IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社第一基礎の特許一覧

<>
  • 特許-壁体構造物 図1
  • 特許-壁体構造物 図2
  • 特許-壁体構造物 図3
  • 特許-壁体構造物 図4
  • 特許-壁体構造物 図5
  • 特許-壁体構造物 図6
  • 特許-壁体構造物 図7
  • 特許-壁体構造物 図8
  • 特許-壁体構造物 図9
  • 特許-壁体構造物 図10
  • 特許-壁体構造物 図11
  • 特許-壁体構造物 図12
  • 特許-壁体構造物 図13
  • 特許-壁体構造物 図14
  • 特許-壁体構造物 図15
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-21
(45)【発行日】2022-01-17
(54)【発明の名称】壁体構造物
(51)【国際特許分類】
   E02B 3/12 20060101AFI20220107BHJP
   E02B 3/06 20060101ALI20220107BHJP
   E02B 3/02 20060101ALI20220107BHJP
   E02D 29/02 20060101ALI20220107BHJP
   E02D 17/04 20060101ALI20220107BHJP
【FI】
E02B3/12
E02B3/06
E02B3/02 C
E02D29/02 308
E02D17/04 E
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018141132
(22)【出願日】2018-07-27
(65)【公開番号】P2020016107
(43)【公開日】2020-01-30
【審査請求日】2021-04-21
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】509066488
【氏名又は名称】株式会社第一基礎
(74)【代理人】
【識別番号】100104330
【弁理士】
【氏名又は名称】杉山 誠二
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 光一
【審査官】石川 信也
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-081960(JP,A)
【文献】特開2003-064632(JP,A)
【文献】特開2015-014156(JP,A)
【文献】特開2000-319881(JP,A)
【文献】特開2012-112191(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0271479(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 3/12
E02B 3/06
E02B 3/02
E02D 29/02
E02D 17/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数の壁体構成部材を延長方向に嵌合させ又は配設させ、下方部を下方支持体中に埋設することによって形成された壁体と、
前記壁体の外面側の所定位置に延長方向に延びるように配置された少なくとも1本の外面側通し部材と、
前記壁体の上端に延長方向に所定間隔へだてて配置された複数の載置部材と、
一方の部分が前記載置部材に連結され、他方の部分が前記外面側通し部材に連結された外面側係止部材と、
前記壁体の内面側に配置され、一方の部分が前記載置部材に連結された内面側係止部材と、
を備えていることを特徴とする壁体構造物。
【請求項2】
前記壁体の内面の所定位置に延長方向に延びるように配置され、前記内面側係止部材に連結された内面側通し部材をさらに備えていることを特徴とする請求項1に記載された壁体構造物。
【請求項3】
前記壁体の外面側の所定部位に配置された張り出し装置をさらに備えていることを特徴とする請求項1又は2に記載された壁体構造物。
【請求項4】
前記壁体の内面の側に裏埋材が充填されていることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載された壁体構造物。
【請求項5】
前記壁体と所定間隔へだてた個所に、第2の壁体が配置されており、前記壁体と前記第2の壁体との間の空間に中詰材が充填されていることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載された壁体構造物。
【請求項6】
前記壁体の少なくとも上方部に一端が連結され、前記第2の壁体の少なくとも上方部に他端が連結されたタイ材をさらに備えていることを特徴とする請求項5に記載された壁体構造物。
【請求項7】
前記壁体の内面の側に配置された控え工と、前記壁体の少なくとも上方部に一端が連結され、前記控え工に他端が連結されたタイ材とをさらに備え、前記壁体の内面の側に裏埋材が充填されていることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載された壁体構造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般的には、耐土水圧機能を有する壁体構造物に関する。より詳細には、本発明は、長期間にわたって供用される水域構造物(護岸、岸壁、防波堤、導流堤など)や陸域構造物(擁壁や土留壁など)、および短期間の間供用される仮締切工として用いられる壁体構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、上述のような水域構造物、陸域構造物および仮締切工として使用される壁体構造物として、複数の鋼矢板が壁幅方向に嵌合された一対の壁体同士をタイロッド等の連結部材で連結し、前記壁体間に中詰材を投入した壁体構造物が提案されている。一対の壁体同士を連結部材で連結する場合、一対の鋼矢板を間隔を隔てて地盤に配置して2列の鋼矢板壁を設け、2列の鋼矢板壁の頂部近傍に腹起をそれぞれ設置した後、鋼矢板壁同士を連結部材で連結し、その後、鋼矢板間の空間に中詰材を充填して壁体構造物が構築される。鋼矢板壁に腹起を設置する際には、基礎地盤に打設した鋼矢板にブラケットを溶接で取り付け、このブラケット上に腹起を載置していた。そして、鋼矢板に現場でボルト孔を設け、ボルト孔を利用してボルト接合によって腹起を鋼矢板壁に固定していた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、現場において鋼矢板にブラケットを溶接したりボルト孔を開孔したりするには、測定、溶接、孔開け等の煩雑な工程を経なければならず、工期を必要とするという課題があった。また、仮締切工や流路工、護岸等に上述の従来の構造形式を用いた場合、洪水や斜面崩壊時に流木等の漂流物や流下物が大量に流下してくると、漂流物や流下物が壁体構造物を遡上し、壁体構造物の背面側に悪影響を及ぼすという課題もあった。
【0004】
本発明は、このような状況に鑑みて開発されたものであって、現場でのブラケット取り付け作業等を行うことなしに腹起を設置することができるとともに、漂流物の遡上を防止することができる壁体構造物を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願請求項1に記載された壁体構造物は、多数の壁体構成部材を延長方向に嵌合させ又は配設させ、下方部を下方支持体中に埋設することによって形成された壁体と、前記壁体の外面側の所定位置に延長方向に延びるように配置された少なくとも1本の外面側通し部材と、前記壁体の上端に延長方向に所定間隔へだてて配置された複数の載置部材と、一方の部分が前記載置部材に連結され、他方の部分が前記外面側通し部材に連結された外面側係止部材と、前記壁体の内面側に配置され、一方の部分が前記載置部材に連結された内面側係止部材とを備えていることを特徴とするものである。
【0006】
本願請求項2に記載された壁体構造物は、前記請求項1の壁体構造物において、前記壁体の内面の所定位置に延長方向に延びるように配置され、前記内面側係止部材に連結された内面側通し部材をさらに備えていることを特徴とするものである。
【0007】
本願請求項3に記載された壁体構造物は、前記請求項1又は2の壁体構造物において、前記壁体の外面側の所定部位に配置された張り出し装置をさらに備えていることを特徴とするものである。
【0011】
本願請求項4に記載された壁体構造物は、前記請求項1から請求項3のいずれか1項の壁体構造物において、前記壁体の内面の側に裏埋材が充填されていることを特徴とするものである。
【0012】
本願請求項5に記載された壁体構造物は、前記請求項1から請求項3のいずれか1項の壁体構造物において、前記壁体と所定間隔へだてた個所に、第2の壁体が配置されており、前記壁体と前記第2の壁体との間の空間に中詰材が充填されていることを特徴とするものである。
【0013】
本願請求項6に記載された壁体構造物は、前記請求項5の壁体構造物において、 前記壁体の少なくとも上方部に一端が連結され、前記第2の壁体の少なくとも上方部に他端が連結されたタイ材をさらに備えていることを特徴とするものである。
【0015】
本願請求項7に記載された壁体構造物は、前記請求項1から請求項3のいずれか1項の壁体構造物において、前記壁体の内面の側に配置された控え工と、前記壁体の少なくとも上方部に一端が連結され、前記控え工に他端が連結されたタイ材とをさらに備え、前記壁体の内面の側に裏埋材が充填されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、外面側通し部材16を設けることにより、壁体構成部材14、36、38、40の施工に伴うy方向の出入りを抑制し、壁体12に土水圧が偏って作用するのを防止することができる。また、外面側通し部材16、張り出し装置26、スクリーン壁28を設けることにより、漂流物などの遡上を防止することができる。また、内面側通し部材24を設けることにより、壁体構成部材14、36、38、40の施工に伴うy方向の出入りを一層確実に抑制することができる。また、載置部材18を壁体12に固定せず、壁体12の上端に載せた状態にした場合には、撤去作業が容易であるという効果が得られる。また、控え工30およびタイ材32を設けることにより、壁体12の頭部の変位および壁体12に発生する曲げモーメントを小さくすることができる。また、外面側通し部材16や内面側通し部材24を、間隔保持部材を用いて間に隙間を設けた一対の形鋼部材等で形成することにより、形鋼部材等の断面性能の低下を回避することができる。さらに、壁体12と所定間隔へだてた個所に第2の壁体34を設けることにより、上述の効果を備えつつ、より強固な耐土水圧性能及び水密性能を有する壁体構造物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の好ましい実施形態に係る壁体構造物が水域構造物の境界に設置されている状態を示した概略斜視図である。
図2図1に示される壁体構造物の一部を示した拡大斜視図である。
図3図3(a)は、壁体構成部材として用いられるハット形鋼矢板を示した平面図、図3(b)は、ハット形鋼矢板の嵌合個所を示した図である。
図4図4(a)は、図1に示される壁体構造物を示した平面図、図4(b)は、図4(a)の線4b-4bに沿って見た図、図4(c)は、図4(a)の線4c-4cに沿って見た断面図である。
図5図5(a)は、外面側通し部材、載置部材、外面側係止部材および内面側係止部材の取り付け形態の一例を示した斜視図、図5(b)は、外面側通し部材の別の取り付け形態を示した側面図である。
図6図6(a)は、内面側通し部材の取り付け形態の一例を示した斜視図、図6(b)は、図6(a)の側面図、図6(c)は、内面側通し部材の別の取り付け形態を示した側面図である。
図7】張り出し装置の種々の形態を示した図である。
図8】スクリーン壁の一例を示した斜視図である。
図9】控え工およびタイ材を備えた壁体構造物の種々の形態を示した模式図である。
図10】壁体構造物を仮締切工として用いる例を示した模式図である。
図11】第2の壁体を備えた壁体構造物を示した模式図である。
図12】壁体の下方部が下方支持体に埋設されている種々の形態を示した模式図である。
図13】U形鋼矢板を壁体構成部材として用いた壁体構造物を示した平面図である。
図14】継手部を有する本体梁部材が円形鋼管である鋼製部材を壁体構成部材として用いた壁体構造物を示した平面図である。
図15】継手部を有しない本体梁部材が円形鋼管である鋼製部材を壁体構成部材として用いた壁体構造物を示した平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
次に図面を参照して、本発明の好ましい実施形態に係る壁体構造物について説明する。図1は、本発明の好ましい実施形態に係る壁体構造物が水域構造物の境界に設置されている状態を示した概略斜視図、図2は、図1に示される壁体構造物の一部を示した拡大斜視図である。
【0024】
図1において全体として参照符号10で示される本発明の好ましい実施形態に係る壁体構造物は、壁体12を備えている。なお、図1において、壁体構造物10の延長方向をx方向、延長方向と直交する断面方向をy方向、垂直方向をz方向とする。
【0025】
壁体12は、多数の壁体構成部材をx方向に嵌合させ又は配設させ、下方部を下方支持体中に埋設することによって形成される。
【0026】
図1および図2に示される実施形態において壁体構成部材を構成するハット形鋼矢板14は、図3(a)に示されるように、土水圧等の荷重が作用した場合に主として曲げモーメントに抵抗するフランジ14a、アーム部14b及び継手部14cと、主としてせん断力に抵抗するウェブ14dとを有している。より詳細に説明すると、ハット形鋼矢板14では、フランジ14aの両縁部から外方に向かって拡がるように一対のウェブ14dがそれぞれ連続して配置され、各ウェブ14dにフランジ14aと略平行になるようにアーム部14bがそれぞれ連続して配置されており、各アーム部14bに継手部14cがそれぞれ連続して設けられている。
【0027】
ハット形鋼矢板14の継手部14cの一方には上方開口爪14c1が形成され、継手部14cの他方には下方開口爪14c2が形成されている。上方開口爪14c1と下方開口爪14c2は、互いに相補する形状に形作られており、一方のハット形鋼矢板14の継手部14cの上方開口爪14c1に、隣接する他方のハット形鋼矢板14の継手部14cの下方開口爪14c2を嵌め込むことによって、或いは、一方のハット形鋼矢板14の継手部14cの下方開口爪14c2に、隣接する他方のハット形鋼矢板14の継手部14cの上方開口爪14c1を嵌め込むことによって、所望の枚数のハット形鋼矢板14を嵌合させることができる。図3(b)は、ハット形鋼矢板14の継手部の嵌合個所を示した拡大図である。
【0028】
壁体12の下方部が埋設される下方支持体は、基礎地盤又はコンクリートフーチングである。基礎地盤には、改良土によって形成される地盤も含まれる。壁体12の基礎地盤への埋設は、バイブロハンマや油圧ハンマなどを用いた振動打設や衝撃打設によって行われる。
【0029】
壁体構造物10はまた、壁体12の外面の所定位置に延長方向(x方向)に延びるように配置された外面側通し部材16を備えている。外面側通し部材16は、嵌合されるハット形鋼矢板14の打設に伴うy方向の出入りを抑制する役割を果たす。すなわち、多数のハット形鋼矢板14を嵌合させると、個々のハット形鋼矢板14が打設に伴いy方向に出入りするおそれがあるが、各ハット形鋼矢板14を外面側通し部材16に沿わせることにより、ハット形鋼矢板14を延長方向(x方向)においてほぼ一直線上に沿わせることができ、これにより壁体12に土水圧が偏って作用するのを防止することができる。また、外面側通し部材16は、後述するように、漂流物などの遡上を防止する役割も果たす。
【0030】
外面側通し部材16の配置高さは一般的には、壁体構造物10の全高の上半分の適所であるが、これに限定されるものではない。また、図示されている外面側通し部材16は1本であるが、2本以上の外面側通し部材16を設置してもよい。
【0031】
外面側通し部材16としては、形鋼(H形鋼、溝形鋼など)、鋼管(円形鋼管、角形鋼管)が用いられるが、形鋼や鋼管以外の梁部材として機能する部材を用いてもよい。
【0032】
壁体構造物10はまた、延長方向(x方向)に所定間隔へだてて壁体12の上端に配置された載置部材18と、壁体12の外面側に配置され、一方の部分が載置部材18に連結され、他方の部分が外面側通し部材16に連結された外面側係止部材20と、壁体12の内面側に配置され、一方の部分が載置部材18に連結された内面側係止部材22とを備えている。
【0033】
載置部材18の主たる役割は、外面側係止部材20を介して外面側通し部材16を吊り下げ状態に支持するとともに、内面側係止部材22を介して後述する内面側通し部材24を吊り下げ状態に支持することである。また、載置部材18は、後述する張り出し装置26の一部として用いられることもある。載置部材18は基本的には、壁体12の上端に載せられた状態になっており、外面側係止部材20および内面側係止材22を設けることによって落下しないようになっているが、壁体12の上端での載置部材18の座りが悪ければ、溶接等の補助手段を用いて載置部材18を壁体12に固定することにより、載置部材18が落下しないように構成されている。載置部材18を壁体12に固定せず、壁体12の上端に載せた状態にした場合には、撤去作業が容易であるという利点を有する。なお、ハット形鋼矢板14の上端がすべて同一高さになるように施工することは困難であるため、適当なアジャスタ(図示せず)を用いてハット形鋼矢板14の高さ調整を行うのが好ましい。
【0034】
載置部材18としては、形鋼(H形鋼、溝形鋼など)、鋼管(円形鋼管、角形鋼管)が用いられるが、形鋼や鋼管以外の梁部材として機能する部材を用いてもよい。
【0035】
外面側係止部材20は、上端が載置部材18の一端の下面に取り付けられ、下端が外面側通し部材16に取り付けられている(図5(a)参照)。或いは、外面側係止部材20の上端側面を載置部材18の一端に取り付けてもよいし(図5(b)参照)、外面側係止部材20の下端側面を外面側通し部材20の側面に取り付けてもよい(図5(c)参照)。外面側係止部材20の載置部材18への取り付け、および外面側係止部材20の外面側通し部材16への取り付けは、溶接又は機械的締結(ボルト止めなど)によって行われる。
【0036】
外面側係止部材20は、外面側通し部材16を所定位置に配置する役割を果たすとともに、内面側係止部材22と協働して載置部材18を壁体12の上端に載置状態に保持する役割を果たす。
【0037】
外面側係止部材20としては、形鋼(H形鋼、溝形鋼など)、鋼管(円形鋼管、角形鋼管)、鋼板などが用いられるが、形鋼や鋼管以外の梁部材として機能する部材を用いてもよい。
【0038】
内面側係止部材22は、上端が載置部材18の他端の下面に取り付けられている(図6(a)参照)。或いは、内面側係止部材22の上端側面を載置部材18の他端の側面に取り付けてもよい(図6(b)参照)。内面側係止部材22の載置部材18への取り付けは、溶接又は機械的締結(ボルト止めなど)によって行われる。
【0039】
内面側係止部材22は、上述のように、外面側係止部材20と協働して載置部材18を壁体12の上端に載置状態に保持する役割を果たすとともに、後述する内面側通し部材24を配置する場合には、内面側通し部材24を所定位置に取り付ける役割を果たす。
【0040】
内面側係止部材22としては、形鋼(H形鋼、溝形鋼など)、鋼管(円形鋼管、角形鋼管)、鋼板などが用いられるが、形鋼や鋼管以外の梁部材として機能する部材を用いてもよい。
【0041】
好ましくは、壁体構造物10は、壁体12の内面の所定高さに配置された内面側通し部材24を備えている。内面側通し部材24は、嵌合されるハット形鋼矢板14の施工誤差に伴うy方向の出入りをより一層抑制する役割を果たす。すなわち、上述のように、多数のハット形鋼矢板14を嵌合させると個々のハット形鋼矢板14がy方向に出入りするおそれがあり、外面側通し部材16を設けることにより、このような弊害に対処することができるが、内面側通し部材24を設け、各ハット形鋼矢板14の内面を内面側通し部材24に沿わせることにより、ハット形鋼矢板14を延長方向(x方向)においてより確実にほぼ一直線上に沿わせることができる。
【0042】
内面側通し部材24は、内面側係止部材22の下端に取り付けてもよいし(図6(b)参照)、或いは、側面を内面側係止部材22の下端側面に取り付けてもよい(図6(c)参照)。内面側通し部材24の内面側係止部材22への取り付けは、溶接又は機械的締結(ボルト止めなど)によって行われる。
【0043】
内面側通し部材24としては、形鋼(H形鋼、溝形鋼など)、鋼管(円形鋼管、角形鋼管)が用いられるが、形鋼や鋼管以外の梁部材として機能する部材を用いてもよい。
【0044】
好ましくは、壁体構造物10は、載置部材18又は外面側係止部材20から外方又は上方に突出した張り出し装置26を備えている。張り出し装置26は、流木などの漂流物の遡上を防止する役割を果たす。
【0045】
図7は、張り出し装置26の種々の形態を示した図である。すなわち、図7(a)では、張り出し装置26は、外面側係止部材20から外方に突出しており、図7(b)では、張り出し装置26は、載置部材18から上方に突出している。また、図7(c)では、張り出し装置26は、載置部材18から上方に突出した部材の外面に水平方向に延びるように取り付けられており、図7(d)では、張り出し装置26は、載置部材18の外面側端部に外方に延びるように固定された部材の上面に外面側通し部材16とほぼ平行に取り付けられている。なお、図7に示される各形態は例示的なものであり、図示された形態以外の張り出し装置26を採用してもよい。張り出し装置26の載置部材18又は外面側係止部材20への取り付けは、溶接又は機械的締結(ボルト止めなど)によって行われる。
【0046】
張り出し装置26としては、形鋼(H形鋼、溝形鋼など)、鋼管(円形鋼管、角形鋼管)、鋼板などが用いられるが、形鋼や鋼管以外の梁部材として機能する部材を用いてもよい。
【0047】
好ましくは、壁体構造物10は、壁体12の上方に配置されたスクリーン壁28を備えている。図8は、載置部材18の上面に設けられた一対の支持部材の間の隙間にスクリーン壁28が配置されている状態が図示されているが、他の適当な形態でスクリーン壁28を配置してもよい。スクリーン壁28は、張り出し装置26と同様に、流木などの漂流物の遡上を防止する役割を果たす。
【0048】
図8に示されるスクリーン壁28は、金属材料(鋼、アルミニウムなど)製の矩形フレーム28aにネット状体(金属製、プラスチック製)28bを張ることによって形成されているが、漂流物などの遡上を防止することができるものであれば、他の適当な形態や材料で形成してもよい。
【0049】
好ましくは、壁体構造物10は、壁体12の内面の側に配置された控え工30と、壁体12の少なくとも上方部に一端が連結され、控え工30に他端が連結されたタイ材32を備えている。タイ材32を設置することにより、タイ材32の設置位置が壁体12の支点となり、壁体12の頭部の変位および壁体12に発生する曲げモーメントが小さくなる。なお、図9では、1本のタイ材32が図示されているが、タイ材32は基本的には、延長方向(x方向)に所定間隔へだてて複数本が設置されている。また、垂直方向(z方向)に複数段にわたってタイ材32を設置してもよい。
【0050】
控え工30としては、直杭(図9(a)参照)、組杭(図9(b)参照)、又は別の壁体(図9(c)参照)が用いられる。また、タイ材32としては、タイロッド又はタイワイヤ等の抗張力材が用いられる。
【0051】
図9(d)は、タイ材32の取り付け個所の一例を示した拡大図である。図9(d)に示される外面側通し部材16は、鉛直方向に所定間隔へだてた一対の溝形鋼16a、16bによって構成されている。溝形鋼16a、16bは、鋼部材等からなる間隔保持部材によって、鉛直方向に所定間隔が保持されている。間隔保持部材の配置の例として、溝形鋼16a、16bのウェブ間又はフランジ表面の所定個所に間隔保持部材16cを配置し、これにより溝形鋼16a、16bの間に隙間を形成する。図9(d)は、溝形鋼16a、16bのウェブ間に間隔保持部材を配置した状態を示したものである。間隔保持部材の配置の別例として、溝形鋼16a、16bのフランジ表面の所定個所に帯鋼板等からなる間隔保持部材16cを配置し、溝形鋼16a、16bのフランジ表面に溶接又はボルト接合で取り付ける方法もある(図示せず)。そして、間隔保持部材16cによって形成された隙間にタイ材32が通され、所定の方法で固定される。タイ材32の取り付け個所の近傍は、せん断力や曲げモーメントが特に大きな個所であるため、この個所で溝形鋼16a、16bが正しい位置に保持されない場合には、溝形鋼16a、16bの断面性能が低下し、タイ材32の張力により溝形鋼の片側の間隔が広げられて危険な状態になるおそれがある。そこで、タイ材32の取り付け個所において鉛直方向の間隔を保持する間隔保持部材16cを取り付けることにより、上述のような危険な状態に陥るのを回避することができる。内面側通し部材24も、外面側通し部材16と同様に構成してもよい。なお、図示されている例では、外面側通し部材16として一対の溝形鋼が用いられているが、溝形鋼以外の適当な部材(例えば、H形鋼)を用いてもよい。
【0052】
図10は、一列の壁体12からなる壁体構造物10を仮締切工として用いる例を示した模式図である。すなわち、陸地から一定距離間隔をへだてた水域(壁体構造物10の設置時は水がなく、洪水に伴い水域となる場合が多い)に壁体構造物10を設置し、陸地と壁体構造物10との間の水を排水または水が浸入しないようにして空間を確保し、この空間内部で種々の作業を行おうとするものである。
【0053】
好ましくは、壁体構造物10は、壁体12と所定間隔へだてた個所に設けられた第2の壁体34を備えている。第2の壁体34は、壁体12と同じ構成を有するものでもよいし、壁体12と異なる構成を有するもの(例えば、壁体構成部材としてハット形鋼矢板ではなく円形鋼管矢板を使用など)でもよい。壁体12と第2の壁体34との間の空間には、中詰材(土砂等)が充填されている。
【0054】
図11は、壁体12と所定間隔へだてた個所に設けられた第2の壁体34を備え、壁体12と第2の壁体34との間の空間に中詰材(土砂等)を充填することにより形成された壁体構造物10を仮締切工として用いる例を示した模式図である。すなわち、陸地から一定距離間隔をへだてた水域(壁体構造物10の設置時は水がなく、洪水に伴い水域となる場合が多い)に壁体構造物10を設置し、陸地と壁体構造物10との間の水を排水または水が浸入しないようにして空間を確保し、この空間内部で種々の作業を行おうとするものである。
【0055】
第2の壁体34を備えた壁体構造物10は、より強固な耐土水圧性能及び水密性能を有する。なお、壁体12の少なくとも上方部に一端が連結され、第2の壁体34の少なくとも上方部に他端が連結されたタイ材(図示せず)を設置してもよい。
【0056】
上述のように、壁体構造物10においては、その内面側に裏埋材(土砂等)がある場合(図9)と、裏埋材(土砂等)がない場合(図10図11)の両方がある。
【0057】
図12は、壁体12が下方支持体に埋設されている種々の形態を示した模式図である。すなわち、図12(a)では、壁体12の下方部が基礎地盤に埋設されており、図12(b)および図12(c)では、壁体12の下方部がコンクリートフーチングに埋設されている。
【0058】
上述の例では、壁体構成部材としてハット形鋼矢板14が用いられているが、ハット形鋼矢板以外の鋼矢板(U形鋼矢板、Z形鋼矢板、BOX形鋼矢板など)、鋼管矢板(円形鋼管矢板、角形鋼管矢板)、コンクリート矢板(溝形コンクリート矢板、波形コンクリート矢板)を壁体構成部材として用いてもよい。
【0059】
図13は、壁体構成部材としてU形鋼矢板36を用いた形態を示した平面図である。すなわち、図13に示される形態では、3枚のU形鋼矢板36がその継手が嵌合された状態で壁体の一部を構成している状態を示したものである。前記壁体の一部に他の構成要素(外面側通し部材16、載置部材18、外面側係止部材20、内面側係止部材22、内面側通し部材24)が取り付けられている。図13には図示されていないが、張り出し装置26、スクリーン壁28、控え工30、タイ材32を取り付けてもよいし、第2の壁体34を設置してもよい。
【0060】
図14は、壁体構成部材として継手部を有する本体梁部材が円形鋼管である鋼製部材38を用いた形態を示した平面図である。すなわち、図14に示される形態では、3基の鋼製部材38が嵌合されて壁体構成部材が形成され、前記壁体構成部材に、他の構成要素(外面側通し部材16、載置部材18、外面側係止部材20、内面側係止部材22、内面側通し部材24)が取り付けられている。図14には図示されていないが、張り出し装置26、スクリーン壁28、控え工30、タイ材32を取り付けてもよいし、第2の壁体34を設置してもよい。なお、前記継手部を有する本体梁部材が円形鋼管である鋼製部材38の継手部は円弧状であるが、継手部の形状は、これに限定されるものではない。
【0061】
図15は、壁体構成部材として継手部を有しない本体梁部材が円形鋼管である鋼製部材40を用いた形態を示した平面図である。すなわち、図15(a)に示される形態では、3基の鋼製部材40を密接させて壁体構成部材が形成され、図15(b)に示される形態では、3基の鋼製部材40を密接させ鋼製部材40の間に閉塞装置を配置して壁体構成部材が形成され、図15(c)に示される形態では、3基の鋼製部材40を一定間隔へだてて配置し、各鋼製部材40の間に閉塞装置を配置して壁体構成部材が形成されている。そして、これらの壁体構成部材に、他の構成要素(外面側通し部材16、載置部材18、外面側係止部材20、内面側係止部材22、内面側通し部材24)が取り付けられている。なお、図15には図示されていないが、張り出し装置26、スクリーン壁28、控え工30、タイ材32を取り付けてもよいし、第2の壁体34を設置してもよい。
【0062】
本発明は、以上の発明の実施の形態に限定されることなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で、種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【0063】
例えば、図示されている壁体構造物を構成する各構成要素の寸法や細部などは単なる例示的なものにすぎず、図示した以外のものにしてもよい。
【符号の説明】
【0064】
10 壁体構造物
12 壁体
14 ハット形鋼矢板(壁体構成部材)
14a フランジ
14b アーム部
14c 継手部
14c1 上方開口爪
14c2 下方開口爪
14d ウェブ
16 外面側通し部材
18 載置部材
20 外面側係止部材
22 内面側係止部材
24 内面側通し部材
26 張り出し装置
28 スクリーン壁
28a フレーム
28b 金網
30 控え工
32 タイ材
34 第2の壁体
36 U形鋼矢板(壁体構成部材)
38 継手部を有する円形鋼管矢板(壁体構成部材)
40 継手部を有しない円形鋼管矢板(壁体構成部材)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15