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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-14
(45)【発行日】2022-01-14
(54)【発明の名称】めっき方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 18/18 20060101AFI20220106BHJP
   H05K 3/18 20060101ALI20220106BHJP
【FI】
C23C18/18
H05K3/18 B
H05K3/18 E
H05K3/18 D
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2017138475
(22)【出願日】2017-07-14
(65)【公開番号】P2019019372
(43)【公開日】2019-02-07
【審査請求日】2020-01-29
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000137823
【氏名又は名称】株式会社ミマキエンジニアリング
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大西 勝
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-291422(JP,A)
【文献】特開平10-075034(JP,A)
【文献】特開平07-212008(JP,A)
【文献】特開2016-193565(JP,A)
【文献】特開2012-210715(JP,A)
【文献】国際公開第2011/099557(WO,A1)
【文献】特開2000-158641(JP,A)
【文献】特開平05-338187(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0354040(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第104151938(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 18/00-18/54
H05K 3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被めっき対象物に、めっきを析出させるための触媒を付加する触媒付加工程と、
UV硬化型インクをインクジェットヘッドからインク液滴として吐出し、吐出された前記インク液滴を被めっき対象物に着弾させて、前記被めっき対象物上にめっき用マスクを形成するマスク形成工程と、
前記マスク形成工程後、前記被めっき対象物にめっき処理を行うめっき処理工程と、
前記めっき処理工程後、前記被めっき対象物の前記めっき用マスクを除去するマスク除去工程と、を備え、
前記触媒付加工程は、前記触媒を含有する触媒水溶液による湿式処理であり、
前記めっき処理工程は、前記めっき成分を含有するめっき水溶液による湿式処理であり、
前記UV硬化型インクは、紫外線が照射されることにより重合してUV硬化樹脂となるUV硬化化合物と、有機溶剤に溶解する易溶剤溶解材料とを含むUV硬化易溶剤溶解性インクであり、
前記UV硬化易溶剤溶解性インクは、硬化後に前記触媒水溶液及び前記めっき水溶液には不溶であり、前記有機溶剤には可溶であり、
前記マスク除去工程は、前記めっき用マスクを前記有機溶剤により溶解させる工程であることを特徴とするめっき方法。
【請求項2】
前記UV硬化型インクは、
前記UV硬化化合物に対して相溶性を有する有機溶剤を、さらに含む、
ソルベントUV硬化易溶剤溶解性インクであることを特徴とする請求項に記載のめっき方法。
【請求項3】
前記触媒付加工程前に、前記被めっき対象物に、粗面化処理を行う粗面化処理工程を、さらに備えることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のめっき方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットによりめっき用マスクが形成された被めっき対象物に、めっき処理を行うめっき方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、被めっき対象物にめっきを行うめっき方法として、フォトマスクを用いて基板上にフォトレジストをパターニング形成し、パターニング形成されたフォトレジストをマスクとして用いて無電解めっき処理することで、金属層を析出させる方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、基板上に形成された下地電極層の両側の端部にめっき用マスクを形成し、めっき処理を行って、下地電極層上にめっき電極層を形成する方法が知られている(例えば、特許文献2参照)。この方法では、めっき用マスクを形成する場合、レジスト剤をインクジェット印刷してもよいことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-57749号公報
【文献】特開2010-98232号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の方法によりマスクの形成を行う場合、フォトレジストを基板上に塗布するための塗布装置、及びフォトマスクを用いてパターニング形成を行うための露光装置等の設備を用いることから、設備コストが増大する。また、フォトレジストの塗布作業及びフォトマスクを用いた露光作業を要することから、マスクを形成する作業が煩雑となるため、作業性を向上させることが困難である。
【0006】
また、特許文献2の方法によってめっき用マスクが形成された基板を、例えば、無電解めっきによりめっき処理する場合、先ず、めっき用マスクを含む基板に対して、めっきを析出するための触媒が付加される。そして、触媒が付加された基板をめっき液に浸すことで、基板にめっき処理を施し、めっき処理後、めっき用マスクを除去する。したがって、引用文献2に記載の方法では、めっき用マスクが基板(メディア1)に触媒が付着することを阻止する機能と、めっき用マスク自体に触媒が付着することを阻止する機能の両方を備えたマスクとなる。そのため、特許文献2に記載の方法を用いて、インクジェットでめっき用マスクを作る場合、インクジェットで吐出することができ、かつ、触媒を付着することができる材料を用いる必要が生じる。このため、インクジェットインクにめっき用マスク自体に触媒が付着することを阻止する機能を有するインクを用意する必要が生じ、材料の選択肢が狭く、作成が困難な場合がある。つまり、引用文献2に記載の方法では、汎用のインクジェットインクを用いて作成することが困難である。
【0007】
そこで、本発明は、インクジェットによりめっき用マスクを形成する場合、めっき用マスクを好適に除去することができるめっき方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のめっき方法は、UV硬化型インクをインクジェットヘッドからインク液滴として吐出し、吐出された前記インク液滴を被めっき対象物に着弾させて、前記被めっき対象物にめっきを析出させるための触媒の付着を阻止する第1めっき用マスクを形成する第1マスク形成工程と、前記第1めっき用マスクが形成された前記被めっき対象物に、前記触媒を付加する触媒付加工程と、前記インク液滴を、前記第1めっき用マスクに着弾させて、前記第1めっき用マスク上に第2めっき用マスクを形成する第2マスク形成工程と、前記第2マスク形成工程後、前記被めっき対象物に無電解めっき処理を行うめっき処理工程と、前記めっき処理工程後、前記被めっき対象物の前記第1めっき用マスク及び前記第2めっき用マスクを除去するマスク除去工程と、を備えることを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、第1めっき用マスク上に触媒が付加されても、第1めっき用マスク上に第2めっき用マスクが形成されることで触媒が被覆されるため、第1めっき用マスク及び第2めっき用マスクに、めっきが析出することを阻止することができる。このため、溶剤等を用いて各めっき用マスクを除去する場合であっても、各めっき用マスクへのめっきの形成が阻止されることから、溶剤を各めっき用マスクに浸透させることができ、各めっき用マスクを好適に除去することができる。
【0010】
また、本発明の他のめっき方法は、被めっき対象物に、めっきを析出させるための触媒を付加する触媒付加工程と、UV硬化型インクをインクジェットヘッドからインク液滴として吐出し、吐出された前記インク液滴を被めっき対象物に着弾させて、前記被めっき対象物上にめっき用マスクを形成するマスク形成工程と、前記マスク形成工程後、前記被めっき対象物にめっき処理を行うめっき処理工程と、前記めっき処理工程後、前記被めっき対象物の前記めっき用マスクを除去するマスク除去工程と、を備えることを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、触媒が付加された被めっき対象物上に、めっき用マスクが形成されることで触媒が被覆されるため、めっき用マスクに、めっきが析出することを阻止することができる。このため、溶剤等を用いてめっき用マスクを除去する場合であっても、めっき用マスクへのめっきの形成が阻止されることから、溶剤をめっき用マスクに浸透させることができ、めっき用マスクを好適に除去することができる。
【0012】
また、前記UV硬化型インクは、紫外線が照射されることにより重合してUV硬化樹脂となるUV硬化化合物と、溶剤に溶解する易溶剤溶解材料と、を含む、UV硬化易溶剤溶解性インクであることが好ましい。
【0013】
この構成によれば、各めっき用マスクを溶剤に溶解し易いものとすることができるため、溶剤等を用いて各めっき用マスクを容易に除去することが可能となる。
【0014】
また、前記UV硬化型インクは、前記UV硬化化合物に対して相溶性を有する有機溶剤を、さらに含む、SUV硬化易溶剤溶解性インクであることが好ましい。
【0015】
この構成によれば、めっき用マスクを溶剤にさらに溶解し易いものとすることができるため、溶剤等を用いてめっき用マスクをより容易に除去することが可能となる。
【0016】
また、前記触媒付加工程前に、前記被めっき対象物に、粗面化処理を行う粗面化処理工程を、さらに備えることが好ましい。
【0017】
この構成によれば、被めっき対象物を粗面化すると、触媒の被めっき対象物への接触面積が大きくなることから、被めっき対象物に対して触媒を付加し易いものとすることができる。
【0018】
また、前記触媒付加工程は、湿式処理であり、前記めっき処理工程は、湿式処理であることが好ましい。
【0019】
この構成によれば、例えば、触媒付加工程の湿式処理として、触媒を負荷するための水溶液を溜めた槽内に、被めっき対象物を浸すことで、被めっき対象物に容易に触媒を付加させることができる。同様に、めっき処理工程の湿式処理として、無電解めっき液を溜めた槽内に、被めっき対象物を浸すことで、被めっき対象物に容易にめっき処理を施すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、実施形態1に係るめっき方法を示すフローチャートである。
図2図2は、実施形態1に係るめっき方法を示す説明図である。
図3図3は、実施形態2に係るめっき方法を示すフローチャートである。
図4図4は、実施形態2に係るめっき方法を示す説明図である。
図5図5は、実施形態3に係るめっき方法を示すフローチャートである。
図6図6は、実施形態3に係るめっき方法を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明に係る実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成要素は適宜組み合わせることが可能であり、また、実施形態が複数ある場合には、各実施形態を組み合わせることも可能である。
【0022】
[実施形態1]
実施形態1に係るめっき方法は、インクジェット印刷により被めっき対象物にめっき用マスクを形成し、めっき用マスクが形成された被めっき対象物にめっき処理を行った後、めっき用マスクを除去する方法である。以下、図1及び図2を参照して、めっき方法について説明する。
【0023】
図1は、実施形態1に係るめっき方法を示すフローチャートである。図2は、実施形態1に係るめっき方法を示す説明図である。
【0024】
先ず、めっき方法の説明に先立ち、めっき処理される被めっき対象物1について説明する。被めっき対象物1は、材料として、樹脂、金属またはガラス等の材料を適用可能であり、めっきが可能な材料であれば、いずれの材料も適用することが可能である。また、被めっき対象物1は、形状として、板状、または曲面を有する立体形状等を適用可能であり、めっきが可能な形状であれば、いずれの形状も適用することが可能である。なお、以下では、被めっき対象物1として、樹脂で形成されたカード等のメディアに適用して説明する。
【0025】
図1及び図2に示すように、実施形態1のめっき方法は、第1マスク形成工程S1と、粗面化処理工程S2と、触媒付加工程S3と、第2マスク形成工程S4と、めっき処理工程S5と、マスク除去工程S6とを順に行っている。なお、実施形態1のめっき方法において、粗面化処理工程S2は、省いてもよい。被めっき対象物1は、予め洗浄処理等の前処理が行われている。
【0026】
第1マスク形成工程S1は、UV硬化型インクをインクジェットヘッド10からインク液滴として吐出し、吐出されたインク液滴を被めっき対象物1に着弾させて、被めっき対象物1に第1めっき用マスク15を形成する工程である。第1めっき用マスク15は、被めっき対象物1にめっきを析出させるための触媒の付着を阻止するマスクとなっている。
【0027】
ここで、実施形態1の第1マスク形成工程S1に用いられるUV硬化型インクについて説明する。実施形態1では、UV硬化型インクとして、後述するマスク除去工程S6において除去が容易となる、UV硬化易溶剤溶解性インクが用いられている。具体的に、UV硬化型インクは、重合してUV硬化樹脂となるUV硬化化合物と、易溶剤溶解材料と、を含んでおり、水溶液には不溶であり、有機溶剤に可溶となっている。これは、後述するめっき処理工程S5において使用される無電解めっき液が水溶性であり、めっき処理時において、第1めっき用マスク15が溶けないようにするためである。UV硬化化合物は、例えば、アクリル酸エステル等のモノマーと、開始剤とを含んでいる。易溶剤溶解材料は、例えば、ブチラール樹脂である。易溶剤溶解材料は、UV硬化化合物に対する重量比が、20%以上70%以下となっている。なお、UV硬化型インクは、インクジェットヘッド10で吐出可能な粘度に調整するために、UV硬化化合物の重量より少ない範囲で、適量のアルコールを添加してもよい。UV硬化型インクは、紫外線が照射され、開始剤が活性してモノマーと反応することで硬化する。
【0028】
図2に示すように、第1マスク形成工程S1では、テーブル12上に、被めっき対象物1が載置されている。第1マスク形成工程S1では、テーブル12に載置された被めっき対象物1に対して、インクジェットヘッド10を主走査方向及び副走査方向に相対的に移動させながら、所定のパターニングとなるように、被めっき対象物1にインク液滴を吐出する。ここで、被めっき対象物1は、その表面(図2の上面)が、めっき層20及び第1めっき用マスク15が形成される被めっき面となっている。また、第1マスク形成工程S1では、被めっき対象物1の表面に吐出されたインク液滴に、紫外線照射部11から紫外線を照射してUV硬化型インクを硬化させることで、第1めっき用マスク15を形成する。なお、テーブル12を、プラテンヒーターに代えてもよく、プラテンヒーターにより被めっき対象物1を加熱してもよい。
【0029】
粗面化処理工程S2では、第1めっき用マスク15が形成された被めっき対象物1の表面P1を粗面化する。粗面化処理工程S2では、例えば、エッチング液を用いて、被めっき対象物1の表面P1をエッチングし、表面P1に凹凸を発生させることで、表面改質を行う。つまり、粗面化処理工程S2では、第1めっき用マスク15の表面P1aと、第1めっき用マスク15が形成されていない被めっき対象物1の表面P1bとが、粗面化される。なお、エッチング液は、使用する被めっき対象物1に適したものを使用する。なお、粗面化処理工程S2では、例えば、被めっき対象物1の表面P1にサンドブラストを行い、表面P1に凹凸を発生させることで、表面改質を行ってもよい。このように、粗面化処理工程S2では、被めっき対象物1の表面P1を粗面化させることで、めっきの付着力を向上させる。
【0030】
触媒付加工程S3では、粗面化した被めっき対象物1の表面に対し触媒Cを付着させる。触媒Cは、後工程となるめっき処理工程S5においてめっきを析出させるためのものである。実施形態1では、めっき処理として、無電解めっきを行うため、触媒付加工程S3を行っており、触媒付加工程S3では、第1めっき用マスク15の表面P1aと、第1めっき用マスク15が形成されていない被めっき対象物1の表面P1bとに、触媒Cが付加される。また、触媒付加工程S3では、被めっき対象物1を、塩化第一錫の水溶液と塩化パラジウム水溶液とに交互に浸して、触媒Sn2+・Pd2+を吸着処理し、Sn2+を除去して、Pd(パラジウム)を析出させる。このように、触媒付加工程S3は、湿式処理となっている。
【0031】
第2マスク形成工程S4は、第1マスク形成工程S1で用いられた同様のUV硬化型インクを、再びインクジェットヘッド10からインク液滴として吐出し、吐出されたインク液滴を第1めっき用マスク15に着弾させて、第1めっき用マスク15上に第2めっき用マスク16を形成する工程である。
【0032】
図2に示すように、第2マスク形成工程S4では、テーブル12上に、触媒Cが付加された被めっき対象物1が載置される。第2マスク形成工程S4では、テーブル12に載置された被めっき対象物1に対して、インクジェットヘッド10を主走査方向及び副走査方向に相対的に移動させながら、所定のパターニングとなるように、被めっき対象物1の第1めっき用マスク15上にインク液滴を吐出する。また、第2マスク形成工程S4では、被めっき対象物1の第1めっき用マスク15上に着弾したインク液滴に対して、紫外線照射部11から紫外線を照射してUV硬化型インクを硬化させることで、第2めっき用マスク16を形成する。このとき、第2マスク形成工程S4では、第1めっき用マスク15と同じ形成領域に、第2めっき用マスク16を形成している。なお、第2めっき用マスク16の形成領域は、第1めっき用マスク15と同じ形成領域に限定されず、第1めっき用マスク15よりも小さい形成領域であってもよいし、大きい形成領域であってもよい。
【0033】
第2マスク形成工程S4を行うことで、第1めっき用マスク15に付加された触媒Cは、第1めっき用マスク15と第2めっき用マスク16との間に挟まれることから、触媒Cの外部への露出が抑制される。
【0034】
めっき処理工程S5は、触媒Cが付着した被めっき対象物1にめっき処理を行う。めっき処理工程S5では、被めっき対象物1に無電解めっきを処理する無電解めっき処理工程S5aを行っている。無電解めっき処理工程S5aでは、被めっき対象物1を、無電解めっき槽21に溜められた所定の温度となる無電解めっき液に、所定の時間だけ浸して、無電解めっきを行う。無電解めっき処理工程S5aでは、第1めっき用マスク15及び第2めっき用マスク16が形成されていない被めっき対象物1の表面P1bにめっき層20が形成される。なお、無電解めっき液には、ダイヤモンドまたは酸化チタンの粒子を入れてもよく、また、無電解めっき処理工程S5aを、繰り返し行ってもよい。
【0035】
また、図2に示すように、無電解めっき処理工程S5aに加えて、電気めっき処理工程S5bを行ってもよい。電気めっき処理工程S5bでは、無電解めっきされた被めっき対象物1の被めっき面を負極にして、電気めっき槽22に溜められためっき液に浸して電気めっきを行う。これにより、めっき層20の層厚を厚くすることができる。このように、めっき処理工程S5は、湿式処理となっている。
【0036】
マスク除去工程S6は、めっき処理された被めっき対象物1に形成されている第1めっき用マスク15及び第2めっき用マスク16を除去する。マスク除去工程S6では、第1めっき用マスク15及び第2めっき用マスク16の形成に用いられたインクが溶剤可溶性のインクであることから、例えば、アルコール等の有機溶剤に浸すことで、第1めっき用マスク15及び第2めっき用マスク16を溶解し除去する。これにより、被めっき対象物1には、めっき層20のみが残る。
【0037】
この後、図示は省略したが、洗浄定着工程を行ってもよい。洗浄定着工程は、第1めっき用マスク15及び第2めっき用マスク16が除去された被めっき対象物1を、洗浄した後、加熱チャンバの内部に設置し加熱して、めっき層20を被めっき対象物1に定着させる。
【0038】
このように、第1めっき用マスク15は、被めっき対象物1にめっき層20を形成するためのマスキングとして機能する。一方で、第2めっき用マスク16は、第1めっき用マスク15がめっきされないためのマスキングとして機能する。
【0039】
以上のように、実施形態1によれば、第1めっき用マスク15上に触媒Cが付加されても、第1めっき用マスク15上に第2めっき用マスク16が形成されることで触媒Cが被覆されるため、第1めっき用マスク15及び第2めっき用マスク16に、めっきが析出することを阻止することができる。このため、マスク除去工程S6において、有機溶剤を用いて各めっき用マスク15,16を除去する場合であっても、各めっき用マスク15,16へのめっき層20の形成が阻止されることから、有機溶剤を各めっき用マスク15,16に浸透させることができ、各めっき用マスク15,16を好適に除去することができる。このように、めっき用マスク16で触媒Cが付着しためっき用マスク15を覆う構造して、めっき用マスク15,16のいずれにもめっき層20が形成されない構造とできるため、めっき用マスク15,16のインクとして汎用のインクジェットインクを用いて、めっき用マスクが形成される領域にめっきが形成されることを阻止することができる。これにより、インクの選択肢を広くすることができる。
【0040】
また、実施形態1によれば、UV硬化型インクは、UV硬化化合物と易溶剤溶解材料とを含む、UV硬化易溶剤溶解性インクであるため、マスク除去工程S6において、各めっき用マスク15,16を有機溶剤に溶解し易いものにでき、有機溶剤を用いて各めっき用マスク15,16を容易に除去することが可能となる。
【0041】
また、実施形態1によれば、触媒付加工程S3前に、被めっき対象物1に粗面化処理を行うことで、触媒Cの被めっき対象物1への接触面積を大きくできることから、被めっき対象物1に対して触媒Cを付加し易いものとすることができる。
【0042】
なお、実施形態1では、UV硬化型インクとして、UV硬化易溶剤溶解性インクを用いたが、このインクに代えて、SUV硬化易溶剤溶解性インク(以下、SUVインクという)を用いてもよい。SUVインクは、UV硬化化合物と易溶剤溶解材料とを含むUV硬化易溶剤溶解性インクに、UV硬化化合物に対して相溶性を有する有機溶剤を、さらに含んだものである。有機溶剤としては、例えば、UV硬化化合物としてのアクリル酸エステル及び易溶剤溶解材料としてのブチラール樹脂に対して相溶性を有するセロソルブアセテートである。具体的に、SUVインクは、20℃での粘度が10~100000mPa・secの範囲となるUV硬化化合物に、SUVインクの総重量に対して20重量%以上70重量%以下の割合となる易溶剤溶解材料と、SUVインクの総重量に対して30重量%以上80重量%以下の割合となる有機溶剤とが含まれている。このとき、SUVインクは、UV硬化化合物と易溶剤溶解材料と有機溶剤との割合が、100重量%となるように調整される。このように、UV硬化型インクとして、SUV硬化易溶剤溶解性インクを用いることで、マスク除去工程S6において、各めっき用マスク15,16を有機溶剤により溶解し易いものにでき、有機溶剤を用いて各めっき用マスク15,16をより容易に除去することが可能となる。
【0043】
[実施形態2]
次に、図3及び図4を参照して、実施形態2に係るめっき方法について説明する。なお、実施形態2では、重複した記載を避けるべく、実施形態1と異なる部分について説明し、実施形態1と同様の構成である部分については、同じ符号を付して説明する。図3は、実施形態2に係るめっき方法を示すフローチャートである。図4は、実施形態2に係るめっき方法を示す説明図である。
【0044】
実施形態2のめっき方法は、隆起部形成工程S11と、第1マスク形成工程S12と、粗面化処理工程S13と、触媒付加工程S14と、第2マスク形成工程S15と、めっき処理工程S16と、マスク除去工程S17とを順に行っている。なお、実施形態2のめっき方法においても、粗面化処理工程S13は、省いてもよい。被めっき対象物1は、実施形態1と同様のものであり、予め洗浄処理等の前処理が行われている。
【0045】
隆起部形成工程S11は、UV硬化型インクをインクジェットヘッド30からインク液滴として吐出し、吐出されたインク液滴を被めっき対象物1に着弾させると共に、UV硬化型インクをUV硬化させて、被めっき対象物1に隆起部31を形成する工程である。
【0046】
ここで、実施形態2の隆起部形成工程S11に用いられるUV硬化型インクについて説明する。実施形態2では、UV硬化型インクとして、めっき処理工程S16において使用されるめっき液に対して不溶性となり、また、触媒付加工程S14において使用される水溶液に対して不溶性となり、さらに、マスク除去工程S17において使用される有機溶剤に対して不溶性となる、UV硬化不溶解性インクを用いている。UV硬化型インクは、重合してUV硬化樹脂となるUV硬化化合物を含み、UV硬化化合物は、モノマーと、開始剤とを少なくとも含んでいる。なお、UV硬化型インクは、被めっき対象物1と同じ色彩となるように、色材を含んでいてもよい。このUV硬化型インクは、紫外線が照射され、開始剤が活性してモノマーと反応することで硬化する。
【0047】
図4に示すように、隆起部形成工程S11では、テーブル12上に、被めっき対象物1が載置されている。隆起部形成工程S11では、テーブル12に載置された被めっき対象物1に対して、インクジェットヘッド30を主走査方向及び副走査方向に相対的に移動させながら、所定のパターニング(隆起画像)となるように、被めっき対象物1にインク液滴を吐出する。また、隆起部形成工程S11では、UV硬化型インクにより形成された隆起画像に対して、紫外線照射部32から紫外線を照射し、隆起画像を硬化させることで、隆起部31を形成する。
【0048】
第1マスク形成工程S12は、実施形態1の第1マスク形成工程S1と同様であり、UV硬化易溶剤溶解性インクを、インクジェットヘッド10からインク液滴として吐出し、吐出されたインク液滴を被めっき対象物1に着弾させて、被めっき対象物1に第1めっき用マスク15を形成する。
【0049】
ここで、図4に示すように、第1マスク形成工程S12では、第1めっき用マスク15が、隆起部31のエッジ部分(隆起部31と被めっき対象物1との境界部分)に対して、わずかに隙間を空けて隣接するように形成されている。これは、めっき処理工程S16において、隆起部31のエッジ部分までめっきが施されるようにするためである。
【0050】
粗面化処理工程S13は、隆起部31及び第1めっき用マスク15が形成された被めっき対象物1の表面P1を粗面化する。つまり、粗面化処理工程S13では、隆起部31の表面P1cと、第1めっき用マスク15の表面P1aと、隆起部31及び第1めっき用マスク15が形成されていない被めっき対象物1の表面P1bとが、粗面化される。なお、粗面化処理工程S13は、実施形態1の粗面化処理工程S2と同様であるため、説明を省略する。
【0051】
触媒付加工程S14では、隆起部31及び第1めっき用マスク15が形成され粗面化した被めっき対象物1に対し触媒Cを付着させる。つまり、触媒付加工程S14では、隆起部31の表面P1cと、第1めっき用マスク15の表面P1aと、隆起部31及び第1めっき用マスク15が形成されていない被めっき対象物1の表面P1bとに、触媒Cが付加される。なお、触媒付加工程S14も、実施形態1の触媒付加工程S3と同様であるため、説明を省略する。
【0052】
第2マスク形成工程S15は、第1マスク形成工程S12で用いられた同様のUV硬化型インクを、再びインクジェットヘッド10からインク液滴として吐出し、吐出されたインク液滴を第1めっき用マスク15に着弾させて、第1めっき用マスク15上に第2めっき用マスク16を形成する。なお、第2マスク形成工程S15も、実施形態1の第2マスク形成工程S4と同様であるため、説明を省略する。
【0053】
めっき処理工程S16は、触媒Cが付着した被めっき対象物1にめっき処理を行う。マスク除去工程S17は、めっき処理された被めっき対象物1に形成されている第1めっき用マスク15及び第2めっき用マスク16を除去する。なお、めっき処理工程S16及びマスク除去工程S17も、実施形態1のめっき処理工程S5及びマスク除去工程S6と同様であるため、説明を省略する。これにより、マスク除去工程S17後の被めっき対象物1には、隆起部31と、隆起部31の表面P1cに形成されためっき層20とが残る。
【0054】
以上のように、実施形態2においても、第1めっき用マスク15上に第2めっき用マスク16が形成されることで触媒Cが被覆されるため、第1めっき用マスク15及び第2めっき用マスク16に、めっきが析出することを阻止することができる。このため、マスク除去工程S17において、有機溶剤を用いて各めっき用マスク15,16を除去する場合であっても、各めっき用マスク15,16へのめっき層20の形成が阻止されることから、有機溶剤を各めっき用マスク15,16に浸透させることができ、各めっき用マスク15,16を好適に除去することができる。
【0055】
また、実施形態2によれば、隆起部31の表面P1cにめっき層20を形成することができるため、めっき処理による被めっき対象物1の装飾性を高めることができる。このとき、隆起部31は、インクジェットにより形成できることから、種々の画像を容易に形成することができるため、装飾性のある種々のめっき処理を容易に行うことが可能となる。
【0056】
[実施形態3]
次に、図5及び図6を参照して、実施形態3に係るめっき方法について説明する。なお、実施形態3では、重複した記載を避けるべく、実施形態1及び2と異なる部分について説明し、実施形態1及び2と同様の構成である部分については、同じ符号を付して説明する。図5は、実施形態3に係るめっき方法を示すフローチャートである。図6は、実施形態3に係るめっき方法を示す説明図である。
【0057】
実施形態3のめっき方法は、実施形態2のめっき方法における第1マスク形成工程S12を省いた方法となっており、第2マスク形成工程S15を、マスク形成工程S15としている。つまり、実施形態3のめっき方法では、被めっき対象物1に、第1めっき用マスク15を形成しないことから、被めっき対象物1の表面P1に、粗面化処理と触媒付加とが施される。そして、マスク形成工程S15では、粗面化処理と触媒付加とが施された被めっき対象物1の表面に、第2めっき用マスク16を、めっき用マスク16として形成している。
【0058】
つまり、実施形態3において、粗面化処理工程S13では、隆起部31の表面P1cと、隆起部31が形成されていない被めっき対象物1の表面P1bと、が粗面化される。また、触媒付加工程S14では、隆起部31の表面P1cと、隆起部31が形成されていない被めっき対象物1の表面P1bとに、触媒Cが付加される。なお、その他の工程については、実施形態2と同様であるため、説明を省略する。そして、マスク除去工程S17後の被めっき対象物1には、隆起部31と、隆起部31の表面P1cに形成されためっき層20とが残る。このとき、隆起部31が形成されていない被めっき対象物1の表面P1bは、粗面化処理が施されたものとなっている。なお、実施形態3では、粗面化処理工程S13を行ったため、隆起部31が形成されていない被めっき対象物1の表面P1bが粗面となるが、粗面化処理工程S13を行わない場合、隆起部31が形成されていない被めっき対象物1の表面P1bは、粗面化されないものとなる。
【0059】
以上のように、実施形態3においても、触媒Cが付加された被めっき対象物1上に、めっき用マスク16が形成されることで触媒Cが被覆されるため、めっき用マスク16に、めっきが析出することを阻止することができる。このため、マスク除去工程S17において、有機溶剤を用いてめっき用マスク16を除去する場合であっても、めっき用マスク16へのめっき層20の形成が阻止されることから、有機溶剤をめっき用マスク16に浸透させることができ、めっき用マスク16を好適に除去することができる。
【符号の説明】
【0060】
1 被めっき対象物
10 インクジェットヘッド
11 紫外線照射部
12 テーブル(プラテンヒーター)
15 第1めっき用マスク
16 第2めっき用マスク
20 めっき層
21 無電解めっき槽
22 電気めっき槽
30 インクジェットヘッド
31 隆起部
32 紫外線照射部
図1
図2
図3
図4
図5
図6