(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-04
(45)【発行日】2022-01-20
(54)【発明の名称】フラーレン含有潤滑油組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C10M 125/02 20060101AFI20220113BHJP
C10N 30/06 20060101ALN20220113BHJP
C10N 40/04 20060101ALN20220113BHJP
C10N 40/08 20060101ALN20220113BHJP
C10N 40/30 20060101ALN20220113BHJP
C10N 40/22 20060101ALN20220113BHJP
C10N 40/24 20060101ALN20220113BHJP
C10N 40/20 20060101ALN20220113BHJP
C10N 40/02 20060101ALN20220113BHJP
【FI】
C10M125/02
C10N30:06
C10N40:04
C10N40:08
C10N40:30
C10N40:22
C10N40:24
C10N40:20 Z
C10N40:20 A
C10N40:02
(21)【出願番号】P 2019551152
(86)(22)【出願日】2018-10-23
(86)【国際出願番号】 JP2018039331
(87)【国際公開番号】W WO2019082883
(87)【国際公開日】2019-05-02
【審査請求日】2020-03-18
(31)【優先権主張番号】P 2017206646
(32)【優先日】2017-10-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(73)【特許権者】
【識別番号】000005979
【氏名又は名称】三菱商事株式会社
(72)【発明者】
【氏名】門田 隆二
(72)【発明者】
【氏名】高 宇
【審査官】宮地 慧
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-215483(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0265203(US,A1)
【文献】特開2009-063154(JP,A)
【文献】特開2014-167100(JP,A)
【文献】特開2017-088757(JP,A)
【文献】国際公開第2017/141825(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M
C10N
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油と、フラーレンと、を含み、
前記フラーレンは、溶解しており、かつ、濃度1質量ppm以上50質量ppm未満であるフラーレン含有潤滑油組成物。
【請求項2】
前記基油が、鉱物油または合成油である請求項1に記載のフラーレン含有潤滑油組成物。
【請求項3】
前記フラーレンが、C
60及びC
70を含む混合物である請求項1または2に記載のフラーレン含有潤滑油組成物。
【請求項4】
さらに、添加剤を含む請求項1~3のいずれか1項に記載のフラーレン含有潤滑油組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のフラーレン含有潤滑油組成物の製造方法であって、
基油とフラーレン原料とを混合し、前記フラーレン原料の溶解成分を前記基油中に溶解し、前記基油とフラーレンの混合物を得る工程と、
前記混合物に含まれる不溶成分を除去する工程と、を含むフラーレン含有潤滑油組成物の製造方法。
【請求項6】
さらに、前記不溶成分を除去する工程後に、前記不溶成分を除去する工程で得られたフラーレン含有潤滑油組成物を前記基油で希釈する工程を含む請求項5に記載のフラーレン含有潤滑油組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラーレン含有潤滑油組成物及びその製造方法に関する。
本願は、2017年10月25日に、日本に出願された特願2017-206646号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
近年、高速化、高効率化、省エネルギーに伴い、自動車、家電、工業機械等に使用される潤滑油の性能向上が強く求められている。その用途に適するように特性を改善するために、潤滑油には、酸化防止剤、極圧添加剤、錆び止め添加剤、腐食防止剤等様々な添加剤が配合されている。一方、安全性上には、高引火点を有する潤滑剤が求められている。
【0003】
これらの要求に応えるため、低フリクション、トルクアップ、省燃費化といった複数の性能を同時に改善するため、鉱物油やエステル油等の潤滑基油に、ナノカーボン粒子であるフラーレン、有機溶媒、粘度指数向上剤、摩擦調整剤、清浄分散剤を配合したエンジン潤滑油用添加剤組成物が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、冷媒圧縮機の摺動部を潤滑させる冷凍機油に、直径が100pmから10nmのフラーレンを添加することにより、冷媒圧縮機の摩擦や摩耗を抑制する技術も知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2008-266501号公報
【文献】国際公開第2017/141825号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
フラーレンは、潤滑基油にはほとんど溶解せず、またナノサイズの粒子であるため、凝集しやすい。したがって、フラーレンを潤滑基油に分散させた状態では、粒子が浮遊や凝集して沈降するため、フラーレンと潤滑基油を含む組成物の性能が不均一になる。そこで、特許文献2に記載された発明では、フラーレンの分散媒として有機溶剤を用いることにより、組成物中において、フラーレン粒子をほぼ均一に分散させている。
【0007】
上記の組成物は、実際の使用条件で安定的に摩擦抵抗を低減する必要がある。しかしながら、特許文献2に記載された発明のように、分散媒として有機溶媒を用いただけでは、充分な効果が得られなかった。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、使用時における摩擦抵抗を低減するフラーレン含有潤滑油組成物及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
[1]基油と、フラーレンと、を含み、前記フラーレンは、溶解しており、かつ、濃度1質量ppm以上50質量ppmであるフラーレン含有潤滑油組成物。
[2]前記基油が、鉱物油または合成油である[1]に記載のフラーレン含有潤滑油組成物。
[3]前記フラーレンが、C60及びC70を含む混合物である[1]または[2]に記載のフラーレン含有潤滑油組成物。
[4]さらに、添加剤を含む[1]~[3]のいずれかに記載のフラーレン含有潤滑油組成物。
[5][1]~[4]のいずれかに記載のフラーレン含有潤滑油組成物の製造方法であって、基油とフラーレン原料とを混合し、前記フラーレン原料の溶解成分を前記基油中に溶解し、前記基油とフラーレンの混合物を得る工程と、前記混合物に含まれる不溶成分を除去する工程と、を含むフラーレン含有潤滑油組成物の製造方法。
[6]さらに、前記不溶成分を除去する工程後に、前記不溶成分を除去する工程で得られたフラーレン含有潤滑油組成物を前記基油で希釈する工程を含む[5]に記載のフラーレン含有潤滑油組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、使用時における摩擦抵抗を低減するフラーレン含有潤滑油組成物及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例1~実施例6および比較例1~比較例6における平均摩擦係数とフラーレンの濃度との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を適用したフラーレン含有潤滑油組成物及びその製造方法の実施の形態について説明する。
なお、本実施の形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0013】
[フラーレン含有潤滑油組成物]
本実施形態のフラーレン含有潤滑油組成物は、基油と、フラーレンと、を含み、前記フラーレンは、溶解しており、かつ、濃度が1ppm以上50ppm未満である。
【0014】
(基油)
本実施形態のフラーレン含有潤滑油組成物に含まれる基油は、特に限定されるものではなく、通常、潤滑油の基油として広く使用されている鉱物油及び合成油が好適に用いられる。
【0015】
潤滑油として用いられる鉱油は、一般的に、内部に含まれる炭素-炭素二重結合を水素添加により飽和して、飽和炭化水素に変換したものである。このような鉱油としては、パラフィン系基油、ナフテン系基油等が挙げられる。
【0016】
合成油としては、合成炭化水素油、エーテル油、エステル油等が挙げられる。具体的には、ポリα-オレフィン、ジエステル、ポリアルキレングリコール、ポリアルファオレフィン、ポリアルキルビニールエーテル、ポリブテン、イソパラフィン、オレフィンコポリマー、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、ジイソデシルアジペート、モノエステル、二塩基酸エステル、三塩基酸エステル、ポリオールエステル(トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール2-エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールペラルゴネート等)、ジアルキルジフェニルエーテル、アルキルジフェニルサルファイド、ポリフェニルエーテル、シリコーン潤滑油(ジメチルシリコーン等)、パーフルオロポリエーテル等が好適に用いられる。これらの中でも、ポリα-オレフィン、ジエステル、ポリオールエステル、ポリアルキレングリコール、ポリアルキルビニールエーテルがより好適に用いられる。
【0017】
これらの鉱油や合成油は、1種を単独で用いてもよく、これらの中から選ばれる2種以上を任意の割合で混合して用いてもよい。
【0018】
(フラーレン)
本実施形態のフラーレン含有潤滑油組成物に含まれるフラーレンは、構造や製造法が特に限定されず、種々のものを用いることができる。フラーレンとしては、例えば、比較的入手しやすいC60やC70、さらに高次のフラーレン、あるいはそれらの混合物が挙げられる。フラーレンの中でも、潤滑油への溶解性の高さの点から、C60及びC70が好ましく、潤滑油への着色が少ない点から、C60がより好ましい。混合物の場合は、C60が50質量%以上含まれることが好ましい。
【0019】
本実施形態のフラーレン含有潤滑油組成物は、フラーレンが濃度1質量ppm(0.0001質量%)以上50質量ppm(0.005質量%)未満の範囲で溶解しており、5質量ppm以上25質量ppm以下の範囲で溶解していることが好ましく、7.5質量ppm以上20質量ppm以下の範囲で溶解していることがより好ましい。
フラーレンの濃度が上記範囲であれば、フラーレンの添加により、摩擦抵抗低減の効果が期待できるとともに、使用時においても、摩擦抵抗が低い状態を維持することができる。フラーレンの濃度が1質量ppm未満では、摩擦抵抗低減の効果が期待できない。一方、フラーレンの濃度が50質量ppm以上となると、使用時において摩擦抵抗が上昇する可能性がある。
【0020】
使用時において摩擦抵抗が高いということは、例えば、フラーレン含有潤滑油組成物内にフラーレンの凝集物が存在し、これが機械等の摺動部に入り込み、その部分の機械等の金属部分を傷つけ、摩耗させる。これにより、機械等の動作に振動、破損等の不具合が生じる。このような不具合は、摩擦抵抗が高くなることで検知できる。
自動車、家電、工業機械等の摺動部にフラーレン含有潤滑油組成物を存在させて、機械装置を動作した状態にしておくと、摺動部の界面のような極端に圧力が高い領域にフラーレン含有潤滑油組成物が存在する場合、ここに溶解しているフラーレンが凝集物となって徐々に析出し、フラーレン含有潤滑油組成物内に漂う可能性がある。フラーレン含有潤滑油組成物中に凝集物が存在するかどうかは、0.1μmメッシュのメンブランフィルターで濾過し、濾過前後のフラーレン濃度を比較することにより判断できる。濾過前のフラーレン濃度に対し濾過後のフラーレン濃度が減少した場合は、その減少分が凝集物の濃度と言える。逆に、0.1μmメッシュのメンブランフィルターで濾過されたフラーレン潤滑油組成物中のフラーレンは溶解しているとみなせる。
つまり、このようなフラーレンの凝集物の生成を抑制し、機械等の不具合の発生を回避するためには、フラーレンが凝集物として析出しないように、フラーレンの飽和濃度に対して、フラーレンの濃度を充分に低くしたフラーレン含有潤滑油組成物により実現できる。
なお、フラーレン含有潤滑油組成物が存在する機械等の摺動部において、摩擦抵抗が高いということは、フラーレン含有潤滑油組成物は潤滑性に劣ることを示す。一方、フラーレン含有潤滑油組成物が存在する機械等の摺動部において、摩擦抵抗が低いということは、フラーレン含有潤滑油組成物は潤滑性に優れることを示す。
【0021】
(添加剤)
本実施形態のフラーレン含有潤滑油組成物は、基油とフラーレン以外にも、本実施形態の効果を損なわない範囲で、添加剤を含有することができる。
本実施形態のフラーレン含有潤滑油組成物に配合する添加剤は、特に限定されない。添加剤としては、例えば、市販の酸化防止剤、粘度指数向上剤、極圧添加剤、清浄分散剤、流動点降下剤、腐食防止剤、固体潤滑剤、油性向上剤、錆び止め添加剤、抗乳化剤、消泡剤、加水分解抑制剤等が挙げられる。これらの添加剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0022】
添加剤としては、芳香族環を有するものがより好ましい。
芳香族環を有する酸化防止剤としては、例えば、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール(DBPC)、3-アリールベンゾフランー2-オン(ヒドロキシカルボン酸の分子内環状エステル)、フェニル-α-ナフチルアミン、ジアルキルジフェニルアミン、ベンゾトリアゾール等が挙げられる。
芳香族環を有する粘度指数向上剤としては、例えば、ポリアルキルスチレン、スチレン-ジエンコポリマーの水素化物添加剤等が挙げられる。
芳香族環を有する極圧添加剤としては、ジベンジルジサルファイド、アリルリン酸エステル、アリル亜リン酸エステル、アリルリン酸エステルのアミン塩、アリルチオリン酸エステル、アリルチオリン酸エステルのアミン塩、ナフテン酸等が挙げられる。
芳香族環を有する清浄分散剤としては、ベンジルアミンコハク酸誘導体、アルキルフェノールアミン類等が挙げられる。
芳香族環を有する流動点降下剤としては、塩素化パラフィン―ナフタレン縮合物、塩素化パラフィンーフェノール縮合物、ポリアルキルスチレン系等が挙げられる。
芳香族環を有する抗乳化剤には、アルキルベンゼンスルホン酸塩等が挙げられる。
芳香族環を有する腐食防止剤としては、ジアルキルナフタレンスルホン酸塩等が挙げられる。
【0023】
本実施形態のフラーレン含有潤滑油組成物は、後述するフラーレン含有潤滑油組成物の製造方法により製造される潤滑油組成物である。
【0024】
本実施形態のフラーレン含有潤滑油組成物によれば、基油と、フラーレンと、を含み、前記フラーレンは、溶解しており、かつ、濃度1質量ppm以上50質量ppm未満であることにより、摩擦抵抗低減の効果が期待できるとともに、使用時においても、摩擦抵抗が低い状態を維持することができる。
【0025】
本実施形態のフラーレン含有潤滑油組成物は、工業用ギヤ油;油圧作動油;圧縮機油;冷凍機油;切削油;圧延油、プレス油、鍛造油、絞り加工油、引き抜き油、打ち抜き油等の塑性加工油;熱処理油、放電加工油等の金属加工油;すべり案内面油;軸受け油;錆止め油;熱媒体油等の各種用途に使用することができる。
【0026】
(製造方法)
本実施形態のフラーレン含有潤滑油組成物の製造方法は、上述の本実施形態のフラーレン含有潤滑油組成物の製造方法であって、基油とフラーレン原料とを混合し、フラーレン原料の溶解成分を基油中に溶解し、基油とフラーレンの混合物を得る工程(以下、「第一工程」という。)と、混合物に含まれる不溶成分を除去し、フラーレン含有潤滑油組成物を得る工程(以下、「第二工程」という。)と、を含む。さらに、本実施形態のフラーレン含有潤滑油組成物の製造方法は、不溶成分を除去する工程後に、所望のフラーレン濃度のフラーレン含有潤滑油組成物を得るために、得られたフラーレン含有潤滑油組成物を基油で希釈する工程(以下、「第三工程」という。)を含んでもよい。
以下、本実施形態のフラーレン含有潤滑油組成物の製造方法を詳細に説明する。
【0027】
(第一工程)
フラーレン原料を基油に投入して攪拌機等の分散手段を用いて、室温付近または必要に応じて加温しながら3時間~48時間の分散処理を施す。
フラーレン原料の仕込み量は、例えば、最終的に調製したいフラーレン含有潤滑油組成物のフラーレン濃度を考慮して、計算上、基油に対して所望のフラーレン濃度が得られるフラーレン量の1.2倍~5倍、より好ましくは1.2倍~3倍とする。この範囲であれば、所望のフラーレン濃度を短時間で満たしやすく、かつ、第二工程で不溶成分を除去する負担が軽くて済む。
【0028】
前記分散手段としては、例えば、撹拌機、超音波分散装置、ホモジナイザー、ボールミル、ビーズミル等が挙げられる。
【0029】
(第二工程)
第一工程で得られた混合物には、不溶成分として、フラーレン原料由来の不溶物であるフラーレンの凝集物、未溶解のフラーレン、基油の不純物、製造過程で混入した粒子等が含まれる。そのため、その混合物をそのまま用いると、フラーレン含有潤滑油組成物と接触している摺動部等が摩耗する等の不具合が生じることがある。そこで、第一工程の後に、不溶成分を除去する第二工程を設ける。
【0030】
第二工程としては、例えば、(1)メンブランフィルターを用いた除去工程、(2)遠心分離器を用いた除去工程、(3)メンブランフィルターと遠心分離器を組み合わせて用いる除去工程等が挙げられる。これらの除去工程の中でも、濾過時間の点から、少量のフラーレン含有潤滑油組成物を得る場合は(1)メンブランフィルターを用いた除去工程が好ましく、大量のフラーレン含有潤滑油組成物を得る場合は(2)遠心分離器を用いた除去工程が好ましい。
【0031】
(1)メンブランフィルターを用いた除去工程では、例えば、第一工程で得られた基油とフラーレンの混合物を、目の小さいメッシュのフィルター(例えば、0.1μm~1μmメッシュのメンブランフィルター)を用いて濾過し、不純物除去後のフラーレン含有潤滑油組成物として回収する。濾過時間の短縮を図るには、例えば、吸引濾過をすることが好ましい。
【0032】
(2)遠心分離器を用いた除去工程では、例えば、第一工程で得られた基油とフラーレンの混合物に対して遠心分離処理を施し、上澄みを不溶物除去後の潤滑油組成物として回収する。
【0033】
(第三工程)
さらに、第二工程後に、第二工程で得られたフラーレン含有潤滑油組成物のフラーレン濃度を測定し、所望のフラーレン濃度のフラーレン含有潤滑油組成物を得るために、第二工程で得られたフラーレン含有潤滑油組成物を基油で希釈する第三工程を含むこともできる。
第三工程で用いられる基油としては、第二工程で得られたフラーレン含有潤滑油組成物に含まれる基油と同種類の基油または異種類の基油が挙げられる。
【0034】
本実施形態のフラーレン含有潤滑油組成物の製造方法によれば、摩擦抵抗低減の効果が期待できるとともに、使用時においても、摩擦抵抗が低い状態を維持することができるフラーレン含有潤滑油組成物が得られる。
【0035】
以上、本発明の好ましい実施の形態について詳述したが、本発明は特定の実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【実施例】
【0036】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0037】
[比較例1]
(潤滑油組成物の調製)
基油として鉱油(製品名:ダイアナフレシア、出光興産株式会社製)100gと、フラーレン原料(フロンティアカーボン株式会社製nanom(登録商標) mix ST C60:60質量%、C70:25質量%、残部が他高次フラーレンの混合物である。)70mgと、を混合し、室温でスターラーを用いて36時間撹拌した。
次に、0.1μmメッシュのメンブランフィルターを通すことで濾過して、フラーレンを含有する潤滑油組成物を得た。得られた潤滑油組成物について、フラーレンの濃度を測定することにより、フラーレンを500質量ppm含有していることを確認した。
なお、フラーレンの濃度測定をUV法で行った。すなわち、紫外可視分光光度計(製品名:UV-1700、株式会社島津製作所製)を用いて、潤滑油組成物等の試料をトルエンで吸光度の測定しやすい濃度に希釈し、吸光度(381nm)で検出することにより、試料中のフラーレンの濃度を求めた。なお、検量線は、前記フラーレン原料のトルエン溶液を試料として用い作成した。
【0038】
(潤滑性の評価)
潤滑油組成物について、摩擦摩耗試験機(製品名:ボールオンディスクトライボメーター、Anton Paar社製)を用いて、潤滑性を評価した。
基板およびボールの材質を高炭素クロム軸受鋼鋼材SUJ2とした。ボールの直径を6mmとした。
基板の一主面に潤滑油組成物を塗布した。
次に、潤滑油組成物を介して、基板の一主面上にて、ボールが同心円状の軌道を描くように、ボールを摺動させた。基板の一主面上におけるボールの速度を50cm/秒、ボールによる基板の一主面に対する荷重を25Nとした。基板の一主面上におけるボールの摺動距離が500m~1500mの間の摩擦係数を測定し、その間の平均摩擦係数を算出した。この平均摩擦係数により、潤滑油組成物の潤滑性を評価した。結果を表1に示す。
【0039】
[比較例2]
比較例1の潤滑油組成物を10mL取り出し、これを比較例1と同様の基油10mLで2倍に希釈して、フラーレンを250質量ppm含有する、比較例2の潤滑油組成物を調製した。
比較例1と同様にして、比較例2の潤滑油組成物の潤滑性を評価した。結果を表1に示す。
【0040】
[比較例3]
比較例2の潤滑油組成物を10mL取り出し、これを比較例1と同様の基油10mLで2倍に希釈して、フラーレンを125質量ppm含有する、比較例3の潤滑油組成物を調製した。
比較例1と同様にして、比較例3の潤滑油組成物の潤滑性を評価した。結果を表1に示す。
【0041】
[比較例4]
比較例3の潤滑油組成物を10mL取り出し、これを比較例1と同様の基油10mLで2倍に希釈して、フラーレンを63質量ppm含有する、比較例4の潤滑油組成物を調製した。
比較例1と同様にして、比較例4の潤滑油組成物の潤滑性を評価した。結果を表1に示す。
【0042】
[実施例1]
比較例4の潤滑油組成物を10mL取り出し、これを比較例1と同様の基油10mLで2倍に希釈して、フラーレンを31質量ppm含有する、実施例1の潤滑油組成物を調製した。
比較例1と同様にして、実施例1の潤滑油組成物の潤滑性を評価した。結果を表1に示す。
【0043】
[実施例2]
実施例1の潤滑油組成物を10mL取り出し、これを比較例1と同様の基油10mLで2倍に希釈して、フラーレンを16質量ppm含有する、実施例2の潤滑油組成物を調製した。
比較例1と同様にして、実施例2の潤滑油組成物の潤滑性を評価した。結果を表1に示す。
【0044】
[実施例3]
実施例2の潤滑油組成物を10mL取り出し、これを比較例1と同様の基油10mLで2倍に希釈して、フラーレンを7.8質量ppm含有する、実施例3の潤滑油組成物を調製した。
比較例1と同様にして、実施例3の潤滑油組成物の潤滑性を評価した。結果を表1に示す。
【0045】
[実施例4]
実施例3の潤滑油組成物を10mL取り出し、これを比較例1と同様の基油10mLで2倍に希釈して、フラーレンを3.9質量ppm含有する、実施例4の潤滑油組成物を調製した。
比較例1と同様にして、実施例4の潤滑油組成物の潤滑性を評価した。結果を表1に示す。
【0046】
[実施例5]
実施例4の潤滑油組成物を10mL取り出し、これを比較例1と同様の基油10mLで2倍に希釈して、フラーレンを2.0質量ppm含有する、実施例5の潤滑油組成物を調製した。
比較例1と同様にして、実施例5の潤滑油組成物の潤滑性を評価した。結果を表1に示す。
【0047】
[実施例6]
実施例5の潤滑油組成物を10mL取り出し、これを比較例1と同様の基油10mLで2倍に希釈して、フラーレンを1.0質量ppm含有する、実施例6の潤滑油組成物を調製した。
比較例1と同様にして、実施例6の潤滑油組成物の潤滑性を評価した。結果を表1に示す。
【0048】
[比較例5]
実施例6の潤滑油組成物を10mL取り出し、これを比較例1と同様の基油10mLで2倍に希釈して、フラーレンを0.5質量ppm含有する、比較例5の潤滑油組成物を調製した。
比較例1と同様にして、比較例5の潤滑油組成物の潤滑性を評価した。結果を表1に示す。
【0049】
[比較例6]
比較例5の潤滑油組成物を10mL取り出し、これを比較例1と同様の基油10mLで2倍に希釈して、フラーレンを0.2質量ppm含有する、比較例6の潤滑油組成物を調製した。
比較例1と同様にして、比較例6の潤滑油組成物の潤滑性を評価した。結果を表1に示す。
【0050】
【0051】
また、表1の結果を
図1に示す。
図1において、縦軸は平均摩擦係数を示し、横軸はフラーレンの濃度を示す。
表1および
図1の結果から、フラーレンの濃度が1質量ppm以上50質量ppm未満であれば、フラーレンは溶解状態を保ち、潤滑油組成物は潤滑性に優れることが分かった。また、フラーレンの濃度が1質量ppm未満では溶解したフラーレンの効果が十分得られないためか、潤滑油組成物の潤滑性が低くなった。フラーレンの濃度が50質量ppm以上では、溶解しているフラーレンが凝集物となる可能性があり、実際、潤滑油組成物の潤滑性が低くなった。
【0052】
[比較例7]
(潤滑油組成物の調製)
基油としてポリ-α-オレフィン(PAO)(製品名:SpectraSyn(登録商標)、EXXONMOBIL社製)100gと、フラーレン原料(フロンティアカーボン株式会社製nanom(登録商標) mix ST C60:60質量%、C70:25質量%、残部が他高次フラーレンの混合物である。)14mgと、を混合し、室温でスターラーを用いて30時間撹拌した。
次に、0.1μmメッシュのメンブランフィルターを通すことで濾過して、フラーレンを含有する潤滑油組成物を得た。得られた潤滑油組成物について、比較例1と同様にして、UV法でフラーレンの濃度を測定することにより、フラーレンを100質量ppm含有していることを確認した。
比較例1と同様にして、比較例7の潤滑油組成物の潤滑性を評価した。結果を表2に示す。
【0053】
[実施例7]
比較例7の潤滑油組成物を10mL取り出し、これを比較例7と同様の基油10mLで10倍に希釈して、フラーレンを10質量ppm含有する、実施例7の潤滑油組成物を調製した。
比較例1と同様にして、実施例7の潤滑油組成物の潤滑性を評価した。結果を表2に示す。
【0054】
【0055】
表2の結果から、フラーレンの濃度が10質量ppmの実施例7の潤滑油組成物は、潤滑性に優れることが分かった。これに対して、フラーレンの濃度が100質量ppmの比較例7の潤滑油組成物は、潤滑性が低いことが分かった。
【0056】
[比較例8]
(潤滑油組成物の調製)
基油としてポリオールエステル(POE)(製品名:ユニスター(登録商標)HR32、日油株式会社製)100gと、フラーレン原料(フロンティアカーボン株式会社製nanom(登録商標) mix ST C60:60質量%、C70:25質量%、残部が他高次フラーレンの混合物である。)14mgと、を混合し、室温でスターラーを用いて38時間撹拌した。
次に、0.1μmメッシュのメンブランフィルターを通すことで濾過して、フラーレンを含有する潤滑油組成物を得た。得られた潤滑油組成物について、比較例1と同様にして、UV法でフラーレンの濃度を測定することにより、フラーレンを100質量ppm含有していることを確認した。
比較例1と同様にして、比較例8の潤滑油組成物の潤滑性を評価した。結果を表3に示す。
【0057】
[実施例8]
比較例8の潤滑油組成物を10mL取り出し、これを比較例8と同様の基油10mLで10倍に希釈して、フラーレンを10質量ppm含有する、実施例8の潤滑油組成物を調製した。
比較例1と同様にして、実施例8の潤滑油組成物の潤滑性を評価した。結果を表3に示す。
【0058】
【0059】
表3の結果から、フラーレンの濃度が10質量ppmの実施例8の潤滑油組成物は、潤滑性に優れることが分かった。これに対して、フラーレンの濃度が100質量ppmの比較例8の潤滑油組成物は、潤滑性が低いことが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、基油と、フラーレンと、を含むフラーレン含有潤滑油組成物において、フラーレンは、溶解しており、かつ、濃度1質量ppm以上50質量ppm未満であることにより、使用時における摩擦抵抗を低減することができる。従って、本発明は、自動車、家電、工業機械等の摺動部において、金属部分が傷付いたり、摩耗したりすることを抑制するのに有効である。