(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-22
(45)【発行日】2022-01-18
(54)【発明の名称】ハロゲン化亜鉛水溶液の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01G 9/04 20060101AFI20220111BHJP
【FI】
C01G9/04
(21)【出願番号】P 2019519531
(86)(22)【出願日】2018-04-25
(86)【国際出願番号】 JP2018016882
(87)【国際公開番号】W WO2018216427
(87)【国際公開日】2018-11-29
【審査請求日】2021-01-21
(31)【優先権主張番号】P 2017101064
(32)【優先日】2017-05-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】福地 陽介
(72)【発明者】
【氏名】中村 敦
(72)【発明者】
【氏名】井上 希
(72)【発明者】
【氏名】日野 光宏
(72)【発明者】
【氏名】関口 友己
【審査官】手島 理
(56)【参考文献】
【文献】特開昭54-115698(JP,A)
【文献】特開昭54-115305(JP,A)
【文献】国際公開第2007/125972(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数3以下のアルコールとハロゲン化亜鉛と亜鉛とを含有する混合物に水とハロゲン化水素を添加して混合液を得る添加工程と、
前記混合液を蒸留して前記炭素数3以下のアルコールを前記混合液から除去しハロゲン化亜鉛水溶液を得る蒸留工程と、
を備えるハロゲン化亜鉛水溶液の製造方法。
【請求項2】
有機溶剤とハロゲン化亜鉛と亜鉛とを含有する混合物から前記有機溶剤を除去した後に炭素数3以下のアルコールを添加することにより、前記炭素数3以下のアルコールとハロゲン化亜鉛と亜鉛とを含有する混合物を調製する混合物調製工程を備え、
該混合物調製工程により得られた前記炭素数3以下のアルコールとハロゲン化亜鉛と亜鉛とを含有する混合物を前記添加工程に供する請求項1に記載のハロゲン化亜鉛水溶液の製造方法。
【請求項3】
塩素及びフッ素を有する炭化水素化合物である塩素化フッ素化化合物の脱塩素化反応を亜鉛存在下で行うことにより得られた反応液を、前記炭素数3以下のアルコールとハロゲン化亜鉛と亜鉛とを含有する混合物として使用し、前記ハロゲン化水素が塩化水素であり、前記ハロゲン化亜鉛が塩化亜鉛である請求項1に記載のハロゲン化亜鉛水溶液の製造方法。
【請求項4】
塩素及びフッ素を有する炭化水素化合物である塩素化フッ素化化合物の脱塩素化反応を亜鉛存在下で行うことにより得られた反応液を、前記有機溶剤とハロゲン化亜鉛と亜鉛とを含有する混合物として使用し、前記ハロゲン化水素が塩化水素であり、前記ハロゲン化亜鉛が塩化亜鉛である請求項2に記載のハロゲン化亜鉛水溶液の製造方法。
【請求項5】
前記ハロゲン化水素が塩化水素であり、前記ハロゲン化亜鉛が塩化亜鉛である請求項1又は請求項2に記載のハロゲン化亜鉛水溶液の製造方法。
【請求項6】
前記蒸留工程において前記混合液を50℃以上150℃以下に加熱して蒸留を行う請求項1~5のいずれか一項に記載のハロゲン化亜鉛水溶液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はハロゲン化亜鉛水溶液の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属亜鉛は、その還元性を利用して、有機合成に用いられることがある。例えば、特許文献1には、フッ素原子及び塩素原子を有するハロゲン化炭化水素に金属亜鉛を接触させて塩素原子を脱離させる脱ハロゲン化反応を行い、フッ素化オレフィンを製造する技術が開示されている。この反応においては、塩化亜鉛を含有する溶液が得られるが、生成した塩化亜鉛の利用方法については言及されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、ハロゲン化亜鉛を含有する混合物から高純度のハロゲン化亜鉛水溶液を製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するため、本発明の一態様は以下の[1]~[6]の通りである。
[1] 炭素数3以下のアルコールとハロゲン化亜鉛と亜鉛とを含有する混合物に水とハロゲン化水素を添加して混合液を得る添加工程と、
前記混合液を蒸留して前記炭素数3以下のアルコールを前記混合液から除去しハロゲン化亜鉛水溶液を得る蒸留工程と、
を備えるハロゲン化亜鉛水溶液の製造方法。
【0006】
[2] 有機溶剤とハロゲン化亜鉛と亜鉛とを含有する混合物から前記有機溶剤を除去した後に炭素数3以下のアルコールを添加することにより、前記炭素数3以下のアルコールとハロゲン化亜鉛と亜鉛とを含有する混合物を調製する混合物調製工程を備え、
該混合物調製工程により得られた前記炭素数3以下のアルコールとハロゲン化亜鉛と亜鉛とを含有する混合物を前記添加工程に供する[1]に記載のハロゲン化亜鉛水溶液の製造方法。
【0007】
[3] 塩素及びフッ素を有する炭化水素化合物である塩素化フッ素化化合物の脱塩素化反応を亜鉛存在下で行うことにより得られた反応液を、前記炭素数3以下のアルコールとハロゲン化亜鉛と亜鉛とを含有する混合物として使用し、前記ハロゲン化水素が塩化水素であり、前記ハロゲン化亜鉛が塩化亜鉛である[1]に記載のハロゲン化亜鉛水溶液の製造方法。
【0008】
[4] 塩素及びフッ素を有する炭化水素化合物である塩素化フッ素化化合物の脱塩素化反応を亜鉛存在下で行うことにより得られた反応液を、前記有機溶剤とハロゲン化亜鉛と亜鉛とを含有する混合物として使用し、前記ハロゲン化水素が塩化水素であり、前記ハロゲン化亜鉛が塩化亜鉛である[2]に記載のハロゲン化亜鉛水溶液の製造方法。
[5] 前記ハロゲン化水素が塩化水素であり、前記ハロゲン化亜鉛が塩化亜鉛である[1]又は[2]に記載のハロゲン化亜鉛水溶液の製造方法。
[6] 前記蒸留工程において前記混合液を50℃以上150℃以下に加熱して蒸留を行う[1]~[5]のいずれか一項に記載のハロゲン化亜鉛水溶液の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ハロゲン化亜鉛を含有する混合物から高純度のハロゲン化亜鉛水溶液を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明に係るハロゲン化亜鉛水溶液の製造方法の一実施形態を説明するフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一実施形態について以下に説明する。なお、本実施形態は本発明の一例を示したものであって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。また、本実施形態には種々の変更又は改良を加えることが可能であり、その様な変更又は改良を加えた形態も本発明に含まれ得る。
【0012】
本実施形態のハロゲン化亜鉛水溶液の製造方法は、炭素数3以下のアルコールとハロゲン化亜鉛と亜鉛とを含有する混合物(以下、「混合物1」と記すこともある)に水とハロゲン化水素を添加して混合液を得る添加工程と、上記の混合液を蒸留して炭素数3以下のアルコールを上記の混合液から除去しハロゲン化亜鉛水溶液を得る蒸留工程と、を備える。
【0013】
本実施形態のハロゲン化亜鉛水溶液の製造方法は、有機溶剤とハロゲン化亜鉛と亜鉛とを含有する混合物(以下、「混合物2」と記すこともある)から有機溶剤を除去した後に炭素数3以下のアルコールを添加することにより、炭素数3以下のアルコールとハロゲン化亜鉛と亜鉛とを含有する混合物(混合物1)を調製する混合物調製工程をさらに備えてもよく、該混合物調製工程により得られた混合物1を添加工程に供してもよい。
【0014】
ハロゲンの種類は特に限定されるものではなく、フッ素、塩素、臭素、及びヨウ素から選ぶことができる。例えば、炭素数3以下のアルコールとハロゲン化亜鉛と亜鉛とを含有する混合物(混合物1)は、ハロゲン化亜鉛として塩化亜鉛、フッ化亜鉛、臭化亜鉛、ヨウ化亜鉛から選択できる。混合物1に添加するハロゲン化水素については、ハロゲン化亜鉛のハロゲンとして選択したものと同種のハロゲンを有するハロゲン化水素を選択することが好ましい。つまり、ハロゲン化亜鉛が塩化亜鉛の場合にはハロゲン化水素は塩化水素を選択し、ハロゲン化亜鉛がフッ化亜鉛の場合にはハロゲン化水素はフッ化水素を選択することが好ましい。
【0015】
以下に、上記のような本実施形態のハロゲン化亜鉛水溶液の製造方法について、
図1に示すフロー図を参照しながら、さらに詳細に説明する。
本実施形態のハロゲン化亜鉛水溶液の製造方法においては、塩素及びフッ素を有する炭化水素化合物である塩素化フッ素化化合物(例えば1,2,3,4-テトラクロロヘキサフルオロブタン)の脱塩素化反応(反応工程)を亜鉛存在下で行うことにより得られた反応液を、炭素数3以下のアルコールとハロゲン化亜鉛と亜鉛とを含有する混合物(混合物1)として、添加工程に供してもよい。この場合は、ハロゲン化水素は塩化水素であり、ハロゲン化亜鉛は塩化亜鉛である。また、脱塩素化反応は炭素数3以下のアルコール中で行われ、得られた反応液は炭素数3以下のアルコールを溶媒とする溶液である。
【0016】
また、本実施形態のハロゲン化亜鉛水溶液の製造方法においては、混合物調製工程を備える場合には、塩素及びフッ素を有する炭化水素化合物である塩素化フッ素化化合物の脱塩素化反応を亜鉛存在下で行うことにより得られた反応液を、有機溶剤(炭素数3以下のアルコール以外の有機溶剤)とハロゲン化亜鉛と亜鉛とを含有する混合物(混合物2)として、混合物調製工程に供してもよい。この場合は、ハロゲン化水素は塩化水素であり、ハロゲン化亜鉛は塩化亜鉛である。また、脱塩素化反応は上記の有機溶剤(炭素数3以下のアルコール以外の有機溶剤)中で行われ、得られた反応液は上記の有機溶剤を溶媒とする溶液である。この有機溶剤としては、例えば、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、ジオキサン、酢酸、アルコール、芳香族炭化水素、又はこれらの混合溶剤が使用可能である。
【0017】
このような本実施形態のハロゲン化亜鉛水溶液の製造方法によれば、ハロゲン化亜鉛を含有する混合物から、工業的に有用な高純度のハロゲン化亜鉛水溶液を製造することができる。例えば、上記のように、亜鉛を利用した有機化合物の還元反応や脱ハロゲン化反応によって得られる、ハロゲン化亜鉛及び亜鉛を含有する反応液から、高純度のハロゲン化亜鉛水溶液を製造することができる。亜鉛を利用した脱ハロゲン化反応の例としては、上記のように、塩素及びフッ素を有する炭化水素化合物である塩素化フッ素化化合物の亜鉛存在下での脱塩素化反応が挙げられる。
【0018】
通常、亜鉛を用いた有機化合物の脱塩素化反応は、次のような工程を備える方法により実施される。即ち、塩素化化合物と亜鉛を適当な有機溶剤、例えば、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、ジオキサン、酢酸、アルコール、芳香族炭化水素、又はこれらの混合溶剤に混合する工程と、加熱又は撹拌等により塩素化化合物の脱塩素化反応を実施する工程と、得られた脱塩素化した生成物、塩化亜鉛、未反応の亜鉛、未反応の塩素化化合物、副生成物、使用した有機溶剤の混合物から、脱塩素化した生成物、未反応の塩素化化合物、副生成物などの大半を、それぞれの性質に応じた手段により分離する工程と、使用した有機溶剤を蒸留などの方法により取り除く工程と、を備える方法である。
【0019】
このような方法による脱塩素化反応の結果、大量の塩化亜鉛、未反応の亜鉛、使用した有機溶剤の残留物等を含有する混合物(混合物2)が得られる。当然のことながら、この混合物2には、少量の未反応の塩素化化合物、副生成物、目的生成物、有機溶剤、その他の不純物が含有される場合もある。
そして、混合物調製工程として、この混合物2に含有される有機溶媒を蒸留等によって除去し、その後に炭素数3以下のアルコールを添加することによって、「炭素数3以下のアルコールとハロゲン化亜鉛と亜鉛とを含有する混合物(混合物1)」を得ることができる。
【0020】
また、亜鉛を用いた脱ハロゲン化反応が、炭素数3以下のアルコールを有機溶剤として用いて行われる場合もある。この場合は、反応終了後に、目的生成物、未反応の塩素化化合物、副生成物をそれぞれ適当な手段で取り除くことにより、本発明における「炭素数3以下のアルコールとハロゲン化亜鉛と亜鉛とを含有する混合物(混合物1)」を直接的に得ることができる。
【0021】
こうして得られる「混合物1」は、資源として利用できるハロゲン化亜鉛を大量に含有する。しかしながら、単に炭素数3以下のアルコールを蒸留等により除去した場合には、複雑な軽石状の物質が生成する。この軽石状の物質は、亜鉛や、脱ハロゲン化反応などに由来する有機化合物類などを含んだまま固形化したハロゲン化亜鉛であるとみられ、この軽石状の物質を使って得られるハロゲン化亜鉛水溶液は、非常に純度が低いものであった。
【0022】
「混合物1」に水とハロゲン化水素を添加することにより(添加工程)、ハロゲン化亜鉛は十分に溶解し、また、亜鉛もハロゲン化水素との反応によりハロゲン化亜鉛に変化する。特に、亜鉛を用いた脱ハロゲン化反応により生成するハロゲン化亜鉛が塩化亜鉛である場合は、水と塩化水素(塩酸)を添加することにより、未反応の亜鉛は塩化亜鉛に変化する。
【0023】
このように、「混合物1」に水とハロゲン化水素を添加する添加工程により、軽石状の物質が生成することなく、脱ハロゲン化反応などに由来する少量の有機化合物類等の不純物は解放された状態となる。この状態の混合物を次の工程の蒸留工程に供することで、前記不純物は取り除くことができるようになる。なお、この蒸留工程の前に、必要に応じて前記混合物をろ過し、そのろ液を蒸留工程に供してもよい。
【0024】
炭素数3以下のアルコールとしては、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノールがあげられる。これらのアルコールは、ハロゲン化亜鉛を良く溶解するため好適である。また、これらのアルコールは、水よりも低い適度な沸点を有するため、水からの分離が容易である上、蒸留工程等において不純物の除去が容易である。
【0025】
炭素数4以上のアルコールは沸点が高すぎるため、水からの分離が煩雑になるという問題がある。水よりも沸点が低いと、蒸留工程において選択的に蒸留により留去できるため、最終的にハロゲン化亜鉛水溶液を得るのに好適である。これらのアルコールの中では、2-プロパノールが、取扱い性、入手の容易性、高沸点といった観点のバランスの点で最も好ましい。
【0026】
また、炭素数4以上のアルコールは、ハロゲン化亜鉛の溶解度が十分ではないので、混合物中の各種成分の溶解に支障を生じるおそれがある。
このように、炭素数3以下のアルコールはハロゲン化亜鉛水溶液の製造において好適であるので、このことを考慮して、亜鉛を用いた脱ハロゲン化反応を炭素数3以下のアルコール(特に2-プロパノール)中で行ってもよい。
【0027】
塩素化フッ素化化合物の溶解性を向上させるために、必要により、炭素数3以下のアルコールに他の溶剤を混合して、亜鉛を用いた脱ハロゲン化反応に使用してもよい。混合する他の溶剤としては、例えば、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、ジオキサン、酢酸、炭素数4以上のアルコール、芳香族炭化水素、又はこれらの混合物があげられる。他の溶剤を使用した場合には、脱ハロゲン化反応により得られた反応液から、炭素数3以下のアルコール及びこれら他の溶剤を除去した後に、炭素数3以下のアルコールを添加すればよい。
【0028】
添加工程においては、「混合物1」に水とハロゲン化水素を添加するが、「混合物1」に対する水の質量比は、0.5以上2.0以下の範囲内であることが好ましい。
水としては、水道水、イオン交換水、蒸留水、純水、超純水等を用いることができるが、純水又は超純水が好ましい。
【0029】
添加工程において添加するハロゲン化水素の量は、亜鉛をハロゲン化亜鉛に変換できる当量を超える量であることが好ましい。なお、亜鉛が残留した場合には、ろ過等で分離してもよい。塩化亜鉛水溶液を製造する場合には、「水とハロゲン化水素」として塩酸が好適に添加される。塩酸の濃度は特に限定されるものではないが、1.0質量%以上37.0質量%以下が好ましい。
「混合物1」に水とハロゲン化水素を添加した後に、亜鉛とハロゲン化水素の反応や固形分の溶解に対して必要であれば、加熱や撹拌を行ってもよい。
【0030】
蒸留工程における蒸留条件は、添加工程において得られた混合液から炭素数3以下のアルコールを除去できるならば特に限定されるものではないが、添加工程において得られた混合液を50℃以上150℃以下、好ましくは50℃以上90℃以下に加熱して蒸留を行ってもよい。また、蒸留時の圧力条件は、常圧であってもよいし、減圧であってもよい。例えば、単蒸留によって、炭素数3以下のアルコールを低沸点物として塔頂から留去することでもよい。このような蒸留条件であれば、添加工程において得られた混合液から炭素数3以下のアルコールを効率良く除去することができる。
【0031】
添加工程や蒸留工程の前又は後に、適宜、他の工程を行っても差し支えない。例えば、得られたハロゲン化亜鉛水溶液に着色があった場合には、蒸留工程の後にハロゲン化亜鉛水溶液を精製剤に接触させてもよい。精製剤としては、活性炭に代表される炭素質固体材料、ゼオライト、活性アルミナ、シリカゲル等があげられるが、活性炭が好ましい。
【0032】
さらに、添加工程の後又は蒸留工程の後に、濾過、遠心沈降等の工程を行って、不溶物を除去してもよい。また、フッ素イオンなどのような望ましくない成分が混入していた場合には、添加工程の後又は蒸留工程の後に、カルシウム塩などと接触させることにより取り除く工程を行ってもよい。
【実施例】
【0033】
以下に実施例及び比較例を示して、本発明をより詳細に説明する。
〔実施例1〕
<反応工程>
内容積500mLのSUS316製オートクレーブに、有機溶剤として2-プロパノール119gと、顆粒状の金属亜鉛82.4gを仕込んだ。このオートクレーブは、冷却構造を有するジャケットと攪拌機を上部に備えており、加熱方式はジャケット加熱方式である。
【0034】
オートクレーブの内容物を攪拌しながら、温度を70℃に昇温した。そして、常圧下でオートクレーブの内容物の温度を70℃に保持しながら、1,2,3,4-テトラクロロヘキサフルオロブタン149gを1時間当たり9.31gの滴下速度で滴下した後、5時間反応を行った。5時間の反応が終了したら、反応液の温度をさらに上昇させて有機溶剤(2-プロパノール)の一部と生成物を気化させ、これらの蒸気を冷却し液化させて捕集した。そして、得られた液体を単蒸留し、主として生成物を含有する気相と主として有機溶剤を含有する液相とを分離した。分離した生成物をガスクロマトグラフィーで分析した結果、ヘキサフルオロ-1,3-ブタジエンが94.5体積%で、その他の成分が5.5体積%であった。
【0035】
<添加工程>
反応工程で得られた反応液(温度をさらに上昇させて有機溶剤の一部と生成物を気化させた後の反応液)150gに、水150g及び35質量%塩酸2.5gを加え撹拌した後に、定量分析用5種Bの濾紙を用いて濾過し、不溶物をろ別して混合液を得た。
【0036】
<蒸留工程>
添加工程により得られた混合液を単蒸留することにより、有機溶剤(2-プロパノール)を留去した。2-プロパノールを含む蒸留留分が合計150gになるまで蒸留を行った後に、蒸留残渣を回収したところ、塩化亜鉛濃度51質量%の塩化亜鉛水溶液を得た。この塩化亜鉛水溶液は、下記純度測定結果から明らかなように、十分に工業的価値のある純度を有していた。
【0037】
<純度の測定>
塩化亜鉛水溶液の純度は、以下の2つの方法により測定した。
[測定1]
エチレンジアミン四酢酸(EDTA)を用いたキレート滴定にて塩化亜鉛水溶液中の亜鉛を定量し、塩化亜鉛量に換算した。ここで、塩化亜鉛水溶液中の亜鉛は全て塩化亜鉛として存在していると仮定した。
次に、塩化亜鉛水溶液中の水をカールフィッシャー法にて定量分析した。そして、塩化亜鉛水溶液の全体量から、塩化亜鉛の量及び水の量を差し引いた残部を塩化亜鉛水溶液中の不純物量とした。その結果、塩化亜鉛水溶液の不純物量は、検出限界未満であった。
【0038】
[測定2]
塩化亜鉛水溶液をガスクロマトグラフィーによって分析した。塩化亜鉛及び水以外の成分として定量検出できたものは、イソプロピルアルコール832質量ppmのみであった。その他の不純物としては、ジイソプロピルエーテル及びフロン類が検出されたが、微量であるため定量できなかった。
【0039】
〔実施例2〕
<反応工程>
実施例1と同様である。
<添加工程>
実施例1と同様である。
【0040】
<蒸留工程>
添加工程により得られた混合液をロータリーエバポレーターにて蒸留することにより、有機溶剤(2-プロパノール)を留去した。2-プロパノールを含む蒸留留分が合計150gになるまで蒸留を行った後に、蒸留残渣を回収したところ、塩化亜鉛濃度48質量%の塩化亜鉛水溶液を得た。この塩化亜鉛水溶液は、下記純度測定結果から明らかなように、十分に工業的価値のある純度を有していた。
【0041】
<純度の測定>
実施例1と同様にして、塩化亜鉛水溶液の純度を測定した。
[測定1]
塩化亜鉛水溶液の不純物量は、検出限界未満であった。
[測定2]
塩化亜鉛及び水以外の成分として定量検出できたものは、2-プロパノール1002質量ppmのみであった。その他の不純物としては、ジイソプロピルエーテル及びフロン類が検出されたが、微量であるため定量できなかった。
【0042】
〔実施例3〕
<反応工程>
実施例1と同様である。
<添加工程>
反応工程で得られた反応液(温度をさらに上昇させて有機溶剤の一部と生成物を気化させた後の反応液)500gに、水500g及び35質量%塩酸7.0gを加え撹拌した後に、定量分析用5種Bの濾紙を用いて濾過し、不溶物をろ別して混合液を得た。
【0043】
<蒸留工程>
添加工程により得られた混合液を、段数5段のオルダーショウ式蒸留装置を用いて還流比5:1で蒸留し、有機溶剤(2-プロパノール)を留去した。2-プロパノールを含む蒸留留分が合計500gになるまで蒸留を行った後に、蒸留残渣を回収したところ、塩化亜鉛濃度49%の塩化亜鉛水溶液を得た。この塩化亜鉛水溶液は、下記純度測定結果から明らかなように、十分に工業的価値のある純度を有していた。
【0044】
<純度の測定>
実施例1と同様にして、塩化亜鉛水溶液の純度を測定した。
[測定1]
塩化亜鉛水溶液の不純物量は、検出限界未満であった。
[測定2]
塩化亜鉛及び水以外の成分として定量検出できたものは、2-プロパノール488質量ppmのみであった。その他の不純物としては、ジイソプロピルエーテル及びフロン類が検出されたが、微量であるため定量できなかった。
【0045】
〔実施例4〕
<反応工程>
内容積500mLのSUS316製オートクレーブに、有機溶剤としてテトラヒドロフラン140gと、顆粒状の金属亜鉛82.4gを仕込んだ。このオートクレーブは、冷却構造を有するジャケットと攪拌機を上部に備えており、加熱方式はジャケット加熱方式である。
【0046】
オートクレーブの内容物を攪拌しながら、温度を60℃に昇温した。そして、常圧でオートクレーブの内容物の温度を60℃に保持しながら、1,2,3,4-テトラクロロヘキサフルオロブタン149gを1時間当たり9.31gの滴下速度で滴下した後、5時間反応を行った。5時間の反応が終了したら、反応液の温度をさらに上昇させて有機溶剤(テトラヒドロフラン)の一部と生成物を気化させ、これらの蒸気を冷却し液化させて捕集した。そして、得られた液体を単蒸留し、主として生成物を含有する気相と主として有機溶剤を含有する液相を分離した。分離した生成物をガスクロマトグラフィーで分析した結果、ヘキサフルオロ-1,3-ブタジエンが93.2体積%で、その他の成分が6.8体積%であった。
【0047】
<混合物調製工程>
反応工程で得られた反応液(温度をさらに上昇させて有機溶剤の一部と生成物を気化させた後の反応液(混合物2))150gを減圧単蒸留することで、残渣として塩化亜鉛を含む軽石状物質90gを得て、これに2-プロパノール80gを添加して混合物1を得た。
<添加工程>
混合物調製工程で得られた混合物2に、水150g及び35質量%塩酸2.5gを加え撹拌した後に、定量分析用5種Bの濾紙を用いて濾過し、不溶物をろ別して混合液を得た。
【0048】
<蒸留工程>
添加工程により得られた混合液を単蒸留することにより、有機溶剤(主成分2-プロパノール)を留去した。2-プロパノールを含む蒸留留分が合計180gになるまで蒸留を行った後に、蒸留残渣を回収したところ、塩化亜鉛濃度52質量%の塩化亜鉛水溶液を得た。この塩化亜鉛水溶液は、下記純度測定結果から明らかなように十分に工業的価値のある純度を有していた。
【0049】
<純度の測定>
実施例1と同様にして、塩化亜鉛水溶液の純度を測定した。
[測定1]
塩化亜鉛水溶液の不純物量は、検出限界未満であった。
[測定2]
塩化亜鉛及び水以外の成分として定量検出できたものは、2-プロパノール1002質量ppmのみであった。その他の不純物としては、テトラヒドロフラン、ジイソプロピルエーテル及びフロン類が検出されたが、微量であるため定量できなかった。
【0050】
〔比較例1〕
<反応工程>
実施例1と同様である。
<添加工程>
反応工程で得られた反応液(温度をさらに上昇させて有機溶剤の一部と生成物を気化させた後の反応液)150gを、定量分析用5種Bの濾紙を用いて濾過し、不溶物をろ別して、ろ液を得た。
【0051】
<蒸留工程>
添加工程で得られた濾液を加熱して有機溶剤(2-プロパノール)を蒸発させ、固形物を除去した後に水75gを加え、塩化亜鉛濃度45質量%の塩化亜鉛水溶液を得た。得られた塩化亜鉛水溶液は、下記純度測定結果から明らかなように、不純物を多く含有し、工業的には価値の低いものであった。
<純度の測定>
実施例1と同様にして、塩化亜鉛水溶液の純度を測定した。
[測定1]
塩化亜鉛水溶液の不純物量は、5質量%であった。