(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-07
(45)【発行日】2022-01-12
(54)【発明の名称】ダストキャップおよびこれを用いる動電型スピーカー
(51)【国際特許分類】
H04R 9/02 20060101AFI20220104BHJP
H04R 9/04 20060101ALI20220104BHJP
H04R 7/12 20060101ALI20220104BHJP
【FI】
H04R9/02 A
H04R9/04 105A
H04R7/12 K
(21)【出願番号】P 2017055524
(22)【出願日】2017-03-22
【審査請求日】2020-02-05
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)Hi-Fi Audio System NF-07 premium 展示・実演会の実施(2017年1月28日~2017年3月22日)(2)株式会社ラシュランのホームページ(http://rushrun.co.jp/index.html), Hi-Fi Audio System NF-07 premiumのページ(http://rushrun.co.jp/nf07premium_about.html), 同上SPEAKERのページ(http://rushrun.co.jp/nf07premium_speaker.html)
(73)【特許権者】
【識別番号】720009310
【氏名又は名称】オンキヨーサウンド株式会社
(72)【発明者】
【氏名】定家 弘一
(72)【発明者】
【氏名】内本 洋
【審査官】堀 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-194467(JP,A)
【文献】特開2001-224095(JP,A)
【文献】特開2005-252923(JP,A)
【文献】実開昭60-177591(JP,U)
【文献】実開昭51-075232(JP,U)
【文献】特開2007-235232(JP,A)
【文献】特開2007-189660(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 9/02
H04R 9/04
H04R 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コイルが巻回されるボビンの端部に連結するボビン連結部と、
前記ボビン連結部の内周側に規定される第1放射部と、
前記ボビン連結部の外周側に規定される第2放射部と、
前記第2放射部の外周側で振動板に連結する振動板連結部と、を備え、
前記ボビンの中心軸Qを含む断面において、前記振動板連結部は、前記ボビン連結部よりも前記コイルが位置する背面側に位置して前記振動板に連結し、
前記第1放射部の外形形状は、
その断面形状を規定する少なくとも2つの円弧の中心位置がそれぞれ前記ボビン連結部よりも前記背面側とは反対側の前面側に配置されて、前面側凹状の曲面を有し
、
前記中心軸Q上の2つの前記円弧の交点に前記前面側へ突出する突起部を形成し、
かつ、
前記中心軸Qを中心に対称であり、
前記振動板と別体に形成される、
ダストキャップ。
【請求項2】
前記第1放射部の外形形状を規定する前記円弧の半径は、
それぞれ前記ボビン連結部の内径寸法を規定する内径半径よりも大きく、前記内径半径の2倍である内径直径よりも小さい値に設定されている、
請求項1に記載のダストキャップ。
【請求項3】
請求項1または2に記載の前記ダストキャップと、
前記ダストキャップの前記ボビン連結部に連結する前記ボビン及び前記コイルを含むボイスコイルと、
前記コイルが配置される磁気空隙を有する磁気回路と、
前記ダストキャップの前記振動板連結部及び前記ボビンに連結する前記振動板と、を少なくとも含む、
動電型スピーカー。
【請求項4】
前記振動板は、中心孔を規定する内径部から延設されて外径部が前記前面側に位置するコーン形状の振動板部を有し、
前記ダストキャップの前記振動板連結部は、前記振動板部に対して略直交するように連結する、
請求項3に記載の動電型スピーカー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動電型スピーカーが備えるボイスコイルおよび磁気回路の磁気空隙部に対応して用いられるダストキャップに関し、特に、フルレンジ型であっても高域限界周波数付近の音響放射特性に優れる動電型スピーカーを実現するダストキャップに関する。
【背景技術】
【0002】
音声を再生する動電型スピーカーにおいては、振動板に連結するボイスコイルのコイルに音声信号電流を供給する。コイルは、磁気回路の磁気空隙に配置されているので、直流磁界で生じる音声信号電流に応じた駆動力によりボイスコイルおよび振動板を振動させて、音声信号を音波に変換する。一般的な動電型スピーカーでは、ボイスコイルは、略円筒形状のボビンにコイルが巻回されて構成されて、コーン形状の振動板の内径部が、ボビンの外側曲面に連結されることが多い。
【0003】
動電型スピーカーでは、磁気回路の磁気空隙の付近と、振動板のボイスコイルが連結する部分とが露出すると、磁気空隙に異物が入ったりして異音が発生するなどの動作不良を起こすことがある。そこで、多くの動電型スピーカーにおいては、ボイスコイルのボビンの上側端面を覆う、あるいは、振動板のボイスコイルが連結する部分を覆うように、ダストキャップを取り付けて、動作不良を防止する。ダストキャップは、ボイスコイルの磁気空隙内における位置を定める製造治具であるボイスコイルホルダーを用いて製造する動電型スピーカーでは、一般的に必要になる。ダストキャップは、センターキャップと呼ばれる場合がある。
【0004】
ダストキャップは、ボイスコイルおよび振動板に取り付けられて、振動系として一体になって振動する部材であり、振動板と対比してある程度の面積を有するので、振動板と同様に音響放射特性に優れることが望まれる。例えば、ダストキャップは、軽量で内部損失の大きい振動板と同等な材料で形成され、その形状も分割振動が少なくなるように剛性が高まるような形状に設計される。特に動電型スピーカーの再生周波数帯域の高域限界付近においては、ダストキャップの振動特性並びに音響放射特性は、動電型スピーカーの音圧周波数特性に与える影響が大きくなる。コーン形振動板が分割振動する高域限界周波数fh以上では、ボイスコイルが取り付けられている内径の周辺のみが大きく振動し、また、その付近に取り付けられているダストキャップが振動するからである。
【0005】
動電型スピーカーにおいて、ダストキャップの形状並びに振動板またはボイスコイルのボビンとの連結の構成は、様々なものが従来から提案されている。例えば、従来には、偏心したボイスコイル取付部と、内形中心点Pから外形中心点Oに向かう方向に規定される第1振動板部と、第1振動板部とは略反対の方向に規定される第2振動板部と、を有する偏心コーン形振動板と、ボイスコイル取付部に取り付けられるボビンおよびコイル有するボイスコイルと、ボイスコイルのボビンの端部に取り付けられるダストキャップと、を備える、動電型スピーカーがある(特許文献1)。
【0006】
また、例えば、振動板と、振動板に固定されたダストキャップとを有するスピーカーであって、ダストキャップは振動板との固定部分より内側に、中心軸を含む面での断面形状において不連続部を有するスピーカーがある(特許文献2)。また、磁気回路と、この磁気回路と接合されたフレームと、磁気回路の磁気ギャップに挿入されるボイスコイルと、内周がボイスコイルに結合され、外周がフレームに結合されるダンパーと、内周がボイスコイルに結合され、外周がフレームに直接または間接的に結合される振動板と、上記ボイスコイル上に結合されるセンターキャップとで結合されるスピーカーであって、センターキャップは外周に略垂直に延びた円筒部を有すると共に、この円筒部の内径を上記ボイスコイルの少なくとも上端外径と嵌合する径に設定し、更にこの円筒端部を振動板と当接結合させているスピーカーがある(特許文献3)。
【0007】
近年のオーディオ機器では、“CD(コンパクトディスク)スペックを超える”という「ハイレゾリューション(またはハイレゾ)」が注目されている。具体的には、一般社団法人 日本オーディオ協会がハイレゾオーディオ対応機器に関するロゴ等の定義および運用を定めている。その中では、「スピーカー・ヘッドホン高域再生性能:40kHz以上が可能であること。」と述べられているように、ハイレゾ対応の動電型スピーカーでは、人間の可聴周波数帯域の高音域の限界である20kHzを遙かに超えた音圧周波数特性が求められている。この音圧周波数特性は、動電型スピーカーの軸上正面0度での測定値で満足するだけでは十分ではなく、所定の角度(例えば±30度)の指向特性においても満足するのが好ましい。
【0008】
動電型スピーカーでは、振動板面積が大きい方が波長の長い低音域の音声再生に優れ、反対に、振動板面積が小さい方が波長の短い高音域の音声再生に優れる。したがって、人間の極めて広い可聴周波数帯域である20Hz~20kHzを再生しようとするフルレンジ型の動電型スピーカーは、ある程度の広い振動板面積を有するコーン型振動板を備える場合が多く、その際には、高音域の再生周波数帯域の限界を20kHz以上になるように設計するのが非常に困難であるという問題がある。コーン型振動板が分割振動する高域限界周波数fhが存在することに加えて、振動板面積に対して相対的に波長が短くなる高い周波数帯域は、指向特性が正面側に鋭くなり、指向角度が広くなると再生音圧レベルが急に低くなってしまう。
【0009】
そこで、振動板が分割振動する高音域の再生周波数帯域では、ダストキャップの構成が重要になる。しかし、単純に従来のダストキャップをボイスコイルのボビンの上側端面を覆うように取り付けても、あるいは、振動板のボイスコイルが連結する部分を覆うように取り付けても、20kHz~40kHzの超高音域をフルレンジ型の動電型スピーカーで再生するのは難しい。例えば、従来のドーム型のダストキャップは形状的に弱いので、高音域の分割振動の領域になると頂点部分だけしか振動しないようになり、放射エネルギーが不足する場合が多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2010-109665号公報
【文献】特開2000-308180号公報
【文献】特開2005-269064号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記の従来技術が有する問題を解決するためになされたものであり、その目的は、動電型スピーカーが備えるボイスコイルおよび磁気回路の磁気空隙部に対応して用いられるダストキャップに関し、特に、フルレンジ型であっても高域限界周波数付近の音響放射特性に優れる動電型スピーカーを実現するダストキャップを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のダストキャップは、コイルが巻回されるボビンの端部に連結するボビン連結部と、ボビン連結部の内周側に規定される第1放射部と、ボビン連結部の外周側に規定される第2放射部と、第2放射部の外周側で振動板に連結する振動板連結部と、を備え、ボビンの中心軸Qを含む断面において、振動板連結部が、ボビン連結部よりもコイルが位置する背面側に位置して振動板に連結し、第1放射部の外形形状は、その断面形状を規定する少なくとも2つの円弧の中心位置がそれぞれボビン連結部よりも背面側とは反対側の前面側に配置されて、前面側凹状の曲面を有し、かつ、中心軸Q上の2つの円弧の交点に前面側へ突出する突起部を形成する。
【0013】
好ましくは、本発明のダストキャップは、第1放射部の外形形状を規定する円弧の半径が、それぞれボビン連結部の内径寸法を規定する内径半径よりも大きく、内径半径の2倍である内径直径よりも小さい値に設定されている。
【0014】
また、好ましくは、本発明の動電型スピーカーは、上記のダストキャップと、ダストキャップのボビン連結部に連結するボビン並びにコイルを含むボイスコイルと、コイルが配置される磁気空隙を有する磁気回路と、ダストキャップの振動板連結部並びにボビンに連結する振動板と、を少なくとも含む。
【0015】
また、好ましくは、本発明の動電型スピーカーは、振動板が、中心孔を規定する内径部から延設されて外径部が前面側に位置するコーン形状の振動板部を有し、ダストキャップの振動板連結部が、振動板部に対して略直交するように連結する。
【0016】
以下、本発明の作用について説明する。
【0017】
本発明のダストキャップは、コイルが巻回されるボビンの端部に連結するボビン連結部と、ボビン連結部の内周側に規定される第1放射部と、ボビン連結部の外周側に規定される第2放射部と、第2放射部の外周側で振動板に連結する振動板連結部と、を備える。したがって、このダストキャップと、ダストキャップのボビン連結部に連結するボビン並びにコイルを含むボイスコイルと、コイルが配置される磁気空隙を有する磁気回路と、ダストキャップの振動板連結部並びにボビンに連結する振動板と、を少なくとも含む動電型スピーカーを構成することができる。
【0018】
ダストキャップは、ボビンの中心軸Qを含む断面において、振動板連結部が、ボビン連結部よりもコイルが位置する背面側に位置して振動板に連結する。したがって、第2放射部の外形形状が円錐台の側面部のように形成される。また、第1放射部の外形形状は、その断面形状を規定する少なくとも2つの円弧の中心位置がそれぞれボビン連結部よりも背面側とは反対側の前面側に配置されるので、前面側凹状の曲面を有するようになる。そして、第1放射部は、断面における中心軸Q上の2つの円弧の交点に前面側へ突出する突起部を形成する。
【0019】
このダストキャップは、ボビン連結部の内周側に規定される第1放射部の中心に突起部が形成されるように尖らせて、前面側凹状の曲面を形成する。第1放射部の剛性が高くなり、頂点である突起部だけが振動するような分割振動が抑制される。第1放射部の外形形状を規定する円弧の半径は、前面側へ突出する突起部が強固に形成されるように、それぞれボビン連結部の内径寸法を規定する内径半径よりも大きく、内径半径の2倍である内径直径よりも小さい値に設定されているのが好ましい。
【0020】
さらに、このダストキャップは、第1放射部の前面側凹状の曲面と、円錐台の側面部のように形成される第2放射部の曲面とが、軸上正面から外れた広い指向角度(例えば±30度)の方向に音波を放射するのに適するように、断面において正面からその角度を傾けることになる。振動するダストキャップの面積は、第1放射部に第2放射部の面積が加わって広くなる。したがって、20kHz~40kHzの超高音域を含む高音域の正面特性と指向特性の差が少なくなるように、従来よりも改善することができる。
【0021】
特に、振動板が中心孔を規定する内径部から延設されて外径部が前面側に位置するコーン形状の振動板部を有するような場合には、フルレンジ型に適する動電型スピーカーが実現できる。このダストキャップの第2放射部の外周側で振動板に連結する振動板連結部が、コーン形状の振動板の根本付近に対して略直交するように連結することになる。したがって、コーン型の振動板と、ボイスコイルのボビンと、ダストキャップとを含む振動系全体としての剛性が高くなり、分割振動による高域限界周波数をより高くして、20kHz~40kHzの超高音域における音圧周波数特性を改善することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明のダストキャップは、フルレンジ型であっても高域限界周波数付近の音響放射特性に優れる動電型スピーカーを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の一実施形態に係る動電型スピーカーの具体的な構造を示す正面図および断面図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係るダストキャップの具体的な構造を示す部分拡大断面図である。
【
図3】本実施例の動電型スピーカーの音圧周波数特性を示すグラフである。
【
図4】比較例の動電型スピーカーの音圧周波数特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の好ましい実施形態によるダストキャップおよび動電型スピーカーについて説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。
【実施例1】
【0025】
図1は、本発明の好ましい実施形態によるダストキャップ10を含む動電型スピーカー1について説明する図である。具体的には、
図1(a)は、動電型スピーカー1の外観を示す正面図であり、
図1(b)は、動電型スピーカー1の中心軸Qを含むA-A断面図である。また、
図2は、ダストキャップ10の具体的な構造を示す部分拡大断面図である。なお、以下の説明、
図1および
図2では、本発明の説明に不要な構成の説明および図示を省略する。特に
図2では、ダストキャップ10の他の動電型スピーカー1の構成を点線で省略して記載している。
【0026】
動電型スピーカー1は、コーン型の振動板2を有する呼び口径が10cmのフルレンジ型の動電型スピーカーである。したがって、人間の可聴周波数帯域である20Hz~20kHzを可能な限り動電型スピーカー1のみで再生することが望まれる。また、動電型スピーカー1は、ハイレゾリューションオーディオに対応するのに必要な20kHz~40kHzの超高音域を、再生できるのが好ましい。
【0027】
振動板2は、中心孔を規定する内径部から延設されて外径部が前面側に位置するコーン形状の振動板部を有する。なお、以下の説明では、
図1および
図2における振動板2が露出する方を前面側と呼び、
図1(b)における磁気回路8が露出する方を背面側と呼ぶ。本実施例の振動板2は、木材パルプにセルロースナノファイバーを配合し、混抄することにより得られる紙材からなる振動板である。振動板2は、セルロースナノファイバーを配合することにより、緻密かつ繊維間が強固に結合された構造を有し、その結果、ヤング率に優れて再生周波数帯域が広いスピーカー振動板を得ることができる。
【0028】
振動板2は、その外径部を比較的に柔軟なエッジ3により振動可能に支持されている。本実施例のエッジ3は、可動部の断面が上側に凸状のロールエッジである。エッジ3は、可動部の内周側に内周連結部が形成され、可動部の外周側に外周連結部が形成される。エッジ3は、振動板2の外径部に内周側の内周連結部が接着固定され、フレーム6に外周側の外周連結部が接着固定される。
【0029】
振動板2は、その内径部の中心孔にボイスコイル4の略円筒形状のボビン4aが嵌合して連結する。ボイスコイル4のボビン4aは、例えば、所定の材厚の箔材を略円筒形状に成形し、その下端部にコイル4bが巻回されて、コイル4bが巻回されていない外側曲面には補強紙が巻かれて、全体として円筒形状に成形されている。ボイスコイル4には、(図示しない)錦糸線がハンダづけされて固定されており、錦糸線の他端側がフレーム6に固定されるターミナル7に導通するように固定される。ボイスコイル4のコイル4bには、これらのターミナル7及び錦糸線を介して音声信号電流が供給される。
【0030】
ボイスコイル4のボビン4aの外側曲面には、さらにダンパー5の内径端部が接着剤で連結される。ダンパー5の外径端部は、フレーム6のダンパー固定部に接着固定される。ダンパー5は、柔軟性を有する繊維の織布を基材としてフェノール樹脂等の樹脂を含浸して成形する円環形状のコルゲーションダンパーであればよく、また、他の材料で形成するものであってもよい。例えば、内周側リングと外周側リングを連結するアームを有し、金属または樹脂で形成する蝶ダンパーであってもよい。
【0031】
フレーム6は、バスケット状にプレス成型された鉄板フレームであり、上記の通り、エッジ3の外周連結部と、ダンパー5の外径端部と、ターミナル7と、が連結される。フレーム6には、さらに背面側の端部に磁気回路8が連結される。なお、フレーム6は、バスケット状に形成されるアルミダイカストのフレームであっても、樹脂で形成される樹脂フレームであってもよい。
【0032】
磁気回路8は、フレーム6に固定される円環形のトッププレートと、センターポールおよび平板状のアンダープレートを有するポールと、円環状のマグネットと、から構成されて、トッププレートとポールとの間に均等な幅を有する円形の磁気空隙9を形成する。磁気空隙9には、ボイスコイル4のコイル4bが磁気回路8に接触しないで振動可能なように、エッジ3およびダンパー5により支持されて配置される。磁気回路8は、ボイスコイル4に対応する所定の磁気空隙9を有するものであれば、本実施例のような外磁型に限らず、内磁型等の他の磁気回路構成を採用してもよい。
【0033】
動電型スピーカー1は、ダストキャップ10を含む。ダストキャップ10は、振動板2と同様に、木材パルプにセルロースナノファイバーを配合し、混抄することにより得られる紙材からなり、音響放射特性に優れるダストキャップである。ダストキャップ10は、
図1および
図2に図示するように、振動板2とボイスコイル4のボビン4aとに連結するように、接着剤で固定される。
【0034】
ダストキャップ10は、ボビン4aの端部に連結するボビン連結部11と、ボビン連結部11の内周側に規定される第1放射部12と、ボビン連結部11の外周側に規定される第2放射部15と、第2放射部15の外周側で振動板2に連結する振動板連結部14と、を備える。ボビン連結部11は、内径半径r11により規定される円環状の部分であり、ボイスコイル4のボビン4aの端部が、内径側に収まるように嵌合して連結する部分である。第1放射部12は、ボビン連結部11の内周側の振動面を形成する部分であって、後述する突起部13を含む。また、第2放射部15は、ボビン連結部11の外周側の振動面を形成する部分であって、鍔状の円錐台の側面部のような振動面を形成する。
【0035】
第1放射部12は、中心軸Qが通過するところに前面側へ突出する突起部13を有している。突起部13は、前面側凹状の曲面を有する第1放射部12の中心位置に形成される部分であって、
図2に図示する中心軸Qを含む断面において、その外形形状を規定する2つの円弧の交点に位置する。2つの円弧は、それぞれの中心位置S1またはS2が、図示するようにボビン連結部11よりも前面側に配置されるので、第1放射部12は、前面側凹状の曲面を有するようになる。中心位置S1またはS2は、中心軸Qに対して軸対称な配置関係にあり、それぞれ指向角度θが正の方向と、指向角度θが負の方向と、に設定される。
【0036】
第1放射部12の前面側凹状の曲面を規定する2つの円弧の半径r1およびr2は、等しい値に設定されていて、第1放射部12の曲面は、中心軸Qに対して軸対称な形状になっている。2つの円弧の半径r1およびr2は、前面側へ突出する突起部13が強固に形成されるように、それぞれボビン連結部11の内径寸法を規定する内径半径r11よりも大きく、かつ、内径半径r11の2倍である内径直径よりも小さい値に設定されているのがよい。少なくとも、2つの円弧の半径r1およびr2をこの範囲で設定すれば、中心軸Qが通過するところに前面側へ突出する突起部13を形成することができる。2つの円弧の半径r1およびr2を、それぞれボビン連結部11の内径寸法を規定する内径半径r11よりも小さくすると、2つの円弧が交わらないので、前面側へ突出する突起部13を形成できない。また、2つの円弧の半径r1およびr2を、内径半径r11の2倍である内径直径よりも大きい値に設定すると、突起部13が前面側へ突出し過ぎてしまう。
【0037】
なお、本実施例では、r1=r2=約15mm、r11=約10mmである。第1放射部12の前面側凹状の曲面を規定する2つの円弧の半径r1およびr2は、
図2に図示するように、それぞれの中心位置S1またはS2から第1放射部12の前面側の表面への半径寸法であるが、第1放射部12の厚みの中央部分への半径寸法であっても、第1放射部12の背面側の表面への半径寸法であっても、構わない。突起部13はダストキャップ10の中央部分であるので、本実施例の場合には、突起部13の前後方向の厚みは、他の部分の厚みよりも厚く形成されている。
【0038】
その結果、中心軸Qをそのまま伸ばした方向を指向角度θ=0度の軸上正面とすると、第1放射部12は、中心軸Qを含む断面形状において、軸上正面から外れた指向角度θ(例えば±30度)の方向と略直交するような前面側凹状の曲面の振動面を形成する。つまり、第1放射部12は、断面において正面からその角度を傾けているので、軸上正面から外れた広い指向角度θの方向に音波を放射するのに適する。
【0039】
一方で、第2放射部15は、ボビン連結部11の外周側の振動面を形成する部分であって、外周側の振動板連結部14が、ボビン連結部11よりもボイスコイル4のコイル4bが位置する背面側に位置しているので、鍔状の円錐台の側面部のような振動面を形成して、外周側で振動板2に連結する。したがって、振動板2に連結する振動板連結部14は、中心軸Qを含む断面形状において、振動板2の内径部付近の振動板部に対して略直交するように連結する。
【0040】
その結果、第1放射部12と同様に、第2放射部15は、中心軸Qを含む断面形状において、軸上正面から外れた指向角度θ(例えば±30度)の方向と略直交するような鍔状の円錐台の側面部のような振動面を形成する。つまり、第1放射部12並びに第2放射部15は、断面において正面からその角度を傾けているので、軸上正面から外れた広い指向角度θの方向に音波を放射するのに適する。
【0041】
ダストキャップ10の前面側凹状の曲面を有する第1放射部12は、その中心に突起部13が形成されるように尖らせているので、突起部13およびその周辺の剛性が高くなる。このダストキャップ10では、中央の頂点である突起部13だけが振動するような分割振動を抑制することができる。また、第2放射部15の外周側の振動板連結部14が、コーン形状の振動板2の根本付近に対して略直交するように連結するので、コーン型の振動板2と、ボイスコイル4のボビン4aと、このダストキャップ10とを含む振動系全体としての剛性が高くなる。したがって、ダストキャップ10を含む動電型スピーカー1は、分割振動による高域限界周波数をより高くして、20kHz~40kHzの超高音域における音圧周波数特性を改善することができる。
【0042】
図3は、本実施例の動電型スピーカー1の音圧周波数特性を示すグラフである。具体的には、
図3は、横軸が周波数10kHz~50kHzであり、縦軸が音圧レベル(SPL[dB])である。動電型スピーカー1は、フルレンジ型の動電型スピーカーであるが、
図3のグラフでは周波数10kHz以下の人間の可聴周波数帯域での周波数特性は図示を省略して、ハイレゾリューションオーディオに対応するのに必要な可聴周波数帯域を超える超高音域を示している。グラフの実線が指向角度θ=0度の軸上正面での音圧周波数特性であり、破線が指向角度θ=30度での音圧周波数特性である。
【0043】
図3のグラフに示す本実施例の場合には、指向角度θ=30度での音圧は、約25kHz以下では軸上正面での音圧よりも低くなっているが、約25kHz以上では軸上正面での音圧との差があまり無くなっている。本実施例のダストキャップ10を備える動電型スピーカー1は、振動板2およびボイスコイル4と強固な振動系を形成するので、高域限界周波数が約40kHz以上に延びる広い再生周波数特性を実現している。また、第1放射部12の前面側凹状の曲面と、円錐台の側面部のように形成される第2放射部15の曲面と、を備えるので、軸上正面と指向角度θ=30度とでの20kHz~40kHzの音圧周波数特性の差が比較的に小さくなる。これは、広くて好ましい指向特性を有していることを意味し、ハイレゾリューションオーディオに対応する動電型スピーカーとして、望ましい特性を示している。
【0044】
一方で、
図4は、比較例の(図示しない)動電型スピーカー1aの音圧周波数特性を示すグラフである。比較例の動電型スピーカー1aは、本実施例のダストキャップ10に代えて、比較例の(図示しない)ダストキャップ100を備える点で相違する。比較例のダストキャップ100は、本実施例のダストキャップ10とは、第2放射部15を備えない点で相違し、その他は共通する構成である。したがって、比較例のダストキャップ100は、コイル4bが巻回されるボビン4aの端部に連結するボビン連結部11と、ボビン連結部11の内周側に規定される第1放射部12と、を備える点では共通する。
【0045】
比較例の場合を示す
図4のグラフにおいても、実線が指向角度θ=0度の軸上正面での音圧周波数特性であり、破線が指向角度θ=30度での音圧周波数特性である。比較例のダストキャップ100の場合には、指向角度θ=30度での音圧は、約25kHz以下では軸上正面での音圧よりも低くなっているのは本実施例の場合と同様であるが、約25kHz以上においても、軸上正面での音圧との差が大きいという点で異なっている。
【0046】
比較例のダストキャップ100を備える動電型スピーカー1aは、ダストキャップ100の剛性がある程度は向上するので、軸上正面では高域限界周波数が約40kHz以上に延びる広い再生周波数特性を実現している。しかし、円錐台の側面部のように形成される第2放射部15の曲面を備えないので、軸上正面と指向角度θ=30度とでの20kHz~40kHzの音圧周波数特性の差が大きくなる。これは、指向特性が本実施例の動電型スピーカー1の場合よりも狭くなっていることを意味し、ハイレゾリューションオーディオに対応する動電型スピーカーとしては、望ましくない特性を示している。したがって、本実施例のダストキャップ10を備える動電型スピーカー1の方が、比較例のダストキャップ100を備える動電型スピーカー1aよりも、高域限界周波数付近の音響放射特性に優れることになる。
【0047】
上記実施例では、ダストキャップ10が、木材パルプにセルロースナノファイバーを配合して混抄することにより得られる紙材からなるが、もちろん他の音響放射特性に優れる材料を用いる振動板と同様の材料を用いてもよい。例えば、ダストキャップ10は、樹脂材料を用いて射出成形などにより形成してもよいし、金属材料をプレス成形するなどの方法により形成してもよい。
【0048】
また、上記実施例では、第1放射部12の前面側凹状の曲面が、
図2に図示する中心軸Qを含む断面において、等しい半径r1およびr2の2つの円弧により形成されているが、それぞれの円弧を複数の半径が異なる円弧を繋げるようにして形成される曲線に置き換えてもよい。それらの曲線に置き換えたとしても、第1放射部12の中心軸Qが通過するところに、前面側へ突出する突起部13を形成できて、その部分の剛性を高くすることができるものであればよい。
【0049】
また、上記実施例では、第2放射部15の曲面が、鍔状の円錐台の側面部のような曲面であるが、その断面形状も直線または円弧を含む曲線であってもよい。振動板連結部14が、ボビン連結部11よりもボイスコイル4のコイル4bが位置する背面側に位置していればよく、軸上正面から外れた広い指向角度θの方向に音波を放射するのに適する振動面を形成できるものであればよい。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明のダストキャップは、図示するようなフルレンジ型の動電型スピーカー1に限らず、低音域の音声再生に優れる振動板面積が大きい動電型スピーカーであるウーファー、または、高音域の音声再生に優れる振動板面積が小さい動電型スピーカーであるツィーター、または、中音域の再生に適する動電型スピーカーであるスコーカー、のいずれに採用してもよい。また、本発明のダストキャップを備える動電型スピーカー1は、家庭用のステレオ再生、もしくはマルチチャンネルサラウンド再生に限られず、車載用のオーディオ機器や、映画館等の音響再生設備にも適用が可能である。また、大型のスピーカーに限らず、ヘッドホン、イヤホン等にも適用が可能である。
【符号の説明】
【0051】
1 動電型スピーカー
2 振動板
3 エッジ
4 ボイスコイル
5 ダンパー
6 フレーム
7 ターミナル
8 磁気回路
9 磁気空隙
10 ダストキャップ
11 ボビン連結部
12 第1放射部
13 突起部
14 振動板連結部
15 第2放射部