(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-04
(45)【発行日】2022-01-20
(54)【発明の名称】乗物用シート
(51)【国際特許分類】
B60N 2/02 20060101AFI20220113BHJP
A47C 7/14 20060101ALI20220113BHJP
【FI】
B60N2/02
A47C7/14 C
(21)【出願番号】P 2017148269
(22)【出願日】2017-07-31
【審査請求日】2020-07-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000220066
【氏名又は名称】テイ・エス テック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088580
【氏名又は名称】秋山 敦
(74)【代理人】
【識別番号】100111109
【氏名又は名称】城田 百合子
(72)【発明者】
【氏名】阿部 龍三郎
(72)【発明者】
【氏名】檜山 宜久
【審査官】森林 宏和
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-030610(JP,A)
【文献】特開平06-284940(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0157577(US,A1)
【文献】独国特許出願公開第102009019031(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/00 - 2/90
A47C 7/00 - 7/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面が表皮によって覆われたシートクッション及びシートバックを備えた乗物用シートであって、
前記シートクッション及び
前記シートバックのうちの少なくとも一方の部材は、該少なくとも一方の部材の長さを変更するために移動する移動部を有し、
該移動部は、
前記移動部の表面を覆う前記表皮の端部を掛け留めるために設けられた掛け留め部と、
前記移動部が移動する際に、前記乗物用シートの幅方向に沿う中心軸周りに、前記移動部の表面を覆う前記表皮を連れながら前記掛け留め部と共に回動する回動部と、
該回動部の回動方向において互いに反対向きである第一向き及び第二向きのうち、前記長さを長くする際に前記回動部及び前記掛け留め部が回動するときの向きを前記第一向きとしたとき、前記第二向きに前記掛け留め部を付勢するコイルばねと、
前記回動部を回動自在に支持する軸支持ブラケットと、を有
し、
前記掛け留め部は、前記幅方向に沿って延出した延出部分を備え、
前記延出部分は、前記幅方向の両端部に位置する第一部分と、前記幅方向において前記第一部分よりも内側に位置する第二部分と、を有し、
前記第二部分は、前記第一部分よりも前記回動部から離れており、前記第二部分に、前記移動部の表面を覆う前記表皮の端部が掛け留められており、
前記軸支持ブラケットには、前記回動部の回動経路に沿って形成された孔が設けられており、
前記幅方向における前記掛け留め部の端部は、前記孔内に入り込んでおり、前記回動部が前記掛け留め部と共に回動する際に前記孔に沿って回動することを特徴とする乗物用シート。
【請求項2】
前記回動部は、外周部に前記移動部の表面を覆う前記表皮が巻き付けられた回動軸であり、
前記コイルばねは、該コイルばねの内側に前記回動軸の端部が入り込むことで前記回動軸に支持されていることを特徴とする請求項1に記載の乗物用シート。
【請求項3】
前記掛け留め部は、ワイヤであり
、
前記延出部分に前記移動部の表面を覆う前記表皮の端部が掛け留められていることを特徴とする請求項
1又は2に記載の乗物用シート。
【請求項4】
前記長さを短くする際、前記掛け留め部は、前記コイルばねに付勢されながら前記第二向きに回動し、前記孔の内壁面のうち、前記掛け留め部が前記第二向きに回動することで前記掛け留め部の端部と近付く側にある端面に当接する位置に至ることを特徴とする請求項
1乃至3のいずれか一項に記載の乗物用シート。
【請求項5】
前記移動部は、前記回動
部に固定された状態で前記掛け留め部を保持する保持部材を有し、
前記コイルばねの一端部は、前記軸支持ブラケットに固定されており、
前記コイルばねの他端部は、前記保持部材に固定されていることを特徴とする請求項
1乃至4のいずれか一項に記載の乗物用シート。
【請求項6】
前記移動部を移動させるために回転するモータをさらに有し、
前記コイルばね及び前記掛け留め部は、前記移動部の移動方向において前記モータから離れた位置に設けられていることを特徴とする請求項1乃至
5のいずれか一項に記載の乗物用シート。
【請求項7】
前記コイルばねは、前記幅方向における前記移動部の両端部のそれぞれに設けられていることを特徴とする請求項1乃至
6のいずれか一項に記載の乗物用シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗物用シートに係り、特に、シートクッション及びシートバックのうちの少なくとも一方の長さを変更することが可能な乗物用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
乗物用シートの中には、シートクッション及びシートバックのうちの少なくとも一方の長さを変更することが可能なシートが存在する。例えば、特許文献1に記載の車両用シートでは、シートクッションの前端部が前後方向に移動可能な構成となっており、これにより、シートクッションの前後長が変えられるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、シートクッションやシートバックは、通常、表面が表皮によって覆われている構成となっている。長さが可変となったシートクッションやシートバックにおいて長さを変えるために移動部(特許文献1では、シートクッションの前端部)が移動する構成では、移動部の表面を覆う表皮を張るための機構が必要となる。このため、例えば特許文献1では、シートクッションの前端部を構成する表皮を裏側(下側)に引き込んでいる。さらに、特許文献1では、上記の表皮の端末部分を引っ張る機構が設けられている。
【0005】
しかしながら、上記の構成では、表皮を引っ張る機構が大型化したり複雑化したりする可能性がある。この場合、当該機構の取り付けが困難となり、また、周辺機器と干渉する虞がある。
【0006】
そこで、本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、移動部を有する乗物用シートとして、当該移動部を構成する表皮を簡単且つコンパクトな機構によって張ることが可能な乗物用シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題は、本発明の乗物用シートによれば、表面が表皮によって覆われたシートクッション及びシートバックを備えた乗物用シートであって、前記シートクッション及び前記シートバックのうちの少なくとも一方の部材は、該少なくとも一方の部材の長さを変更するために移動する移動部を有し、該移動部は、前記移動部の表面を覆う前記表皮の端部を掛け留めるために設けられた掛け留め部と、前記移動部が移動する際に、前記乗物用シートの幅方向に沿う中心軸周りに、前記移動部の表面を覆う前記表皮を連れながら前記掛け留め部と共に回動する回動部と、該回動部の回動方向において互いに反対向きである第一向き及び第二向きのうち、前記長さを長くする際に前記回動部及び前記掛け留め部が回動するときの向きを前記第一向きとしたとき、前記第二向きに前記掛け留め部を付勢するコイルばねと、前記回動部を回動自在に支持する軸支持ブラケットと、を有し、前記掛け留め部は、前記幅方向に沿って延出した延出部分を備え、前記延出部分は、前記幅方向の両端部に位置する第一部分と、前記幅方向において前記第一部分よりも内側に位置する第二部分と、を有し、前記第二部分は、前記第一部分よりも前記回動部から離れており、前記第二部分に、前記移動部の表面を覆う前記表皮の端部が掛け留められており、前記軸支持ブラケットには、前記回動部の回動経路に沿って形成された孔が設けられており、前記幅方向における前記掛け留め部の端部は、前記孔内に入り込んでおり、前記回動部が前記掛け留め部と共に回動する際に前記孔に沿って回動することにより解決される。
【0008】
上記のように構成された本発明の乗物用シートでは、移動部の表面を覆う表皮の端部が掛け留め部に掛け留められている。また、移動部が移動する際、回動部が移動部の表面を覆う表皮を連れながら掛け留め部と共に回動する。さらに、上記の長さを長くする際に回動部及び掛け留め部が回動するときの向き(第一向き)とは反対向き(第二向き)に掛け留め部を付勢するコイルばねが設けられている。このコイルばねが掛け留め部を付勢することで、移動部の表面を覆う表皮は、良好に張った状態を維持するようになる。なお、コイルばねを付勢手段として用いているため、移動部の表面を覆う表皮を張る機構をコンパクトに配置すると共に、当該機構と周辺機器との干渉を抑えることが可能となる。
また、上記の構成では、ワイヤの延出部分中、回動部からより離れた第二部分に、移動部の表面を覆う表皮の端部が掛け留められている。このような構成では、ワイヤの延出部分中、回動部により近い第一部分に表皮の端部が掛け留められている場合と比較して、回動部の回動中心から表皮の掛け留め部分までの距離(ストローク)が長くなる。そして、ストロークが長くなった分、表皮の引き込み量が増加する。この結果、移動部の表面を覆う表皮をより容易に張ることが可能となる。
また、上記の構成では、軸支持ブラケットに回動部の回動経路に沿って形成された孔が設けられており、回動部の回動に伴って掛け留め部が回動する際、掛け留め部の端部が上記の孔に入り込んだ状態で当該孔に沿って回動する。これにより、掛け留め部が回動部と共に回動する際、上記の孔によってガイドされながら適切に回動するようになる。
【0009】
また、上記の乗物用シートにおいて、前記回動部は、外周部に前記移動部の表面を覆う前記表皮が巻き付けられた回動軸であり、前記コイルばねは、該コイルばねの内側に前記回動軸の端部が入り込むことで前記回動軸に支持されているとよい。
上記の構成では、コイルばねの内部に回動部としての回動軸の端部が入り込むことで、コイルばねが回動軸に支持されている。このような構成であれば、移動部の表面を覆う表皮を張る機構をよりコンパクトに配置することが可能となる。
【0010】
また、上記の乗物用シートにおいて、前記掛け留め部は、ワイヤであり、前記延出部分に前記移動部の表面を覆う前記表皮の端部が掛け留められているとよい。
上記の構成では、ワイヤにおいてシート幅方向に沿って延出した延出部分に、移動部の表面を覆う表皮の端部が掛け留められている。このようにワイヤ中、表皮の端部が掛け留められる部分がシート幅方向に沿って延出しているので、表皮の端部を適切に掛け留めることが可能となる。
【0013】
また、上記の乗物用シートにおいて、前記長さを短くする際、前記掛け留め部は、前記コイルばねに付勢されながら前記第二向きに回動し、前記孔の内壁面のうち、前記掛け留め部が前記第二向きに回動することで前記掛け留め部の端部と近付く側にある端面に当接する位置に至ると、尚一層よい。
上記の構成では、シートクッション及びシートバックの少なくとも一方の長さを短くするために移動部が移動する際、掛け留め部は、コイルばねに付勢されながら第二向きに回動する。そして、移動部が移動範囲の終端まで移動したとき、掛け留め部の端部は、孔の内壁面の端面(厳密には、掛け留め部が第二向きに回動することで掛け留め部の端部と近付く側にある端面)に当接して係止される。このような構成であれば、掛け留め部の回動範囲を所定の範囲内に規制することが可能となる。
【0014】
また、上記の乗物用シートにおいて、前記移動部は、前記回動軸に固定された状態で前記掛け留め部を保持する保持部材を有し、前記コイルばねの一端部は、前記軸支持ブラケットに固定されており、前記コイルばねの他端部は、前記保持部材に固定されているとよい。
上記の構成では、掛け留め部を保持する保持部材と、回動軸を支持する軸支持ブラケットと、によってコイルばねが固定される。このような構成では、コイルばねが保持部材を介して掛け留め部を付勢することになる。これにより、コイルばねを適切に固定しつつ、コイルばねの付勢力を適切に掛け留め部へ伝達させることが可能となる。
【0015】
また、上記の乗物用シートにおいて、前記移動部を移動させるために回転するモータをさらに有し、前記コイルばね及び前記掛け留め部は、前記移動部の移動方向において前記モータから離れた位置に設けられているとよい。
上記の構成では、コイルばね及び掛け留め部が、移動部の移動方向においてモータから離れた位置に設けられているため、コイルばね及び掛け留め部がモータと干渉するのを抑制することが可能となる。
【0016】
また、上記の構成において、前記コイルばねは、前記幅方向における前記移動部の両端部のそれぞれに設けられているとよい。
上記の構成であれば、シート幅方向における一端部及び他端部のそれぞれにコイルばねが設けられているので、シート幅方向において掛け留め部をバランスよく付勢することが可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の乗物用シートによれば、移動部の表面を覆う表皮を張る機構をコンパクトに配置すると共に、当該機構と周辺機器との干渉を抑えることが可能となる。
また、本発明の乗物用シートによれば、移動部の表面を覆う表皮を張る機構をよりコンパクトに配置することが可能となる。
また、本発明の乗物用シートによれば、掛け留め部としてのワイヤ中、シート幅方向に沿って延出した延出部分に表皮の端部を適切に掛け留めることが可能となる。
また、本発明の乗物用シートによれば、回動軸の回動中心から表皮の掛け留め部分までの距離(ストローク)が長くなる分、表皮の引き込み量が増加する。この結果、移動部の表面を覆う表皮をより容易に張ることが可能となる。
また、本発明の乗物用シートによれば、掛け留め部が回動部と共に回動する際、軸支持ブラケットに形成された孔によってガイドされながら適切に回動するようになる。
また、本発明の乗物用シートによれば、掛け留め部の回動範囲を所定の範囲内に規制することが可能となる。
また、本発明の乗物用シートによれば、移動部の表面を覆う表皮を張る機構としてのコイルばねを適切に固定しつつ、コイルばねの付勢力を適切に掛け留め部へ伝達させることが可能となる。
また、本発明の乗物用シートによれば、コイルばね及び掛け留め部がモータと干渉するのを抑制することが可能となる。
また、本発明の乗物用シートによれば、シート幅方向において掛け留め部をバランスよく付勢することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施形態に係る乗物用シートの斜視図である。
【
図2】シートクッションの前側部分を上方から見た図である。
【
図3】シートクッションの前側部分を側方から見た図である。
【
図4】
図1中のX-X断面を示す模式図であり、移動部が通常位置にあるときの図である。
【
図5】
図1中のX-X断面を示す模式図であり、移動部が拡張位置にあるときの図である。
【
図9】孔に入り込んだ掛け留め部の端部を側方から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態(本実施形態)について説明する。以下では、本実施形態に係る乗物用シートとして、車両用シートを例に挙げて説明する。ただし、本発明の乗物用シートは、車両用シートのみに限定されず、車両以外の乗物に搭載されるシート、例えば、船舶や航空機に搭載されるシートであってもよい。また、以下に説明する実施形態は、本発明の理解を容易にするための一例であり、本発明を限定するものではない。すなわち、本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることは勿論である。
【0020】
また、以下の説明において、「前後方向」とは、着座者から見たときの前後方向であり、車両の走行方向と一致する方向である。また、「シート幅方向」とは、車両用シートの幅方向であり、着座者から見たときの左右方向に相当する。また、「上下方向」とは、車両内に搭載された状態にある車両用シートの上下方向であり、換言するとシート高さ方向である。
【0021】
<<本実施形態に係る車両用シートの基本構成>>
本実施形態に係る車両用シート1の基本構成について
図1乃至
図3を参照しながら説明する。本実施形態に係る車両用シート1は、
図1に示すように、シートクッション2と、シートバック3と、ヘッドレスト4とを備えている。
【0022】
ここで、シートクッション2及びシートバック3の構成について説明すると、シートクッション2及びシートバック3の各々は、ウレタン等からなるパッド材7をフレームによって支持し、パッド材7の表面を表皮8で覆うことで構成されている。つまり、シートクッション2の表面(厳密には上面、前面、後面及び側面)、並びにシートバック3の表面(厳密には、前面、上面、下面及び側面)は、表皮8によって覆われている。
【0023】
また、本実施形態に係るシートクッション2は、シート着座者である乗員の臀部及び大腿部を支持するクッション本体2aと、クッション本体2aの両脇位置(すなわち、シート幅方向においてクッション本体2aよりも外側)に配置されており土手状に隆起した隆起部2bと、を備えている。さらに、クッション本体2aの前端部は、移動部10によって構成されている。移動部10は、前後方向に沿って移動することが可能である。これに対して、隆起部2bは、移動不能な非移動部である。なお、移動部10の構成については、後に詳述する。
【0024】
そして、移動部10を前後移動させることで、シートクッション2の前後方向における長さ(以下、「シートクッション2の前後長」という)を変更することが可能である。これにより、本実施形態では、シートクッション2の前後長を着座者の体格に応じて変更し、例えば、
図2及び
図3において破線にて示した位置までシートクッション2(厳密にはクッション本体2a)を拡張させることが可能である。なお、以下では、移動部10が最も後退したときの移動部10の位置を「通常位置」と呼ぶこととし、移動部10が最も前進したときの位置を「拡張位置」と呼ぶこととする。
【0025】
また、クッション本体2aの前端部の下部には、樹脂製のカバープレート9が取り付けられている。このカバープレート9は、カバー部材に相当し、移動部10よりも前方(すなわち、移動部10の移動方向において移動部10よりも手前側)に位置して移動部10を覆っている。カバープレート9は、
図1に示すように、クッション本体2aの前面に取り付けられるカバー前方部9aと、クッション本体2aの側面に取り付けられるカバー側部9bと、を有する。
【0026】
カバー前方部9aは、シート幅方向に沿って長く延びている板状部分である。カバー側部9bは、カバープレート9のシート幅方向端部をなしている。より詳しく説明すると、カバー側部9bは、カバー前方部9aのシート幅方向両端部と隣接する位置に一対設けられており、カバー前方部9aと交差している。
【0027】
なお、カバー側部9bは、シート幅方向においてクッション本体2aの前端部(すなわち、移動部10)と隆起部2bとの間に配置されている。かかる位置にカバー側部9bが設けられていることにより、クッション本体2aと隆起部2bとの間の隙間内に異物が入り込むのを抑えることが可能となる。
【0028】
<<移動部の構成について>>
次に、移動部10の構成について
図4乃至
図9を参照しながら説明する。
移動部10は、前述したように、クッション本体2aの前端部を構成しており、シートクッション2の前後長を変更するために前後移動する。また、移動部10を前後移動させるための機器として、
図4~
図8に図示した各機器、具体的には回動軸11、軸支持ブラケット12、進退ロッド13、ガイドピラー14、トリムワイヤ15、ワイヤ支持ブラケット16、コイルばね17、及びモータ18がクッション本体2aの下部に設けられている。
【0029】
回動軸11は、回動部に相当し、軸方向に延出しているパイプによって構成されている。また、
図4及び
図5に示すように、回動軸11の外周部には、クッション本体2aの前端部(すなわち、移動部10)を構成するパッド材7及び表皮8が巻き付けられている。また、回動軸11は、その外周の周方向に回動しながら、前後移動することが可能である。具体的に説明すると、回動軸11は、
図5中、矢印f1の向き(以下、第一向き)に回動しながら前進する。これにより、移動部10は、拡張位置に向かうようになる。このとき、回動軸11の外周部に巻き付けられたパッド材7及び表皮8の巻き付け量が変化し、具体的には、移動部10が通常位置から前進した分だけ減少する。
【0030】
反対に、回動軸11は、
図5中、矢印f2の向き(以下、第二向き)に回動しながら後退する。これにより、移動部10は、通常位置に向かうようになる。このとき、回動軸11外周部に巻き付けられたパッド材7及び表皮8の巻き付け量は、移動部10が拡張位置から後退した分だけ増加する。
以上のように、回動軸11は、移動部10が移動する際に、移動部10の表面を覆う表皮8を連れながら動き、具体的には、シート幅方向に沿う中心軸周りに回動しながら前後移動する。
【0031】
軸支持ブラケット12は、回動軸11を回動自在に支持する支持部として機能し、シート幅方向において互いに離れた位置に一対設けられている。各軸支持ブラケット12は、クッション本体2aのシート幅方向端部に設けられており、金属板を加工することで成形されている。また、軸支持ブラケット12を構成している金属板は、
図6に示すように、上方に向かって延出した部分(上方延出部12a)を有する。この上方延出部12aには、回動軸11を挿通されるための挿通穴(不図示)が形成されている。また、上方延出部12aの外縁部分は、
図6に示すように、シート幅方向外側に折れ曲がることでフランジ部12bを形成している。さらに、上方延出部12aにおいて上記の挿通孔が形成されている箇所よりもやや下方に位置する部分には、
図6に示すように、円弧状に形成されたガイド孔12cが設けられている。
【0032】
進退ロッド13は、金属製又は樹脂製の棒体からなり、シート幅方向において互いに離間した位置に一対設けられている。各進退ロッド13は、
図7に示すように、前後方向に沿って長く延びている。また、各進退ロッド13の前端部は、シート幅方向外側に向かってL字状に屈曲している。そして、各進退ロッド13の、L字状に屈曲した部分における先端(すなわち、シート幅方向外側の端)は、
図7に示すように、軸支持ブラケット12(厳密には、左右一対の軸支持ブラケット12のうち、より近い方の軸支持ブラケット12)に組み付けられている。
【0033】
ガイドピラー14は、進退ロッド13を挿抜自在に収容する筒状体であり、進退ロッド13と同様、シート幅方向において互いに離間した位置に一対設けられている。各ガイドピラー14は、前後方向に沿って長く延びている。また、各ガイドピラー14の内部には、進退ロッド13(厳密には、進退ロッド13のうち、前後方向に沿って延びている部分の一部)が前後方向に沿って進退可能な状態で挿入されている。また、各ガイドピラー14は、取り付けブラケット20を介して、クッション本体2aを構成するフレーム(不図示)の下端にボルト止めされている。
【0034】
進退ロッド13及びガイドピラー14の構造について付言しておくと、進退ロッド13の前後方向の進退動作を許容し、それ以外の方向における移動を規制するガイドピラー14の構造が採用されている。このような構造としては、例えば、一般的なヘッドレストのピラー部分及び当該ピラー部分が挿入されるピラーガイド部材を模した構造が利用可能である。
【0035】
そして、進退ロッド13が前後方向に沿って進退することで、進退ロッド13に固定された軸支持ブラケット12、及び、軸支持ブラケット12に支持された回動軸11が進退ロッド13と一体的に前後方向に移動するようになる。
【0036】
モータ18は、移動部10を移動させるために回転する回転電機である。より詳しく説明すると、本実施形態において、モータ18の回転は、ギア等の伝達機構に伝達される。この伝達機構を構成するギア輪列における最終段のギアは、左右一対の進退ロッド13のうちの一方の外周部に形成されたスクリューネジ部に螺合している。このような構成において、モータ18が回転すると、その回転力が一方の進退ロッド13まで伝達され、結果として、進退ロッド13が前後方向に進退するようになる。より詳しく説明すると、本実施形態では、モータ18が正逆両方向に回転可能となっており、進退ロッド13は、モータ18が正方向に回転したときに前進し、モータ18が逆方向に回転したときに後退する。
【0037】
なお、本実施形態において、移動部10を移動させるためのモータ18は、一つのみ設けられており、
図8に示すように、左右一対のガイドピラー14のうち、スクリューネジ部が形成された進退ロッド13を収容する方のガイドピラー14の下部に取り付けられている。
【0038】
トリムワイヤ15は、移動部10の表面を覆う表皮8の端末部分を掛け留めておくために設けられた掛け留め部に相当し、金属製のワイヤによって構成されている。このトリムワイヤ15は、回動軸11よりも下方に配置されている。また、トリムワイヤ15は、シート幅方向に沿って延びた延出部分15aを備えており、
図4及び
図5に示すように、延出部分15aに移動部10の表面を覆う表皮8の端末部分(端部)が掛け留められている。
【0039】
より詳しく説明すると、延出部分15aは、
図8に示すように、延出部分15aのシート幅方向両端部に位置する第一部分15bと、シート幅方向において延出部分15aよりも内側に位置する第二部分15cと、を有する。第一部分15bは、トリムワイヤ15のシート幅方向端部をなしており、第二部分15cは、トリムワイヤ15のシート幅方向中央部をなしている。また、第二部分15cは、第一部分15bよりも長く延びている。
【0040】
また、
図8に示すように、トリムワイヤ15中、第一部分15bと第二部分15cとの間に位置する部分が折れ曲がって段差を形成している。換言すると、第一部分15bと第二部分15cとの間には、段差を形成しながら第一部分15b及び第二部分15cを連結する連結部分15dが設けられている。この連結部分15dが形成されていることにより、第二部分15cは、連結部分15dが形成された分だけ、第一部分15bよりも回動軸11から離れている。
【0041】
以上のように構成されたトリムワイヤ15のうち、第二部分15cに、移動部10の表面を覆う表皮8の端末部分が掛け留められており、具体的には、
図4及び
図5に示すように、当該端末部分に締結されたトリムコード8aが第二部分15cに引っ掛けられている。このようにトリムワイヤ15中、移動部10の表面を覆う表皮8の端末部分が掛け留められる部分(すなわち、第二部分15c)が、トリムワイヤ15においてシート幅方向の中央部で長く延出しているので、表皮8の端末部分が適切に掛け留められるようになる。
【0042】
また、第二部分15cは、前述したように、第一部分15bよりも回動軸11から離れている。したがって、本実施形態では、移動部10の表面を覆う表皮8の端末部分を第一部分15bに掛け留める場合と比較して、回動軸11の回動中心から表皮8の掛け留め部分までの距離(ストローク)が長くなる。ストロークが長くなると、その分、表皮8の引き込み量が増加するため、結果として、移動部10の表面を覆う表皮8が張り易くなる。
【0043】
また、
図6に示すように、第一部分15bのシート幅方向外側端部(すなわち、トリムワイヤ15の端部)は、軸支持ブラケット12に形成されたガイド孔12c内に入り込んでいる。そして、移動部10が移動する際、前述したように、回動軸11がトリムワイヤ15と共に回動するが、このとき、第一部分15bのシート幅方向外側端部が、
図9に示すようにガイド孔12c内をガイド孔12cに沿って移動する。
【0044】
より詳しく説明すると、ガイド孔12cは、
図9に示すように、回動軸11の回動経路に沿って円弧状に形成されている。そして、回動軸11が移動部10の表面を覆う表皮8を連れながらトリムワイヤ15と共に回動する際には、ガイド孔12c内に入り込んだトリムワイヤ15の第一部分15bがガイド孔12cに沿って移動する。つまり、トリムワイヤ15は、ガイド孔12cによってガイドされながら回動軸11と共に回動する。
【0045】
ワイヤ支持ブラケット16は、保持部材に相当し、金属板からなる部材であり、トリムワイヤ15を保持(支持)する。ワイヤ支持ブラケット16は、
図6に示すように、シート幅方向において互いに離間した位置に一対設けられている。また、ワイヤ支持ブラケット16は、軸支持ブラケット12よりもシート幅方向内側に配置されており、回動軸11に溶接されている。また、左右一対のワイヤ支持ブラケット16の各々には、トリムワイヤ15の第一部分15bが取り付けられている。具体的に説明すると、各ワイヤ支持ブラケット16にはシート幅方向に貫く貫通孔が設けられており、当該貫通孔にはトリムワイヤ15の第一部分15b(厳密には、左右一対の第一部分15bのうち、より近い方の第一部分15b)が挿通され、さらに、貫通孔の周辺部と溶接にて接合されている。
【0046】
以上のように本実施形態では、トリムワイヤ15が左右一対のワイヤ支持ブラケット16を介して回動軸11に取り付けられている。このため、回動軸11が動くと、トリムワイヤ15及びワイヤ支持ブラケット16が回動軸11と一体的に動くことになる。すなわち、回動軸11が前後方向に移動すると、トリムワイヤ15及びワイヤ支持ブラケット16が追従して前後方向に移動する。また、回動軸11が回動すると、トリムワイヤ15及びワイヤ支持ブラケット16が追従して回動軸11と一体的に回動する。換言すると、回動軸11は、移動部10の表面を覆う表皮8を連れながらトリムワイヤ15と共に回動する。
【0047】
また、トリムワイヤ15が回動軸11の回動動作に追従して回動する際、トリムワイヤ15の第一部分15bは、軸支持ブラケット12に形成されたガイド孔12c内に入り込んだ状態でガイド孔12cに沿って移動する(厳密には、軸支持ブラケット12に対して相対的に移動する)。ガイド孔12cは、回動軸11の回動経路に沿って形成されており、より詳しくは、回動軸11を中心とした円弧をなすように形成されている。
【0048】
なお、移動部10が通常位置にあるとき、トリムワイヤ15の第一部分15bは、ガイド孔12cの内壁面のうち、後端面(トリムワイヤ15が第二向きに回動することで第一部分15bと近付く側にある端面)によって係止されている。他方、移動部10が拡張位置にあるとき、トリムワイヤ15の第一部分15bは、ガイド孔12cの内壁面のうち、前端面(トリムワイヤ15が第一向きに回動することで第一部分15bと近付く側にある端面)によって係止されている。
【0049】
コイルばね17は、第二向きにトリムワイヤ15を付勢する部材である。ここで、第二向きとは、前述したように
図5中、矢印f2の向きである。より詳しく説明すると、回動軸11の回動方向において互いに反対向きである第一向き及び第二向きのうち、シートクッション2の前後長を長くする際に回動軸11及びトリムワイヤ15が回動するときの向きが第一向きであり、その反対の向きが第二向きである。
【0050】
本実施形態において、コイルばね17は、
図6~
図8に示すように、シート幅方向において互いに離間した位置に一対設けられている。つまり、コイルばね17は、シート幅方向において移動部10の両端部のそれぞれに設けられている。これにより、シート幅方向においてトリムワイヤ15をバランスよく付勢することが可能となる。
【0051】
また、各コイルばね17は、シート幅方向において、軸支持ブラケット12とワイヤ支持ブラケット16との間に配置されている。また、本実施形態において、各コイルばね17は、当該各コイルばね17の内側(厳密には、コイルばね17中、螺旋状に巻回された部分の内側)に回動軸11の端部が入り込むことで回動軸11に支持されている。
【0052】
また、各コイルばね17の一端部は、軸支持ブラケット12に固定されており、他端部は、ワイヤ支持ブラケット16に固定されている。つまり、コイルばね17は、ワイヤ支持ブラケット16を第二向きに付勢することで、間接的にトリムワイヤ15を第二向きに付勢している。このような構成により、コイルばね17を適切に固定しつつ、コイルばね17の付勢力を適切にトリムワイヤ15へ伝達させることが可能となる。
【0053】
そして、コイルばね17によってトリムワイヤ15が付勢されていることで、トリムワイヤ15に掛け留めされた表皮8には、適度なテンション(具体的には、後方に表皮8を引く向きのテンション)が付与されるようになる。このテンションにより、移動部10の表面を覆う表皮8は、移動部10の移動前後に亘って良好に張られた状態を維持するようになる。
【0054】
以上のように、本実施形態では、移動部10の表面を覆う表皮8を張るための機器としてコイルばね17が用いられている。これにより、移動部10の表面を覆う表皮8を張る機器をコンパクトに配置することができると共に、当該機構と周辺機器(例えば、モータ18)との干渉を抑えることが可能となる。
【0055】
なお、本実施形態において、コイルばね17は、その回動軸11の端部が入り込むことで回動軸11に支持されている。これにより、本実施形態では、コイルばね17をよりコンパクトに配置することが可能となる。
【0056】
また、本実施形態では、モータ18との干渉を効果的に回避する目的から、
図7に示すように、前後方向(すなわち、移動部10の移動方向)においてトリムワイヤ15及びコイルばね17がモータ18から離れた位置に配置されている。より具体的に説明すると、トリムワイヤ15及びコイルばね17は、モータ18よりも幾分前方に配置されている。
【0057】
また、本実施形態において、コイルばね17は、第二向きに向かってトリムワイヤ15を付勢する。そして、シートクッション2の前後長を短くするために移動部10が後方に移動する際、トリムワイヤ15は、コイルばね17に付勢されながら第二向きに回動する。このとき、トリムワイヤ15の第一部分15bは、ガイド孔12cに沿ってガイド孔12c内を後方移動する。やがて、移動部10が通常位置に到達すると、第一部分15bは、ガイド孔12cの内壁面の後端面に当接する位置(
図9中、破線にて示す第一部分15bの位置)に至り、当該位置にて係止されるようになる。このように移動部10が通常位置に到達した時点で、第一部分15bがガイド孔12cの内壁面によって係止されることで、第一部分15bの更なる後方移動を規制することが可能となる。
【0058】
<<その他の実施形態>>
以上までに、本発明の乗物用シートの構成について一例を挙げて説明したが、上述の構成例は、あくまでも一例に過ぎず、他の例も考えられる。例えば、上記の実施形態では、シートクッション2に移動部10が設けられており、移動部10の移動によってシートクッション2の長さ(前後長)を変更する構成について説明した。ただし、これに限定されるものではなく、シートクッション2の代わりにシートバック3に移動部10が設けられてもよく、あるいは、シートクッション2及びシートバック3の双方に移動部10が設けられてもよい。シートバック3に移動部10を設ける構成では、シートバック3の上端部を移動部10によって構成することになる。なお、シートバック3に設けられる移動部10の構成については、シートクッション2に設けられる移動部10の構成、すなわち、上記の実施形態に係る移動部10の構成と同様であるため、説明を省略することとする。
【0059】
また、上記の実施形態では、モータ18の駆動力によって移動部10を移動させることとしたが、これに限定されるものではない。モータ18が無く移動部10を手動にて移動させる構成、例えば、シート着座者が操作レバー等を操作して当該レバーの動きによって移動部10が前後移動する構成であってもよい。
【符号の説明】
【0060】
1 車両用シート(乗物用シート)
2 シートクッション
2a クッション本体
2b 隆起部
3 シートバック
4 ヘッドレスト
7 パッド材
8 表皮
8a トリムコード
8x 側端面構成部分
9 カバープレート
9a カバー前方部
9b カバー側部
9c スリット
10 移動部
11 回動軸(回動部)
12 軸支持ブラケット
12a 上方延出部
12b フランジ部
12c ガイド孔(孔)
13 進退ロッド
14 ガイドピラー
15 トリムワイヤ(掛け留め部)
15a 延出部分
15b 第一部分
15c 第二部分
15d 連結部分
16 ワイヤ支持ブラケット(保持部材)
17 コイルばね
18 モータ
20 取り付けブラケット