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  • 特許-溶出制御型肥料 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-07
(45)【発行日】2022-01-21
(54)【発明の名称】溶出制御型肥料
(51)【国際特許分類】
   C05G 3/40 20200101AFI20220114BHJP
   C05G 5/35 20200101ALI20220114BHJP
【FI】
C05G3/40
C05G5/35
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020530948
(86)(22)【出願日】2019-03-18
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-02-18
(86)【国際出願番号】 KR2019003121
(87)【国際公開番号】W WO2019190104
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2020-06-05
(31)【優先権主張番号】10-2018-0035997
(32)【優先日】2018-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2019-0027740
(32)【優先日】2019-03-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】517211447
【氏名又は名称】ファームハンノン・カンパニー・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】FARMHANNONG CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100122161
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 崇
(72)【発明者】
【氏名】チャンジュン・キム
(72)【発明者】
【氏名】サンリョ・イ
(72)【発明者】
【氏名】ジュン・ソク・イ
(72)【発明者】
【氏名】イル・ジャン
(72)【発明者】
【氏名】ジ・ヨン・キム
(72)【発明者】
【氏名】ジェ・フン・チェ
【審査官】厚田 一拓
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-342095(JP,A)
【文献】特開2004-273087(JP,A)
【文献】特開2003-192848(JP,A)
【文献】特開平05-093022(JP,A)
【文献】特開2001-232122(JP,A)
【文献】特表2011-526973(JP,A)
【文献】特開2004-089178(JP,A)
【文献】特開2001-348498(JP,A)
【文献】特開2001-288295(JP,A)
【文献】韓国公開実用新案第20-2012-0003398(KR,U)
【文献】中国特許出願公開第104804141(CN,A)
【文献】国際公開第1998/026115(WO,A1)
【文献】特表2013-519800(JP,A)
【文献】特開2001-031489(JP,A)
【文献】特開平11-043391(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C05B 1/00 - 21/00
C05C 1/00 - 13/00
C05D 1/00 - 11/00
C05F 1/00 - 17/993
C05G 1/00 - 5/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィンおよびエチレンビニルアセテート共重合体を含むバインダー樹脂;および炭素数1~10のアルキレングリコール繰り返し単位を含む(メタ)アクリレート化合物が無機微細粒子の凝集体の表面または内部に結合した光触媒複合体;を含む光分解性カプセルと、
前記光分解性カプセルに囲まれた空間に含まれている肥料とを含み、
前記無機微細粒子は、二酸化チタン(TiO )、酸化亜鉛(ZnO)、またはこれらの混合物である、溶出制御型肥料。
【請求項2】
300nm~800nmの波長の光を400w/mの強度で224時間照射時、前記光分解性カプセルの重量変化から導出される前記バインダー樹脂の分解率が35%以上である、請求項1に記載の溶出制御型肥料。
【請求項3】
前記無機微細粒子は、5~50nmの断面直径を有する一次粒子を含む、請求項1または2に記載の溶出制御型肥料。
【請求項4】
前記無機微細粒子の凝集体は、1μm以下の断面直径を有する、請求項1から3のいずれか一項に記載の溶出制御型肥料。
【請求項5】
前記無機微細粒子の凝集体は、0.05μm~0.5μmの断面直径を有する、請求項1から4のいずれか一項に記載の溶出制御型肥料。
【請求項6】
前記光触媒複合体は、前記無機微細粒子の凝集体100重量部対比、前記炭素数1~10のアルキレングリコール繰り返し単位を含む(メタ)アクリレート化合物1~500重量部を含む、請求項1からのいずれか一項に記載の溶出制御型肥料。
【請求項7】
前記バインダー樹脂100重量部対比、前記無機微細粒子の凝集体0.1~8重量部を含む、請求項1からのいずれか一項に記載の溶出制御型肥料。
【請求項8】
前記バインダー樹脂中、前記ポリオレフィン:エチレンビニルアセテート共重合体の重量比は、1:1~6:1である、請求項1からのいずれか一項に記載の溶出制御型肥料。
【請求項9】
前記ポリオレフィンは、高密度または低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、ポリブテン、ブテン-エチレン共重合体、およびブテン-プロピレン共重合体からなる群より選択される1つ以上である、請求項1からのいずれか一項に記載の溶出制御型肥料。
【請求項10】
前記エチレンビニルアセテート共重合体は、ビニルアセテート繰り返し単位1重量%~45重量%を含む、請求項1からのいずれか一項に記載の溶出制御型肥料。
【請求項11】
前記炭素数1~10のアルキレングリコール繰り返し単位を含む(メタ)アクリレート化合物は、100~2,000の数平均分子量を有するポリアルキレングリコールが結合した(メタ)アクリレート、ジ(メタ)アクリレートまたはこれらのエステル;および炭素数1~10のアルキレングリコール繰り返し単位を含む3官能~8官能(メタ)アクリレートまたはこれらのエステル;からなる群より選択された1種以上を含む、請求項1から10のいずれか一項に記載の溶出制御型肥料。
【請求項12】
前記100~2,000の数平均分子量を有するポリアルキレングリコールが結合した(メタ)アクリレート、ジ(メタ)アクリレートまたはこれらのエステルは、ポリ(エチレングリコール)(メタ)アクリレート、またはポリ(エチレングリコール)メチルエーテル(メタ)アクリレートであり、
前記炭素数1~10のアルキレングリコール繰り返し単位を含む3官能~8官能(メタ)アクリレートまたはこれらのエステルは、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパンエトキシレートトリアクリレート、トリメチロールプロパンプロポキシレートトリアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタエリスリトールエトキシレートテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、またはジペンタエリスリトールヘキサアクリレートである、請求項11に記載の溶出制御型肥料。
【請求項13】
前記バインダー樹脂に分散するフィラーをさらに含む、請求項1から12のいずれか一項に記載の溶出制御型肥料。
【請求項14】
粒状の肥料である、請求項1から13のいずれか一項に記載の溶出制御型肥料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願との相互参照
本出願は、2018年3月28日付の韓国特許出願第10-2018-0035997号および2019年3月11日付の韓国特許出願第10-2019-0027740号に基づく優先権の利益を主張し、当該韓国特許出願の文献に開示されたすべての内容は本明細書の一部として含まれる。
【0002】
本発明は、溶出制御型肥料に関し、より詳しくは、水分に対する高い安定性と強固な構造を有し、肥料の溶出期間を容易に調節可能であり、同時に、優れた光分解効率を実現できる溶出制御型肥料に関する。
【背景技術】
【0003】
施肥の省力化あるいは植物の生育に伴う肥料の効果を発現させる目的で各種溶出制御型肥料が開発されている。
【0004】
このような溶出制御型肥料(Controlled release fertilizers、CRF)は、窒素・リン・カリウムなどの肥料成分が長い間徐々に作物に供給される。水に入れて散布したり粉末形態で撒くような既存の肥料は、通常1回撒くと効果が20日以上持続しにくい。雨に洗い流されたり、地中深くに滲み込んで作物が肥料成分を吸収しにくいからであるが、このような問題点から、肥料を過剰かつ頻繁に撒かざるを得なかった。
【0005】
溶出制御型肥料は、このような一般肥料の欠点を補完するために、高分子カプセルで肥料成分の放出速度を低下させて長期間放出されるようにする。高分子カプセルは、オレフィン系樹脂、ウレタン系樹脂、ラテックス、アクリル樹脂などで作られ、カプセルを通して水蒸気が浸透しながら肥料成分が溶けた後、浸透圧原理によってカプセルを透過して放出される。カプセルをどのような成分で、どれほどの厚さに作るかによって、水と肥料成分の浸透速度が異なる。これを利用して肥料成分が外部に出る速度を制御することができる。肥料成分がカプセルから放出される期間は、最低30日から最大2年まで調節することができる。しかし、肥料放出後、カプセル高分子は分解されずに土壌や河川に残ってしまう問題がある。
【0006】
この問題を解決するために、生分解性高分子をカプセル素材として用いようとする試みが行われてきたが、生分解性高分子は、水分の浸透が速く、一ヶ月から6ヶ月の間に微生物によって分解されるため、肥料成分が最低1ヶ月から2年にわたって放出されなければならない溶出制御型肥料への使用には好適でなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、水分に対する高い安定性と強固な構造を有し、肥料の溶出期間を容易に調節可能であり、同時に、優れた光分解効率を実現できる溶出制御型肥料を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本明細書では、ポリオレフィンおよびエチレンビニルアセテート共重合体を含むバインダー樹脂;および炭素数1~10のアルキレングリコール繰り返し単位を含む(メタ)アクリレート化合物が無機微細粒子の凝集体の表面または内部に結合した光触媒複合体;を含む光分解性カプセルと、前記光分解性カプセルに囲まれた空間に含まれている肥料とを含む、溶出制御型肥料が提供される。
【0009】
以下、発明の具体的な実施形態による溶出制御型肥料に関してより詳しく説明する。
【0010】
発明の一実施形態によれば、ポリオレフィンおよびエチレンビニルアセテート共重合体を含むバインダー樹脂;および炭素数1~10のアルキレングリコール繰り返し単位を含む(メタ)アクリレート化合物が無機微細粒子の凝集体の表面または内部に結合した光触媒複合体;を含む光分解性カプセルと、前記光分解性カプセルに囲まれた空間に含まれている肥料とを含む、溶出制御型肥料が提供される。
【0011】
本発明者らは、ポリオレフィンおよびエチレンビニルアセテート共重合体を含むバインダー樹脂と共に、上述した光触媒複合体を含む光分解性カプセルが形成された溶出制御型肥料が、水分に対する高い安定性と強固な構造を有し、肥料の溶出期間を容易に調節可能であり、同時に、優れた光分解効率を実現できるという点を、実験を通して確認して、発明を完成した。
【0012】
上述した溶出制御型肥料の特徴は、前記光触媒複合体を上述したバインダー樹脂に均一に分散させることによるものでもある。具体的には、前記炭素数1~10のアルキレングリコール繰り返し単位を含む(メタ)アクリレート化合物が無機微細粒子の凝集体の表面または内部に結合することによって、前記溶出制御型肥料の製造過程や前記溶出制御型肥料内で前記無機微細粒子が均一に分散可能であり、これにより、前記無機微細粒子の凝集体はそれほど大きくない粒径を有することができる。
【0013】
このように前記無機微細粒子の凝集体がそれほど大きくない粒径を有しかつ前記バインダー樹脂に均一に分散して、前記光分解性カプセルが露光した時、局地的に光分解反応が起こって光分解効率が低下する現象を防止することができ、光分解性カプセルが土壌に残留しないようにすることができる。
【0014】
前記溶出制御型肥料の特徴は、前記無機微細粒子の凝集体の表面または内部に前記炭素数1~10のアルキレングリコール繰り返し単位を含む(メタ)アクリレート化合物が結合することによるものであってもよい。つまり、前記炭素数1~10のアルキレングリコール繰り返し単位を含む(メタ)アクリレート化合物が前記無機微細粒子の凝集体の表面または内部に結合することによって、前記無機微細粒子の凝集体の成長を調節することができ、また、前記(メタ)アクリレート化合物の特性上、前記バインダー樹脂と高い相溶性を有して前記光触媒複合体を前記バインダー樹脂に均一に分布させることができる。
【0015】
上述のように、前記溶出制御型肥料は、優れた光分解効率を実現することができる。より具体的には、300nm~800nmの波長の光を400w/mの強度で224時間照射時、前記光分解性カプセルの重量変化から導出される前記バインダー樹脂の分解率が35%以上、または40%以上であってもよい。
【0016】
前記無機微細粒子は、光触媒の役割を果たすことができる。前記実施形態の溶出制御型肥料は、光分解性カプセルが土壌に残留する問題を解決するために、前記バインダー樹脂に前記光触媒複合体を均一に分散することを特徴とする。前記光触媒複合体は、光を受ける間にのみ触媒として作用するので、光が遮断される土壌内で肥料が放出される間には光分解性カプセルが分解されない状態で溶出期間徐々に肥料を放出する。そして、肥料が溶出した後、前記溶出制御型肥料が畑耕しなどで表土に露出すると、光によって前記光分解性カプセルが分解できる。
【0017】
前記無機微細粒子は、5~50nmの断面直径を有する一次粒子を含むことができる。前記無機微細粒子の一次粒子の断面直径は、通常知られた方法、例えば、TEM写真を通した確認や、BET測定などにより確認することができる。
【0018】
前記無機微細粒子に含まれる一次粒子の断面直径が小さすぎると、結晶化度が低くなって光触媒効率が低下することがある。また、前記無機微細粒子に含まれる一次粒子の断面直径が大きすぎると、光触媒粒子の比表面積が低くなって光触媒効率が低下することがある。
【0019】
一方、前記実施形態の溶出制御型肥料に含まれる前記無機微細粒子の凝集体がそれほど大きくない粒径を有することができるが、具体的には、前記無機微細粒子の凝集体は、1μm以下の断面直径、または0.05μm~0.5μmの断面直径を有することができる。前記無機微細粒子の凝集体の断面直径も、直径は通常知られた方法、例えば、SEMまたはTEM microtomeを通して確認することができる。
【0020】
前記無機微細粒子の凝集体の断面直径または全体的な大きさが大きすぎると、前記光分解性カプセルで局地的な光分解反応が起こったり、または光分解反応の効率が低下することがあり、非効率的な光分解反応によって光分解性カプセル全体が分解されずに残留物が残ることがある。
【0021】
前記無機微細粒子の具体例としては、二酸化チタン(TiO)、酸化亜鉛(ZnO)、またはこれらの混合物が挙げられる。
【0022】
一方、前記バインダー樹脂は、前記光分解性カプセルの外部構造を形成する主な材料であってもよいし、上述のように、前記バインダー樹脂は、ポリオレフィンおよびエチレンビニルアセテート共重合体を含むことができる。
【0023】
前記ポリオレフィンの例が大きく限定されるものではないが、例えば、高密度または低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、ポリブテン、ブテン-エチレン共重合体、ブテン-プロピレン共重合体、これらの2種以上の混合物またはこれらの2種以上の共重合体を含むことができる。
【0024】
前記バインダー樹脂に含まれるエチレンビニルアセテート共重合体も大きく限定されるものではないが、例えば、ビニルアセテート繰り返し単位1重量%~45重量%を含むエチレンビニルアセテート共重合体を使用することができる。
【0025】
また、前記エチレンビニルアセテート共重合体は、ASTM D1238により、190℃および2.16kg荷重で測定した溶融指数が0.5g/10min~5.0g/10min、または1.0g/10min~3.0g/10minであってもよい。
【0026】
前記バインダー樹脂に含まれるポリオレフィンおよびエチレンビニルアセテート共重合体間の重量比が大きく限定されるものではないが、例えば、前記バインダー樹脂は、ポリオレフィン:エチレンビニルアセテート共重合体を1:1~6:1の重量比で含むことができる。前記のように、前記バインダー樹脂がポリオレフィン樹脂をエチレンビニルアセテート共重合体と同等であるか、より多く含むことによって、肥料の溶出速度をより容易に調節することができる。
【0027】
一方、前記光触媒複合体は、炭素数1~10のアルキレングリコール繰り返し単位を含む(メタ)アクリレート化合物が無機微細粒子の凝集体の表面または内部に結合した構造を有することができる。
【0028】
上述のように、前記無機微細粒子の凝集体は、光触媒の役割を果たすことができ、前記溶出制御型肥料が土壌の表面などに露出すると、光分解性カプセルで光分解反応を開始可能にする。
【0029】
前記炭素数1~10のアルキレングリコール繰り返し単位を含む(メタ)アクリレート化合物は、前記無機微細粒子の凝集体の表面または内部に結合するが、これにより、前記無機微細粒子の凝集体の大きさが過度に成長するのを防止し、前記バインダー樹脂とより高い相溶性を有するようにして、前記光触媒複合体を前記バインダー樹脂に均一に分布させる。
【0030】
前記炭素数1~10のアルキレングリコール繰り返し単位を含む(メタ)アクリレート化合物は、1)100~2,000の数平均分子量を有するポリアルキレングリコールが結合した(メタ)アクリレート、ジ(メタ)アクリレートまたはこれらのエステル;2)炭素数1~10のアルキレングリコール繰り返し単位を含む3官能~8官能(メタ)アクリレートまたはこれらのエステル;またはこれらの2種以上の混合物や共重合体であってもよい。
【0031】
より具体的には、前記100~2,000の数平均分子量を有するポリアルキレングリコールが結合した(メタ)アクリレート、ジ(メタ)アクリレートまたはこれらのエステルは、ポリ(エチレングリコール)(メタ)アクリレートまたはポリ(エチレングリコール)メチルエーテル(メタ)アクリレートであってもよい。
【0032】
また、前記炭素数1~10のアルキレングリコール繰り返し単位を含む3官能~8官能(メタ)アクリレートまたはこれらのエステルは、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパンエトキシレートトリアクリレート、トリメチロールプロパンプロポキシレートトリアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタエリスリトールエトキシレートテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、またはジペンタエリスリトールヘキサアクリレートであってもよい。
【0033】
前記光触媒複合体における前記無機微細粒子の凝集体と前記炭素数1~10のアルキレングリコール繰り返し単位を含む(メタ)アクリレート化合物の重量比が大きく限定されるものではなく、前記溶出制御型肥料の特性によって前記有機溶媒に分散する量を調節して前記重量比なども調節可能である。例えば、前記光触媒複合体は、前記無機微細粒子の凝集体100重量部対比、前記炭素数1~10のアルキレングリコール繰り返し単位を含む(メタ)アクリレート化合物1~500重量部、または20~200重量部を含むことができる。
【0034】
一方、前記バインダー樹脂100重量部対比、前記無機微細粒子の凝集体0.1~8重量部を含むことができる。
【0035】
前記光分解性カプセルにおいて、前記バインダー樹脂に対比する無機微細粒子の凝集体の含有量が低すぎると、光分解反応の効率が低下することがあり、十分でない光分解反応によって光分解性カプセル全体が分解されずに残留物が残ることがある。また、前記光分解性カプセルにおいて、前記バインダー樹脂に対比する無機微細粒子の凝集体の含有量が大きすぎると、前記無機微細粒子の凝集体が大きく成長することがあり、これにより、前記光分解性カプセルで局地的な光分解反応が起こったり、または光分解反応の効率が低下して、光分解性カプセル全体が分解されずに残留物が残ることがある。
【0036】
一方、前記溶出制御型肥料は、前記バインダー樹脂に分散するフィラーをさらに含むことができる。前記フィラーの種類が大きく限定されるものではないが、例えば、前記フィラーは、タルク、ベントナイト、黄土、珪藻土、シリカ、アルミノシリケート、カオライト、デンプン、カーボン、またはこれらの2種以上の混合物が挙げられる。
【0037】
前記フィラーの含有量が大きく限定されるものではないが、前記光分解性カプセルの機械的物性や構造的安定性を考慮して、前記溶出制御型肥料は、前記光分解性カプセルの全体重量対比、前記フィラー25~75重量%を含むことができる。
【0038】
前記肥料は、多様な公知の肥料、例えば、尿素または複合肥料であってもよい。好ましい態様において、前記肥料は、光分解性カプセル内に含まれやすくするために、粒状形態を有する粒状コア肥料であってもよい。
【0039】
前記肥料の具体的な種類が限定されず、通常、公知の肥料を使用することができる。好ましい例は、尿素、アルデヒド縮合尿素、イソブチルアルデヒド縮合尿素、ホルムアルデヒド縮合尿素、グアニルウレアスルフェート、およびオキサミドなどの窒素含有有機化合物、硝酸アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、および硝酸ナトリウムなどのアンモニウムおよび硝酸化合物、硝酸カリウム、リン酸カリウム、硫酸カリウム、および塩化カリウムなどのカリウム塩、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム、硝酸カルシウム、および塩化カルシウムなどのカルシウム塩、硝酸マグネシウム、塩化マグネシウム、リン酸マグネシウム、および硫酸マグネシウムなどのマグネシウム塩、硝酸第一鉄、硝酸第二鉄、リン酸第一鉄、リン酸第二鉄、硫酸第一鉄、硫酸第二鉄、塩化第一鉄、および塩化第二鉄などの鉄塩、およびこれらの二重塩、またはこれらの2以上の混合物である。
【0040】
前記溶出制御型肥料における肥料の含有量が大きく限定されるものではなく、例えば、前記光分解性カプセル100重量部対比、前記肥料200~3000重量部を含むことができる。
【0041】
前記光触媒複合体は、前記光分解性カプセルにおいて特有の分散度を有することができる。より具体的には、前記光触媒複合体は、前記炭素数1~10のアルキレングリコール繰り返し単位を含む(メタ)アクリレート化合物を有機溶媒に分散する段階により製造できるが、
前記無機微細粒子と前記炭素数1~10のアルキレングリコール繰り返し単位を含む(メタ)アクリレート化合物とを有機溶媒に分散した状態で、超音波、高剪断ミキサ(High-Shear Mixer)またはビーズミル(Bead mill)などを用いて強いエネルギーを伝達することによって、前記炭素数1~10のアルキレングリコール繰り返し単位を含む(メタ)アクリレート化合物が無機微細粒子の凝集体の表面または内部に結合できる。このように製造された光触媒複合体は、前記バインダー樹脂に非常に均一に分散し、これにより、光触媒の分解効率が顕著に増加できる。
【0042】
前記溶出制御型肥料は、公知の溶出制御型肥料に含まれる成分を追加的にさらに含むことができる。例えば、このような成分は、両親媒性高分子などがあるが、これに制限されるわけではない。
【0043】
一方、前記溶出制御型肥料は、多様な製造方法により提供可能であり、例えば、エチレンビニルアセテート共重合体が添加された有機溶媒に無機微細粒子を分散させて前記光触媒複合体の分散液を製造する段階;ポリオレフィン、エチレンビニルアセテート共重合体、前記光触媒複合体の分散液および選択的にフィラーを混合してコーティング組成物を製造する段階;および前記コーティング組成物で粒状肥料コアの表面を被覆する段階;を含む製造方法により提供することができる。
【0044】
前記有機溶媒の具体例が限定されるものではないが、テトラクロロエチレン(TCE)、シクロヘキセン(CHN)、ジクロロメタン(DCM)、または1,2,4-トリクロロベンゼン(TCB)などを使用することができる。
【0045】
前記エチレンビニルアセテート共重合体が添加された有機溶媒に無機微細粒子を分散させて前記光触媒複合体の分散液を製造する段階では、超音波(sonication)またはビーズミルなどの強いエネルギーを用いて分散液を製造することができ、例えば、超音波(sonication)などの強いエネルギーを用いて、光触媒の分散粒度を5~1000nmの分散粒度を有する分散液を製造することができる。
【発明の効果】
【0046】
本発明によれば、水分に対する高い安定性と強固な構造を有し、肥料の溶出期間を容易に調節可能であり、同時に、優れた光分解効率を実現できる溶出制御型肥料が提供される。
【0047】
前記溶出制御型肥料は、光分解性カプセルまたは親水性高分子などが土壌に残留しないようにして土壌汚染などを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
図1】溶出制御型肥料の光分解メカニズムを概略的に示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0049】
発明を下記の実施例でより詳しく説明する。ただし、下記の実施例は本発明を例示するものに過ぎず、本発明の内容が下記の実施例によって限定されるものではない。
【0050】
[実施例:溶出制御型肥料の製造]
実施例1~4
(1)光触媒複合体の製造
下記表1のアルキレングリコール繰り返し単位を含む(メタ)アクリレート化合物0.43gをテトラクロロエチレンに溶解させた後、下記表1に記載された量のTiO(一次粒子の平均粒径:21nm)を混合し、剪断速度(shear rate)20,000s-1を適用して20分間高速撹拌した。
【0051】
そして、熱重合開始剤(AIBN)0.015gを投入し、90℃、窒素ガス雰囲気で30分間撹拌して、アルキレングリコール繰り返し単位を含む(メタ)アクリレート化合物が無機微細粒子の凝集体の表面および内部に結合した光触媒複合体の分散液を製造した。
【0052】
(2)溶出制御型肥料の製造
前記製造された光触媒複合体の分散液、ポリエチレン[LDPE、MI(溶融指数、190℃、2.16kg荷重、ASTM D1238):約8g/10min、D(密度):0.925g/cm]、エチレンビニルアセテート共重合体[MI(溶融指数、190℃、2.16kg荷重、ASTM D1238):約1.8g/10min、D(密度):0.94g/cm、ビニルアセテート含有量約20重量%、融点85℃]、およびタルクを下記表1による含有量で用いて、組成の混合比でテトラクロロエチレンと90℃で均一に撹拌混合し、固形分濃度が5重量%となるようにコーティング液を製造した。
【0053】
そして、流動層乾燥機を用いて窒素肥料粒子に前記コーティング液を塗布して溶出制御型被覆肥料(実施例1~4)を製造した。
【0054】
[比較例:被覆肥料の製造]
比較例1
ポリエチレン[LDPE、MI(溶融指数、190℃、2.16kg荷重、ASTM D1238):約8g/10min、D(密度):0.925g/cm]、エチレンビニルアセテート共重合体[MI(溶融指数、190℃、2.16kg荷重、ASTM D1238):約1.8g/10min、D(密度):0.94g/cm、ビニルアセテート含有量約20重量%、融点85℃]、およびタルクを下記表1による含有量で用いて、組成の混合比でテトラクロロエチレンと100℃で均一に撹拌混合し、固形分濃度が5重量%となるようにコーティング液を製造した。
【0055】
そして、流動層乾燥機を用いて窒素肥料粒子に前記コーティング液を塗布して被覆肥料(比較例1)を製造した。
【0056】
[実験例]
実験例1:光分解特性の比較試験
前記実施例の溶出制御型肥料および比較例の被覆肥料それぞれ5gずつ取って、1粒ずつ針でピンホールを入れてから、内部の肥料を完全に溶出した後、残りの被覆膜で分解評価を進行させた。
【0057】
ATLAS社のSuntest CPS+装備を用いて、50℃の温度で300nm~800nmの波長の光を400w/mの強度で前記被覆膜に照射した。
【0058】
そして、前記条件で224時間光を照射時、前記被覆膜の重量変化から導出されるバインダー樹脂の分解率を下記一般式1で求め、その結果を表1に示した。
【0059】
【数1】
【0060】
【表1】
【0061】
前記表1に示されるように、実施例の溶出制御型肥料に対して、300nm~800nmの波長の光を400w/mの強度で224時間光を照射時、バインダー樹脂の分解率が35%以上であることが確認され、これに対し、比較例の被覆肥料は、35%未満のバインダー樹脂の分解率を示すことが確認された。
【0062】
実験例2:TiO のz-平均分散粒度の測定
実施例3の光触媒複合体の分散液と比較例2のTiOが含まれている分散液のTiOのz-平均分散粒度を動的光散乱法(Dynamic Light Scattering、Marvern Zetasizer Nano ZS90)を用いて測定した。その結果を下記表3に示した。
【0063】
【表2】
【0064】
前記表2に示されるように、実施例3の光触媒複合体の分散液は、約300nmのz-平均分散粒度を有し、使用されたTiO粒子が均質に分散して相対的に小さい平均粒径を有する無機微細粒子の凝集体が形成されたことが確認される。
【0065】
これに対し、比較例2のTiOが含まれている分散液のTiOは、約10,000nm以上のz-平均分散粒度を有し、相対的に大きい平均粒径を有する無機微細粒子の凝集体が形成されたことが確認される。
図1