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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025099526
(43)【公開日】2025-07-03
(54)【発明の名称】取鍋内溶鋼へのガス吹き込み方法
(51)【国際特許分類】
   C21C 7/072 20060101AFI20250626BHJP
【FI】
C21C7/072 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023216238
(22)【出願日】2023-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】川上 雄太郎
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 陵平
(72)【発明者】
【氏名】斧田 博之
【テーマコード(参考)】
4K013
【Fターム(参考)】
4K013AA01
4K013BA18
4K013CA01
4K013CA21
4K013CC01
4K013CF19
(57)【要約】
【課題】高Mn鋼を溶製する際、取鍋精錬において、ガス吹込部から取鍋内溶鋼に窒素ガスを吹き込んだとき、ガス吹込部が閉塞することを抑制する。
【解決手段】
取鍋精錬において、耐火物からなるガス吹込部から取鍋内の溶鋼に窒素ガスを吹き込むことにより取鍋内の溶鋼を攪拌する。前記溶鋼は以下の成分組成に調整される、または、以下を満たす成分規格の鋼を対象とする。
C:0.24%以上0.85%以下(%は質量%を表す。以下同じ)
Si:0.12%以上0.35%以下
Mn:6%以上16%以下
Al:0.015%以下
Cr:1.05%以下
P:0.0330%以下
S:0.0300%以下
N:0.0450%以下
残部はFeおよび不可避的不純物からなる。前記ガス吹込部は、Cr23の含有量が0.06%以下の耐火物からなる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
取鍋精錬において、耐火物からなるガス吹込部から取鍋内の溶鋼に窒素ガスを吹き込むことにより取鍋内の溶鋼を攪拌し、
前記溶鋼は以下の成分組成に調整される、または、以下を満たす成分規格の鋼を対象とし、
C:0.24%以上0.85%以下(%は質量%を表す。以下同じ)
Si:0.12%以上0.35%以下
Mn:6%以上16%以下
Al:0.015%以下
Cr:1.05%以下
P:0.0330%以下
S:0.0300%以下
N:0.0450%以下
残部はFeおよび不可避的不純物からなり、
前記ガス吹込部は、Cr23の含有量が0.06%以下の耐火物からなる
ことを特徴とする取鍋内溶鋼へのガス吹き込み方法。
【請求項2】
前記ガス吹込部が前記取鍋に形成されている
ことを特徴とする請求項1に記載の取鍋内溶鋼へのガス吹き込み方法。
【請求項3】
ランスにより取鍋内の溶鋼に窒素ガスを吹き込み、
前記ランスは前記ガス吹込部を有すること
を特徴とする請求項1に記載の取鍋内溶鋼へのガス吹き込み方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、取鍋精錬において取鍋内の溶鋼へガスを吹き込む方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、オーステナイト系高Mnステンレス鋼の溶製方法が記載されている。特許文献1の実施例には、「・・・その後取鍋精錬を実施した。図1に電気アーク炉1で原料を溶解し、次いで溶鋼を取鍋2に移して取鍋精錬炉3の底部に配置したポーラスレンガ6からArを底吹きし取鍋でのスラグ精錬を実施した。・・・」と記載されている(特許文献1の[0016]参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002-146429号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の実施例では、取鍋精錬において、取鍋内溶鋼にArガス(アルゴンガス)を吹き込んでいる。Arガスを吹き込むことにより、取鍋内の溶鋼を撹拌する。
【0005】
高Mn鋼を溶製するとき、取鍋精錬において、ガス吹込部から取鍋内溶鋼に窒素ガスを吹き込むことがある。本願発明者らのこれまでの実験から、高Mn鋼を溶製する際、取鍋精錬において、窒素ガスを吹き込んだとき、ガス吹込部が閉塞することがあった。ガス吹込部が閉塞すると、閉塞物を除去する作業が必要になる。そのため、全体の処理時間が長くなり、生産性が低下する。
【0006】
本発明は、高Mn鋼を溶製する際、取鍋精錬において、ガス吹込部から取鍋内溶鋼に窒素ガスを吹き込んだとき、ガス吹込部が閉塞することを抑制する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者らは、高Mn鋼を溶製する際、取鍋精錬において、ガス吹込部から取鍋内溶鋼に窒素ガスを吹き込んだときガス吹込部が閉塞する原因について研究し、以下の知見を得た。
【0008】
窒素ガスは、Arガスと比較し、溶鋼に溶解しやすい。そのため、ガス吹込部から取鍋内溶鋼に窒素ガスを吹き込んだ場合、Arガスを同じ流量吹き込んだ場合より、ガス吹込口付近の窒素ガスの線流速が小さいので、ガス吹込口からガス吹込部へ溶鋼が入り込みやすい。以降、ガス吹込部へ溶鋼が入り込むことを、「ガス吹込部に地金が差し込む」と表現する。また、窒素は比熱が大きく、溶鋼へ溶解する際に吸熱反応を伴うことから、取鍋内溶鋼に窒素ガスを吹き込むと、ガス吹込口付近で溶鋼が冷やされ、凝固しやすい。
【0009】
上記より、取鍋内溶鋼に窒素ガスを吹き込んだとき、ガス吹込口付近が閉塞しやすい。
【0010】
さらに、本発明が対象とする高Mn鋼では以下の事象が起こることがわかった。
【0011】
取鍋内溶鋼へ窒素ガスを吹き込む方法として、例えば、取鍋の底部に形成されたガス吹込部から窒素ガスを吹込む方法、ランス(「ランスパイプ」と称することがある)を用いて窒素ガスを吹込む方法が挙げられる。これらのガス吹込部には、一般的に耐火物が使用される。
【0012】
本発明が対象とする高Mn鋼では、取鍋内の溶鋼にMn(マンガン)が多く含まれる。溶鋼に含まれるMn(マンガン)と、ガス吹込部の耐火物に含まれるAl23(酸化アルミニウム)などとにより(1)式に示す反応が起こり、耐火物と溶鋼の界面にMnO・Al23が生成すると考えられる。なお、下線は溶鋼中の成分を表す。
Al23Mn → MnO・Al23 ・・・(1)
Cr23は耐火物に含まれる他の酸化物より還元されやすいため、耐火物にCr23が含まれる場合、Cr23が酸素源になり、溶鋼中に酸素を供給し、(1)式の反応が起こる。特に耐火物にCr23が多く含まれる場合、(1)式の反応が進みやすいと考えられる。(1)式の反応により生成したMnO・Al23は、溶鋼とガス吹込部の耐火物の界面に生成する。
【0013】
図1に、ガス吹込部の表面の「濡れ性が悪い場合」と「濡れ性が良い場合」とを示している。ガス吹込部の「濡れが悪い場合」、図1に示すように、溶鋼がガス吹込部に濡れ広がりにくいため、ガス吹込部に地金が差し込みにくい。一方、ガス吹込部の表面の「濡れ性が良い場合」、図1に示すように、ガス吹込部に溶鋼が濡れ広がりやすく、地金が差し込みやすい。
【0014】
本出願人らは高Mn鋼を溶製した際のAl23-Cr23系の吹込み耐火物を調査したところ、高Mn鋼とAl23-Cr23耐火物の界面に、MnO・Al23が生成していることを確認した。この耐火物と溶鋼間の反応で界面に生成したMnO・Al23によって高Mn鋼とMnO・Al23間で濡れが促進されたと想定され、図1の「濡れが良い場合」に近い状態となり、ガス吹込部に地金が差し込み、ガス吹込部の閉塞に至ったと考えた。
【0015】
このように、窒素ガスの吹込みおよび高Mn鋼の溶製といったガス吹込部が閉塞しやすい条件が重なることにより、ガス吹込部が閉塞すると考えられる。
【0016】
本願発明者らは、ガス吹込部が閉塞しやすい条件が重なってもガス吹込部の閉塞を抑制することを目指してさらに研究した。そして、(1)式の反応を抑制することを目指してO(酸素)源となるCr23に着目し、以下の方法を見出した。
【0017】
本明細書で開示される溶鋼の精錬方法は、取鍋精錬において、耐火物からなるガス吹込部から取鍋内の溶鋼に窒素ガスを吹き込むことにより取鍋内の溶鋼を攪拌し、前記溶鋼は以下の成分組成に調整される、または、以下を満たす成分規格の鋼を対象とし、
C:0.24%以上0.85%以下(%は質量%を表す。以下同じ)
Si:0.12%以上0.35%以下
Mn:6%以上16%以下
Al:0.015%以下
Cr:1.05%以下
P:0.0330%以下
S:0.0300%以下
N:0.0450%以下
残部はFeおよび不可避的不純物からなり、
前記ガス吹込部は、Cr23の含有量が0.06%以下の耐火物からなる。
【0018】
ガス吹込部に上記耐火物を使用することにより、上記(1)式の反応が抑制されることで、高Mn鋼とMnO・Al23間で濡れを促進させると想定されるMnO・Al23の生成が抑制され、地金の差し込みを抑制できると考えられる。これにより、窒素ガスの吹き込み、高Mn鋼の溶製といったガス吹込部が閉塞しやすい条件でも、ガス吹込部の閉塞を抑制できる。
【0019】
上記方法において、前記ガス吹込部が前記取鍋に形成されていてもよい。
【0020】
また、上記方法において、ランスにより取鍋内の溶鋼に窒素ガスを吹き込み、前記ランスは前記ガス吹込部を有してもよい。
【発明の効果】
【0021】
高Mn鋼を溶製する際、取鍋精錬において、ガス吹込部から取鍋内溶鋼に窒素ガスを吹き込んだとき、ガス吹込部が閉塞することを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】ガス吹込部の表面の濡れが悪い場合とガス吹込部の表面の濡れが良い場合との模式図である。
図2】取鍋の底部のガス吹込部から取鍋内溶鋼へガスを吹き込んでいるときを示す模式図である。
図3】ランスから取鍋内溶鋼へガスを吹き込んでいるときを示す模式図である。
図4図3に示すランスの下端部のガス吹込部を含む拡大図である。
図5】ランスの下端部のガス吹込部の一部拡大断面図であり、ランス孔数が4個の例である。
図6】実験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。
【0024】
本実施形態に係る方法は、高Mn鋼の溶製の際、取鍋精錬において、耐火物からなるガス吹込部から取鍋内溶鋼に窒素ガスを吹き込むことにより取鍋内の溶鋼を攪拌する。ガス吹込部は、Cr23の含有量が0.06%以下の耐火物からなる。窒素ガスは、取鍋精錬において、例えば、取鍋内の溶鋼の撹拌、溶鋼のN(窒素)含有量の調整といった成分調整の目的で吹き込まれる。
【0025】
本実施形態が対象とする高Mn鋼は、取鍋精錬において、溶鋼が以下の成分組成に調整される、または、以下を満たす成分規格の鋼である。
C:0.24%以上0.85%以下(%は質量%を表す。以下同じ)
Si:0.12%以上0.35%以下
Mn:6%以上16%以下
Al:0.015%以下
Cr:1.05%以下
P:0.0330%以下
S:0.0300%以下
N:0.0450%以下
残部はFeおよび不可避的不純物からなる。
本実施形態が対象とする高Mn鋼は、例えば、非磁性鋼として使用される。
【0026】
ガス吹込部から取鍋内溶鋼にガスを吹き込む方法は、特に限定されない。例えば、図2に示すように、取鍋の底部から取鍋内溶鋼にガスを吹き込んでもよい。図3に示すように、ランスを用いて取鍋内溶鋼にガスを吹き込んでもよい。以下、図2図5を参照しつつ、取鍋内溶鋼にガスを吹き込む方法の例を説明する。
【0027】
図2に示す方法では、取鍋1の底部から取鍋1内の溶鋼2に窒素ガスを吹き込む。図2に示す取鍋1は、主に耐火物からなる。取鍋1の底部にガス吹込部11が形成されている。ガス吹込部11は、取鍋1のガス吹込部11以外の部分とは異なる耐火物からなる。ガス吹込部11は、ガスが通過可能なポーラスな耐火物からなる。ガス吹込部11に窒素ガスが吹き込まれると、窒素ガスはガス吹込部11を通って、ガス吹込部11から取鍋1内の溶鋼2に吹き込まれる。ガス吹込部11は、溶鋼2に吹き込まれる前の窒素ガスに直接接する部分である。ガス吹込部11は、溶鋼2に吹き込まれる前の窒素ガスが通過する部分である。取鍋1のガス吹込部11以外の部分は、溶鋼2に吹き込まれる前の窒素ガスに接しない。取鍋1のガス吹込部11以外の部分には、溶鋼2に吹き込まれる前の窒素ガスが通過しない。
【0028】
図3に示す方法では、ランス200を用いて取鍋101内の溶鋼102に窒素ガスを吹き込む。窒素ガスがランス200の下端部から取鍋101内の溶鋼102に吹き込まれる。
【0029】
図4にランス200の下端部の拡大図を示している。ランス200の下端部に、単数または複数のガス吹込口221が形成されている。図4には、一例として、ランス200に4個のガス吹込口221が形成されている場合を示している。
【0030】
図5に、ランス200の一部断面図を示している。ランス200は、図5に示すように、芯管231と、芯管231を覆う耐火物232とを有する。
【0031】
芯管231は、例えば金属製の管である。芯管231は、耐火物以外のものからなる。
【0032】
芯管231を覆う耐火物232は、ガス吹込部241と、芯管231およびガス吹込部241を覆う被覆部242とを有する。ガス吹込部241は、芯管231の先端からガス吹込口221までのガス流路を形成する。ガス吹込部241は、取鍋1内の溶鋼2に吹き込まれる前の窒素ガスに直接接する部分である。ガス吹込部241の内側を窒素ガスが通過する。被覆部242は、取鍋101内の溶鋼102に吹き込まれる前の窒素ガスに接しない。ガス吹込部241の耐火物と、被覆部242の耐火物とは、同じでもよく、異なってもよい。
【0033】
窒素ガスは、ランス200の芯管231およびガス吹込部241の内側を通って、ガス吹込口221からでて、図3に示す取鍋101内の溶鋼102に吹き込まれる。
【0034】
上記のように、「ガス吹込部」(11、241)は、耐火物からなり、取鍋(1、101)内の溶鋼(2、102)に窒素ガスを吹き込む部分である。「ガス吹込部」(11、241)は、取鍋(1、101)内の溶鋼(2、102)に吹き込まれる前の窒素ガスと直接接する部分である。
【0035】
ガス吹込部(11、241)は、Cr23含有量が0.06%以下の耐火物からなる。ガス吹込部(11、241)の耐火物は、Cr23含有量が0.06%以下であれば、どのような種類の耐火物でもよい。例えば、Cr23含有量が0.06%以下であれば、Al23-C系の耐火物でもよく、MgO-C系の耐火物でもよく、Al23-MgO系の耐火物でもよい。
【0036】
ガス吹込部(11、241)以外の耐火物は、Cr23含有量が0.06%以下の耐火物でもよく、Cr23含有量が0.06%を超える耐火物でもよい。ガス吹込部(11、241)以外の耐火物は、ガス吹込部(11、241)と同じ種類の耐火物でもよく、異なる種類の耐火物でもよい。
【0037】
例えば、図2に示す取鍋1のガス吹込部11以外の部分の耐火物は、Cr23含有量が0.06%を超える耐火物でもよい。図5に示す被覆部242の耐火物についても同様に、Cr23含有量が0.06%以下の耐火物でもよく、Cr23含有量が0.06%を超える耐火物でもよい。
【0038】
ガス吹込部(11、241)から取鍋内溶鋼に、窒素ガスだけでなく、窒素ガス以外のガスを吹き込んでもよい。例えば、ガス吹込部から取鍋内溶鋼にArガスを吹き込んでもよい。ガス吹込部から取鍋内溶鋼に窒素ガスと窒素ガス以外のガスを吹き込む場合、吹き込むガスの順序は問わない。
【0039】
取鍋精錬の具体的な工程、手段、条件等は、特に限定されず、例えば当業者の常法通りに行うとよい。取鍋精錬は、例えば、LF等の取鍋精錬装置またはRH等の脱ガス装置を用いて行ってもよい。
【0040】
以下、上記方法を得るに至った実験について説明する。
【0041】
転炉で溶製した溶鋼を取鍋へ出鋼した。出鋼温度を1680℃以上とした。その後、1回目の取鍋精錬、脱ガス処理、2回目の取鍋精錬を順に実施した後、当業者の常法通りに連続鋳造を実施し、高Mn鋼を得た。
【0042】
1回目の取鍋精錬は、LF(Ladle Furnace)を用いて行った。1回目の取鍋精錬では、処理開始からしばらくの間、取鍋内溶鋼にArガスを吹き込み、途中から窒素ガスを吹き込んだ。取鍋へ合金を投入するなどにより、溶鋼の成分を調整した。
【0043】
ガスの吹き込みにはランスを使用した。本実験では複数のガス吹込口が形成されたランスを使用した。ランスのガス吹込口付近が図5に示すようになっており、実験No.1~4と実験No.5~10とでガス吹込部の耐火物が異なる。実験No.1~4では、ガス吹込部がAl23-Cr23系の耐火物からなるランスを使用した。実験No.5~10では、ガス吹込部がAl23-C系の耐火物からなるランスを使用した。
【0044】
ランスの下端部を取鍋の底部から0.3~0.8mの高さに配置した。溶鋼1tonあたり4.5~8.3L/minの流量の窒素ガスを吹き込み、溶鋼を撹拌した。実験No.2では途中で窒素ガスの流量を変えた。後述する表1に実験条件を示している。
【0045】
上記以外の処理(除滓、造滓など)は、当業者の常法通りに行った。
【0046】
1回目の取鍋精錬後、RH真空脱ガス装置を用いて当業者の常法通りに脱ガス処理を実施した。
【0047】
脱ガス処理後、2回目の取鍋精錬を行った。2回目の取鍋精錬では、LFを用いて、溶鋼の温度調整および成分の微調整を行った。2回目の取鍋精錬では、溶鋼1tonあたり2.6~3.4L/minの流量のArガスを吹き込み、溶鋼を撹拌した。
【0048】
上述した取鍋精錬により、取鍋内の溶鋼が以下の成分組成範囲となるように調整した。
C:0.24%以上0.85%以下
Si:0.12%以上0.35%以下
Mn:6%以上16%以下
Al:0.015%以下
Cr:1.05%以下
P:0.0330%以下
S:0.0300%以下
N:0.0450%以下
残部はFeおよび不可避的不純物からなる。
本実験では上記を満たす成分範囲の高Mn鋼が得られた。
【0049】
1回目の取鍋精錬で、窒素ガス吹き込み中に、ガス吹込部に相当する部分が閉塞しているかを調べるため、ランスの背圧とガス流量を測定した。
ランスの背圧は、窒素ガス吹き込み中のランスの入り口の圧力である。表1に、窒素ガス吹き込み中の「ランス背圧の最大値」を示している。
また、表1に、ガス設定流量から算出した「ガス線流速の設定値」とガスの最低流量の実績値から算出した「ガス線流速の最低値」を示している。なお、ガス線流速は1孔当たりのガス流量を吹込み孔の断面積で割った値である。
「ランス背圧の最大値」が大きいとき、ガス吹込部が閉塞していると考えられる。
「ガス線流速の設定値」と「ガス線流速の最低値」との差が大きいとき、ガス吹込部が閉塞していると考えられる。但し、1m/s以下の差は測定誤差の範囲であり、差が1m/s以下の場合、「ガス線流速の設定値」と「ガス線流速の最低値」との差が殆どないといえる。そこで、「ガス線流速の設定値」と「ガス線流速の最低値」との差が1m/sである場合、ガス流量が低下していない、つまり、ガス吹込部が閉塞していないと判断し、評価を「○」とした。一方、「ガス線流速の設定値」と「ガス線流速の最低値」との差が1m/sより大きい場合、ガス流量が低下した、つまり、ガス吹込部が閉塞していると判断し、評価を「×」とした。表1に実験結果を示している。
【0050】
【表1】
【0051】
表1から、実験No.1~4では、評価が「×」であり、ガス吹込部が閉塞した。実験No.5~10では、評価が「〇」であり、ガス吹込部が閉塞しなかった。
【0052】
実験No.1~4では、ガス吹込部の耐火物が全てAl23-Cr23系の耐火物であった。この耐火物のCr23含有量は3%であった。一方、実験No.5~10では、ガス吹込部の耐火物がAl23-C系の耐火物であった。この耐火物のCr23含有量は0.06%であった。この違いがガス吹込部の閉塞の有無に影響したと考えられる。
【0053】
本実験では高Mn鋼を対象としているため、溶鋼にMn(マンガン)が多く含まれる。溶鋼中のMn(マンガン)と耐火物に含まれるAl23(酸化アルミニウム)などにより、(1)式に示す反応が起こり、ガス吹込部を閉塞させやすくすると想定されるMnO・Al23が生成すると考えられる。
Al23Mn → MnO・Al23 ・・・(1)
【0054】
実験No.5~10では、ランスのガス吹込部のCr23含有量が少ないため、上記(1)式の反応が抑制されたことにより、ガス吹込部が閉塞しなかったと考えられる。ガス吹込部の耐火物のCr23含有量が0.06%のときガス吹込部が閉塞しなかったことから、Cr23含有量が0.06%より少ないときは上記(1)式の反応がより抑制され、ガス吹込部が閉塞しないと考えられる。
【0055】
上記より、ガス吹込部の耐火物のCr23含有量が0.06%以下である場合、ガス吹込部の閉塞が抑制されると考えられる。
【0056】
なお、上記実験では窒素ガスの吹込みにランスを用いたが、図2に示すように取鍋の一部のガス吹込部11から窒素ガスを吹き込む場合も上記と同様に考えられる。つまり、取鍋の一部のガス吹込部から窒素ガスを吹き込む場合、ガス吹込部の耐火物のCr23含有量が0.06%以下である場合、ガス吹込部の閉塞が抑制される。
【0057】
以上より、以下の知見が得られた。
高Mn鋼を溶製する際、取鍋精錬において、取鍋内の溶鋼にガス吹込部から窒素ガスを吹き込むことにより取鍋内の溶鋼を攪拌する。
前記溶鋼は以下の成分組成に調整される、または、以下を満たす成分規格の鋼を対象とする。
C:0.24%以上0.85%以下
Si:0.12%以上0.35%以下
Mn:6%以上16%以下
Al:0.015%以下
Cr:1.05%以下
P:0.0330%以下
S:0.0300%以下
N:0.0450%以下
残部はFeおよび不可避的不純物からなり、
前記ガス吹込部は、Cr23の含有量が0.06%以下の耐火物からなる。
上記方法により、ガス吹込部を閉塞させやすくすると想定されるMnO・Al23の生成が抑制される。これにより、窒素ガス吹き込みおよび高Mn鋼の溶製といったガス吹込部が閉塞しやすい条件で取鍋精錬を行っても、ガス吹込部の閉塞を抑制することができる。そのため、閉塞物を取り除く作業を省略できるため、全体の処理時間が長時間になることを抑えることができる。
【0058】
また、上記実験から、図6に示すように、「ガス背圧の最大値」と「ガス吹込部の閉塞の有無」との関係が得られた。図6から、窒素ガス吹き込み中の「ガス背圧の最大値」が0.48MPa以下のとき、ガス吹込部の閉塞が抑えられることがわかった。
【0059】
以上、本発明の実施形態について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態に限定されるものでないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0060】
上記実験では、ガス吹込部に、Cr23含有量が0.06%以下の耐火物として、Al23-C系の耐火物を使用した。しかし、Cr23含有量が0.06%以下の耐火物は、Al23-C系の耐火物の耐火物に限定されない。Cr23含有量が0.06%以下の耐火物として、Al23-C系の耐火物以外の耐火物を使用してもよい。
【0061】
上記実施形態では、取鍋内の溶鋼に窒素ガスを吹き込む方法として、図2図5に示す方法を例示した。しかし、取鍋内の溶鋼に窒素ガスを吹き込む方法は、図2図5に示す方法に限定されない。例えば、図2に示す取鍋1は、底部にガス吹込部11を有する。しかし、ガス吹込部11は、取鍋1の底部以外の部分に形成されていてもよい。例えば、ガス吹込部11は、取鍋1の側部に形成されていてもよい。また、ランスの構成は、図4および図5に示す構成に限定されない。
【符号の説明】
【0062】
1、101 取鍋
2、102 溶鋼
11、241 ガス吹込部
200 ランス
221 ガス吹込口
231 芯管
232 耐火物
242 被覆部
図1
図2
図3
図4
図5
図6