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特開2025-99420チップ保持装置、チップ保持方法、および、半導体装置の製造装置
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  • 特開-チップ保持装置、チップ保持方法、および、半導体装置の製造装置 図1
  • 特開-チップ保持装置、チップ保持方法、および、半導体装置の製造装置 図2
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  • 特開-チップ保持装置、チップ保持方法、および、半導体装置の製造装置 図9
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025099420
(43)【公開日】2025-07-03
(54)【発明の名称】チップ保持装置、チップ保持方法、および、半導体装置の製造装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/60 20060101AFI20250626BHJP
   H01L 21/52 20060101ALI20250626BHJP
   H01L 21/677 20060101ALI20250626BHJP
【FI】
H01L21/60 311T
H01L21/52 F
H01L21/68 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023216067
(22)【出願日】2023-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】000146722
【氏名又は名称】ヤマハロボティクスホールディングス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菱沼 隼
(72)【発明者】
【氏名】菊地 広
(72)【発明者】
【氏名】宮武 正明
【テーマコード(参考)】
5F044
5F047
5F131
【Fターム(参考)】
5F044KK01
5F044PP15
5F044PP16
5F047AA17
5F047FA07
5F131AA04
5F131BA54
5F131CA12
5F131DA03
5F131DA22
5F131DA42
5F131DA55
5F131DB22
5F131DB25
5F131DB27
(57)【要約】
【課題】チップの位置ズレを抑制しつつ、チップを非接触で保持して搬送するチップ保持装置を提供する。
【解決手段】チップ保持装置10は、チップ100を非接触で保持する保持面18と、前記保持面18に超音波振動を付与して前記保持面18に前記チップ100を保持する保持力を発生させる振動源30と、を有する保持具12と、前記保持面18を重力方向と交差する方向に横移動させる移動機構40と、前記保持面18の横移動の加速に応じて、前記保持面18を傾ける揺動機構46と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
チップを非接触で保持する保持面と、前記保持面に超音波振動を付与して前記保持面に前記チップを保持する保持力を発生させる振動源と、を有する保持具と、
前記保持面を重力方向と交差する方向に横移動させる移動機構と、
前記保持面の横移動の加速度に応じて、前記保持面を傾ける揺動機構と、
を備えるチップ保持装置。
【請求項2】
請求項1に記載のチップ保持装置であって、
前記揺動機構は、前記保持面の横移動の加速に起因して前記チップに作用する慣性力と、前記チップに作用する重力と、の合成ベクトルが、前記保持面に対して垂直方向かつ前記チップから前記保持面に向かう向きになるように、前記保持面を傾ける、ことを特徴とするチップ保持装置。
【請求項3】
請求項2に記載のチップ保持装置であって、
さらに、コントローラを備え、
前記揺動機構は、前記保持面を傾けるための動力を出力する動力源を有し、
前記コントローラは、予め、前記横移動の速度プロファイルを記憶しており、前記速度プロファイルに基づいて前記動力源をフィードフォワード制御する、
ことを特徴とするチップ保持装置。
【請求項4】
請求項2に記載のチップ保持装置であって、
前記揺動機構は、前記保持具に連結され、前記保持具とともに傾く振り子を含む、ことを特徴とするチップ保持装置。
【請求項5】
請求項4に記載のチップ保持装置であって、
前記振り子は、末端に錘を有しており、
前記振り子の重心は、前記保持面の回転中心を挟んで、前記保持面の反対側に位置する、ことを特徴とするチップ保持装置。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載のチップ保持装置を備える半導体装置の製造装置。
【請求項7】
保持具の保持面でチップを非接触で保持した状態で、前記保持具を重力方向と交差する方向に横移動させ、
前記横移動させる際、慣性力に起因する前記チップの前記保持面に対するズレを抑制するように、前記横移動の加速に応じて前記保持面を傾ける、
ことを特徴とするチップ保持方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、非接触でチップを保持するチップ保持装置、チップ保持方法、および、半導体装置の製造装置を開示する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体装置の更なる小型化、高密度化を実現するために、チップを非接触で保持するチップ保持装置が求められている。こうした要望に応えるために、一部では、半導体チップを非接触で保持するチップ保持装置が提案されている。かかる技術によれば、チップの欠けや汚染を防止できる。
【0003】
例えば、特許文献1には、超音波スクイーズ効果を利用して、チップを、非接触で保持するチップ保持具を有するチップ保持装置が開示されている。特許文献1では、チップ保持具の保持面に超音波振動を付与し、保持面とチップとの間にスクイーズ膜を形成する。スクイーズ膜により、チップには、スクイーズ膜の表面に留まろうとする超音波保持力が作用する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2023-045216号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、こうしたチップ保持装置は、チップを保持した状態でチップ保持具を移動させることでチップを搬送する。チップ保持具が重力と交差する方向に横移動すると、当該チップ保持具に保持されたチップには、加速度(マイナスの加速度も含む)に起因する慣性力が作用する。そして、この慣性力により、チップがチップ保持具に対して一時的にズレる。
【0006】
こうしたチップの位置ズレに起因してチップが、保持面から脱落するおそれがあった。また、脱落しない場合であっても、移動停止後に一定時間、チップが面方向に振動してしまい、次工程に進むまでに時間がかかることがあった。
【0007】
そこで、本明細書では、チップの位置ズレを抑制しつつ、チップを非接触で保持して搬送するチップ保持装置、チップ保持方法、および、半導体装置の製造装置を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本明細書で開示するチップ保持装置は、チップを非接触で保持する保持面と、前記保持面に超音波振動を付与して前記保持面に前記チップを保持する保持力を発生させる振動源と、を有する保持具と、前記保持面を重力方向と交差する方向に横移動させる移動機構と、前記保持面の横移動の加速に応じて、前記保持面を傾ける揺動機構と、を備えることを特徴とする。
【0009】
この場合、前記揺動機構は、前記保持面の横移動の加速に起因して前記チップに作用する慣性力と、前記チップに作用する重力と、の合成ベクトルが、前記保持面に対して垂直方向かつ前記チップから前記保持面に向かう向きになるように、前記保持面を傾けてもよい。
【0010】
また、さらに、コントローラを備え、前記揺動機構は、前記保持面を傾けるための動力を出力する動力源を有し、前記コントローラは、予め、前記横移動の速度プロファイルを記憶しており、前記速度プロファイルに基づいて前記動力源をフィードフォワード制御してもよい。
【0011】
また、前記揺動機構は、前記保持具に連結され、前記保持具とともに傾く振り子を含んでもよい。
【0012】
この場合、前記振り子は、末端に錘を有しており、前記振り子の重心は、前記保持面の回転中心を挟んで、前記保持面の反対側に位置してもよい。
【0013】
また、半導体装置の製造装置は、上述のチップ保持装置を備えてもよい。
【0014】
本明細書で開示するチップ保持方法は、保持具の保持面でチップを非接触で保持した状態で、前記保持具を重力方向と交差する方向に横移動させ、前記横移動させる際、慣性力に起因する前記チップの前記保持面に対するズレを抑制するように、前記横移動の加速に応じて前記保持面を傾ける、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本明細書で開示する技術によれば、加速時に保持面を傾けることで、慣性力による位置ズレを重力により抑制できる。結果として、チップの位置ズレを抑制しつつ、チップを非接触で保持して搬送できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】チップ保持装置の構成を示す図である。
図2】半導体チップを非接触で保持する原理を示す模式図である。
図3】慣性力に起因する半導体チップの位置ズレの様子を示す図である。
図4】チップ保持具の揺動の様子を示す模式図である。
図5】揺動機構の一例を示す図である。
図6】他の例の保持面の軸方向視図である。
図7】位置決め凹部の作用を示すイメージ図である。
図8】気流形成溝の作用を示すイメージ図である。
図9】チップ保持装置を有する製造装置の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照してチップ保持装置10の構成について説明する。図1は、チップ保持装置10の構成を示す図である。このチップ保持装置10は、半導体チップ100を非接触で保持し、搬送する装置であり、例えば、半導体装置の製造装置や検査装置等に組み込まれる。
【0018】
チップ保持装置10は、図1に示すように、チップ保持具12と、移動機構40と、揺動機構46と、振動源30と、吸引源36と、コントローラ50と、を備えている。チップ保持具12は、半導体チップ100を非接触で保持する。チップ保持具12は、略板状の保持プレート16と、本体14と、を有している。保持プレート16の端面は、半導体チップ100を保持する保持面18として機能する。保持面18の中央には、後述する吸引源36に連通する吸引孔22が形成されている。本体14は、保持プレート16から軸方向に延びる。本体14には、吸引孔22と吸引源36とを連通する吸引経路24が形成されている。また、本体14には、振動源30が組み込まれている。本体14は、この振動源30で発生した超音波振動を増幅して保持面18に伝達するホーンとして機能してもよい。
【0019】
チップ保持具12の位置および姿勢は、移動機構40および揺動機構46により、適宜変更される。移動機構40は、動力源42を有し、チップ保持具12を、少なくとも、重力方向と交差する方向に移動させるアクチュエータである。本例において、移動機構40は、チップ保持具12を、x軸方向、y軸方向、z軸方向の合計3軸方向に移動させる。なお、x軸およびy軸は、水平軸であり、z軸は、鉛直軸である。以下では、重力方向と交差する方向への移動(すなわち、x軸方向およびy軸方向への移動)を、「横移動」と呼ぶ。動力源42は、例えば、モータや電磁シリンダ、空圧シリンダ、油圧シリンダ、またはこれらの組み合わせである。移動機構40は、後述するコントローラ50により、電動制御される。
【0020】
揺動機構46は、チップ保持具12を水平方向に延びる揺動軸20回りに揺動させ、保持面18を傾けるアクチュエータである。なお、図1では、揺動軸20を一つとしているが、揺動軸20は、移動機構40の水平移動軸それぞれと直交する方向に一つずつ設けてもよい。例えば、揺動機構46は、y軸と平行な揺動軸20と、x軸と平行な揺動軸20と、を有してもよい。揺動機構46は、動力源48を有する。動力源48は、例えば、モータや電磁シリンダ、空圧シリンダ、油圧シリンダ、またはこれらの組み合わせである。揺動機構46は、コントローラ50により、電動制御される。
【0021】
振動源30は、超音波振動を発生させるもので、例えば、超音波振動素子32と、交流電源34と、を有している。超音波振動素子32は、電圧信号である駆動信号を受けて、縦振動を発生させる。この超音波振動素子32は、例えば、交流電圧を受けて振動するチタン酸ジルコン酸鉛(通称PZT)を有しており、PZTを金属のブロックで挟み、ネジ(ボルト)で締め付け圧力をかけたボルト締めランジュバン型振動子(通称BLT又はBL振動子)である。交流電源34は、この超音波振動素子32に、所定の共振周波数に相当する周波数の交番電圧を印加する。
【0022】
振動源30を駆動することで、保持面18は、軸方向に超音波振動する。そして、保持面18が超音波振動することで、保持面18と、当該保持面18に近接対向する平面(例えば半導体チップ100の端面)との間に、超音波スクイーズ効果が生じる。そして、この超音波スクイーズ効果により、半導体チップ100が、保持面18から離間した状態のまま、保持面18に保持されるが、これについては、後述する。
【0023】
吸引源36は、負圧を発生させるもので、例えば、エアポンプ等を有している。吸引源36は、吸引経路24と連通しており、当該吸引源36が駆動することで、吸引孔22に負圧が作用し、半導体チップ100を保持面18に引き付ける吸引力が発生する。
【0024】
コントローラ50は、チップ保持装置10の電気的要素の駆動を制御する。このコントローラ50は、物理的には、プロセッサ52とメモリ54とを有したコンピュータである。なお、図1では、コントローラ50を単一のコンピュータとして図示しているが、コントローラ50は、物理的に離れた複数のコンピュータを組み合わせて構成されてもよい。
【0025】
このコントローラ50は、保持面18が半導体チップ100を非接触で保持できるように、振動源30および吸引源36の駆動を制御する。これについて図2を参照して説明する。図2は、半導体チップ100を非接触で保持する原理を示す模式図である。
【0026】
上述した通り、超音波振動素子32に交番電圧を印加すると、保持面18が超音波振動する。この超音波振動が生じた状態で、半導体チップ100を保持面18に近接させると、当該保持面18と半導体チップ100との間に、超音波スクイーズ効果が発生する。超音波スクイーズ効果は、微小隙間を介して対向する二つの平板の一方を振動させると、隙間内の粘性の影響により、当該隙間内に、外部よりも高い圧力が発生する効果である。この超音波スクイーズ効果が生じると、スクイーズ膜Sfが形成される。
【0027】
圧力差の関係で、半導体チップ100には、このスクイーズ膜Sfの表面に留まろうとする力が作用する。このスクイーズ膜Sfにより生じる力が、半導体チップ100を保持する保持力となる。以下では、スクイーズ膜Sfに起因する保持力を「超音波保持力」と呼ぶ。超音波保持力は、保持面18に垂直な方向および平行な方向(すなわち面方向)の双方に生じる。すなわち、スクイーズ膜Sfが形成された場合、半導体チップ100には、保持面18から厚み方向に離れる力、すなわち、保持面18から浮上する方向の力が作用する。また、スクイーズ膜Sfが形成された場合、半導体チップ100は、振動面内に留まろうとする。そのため、図2の下図に示すように、外力を受けて、半導体チップ100が面方向に一時的に位置ずれしたとしても、半導体チップ100は、その全体が振動面内に位置するように、面方向に移動し、保持面18と正対した状態に戻ろうとする。
【0028】
本例では、こうした超音波保持力をアシストするために、さらに、保持面18に負圧による吸引力も発生させている。コントローラ50は、半導体チップ100が保持面18から浮上した状態で、この吸引力と、超音波保持力と、半導体チップ100に作用する重力と、が釣り合うように、吸引源36および振動源30の駆動を制御する。
【0029】
コントローラ50は、半導体チップ100を保持するチップ保持具12を移動させることで、半導体チップ100を搬送する。このチップ保持具12の移動に伴い、半導体チップ100の保持面18に対する位置がズレることがある。これについて、図3を参照して説明する。図3は、慣性力に起因する半導体チップ100の位置ズレの様子を示す図である。図3に示すグラフは、チップ保持具12が水平移動する際の速度プロファイルである。
【0030】
図3の例では、チップ保持具12の状態は、停止状態S1、加速状態S2、定速状態S3、減速状態S4、停止状態S5の順に遷移する。停止状態S1において、半導体チップ100は、超音波保持力により、保持面18と正対している。その後、チップ保持具12が水平方向に加速しながら横移動すると、半導体チップ100には、横移動の方向(図3の場合、紙面右方向)と反対方向の慣性力Fiが発生する。この慣性力Fiを受けて、半導体チップ100は、一時的に、保持面18に対して面方向にズレる。
【0031】
その後、定速状態S3になり、慣性力Fiが消失すると、半導体チップ100は、超音波保持力により、保持面18と正対する位置に戻る。続いて、減速状態S4になると、再び、半導体チップ100に、慣性力Fiが作用し、半導体チップ100が保持面18に対して面方向にズレる。なお、この場合の慣性力Fiは、横移動方向と同じ方向である。そして、チップ保持具12が完全に停止した停止状態S5になれば、慣性力が消失し、半導体チップ100は、超音波保持力により、保持面18と正対する位置に戻る。
【0032】
ここで、慣性力Fiが大きい場合は、横移動の過程で、半導体チップ100の位置ズレが大きくなり、半導体チップ100がチップ保持具12から脱落するおそれがあった。そのため、横移動の加速度を高くすることができず、半導体チップ100の移動に時間がかかるという問題があった。
【0033】
また、半導体チップ100が脱落しない場合でも、半導体チップ100の位置ズレが生じると、処理時間の増加を招く。例えば、チップ保持具12で保持した半導体チップ100を検査するために、所定の検査位置(例えば検査用カメラの真上等)に移動する場合を考える。この場合、チップ保持具12は、検査位置まで移動して停止する。この停止した直後、半導体チップ100は、慣性力Fiが消費されるまでの間、面方向に振動する。そのため、半導体チップ100の面方向の振動が停止するまで、検査処理を開始できず、検査に要する時間が長期化する。また、別の形態として、チップ保持具12で保持した半導体チップ100を、ボンディングツールに受け渡す場合を考える。この場合も、チップ保持具12が受け渡し位置に移動した後、半導体チップ100の面方向の振動が停止するまで、半導体チップ100をボンディングツールに受け渡すことができない。結果として、半導体装置製造において、リードタイムの増加を招く。
【0034】
そこで、こうした半導体チップ100の位置ズレを抑制するため、本例では、保持面18の横移動の加速度(マイナスの加速度を含む)に応じて、保持面18を傾ける。これについて図4を参照して説明する。図4は、チップ保持具12の揺動の様子を示す模式図である。図4のグラフは、図3のグラフと同じく、チップ保持具12が水平移動する際の速度プロファイルである。また、図4においても、チップ保持具12の状態は、停止状態S1、加速状態S2、定速状態S3、減速状態S4、停止状態S5の順に遷移する。
【0035】
図4から明らかな通り、本例では、チップ保持具12が、加速状態S2および減速状態S4の場合、その加速力に応じて、揺動機構46により、チップ保持具12を揺動させ、保持面18を傾ける。
【0036】
コントローラ50は、このときの傾き角度θが、図4に示すように、半導体チップ100に作用する慣性力Fiと重力Fgとの合成ベクトルFcが、保持面18に対して垂直方向、かつ、半導体チップ100から保持面18に向かう向きになるようにする。かかる構成とすることで、半導体チップ100には、保持面18に向かう力が作用するため、慣性力Fiに起因する位置ズレを効果的に防止できる。そして、これにより、チップ保持具12の横移動の加速度を高くでき、また、横移動の停止後、即座に次の処理に進むことができる。結果として、半導体チップ100に対する処理時間を短縮できる。
【0037】
なお、半導体チップ100が同じ場合、半導体チップ100に作用する重力Fgの大きさと向きは不変である。そのため、適切な向きの合成ベクトルFcを得るためには、慣性力Fiが大きいほど(すなわち加速度の絶対値が大きいほど)、傾き角度θを大きくすればよい。
【0038】
コントローラ50は、チップ保持具12の速度プロファイルと、当該速度プロファイルに応じた傾き角度θの変化プロファイルと、を予め記憶しておき、この傾き角度θの変化プロファイルに応じて、揺動機構46の駆動を制御してもよい。また、別の形態として、コントローラ50は、リアルタイムでチップ保持具12の横移動の加速度と当該加速度に応じた傾き角度θを算出し、揺動機構46の駆動を制御してもよい。加速度は、例えば、チップ保持具12の移動位置をセンサ等で検知し、得られた移動位置に基づいて算出されてもよい。
【0039】
いずれにしても、チップ保持具12の加速度、ひいては、半導体チップ100に作用する慣性力Fiに応じて、保持面18を傾けることで、保持面18に対する半導体チップ100の位置ズレを効果的に防止できる。
【0040】
ところで、上述の説明では、保持面18の傾きは、コントローラ50により電動制御されている。しかし、保持面18の傾きは、機械的な機構により制御されてもよい。例えば、図5に示すように、チップ保持具12に振り子60を連結し、当該振り子60により、保持面18の傾きを制御してもよい。この場合、振り子60は、揺動軸20を挟んで、保持面18の反対側に取り付けられる。振り子60の末端には錘62が取り付けられており、振り子60の重心64は、揺動軸20より下側に位置している。チップ保持具12が加速しながら横移動した場合、振り子60の錘62は、加速方向と逆側に振れる。この振り子60の影響で、チップ保持具12は、揺動軸20を中心として、錘62と逆側に揺動する。そして、これにより、保持面18が加速度に応じて傾き、保持面18に対する半導体チップ100の位置ズレが防止される。
【0041】
また、これまでは、保持面18をほぼフラットな平坦形状として説明している。しかし、半導体チップ100を非接触で保持できるのであれば、保持面18の形態は、適宜変更されてもよい。例えば、図6に示すように、保持面18に、位置決め凹部28および気流形成溝26を設けてもよい。図6は、保持面18の軸方向視図である。図6において、斜めハッチング部分は、保持プレート16を貫通していない凹部を示しており、クロスハッチング部分は、保持プレート16を貫通した孔部を示している。
【0042】
位置決め凹部28は、半導体チップ100の外形とほぼ同じ形状である。図6の例の場合、半導体チップ100は、1辺が約L1の正方形であるため、位置決め凹部28の内周縁の形状も、1辺が約L1の正方形としている。
【0043】
こうした位置決め凹部28の作用について図7を参照して説明する。図7は、位置決め凹部28の作用を示すイメージ図である。なお、図7では、気流形成溝26の図示は省略している。位置決め凹部28を形成した場合、形成しない場合に比べて、半導体チップ100の面方向の位置決め精度が向上する。かかる作用が得られる原理は、位置決め凹部28を境界として、超音波振動の振幅が急変するためと推測される。
【0044】
すなわち、位置決め凹部28が存在する場合、保持面18に生じる超音波振動の振幅が、当該位置決め凹部28を境として急変すると推定される。その結果、超音波振動に起因して生じる超音波保持力も、当該位置決め凹部28を境として急変する。かかる場合において、図7に示すように、半導体チップ100が、保持面18に対して面方向にずれると、半導体チップ100に作用する超音波保持力が、左右でアンバランスとなる。半導体チップ100は、この力のアンバランスを解消するべく、面方向に移動するため、半導体チップ100の面方向の位置ズレが自動的に修正、すなわち、セルフアライメントされる。結果として、位置決め凹部28を設けることで、半導体チップ100の位置決め精度を向上できる。
【0045】
次に、気流形成溝26について説明する。気流形成溝26は、この吸引源36と繋がった溝である。この気流形成溝26の形状は、吸引孔22に繋がるのであれば、特に限定されない。本例において、気流形成溝26は、吸引孔22から放射状または十文字状に延びる4つのラインと、当該四つのラインを取り囲む略矩形のラインと、を含む。
【0046】
こうした気流形成溝26の作用について図8を参照して説明する。図8は、気流形成溝26の作用を示すイメージ図である。なお、図8では、位置決め凹部28の図示は省略している。気流形成溝26を形成した場合、半導体チップ100と保持面18との間を流れる面方向の気流が増速し、安定する。
【0047】
すなわち、超音波スクイーズ効果により、半導体チップ100を浮上させたまま、吸引源36による吸引力を発生させた場合、浮上隙間には、面方向かつ中心向きの気流が発生する。ここで、気流形成溝26が無い場合、中心に向かう面方向の気流は、流体粘性の影響を受けて、速度が低く、不安定になりやすい。また、吸引力は、吸引孔22近傍にのみ、局所的に作用する。この場合、半導体チップ100は、面方向の位置ずれが生じていたとしても、面方向に移動しにくく、位置ずれを自己修正することが難しい。
【0048】
一方、図8に示すように、気流形成溝26を形成した場合、当該気流形成溝26付近においては、半導体チップ100と保持面18との隙間の厚みが大きくなり、気流全体に作用する流体粘性の影響が低下する。その結果、面方向の気流の速度が増加し、面方向の気流が安定する。こうした面方向の安定した気流は、半導体チップ100の中心が、吸引孔22(ひいては保持面18の中心)に近づくような力を半導体チップ100に付与する。そして、これにより、半導体チップ100が保持面18に対して自動的に位置決めされる。また、気流形成溝26を形成することで、吸引孔22付近で生じる吸引力のピークを低減でき、吸引力を面方向に分散できる。これにより、半導体チップ100が、面方向に移動しやすくなり、面方向の位置ずれを自己修正しやすくなる。なお、ここで説明した位置決め凹部28および気流形成溝26の形態は一例であり、適宜変更されてもよい。
【0049】
次に、こうしたチップ保持装置10を有する半導体装置の製造装置70について説明する。図9は、チップ保持装置10を有する製造装置70の一例を示す図である。図9の製造装置70は、1以上の半導体チップ100を基板110にボンディングすることで半導体装置を製造する装置である。
【0050】
この製造装置70は、チップ供給源72と、ピックアップ部76と、ボンディング部80と、を有している。チップ供給源72には、ダイシングテープ74に貼り付けられた半導体チップ100が用意されている。ピックアップ部76は、ダイシングテープ74に貼り付けられた半導体チップ100を下側から突き上げる突き上げピンと、突き上げられた半導体チップ100をピックアップするピックアップコレット78と、を有している。本例では、上述したチップ保持装置10を、このピックアップコレット78として用いている。
【0051】
半導体チップ100は、基板110に接合される面、すなわち、接合面(図9における太線部分)が上を向いた姿勢でダイシングテープ74に貼り付けられている。ピックアップコレット78のチップ保持具12は、この接合面を保持面18で非接触で保持する。
【0052】
ピックアップコレット78は、ダイシングテープ74から半導体チップ100を受けとれば、規定の回転軸を中心として、180度回転する。これにより、保持面18は、下向きの状態から上向きの状態に変化する。この回転移動の際も、半導体チップ100を適切に保持できるように、コントローラ50は、回転移動時には、静止時よりも、超音波エネルギまたは吸引力の少なくとも一方を増加させる。
【0053】
180度回転した後、ピックアップコレット78は、所定の受け渡し位置まで、横移動する。コントローラ50は、この横移動の際、加速度に応じてピックアップコレット78を揺動させ、保持面18を傾かせる。
【0054】
ボンディング部80は、基板110が載置されるステージ82と、半導体チップ100を保持して搬送するボンディングヘッド84と、を有している。ボンディングヘッド84は、ボンディングツール86を有している。ボンディングツール86は、その末端面において、半導体チップ100を吸引保持し、半導体チップ100を搬送する。上述したチップ保持装置10を、このボンディングヘッド84として使用してもよい。
【0055】
ボンディングツール86は、図9に示すように、上向き姿勢のピックアップコレット78から半導体チップ100を受け取り、半導体チップ100の接合面と反対側の面を吸引保持する。また、ボンディングツール86は、ピックアップコレット78から半導体チップ100を受け取った後、所定のボンディング位置の真上まで横移動する。このとき、コントローラ50は、ボンディングツール86の加速度に応じて、ボンディングツール86を揺動させてもよい。その後、ボンディングツール86は、半導体チップ100を基板110に押し当て、半導体チップ100を基板110にボンディングする。一つの基板110に必要な個数の半導体チップ100をボンディングすることで、半導体装置が製造される。
【0056】
ここで、これまでの説明で明らかな通り、ピックアップコレット78およびボンディングツール86は、横運動する際、加速度に応じて、揺動する。これにより、保持面18に対する半導体チップ100の位置ズレが効果的に防止され、半導体チップ100の脱落や振動が効果的に防止される。その結果、半導体チップ100の横移動の加速度を高めることができ、また、横移動後、即座に次の処理に進めるため、半導体装置を製造するリードタイムを短縮できる。
【0057】
なお、これまで説明した構成は、一例であり、請求項1に記載の構成を具備するのであれば、その他の構成は、適宜、変更されてもよい。例えば、上述の説明では、チップ保持装置10は、超音波保持力と吸引力との双方を用いて半導体チップ100を保持する。しかし、チップ保持装置10は、吸引源36を有さず、超音波保持力のみで半導体チップ100を保持する構成でもよい。また、半導体チップ100の面方向に位置ズレを抑制できるのであれば、合成ベクトルFcは、必ずしも、保持面18に対して直交していなくてもよい。また、チップ保持具の移動方向は、重力方向と交差する方向であれば、必ずしも、水平でなくてもよい。
【符号の説明】
【0058】
10 チップ保持装置、12 チップ保持具、14 本体、16 保持プレート、18 保持面、20 揺動軸、22 吸引孔、24 吸引経路、26 気流形成溝、28 位置決め凹部、30 振動源、32 超音波振動素子、34 交流電源、36 吸引源、40 移動機構、42 動力源、46 揺動機構、48 動力源、50 コントローラ、52 プロセッサ、54 メモリ、60 振り子、62 錘、64 重心、70 製造装置、72 チップ供給源、74 ダイシングテープ、76 ピックアップ部、78 ピックアップコレット、80 ボンディング部、82 ステージ、84 ボンディングヘッド、86 ボンディングツール、100 半導体チップ、110 基板。
図1
図2
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図5
図6
図7
図8
図9