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特許6993812細胞傷害活性を向上させたリンパ球の培養方法及び該方法で得られた細胞傷害活性を向上させたリンパ球を含む細胞免疫治療剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-14
(45)【発行日】2022-01-14
(54)【発明の名称】細胞傷害活性を向上させたリンパ球の培養方法及び該方法で得られた細胞傷害活性を向上させたリンパ球を含む細胞免疫治療剤
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/078 20100101AFI20220106BHJP
   A61K 35/17 20150101ALI20220106BHJP
   A61P 13/08 20060101ALI20220106BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220106BHJP
【FI】
C12N5/078
A61K35/17 Z
A61P13/08
A61P35/00
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2017157697
(22)【出願日】2017-08-17
(65)【公開番号】P2018029587
(43)【公開日】2018-03-01
【審査請求日】2020-08-13
(31)【優先権主張番号】P 2016160006
(32)【優先日】2016-08-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】516247203
【氏名又は名称】小田 治範
(73)【特許権者】
【識別番号】516247214
【氏名又は名称】医療法人社団医進会
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【弁理士】
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【弁理士】
【氏名又は名称】大杉 卓也
(72)【発明者】
【氏名】小田 治範
(72)【発明者】
【氏名】山田 進一
(72)【発明者】
【氏名】凌 霞
(72)【発明者】
【氏名】林 美紀
(72)【発明者】
【氏名】小田 慧理
【審査官】馬場 亮人
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第104357394(CN,A)
【文献】国際公開第2015/166484(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/068801(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/078
A61K 35/17
A61P 13/08
A61P 35/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程で得られたリンパ球を含む前立腺癌治療用細胞免疫治療剤:
(1)癌患者由来のリンパ球を含む末梢血を1~20日間培養する工程、
(2)(1)の培養後において、抗PD-1抗体を該末梢血に添加する工程、及び
(3)(2)の該添加後30分~18時間において、該抗PD-1抗体を該末梢血から除去する工程。
【請求項2】
前立腺摘出後患者用又は再発前立腺患者用である請求項1に記載の細胞免疫治療剤。
【請求項3】
以下の工程で得られたリンパ球を含む前立腺癌治療用細胞免疫治療剤:
(1)癌患者由来のリンパ球を含む末梢血を1~20日間培養する工程、
(2)(1)の培養後において、抗CTLA-4抗体を該末梢血に添加する工程、及び
(3)(2)の該添加後30分~18時間において、該抗CTLA-4抗体を該末梢血から除去する工程。
【請求項4】
前立腺摘出後患者用又は再発前立腺患者用である請求項3に記載の細胞免疫治療剤
【請求項5】
以下の工程を有する、細胞免疫治療用リンパ球の培養方法:
(1)癌患者由来のリンパ球を含む試料を1~20日間培養する工程、
(2)(1)の培養後において、抗PD-1抗体及び/又は抗CTLA-4抗体を該試料に添加する工程、及び
(3)(2)の該添加後30分~18時間において、該抗PD-1抗体及び/又は該抗CTLA-4抗体を該試料から除去する工程。
【請求項6】
前記試料が前記癌患者由来の末梢血である、請求項5に記載の培養方法。
【請求項7】
前記(1)の培養が9~11日間である、請求項5又は6に記載の培養方法。
【請求項8】
前記(3)の除去が添加後2~16時間である、請求項5~7のいずれか1に記載の培養方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞傷害活性を向上させたリンパ球の培養方法及び該方法で得られた細胞傷害活性を向上させたリンパ球を含む細胞免疫治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
(リンパ球)
リンパ球は、一般に、T細胞、樹状細胞、ナチュラルキラー細胞(以下、NK細胞と称する場合がある)およびヘルパーT細胞を含み、ウイルスおよび腫瘍に対して、細胞傷害性(細胞傷害活性)を示す免疫細胞の総称である。
従って、これらの細胞を単離又は加工して体内に戻し、腫瘍の治療に使用する細胞免疫療法は古くから行われていた。例えば、サイトカインのひとつであるインターロイキン-2(以下、IL-2と称する場合がある)を培地に添加し、ヒト末梢血リンパ球を37℃、5%CO2下で約2週間培養すると、約1010個以上の培養リンパ球が得られることが知られている(参照:非特許文献1)。
【0003】
(細胞免疫療法)
細胞免疫療法の利点としては、(1)治療効果が顕著に上がる患者がいる、(2)他の治療法と併用できる、(3)進行癌や癌の転移に使用できる、及び(4)殆ど副作用がない、などが挙げられる。一方で、治験に於いて、多くの患者に有意差が出るほど高い効果を示すものがない、各施設間での治療効果に差があるため、安全性および効果が疑問視されている、並びに、公に治療効果が明らかになっていない、などの問題がある。
厚生労働省は、安全性および効果について、2013年5月10日に「再生医療を国民が迅速かつ安全に受けられるようにするための施策の総合的な推進に関する法律」(再生医療法)を公布・施行し、細胞免疫療法を含む再生医療全体の安全性とその効果について見直しを進めている。
【0004】
細胞免疫療法が、効果が出ない理由として、癌細胞側から免疫細胞の働きを止める仕組みがいくつか明らかになりつつある。癌細胞が分泌するIL-10、M-CSFおよびPGE2による腫瘍随伴マクロファージ(Tumor associated macrophage;以下、TAMと称する場合がある)の発生、TGF-β、BMP4およびIL-6によるCAF(Cancer-associated Fibroblast、癌関連線維芽細胞)の発生、IL-2、TGF-βおよびVEGFによるTreg(Regulatory T cell、制御性T細胞)の発生がある。
そして、近年最も注目されているImmune checkpoint molecules(以下、免疫チェックポイント分子と称する場合がある)がある。免疫チェックポイント分子は、癌細胞自身の膜表面に発現している。免疫チェックポイント分子は、免疫細胞の細胞膜上に発現した膜タンパク質に特異的に結合することにより、免疫細胞の抗癌作用を弱める働きを持つ。免疫チェックポイント分子の種類は、現在でも10種類以上(VISTA、PD-1、LAG3、KIR、IDO、CTLA-4、BTLA、B7-H4、B7-H3およびA2AR他)が知られている。
【0005】
(免疫チェックポイント分子を使用した治療薬)
免疫チェックポイント分子を使用した治療薬が製品化されている。特に、抗PD-1抗体は、リンパ球の細胞膜上のPD-1に結合することにより、PD-1のリガンド分子(免疫チェックポイント分子)であるPD-L1が、結合できなくさせることができる。その結果、癌細胞のPD-L1の作用を無効にする(免疫作用増強させることができる)。
その他にもCTLA-4の作用機序を応用した医薬品ヤーボイ(YERVOY)(登録商標)(一般名:イピリムマブ、impilimumab)などがある。このような薬剤は、ImmuneCheckpoint Inhibitorと呼ばれている。
【0006】
抗PD-1抗体は、従来の抗癌剤(ダカルバジン等)の奏功率が13.9%であったのに対して、40%であったことが報告されている(参照:非特許文献2)。
現在、抗PD-1抗体は、適応がメラノーマ以外の癌にも広げられ、他のImmune Checkpoint Inhibitor又は他の抗癌剤、治療法との併用により、更に奏功率が向上することが期待されている。
しかしながら、抗PD-1抗体を使用した癌治療には、さらなる奏効率を向上させるための改良が必要である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】Rosenberg SA, NewEngland Journal of Medicine, 313, 1485-1492, 1985
【文献】The NewEnglandJournal, 372-374, 2015
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、細胞傷害活性を向上させたリンパ球の培養方法及び該培養方法で得られた細胞傷害活性を向上させたリンパ球を含む細胞免疫治療剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、1~20日間培養後のリンパ球に抗PD-1抗体又は抗CTLA-4抗体を添加し、さらに該添加数時間後に該抗体を除去して得られたリンパ球は、細胞傷害活性が高いこと及び優れた癌治療効果を新規に見出して、本発明を完成した。
【0010】
すなわち本発明は以下の通りである。
1.以下の工程を有するリンパ球の培養方法:
(1)癌患者由来のリンパ球を含む試料を1~20日間培養する工程、
(2)(1)の培養後において、抗PD-1抗体及び/又は抗CTLA-4抗体を該試料に添加する工程、及び
(3)(2)の該添加後30分~18時間において、該抗PD-1抗体及び/又は該抗CTLA-4抗体を該試料から除去する工程。
2.前記試料が前記癌患者由来の末梢血である、前項1に記載の培養方法。
3.前記(1)の培養が9~11日間である、前項1又は2に記載の培養方法。
4.前記(2)の除去が添加後2~16時間である、前項1~3のいずれか1に記載の培養方法。
5.以下の工程で得られたリンパ球を含む細胞免疫治療剤:
(1)癌患者由来のリンパ球を含む末梢血を1~20日間培養する工程、
(2)(1)の培養後において、抗PD-1抗体を該末梢血に添加する工程、及び
(3)(2)の該添加後30分~18時間において、該抗PD-1抗体を該末梢血から除去する工程。
6.前立腺癌治療用である前項5に記載の細胞免疫治療剤。
7.以下の工程で得られたリンパ球を含む細胞免疫治療剤:
(1)癌患者由来のリンパ球を含む末梢血を1~20日間培養する工程、
(2)(1)の培養後において、抗CTLA-4抗体を該末梢血に添加する工程、及び
(3)(2)の該添加後30分~18時間において、該抗CTLA-4抗体を該末梢血から除去する工程。
8.前立腺癌治療用である前項7に記載の細胞免疫治療剤。
【発明の効果】
【0011】
本発明のリンパ球の培養方法は、細胞傷害活性を向上させたリンパ球を得ることができる。さらに、本発明の細胞免疫治療剤は、通常使用量の抗PD-1抗体又は抗CTLA-4抗体と比較して、低濃度で優れた癌治療効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】抗PD-1抗体の感作時間の検討結果を示す。培養後のリンパ球に抗PD-1抗体を添加し、0時間、3時間又は19時間感作し(刺激し)、K562細胞およびJurkat細胞を用いて、細胞傷害性試験を行った。各感作時間のサンプルの細胞傷害性試験の結果を示す。縦軸は、細胞傷害性(cytotoxicity %)を、横軸は、感作時間(時間)を示す。濃い灰色のバーは、K562細胞における細胞傷害性を、薄い灰色のバーは、Jurkat細胞における細胞傷害性を示す。
図2】リンパ球と癌細胞(K562細胞)比の検討結果を示す。リンパ球:癌細胞を5:1、10:1、20:1、40:1の比率(E/T比)にして、抗PD-1抗体有り・無しの条件で細胞傷害性試験を行った。各E/T比における細胞傷害性試験の結果を示す。縦軸は、細胞傷害性(cytotoxicity %)を、横軸は、E/T比を示す。薄い灰色の線は、抗PD-1抗体有り(抗PD-1抗体+)における細胞傷害性を、濃い灰色の線は、抗PD-1抗体無し(抗PD-1抗体-)における細胞傷害性を示す。
図3】リンパ球と癌細胞(Jurkat細胞)比の検討結果を示す。リンパ球:癌細胞を5:1、10:1、20:1、40:1の比率(E/T比)にして、抗PD-1抗体有り・無しの条件で細胞傷害性試験を行った。各E/T比における細胞傷害性試験の結果を示す。薄い灰色の線は、抗PD-1抗体有り(抗PD-1抗体+)における細胞傷害性を、濃い灰色の線は、抗PD-1抗体無し(抗PD-1抗体-)における細胞傷害性を示す。
図4】K562細胞を用いた複数の癌患者由来のリンパ球での検討結果を示す。異なる癌患者由来のリンパ球と、K562細胞とを用いて、抗PD-1抗体有り・無しの条件で細胞傷害性試験を行った。各癌患者由来のリンパ球における細胞傷害性試験の結果を示す。縦軸は、細胞傷害性(cytotoxicity %)を、横軸は、異なる癌患者由来のリンパ球を示す。濃い灰色のバーは、抗PD-1抗体無し(抗PD-1抗体-)における細胞傷害性を、薄い灰色のバーは、抗PD-1抗体有り(抗PD-1抗体+)における細胞傷害性を示す。
図5】Jurkat細胞を用いた複数の癌患者由来のリンパ球での検討結果を示す。異なる癌患者由来のリンパ球と、Jurkat細胞とを用いて、抗PD-1抗体有り・無しの条件で細胞傷害性試験を行った。各癌患者由来のリンパ球における細胞傷害性試験の結果を示す。縦軸は、細胞傷害性(cytotoxicity %)を、横軸は、異なる癌患者由来のリンパ球を示す。濃い灰色のバーは、抗PD-1抗体無し(抗PD-1抗体-)における細胞傷害性を、薄い灰色のバーは、抗PD-1抗体有り(抗PD-1抗体+)における細胞傷害性を示す。
図6】抗PD-1抗体で感作したリンパ球を含む細胞免疫治療剤を使用した患者の手術前検査所見
図7】抗PD-1抗体で感作したリンパ球を含む細胞免疫治療剤を使用した患者のPSA推移と前立腺癌摘出後の治療スケジュール
図8】抗CTLA-4抗体で感作したリンパ球を含む細胞免疫治療剤を使用した患者のPSA推移と治療スケジュール
【発明を実施するための形態】
【0013】
(本発明の対象)
本発明の対象は、細胞傷害活性を向上させたリンパ球の培養方法及び該方法で得られた細胞傷害活性を向上させたリンパ球を含む細胞免疫治療剤を対象とする。以下で本発明を詳細に説明する。
【0014】
(リンパ球)
本発明の「リンパ球」は、少なくともB細胞、T細胞、樹状細胞、NK細胞およびヘルパーT細胞のいずれか1以上を含み、細菌、ウイルスおよび腫瘍等の異物に対して除去する働きがある免疫細胞の総称を対象とする。特に、NK細胞およびT細胞は、腫瘍に対して細胞障害活性を示し、癌治療に重要な役割を果たしている。本発明のリンパ球は、癌患者由来の試料から得ることができる。
【0015】
(癌患者)
本発明の癌患者の「癌種」は、特に限定されないが、白血病(慢性骨髄性白血病、急性T細胞病性白血病)、大腸癌、直腸癌、腎臓癌、副腎癌、乳癌、前立腺癌、子宮癌、卵巣癌、子宮内膜癌、食道癌、血液癌、肝癌、膵臓癌、皮膚癌、脳癌、肺癌、リンパ腫、神経細胞腫、肺腫瘍、乳腫瘍、前立腺腫瘍、大腸腫瘍、腎臓細胞癌腫、子宮頚癌、大腸癌腫、乳癌腫ないし前記癌または腫瘍の転移したものを対象とする。
【0016】
(試料)
本発明の「試料」は、少なくともリンパ球を含み、抗PD-1抗体及び/又は抗CTLA-4抗体による刺激(感作)により、該リンパ球の細胞傷害活性を向上させることができれば、特に限定されないが、末梢血、リンパ節、胸腺、骨髄、腫瘍、胸水、腹水又は臍帯血から採取された単核球、より好ましくは末梢血単核球等を例示することができる。
【0017】
(抗PD-1抗体)
本発明の「抗PD-1抗体」は、リンパ球の細胞傷害活性を向上させることができれば自体公知の抗体(市販の抗体)、定法により得られる抗体(モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体)等を利用することができる。
自体公知の抗体として、オプジーボ(OPDIVO)(登録商標)(一般名: ニボルマブ、nivolumab)、キートルーダ(KEYTRUDA)(一般名:ペムブロリズマブ、pembrolizumab)等を例示することができる。
定法により得られる抗体として、免疫原となるPD-1抗原(又は、PD-1の部分ペプチド)をリン酸緩衝液(PBS)などの適当な緩衝液中に溶解又は懸濁したものを抗原液として使用する。抗原液は通常抗原物質を50~500 μg/mL程度含む濃度に調製すればよい。また、ペプチド単独だけでは抗原性が低い場合には、アルブミンやキーホールリンペットヘモシアニンなどの適当なキャリアータンパク質に架橋して用いることができる。
当該抗原で免疫感作する動物(被免疫動物)は、マウス、ラット、ハムスター、ウマ、ヤギ、ウサギなどが例示される。最終免疫より約3~5日後、該免疫動物から脾細胞を分離して抗体産生細胞を得る。
【0018】
(抗CTLA-4抗体)
本発明の「抗CTLA-4抗体」は、リンパ球の細胞傷害活性を向上させることができれば自体公知の抗体(市販の抗体)、定法により得られる抗体(モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体)等を利用することができる。
自体公知の抗体として、ヤーボイ(YERVOY)(登録商標)(一般名:イピリムマブ(遺伝子組換え)、Ipilimumab(Genetical Recombination))、トレメリムマブ(遺伝子組換え)(tremelimumab(Genetical Recombination))等を例示することができる。
定法により得られる抗体として、免疫原となるCTLA-4抗原(又は、CTLA-4の部分ペプチド)をリン酸緩衝液(PBS)などの適当な緩衝液中に溶解又は懸濁したものを抗原液として使用する。抗原液は通常抗原物質を50~500 μg/mL程度含む濃度に調製すればよい。また、ペプチド単独だけでは抗原性が低い場合には、アルブミンやキーホールリンペットヘモシアニンなどの適当なキャリアータンパク質に架橋して用いることができる。
当該抗原で免疫感作する動物(被免疫動物)は、マウス、ラット、ハムスター、ウマ、ヤギ、ウサギなどが例示される。最終免疫より約3~5日後、該免疫動物から脾細胞を分離して抗体産生細胞を得た後に、ヒト化され医薬品とされる。
【0019】
(細胞傷害活性)
本発明の細胞傷害活性を向上したリンパ球とは、抗PD-1抗体及び/又は抗CTLA-4抗体により刺激を得ていないリンパ球(コントロールリンパ球)と比較して、ウイルスおよび腫瘍(癌細胞)に対して、高い細胞傷害性(認識して破壊する能力)を有する。なお、細胞傷害活性は、自体公知の方法(例えば、本実施例に記載の方法)により測定可能である。
本発明の細胞傷害活性を向上したリンパ球は、コントロールリンパ球と比較して、約1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5倍以上の細胞傷害活性を有する。
【0020】
(細胞傷害活性を向上させたリンパ球の培養方法)
本発明の「細胞傷害活性を向上させたリンパ球の培養方法」は、少なくとも以下の工程(1)~(3)を含む。なお、本発明の培養とは、細胞傷害活性を向上させることができ、リンパ球の分化、刺激、変異、誘導、維持、増殖、活性化等を意味するが、特に限定されない。
(1)癌患者由来のリンパ球を含む試料を1~20日間培養する工程。
(2)(1)の培養後において、抗PD-1抗体及び/又は抗CTLA-4抗体を該試料に添加する工程。
(3)(2)の該添加後30分~18時間において、該抗PD-1抗体及び/又は該抗CTLA-4抗体を該試料から除去する工程。
【0021】
本発明のリンパ球は、自体公知の方法で取得することができる(参照:Grimm EA et al., J Exp Med. 1982 1;155(6):1823-41.;Grimm EA et al., JExp Med. 1983 1;158(4):1356-61.)。リンパ球は、末梢血、リンパ節、胸腺、骨髄、腫瘍、胸水、腹水又は臍帯血から採取された単核球、より好ましくは末梢血単核球から誘導して取得する。例えば、末梢血から比重遠心法により、リンパ球を含む単核球を回収することができる。詳しくは、抗原や抗体(又は、それを含有する培養液等)を試料中のリンパ球に接触させる。本発明のリンパ球の培養方法では、好ましくは、抗CD3抗体、IL-2、サイトカイン、インシュリン、トランスフェリン等を試料に添加する。
加えて、抗PD-1抗体及び/又は抗CTLA-4抗体を試料から除去する方法は、自体公知の方法を利用することができるが、例えば、遠心除去、カラム除去、ビーズ法(免疫沈降法)等を例示することができる。
【0022】
リンパ球の培養時間(抗PD-1抗体及び/又は抗CTLA-4抗体添加前の培養時間)は、細胞種にもよるが、例えば、1~20日、1~14日、3~18日、5~16日、7日~14日、8~12日、9~11日、約10日から選択できる。
抗PD-1抗体及び/又は抗CTLA-4抗体の添加時間(リンパ球の培養後の時間)は、30分~18時間、30分~16時間、好ましくは1~17時間、さらに好ましくは2~16時間、最も好ましくは約3~16時間である。
抗PD-1抗体及び/又は抗CTLA-4抗体の添加濃度(試料に添加する濃度)は、細胞種にもよるが、例えば、0.1~20 mg/L、0.5~15 mg/L、1~10 mg/L、5~9 mg/L、3~7 mg/L、約5 mg/Lから選択できる。
【0023】
(細胞傷害活性を向上させたリンパ球を含む細胞免疫治療剤)
本発明の細胞免疫治療剤は、少なくとも、以下の工程(1)~(3)で得られたリンパ球を含む。
(1)癌患者由来のリンパ球を含む末梢血を1~20日間培養する工程、
(2)(1)の培養後において、抗PD-1抗体及び/又は抗CTLA-4抗体を該末梢血に添加する工程、及び
(3)(2)の該添加後30分~8時間において、該抗PD-1抗体及び/又は該抗CTLA-4抗体を該末梢血から除去する工程。
さらに、上記工程で得られたリンパ球(又は、リンパ球を含む末梢血)は、上記リンパ球を薬理上許容される溶媒に懸濁して、本発明の細胞免疫治療剤とすることができる。薬理上許容される溶媒は、特に限定されないが、例えば、ヒト血清アルブミンおよび生理食塩水の混合物等が挙げられる。
【0024】
本発明の細胞免疫治療剤の使用方法は、自体公知の方法を使用することができるが、例えば、前記処理後のリンパ球を含む末梢血を生理食塩水に溶かし、点滴で静脈から癌患者に投与する。
【0025】
本発明の細胞免疫治療剤は、癌腫は特定されないが、好ましくは、前立腺癌である。
本発明の細胞免疫治療剤は、単独でも投与することができるが、好ましくは自己免疫治療剤(自己免疫療法)と併用投与することが好ましい。
例えば、自己免疫療法の一つの例では、患者の血液(患者末梢血)を採取し増殖・活性化させ、2週間ほど無菌状態で15億~50億個に増殖させたNK細胞を、再び該患者の体内に戻すという治療法(NK細胞療法)である。
また、別方法では、増殖させたNK細胞(NK細胞療法)に加えて、増殖させたT細胞、維持したDC細胞(Dendritic cell:樹状細胞)などを、再び該患者の体内に戻すという治療法(NKM細胞療法)である。
NKM免疫細胞療法とは、NK細胞を主成分とする、T細胞・B細胞・樹状細胞の混合物を用いる免疫細胞療法である。細胞の採取方法として、無菌真空採血管を用いて、抹消血液50mLを採取する。加工の方法は、クリーンルーム内で血液から単離したMNC分画を、専用培地と共に抗CD3抗体を被覆したフラスコに入れ、37℃、5%CO2で数日間培養する。次に全量を専用培地の入った培養バッグ(液量1L)に移し、数日間培養する。培養後、細胞の入った培養液から、大型遠心機で細胞を回収し、生理食塩水等と共に点滴バッグに移し、患者に投与する。
【0026】
本発明の細胞免疫治療剤は、下記の実施例の結果から明らかなように、標準治療法と比較して、低濃度である1/20~1/100の使用量で優れた癌治療効果を得ることができる。
本発明の細胞免疫治療剤は、標準治療法と比較して、投与量が1/100~1/2、1/20~1/2、1/10~1/2の範囲で効果を得ることができる。
【0027】
(ドナーとレシーピエント)
本発明で使用するリンパ球は、自体公知の方法で取得したいかなるリンパ球も利用することができる。
なお、リンパ球の提供者(ドナー)とリンパ球の被提供者(レシーピエント)は、同種であることが好ましい。例えば、ドナーがヒトの場合には、レシーピエントはヒトである。
また、リンパ球の提供者とリンパ球の被提供者は、同一個体であることがより好ましい。例えば、ドナーが提供者Xの場合には、レシーピエントは提供者Xである。
【0028】
以下に示す実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0029】
<抗PD-1抗体の感作時間の検討>
以下の方法により、リンパ球の癌株細胞に対する細胞傷害における抗PD-1抗体の最適な感作時間を検討した。
【0030】
1.材料
機器:
TERASCAN{TERASCAN VPC(本体:Axiovert40CFL,CarlZeiss, ミネルヴァテック製)}
器具:
96 wellプレート{Cell CulturePlate, 96 well harf area (A/2), COSTAR 3696}
6 wellプレート{6 well cellculture cluster, CORNING, code 3516}
50 mL 遠心管{CorningCentriStar code 430791}
5 mL ピペット{COSTAR code 4051}
10 mL ピペット{COSTAR code 4101}
T75フラスコ{75cm2Tissue Culture Flask, VIOLAMO(アズワン)、code 2-8589-02, lot 2015001 0319A}
マイクロピペット{eppendorf Reference, Eppendorf, Serial Number R13961B}
チップ{1-200μL New Pipette Tip Yellow, QSP , Cat. No. 110, lot 14020100}
セラムチューブ{2 mL アウターセラムチューブホワイト、住友ベークライト、 cod MS-4603W}
試薬:
培地{OKM-100(コージンバイオ、code16014100、lot ODA070315)、Human Plasma 5%添加。}
HumanPlasma(lot091813C-1、56℃で30分間不活性化)
IL-2(Beijing Four RingsBio-Pharmaceutical Co., Ltd.)
カルセインAM{和光純薬工業、code 341-07901、セラムチューブに21 μLずつ分注し、-80℃で保存}
NP-40{NP-40代替品、和光純薬工業、code144-08311、lot SAM6240}
凍結保護材{バンバンカー、日本ジェネティクス、Cat.No. CS-02-001、lot B-0101316}
細胞:
ヒト培養リンパ球(lot 061616YS)
K562細胞{JCRB0019(ヒト慢性骨髄性白血病の癌細胞株、分化誘導型)、JCRB(国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所、細胞銀行)から入手したもの}
Jurkat(JKT-beta-del)細胞{JCRB0147(急性T細胞病性白血病の癌細胞株)、JCRBから入手したもの}
【0031】
2.細胞の培養
エフェクター(本発明の方法に用いるリンパ球)として、上記のヒト培養リンパ球を使用した。被験者(癌患者)から全血を採取して、MNC(単核球)分画を単離した。単離したMNC分画を、抗CD3抗体を被覆したT75フラスコ中で、IL-2を添加したOKM-100培地と共に、37℃、5%CO2、1週間培養した。1週間培養後、細胞密度3×106cell/mLに調製し、2 mLずつ6 wellに分注した。分注後、37℃、5%CO2でさらに3日間培養した。すなわち、合計10日間培養した後、細胞傷害性試験に使用した。
ターゲット(本発明の方法を適用する対象)として、癌細胞株を使用した。K562細胞とJurkat細胞を、常法に従い適宜凍結保存しながら、週2回継代を行い、1ヶ月間培養した。使用1週間前に解凍し、同条件で培養後細胞傷害性試験に使用した。
【0032】
3.細胞傷害性試験
上記の通り培養したターゲットとエフェクターについて、別々に調製し、96 wellプレートに添加した。96 wellプレートに、まずターゲットを添加し、次にエフェクターを添加した。エフェクター添加の0時間後および2~4時間後にTERASCANで発光量を測定した。
より詳しくは、ターゲットは、K562細胞とJurkat細胞を、細胞密度2×105 cells/mL、容量5 mLになるよう調製したものを50 mL遠心管に入れ、カルセイン AMを20 μL添加後、37℃、5%CO2、30分インキュベートした。1500r.p.m.、5分遠心し、上清を除去後、新しい培地5 mLに懸濁した。その懸濁液を96 wellの定められた場所に50 μL/wellずつ分注した。
エフェクターは、培養した6 wellプレートの2wellずつに、抗PD-1抗体5 mg/mLを測定19時間前(感作時間19時間のサンプル)又は3時間前(感作時間3時間のサンプル)に添加し、37℃、5%CO2でインキュベートした。なお、残りの2wellは、抗PD-1抗体5 mg/mLを測定直前に添加した(感作時間0時間のサンプル)。
インキュベート終了後、各ウェルのエフェクターを15 mL遠心管に移し、1,500 rpm、5 minの遠心により抗PD-1抗体を除去し、培地で細胞密度8×106 cells/mLに調製した。さらに2倍希釈を行い、エフェクター4×106 cells/mLの細胞懸濁液を調製し、ターゲット(K562細胞とJurkat細胞)の入った96 wellプレートのwellに100 μL/wellずつ分注した{E/T比(エフェクター-ターゲット比)40:1, n=2}。
またサンプルとは別途陽性コントロール(発光量最大遊離ウェル)として、ターゲット50μL+培地100μL+NP-40 2μLを3 well、陰性コントロール(培地のみ)として培地50μL+培地100μLを3 well、また別の陰性コントロールとして(発光量自然遊離ウェル)ターゲット50μL+培地100μLを4 well用意した。
全てのwellが準備されてから室温で30分静置した。
常法に従いTERASCANで96 wellの発光量をエフェクター添加の0時間目および2~4時間目に測定し、以下の計算式に従って、細胞傷害性を計算した。結果を表1および図1に示す。
【0033】
[細胞傷害性の計算式]
細胞傷害性の計算式は、以下の式1および式2により表すことができる。
試験群の細胞傷害性(CT)=(試験群の遊離量-試験群の自然遊離量)/(試験群の最大遊離量-試験群の自然遊離量)×100(%)・・・式1
ここで、
Exp0: 試験群の0時間時の測定値
Exp4: 試験群の2~4時間後の測定値
NC0: 発光量自然遊離ウェルの0時間時の測定値
NC4: 発光量自然遊離ウェルの2~4時間後の測定値
PC0: 発光量最大遊離ウェルの0時間時の測定値
PC4: 発光量最大遊離ウェルの2~4時間後の測定値
とすると、上記の式1において、試験群の遊離量=Exp0-Exp4、試験群の自然遊離量=(NC0-NC4)×Exp0/NC0、試験群の最大遊離量=(PC0-PC4)×Exp0/PC0である。
よって、上記の式1は、以下の式2のように表すこともできる。
CT(%)=[(Exp0-Exp4)-(NC0-NC4)× Exp0/NC0]/[(PC0-PC4)× Exp0/PC0)-(NC0-NC4)× Exp0/NC0]× 100・・・式2
【0034】
【表1】
【0035】
表1および図1に示す通り、抗PD-1抗体の感作時間0時間、3時間及び19時間を比較すると、3時間の細胞傷害性(cytotoxicity)が最も高かった。これにより、抗PD-1抗体添加により、リンパ球中に発現したPD-1に結合して、ターゲットである癌細胞で発現しているImmune checkpoint molecules(免疫チェックポイント分子)による免疫細胞に対する防御機能を止めることができることを確認した。また、抗PD-1抗体を3時間感作させることが最も有効であることを確認した。
【実施例2】
【0036】
<リンパ球と癌細胞比の検討>
以下の方法により、抗PD-1抗体を使用したリンパ球の癌株細胞に対する細胞傷害におけるリンパ球と癌細胞比の最適な割合を検討した。
【0037】
1.材料
以下の試薬および細胞を使用した以外は、実施例1と同様である。
試薬:
PBS(コージンバイオ(株)、code16008505、lot PBA131028)
細胞:
ヒト培養リンパ球(lot 062716SY)
【0038】
2.細胞の培養
エフェクターとして、lot 062716SY(以下SYとする)を使用した。被験者(癌患者)から全血を採取して、MNC分画を単離した。単離したMNC分画を、抗CD3抗体を被覆したT75フラスコ中で、IL-2を添加したOKM-100培地と共に37℃、5%CO2、5日間培養した。5日間培養後、凍結保護材で凍結保存した。使用5日前に解凍後、培地を入れたT75フラスコ(2個)で培養後、細胞傷害性試験に使用した。
ターゲットとして、癌細胞株を使用した。癌細胞株は、常法に従い適宜凍結保存しながら、1ヶ月間培養した。使用1週間前に解凍し、同条件で培養後細胞傷害性試験に使用した。
【0039】
3.細胞傷害性試験
上記の通り培養したターゲットとエフェクターについて、別々に調製し、96 wellプレートに添加した。96 wellプレートに、まずターゲットを添加し、次にエフェクターを添加した。エフェクター添加の0時間後および2~4時間後にTERASCANで発光量を測定した。
ターゲットは、実施例1と同様に調製し、96 wellの定められた場所に50 μL/wellずつ分注した。
エフェクターは、片方のT75フラスコにだけ、抗PD-1抗体5 mg/mL(抗PD-1抗体+)を培地の1/1000量添加し、もう一方には、PBSを同量添加し(抗PD-1抗体-)、それぞれ37℃、5%CO2、3時間インキュベートした(感作時間3時間)。遠心による抗体除去後、各培地で培養した細胞を4×106 cells/mL×1.4 mLに調製し、あらかじめ培地が0.7 mL入ったセラムチューブ3本を用いて、それぞれ2倍希釈により、全部で4段階(E/T比40:1、20:1、10:1および5:1)の細胞懸濁液を調製した。ターゲットK562とターゲットJurkatの入った96 wellのwellに100 μL/wellずつ分注した(n=3)。
またサンプルとは別途陽性コントロール(発光量最大遊離ウェル)として、ターゲット50 μL+培地100 μL+NP-40 2 μLを3 well、陰性コントロール(培地のみ)として培地50 μL+培地100 μLを3 well、また別の陰性コントロールとして(発光量自然遊離ウェル)ターゲット50 μL+培地100 μLを4 well用意した。
全てのwellが準備されてから室温で30分静置した。常法に従いTERASCANで96 wellの発光量を0及び2~4時間目に測定し、細胞傷害性を計算した。結果を表2~3および図2~3に示す。
【0040】
【表2】
【0041】
【表3】
【0042】
表2~3および図2~3に示す通り、K562(表2および図2)及びJurkat(表3および図3)の細胞傷害性において、抗PD-1抗体の添加効果を確認した。すなわち、両細胞株において、抗PD-1抗体の添加により、細胞傷害性が有意に上昇した。よって、本発明のリンパ球調製方法(抗PD-1抗体添加)は、従来のリンパ球調製方法(抗PD-1抗体未添加)よりもリンパ球の細胞傷害活性を高めたとことを確認した。
また、E/T比に関しては、K562及びJurkat共に、試験したE/T比5~40の全てが有効であった。よって、本発明のリンパ球調製方法において、E/T比は特に限定されないが、E/T比5~40が好ましいことを確認した。
【実施例3】
【0043】
<複数の癌患者由来のリンパ球での検討>
以下の方法により、抗PD-1抗体を使用した複数の癌患者由来のリンパ球の癌株細胞に対する細胞傷害効果を検討した。
【0044】
1.材料
以下のエフェクター細胞以外は、実施例2と同様である。
細胞:
ヒト培養リンパ球(lot 061616KE5E、lot 061616KK及びlot 061116LH)
【0045】
2.細胞の培養
エフェクターとして、異なる被験者(癌患者)由来の4種類のヒト培養リンパ球を使用した。被験者から全血を採取して、MNC分画を単離した。単離したMNC分画を、抗CD3抗体を被覆したT75フラスコ中で、IL-2を添加したOKM-100培地と共に37℃、5%CO2、5日間培養後した。5日間培養後、凍結保護材で凍結保存した。使用5日間前に解凍後、T75フラスコで培養した後、細胞傷害性試験に使用した。測定当日6 well に細胞密度2×106 cells/2 mL/wellで2 wellずつ分注し、一方のwellに抗PD-1抗体5 mg/mL(抗PD-1抗体+)を、もう一方にPB(抗PD-1抗体-)を、それぞれ 2 μL/wellを添加し、37℃、5%CO2、3時間インキュベートし、細胞傷害性を測定した。
ターゲットとして、癌細胞株を使用した。癌細胞株は、常法に従い適宜凍結保存しながら、1ヶ月間培養した。使用1週間前に解凍し、同条件で培養後、細胞傷害性試験に使用した。
【0046】
3.細胞傷害性試験
上記の通り培養したターゲットとエフェクターについて、別々に調製し、96 wellプレートに添加した。96 wellプレートに、まずターゲットを添加し、次にエフェクターを添加した。エフェクター添加の0時間後および2時間後にTERASCANで発光量を測定した。
ターゲットは、実施例1と同様に調製し、96 wellの定められた場所に50 μL/wellずつ分注した。
エフェクターは、測定当日6 well に細胞密度2×106 cells/2 mL/wellで2 wellずつ分注し、一方のwellに抗PD-1抗体 5 mg/mL(抗PD-1抗体+)を、もう一方にPBS(抗PD-1抗体-)を、それぞれ 2 μL/wellを添加し、37℃、5%CO2、3時間インキュベートした(感作時間3時間)。抗PD-1抗体を添加したwell(抗PD-1抗体+)とPBS(抗PD-1抗体-)を添加したwellの細胞を15 mL遠心管に回収した。1,500 r.p.m.、5 min遠心し、抗体を含む上清を除去後、細胞数が4×106 cellsになるように培地を添加し攪拌した。ターゲットK562とターゲットJurkatの入った96 wellのwellに100 μL/wellずつ分注した(n=3)。
またサンプルとは別途陽性コントロール(発光量最大遊離ウェル)として、ターゲット50 μL+培地100 μL+NP-40 2 μLを3 well、陰性コントロール(培地のみ)として培地50 μL+培地100 μLを3 well、また別の陰性コントロールとして(発光量自然遊離ウェル)ターゲット50 μL+培地100 μLを4 well用意した。
全てのwellが準備されてから室温で30分静置した。
常法に従いTERASCANで96 wellの発光量を0及び2時間目に測定し、E/T比40の細胞傷害性を計算した。結果を表4~5および図4~5に示す。
【0047】
【表4】
【0048】
【表5】
【0049】
表4~5および図4~5に示す通り、K562(表4および図4)およびJurkat(表5および図5)に対する細胞傷害性において、4種類の培養ヒトリンパ球は、それぞれ程度に差があるが、抗PD-1抗体の添加効果が見られた。すなわち、4種類の培養ヒトリンパ球について、抗PD-1抗体の添加により、細胞傷害性が有意に上昇した。
【0050】
以上より、本発明のリンパ球調製方法(抗PD-1抗体添加)は、癌患者の個体差がなく多く癌患者に有効であり、従来のリンパ球調製方法(抗PD-1抗体未添加)よりもリンパ球の細胞傷害活性を高めることができる。
【実施例4】
【0051】
(抗PD-1抗体で感作したリンパ球を含む細胞免疫治療剤を使用した前立腺癌の症例)
本実施例では、実施例1~3で得られた細胞傷害活性を向上させたリンパ球を含む細胞免疫治療剤を使用した。なお、癌患者由来のリンパ球を9日間培養した。次に、該培養後において、抗PD-1抗体を添加して、さらに16時間後において、該抗PD-1抗体を除去した。
【0052】
(症例)
患者:62歳,男性. 主訴:PSA 高値
既往歴:2003年5月20日、膀胱癌のため経尿道的膀胱腫瘍切除術(TUR-Bt)を実施した。以後再発のため、2012年8月26日まで7回同手術を繰り返した。さらに1年後のCT及び尿管鏡検査で左腎に腎盂癌を認め2013年8月6日、腎・尿管全摘術を実施した。
現病歴:2013年6月21日腎盂癌検査時に実施したときのPSA値は1.96ng/mlであった値が、2014年9月3日は3.46ng/ml、2015年3月11日は3.90ng/ml、同年9月9日には4.70ng/mlと高値になった(手術前は5.76ng/ml)。同年9月9日に一般検査(図6:手術前検査所見)、9月16日にMRI検査、骨シンチグラフィー検査、9月30日に直腸内触診を行い、MRI検査及び触診で異常所見がみられたため、PSAの結果と合わせて前立腺癌の可能性を疑い、経直腸的前立腺生検を施行した。骨シンチグラフィーでは、特に異常が認められなかった。病理所見で12本中10本に腺癌を認めた(Gleasonscore 4+3=7)。
2015年12月16日、前立腺癌の診断でロボット支援下前立腺摘出術を実施した。病理所見は、大きさ38g, 28mm、占拠部位 PZ、進展度 EPRO.RMO、組織診断Gleason score 4+4=8、TNM pT2c、リンパ節に腫瘍はなかった。再発予防のため、手術12日前及び23日後の2015年1月から自己免疫療法(自己リンパ球療法:NKM細胞療法)の6回投与を実施した。なお、自己免疫療法は、患者末梢血から分離したリンパ球を培養液にてCO2培養器内37℃で培養を行った。療法は、図7に記載のスケジュールで実施した。
患者の手術前2015年12月16日のPSA値は3.52ng/mlであった。しかし、手術後及び自己リンパ球3回投与後2016年2月22日の測定で0.18ng/mlまで減少していた。さらに3回の自己リンパ球投与を継続して行ったが、その間のPSAは同年4月11日が0.154、同年4月25日が0.13と低下する傾向がみられていた。
しかし、同年5月27日のPSA測定で0.167ng/ml若干の上昇がみられたため、協力機関の協力を得て、本発明の細胞免疫治療剤(Nivolumabをフラスコ内でリンパ球5×1010個あたり3mg、37℃で3時間感作後にPBS(又は生理食塩水)にて洗浄した培養自己リンパ球)を経静脈で投与を行った。その後のPSA値の経過を見ると同年6月6日で0.203ng/mlとなり、同年6月24日には0.231ng/mlと徐々に上昇の傾向が見られた。そこで、自己リンパ球へのNivolumab感作量を2倍量のリンパ球5×1010個あたり6mgへと増量した本発明の細胞免疫治療剤を経静脈にてさらに1回投与を行った。その結果、同年7月25日のPSA値は0.02ng/mlに激減し、同年8月16日は0.022ng/ml、同年9月30日は0.023ng/mlと3ヶ月間安定して低値を示していることを確認した。また有害事象の発現はみられなかった。
以上により、本発明の細胞免疫治療剤は、1相臨床試験で効果が認められなかった前立腺患者に対し、著効を得ることができた。また、本発明の細胞免疫治療剤は、リンパ球表面のPD-1と結合しなかったフリーの抗PD-1抗体は洗浄により含まれていない。よって、該フリーの抗PD-1抗体は患者体内に入ることがないため、抗PD-1抗体による副作用は防止されていると考えらえる。
【0053】
(本発明の細胞免疫治療剤の投与量)
本実施例で使用した細胞免疫治療剤に含まれている抗PD-1抗体量と標準治療での抗PD-1抗体量(参照:オプジーボの添付文書)を比較した。
(基本情報)
人の白血球数の基準値は、6,850個/μLと言われている。人のリンパ球数は、白血球数の38.5%と言われているので、約2,637個/μLとなる。また人の全血液含有率は8%と言われているので、体重60kgの人の血液は、約4.8L/人となる。そのため、60kgの人の全リンパ球数は、2,637個/μL×1000000×4.8L/人=12,657,600,000個/人(約127億個/人)となる。
(算出方法)
オプジーボの添付文書によれば、オプジーボ(ニボルマブ)は、1回2-3mg/kgで使用される。
仮に、2mgとして、体重60kgのヒトは2×60=120mg必要であり、そのため患者あたりの使用量は、1回120mgとなる。なお、3mgの場合には、1回180mgとなる。
一方、本法は、6mg/kgで使用するが、体重に対してではなく、培養液量1L、1回6mg/Lとなり、培養液の比重が1.02なので1回6mg/kgとなる。そのため、本発明の細胞免疫治療剤は、通常量の1/20~1/100の使用量である。なお、ヒトのリンパ球は、体重60kgのひとで110億個/人であり、投与される細胞は50億個なのでオプジーボ処理した細胞を全体の約1/2量投与することになる(終濃度約1/3)。
以上により、本発明の細胞免疫治療剤は、標準治療で使用される抗PD-1抗体量の1/20~1/30の使用量で効果を得ることができる。
【実施例5】
【0054】
(抗CTLA-4抗体で感作したリンパ球を含む細胞免疫治療剤を使用した前立腺癌の症例)
本実施例では、実施例4と同様に協力機関の協力を得て、抗CTLA-4抗体で感作したリンパ球を含む細胞免疫治療剤を使用した。詳しくは、実施例1~3を参考にして、癌患者由来のリンパ球を9日間培養した。次に、抗CTLA-4抗体を該培養後に添加して、さらに16時間後において、該抗CTLA-4抗体を除去して、抗CTLA-4抗体で感作したリンパ球を含む細胞免疫治療剤を得た。
【0055】
前立腺患者(前立腺摘出手術後の患者、63歳、男性)に、図8に記載のスケジュールで治療した。図8の結果から明らかなように、PSA は2016年7月から少しずつ上昇した。しかし、本発明の抗CTLA-4抗体で感作したリンパ球を含む細胞免疫治療剤を投与開始してからPSAは横ばいとなった。
以上により、本発明の抗CTLA-4抗体で感作したリンパ球を含む細胞免疫治療剤は、前立腺癌に効果があることを確認した。
【0056】
(本発明の細胞免疫治療剤の投与量)
本実施例で使用した細胞免疫治療剤に含まれている抗CTLA-4抗体量と標準治療での抗CTLA-4抗体量(参照:ヤーボイの添付文書)を比較した。ヤーボイの添付文書によれば、ヤーボイ投与量は、通常10mg/kg×患者体重である。体重が60kgの場合、添付文書による通常の投与量では10mg/kg×60kg=600mgになる。一方、本実施例で使用した細胞免疫治療剤は、実施例4と同様に、1回6mg/kgとなる。そのため通常量の1/100の使用量である。
以上により、本発明の細胞免疫治療剤は、標準治療で使用される抗CTLA-4抗体量の1/100の使用量で効果を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
細胞傷害活性を向上させたリンパ球及びリンパ球を含む細胞免疫治療剤を提供することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8