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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-20
(45)【発行日】2022-01-17
(54)【発明の名称】亜鉛二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/30 20060101AFI20220107BHJP
   H01M 12/08 20060101ALI20220107BHJP
   H01M 4/24 20060101ALI20220107BHJP
   H01M 4/32 20060101ALI20220107BHJP
   H01M 50/414 20210101ALI20220107BHJP
   H01M 50/434 20210101ALI20220107BHJP
   H01M 50/446 20210101ALI20220107BHJP
   H01M 50/46 20210101ALI20220107BHJP
【FI】
H01M10/30 Z
H01M12/08 K
H01M4/24 H
H01M4/32
H01M50/414
H01M50/434
H01M50/446
H01M50/46
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2018049809
(22)【出願日】2018-03-16
(65)【公開番号】P2019106351
(43)【公開日】2019-06-27
【審査請求日】2020-10-19
(31)【優先権主張番号】P 2017193633
(32)【優先日】2017-10-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017250934
(32)【優先日】2017-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113365
【弁理士】
【氏名又は名称】高村 雅晴
(74)【代理人】
【識別番号】100131842
【弁理士】
【氏名又は名称】加島 広基
(74)【代理人】
【識別番号】100202511
【弁理士】
【氏名又は名称】武石 卓
(72)【発明者】
【氏名】山田 直仁
(72)【発明者】
【氏名】鬼頭 賢信
【審査官】宮田 透
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-005493(JP,A)
【文献】特開昭60-037678(JP,A)
【文献】国際公開第2017/086278(WO,A1)
【文献】特開2018-026205(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00- 4/62
H01M 10/24-10/32
H01M 12/00-12/08
H01M 50/40-50/497
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質層及び正極集電体を含む正極板と、
亜鉛、酸化亜鉛、亜鉛合金及び亜鉛化合物からなる群から選択される少なくとも1種を含む負極活物質層、及び負極集電体を含む、負極板と、
前記正極板と前記負極板とを水酸化物イオン伝導可能に隔離する、層状複水酸化物(LDH)セパレータと、
電解液と、
を備えた亜鉛二次電池であって、
前記負極活物質層のサイズが前記正極活物質層のサイズよりも大きく、それにより前記負極活物質層がその外周に沿って前記正極活物質層と対向しない余剰外周領域を有しており、
前記亜鉛二次電池が、前記正極活物質層の端部における電気化学反応を抑制する正極反応抑制構造を前記正極活物質層の端部に隣接して有し、及び/又は前記負極活物質層の前記余剰外周領域における電気化学反応を抑制する負極反応抑制構造を前記負極活物質層の前記余剰外周領域に隣接して有し、それにより前記正極活物質層の端部及び/又は前記負極活物質層の前記余剰外周領域における電気化学的活性が局所的に低減されており、
前記亜鉛二次電池が前記正極反応抑制構造を有する場合、前記正極反応抑制構造が、電気化学的に不活性な材料で構成される不活性部材を備え、該不活性部材が前記正極活物質層の端部を覆っており、
前記亜鉛二次電池が前記負極反応抑制構造を有する場合、前記負極反応抑制構造が、電気化学的に不活性な材料で構成される不活性部材を備え、該不活性部材が前記負極活物質層の前記余剰外周領域を覆っており、
前記LDHセパレータがLDHと多孔質基材とを含み、前記LDHセパレータが水酸化物イオン伝導性及びガス不透過性を呈するように前記LDHが前記多孔質基材の孔を塞いでおり、前記LDHが前記多孔質基材の厚さ方向の全域にわたって組み込まれている、亜鉛二次電池。
【請求項2】
前記正極反応抑制構造及び前記負極反応抑制構造の両方を有し、それにより前記正極活物質層の端部及び前記負極活物質層の前記余剰外周領域の両方における電気化学的活性が局所的に低減されている、請求項1に記載の亜鉛二次電池。
【請求項3】
前記正極反応抑制構造の不活性部材が、前記正極板の端部に隣接する、前記負極板の前記余剰外周領域と対向する領域を塞ぐスペーサをなしている、請求項に記載の亜鉛二次電池。
【請求項4】
前記正極反応抑制構造の不活性部材を構成する電気化学的に不活性な材料が高分子材料である、請求項2又は3に記載の亜鉛二次電池。
【請求項5】
前記負極反応抑制構造の不活性部材を構成する電気化学的に不活性な材料が高分子材料である、請求項2~4のいずれか一項に記載の亜鉛二次電池。
【請求項6】
前記負極活物質層の全体が、前記LDHセパレータで覆われており、
前記負極反応抑制構造が、前記LDHセパレータと前記負極活物質層の端部とが直接的又は間接的に密着する構造を有しており、それにより前記LDHセパレータと前記負極活物質層の前記端部との間に電解液溜まりを許容する余剰空間が存在しない、請求項1~のいずれか一項に記載の亜鉛二次電池。
【請求項7】
前記亜鉛二次電池が、前記LDHセパレータと前記負極活物質層との間に保液部材をさらに備えており、該保液部材に前記電解液が含浸されている、請求項1~のいずれか一項に記載の亜鉛二次電池。
【請求項8】
前記保液部材が不織布である、請求項に記載の亜鉛二次電池。
【請求項9】
前記多孔質基材が高分子材料製である、請求項1~8のいずれか一項に記載の亜鉛二次電池。
【請求項10】
前記正極活物質層が水酸化ニッケル及び/又はオキシ水酸化ニッケルを含み、それにより前記亜鉛二次電池がニッケル亜鉛二次電池をなす、請求項1~のいずれか一項に記載の亜鉛二次電池。
【請求項11】
前記正極活物質層が空気極層であり、それにより前記亜鉛二次電池が空気亜鉛二次電池をなす、請求項1~のいずれか一項に記載の亜鉛二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜鉛二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ニッケル亜鉛二次電池、空気亜鉛二次電池等の亜鉛二次電池では、充電時に負極から金属亜鉛がデンドライト状に析出し、不織布等のセパレータの空隙を貫通して正極に到達し、その結果、短絡を引き起こすことが知られている。このような亜鉛デンドライトに起因する短絡は繰り返し充放電寿命の短縮を招く。
【0003】
上記問題に対処すべく、水酸化物イオンを選択的に透過させながら、亜鉛デンドライトの貫通を阻止する、層状複水酸化物(LDH)セパレータを備えた電池が提案されている。例えば、特許文献1(国際公開第2013/118561号)には、ニッケル亜鉛二次電池においてLDHセパレータを正極及び負極間に設けることが開示されている。また、特許文献2(国際公開第2016/076047号)には、樹脂製外枠に嵌合又は接合されたLDHセパレータを備えたセパレータ構造体が開示されており、LDHセパレータがガス不透過性及び/又は水不透過性を有する程の高い緻密性を有することが開示されている。また、この文献にはLDHセパレータが多孔質基材と複合化されうることも開示されている。さらに、特許文献3(国際公開第2016/067884号)には多孔質基材の表面にLDH緻密膜を形成して複合材料(LDHセパレータ)を得るための様々な方法が開示されている。この方法は、多孔質基材にLDHの結晶成長の起点を与えうる起点物質を均一に付着させ、原料水溶液中で多孔質基材に水熱処理を施してLDH緻密膜を多孔質基材の表面に形成させる工程を含むものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2013/118561号
【文献】国際公開第2016/076047号
【文献】国際公開第2016/067884号
【発明の概要】
【0005】
上述したようなLDHセパレータを用いてニッケル亜鉛電池等の亜鉛二次電池を構成することで、亜鉛デンドライトによる短絡等を防止できる。特に、LDHセパレータで正極と負極を確実に隔離することで、上記効果を最大限に発揮させることができる。しかしながら、充放電を繰り返していくにつれて、負極形状が望ましくない形状及びサイズに変化していくことが判明した。例えば、図2に示されるように、当初正方形であった負極活物質層17(ZnO層)が充放電を繰り返すにつれて中央に向かって不均一に縮小していく、すなわち負極活物質層17(ZnO層)の外周部分が不均一に浸食されて失われていく現象が見られる。かかる負極活物質層17の形状変化は、正極板と対向する負極の有効領域の減少につながり、その結果、電池抵抗の上昇や電池容量の低下を招く。
【0006】
本発明者らは、今般、LDHセパレータを備えた亜鉛二次電池において、正極活物質層の端部における電気化学反応を抑制する正極反応抑制構造、及び/又は負極活物質層の正極活物質層と対向しない余剰外周領域における電気化学反応を抑制する負極反応抑制構造を設けることで、充放電の繰り返しに伴う負極板の形状変化を防止できるとの知見を得た。
【0007】
したがって、本発明の目的は、LDHセパレータを備えた亜鉛デンドライト伸展を防止可能な亜鉛二次電池において、充放電の繰り返しに伴う負極板の形状変化を防止することにある。
【0008】
本発明の一態様によれば、
正極活物質層及び正極集電体を含む正極板と、
亜鉛、酸化亜鉛、亜鉛合金及び亜鉛化合物からなる群から選択される少なくとも1種を含む負極活物質層、及び負極集電体を含む、負極板と、
前記正極板と前記負極板とを水酸化物イオン伝導可能に隔離する、層状複水酸化物(LDH)セパレータと、
電解液と、
を備えた亜鉛二次電池であって、
前記負極活物質層のサイズが前記正極活物質層のサイズよりも大きく、それにより前記負極活物質層がその外周に沿って前記正極活物質層と対向しない余剰外周領域を有しており、
前記亜鉛二次電池が、前記正極活物質層の端部における電気化学反応を抑制する正極反応抑制構造を有し、及び/又は前記負極活物質層の前記余剰外周領域における電気化学反応を抑制する負極反応抑制構造を有し、それにより前記正極活物質層の端部及び/又は前記負極活物質層の前記余剰外周領域における電気化学的活性が局所的に低減されている、亜鉛二次電池が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の亜鉛二次電池の内部構造の一例を示す模式断面図である。
図2】亜鉛二次電池における負極板の形状変化のメカニズムを説明するための図であり、上段には負極板の斜視図が示される一方、下段には負極板の断面図がLDHセパレータとともに示される。
図3】LDHセパレータ、正極反応抑制構造及び負極反応抑制構造を有しない亜鉛二次電池における電極端部で起こると考えられる現象を説明するための概念図である。
図4】本発明の亜鉛二次電池において電極端部で起こると考えられる現象を説明するための概念図である。
図5A】正極板に保液部材とともに正極反応抑制構造を設ける工程流れ図であり、前半の工程を示す図である。上段には上面図が示され、下段にはそのA-A’線断面図が示される。
図5B】正極板に保液部材とともに正極反応抑制構造を設ける工程流れ図であり、図5Aに続く後半の工程を示す図である。上段には上面図が示され、下段にはそのB-B’線断面図が示される。
図6】例1で用いた電気化学測定系を示す模式断面図である。
図7A】例1の緻密性判定試験で使用された測定用密閉容器の分解斜視図である。
図7B】例1の緻密性判定試験で使用された測定系の模式断面図である。
図8A】例1で使用されたHe透過度測定系の一例を示す概念図である。
図8B図8Aに示される測定系に用いられる試料ホルダ及びその周辺構成の模式断面図である。
図9】例1において作製されたLDHセパレータの断面微構造を示すSEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
亜鉛二次電池
本発明の亜鉛二次電池は、亜鉛を負極として用い、かつ、アルカリ電解液(典型的にはアルカリ金属水酸化物水溶液)を用いた二次電池であれば特に限定されない。したがって、ニッケル亜鉛二次電池、酸化銀亜鉛二次電池、酸化マンガン亜鉛二次電池、空気亜鉛二次電池、その他各種のアルカリ亜鉛二次電池であることができる。例えば、正極が水酸化ニッケル及び/又はオキシ水酸化ニッケルを含み、それにより亜鉛二次電池がニッケル亜鉛二次電池をなすのが好ましい。あるいは、正極が空気極であり、それにより亜鉛二次電池が空気亜鉛二次電池をなしてもよい。
【0011】
図1に本発明の亜鉛二次電池が模式的に示される。図1に示される亜鉛二次電池は、電池要素11を備えており、電池要素11は、正極板12、負極板16、層状複水酸化物(LDH)セパレータ22、及び電解液(図示せず)を備える。正極板12は、正極活物質層13及び正極集電体14を含む。負極板16は、負極活物質層17及び負極集電体18を含み、負極活物質層17は、亜鉛、酸化亜鉛、亜鉛合金及び亜鉛化合物からなる群から選択される少なくとも1種を含む。LDHセパレータ22は、正極板12と負極板16とを水酸化物イオン伝導可能に隔離する。なお、本明細書において「LDHセパレータ」は、LDHを含むセパレータであって、専らLDHの水酸化物イオン伝導性を利用して水酸化物イオンを選択的に通すものとして定義される。負極活物質層17のサイズは正極活物質層13のサイズよりも大きく、それにより負極活物質層17がその外周に沿って正極活物質層13と対向しない余剰外周領域を有している。そして、亜鉛二次電池は、正極活物質層13の端部における電気化学反応を抑制する正極反応抑制構造15を有し、及び/又は負極活物質層17の余剰外周領域における電気化学反応を抑制する負極反応抑制構造19を有する。こうして正極活物質層13の端部及び/又は負極活物質層17の余剰外周領域における電気化学的活性が局所的に低減されている。かかる反応抑制構造を採用することで、充放電の繰り返しに伴う負極板16(特に負極活物質層17)の形状変化を防止することができ、その結果、負極板の形状変化に起因する電池抵抗の上昇や電池容量の低下を効果的に防止することができる。また、本発明の亜鉛二次電池はLDHセパレータ22を備えることで、亜鉛デンドライト伸展を阻止し、それにより正負極間の短絡を防止することも可能である。
【0012】
前述のとおり、従来の亜鉛二次電池においては、充放電を繰り返していくにつれて、負極板の形状が次第に変化していくという問題がある。かかる負極板の形状変化は、正極板と対向する負極の有効領域の減少につながり、その結果、電池抵抗の上昇や電池容量の低下を招く。負極板の形状変化の主たる要因の一つとしては、図2に示されるような負極板16端部における余分な電解液21の存在が考えられる。すなわち、図2の「初期」に示されるように、負極活物質層17(ZnO層)の端部の周りには余分な電解液21の存在を許容するデッドスペースDSが通常存在する。なお、負極活物質層17は不織布等の保液部材20で覆われていてもよいが、保液部材20は電解液21を通すことから、保液部材20と負極活物質層17との間に形成される空間も余分な電解液21の存在を許容し、デッドスペースDSになるといえる。そして、かかるデッドスペースDSにおいては、余分な電解液21があるため、図2の下段の断面図に示されるように、電解液21の構成成分である亜鉛酸イオンZn(OH) 2-が過剰に存在することになる。そして、図2の「充電」(左から2番目)に示されるように、以下の充電反応:
‐ ZnO+HO+2OH → Zn(OH) 2-
‐ Zn(OH) 2-+2e → Zn+4OH
に従い充電が行われる。このとき、デッドスペースDSの余分な電解液21に起因して負極活物質層17(ZnO層)の端部に金属Znが集中的に析出し、集中析出した金属Zn(金属であるが故に集電体のように機能しうる)に更に電子が集中して、充電反応の不均一性が増大してしまう。この点、理想的にはZnOの骨格を維持したままその内部でZnが析出するのが望ましいが、負極端部ではそのようにはならない。次いで、図2の「放電」に示されるように、以下の放電反応:
‐ Zn+4OH → Zn(OH) 2-+2e
‐ Zn(OH) 2- → ZnO+HO+2OH
に従い放電が行われる。このとき、集中析出した金属Znに由来するZn(OH) 2-が過飽和になってZnO核上にZnOとして析出する。この析出反応が遅いため、Zn(OH) 2-が拡散しやすく、その結果、ZnO核が豊富な負極活物質層17の中央部分でZnOが析出する。このような充電及び放電を多数回繰り返していくと、図2の右端の「充電」に示されるように、当初正方形であった負極活物質層17(ZnO層)が中央に向かって(図中写真の矢印の方向に)不均一に縮小していく、すなわち負極活物質層17の外周部分が不均一に浸食されて失われていく。要するに、充放電の繰り返しに伴う負極板16の形状変化は、充電反応時にデッドスペースDSの余分な電解液21に起因して負極活物質層17(ZnO層)の端部で金属Znが集中的に析出し、放電反応時にその金属ZnがZn(OH) 2-となって拡散して負極中央部でZnOとして析出することにより引き起こされるものと考えられる。
【0013】
また、上述のような負極板16の形状変化を促進する他の要因として、図3に示されるように、正極活物質層13と負極活物質層17との端部位置のギャップも考えられる。すなわち、亜鉛二次電池においては、正極活物質層13端部への電流集中に起因する負極活物質層17端部での反応析出物の増大を抑制するため、負極活物質層17のサイズを正極活物質層13のサイズよりも若干大きく設計することが望まれるが、それにより負極活物質層17がその外周に沿って正極活物質層13と対向しない余剰外周領域ERが形成されることになる。そして、図3に示されるように、負極活物質層17の余剰外周領域ER(負極活物質層17の層面のみならず端面も含む)から正極活物質層13の端部に向かって大量のOHイオンが回り込むことになるものと考えられる。このように、負極活物質層17の余剰外周領域ER(負極活物質層17の層面のみならず端面も含む)における反応が局所的に促進されることも、負極板の形状変化を助長する一因と考えられる。
【0014】
以上の考察を踏まえると、充放電の繰り返しに伴う負極板16(特に負極活物質層17)の形状変化を防止するためには、正極活物質層13の端部における電気化学反応を抑制する正極反応抑制構造15を設けるか、又は負極活物質層17の余剰外周領域ERにおける電気化学反応を抑制する負極反応抑制構造19を設けることが効果的であるといえる。正極反応抑制構造15は、正極活物質層13の端部における電気化学反応を選択的かつ局所的に抑制可能な構成であれば特に限定されず、いかなる構造ないし材質であってもよい。同様に、負極反応抑制構造19は、負極活物質層17の余剰外周領域ERにおける電気化学反応を選択的かつ局所的に抑制可能な構成であれば特に限定されず、いかなる構造ないし材質であってもよい。こうすることで、正極活物質層13の端部及び/又は負極活物質層17の余剰外周領域ERにおける電気化学的活性が局所的に低減されるため、負極板16(特に負極活物質層17)の形状変化をもたらす上述した要因(すなわち電極端部ないしその近傍における過剰な電気化学反応)を抑制することができ、結果として充放電の繰り返しに伴う負極板の形状変化を防止することができる。この効果をより効果的に実現するためには、亜鉛二次電池10は、正極反応抑制構造15及び負極反応抑制構造19の両方を有し、それにより正極活物質層13の端部及び負極活物質層17の余剰外周領域ERの両方における電気化学的活性が局所的に低減されているのがより好ましい。
【0015】
本発明の好ましい態様によれば、図1及び4に示されるように、亜鉛二次電池が、正極活物質層13の端部に隣接して正極反応抑制構造15を有している。この場合、正極反応抑制構造15が、電気化学的に不活性な材料で構成される不活性部材を備え、この不活性部材が正極活物質層13の端部を覆っているのが好ましい。不活性部材の形状は特に限定されず、膜状であってもよいし、バルク状であってもよい。例えば、不活性部材が、正極板12の端部に隣接する、負極板16の余剰外周領域ERと対向する領域を塞ぐスペーサをなしているのが特に好ましい。こうすることで、図4で示されるように正極活物質層13の端部における充放電反応の場が無くなる(すなわち不活性化する)ため、負極活物質層17の余剰外周領域ER(負極活物質層17の端面を含む)から正極活物質層13の端部に向かってOHイオンが回り込む現象(図3を参照)を効果的に防ぐことができる。その結果、充放電の繰り返しに伴う負極板16(特に負極活物質層17)の形状変化を効果的に防止することができる。正極反応抑制構造15に用いられる電気化学的に不活性な材料は高分子材料であるのが好ましく、そのような高分子材料の好ましい例としては、ポリプロピレン、ポリオレフィン、ポリエチレン、エポキシ等の、アルカリ性溶液中で耐久性を呈する樹脂が挙げられる。図5A及び5Bに、正極板12に保液部材20とともに正極反応抑制構造15を設ける方法の一例が示される。この方法においては、図5Aに示されるように、トレイ状の型23の矩形状窪みに不織布等の保液部材20を載置し、保液部材20上にそれよりも小さいサイズの正極板12を外周3辺に沿ってマージンを空けるように載置する。そして、図5Bに示されるように、正極板12の外周3辺に沿ったマージン(保液部材20の露出部分)にホットメルト接着剤を充填して正極反応抑制構造15としてのスペーサを形成し、その正極反応抑制構造15及び正極板12を覆うように不織布等の保液部材20を載置する。保液部材20上に押し板25を載せて加圧して、正極構造体全体の形を均一な厚さの平板状に整えた後、型23と押し板25を取り外して、正極板12、保液部材20及び正極反応抑制構造15を備えた正極構造体を得る。したがって、型23及び押し板25はホットメルト接着剤から取り外しやすい材質で構成すればよく、好ましくはテフロン(登録商標)製である。なお、接着剤としてはホットメルト接着剤に限定されるものではなく、多種多様な接着剤が使用可能である。
【0016】
あるいは、本発明の別の好ましい態様として、亜鉛二次電池10が、負極活物質層17の余剰外周領域ERに隣接して負極反応抑制構造を有していてもよい。この場合、負極反応抑制構造が、電気化学的に不活性な材料で構成される不活性部材を備え、この不活性部材が負極活物質層の余剰外周領域ERを覆っているのが好ましい。不活性部材の形状は特に限定されず、膜状であってもよいし、バルク状であってもよい。こうすることで、負極活物質層17の余剰外周領域ERにおける充放電反応の場が無くなる(すなわち不活性化する)ため、負極活物質層17の余剰外周領域ER(負極活物質層17の端面を含む)から正極活物質層13の端部に向かってOHイオンが回り込む現象(図3を参照)を効果的に防ぐことができる。その結果、充放電の繰り返しに伴う負極板16(特に負極活物質層17)の形状変化を効果的に防止することができる。負極反応抑制構造に用いられる電気化学的に不活性な材料は高分子材料であるのが好ましく、そのような高分子材料の好ましい例としては、ポリプロピレン、ポリオレフィン、ポリエチレン、エポキシ等の、アルカリ性溶液中で耐久性を呈する樹脂が挙げられる。
【0017】
以下、本発明の亜鉛二次電池の電池要素11について説明する。図1に示されるように、電池要素11は、正極板12、負極板16、LDHセパレータ22、及び電解液(図示せず)を含む。
【0018】
正極板12は、正極活物質層13を含む。正極活物質層13は、亜鉛二次電池の種類に応じて公知の正極材料を適宜選択すればよく、特に限定されない。例えば、ニッケル亜鉛二次電池の場合には、水酸化ニッケル及び/又はオキシ水酸化ニッケルを含む正極を用いればよい。あるいは、空気亜鉛二次電池の場合には、空気極を正極として用いればよい。正極板12は正極集電体(図示せず)をさらに含む。正極集電体は正極活物質層13の1辺から延出する正極集電タブ14aを有するのが好ましい。正極集電体の好ましい例としては、発泡ニッケル板等のニッケル製多孔質基板が挙げられる。この場合、例えば、ニッケル製多孔質基板上に水酸化ニッケル等の電極活物質を含むペーストを均一に塗布して乾燥させることにより正極/正極集電体からなる正極板を好ましく作製することができる。その際、乾燥後の正極板(すなわち正極/正極集電体)にプレス処理を施して、電極活物質の脱落防止や電極密度の向上を図ることも好ましい。なお、図1に示される正極板12は正極集電体(例えば発泡ニッケル)を含むものであるが図示されていない。これは、正極集電体が正極活物質層13と渾然一体化しているため、正極集電体を個別に描出できないためである。亜鉛二次電池10は、正極集電タブ14aの先端に接続する正極集電板をさらに備えるのが好ましく、より好ましくは複数枚の正極集電タブ14aが1つの正極集電板に接続される。こうすることで簡素な構成でスペース効率良く集電を行えるとともに、正極端子への接続もしやすくなる。また、正極集電板自体を正極端子として用いてもよい。
【0019】
負極板16は負極活物質層17を含む。負極活物質層17は、亜鉛、酸化亜鉛、亜鉛合金及び亜鉛化合物からなる群から選択される少なくとも1種を含む。すなわち、亜鉛は、負極に適した電気化学的活性を有するものであれば、亜鉛金属、亜鉛化合物及び亜鉛合金のいずれの形態で含まれていてもよい。負極材料の好ましい例としては、酸化亜鉛、亜鉛金属、亜鉛酸カルシウム等が挙げられるが、亜鉛金属及び酸化亜鉛の混合物がより好ましい。負極活物質層17はゲル状に構成してもよいし、電解液と混合して負極合材としてもよい。例えば、負極活物質に電解液及び増粘剤を添加することにより容易にゲル化した負極を得ることができる。増粘剤の例としては、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸塩、CMC、アルギン酸等が挙げられるが、ポリアクリル酸が強アルカリに対する耐薬品性に優れているため好ましい。
【0020】
亜鉛合金として、無汞化亜鉛合金として知られている水銀及び鉛を含まない亜鉛合金を用いることができる。例えば、インジウムを0.01~0.1質量%、ビスマスを0.005~0.02質量%、アルミニウムを0.0035~0.015質量%を含む亜鉛合金が水素ガス発生の抑制効果があるので好ましい。とりわけ、インジウムやビスマスは放電性能を向上させる点で有利である。亜鉛合金の負極への使用は、アルカリ性電解液中での自己溶解速度を遅くすることで、水素ガス発生を抑制して安全性を向上できる。
【0021】
負極材料の形状は特に限定されないが、粉末状とすることが好ましく、それにより表面積が増大して大電流放電に対応可能となる。好ましい負極材料の平均粒径は、亜鉛合金の場合、短径で3~100μmの範囲であり、この範囲内であると表面積が大きいことから大電流放電への対応に適するとともに、電解液及びゲル化剤と均一に混合しやすく、電池組み立て時の取り扱い性も良い。
【0022】
負極板16は負極集電体18をさらに含む。負極集電体18は負極活物質層17の1辺から延出する負極集電タブ18aを有するのが好ましい。負極集電タブ18aは、図1に示されるように、負極活物質層17の正極集電タブ14aと反対側の1辺からLDHセパレータ22の端部を超えて延出するものであることができ、この場合、電池要素11が正極集電タブ14a及び負極集電タブ18aを介して互いに反対の側から集電可能となる。あるいは、負極集電タブ18aは、負極活物質層17の正極集電タブ14aと同じ側の1辺の異なる位置からLDHセパレータ22の端部を超えて延出するものであってもよく、この場合、電池要素11が正極集電タブ14a及び負極集電タブ18aを介して同じ側から集電可能となる。いずれにしても、亜鉛二次電池10は、負極集電タブ18aの先端に接続する負極集電板をさらに備えるのが好ましく、より好ましくは複数枚の負極集電タブ18aが1つの負極集電板に接続される。こうすることで簡素な構成でスペース効率良く集電を行えるとともに、負極端子への接続もしやすくなる。また、負極集電板自体を負極端子として用いてもよい。典型的には、負極集電タブ18aの先端部分がLDHセパレータ22及び(存在する場合には)保液部材20で覆われない露出部分をなす。これにより露出部分を介して負極集電体18(特に負極集電タブ18a)を負極集電板及び/又は負極端子に望ましく接続することができる。
【0023】
負極集電体18の好ましい例としては、銅箔、銅エキスパンドメタル、銅パンチングメタルが挙げられるが、より好ましくは銅エキスパンドメタルである。この場合、例えば、銅エキスパンドメタル上に、酸化亜鉛粉末及び/又は亜鉛粉末、並びに所望によりバインダー(例えばポリテトラフルオロエチレン粒子)を含んでなる混合物を塗布して負極/負極集電体からなる負極板を好ましく作製することができる。その際、乾燥後の負極板(すなわち負極/負極集電体)にプレス処理を施して、電極活物質の脱落防止や電極密度の向上を図ることも好ましい。
【0024】
好ましくは、亜鉛二次電池10は、LDHセパレータ22と負極活物質層17との間に保液部材20をさらに備えており、保液部材20に電解液が含浸されている。より好ましくは、負極活物質層17の全体を覆う保液部材20が設けられる。こうすることで、負極活物質層17とLDHセパレータ22との間に電解液を万遍なく存在させることができ、負極活物質層17とLDHセパレータ22との間における水酸化物イオンの授受を効率良く行うことができる。保液部材20は電解液を保持可能な部材であれば特に限定されないが、シート状の部材であるのが好ましい。保液部材の好ましい例としては不織布、吸水性樹脂、保液性樹脂、多孔シート、各種スペーサが挙げられるが、特に好ましくは、低コストで性能の良い負極構造体を作製できる点で不織布である。保液部材20は0.01~0.20mmの厚さを有するのが好ましく、より好ましくは0.02~0.20mmであり、さらに好ましくは0.02~0.15mmであり、特に好ましくは0.02~0.10mmであり、最も好ましくは0.02~0.06mmである。上記範囲内の厚さであると、負極構造体の全体サイズを無駄無くコンパクトに抑えながら、保液部材20内に十分な量の電解液を保持させることができる。
【0025】
上述したように、負極活物質層17の全体がLDHセパレータ22で覆われているのが好ましい。すなわち、従来の亜鉛二次電池におけるLDHセパレータによる正極と負極の隔離は、LDHセパレータと電池容器とを液密性を確保するように樹脂枠や接着剤等を用いて巧妙かつ入念に封止接合することにより行われており、電池構成や製造工程が複雑化しやすかった。このような電池構成や製造工程の複雑化は積層電池を構成する場合にはとりわけ顕著なものとなりうる。この点、負極活物質層17の全体がLDHセパレータ22で覆われる場合、LDHセパレータ22で覆われた負極板16自体で亜鉛デンドライトによる短絡等を防止できる機能を備えている。したがって、正極板12と負極板16(これはLDHセパレータ22で覆われている)を積層するだけでLDHセパレータによる正極板12と負極板16の隔離を実現することができる。このように、負極活物質層17の全体を(必要に応じて保液部材20を介して)LDHセパレータ22で覆うことにより、LDHセパレータ22と電池容器との煩雑な封止接合を不要にして、亜鉛デンドライト伸展を防止可能な亜鉛二次電池(特にその積層電池)を極めて簡便にかつ高い生産性で作製することが可能となる。
【0026】
負極活物質層17の全体がLDHセパレータ22で覆われている場合、負極反応抑制構造19をLDHセパレータ22自体で構成することができる。すなわち、負極反応抑制構造19が、LDHセパレータ22と負極活物質層17の端部とが直接的又は間接的に密着する構造を有しており、それによりLDHセパレータ22と負極活物質層17の端部との間に電解液溜まりを許容する余剰空間が存在しないのが好ましい。すなわち、図2を用いて説明したように、LDHセパレータ22と負極活物質層17の端部との間に余分な電解液21が存在すると、充電反応時に負極活物質層17(ZnO層)の端部で金属Znが集中的に析出し、放電反応時にその金属ZnがZn(OH) 2-となって拡散して負極中央部でZnOとして析出することで、負極板16の形状変化を引き起こしうる。そこで、電解液溜まりを許容する余剰空間を無くすことで充放電の繰り返しに伴う負極板16(特に負極活物質層17)の形状変化を効果的に防止することができる。なお、LDHセパレータ22と負極活物質層17の端部との間には、電解液溜まりを許容する余剰空間を与えないような形で保液部材30が存在していてもよい。また、LDHセパレータ22と負極活物質層17の端部との間に樹脂を充填することで電解液溜まりを許容する余剰空間を無くしてもよい。
【0027】
LDHセパレータ22は、LDHと多孔質基材とを含む。前述のとおり、LDHセパレータ22が水酸化物イオン伝導性及びガス不透過性を呈するように(それ故水酸化物イオン伝導性を呈するLDHセパレータとして機能するように)LDHが多孔質基材の孔を塞いでいる。多孔質基材は高分子材料製であるのが好ましく、LDHは高分子材料製多孔質基材の厚さ方向の全域にわたって組み込まれているのが特に好ましい。LDHセパレータ22の各種好ましい態様については後に詳述するものとする。
【0028】
負極活物質層17の全体がLDHセパレータ22で覆われる場合、LDHセパレータ22は図1に示されるように負極活物質層17を包み込むようにその外縁の少なくとも1辺(好ましくは少なくとも2辺)が閉じられた構造となる。この場合、LDHセパレータ22の外縁の閉じられた辺Cが、LDHセパレータ22の折り曲げ及び/又はLDHセパレータ22同士の封止により実現されているのが好ましい。封止手法の好ましい例としては、接着剤、熱溶着、超音波溶着、接着テープ、封止テープ、及びそれらの組合せが挙げられる。特に、高分子材料製の多孔質基材を含むLDHセパレータ22はフレキシブル性を有するが故に折り曲げやすいとの利点を有するため、LDHセパレータ22を長尺状に形成してそれを折り曲げることで、外縁の1辺Cが閉じた状態を形成するのが好ましい。熱溶着及び超音波溶着は市販のヒートシーラー等を用いて行えばよいが、LDHセパレータ22同士の封止の場合、外周部分を構成するLDHセパレータ22の間に保液部材20の外周部分を挟み込むようにして熱溶着及び超音波溶着を行うのが、より効果的な封止を行える点で好ましい。一方、接着剤、接着テープ及び封止テープは市販品を用いればよいが、アルカリ電解液中での劣化を防ぐため、耐アルカリ性を有する樹脂を含むものが好ましい。かかる観点から、好ましい接着剤の例としては、エポキシ樹脂系接着剤、天然樹脂系接着剤、変性オレフィン樹脂系接着剤、及び変成シリコーン樹脂系接着剤が挙げられ、中でもエポキシ樹脂系接着剤が耐アルカリ性に特に優れる点でより好ましい。エポキシ樹脂系接着剤の製品例としては、エポキシ接着剤Hysol(登録商標)(Henkel製)が挙げられる。
【0029】
変形態様として、負極活物質層17の全体をLDHセパレータ22で覆う代わりに、正極活物質層13の全体をLDHセパレータ22で覆う構成としてもよい。この変形態様においては、LDHセパレータ22で覆われた正極板12自体で亜鉛デンドライトによる短絡等を防止できる機能を備えることができる。この変形態様の場合、亜鉛二次電池10は、LDHセパレータ22と正極活物質層13との間に保液部材20をさらに備えるのが好ましく、保液部材20に電解液が含浸されているのが好ましい。
【0030】
電解液はアルカリ金属水酸化物水溶液を含むのが好ましい。電解液は図示していないが、これは正極板12(特に正極活物質層13)及び負極板16(特に負極活物質層17)の全体に行き渡っているためである。アルカリ金属水酸化物の例としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化アンモニウム等が挙げられるが、水酸化カリウムがより好ましい。亜鉛及び/又は酸化亜鉛の自己溶解を抑制するために、電解液中に酸化亜鉛、水酸化亜鉛等の亜鉛化合物を添加してもよい。前述のとおり、電解液は正極活物質及び/又は負極活物質と混合させて正極合材及び/又は負極合材の形態で存在させてもよい。また、電解液の漏洩を防止するために電解液をゲル化してもよい。ゲル化剤としては電解液の溶媒を吸収して膨潤するようなポリマーを用いるのが望ましく、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミドなどのポリマーやデンプンが用いられる。
【0031】
亜鉛二次電池10は、電池要素11を収容するケース(図示せず)をさらに備えうる。また、電池要素11の数が2以上であり、該2以上の電池要素11がケースに一緒に収容されてもよい。これはいわゆる組電池ないし積層電池の構成であり、高電圧や大電流が得られる点で有利である。電池要素11を収容するケースは樹脂製であるのが好ましい。ケースを構成する樹脂は水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物に対する耐性を有する樹脂であるのが好ましく、より好ましくはポリオレフィン樹脂、ABS樹脂、又は変性ポリフェニレンエーテルであり、さらに好ましくはABS樹脂又は変性ポリフェニレンエーテルである。また、2以上のケースが配列されたケース群を外枠内に収容して、電池モジュールの構成としてもよい。
【0032】
LDHセパレータ
LDHセパレータ22は層状複水酸化物(LDH)を含むセパレータであり、亜鉛二次電池に組み込まれた場合に、正極板と負極板とを水酸化物イオン伝導可能に隔離するものである。すなわち、LDHセパレータ22は水酸化物イオン伝導セパレータとしての機能を呈する。好ましいLDHセパレータ22はガス不透過性及び/又は水不透過性を有する。換言すれば、LDHセパレータ22はガス不透過性及び/又は水不透過性を有するほどに緻密化されているのが好ましい。なお、本明細書において「ガス不透過性を有する」とは、特許文献2及び3に記載されるように、水中で測定対象物の一面側にヘリウムガスを0.5atmの差圧で接触させても他面側からヘリウムガスに起因する泡の発生がみられないことを意味する。また、本明細書において「水不透過性を有する」とは、特許文献2及び3に記載されるように、測定対象物の一面側に接触した水が他面側に透過しないことを意味する。すなわち、LDHセパレータ22がガス不透過性及び/又は水不透過性を有するということは、LDHセパレータ22が気体又は水を通さない程の高度な緻密性を有することを意味し、透水性又はガス透過性を有する多孔性フィルムやその他の多孔質材料ではないことを意味する。こうすることで、LDHセパレータ22は、その水酸化物イオン伝導性に起因して水酸化物イオンのみを選択的に通すものとなり、電池用セパレータとしての機能を呈することができる。このため、充電時に生成する亜鉛デンドライトによるセパレータの貫通を物理的に阻止して正負極間の短絡を防止するのに極めて効果的な構成となっている。LDHセパレータ22は水酸化物イオン伝導性を有するため、正極板と負極板との間で必要な水酸化物イオンの効率的な移動を可能として正極板及び負極板における充放電反応を実現することができる。
【0033】
LDHセパレータ22は、単位面積あたりのHe透過度が10cm/min・atm以下であるのが好ましく、より好ましくは5.0cm/min・atm以下、さらに好ましくは1.0cm/min・atm以下である。He透過度が10cm/min・atm以下であるセパレータは、電解液中においてZnの透過(典型的には亜鉛イオン又は亜鉛酸イオンの透過)を極めて効果的に抑制することができる。このように本態様のセパレータは、Zn透過が顕著に抑制されることで、亜鉛二次電池に用いた場合に亜鉛デンドライトの成長を効果的に抑制できるものと原理的に考えられる。He透過度は、セパレータの一方の面にHeガスを供給してセパレータにHeガスを透過させる工程と、He透過度を算出して水酸化物イオン伝導セパレータの緻密性を評価する工程とを経て測定される。He透過度は、単位時間あたりのHeガスの透過量F、Heガス透過時にセパレータに加わる差圧P、及びHeガスが透過する膜面積Sを用いて、F/(P×S)の式により算出する。このようにHeガスを用いてガス透過性の評価を行うことにより、極めて高いレベルでの緻密性の有無を評価することができ、その結果、水酸化物イオン以外の物質(特に亜鉛デンドライト成長を引き起こすZn)を極力透過させない(極微量しか透過させない)といった高度な緻密性を効果的に評価することができる。これは、Heガスが、ガスを構成しうる多種多様な原子ないし分子の中でも最も小さい構成単位を有しており、しかも反応性が極めて低いためである。すなわち、Heは、分子を形成することなく、He原子単体でHeガスを構成する。この点、水素ガスはH分子により構成されるため、ガス構成単位としてはHe原子単体の方がより小さい。そもそもHガスは可燃性ガスのため危険である。そして、上述した式により定義されるHeガス透過度という指標を採用することで、様々な試料サイズや測定条件の相違を問わず、緻密性に関する客観的な評価を簡便に行うことができる。こうして、セパレータが亜鉛二次電池用セパレータに適した十分に高い緻密性を有するのか否かを簡便、安全かつ効果的に評価することができる。He透過度の測定は、後述する例1の評価7に示される手順に従って好ましく行うことができる。
【0034】
一般的に知られているように、LDHは、複数の水酸化物基本層と、これら複数の水酸化物基本層間に介在する中間層とから構成される。水酸化物基本層は主として金属元素(典型的には金属イオン)とOH基で構成される。LDHの中間層は、陰イオン及びHOで構成される。陰イオンは1価以上の陰イオン、好ましくは1価又は2価のイオンである。好ましくは、LDH中の陰イオンはOH及び/又はCO 2-を含む。また、LDHはその固有の性質に起因して優れたイオン伝導性を有する。
【0035】
一般的に、LDHは、M2+ 1-x3+ (OH)n- x/n・mHO(式中、M2+は2価の陽イオンであり、M3+は3価の陽イオンであり、An-はn価の陰イオンであり、nは1以上の整数であり、xは0.1~0.4であり、mは0以上である)の基本組成式で代表されるものとして知られている。上記基本組成式において、M2+は任意の2価の陽イオンでありうるが、好ましい例としてはMg2+、Ca2+及びZn2+が挙げられ、より好ましくはMg2+である。M3+は任意の3価の陽イオンでありうるが、好ましい例としてはAl3+又はCr3+が挙げられ、より好ましくはAl3+である。An-は任意の陰イオンでありうるが、好ましい例としてはOH及びCO 2-が挙げられる。したがって、上記基本組成式において、M2+がMg2+を含み、M3+がAl3+を含み、An-がOH及び/又はCO 2-を含むのが好ましい。nは1以上の整数であるが、好ましくは1又は2である。xは0.1~0.4であるが、好ましくは0.2~0.35である。mは水のモル数を意味する任意の数であり、0以上、典型的には0を超える又は1以上の実数である。もっとも、上記基本組成式は、一般にLDHに関して代表的に例示される「基本組成」の式にすぎず、構成イオンを適宜置き換え可能なものである。例えば、上記基本組成式においてM3+の一部または全部を4価またはそれ以上の価数の陽イオンで置き換えてもよく、その場合は、上記一般式における陰イオンAn-の係数x/nは適宜変更されてよい。
【0036】
例えば、LDHの水酸化物基本層は、Ni、Ti、OH基、及び場合により不可避不純物で構成されてもよい。LDHの中間層は、上述のとおり、陰イオン及びHOで構成される。水酸化物基本層と中間層の交互積層構造自体は一般的に知られるLDHの交互積層構造と基本的に同じであるが、本態様のLDHは、LDHの水酸化物基本層を主としてNi、Ti及びOH基で構成することで、優れた耐アルカリ性を呈することができる。その理由は必ずしも定かではないが、本態様のLDHにはアルカリ溶液に溶出しやすいと考えられる元素(例えばAl)が意図的又は積極的に添加されていないためと考えられる。そうでありながらも、本態様のLDHは、アルカリ二次電池用セパレータとしての使用に適した高いイオン伝導性も呈することができる。LDH中のNiはニッケルイオンの形態を採りうる。LDH中のニッケルイオンは典型的にはNi2+であると考えられるが、Ni3+等の他の価数もありうるため、特に限定されない。LDH中のTiはチタンイオンの形態を採りうる。LDH中のチタンイオンは典型的にはTi4+であると考えられるが、Ti3+等の他の価数もありうるため、特に限定されない。不可避不純物は製法上不可避的に混入されうる任意元素であり、例えば原料や基材に由来してLDH中に混入しうる。上記のとおり、Ni及びTiの価数は必ずしも定かではないため、LDHを一般式で厳密に特定することは非実際的又は不可能である。仮に水酸化物基本層が主としてNi2+、Ti4+及びOH基で構成されるものと想定した場合には、対応するLDHは、一般式:Ni2+ 1-xTi4+ (OH)n- 2x/n・mHO(式中、An-はn価の陰イオン、nは1以上の整数、好ましくは1又は2であり、0<x<1、好ましくは0.01≦x≦0.5、mは0以上、典型的には0を超える又は1以上の実数である)なる基本組成で表すことができる。もっとも、上記一般式はあくまで「基本組成」と解されるべきであり、Ni2+やTi4+等の元素がLDHの基本的特性を損なわない程度に他の元素又はイオン(同じ元素の他の価数の元素又はイオンや製法上不可避的に混入されうる元素又はイオンを含む)で置き換え可能なものとして解されるべきである。
【0037】
あるいは、LDHの水酸化物基本層は、Ni、Al、Ti及びOH基を含むものであってもよい。中間層は、上述のとおり、陰イオン及びHOで構成される。水酸化物基本層と中間層の交互積層構造自体は一般的に知られるLDHの交互積層構造と基本的に同じであるが、本態様のLDHは、LDHの水酸化物基本層をNi、Al、Ti及びOH基を含む所定の元素ないしイオンで構成することで、優れた耐アルカリ性を呈することができる。その理由は必ずしも定かではないが、本態様のLDHは、従来はアルカリ溶液に溶出しやすいと考えられていたAlが、Ni及びTiとの何らかの相互作用によりアルカリ溶液に溶出しにくくなるためと考えられる。そうでありながらも、本態様のLDHは、アルカリ二次電池用セパレータとしての使用に適した高いイオン伝導性も呈することができる。LDH中のNiはニッケルイオンの形態を採りうる。LDH中のニッケルイオンは典型的にはNi2+であると考えられるが、Ni3+等の他の価数もありうるため、特に限定されない。LDH中のAlはアルミニウムイオンの形態を採りうる。LDH中のアルミニウムイオンは典型的にはAl3+であると考えられるが、他の価数もありうるため、特に限定されない。LDH中のTiはチタンイオンの形態を採りうる。LDH中のチタンイオンは典型的にはTi4+であると考えられるが、Ti3+等の他の価数もありうるため、特に限定されない。水酸化物基本層は、Ni、Al、Ti及びOH基を含んでいさえすれば、他の元素ないしイオンを含んでいてもよい。もっとも、水酸化物基本層は、Ni、Al、Ti及びOH基を主要構成要素として含むのが好ましい。すなわち、水酸化物基本層は、主としてNi、Al、Ti及びOH基からなるのが好ましい。したがって、水酸化物基本層は、Ni、Al、Ti、OH基及び場合により不可避不純物で構成されるのが典型的である。不可避不純物は製法上不可避的に混入されうる任意元素であり、例えば原料や基材に由来してLDH中に混入しうる。上記のとおり、Ni、Al及びTiの価数は必ずしも定かではないため、LDHを一般式で厳密に特定することは非実際的又は不可能である。仮に水酸化物基本層が主としてNi2+、Al3+、Ti4+及びOH基で構成されるものと想定した場合には、対応するLDHは、一般式:Ni2+ 1-x-yAl3+ Ti4+ (OH)n- (x+2y)/n・mHO(式中、An-はn価の陰イオン、nは1以上の整数、好ましくは1又は2であり、0<x<1、好ましくは0.01≦x≦0.5、0<y<1、好ましくは0.01≦y≦0.5、0<x+y<1、mは0以上、典型的には0を超える又は1以上の実数である)なる基本組成で表すことができる。もっとも、上記一般式はあくまで「基本組成」と解されるべきであり、Ni2+、Al3+、Ti4+等の元素がLDHの基本的特性を損なわない程度に他の元素又はイオン(同じ元素の他の価数の元素又はイオンや製法上不可避的に混入されうる元素又はイオンを含む)で置き換え可能なものとして解されるべきである。
【0038】
多孔質基材は透水性及びガス透過性を有し、それ故亜鉛二次電池に組み込まれた場合に、電解液がLDHに到達可能となることはいうまでもないが、多孔質基材があることでLDHセパレータ22により安定に水酸化物イオンを保持することも可能となる。また、多孔質基材により強度を付与できるため、LDHセパレータ22を薄くして低抵抗化を図ることもできる。
【0039】
前述したとおり、LDHセパレータ22はLDHと多孔質基材とを含み(典型的にはそれらから構成され)、LDHセパレータ22は水酸化物イオン伝導性及びガス不透過性を呈するように(それ故水酸化物イオン伝導性を呈するLDHセパレータとして機能するように)LDHが多孔質基材の孔を塞いでいる。LDHは高分子材料製多孔質基材の厚さ方向の全域にわたって組み込まれているのが特に好ましい。LDHセパレータ22の厚さは、好ましくは5~200μmであり、より好ましくは5~100μm、さらに好ましくは5~30μmである。
【0040】
多孔質基材は高分子材料製であるのが好ましい。高分子多孔質基材には、1)フレキシブル性を有する(それ故薄くしても割れにくい)、2)気孔率を高くしやすい、3)伝導率を高くしやすい(気孔率を高めながら厚さを薄くできるため)、4)製造及びハンドリングしやすいといった利点がある。また、上記1)のフレキシブル性に由来する利点を活かして、5)高分子材料製の多孔質基材を含むLDHセパレータ22を簡単に折り曲げる又は封止接合することができ、それにより前述したようにLDHセパレータ22の外縁の少なくとも1辺が閉じた状態を容易に形成できるとの利点もある(折り曲げの場合には外縁1辺の封止工程を減らせるとの利点ももたらす)。高分子材料の好ましい例としては、ポリスチレン、ポリエーテルサルフォン、ポリプロピレン、エポキシ樹脂、ポリフェニレンサルファイド、親水化したフッ素樹脂(四フッ素化樹脂:PTFE等)、セルロース、ナイロン、ポリエチレン及びそれらの任意の組合せが挙げられる。上述した各種の好ましい材料はいずれも電池の電解液に対する耐性として耐アルカリ性を有するものである。特に好ましい高分子材料は、耐熱水性、耐酸性及び耐アルカリ性に優れ、しかも低コストである点から、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィンであり、最も好ましくはポリプロピレンである。多孔質基材が高分子材料で構成される場合、LDH層が多孔質基材の厚さ方向の全域にわたって組み込まれている(例えば多孔質基材内部の大半又はほぼ全部の孔がLDHで埋まっている)のが特に好ましい。この場合における高分子多孔質基材の好ましい厚さは、5~200μmであり、より好ましくは5~100μm、さらに好ましくは5~30μmである。このような高分子多孔質基材として、リチウム電池用セパレータとして市販されているような微多孔膜を好ましく用いることができ、あるいは市販のセロハンも使用可能である。
【0041】
多孔質基材は、最大100μm以下の平均気孔径を有するのが好ましく、より好ましくは最大50μm以下であり、例えば、典型的には0.001~1.5μm、より典型的には0.001~1.25μm、さらに典型的には0.001~1.0μm、特に典型的には0.001~0.75μm、最も典型的には0.001~0.5μmである。これらの範囲内とすることで多孔質基材に所望の透水性、及び支持体としての強度を確保しながら、ガス不透過性を呈する程に緻密なLDHセパレータを形成することができる。本発明において、平均気孔径の測定は多孔質基材の表面の電子顕微鏡画像をもとに気孔の最長距離を測長することにより行うことができる。この測定に用いる電子顕微鏡画像の倍率は20000倍以上であり、得られた全ての気孔径をサイズ順に並べて、その平均値から近い順に上位15点及び下位15点、合わせて1視野あたり30点で2視野分の平均値を算出して、平均気孔径を得ることができる。測長には、SEMのソフトウェアの測長機能や画像解析ソフト(例えば、Photoshop、Adobe社製)等を用いることができる。
【0042】
多孔質基材は、10~60%の気孔率を有するのが好ましく、より好ましくは15~55%、さらに好ましくは20~50%である。これらの範囲内とすることで多孔質基材に所望の透水性、及び支持体としての強度を確保しながら、ガス不透過性を呈する程に緻密なLDHセパレータを形成することができる。多孔質基材の気孔率はアルキメデス法により好ましく測定することができる。もっとも、多孔質基材が高分子材料で構成され、LDHが多孔質基材の厚さ方向の全域にわたって組み込まれている場合、多孔質基材の気孔率は30~60%が好ましく、より好ましくは40~60%である。
【0043】
LDHセパレータ22の製造方法は特に限定されず、既に知られるLDH含有機能層及び複合材料(すなわちLDHセパレータ)の製造方法(例えば特許文献1~3を参照)の諸条件を適宜変更することにより作製することができる。例えば、(1)多孔質基材を用意し、(2)多孔質基材に酸化チタンゾル或いはアルミナ及びチタニアの混合ゾルを塗布して熱処理することで酸化チタン層或いはアルミナ・チタニア層を形成させ、(3)ニッケルイオン(Ni2+)及び尿素を含む原料水溶液に多孔質基材を浸漬させ、(4)原料水溶液中で多孔質基材を水熱処理して、LDH含有機能層を多孔質基材上及び/又は多孔質基材中に形成させることにより、LDH含有機能層及び複合材料(すなわちLDHセパレータ)を製造することができる。特に、上記工程(2)において酸化チタン層或いはアルミナ・チタニア層を多孔質基材に形成することで、LDHの原料を与えるのみならず、LDH結晶成長の起点として機能させて多孔質基材の表面に高度に緻密化されたLDH含有機能層をムラなく均一に形成することができる。また、上記工程(3)において尿素が存在することで、尿素の加水分解を利用してアンモニアが溶液中に発生することによりpH値が上昇し、共存する金属イオンが水酸化物を形成することによりLDHを得ることができる。また、加水分解に二酸化炭素の発生を伴うため、陰イオンが炭酸イオン型のLDHを得ることができる。
【0044】
特に、多孔質基材が高分子材料で構成され、機能層が多孔質基材の厚さ方向の全域にわたって組み込まれている複合材料(すなわちLDHセパレータ)を作製する場合、上記(2)におけるアルミナ及びチタニアの混合ゾルの基材への塗布を、混合ゾルを基材内部の全体又は大部分に浸透させるような手法で行うのが好ましい。こうすることで最終的に多孔質基材内部の大半又はほぼ全部の孔をLDHで埋めることができる。好ましい塗布手法の例としては、ディップコート、ろ過コート等が挙げられ、特に好ましくはディップコートである。ディップコート等の塗布回数を調整することで、混合ゾルの付着量を調整することができる。ディップコート等により混合ゾルが塗布された基材は、乾燥させた後、上記(3)及び(4)の工程を実施すればよい。
【実施例
【0045】
本発明に用いることが可能なLDHセパレータを以下の例によってさらに具体的に説明する。
【0046】
例1
高分子多孔質基材を用いて、Ni、Al及びTi含有LDHを含むLDHセパレータを以下の手順により作製し、評価した。
【0047】
(1)高分子多孔質基材の準備
気孔率50%、平均気孔径0.1μm及び厚さ20μmの市販のポリプロピレン製多孔質基材を、2.0cm×2.0cmの大きさになるように切り出した。
【0048】
(2)高分子多孔質基材へのアルミナ・チタニアゾルコート
無定形アルミナ溶液(Al-ML15、多木化学株式会社製)と酸化チタンゾル溶液(M6、多木化学株式会社製)をTi/Al(モル比)=2となるように混合して混合ゾルを作製した。混合ゾルを、上記(1)で用意された基材へディップコートにより塗布した。ディップコートは、混合ゾル100mlに基材を浸漬させてから垂直に引き上げ、90℃の乾燥機中で5分間乾燥させることにより行った。
【0049】
(3)原料水溶液の作製
原料として、硝酸ニッケル六水和物(Ni(NO・6HO、関東化学株式会社製、及び尿素((NHCO、シグマアルドリッチ製)を用意した。0.015mol/Lとなるように、硝酸ニッケル六水和物を秤量してビーカーに入れ、そこにイオン交換水を加えて全量を75mlとした。得られた溶液を攪拌した後、溶液中に尿素/NO (モル比)=16の割合で秤量した尿素を加え、更に攪拌して原料水溶液を得た。
【0050】
(4)水熱処理による成膜
テフロン(登録商標)製密閉容器(オートクレーブ容器、内容量100ml、外側がステンレス製ジャケット)に原料水溶液とディップコートされた基材を共に封入した。このとき、基材はテフロン(登録商標)製密閉容器の底から浮かせて固定し、基材両面に溶液が接するように水平に設置した。その後、水熱温度120℃で24時間水熱処理を施すことにより基材表面と内部にLDHの形成を行った。所定時間の経過後、基材を密閉容器から取り出し、イオン交換水で洗浄し、70℃で10時間乾燥させて、LDHを多孔質基材中に組み込まれた形で得た。こうしてLDHセパレータを得た。
【0051】
(5)評価
得られたLDHセパレータに対して以下に示される各種評価を行った。
【0052】
評価1:LDHセパレータの同定
X線回折装置(リガク社製 RINT TTR III)にて、電圧:50kV、電流値:300mA、測定範囲:10~70°の測定条件で、LDHセパレータの結晶相を測定してXRDプロファイルを得た。得られたXRDプロファイルについて、JCPDSカードNO.35-0964に記載されるLDH(ハイドロタルサイト類化合物)の回折ピークを用いて同定を行った。
【0053】
評価2:微構造の観察
LDHセパレータの表面微構造を走査型電子顕微鏡(SEM、JSM-6610LV、JEOL社製)を用いて10~20kVの加速電圧で観察した。また、イオンミリング装置(日立ハイテクノロジーズ社製、IM4000によって、LDHセパレータの断面研磨面を得た後に、この断面研磨面の微構造を表面微構造の観察と同様の条件でSEMにより観察した。
【0054】
評価3:元素分析評価(EDS)
クロスセクションポリッシャ(CP)により、LDHセパレータの断面研磨面が観察できるように研磨した。FE-SEM(ULTRA55、カールツァイス製)により、LDHセパレータの断面イメージを10000倍の倍率で1視野取得した。この断面イメージの基材表面のLDH膜と基材内部のLDH部分(点分析)についてEDS分析装置(NORAN System SIX、サーモフィッシャーサイエンティフィック製)により、加速電圧15kVの条件にて、元素分析を行った。
【0055】
評価4:耐アルカリ性評価
6mol/Lの水酸化カリウム水溶液に酸化亜鉛を溶解させて、0.4mol/Lの濃度で酸化亜鉛を含む5mol/Lの水酸化カリウム水溶液を得た。こうして得られた水酸化カリウム水溶液15mlをテフロン(登録商標)製密閉容器に入れた。1cm×0.6cmのサイズのLDHセパレータを密閉容器の底に設置し、蓋を閉めた。その後、70℃で3週間(すなわち504時間)又は7週間(すなわち1176時間)保持した後、LDHセパレータを密閉容器から取り出した。取り出したLDHセパレータに対して、室温で1晩乾燥させた。得られた試料をSEMによる微構造観察およびXRDによる結晶構造観察を行った。
【0056】
評価5:イオン伝導率の測定
電解液中でのLDHセパレータの伝導率を図6に示される電気化学測定系を用いて以下のようにして測定した。LDHセパレータ試料Sを両側から厚み1mmシリコーンパッキン40で挟み、内径6mmのPTFE製フランジ型セル42に組み込んだ。電極46として、#100メッシュのニッケル金網をセル42内に直径6mmの円筒状にして組み込み、電極間距離が2.2mmになるようにした。電解液44として、6MのKOH水溶液をセル42内に充填した。電気化学測定システム(ポテンショ/ガルバノスタッド-周波数応答アナライザ、ソーラトロン社製1287A型及び1255B型)を用い、周波数範囲は1MHz~0.1Hz、印加電圧は10mVの条件で測定を行い、実数軸の切片をLDHセパレータ試料Sの抵抗とした。上記同様の測定をLDH膜の付いていない多孔質基材のみに対しても行い、多孔質基材のみの抵抗も求めた。LDHセパレータ試料Sの抵抗と基材のみの抵抗の差をLDH膜の抵抗とした。LDH膜の抵抗と、LDHの膜厚及び面積を用いて伝導率を求めた。
【0057】
評価6:緻密性判定試験
LDHセパレータがガス不透過性を呈する程の緻密性を有することを確認すべく、緻密性判定試験を以下のとおり行った。まず、図7A及び7Bに示されるように、蓋の無いアクリル容器130と、このアクリル容器130の蓋として機能しうる形状及びサイズのアルミナ治具132とを用意した。アクリル容器130にはその中にガスを供給するためのガス供給口130aが形成されている。また、アルミナ治具132には直径5mmの開口部132aが形成されており、この開口部132aの外周に沿って試料載置用の窪み132bが形成されてなる。アルミナ治具132の窪み132bにエポキシ接着剤134を塗布し、この窪み132bにLDHセパレータ試料136を載置してアルミナ治具132に気密かつ液密に接着させた。そして、LDHセパレータ試料136が接合されたアルミナ治具132を、アクリル容器130の開放部を完全に塞ぐようにシリコーン接着剤138を用いて気密かつ液密にアクリル容器130の上端に接着させて、測定用密閉容器140を得た。この測定用密閉容器140を水槽142に入れ、アクリル容器130のガス供給口130aを圧力計144及び流量計146に接続して、ヘリウムガスをアクリル容器130内に供給可能に構成した。水槽142に水143を入れて測定用密閉容器140を完全に水没させた。このとき、測定用密閉容器140の内部は気密性及び液密性が十分に確保されており、LDHセパレータ試料136の一方の側が測定用密閉容器140の内部空間に露出する一方、LDHセパレータ試料136の他方の側が水槽142内の水に接触している。この状態で、アクリル容器130内にガス供給口130aを介してヘリウムガスを測定用密閉容器140内に導入した。圧力計144及び流量計146を制御してLDHセパレータ試料136内外の差圧が0.5atmとなる(すなわちヘリウムガスに接する側に加わる圧力が反対側に加わる水圧よりも0.5atm高くなる)ようにして、LDHセパレータ試料136から水中にヘリウムガスの泡が発生するか否かを観察した。その結果、ヘリウムガスに起因する泡の発生は観察されなかった場合に、LDHセパレータ試料136はガス不透過性を呈する程に高い緻密性を有するものと判定した。
【0058】
評価7:He透過測定
He透過性の観点からLDHセパレータの緻密性を評価すべくHe透過試験を以下のとおり行った。まず、図8A及び図8Bに示されるHe透過度測定系310を構築した。He透過度測定系310は、Heガスを充填したガスボンベからのHeガスが圧力計312及び流量計314(デジタルフローメーター)を介して試料ホルダ316に供給され、この試料ホルダ316に保持されたLDHセパレータ318の一方の面から他方の面に透過させて排出させるように構成した。
【0059】
試料ホルダ316は、ガス供給口316a、密閉空間316b及びガス排出口316cを備えた構造を有するものであり、次のようにして組み立てた。まず、LDHセパレータ318の外周に沿って接着剤322を塗布して、中央に開口部を有する治具324(ABS樹脂製)に取り付けた。この治具324の上端及び下端に密封部材326a,326bとしてブチルゴム製のパッキンを配設し、さらに密封部材326a,326bの外側から、フランジからなる開口部を備えた支持部材328a,328b(PTFE製)で挟持した。こうして、LDHセパレータ318、治具324、密封部材326a及び支持部材328aにより密閉空間316bを区画した。支持部材328a,328bを、ガス排出口316c以外の部分からHeガスの漏れが生じないように、ネジを用いた締結手段330で互いに堅く締め付けた。こうして組み立てられた試料ホルダ316のガス供給口316aに、継手332を介してガス供給管334を接続した。
【0060】
次いで、He透過度測定系310にガス供給管334を経てHeガスを供給し、試料ホルダ316内に保持されたLDHセパレータ318に透過させた。このとき、圧力計312及び流量計314によりガス供給圧と流量をモニタリングした。Heガスの透過を1~30分間行った後、He透過度を算出した。He透過度の算出は、単位時間あたりのHeガスの透過量F(cm/min)、Heガス透過時にLDHセパレータに加わる差圧P(atm)、及びHeガスが透過する膜面積S(cm)を用いて、F/(P×S)の式により算出した。Heガスの透過量F(cm/min)は流量計314から直接読み取った。また、差圧Pは圧力計312から読み取ったゲージ圧を用いた。なお、Heガスは差圧Pが0.05~0.90atmの範囲内となるように供給された。
【0061】
(6)評価結果
評価結果は以下のとおりであった。
‐評価1:得られたXRDプロファイルから、LDHセパレータに含まれる結晶相はLDH(ハイドロタルサイト類化合物)であることが同定された。
‐評価2:LDHセパレータの断面微構造のSEM画像は図9に示されるとおりであった。図9から分かるように、LDHが多孔質基材の厚さ方向の全域にわたって組み込まれていること、すなわち多孔質基材の孔が万遍なくLDHで埋まっていることが観察された。
‐評価3:EDS元素分析の結果、LDHセパレータから、LDH構成元素であるC、Al、Ti及びNiが検出された。すなわち、Al、Ti及びNiは水酸化物基本層の構成元素である一方、CはLDHの中間層を構成する陰イオンであるCO 2-に対応する。
‐評価4:70℃の水酸化カリウム水溶液に3週間ないし7週間浸漬させた後においても、LDHセパレータの微構造に変化はみられなかった。
‐評価5:LDHセパレータの伝導率は2.0mS/cmであった。
‐評価6:LDHセパレータはガス不透過性を呈する程に高い緻密性を有することが確認された。
‐評価7:LDHセパレータのHe透過度は0.0cm/min・atmであった。
【符号の説明】
【0062】
10 亜鉛二次電池
11 電池要素
12 正極板
13 正極活物質層
14a 正極集電タブ
15 正極反応抑制構造
16 負極板
17 負極活物質層
18 負極集電体
18a 負極集電タブ
19 負極反応抑制構造
20 保液部材
21 電解液
22 LDHセパレータ
23 型
25 押し板
C 閉じられた辺
DS デッドスペース

図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7A
図7B
図8A
図8B
図9