融点が次第に低くなる特徴(融点降下)を有するため、サイズの小さな金属粒子を選択することで、融点の低い金属粒子を得ることができる。金属粒子は、フィルム状焼成材料の焼結を低温で行う観点から、少なくとも一部の金属粒子は、融点降下が大きい焼結性金属粒子であることが好ましい。また、加熱加圧用フィルム状焼成材料の焼結後に、非焼結性金属粒子同士が、溶融した焼結性金属粒子と結合することにより、効率良く焼結体を得ることができる観点から、金属粒子は、焼結性金属粒子及び非焼結性金属粒子のいずれも含むことが好ましい。
【0026】
焼結性金属粒子の粒径は、フィルム状焼成材料を焼結する温度に応じて、適度な融点降下を起こさせるように選択すればよいが、0.1nm以上100nm以下であってもよく、0.3nm以上50nm以下であってもよく、0.5nm以上30nm以下であってもよい。
非焼結性金属粒子の粒径は、150nmを超え50000nm以下であってもよく、150nm以上10000nmであってもよく、180nm以上5000nm以下であってもよい。
【0027】
焼結性金属粒子の粒径は、既述の金属粒子の粒径の測定手順と同様に測定される。
なお、焼結性金属粒子の粒径の測定において、選択する金属粒子は、投影面積に相当する円相当径が100nm以下である金属粒子に限る。
【0028】
非焼結性金属粒子の粒径は、既述の金属粒子の粒径の測定手順と同様に測定される。
なお、非焼結性金属粒子の粒径の測定において、選択する金属粒子は、投影面積に相当する円相当径が100nmを超える金属粒子に限る。
【0029】
空隙の少ない焼結体としつつ、後述するように、フィルム状焼成材料を半導体素子の接合用とする場合に、半導体素子又は他の部品への焼結前における接着性を向上させる観点から、金属粒子の含有量(焼結性金属粒子及び非焼結性金属粒子の合計の含有量。以下同様とする。)は、フィルム状焼成材料全体に対して、50質量%以上98質量%以下であることが好ましく、70質量%以上97質量%以下であることがより好ましく、80質量%以上95質量%以下であることが更に好ましく、80質量%以上90質量%以下であることがより更に好ましい。
【0030】
加熱加圧用フィルム状焼成材料が、融点降下が大きい金属粒子を一定量含み、低温の焼結でも焼結体が形成されやすいようにする観点から、金属粒子が焼結性金属粒子を含む場合、焼結性金属粒子の含有量は、金属粒子の含有量に対して、20質量%以上100質量%以下であることが好ましく、30質量%以上95質量%以下であることがより好ましい。
【0031】
・バインダー成分
バインダー成分は樹脂を含有する。
熱硬化性樹脂と比較して、加熱により容易に分解し得る観点、加熱時に可塑化することにより焼結体に空隙が発生しにくい観点から、バインダー成分に含まれる樹脂は、熱可塑性樹脂であることが好ましい。
熱可塑性樹脂としては、ポリカーボネート樹脂(例えば、後述の特定樹脂)、アクリル樹脂、ポリ乳酸、エチルセルロース等のセルロース誘導体、ポリビニルアルコール等が挙げられる。
バインダー成分全体の量に占める熱可塑性樹脂の含有量の割合が、50質量%以上であることが好ましい。バインダー成分全体の量に占める熱可塑性樹脂の含有量の割合は、60質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましい。 また、積層体前駆体が存在する雰囲気を加圧する手段を採用しやすくする観点から、バインダー成分は、分解開始温度が200℃以下である樹脂(以下、「特定樹脂」とも称する)を含有することが好ましい。
【0032】
特定樹脂は、分解開始温度が200℃以下であるため、比較的温和な加熱条件でも容易に分解及び気化しやすくなる。そのため、積層体前駆体が存在する雰囲気を加圧する際に加圧装置であるオートクレーブ等を用いた場合であっても、分解及び気化させやすい。特定樹脂の分解開始温度は、好ましくは、80℃以上200℃以下であり、より好ましくは、100℃以上185℃以下である。
比較的温和な加熱条件で容易に分解及び気化しやすく、かつ、空隙の少ない焼結体を得やすいという観点から、既述した熱可塑性樹脂が特定樹脂に該当することが好ましい。
【0033】
また、フィルム状焼成材料中のバインダー成分が含有する樹脂の分解温度が200℃を超える場合、金属粒子の融点と、樹脂の分解温度と、の差が小さくなることがある。そうすると、バインダー成分の分解、及び金属粒子の溶融が同時に進行することがある。これにより、バインダー成分の大部分が分解した焼結体となる前に、バインダー成分を囲むように金属粒子同士が溶融して結合が形成された状態を形成しやすい。また、このような金属粒子の溶融状態を形成すると、金属粒子はともに溶融して結合をしているため、粒子の形状を保っておらず、融点が上昇している。そのため、このような溶融状態からバインダー成分が分解されて得られる焼結体は、バインダー成分が存在していた領域に由来する空隙を形成した不完全なものになることがあり、しかも、このような不完全な焼結体を再度溶融して空隙を排除し、金属同士を凝集させることは、金属の融点上昇により困難であった。
一方、特定樹脂の分解開始温度が200℃以下であると、金属粒子の融点と、特定樹脂の分解温度と、の差が大きくなる。よって、加熱及び加圧することでバインダー成分の分解及び気化が先に進行する。そうすると、金属粒子が密に集積し、金属粒子の集積体が得られる。集積体を更に加熱することで、金属粒子同士が溶融及び結合し、より完全な焼結体が得られる。
上記の通り分解開始温度が200℃以下であるフィルム状焼成材料であれば、金属粒子が密に集積した集積体が得られるため、バインダー成分を囲むように金属粒子同士が溶融して結合を形成しにくくなる。また、集積体に含まれる金属粒子は粒子の形状を維持しているため、金属粒子の融点が初期値より上昇しにくい。そのため、集積体に含まれる金属粒子は加熱により容易に融解し、空隙の少ない焼結体が得られ易くなる。
【0034】
樹脂の分解開始温度は示差熱熱重量計を用いて測定される値である。
示差熱-熱重量同時測定装置(例えば、島津製作所社製、DTG-60)を用い、窒素雰囲気下、20℃/minの昇温速度で室温(25℃)から400℃まで昇温して、熱分解挙動を測定する。分解開始温度は、試験加熱開始前の質量を通る横軸に平行な線と、分解曲線における屈曲点間の勾配が最大となるように引いた接線との交点における温度とする。
【0035】
分解開始温度が低い樹脂が得られやすいという観点から、特定樹脂は、脂肪族ポリカーボネートであることが好ましい。
脂肪族ポリカーボネートとは、ポリマー主鎖が脂肪族炭化水素基、及び炭酸基(本明細書において、-O-CO-O-で表される基を意味する)からなるポリカーボネートである。
脂肪族ポリカーボネートは側鎖を有していてもよい。
【0036】
ポリマー主鎖に含まれる脂肪族炭化水素基の炭素数は、1以上6以下であることが好ましく、2以上4以下であることが好ましく、2又は3であることが更に好ましい。
【0037】
特定樹脂の分解開始温度をより低い値とする観点から、特定樹脂は、有機酸基を含有する脂肪族ポリカーボネートであることが好ましい。
有機酸基としては、カルボキシ基、及びスルホ基が挙げられる。
脂肪族ポリカーボネートの合成手順を簡便化し、取扱い性を向上させる観点から、有機酸基はカルボキシ基であることが好ましい。
【0038】
特定樹脂が有機酸基を含有することで、有機酸基に由来する酸性が特定樹脂の分解を促進する。そのため分解開始温度がより低くなる。
【0039】
脂肪族ポリカーボネートの合成手順を簡便化する観点から、有機酸基を含有する脂肪族ポリカーボネートは、下記式(0)で表される基を含有する脂肪族ポリカーボネートであることが好ましい。
式(0)*-(CH-COOH
式(0)中、mは、1以上の整数を表す。なお、*は、結合手を表す。
【0040】
側鎖が脂肪族ポリカーボネートの物性に与える影響を小さくする観点から、mは、1以上4以下であることが好ましく1以上3以下であることがより好ましく、1又は2であることが更に好ましい。
【0041】
より具体的には、有機酸基を含有する脂肪族ポリカーボネートは、下記式(1)で表される構成単位を含むことが好ましい。
【0042】
【化1】
【0043】
式(1)中、R、R及びRはそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1~10のアルキル基又は炭素数6~20のアリール基であり、nは1又は2である。
【0044】
式(1)中、アルキル基の炭素数は、1~10であり、1~4であることが好ましい。
アルキル基としては、直鎖又は分岐の置換又は非置換のアルキル基が挙げられる。
アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基等が挙げられる。
アルキル基は、アルコキシ基、エステル基、シリル基、スルファニル基、シアノ基、ニトロ基、スルホ基、ホルミル基、アリール基、及びハロゲン原子等から選択される置換基で置換されていてもよい。
【0045】
式(1)中、アリール基の炭素数は、6~20であり、6~14であることが好ましい。
アリール基としては、例えば、フェニル基、インデニル基、ナフチル基、テトラヒドロナフチル基等が挙げられる。
アリール基は、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基等のアルキル基;フェニル基、ナフチル基等の別のアリール基、アルコキシ基、エステル基、シリル基、スルファニル基、シアノ基、ニトロ基、スルホ基、ホルミル基、ハロゲン原子等の置換基で置換されていてもよい。
【0046】
分子中に存在する有機酸基の数を調整する観点から、有機酸基を含有する脂肪族ポリカーボネートは、上記式(1)で表される構成単位と共に、下記式(2)で表される構成単位を含むことが好ましい。
【0047】
【化2】
【0048】
式(2)中、R、R及びRはそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1~10のアルキル基又は炭素数6~20のアリール基であり、Xは、水素原子、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~10のハロアルキル基、エーテル結合含有基、エステル結合含有基、又はアリル基である。
【0049】
式(2)中、アルキル基の炭素数は、1~10であり、1~4であることが好ましい。
アルキル基としては、直鎖又は分岐の置換又は非置換のアルキル基が挙げられる。
アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基等が挙げられる。
アルキル基は、例えば、アルコキシ基、エステル基、シリル基、スルファニル基、シアノ基、ニトロ基、スルホ基、ホルミル基、アリール基、ハロゲン原子等で置換されていてもよい。
【0050】
式(2)中、アリール基の炭素数は、6~20であり、6~14であることが好ましい。
アリール基としては、例えば、フェニル基、インデニル基、ナフチル基、テトラヒドロナフチル基等が挙げられる。
アリール基は、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基等のアルキル基;フェニル基、ナフチル基等の別のアリール基;アルコキシ基、エステル基、シリル基、スルファニル基、シアノ基、ニトロ基、スルホ基、ホルミル基、ハロゲン原子等の置換基で置換されていてもよい。
【0051】
式(2)中、Xは、水素原子、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~10のハロアルキル基、エーテル結合含有基、エステル結合含有基、又はアリル基であり、Xは、水素原子又は炭素数1~10のアルキル基が好ましく、水素原子又はメチル基がより好ましい。
【0052】
Xで表される炭素数1~10のアルキル基は、好ましくは、炭素数1~4のアルキル基である。炭素数1~4のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基等が挙げられる。
【0053】
ハロアルキル基の炭素数は、1~10であり、1~4であることが好ましい。ハロアルキル基としては、フルオロメチル基、クロロメチル基、ブロモメチル基、ヨードメチル基等が挙げられる。
【0054】
エーテル結合含有基としては、炭素数1~4のアルコキシ基、アリルオキシ基等で置換された炭素数1~4のアルキル基が好ましく、メトキシメチル基、エトキシメチル基、アリルオキシメチル基等が挙げられる。
【0055】
エステル結合含有基としては、炭素数1~4のアシルオキシ基、ベンジルオキシカルボキシ基等で置換された炭素数1~4のアルキル基が好ましく、アセトキシメチル基、ブチリロキシメチル基等が挙げられる。
【0056】
脂肪族ポリカーボネートにおける式(1)で表される構成単位の含有量は、脂肪族ポリカーボネートを構成する全構成単位中、脂肪族ポリカーボネートの分解開始温度を低下させることを容易とする観点から、0.001モル%以上30モル%以下であることが好ましく、0.1モル%以上20モル%以下であることがより好ましく、0.5モル%以上20モル%以下であることが更に好ましく、1.0モル%以上20モル%以下であることが特に好ましい。半導体素子等の、本開示に係るフィルム状焼成材料が適用される物品への酸による影響を低減させる観点から、脂肪族ポリカーボネートにおける式(1)で表される構成単位の含有量を、脂肪族ポリカーボネートを構成する全構成単位中、0.1モル%以上5.0モル%以下、0.5モル%以上3.0モル%以下としてもよい。
【0057】
脂肪族ポリカーボネートにおける式(2)で表される構成単位の含有量は、脂肪族ポリカーボネートを構成する全構成単位中、70モル%以上99.999モル%以下であることが好ましく、80モル%以上99.9モル%以下であることがより好ましく、80モル%以上99.5モル%以下であることが更に好ましく、90モル%以上99.0モル%以下であることが特に好ましい。
【0058】
脂肪族ポリカーボネートの重量平均分子量は、本開示に係る加熱加圧用フィルム状焼成材料のフィルム形状を維持しやすく、フィルム形成用の組成物の粘度の調整等の観点から、3000以上1000000以下であることが好ましく、10000以上500000以下であることがより好ましく、10000以上300000以下であることが更に好ましい。
【0059】
脂肪族ポリカーボネートの重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)によって測定される値である。
脂肪族ポリカーボネートの重量平均分子量は、以下の通り測定を行う。
脂肪族ポリカーボネートの濃度が0.5質量%のクロロホルム溶液を調製し、GPCを用いて測定する。測定後、同一条件で測定した重量平均分子量が既知のポリスチレンと比較することにより、重量平均分子量を算出する。また、測定条件は、以下の通りである。
カラム:GPCカラム(昭和電工株式会社の商品名、Shodex K-804L)
カラム温度:40℃
溶出液:クロロホルム
流速:1.0mL/min
【0060】
脂肪族ポリカーボネートの具体例として、式(1)中のR、R、R、及びnについて、それぞれ、R、R及びRがいずれも水素原子であり、nが1であり、式(2)中のR、R、R、及びXについて、それぞれ、R、R、及びRがいずれも水素原子であり、Xがメチル基であり、構成単位が式(1)で表されるもの及び式(2)で表されるもののみを含む脂肪族ポリカーボネートが挙げられる。
【0061】
このような脂肪族ポリカーボネートは、脂肪族ポリカーボネートにおける式(1)で表される構成単位の含有量を、脂肪族ポリカーボネートを構成する全構成単位中、1.0モル%~20モル%の範囲で調整して合成した場合に、以下説明する質量減少率を、所定の範囲とし、分解開始温度を200℃以下とすることが可能である。例えば、脂肪族ポリカーボネートにおける式(1)で表される構成単位の含有量が、脂肪族ポリカーボネートを構成する全構成単位中、3.0質量モル%以下と少ない場合であっても、質量減少率が95質量%程度、分解開始温度が150℃程度である脂肪族ポリカーボネートが得られる。
【0062】
脂肪族ポリカーボネートの分解開始温度を低下させることを容易とする観点から、脂肪族ポリカーボネートとしては、具体的には、下記式(3)で表される化合物であることが好ましい。
【0063】
【化1】
【0064】
式(3)中、m及びlは、脂肪族ポリカーボネートを構成する全構成単位全体に対する、構成単位の含有量(単位:モル%)を表す。
【0065】
脂肪族ポリカーボネートの分解開始温度が200℃以下である場合、低温であっても加熱を一定時間維持した場合に、脂肪族ポリカーボネートの質量のほとんどが分解により消失するものであることが好ましい。したがって、熱重量分析測定における160℃での1時間保持後の質量減少率が、90%以上であることが好ましく、95%以上であることがより好ましい。
加熱前におけるバインダー成分の分解を防ぐ観点から、100℃での1時間保持後の質量減少率が、5%以下であることが好ましく、3%以下であることがより好ましく、1%以下であることが更に好ましい。
なお、分解開始温度は、式(1)で表される構成単位の含有量により調整することができる。
【0066】
質量減少率は、熱重量分析測定装置によって測定される。
熱重量分析測定装置としては、例えば、示差熱-熱重量同時測定装置である島津製作所社製のDTG-60が使用可能である。
熱重量分析測定に測定サンプルを加え、窒素雰囲気下、50℃/minの昇温速度で室温から所定の温度(160℃又は100℃)まで昇温し、その後、その温度で1時間保持して、熱分解挙動を測定する。質量減少率は、分解曲線から加熱1時間後の質量(W1)を読み取り、初期質量(W0)との比〔(W0-W1)/W0×100〕から算出する。
【0067】
脂肪族ポリカーボネートのガラス転移温度は、フィルム状焼成材料の強度の観点、及びフィルム状焼成材料の柔軟性の観点から、0℃以上50℃以下であることが好ましく、10℃以上40℃以下であることがより好ましく、15℃以上30℃以下であることが更に好ましい。
【0068】
脂肪族ポリカーボネートのガラス転移温度は、脂肪族ポリカーボネートの示差走査熱量計によって測定される示差熱曲線のピークにおける温度である。
【0069】
バインダー成分全体に対する特定樹脂の含有量は、50質量%以上100質量%以下とすることが好ましく、70質量%以上100質量%以下とすることがより好ましく、80質量%以上100質量%以下とすることが更に好ましい。
【0070】
・その他の樹脂
バインダー成分は、特定樹脂以外のその他の樹脂を含有してもよい。
特定樹脂以外のその他の樹脂としては、例えば、アクリル系樹脂、ポリ乳酸、セルロース誘導体などが挙げられる。
特定樹脂以外のその他の樹脂の含有量は、例えば、バインダー成分全体に対して、0質量%以上50質量%以下が好ましく、0質量%以上30質量%がより好ましく、0質量%以上20質量%以下が更に好ましく、0質量%であることが特に好ましい。
【0071】
・バインダー成分の含有量
焼結によりバインダー成分を残存させずに分解することを容易とする観点から、バインダー成分の含有量は、フィルム状焼成材料全体に対して、2質量%以上50質量%以下であることが好ましく、3質量%以上30質量%以下であることがより好ましく、5質量%以上20質量%以下であることが更に好ましい。
【0072】
-その他の成分-
フィルム状焼成材料は、金属粒子及びバインダー成分以外のその他の成分を含んでもよい。
その他の成分としては、溶媒、分散剤、可塑剤、粘着付与剤、保存安定剤、消泡剤、熱分解促進剤、および酸化防止剤などが挙げられる。
【0073】
-フィルム状焼成材料の厚さ-
フィルム状焼成材料の厚さは、特に限定されないが、10μm以上200μm以下であることが好ましく、20μm以上150μm以下であることがより好ましく、30μm以上90μm以下であることが更に好ましい。
【0074】
フィルム状焼成材料の厚さは、JIS K7130(1999)に準じて測定する。
JIS K7130(1999)に準じて、測定対象の任意の5箇所における厚さを測定し、得られた値の算術平均値をフィルム状焼成材料の厚さとする。
なお、厚さの測定器としては定圧厚さ測定器が使用可能である。
【0075】
第1工程について図4を参照して具体的に説明する。
第1工程は、第1の被着体20と第2の被着体21との間に金属粒子30及びバインダー成分31を含有するフィルム状焼成材料22をはさむ。これにより、第1の被着体20、第2の被着体21及びフィルム状焼成材料22が積層された積層体前駆体200を得る
【0076】
-第1工程の具体的な手順の一例-
第1の被着体と、第2の被着体と、でフィルム状焼成材料をはさむ場合、例えば以下の方法で行ってもよい。
第1の被着体の表面にフィルム状焼成材料の片方の面を貼り付ける。その後、フィルム状焼成材料を介して第1の被着体と対向するように、第2の被着体をフィルム状焼成材料の片一方の面に貼り付ける方法が挙げられる。
【0077】
-第1工程の具体的な手順の他の一例-
第1の被着体と、第2の被着体と、でフィルム状焼成材料をはさむ場合、例えば支持シート付フィルム状焼成材料を用いた方法でもよい。
【0078】
・支持シート付フィルム状焼成材料
支持シート付フィルム状焼成材料は、支持シートと、支持シート上に設けられたフィルム状焼成材料と、を有する。
【0079】
また、支持シート付フィルム状焼成材料は、支持シートが、基材フィルム及び前記基材フィルム上に設けられた粘着剤層を有することが好ましい。
【0080】
支持シート付フィルム状焼成材料は、半導体ウエハを切断して多数のチップとすること(以下「ダイシング」とも称する)で半導体素子を得る際に使用するダイシングシートとしても使用されるものであることが好ましい。
【0081】
支持シート付フィルム状焼成材料について、図1及び図2を参照して説明する。
なお、支持シート付フィルム状焼成材料はこれに限定されることはない。
【0082】
図1及び図2は、支持シート付フィルム状焼成材料の概略断面図を示す。
支持シート付フィルム状焼成材料100a、100bは、フィルム状焼成材料1と、支持シート2と、を備える。
【0083】
支持シート2は、図1及び図2のとおり、基材フィルム3、及び粘着剤層4を有していることが好ましい。
粘着剤層4は、支持シート上に加熱加圧用フィルム状焼成材料を積層することを容易としたり、後述するダイシングを行いやすくしたりするほか、リングフレーム5を固定する機能をも付与することができる。なお、リングフレーム5は、半導体ウエハのダイシング時に支持シート付フィルム状焼成材料100a、100bを固定するために支持シート付フィルム状焼成材料100a、100bに配置されるものであり、支持シート付フィルム状焼成材料100a、100bを構成する部材ではない。
粘着剤層4は、図1の様に基材フィルム3の全面に有していてもよいし、図2の様に基材フィルム3の外周に沿って有していてもよい。
【0084】
図3は支持シート付フィルム状焼成材料100bの概略斜視図を示す。
支持シート付フィルム状焼成材料100bは、図3に示す通り、半導体ウエハの形状に沿って円形としてもよい。
なお、支持シート付フィルム状焼成材料100aの概略斜視図は示さないが、半導体ウエハの形状に沿って円形としてもよい。
【0085】
以下、支持シート付フィルム状焼成材料の各構成について詳細に説明する。
【0086】
(支持シート)
支持シートは、支持シート上にフィルム状焼成材料を設けることができるものであれば特に限定されない。
支持シートは、基材フィルムのみを有するものでもよいし、基材フィルム及び基材フィルム上に設けられた粘着剤層を有するものでもよい。
支持シートと加熱加圧用フィルム状焼成材料との間の接着性の調整や、ダイシングを容易とする観点から、支持シートは基材フィルム及び基材フィルム上に設けられた粘着剤層を有することが好ましい。
【0087】
-基材フィルム-
基材フィルムの材質としては特に限定されないが、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖低密度ポリエチレン(LLDPE)、エチレン・プロピレン共重合体、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリブタジエン、ポリメチルペンテン、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸メチル共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸エチル共重合体、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体、ポリウレタンフィルム、アイオノマー等が挙げられる。
また支持シートに対してより高い耐熱性が求められる場合には、基材フィルムの材質としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル;ポリプロピレン、ポリメチルペンテンなどのポリオレフィン;等が挙げられる。
【0088】
基材フィルムが粘着剤層を有しない場合は表面が剥離剤により処理されていてもよい。
剥離剤としては、例えば、アルキッド系剥離剤、シリコーン系剥離剤、フッ素系剥離剤、不飽和ポリエステル系剥離剤、ポリオレフィン系剥離剤、ワックス系剥離剤などが用いられる。剥離剤としては、耐熱性の観点から、アルキッド系剥離剤、シリコーン系剥離剤、及びフッ素系剥離剤からなる群から選択される少なくとも1種好ましい。
【0089】
基材フィルムの厚さは特に限定されず、例えば、30μm以上300μm以下であることが好ましく、50μm以上200μm以下であることがより好ましい。
基材フィルムの厚さを上記数値範囲内とすることで、ダイシングによる切り込みが行われても基材フィルムの断裂が起こりにくい。また、支持シート付フィルム状焼成材料に充分な可とう性が付与されるため、被着体(例えば半導体ウエハ等)に対して良好な貼付性を示す。
【0090】
基材フィルムの形状は、被着体の形状に併せて適宜調整することが好ましい。
例えば、被着体が半導体ウエハである場合、フィルム状焼成材料の形状は、円形であることが好ましい。
基材フィルムの形状が、円形である場合、直径は10mm以上500mm以下とすることが好ましい。
【0091】
基材フィルムは、1種の基材フィルムを用いてもよいし、2種以上の基材フィルムを積層して用いてもよい。
【0092】
-粘着剤層-
粘着剤層は、支持シート上にフィルム状焼成材料を固定化することができる粘着性を有する層である。また、本開示における粘着剤層は、例えば、支持シート付フィルム状焼成材料をダイシングシートとして使用する場合、ダイシング時に支持シート付フィルム状焼成材料を固定する器具(例えば、リングフレーム)を固定することができる。
粘着剤層は、ダイシング後にはリングフレームが剥離可能であることが好ましい。
【0093】
粘着剤層の材質としては、ゴム系、アクリル系、シリコーン系、ウレタン系、ビニルエーテル系等の汎用粘着剤が挙げられ、粘着剤層に付与可能な機能に着目して、表面凹凸のある粘着剤、エネルギー線硬化型粘着剤、熱膨張成分含有粘着剤、などにより形成することができる。
【0094】
粘着剤層の23℃でのSUS板への粘着力は、フィルム状焼成材料の剥離性の観点から、30mN/25mm~120mN/25mmであることが好ましく、50mN/25mm~100mN/25mmであることがより好ましく、60mN/25mm~90mN/25mmであることが更に好ましい。
【0095】
粘着剤層の厚さは特に限定されず、例えば、1μm以上100μm以下であることが好ましく、2μm以上80μm以下であることがより好ましく、3μm以上50μm以下であることが更に好ましい。
【0096】
粘着剤層は、基材フィルムの全面に配置されていてもよいし、基材フィルムの一部に配置されていてもよい。
基材フィルムの一部に配置される場合、粘着剤層は、基材フィルムの平面視における基材フィルムの形状の輪郭に沿って配置されることが好ましい。
【0097】
基材フィルムの全面に配置される場合、粘着剤層の形状は、基材フィルムの形状と同一である。
基材フィルムの一部に配置される場合、粘着剤層の形状は、リング状とすることが好ましい。
【0098】
(フィルム状焼成材料)
支持シート付フィルム状焼成材料に含まれるフィルム状焼成材料の組成は、既述の焼成材料と同様であり、好ましい態様は既述の通りである。
【0099】
フィルム状焼成材料の形状は、特に限定されないが、枚葉状、長尺のフィルム状等でもよく、長尺のフィルム状焼成材料は、巻き取られたロールであることが好ましい。また、比較的高価な金属粒子が廃棄される量を低減する観点から、フィルム状焼成材料の形状を、被着体の形状に併せて適宜調整することが好ましい。
例えば、被着体が半導体ウエハである場合、フィルム状焼成材料の形状は、円形であることが好ましい。
フィルム状焼成材料の形状が、円形である場合、直径は10mm以上500mm以下とすることが好ましい。
【0100】
(その他の部材)
支持シート付フィルム状焼成材料は、支持シート及びフィルム状焼成材料以外のその他の部材を有していてもよい。
その他の部材としては、例えば、保護シートが挙げられる。
保護シートは、支持シート付フィルム状焼成材料を使用するまでの間、フィルム状焼成材料及び粘着剤層の表面の外部との接触を避けるためのシートである。
保護シートとしては、特に限定されず、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレン等からなるシートが挙げられる。
【0101】
・支持シート付フィルム状焼成材料を用いた第1工程の具体的な手順の一例
支持シート付フィルム状焼成材料は、既述のとおり半導体素子と、他の部品(被着体)と、を接合する接合材料として使用することが好ましく、さらに、ダイシングシートを兼ねることが好ましい。以下に、支持シート付フィルム状焼成材料を用いた第1工程の具体的な手順の一例として、支持シート付フィルム状焼成材料を用いた半導体ウエハのダイシング方法及び半導体素子の接合方法を例に挙げて説明する。
なお、以下の支持シート付フィルム状焼成材料を用いた第1工程の記載において、半導体素子とは、半導体ウエハをダイシングすることで得られるチップをいう。
【0102】
支持シート付フィルム状焼成材料を用いた第1工程は、
表面(オモテ面)に回路が形成された半導体ウエハ(以下、単に「半導体ウエハ」と称する)の裏面に、支持シート付フィルム状焼成材料(例えば、図1の符号100a又は図2の符号100b)を貼り付ける工程(1-1)と、
半導体ウエハをダイシングして半導体素子を得る工程(1-2)と、
半導体素子及びフィルム状焼成材料(例えば図1又は図2の符号1)と、支持シート(例えば図1又は図2の符号2)とを剥離し、フィルム状焼成材料付素子を得る工程(1-3)と、
被着体の表面に、フィルム状焼成材料付素子を貼り付ける工程(1-4)と、を有する方法であってもよい。
【0103】
-工程(1-1)-
工程(1-1)は、半導体ウエハの裏面に、支持シート付フィルム状焼成材料を貼り付ける工程である。
半導体ウエハの裏面に、支持シート付フィルム状焼成材料中の、フィルム状焼成材料が接着するように貼り付ける。そうすることで、支持シート、フィルム状焼成材料、及び半導体ウエハがこの順で積層された積層物Aを得る。
【0104】
半導体ウエハの直径は特に限定されないが、リングフレーム(例えば図1又は図2の符号5)の内径より小さいことが好ましい。
半導体ウエハは、シリコンウエハ;シリコンカーバイドウエハ、ガリウム砒素、窒化ガリウムなどの化合物半導体ウエハ;などが挙げられる。半導体素子をパワー半導体として使用する場合には、比較的低温で動作するものであれば、半導体ウエハがシリコンウエハであってもよいが、より高温での動作を想定した場合、半導体ウエハは化合物半導体ウエハであることが好ましく、化合物半導体としては、シリコンカーバイド又は窒化ガリウムが好ましい。
半導体ウエハ表面は、あらかじめ回路が形成されていることが好ましい。半導体ウエハへの回路の形成はエッチング法、リフトオフ法などの従来汎用されている方法により行うことができる。
半導体ウエハの回路面の反対面(裏面)はあらかじめ研削されていることが好ましい。研削する方法は特に限定はされず、グラインダーなどを用いた公知の手段が挙げられる。
【0105】
-工程(1-2)-
工程(1-2)は、半導体ウエハをダイシングして半導体素子を得る工程である。
より具体的には、上記積層物Aを、半導体ウエハ表面に形成された回路毎にダイシングし、支持シート、フィルム状焼成材料、及び半導体素子がこの順で積層された積層物Bを得る工程である。
ダイシングは、半導体ウエハとフィルム状焼成材料をともに切断するように行うことが好ましい。ダイシング切り込み深さは、フィルム状焼成材料を完全に切断してもよいが、フィルム状焼成材料の層の途中までとすることが好ましい。
ダイシングの方法は特に限定はされず、例えば、支持シートの周辺部(支持体の外周部)をリングフレームにより固定した後、ダイシングブレードなどの回転丸刃によりウエハの個片化を行う方法などが挙げられる。半導体ウエハを切断する手段は切断刃によるものに限らず、レーザーによるダイシング、プラズマ処理によるダイシング等も行い得る。レーザーによるダイシングは、レーザーにより破断起点となる改質領域を半導体ウエハ内に形成し、支持シートのエキスパンド等の機械的な作用により半導体ウエハを改質領域で破断するダイシング法であってもよい。
【0106】
-工程(1-3)-
工程(1-3)は、半導体チップ及びフィルム状焼成材料と、支持シートとを剥離し、フィルム状焼成材料付素子を得る工程である。
上記積層物Bから、半導体素子及びフィルム状焼成材料と、支持シートとを剥離する方法としては特に限定されず、コレット等を用いた方法が挙げられる。
半導体素子及びフィルム状焼成材料と、支持シートとを剥離することで、フィルム状焼成材料及び半導体素子がこの順で積層した積層物C(フィルム状焼成材料付素子)が得られる。
ここで、フィルム状焼成材料付素子中の半導体素子は、第1の被着体に該当する。
【0107】
-工程(1-4)-
工程(1-4)は、第2の被着体の表面に、フィルム状焼成材料付素子を貼り付ける工程である。
具体的には、第2の被着体の表面に、フィルム状焼成材料付チップのフィルム状焼成材料を有する面を接触させることで、第2の被着体の表面に、フィルム状焼成材料付素子を貼り付ける工程である。
この工程により、第1の被着体(支持シート付フィルム状焼成材料を用いた第1工程において、半導体素子)、及び第2の被着体で、フィルム状焼成材料をはさんだ積層体前駆体が得られる。
【0108】
(第2工程)
第2工程は、積層体前駆体を加熱し、かつ、積層体前駆体が存在する雰囲気を加圧し、これにより、バインダー成分を分解及び気化する工程である。
第2工程において、加圧の手段が、積層体前駆体が存在する雰囲気を加圧することによるため、平板プレス機等の特殊な装置を導入することなく本工程を実施することができる。また、積層体前駆体が存在する雰囲気を加圧することで、積層体前駆体に対し、その厚さ方向(垂直方向)だけでなく、水平方向(垂直方向と直交する方向)等からも圧力を加えることができる。そのため、フィルム状焼成材料中の金属粒子がより凝集することが期待され、また、フィルム状焼成材料が厚さ方向のみに圧縮されることで、フィルム状焼成材料の端部が被着体に対してはみ出す可能性を低減することができる。
第2工程を経ることでフィルム状焼成材料に含まれるバインダー成分が分解及び気化し、分解及び気化したガスを排し、かつ、フィルム状焼成材料に含まれる金属粒子同士が溶融及び結合することで、焼結体を形成する。そして、当該焼結体が第1の被着体と第2の被着体とを接合することで第1の被着体、焼結体、及び第2の被着体がこの順で積層された積層体を得ることができる。
【0109】
加熱温度は、150℃以上600℃以下とすることが好ましく、165℃以上450℃以下とすることがより好ましく、180℃以上300℃以下とすることが更に好ましい。
積層体前駆体が存在する雰囲気の圧力は、大気圧(0.101MPa)を超える圧力まで加圧する。
【0110】
積層体前駆体が存在する雰囲気の圧力は、0.15MPa以上3.00MPa以下とすることが好ましく、0.50MPa以上3.00MPa以下とすることがより好ましく、1.00MPa以上3.00MPa以下とすることが更に好ましく、1.50MPa以上3.00MPa以下とすることが特に好ましい。バインダー成分が、分解開始温度が200℃以下の特定樹脂を含有する場合、既述の通り、空隙の小さい焼結体が得られ易い。そのため、第2工程の加圧がこのように比較的低圧で行われたとしても、空隙の少ない焼結体を得られる可能性が高い。
【0111】
第2工程の時間は、後述する第1処理及び第2処理を行わず、金属粒子の融点以上の温度で一度の処理で本工程を行う場合、例えば、5秒間~180分間が好ましく、5秒間~150分間がより好ましく、10秒間~120分間がさらに好ましい。
【0112】
第2工程において適用可能な装置としては、特に限定されず、加熱及び積層体前駆体が存在する雰囲気の加圧が行える装置であれば使用可能であり、通常、このような装置は圧力容器を備える。なお、第2工程では、雰囲気の加圧を行うが、これに加えて機械的な加圧手段(平板プレス機等)を用いてもよい。
ここで、加熱及び加圧が行える装置としては具体的には、コンプレッサーにより圧力容器内の雰囲気を加圧する装置、圧力容器内の液体を加熱し、加熱温度における液体の飽和蒸気圧で圧力容器内を加圧する装置等を用いることができる。このような装置としては、例えば、オートクレーブ等が挙げられる。
このような圧力容器を備える加圧装置は、一般に、加熱温度として300℃程度を上限としている。フィルム状焼成材料中のバインダー成分が分解開始温度の低い特定樹脂を含有する場合、このような比較的温和な焼結条件でも、容易に特定樹脂を分解させることが可能である。
【0113】
圧力容器内の雰囲気を加圧する手段として慣用されている観点から、第2工程はオートクレーブ内で行う工程であることが好ましい。
オートクレーブとしては、加熱及び加圧が行えるものであれば特に限定されない。
【0114】
以下に、第2工程をオートクレーブ内で行う具体的な手順を説明するが、これに限定されるものではない。
【0115】
まず、積層体前駆体をオートクレーブ内に配置する。この時、積層前駆体の配置方法は特に限定されないが、例えばオートクレーブ内に水平な台を設置し、その上に積層前駆体を置く方法が挙げられる。
【0116】
つづいて、オートクレーブを密閉し、加熱及びオートクレーブ内を加圧する。
加熱の方法は特に限定されず、例えば、オートクレーブに備え付けられた加熱装置を用いて加熱してもよいし、ジャケット(水蒸気の流路)を備えたオートクレーブを用いてジャケットに水蒸気を流すことで行ってもよい。
【0117】
加圧の方法は特に限定されず、例えば、オートクレーブ内に供給された水を、100℃を超える温度に加熱し、飽和蒸気圧を大気圧以上にすることで加圧する方法、コンプレッサーで加圧された気体(窒素、空気など)をオートクレーブ内に供給して加圧する方法等が挙げられる。
【0118】
第2工程は、加熱加圧条件を2段階に変えて行ってもよい。
例えば、第2工程は、積層体前駆体をバインダー成分に含まれる樹脂の分解開始温度以上、金属粒子の融点未満の温度で加熱しながら、積層体前駆体が存在する雰囲気を加圧することで第2積層体前駆体を得る第1処理と、
第2積層体前駆体を金属粒子の融点以上の温度で加熱する第2処理と、を含むことが好ましい。
2段階の処理を含む第2工程では、第1処理と第2処理のいずれか、又は両方において、積層体前駆体が存在する雰囲気が加圧され、少なくとも第1処理において積層体前駆体が存在する雰囲気が加圧されることが好ましい。なお、ここでいう積層体前駆体には後述する第2積層体前駆体が含まれる。
【0119】
-第1処理-
第1処理は、積層体前駆体をバインダー成分に含まれる樹脂の分解開始温度以上、金属粒子の融点未満の温度で加熱しながら、積層体前駆体が存在する雰囲気を加圧することで第2積層体前駆体を得る。
【0120】
第1処理は、金属粒子の融点未満の温度で加熱及び加圧を行うものである。そのため、フィルム状焼成材料に含まれる金属粒子の溶融が抑えられる。これにより、より効率的に金属粒子の溶融を抑制しつつ、バインダー成分の分解及び気化を進行することが可能である。
【0121】
第1処理において、加熱温度は、好ましくはバインダー成分に含まれる樹脂(例えば特定樹脂)の分解開始温度よりも15℃高い温度以上、より好ましくは、バインダー成分に含まれる樹脂の分解開始温度よりも30℃高い温度以上である。
例えば、加熱温度は150℃以上とすることができ、165℃以上とすることがより好ましく、180℃以上とすることが更に好ましい。
加熱温度がこのような範囲であれば、例えば、バインダー成分に特定樹脂が含まれ、特定樹脂の分解開始温度が150℃である場合に、加熱温度を特定樹脂の分解温度よりも相当に高くすることができる。
加熱温度の上限としては、金属粒子の融点よりも20℃低い温度以下であることが好ましく、金属粒子の融点よりも40℃低い温度以下であることがより好ましい。
例えば、第1処理において、加熱温度は250℃未満とすることができ、230℃以下であることが好ましく、210℃以下であることがより好ましい。加熱温度がこのような範囲であれば、例えば、金属粒子の融点が250℃である場合に、加熱温度を金属粒子の融点よりも相当に低くすることができる。
【0122】
第1処理において、加熱温度は、バインダー成分に含まれる樹脂の分解開始温度よりも15℃高い温度以上、金属粒子の融点よりも20℃低い温度以下であることが好ましく、バインダー成分に含まれる樹脂の分解開始温度よりも30℃高い温度以上、金属粒子の融点よりも40℃低い温度以下であることがより好ましい。
【0123】
このように、第1処理は、フィルム状焼成材料の焼結処理のうち、比較的温和な条件で行われるものであり、一般に加熱温度として300℃程度を上限としている、圧力容器を備える装置によっても加熱及び加圧を行うことが容易である。
第1処理において、積層体前駆体が存在する雰囲気を加圧する場合、雰囲気の圧力は、0.50MPa以上3.00MPa以下とすることが好ましく、1.00MPa以上3.00MPa以下とすることがより好ましく、1.50MPa以上3.00MPa以下とすることが更に好ましい。
【0124】
第1処理は、バインダー成分が分解及び気化するまで行うことが好ましい。
バインダー成分の分解及び気化に要する時間は、例えば、温度に対するフィルム状焼成材料の質量変化を示差熱熱重量計にて測定することで算出することができる。
【0125】
第1処理の時間は、バインダー成分及び金属粒子の組成によって適宜変更することが好ましく、5秒間~180分間が好ましく、5秒間~150分間がより好ましく、10秒間~120分間がさらに好ましい。
【0126】
-第2処理-
第2処理は、第2積層体前駆体を金属粒子の融点以上の温度で加熱する。第2処理においては、第2積層体前駆体を加圧してもよいし、無加圧で加熱してもよい。
【0127】
第2処理を行うことで、金属粒子同士が溶融及び結合することで、焼結体が得られる。
第1処理を経ることでバインダー成分の分解及び気化を行っているため、第1処理後は、金属粒子同士が密に集積している状態となっている。そのため、機械的な加圧処理を行わなくても金属粒子同士が溶融及び結合がしやすい状態となっている。これにより、第2処理において、第2積層体前駆体を加圧しない状態で加熱した場合や、第2積層体前駆体の存在する雰囲気を比較的低圧で加圧した場合でも、熱伝導性の良好な焼結体が得られ易い。
【0128】
第2処理において、加熱温度は、600℃以下とすることが好ましく、450℃以下とすることがより好ましく、300℃以下とすることが更に好ましい。加熱温度の下限としては、金属粒子の融点よりも20℃高い温度以上とすることが好ましく、金属粒子の融点よりも40℃高い温度以上とすることがより好ましい。例えば、第2処理において、加熱温度は250℃以上とすることができ、270℃以上であることが好ましく、290℃以上であることがより好ましい。加熱温度がこのような範囲であれば、例えば、金属粒子の融点が250℃である場合、加熱温度が金属粒子の融点よりも相当に高く、金属粒子の溶融が確実かつ速やかに起こり、効率的に空隙のない焼結体を得ることができる。
第2積層体前駆体の存在する雰囲気を加圧するため、圧力容器を備える装置を用いる場合、加熱温度は300℃以下であることが好ましい。
第2処理において、第2積層体前駆体が存在する雰囲気を加圧する場合、圧力は、0.101MPa以上5.0MPa以下とすることが好ましく、0.15MPa以上3.0MPa以下とすることがより好ましく、0.5MPa以上2.0MPa以下とすることが更に好ましい。
第2処理において、第2積層体前駆体を、平板プレス機のような機械的な加圧手段により加圧する場合、圧力は、5~40MPaであることが好ましい。
第2処理の時間は、金属粒子の組成、及び粒径によって適宜変更することが好ましいが、1分以上30分以下とすることが好ましく、1分以上15分以下とすることがより好ましく、1分以上10分以下とすることが更に好ましい。
【0129】
第2工程について図5を参照して説明する。なお、同一の符号については説明を省略することがある。
【0130】
第2工程は、第1の被着体20、第2の被着体21及びフィルム状焼成材料22が積層された積層体前駆体200を加熱しながら、積層体前駆体200が存在する雰囲気の加圧又は減圧を行う工程である。これにより、フィルム状焼成材料22に含まれるバインダー成分31が分解及び気化し、フィルム状焼成材料22に含まれる金属粒子30同士が溶融及び結合することで焼結体23を形成する。そして、当該焼結体23が第1の被着体20と第2の被着体21とを接合することで第1の被着体20、焼結体23、及び第2の被着体21がこの順で積層された積層体300を得ることができる。
【0131】
つづいて、第2工程が第1処理、及び第2処理を含む場合の第2工程について、図6を参照して説明する。
第1処理は、積層体前駆体200をバインダー成分に含まれる樹脂の分解開始温度以上、金属粒子の融点未満の温度で加熱しながら、積層体前駆体が存在する雰囲気を加圧する。第1処理は、比較的温和な条件で加熱及び加圧を行うものである。そのため、フィルム状焼成材料22に含まれる金属粒子30の溶融が抑えられる。これにより、より効率的に金属粒子30の溶融を抑制しつつ、バインダー成分31の分解及び気化を進行することが可能である。第1処理を行うことで、金属粒子30が密に集積し、第1の被着体20と、第2の被着体21と、の間で集積体24を形成する。これにより、第1の被着体20、集積体24、及び第2の被着体21がこの順で積層された第2積層体前駆体400を得ることができる。第1処理の加圧の手段が、積層体前駆体400が存在する雰囲気を加圧することによる場合、積層体前駆体400に対し、垂直方向だけでなく、水平方向等からも圧力を加えることができる。そのため、フィルム状焼成材料22が厚さ方向に平行な方向のみに圧縮されることで、フィルム状焼成材料22の端部が第1の被着体20又は第2の被着体21に対してはみ出す可能性を低減することができる。また、フィルム状焼成材料22中の金属粒子30がより密に集積することが期待され、続く第2処理により空隙の少ない焼結体23を得られる可能性が高くなる。
【0132】
第2処理は、第2積層体前駆体400を金属粒子の融点以上の温度で加熱する。上述の通り、第2積層前駆体400は、金属粒子30が密に集積して形成された集積体24を有している。そのため、機械的な加圧処理を行わなくても金属粒子30同士が溶融及び結合がしやすい状態となっている。これにより、第2積層体前駆体400を加圧しない状態での加熱や、第2積層体前駆体400の存在する雰囲気を比較的低圧で加圧した場合でも、熱伝導性の良好な焼結体23が得られ易い。当該焼結体23が第1の被着体20と第2の被着体21とを接合することで第1の被着体20、焼結体23、及び第2の被着体21がこの順で積層された積層体300を得ることができる。
【0133】
(任意の工程)
本開示に係る積層体の製造方法は、必要に応じて、第2工程の前又は後に積層体に対して機械的な加圧を行ってもよい。
積層体に対して機械的な加圧を行う方法としては、平板プレス機を用いた方法が挙げられる。
【0134】
-変形例-
なお、本例では、工程(1-1)において、半導体ウエハの裏面に、支持シート付フィルム状焼成材料を貼り付けたが、本開示に係る半導体デバイスの製造方法は、ダイシング済みの半導体素子に、フィルム状焼成材料を貼り付け、その後に工程(1-4)及び工程(2-1)を行うものであってもよい。この場合には、フィルム状焼成材料を、予め半導体素子と略同形状に製造することが好ましい。
【0135】
以上の工程を経ることで、積層体が製造される。
【符号の説明】
【0136】
100a、100b 支持シート付フィルム状焼成材料、1 フィルム状焼成材料、2 支持シート、3 基材フィルム、4 粘着剤層、5 リングフレーム、20 第1の被着体、21 第2の被着体、22 フィルム状焼成材料、23 焼結体、24 集積体、30 金属粒子、31 バインダー成分、200 積層体前駆体、300 積層体、400 第2積層体前駆体
図1
図2
図3
図4
図5
図6