(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-06
(45)【発行日】2022-01-21
(54)【発明の名称】小便器
(51)【国際特許分類】
E03D 13/00 20060101AFI20220114BHJP
E03D 5/10 20060101ALI20220114BHJP
E03C 1/30 20060101ALI20220114BHJP
【FI】
E03D13/00
E03D5/10
E03C1/30
(21)【出願番号】P 2017148802
(22)【出願日】2017-08-01
【審査請求日】2020-06-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000010087
【氏名又は名称】TOTO株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100095898
【氏名又は名称】松下 満
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100159846
【氏名又は名称】藤木 尚
(72)【発明者】
【氏名】荒木 祐介
(72)【発明者】
【氏名】中村 祐介
(72)【発明者】
【氏名】永野 晃貴
【審査官】広瀬 杏奈
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-049473(JP,A)
【文献】特開2016-061070(JP,A)
【文献】特開平06-248677(JP,A)
【文献】特開2011-252344(JP,A)
【文献】特開平07-207741(JP,A)
【文献】米国特許第05342024(US,A)
【文献】特開2016-069872(JP,A)
【文献】特開2017-008660(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E03D 13/00
E03D 5/10
E03C 1/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
排水用の横引配管に排水する小便器であって、
排尿を受けるボウル面を形成し、その底部に排水口を形成するボウル部と、
上記ボウル部の上記排水口と連通する排水トラップと、
上記ボウル部の上記ボウル面に洗浄水を吐水する吐水部と、
使用者の小便器の使用を検知する検知センサと、
上記吐水部による洗浄水の吐水を制御する制御部と、を有し、
上記制御部は、
上記検知センサが使用者の使用を検知しなくなった後に、上記吐水部から吐水を行う本洗浄吐水モードと、
設定されたスケジュールに基づいて上記吐水部から洗浄水を吐水して上記排水トラップの下流側に接続される上記横引配管におけるバイオフィルムを含む有機物汚れの形成を抑制する有機物汚れ抑制吐水モードと、
上記検知センサが使用者の使用を検知している間において上記吐水部から吐水を行う尿希釈吐水モードと、を備え
、
上記尿希釈吐水モードにおける上記吐水部からの吐水の瞬間流量は、上記有機物汚れ抑制吐水モードにおける上記吐水部からの吐水の瞬間流量より小さいことを特徴とする小便器。
【請求項2】
上記本洗浄吐水モードにおける上記吐水部からの吐水の瞬間流量が、上記尿希釈吐水モードにおける上記吐水部からの吐水の瞬間流量より大きい、請求項1に記載の小便器。
【請求項3】
上記有機物汚れ抑制吐水モードの実行により吐水される水量が、上記本洗浄吐水モードの実行により吐水される水量以上となる、請求項1
又は2に記載の小便器。
【請求項4】
上記検知センサは、人体を検知する人体検知センサであり、
上記制御部は、前回の上記有機物汚れ抑制吐水モードが実行されてから今回の上記有機物汚れ抑制吐水モードが実行されるまでに上記尿希釈吐水モードにより吐水された水量の積算量と、今回の上記有機物汚れ抑制吐水モードで吐水した水量との合計が第1基準水量に到達したとき、上記有機物汚れ抑制吐水モードを終了させる、請求項1乃至
3の何れか1項に記載の小便器。
【請求項5】
上記検知センサは、人体を検知する人体検知センサであり、
上記制御部は、前回の上記有機物汚れ抑制吐水モードが実行されてから今回の上記有機物汚れ抑制吐水モードが実行されるまでに上記尿希釈吐水モードにより吐水された水量の積算量が第1基準水量以上になった場合には、今回の上記有機物汚れ抑制吐水モードで吐水する水量を、上記排水トラップ内部を置換するために必要な水量である置換水量とする、請求項1乃至
4の何れか1項に記載の小便器。
【請求項6】
上記検知センサは、人体を検知する人体検知センサであり、
上記制御部は、前回の上記有機物汚れ抑制吐水モードが実行されてから今回の上記有機物汚れ抑制吐水モードが実行されるまでに上記尿希釈吐水モードにより吐水された水量の積算量が第2基準水量に満たない場合には、今回の上記有機物汚れ抑制吐水モードで吐水する水量を、一定の水量とする、請求項1乃至
5の何れか1項に記載の小便器。
【請求項7】
上記検知センサが、ドップラー式のセンサである、請求項1乃至
6の何れか1項に記載の小便器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小便器に係り、特に、排尿を受けて排出する小便器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、特許文献1に記載されているように、小便器の制御部が、排水トラップに溜まっている尿を洗浄水によって置換する第一洗浄モードと、この第一洗浄モードの実行後に実行される第二洗浄モードと、を備え、制御部が第二洗浄モードを実行することにより、第一洗浄モードの排水を洗い流して、横引配管における尿石の発生を抑制するものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5455064号
【文献】特開2001-303639号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これまで、小便器の排水トラップ及び排水トラップの下流側の横引配管に形成される尿石は、細菌の活動により約2時間程度の比較的長時間のサイクルで生成されると考えられてきた。
しかしながら、本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、バイオフィルムが形成された環境下においては、数秒程度の非常に短時間であっても尿石が発生するという新たな知見を見出した。
【0005】
このような知見により、少容積の排水トラップにおいてバイオフィルムが形成されている場合には、排尿中に尿濃度が一時的に高くなる程度であっても、数秒程度で尿石が発生し付着してしまうことが分かった。また、横引配管においても同様の現象が起きるため、横引配管内に比較的高い尿濃度の洗浄水が流入した場合にも、尿石が発生し付着してしまう。
【0006】
さらに、近年の洗浄水の節水化の要請に伴い、比較的少ない容積の節水型の排水トラップが提案されている。このような節水型の排水トラップにおいては、使用者の排尿により排水トラップ内の洗浄水が置換され、排水トラップ内の尿濃度が高くなりやすい。よって、前述の新たな知見に基づけば、排水トラップ、例えば節水型の排水トラップにおいて、排水トラップ及び横引配管における尿石の発生を早期に抑制することが重要な課題となっている。
【0007】
そこで、本発明は、上述した従来技術の問題や課題を解決するためになされたものであり、洗浄水中の尿がバイオフィルムを含む有機物汚れにより比較的短時間で尿石を生じさせることを抑制することができる小便器を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明は、排水用の横引配管に排水する小便器であって、排尿を受けるボウル面を形成し、その底部に排水口を形成するボウル部と、上記ボウル部の上記排水口と連通する排水トラップと、上記ボウル部の上記ボウル面に洗浄水を吐水する吐水部と、使用者の小便器の使用を検知する検知センサと、上記吐水部による洗浄水の吐水を制御する制御部と、を有し、上記制御部は、上記検知センサが使用者の使用を検知しなくなった後に、上記吐水部から吐水を行う本洗浄吐水モードと、設定されたスケジュールに基づいて上記吐水部から洗浄水を吐水して上記排水トラップの下流側に接続される上記横引配管におけるバイオフィルムを含む有機物汚れの形成を抑制する有機物汚れ抑制吐水モードと、上記検知センサが使用者の使用を検知している間において上記吐水部から吐水を行う尿希釈吐水モードと、を備え、上記尿希釈吐水モードにおける上記吐水部からの吐水の瞬間流量は、上記有機物汚れ抑制吐水モードにおける上記吐水部からの吐水の瞬間流量より小さいことを特徴としている。
このように構成された本発明においては、有機物汚れ抑制吐水モードを実行することにより、排水トラップ及び横引配管においてバイオフィルムを発生させる細菌の増殖を抑制し、バイオフィルムを含む有機物汚れの形成を抑制することができる。また、仮に、バイオフィルムを含む有機物汚れが排水トラップ及び横引配管内に形成されたとしても、本発明によれば、有機物汚れ抑制吐水モードを実行することにより、有機物汚れを設定されたスケジュールに基づいて洗浄することができる。
さらに、仮に、バイオフィルムを含む有機物汚れが排水トラップ及び横引配管内に形成されたとしても、本発明によれば、尿希釈吐水モードを実行することにより、排尿がされてから本洗浄吐水モードが実行されるまでの排水トラップ及び横引配管内の洗浄水の尿濃度を低下させることができる。よって、本発明によれば、洗浄水中の尿が有機物汚れにより比較的短時間で尿石を生じさせることを抑制することができる。
さらに、本発明によれば、尿希釈吐水モードが実行されることにより、本洗浄吐水モードが実行されるときに排水トラップ内の洗浄水の尿濃度が尿の希釈により低下されている。よって、本洗浄吐水モードの実行により、この実行時点の排水トラップ内の洗浄水中の尿が横引配管の上流側に流れる場合においても、横引配管内に残存する洗浄水の尿濃度が低減され、洗浄水中の尿が尿石を生じさせることを抑制することができる。
従って、本発明によれば、有機物汚れ抑制吐水モードと尿希釈吐水モードを組合せることにより、洗浄水中の尿が排水トラップ及び横引配管内においてバイオフィルムを含む有機物汚れにより尿石を生じさせることを抑制することができる。
さらに、このように構成された本発明においては、尿希釈吐水モードにおいて、排尿中の排水トラップ内の尿が横引配管に流入するとき、この流入の瞬間流量が比較的小さいことによりこの尿が横引配管の上流側に逆流するように流れてしまうことを抑制することができる。これにより、横引配管の上流側に尿石が生じることを抑制することができる。また、有機物汚れ抑制吐水モードにおける吐水の瞬間流量は尿希釈吐水モードにおける吐水の瞬間流量よりも高くなるので、有機物汚れ抑制吐水モードにおける吐水により横引配管を比較的広範囲に確実に洗浄することができる。よって、有機物汚れ抑制吐水モードと尿希釈吐水モードを組合せることにより、洗浄水中の尿が横引配管内においてバイオフィルムを含む有機物汚れにより尿石を生じさせることをより抑制することができる。
【0010】
本発明において、好ましくは、上記本洗浄吐水モードにおける上記吐水部からの吐水の瞬間流量が、上記尿希釈吐水モードにおける上記吐水部からの吐水の瞬間流量より大きい。
このように構成された本発明においては、本洗浄吐水モードにおける吐水の瞬間流量はボウル面の洗浄性能を確保できる程度の流量が望ましい。一方で、尿希釈吐水モードにおける吐水の瞬間流量を本洗浄吐水モードにおける吐水の瞬間流量よりも大きくしたとしても、尿濃度の低下に寄与しにくくなる。よって、本発明によれば、本洗浄吐水モードにおけるボウル面の洗浄性能を確保するとともに、尿希釈吐水モードに使用する洗浄水の無駄使いを抑制することができる。
【0011】
本発明において、好ましくは、上記有機物汚れ抑制吐水モードの実行により吐水される水量が、上記本洗浄吐水モードの実行により吐水される水量以上となる。
このように構成された本発明においては、本洗浄吐水モードと有機物汚れ抑制吐水モードと尿希釈吐水モードとを組合せて吐水する場合において、使用者の使用回数によって増加する尿希釈吐水モードで吐水した流量に対し、全ての吐水モードの合計の吐水流量の増大を抑制しようとすると、例えば有機物汚れ抑制吐水モードで吐水する水量の低減によって調整することとなる。このとき、有機物汚れ抑制吐水モードの実行により1回分として吐水される水量を本洗浄吐水モードの実行により1回分として吐水される水量以上とする。これにより、本発明によれば、有機物汚れ抑制吐水モードにおいて横引配管内に流入した洗浄水の水位は本洗浄吐水モードにおいて横引配管内に流入した洗浄水の水位より高くなるため、実行頻度が有機物汚れ抑制吐水モードの実行頻度よりも高い本洗浄吐水モードの実行時に横引配管の水位面付近に発生したバイオフィルムを含む有機物汚れを有機物汚れ吐水モードによって洗い流すことができる。従って、本発明によれば、横引配管において洗浄水中の尿が有機物汚れにより比較的短時間で尿石を生じさせることをより抑制することができる。
【0012】
本発明において、好ましくは、上記検知センサは、人体を検知する人体検知センサであり、上記制御部は、前回の上記有機物汚れ抑制吐水モードが実行されてから今回の上記有機物汚れ抑制吐水モードが実行されるまでに上記尿希釈吐水モードにより吐水された水量の積算量と、今回の上記有機物汚れ抑制吐水モードで吐水した水量との合計が第1基準水量に到達したとき、上記有機物汚れ抑制吐水モードを終了させる。
このように構成された本発明においては、人体を検知している間に実行される尿希釈吐水モードの実行時間が比較的長く、尿希釈吐水モードで吐水した水量が比較的多い場合においても、尿希釈吐水モードにより吐水された水量の積算量と、今回の上記有機物汚れ抑制吐水モードで吐水した水量との合計が第1基準水量に到達したとき、有機物汚れ抑制吐水モードは終了される。よって、本発明によれば、人体を検知している時間が長い場合においては、尿希釈吐水モードで吐水した水量が比較的多くなるため、尿希釈吐水モードで吐水された洗浄水の一部がバイオフィルムの形成を抑制するように機能でき、有機物汚れ抑制吐水モードで吐水する水量が抑制され、小便器で使用される洗浄水のトータル水量の増加を抑制できる。
【0013】
本発明において、好ましくは、上記検知センサは、人体を検知する人体検知センサであり、上記制御部は、前回の上記有機物汚れ抑制吐水モードが実行されてから今回の上記有機物汚れ抑制吐水モードが実行されるまでに上記尿希釈吐水モードにより吐水された水量の積算量が第1基準水量以上となる場合には、今回の上記有機物汚れ抑制吐水モードで吐水する水量を、上記排水トラップ内部を置換するために必要な水量である置換水量とする。
このように構成された本発明においては、人体を検知している間に実行される尿希釈吐水モードの実行時間が比較的長く、前回の上記有機物汚れ抑制吐水モードが実行されてから今回の上記有機物汚れ抑制吐水モードが実行されるまでに上記尿希釈吐水モードにより吐水された水量の積算量が第1基準水量以上となる場合においては、尿希釈吐水モードで吐水された洗浄水がバイオフィルムの形成を抑制するように機能できる。よって、本発明によれば、有機物汚れ抑制吐水モードで吐水する水量が排水トラップ内部を置換する置換水量に抑制されるとともに、有機物汚れ抑制吐水モードにより吐水された洗浄水が少なくとも排水トラップ内部を置換し、排水トラップにおけるバイオフィルムを含む有機物汚れの形成をより抑制することができる。
【0014】
本発明において、好ましくは、上記検知センサは、人体を検知する人体検知センサであり、上記制御部は、前回の上記有機物汚れ抑制吐水モードが実行されてから今回の上記有機物汚れ抑制吐水モードが実行されるまでに上記尿希釈吐水モードにより吐水された水量の積算量が第2基準水量に満たない場合には、今回の上記有機物汚れ抑制吐水モードで吐水する水量を、一定の水量とする。
このように構成された本発明においては、人体を検知している間に実行される尿希釈吐水モードの実行時間が比較的短く、前回の有機物汚れ抑制吐水モードが実行されてから今回の有機物汚れ抑制吐水モードが実行されるまでに尿希釈吐水モードにより吐水された水量の積算量が第2基準水量に満たない。このような場合においても、今回の有機物汚れ抑制吐水モードにおいて一定の水量により排水トラップ及び横引配管を確実に洗浄し、バイオフィルムを含む有機物汚れの形成をより確実に抑制することができる。
また、今回の有機物汚れ抑制吐水モードで吐水する水量を、一定の水量としたとしても、尿希釈吐水モードにより吐水された水量の積算量が第2基準水量に満たないので、小便器で使用される洗浄水のトータル水量の増加を抑制することができる。
【0015】
本発明において、好ましくは、上記検知センサが、ドップラー式のセンサである。
このように構成された本発明においては、ドップラー式のセンサにより人体の検知だけでなく尿流の検知も可能となるため、ボウル面への排尿の有無をより正確に特定することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の小便器によれば、洗浄水中の尿がバイオフィルムを含む有機物汚れにより比較的短時間で尿石を生じさせることを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1A】使用者が排尿する前の状態の小便器の排水トラップ管路の一部を拡大して示し、バイオフィルムを含む有機物汚れが形成されている環境下において、非常に短時間でも尿石が発生する新たな知見を説明する図である。
【
図1B】使用者が排尿した後、小便器の洗浄動作が行われるまで排水トラップ管路内に尿が満たされている状態を示し、バイオフィルムを含む有機物汚れが形成されている環境下において、非常に短時間でも尿石が発生する新たな知見を説明する図である。
【
図1C】小便器の本洗浄動作が行われて排水トラップ管路内の尿が新たな洗浄水で置換された状態を示し、バイオフィルムを含む有機物汚れが形成されている環境下において、非常に短時間でも尿石が発生する新たな知見を説明する図である。
【
図2A】使用者の排尿後、
図1Aに示す排水トラップ管路が比較的高い尿濃度の洗浄水でほぼ満たされている状態を示し、バイオフィルムを含む有機物汚れが形成されている環境下において、同程度の期間において、排水トラップ管路及び横引配管内の洗浄水の尿濃度の違いにより、尿石の発生量に差が生じるという新しい知見を説明する図である。
【
図2B】
図2Aに示す排水トラップ管路について本洗浄動作が行われた後の状態を示し、バイオフィルムを含む有機物汚れが形成されている環境下において、同程度の期間において、排水トラップ管路及び横引配管内の洗浄水の尿濃度の違いにより、尿石の発生量に差が生じるという新しい知見を説明する図である。
【
図2C】使用者の排尿後、
図1Aに示す排水トラップ管路が比較的低い尿濃度の洗浄水でほぼ満たされている状態を示し、バイオフィルムを含む有機物汚れが形成されている環境下において、同程度の期間において、排水トラップ管路及び横引配管内の洗浄水の尿濃度の違いにより、尿石の発生量に差が生じるという新しい知見を説明する図である。
【
図2D】
図2Cに示す排水トラップ管路について本洗浄動作が行われた後の状態を示し、バイオフィルムを含む有機物汚れが形成されている環境下において、同程度の期間において、排水トラップ管路及び横引配管内の洗浄水の尿濃度の違いにより、尿石の発生量に差が生じるという新しい知見を説明する図である。
【
図3】使用回数に対する有機物汚れの厚みを使用者の排尿時における排水トラップ管路内の洗浄水の尿濃度ごとに示す図である。
【
図4A】
図1Aに示す排水トラップ管路14におけるバイオフィルムを含む有機物汚れの発生のメカニズムを示す図である。
【
図4B】
図4Aに示す排水トラップ管路が比較的高い尿濃度の洗浄水でほぼ満たされている状態を示し、排水トラップ管路及び横引配管内の洗浄水の尿濃度の違いにより、尿石の発生のメカニズムが異なり、有機物汚れの厚みの増加に差が生じるという新しい知見を説明する図である。
【
図4C】
図4Bに示すように排水トラップ管路内に高pH環境が生じる場合においては、リン酸マグネシウムアンモニウムを析出させる反応が支配的となることを説明する図である。
【
図4D】
図4Cに示すような反応によりリン酸マグネシウムアンモニウムが粒子径の比較的大きな結晶性の尿石を生じさせた状態を説明する図である。
【
図4E】
図4Aに示す排水トラップ管路が比較的低い尿濃度の洗浄水でほぼ満たされている状態を示し、排水トラップ管路及び横引配管内の洗浄水の尿濃度の違いにより、尿石の発生のメカニズムが異なり、有機物汚れの厚みの増加に差が生じるという新しい知見を説明する図である。
【
図4F】
図4Eに示すように排水トラップ管路内のpH上昇が比較的低く抑制されている環境においては、リン酸カルシウムを析出させる反応が支配的となることを説明する図である。
【
図4G】
図4Fに示すような反応によりリン酸カルシウムが粒子径の比較的小さな非結晶性の尿石を生じさせた状態を説明する図である。
【
図5】本発明の一実施形態による小便器を複数個設置している状態において、小便器が壁面の裏側に設けられた横引配管と接続している様子を示す図である。
【
図6】本発明の一実施形態による小便器の斜視図である。
【
図7】本発明の一実施形態による小便器の正面図である。
【
図8】
図7のVIII-VIII線に沿って見た断面図である。
【
図9】本発明の一実施形態による小便器の平面図である。
【
図10】本発明の一実施形態による小便器の自動洗浄ユニットの構成を示す図である。
【
図11】
図7のXI-XI線に沿って見た断面図である。
【
図12】
図7のXII-XII線に沿って見た断面図である。
【
図13】
図7のXIII-XIII線に沿って見た断面図である。
【
図14】
図7のXIV-XIV線に沿って見た断面図である。
【
図15】本発明の一実施形態による小便器のスプレッダの分解斜視図である。
【
図16】本発明の一実施形態による小便器のスプレッダの側面断面図である。
【
図17】本発明の一実施形態による小便器において、使用者がこの小便器を使用する使用回毎のコントローラの制御動作を示すフローチャートである。
【
図18】本発明の一実施形態による小便器において、使用者がこの小便器を使用する使用回毎の、検知センサの状態、使用者の使用状態、コントローラの制御動作を示すタイミングチャートである。
【
図19】本発明の一実施形態による小便器において、検知センサが使用者を検知してからの時間に対し、排水トラップ管路内の洗浄水中の尿濃度の変化を示す図である。
【
図20】
図20(a)~(l)は、本発明の一実施形態による小便器のスプレッダによる尿希釈吐水モードの吐水の水流形状を吐水の瞬間流量ごとに示す図である。
【
図21A】本発明の一実施形態による小便器における尿希釈吐水モードにより吐水される瞬間流量が0.3[リットル/分]となる場合に、吐水により形成される水流形状を撮影した写真上で水流の輪郭を示す図である。
【
図21B】本発明の一実施形態による小便器における尿希釈吐水モードにより吐水される瞬間流量が0.5[リットル/分]となる場合に、吐水により形成される水流形状を撮影した写真上で水流の輪郭を示す図である。
【
図21C】本発明の一実施形態による小便器における尿希釈吐水モードにより吐水される瞬間流量が0.7[リットル/分]となる場合に、吐水により形成される水流形状を撮影した写真上で水流の輪郭を示す図である。
【
図22】本発明の一実施形態による小便器において、有機物汚れ抑制吐水モードを実行するコントローラの制御動作を示すフローチャートである。
【
図23】本発明の一実施形態による小便器において、尿希釈吐水モードにより吐水された水量の積算量Wvと、今回の有機物汚れ抑制吐水モードで吐水する水量との関係を説明する図である。
【
図24】本発明の一実施形態における小便器において尿希釈吐水モードにより吐水される瞬間流量が0[リットル/分]~1.39[リットル/分]の範囲内で変化する場合に、排水トラップ管路内の洗浄水の尿濃度と、排水トラップ管路を模擬して配置されたスライドガラス上に付着した有機物汚れの観察画像とを示す図である。
【
図25】本発明の一実施形態における小便器において尿希釈吐水モードにより吐水される瞬間流量が1.40[リットル/分]~8.0[リットル/分]の範囲内で変化する場合に、排水トラップ管路内の洗浄水の尿濃度と、排水トラップ管路を模擬して配置されたスライドガラス上に付着した有機物汚れの観察画像とを示す図である。
【
図26】本発明の一実施形態における小便器において尿希釈吐水モードにより吐水される瞬間流量と、付着した有機物汚れの厚みとの関係を示す図である。
【
図27】本発明の一実施形態における小便器において排水トラップ管路内の洗浄水の尿濃度と、付着した有機物汚れの厚みとの関係を示す図である。
【
図28】本発明の一実施形態における小便器において、尿希釈吐水モードの吐水の瞬間流量と、排水トラップ管路内の洗浄水の尿濃度との関係を、節水型の排水トラップ管路及び従来型の排水トラップ管路について示す図である。
【
図29】本発明の一実施形態における小便器において、尿希釈吐水モードの吐水の瞬間流量と、排水トラップ管路内の洗浄水の尿濃度との関係を、吐水の瞬間流量が低い領域において、節水型の排水トラップ管路及び従来型の排水トラップ管路について示す図である。
【
図30】
図30(a)~(d)は、比較例の尿希釈吐水モードが行われない小便器において、使用者が排尿し且つ本洗浄吐水モードが行われた後、横引配管内に残存する洗浄水の状態を説明する図である。
【
図31】
図31(a)~(d)は、本発明の一実施形態における小便器において、使用者が排尿する際に尿希釈吐水モードが実行され、且つ排尿後に本洗浄吐水モードが行われ、その後の横引配管内に残存する洗浄水の状態を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<新たに見出した尿石発生メカニズム>
本発明者等は、鋭意研究することにより、バイオフィルムを含む有機物汚れが形成されている環境下において、非常に短時間でも尿石が発生するという以下の新しい知見を見出した。
【0019】
従来から、以下のように尿石等の無機物汚れに着目した尿石の発生のメカニズムが知られている。このメカニズムにおいては、使用者の小便器の使用後に排尿が排水トラップ管路及び横引配管に滞留し、この滞留した尿に一般細菌が付着する。この一般細菌の代謝過程において、ウレアーゼと呼ばれる酵素が排出される。このウレアーゼ酵素によって尿中の尿素が分解され、アンモニアが発生する。アンモニアが水溶することで尿を含む液体中のpHが上昇し、アルカリ性となる。pHが8.0~8.5を超えるような比較的高い環境になると、尿中に含まれるCa及びMgの炭酸塩、リン酸塩などの溶解度が低下するため尿液中にこれらの塩が析出し、尿石として排水トラップ管路及び横引配管に付着する。このような無機物汚れの尿石の発生は、2時間以上の比較的長時間にわたって比較的緩やかに進行すると考えられてきた。
【0020】
これに対し、本発明者等は、排水トラップ管路及び横引配管内に発生する汚れのうち無機物汚れと異なる有機物汚れに新たに着目し、バイオフィルムを含む有機物汚れが形成されている環境下において、数秒程度の非常に短時間でも尿石が発生するという知見を得た。
【0021】
図1A乃至Cに示すように、短時間での尿石Uの発生のメカニズムは、バイオフィルムを含む有機物汚れVに着目したものであり、以下のように説明される。
有機物汚れVは、一般細菌等の細菌Xが増殖する過程で放出するEPS(細胞外多糖類:Extracellular Poly Succharide)を中心としたバイオフィルム、尿中に含まれるタンパク質などが複合して形成される。このような有機物汚れVは配管内のぬめりとして知られ、非常に粘性の高い粘液を形成する。このような有機物汚れVのバイオフィルムは、排水トラップ管路14及び横引配管3等に付着した細菌Xが細胞外に多糖類のポリマーを生成し、これに包まれることで細胞の脱離が抑えられるようになり、発達すると考えられている。
【0022】
図1Aにおいては、使用者が小便器に排尿する前の状態の小便器の排水トラップ管路14の一部を拡大して示している。
図1Aに示す排水トラップ管路14は、使用者が小便器1を多数回にわたり使用し続けた後の状態となっている。排水トラップ管路14は、前回の本洗浄吐水モードにより吐水された洗浄水を貯留している。以下、
図1A乃至
図4Gにおいては排水トラップ管路14内の状態及び反応を説明しているが、横引配管3等の排水トラップ管路14の下流側の設備配管内の状態及び反応についてもほぼ同様であり、横引配管3等にも適用される。
【0023】
使用者が小便器1を使用した後、排水トラップ管路14に有機物汚れVのバイオフィルムが形成されている場合、細菌Xがこのバイオフィルムを発生且つ発達させている。バイオフィルムは、スポンジ状の内部構造体を形成しており、内部に細菌Xやアンモニア(又はアンモニウムイオンNH4
+)を保持しやすくなっている。細菌Xはウレアーゼ酵素を排出し、このウレアーゼ酵素が尿中の尿素を分解し、アンモニア(又はアンモニウムイオンNH4
+)が発生されている。よって、バイオフィルム近傍領域にはアンモニア(又はアンモニウムイオンNH4
+)が多量に存在している状態となっている。有機物汚れVの近傍の液中にアンモニアが水溶してアンモニウムイオンNH4
+を生じさせることで有機物汚れVの近傍の領域のpHが比較的高い値まで上昇する。バイオフィルムを含む有機物汚れVの近傍の高pH環境領域YのpHは、8以上、好ましくは9以上、好ましくは8~10の範囲の値となる。
【0024】
図1Bにおいては、
図1Aに示すような状態の排水トラップ管路14を有する小便器において、使用者が排尿し、小便器の洗浄動作が行われるまでの比較的短時間の間において、排水トラップ管路14内が尿でほぼ満たされている状態を示している。この尿が、有機物汚れVの近傍の高pH環境領域Yに触れる又は接近することにより、尿中に含まれるCa及びMgの炭酸塩、リン酸塩などが析出し、数秒程度の非常に短時間で尿石Uが発生するというメカニズムが見いだされた。
【0025】
図1Cにおいては、
図1Bに示すような排水トラップ管路14内が尿でほぼ満たされている状態から、小便器の洗浄動作が行われた後、排水トラップ管路14内の尿が新たな洗浄水で置換された状態を示している。排水トラップ管路14内の尿は新たな洗浄水で置換されるものの、析出した尿石Uは有機物汚れVに吸着された状態のままとなる。バイオフィルムは、スポンジ状の内部構造体を形成していることから、尿石Uも保持されやすい。このように尿石Uが付着していると、この尿石U自身にさらに細菌Xが付着しやすくなり、尿石Uの発生がより促進されることも見いだされた。このようにして、毎回の短時間の洗浄の積み重ねによって、有機物汚れV上に短時間で尿石が析出し、尿石Uが積層されることが見いだされた。
【0026】
本発明者等は、このような新たな知見に基づいて、尿を含む洗浄水がバイオフィルムと接することにより比較的短時間で尿石を発生させるメカニズムの作動を抑制し、排水トラップ管路14及び横引配管3における尿石の発生を抑制する技術を発明したものである。
【0027】
さらに、本発明者等は、鋭意研究することにより、バイオフィルムを含む有機物汚れが形成されている環境下において、同程度の期間において、排水トラップ管路14及び横引配管内の洗浄水の尿濃度の違いにより、尿石が発生する量に差がでるという以下の新しい知見を見出した。
【0028】
図2Aにおいては、
図1Aに示すような排水トラップ管路14を有する小便器において、使用者が排尿し、小便器の洗浄動作が行われるまでの比較的短時間の間において、排水トラップ管路14内が比較的高い尿濃度の洗浄水でほぼ満たされている状態を示している。この比較的高い尿濃度の洗浄水が、有機物汚れVの近傍の高pH環境領域Yに触れる又は接近することにより、数秒程度の非常に短時間で尿石Uが比較的多く発生する。
【0029】
図2Bに示すように、比較的多く発生した尿石Uは、小便器の洗浄動作が行われて、排水トラップ管路14内の洗浄水が新しい洗浄水に置換された後も、有機物汚れVに吸着された状態のままとなる。
図3に示すように、使用者の排尿時に、比較的高い尿濃度の洗浄水が、排水トラップ管路14内に流入することが、小便器の使用の度に繰り返されることにより、このように発生した尿石Uが排水トラップ管路14上に多く蓄積し、有機物汚れVの厚みを比較的大きくさせる。
【0030】
一方、
図2Cにおいては、
図1Aに示すような排水トラップ管路14を有する小便器において、使用者が排尿し、小便器の洗浄動作が行われるまでの比較的短時間の間において、排水トラップ管路14内が比較的低い尿濃度の洗浄水でほぼ満たされている状態を示している。この比較的低い尿濃度の洗浄水が、有機物汚れVの近傍の高pH環境領域Yに触れる又は接近することにより、数秒程度の非常に短時間で尿石Uが比較的少なく発生する。このように、使用者が排尿した後、小便器の洗浄動作が行われるまでの毎回の同程度の時間において、尿石Uの発生量は排水トラップ管路14内の洗浄水の尿濃度に依存する知見が見出された。よって、排水トラップ管路14内の洗浄水の尿濃度を低減できれば尿石Uの析出量を抑制することができる知見も見出された。
【0031】
図2Dに示すように、比較的少なく発生した尿石Uも、小便器の洗浄動作が行われた後、有機物汚れVに吸着された状態のままとなる。
図3に示すように、使用者の排尿時に、比較的低い尿濃度の洗浄水が、排水トラップ管路14内に流入することが、小便器の使用の度に繰り返される場合には、比較的少ない尿石Uが排水トラップ管路14上に蓄積するので、有機物汚れVの厚みを抑制できる。毎回の使用者の排尿時における排水トラップ管路14内の洗浄水の尿濃度の差が、使用回数が多くなるごとに、より大きな有機物汚れVの厚みの差となる知見も見出された。
【0032】
さらに、本発明者等は、鋭意研究することにより、排水トラップ管路14及び横引配管内の洗浄水の尿濃度の違いにより、尿石の発生のメカニズムが異なり、有機物汚れVの厚みの増加に差がでるという以下の知見を見出した。
【0033】
図4Aにおいては、上述の
図1Aに示すような、排水トラップ管路14及び横引配管3におけるバイオフィルムを含む有機物汚れVの発生のメカニズムを再び概略的に示している。
図4Aにおける(a)工程に示すように、使用者の排尿が排水トラップ管路14に付着し、細菌Xが尿に付着して排水トラップ管路14上で増殖する。時間の経過及び/又は小便器1の使用回数の増加に伴い、
図4Aにおける(a)工程から(b)工程に進む。
【0034】
図4Aにおける(b)工程に示すように、排水トラップ管路14には有機物汚れVのバイオフィルムが形成される。次に、(b)工程から(c)工程に進む。
図4Aにおける(c)工程に示すように、バイオフィルムは、内部に細菌Xやアンモニア(又はアンモニウムイオンNH
4
+)を保持しやすくなっている。バイオフィルム内部の細菌Xはウレアーゼ酵素Zを排出し、このウレアーゼ酵素Zが尿中の尿素を分解し、アンモニア(又はアンモニウムイオンNH
4
+)が発生することとなる。このように、使用者が小便器に排尿する前の状態において、小便器の排水トラップ管路14の一部が、
図4A(c)に示すような有機物汚れVが形成されている状態となっている。
【0035】
図4Bに示すように、
図4A(c)に示すような有機物汚れVが形成された排水トラップ管路14に、比較的高い尿濃度の排尿及び/又は洗浄水が流入するとき、尿素が比較的多いため、ウレアーゼ酵素Zが分解する尿中の尿素が比較的多く、アンモニアが比較的多く発生する。これらのアンモニアが水溶することでアンモニウムイオンNH
4
+を生じさせ、有機物汚れVの近傍の領域のpHが比較的高い値まで上昇する。
【0036】
図4Cに示すように、
図4Bに示すような高pH環境下においては、尿を含む液体中の無機物、例えばCa
2+、Mg
2+、NH
4
+、PO
4
3-等がアンモニアと反応して、リン酸マグネシウムアンモニウムを析出させる反応が支配的となる。リン酸マグネシウムアンモニウムはアルカリ性環境下で尿液から生成されやすい尿石成分となる。
【0037】
図4Dに示すように、リン酸マグネシウムアンモニウムは粒子径の比較的大きな結晶性の尿石を生じさせる。
図4Dは走査型電子顕微鏡(SEM)により得られた画像であり、表示倍率は2000倍である。この画像は、後述するように、本発明の一実施形態における小便器1の排水トラップ管路14及び横引配管3内の有機物汚れの発生を再現するような実験により得られた有機物汚れを撮影したものである。バイオフィルム中にこのような比較的粒子径の大きな尿石が混在することにより、尿石の厚み及び有機物汚れVの厚みが増大しやすくなる。このようなリン酸マグネシウムアンモニウムの尿石を主に含む有機物汚れVの厚みは、後述するリン酸カルシウムの尿石を含む有機物汚れVの厚みよりも増大されやすい。排水トラップ管路14内の洗浄水の尿濃度が高くなるほど、リン酸マグネシウムアンモニウムの析出割合が増大し、有機物汚れVの厚みが増大する。
【0038】
一方、
図4Eに示すように、
図4A(c)に示すような有機物汚れVが形成された排水トラップ管路14に、比較的低い尿濃度の排尿及び/又は洗浄水が流入するときを説明する。このとき、尿素が比較的少ないため、ウレアーゼ酵素Zが分解する尿中の尿素が比較的少なく、アンモニアの発生が比較的少ない。よって、アンモニアが水溶して生じるアンモニウムイオンNH
4
+によるpHの上昇は比較的低く抑制される。
【0039】
図4Fに示すように、
図4Eに示すようなpH上昇が比較的低く抑制されている環境下においては、尿を含む液体中の無機物、例えばCa
2+、Mg
2+、PO
4
3-等が同士が反応して、リン酸カルシウムを析出させる反応が支配的となる。リン酸カルシウムは上述したリン酸マグネシウムアンモニウムが尿液から生成されやすい環境下よりも中性に近い環境下においても尿液から生成されやすい尿石成分となる。
【0040】
図4Gに示すように、リン酸カルシウムは粒子径の比較的小さな非結晶性の尿石を生じさせる。
図4Gは走査型電子顕微鏡(SEM)により得られた画像であり、表示倍率は2003倍である。この画像は、後述するように、本発明の一実施形態における小便器1の排水トラップ管路14及び横引配管3内の有機物汚れの発生を再現するような実験により得られた有機物汚れを撮影したものである。リン酸カルシウムの尿石は、リン酸マグネシウムアンモニウムの尿石よりも小さい。バイオフィルム中にこのような比較的粒子径の小さな尿石が混在することにより、尿石の厚み及び有機物汚れVの厚みは少しずつ増加する。粒子径の小さな尿石が主成分となる場合には、厚みの増加ペースは比較的遅くなり、厚みが増大されにくくなる。排水トラップ管路14に流入する洗浄水中の尿濃度が低くなるほど、リン酸カルシウムの析出割合が増大し、有機物汚れVの厚みは増大されにくくなる。
【0041】
本発明者等は、このような新たな知見に基づいて、排水トラップ管路14に流入する洗浄水の尿濃度を調整し、排水トラップ管路14及び横引配管3に付着する尿石の厚みを抑制する技術を発明したものである。
【0042】
<小便器の構造>
以下、添付図面を参照して、本発明の一実施形態による小便器の構造について説明する。
図5に示すように、本発明の一実施形態による小便器1は、建築物の壁面Wの表側に複数個並んで設置されている。この小便器1の設置された壁面Wの裏側下方には、わずかに下り傾斜しながら横向きに延びる排水用の横引配管3が接続されている。この横引配管3はさらに下流の縦排水管5に接続されている。小便器1は、それぞれ、小便器1の下部の壁面側から壁面Wを通って壁面Wの裏側に設置された横引配管3に排水するようになっている。
【0043】
図5~
図8に示すように、小便器1は、陶器製の便器本体2と、この便器本体2を洗浄するための洗浄水を自動的に便器本体2に吐水する吐水装置である自動洗浄ユニット4を備えている。
なお、本実施形態の小便器1については、便器本体2の最下部が床面Kから所定距離上方に位置し且つ便器本体2の背面がその背後の壁面Wに沿って取付けられる壁掛け式の小便器について説明するが、便器本体2が床面K上に直接配置される床置き式の小便器であってもよい。
以下、本発明の実施形態において、床面K側を下側とし、小便器1を挟んで床面Kと逆側と上側とし、壁面Wの表側と小便器1を挟んで向かい合う側を手前側とし、手前側から見て、左側を左側、右側を右側とする。
【0044】
つぎに、
図5~
図8に示すように、便器本体2の正面側には、排尿を受けるボウル部6が形成されており、このボウル部6よりも背面側の便器本体2の上方領域には、自動洗浄ユニット4の一部を収納するための収納室8が形成されている。また、便器本体2のボウル部6の底部には、排水口10が形成されている。排水口10には、目皿12が配置されている。便器本体2は、さらに、排水口10の下流側に、その内部に封水を形成する排水トラップである排水トラップ管路14を備えている。排水トラップ管路14は排水口10と連通している。この排水トラップ管路14の下流側には、壁面Wを貫通する流路を形成する排水ソケット15等を介して、横引配管3が接続されている。
【0045】
排水トラップ管路14は、排水トラップ管路14内に封水を形成するように貯留される洗浄水の容積が、200ml以下となるような節水型トラップとして形成されている。このような節水型トラップの排水トラップ管路14は、従来の700ml程度の容積の排水トラップ管路に比べて少ない洗浄水の水量により排水トラップ管路内の洗浄水を置換することができる。節水型の排水トラップ管路14の容積は、好ましくは、40ml~200mlの範囲内であり、より好ましくは、120ml~200mlの範囲内であり、より好ましくは120mlである。このような節水型の排水トラップ管路は、使用者の排尿の尿量よりも少ない容積を有していることから、排水トラップ管路14内の洗浄水の尿濃度が高くなりやすく、この尿を希釈することが排水トラップ管路14及び横引配管3内の尿石付着の抑制に効果的となる。
【0046】
排水トラップ管路14は、下向きに延びる下降管路14aと、横に延びる折返し管路14bと、上向きに延びる上昇管路14cとを備えている。下降管路14aと上昇管路14cとが共通壁14dにより隔てられている。共通壁14dの前後で排水トラップ管路が折り返すため、排水トラップ管路14が小型化され、排水トラップ管路14の容積も低減される。
図8に示す中央断面において、下降管路14aの下端部の前後方向の幅14eと、上昇管路14cの下端部の前後方向の幅14fとがほぼ同じ幅に形成され、排水トラップ管路14が前後方向に小型化されている。また、
図8の中央断面において、上昇管路14cの下端部の幅14fから上端部の幅14gまでの前後方向の幅はほぼ一定に形成され、排水トラップ管路14が前後方向に小型化されている。
【0047】
図10に示すように、自動洗浄ユニット4は、水道等の給水源(図示せず)から洗浄水が供給される主給水路16aを形成する主給水管16と、この主給水管16を止水する止水栓18と、主給水管16の下流側端部に接続されて且つ主給水管16を第1の給水管20と第2の給水管22に分岐する分岐部である管継手24とを備えている。
また、管継手24によって主給水管16から分岐された一方の第1の給水管20には、その内部の給水路(第1の給水路20a)内を通過する洗浄水の瞬間流量について第1の所定の瞬間流量Q1[リットル/分]に調整する第1の定流量弁26が設けられている。
さらに、この第1の定流量弁26の下流側には、第1の給水路20aを開閉する第1の開閉弁28が設けられている。この第1の開閉弁28の下流側の第1の給水路20aの下流側端部には、ボウル部6内に洗浄水を吐水する吐水装置の一部であるスプレッダ30(吐水部)が設けられており、このスプレッダ30の第1の吐水部32が第1の給水路20aの下流側端部と接続されている。なお、本実施形態では、第1の所定の瞬間流量Q1[リットル/分]は、好ましくは8[リットル/分]~17[リットル/分]、より好ましくは8[リットル/分]~12[リットル/分]、さらにより好ましくは9[リットル/分]に設定される。
【0048】
一方、管継手24によって主給水管16から分岐された他方の第2の給水管22には、その内部の給水路(第2の給水路22a)内を通過する洗浄水の瞬間流量について、第1の所定の瞬間流量Q1[リットル/分]よりも低い第2の所定の瞬間流量Q2[リットル/分]に調整する第2の定流量弁34が設けられている。
また、この第2の定流量弁34の下流側には、第2の給水路22aを開閉する第2の開閉弁36が設けられている。この第2の開閉弁36の下流側の第2の給水路22aの下流側端部には、スプレッダ30の第2の吐水部38が接続されている。なお、本実施形態では、第2の所定の瞬間流量Q2[リットル/分]は、好ましくは0.1[リットル/分]~8.0[リットル/分]に設定され、より好ましくは0.1[リットル/分]~0.6[リットル/分]に設定され、さらにより好ましくは0.3[リットル/分]に設定される。なお、第1の所定の瞬間流量Q1[リットル/分]と第2の所定の瞬間流量Q2[リットル/分]との瞬間流量差は、好ましくは1.0[リットル/分]~8.9[リットル/分]に設定される。
【0049】
つぎに、第2の開閉弁36の下流側には、逆止弁40を介して、電解除菌水ユニット42が設けられており、この電解除菌水ユニット42は、電解除菌水を生成する電解槽(図示せず)を備えており、第2の吐水部38に電解除菌水を供給する電解除菌水供給部として機能するようになっている。
【0050】
また、自動洗浄ユニット4は、スプレッダ30に設けられて便器本体2の正面側に立つ使用者の有無を検知する人体検知センサとしての検知センサ44と、この検知センサ44から送信される検知信号を受信すると共に所定の制御プログラム等に基づいて第1の開閉弁28及び第2の開閉弁36のそれぞれの動作を制御する制御部であるコントローラ46を備えている。
【0051】
検知センサ44は、赤外線式の人体検知センサである。検知センサ44は、使用者の小便器の使用(使用しているという使用状態)を検知する他の検知センサ、例えば、マイクロ波を使用したドップラー式のセンサ、又は使用者の小便器の使用による尿の流れを検知する流量検知センサ等であってもよい。ドップラー式のセンサは、使用者の人体の検知だけでなく尿流の検知も可能となるため、ボウル面への排尿の有無をより正確に特定することができる。
【0052】
コントローラ46は、CPU及びメモリ等を内蔵し、所定の制御プログラム等に基づいて他の機器の制御を行うことができる。コントローラ46は、第1の開閉弁28の開閉動作を制御することにより、第1の吐水部32からの本洗浄吐水モード又は有機物汚れ抑制吐水モードの吐水の開始及び終了を制御する。コントローラ46は、第2の開閉弁36の開閉動作を制御することにより、第2の吐水部38からの尿希釈吐水モード又は除菌水の吐水の開始及び終了を制御する。
【0053】
コントローラ46は、検知センサ44が使用者の使用を検知している間のうち所定の期間において第2の吐水部38から吐水を行う尿希釈吐水モード(第1吐水モード)と、検知センサ44が使用者の使用を検知しなくなった後に、第1の吐水部32から吐水を行う本洗浄吐水モード(第2吐水モード)と、設定されたスケジュールに基づいて定期的に第1の吐水部32から洗浄水を吐水して排水トラップ管路14及び横引配管3におけるバイオフィルムを含む有機物汚れの形成を抑制する有機物汚れ抑制吐水モードと、検知センサ44が使用者の使用を検知して検知状態となった時刻t0から尿希釈吐水モードを実行する時刻t3までの間に所定の待機時間Pにわたって待機する待機モードと、検知センサ44による使用者の検知状態が継続する検知時間が待機時間Pより短く設定された使用確定時間Qより短い時間で終了した場合に、尿希釈吐水モード及び本洗浄吐水モードのいずれも実行しない不使用モードと、検知センサ44による検知状態が継続する検知時間が使用確定時間Qより長く且つ待機時間Pより短い強制洗浄時間L内の時間で終了した場合に、本洗浄吐水モードを強制的に実行する強制洗浄モードと、を備えている。なお、
図18に示すように、待機時間Pは、時刻t0から時刻t3までの時間である。使用確定時間Qは、時刻t0から時刻t1までの時間である。強制洗浄時間Lは、時刻t1から時刻t3までの時間である。
【0054】
図22に示すように、コントローラ46の有機物汚れ抑制吐水モードにおいては、詳細については後述する。有機物汚れ抑制吐水モードは、定期的に所定時間T(例えば、T=2時間)が経過する毎に、コントローラ46から操作信号が第1の開閉弁28に送信される。この操作信号により、第1の開閉弁28が開弁し、第1の給水路20aからスプレッダ30の第1の吐水部32に洗浄水W1が供給され、ボウル部6のボウル面48が洗浄される。そして、このボウル面48を洗浄した洗浄水W1は、排水口10から排水トラップ管路14に流入することにより、排水トラップ管路14内やその下流側の横引配管3内の細菌、バイオフィルム、尿石等を下流側へ洗い流すことができる。このような洗浄により、排水トラップ管路14内や横引配管3内の細菌の繁殖を抑制し、バイオフィルムを含む有機物汚れの形成を抑制し、排水トラップ管路14及び横引配管3の尿石の付着を抑制する。このような有機物汚れ抑制吐水モードは、排水設備を保護する設備保護洗浄の機能を果たしている。なお、上述した所定時間Tについては、好ましくは1時間~3時間に設定され、より好ましくは1.5時間~2.5時間に設定される。所定時間Tについては、時間間隔がコントローラ46の制御により途中で変更されてもよい。
【0055】
なお、本実施形態では、自動洗浄ユニット4の第1の給水路20a及び第2の給水路22aのそれぞれの洗浄水の瞬間流量Q1,Q2を調整する流量調整手段として、第1の定流量弁26と第2の定流量弁34のそれぞれを採用した形態について説明するが、これらの形態に限られず、例えば、定流量弁以外にも、流量センサ等を使用して洗浄水を適正な流量に調整する他の流量調整手段を採用し、この他の流量調整手段の動作をコントローラ46により制御するようにしてもよい。
【0056】
なお、本実施形態では、自動洗浄ユニット4の第1の給水路20a及び第2の給水路22aを別々に形成し、第1の吐水口60と第2の吐水口76とを別々に形成しているが、1つの共通の給水路により給水し、1つの共通の吐水口により吐水するように形成してもよい。例えば、自動洗浄ユニット4は、主給水管16と、主給水管16の下流側端部に接続される第1の給水管20と、第1の給水管20内を通過する洗浄水の瞬間流量を調整できる弁体と、この第1の定流量弁26の下流側の第1の給水路20aを開閉する第1の開閉弁28とを備えている。第1の給水路20aの下流側端部に第1の吐水部32の第1の吐水口60が開口されている。自動洗浄ユニット4は、第2の給水路22aを省略しており、第1の給水路20aを介して尿希釈吐水モードの吐水を行う。さらに、第2の吐水口76は省略され、尿希釈吐水モードにおける瞬間流量Q2[リットル/分]の吐水を第1の吐水口60から吐水する。このように、第1の吐水口60から尿希釈吐水モードの吐水を行ってもよい。
【0057】
<ボウル部の詳細>
つぎに、
図6~
図14を参照して、本実施形態の小便器の便器本体におけるボウル部6の詳細について説明する。
【0058】
図6乃至
図14に示すように、ボウル部6の表面には排尿を受けるボウル面48が形成され、ボウル面48は、側面視で概ねJ字形の形状を形成している。ボウル面48は、便器本体2の収納室8の前面7まで延びるように形成されている。
ボウル面48は、その上部から下部まで、前面が使用者に対向するように開いた円弧形状の正面部48aを有している。ボウル面48は、スプレッダ30が設けられている上方領域において、従来のようなボウル面から前方に壁状に突出する側面部が設けられておらず、正面部48aのみから形成されている。このような正面部48aは自身の曲面の接線の垂線が便器本体2の前方に立つ使用者の立ち位置に向かうような前向きの曲面を形成している。即ち、水平断面において、正面部48aはその全ての位置にて水平方向に延びる接線に対する水平方向に延びる垂線が、ボウル面48の左側端部48bと右側端部48cとを結び水平方向に延びる線分と交差する。
【0059】
ボウル面48の上部領域の正面部48aは、水平断面において、ボウル面48の左側端部48bから右側端部48cまでほぼ単一の曲率半径Rの円弧(曲率半径Rが途中で概ね変化しないような1つの円弧であり、シングルRと称される円弧)に沿って形成される。上部領域より下方の下部領域のボウル面48は、2種類の曲率半径Rを有する円弧の組み合わせ、又は円弧と直線との組み合わせによる複合的な曲面形状を形成している。ボウル面48の正面部48aは、ボウル面48の上端48dから下方に向けて後方に向かって傾斜して形成されている。
【0060】
ボウル部6のボウル面48は、その水平断面の曲率半径が下方ほど小さくなるように形成されている。ボウル面48の上端48dから下方に向かうにつれて、水平断面の円弧の曲率半径が徐々に減少するように形成され、下方に向かうにつれて徐々にボウル面48の左右方向の幅(ボウル面48の正面視で投影される幅)が小さくなるように形成されている。なお、曲率半径の上限はほぼ無限大でもよく、すなわちボウル面48の上端48dの水平断面が直線状に形成されていてもよい。
【0061】
具体的には
図7及び
図11に示すように、ボウル面48の正面部48aは、ボウル面48の上端48dからの距離L1(L1=150mm)の位置、すなわちスプレッダ30を横切る水平断面の高さ位置において、平面視で、比較的大きな曲率半径である曲率半径R1(R1=300mm)による単一の曲率半径の円弧により形成されている。
【0062】
図12に示すように、ボウル面48の正面部48aは、ボウル面48の上端48dからの距離L2(L2=300mm)の位置において、平面視で、曲率半径R1よりも小さな曲率半径である曲率半径R2(R2=200mm)による単一の曲率半径の円弧により形成されている。
【0063】
正面部48aの曲率半径は、例えば、200~500mmの範囲、好ましくは200~400mmの範囲に設定されるようになっている。このような範囲とすることで、使用者の局部を把持する手や腕が、ボウル面に接触することを抑制できるため、使用者が用足し時に小便器に近づきやすくなり、結果として尿垂れにより床を汚してしまうという事態の発生を抑制することができる。
【0064】
図13に示すように、ボウル面48の正面部48aは、下部領域における、ボウル面48の上端48dからの距離L3(L3=450mm)の位置において、平面視で、曲率半径R2よりも小さな曲率半径である曲率半径R3と他の円弧を組み合わせた複合的な円弧形状により形成されている。これらの円弧の曲率半径は、曲率半径R2よりも小さくなっている。
【0065】
図14に示すように、ボウル面48のさらに下部領域においては、ボウル面48の上端48dからの距離L4(L4=500mm)の位置において、平面視で、使用者に向かう方向に開くような円弧形状部分の正面部48aとその両側で使用者に向かって突出する直線部分48jとにより形成されている。円弧形状部分の曲率半径R4は、曲率半径R3よりも小さくなっている。
【0066】
ボウル面48の左側端部48bと右側端部48cとが、下方に向かうにつれ徐々に前方側に突出するように形成される。また、ボウル部6の下部の前方においては、ボウル面48の左側端部48bと右側端部48cとが、排水口10の前方側において左右方向中央側に向かうことにより互いに結合され、先端48fを形成している。
【0067】
ボウル面48は、ボウル面48の左右両側から前方側まで下降しながら延びる棚42を備えている。棚42は、本洗浄吐水モードにおいてボウル面48の左右両側近傍まで到達する洗浄水の一部をボウル面48の左右両側から前方側に向けて導くようになっている。
棚42は、ボウル面48の下部領域から先端48fの下方側に向かって延びている。棚42は、ボウル面48から内側に横向きに突出し、この棚42上を水が流れやすいような平面部を上面に形成している。従って、本洗浄吐水モードにおいては、洗浄水の水量が低減された場合においても、棚42により、洗浄水をボウル面48の前方部分まで到達させてボウル面48を従来よりも広範囲に確実に洗浄することができる。
【0068】
<スプレッダの詳細>
つぎに、
図7、
図10、
図15及び
図16を参照して、本実施形態の小便器の自動洗浄ユニットにおけるスプレッダの詳細について説明する。
まず、
図7に示すように、スプレッダ30は、ボウル面48の上方領域における左右方向の中央部に設けられており、スプレッダ30及び検知センサ44の前方側には外装カバー50が取り付けられている。なお、
図16に示すスプレッダ30においては、外装カバー50を取り外した状態を示すと共に、スプレッダ30に設けられている検知センサ44等の関連部品については省略して示している。
【0069】
図15及び
図16に示すように、スプレッダ30は、ボウル面48に固定して取り付けられるスプレッダ本体部52と、このスプレッダ本体部52の取付穴52aに挿入して取り付けられるノズル部材54を備えている。
【0070】
図16に示すように、スプレッダ本体部52の内部には、第1の給水管20の第1の給水路20a及び第2の給水管22の第2の給水路22aのそれぞれと連通する第1の通水路56及び第2の通水路58がそれぞれ形成されている。
第1の通水路56の前方側の下流側端部には、第1の吐水部32の一部である第1の吐水口60が形成されている。スプレッダ本体部52の第1の通水路56は、前後方向に延びるように形成されている上流側通水路56aと、この上流側通水路56aの下流側の前端部から下方に向かって流路が拡大するように、正面視で概ね扇形形状に形成されている下流側通水路56bを備えている。これらにより、第1の給水路20aから上流側通水路56a内に供給された洗浄水は、下流側通水路56bを通過し、第1の吐水口60からボウル面48上で左右方向に広がるように第1の所定の瞬間流量Q1[リットル/分]の洗浄水W1として吐水されるようになっている。
【0071】
つぎに、
図15及び
図16に示すように、ノズル部材54は、スプレッダ本体部52の取付穴52aに取り付けられる取付部62を備えている。
また、ノズル部材54は、取付部62の前端部に一体に設けられたノズル部64を第2の吐水部38の一部として備えている。ノズル部64は、スプレッダ本体部52の側方側から下方に向けて形成される。よって、ノズル部64は、ボウル面48の左右方向中心線Dに対して偏心した位置に配置される。よって、尿希釈吐水モードにより吐水される水流は、ボウル面48の左右方向中心線Dに対して偏心した位置から吐水される。
【0072】
ノズル部材54の取付部62の内部には、スプレッダ本体部52の第2の通水路58と連通する通水路68が形成されている。ノズル部材54のノズル部64には、通水路68から延びる通水路72が形成され、さらに、ノズル部64の先端部には、第2の吐水部38として単一の円形断面形状の第2の吐水口76が形成されている。第2の吐水口76の吐水口幅Gは、その管の内径であり、約2mmに設定されている。第2の給水管22の第2の給水路22aからノズル部材54の通水路68に供給された洗浄水は、第2の吐水口76から第1の所定の瞬間流量Q1[リットル/分]よりも低い第2の所定の瞬間流量Q2[リットル/分]の洗浄水W2として吐水されるようになっている。よって、尿希釈吐水モードにおける第2の吐水口76からの吐水の瞬間流量Q2[リットル/分]は、有機物汚れ抑制吐水モードにおける第1の吐水口60からの吐水の瞬間流量Q1[リットル/分]より小さくされている。また、本洗浄吐水モードにおける第1の吐水口60からの吐水の瞬間流量Q1[リットル/分]が、尿希釈吐水モードにおける第2の吐水口76からの吐水の瞬間流量Q2[リットル/分]より大きくされている。なお、第2の吐水口76は、その断面を円形形状以外に、楕円形、長方形又は正方形等の矩形等に形成することができる。円形断面以外の形状の第2の吐水口76の吐水口幅Gは、吐水口直下のボウル面48に平行な方向の最大の開口幅により規定される。さらに、スプレッダ30の第1の吐水口60から尿希釈吐水モードの吐水を行う場合には、第1の吐水口60を、第2の吐水口76に代えて使用することができる。このとき第1の吐水口60は、その断面を円形形状以外に、楕円形、長方形又は正方形等の矩形等に形成することができる。円形断面以外の形状の第1の吐水口60の吐水口幅は、吐水口直下のボウル面48に平行な方向の最大の開口幅により規定される。
【0073】
<使用回毎の小便器の動作>
つぎに、
図5~
図18を参照して、本発明の一実施形態による小便器の動作(作用)について説明する。
図17は、本発明の一実施形態による小便器において、使用者がこの小便器を使用する使用回毎のコントローラの制御動作を示すフローチャートであり、
図18は、本発明の一実施形態による小便器において、使用者がこの小便器を使用する使用回毎の、検知センサの状態、使用者の使用状態、コントローラの制御動作を示すタイミングチャートである。ここで、
図17において、Sは各ステップを示している。
【0074】
まず、本発明の一実施形態による小便器1における通常の便器洗浄の動作(作用)について説明する。
先ず、
図17に示すように、S0において、使用者が小便器1の便器本体2のボウル部6の前に立つと、検知センサ44が使用者の使用を検知している検知状態となり(時刻t0)、その検知信号がコントローラ46に送信され、コントローラ46が使用者の存在を認識する。この時点では第1の開閉弁28は閉弁された状態であり、第2の開閉弁36も閉弁された状態となっている。コントローラ46は、検知センサ44が検知状態となった時刻t0から所定の待機時間Pにわたって待機する待機モードを実行する。コントローラ46は、時刻t0からすぐに尿希釈吐水モードを開始せず、先行する待機モードを実行することにより、使用者の排尿が始まる前における尿の希釈に貢献しにくい洗浄水の吐水を抑制し、尿を希釈する洗浄水を節約することができる。所定の待機時間Pは、コントローラ46に記録されたプログラム等により目的達成のため意図的に実現される待機時間であり、信号の伝送の遅れや弁体の動作等の遅れによりわずかに生じる吐水動作の遅れ時間とは区別される。
【0075】
S1において、コントローラ46は、検知センサ44による使用者の検知状態が継続されたまま使用確定時間Q(例えば約5秒)が経過したか否かを判定する。使用確定時間Qは待機時間Pより短く設定されている。コントローラ46は、検知センサ44による使用者の検知状態の継続が使用確定時間Qより短い時間で終了した場合には、使用者が小便器1に排尿をせずに立ち去ったと判断して、無駄な洗浄水の使用を防ぐため、待機モードを中断するとともに不使用モードを実行し、尿希釈吐水モード及び本洗浄吐水モードのいずれも実行せずに、S12に進み、一連の動作を終了する。コントローラ46は、検知センサ44の検知状態が継続する検知時間が使用確定時間Q以上の時間となる場合には、使用者が小便器1を使用していると判断して、S2に進み、待機モードを継続する。
【0076】
図18に示すように、使用者は、排尿する前の時刻t0から時刻t2までの間、ボウル部6の前に立った状態で着衣を脱いで排尿する準備を整える。時刻t2は、時刻t0から平均的な大人の使用者が着衣を脱いで排尿する準備を整えると想定される平均的な服脱ぎ時間Eを経過した時刻として設定される。服脱ぎ時間Eは約8秒間と設定される。時刻t2になると、使用者の排尿が開始される。
【0077】
S2において、コントローラ46は、待機モードを継続している。
S3において、コントローラ46は、待機モードにおいて時刻t0から待機時間Pを経過したか否かを判定する。コントローラ46は、時刻t0から待機時間Pを経過していない場合には、S4に進む。コントローラ46は、時刻t0から待機時間Pを経過した場合には、待機モードを終了して、S5に進む。
【0078】
図19において、このような待機モードの待機時間Pの待機中に使用者の排尿が開始されたとしても排水トラップ管路14内の洗浄水中の尿濃度が比較的低く抑制できる効果について説明する。
図19は、本発明の一実施形態の小便器において尿希釈吐水モードを待機時間P経過後に実行する場合、及び尿希釈吐水モードを排尿開始とほぼ同時に実行する場合、及び比較例として尿希釈吐水モードを実行しない場合における、排水トラップ管路14内の洗浄水中の尿濃度の時間変化を示す図である。
図19においては、縦軸において排水トラップ管路14内の洗浄水中の尿濃度の変化を示し、横軸において時間経過を示している。
【0079】
本発明の一実施形態の小便器において尿希釈吐水モードを待機時間P経過後に実行する場合について説明する。
時刻t0においては、使用者の使用の検知が開始される。時刻t0においては、使用者の排尿が開始されておらず、コントローラ46は、尿希釈吐水モードに先立って待機モードを開始させる。
時刻t2においては、コントローラ46は、待機モードを継続中であり、尿希釈吐水モードは実行されていない。時刻t2において、使用者の排尿が開始される。時刻t2~時刻t4に示すように、尿流がボウル部6内に流入し排水トラップ管路14内の尿濃度が徐々に上昇する。このように、仮に待機モードの待機中に使用者の排尿が開始されたとしても、排尿初期においては排尿の水勢は比較的弱く、流量も比較的少ないため、排水トラップ管路14内の洗浄水の尿濃度は、緩やかに上昇し、尿石が発生する程度にまでは直ちに上昇されない。
【0080】
時刻t3において、待機モードの待機時間Pが終了し、尿希釈吐水モードの実行が開始される。このように検知センサ44が使用者を検知している間において尿希釈吐水モードが実行される。時刻t3以後も、尿希釈吐水モードにより希釈された状態の尿濃度Mまで、洗浄水の尿濃度はわずかに上昇する。
【0081】
時刻t4において、尿希釈吐水モードの機能によりボウル面48で希釈された洗浄水が排水トラップ管路14内に流入し、排水トラップ管路14内の洗浄水の尿濃度は、尿石が発生しにくくなる程度の一定の尿濃度Mに保たれる。時刻t4以降は、尿希釈吐水モードが実行されるので、排水トラップ管路14内の尿濃度の上昇は抑制される。このように、尿希釈吐水モードを待機時間P経過後に実行しても、排水トラップ管路14内の洗浄水の尿濃度を上昇しすぎないように所定の尿濃度M以下にコントロールすることが可能となる。このように、排水トラップ管路14内の洗浄水の尿濃度を上昇しすぎないようにするためには、待機時間Pを時刻t0から6秒間~11秒間の範囲内の時間に設定することが好ましい。また、待機時間Pは、時刻t0から想定される排尿開始タイミングの2、3秒後の時刻までの時間として設定されてもよい。よって、尿希釈吐水モードの実行開始を、排尿開始予定時間以上の待機時間Pにわたって待機させる。従って、排尿の水勢が比較的弱い排尿初期において、尿の希釈に貢献しにくい洗浄水の吐水を抑制し、尿を希釈する洗浄水を節約することができる。
【0082】
また、時刻t2~時刻t4における尿濃度の変化により示されるように、仮に待機モードの待機中に使用者の排尿が開始されたとしても、排尿初期は排水トラップ管路14内に前回の洗浄による洗浄水が存在し、尿が流入しても洗浄水の尿濃度が比較的低い状態で保たれる。従って、尿石の発生が抑制される。さらに、待機モードに続く尿希釈吐水モードの実行により排水トラップ管路14内の尿濃度を低減させて尿石の発生を抑制することができる。よって、待機モードにより、尿の希釈に貢献しにくい洗浄水の吐水を抑制し、尿を希釈する洗浄水を節約することができる。
【0083】
また、時刻t2において服脱ぎ時間Eが経過するまでは、使用者が拝尿していないので排水トラップ管路14内の洗浄水の尿濃度は上昇しない。よって、待機モードの実行開始まで待機させることにより、尿希釈吐水モードの開始を遅らせ、尿の希釈に貢献しにくい洗浄水の吐水を抑制し、尿を希釈する洗浄水を節約することができる。
【0084】
次に、
図19に示すように、本発明の一実施形態の小便器において尿希釈吐水モードを排尿開始とほぼ同時に実行する場合について説明する。尿希釈吐水モードを待機時間P経過後に実行する場合と重複する動作については説明を省略する。時刻t2において、使用者の排尿が開始される。時刻t2において、コントローラ46は、待機モードを終了させ、尿希釈吐水モードを実行させる。尿希釈吐水モードが開始されるので、尿流が主にボウル面48で希釈され、洗浄水の尿濃度は比較的緩やかに上昇する。このように排水トラップ管路14内の洗浄水の尿濃度の上昇は緩やかに抑制され、尿希釈吐水モードにより希釈された洗浄水の尿濃度まで上昇する。尿希釈吐水モードが排尿開始と同時に実行された場合にも、排水トラップ管路14内の洗浄水の尿濃度は所定の尿濃度M以下にコントロールされる。
【0085】
次に、比較例として尿希釈吐水モードを実行しない場合について説明する。
時刻t2以後、尿希釈吐水モードは実行されない。時刻t3~時刻t4における排尿初期においては、洗浄水の尿濃度は徐々に上昇する。時刻t4以後、尿希釈吐水モードは実行されないため、排水トラップ管路14内の洗浄水の尿濃度は所定の尿濃度Mを超えて上昇する。このような比較例においては、本洗浄吐水モードが実行されるまでに、排水トラップ管路14内の洗浄水がほぼ使用者の尿で置換され、洗浄水の尿濃度は、ほぼ100%となる。
【0086】
再び、
図17に戻ってフローチャートを説明する。
S4において、コントローラ46は、検知センサ44が検知状態を維持したままであるか否かを判定する。検知センサ44による使用者の検知状態が継続しなくなった場合、すなわち、検知状態が終了した場合には、コントローラ46は尿希釈吐水モードを実行しないこととなるため、仮に使用者が排尿を行っていた場合、尿の希釈及びボウル部6及び排水トラップ管路14の洗浄も行われないままとなる可能性がある。従って、コントローラ46は使用者がボウル部6に排尿をわずかに行っている可能性があると判断して、ボウル部6に尿が流入したままとなることを防ぐため、待機モードを中断し、強制洗浄モードを実行し、S11に進む。強制洗浄モードによりS11において予備的に本洗浄吐水モードを実行させ、確実に尿の希釈及びボウル部6及び排水トラップ管路14の洗浄の洗浄を行ってボウル部6を衛生的に保つことができる。S4においてコントローラ46は、検知センサ44が検知状態を継続している場合には、S2に戻る。
【0087】
S5において、コントローラ46は、時刻t0から待機時間Pを経過した時刻t3において、尿希釈吐水モードを実行する。
図10及び
図16に示すように、コントローラ46は、尿希釈吐水モードの開始により、第2の開閉弁36を開弁させ、主給水管16の主給水路16aの洗浄水を、第2の給水管22の第2の給水路22aに供給する。コントローラ46は、第1の開閉弁28を閉弁した状態のままとしている。第2の給水路22aに流れた洗浄水W2は、第2の定流量弁34を通過することにより、比較的低い第2の所定の瞬間流量Q2[リットル/分]に調整され、第2の通水路58に流入する。そして、洗浄水W2は、スプレッダ30のノズル部材54の内部の通水路68を通過した後、第2の吐水口76から吐水される。
【0088】
<尿希釈吐水モードにおける吐水の水流形状>
ここで、
図20及び
図21により、尿希釈吐水モードにおける吐水の水流形状について説明する。
図20(a)~(l)においては、尿希釈吐水モードにより吐水される水流の第2の所定の瞬間流量Q2[リットル/分]を0.125~2.0[リットル/分]の範囲で変化させた場合に、幅広流B及び幅広流Bより狭い幅の幅狭流Cがボウル面48上に形成される様子が示されている。
図20(a)~(l)において、各図の原点は第2の吐水口76の位置を示し、縦軸は第2の吐水口76からの下方向の距離[mm]を示し、横軸は第2の吐水口76からの左右方向のボウル面48上の距離[mm]を示している。
図20(a)~(l)に示すように、尿希釈吐水モードにより吐水される水流は、ボウル面48において第2の吐水口76から所定幅Aまで広がる幅広流Bを形成した後、ボウル面48の下部において所定幅Aより狭い幅の幅狭流Cを形成する。所定幅Aは、幅広流Bの最大の横幅(ボウル面48の左右方向の幅)である。
図20(a)~(l)において、所定幅A及び後述する最小幅Fは、ボウル面48の正面視での投影された幅ではなく、ボウル面48上の距離をボウル面48に沿って実測して得られた幅である。尿希釈吐水モードにより吐水される水流は、吐水開始直後、例えば
図18のt3の直後、例えばt3から約1秒後には、
図20及び
図21に示すような水流を形成する。
また、
図21A乃至Cは、本発明の一実施形態による小便器のスプレッダから吐水される尿希釈吐水モードの吐水の水流形状を撮影した写真上で水流の輪郭を示す図である。
図21A乃至Cにおいては、流れの輪郭を分かりやすく示すため、尿希釈吐水モードの吐水の幅広流Bの輪郭を実線により補助的に示している。
【0089】
尿希釈吐水モードにより吐水される水流の瞬間流量が0.125~2.0[リットル/分]の範囲内である場合に、幅広流Bの所定幅Aは、24mm~112mmの範囲内となる。さらに、吐水される水流の瞬間流量が0.125~1.1[リットル/分]の範囲内である場合に、幅広流Bの所定幅Aは、24mm~77mmの範囲内となる。
また、尿希釈吐水モードにより吐水される水流の瞬間流量が0.125~2.0[リットル/分]の範囲内である場合に、幅狭流Cの最小幅Fは、5mm~50mmの範囲内となる。さらに、吐水される水流の瞬間流量が0.125~1.1[リットル/分]の範囲内である場合に、幅狭流Cの最小幅Fは、5mm~40mmの範囲内となる。
【0090】
尿希釈吐水モードにより吐水される水流は、この水流の瞬間流量を0.125~2.0[リットル/分]の範囲で変化させた場合に、幅広流Bの所定幅Aを幅狭流Cの最小幅Fで除した値が、1.9~5.8の範囲内、好ましくは3.8~5.8の範囲内、より好ましくは3.8となる。幅広流Bの所定幅Aが幅狭流Cの最小幅Fよりも一定の比率で大きくなることにより、排尿をボウル面48上で希釈する確率を増加させ、排尿を排水トラップ管路14に入る前に希釈し、尿流が希釈されないまま排水トラップ管路14に流れ込むことを抑制することができる。上記の値が、1.9~5.8の範囲内となるような尿希釈吐水モードにより吐水される水流の瞬間流量は0.1~0.6[リットル/分]がより好ましく、0.3[リットル/分]がより好ましい。
【0091】
尿希釈吐水モードにより吐水される水流は、この水流の瞬間流量を0.125~2.0[リットル/分]の範囲で変化させた場合に、幅広流Bの所定幅Aを第2の吐水口76の吐水口幅Gで除した値が、12~56の範囲内となる。
幅広流Bが所定幅Aとなる高さ位置は、床面Kから870mm~970mmの範囲内に位置する。ここで、スプレッダ30の第2の吐水口76の床面Kからの高さは約1020mmであり、
図20の各図の縦軸の原点(0、0)の高さが床面Kから約1020mmの高さとなる。
図20の各図の縦軸における第2の吐水口76からの下方距離50mm~150mmの範囲が床面Kから870mm~970mmの範囲に相当している。
【0092】
図7及び
図21A乃至Cに示すように、尿希釈吐水モードにより吐水される水流は、ボウル面48の左右方向中心線Dに対して偏心した第2の吐水口76の位置から吐水される。尿希釈吐水モードにより吐水される水流は、棚42より左右中央側の領域において幅広流B及び幅狭流Cを形成する。使用者は排尿を棚42に向けにくく、使用者は棚42より中央側の領域に排尿する傾向があるため、尿流と幅広流B及び/又は幅狭流Cとを合流させやすくすることができる。
【0093】
図21A乃至
図21Cに示すように、スプレッダ30の第2の吐水口76は、ボウル面48の左右方向中心線Dに対して偏心した位置に配置されている。第2の吐水口76の位置のボウル面48が正面向きよりもやや斜め横向きに傾斜している。よって、尿希釈吐水モードの吐水の瞬間流量を0.125~2.0[リットル/分]の範囲で変化させた場合に、尿希釈吐水モードにより吐水される水流が、この偏心した位置のボウル面48に斜めに吐水され、左右方向により広範囲に広がる幅広流Bを形成することができる。
図20においては、尿希釈吐水モードにより吐水される水流が、左右方向中心に対して偏心した位置のボウル面48に斜めに吐水され、第2の吐水口76を中心として左右方向により広範囲に広がる幅広流Bを形成する様子が示されている。さらに、
図21A乃至
図21Cにおいては、例示として、尿希釈吐水モードの吐水の瞬間流量を0.3[リットル/分]、0.5[リットル/分]又は0.7[リットル/分]とした場合に、吐水された水流が左右方向に広範囲に広がる幅広流Bを形成する様子を示している。このように、吐水された水流は、第2の吐水口76を中心として左右方向に広がりやすくなる。
【0094】
さらに、尿希釈吐水モードの吐水の瞬間流量を0.125~2.0[リットル/分]の範囲で変化させた場合に、尿希釈吐水モードにより吐水される水流が、ボウル面48の左右方向中心領域Hを通るように広がる幅広流Bを形成する。ボウル面48の左右方向中心領域Hは、例えばスプレッダ30の幅に設定される。また、尿希釈吐水モードにより吐水される水流は、ボウル面48の左右方向中心線Dを通るように広がる幅広流Bを形成する。
【0095】
図20においては、尿希釈吐水モードにより吐水される水流が、ボウル面48の左右方向中心領域Hを通るように広がる幅広流Bを形成している様子が示されている。
図20(b)~(f)において、左右方向中心領域Hを例示し、他の図においては例示を省略している。さらに、
図21A乃至
図21Cにおいては、幅広流Bが、スプレッダ30の下方側においてボウル面48の左右方向中心領域H、さらに左右方向中心線Dを通るように広がる。よって、ボウル面48の左右方向中心領域H近傍且つスプレッダ30のやや下方側に到達する尿を、尿希釈吐水モードの吐水の幅広流Bと合流させやすくすることができ、尿が幅広流Bにより希釈される確率を向上させることができる。
【0096】
図7においては、尿希釈吐水モードにより吐水される幅広流Bは、洗浄水W2により示される。この洗浄水W2は、ボウル面48を流下し、排水口10から排水トラップ管路14内に流入する。排水口10に到達する洗浄水は、尿希釈吐水モードにより吐水される水流と、使用者の排尿による尿流とがすでに合流され、すでに尿濃度が低減されている状態となっている。よって、尿濃度が比較的高い状態の尿流が直接排水トラップ管路14内に流入しにくくなっている。
【0097】
再び、
図17に戻って説明する。S6において、コントローラ46は、尿希釈吐水モードにより吐水される水流の水量の積算量Wvへの積算を開始し、S7に進む。コントローラ46が積算した尿希釈吐水モード吐水の積算量Wvは、コントローラ46のメモリ等の記憶装置に記憶される。
【0098】
S7において、コントローラ46は、検知センサ44が検知状態を維持したままであるか否かを判定する。コントローラ46は、検知センサ44が検知状態を維持したままである場合には、S8に進む。コントローラ46は、検知センサ44が使用者の使用を検知しなくなった場合には、使用者が排尿を終え、便器本体2の前から立ち去ったと判断して、尿希釈吐水の無駄な消費を抑制し、排水トラップ管路14及び横引配管3を十分に洗浄して以降の尿石の発生を抑制させる本洗浄吐水モードを実行するため、S9に進む。
【0099】
S8において、コントローラ46は、時刻t0から異常使用時間を経過したか否かを判定する。コントローラ46は、異常使用時間を経過している場合には、検知センサ44の故障又は使用者の排尿とは違う便器本体2の使用状態であると判断し、尿希釈吐水モードによる吐水の無駄な消費を抑制するため、S9に進む。コントローラ46は、異常使用時間を経過していない場合には、使用者の排尿が続いていると判断し、使用者の排尿中に尿希釈吐水モードを適切に実行できるように、S7に戻る。
【0100】
S9において、コントローラ46は、尿希釈吐水モードを終了させ、S10に進む。
図10及び
図16に示すように、コントローラ46は、尿希釈吐水モードの終了により、第2の開閉弁36を閉弁させ、洗浄水の第2の給水路22aへの供給を停止する。よって、ノズル部64の第2の吐水口76からの吐水が停止される。
【0101】
図17に示すように、S10において、コントローラ46は、尿希釈吐水モードによる吐水量の積算量Wvへの積算を終了し、S11に進む。
【0102】
S11において、コントローラ46は、本洗浄吐水モードを実行する。
図10及び
図16に示すように、コントローラ46は、本洗浄吐水モードの実行により、まず、第1の開閉弁28に制御信号を送信し、第1の開閉弁28を開弁させる。主給水管16の主給水路16aの洗浄水は、管継手24を経て第1の給水路20aのみに流れる。
つぎに、第1の給水路20aに流れた洗浄水W1は、第1の定流量弁26を通過することにより、比較的高い第1の所定の瞬間流量Q1[リットル/分]に調整され、その後、第1の開閉弁28を通過し、第1の通水路56に流入する。そして、洗浄水W1は、第1の吐水部32の第1の吐水口60に供給される。コントローラ46は、本洗浄吐水モードにおいては、各使用回ごとに0.5[リットル]の吐水流量を吐水するように、第1の開閉弁28を一定時間開弁させる。
【0103】
図7に示すように、第1の吐水口60から吐水された洗浄水W1は、ボウル面48に沿って左右方向に広がるように吐水され、ボウル面48の中央部から左右両端部方向まで広がる水流を形成する。従って、洗浄水W1は、ボウル面48を従来よりも広範囲に洗浄することができる。洗浄水W1は、ボウル面48の左右両側近傍まで広がるととともにボウル部6の外部へ飛び出すことなく下方側に流下する。
【0104】
第1の吐水口60から吐水された洗浄水W1のうちの一部は、棚42に沿って、ボウル面48の前方に向けて導かれながら流下することができる。よって、ボウル面48の前方部分まで洗浄水を到達させてボウル面48を従来よりも広範囲に洗浄することができ、ボウル面48の洗えない部分を低減することができる。
【0105】
ボウル面48を流下した洗浄水W1は、排水口10から排水トラップ管路14内に流入する。洗浄水W1は、この排水トラップ管路14の下流側の横引配管3に向かって流れることにより、排水トラップ管路14や横引配管3内の尿を下流側に排出させる。洗浄水W1は、比較的高い瞬間流量Q1で流れるとともに、排水トラップ管路14内の希釈された尿を新しい洗浄水で置換して、排水トラップ管路14内の洗浄水の尿濃度を比較的大きく低減することができる。コントローラ46が、所定時間が経過した後、第1の開閉弁28を閉弁し、スプレッダ30による吐水動作を停止させて、本洗浄吐水モードの動作を終了させ、S12に進む。
【0106】
S12において、コントローラ46は、検知センサ44が使用者の使用を検知してから始まる各使用回ごとの制御動作を終了し、検知センサ44を待機状態とする。コントローラ46は、再び検知センサ44が使用者の使用を検知した場合にはS0から各使用回毎の制御動作を開始する。
【0107】
<有機物汚れ抑制吐水モードの動作>
つぎに、本発明の一実施形態による小便器1における有機物汚れ抑制吐水モードの動作(作用)について説明する。
図22は、本発明の一実施形態による小便器において、有機物汚れ抑制吐水モードを実行するコントローラの制御動作を示すフローチャートである。
図22において、Sは各ステップを示している。
先ず、
図22に示すように、S20において、コントローラ46は、前回の有機物汚れ抑制吐水モードが実行された時点から一定の所定時間Tのカウントを開始する。
【0108】
S21において、コントローラ46は、S20の時点から所定時間Tが経過したか否かを判定する。コントローラ46は、所定時間Tが経過していない場合には、S21に戻る。コントローラ46は、所定時間Tが経過している場合には、排水トラップ管路14及び横引配管3においてバイオフィルムを発生させる細菌の増殖を抑制するために吐水が有効であると判断して、今回の有機物汚れ抑制吐水モードを実行することを決定し、S22に進む。
【0109】
S22において、コントローラ46は、前回の有機物汚れ抑制吐水モードが実行されてから今回の有機物汚れ抑制吐水モードが実行されることが決定されるまでに尿希釈吐水モードにより吐水された水量の積算量Wvが第1基準水量Ws以上となるか否かを判定する。コントローラ46は、この積算量Wvが第1基準水量Ws以上となる場合には、尿希釈吐水モードで吐水された洗浄水が、排水トラップ管路14及び横引配管3においてバイオフィルムを発生させる細菌の増殖を抑制するような水量で配管内を洗浄していると判断し、S23に進む。コントローラ46は、この積算量Wvが第1基準水量Ws未満となる場合には、有機物汚れ抑制吐水モードの吐水水量を場合に応じて節約できるように、S24に進む。第1基準水量Wsは2リットルに設定されている。
【0110】
S23においては、コントローラ46は、今回の有機物汚れ抑制吐水モードで吐水する水量を、排水トラップ管路14内部の洗浄水を置換するために必要な最小限レベルの水量である置換水量Wmと決定し、この吐水量を吐水する有機物汚れ抑制吐水モードを実行し、S29に進む。
【0111】
図23に示すように、積算量Wvが第1基準水量Ws以上である場合に、積算量Wvが第2基準水量Wuを超えた分や第1基準水量Wsを超えた分の水量が排水トラップ管路14及び横引配管3におけるバイオフィルムを発生させる細菌の増殖の抑制に寄与している。従って、小便器が多く使用されて積算量Wvが比較的多くなり、有機物汚れの形成を抑制できている環境下にあると考えられる。よって、有機物汚れ抑制吐水モードにおいて置換水量Wmの吐水を行い、最低限度として排水トラップ管路内部の洗浄水を置換し、排水トラップ管路14内の有機物汚れの発生をより抑制することができる。また、有機物汚れの発生を抑制できるような水量が、有機物汚れ抑制吐水モードの実行前に流されている環境下にあると考えられるため、置換水量Wmを最低限度に抑制し、積算量Wvと置換水量Wmとの合計水量の増大を抑制し、節水化を図ることができる。置換水量Wmは0.5リットルに設定されているが、0.2リットル~0.5リットルの範囲内に設定されていてもよい。
【0112】
S24において、コントローラ46は、前回の有機物汚れ抑制吐水モードが実行されてから今回の有機物汚れ抑制吐水モードが実行されるまでに尿希釈吐水モードにより吐水された水量の積算量Wvが第2基準水量Wuに満たないか否かを判定する。
コントローラ46は、この積算量Wvが第2基準水量Wuに満たない場合には、尿希釈吐水モードにより吐水された水量が少ないため、排水トラップ管路14及び横引配管3においてバイオフィルムを発生させる細菌の増殖を抑制する一定の水量の吐水が必要であると判断して、S25に進む。
コントローラ46は、この積算量Wvが第2基準水量Wu以上である場合には、有機物汚れ抑制吐水モードの吐水水量を場合に応じて節約できる場合であると判断して、S26に進む。第2基準水量Wuは1リットルに設定されているが、0.5リットル~1.5リットルの範囲内に設定されていてもよい。
【0113】
S25において、コントローラ46は、今回の有機物汚れ抑制吐水モードで吐水する水量を、一定の標準洗浄水量Wiと決定し、この吐水量を吐水する有機物汚れ抑制吐水モードを実行し、S29に進む。標準洗浄水量Wiは1リットルに設定されているが、1.0リットル~2.0リットルの範囲内に設定されていてもよい。
【0114】
図23に示すように、積算量Wvが第2基準水量Wu未満である場合に、使用者が小便器を使用する頻度が少なく、排水トラップ管路14及び横引配管3に流入する尿も少なくなると考えられることから、積算量Wvと標準洗浄水量Wiとの合計を第1基準水量Wsよりも低減させ、合計水量の節水化を図ることができる。これとともに、積算量Wvが第2基準水量Wuよりも不足している分、積算量Wvのみによる排水トラップ管路14及び横引配管3におけるバイオフィルムを発生させる細菌の増殖の抑制に加えて、標準的な洗浄能力を担保した標準洗浄水量Wiにより排水トラップ管路14及び横引配管3を確実に洗浄し、有機物汚れの形成をより確実に抑制することができる。
【0115】
S26において、コントローラ46は、有機物汚れ抑制吐水モードを開始させ、S27に進む。このようにコントローラ46が有機物汚れ抑制吐水モードの動作を開始すると、第1の開閉弁28を開弁し、比較的高い瞬間流量の洗浄水を、排水トラップ管路14及び横引配管に供給する。洗浄水は瞬間流量が比較的高いため排水トラップ管路14及び横引配管内を水かさが上昇した状態で流れる。よって、洗浄水が排水トラップ管路14及び横引配管3内のバイオフィルムを発生させる細菌を洗い流して増殖を抑制するとともに、バイオフィルムを洗い流して低減させる。よって、バイオフィルムを含む有機物汚れの形成を抑制し、排水トラップ管路14及び横引配管3の尿石の付着及び発生を抑制する。
【0116】
S27において、コントローラ46は、積算量Wvと、今回の有機物汚れ抑制吐水モードで吐水した使用水量Wnとの合計が第1基準水量Wsに到達したか否かを判定する。
コントローラ46は、この積算量Wvと、使用水量Wnとの合計が第1基準水量Wsに到達していない場合には、排水トラップ管路14及び横引配管3においてバイオフィルムを発生させる細菌の増殖を抑制しうる第1基準水量Wsに到達していないと判断して、S27に戻って再び判定を行う。
コントローラ46は、この積算量Wvと、使用水量Wnとの合計が第1基準水量Wsに到達した場合には、合計水量が排水トラップ管路14及び横引配管3においてバイオフィルムを発生させる細菌の増殖を抑制しうる水準に達したと判断して、S28に進む。
【0117】
図23に示すように、積算量Wvが第2基準水量Wu以上である場合に、積算量Wvが第2基準水量Wuを超えたことにより、排水トラップ管路14及び横引配管3におけるバイオフィルムを発生させる細菌の増殖の抑制に比較的多く寄与している。従って、使用水量Wnを第1基準水量Wsと積算量Wvとの差によって設定し、使用水量Wnを低減して節水化する。加えて、積算量Wvと使用水量Wnとの合計が第1基準水量Wsを満たすことにより、有機物汚れの発生の抑制の性能を担保することができる。また、積算量Wvが増えた場合においても、積算量Wvと使用水量Wnとの合計水量の増大を抑制することができる。
さらに、積算量Wvが増大するにつれ、この積算量Wvが第1基準水量Wsに到達するまでは、今回の上記有機物汚れ抑制吐水モードで吐水する使用水量Wnを低減させる。よって、積算量Wvが増大された場合においても、有機物汚れの形成を抑制するとともに、積算量Wvと使用水量Wnとの合計水量の増大を抑制することができる。
【0118】
また、有機物汚れ抑制吐水モードの実行により1回分として吐水される水量、例えば置換水量Wm、標準洗浄水量Wi、及び置換水量Wmよりも大きい値の使用水量Wnは、本洗浄吐水モードの1回分の実行により吐水される水量以上の値となっている。
【0119】
図23においては、積算量Wvが第2基準水量Wuであり、有機物汚れ抑制吐水モードで吐水する使用水量Wnが標準洗浄水量Wiとなる基準吐水状態も例示している。積算量Wvが第2基準水量Wuである場合に、この第2基準水量Wuと標準洗浄水量Wiとの合計が第1基準水量Wsとなる。
【0120】
図22に示すように、S28において、コントローラ46は、有機物汚れ抑制吐水モードの実行を終了させ、S29に進む。有機物汚れ抑制吐水モードの実行が終了されるとき、コントローラ46は、第1の開閉弁28を閉弁し、スプレッダ30による吐水動作を停止させる。
S29において、コントローラ46は、所定時間Tのカウントをリセットし、S20に戻って今回の有機物汚れ抑制吐水モードが実行された時点、すなわちこのカウントリセット時点から一定の所定時間Tのカウントを再び開始する。
【0121】
<吐水の瞬間流量と有機物汚れの厚みとの関係>
次に、尿希釈吐水モードにおけるスプレッダ30からの吐水の瞬間流量と、排水トラップ管路14及び横引配管3内に付着する有機物汚れの厚みとの関係について説明する。
図24及び
図25は、本発明の一実施形態における小便器において、尿希釈吐水モードにより吐水される瞬間流量が0[リットル/分]~8.0[リットル/分]まで変化される場合における、排水トラップ管路14内の洗浄水の尿濃度と、排水トラップ管路14を模擬したスライドガラス上に付着した有機物汚れの観察画像とを示す図である。
図26は本発明の一実施形態における小便器において尿希釈吐水モードにより吐水される瞬間流量と、付着した有機物汚れの厚みとの関係を示す図であり、
図27は本発明の一実施形態における小便器において排水トラップ管路内の洗浄水の尿濃度と、付着した有機物汚れの厚みとの関係を示す図である。これらの結果は、本発明の一実施形態における小便器1の排水トラップ管路14及び横引配管3内の有機物汚れの発生を再現するような実験により得られたものである。
【0122】
また、
図28は本発明の一実施形態における小便器において、尿希釈吐水モードの吐水の瞬間流量と、排水トラップ管路内の洗浄水の尿濃度との関係を、節水型の排水トラップ管路及び従来型の排水トラップ管路について示す図であり、
図29は本発明の一実施形態における小便器において、尿希釈吐水モードの吐水の瞬間流量と、排水トラップ管路内の洗浄水の尿濃度との関係を、吐水の瞬間流量が低い領域において、節水型の排水トラップ管路及び従来型の排水トラップ管路について示す図である。
図28においては、尿希釈吐水モードの吐水の瞬間流量と、排水トラップ管路14内の洗浄水の尿濃度との関係の理論値を点線により示している。この理論値は、理論値[%]={使用者の排尿の想定流量/(使用者の排尿の想定流量+尿希釈吐水モードの吐水の瞬間流量)}×100の式により求められる。
図28においては、節水型の排水トラップ管路は120ml程度の容積の排水トラップ管路であり、従来型の排水トラップ管路は700ml程度の容積の排水トラップ管路である。
【0123】
排水トラップ管路14及び横引配管3内の有機物汚れの発生を再現する実験は以下のように行われる。尿の成分(カルシウム、糖等)及びこれらの成分の濃度を試薬で再現した模擬尿と、微生物を培養する際に使用される一般的な液体培地とを、水道水により設定される尿濃度まで希釈する。この設定される尿濃度は、尿希釈吐水モードの吐水の各瞬間流量に対応する。この希釈液に小便器のトラップ内の汚れから採取し、単離培養した環境由来菌の内、バイオフィルム生成能が高い菌株及びウレアーゼ活性が高い菌株をそれぞれ106cfu/mlになるように加える。この液体をシャーレに所定量まで入れ、スライドガラスを浸漬させる。この後、35度の温度に維持するインキュベータでこのシャーレ及び液体を所定期間にわたって保管し、尿石を含む有機物汚れをスライドガラスに付着させる。その後、スライドガラスを自然乾燥させる。このようにして、排水トラップ管路14及び横引配管3に析出すると想定される尿石の種類及び厚み等を分析する。所定期間、例えば4日間、37日間等の経過後、スライドガラスに付着した付着物をレーザー顕微鏡により観察、撮影し、有機物汚れの厚み等を測定している。具体的には、レーザー顕微鏡により有機物汚れのスライドガラス面からの高さを所定長さにわたって測定し、所定長さにおける平均的な高さを算出して有機物汚れの厚みを決定している。
【0124】
図24に示すように、尿希釈吐水モードの吐水の瞬間流量が0[リットル/分](吐水されていない状態)であるとき、排水トラップ管路14内の洗浄水の尿濃度は100%であり、尿のみが存在している。洗浄水の尿濃度が100%の場合において、スライドガラス上に付着した有機物汚れの観察画像によれば、スライドガラス上にはリン酸マグネシウムアンモニウムの尿石が多数析出されていることが分かる。さらに、リン酸カルシウムの尿石も析出されている。
【0125】
尿希釈吐水モードの吐水の瞬間流量が0.05[リットル/分]であるとき、排水トラップ管路14内の洗浄水の尿濃度は90%であり、比較的高い尿濃度となる。このときスライドガラス上に付着した有機物汚れの観察画像によれば、リン酸マグネシウムアンモニウムの尿石が比較的多数析出されていることが分かる。さらに、リン酸カルシウムの尿石も析出されていることが分かる。
【0126】
尿希釈吐水モードの吐水の瞬間流量が0.1[リットル/分]であるとき、排水トラップ管路14内の洗浄水の尿濃度は85%であり、比較的高い尿濃度となる。このときスライドガラス上に付着した有機物汚れの観察画像によれば、リン酸マグネシウムアンモニウムの尿石が比較的多数析出されていることが分かる。さらに、リン酸カルシウムの尿石も析出されていることが分かる。
【0127】
図24、
図26及び
図27に示すように、尿希釈吐水モードの吐水の瞬間流量が0.1[リットル/分]より大きくなるとき、排水トラップ管路14内の洗浄水の尿濃度は85%よりさらに低減される。よって、アンモニアの発生量が少なく抑制され且つpHの上昇が比較的少なく抑制される。このような環境下においては、リン酸マグネシウムアンモニウムの尿石の発生及びリン酸カルシウムの尿石の発生も抑制される。従って、これらの尿石を含む有機物汚れVの厚みが増大することが抑制される。
【0128】
図24、
図26及び
図27に示すように、尿希釈吐水モードの吐水の瞬間流量が0.1[リットル/分]より大きくなるとき、排水トラップ管路14内の洗浄水の尿濃度は85%よりさらに低減される。このようにpHの上昇が抑制され、比較的大きな粒子径を有するリン酸マグネシウムアンモニウムの析出反応よりも、比較的小さな粒子径を有するリン酸カルシウムの析出反応がより増加する(支配的となる)ため、排水トラップ管路14及び横引配管3内に付着する尿石の厚みが増大することが抑制される。従って、このような尿石を含む有機物汚れVの厚みが増大することが抑制される。
【0129】
図26及び
図29に示すように、尿希釈吐水モードの吐水の瞬間流量が0.2[リットル/分]以上であるとき、排水トラップ管路14内の洗浄水の尿濃度は80%前半まで低減される。尿希釈吐水モードの吐水の瞬間流量を0.2リットル/分以上の値まで上昇させることにより、洗浄水の尿濃度を比較的大きく低減させることができる。このように、節水型の排水トラップ14及び横引配管3に流入する洗浄水の尿濃度がより低減される場合には、アンモニアの発生量が少なく抑制され且つpHの上昇が比較的少なく抑制される。このような環境下においては、リン酸マグネシウムアンモニウムの尿石の発生及びリン酸カルシウムの尿石の発生も抑制されている。仮に発生するとしても、pHの上昇がより少なく抑制されているので、リン酸マグネシウムアンモニウムの析出反応よりも、リン酸カルシウムの析出反応がより増加する(支配的となる)ため、排水トラップ管路14及び横引配管3内に付着する尿石の厚みが増大することが抑制される。従って、このような尿石を含む有機物汚れVの厚みが増大することが抑制される。
図26は、尿希釈吐水モードの吐水の瞬間流量が0.2[リットル/分]以上であるとき、有機物汚れVの厚みがさらに大きく低減することを示している。
【0130】
図24、
図26及び
図27に示すように、尿希釈吐水モードの吐水の瞬間流量が0.222[リットル/分]以上であるとき、排水トラップ管路14内の洗浄水の尿濃度は80%以下に低減される。よって、アンモニアの発生量が少なく抑制され且つpHの上昇が比較的少なく抑制される。このような環境下においては、リン酸マグネシウムアンモニウムの尿石の発生及びリン酸カルシウムの尿石の発生が抑制されている。従って、これらの尿石を含む有機物汚れVの厚みが増大することが抑制される。
【0131】
図24、
図26及び
図27に示すように、尿希釈吐水モードの吐水の瞬間流量が0.22[リットル/分]以上であるとき、排水トラップ管路14内の洗浄水の尿濃度は80%以下に低減される。このようにpHの上昇がより抑制され、リン酸マグネシウムアンモニウムの析出反応よりも、リン酸カルシウムの析出反応がより増加する(支配的となる)ため、排水トラップ管路14及び横引配管内に付着する尿石の厚みが増大することがより抑制される。従って、このような尿石を含む有機物汚れVの厚みが増大することがより抑制される。
【0132】
図29に示すように、尿希釈吐水モードの吐水の瞬間流量が0.6[リットル/分]以下であるとき、節水型の排水トラップ管路14内の洗浄水の尿濃度を、理論値とほぼ一致させることができる。尿希釈吐水モードの吐水の瞬間流量が0.6[リットル/分]以下であるとき、排水トラップ管路14内の洗浄水の尿濃度を、約62%まで低減させることができる。
【0133】
図24、
図26及び
図27に示すように、尿希釈吐水モードの吐水の瞬間流量が0.6[リットル/分]以下であるとき、節水型の排水トラップ管路14においても尿希釈吐水モードの吐水により洗浄水の尿濃度が確実に低減されるため、アンモニアの発生量が抑制され、pHの上昇を比較的少なく抑制することができる。よって、節水型の排水トラップ管路14への尿石の発生をより確実に抑制することができる。
また、使用者の使用状態において、節水型の排水トラップ管路14内の洗浄水の尿濃度が確実に低減されるため、アンモニアの発生量が少なく抑制され且つpHの上昇が比較的少なく抑制される。このようにpHの上昇が抑制された環境下においては、リン酸マグネシウムアンモニウムの析出反応よりも、リン酸カルシウムの析出反応が増加するため、排水トラップ管路14及び横引配管内に付着する尿石の厚みが増大することをより確実に抑制することができる。従って、これらの尿石を含む有機物汚れVの厚みが増大することが抑制される。
【0134】
尿希釈吐水モードの吐水の瞬間流量が1.5[リットル/分]以下であるとき、尿希釈吐水モードによる吐水の瞬間流量と、使用者の排尿において想定される瞬間流量のばらつきの上限とが比較的近い値となる。
図28に示すように、このような尿希釈吐水モードによる吐水の瞬間流量によれば、排水トラップ管路14及び横引配管に流入する洗浄水の尿濃度を、50%程度まで低下させることが可能となる。
図27に示すように、排水トラップ管路14内の洗浄水の尿濃度が、50%程度まで低下するとき、100%の場合と比べて有機物汚れの厚みを約6μmまでほぼ半減させることができる。よって、尿石の発生をより抑制することができる。
【0135】
図28に示すように、仮に尿希釈吐水モードが2.0[リットル/分]を超える瞬間流量により吐水を行った場合には、排水トラップ管路14の容積によらず、排水トラップ管路14及び横引配管3に流入する洗浄水の尿濃度は、使用者の排尿の瞬間流量を、この排尿の瞬間流量に尿希釈吐水モードの吐水の瞬間流量を加えた値で除して求められる理論値の値となる。2.0[リットル/分]以上の瞬間流量においては、節水型の排水トラップ管路14及び従来の排水トラップ管路のいずれも、洗浄水の尿濃度が理論値とほぼ一致する結果となっている。節水型の排水トラップ管路14における尿濃度の低減に必要な瞬間流量を超えて、節水型の排水トラップ管路14及び従来の排水トラップ管路14によらず尿濃度が決まる程度まで瞬間流量を上昇させれば、必要以上に洗浄水を消費する。このように、尿希釈吐水モードが2.0[リットル/分]を超える瞬間流量により吐水を行った場合には、節水型の排水トラップ管路14内において尿濃度を低減させるために必要な瞬間流量を超えて吐水し、無駄水を生じることになる。従って、尿希釈吐水モードが2.0[リットル/分]以下となる瞬間流量により吐水を行うことにより、節水型の排水トラップ管路14内において尿濃度を有効に低減させるために有効な瞬間流量を超えて吐水する無駄水を削減することができる。
【0136】
図24、
図26及び
図27に示すように、尿希釈吐水モードの吐水の瞬間流量が3.60[リットル/分]より大きいとき、排水トラップ管路14内の洗浄水の尿濃度は20%より小さい値に低減される。よって、アンモニアの発生量が非常に少なく抑制され且つpHの上昇が抑制される。このような環境下においては、リン酸マグネシウムアンモニウムの尿石の発生及びリン酸カルシウムの尿石の発生も抑制されている。従って、これらの尿石を含む有機物汚れVの厚みが増大することが抑制される。
図26に示すように、この瞬間流量が3.60[リットル/分]より大きいとき、有機物汚れVの厚みは、1.0μmより小さくなっている。また、
図27に示すように、洗浄水の尿濃度が20%より小さくなるとき、有機物汚れVの厚みは、1.0μmより小さくなっている。
【0137】
図24、
図26及び
図27に示すように、尿希釈吐水モードの吐水の瞬間流量が3.60[リットル/分]以下であるとき、排水トラップ管路14内の洗浄水の尿濃度は20%以上である。ここで、
図28に示すように、仮に尿希釈吐水モードの吐水の瞬間流量を3.60[リットル/分]を超えるように増加させても、排水トラップ管路14内の洗浄水の尿濃度は約20%より小さい比較的低い値のまま低減されにくくなる。このとき、排水トラップ管路14内の洗浄水の尿濃度は約20%より小さい所定の濃度まで低減されており、アンモニアの発生量も低減され、洗浄水のpHが中性近傍まで低減された状態となっている。よって、尿希釈吐水モードの吐水の瞬間流量を3.60[リットル/分]を超えるように増加させても、瞬間流量の増大が洗浄水のpHの低下に寄与しにくくなり、pHの低下に寄与しにくい無駄水を消費してしまう可能性がある。そこで、尿希釈吐水モードの吐水の瞬間流量を、3.60[リットル/分]以下にすることより、尿希釈吐水モードにおける無駄水の消費を防ぎ、吐水量の増大を抑制することができる。
【0138】
図27に示すように、尿希釈吐水モードの吐水により排水トラップ管路14内の洗浄水の尿濃度を、20%~80%の範囲内とするので、排水トラップ管路14及び横引配管3に流入する洗浄水の尿濃度が低減される。よって、アンモニアの発生量が抑制され、pHの上昇を比較的少なく抑制することができ、尿石の発生を抑制することができる。従って、尿石を含む有機物汚れの厚みを抑制することができる。
また、尿希釈吐水モードの吐水により排水トラップ管路14及び横引配管内の洗浄水の尿濃度が20%~80%の範囲内に低減されるため、アンモニアの発生量が少なく抑制され且つpHの上昇が比較的少なく抑制される。このようにpHの上昇が抑制された環境下においては、リン酸マグネシウムアンモニウムの析出反応よりも、リン酸カルシウムの析出反応が支配的となるため、排水トラップ管路14及び横引配管内に付着する尿石の厚みが増大することを抑制することができる。従って、尿石を含む有機物汚れの厚みを抑制することができる。
【0139】
図27に示すように、尿希釈吐水モードの吐水により排水トラップ管路14内の洗浄水の尿濃度を、20%~60%の範囲内とするので、排水トラップ管路14及び横引配管3に流入する洗浄水の尿濃度がより低減される。よって、アンモニアの発生量が抑制され、pHの上昇を比較的少なく抑制することができ、尿石の発生をより抑制することができる。従って、尿石を含む有機物汚れの厚みをより抑制することができる。
また、尿希釈吐水モードの吐水により排水トラップ管路14及び横引配管内の洗浄水の尿濃度が20%~60%の範囲内に低減されるため、アンモニアの発生量が少なく抑制され且つpHの上昇が比較的少なく抑制される。このようにpHの上昇が抑制された環境下においては、リン酸マグネシウムアンモニウムの析出反応よりも、リン酸カルシウムの析出反応が支配的となるため、排水トラップ管路14及び横引配管3内に付着する尿石の厚みが増大することをより抑制することができる。従って、尿石を含む有機物汚れの厚みをより抑制することができる。
【0140】
次に、
図30及び
図31により、尿希釈吐水モードの吐水により排水トラップ管路14及び横引配管3内に残る洗浄水の尿濃度を低減できる作用について説明する。
図30(a)~(d)は、比較例の尿希釈吐水モードが行われない小便器において、使用者が排尿し且つ本洗浄吐水モードが行われた後、横引配管内に残存する洗浄水の状態を説明する図である。
図31(a)~(d)は、本発明の一実施形態における小便器において、使用者が排尿する際に尿希釈吐水モードが実行され、且つ排尿後に本洗浄吐水モードが行われ、その後の横引配管内に残存する洗浄水の状態を説明する図である。
【0141】
図30(a)に示すように、比較例として尿希釈吐水モードが行われない小便器において、使用者が排尿するとき、使用者の尿が排水トラップ管路14及び横引配管3に流れる状態を説明する図である。排水トラップ管路14の容量が小さい節水型の排水トラップ管路においては、使用者の尿が尿濃度が高い状態でほぼそのまま排水トラップ管路14を置換し、横引配管3に流れる。
【0142】
図30(b)に示すように、本洗浄吐水モードの実行が開始されると、洗浄水が排水トラップ管路14及び横引配管3に流入する。このとき、横引配管3における排水トラップ管路14との合流部分よりも上流側に、尿濃度が高い洗浄水がわずかに逆流するように流入する。
【0143】
図30(c)に示すように、本洗浄吐水モードの実行中にも横引配管3における排水トラップ管路14との合流部分よりも上流側において、尿濃度が高い洗浄水が残存する場合がある。
【0144】
図30(d)に示すように、本洗浄吐水モードの実行終了後に、排水トラップ管路14との合流部分よりも上流側に残存していた尿濃度が高い洗浄水が横引配管3内に流出し且つ残存する場合がある。このとき、横引配管3内に尿濃度が高い洗浄水が残存するので、横引配管3内に尿石を生じさせやすくなる。また、比較的大きな粒子径を有するリン酸マグネシウムアンモニウムを析出させやすくなる。よって横引配管3内に付着する尿石の厚みが増大する可能性がある。
【0145】
これに対し、
図31(a)に示すように、本発明の一実施形態における小便器においては、使用者が排尿する際に尿希釈吐水モードが実行されている。尿希釈吐水モードの吐水により使用者の排尿が希釈されている。低減された尿濃度の洗浄水が排水トラップ管路14及び横引配管3に流入している。
【0146】
図31(b)に示すように、本洗浄吐水モードの実行が開始されると、洗浄水が排水トラップ管路14及び横引配管3に流入する。開始時点において、排水トラップ管路14内の洗浄水の尿濃度がすでに低減されている。よって、横引配管3における排水トラップ管路14との合流部分よりも上流側に、尿濃度が低い洗浄水がわずかに逆流するように流入する。
【0147】
図31(c)に示すように、本洗浄吐水モードの実行中にも横引配管3における排水トラップ管路14との合流部分よりも上流側において、洗浄水が残存したとしても、洗浄水の尿濃度は低くなっている。
【0148】
図31(d)に示すように、本洗浄吐水モードの実行終了後に、排水トラップ管路14との合流部分よりも上流側に残存していた尿濃度が低い洗浄水が横引配管3内に流出し且つ残存する場合がある。このとき、横引配管3内に尿濃度が低い洗浄水が残存したとしても、横引配管3内に尿石を生じにくくすることができる。このように尿希釈吐水モードにより本洗浄後に横引配管3内に残存する洗浄水の尿濃度を低減させることができる。また、仮に尿石が発生したとしても、比較的小さな粒子径を有するリン酸カルシウムの析出反応が支配的となる。よって横引配管3内に付着する尿石の厚みが増大することを抑制することができる。
【0149】
上述した本発明の一実施形態による小便器1によれば、有機物汚れ抑制吐水モードを実行することにより、排水トラップ管路14及び横引配管3においてバイオフィルムを発生させる細菌の増殖を抑制し、バイオフィルムを含む有機物汚れの形成を抑制することができる。また、仮に、バイオフィルムを含む有機物汚れが排水トラップ管路14及び横引配管3内に形成されたとしても、本発明によれば、有機物汚れ抑制吐水モードを実行することにより、有機物汚れを設定されたスケジュールに基づいて洗浄することができる。
さらに、仮に、バイオフィルムを含む有機物汚れが排水トラップ管路14及び横引配管3内に形成されたとしても、本発明によれば、尿希釈吐水モードを実行することにより、排尿がされてから本洗浄吐水モードが実行されるまでの排水トラップ管路14及び横引配管3内の洗浄水の尿濃度を低下させることができる。よって、本発明によれば、洗浄水中の尿が有機物汚れにより比較的短時間で尿石を生じさせることを抑制することができる。
さらに、本発明によれば、尿希釈吐水モードが実行されることにより、本洗浄吐水モードが実行されるときに排水トラップ管路14内の洗浄水の尿濃度が尿の希釈により低下されている。よって、本洗浄吐水モードの実行により、この実行時点の排水トラップ管路14内の洗浄水中の尿が横引配管3の上流側に流れる場合においても、横引配管3内に残存する洗浄水の尿濃度が低減され、洗浄水中の尿が尿石を生じさせることを抑制することができる。
従って、本発明によれば、有機物汚れ抑制吐水モードと尿希釈吐水モードを組合せることにより、洗浄水中の尿が排水トラップ管路14及び横引配管3内においてバイオフィルムを含む有機物汚れにより尿石を生じさせることを抑制することができる。
【0150】
さらに、本実施形態による小便器1によれば、尿希釈吐水モードにおいて、排尿中の排水トラップ管路14内の尿が横引配管3に流入するとき、この流入の瞬間流量が比較的小さいことによりこの尿が横引配管3の上流側に逆流するように流れてしまうことを抑制することができる。これにより、横引配管3の上流側に尿石が生じることを抑制することができる。また、有機物汚れ抑制吐水モードにおける吐水の瞬間流量は尿希釈吐水モードにおける吐水の瞬間流量よりも高くなるので、有機物汚れ抑制吐水モードにおける吐水により横引配管3を比較的広範囲に確実に洗浄することができる。よって、有機物汚れ抑制吐水モードと尿希釈吐水モードを組合せることにより、洗浄水中の尿が横引配管3内においてバイオフィルムを含む有機物汚れにより尿石を生じさせることをより抑制することができる。
【0151】
また、本実施形態による小便器1によれば、本洗浄吐水モードにおける吐水の瞬間流量はボウル面48の洗浄性能を確保できる程度の流量が望ましい。一方で、尿希釈吐水モードにおける吐水の瞬間流量を本洗浄吐水モードにおける吐水の瞬間流量よりも大きくしたとしても、尿濃度の低下に寄与しにくくなる。よって、本発明によれば、本洗浄吐水モードにおけるボウル面48の洗浄性能を確保するとともに、尿希釈吐水モードに使用する洗浄水の無駄使いを抑制することができる。
【0152】
さらに、本実施形態による小便器1によれば、本洗浄吐水モードと有機物汚れ抑制吐水モードと尿希釈吐水モードとを組合せて吐水する場合において、使用者の使用回数によって増加する尿希釈吐水モードとで吐水した流量に対し、全ての吐水モードの合計の吐水流量の増大を抑制しようとすると、例えば有機物汚れ抑制吐水モードで吐水する水量の低減によって調整することとなる。このとき、有機物汚れ抑制吐水モードの実行により1回分として吐水される水量を本洗浄吐水モードの実行により1回分として吐水される水量以上とする。これにより、本発明によれば、有機物汚れ抑制吐水モードにおいて横引配管3内に流入した洗浄水の水位は本洗浄吐水モードにおいて横引配管3内に流入した洗浄水の水位より高くなるため、実行頻度が有機物汚れ抑制吐水モードの実行頻度よりも高い本洗浄吐水モードの実行時に横引配管3の水位面付近に発生したバイオフィルムを含む有機物汚れを有機物汚れ吐水モードによって洗い流すことができる。従って、本発明によれば、横引配管3において洗浄水中の尿が有機物汚れにより比較的短時間で尿石を生じさせることをより抑制することができる。
【0153】
さらに、本実施形態による小便器1によれば、人体を検知している間に実行される尿希釈吐水モードの実行時間が比較的長く、尿希釈吐水モードで吐水した水量が比較的多い場合においても、尿希釈吐水モードにより吐水された水量の積算量Wvと、今回の有機物汚れ抑制吐水モードで吐水した水量との合計が第1基準水量Wsに到達したとき、有機物汚れ抑制吐水モードは終了される。よって、本発明によれば、人体を検知している時間が長い場合においては、尿希釈吐水モードで吐水した水量が比較的多くなるため、尿希釈吐水モードで吐水された洗浄水の一部がバイオフィルムの形成を抑制するように機能でき、有機物汚れ抑制吐水モードで吐水する水量が抑制され、小便器で使用される洗浄水のトータル水量の増加を抑制できる。
【0154】
また、本実施形態による小便器1によれば、人体を検知している間に実行される尿希釈吐水モードの実行時間が比較的長く、前回の有機物汚れ抑制吐水モードが実行されてから今回の有機物汚れ抑制吐水モードが実行されるまでに尿希釈吐水モードにより吐水された水量の積算量Wvが第1基準水量Ws以上となる場合においては、尿希釈吐水モードで吐水された洗浄水がバイオフィルムの形成を抑制するように機能できる。よって、本発明によれば、有機物汚れ抑制吐水モードで吐水する水量が排水トラップ管路14内部を置換する置換水量に抑制されるとともに、有機物汚れ抑制吐水モードにより吐水された洗浄水が少なくとも排水トラップ管路14内部を置換し、排水トラップ管路14におけるバイオフィルムを含む有機物汚れの形成をより抑制することができる。
【0155】
また、本実施形態による小便器1によれば、人体を検知している間に実行される尿希釈吐水モードの実行時間が比較的短く、前回の有機物汚れ抑制吐水モードが実行されてから今回の有機物汚れ抑制吐水モードが実行されるまでに尿希釈吐水モードにより吐水された水量の積算量Wvが第2基準水量Wuに満たない。このような場合においても、今回の上記有機物汚れ抑制吐水モードにおいて一定の水量により排水トラップ管路14及び横引配管3を確実に洗浄し、バイオフィルムを含む有機物汚れの形成をより確実に抑制することができる。
また、今回の有機物汚れ抑制吐水モードで吐水する水量を、一定の水量としたとしても、尿希釈吐水モードにより吐水された水量の積算量Wvが第2基準水量Wuに満たないので、小便器で使用される洗浄水のトータル水量の増加を抑制することができる。
【0156】
また、本実施形態による小便器1によれば、ドップラー式のセンサにより人体の検知だけでなく尿流の検知も可能となるため、ボウル面48への排尿の有無をより正確に特定することができる。
【符号の説明】
【0157】
1 小便器
2 便器本体
3 横引配管
4 自動洗浄ユニット
5 縦排水管
6 ボウル部
7 前面
8 収納室
10 排水口
12 目皿
14 排水トラップ管路
15 排水ソケット
16 主給水管
16a 主給水路
18 止水栓
20 給水管
20a 給水路
22 給水管
22a 給水路
24 管継手
26 第1の定流量弁
28 開閉弁
30 スプレッダ
32 吐水部
34 第2の定流量弁
36 開閉弁
38 吐水部
40 逆止弁
42 棚
42 電解除菌水ユニット
44 検知センサ
46 コントローラ
48 ボウル面
48a 正面部
48b 左側端部
48c 右側端部
48d 上端
48f 先端
48j 直線部分
50 外装カバー
52 スプレッダ本体部
52a 取付穴
54 ノズル部材
56 通水路
56a 上流側通水路
56b 下流側通水路
58 通水路
60 吐水口
62 取付部
64 ノズル部
68 通水路
72 通水路
76 第2の吐水口
A 所定幅
B 幅広流
C 幅狭流
D 左右方向中心線
E 時間
F 最小幅
G 吐水口幅
H 左右方向中心領域
K 床面
L 強制洗浄時間
L1 距離
L2 距離
L3 距離
L4 距離
M 尿濃度
P 待機時間
Q 使用確定時間
Q1 瞬間流量
Q2 瞬間流量
R1 曲率半径
R2 曲率半径
R3 曲率半径
R4 曲率半径
T 所定時間
U 尿石
W 壁面
W1 洗浄水
W2 洗浄水
Wi 標準洗浄水量
Wm 置換水量
Wn 使用水量
Ws 第1基準水量
Wu 第2基準水量
Wv 積算量
X 細菌
Y 環境領域
Z ウレアーゼ酵素