(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-21
(45)【発行日】2022-02-04
(54)【発明の名称】継手装置
(51)【国際特許分類】
E02D 5/08 20060101AFI20220128BHJP
E02B 3/02 20060101ALI20220128BHJP
E02B 3/06 20060101ALI20220128BHJP
E02B 3/12 20060101ALI20220128BHJP
【FI】
E02D5/08
E02B3/02 C
E02B3/06
E02B3/06 301
E02B3/12
(21)【出願番号】P 2020052321
(22)【出願日】2020-03-24
【審査請求日】2020-04-08
【審判番号】
【審判請求日】2020-12-11
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】509066488
【氏名又は名称】株式会社第一基礎
(74)【代理人】
【識別番号】100104330
【氏名又は名称】杉山 誠二
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 光一
(72)【発明者】
【氏名】菅野 守雄
(72)【発明者】
【氏名】北村 靖司
【合議体】
【審判長】森次 顕
【審判官】西田 秀彦
【審判官】長井 真一
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-20129(JP,A)
【文献】特開平8-252667(JP,A)
【文献】特公平2-23269(JP,B2)
【文献】特開2018-115511(JP,A)
【文献】特開2004-270437(JP,A)
【文献】実開昭55-118045(JP,U)
【文献】実開昭54-82405(JP,U)
【文献】実開昭54-56906(JP,U)
【文献】特開2015-58451(JP,A)
【文献】特開2009-155897(JP,A)
【文献】実開昭49-743(JP,U)
【文献】特許第6596174(JP,B1)
【文献】特開平10-219718(JP,A)
【文献】特開昭58-143014(JP,A)
【文献】再公表特許第2010/032485(JP,A1)
【文献】実開昭55-13209(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D5/00-5/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水域構造物又は陸域構造物として用いられる壁体を構成する鋼製構造部材の接続時に使用される継手装置であって、
外径D(30mm≦D≦250mm)の円形鋼管によって形成される継手部材と、
前記継手部材の所定部位に断面方向に所定距離隔てて配置された一対の固定部材とを備え、
前記継手部材には、断面方向の所定部位に前記継手部材の長手方向に延びた一定幅の開口からなる嵌合用スリット
が設けられており、
前記一対の固定部材の長手方向
が、前記継手部材の前記所定部位の長手方向にそれぞれ連続的又は断続的な溶接で固定
されており、
前記一対の固定部材が、前記鋼製構造部材の所定部位の長手方向にそれぞれ連続的又は断続的な溶接で固定
されることのみにより、前記継手部材
が前記鋼製構造部材に固定
されるように構成されていることを特徴とする継手装置。
【請求項2】
水域構造物又は陸域構造物として用いられる壁体を構成する鋼製構造部材の接続時に使用される継手装置であって、
外径D(30mm≦D≦250mm)の円形鋼管によって形成される継手部材と、
前記継手部材の所定部位に断面方向に所定距離隔てて配置された一対の固定部材とを備え、
前記継手部材には、断面方向の所定部位に長手方向に延びた平行な一対の切断線からなる少なくとも1個の切断部によって形成される嵌合用スリット
が設けられており、
前記一対の固定部材の長手方向が、前記継手部材の前記所定部位の長手方向にそれぞれ連続的又は断続的な溶接で固定
されており、
前記一対の固定部材が、前記鋼製構造部材の所定部位の長手方向にそれぞれ連続的又は断続的な溶接で固定
されることのみにより、前記継手部材
が前記鋼製構造部材に固定
されるように構成されていることを特徴とする継手装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水域構造物(護岸、岸壁、防波堤、導流堤など)や陸域構造物(擁壁、土留壁など)として用いられる壁体を構成する鋼製構造部材の接続時に使用される継手装置、継手装置を有する鋼製構造部材、並びに継手装置の製作方法および使用方法に関する。本発明における鋼製構造部材には、ハット形鋼矢板等の鋼矢板、鋼管矢板、鋼管杭、およびその他の鋼製部材が含まれる。
【背景技術】
【0002】
鋼矢板等の使用において、法線の変更箇所、法線の分岐個所や異なる型式の鋼矢板等を接続する場合には、継手装置が用いられている。継手装置は一般的に、鋼矢板等にスリット付き筒状継手(例えば、スリット付き鋼管)を設置することによって形成される。そして、雌型継手となるスリット付き筒状継手のスリットに、雄型継手(例えば、鋼矢板の継手部)を嵌挿することによって、鋼矢板等が接続されるようになっている。
【0003】
従来、スリット付き筒状継手は、鋼矢板等に溶接等によって直接固定されていた(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特に鋼管からなる筒状継手を鋼矢板等に溶接等によって直接固定する場合は、溶接作業空間(溶接対象部位の鋼管の外表面と鋼矢板等の外表面により形成される空間)が狭いため、溶接効率が悪く、溶接検査も実施しにくいという課題がある。また、鋼管からなる筒状継手を鋼矢板等に溶接等によって直接固定する方法では、固定間距離が小さいため、横荷重の作用を受けた場合の筒状継手の構造安定性が低いという課題がある。これは、2本柱のラーメン構造に例えれば、柱の間隔が狭い構造は、柱の間隔が広い構造に比較して、横荷重への構造安定性が低いことに相当する。
【0006】
本発明は、このような状況に鑑みて開発されたものであって、十分な溶接作業空間を確保することができるとともに、良好な構造安定性を有する継手装置、継手装置を有する鋼製構造部材、並びに継手装置の製作方法および使用方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願請求項1に記載された、水域構造物又は陸域構造物として用いられる壁体を構成する鋼製構造部材の接続時に使用される継手装置は、外径D(30mm≦D≦250mm)の円形鋼管によって形成される継手部材と、前記継手部材の所定部位に断面方向に所定距離隔てて配置された一対の固定部材とを備え、前記継手部材には、断面方向の所定部位に前記継手部材の長手方向に延びた一定幅の開口からなる嵌合用スリットが設けられており、前記一対の固定部材の長手方向が、前記継手部材の前記所定部位の長手方向にそれぞれ連続的又は断続的な溶接で固定されており、前記一対の固定部材が、前記鋼製構造部材の所定部位の長手方向にそれぞれ連続的又は断続的な溶接で固定されることのみにより、前記継手部材が前記鋼製構造部材に固定されるように構成されていることを特徴とするものである。
【0008】
本願請求項2に記載された、水域構造物又は陸域構造物として用いられる壁体を構成する鋼製構造部材の接続時に使用される継手装置は、外径D(30mm≦D≦250mm)の円形鋼管によって形成される継手部材と、前記継手部材の所定部位に断面方向に所定距離隔てて配置された一対の固定部材とを備え、前記継手部材には、断面方向の所定部位に長手方向に延びた平行な一対の切断線からなる少なくとも1個の切断部によって形成される嵌合用スリットが設けられており、前記一対の固定部材の長手方向が、前記継手部材の前記所定部位の長手方向にそれぞれ連続的又は断続的な溶接で固定されており、前記一対の固定部材が、前記鋼製構造部材の所定部位の長手方向にそれぞれ連続的又は断続的な溶接で固定されることのみにより、前記継手部材が前記鋼製構造部材に固定されるように構成されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、継手部材34が一対の固定部材38を介して鋼製構造部材32に取り付けられるように構成されているため、継手部材34の溶接作業空間を確保でき、溶接作業を容易に行うことができるとともに、良好な溶接品質の維持にも資することができる。また、所定距離を隔てた一対の固定部材38を用いるため、継手部材34の構造安定性に優れている。さらに、固定部材38の取り付け個所や寸法(鋼棒サイズ、平鋼サイズ、山形形状鋼サイズ)を調整することができるため、鋼製構造部材32の平面割付(配置)の自由度を向上させることができるとともに、鋼製構造部材32の施工誤差を容易に吸収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明の好ましい実施形態に係る継手装置を有する鋼製構造部材によって形成された壁体の一部を示した平面図である。
【
図3】
図3(a)は、ハット形鋼矢板(鋼製構造部材)のフランジとウェブとの接続箇所付近の外面に継手部材が取り付けられている状態を示した図、
図3(b)は、
図3(a)の部分3bの拡大図である。
【
図4】継手部材がハット形鋼矢板の種々の個所に設けられている状態を示した一連の図である。
【
図5】
図5(a)は、固定部材が取り付けられた継手部材が鋼製構造部材に固定される使用例を示した図、
図5(b)~
図5(d)は、継手装置の各種態様を例示した図である。
【
図7】
図7(a)は、一対の固定部材として一対の平鋼が用いられる形態を示した
図3(a)と同様の図、
図7(b)は、
図7(a)の部分7bの拡大図である。
【
図8】継手部材が一対の固定部材として一対の平鋼を用いてハット形鋼矢板の種々の個所に設けられている状態を示した一連の図である。
【
図9】
図9(a)は、一対の固定部材として一対の山形形状鋼が用いられる形態を示した
図3(a)と同様の図、
図9(b)は、
図9(a)の部分9bの拡大図である。
【
図10】継手部材が一対の固定部材として一対の山形形状鋼を用いてハット形鋼矢板の種々の個所に設けられている状態を示した一連の図である。
【
図11】
図11(a)は、海と陸との境界に設置された鋼製構造部材を示した模式図、
図11(b)及び
図11(c)は、
図11(a)の線11b‐11b、線11c‐11cに沿ってそれぞれ見た図である。
【
図12】一対の固定部材として異なる種類の鋼材が用いられている例を示した図である。
【
図13】
図13(a)は、固定部材として一対の平鋼を用いて、鋼管杭からなる鋼製構造部材と継手鋼管を溶接固定し、鋼管矢板壁を形成した場合を示した図、
図13(b)は、
図13(a)の
部分13bの拡大図、
図13(c)は、
図13(b)の
部分13cの拡大図である。
【
図14】
図14(a)は、継手部材の内部に充填材が充填されている例を示した図、
図14(b)~図14(e)は、充填材に切れ目又は所定形状の開口が設けられている例を例示した一連の図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
次に図面を参照して、本発明の好ましい実施形態に係る継手装置について説明する。
図1は、本発明の好ましい実施形態に係る継手装置を有する鋼製構造部材によって形成された壁体の一部を示した平面図、
図2(a)は、
図1の部分2aの拡大図である。
【0032】
図1に示される壁体10は、一対の前壁12、後壁14と、一対の隔壁16、18とを平面的に見て矩形に組んで構成した函体20を有している。一対の前壁12、後壁14、一対の隔壁16、18は、それぞれ鋼製構造部材(例えば、ハット形鋼矢板)からなる壁体構成部材を嵌合継手を介して接続して構成される。また、函体20内の内部空間22には、中詰材(図示せず)が充填される。
【0033】
前壁12、後壁14と隔壁16、18の端部との接合個所に、継手装置30を有する鋼製構造部材が設置される。
【0034】
図2(a)において全体として参照符号30で示される本発明の好ましい実施形態に係る継手装置は、鋼製構造部材32のフランジ32aとウェブ32dとの接続箇所付近の外面に長手方向に延びるように一対の固定部材38を介して取り付けられた継手部材34を備えている。
【0035】
継手部材34は、外径Dの円形鋼管(30mm≦D≦250mm)で形成されており、継手部材34には、断面方向の所定部位において、長手方向に延びた嵌合用スリット36が設けられている。
図2(a)に示される例では、嵌合用スリット36は、継手部材34の右側真横に設けられているが、嵌合用スリット36の位置は、必要に応じて変更される。なお、嵌合用スリット36に、雄側部材となるハット形鋼矢板の継手部が嵌挿されている例が図示されているが、嵌挿される雄側部材として鋼板が用いられる場合もある。
【0036】
一対の固定部材38は、一対の円形横断面の鋼棒で形成されている。すなわち、一対の鋼棒を、
図3(b)に示されるように、所定の離間距離x1を隔てて継手部材34の所定個所の外面に溶接38aで固定し、かつ、鋼製構造部材32の所定個所に溶接38aで固定することによって、継手部材34が鋼製構造部材32に取り付けられている(換言すると、継手部材34は、鋼製構造部材32に直接固定されていない)。溶接38aは、連続溶接でもよいし非連続溶接でもよい。
【0037】
固定部材38となる一対の鋼棒の取り付け位置は、鋼棒と円形鋼管34との接触個所38b間の離間距離x1、又は円形鋼管34の中心と各鋼棒の前記接触個所38bとのなす角度α1によって規定される(
図3(b)参照)。すなわち、離間距離x1や角度α1が小さすぎると継手部材34の良好な構造安定性が得られにくくなるため、距離x1≧60mm又は角度α1≧30°のいずれかを満たす位置に一対の鋼棒を取り付けるのが好ましい。
【0038】
継手部材34を一対の固定部材38を介して鋼製構造部材32に取り付けることにより、以下のような効果が得られる。第1に、継手部材34の溶接作業空間を確保できるので、溶接作業を容易に行うことができる(
図3(b)において矢印で示す方向から溶接作業を行う)とともに、良好な溶接品質の維持にも資することができる。第2に、所定距離を隔てた一対の固定部材38を用いるので、継手部材34の構造安定性に優れている。第3に、固定部材38の取り付け個所や寸法(鋼棒サイズ、平鋼サイズ、山形形状鋼サイズ)を調整することができるので、鋼製構造部材32の平面割付(配置)の自由度を向上させることができるとともに、鋼製構造部材32の施工誤差を容易に吸収することができる。
【0039】
なお、継手部材34の鋼製構造部材32への取り付けは、必ずしも継手部材34を設置しない一般形状の鋼製構造部材32の施工前に行われていなくともよい。先行施工された継手部材34を設置しない一般形状の鋼製構造部材32の施工状況によっては、後行施工する鋼製構造部材32に継手部材34が予め取り付けられていない方が施工し易い場合がある。すなわち、継手部材34を、鋼製構造部材32に取り付けない状態にしておき、施工進捗の適当な時点において、既施工の施工誤差状況等を考慮して、継手部材34を鋼製構造部材32の適切な個所に取り付けるようにしてもよい(
図5(a)参照)。このようにすることにより、柔軟な施工が可能になる。
【0040】
図1および
図2に示される例では、鋼製構造部材32として、ハット形鋼矢板が用いられている。
【0041】
ハット形鋼矢板32は、
図3(a)に示されるように、土水圧等の荷重が作用した場合に主として曲げモーメントに抵抗するフランジ32a、アーム部32b及び継手部32cと、主としてせん断力に抵抗するウェブ32dとを有している。より詳細に説明すると、ハット形鋼矢板32では、フランジ32aの両縁部から外方に向かって拡がるように一対のウェブ32dがそれぞれ連続して配置され、各ウェブ32dにフランジ32aと略平行になるようにアーム部32bがそれぞれ連続して配置されており、各アーム部32bに継手部32cがそれぞれ連続して設けられている。
【0042】
ハット形鋼矢板32の継手部32cの一方には上方開口爪32c1が形成され、継手部32cの他方には下方開口爪32c2が形成されている。上方開口爪32c1と下方開口爪32c2は、互いに相補する形状に形作られており、一方のハット形鋼矢板32の継手部32cの上方開口爪32c1に、隣接する他方のハット形鋼矢板32の継手部32cの下方開口爪32c2を嵌め込むことによって、或いは、一方のハット形鋼矢板32の継手部32cの下方開口爪32c2に、隣接する他方のハット形鋼矢板32の継手部32cの上方開口爪32c1を嵌め込むことによって、所望の枚数のハット形鋼矢板32を嵌合させることができる。
【0043】
継手部材34は、
図2及び
図3に示される例では、鋼製構造部材32のフランジ32aとウェブ32dとの接続箇所付近の外面(山側)に取り付けられているが、必要に応じて、継手部材34を鋼製構造部材32の所望個所に固定してもよい。例えば、継手部材34をフランジ32aの外面(山側)に取り付けてもよいし(
図4(a)参照)、ウェブ32dの外面(山側)に取り付けてもよいし(
図4(b)参照)、アーム部32bの内面(谷側)に取り付けてもよいし(
図4(c)参照)、フランジ32aとウェブ32dとの接続箇所付近の内面(谷側)に取り付けてもよい(
図4(d)参照)。
【0044】
継手部材34を鋼製構造部材32に設置するには、様々な方法がある。代表的な設置方法を以下に列記する。第1の設置方法では、計画設計通りに継手部材34を鋼製構造部材32に設置する。この場合、設置場所は、工場や現場近傍のヤード等である。継手部材34は、計画設計通りの長さ構成の場合と、数m長さのパーツを準備し、このパーツを複数個連接させて設置する場合がある。第2の設置方法では、施工進捗の適当な時点において、既施工の施工誤差状況等を考慮して、継手部材34を鋼製構造部材32に取り付ける。この場合も、設置場所は、工場や現場近傍のヤード等である。継手部材34は、計画設計通りの長さ構成の場合と、数m長さのパーツを準備し、このパーツを複数個連接させて設置する場合がある。
【0045】
数m長さのパーツを複数本並べて所定の長さにして用いる場合には、背面からの土砂漏れ防止が必要な範囲では、継手部材34を密接状態(メタルタッチ)で配置し、必要に応じて、パーツ同士の接続部を直接または添接板を介して溶接する。背面からの土砂漏れ防止が不要な範囲では、パーツを不連続(断続)状態で配置してもよい。
図5(b)~
図5(d)は、継手部材34の各種態様を例示した図である。
図5(b)に示される態様では、継手部材34は、長さLの1本のパーツで形成されている。また、
図5(c)に示される態様では、継手部材34は、長さL1と長さL2の2本のパーツで形成されている。
図5(d)に示される態様では、継手装置30は、長さL3と長さL4の2本のパーツを不連続(断続)状態で配置することによって形成されている。なお、図示した例では、パーツが1本又は2本であるが、パーツの数を3本以上にしてもよい。パーツの長さを12m以下にすると、搬送や取り扱いに便利である。
【0046】
図6は、嵌合用スリット36の変形例を示している。
図6に示される嵌合用スリット36は、交互に配置された少なくとも1個の切断部36aと少なくとも1個の非切断部36bによって形成される。すなわち、継手部材34の所定部位に、長手方向に延びた平行な一対の切断線からなる少なくとも1個の切断部36aを予め設けておき、継手部材34を鋼製構造部材32に固定した後、非切断部36bを所要の方法で切断することによって、嵌合用スリット36が形成される。
【0047】
なお、目安として、切断部36aは1000~2000mm程度、非切断部36bは5~50mm程度である。切断後のスリット幅の全体形状を実験などにより確認すれば、切断部36a、非切断部36bの組み合わせは任意である。
【0048】
以上の実施形態では、一対の固定部材38として一対の鋼棒が用いられているが、一対の平鋼や一対の山形形状鋼を一対の固定部材38として用いてもよい。
【0049】
図7は、一対の固定部材38として一対の平鋼が用いられる形態を示したものである。
図7に示される形態では、所定の離間距離x2を隔てて継手部材34の所定個所の外面に溶接38aで固定し、かつ、鋼製構造部材32の所定個所に溶接38aで固定することによって、継手部材34が鋼製構造部材32に取り付けられている(換言すると、継手部材34は、鋼製構造部材32に直接固定されていない)。溶接38aは、連続溶接でもよいし非連続溶接でもよい。
【0050】
固定部材38となる一対の平鋼の取り付け位置は、平鋼と円形鋼管34との接触個所38b間の離間距離x2、又は円形鋼管34の中心と各平鋼の前記接触個所38bとのなす角度α2によって規定される(
図7(b)参照)。すなわち、距離x2や角度α2が小さすぎると継手部材34の良好な構造安定性が得られにくくなるため、距離x2≧110mm又は角度α2≧70°のいずれかを満たす位置に一対の平鋼を取り付けるのが好ましい。
【0051】
図9は、一対の固定部材38として一対の山形形状鋼が用いられる形態を示したものである。
図9(a)に示される形態では、所定の離間距離x3を隔てて継手部材34の所定個所の外面に溶接38aで固定し、かつ、鋼製構造部材32の所定個所に溶接38aで固定することによって、継手部材34が鋼製構造部材32に取り付けられている(換言すると、継手部材34は、鋼製構造部材32に直接固定されていない)。溶接38aは、連続溶接でもよいし非連続溶接でもよい。なお、
図9(a)に示される形態では、一対の山形形状鋼の一辺の各々の外面が鋼製構造部材32の外面に接触した状態で一対の山形形状鋼が鋼製構造部材32に固定されているが、一対の山形形状鋼の一辺の各々の先端を鋼製構造部材32の外面に固定し、一対の山形形状鋼の他辺の各々の先端を継手部材34に固定してもよい。また、一対の山形形状鋼のうち一方の山形形状鋼の一辺の外面を鋼製構造部材32の外面に接触した状態で前記一方の山形形状鋼を鋼製構造部材32に固定した状態で、一対の山形形状鋼のうち他方の山形形状鋼の一辺の先端を鋼製構造部材32の外面に固定し、前記他方の山形形状鋼の他辺の先端を継手部材34に固定してもよい。
【0052】
一対の固定部材38となる一対の山形形状鋼の取り付け位置は、山形形状鋼と円形鋼管34との接触個所38b間の離間距離x3、又は円形鋼管34の中心と各山形形状鋼の前記接触個所38bとのなす角度α3によって規定される(
図7(b)参照)。すなわち、距離x3や角度α3が小さすぎると継手部材34の良好な構造安定性が得られにくくなるため、距離x3≧110mm又は角度α3≧70°のいずれかを満たす位置に一対の山形形状鋼を取り付けるのが好ましい。
【0053】
固定部材38として一対の平鋼や一対の山形形状鋼を用いた場合も、固定部材38として一対の鋼棒を用いた場合と同様な上記の効果が得られる。
【0054】
図8は、
図7に示される形態において継手部材34が鋼製構造部材32の他の個所に固定されている形態を示した図である。固定部材38として用いられる一対の平鋼は、鋼製構造部材32の外表面に対して直交するように取り付けてもよく、鋼製構造部材32の外表面に対して所要角度傾斜させた状態で取り付けてもよい。
図10は、
図9に示される形態において継手部材34が鋼製構造部材32の他の個所に固定されている形態を示した図である。
【0055】
継手部材34を固定部材38を介して鋼製構造部材32に取り付ける際、継手部材34と固定部材38の両方又はいずれか一方の溶接個所、及び鋼製構造部材32と固定部材38の両方又はいずれか一方の溶接個所に、溶接用表面処理面を設置するのが好ましい。溶接用表面処理面とは、溶接品質に悪影響を及ぼさない溶接面のことであり、溶接用表面処理面では、溶接に悪影響を与える不純物(錆、ドロ、ホコリ、塗料等)が除去されている。溶接品質に悪影響を及ぼさない溶接面を得るために、溶接対象個所を、光沢面を有するように表面処理する。具体的には、溶接用表面処理面は、グラインダー、ディスクサンダー、ワイヤブラシ等の工具を用いた機械仕上げによる表面処理が行われる。
【0056】
なお、機械仕上げを行っても、時間が経過すると発錆するので、グラインダー等で機械仕上げを行った後、開先防錆剤を塗布するのが好ましい。開先防錆剤は、非透明色(例えば、銀色)のものが好ましい。非透明色の開先防錆剤を用いることにより、溶接すべき個所が一目瞭然となり、溶接した個所が明確になり、目視や写真による溶接品質の管理が容易になるという効果が得られる。開先防錆剤は防食塗料であるが、開先防錆剤を除去しないで溶接しても、溶接品質に悪影響を与えない防食塗料である。
【0057】
鋼製構造部材32としてハット形鋼矢板を用いた例について説明してきたが、U形鋼矢板のような他の鋼矢板を用いる場合においても、継手装置30の構成は実質的に同じである。
【0058】
なお、雌型継手となる継手部材34は、鋼製構造部材32の全長にわたって設けてもよいし、全長よりも短くし、所定範囲(少なくとも、壁体の背面に存在する土砂が土砂漏れを発生させるおそれのある範囲)にわたって設けてもよい。
図11は、雌型継手と雄型継手の鋼製構造部材32への設置の例を示した模式図である。
図11(b)では、鋼製構造部材32の一方の側の上半部に雌型継手が設置され、鋼製構造部材32の他方の側の上半部に雄型継手、下半部にガイド部が設置されている。
図11(c)は、ガイド部が断続的に設置されている点を除いて、
図11(b)の例と同じである。ガイド部は、特に鋼製構造部材が後述するような鋼管矢板の場合に、継手嵌合の施工性を向上させるのに有用である。なお、鋼製構造部材の上端部は通常、上部コンクリートの中に埋設される(
図11(a)参照)。
【0059】
以上の実施形態では、一対の固定部材38として、一対の鋼棒、一対の平鋼、一対の山形形状鋼が用いられているが、異なる種類の鋼材、すなわち、鋼棒と平鋼、平鋼と山形形状鋼、又は鋼棒と山形形状鋼を固定部材38として用いてもよい。
【0060】
図12(a)は、一対の固定部材38として、鋼棒と平鋼が用いられている例を示している。鋼棒と平鋼の取り付け位置は、鋼棒と円形鋼管34との接触個所38bと平鋼と円形鋼管34との接触個所38bとの間の離間距離x7、又は円形鋼管34の中心と鋼棒の前記接触個所38b及び平鋼の前記接触個所38bとのなす角度α7によって規定される。距離x7≧110mm又は角度α7≧70°のいずれかを満たす位置に鋼棒と平鋼を取り付けるのが好ましい。
図12(b)は、一対の固定部材38として、平鋼と山形形状鋼が用いられている例を示している。平鋼と山形形状鋼の取り付け位置は、平鋼と円形鋼管34との接触個所38bと山形形状鋼と円形鋼管34との接触個所38bとの間の離間距離x8、又は円形鋼管34の中心と平鋼の前記接触個所38b及び山形形状鋼の前記接触個所38bとのなす角度α8によって規定される。距離x8≧110mm又は角度α8≧70°のいずれかを満たす位置に平鋼と山形形状鋼を取り付けるのが好ましい。
図12(c)は、一対の固定部材38として、鋼棒と山形形状鋼が用いられている例を示している。鋼棒と山形形状鋼の取り付け位置は、鋼棒と円形鋼管34との接触個所38bと山形形状鋼と円形鋼管34との接触個所38bとの間の離間距離x9、又は円形鋼管34の中心と鋼棒の前記接触個所38b及び山形形状鋼の前記接触個所38bとのなす角度α9によって規定される。距離x9≧110mm又は角度α9≧70°のいずれかを満たす位置に平鋼と山形形状鋼を取り付けるのが好ましい。
【0063】
また、鋼製構造部材32として、鋼矢板の代わりに、鋼管杭に対して継手装置を適用して鋼管矢板壁を形成してもよい。
図13(a)は、固定部材38として一対の平鋼を用いて、鋼管杭からなる鋼製構造部材32と継手鋼管34を溶接固定し、鋼管矢板壁を形成した場合を示した図、
図13(b)は、
図13(a)の
部分13bの拡大図、
図13(c)は、
図13(b)の
部分13cの拡大図である。
【0064】
図13(a)に示される鋼管矢板壁は、複数個(
図13(a)では、3個を図示)の鋼管杭32を、後述する継手を介して嵌合させることによって形成され、海と陸との間に構築されている(
図13(a)では、右側が海、左側が陸(土砂)として図示されている)。
【0065】
鋼管杭32用の継手装置は、鋼管杭32の直径方向に対向した個所に長手方向に延びるように一対の固定部材38を介して取り付けられた継手部材34を備えている。継手部材34は、前記実施形態と同様に、外径D(30mm≦D≦250mm)の円形鋼管で形成されており、継手部材34には、断面方向の所定部位において、長手方向に延びた嵌合用スリット36が設けられている。そして、一方の鋼管杭32の継手部材34の嵌合用スリット36に、隣接する他方の鋼管杭32の継手部材34の嵌合用スリット36を嵌合させることによって、所望の個数の鋼管杭32を結合させて鋼管矢板壁を形成している。
【0066】
一対の固定部材38は、
図13(b)に示されるように、一対の平鋼で形成されており、
図7(b)に示される実施形態と同様に、所定の離間距離を隔てて継手部材34の所定個所の外面に溶接38aで固定し、かつ、鋼管杭32の所定個所に溶接38aで固定することによって、継手部材34が鋼管杭32に取り付けられている。溶接38aは、連続溶接でもよいし非連続溶接でもよい。平鋼は、
図7(b)に示される実施形態と同様に、距離x13≧110mm又は角度α13≧70°のいずれかを満たす位置に取り付けるのが好ましい(
図13(c)参照)。
【0067】
一対の固定部材38として、一対の鋼棒や一対の山形形状鋼を用いてもよい。鋼棒の取り付け位置は、
図3(b)に示される実施形態と同様に、距離x1≧60mm又は角度α1≧30°のいずれかを満たす位置に取り付けるのが好ましいが、距離x1≧80mm又は角度α1≧45°のいずれかを満たす位置に取り付けると、溶接作業性が一層向上する。また、山形形状鋼の取り付け位置は、
図9(b)に示される実施形態と同様に、距離x3≧110mm又は角度α3≧70°のいずれかを満たす位置に取り付けるのが好ましい。
【0068】
なお、
図13(a)~図13(c)に示される例では、各鋼管杭32の直径方向に対向した個所に、円形鋼管で形成された継手部材34がそれぞれ取り付けられているが、一方の継手部材34として、円形鋼管で形成されたものではなく、T形部材で形成されたものを用いてもよい。
【0069】
固定部材38は、上述の鋼矢板の鋼製構造部材32の場合と同様に、鋼管杭32の所定部位に予め固定してもよいし、或いは、施工段階において鋼管杭32の所定部位に固定するようにしてもよい。
【0070】
好ましくは、継手部材34の内部に固体状の充填材40が充填されている。一対の固定部材38として一対の鋼棒を用いた継手部材34を例にして説明すると、
図14(a)に示されるように、継手部材34の内部に充填材40が充填されている。充填材40としては、例えば、固体状の充填材(発泡スチロール、発泡ウレタンなど)、経時硬化性充填材(瀝青質材、ウレタン、ゴム、ソイルセメントなど)が用いられる。継手部材34の内部に充填材40を充填することにより、より確実かつ容易に土砂漏れを防止することができるとともに、継手部材34内の腐食の進行を遅らせることができる。充填材40の充填タイミングは、充填材40の性状、鋼製構造部材32の施工環境に応じて、適宜決定される。すなわち、充填材40の充填タイミングは、固体状の充填材の場合には、鋼製構造部材32の施工前(横にした状態で継手部材34の内部に挿入する)であり、経時硬化性充填材の場合には、鋼製構造部材32の施工後(充填材40の自重を利用するため。継手部材34の上端部より材料の自重等を利用して充填する。圧送する場合もある。)である。
【0071】
また、充填材40として固体状の充填材(発泡スチロール、発泡ウレタンなど)が用いられる場合には、充填材40の所定部位に、切れ目又は分割線40aを設けてもよい(
図14(b)~図14(d)参照)。切れ目又は分割線40aを設けることにより、嵌合用スリット36への雄側部材の嵌挿時に、雄側部材が切れ目又は分割線40aに挿入され充填材40が円滑に変形されて隙間がなくなり、これにより一層確実に土砂漏れを防止することができる。
図14(b)~図14(d)に示される切れ目又は分割線40aは例示的なものであり、これらに限定されるものではない。切れ目又は分割線40aは、雄側部材の嵌挿部位の形状を考慮して決定される。なお、
図14(d)に示される形態は、円形横断面の充填材40を四分割し(したがって、分割線40aが十字に入る)、クラフトテープ(ガムテープ)等で固定して継手部材34の内部に挿入するものである。
【0072】
さらに、充填材40の所定部位に、所定形状(例えば、嵌挿される雄側部材の嵌挿部位の形状に対応した形状)の開口40bを設けてもよい(
図14(e)参照)。なお、充填材40の所定部位に、切れ目又は分割線40aと開口40bの両方を設けてもよい。
【0073】
継手装置30の製作に際して、施工現場の施工状況や工場等での製作状況に応じて、継手部材34を鋼製構造部材32に取り付けない状態にしておき、施工の適当な時点において、継手部材34を鋼製構造部材32に取り付けるようにしてもよい。
【0074】
嵌合用スリット36が
図6に示される形態の場合には、非切断部36bの切断時期を、鋼製構造部材32への継手部材34の取り付けの前又は後のいずれにしてもよい。また、継手部材34の内部に固体状の充填材40を充填する場合には、非切断部36bを切断した後に実施するのが好ましい。継手部材34の内部に固体状の充填材40が充填された鋼製構造部材32を地盤中に貫入させる場合には、固体状の充填材40が継手部材34の軸方向に移動したり回転したりしないような工夫を施すことが望ましい。
【0075】
なお、壁体10は、多数の鋼製構造部材32を嵌合させ又は配設させ、下方部を下方支持体中に埋設することによって形成される。下方支持体は、基礎地盤又はコンクリートフーチング等である。基礎地盤には、改良土によって形成される地盤も含まれる。壁体10の基礎地盤への埋設は、バイブロハンマによる振動打設、油圧ハンマによる衝撃打設、油圧圧入装置による圧入などによって行われる。
【0076】
本発明は、以上の発明の実施の形態に限定されることなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で、種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【0077】
例えば、図示されている構成要素の細部は、単なる例示的なものにすぎず、これらの細部を修正してもよい。
【符号の説明】
【0078】
10 壁体
12、14 前壁、後壁
16、18 隔壁
20 函体
22 内部空間
30 継手装置
32 鋼製構造部材(ハット形鋼矢板、鋼管杭)
32a フランジ
32b アーム部
32c 継手部
32d ウェブ
34 継手部材
36 嵌合用スリット
38 固定部材
40 充填材
40a 切れ目、分割線
40b 開口