(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-06
(45)【発行日】2022-01-20
(54)【発明の名称】液滴吐出装置及びインクジェットプリンタ
(51)【国際特許分類】
B41J 2/175 20060101AFI20220113BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20220113BHJP
【FI】
B41J2/175 503
B41J2/01 301
(21)【出願番号】P 2017141813
(22)【出願日】2017-07-21
【審査請求日】2020-05-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000003562
【氏名又は名称】東芝テック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107928
【氏名又は名称】井上 正則
(72)【発明者】
【氏名】深澤 正勝
(72)【発明者】
【氏名】西田 英明
【審査官】中村 博之
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-010904(JP,A)
【文献】特開2012-121147(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0030358(US,A1)
【文献】韓国登録実用新案第20-0424049(KR,Y1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液滴を吐出するノズルを備える液滴吐出ヘッドと、
前記液滴吐出ヘッドに供給する液体の流路に配置されるケーシングと、前記ケーシング内を一次側室と二次側室に仕切るように配置され、前記ケーシング内の液体の流れ方向の
上流側に位置する濾過領域に下流側に位置する濾過領域よりも大きい通流孔を配置して前記上流側に位置する濾過領域のバブルポイント
を前記下流側に位置する濾過領域のバブルポイントよりも小さ
くしたフィルタと、を備えるフィルタユニットと、を備える液滴吐出装置。
【請求項2】
前記上流側に位置する濾過領域と対向する前記ケーシングの二次側室の表面までの離間距離は、前記下流側に位置する濾過領域と対向する前記ケーシングの二次側室の表面までの離間距離よりも、小さい請求項1に記載の液滴吐出装置。
【請求項3】
前記フィルタは、濾過面が重力方向に配置された板状のフィルタであり、
前記ケーシングは、上方側に液体の流入口が位置し下方側に液体の流出口が位置する縦置きで前記液滴吐出ヘッドの側面に固定配置されている請求項1又は2に記載の液滴吐出装置。
【請求項4】
前記液滴吐出装置は、複数の液滴吐出ヘッドを備えており、
前記フィルタユニットは、前記複数の液滴吐出ヘッドの夫々にフィルタを通過した液体を供給する供給路を通じて前記複数の液滴吐出ヘッドと連結している請求項3に記載の液滴吐出装置。
【請求項5】
インクの液滴を吐出するノズルを備えるインクジェットヘッドと、
前記インクジェットヘッドに供給するインクの流路に配置されるケーシングと、前記ケーシング内を一次側室と二次側室に仕切るように配置され、前記ケーシング内のインクの流れ方向の
上流側に位置する濾過領域に下流側に位置する濾過領域よりも大きい通流孔を配置して前記上流側に位置する濾過領域のバブルポイント
を前記下流側に位置する濾過領域のバブルポイントよりも小さ
くしたフィルタと、を備えるフィルタユニットと、
前記インクジェットヘッドと対向する位置に記録媒体を搬送する記録媒体搬送装置と、
前記記録媒体の所定の位置にインクを吐出するように前記インクジェットヘッドを制御する制御部と、を備えるインクジェットプリンタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、液滴吐出装置及びインクジェットプリンタに関する。
【背景技術】
【0002】
所定量の液滴を所定の位置に供給する液滴吐出ヘッドを備えた液滴吐出装置が知られている。液滴吐出装置は、例えばインクジェットプリンタ、3Dプリンタ、分注装置などに搭載される。インクジェットプリンタは、インクの液滴をインクジェットヘッドから吐出して、記録媒体の表面に画像等を形成する。3Dプリンタは、液体樹脂等の造形材の液滴を造形材吐出ヘッドから吐出し、硬化させて、三次元造形物を形成する。分注装置は、所定量の試料を複数の容器等へ供給する装置である。
【0003】
液滴吐出装置には、液滴吐出ヘッドに供給する液体の流路にフィルタユニットが設けられる。フィルタユニットは、例えば液体内に異物が混入した場合に、フィルタで異物を捕捉して液滴吐出ヘッドに目詰まりが発生するのを防ぐ。フィルタユニットは、例えば液体の初期通液時に内部に空気が残留してしまうことがある。フィルタユニット内に残留した空気は、フィルタの有効濾過面積を減少させてしまうことがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-161617号公報
【文献】特開2009-12316号公報
【文献】特開2014-124946号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、例えば液体の初期通液時に、内部に気体が残留するのを抑えることのできるフィルタユニットを備えた液滴吐出装置及びインクジェットプリンタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、実施形態の液滴吐出装置は、液滴吐出ヘッド及びフィルタユニットを備える。液滴吐出ヘッドは、液滴を吐出するノズルを備える。フィルタユニットは、液滴吐出ヘッドに供給する液体の流路に配置されるケーシング、及びケーシング内を一次側室と二次側室に仕切るように配置されるフィルタを備える。フィルタは、ケーシング内の液体の流れ方向の上流側に位置する濾過領域に下流側に位置する濾過領域よりも大きい通流孔を配置して前記上流側に位置する濾過領域のバブルポイントを前記下流側に位置する濾過領域のバブルポイントよりも小さくした。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】第1実施形態の液滴吐出装置を搭載したインクジェットプリンタの概略構成を示す縦断面図である。
【
図2】第1実施形態の液滴吐出装置の概略構成を示す側面図である。
【
図3】第1実施形態の液滴吐出装置の斜視図である。
【
図4】第1実施形態の液滴吐出装置の展開図である。
【
図5】第1実施形態のフィルタユニットの展開図である。
【
図6】第1実施形態のフィルタユニットの縦断面図である。
【
図7】第1実施形態のフィルタのバブルポイントの一例を示す説明図である。
【
図8】第1実施形態のフィルタユニット内の液体流れを模式的に示す説明図である。
【
図9】フィルタのバブルポイントが一律のフィルタユニット内の液体の流れを模式的に示す説明図である。
【
図10】第2実施形態の液滴吐出装置のフィルタユニットの縦断面図である。
【
図11】第2実施形態のフィルタユニット内の液体流れを模式的に示す説明図である。
【
図12】第3実施形態の液滴吐出装置のフィルタユニットの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、実施形態に従う液滴吐出装置及びインクジェットプリンタについて、添付図面を参照しながら詳述する。なお、各図において、同一構成は同一の符号を付している。
【0009】
(第1実施形態)
実施形態の液滴吐出装置1を搭載したインクジェットプリンタとして、シートSなどの記録媒体に画像を印刷するインクジェットプリンタ100を例示して説明する。実施形態の液滴吐出装置1は、液滴吐出ヘッドの一例であるインクジェットヘッド10A(10B~10D)を備えている。さらに液滴吐出装置1は、インクジェットヘッド10A(10B~10D)に供給されるインクに例えば異物が混入したときに異物を捕捉するフィルタユニット2Aを備えている(
図2参照)。
【0010】
図1は、インクジェットヘッド10A~10Dを搭載したインクジェットプリンタ100の概略構成を示している。インクジェットプリンタ100は、例えば外装体である箱型の筐体101を備えている。筐体101の内部には、記録媒体の一例であるシートSを収納するカセット102A,102B、シートSの上流搬送路106、画像形成処理を行うシートSを搬送自在に保持する搬送ベルト110、シートSに向けてインクの液滴を吐出するインクジェットヘッド10A~10D、シートSの下流搬送路120、及び排出トレイ123が配置されている。インクジェットプリンタ100は、さらに、ユーザーインターフェイスである表示画面等を含む操作部144、制御部としての制御基板140を備えている。
【0011】
インクジェットプリンタ100がシートSに形成する画像のデータは、例えばコンピュータ150で生成される。コンピュータ150で生成された画像データは、ケーブル143、コネクタ141A,141Bを通してインクジェットプリンタ100に入力される。インクジェットヘッド10A~10Dは、例えば、シアン、マゼンタ、イエロー、ブラックのインク滴を搬送ベルト110上のシートSの所定の位置に所定量吐出して、画像データに対応する画像をシートSに印刷する。
【0012】
カセット102A及びカセット102Bは、例えば異なるサイズのシートSを収容する。上流搬送路106は、送りローラ対105a、105b、105cと、シート搬送経路を規定するシート案内板106a、106bで構成されている。ピックアップローラ104は、カセット102AからシートSを一枚ずつ上流搬送路106へ供給する。シートSは、回転する送りローラ対105a、105bによって搬送され、送りローラ対105aを通過後、シート案内板106aによって搬送ベルト110の上面へ送られる。図中の矢印A1は、カセット102AからのシートSの搬送経路を示す。一方、ピックアップローラ109は、カセット102BからシートSを一枚ずつ上流搬送路106へ供給する。シートSは、回転する送りローラ対105a、105b、105cによって搬送され、送りローラ対105cを通過後、シート案内板106a、106bによって搬送ベルト110の上面へ送られる。図中の矢印A2は、カセット102BからのシートSの搬送経路を示す。
【0013】
搬送ベルト110は、表面に多数の貫通孔が形成された網状の無端ベルトである。搬送ベルト110は、駆動ローラ112a、従動ローラ112b、112cの3本のローラによって回転自在に支持されている。駆動ローラ112aは、駆動装置の一例であるモータ111によって回転される。図中A3は、搬送ベルト110の回転方向を示す。搬送ベルト110の裏面側には、負圧容器113が配置されている。負圧容器113の上面は、搬送ベルト110の裏面に接している。負圧容器113上面には、多数の微細孔114が形成されている。負圧容器113は、減圧用のファン115と連結しており、ファン115が形成する気流によって容器内が減圧される。図中A4は、気流の流れを示している。シートSは、負圧容器113が減圧されることによって搬送ベルト110の上面に吸着保持される。カセット102A、102B、上流搬送路106、及び搬送ベルト110によって、シートSをインクジェットヘッド10A~10Dと対向する位置まで搬送する記録媒体搬送装置が構成されている。搬送ベルト110の上面に吸着保持されたシートSは、インクジェットヘッド10A~10Dの下方を通過する際に、画像が形成される。
【0014】
インクジェットヘッド10A~10Dは、搬送ベルト110上に吸着保持されたシートSに対して例えば1mmの僅かな隙間を介して対向するように配置されている。インクジェットヘッド10A~10Dは、吐出するインクの色が異なることを除けば、同じ構造になっている。インクジェットヘッド10A~10Dの詳細な構造は後述する。
【0015】
各インクジェットヘッド10A~10Dには、インクの流路135を介してインクタンク130A~130D及びインク供給圧力調整装置131A~131Dが夫々連結されている。インクの流路135は、例えば樹脂製チューブである。さらにインクジェットヘッド10Aの側面に、後述するフィルタユニット2Aが配置されている(
図2参照)。インクジェットヘッド10B~10Dも、インクジェットヘッド10Aと同様である。インクタンク130A~130Dは、インクを貯留した容器である。さらに、各インクジェットヘッド10A~10Dの近傍に、メンテナンスユニット132A~132Dが配置されている。例えばインクジェットヘッド10Aのメンテナンスユニット132Aは、インクジェットヘッド10Aのインク吐出ノズルの表面を保護するキャップ133、インク吐出ノズルの表面に残留する付着物を除去するブレード134を備えている。他のインクジェットヘッド10B~10Dのメンテナンスユニット132B~132Dも、同様の構成である。
【0016】
各インクタンク130A~130Dは、各インクジェットヘッド10A~10Dの上方に配置されている。待機時に、インクジェットヘッド10A~10Dのインク吐出ノズルからインクが漏れ出ないようにするために、各インク供給圧力調整装置131A~131Dは、各インクジェットヘッド10A~10D内を、大気圧に対して負圧になるようにしている。負圧は、例えば-1kPaに設定している。画像形成時においては、各インクタンク130A~130Dのインクは、インク供給圧力調整装置131A~131Dによって各インクジェットヘッド10A~10Dに供給される。
【0017】
筐体101内には、さらにインクジェットヘッド10A~10Dの温度を調整する温度調整ユニット3が配置されている。温度調整ユニット3は、温度調整用流体の一例である温水を貯留する恒温タンク31、及び温水を各インクジェットヘッド10A~10Dに供給する送液装置の一例であるポンプ32を備えている。温水の流路は、恒温タンク31内の温水を各インクジェットヘッド10A~10Dへ供給する供給路33、および各インクジェットヘッド10A~10Dから排出される温水を恒温タンク31に戻す回収路34を有する。温水は、供給路33及び回収路34を通じてインクジェットヘッド10A~10Dと恒温タンク31を循環する。温水の流路33,34は、例えば樹脂製のチューブ等で形成される。恒温タンク31は、温水を所定の温度に保つための加熱又は冷却装置及び温度センサをさらに備えていてもよい。なお、図には、共通の温度調整ユニット3から各インクジェットヘッド10A~10Dに温水を供給する構成を示しているが、各インクジェットヘッド10A~10D用に個別の温度調整ユニット3を配置するようにしてもよい。
【0018】
画像が形成されたシートSは、搬送ベルト110から下流搬送路120へ送られる。下流搬送路120は、送りローラ対120a、120b、120c、120dと、シートSの搬送経路を規定するシート案内板121a、121bで構成されている。シートSは、送りローラ対120a、120b、120c、120dによって、排出口122から排出トレイ123へ送られる。図中矢印A5は、シートSの搬送経路を示す。
【0019】
続いて、
図2~
図7を参照しながら、インクジェットヘッド10A~10D及びフィルタユニット2A~2Dの構成について説明する。インクジェットヘッド10A~10Dには夫々フィルタユニット2A~2Dが備えられている。以下は、インクジェットヘッド10A及びフィルタユニット2Aについて説明しているが、インクジェットヘッド10B~10D及びフィルタユニット2B~2Dは、インクジェットヘッド10A及びフィルタユニット2Aと同じ構造になっている。
【0020】
インクジェットヘッド10Aは、同色のインク滴を吐出できる対称構造のインクジェットヘッド部4A,4Bを、温調部材5の両側面に一対に配置した構成である。温調部材5には恒温タンク31からの温水が供給される。インクジェットヘッド部4Aは、特に
図4の展開図に示すように、ノズルヘッド部41、インク供給部42、フレキシブルプリント配線板43、駆動回路基板44、及びフレキシブルプリント配線板43と駆動回路基板44の保護カバー48を備えている。ノズルヘッド部41は、ノズルプレート45、アクチュエータを構成する流路基板46、圧力室形成用のカバー部材47を備えている。なお、温調部材5の反対面に配置されているインクジェットヘッド部4Bは、インクジェットヘッド部4Aと同じ構造になっている。
【0021】
ノズルプレート45は、例えばポリイミドなどの樹脂又はステンレスなどの金属で形成された矩形状のプレートである。特に
図2に部分断面で示すように、ノズルプレート45の表面には、インク滴を吐出する吐出孔であるノズル45aが複数穿設されている。ノズルプレート45のノズル密度は、例えば150~1200dpiの範囲内に設定されている。圧力室形成用のカバー部材47は、流路基板46側の面とノズルプレート45側の面が開口する箱型の部材である。カバー部材47は、コの字状の枠の一面に天板を接着することによって形成してもよい。カバー部材47で囲われている流路基板46の一面には、重力方向に沿って延びるインクの圧力室46aと、圧力室46aを区画する壁となる圧電体46bが複数形成されている。圧電体46bで側壁が形成された複数の圧力室46aは、ノズル45aと1対1になるように夫々連通している。圧力室46aの側壁である圧電体46bは、例えばチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)で形成された板状の二枚の圧電体を、分極方向が互いに逆方向を向くように貼り合わすことによって形成されている。
【0022】
各圧力室46aの側壁及び底面には、例えばニッケル薄膜などの電極(不図示)が夫々形成されている。所定のパルス電圧を電極に印加すると、圧電体46aが変形しさらに元の状態に復帰する。圧電体46aの変形及び復帰によって発生する圧力室46aの容積変化は、圧力室46a内のインクをノズル45aから吐出する駆動力となる。すなわち、圧力室46a及び圧電体46bによって、シェアモード変形するアクチュエータが構成されている。なお、圧力室46aの幅及び深さは、インクジェットプリンタ100の仕様等によって適宜変えられる。一例として、数十~数百μmの範囲内に設定されている。圧電体46bの変形によって吐出されるインク滴は、例えば容量が1~180ピコリットルの範囲内に設定される。なお、ノズル45a、圧力室46a、圧電体46bなどは、作図の便宜上、実際の寸法よりも大きく描いている。
【0023】
各圧力室46aの電極は、フレキシブルプリント配線板43を介して駆動回路基板44と電気的に接続されている。吐出動作の制御部となる駆動回路基板44には、駆動用のIC(Integrated Circuit)44aが搭載されている。駆動回路基板44は、インクジェットプリンタ100の制御基板140からの画像データを一時的にバッファに保存し、画像を形成する所定のタイミングでインク滴が吐出されるようにアクチュエータを動作させるための電気信号を出力する。電気信号は、各圧力室45aの電極に印加するパルス電圧である。駆動回路基板44とインクジェットプリンタ100の制御基板140を電気的に接続するケーブル(不図示)は、保護カバー48の開口部48aを利用して配線される。ケーブルの一端は、駆動回路基板44の例えばコネクタ44bに接続される。
【0024】
インク供給部42は、圧力室形成用のカバー部材47の表面に固定配置されている。インク供給部42は、内部にインク流路が形成された矩形状の部材である。インク供給部42のインク流路は、一端側がカバー部材47内の空間である共通インク室に連通しており、他端側がフィルタユニット2Aに連結される。フィルタユニット2Aを通過したインクは、インク供給部42を通じてカバー部材47内の共通インク室内に供給され、さらに共通インク室と連通する各圧力室46aに供給される。
【0025】
フレキシブルプリント配線板43及び駆動回路基板44の保護カバー48は、例えば樹脂材で形成されている。保護カバー48は、温調部材5に着脱可能なように固定されている。
【0026】
温調部材5は、例えばセラミックスによって形成されている。温調部材5の上面には、温水の供給口51及び排出口52が夫々形成されている。温水の供給口51及び排出口52は、温調部材5の内部に形成されている温水の流路53に連通している。温調部材5は、ノズルヘッド部41及び駆動回路基板44を支持する支持部材を兼ねている。温調部材5は、温水からの伝熱によってノズルヘッド部41及び/又は駆動回路基板44の温度を所定の温度に維持する。例えば粘度の高いインクを用いる場合、インクの粘度を下げるためにノズルヘッド部41が所定の温度になるように温水の温度を設定する。或いは、電流が流れることで高温になる駆動回路基板44の温度を比較的低い温度に保つように温水の温度を設定する。温水の温度調節は、例えば恒温タンク31の温度の設定を変えることによって行う。温調部材5の短辺側の側面には、インクジェットヘッド10Aを、インクジェットプリンタ100に取り付ける際に使用する支持部材54が設けられている。
【0027】
インクは、着色剤として染料または顔料を、溶媒に溶解または分散させた液体である。インク溶媒は、水性、油性、溶剤などがある。
【0028】
続いて、フィルタユニット2Aについて説明する。フィルタユニット2Aは、インクジェットヘッド10Aの短辺側の側面に縦置きに配置されている。フィルタユニット2Aは、重力方向に延びる外形が略矩形状のケーシング21を備えている。ケーシング21は、例えばポリエーテルエーテルケトン(PEEK)などの樹脂材で形成されている。ケーシング21の上面側には、インク供給圧力調整装置131Aから流路135を介して送られてくるインクの流入口22が形成されている。一方、ケーシング21の底面側には、フィルタ6を通過したインクの流出口23が形成されている。流出口23は、例えば円筒状のノズルで形成されている。流出口23は、ケーシング21の底面に2ヵ所設けられており、一対のインクジェットヘッド部4A,4Bのインク供給部42に夫々接続されている。
【0029】
フィルタユニット2Aは、インクに異物が混入したときにインクジェットヘッド部4A,4Bに異物が侵入するのを防ぐために設置される。フィルタユニット2Aは、異物を捕捉して有効濾過面積が縮小してもインクの流量が変わらないようにするために濾過面積を広くする必要がある。一方で、インクジェットヘッド10Aは、小型化が求められているので、フィルタユニット2Aも同様に小容量化を実現しなければならない。特に、フィルタユニット2Aは、一対のインクジェットヘッド部4A,4Bの両方に供給されるインクが流れるので、インクジェットヘッド部が単一の場合に比べて流量が多い。インクジェットヘッド10Aの大きさは、一例として、長さ80~90mm、幅60~70mm、厚み20~30mmである。フィルタユニット2Aの外装体となるケーシング21は、一例として、高さ50mm、幅方向の長さ10mm、厚さ方向の長さ10mmに設定されている。
【0030】
フィルタユニット2Aのケーシング21内には、
図5及び
図6の断面図に示すように、フィルタ6が設けられている。フィルタ6は、濾過面が重力方向に沿うように縦向きに配置されている。フィルタ6は、ケーシング21の内部空間を、濾過前にあたる一次側室24と濾過後にあたる二次側室25に区画している。フィルタ6は、例えばケーシング21の内部空間を等分するように中央位置に配置されている。インクの流入口22及び流出口23は、各々、ケーシング21内の一次側室24及び二次側室25に連結している。
【0031】
ケーシング21は、一次側室24及び二次側室25の部分で分割構造になっている。一次側室24を形成するケーシング21aと、二次側室25を形成するケーシング21bとが互いに接合する縁の部分は、例えば段継ぎで接合されるように階段形状になっている。そして環状のガスケット26及びフィルタ6を挟んでケーシング21aとケーシング21bを接合することによって、フィルタユニット2Aが形成される。ケーシング21aとケーシング21bは、例えば接着剤で固定される。ガスケット26は、例えばフッ素系樹脂、ゴムなどである。
【0032】
フィルタ6は、例えばニッケル電鋳箔、ステンレス、チタン等の金属で形成されたプレート状である。フィルタ6の寸法は、例えば高さ50mm、幅10mm、厚さ10μmに設定されている。フィルタ6の表面には、大きさが数μm~数十μmに設定された通流孔61(61a,61b)が多数穿設され、インクが一次側室24から二次側室25に通過できるようになっている。通流孔61(61a,61b)を通過できない異物は、フィルタ6によって捕捉される。異物は、例えばインクタンク130Aを交換する際などに外部から混入する粉塵などがある。通流孔61(61a,61b)は、例えば金属プレートをエッチングすることによって形成する。通流孔61(61a,61b)の形状は、円形が好ましいが、楕円や矩形としてもよい。さらに、メッシュ状のフィルタを用いてもよい。
【0033】
上記構成では、インクは、ケーシング21内を上方側から下方側に向かって流れることになる。従って、インクの流れからみると、フィルタの濾過面全体のうち上部側が上流側に位置する濾過領域62aにあたり、下部側が下流側に位置する濾過領域62bにあたる。そして上流側に位置する濾過領域62a内の通流孔61aは、下流側に位置する濾過領域62b内の通流孔61bよりも孔径を大きく設定している。
【0034】
図7に一例を示すように、通流孔61(61a,61b)の形状を円形とし、上流側の濾過領域62aの通流孔61aは、孔径D1を10μm、ピッチP1を18μmに設定し、下流側の濾過領域62bの通流孔61bは、孔径D2を9.25μm、ピッチP2を18μmに設定する。この通流孔61a及び通流孔61bの孔径は、バブルポイントに基づいて設定している。バブルポイントは、例えば日本工業規格(JIS K3802)を参照すると、「フィルタを十分に濡らし、溶媒への溶解性が低い気体でフィルタ表面の反対側から加圧したとき、フィルタ表面に最初に気泡が生じる圧力」である。バブルポイントの試験方法は、日本工業規格(JIS K3832)に規定の方法に準ずる。さらに、通流孔61(61a,61b)の孔径をD[m]、インクの表面張力をγ[N/m]、接触角をθ[rad]、バブルポイントをP[Pa]としたとき、D=4γcosθ/Pの計算式が成立する。
【0035】
図7の表は、上記計算式を用いて、フィルタ6の上端から下端に向けて1mm間隔で通流孔61の孔径D及びバブルポイントPを算出した値である。上流側の濾過領域62aの通流孔61aの孔径10μmは、表の上端の値(デフォルト値)を採用している。一方、下流側の濾過領域62bの通流孔61bの孔径9.25μmは、表の下端の値を採用している。ケーシング21内は、表に示すように、上端から下端に向けて下がるにつれて液圧が増加するので孔径Dを小さくしてバブルポイントを調節している。表に示す各孔径D[mm]の値は、この値よりも孔径を小さく設定すれば孔径10μmの通流孔から先にインクが流れることを示している。孔径10μm及び孔径9.25μmのバブルポイントの値を見れば分かるように、上流側の濾過領域62aのバブルポイント(7300[Pa])は、下流側の濾過領域62bのバブルポイント(7888[Pa])よりも小さい。
【0036】
上流側の濾過領域62aは、フィルタ6の濾過面全体の3分の1を占めるように設定されている。既述の通り、フィルタユニット2Aには一対のインクジェットヘッド部4A,4Bの両方に供給されるインクが流れるので、フィルタ6の濾過面全体の3分の1に設定することによってインクジェットヘッド部が一つの場合の圧力損失と同じにしている。勿論、上流側の濾過領域62aは、フィルタユニット2Aを流れるインクの種類や最大流量などに応じて変更することができる。一例として、上流側の濾過領域62aが、フィルタ6の濾過面全体の半分以下になる範囲で適宜変更することができる。また、フィルタ6の濾過面を通流孔61a、61bのように2つの孔径で分けるのではなく、3つ以上の複数の孔径で分けるようにしてもよい。
【0037】
上記構成のフィルタユニット2AにインクIが充填されると、
図8に模式的に示すように、まず一次側室24にインクが満たされる。インクIは比較的粘度が高く、且つ、通流孔61(61a,61b)の孔径が微細であるので、フィルタ6を通過するよりも一次側室24を満たすように流れる方が、抵抗が小さいからである。そして、インクIは、バブルポイントが小さく設定されている上部側の濾過領域62aから優先的に二次室側25に流れ込み、二次室側25を上部側から下部側に向かって流れることでケーシング21内がインクIで満たされる。ケーシング21内全体がインクIで満たされると、初期通液時のような圧力損失の大きな偏りが無くなるので、フィルタ6全体を概ね均一にインクIが流れるようになる。
【0038】
これに対し、上流側の濾過領域62aのバブルポイントと下流側の濾過領域62bのバブルポイントが一律に同じである場合、すなわちフィルタ6の通流孔61aと通流孔62bの孔径が同じに設定されている場合、フィルタ6の高さの分だけ下部側の液圧が高いので、
図9に模式的に示すように、上部側よりも下部側から先にインクIが二次室側25に流れ込む。フィルタ6を通過する圧力損失は初期通過時が最も大きいため、先に下部側からのインクIの流れが形成されると、下部側からインクIが優先して流れてしまう。そのため、二次側室25の上部に空気が残留してしまうことが多い。上部側に空気が残留すると、フィルタ6の有効濾過面積が減少してしまう。
【0039】
上述の実施形態によれば、上流側の濾過領域62aのバブルポイントを下流側の濾過領域62bのバブルポイントよりも小さくしたことにより、特にインクの初期充填時において、ケーシング21の二次側室25の上部に空気が残留してしまうのを抑えることができる。上述の実施形態は、プレート状のフィルタ6を用いているが、多孔質体であればプレート状に限らない。また、上流側の濾過領域62aと下流側の濾過領域62bの間に、孔径が異なる中間の濾過領域を追加するようにしてもよい。
【0040】
(第2実施形態)
続いて、第2実施形態の液滴吐出装置が備えるフィルタユニットについて説明する。第2実施形態の液滴吐出装置は、フィルタユニットの構成が異なることを除けば、第1実施形態の液滴吐出装置と同じ構成である。従って、第1実施形態の液滴吐出装置と同様の構成については、同じ符号を付すことによって詳しい説明は省略する。
【0041】
第2実施形態のフィルタユニット7は、
図10に示すように、ケーシング71の上部側が一次側室24に向けて傾斜し、フィルタ6との離間距離が小さくなっている。一例として、バブルポイントが小さい濾過領域62aと対向するケーシング71の表面(内面)を傾斜させて傾斜面71aを形成している。
図5~
図7に示したように、濾過領域62aが濾過面全体の3分の1を占めている場合、ケーシング71も表面の3分の1を占める上部側を傾斜させて傾斜面71aを形成する。傾斜面71aは、フィルタ6の濾過面との間になす角θを形成している。傾斜面71aとフィルタ6とのなす角θは、例えば17°である。但し、傾斜面71aは、ケーシング71の表面の3分の1に限らず、例えば半分以下となる範囲で適宜変更してもよい。さらに、傾斜面71aとフィルタ6の濾過面とのなす角θは、例えば15~25°の範囲内で適宜変更してもよい。
【0042】
上記構成のフィルタユニット71にインクIが充填されると、
図11に模式的に示すように、まず一次側室24にインクIが満たされる。インクIは比較的粘度が高く、且つ、通流孔61a,61bの孔径が微細であるので、フィルタ6を通過するよりも一次側室24を満たすように流れる方が、抵抗が小さいからである。そして、インクIは、バブルポイントが小さい濾過領域62aから優先的に二次側室25に流れ込む。濾過領域62aと二次側室25の傾斜面71aは接近しているので、二次側室25に流れ込んだインクIは、速やかに二次側室25の表面と接触する。そして液体であるインクIと固体であるケーシング71の表面との親和作用によって、インクIはケーシング71の表面に沿って二次側室25の下部側へと流れる。
【0043】
上述の実施形態によれば、上流側に位置する濾過領域62aのバブルポイントが下流側に位置する濾過領域62bのバブルポイントよりも小さいフィルタ6を用いたことにより、特にインクの初期充填時においてケーシング71の二次側室25の上部に空気が残留してしまうのを抑えることができる。さらに、濾過領域62aと対向するケーシング71の表面(内面)を傾斜させて、フィルタ6との離間距離を小さくなるようにしたことで、インクが二次側室25内を上部側から下部側に向かって流れるのを促進できる。なお、ケーシング71の表面を傾斜される構成に代えて、フィルタ6を傾斜配置して離間距離を小さくするようにしてもよい。
【0044】
(第3実施形態)
続いて、第3実施形態の液滴吐出装置が備えるフィルタユニットについて説明する。第3実施形態の液滴吐出装置は、フィルタユニットの構成が異なることを除けば、第1実施形態の液滴吐出装置と同じ構成である。従って、第1実施形態の液滴吐出装置と同様の構成については、同じ符号を付すことによって詳しい説明は省略する。
【0045】
第3実施形態のフィルタユニット8は、
図12に示すように、ケーシング81を横置きに配置している。ケーシング81は、一例として、フィルタ6が配置される下部側のケーシング81aに、天板となるケーシング81bを取り付ける構成である。インクの流入口82は、ケーシング81の一端側の側面に配置され、フィルタ6を通過したインクの流出口83は、ケーシング81の他端側の側面に配置されている。フィルタ6は、濾過面が重力方向に沿う向きで横置きに配置されている。この場合もインクは流入口82から流出口83に向かってケーシング8内を流れるので、インクの流れからみると、フィルタ6の濾過面全体のうち一端側が上流側に位置する濾過領域62aにあたり、他端側が下流側に位置する濾過領域62bにあたる。そして上流側に位置する濾過領域62aの通流孔61aは、第1実施形態と同様に、下流側に位置する濾過領域62bの通流孔61bよりも孔径は大きい。
【0046】
また、ケーシング81は、上流側に位置する部分が下方から上方に向かって傾斜した形状になっている。そのため、フィルタ6は、上流側の上隅を逆三角状に切り欠いた形状になっている。ケーシング81を横置きにした場合、二次側室25の上流側の端面を下方から上方に向かって傾斜させて傾斜面84にする。傾斜面84とインクの親和作用を利用して、上部側に空気が残留するのを抑える。
【0047】
本発明の実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0048】
100 インクジェットプリンタ
10A~10D インクジェットヘッド
2A~2D フィルタユニット
21 ケーシング
22 流入口
23 流出口
6 フィルタ
61a 上流側の通流孔
61b 下流側の通流孔
62a 上流側の濾過領域
62b 下流側の濾過領域
71 ケーシング
71a 傾斜面