(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-05
(45)【発行日】2022-01-20
(54)【発明の名称】SiCインゴットの製造方法
(51)【国際特許分類】
C30B 29/36 20060101AFI20220113BHJP
C30B 23/06 20060101ALI20220113BHJP
【FI】
C30B29/36 A
C30B23/06
(21)【出願番号】P 2017246783
(22)【出願日】2017-12-22
【審査請求日】2020-09-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(72)【発明者】
【氏名】藤川 陽平
【審査官】▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-111372(JP,A)
【文献】特開2004-338971(JP,A)
【文献】特開2015-131740(JP,A)
【文献】国際公開第2017/057742(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 1/00-35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiC単結晶の原子配列面の湾曲方向を少なくとも平面視中央を通る第1の方向と前記第1の方向と交差する第2の方向に沿って
X線回折により測定し、前記原子配列面の形状を求める測定工程と、
前記SiC単結晶を種結晶として
昇華法により結晶成長を行う結晶成長工程と、を有し、
前記SiC単結晶は、前記測定工程において測定された前記原子配列面の形状が、前記原子配列面の湾曲方向が前記第1の方向と前記第2の方向とで異なる鞍型
であり、
前記結晶成長工程における結晶成長条件を、前記種結晶の中心における結晶成長量が7mmの時点における第1成長面の凸面度より結晶成長終了時における第2成長面の凸面度が大きくなるように設定する、SiCインゴットの製造方法。
【請求項2】
前記結晶成長工程における結晶成長条件を前記第1成長面から前記第2成長面に向って前記凸面度が徐々に増加するように設定する、請求項1に記載のSiCインゴットの製造方法。
【請求項3】
前記結晶成長工程において成長面の高低差が、前記第1成長面から前記第2成長面に向って徐々に増加する、請求項1又は2に記載のSiCインゴットの製造方法。
【請求項4】
前記第1成長面の成長面高低差と前記第2成長面の成長面高低差との差が、0.5mm以上4.0mm以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載のSiCインゴットの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SiCインゴットの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化珪素(SiC)は、シリコン(Si)に比べて絶縁破壊電界が1桁大きく、バンドギャップが3倍大きい。また、炭化珪素(SiC)は、シリコン(Si)に比べて熱伝導率が3倍程度高い等の特性を有する。炭化珪素(SiC)は、パワーデバイス、高周波デバイス、高温動作デバイス等への応用が期待されている。
【0003】
半導体等のデバイスには、SiCウェハ上にエピタキシャル膜を形成したSiCエピタキシャルウェハが用いられる。SiCウェハ上に化学的気相成長法(Chemical Vapor Deposition:CVD)によって設けられたエピタキシャル膜が、SiC半導体デバイスの活性領域となる。
【0004】
そのため、割れ等の破損が無く、欠陥の少ない、高品質なSiCウェハが求められている。なお、本明細書において、SiCエピタキシャルウェハはエピタキシャル膜を形成後のウェハを意味し、SiCウェハはエピタキシャル膜を形成前のウェハを意味する。
【0005】
例えば特許文献1には、中央部が外縁部よりも突き出す凸成長後、中央部が外縁部よりも凹む凹成長を行うことで、SiCインゴットの割れや歪みを抑制できることが記載されている。
【0006】
また例えば特許文献2には、結晶成長の最終面においてインゴットの中心点と外周点との高さの差が0.8mm以上2.0mm以下の凸形状とすることで、異種多形の混入が抑制されることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2011-219294号公報
【文献】特開2017-65954号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
SiCウェハのキラー欠陥の一つとして、基底面転位(BPD)がある。SiCウェハのBPDの一部はSiCエピタキシャルウェハにも引き継がれ、デバイスの順方向に電流を流した際の順方向特性の低下の要因となる。BPDは、基底面において生じるすべりが発生の原因の一つであると考えられている欠陥である。特許文献1及び2に記載のように、結晶成長面の形状のみを議論しても、BPDを十分抑制することができなかった。
【0009】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、原子配列面の湾曲量の少ないSiCインゴットの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意検討の結果、SiC単結晶の原子配列面(格子面)の湾曲量と、基底面転位(BPD)密度との間に、相関関係があることを見出した。すなわち、原子配列面の湾曲量を少なくすることで、BPD密度の少ないSiC単結晶が得られることを見出した。そして原子配列面の形状が所定の形状の場合に、所定の条件で結晶成長を行うと、原子配列面の湾曲が緩和されることを見出した。
すなわち、本発明は、上記課題を解決するために、以下の手段を提供する。
【0011】
(1)第1の態様にかかるSiCインゴットの製造方法は、SiC単結晶の原子配列面の湾曲方向を少なくとも平面視中央を通る第1の方向と前記第1の方向と交差する第2の方向に沿って測定し、前記原子配列面の形状を求める測定工程と、前記SiC単結晶を種結晶として結晶成長を行う結晶成長工程と、を有し、前記測定工程において測定された前記原子配列面の形状が、前記原子配列面の湾曲方向が前記第1の方向と前記第2の方向とで異なる鞍型の場合に、前記結晶成長工程における結晶成長条件を、前記種結晶の中心における結晶成長量が7mmの時点における第1成長面の凸面度より結晶成長終了時における第2成長面の凸面度が大きくなるように設定する。
【0012】
(2)上記態様にかかるSiCインゴットの製造方法において、前記結晶成長工程における結晶成長条件を前記第1成長面から前記第2成長面に向って前記凸面度が徐々に増加するように設定する。
【0013】
(3)上記態様にかかるSiCインゴットの製造方法において、前記結晶成長工程において成長面の高低差が、前記第1成長面から前記第2成長面に向って徐々に増加してもよい。
【0014】
(4)上記態様にかかるSiCインゴットの製造方法において、前記第1成長面の成長面高低差と前記第2成長面の成長面高低差との差が、0.5mm以上4.0mm以下であってもよい。
【発明の効果】
【0015】
上記態様にかかるSiC単結晶の評価方法を用いると、原子配列面が平坦化されたSiCインゴットを作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】SiC単結晶を平面視中心を通る第1の方向に延在する直線に沿って切断した切断面の模式図である。
【
図2】SiC単結晶の原子配列面の一例を模式的に示した図である。
【
図3】SiC単結晶の原子配列面の別の例を模式的に示した図である。
【
図4】原子配列面の形状の測定方法を具体的に説明するための図である。
【
図5】原子配列面の形状の測定方法を具体的に説明するための図である。
【
図6】原子配列面の形状の測定方法を具体的に説明するための図である。
【
図7】原子配列面の形状の測定方法を具体的に説明するための図である。
【
図8】複数のXRDの測定点から原子配列面の曲率半径を求めた例を示す。
【
図9】原子配列面の形状の測定方法の別の例を具体的に説明するための図である。
【
図10】原子配列面の形状の測定方法の別の例を具体的に説明するための図である。
【
図11】昇華法に用いられる製造装置の一例の模式図である。
【
図12】SiCインゴットの結晶成長過程の様子を示した図である。
【
図13】SiC単結晶の原子配列面の曲率半径と、BPD密度の関係を示すグラフである。
【
図14】結晶成長前の種結晶の[1-100]方向及び[11-20]方向における反り量と、結晶成長後のSiCインゴットの[1-100]方向及び[11-20]方向における反り量との関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本実施形態について、図を適宜参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材質、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0018】
「SiCインゴットの製造方法」
本実施形態にかかるSiCインゴットの製造方法は、測定工程と、結晶成長工程と、を有する。測定工程では、SiC単結晶の原子配列面の湾曲方向を少なくとも平面視中央を通る第1の方向及び第2の方向に沿って測定し、原子配列面の形状を求める。ここで、第2の方向は、第1の方向と交差する方向である。結晶成長工程では、種結晶の中心における結晶成長量が7mmの時点における第1成長面の凸面度より結晶成長終了時における第2成長面の凸面度が大きくなるように結晶成長を行う。以下、各工程について具体的に説明する。
【0019】
<測定工程>
図1は、SiC単結晶1を平面視中心を通る第1の方向に延在する直線に沿って切断した切断面の模式図である。第1の方向は、任意の方向を設定できる。
図1では、第1の方向を[1-100]としている。
図1において上側は[000-1]方向、すなわち<0001>方向に垂直に切断をした時にカーボン面(C面、(000-1)面)が現れる方向である。以下、第1の方向を[1-100]とした場合を例に説明する。
【0020】
ここで結晶方位及び面は、ミラー指数として以下の括弧を用いて表記される。()と{}は面を表す時に用いられる。()は特定の面を表現する際に用いられ、{}は結晶の対称性による等価な面の総称(集合面)を表現する際に用いられる。一方で、<>と[]は方向を表す特に用いられる。[]は特定の方向を表現する際に用いられ、<>は結晶の対称性による等価な方向を表現する際に用いられる。
【0021】
図1に示すように、SiC単結晶1は、複数の原子Aが整列してなる単結晶である。そのため
図1に示すように、SiC単結晶の切断面をミクロに見ると、複数の原子Aが配列した原子配列面2が形成されている。切断面における原子配列面2は、切断面に沿って配列する原子Aを繋いで得られる切断方向と略平行な方向に延在する線として表記される。
【0022】
原子配列面2の形状は、SiC単結晶1の最表面の形状によらず、切断面の方向によって異なる場合がある。
図2及び
図3は、原子配列面2の形状を模式的に示した図である。
図2に示す原子配列面2は、中心に向かって凹形状のお椀型である。そのため、
図2に示す原子配列面2は、[1-100]方向と、[1-100]方向に直交する[11-20]方向とで湾曲方向が一致する。これに対し
図3に示す原子配列面2は、所定の切断面では凹形状、異なる切断面では凸形状の鞍型(ポテトチップス型)の形状である。そのため、
図3に示す原子配列面2は、[1-100]方向と、[1-100]方向に直交する[11-20]方向とで湾曲方向が異なる。
【0023】
つまり、原子配列面2の形状を正確に把握するためには、少なくとも平面視中央を通り互いに交差する2方向(第1の方向及び第2の方向)に沿って、SiC単結晶の原子配列面2の形状を測定する必要がある。2方向に沿って測定した原子配列面2の湾曲方向が異なる場合の原子配列面2の形状を、本明細書においては「鞍型」と規定する。またSiC単結晶1の結晶構造は六方晶であり、中心に対して対称な六方向に沿って原子配列面2の形状を測定することが好ましい。例えば、互いに交差する特定の2方向に沿って原子配列面2を測定した際にこれらの湾曲方向が同一の場合でも、これらのいずれの方向とも異なる第3の方向を測定した場合に湾曲方向が異なる場合も考えられる。この場合の原子配列面2の形状も「鞍型」の一態様である。中心に対して対称な六方向に沿って原子配列面2の形状を計測すれば、結晶成長工程に進めることができるSiC単結晶の見逃しを避けることができる。
【0024】
原子配列面2の形状はX線回折(XRD)により測定できる。測定する面は測定する方向に応じて決定される。測定方向を[hkil]とすると、測定面は(mh mk mi n)の関係を満たす必要がある。ここで、mは0以上の整数であり、nは自然数である。例えば、[11-20]方向に測定する場合は、m=0、n=4として(0004)面、m=2、n=16として(22-416)面等が選択される。一方で、[11-20]方向に測定する場合は、m=0、n=4として(0004)面、m=3、n=16として(3-3016)面等が選択される。すなわち測定面は、測定方向によって異なる面であってもよく、測定される原子配列面2は必ずしも同じ面とはならなくてもよい。上記関係を満たすことで、結晶成長時に及ぼす影響の少ないa面又はm面方向の格子湾曲をc面方向の格子湾曲と誤認することを防ぐことができる。
【0025】
X線回折データは、所定の方向に沿って中心、端部、中心と端部との中点の5点において取得する。原子配列面2が湾曲している場合、X線の反射方向が変わるため、中心とそれ以外の部分とで出力されるX線回折像のピークのω角の位置が変動する。この回折ピークの位置変動から原子配列面2の湾曲方向を求めることができる。また回折ピークの位置変動から原子配列面2の曲率半径も求めることができ、原子配列面2の湾曲量も求めることができる。そして、原子配列面2の湾曲方向及び湾曲量から原子配列面2の形状を求めることができる。
【0026】
(原子配列面の形状の測定方法(方法1)の具体的な説明)
SiC単結晶をスライスした試料(以下、ウェハ20と言う)の外周端部分のXRDの測定値から原子配列面の湾曲方向及び湾曲量を測定する方法について具体的に説明する。一例としてウェハ20を用いて測定方法を説明するが、スライスする前のインゴット状のSiC単結晶においても同様の方法を用いて測定できる。
【0027】
図4に平面視中心を通り原子配列面の測定の方向、例えば[1-100]方向に沿って切断した切断面を模式的に示す。ウェハ20の半径をrとすると、断面の横方向の長さは2rとなる。また
図4にウェハ20における原子配列面22の形状も図示している。
図4に示すように、ウェハ20自体の形状は平坦であるが、原子配列面22は湾曲している場合がある。
図4に示す原子配列面22は左右対称であり、凹型に湾曲している。この対称性は、SiC単結晶(インゴット)の製造条件が通常中心に対して対称性があることに起因する。なお、この対称性とは、完全対称である必要はなく、製造条件の揺らぎ等に起因したブレを容認する近似としての対称性を意味する。
【0028】
次いで、
図5に示すように、XRDをウェハ20の両外周端部に対して行い、測定した2点間のX線回折ピーク角度の差Δθを求める。このΔθが測定した2点の原子配列面22の傾きの差になっている。X線回折測定に用いる回折面は、上述のように切断面にあわせて適切な面を選択する。
【0029】
次に、
図6に示すように、得られたΔθから湾曲した原子配列面22の曲率半径を求める。
図6には、ウェハ20の原子配列面22の曲面が円の一部であると仮定して、測定した2箇所の原子配列面に接する円Cを示している。
図6から幾何学的に、接点を両端とする円弧を含む扇型の中心角φは、測定したX線回折ピーク角度の差Δθと等しくなる。原子配列面22の曲率半径は、当該円弧の半径Rに対応する。円弧の半径Rは以下の関係式で求められる。
【0030】
【0031】
そして、この円弧の半径Rとウェハ20の半径rとから、原子配列面22の湾曲量dが求められる。
図7に示すように、原子配列面22の湾曲量dは、円弧の半径から、円弧の中心からウェハ20に下した垂線の距離を引いたものに対応する。円弧の中心からウェハ20に下した垂線の距離は、三平方の定理から算出され、以下の式が成り立つ。なお、本明細書では曲率半径が正(凹面)の場合の湾曲量dを正の値とし、負(凸面)の場合の湾曲量dを負の値と定義する。
【0032】
【0033】
上述のように、XRDのウェハ20の両外側端部の測定値だけからRを測定することもできる。一方で、この方法を用いると、測定箇所に局所的な歪等が存在した場合において、形状を見誤る可能性もある。その為、複数箇所でX線回折ピーク角度の測定を行って、単位長さ辺りの曲率を以下の式から換算する。
【0034】
【0035】
図8に、複数のXRDの測定点から原子配列面の曲率半径を求めた例を示す。
図8の横軸はウェハ中心からの相対位置であり、縦軸はウェハ中心回折ピーク角に対する各測定点の相対的な回折ピーク角度を示す。
図8は、ウェハの[1-100]方向を測定し、測定面を(3-3016)とした例である。測定箇所は5カ所で行った。5点はほぼ直線に並んでおり、この傾きから、dθ/dr=8.69×10
-4deg/mmが求められる。この結果を上式に適用することでR=66mの凹面であることが計算できる。そして、このRとウェハの半径r(75mm)から、原子配列面の湾曲量dが42.6μmと求まる。
【0036】
ここまで原子配列面の形状が凹面である例で説明したが、凸面の場合も同様に求められる。凸面の場合は、Rはマイナスとして算出される。
【0037】
(原子配列面の形状の別の測定方法(方法2)の説明)
原子配列面の形状は、別の方法で求めてもよい。
図9に平面視中心を通り原子配列面の測定の方向、例えば[1-100]方向に沿って切断した切断面を模式的に示す。
図9では、原子配列面22の形状が凹状に湾曲している場合を例に説明する。
【0038】
図9に示すように、ウェハ20の中心とウェハ20の中心から距離xだけ離れた場所の2箇所で、X線回折の回折ピークを測定する。インゴットの製造条件の対称性からウェハ20の形状は、近似として左右対称とすることができ、原子配列面22はウェハ20の中央部で平坦になると仮定できる。そのため、
図10に示すように測定した2点における原子配列面22の傾きの差をΔθとすると、原子配列面22の相対的な位置yは以下の式で表記できる。
【0039】
【0040】
中心からの距離xの位置を変えて複数箇所の測定をすることで、それぞれの点でウェハ中心と測定点とにおける原子配列面22の相対的な原子位置を求めることができる。
この方法は、それぞれの測定箇所で原子配列面における原子の相対位置が求められる。そのため、局所的な原子配列面の湾曲量を求めることができる。また、ウェハ20全体における原子配列面22の相対的な原子位置をグラフとして示すことができ、原子配列面22のならびを感覚的に把握するために有益である。
【0041】
ここでは、測定対象をウェハ20の場合を例に説明した。測定対象がSiCインゴットやSiCインゴットから切断された切断体の場合も、同様に原子配列面の湾曲量を求めることができる。
【0042】
上述の手順で、少なくとも平面視中央を通り互いに交差する2方向(第1の方向及び第2の方向)に沿って、SiC単結晶の原子配列面2の湾曲量を測定する。それぞれの方向の湾曲量及び湾曲方向を求めることで、
図2及び
図3に示すような原子配列面2の概略形状を求めることができる。
【0043】
<結晶成長工程>
結晶成長工程では、SiC単結晶を種結晶として結晶成長を行う。種結晶に用いるSiC単結晶は、原子配列面2の形状が鞍型のものである。SiCインゴットは、例えば昇華法を用いて製造できる。昇華法は、原料を加熱することによって生じた原料ガスを単結晶(種結晶)上で再結晶化し、大きな単結晶(インゴット)を得る方法である。
【0044】
種結晶として用いるSiC単結晶1の原子配列面2の曲率半径は28m以上であることが好ましい。曲率半径が大きいほど、原子配列面2は平坦になる。またSiC単結晶の直径が150mm以上の場合は、原子配列面2の湾曲量の最大値は100μm以下であることが好ましい。原子配列面2の湾曲量が大きいと、原子配列面2を一回の結晶成長で完全に平坦化させることが難しくなる。
【0045】
図11は、昇華法に用いられる製造装置の一例の模式図である。製造装置200は、坩堝100とコイル101とを有する。坩堝100とコイル101との間には、コイル101の誘導加熱により発熱する発熱体(図視略)を有してもよい。坩堝100の内部には、台座103から原料Gに向けて拡径するテーパーガイド102が設けられている。
【0046】
坩堝100は、原料Gと対向する位置に設けられた台座103を有する。台座103には、SiC単結晶1を種結晶として貼り付ける。
【0047】
台座103の熱膨張係数は、貼り付けるSiC単結晶1の熱膨張係数と近いことが好ましい。具体的には、熱膨張係数差が0.3×10-6/℃以下であることが好ましい。なお、ここで示す熱膨張係数とは、SiC単結晶1を種結晶として結晶成長する温度領域における熱膨張係数を意味し、2000℃近傍の温度を意味する。例えば、黒鉛の熱膨張係数は、加工条件、含有材料等により、4.3×10-6/℃~7.1×10-6/℃の範囲で選択できる。台座103とSiC単結晶1の熱膨張率差が近いことで、単結晶成長時に熱膨張率差によってSiC単結晶1が反り、原子配列面2が湾曲することを防ぐことができる。
【0048】
コイル101に交流電流を印加すると、坩堝100が加熱され、原料Gから原料ガスが生じる。発生した原料ガスは、テーパーガイド102に沿って台座103に設置されたSiC単結晶1に供給される。SiC単結晶1に原料ガスが供給されることで、SiC単結晶1の主面にSiCインゴットIが結晶成長する。SiC単結晶1の結晶成長面は、カーボン面、又は、カーボン面から10°以下のオフ角を設けた面とすることが好ましい。
【0049】
図12は、SiCインゴットの結晶成長過程の様子を示した図である。
図12に示すようにSiCインゴットIは、c面成長領域I1と側面成長領域I2とを有する。
【0050】
c面成長領域I1は、{0001}面と垂直な<0001>方向に結晶成長した領域である。これに対し、側面成長領域I2は、成長過程のSiCインゴットの側面側から原料ガスが供給され、<0001>方向と異なる方向に結晶成長した領域である。c面成長領域I1と側面成長領域I2とは結晶成長方向が異なるため、c面成長領域I1と側面成長領域I2の間には境界Bが存在する。
【0051】
側面成長領域I2は、SiCインゴットの側面に原料ガスが回り込むことで結晶成長する。すなわち、結晶成長の過程を制御することは難しい。これに対し、c面成長領域I1は、坩堝100内に生じる等温線に沿って成長する為、制御可能である。すなわち、本実施形態にかかるSiCインゴットの製造方法では、c面成長領域I1における各成長面の凸面度を制御する。
【0052】
結晶成長工程において、SiCインゴットIを結晶成長する際の結晶成長条件は、種結晶の中心における結晶成長量が7mmの時点における第1成長面Iaの凸面度より結晶成長終了時における第2成長面Ibの凸面度が大きくなるように設定する。
【0053】
ここで「第1成長面Ia及び第2成長面Ib」は、結晶成長過程で露出するc面成長領域I1の外表面を意味する。そのため、これらの成長面と原子配列面2とは一致するものではない。また「凸面度」は、種結晶の中心を通り積層方向に延在する中心線Cにおける結晶成長量と、c面成長領域I1と側面成長領域I2の間の境界B(端部)における結晶成長量との差(反り量h1、h2)を、その際の結晶成長面の直径(r1、r2)で割った値を意味する。
【0054】
またここで第1成長面Iaは、種結晶の中心から7mm結晶成長した時点における結晶成長面として規定している。結晶成長量が7mm未満の段階では、種結晶の端部が蒸発して形状が変化したり、原料ガス等の流れが安定化せず種結晶のエッチング速度又は結晶成長速度が変化したりする。つまり、結晶成長量が7mm未満の段階では、結晶成長が安定化しない。そのため、凸面度を制御することが難しく、凸面度を正確に規定することが難しい。
【0055】
第2成長面Ibの凸面度を第1成長面Iaの凸面度より大きくすると、鞍型の形状をしていた原子配列面2が平坦化する。この理由は以下のように想定される。
【0056】
図2に示すように、原子配列面2がお椀型の場合、原子配列面の外周3の長さは、原子配列面2が平坦な場合の外周4の長さに比べて短い。これに対し
図3に示すように、原子配列面2が鞍型の場合は、原子配列面の外周3の長さは、原子配列面2が平坦な場合の外周4の長さに比べて長い。この外周の長さの違いは原子の数密度のバランスを示していると考えられる。すなわち、お椀型の場合は原子の数密度が、中央部で密となり、外周部で疎となる。これに対し、鞍型の場合は、原子の数密度が、中央部で疎となり、外周部で密となると推定される。
【0057】
成長面形状は等温面形状に従って決定される。面内方向において、外周部を中央部に比べて高温にすると成長面の形状は凸面となり、外周部を中央部に比べて低温にすると成長面の形状は凹面となる。中央部より高温で成長した外周部は、熱膨張率が中央部より大きく、原子の数密度が中央部より疎になる。つまり、結晶成長終了時における第2成長面の凸面度を成長初期の第1成長面の凸面度より大きくすることは、成長過程において外周部の温度を中央部の温度より高温にすることを意味する。この条件で結晶成長を行うと、成長過程で中央が密、外周が疎に移行する。従って、格子面が鞍型の種結晶を用いた場合でも、凸面度を設定することで、中央部と外周部における原子の疎密バランスの関係性から原子配列面が平坦化していくと考えられる。
【0058】
一方で、結晶成長条件は、第1成長面Iaから第2成長面Ibに向って凸面度が徐々に増加するように設定することが好ましい。第1成長面Iaから第2成長面Ibに向かって段階的に凸面度を大きくしていくことで、不要な応力が生じることを避けることができる。また成長面の高低差は、第1成長面Iaから第2成長面Ibに向って徐々に増加することが好ましい。ここで「成長面の高低差」とは、成長面の中心部の高さ位置と外周部の高さ位置の差を意味し、成長面の反り量の最大値を意味する。また「徐々に」とは、第1成長面Iaから第2成長面Ibに向かって凸面度(又は成長面高低差)が小さくなる時がないことを意味し、途中で凸面度が一定の領域があってもよい。鞍型の原子配列面を最終的に平坦にするには、理想的には徐々に等温面形状を凸に移行させるのがよいが、最終的な等温面形状が序盤に対して凸になっていることが重要である。すなわち、凸面度又は成長面高低差を徐々に大きくするのが難しければ、一時的に凸面度が減少する領域を含んでいてもよい。
【0059】
また第1成長面Iaの成長面高低差h1と第2成長面Ibの成長面高低差h2との差は、0.5mm以上4.0mm以下であることが好ましく、1.0mm以上4.0mm以下であることがより好ましい。成長面高低差の差(h2-h1)が大きいと、SiCインゴットIにクラック等が生じやすくなる。一方で、成長面高低差の差(h2-h1)が小さいと、原子配列面2を平坦化させる効果が薄れる。例えば、成長面高低差の差は、SiC単結晶1の直径が6インチの場合は0.5mm以上であることが好ましく、8インチの場合は1.0mm以上であることが好ましい。
【0060】
ここまで、SiCインゴットIを製造する過程における好ましい条件について説明した。次いで、この条件を満たすための方法について説明する。
【0061】
結晶成長は、結晶成長時の温度の影響を大きく受ける。そのため、第1成長面Iaと第2成長面Ibとが所定の関係を満たすように、坩堝100内の等温面を設定する。等温面の設定は、シミュレーション等を用いて事前に設定できる。
【0062】
結晶成長時の温度分布を結晶成長面に対して制御する方法として、特開2008-290885号公報に開示されている方法を用いることができる。具体的には、種結晶が配置された箇所の側面に対向するヒーターと、原料が配置された箇所の側面に対向するヒーターの上下の2つのヒーターを有し、その上下のヒーター間に断熱部材からなる仕切壁部を設けた構成の昇華法結晶成長装置を用いることができる。仕切壁部がルツボの上方に下側のヒーターからの熱が伝わることを防止し、種結晶の表面に対する等温面を制御できる。
【0063】
昇華法で結晶成長する際、窒素(N)ドープ量を周期的に変化させながら成長させると、窒素(N)濃度の違いにより成長面が縞模様となる。それを縦断面方向にスライスし、色変化している界面から、それぞれの時刻の成長面の形状を求めることができる。そのため、シミュレーションの結果が実際の成長条件と一致しているかも確認することができる。
【0064】
結晶成長時の等温面を維持することは、さらに他の技術を組み合わせることにより実現することができる。具体的には、上述の方法で事前に求めた成長面形状の変化を補正する様に成長中にルツボを移動し、その等温面と成長面高さを一致させる技術を組み合わせる。
【0065】
また、成長中の結晶近傍の温度勾配が大きいと結晶内の応力が大きくなる。結晶近傍の温度勾配としては、成長方向(成長軸方向)の温度勾配と、径方向の温度勾配とがある。径方向の温度勾配は、上述の様に、仕切壁部と上下ヒーターとを有する装置を使用して等温面を種結晶の表面に対して平行にすることにより小さくできる。成長軸方向の温度勾配は、種結晶と原料の温度差を小さくすることにより小さくできる。
【0066】
温度勾配が小さすぎると成長が不安定になってしまうため、温度勾配は50Kcm-1程度か好ましい。成長軸方向の温度勾配と径方向の温度勾配の双方を安定成長できる範囲で小さな値で制御することにより、応力の発生を抑制できる。
【0067】
上述のように、本実施形態にかかるSiCインゴットの製造方法によれば、原子配列面2が平坦化したSiCインゴットを作製することができる。
【0068】
図13は、SiC単結晶の原子配列面の曲率半径と、BPD密度の関係を示すグラフである。
図13に示すように、原子配列面2の曲率半径と、BPD密度とは対応関係を有する。原子配列面2の曲率半径が大きい(原子配列面2の湾曲量が小さい)ほど、BPD密度は少なくなる傾向にある。内部に応力が残留した結晶は、結晶面のすべりを誘起させ、BPDの発生と共に原子配列面2を湾曲させると考えられる。あるいは、逆に、湾曲量が大きい原子配列面2が、ひずみを有し、BPDの原因となることも考えられる。いずれの場合においても、原子配列面の曲率半径が大きい(すなわち、原子配列面の湾曲量が小さい)ほど、BPD密度が小さくなる。
【0069】
すなわち、本実施形態にかかるSiCインゴットの製造方法で作製したSiCインゴットを切り出し、種結晶として再度用いると、BPD密度の少ない良質なSiCインゴットが得られる。
【0070】
最後に得られたSiCインゴットIをスライスしてSiCウェハを作製する。切断する方向は、<0001>に垂直または0~10°のオフ角をつけた方向に切断し、C面に平行、またはC面から0~10°オフ角をつけた面をもつウェハを作製する。ウェハの表面加工は、(0001)面側すなわちSi面側に鏡面加工を施してもよい。Si面は、通常エピタキシャル成長を行う面である。再度作製したSiCインゴットはBPDが少ないため、BPDの少ないSiCウェハを得ることができる。キラー欠陥であるBPDが少ないSiCウェハを用いることで、高品質なSiCエピタキシャルウェハを得ることができ、SiCデバイスの歩留りを高めることができる。
【0071】
また坩堝100を加熱し原料Gを昇華させる際に、周方向の異方性が生じないように、坩堝100を周方向に回転させることが好ましい。回転速度は、0.1rpm以上とすることが好ましい。また成長時の成長面における温度変化は少なくすることが好ましい。
【0072】
以上、本発明の好ましい実施の形態について詳述したが、本発明は特定の実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【実施例】
【0073】
(実施例1)
6インチのSiC単結晶を準備した。SiC単結晶の原子配列面の湾曲方向を、[1-100]方向と[11-20]方向とに沿って、X線回折(XRD)を用いて測定した。その結果、これらの原子配列面の湾曲方向が異なっており、鞍型の原子配列面であることを確認した。
【0074】
次いでこのSiC単結晶を種結晶として用いてSiCインゴットを作製した。そして、結晶成長終了時における結晶成長面(第2成長面)の凸面度が、種結晶の中心において結晶成長量が7mmの時点における結晶成長面(第1成長面)の凸面度より大きくなるように結晶成長条件を設定した。具体的には、シミュレーションにより事前に、種結晶近傍の温度条件を求め、等温面の形状(反り量)が第1成長面から第2成長面に向かって徐々に大きくなる条件で結晶成長を行った。表1に、実施例1において第1成長面から10mmずつ成長した時点での結晶成長面の反り量を示す。なお、表1において中心成長量とは、種結晶の中心における結晶成長量を意味する。また結晶成長面の直径は成長過程で大きく変化せず、凸面度と反り量は1対1の関係にあると言える。
【0075】
(比較例1)
比較例1では、等温面の形状(凸面度)が第1成長面から第2成長面に向かって徐々に小さくなる条件で結晶成長を行った点が実施例1と異なる。その他の条件は、実施例1と同じとした。表1に、比較例1において第1成長面から10mmずつ成長した時点での結晶成長面の反り量を示す。
【0076】
【0077】
表1に示すように、シミュレーションの事前検討の結果通りに、実施例1及び比較例1において結晶成長面の凸面度(反り量)を制御することができた。また
図14に結晶成長前の種結晶の[1-100]方向及び[11-20]方向における原子配列面の湾曲量と、結晶成長後のSiCインゴットの[1-100]方向及び[11-20]方向における原子配列面の湾曲量と、の関係を示す。
図14(a)は実施例1の条件で3つのサンプルについて測定した結果であり、
図14(b)は比較例1の条件で3つのサンプルについて測定した結果である。また矢印の始点が種結晶における原子配列面の湾曲量を示し、矢印の終点がSiCインゴットの原子配列面の湾曲量を示す。
【0078】
図14(a)に示すように、実施例1の条件では3つのサンプルいずれにおいても、原点に向かう方向に原子配列面の湾曲状態が変化した。これに対して、
図14(b)に示すように、比較例1の条件では3つのサンプルいずれにおいても、原点に向かう方向に原子配列面の湾曲状態が変化した。グラフの原点は、原子配列面が全く湾曲していない状態に対応する。すなわち、実施例1の条件で結晶成長を行うと、原子配列面の湾曲が緩和されていることが分かる。
【符号の説明】
【0079】
1,10 SiC単結晶
2,22 原子配列面
20 ウェハ
100 坩堝
101 コイル
102 テーパーガイド
103 台座
A 原子
I SiCインゴット
Ia 第1成長面
Ib 第2成長面
I1 c面成長領域
I2 側面成長領域
B 境界
G 原料
F1,F2 力