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特許6991541分子サイズ認識可能な新規ケミカルプローブおよびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-10
(45)【発行日】2022-01-12
(54)【発明の名称】分子サイズ認識可能な新規ケミカルプローブおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 297/00 20060101AFI20220104BHJP
   C08F 8/00 20060101ALI20220104BHJP
   C08F 38/00 20060101ALI20220104BHJP
   G01N 21/78 20060101ALI20220104BHJP
   G01N 33/48 20060101ALI20220104BHJP
【FI】
C08F297/00
C08F8/00
C08F38/00
G01N21/78 Z
G01N33/48 Z
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2017023434
(22)【出願日】2017-02-10
(65)【公開番号】P2018127581
(43)【公開日】2018-08-16
【審査請求日】2019-12-26
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (その1) 刊行物名 第65回高分子討論会 予稿集とその奥付け 発行日 平成28年8月24日 発行者名 公益社団法人 高分子学会 (その2) 掲載年月日 平成28年8月24日 掲載アドレス https://cloud.dynacom.co.jp/tohron2016/ (その3) 集会名 第65回高分子討論会 開催日 平成28年9月14日~平成28年9月16日 (公開日は平成28年9月16日)
(73)【特許権者】
【識別番号】504255685
【氏名又は名称】国立大学法人京都工芸繊維大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】本柳 仁
(72)【発明者】
【氏名】箕田 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】河村 真矢
【審査官】工藤 友紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-155929(JP,A)
【文献】特開2008-063360(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0092683(US,A1)
【文献】J. Motoyanagi, et.al.,J.P.S. partA,52,2014年07月21日,2800-2805
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 297/00
C08F 8/00
C08F 38/00
G01N 21/78
G01N 33/48
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるポリフェニルアセチレン系ポリマーを含む、ケミカルプローブ用のポリフェニルアセチレン系ポリマー組成物
【化1】
(式中、R1、R2、R3、R4はそれぞれ独立して水素、炭化水素基、ハロゲン、またはヘテロ原子を含む置換基であり、
mは10以上の整数であり、
5はCp2p(pは1以上20以下)であり、
Zは水素、炭化水素基、ハロゲン、またはヘテロ原子を含む置換基であり、
nは5以上の整数であり、
Aは、水素、炭化水素基、ハロゲン、またはヘテロ原子を含む置換基である。)
【請求項2】
下記一般式(1)で表されるポリフェニルアセチレン系ポリマーを含む、呈色材料用のポリフェニルアセチレン系ポリマー組成物
【化2】
(式中、R1、R2、R3、R4はそれぞれ独立して水素、炭化水素基、ハロゲン、またはヘテロ原子を含む置換基であり、
mは10以上の整数であり、
5はCp2p(pは1以上20以下)であり、
Zは水素、炭化水素基、ハロゲン、またはヘテロ原子を含む置換基であり、
nは5以上の整数であり、
Aは、水素、炭化水素基、ハロゲン、またはヘテロ原子を含む置換基である。)
【請求項3】
下記一般式(2)で表されるポリフェニルアセチレン系ポリマーを含む、請求項1又は2に記載のポリフェニルアセチレン系ポリマー組成物
【化3】
(式中、Zは炭素数1~6個のアルキルであり、
Aは炭素数1~6の炭化水素基または炭素数1~6(該炭素数にはカルボキシル基の炭素を含まない)のカルボン酸エステルである。)
【請求項4】
Aはマロン酸ジエステルであるポリフェニルアセチレン系ポリマーを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のポリフェニルアセチレン系ポリマー組成物。
【請求項5】
下記一般式(1)で表されるポリフェニルアセチレン系ポリマー。
【化4】
(式中、R1、R2、R3、R4はそれぞれ独立して水素、メチル基、またはハロゲンであり、
mは10以上の整数であり、
5はCp2p(pは1以上20以下)であり、
Zは炭素数1~6の炭化水素基であり、
nは5以上の整数であり、
Aは、炭素数1~6(該炭素数にはカルボキシル基の炭素を含まない)のカルボン酸エステルである。)
【請求項6】
Aはマロン酸ジエステルである請求項に記載のポリフェニルアセチレン系ポリマー。
【請求項7】
下記一般式(3)で表されるポリフェニルアセチレン系ポリマー。
【化5】
(式中、R1、R2、R3、R4はそれぞれ独立して水素、炭化水素基、ハロゲン、またはヘテロ原子を含む置換基であり、
mは10以上の整数であり、
5はCp2p(pは1以上20以下)であり、
1およびZ2は、それぞれ独立して水素、炭化水素基、ハロゲン、またはヘテロ原子を含む置換基であり、
1は5以上の整数であり、
は5以上の整数であり、
Aは、水素、炭化水素基、ハロゲン、またはヘテロ原子を含む置換基である。)
【請求項8】
1およびZ2のうちの少なくとも一方が、糖、タンパク質、ペプチド、アミノ酸、または核酸と相互作用する部分を有する請求項に記載のポリフェニルアセチレン系ポリマー。
【請求項9】
下記一般式(1)で表されるポリフェニルアセチレン系ポリマー。
【化6】
(式中、R1、R2、R3、R4はそれぞれ独立して水素、炭化水素基、ハロゲン、またはヘテロ原子を含む置換基であり、
mは10以上の整数であり、
5はCp2p(pは1以上20以下)であり、
Zは水素、炭化水素基、ハロゲン、またはヘテロ原子を含む置換基であり、
nは5以上の整数であり、
Aは、水素、炭化水素基、ハロゲン、またはヘテロ原子を含む置換基である。
但し、2-ビニルオキシエチル4-エチニル安息香酸(PAVE)のトリフルオロ酢酸(TFA)付加物であるPAVE-TFAを開始剤としてリビングカチオン重合を行うことにより、イソブチルビニルエーテルとのマクロモノマーを合成し、得られたマクロモノマーをRh触媒を用いて重合する方法により製造された、ポリフェニルアセチレン系ポリマーを除く。)
【請求項10】
下記一般式(4)で表されるポリフェニルアセチレン系ポリマーに、ポリビニルエーテルを(リビングカチオン)重合させることからなる、一般式(1)で表されるポリフェニルアセチレン系ポリマーの製造方法。
【化7】
【化8】
(式中、R1、R2、R3、R4はそれぞれ独立して水素、炭化水素基、ハロゲン、またはヘテロ原子を含む置換基であり、
mは10以上の整数であり、
5はCp2p(pは1以上20以下)であり、
Zは水素、炭化水素基、ハロゲン、またはヘテロ原子を含む置換基であり、
nは5以上の整数であり、
Aは、水素、メチル基、またはメトキシ基である。)
【請求項11】
一般式(1)で表されるポリフェニルアセチレン系ポリマーを含む、リガンドと相互作用するケミカルプローブ。
【化9】
(式中、R 1 、R 2 、R 3 、R 4 はそれぞれ独立して水素、炭化水素基、ハロゲン、またはヘテロ原子を含む置換基であり、
mは10以上の整数であり、
5 はC p 2p (pは1以上20以下)であり、
Zは水素、炭化水素基、ハロゲン、またはヘテロ原子を含む置換基であり、
nは5以上の整数であり、
Aは、水素、炭化水素基、ハロゲン、またはヘテロ原子を含む置換基である。)
【請求項12】
請求項のいずれかに記載のポリフェニルアセチレン系ポリマーを含む、リガンドと相互作用するケミカルプローブ。
【請求項13】
一般式(1)で表されるポリフェニルアセチレン系ポリマーを含む、リガンドとの結合により呈色が変化する呈色性材料。
【化10】
(式中、R 1 、R 2 、R 3 、R 4 はそれぞれ独立して水素、炭化水素基、ハロゲン、またはヘテロ原子を含む置換基であり、
mは10以上の整数であり、
5 はC p 2p (pは1以上20以下)であり、
Zは水素、炭化水素基、ハロゲン、またはヘテロ原子を含む置換基であり、
nは5以上の整数であり、
Aは、水素、炭化水素基、ハロゲン、またはヘテロ原子を含む置換基である。)
【請求項14】
請求項のいずれかに記載のポリフェニルアセチレン系ポリマーを含む、リガンドとの結合により呈色が変化する呈色性材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なポリフェニルアセチレン化合物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
標的分子と化学的に相互作用をするケミカルプローブが開発されており、そのようなケミカルプローブは、標的分子の化学構造を特異的に認識すること、プローブの検出または認識性、コストが低いこと等が求められている。
【0003】
ポリフェニルアセチレンはらせん構造を有するパイ共役ポリマーであり、アセチレン基の側鎖に官能基またはポリマー鎖を導入することで様々な機能性の発現が期待されている。例えば特許文献1は、導電性に優れ、溶媒処理や加圧処理により色が変化する有用なフェニルアセチレン系ポリマーについて記載している。また、非特許文献1は、スルホアミド基を有するポリフェニルアセチレンを用いたアニオンの認識について記載している。
【0004】
しかしながら、特許文献1のフェニルアセチレン系ポリマーは化学構造を特異的に認識するケミカルプローブとしての役割を果たすものではない。
【0005】
非特許文献2は、2-ビニルオキシエチル4-エチニル安息香酸(PAVE)のトリフルオロ酢酸(TFA)付加物であるPAVE-TFAを開始剤としてリビングカチオン重合を行い、イソブチルビニルエーテルとのマクロモノマーを合成し、これをRh触媒を用いて重合することによるポリフェニルアセチレンの主鎖とポリビニルイソブチルビニルエーテルの側鎖からなるブラシ型ポリマーの合成について開示している。しかしながら、非特許文献2に記載の製造方法では、フェニルアセチレン骨格の重合度が10未満と小さいフェニルアセチレン系ポリマーしか合成できず、かかるフェニルアセチレン系ポリマーは側鎖の鎖長に応じて呈色が変化することはないため、ケミカルプローブとしての役割を果たすものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2004-161835
【非特許文献】
【0007】
【文献】Macromolecules, 2009, 42(12), pp 3892-3897
【文献】J. Polym. Sci., Part A: Polym. Chem. 2014, 52, 2800-2805
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、標的分子の化学構造を特異的に認識し、かつ結合した標的分子を含めた自身の大きさに応じて呈色するポリフェニルアセチレンを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、主鎖であるポリフェニルアセチレンにポリビニルエーテルを側鎖としてカチオン重合する新規な方法によりポリフェニルアセチレンを合成したところ、得られた重合体の吸収色がポリビニルエーテルの分子量(大きさ)に依存して変化することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下の通りである。
【0011】
項1.下記一般式(1)で表されるポリフェニルアセチレン系ポリマー。
【0012】
【化1】
【0013】
(式中、R1、R2、R3、R4はそれぞれ独立して水素、炭化水素基、ハロゲン、またはヘテロ原子を含む置換基であり、
mは10以上の整数であり、
5はCp2p(pは1以上20以下)であり、
Zは水素、炭化水素基、ハロゲン、またはヘテロ原子を含む置換基であり、
nは5以上の整数であり、
Aは、水素、炭化水素基、ハロゲン、またはヘテロ原子を含む置換基である。)
項2.R1、R2、R3、R4が水素、メチルまたはハロゲンであり、Zが炭素数1~6の炭化水素基であり、Aが炭素数1~6(該炭素数にはカルボキシル基の炭素を含まない)のカルボン酸エステルである項1に記載のポリフェニルアセチレン系ポリマー。
【0014】
項3.下記一般式(2)で表される項1に記載のポリフェニルアセチレン系ポリマー。
【0015】
【化2】
【0016】
(式中、Zは炭素数1~6個のアルキルであり、
Aは炭素数1~6の炭化水素基または炭素数1~6(該炭素数にはカルボキシル基の炭素を含まない)のカルボン酸エステルである。)
項4.Aはマロン酸ジエステルである項1~3のいずれか一項に記載のポリフェニルアセチレン系ポリマー。
【0017】
項5.下記一般式(3)で表されるポリフェニルアセチレン系ポリマー。
【0018】
【化3】
【0019】
(式中、R1、R2、R3、R4はそれぞれ独立して水素、炭化水素基、ハロゲン、またはヘテロ原子を含む置換基であり、
mは10以上の整数であり、
5はCp2p(pは1以上20以下)であり、
1およびZ2は、それぞれ独立して水素、炭化水素基、ハロゲン、またはヘテロ原子を含む置換基であり、
1は5以上の整数であり、
1は5以上の整数であり、
Aは、水素、炭化水素基、ハロゲン、またはヘテロ原子を含む置換基である。)
項6.Z1およびZ2のうちの少なくとも一方が、糖、タンパク質、ペプチド、アミノ酸、または核酸と相互作用する部分を有する項5に記載のポリフェニルアセチレン系ポリマー。
【0020】
項7.下記一般式(4)で表されるポリフェニルアセチレン系ポリマーに、ポリビニルエーテルを(リビングカチオン)重合させることからなる、一般式(1)で表されるポリフェニルアセチレン系ポリマーの製造方法。
【0021】
【化4】
【0022】
【化5】
【0023】
(式中、R1、R2、R3、R4はそれぞれ独立して水素、炭化水素基、ハロゲン、またはヘテロ原子を含む置換基であり、
mは10以上の整数であり、
5はCp2p(pは1以上20以下)であり、
Zは水素、炭化水素基、ハロゲン、またはヘテロ原子を含む置換基であり、
nは5以上の整数であり、
Aは、水素、メチル基、またはメトキシ基である。)
項8.項1~6のいずれかに記載のポリフェニルアセチレン系ポリマーを含む、リガンドと相互作用するケミカルプローブ。
【0024】
項9.項1~6のいずれかに記載のポリフェニルアセチレン系ポリマーを含む、リガンドとの結合により呈色が変化する呈色性材料。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、ポリビニルエーテル側鎖の構造及び大きさを変更することで、精密かつ柔軟に分子設計されたポリフェニルアセチレン系ポリマーを得ることができる。かかるポリフェニルアセチレン系ポリマーは、リガンド、リガンドと相互作用する呈色により認識可能なケミカルプローブとして、またはリガンドとの結合により呈色が変化する呈色性材料として、使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】モノマー転化率(%)に対してプロットしたポリイソブチルビニルエーテルをグラフト重合したポリフェニルアセチレン(polyPhA-g-polyIBVE)のMn(数平均分子量)およびMw/Mn(分子量分布)値。黒丸はGPC-MALSにより測定したMn値、白丸はポリスチレン補正GPCにより測定したMw/Mn値である。
図2】本発明のポリフェニルアセチレン系ポリマーが、該ポリマーのらせんのピッチによって異なる色を示すことを説明する模式図。
図3】(A)ポリ(2-(1-アセトキシエトキシ)エチル 4-エチニル安息香酸エステル)(poly(PhAVE-AcOH))の構造式、(B)図3(A)の化合物のGPC-MALSにより測定したMn値およびポリスチレン補正により測定した分子量分布Mw/Mn値、(C)酢酸エチル中の図3(A)の化合物の波長に対する吸光度、(D)ポリイソブチルビニルエーテルをグラフト重合したフェニルアセチレン(polyPhA-g-polyIBVE)の構造式、(E)図3(D)の化合物のGPC-MALSにより測定したMn値およびポリスチレン補正GPCにより測定した分子量分布Mw/Mn値、(F)酢酸エチル中の図3(D)の化合物の波長に対する吸光度。
図4】ビニルエーテルの重合度を変更した場合の吸光度。
図5】(A)図3(D)で合成されたpolyPhA-g-polyIBVEの種々の溶媒中に溶解させたときの吸光度。溶媒はそれぞれ、(1)ヘキサン、(2)酢酸エチル、(3)トルエン、(4)ジクロロメタンとした。(B)溶媒にヘキサンを用いた場合、(C)溶媒にトルエンを用いた場合。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではなく、記述した範囲内で種々の変形を加えた態様で実施できるものである。
【0028】
(I)ポリフェニルアセチレン系ポリマー
本発明のポリフェニルアセチレン系ポリマーは、ポリビニルエーテル(polyVE)を側鎖に有し、ラセン構造を有するポリフェニルアセチレン(polyPhA)を主鎖に有するパイ共役ポリマーである。
【0029】
ポリフェニルアセチレン系ポリマーは、ポリビニルエーテル(polyVE)を側鎖に有し、ラセン構造を有するポリフェニルアセチレン(polyPhA)を主鎖に有するパイ共役ポリマーである。
【0030】
具体的には、本発明は、下記一般式(1)で表されるポリフェニルアセチレン系ポリマーを包含する。
【0031】
【化6】
【0032】
式中、R1、R2、R3、R4はそれぞれ独立して水素、炭化水素基、ハロゲン、またはヘテロ原子を含む置換基であり、
mは10以上の整数であり、
5はCp2p(pは1以上20以下)であり、
Zは水素、炭化水素基、ハロゲン、またはヘテロ原子を含む置換基であり、
nは5以上の整数であり、
Aは、水素、炭化水素基、ハロゲン、またはヘテロ原子を含む置換基である。
【0033】
1、R2、R3、R4、Z、およびAが炭化水素基である場合、炭化水素基としては、アルキル基、アラルキル基、シクロアルキルアルキル基、シクロアルキル基またはアリール基等が挙げられ、中でもアルキル基が好ましい。アルキル基としては直鎖状でも分岐鎖状でもよく、炭素数は1~6個であることが好ましい。例えばアルキル基は、メチル基、エチル基、プロピル基でもよいが、炭素数4以上のもの、例えばブチル基、イソブチル基、3 -メチルブチル基、2-メチルブチル基、ヘキシル基等でもよい。
【0034】
1、R2、R3、R4、Z、およびAがヘテロ原子を含む置換基である場合、該置換基としては、脂肪族、中でも飽和脂肪族系のものが好ましく、このようなものとしては、例えばアルコキシ基(メトキシ、エトキシ、プロポキシ等)、第1級ないし第3級のアルキルアミノ基、アルキルエーテル基、ヒドロキシアルキル基、アルキルチオ基、アシロキシ基、アルキルカルボン酸エステル、アルキルカルボン酸アミド基、N-アルキルカルバモイル基、N ,N-ジアルキルカルバモイル基、アルキルスルホニル基、ハロゲン化アルキル基等が挙げられる。ヘテロ原子としては、窒素(N)、酸素(O)、硫黄(S)、リン(P);フッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)等のハロゲン等が挙げられる。置換基の炭素数は1~6個であることが好ましい。
【0035】
mは10以上の整数であり、10以上がより好ましい。mの上限は特に限定されないが、1000以下であることが好ましい。
【0036】
nは5以上の整数であり、10以上がより好ましい。mの上限は特に限定されないが、1000以下であることが好ましい。
【0037】
一つの実施形態では、一般式(1)で表わされる上記ポリフェニルアセチレン系ポリマーにおいて、R1、R2、R3、R4が水素、メチルまたはハロゲンであり、Zが炭素数1~6の炭化水素基であり、Aが炭素数1~6(該炭素数にはカルボキシル基の炭素を含まない)のカルボン酸エステルである。Aの該炭素数1~6のカルボン酸エステルには、モノカルボン酸エステルおよびジカルボン酸エステルが含まれる。
【0038】
ポリフェニルアセチレン系ポリマーはまた、下記一般式(2)で表されるポリフェニルアセチレン系ポリマーであり得る。
【0039】
【化7】
【0040】
式中、Zは炭素数1~6個のアルキルであり、
Aは炭素数1~6の炭化水素基または炭素数1~6(該炭素数にはカルボキシル基の炭素を含まない)のカルボン酸エステルである。
【0041】
ZおよびAは同一でも異なっていてもよい。
【0042】
Zは例えば、メチル基、エチル基、プロピル、ブチル基、イソブチル基、3-メチルブチル基、2-メチルブチル基、ヘキシル基等でもよい。
【0043】
Aは例えば、メチル基、エチル基、プロピル、ブチル基、イソブチル基、3-メチルブチル基、2-メチルブチル基、ヘキシル基、フェニル基、エチニル基、ジエチルマロネート等でもよい。
【0044】
mは10以上の整数であり、10以上がより好ましい。mの上限は特に限定されないが、1000以下であることが好ましい。
【0045】
nは5以上の整数であり、10以上がより好ましい。mの上限は特に限定されないが、1000以下であることが好ましい。
【0046】
ポリフェニルアセチレン系ポリマーはまた、下記一般式(3)で表されるポリフェニルアセチレン系ポリマーであり得る。
【0047】
【化8】
【0048】
式中、R1、R2、R3、R4はそれぞれ独立して水素、炭化水素基、ハロゲン、またはヘテロ原子を含む置換基であり、
mは10以上の整数であり、
5はCp2p(pは1以上20以下)であり、
1およびZ2は、それぞれ独立して水素、炭化水素基、ハロゲン、またはヘテロ原子を含む置換基であり、
1は5以上の整数であり、
2は5以上の整数であり、
Aは、水素、炭化水素基、ハロゲン、またはヘテロ原子を含む置換基である。
【0049】
1、R2、R3、R4、Z1、Z2、およびAが炭化水素基である場合、炭化水素基としては、アルキル基、アラルキル基、シクロアルキルアルキル基、シクロアルキル基またはアリール基等が挙げられ、中でもアルキル基が好ましい。アルキル基としては直鎖状でも分岐鎖状でもよく、炭素数は1~6個であることが好ましい。例えばアルキル基は、メチル基、エチル基、プロピル基でもよいが、炭素数4 以上のもの、例えばブチル基、イソブチル基、3 -メチルブチル基、2-メチルブチル基、ヘキシル基等でもよい。
【0050】
1、R2、R3、R4、Z1、Z2、およびAがヘテロ原子を含む置換基である場合、該置換基としては、脂肪族、中でも飽和脂肪族系のものが好ましく、このようなものとしては、例えばアルコキシ基、第1級ないし第3級のアルキルアミノ基、アルキルエーテル基、ヒドロキシアルキル基、アルキルチオ基、アシロキシ基、アルキルカルボン酸エステル、アルキルカルボン酸アミド基、N-アルキルカルバモイル基、N ,N-ジアルキルカルバモイル基、アルキルスルホニル基、ハロゲン化アルキル基等が挙げられる。ヘテロ原子としては、窒素(N)、酸素(O)、硫黄(S)、リン(P);フッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)等のハロゲン等が挙げられる。置換基の炭素数は1~6個であることが好ましい。
【0051】
mは10以上の整数である。mの上限は特に限定されないが、1000以下であることが好ましい。
【0052】
1およびn2は5以上の整数であり、10以上がより好ましい。mの上限は特に限定されないが、1000以下であることが好ましい。
【0053】
一般式(3)で表されるポリフェニルアセチレン系ポリマーは、一般式(1)で表されるポリフェニルアセチレン系ポリマーの中のバリエーションの一つとも言える。Z1およびZ2のうちの少なくとも一方を、標的分子と相互作用する(特には結合する)部分または官能基を有するように構成することで、ケミカルプローブとして使用することができる。例えば、Z1およびZ2のうちの少なくとも一方が、糖、タンパク質(アミノ酸数100個以上)、ペプチド(アミノ酸数2個以上100個未満)、アミノ酸、または核酸と相互作用する(特には結合、さらには特異的に化学結合する)部分または官能基を有することで、かかる分子を検出することができる。糖にはグルコースが含まれる。タンパク質には抗原、酵素、ホルモン、サイトカイン等が含まれる。核酸にはDNA、RNA等が含まれる。
【0054】
一実施形態では、一般式(3)で表されるポリフェニルアセチレン系ポリマーにおいて、Z1およびZ2のうちの少なくとも一方が、ポリフェニルアセチレン系ポリマーの特性を改善する部分または官能基を有し、Z1およびZ2のうちの少なくとも一方の他方が標的分子と相互作用する部分または官能基を有する。ポリフェニルアセチレン系ポリマーの特性を改善する部分または官能基は、例えばポリフェニルアセチレン系ポリマーの水溶性を高めるべく酸素原子や水酸基を導入すること等を指す。例えば、ポリフェニルアセチレン系ポリマーの水溶性を高めれば、生体内等の水系の環境でより効果的に該ポリマーを作用させることができる。
【0055】
上記のポリフェニルアセチレン系ポリマーは、リガンドと相互作用するケミカルプローブとして使用することができるため、かかるポリフェニルアセチレン系ポリマーからなるケミカルプローブも本発明に包含される。リガンドは例えば標的分子としての化学物質である。
【0056】
本発明のポリフェニルアセチレン系ポリマーは、標的分子である対象化合物に含まれる特定の化学構造と相互作用する部分または官能基をパイ共役高分子に組み込んだ構造を有するため、対象化合物を特異的に高感度に認識する。さらに、対象化合物との結合後、対象化合物の大きさによりポリフェニルアセチレン系ポリマーの吸収色または発光色が変化する。
【0057】
理論に束縛されるわけではないが、本発明のポリフェニルアセチレン系ポリマーは、側鎖としてビニルエーテルポリマー鎖を高密度に有するブラシ状ポリマーであり、光を吸収する主鎖のポリフェニルアセチレンが、多数のポリマー鎖で覆われているため、側鎖の分子量が大きくなることで嵩高くなり、側鎖間の立体的な反発によって主鎖のポリフェニルアセチレンの立体構造変化が誘起され、吸収色が変化すると考えられる。
【0058】
よって本発明のポリフェニルアセチレン系ポリマーは、対象化合物の「化学構造」と「分子の大きさ」の両方を認識して呈色する、これまでに報告例のない画期的なケミカルプローブである。
【0059】
(II)本発明のポリフェニルアセチレン系ポリマーの製造方法
本発明のポリフェニルアセチレン系ポリマーの製造方法について以下に説明する。なお、説明の目的で、一般式(1)においてR1、R2、R3、R4が水素、R5がC24、Aがジエチルマロネートである化合物を用いて説明する。
【0060】
まず、下記のスキームに示すように、最初に、フェニル基の4位にビニルエーテル(VE)を有するフェニレンアセチレン(PhA)の誘導体に、カルボン酸をVE部位選択的に付加させ、2-ビニロキシエトキシ 4-エチニル安息香酸エステル・カルボン酸付加体(PhAVE-AcOH)(I) (下記スキームでは(I)の化合物はカルボン酸が酢酸である場合を示す)を合成する。カルボン酸としては酢酸、プロピオン酸等の脂肪酸の炭素数4以下の短鎖カルボン酸、カプリル酸等の炭素数6~10の中鎖カルボン酸、炭素数12以上の長鎖カルボン酸、トリフルオロ酢酸およびトリクロロ酢酸等のハロゲン化カルボン酸等が挙げられる。
【0061】
次に、工程(1)において、原料モノマーであるPhAVE-AcOH (I)を、P(Ph-F)3 触媒の存在下、別途調製したロジウム錯体を触媒とし、乾燥N2 雰囲気下の溶媒中、所定の温度および時間、溶液重合することでポリ(2-(1-ビニロキシエトキシ)エチル 4-エチニル安息香酸エステル poly(PhAVE-AcOH)(II)(下記スキームではポリ(2-(1-アセトキシエトキシ)エチル 4-エチニル安息香酸エステル)を得る。モノマー濃度は0.0001~ 10Mとする。ロジウム錯体としてはノルボルナジエンロジウム錯体、ビニルロジウム錯体等が挙げられる。重合温度は好ましくは-60~100 ℃とし、重合時間は好ましくは1 分~48時間とする。溶媒としては、特に制限されず、例えば炭化水素( ヘキサン、ヘプタンのような脂肪族炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン、クメンのような芳香族炭化水素、シクロペンタン、シクロヘキサンのような脂環式炭化水素等)、ハロゲン化炭化水素( クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロエタン、トリクロロエタン等)、窒素化合物( アセトニトリル、ニトロメタン、ニトロエタン、ニトロベンゼン、トリエチルアミン等)、エーテル( ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、セロソルブ等) 、ケトン( アセトン、メチルエチルケトン等)、脂肪酸( 酢酸、無水酢酸等) 、エステル( 酢酸エチル、乳酸エチル等)等が挙げられる。
【0062】
工程(1)におけるモノマーの重合により、所望のポリフェニルアセチレン系ポリマー(II)が得られる。
【0063】
次に、工程(2)において、得られたpoly(PhAVE-AcOH)(II)を多官能性高分子重合の開始剤(主鎖)とし、乾燥N2 雰囲気下の溶媒中、EtAlCl2/ジオキサンを活性化剤 / 添加塩基とする重合系において、ビニルエーテル(スキーム中ではイソブチルVE(IBVE))のリビングカチオン重合を所定の温度および時間行い、ビニルエーテルを重合し、本発明のポリビニルエーテルがグラフト重合されたポリフェニルアセチレン(スキーム中ではpolyPhA-g-polyIBVE)(III)を得る。(III)の化合物において、ビニルエーテル重合の末端はメチル基であるが、水素またはメトキシ基である場合もある。
【0064】
重合温度は好ましくは-60~100 ℃とし、重合時間は好ましくは1 分~48時間とする。溶媒としては、特に制限されず、例えば炭化水素( ヘキサン、ヘプタンのような脂肪族炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン、クメンのような芳香族炭化水素、シクロペンタン、シクロヘキサンのような脂環式炭化水素等) 、ハロゲン化炭化水素(クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロエタン、トリクロロエタン等) 、窒素化合物( アセトニトリル、ニトロメタン、ニトロエタン、ニトロベンゼン、トリエチルアミン等) 、エーテル( ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、セロソルブ等) 、ケトン( アセトン、メチルエチルケトン等) 、脂肪酸( 酢酸、無水酢酸等) 、エステル( 酢酸エチル、乳酸エチル等) 等が挙げられる。
【0065】
任意選択で、工程(3)において、本発明の一般式(I)で表されるポリフェニルアセチレン系ポリマーのAをさらに官能化して、官能化されたポリフェニルアセチレン系ポリマー(IV)を製造してもよい。例えば、本発明のポリビニルエーテルがグラフト重合されたポリフェニルアセチレン(II)をモノカルボン酸エステル、ジカルボン酸エステル等と塩基下で反応(スキーム中ではマロン酸ジエチルとNaH下で反応)させることにより、一般式(I)で表されるポリフェニルアセチレン系ポリマーのAをカルボン酸エステルで官能化することができる。このような官能化によりポリフェニルアセチレン系ポリマーに種々の機能性を付与することができる。
【0066】
【化9】
【0067】
したがって本発明は、下記一般式(4)で表されるポリフェニルアセチレン系ポリマーに、ポリビニルエーテルを(リビングカチオン)重合させることからなる、一般式(1)で表されるポリフェニルアセチレン系ポリマーの製造方法を包含する。
【0068】
【化10】
【0069】
式中、R1、R2、R3、R4、R5、m、nは一般式(1)に関して説明した通りである。
【0070】
本発明のポリフェニルアセチレン系ポリマーの製造方法によれば、従来技術の製造方法では製造が困難であったフェニルアセチレン骨格の重合度が10以上の、ポリフェニルアセチレン系ポリマーを製造することができる。
【0071】
従って、従来の「化学構造」を認識するアプローチから発展して、これまでにない「化学構造」と「分子の大きさ」の両方を認識可能なケミカルプローブの創製が可能となる。リビング重合はこれまでに多くの研究例があり、幅広い分子設計が可能な合成手法であることから、多様の蛋白質マーカーの認識に応用可能である。
【0072】
これまで複雑な蛋白質の認識に広く用いられてきた抗原抗体反応は、コスト面や操作性に課題があるが、本発明で提案するアプローチが新たな解決方法となり、在宅医療で必須となる簡便な診断手法が期待される。
【0073】
(III)ポリフェニルアセチレン系ポリマーの利用
上記のポリフェニルアセチレン系ポリマーは、ポリビニルエーテル側鎖の構造及び大きさを変更することで、精密かつ柔軟に分子設計することができる。このため、本発明のポリフェニルアセチレン系ポリマーは、リガンドと結合して呈色が変化する呈色性材料として使用することができるし、リガンドと結合した当該ポリフェニルアセチレン系ポリマーを認識可能なケミカルプローブとして使用することもできる。
【0074】
上記のポリフェニルアセチレン系ポリマーは、リガンド、ポリフェニルアセチレン系ポリマー、および/またはリガンドと結合したポリフェニルアセチレン系ポリマーを認識可能なケミカルプローブとして、医療、薬学、バイオ、化学、材料等の分野で広く使用することができる。
【0075】
例えば、ポリフェニルアセチレン系ポリマーを、特に生体内の標的分子である糖(グルコース等)、タンパク質(抗原、酵素、ホルモン、サイトカイン等)、ペプチド、アミノ酸、または核酸(DNA、RNA等)等の化学物質と相互作用する部分を有するように設計することで、かかる化学物質を特異的に検出できるケミカルプローブとして使用することができる。特に、疾患の指標分子である疾患マーカーを検出するように設計すれば、本発明のポリフェニルアセチレン系ポリマーを疾患の検出または診断のツールとして、使用することができる。
【0076】
また、上記のポリフェニルアセチレン系ポリマーおよびその製造方法は、グラフトポリマー鎖由来の特性とパイ共役骨格由来の特性が協奏的に機能発現する新たな機能性材料の開発にも使用することができる。
【0077】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【実施例
【0078】
実施例1 ビニルエーテルが重合されたポリフェニルアセチレンポリマーの合成
下記のスキーム1に示すように、最初に、フェニル基の4位にビニルエーテル(VE)を有するフェニレンアセチレン(PhA)の誘導体に、酢酸(AcOH)をVE 部位選択的に付加させることで、2-(1-アセトキシエトキシ)エチル 4-エチニル安息香酸エステル(PhAVE-AcOH) を合成した。続いて、PhAVE-AcOH をP(Ph-F)3 触媒の存在下、別途調製したRh 錯体1 を触媒とし、乾燥N2 雰囲気下トルエン中、0℃で24 時間重合することでpoly(PhAVE-AcOH)(Mn= 42,000, Mn/Mw = 1.04)を得た。1H NMR 解析した結果、cis-transoid PolyPhA 由来のピーク(δ=5.7 ppm,-(CH=CR)n-)、および、側鎖の1-(アセトキシ)エトキシ基(VE のAcOH 付加体残基)由来のピークが5.9 ppm に現れ、重合中に副反応を起こすことなくpoly(PhAVE-AcOH)が化学構造を保持していることを確認した。
【0079】
次に、得られたpoly(PhAVE-AcOH)を多官能性高分子重合開始剤として用い、乾燥N2雰囲気下、EtAlCl2 /ジオキサンを活性化剤 / 添加塩基とする重合系を用いて、イソブチルVE(IBVE)のリビングカチオン重合を-35 ℃で1時間行った([1-(アセトキシ)エトキシ]0 /[IBVE]0 / [EtAlCl2] 0 / [ジオキサン] 0= 10 mM / 1.0 M / 25 mM / 2.0 M; [1-(アセトキシ)エトキシ]0 はpoly(PhAVE-AcOH)溶液に含まれる重合開始点の濃度に相当))。
【0080】
【化11】
【0081】
生成したポリマーは有機溶媒に可溶であり、GPC解析した結果、Mn = 159,000, Mw / Mn = 1.05 の分子量分布の非常に狭いポリマーであることを確認した。さらに詳細な重合挙動を検討したところ、モノマー転化率に対し生成ポリマーのMn が直線的に増加し、全重合を通して狭い分子量分布
【0082】
【表1】
【0083】
を保持していた(図1)。これらのことから、poly(PhAVE-AcOH)を高分子重合開始剤として用いた重合系において、IBVE がリビング的にグラフト重合したこと確認した。
【0084】
そして、MeOH, EtOH の混合溶媒を用いた再沈殿により生成物を単離した後、1H NMR 解析した結果、5.7, 6.7, 7.6 ppm のpolyPhA由来のピークがブロード化するとともに、新たに0.9 ppm にpolyIBVE 由来のピークが見られた。以上の結果より、リビング配位重合とリビングカチオン重合を併用することで、PhA主鎖およびIBVE側鎖ともに構造が精密に制御されたポリイソブチルビニルエーテルがグラフトカチオン重合されたポリフェニルアセチレン(polyPhA-g-polyIBVE)の合成に成功した。
実施例2 polyIBVE 側鎖の鎖長の違いによる光吸収の変化の検討
polyPhA-g-polyIBVEのビニルエーテルの重合度(重合数)を変化させて、溶液色がpolyIBVE鎖長に依存して変化するかどうかを検討した。
【0085】
実施例1に従い、poly(PhAVE-AcOH)(ビニルエーテルの重合度0)、ビニルエーテルの重合度が14、38、50、99、120の(polyPhA-g-polyIBVE)を合成し、紫外可視分光光度計(SHIMADZU, UV-2550)により、紫外可視領域の波長における吸光度を測定した。
【0086】
図2に示すように、poly(PhAVE-AcOH)(ビニルエーテルの重合度0)からビニルエーテルの重合度が120のものまでビニルエーテルの重合度を増大させると、フェニルアセチレン系ポリマーを含有する溶液は黄色から赤色に変わることが観察された。
【0087】
これにより、グラフト鎖であるビニルエーテルの伸長によりポリフェニルアセチレンのらせんのピッチが変化したことが示唆された。
【0088】
図3はビニルエーテルの重合前のpoly(PhAVE-AcOH)および重合度が99のpolyPhA-g-polyIBVEのMn、Mw/Mn値、吸光度を示す。
【0089】
図4は種々の重合度のpolyPhA-g-polyIBVEの吸光度を示す。これらの結果により、重合が進むとフェニルアセチレン系ポリマーの紫外可視領域の吸収が長波長側にシフトすることが示された。
実施例3 溶媒の違いによる光吸収の変化の検討
本実施例では重合度が99のpolyPhA-g-polyIBVEを、ヘキサン、酢酸エチル、トルエン、ジクロロメタンに溶解し、吸光度を測定した。
【0090】
結果を図5に示す。溶媒の違いにより、吸収スペクトルがわずかながら変化することが示された。
実施例4 レクチンを標的分子として特異的に結合可能なフェニルアセチレン系ポリマーの製造
下記のスキーム2に示すように、poly(PhAVE-AcOH)を多官能性高分子重合開始剤として用い、乾燥N2 雰囲気下、EtAlCl2/ジオキサンを活性化剤 / 添加塩基とする重合系を用いて、メトキシエトキシエトキシVE(MEEVE)とプロパルギルオキシエトキシエトキシVE(VEEP)とのリビングカチオン共重合を-35 ℃で1時間行った([1-(アセトキシ)エトキシ]0 / [MEEVE] 0 / [VEEP]0 / [EtAlCl2] 0 / [ジオキサン] 0= 10 mM / 0.9 M / 0.1 M / 25 mM / 2.0 M; [1-(アセトキシ)エトキシ] 0 はpoly(PhAVE-AcOH)溶液に含まれる重合開始点の濃度に相当))。
【0091】
【化12】
【0092】
得られたポリマー(polyPhA-g-poly(MEEVE-co-VEEP))にHuisgen反応を用いて保護基フリーのアジ化グルコース(Glu-N3)を反応させた後、透析を用いて精製した。生成物の1HNMR解析の結果、グルコース残基がほぼ定量的に導入されていることを確認した。
【0093】
式(6)のフェニルアセチレン系ポリマーを得た。下記の式(6)の化合物中、xは5~95、yは95~5である。
【0094】
式(6)のフェニルアセチレン系ポリマーには、分子の水溶性を高めるために水溶性オリゴオキシエチレン鎖を組み込むと共に、水溶性のポリビニルエーテル部分とは別にレクチンと結合するグルコースを付加したポリビニルエーテル部分を備えている。このため、式(6)のフェニルアセチレン系ポリマーは血液中に溶解し、血中のレクチンと特異的に結合することができると考えられる。
【0095】
【化13】
図1
図2
図3
図4
図5