(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-23
(45)【発行日】2022-02-14
(54)【発明の名称】透明導電基体
(51)【国際特許分類】
H01B 5/14 20060101AFI20220111BHJP
【FI】
H01B5/14 A
(21)【出願番号】P 2021564321
(86)(22)【出願日】2021-05-18
(86)【国際出願番号】 JP2021018744
【審査請求日】2021-10-28
(31)【優先権主張番号】P 2020142591
(32)【優先日】2020-08-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102716
【氏名又は名称】在原 元司
(72)【発明者】
【氏名】山木 繁
(72)【発明者】
【氏名】米田 周平
【審査官】北嶋 賢二
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-35213(JP,A)
【文献】国際公開第2018/101334(WO,A1)
【文献】特開2020-102362(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 5/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基材と、
前記透明基材の少なくとも一方の主面上に形成された透明導電膜と、
を含む透明導電基体であって、
前記透明導電基体の裁断部分の真直度が0.050mm以下であ
り、
曲率半径2.0mmに設定したクラムシェル型耐久試験機を用いて、前記透明導電基体を20万回屈曲する屈曲試験に供される前の前記透明導電基体の抵抗値(R
0
)に対する、前記屈曲試験に供された後の抵抗値(R)の比(R/R
0
)が2.0以下であることを特徴とする透明導電基体。
【請求項2】
さらに、曲率半径0.5mmに設定したクラムシェル型耐久試験機を用いて、前記透明導電基体を20万回屈曲する屈曲試験に供される前の前記透明導電基体の抵抗値(R
0
)に対する、前記屈曲試験に供された後の抵抗値(R)の比(R/R
0
)が2.0以下である、請求項1に記載の透明導電基体。
【請求項3】
前記透明導電膜が少なくともバインダー樹脂および導電性繊維を含み、前記透明導電膜上に保護膜を有する、請求項1
または2に記載の透明導電基体。
【請求項4】
前記導電性繊維が金属ナノワイヤである、
請求項3に記載の透明導電基体。
【請求項5】
前記金属ナノワイヤが銀ナノワイヤである、
請求項4に記載の透明導電基体。
【請求項6】
前記バインダー樹脂がアルコール、水、あるいはアルコールと水との混合溶媒に可溶なバインダー樹脂である、
請求項3~5のいずれかに記載の透明導電基体。
【請求項7】
前記バインダー樹脂が、ポリ-N-ビニルピロリドン、親水性セルロース系樹脂、ブチラール樹脂、ポリ-N-ビニルアセトアミドからなる群のいずれかを含む、
請求項3~6のいずれかに記載の透明導電基体。
【請求項8】
前記透明基材がシクロオレフィンポリマー(COP)フィルムである、請求項1~
7のいずれかに記載の透明導電基体。
【請求項9】
前記シクロオレフィンポリマー(COP)フィルムの厚みが1~50μmである、請求項8に記載の透明導電基体。
【請求項10】
前記シクロオレフィンポリマー(COP)フィルムの厚みが5~25μmである、
請求項9に記載の透明導電基体。
【請求項11】
前記シクロオレフィンポリマー(COP)フィルムのガラス転移温度(Tg)が100~170℃にある、
請求項8~10のいずれかに記載の透明導電基体。
【請求項12】
前記保護膜が硬化性樹脂組成物の硬化膜からなり、前記硬化性樹脂組成物の固形分中の芳香環含有化合物の含有割合が15質量%以下である、
請求項3~7のいずれかに記載の透明導電基体。
【請求項13】
前記透明基材が長尺または長尺から切り出された樹脂フィルムであり、長尺の長手方向に垂直な方向を屈曲軸として折り畳み可能である、請求項1
または2に記載の透明導電基体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明導電基体に関する。
【背景技術】
【0002】
透明導電膜は、液晶ディスプレイ(LCD)、プラズマディスプレイパネル(PDP)、有機エレクトロルミネッセンス型ディスプレイ、太陽電池(PV)およびタッチパネル(TP)の透明電極、帯電防止(ESD)フィルムならびに電磁波遮蔽(EMI)フィルム等の種々の分野で使用されている。これらの透明導電膜としては、従来、ITO(酸化インジウム錫)を用いたものが使われている。
【0003】
近年、スマートフォンやカーナビゲーションシステム、自動販売機などにもタッチパネルが採用されている。特に、折り曲げ可能なスマートフォンが注目を集めていることから、タッチパネルも折り曲げ可能なものが求められている。
【0004】
折り曲げ可能なタッチパネルを実現するためには、折り曲げ可能な透明フィルムと透明導電膜、すなわち耐屈曲性に優れた透明導電フィルムが必要不可欠である。折り曲げ可能なスマートフォンへの適用を考えた場合、折り曲げ時の曲率半径は可能な限り小さく、繰り返し折り曲げても外観(破断等)変化が無く、性能(抵抗)変化が可能な限り小さいことが望ましい。
【0005】
特に、折り曲げ可能なフォルダブル型スマートフォンを製造するには、曲率半径が2.0mm以下で20万回以上の屈曲に耐えることが必要である。また、透明導電フィルムのシート抵抗は100Ω/□以下であることが望ましい。
【0006】
また、透明導電フィルムをスマートフォンといったデバイスに組み入れる際には、透明樹脂フィルム基材上に導電層と保護膜を形成した後、デバイスの大きさに合わせて、透明導電フィルムの大きさを調整(裁断)する工程が生じる。
【0007】
従来タッチパネル用透明導電フィルムに用いられる透明導電膜はITOなどの金属酸化物が主であることから、折り曲げると割れてしまい導電性が顕著に悪化するという欠点がある。この問題を解決する次世代透明導電膜として、金属ナノワイヤの開発が進んでいる。
【0008】
特許文献1にはフィルムを円筒形状に折り曲げるマンドレル試験後も導電性を維持する銀ナノワイヤフィルムが示されている。しかし曲率半径が5mmと大きく、繰り返し回数も20回程度しか評価されていない。またフィルムの裁断方法の記載がない。
【0009】
特許文献2には屈曲性に優れる銀ナノワイヤ-シクロオレフィンポリマー(COP)フィルムが示されているが、曲率半径が5mmと大きく、繰り返し回数も1万回程度しか評価されていない。
【0010】
特許文献3にも屈曲性に優れる銀ナノワイヤ-COPフィルムが示されているが、曲率半径は2.5mmと大きいことに加え、実施例に示される導電フィルムの表面抵抗値がいずれも150Ω/sq.以上と、タッチパネルを作製するには高抵抗である。
【0011】
なお、本出願人は、先に透明基材と、透明基材の少なくとも一方の主面上に形成された、バインダー樹脂および導電性繊維(金属ナノワイヤ)を含む透明導電膜と、透明導電膜上に形成された保護膜とを有する透明導電基板を特許文献4により開示しているが、特許文献4においては耐屈曲性という課題については触れておらず、耐屈曲性を発現するためにどのような構成が好適であるかについては記載も示唆もしていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開2013-225460号公報
【文献】国際公開第2019/151293号パンフレット
【文献】国際公開第2018/003713号パンフレット
【文献】国際公開第2018/101334号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、良好な光学特性、電気特性に加えて耐屈曲性に優れた透明導電基体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は以下の実施態様を含む。
【0015】
[1]透明基材と、前記透明基材の少なくとも一方の主面上に形成された透明導電膜と、を含む透明導電基体であって、前記透明導電基体の裁断部分の真直度が0.050mm以下であることを特徴とする透明導電基体。
【0016】
[2]前記透明導電膜が少なくともバインダー樹脂および導電性繊維を含み、前記透明導電膜上に保護膜を有する、[1]に記載の透明導電基体。
【0017】
[3]前記導電性繊維が金属ナノワイヤである、[2]に記載の透明導電基体。
【0018】
[4]前記金属ナノワイヤが銀ナノワイヤである、[3]に記載の透明導電基体。
【0019】
[5]前記バインダー樹脂がアルコール、水、あるいはアルコールと水との混合溶媒に可溶なバインダー樹脂である、[2]~[4]のいずれかに記載の透明導電基体。
【0020】
[6]前記バインダー樹脂が、ポリ-N-ビニルピロリドン、親水性セルロース系樹脂、ブチラール樹脂、ポリ-N-ビニルアセトアミドからなる群のいずれかを含む、[2]~[5]のいずれかに記載の透明導電基体。
【0021】
[7]前記透明基材がシクロオレフィンポリマー(COP)フィルムである[1]~[6]のいずれかに記載の透明導電基体。
【0022】
[8]前記シクロオレフィンポリマー(COP)フィルムの厚みが5~25μmである、[7]に記載の透明導電基体。
【0023】
[9]前記シクロオレフィンポリマー(COP)フィルムのガラス転移温度(Tg)が100~170℃にある、[7]または[8]に記載の透明導電基体。
【0024】
[10]前記保護膜が硬化性樹脂組成物の硬化膜からなり、前記硬化性樹脂組成物の固形分中の芳香環含有化合物の含有割合が15質量%以下である、[2]~[6]のいずれかに記載の透明導電基体。
【0025】
[11]前記透明基材が長尺または長尺から切り出された樹脂フィルムであり、長尺の長手方向に垂直な方向を屈曲軸として折り畳み可能である、[1]に記載の透明導電基体。
【0026】
[12]曲率半径0.5mmに設定したクラムシェル型耐久試験機を用いて、前記透明導電基体を20万回屈曲する屈曲試験に供される前の前記透明導電基体の抵抗値(R0)に対する、前記屈曲試験に供された後の抵抗値(R)の比(R/R0)が2.0以下である、[1]~[11]に記載の透明導電基体。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、良好な光学特性、電気特性に加えて耐屈曲性に優れた透明導電基体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】樹脂フィルムからサンプルを切り出す方法の説明図である。
【
図3】トムソン加工で作製した裁断部分(真直度0.028mm)のレーザー顕微鏡観察画像を示す図である。
【
図4】ディスクカッターで作製した裁断部分(真直度0.050mm)のレーザー顕微鏡観察画像を示す図である。
【
図5】レーザー切断で作製した裁断部分(真直度0.060mm)のレーザー顕微鏡観察画像を示す図である。
【
図6】カッターナイフで作製した裁断部分(真直度0.176mm)のレーザー顕微鏡観察画像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明を実施するための形態(以下、実施形態という)を説明する。
【0030】
実施形態にかかる透明導電基体は、透明基材と、透明基材の少なくとも一方の主面上に形成された透明導電膜とを有し、上記透明基材の裁断部分の真直度が0.050mm以下であることを特徴とする。なお、本明細書において「透明」とは、全光線透過率が75%以上であることを意味する。
【0031】
また、上記透明導電膜は、少なくともバインダー樹脂および導電性繊維を含んで構成され、透明導電膜の上には、透明導電膜を保護する保護膜を形成してもよい。
【0032】
<透明基材>
上記透明基材は非導電性であれば特に限定されない。無色が好適であるが、着色していてもよい。ただし、全光線透過率(可視光に対する透明性)は高い方が好ましく、全光線透過率が80%以上であることが好ましい。例えば、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート[PET]、ポリエチレンナフタレート[PEN]等)、ポリカーボネート、アクリル樹脂(ポリメチルメタクリレート[PMMA]等)、シクロオレフィンポリマー等の樹脂フィルムを好適に使用することができる。また、これら透明基材には光学特性、電気的特性や耐屈曲性を損なわない範囲で、易接着、光学調整(アンチグレア、アンチリフレクションなど)、ハードコートなどの機能を有する層を、単一または複数備えていてもよく、片面または両面に備えていてもよい。これらの樹脂フィルムの中でも、優れた光透過性(透明性)や柔軟性、機械的特性などの点からポリエチレンテレフタレート、シクロオレフィンポリマーを用いることが好ましい。シクロオレフィンポリマーとしては、ノルボルネンの水素化開環メタセシス重合型シクロオレフィンポリマー(ZEONOR(登録商標、日本ゼオン株式会社製)、ZEONEX(登録商標、日本ゼオン株式会社製)、ARTON(登録商標、JSR株式会社製)等)やノルボルネン/エチレン付加共重合型シクロオレフィンポリマー(APEL(登録商標、三井化学株式会社製)、TOPAS(登録商標、ポリプラスチックス株式会社製))を用いることができる。具体的には、コスモシャインA4100、A4160や、ZEONOR ZF-14、ZF-16、ARTON RX4500、RH4900、R5000が挙げられる。これらの中でもガラス転移温度(Tg)が100~170℃のものが引き出し配線やコネクタ部分などの後工程における加熱に耐えうるため好ましく、125~145℃のものがより好ましい。厚みは1~50μmであることが好ましく、5~25μmであることがより好ましく、8~23μmがさらに好ましく、10~20μmが特に好ましい。
【0033】
<透明導電膜>
透明導電膜を構成する上記導電性繊維としては、金属ナノワイヤ、カーボン繊維などが挙げられ、金属ナノワイヤを好適に使用することができる。金属ナノワイヤは、径がナノメーターオーダーのサイズである金属であり、ワイヤ状の形状を有する導電性材料である。なお、本実施形態では、金属ナノワイヤとともに(混合して)、または金属ナノワイヤに代えて、ポーラスあるいはノンポーラスのチューブ状の形状を有する導電性材料である金属ナノチューブを使用してもよい。本明細書において、「ワイヤ状」と「チューブ状」はいずれも線状であるが、前者は中央が中空ではないもの、後者は中央が中空であるものを意図する。性状は、柔軟であってもよく、剛直であってもよい。前者を「狭義の金属ナノワイヤ」、後者を「狭義の金属ナノチューブ」と呼び、以下、本願明細書において、「金属ナノワイヤ」は狭義の金属ナノワイヤと狭義の金属ナノチューブとを包括する意味で用いる。狭義の金属ナノワイヤ、狭義の金属ナノチューブは、単独で用いてもよく、混合して用いてもよい。
【0034】
金属ナノワイヤの製造方法としては、公知の製造方法を用いることができる。例えば銀ナノワイヤは、ポリオール(Poly-ol)法を用いて、ポリビニルピロリドン存在下で硝酸銀を還元することによって合成することができる(Chem.Mater.,2002,14,4736参照)。金ナノワイヤも同様に、ポリビニルピロリドン存在下で塩化金酸水和物を還元することによって合成することができる(J.Am.Chem.Soc.,2007,129,1733参照)。銀ナノワイヤおよび金ナノワイヤの大規模な合成および精製の技術に関しては国際公開第2008/073143号パンフレットと国際公開第2008/046058号パンフレットに詳細な記述がある。ポーラス構造を有する金ナノチューブは、銀ナノワイヤを鋳型にして、塩化金酸溶液を還元することにより合成することができる。ここで、鋳型に用いた銀ナノワイヤは塩化金酸との酸化還元反応により溶液中に溶け出し、結果としてポーラス構造を有する金ナノチューブができる(J.Am.Chem.Soc.,2004,126,3892-3901参照)。
【0035】
金属ナノワイヤの径の太さの平均は、1~500nmが好ましく、5~200nmがより好ましく、5~100nmがさらに好ましく、10~50nmが特に好ましい。また、金属ナノワイヤの長軸の長さの平均は、1~100μmが好ましく、1~80μmがより好ましく、2~70μmがさらに好ましく、5~50μmが特に好ましい。金属ナノワイヤは、径の太さの平均および長軸の長さの平均が上記範囲を満たすとともに、アスペクト比の平均が5より大きいことが好ましく、10以上であることがより好ましく、100以上であることがさらに好ましく、200以上であることが特に好ましい。ここで、アスペクト比は、金属ナノワイヤの平均径をb、長軸の平均長さをaと近似した場合、a/bで求められる値である。a及びbは、走査型電子顕微鏡(SEM)及び光学顕微鏡を用いて測定できる。具体的には、b(平均径)は、電界放出形走査電子顕微鏡JSM-7000F(日本電子株式会社製)を用い、任意に選択した100本の銀ナノワイヤの寸法を測定し、その算術平均値として求めることができる。また、a(平均長さ)は、形状測定レーザマイクロスコープVK-X200(キーエンス株式会社製)を用い、任意に選択した100本の銀ナノワイヤの寸法を測定し、その算術平均値として求めることができる。
【0036】
このような金属ナノワイヤの材料としては、金、銀、白金、銅、ニッケル、鉄、コバルト、亜鉛、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、カドミウム、オスミウム、イリジウムからなる群から選ばれる少なくとも1種及びこれらの金属を組み合わせた合金等が挙げられる。低いシート抵抗かつ高い全光線透過率を有する塗膜を得るためには、金、銀及び銅のいずれかを少なくとも1種含むことが好ましい。これらの金属は導電性が高いため、一定のシート抵抗を得る際に、面に占める金属の密度を減らすことができるので、高い全光線透過率を実現できる。これらの金属の中でも、金または銀の少なくとも1種を含むことがより好ましい。最適な態様としては、銀のナノワイヤが挙げられる。
【0037】
本明細書において「透明導電膜」とは、導電性繊維とバインダー樹脂を含む厚みが10~300nmの薄膜状のものをいい、厚みが必ずしも均一であるものに限定されない。バインダー樹脂としては、本発明の課題である耐屈曲性、および透明性を有するものであれば制限なく適用できるが、導電性繊維としてポリオール法を用いた金属ナノワイヤを使用する場合は、その製造用溶媒(ポリオール)との相溶性の観点から、アルコール、水あるいはアルコールと水との混合溶媒に可溶なバインダー樹脂を使用することが好ましい。具体的には、ポリ-N-ビニルピロリドン、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロースといった親水性セルロース系樹脂、ブチラール樹脂、ポリ-N-ビニルアセトアミド(PNVA(登録商標))を用いることができる。ポリ-N-ビニルアセトアミドは、N-ビニルアセトアミド(NVA)のホモポリマーであるが、N-ビニルアセトアミド(NVA)が70モル%以上である共重合体を使用することもできる。NVAと共重合できるモノマーとしては、例えばN-ビニルホルムアミド、N-ビニルピロリドン、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸ナトリウム、メタクリル酸ナトリウム、アクリルアミド、アクリロニトリル等が挙げられる。共重合成分の含有量が多くなると、得られる透明導電膜のシート抵抗が高くなり、銀ナノワイヤと基板との密着性が低下する傾向があり、また、耐熱性(熱分解開始温度)も低下する傾向があるので、N-ビニルアセトアミド由来のモノマー単位は、重合体中に70モル%以上含むことが好ましく、80モル%以上含むことがより好ましく、90モル%以上含むことがさらに好ましい。このような重合体は絶対分子量による重量平均分子量で3万~400万であることが好ましく、10万~300万であることがより好ましく、30万~150万であることがさらに好ましい。絶対分子量は以下の方法により測定したものである。
【0038】
<絶対分子量測定>
下記溶離液にバインダー樹脂を溶解させ、20時間静置した。この溶液におけるバインダー樹脂の濃度は0.05質量%である。
【0039】
これを0.45μmメンブレンフィルターにて濾過し、濾液をGPC-MALSにて測定を実施し、絶対分子量基準の重量平均分子量を算出した。
GPC:昭和電工株式会社製Shodex(登録商標)SYSTEM21
カラム:東ソー株式会社製TSKgel(登録商標)G6000PW
カラム温度:40℃
溶離液:0.1mol/L NaH2PO4水溶液+0.1mol/L Na2HPO4水溶液
流速:0.64mL/min
試料注入量:100μL
MALS検出器:ワイアットテクノロジーコーポレーション、DAWN(登録商標) DSP
レーザー波長:633nm
多角度フィット法:Berry法
【0040】
上記樹脂は単独で使用してもよいし、2種以上組み合わせて使用してもよい。2種以上を組み合わせる場合は、単純な混合でも良いし、共重合体を用いてもよい。
【0041】
上記透明導電膜は、上記導電性繊維、バインダー樹脂および溶媒を含む導電性インクを透明基材の少なくとも一方の主面上に印刷し、溶媒を乾燥除去することによって形成する。
【0042】
溶媒としては、導電性繊維が良好な分散性を示し、かつバインダー樹脂が溶解する溶媒であれば特に限定されないが、導電性繊維としてポリオール法で合成した金属ナノワイヤを用いる場合には、その製造用溶媒(ポリオール)との相溶性の観点から、アルコール、水あるいはアルコールと水との混合溶媒が好ましい。前述の通りバインダー樹脂もアルコール、水あるいはアルコールと水との混合溶媒に可溶なバインダー樹脂を用いることが好ましい。バインダー樹脂の乾燥速度を容易に制御する事が出来る点でアルコールと水との混合溶媒を用いることがより好ましい。アルコールとしては、CnH2n+1OH(nは1~3の整数)で表される炭素原子数が1~3の飽和一価アルコール(メタノール、エタノール、ノルマルプロパノールおよびイソプロパノール)[以下、単に「炭素原子数が1~3の飽和一価アルコール」と表記]を少なくとも1種含む。炭素原子数が1~3の飽和一価アルコールを全アルコール中40質量%以上含むことが好ましい。炭素原子数が1~3の飽和一価アルコールを用いると乾燥が容易となるため工程上都合が良い。アルコールとして、炭素原子数が1~3の飽和一価アルコール以外のアルコールを併用することができる。併用できる炭素原子数が1~3の飽和一価アルコール以外のアルコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等が挙げられる。上記炭素原子数が1~3の飽和一価アルコールと併用する事で乾燥速度を調整する事が出来る。また、混合溶媒における全アルコールの含有率は、5~90質量%であることが好適である。混合溶媒におけるアルコールの含有率が5質量%未満、又は90質量%超であるとコーテイングした際に縞模様(塗布斑)が発生し不適であることがある。
【0043】
上記導電性インクは、上記バインダー樹脂、導電性繊維および溶媒を自転公転攪拌機等で攪拌して混合することにより製造することができる。導電性インク中に含有されるバインダー樹脂の含有量は0.01から1.0質量%の範囲であることが好ましい。導電性インク中に含有される導電性繊維の含有量は0.01から1.0質量%の範囲であることが好ましい。導電性インク中に含有される溶媒の含有量は98.0から99.98質量%の範囲であることが好ましい。
【0044】
導電性インクの印刷は、バーコート法、スピンコート法、スプレーコート法、グラビア法、スリットコート法等の印刷法により行うことができる。この際に形成される印刷膜あるいはパターンの形状については特に限定はないが、基材上に形成される配線、電極のパターンとしての形状、あるいは基材の全面または一部の面を被覆する膜(ベタパターン)としての形状等が挙げられる。形成したパターンは、加熱して溶媒を乾燥させることにより導電化することができる。溶媒乾燥後得られる透明導電膜あるいは透明導電パターンの厚みは、使用する導電性繊維の径や所望するシート抵抗値により異なるが、10~300nmであることが好ましく、より好ましくは30~200nmである。10nm以上であると導電性繊維の交点の数が増えるため良好な導電性を示す。また、300nm以下であると光が透過しやすくなり導電性繊維による反射が抑制されるため良好な光学特性を示す。形成した導電パターンは、加熱して溶媒を乾燥させることにより導電化することができるが、必要に応じて導電パターンに適宜な光照射を行ってもよい。
【0045】
<保護膜>
透明導電膜を保護する保護膜は、硬化性樹脂組成物の硬化膜である。硬化性樹脂組成物としては、(A)カルボキシ基を含有するポリウレタンと、(B)エポキシ化合物と、(C)硬化促進剤と、(D)溶媒と、を含むものが好ましい。硬化性樹脂組成物を上記透明導電膜上に印刷、塗布等により形成し、硬化させて保護膜を形成する。硬化性樹脂組成物の硬化は、例えば熱硬化性樹脂組成物を用いる場合、これを加熱・乾燥させることにより行うことができる。
【0046】
なお、硬化性樹脂組成物として光硬化性樹脂組成物を用いる場合、光を吸収して硬化するため、光を吸収する成分が硬化膜中に残存することとなる。そのため、全光線透過率と耐屈曲性のバランスが取れる範囲で用いることが好ましい。
【0047】
上記(A)カルボキシ基を含有するポリウレタンは、その重量平均分子量が1,000~100,000であることが好ましく、2,000~70,000であることがより好ましく、3,000~50,000であると更に好ましい。ここで、分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下GPCと表記)で測定したポリスチレン換算の値である。分子量が1,000未満では、印刷後の塗膜の伸度、可撓性、並びに強度を損なうことがあり、100,000を超えると溶媒へのポリウレタンの溶解性が低くなる上に、溶解しても粘度が高くなりすぎるために、使用面で制約が大きくなることがある。
【0048】
本明細書においては、特に断りのない限り、GPCの測定条件は以下のとおりである。
装置名:日本分光株式会社製HPLCユニット HSS-2000
カラム:ShodexカラムLF-804
移動相:テトラヒドロフラン
流速 :1.0mL/min
検出器:日本分光株式会社製 RI-2031Plus
温度 :40.0℃
試料量:サンプルル-プ 100μリットル
試料濃度:約0.1質量%に調製
【0049】
(A)カルボキシ基を含有するポリウレタンの酸価は10~140mg-KOH/gであることが好ましく、15~130mg-KOH/gであると更に好ましい。酸価が10mg-KOH/g以上であれば、硬化性、耐溶剤性とも良好である。140mg-KOH/g以下であるとポリウレタンとしての溶媒への溶解性が良好であり、所望の粘度に調整し易い。また、硬化物が硬くなりすぎることによる基材フィルムの反り等の問題を起こし難くなる。
【0050】
また、本明細書において、樹脂の酸価は以下の方法により測定した値である。
【0051】
100ml三角フラスコに試料約0.2gを精密天秤にて精秤し、これにエタノール/トルエン=1/2(質量比)の混合溶媒10mlを加えて溶解する。更に、この容器に指示薬としてフェノールフタレインエタノール溶液を1~3滴添加し、試料が均一になるまで十分に攪拌する。これを、0.1N水酸化カリウム-エタノール溶液で滴定し、指示薬の微紅色が30秒間続いたときを、中和の終点とする。その結果から下記の計算式を用いて得た値を、樹脂の酸価とする。
酸価(mg-KOH/g)=〔B×f×5.611〕/S
B:0.1N水酸化カリウム-エタノール溶液の使用量(ml)
f:0.1N水酸化カリウム-エタノール溶液のファクター
S:試料の採取量(g)
【0052】
(A)カルボキシ基を含有するポリウレタンは、より具体的には、(a1)ポリイソシアネート化合物、(a2)ポリオール化合物、および(a3)カルボキシ基を有するジヒドロキシ化合物をモノマーとして用いて合成されるポリウレタンである。耐候性・耐光性の観点では(a1)、(a2)、(a3)はそれぞれ芳香族化合物などの共役性を有する官能基を含まないことが望ましい。以下、各モノマーについてより詳細に説明する。
【0053】
(a1)ポリイソシアネート化合物
(a1)ポリイソシアネート化合物としては、通常、1分子当たりのイソシアナト基が2個であるジイソシアネートが用いられる。ポリイソシアネート化合物としては、たとえば、脂肪族ポリイソシアネート、脂環式ポリイソシアネート等が挙げられ、これらの1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。(A)カルボキシ基を含有するポリウレタンがゲル化をしない範囲で、イソシアナト基を3個以上有するポリイソシアネートも少量使用することができる。
【0054】
脂肪族ポリイソシアネートとしては、たとえば、1,3-トリメチレンジイソシアネート、1,4-テトラメチレンジイソシアネート、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、1,9-ノナメチレンジイソシアネート、1,10-デカメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、2,2’-ジエチルエ-テルジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート等が挙げられる。
【0055】
脂環式ポリイソシアネートとしては、たとえば、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、3-イソシアナトメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキシルイソシアネート(IPDI、イソホロンジイソシアネート)、ビス-(4-イソシアナトシクロヘキシル)メタン(水添MDI)、水素化(1,3-または1,4-)キシリレンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート等が挙げられる。
【0056】
(a1)ポリイソシアネート化合物として、イソシアナト基(-NCO基)中の炭素原子以外の炭素原子の数が6~30である脂環式化合物を用いることにより、実施の形態に係るポリウレタン樹脂から形成される保護膜は、特に高温高湿時の信頼性に高く、電子機器部品の部材に向いている。上記例示した脂環式ポリイソシアネートの中でも、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ビス-(4-イソシアナトシクロヘキシル)メタン、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンが好ましい。
【0057】
上述の通り耐候性・耐光性の観点では(a1)ポリイソシアネート化合物としては芳香環を有さない化合物を用いる方が好ましい。そのため、必要に応じて芳香族ポリイソシアネート、芳香脂肪族ポリイソシアネートを用いる場合は、(a1)ポリイソシアネート化合物の中に、(a1)ポリイソシアネート化合物の総量(100mol%)に対して、50mol%以下、好ましくは30mol%以下、さらに好ましくは10mol%以下含まれていてもよい。
【0058】
(a2)ポリオール化合物
(a2)ポリオール化合物(ただし、(a2)ポリオール化合物には、後述する(a3)カルボキシ基を有するジヒドロキシ化合物は含まれない。)の数平均分子量は通常250~50,000であり、好ましくは400~10,000、より好ましくは500~5,000である。この分子量は前述した条件でGPCにより測定したポリスチレン換算の値である。
【0059】
(a2)ポリオール化合物は、たとえば、ポリカーボネートポリオール、ポリエ-テルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリラクトンポリオール、両末端水酸基化ポリシリコーン、および植物系油脂を原料とするC18(炭素原子数18)不飽和脂肪酸およびその重合物由来の多価カルボン酸を水素添加しカルボン酸を水酸基に変換した炭素原子数が18~72であるポリオール化合物である。これらの中でも保護膜としての耐水性、絶縁信頼性、基材との密着性のバランスを考慮するとポリカーボネートポリオールが好ましい。
【0060】
上記ポリカーボネートポリオールは、炭素原子数3~18のジオールを原料として、炭酸エステルまたはホスゲンと反応させることにより得ることができ、たとえば、以下の構造式(1)で表される。
【化1】
【0061】
式(1)において、R3は対応するジオール(HO-R3-OH)から水酸基を除いた残基であって炭素原子数3~18のアルキレン基であり、n3は正の整数、好ましくは2~50である。
【0062】
式(1)で表されるポリカーボネートポリオールは、具体的には、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,9-ノナンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール、1,10-デカメチレングリコールまたは1,2-テトラデカンジオールなどを原料として用いることにより製造できる。
【0063】
上記ポリカーボネートポリオールは、その骨格中に複数種のアルキレン基を有するポリカーボネートポリオール(共重合ポリカーボネートポリオール)であってもよい。共重合ポリカーボネートポリオールの使用は、(A)カルボキシ基を含有するポリウレタンの結晶化防止の観点から有利な場合が多い。また、溶媒への溶解性を考慮すると、分岐骨格を有し、分岐鎖の末端に水酸基を有するポリカーボネートポリオールが併用されることが好ましい。
【0064】
(a3)カルボキシ基を含有するジヒドロキシ化合物
(a3)カルボキシ基を含有するジヒドロキシ化合物としては、ヒドロキシ基、炭素原子数が1または2のヒドロキシアルキル基から選択されるいずれかを2つ有する分子量が200以下のカルボン酸またはアミノカルボン酸であることが架橋点を制御できる点で好ましい。具体的には2,2-ジメチロ-ルプロピオン酸、2,2-ジメチロ-ルブタン酸、N,N-ビスヒドロキシエチルグリシン、N,N-ビスヒドロキシエチルアラニン等が挙げられ、この中でも、溶媒への溶解度から、2,2-ジメチロ-ルプロピオン酸、2,2-ジメチロ-ルブタン酸が特に好ましい。これらの(a3)カルボキシ基を含有するジヒドロキシ化合物は、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0065】
前述の(A)カルボキシ基を含有するポリウレタンは、上記の3成分((a1)、(a2)および(a3))のみから合成が可能である。なお、さらに(a4)モノヒドロキシ化合物および/または(a5)モノイソシアネート化合物を反応させて合成することもできる。耐候性・耐光性の観点から分子内に芳香環や炭素-炭素二重結合を含まない化合物を用いることが好ましい。
【0066】
上記(A)カルボキシ基を含有するポリウレタンは、ジブチル錫ジラウリレートのような公知のウレタン化触媒の存在下または非存在下で、適切な有機溶媒を用いて、上記した(a1)ポリイソシアネート化合物、(a2)ポリオール化合物、(a3)カルボキシ基を有するジヒドロキシ化合物を反応させることにより合成ができるが、無触媒で反応させた方が、最終的にスズ等の混入を考慮する必要がなく好適である。
【0067】
上記有機溶媒は、イソシアネート化合物と反応性が低いものであれば特に限定されないがアミン等の塩基性官能基を含まず、沸点が50℃以上、好ましくは80℃以上、より好ましくは100℃以上である溶媒が好ましい。このような溶媒としては、たとえば、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ニトロベンゼン、シクロヘキサン、イソホロン、ジエチレングリコールジメチルエ-テル、エチレングリコールジエチルエ-テル、エチレングリコールモノメチルエ-テルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエ-テルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエ-テルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエ-テルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエ-テルアセテート、メトキシプロピオン酸メチル、メトキシプロピオン酸エチル、エトキシプロピオン酸メチル、エトキシプロピオン酸エチル、酢酸エチル、酢酸n-ブチル、酢酸イソアミル、乳酸エチル、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、γ-ブチロラクトン、ジメチルスルホキシド等を挙げることができる。
【0068】
なお、生成するポリウレタンの溶解性が低い有機溶媒は好ましくないこと、および電子材料用途においてポリウレタンを保護膜用インクの原料にすることを考えると、これらの中でも、特に、プロピレングリコールモノメチルエ-テルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエ-テルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエ-テルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエ-テルアセテート、γ-ブチロラクトン等が好ましい。
【0069】
原料の仕込みを行う順番については特に制約はないが、通常は(a2)ポリオール化合物および(a3)カルボキシ基を有するジヒドロキシ化合物を先に仕込み、溶媒に溶解または分散させた後、20~150℃、より好ましくは60~120℃で、(a1)ポリイソシアネート化合物を滴下しながら加え、その後、30~160℃、より好ましくは50~130℃でこれらを反応させる。
【0070】
原料の仕込みモル比は、目的とするポリウレタンの分子量および酸価に応じて調節する。
【0071】
具体的には、これらの仕込みモル比は、(a1)ポリイソシアネート化合物のイソシアナト基:((a2)ポリオール化合物の水酸基+(a3)カルボキシ基を有するジヒドロキシ化合物の水酸基)が、0.5~1.5:1、好ましくは0.8~1.2:1より好ましくは0.95~1.05:1である。
【0072】
また、(a2)ポリオール化合物の水酸基:(a3)カルボキシ基を有するジヒドロキシ化合物の水酸基が、1:0.1~30、好ましくは1:0.3~10である。
【0073】
上記(B)エポキシ化合物としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、N-グリシジル型エポキシ樹脂、ビスフェノールAのノボラック型エポキシ樹脂、キレート型エポキシ樹脂、グリオキザール型エポキシ樹脂、アミノ基含有エポキシ樹脂、ゴム変性エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエンフェノリック型エポキシ樹脂、シリコーン変性エポキシ樹脂、ε-カプロラクトン変性エポキシ樹脂、グリシジル基を含有した脂肪族型エポキシ樹脂、グリシジル基を含有した脂環式エポキシ樹脂などの一分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物を挙げることができる。
【0074】
特に、一分子中に3個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物がより好適に使用できる。このようなエポキシ化合物としては、例えば、EHPE(登録商標)3150(株式会社ダイセル製)、jER604(三菱化学株式会社製)、EPICLON EXA-4700(DIC株式会社製)、EPICLON HP-7200(DIC株式会社製)、ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールトリグリシジルエーテル、TEPIC-S(日産化学株式会社製)などが挙げられる。
【0075】
上記(B)エポキシ化合物としては、分子内に芳香環を有していても良く、その場合、上記(A)と(B)の合計質量に対して(B)の質量は20質量%以下が好ましい。
【0076】
上記(B)エポキシ化合物に対する(A)カルボキシ基を含有するポリウレタンの配合割合は、(B)エポキシ化合物のエポキシ基に対するポリウレタン中のカルボキシ基の当量比で0.5~1.5であることが好ましく、0.7~1.3であることがより好ましく、0.9~1.1であることがさらに好ましい。
【0077】
上記(C)硬化促進剤としては、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィンなどのホスフィン系化合物(北興化学工業株式会社製)、キュアゾール(登録商標)(イミダゾール系エポキシ樹脂硬化剤:四国化成工業株式会社製)、2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾール、U-CAT(登録商標)SAシリーズ(DBU塩:サンアプロ株式会社製)、Irgacure(登録商標)184等が挙げられる。これらの使用量としては、使用量があまりに少ないと添加した効果が無く、使用量が多すぎると電気絶縁性が低下するので、(A)と(B)の合計質量に対して0.1~10質量%、より好ましくは0.5~6質量%、さらに好ましくは0.5~5質量%、特に好ましくは0.5~3質量%使用される。
【0078】
また、硬化助剤を併用してもよい。硬化助剤としては、多官能チオール化合物やオキセタン化合物などが挙げられる。多官能チオール化合物としては、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)、トリス-[(3-メルカプトプロピオニルオキシ)-エチル]-イソシアヌレート、トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトプロピオネート)、カレンズ(登録商標)MTシリーズ(昭和電工株式会社製)などが挙げられる。オキセタン化合物としては、アロンオキセタン(登録商標)シリーズ(東亞合成株式会社製)、ETERNACOLL(登録商標)OXBPやOXMA(宇部興産株式会社製)が挙げられる。これらの使用量としては、使用量があまりに少ないと添加した効果が無く、使用量が多すぎると硬化速度が速くなり過ぎ、ハンドリング性が低下するので、(B)の質量に対して0.1~10質量%であることが好ましく、より好ましくは0.5~6質量%使用される。
【0079】
上記硬化性樹脂組成物には(D)溶媒を95.0質量%以上99.9質量%以下含むことが好ましく、96質量%以上99.7質量%以下含むことがより好ましく、97質量%以上99.5質量%以下含むことがさらに好ましい。(D)溶媒としては、(A)カルボキシ基を含有するポリウレタンの合成に用いた溶媒をそのまま使用することもできるし、ポリウレタン樹脂の溶解性や印刷性を調整するために他の溶媒を用いることもできる。他の溶媒を用いる場合には、新たな溶媒を添加する前後に反応溶媒を留去し、溶媒を置換してもよい。ただし、操作の煩雑性やエネルギーコストを考えると(A)カルボキシ基を含有するポリウレタンの合成に用いた溶媒の少なくとも一部をそのまま用いることが好ましい。保護膜用組成物の安定性を考慮すると、溶媒の沸点は、80℃から300℃であることが好ましく、80℃から250℃であることがより好ましい。沸点が80℃未満である場合、印刷時に乾燥しやすく、ムラが出来やすい。沸点が300℃より高いと、乾燥、硬化時に高温で長時間の加熱処理を要するために、工業的な生産には向かなくなる。
【0080】
このような溶媒としては、プロピレングリコールモノメチルエ-テルアセテート(沸点146℃)、γ-ブチロラクトン(沸点204℃)、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(沸点218℃)、トリプロピレングリコールジメチルエーテル(沸点243℃)等のポリウレタン合成に用いる溶媒や、プロピレングリコールジメチルエーテル(沸点97℃)、ジエチレングリコールジメチルエーテル(沸点162℃)などのエーテル系の溶媒、イソプロピルアルコール(沸点82℃)、t-ブチルアルコール(沸点82℃)、1-ヘキサノール(沸点157℃)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(沸点120℃)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(沸点194℃)、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(沸点196℃)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(沸点230℃)、トリエチレングリコール(沸点276℃)、乳酸エチル(沸点154℃)等の水酸基を含む溶媒、メチルエチルケトン(沸点80℃)、酢酸エチル(沸点77℃)を用いることができる。これらの溶媒は、1種単独でもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。2種類以上を混合する場合には、(A)カルボキシ基を含有するポリウレタンの合成に用いた溶媒に加えて、使用するポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂などの溶解性を考慮し、凝集や沈殿などが起きない、ヒドロキシ基を有する沸点が100℃超である溶媒や、インクの乾燥性の観点から沸点が100℃以下の溶媒を併用することが好ましい。
【0081】
上記硬化性樹脂組成物は、上記(A)カルボキシ基を含有するポリウレタンと、(B)エポキシ化合物と、(C)硬化促進剤と、(D)溶媒とを、(D)溶媒の含有率が95.0質量%以上99.9質量%以下となるように配合し、均一になるように攪拌して製造することができる。
【0082】
このような硬化性樹脂組成物中の固形分濃度は所望する膜厚や印刷方法によっても異なるが、0.1~10質量%であることが好ましく、0.5質量%~5質量%であることがより好ましい。固形分濃度が0.1~10質量%の範囲であると、透明導電膜上に塗布した場合に膜厚が厚くなり過ぎることによる電気的なコンタクトがとれない不具合が発生せず、かつ十分な耐候性・耐光性を有する保護膜が得られる。
【0083】
なお、耐候性・耐光性の観点から、保護膜(硬化性樹脂組成物中の固形分である(A)カルボキシ基を含有するポリウレタン、(B)エポキシ化合物および、(C)硬化促進剤における硬化残基)中に含有する下式で定義される芳香環含有化合物の割合は15質量%以下に抑えることが好ましい。ここでいう「(C)硬化促進剤における硬化残基」とは、硬化条件により(C)硬化促進剤の全てまたは一部が消失(分解、揮発など)するものがあるので、硬化条件で保護膜中に残留する(C)硬化促進剤を意味する。硬化後の保護膜中に残留する(C)硬化促進剤の量を正確に定量できない場合は、硬化条件による消失はないと仮定した仕込み量をもとに算出し、芳香環含有化合物の割合が15質量%以下となる範囲で(C)硬化促進剤を使用することが好ましい。また、「芳香環含有化合物」とは、分子内に芳香環を少なくとも1つ有する化合物を意味する。
【0084】
芳香環含有化合物の割合=[(芳香環含有化合物使用量)/(保護膜の質量((A)カルボキシ基を含有するポリウレタン質量+(B)エポキシ化合物質量+(C)硬化促進剤における硬化残基質量))]×100(%)
【0085】
以上に述べた硬化性樹脂組成物を使用し、バーコート印刷法、グラビア印刷法、インクジェット法、スリットコート法などの印刷法により、金属ナノワイヤ層が形成された基材上に硬化性樹脂組成物を塗布し、溶媒を乾燥、除去後に硬化性樹脂を硬化して保護膜を形成する。硬化後得られる保護膜の厚みは、30nm超1μm以下である。保護膜の厚みは、50nm超500nm以下であることが好ましく、100nm超200nm以下であることがより好ましい。厚みが1μm以下であると後工程での配線との導通が容易となる。厚みが30nm超であると、金属ナノワイヤ層を保護する効果が十分発揮される。
【0086】
このようにして得られた透明導電基体は、デバイスを作製するために適した大きさにサイズを調整する必要がある。具体的には、保護膜形成後の透明導電基体から必要なサイズに裁断する必要がある。
【0087】
透明導電基体(フィルム)の裁断手法は、カッターナイフ、ディスクカッター、トムソン加工、レーザー切断、スリット加工などが挙げられる。これらの中でもディスクカッター、トムソン加工を用いることが好ましい。
【0088】
裁断する際は、透明導電基体単独で裁断しても、透明導電基体に保護フィルムを積層した状態で裁断してもよい。保護フィルムを積層した状態で裁断した場合は、裁断後に保護フィルムを剥離する。導電面への異物の付着や、裁断時に導電面に不要なキズが入ることを防ぐという観点から、保護フィルムを積層した状態で裁断するほうが好ましい。
【0089】
上述の通り透明基材上に透明導電膜(銀ナノワイヤ層)および保護膜を順次形成することにより得られる透明導電基体の耐屈曲性は、裁断された透明導電基体(フィルム)の裁断部分の状態に影響されることを本発明者は見出した。透明導電基体(フィルム)の裁断部分の状態は、JIS B0683に準じた真直度により評価する。真直度(単位:mm)の値が小さいほど裁断部分が平滑であることを意味する。後述する屈曲試験において屈曲される裁断部分(端面)に求められる真直度が0.050mm以下であると良好な耐屈曲性が得られる。真直度は小さいほど好ましく、好ましくは0.040mm以下であり、より好ましくは0.030mm以下である。透明導電基体(フィルム)の裁断部分の真直度が0.050mm以下であると、曲率半径2mm以下に設定したクラムシェル型耐久試験機を用いた屈曲試験において、透明導電基体を20万回屈曲する屈曲試験に供される前の上記透明導電基体の抵抗値(R0)に対する、上記屈曲試験に供された後の抵抗値(R)の比(R/R0)が2.0以下を達成することができ、透明導電基体は折り畳み可能であると言える。透明導電基体(フィルム)の端面の真直度が小さいほど、20万回屈曲する屈曲試験による(R/R0)が2.0以下を達成することができる曲率半径は小さな値となり、真直度が0.030mm以下であると、曲率半径0.5mmに設定したクラムシェル型耐久試験機を用いた屈曲試験であっても特定の条件下であれば20万回屈曲後の(R/R0)が2.0以下を達成することができる。20万回屈曲後の(R/R0)は、1.5以下であることが好ましく、1.2以下であることがより好ましい。
【実施例】
【0090】
以下、本発明の実施例を具体的に説明する。なお、以下の実施例は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
【0091】
<透明導電基体の評価方法の概要>
図1に示されるように、ロール状の長尺樹脂フィルムF(実施例1~5、8、9、比較例1~4はシクロオレフィンポリマーフィルムZF14-013(日本ゼオン株式会社製、ガラス転移温度136℃[カタログ値]、厚み13μm)、実施例6、7はシクロオレフィンポリマーフィルムZF14-023(日本ゼオン株式会社製、ガラス転移温度136℃[カタログ値]、厚み23μm)から、当該樹脂フィルムFの長手方向(MD)と長手方向が一致するようにA4サイズに透明基材Sを切り出した。
【0092】
銀ナノワイヤインクを作製したのち、上記A4サイズの透明基材Sの一方の主面上に塗布、乾燥して銀ナノワイヤ層を形成した。続いて硬化性樹脂組成物を作製したのち、上記銀ナノワイヤ層の上に塗布、乾燥して保護膜を形成し、A4サイズの透明導電基体を作製した。
【0093】
両面に透明導電膜(銀ナノワイヤ層)を有する透明導電基体を作製する場合は、一方の主面上に銀ナノワイヤ層と保護膜を順次形成した後、もう一方の主面上に銀ナノワイヤ層と保護膜を順次形成した。
【0094】
上記A4サイズの透明導電基体から所定の方法で試験片を裁断し、裁断部分(端面)の真直度が異なる試験片を作製した。これら試験片に対し、用いた樹脂フィルムFの長手方向(MD)と屈曲軸の方向とが垂直又は平行となるようにして屈曲試験を行い、耐屈曲性を評価した。
図1には、樹脂フィルムFの長手方向(MD)と屈曲軸(破線で示す)の方向とを垂直としたサンプルがs1で示され、樹脂フィルムFの長手方向(MD)と屈曲軸の方向とを平行としたサンプルがs2で示される。
【0095】
加えて、シート抵抗と全光線透過率を測定し、上記透明導電基体が十分に低いシート抵抗値と十分に良好な全光線透過率を示すことを確認した。
【0096】
<銀ナノワイヤの作製>
ポリビニルピロリドンK-90(株式会社日本触媒製)(0.98g)、AgNO3(1.04g)及びFeCl3(0.8mg)を、エチレングリコール(250ml)に溶解し、150℃で1時間加熱反応した。得られた銀ナノワイヤ粗分散液を水2000mlに分散させ、卓上小型試験機(日本ガイシ株式会社製、セラミック膜フィルター セフィルト使用、膜面積0.24m2、孔径2.0μm、寸法Φ30mm×250mm、ろ過差圧0.01MPa)に流し入れ、循環流速12L/min、分散液温度25℃にてクロスフロー濾過を実施し不純物を除去し、銀ナノワイヤ(平均直径:26nm、平均長さ:20μm)を得た。クロスフローろ過しながら水/エタノール置換を行い、最終的に水/エタノール混合溶媒の分散液(銀ナノワイヤ濃度3質量%、水/エタノール=41/56[質量比])を得た。得られた銀ナノワイヤの平均径の算出には、電界放出形走査電子顕微鏡JSM-7000F(日本電子株式会社製)を用い、任意に選択した100本の銀ナノワイヤ寸法を測定し、その算術平均値を求めた。また、得られた銀ナノワイヤの平均長の算出には、形状測定レーザマイクロスコープVK-X200(キーエンス株式会社製)を用い、任意に選択した100本の銀ナノワイヤ寸法を測定し、その算術平均値を求めた。また、上記エタノール、エチレングリコール、AgNO3、FeCl3は富士フイルム和光純薬株式会社製試薬を用いた。
【0097】
<導電性インク(銀ナノワイヤインク)作製>
上記ポリオール法で合成した銀ナノワイヤの水/エタノール混合溶媒の分散液5g(銀ナノワイヤ濃度3質量%、水/エタノール=41:56[質量比])、水6.4g、メタノール20g(富士フイルム和光純薬株式会社製)、エタノール39g(富士フイルム和光純薬株式会社製)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME、富士フイルム和光純薬株式会社製)25g、プロピレングリコール3g(PG、旭硝子株式会社製)、PNVA(登録商標)水溶液(昭和電工株式会社製、固形分濃度10質量%、重量平均分子量90万)1.8gを混合し、ミックスローターVMR-5R(アズワン株式会社製)で1時間、室温、大気雰囲気下で撹拌(回転速度100rpm)して銀ナノワイヤインク100gを作製した。最終的な混合比[質量比]は、銀ナノワイヤ/PNVA/水/メタノール/エタノール/PGME/PG=0.15:0.18:10:20:42:25:3であった。
【0098】
PNVA(登録商標)の熱分解開始温度は、NETZSCH社製TG-DTA2000を用い測定した。試料量約10mgを白金パンに入れ、以下の通り空気雰囲気で測定し、120℃以上の温度(サンプルの予備乾燥をしていないため、100℃付近でサンプルに吸湿している水分に基づく重量減少が認められ、その影響を無視するため)で重量減少が1%生じた温度を熱分解開始温度として求めた。
空気雰囲気、温度条件:室温→(10℃/min)→700℃(コンプレッサーエアー100mL/min)
【0099】
上記銀ナノワイヤインクの作製で使用したPNVA(登録商標)の熱分解開始温度は、270℃であった。
【0100】
得られた銀ナノワイヤインクに含まれる銀ナノワイヤの濃度は、バリアン社製AA280Zゼーマン原子吸光分光光度計により測定した。
【0101】
<透明導電膜(銀ナノワイヤ層)の形成>
プラズマ処理装置(積水化学工業株式会社製AP-T03)を用いてプラズマ処理(使用ガス:窒素、搬送速度:50mm/sec、処理時間:6sec、設定電圧:400V)した、透明基材SとしてのA4サイズのシクロオレフィンポリマーフィルムZF14-013(日本ゼオン株式会社製、ガラス転移温度136℃[カタログ値]、厚み13μm)上に、TQC自動フィルムアプリケータースタンダード(コーテック株式会社製)とワイヤレスバーコータOSP-CN-22L(コーテック株式会社製)とを用い、ウェット膜厚が22μmとなるように銀ナノワイヤインクを透明基材Sの全面に塗布した(塗工速度500mm/sec)。その後、恒温器HISPEC HS350(楠本化成株式会社製)で80℃、1分間、大気雰囲気下で熱風乾燥し、銀ナノワイヤ層を形成した。
【0102】
<膜厚測定>
透明導電膜(銀ナノワイヤ層)の膜厚は光干渉法に基づく膜厚測定システムF20-UV(フィルメトリクス株式会社製)を用いて測定した。測定箇所を変え、3点測定した平均値を膜厚として用いた。解析には450nmから800nmのスペクトルを用いた。この測定システムによると、透明基材上に形成された銀ナノワイヤ層の膜厚(Tc)が直接測定できる。測定結果を表1に示す。
【0103】
<硬化性樹脂組成物の作製>
(A)カルボキシ基を含有するポリウレタンの合成例
攪拌装置、温度計、コンデンサーを備えた2L三口フラスコに、ポリオール化合物としてC-1015N(株式会社クラレ製、ポリカーボネートジオール、原料ジオールモル比:1,9-ノナンジオール:2-メチル-1,8-オクタンジオール=15:85、分子量964)42.32g、カルボキシ基を含有するジヒドロキシ化合物として2,2-ジメチロールブタン酸(日本化成株式会社製)27.32g、および溶媒としてジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(株式会社ダイセル製)158gを仕込み、90℃で前記2,2-ジメチロールブタン酸を溶解させた。
【0104】
反応液の温度を70℃まで下げ、滴下ロートにより、ポリイソシアネートとしてデスモジュール(登録商標)-W(ビス-(4-イソシアナトシクロヘキシル)メタン)、住化コベストロウレタン株式会社製)59.69gを30分かけて滴下した。滴下終了後、120℃に昇温し、120℃で6時間反応を行い、ほぼイソシアネートが消失したことをIRによって確認した後、イソブタノールを0.5g加え、更に120℃にて6時間反応を行った。得られたカルボキシ基含有ポリウレタンのGPCにより求められた重量平均分子量は32300、その樹脂溶液の酸価は35.8mgKOH/gであった。
【0105】
上記で得られた(A)カルボキシ基を含有するポリウレタンの溶液(カルボキシ基含有ポリウレタン含有率:45質量%)10.0gをポリ容器に量り取り、(D)溶媒として1-ヘキサノール85.3gと酢酸エチル85.2gを加え、ミックスローターVMR-5R(アズワン株式会社製)で12時間、室温、大気雰囲気下で撹拌(回転速度100rpm)した。均一であることを目視で確認したのち、(B)エポキシ化合物としてペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル(昭和電工株式会社製)0.63g、(C)硬化促進剤として、U-CAT5003(化合物名:ベンジルトリフェニルホスホニウムブロマイド、サンアプロ株式会社製)0.31gを加え、再度ミックスローターを用いて1時間撹拌し、硬化性樹脂組成物を得た。硬化性樹脂組成物の固形分(硬化性樹脂組成物により形成した保護膜)中の芳香環含有化合物の割合は、5.7質量%である。
【0106】
<保護膜の形成>
上記透明基材S上に形成した銀ナノワイヤ層の上に、TQC自動フィルムアプリケータースタンダード(コーテック株式会社製)とワイヤレスバーコータOSP-CN-05M(コーテック株式会社製)を用い、ウェット膜厚が5μmになるように硬化性樹脂組成物を全面に塗布した(塗工速度333mm/sec)。その後、恒温器HISPEC HS350(楠本化成株式会社製)で80℃、1分間、大気雰囲気下で熱風乾燥(熱硬化)し、保護膜を形成して実施例に係る透明導電基体とした。
【0107】
両面に透明導電膜(銀ナノワイヤ層)を有する透明導電基体については、一方の主面の保護膜形成後、上記と同様の方法で、銀ナノワイヤ層と保護膜を順次形成した。
【0108】
<保護膜の膜厚>
保護膜の膜厚は、前述の銀ナノワイヤ層の膜厚同様光干渉法に基づく膜厚測定システムF20-UV(フィルメトリクス株式会社製)を用いて測定した。測定箇所を変え、3点測定した平均値を膜厚として用いた。解析には450nmから800nmのスペクトルを用いた。この測定システムによると、透明基材上に形成された銀ナノワイヤ層の膜厚(Tc)とその上に形成された保護膜の膜厚(Tp)との総膜厚(Tc+Tp)が直接測定できるので、この測定値から先に測定した銀ナノワイヤ層の膜厚(Tc)を差し引くことにより保護膜の膜厚(Tp)が得られる。
【0109】
<各種試験片の作製(各種手法による裁断)と真直度測定>
上記方法で得た透明導電基体の両面に保護フィルムを貼付したのち、下記に示す方法で所定の大きさ(150mm×15mmと150mm×100mm)に裁断後、保護フィルムを剥離して、裁断部分の真直度が異なる試験片を得た。なお、150mm×15mmの大きさのサンプルは、
図1に示されたs1及びs2の2種類のサンプルに裁断したものであり、150mm×100mmの大きさのサンプルは、
図1に示されたs1のサンプルのみに裁断したものである。
【0110】
保護フィルムとしては、基材が125μm厚PETでアクリル系粘着剤層を有するEXR911(C5グレード)(サンエー化研株式会社製)と、基材が30μm厚PEで自粘着タイプのトレテックN711(東レフィルム加工株式会社製)を用いた。
【0111】
透明導電基体の裁断部分の真直度は画像寸法測定器LM1000,LM1100(キーエンス株式会社製)を用いて、JISB0683に基づき測定した。
図2には、真直度の概念図が示される。
図2において、上記裁断部分の輪郭線がLoで示され、幾何学的に正しい直線(以後、真の直線という)がLaで示され、真直度がStで示される。
図2に示されるように、真直度Stは、輪郭線Loから最小二乗法に基づいて算出された真の直線(回帰直線)Laから最も遠い輪郭線Lo上の点を通り、かつ、真の直線Laと平行な直線を、真の直線Laの両側に1本ずつ描画したとき、この平行2直線間の距離として求めることができる。
【0112】
上記裁断部分を3か所(裁断したサンプルs1、s2の一長辺に沿った端面の上部1/3(50mm)、中央部1/3(50mm)、下部1/3(50mm)の範囲内)走査し(走査長は1か所につき約3cm)、それぞれの場所で求めた真直度3点の平均値を算出した。
【0113】
<真直度> <裁断方法>
0.028mm トムソン加工 自動裁断(装置使用)
0.050mm ディスクカッター 手動裁断
0.060mm レーザー切断 自動裁断(装置使用)
0.176mm カッターナイフ 手動裁断
【0114】
参考として、形状測定レーザマイクロスコープVK-X200(キーエンス株式会社製)を用いて、上記裁断方法による各裁断部分を観察した結果を
図3~6に示す。
図3がトムソン加工(真直度0.028mm)、
図4がディスクカッター(真直度0.050mm)、
図5がレーザー切断(真直度0.060mm)、
図6がカッターナイフ(真直度0.176mm)をそれぞれ示している。
図3、4の観察結果から、真直度の数値が小さいものは裁断部分が滑らかであることが分かる。一方、真直度0.060mmである
図5は、裁断部分が曲線を描いている。これは、レーザー切断時にもちいたレーザー光のスポット円の影響が現れたと考えられる。また、
図6の観察結果から、真直度0.176mmの裁断部分はめくれているように見えることから、めくれのために真直度の値が大きくなったと考えられる。
【0115】
<屈曲試験>
屈曲試験には180°折り曲げ試験が可能な、小型卓上型耐久試験システムTension-Free(登録商標)Folding Clamshell -type(ユアサシステム機器株式会社製 以後、装置ということがある)を用いた。銀ペーストは導電性ペーストDW-420L-2A(東洋紡株式会社製)を用い、これを試験片(サンプルs1、s2)の略中央(両短辺から75mm、両長辺から等距離の位置)からそれぞれ長手方向に40mm離れた位置に約2mm四方の端子の端辺を配置(両端子間距離:80mm)するように手塗りで約2mm四方に塗布したのち、恒温器HISPEC HS350(楠本化成株式会社製)で80℃、30分間、大気雰囲気下で熱風乾燥することで端子部分を形成した。
【0116】
作製した試験片を、端子間距離の中心と装置の屈曲部分の中心がそろうようにテープで貼り付けて固定した。屈曲試験時の曲率半径を0.5、1.0、2.0mmとし、折り畳み速度を30rpm(1分間に折り畳み⇔開き操作を30回実施)として、20万回折り畳んだ前後(屈曲試験前と20万回の屈曲試験後)での破断の有無と、端子間の抵抗値変化を評価した。破断の有無は目視で確認した。抵抗値変化の評価については、前述の方法で形成した銀ペースト端子間の抵抗値を、デジタルマルチメータPC5000a(三和電気計器製)を用いて屈曲試験開始前の抵抗値(R0)と屈曲試験(20万回折り畳み⇔開き操作反復)後の抵抗値(R)をそれぞれ測定し、屈曲試験開始前の屈曲試験後の抵抗値の比(R/R0)を算出することで抵抗値変化を評価した。
【0117】
試験片に破断が発生せず、銀ペーストを用いて測定した抵抗値の比(R/R0)が2.0以下を○、試験片に破断が発生し、抵抗値の測定不可だったものを×とした。
【0118】
【0119】
表1には、150mm×15mmの大きさに裁断した試験片を用いた評価結果をまとめた。表1において、実施例1~5及び比較例1~3は、13μm厚の透明樹脂基材(シクロオレフィンポリマーフィルムZF14-013(日本ゼオン株式会社製))を用いて作製した透明導電基体の評価結果であり、裁断部分の真直度、樹脂フィルムの長手方向(MD)と屈曲軸との関係(垂直/平行)及び透明導電膜(銀ナノワイヤ層)が透明基材の片面に形成されているか両面に形成されているかが異なっている。実施例6、7は、23μm厚の透明樹脂基材(シクロオレフィンポリマーフィルムZF14-023(日本ゼオン株式会社製))を用いて作製した透明導電基体の評価結果であり、裁断部分の真直度、樹脂フィルムの長手方向(MD)と屈曲軸との関係(垂直/平行)が異なっている。
【0120】
透明導電基体の裁断部分の真直度が0.050mm以下である実施例1~7では、20万回屈曲した後も試験片が破断せず、抵抗変化率も1割以内に収まっており、良好な耐屈曲性を示している。一方、真直度が0.050mmを超える比較例1,2では、曲率半径を2mmに広げても、20万回の屈曲に耐えられずに破断してしまう。すなわち、透明導電基体の裁断部分の真直度を0.050mm以下にすることによって、屈曲性に優れた透明導電基体が実現できたことを意味する。なお、曲率半径が小さいほど厳しい条件であるため、比較例3に示すとおり、曲率半径2mm(比較例1)で破断が生じる透明導電基体(真直度が0.060mm)は、それ以下の曲率半径(1mm)の評価でも破断が発生した。
【0121】
さらに、実施例4~7に示すとおり、両面に銀ナノワイヤ層を有する場合でも、透明導電基体の裁断部分の真直度を0.050mm以下にすれば、曲率半径が1mm以上の場合に20万回の屈曲に耐えることが分かる。
【0122】
実施例2、3から、曲率半径が1mmの場合、透明導電基体の裁断部分の真直度が0.050mm以下であれば、樹脂フィルムFの長手方向(MD)と屈曲軸とが垂直、平行(サンプルs1、s2)に依らずいずれの方向でも良好な耐屈曲性が得られることがわかる。
【0123】
なお、曲率半径を0.5mmとした場合に、樹脂フィルムFの長手方向(MD)と屈曲軸とが平行(サンプルs2)であると、透明導電基体の裁断部分の真直度が0.050mm以下でも破断が生じることがあった。しかし、真直度を0.030mm以下(0.028mm)とし、かつ、樹脂フィルムFの長手方向(MD)と屈曲軸とを垂直(サンプルs1)にすると、導電層が片面にのみある場合と両面にある場合のいずれも、20万回の屈曲に耐えることができた(実施例1、4)。これらの結果から、透明導電基体の裁断方向は、樹脂フィルムFの長手方向(MD)と折り畳む際の屈曲軸とが垂直となる方向とすることがより好ましい。本明細書において「垂直」とは、90度(直角)丁度である場合のみではなく多少のずれがある場合(85~95度の範囲)を含む。また、透明導電基体の裁断部分の真直度は0.030mm以下であることがさらに好ましい。
【0124】
換言すると、樹脂フィルムFの長手方向(MD)と、折り曲げる屈曲軸とが垂直とはならない方向に裁断した透明導電基体を曲率半径が1.0mm未満となるような折り畳みに適用する場合を除けば、透明導電基体の裁断部分の真直度が0.050mm以下とすることが良好な耐屈曲性の発現に有効であるといえる。一方、透明導電基体を曲率半径が1.0mm未満となるような折り畳みに適用する場合は、透明導電基体の裁断方向を樹脂フィルムFの長手方向(MD)と折り畳む際の屈曲軸とが垂直となる方向とすることが好ましく、透明導電基体の裁断部分の真直度を0.030mm以下とすることがさらに好ましいといえる。
【0125】
表2には、150mm×100mmの大きさに裁断した試験片の結果をまとめた。
【0126】
透明導電基体の裁断部分の真直度が0.050mm以下である実施例8、9では、曲率半径が2mm、1mmとも20万回屈曲した後も試験片が破断せず、抵抗変化率が1割以内に収まっており、良好な耐屈曲性を示している。一方、真直度が0.060mmである比較例4では、曲率半径が2mmの条件下で20万回の屈曲に耐えられないことがわかる。すなわち、表1に示した結果と同様、透明導電基体の裁断部分の真直度を0.050mm以下にすることによって耐屈曲性が向上したことが示されたとともに、より実デバイスに近い150mm×100mmという大きなサイズでも本発明が効果を発揮することが明らかとなった。
【0127】
【0128】
<シート抵抗測定>
屈曲試験用の試験片とは別に、上記A4サイズに全面塗布した透明導電基体(銀ナノワイヤフィルム)から3cm×3cmの試験片を切り出し、4端子法に基づく抵抗率計ロレスタGP(株式会社三菱化学アナリテック製)で銀ナノワイヤ層のシート抵抗を測定した。測定モードおよび使用端子はESPモードを用いた。
【0129】
表1、2に示される結果の通り、本透明導電基体がタッチパネルデバイスを製造するために必要なシート抵抗値(100Ω/□以下)という要件を満足していることが示された。なお、両面に銀ナノワイヤ層を有する実施例4~7は、第1面と第2面のそれぞれの値を示した。
【0130】
<全光線透過率測定>
上記3cm×3cmの試験片を用い、ヘーズメーターCOH7700(日本電色工業株式会社製)で測定した。測定結果を表1、2に示す。いずれも全光線透過率が85%以上と良好な透明性を有することを確認した。なお、全光線透過率は第1面と第2面を別個に測定することができないため、両面に導電層を有する実施例4~7では、第1面と第2面を合わせた値が得られる。本発明で用いた透明基材(樹脂フィルム)、透明導電膜(銀ナノワイヤ層)及び保護膜は、いずれも透明性に優れるため、両面に銀ナノワイヤ層を設けた場合でも、片面のみに導電層を設けた場合に比して、全光線透過率の低下が非常に小さいことが分かる。
【要約】
【課題】良好な光学特性、電気特性に加えて耐屈曲性に優れた透明導電基体を提供する。
【解決手段】透明基材と、上記透明基材の少なくとも一方の主面上に形成された、バインダー樹脂および導電性繊維を含む透明導電膜と、を含み、上記透明基材の切断部分の真直度が0.050mm以下である透明導電基体である。透明基材は、長尺または長尺から切り出された樹脂フィルムであることが好ましく、長尺の長手方向に垂直な方向を屈曲軸として折り畳む、構成とすることが好ましい。
【選択図】なし