(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-07
(45)【発行日】2022-01-21
(54)【発明の名称】仮撚マルチフィラメント糸、その製造方法、及び織編物
(51)【国際特許分類】
D02G 1/02 20060101AFI20220114BHJP
D01F 6/62 20060101ALI20220114BHJP
D01F 6/92 20060101ALI20220114BHJP
D01F 8/14 20060101ALI20220114BHJP
D03D 15/37 20210101ALI20220114BHJP
【FI】
D02G1/02 Z
D01F6/62 303E
D01F6/92 301M
D01F8/14 Z
D03D15/37
(21)【出願番号】P 2017126605
(22)【出願日】2017-06-28
【審査請求日】2020-06-15
(73)【特許権者】
【識別番号】592197315
【氏名又は名称】ユニチカトレーディング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【氏名又は名称】水谷 馨也
(72)【発明者】
【氏名】中川 皓介
(72)【発明者】
【氏名】冨路本 泰弘
【審査官】長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-113714(JP,A)
【文献】特開2016-113715(JP,A)
【文献】特開2008-081863(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F1/00-9/04
D02G1/00-3/48
D02J1/00-13/00
D03D1/00-27/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機酸化物粒子を含有するポリエステル樹脂からなる仮撚マルチフィラメント糸であって、
前記仮撚マルチフィラメント糸は、中空糸の中空部が圧縮されて中空率が3%未満である単繊維の割合が、
99%以上であ
り、
仮撚マルチフィラメント糸の原糸となる中空マルチフィラメント糸を構成している中空糸Sは、前記無機酸化物粒子の含有率X(質量%)が2<X≦10であるセグメントAと、前記無機酸化物粒子の含有率Y(質量%)が2質量%以下であるセグメントBとを有しており、
前記中空糸Sの長手方向に対する横断面の形状が、さらに下記(1)~(5)を満足する、
(1)前記横断面におけるセグメントAの形状が、前記中空糸Sの中心側から外周側へ放射状に向かう6~30個の葉部を含む多葉形状である、
(2)前記葉部の外周側の先端部が曲線形状である、
(3)前記中空糸Sの外周長(μm)に対する、前記セグメントAの前記中空糸S表面への露出長(μm)の割合が10%以下である、
(4)前記中空糸Sの中心から前記中空糸Sの外周までの距離(μm)に対する、前記中空糸Sの外周から前記葉部までの最短距離(μm)の平均比率が10%以下である、
(5)前記中空糸Sの中空率が5~30%である、
仮撚マルチフィラメント糸。
【請求項2】
前記仮撚マルチフィラメント糸の捲縮率が、35%以上である、請求項1に記載の仮撚マルチフィラメント糸。
【請求項3】
前記ポリエステル樹脂中の前記無機酸化物粒子の含有量が、10質量%以下である、請求項1又は2に記載の仮撚マルチフィラメント糸。
【請求項4】
前記単繊維の繊度が0.5~2.5dtexである、請求項1~3のいずれかに記載の仮撚マルチフィラメント糸。
【請求項5】
無機酸化物粒子を含有するポリエステル樹脂からなる中空マルチフィラメント糸を用意する工程と、
前記中空マルチフィラメント糸を、中空率が3%未満の単繊維の割合が
99%以上となるようにして、仮撚加工に供する工程と、
を備え
、
前記中空マルチフィラメント糸が、前記無機酸化物粒子の含有率X(質量%)が2<X≦10であるセグメントAと、前記無機酸化物粒子の含有率Y(質量%)が2質量%以下であるセグメントBとを有する中空糸Sを含んでおり、
前記中空糸Sの長手方向に対する横断面の形状が、さらに下記(1)~(5)を満足する、
(1)前記横断面におけるセグメントAの形状が、前記中空糸の中心側から外周側へ放射状に向かう6~30個の葉部を含む多葉形状である、
(2)前記葉部の外周側の先端部が曲線形状である、
(3)前記中空糸Sの外周長(μm)に対する、前記セグメントAの前記中空糸S表面への露出長(μm)の割合が10%以下である、
(4)前記中空糸Sの中心から前記中空糸Sの外周までの距離(μm)に対する、前記中空糸の外周から前記葉部までの最短距離(μm)の平均比率が10%以下である、
(5)前記中空糸Sの中空率が5~30%である、
仮撚マルチフィラメント糸の製造方法。
【請求項6】
請求項1~
4のいずれかに記載の仮撚マルチフィラメント糸を含む、織編物。
【請求項7】
波長700~1200nmの平均赤外線反射率が60%以上である、請求項
6記載の織編物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、織編物とした際に赤外線反射性を発揮することで遮熱性に優れると共に、嵩高の織編物の製造に好適に用いることができる仮撚マルチフィラメント糸、及びその製造方法に関する。さらに、本発明は、仮撚マルチフィラメント糸を含む嵩高性の織編物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル繊維は、寸法安定性、耐久性などに優れるため、衣料用、産業用、医療用などのような幅広い分野において、織編物として好適に用いられる。例えば衣料分野に用いられる織編物においては、市場では軽量化及び薄地化が求められている一方、夏場の炎天下において照射される太陽光などを遮蔽する衣料が求められている。
【0003】
遮熱性に優れる織編物を得るための繊維として、無機微粒子(例えば、酸化チタン微粒子)を含有するポリエステル繊維が知られている。しかしながら、遮熱性をより一層向上させようと、ポリエステル繊維に無機微粒子を高濃度で含有させると、繊維の表面に多くの無機微粒子が露出する。露出した無機微粒子は、紡糸時にガイド摩耗などを引き起こすため、製糸性を低下させてしまう。
【0004】
上記のような問題を解決するために、無機微粒子を高濃度で含有する芯部と、無機微粒子を低濃度で含有する鞘部とが、同心円状に配置されたポリエステル系芯鞘型複合繊維が知られている。しかしながら、こうした芯鞘型複合繊維においては、製糸性は改善されるものの、織編物としたときの遮熱性は不十分である。
【0005】
そこで、織編物としたときの遮熱性を向上させるために、無機微粒子を含有するポリエステル系繊維の横断面形状について、様々に検討されている。具体的には、6~10個の葉部を有する多葉形状としたり(特許文献1参照)、または横断面形状を扁平形状としたりすること(特許文献2参照)が知られている。しかしながら、特許文献1に記載された技術を用いたとしても、芯部の無機微粒子の濃度を高くする必要があるため、鞘部が割れて芯部が繊維表面に露出する。また、特許文献2に記載された技術を用いた場合であっても、無機微粒子の濃度を十分に低くすることができない。つまり、特許文献1及び2においても製糸性や、織編物とした場合の遮熱性が、不十分である繊維しか得られない。
【0006】
一方、上記のような無機微粒子の濃度に対する製糸性の問題点を解決するために、所望の中空部が維持されるよう、特定の条件で仮撚加工を施した仮撚中空マルチフィラメント糸が知られている(特許文献3)。特許文献3の仮撚中空マルチフィラメント糸を用いた織編物は、無機微粒子の含有量が十分に低減されても、光の反射及び屈折が効果的に発現し、遮熱性に優れている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2008-081863号公報
【文献】特開2013-044055号公報
【文献】特開2016-113714号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献3の仮撚中空マルチフィラメント糸は、優れた遮熱性を発揮するために、単繊維に所定の中空部を設ける必要がある。このため、特許文献3の仮撚中空マルチフィラメント糸は、低温度及び低仮撚係数の条件で仮撚加工を施して製造されている。したがって、仮撚中空マルチフィラメント糸は、捲縮性が低く、嵩高で風合いのよい織編物の製造に用いるには適していないという問題がある。
【0009】
本発明は、このような従来技術をさらに改良し、織編物とした際に遮熱性に優れ、さらに、嵩高の織編物の製造に好適に用いることができる仮撚マルチフィラメント糸を提供することを主な目的とする。さらに、本発明は、当該仮撚マルチフィラメント糸の製造方法、及び当該仮撚マルチフィラメント糸を含む織編物を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記のような課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、無機酸化物粒子を含有するポリエステル樹脂からなる仮撚マルチフィラメント糸であって、中空糸の中空部が圧縮されて中空率が3%未満の単繊維の割合が95%以上である仮撚マルチフィラメント糸は、織編物とした際の遮熱性に優れ、さらに、高い捲縮率を付与することができ、嵩高で風合いのよい織編物の製造に好適であることを見出した。
【0011】
より具体的には、本発明者らは、仮撚条件と仮撚マルチフィラメント糸における仮撚後の中空率、捲縮率の関係、及び遮熱性に与える影響について詳細に検討した。その結果、単繊維に所定の中空部を備える仮撚中空マルチフィラメント糸を用いた織編物でなければ、優れた遮熱性が発揮されないという従来の知見に反して、中空マルチフィラメント糸に対して中空部が大きく圧縮される仮撚加工を施し、中空率が3%未満である単繊維の割合を95%以上とした仮撚マルチフィラメント糸は、特許文献3に開示されたような仮撚中空マルチフィラメント糸と同様、織編物にした際に遮熱性に優れるという、予期せぬ知見を得た。これは、単繊維の中空部が潰れた部分において、ポリエステル樹脂の不連続な部分が形成されて、光の反射及び屈折が効果的に発現していることに起因していると考えられる。
【0012】
さらに、中空部が大きく圧縮される仮撚加工が施され、中空率が3%未満の単繊維を95%以上含む仮撚マルチフィラメント糸であっても、優れた遮熱性を発揮することが明らかになったことから、仮撚マルチフィラメント糸を得る仮撚加工の条件としては、単繊維の中空部の潰れを抑制する仮撚加工の条件と比較して、高温度、高仮撚係数の仮撚加工の条件を選定できるため、優れた遮熱性に加えて、嵩高で風合いのよい織編物の製造に好適に用いることができる仮撚マルチフィラメント糸が得られることを見出した。
【0013】
すなわち、本発明者らは、中空マルチフィラメント糸を構成している中空糸の中空部が、仮撚工程によって圧縮されて、中空率が3%未満となった単繊維の割合が95%以上である仮撚マルチフィラメント糸は、織編物とした際の遮熱性に優れ、かつ、嵩高で風合いのよい織編物の製造に好適であるという知見を得た。
【0014】
本発明は、これらの知見に基づいて、さらに検討を重ねることにより完成したものである。
【0015】
すなわち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. 無機酸化物粒子を含有するポリエステル樹脂からなる仮撚マルチフィラメント糸であって、
前記仮撚マルチフィラメント糸は、中空糸の中空部が圧縮されて中空率が3%未満である単繊維の割合が、95%以上である、仮撚マルチフィラメント糸。
項2. 前記仮撚マルチフィラメント糸の捲縮率が、35%以上である、項1に記載の仮撚マルチフィラメント糸。
項3. 前記ポリエステル樹脂中の前記無機酸化物粒子の含有量が、10質量%以下である、項1又は2に記載の仮撚マルチフィラメント糸。
項4. 前記単繊維の繊度が0.5~2.5dtexである、項1~3のいずれかに記載の仮撚マルチフィラメント糸。
項5. 前記中空糸は、前記無機酸化物粒子の含有率X(質量%)が2<X≦10であるセグメントAと、前記無機酸化物粒子の含有率Y(質量%)が2質量%以下であるセグメントBとを有しており、
前記中空糸の長手方向に対する横断面の形状が、さらに下記(1)~(5)を満足する、項1~4のいずれかに記載の仮撚マルチフィラメント糸。
(1)前記横断面におけるセグメントAの形状が、前記中空糸の中心側から外周側へ放射状に向かう6~30個の葉部を含む多葉形状である。
(2)前記葉部の外周側の先端部が曲線形状である。
(3)前記中空糸の外周長(μm)に対する、前記セグメントAの前記中空糸表面への露出長(μm)の割合が10%以下である。
(4)前記中空糸の中心から前記中空糸の外周までの距離(μm)に対する、前記中空糸の外周から前記葉部までの最短距離(μm)の平均比率が10%以下である。
(5)前記中空糸の中空率が5~30%である。
項6. 無機酸化物粒子を含有するポリエステル樹脂からなる中空マルチフィラメント糸を用意する工程と、
前記中空マルチフィラメント糸を、中空率が3%未満の単繊維の割合が95%以上となるようにして、仮撚加工に供する工程と、
を備える、仮撚マルチフィラメント糸の製造方法。
項7. 前記中空マルチフィラメント糸が、前記無機酸化物粒子の含有率X(質量%)が2<X≦10であるセグメントAと、前記無機酸化物粒子の含有率Y(質量%)が2質量%以下であるセグメントBとを有する中空糸を含んでおり、
前記中空糸の長手方向に対する横断面の形状が、さらに下記(1)~(5)を満足する、仮撚マルチフィラメント糸の製造方法。
(1)前記横断面におけるセグメントAの形状が、前記中空糸の中心側から外周側へ放射状に向かう6~30個の葉部を含む多葉形状である。
(2)前記葉部の外周側の先端部が曲線形状である。
(3)前記中空糸の外周長(μm)に対する、前記セグメントAの前記中空糸表面への露出長(μm)の割合が10%以下である。
(4)前記中空糸の中心から前記中空糸の外周までの距離(μm)に対する、前記中空糸の外周から前記葉部までの最短距離(μm)の平均比率が10%以下である。
(5)前記中空糸の中空率が5~30%である。
項8. 項1~5のいずれかに記載の仮撚マルチフィラメント糸を含む、織編物。
項9. 波長700~1200nmの平均赤外線反射率が60%以上である、項8記載の織編物。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、織編物とした際の遮熱性に優れ、さらに、嵩高で風合いのよい織編物の製造に好適に用いることができる仮撚マルチフィラメント糸を提供することができる。また、本発明によれば、当該仮撚マルチフィラメント糸の製造方法、及び当該仮撚マルチフィラメント糸を含む織編物を提供することも目的とする。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の仮撚マルチフィラメント糸の製造に用いる中空糸の長手方向に対する横断面形状の実施形態を例示する模式図である。
【
図2】実施例1の仮撚マルチフィラメント糸の断面写真である(580倍)。
【
図3】比較例1の仮撚マルチフィラメント糸の断面写真である(580倍)。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の仮撚マルチフィラメント糸、その製造方法、及び仮撚マルチフィラメント糸を用いた織編物について詳細に説明する。
【0019】
(仮撚マルチフィラメント糸)
本発明の仮撚マルチフィラメント糸は、無機酸化物粒子を含有するポリエステル樹脂からなる仮撚マルチフィラメント糸であって、中空糸の中空部が圧縮されて中空率が3%未満である単繊維の割合が95%以上であることを特徴としている。本発明の仮撚マルチフィラメント糸は、このような構成を備えていることにより、織編物とした際の遮熱性に優れ、さらに、高い捲縮率を付与することができ、嵩高で風合いのよい織編物の製造に好適に用いることができる。
【0020】
ポリエステル樹脂に含まれる無機酸化物粒子としては、太陽光の遮蔽効果が高いものが好適であり、例えば、酸化チタン、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛などの微粒子が挙げられる。中でも、酸化チタン微粒子が好ましい。
【0021】
また、酸化チタン微粒子としては、ルチル型であってもよいしアナターゼ型であってもよい。酸化チタン微粒子は、他の無機微粒子(例えば、酸化カルシウム、酸化マグネシウム又は酸化亜鉛の微粒子)と比較すると、遮熱性、又は汎用性に優れ、コストメリットも高いため好ましい。
【0022】
無機酸化物粒子の平均粒子径としては、特に制限されないが、遮熱性を効果的に高める観点から、好ましくは0.1~3.0μm程度が挙げられる。特に、酸化チタン微粒子は、いわゆる隠蔽素材として用いられるため、可視光線から赤外線までの光線を効率よく反射し得る程度の粒径を有することが好ましい。酸化チタン微粒子の平均粒子径は、0.1~3.0μm程度であることが好ましい。ここで、無機酸化物粒子(酸化チタン微粒子)の平均粒子径は、電子顕微鏡で、例えば100個以上の粒子の直径を測定し、その平均値を算出して求められる。
【0023】
仮撚マルチフィラメント糸を構成しているポリエステル樹脂中の無機酸化物粒子の含有量としては、特に制限されないが、ガイド摩耗などを抑制しつつ、優れた遮熱性を発揮する観点から、好ましくは10質量%以下、より好ましくは0.01~10質量%程度、さらに好ましくは0.01~5質量%程度、さらにより好ましくは1~3質量%程度が挙げられる。本発明の仮撚マルチフィラメント糸においては、後述するように、中空マルチフィラメント糸に仮撚加工を施すことで、中空糸の中空部が圧縮され、中空率が3%未満である単繊維の割合が95%以上となっている。このため、無機酸化物粒子の含有量が低くとも、中空部が潰れて形成された樹脂の不連続部分に起因して、優れた遮熱性を発揮することができる。また、本発明の仮撚マルチフィラメント糸は、仮撚加工によって中空部が潰れる条件での製造が可能であるため、紡糸操業性又は工程通過性にも優れる。
【0024】
無機酸化物粒子は、ポリエステル樹脂中に均一に分散していてもよいし、ポリエステル樹脂中において無機酸化物粒子の濃度の高い部分と濃度の低い部分とが存在していてもよい。なお、ポリエステル樹脂中において無機酸化物粒子の濃度の高い部分と濃度の低い部分とが存在しているものは、例えば、後述の中空糸Sから構成された中空マルチフィラメント糸を、仮撚加工に供することにより形成することができる。後述の通り、中空糸Sにおいては、例えば、中空糸の長手方向に対する横断面において、無機酸化物粒子の含有率X(質量%)が2<X≦10であるセグメントAの形状が、中空糸の中心側から外周側へ放射状に向かう6~30個の葉部を含む多葉形状を有している。
【0025】
ポリエステル樹脂の具体例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリオキシエトキシベンゾエート、ポリエチレンナフタレート、シクロヘキサンジメチレンテレフタレートなどのポリエステルからなる樹脂が挙げられる。または、これらのポリエステルに付加部分としてイソフタル酸、スルホイソフタル酸成分、又はジオール成分(例えば、プロピレングリコール、ブチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、又はジエチレングリコール)を共重合したもの、又は、脂肪族ポリエステル(ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネートなどの化合物であって、土壌中又は水中に長時間放置されると、微生物の作用によって、二酸化炭素と水とに分解されるポリエステル)などが挙げられる。これらの中でも、ポリエチレンテレフタレートが好ましい。仮撚マルチフィラメント糸に含まれるポリエステル樹脂は、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0026】
本発明の仮撚マルチフィラメント糸において、中空率が3%未満の単繊維の割合としては、95%以上であれば特に制限されないが、織編物とした際の遮熱性に優れ、さらに、嵩高の織編物の製造に好適に用いることができる仮撚マルチフィラメント糸とする観点から、好ましくは97%以上、より好ましく99%以上、さらに好ましく100%が挙げられる。なお、中空率が3%未満の単繊維の割合とは、仮撚マルチフィラメント糸に含まれる単繊維の合計本数に占める、中空率が3%未満の単繊維の合計本数の割合を意味している。例えば、仮撚マルチフィラメント糸に含まれる単繊維の合計本数が100本であり、そのうち、中空率が3%未満の単繊維の合計本数が50本であった場合には、中空率が3%未満の単繊維の割合は、50%である。仮撚マルチフィラメント糸に含まれる単繊維の本数が100本未満である場合は、100本あたりの数値に換算する。
【0027】
特に、織編物とした際の遮熱性に優れ、嵩高の織編物の製造に好適に用いることができる仮撚マルチフィラメント糸とする観点から、本発明の仮撚マルチフィラメント糸において、中空率が0%の単繊維の割合が、95%以上であることが好ましく、97%以上であることがより好ましく、99%以上であることがさらに好ましく、100%であることが特に好ましい。
【0028】
本発明の仮撚マルチフィラメント糸は、複数の中空糸から構成された中空マルチフィラメント糸が、仮撚加工されてなるものである。本発明の仮撚マルチフィラメント糸は、中空率が3%未満である単繊維の割合が95%以上と多いが、中空糸の中空部が圧縮されて潰れた部分を有しているため、無機酸化物粒子の含有量を過度に高めずとも、単繊維の当該潰れた部分における樹脂の不連続部分と、さらに織編物を構成する単繊維間での十分な空隙での、光の反射及び屈折現象が、効果的に発現し、織編物とした際の遮熱性に優れる仮撚マルチフィラメント糸とすることができる。
【0029】
織編物とした際の遮熱性に優れ、さらに、嵩高の織編物の製造に好適に用いることができる仮撚マルチフィラメント糸とする観点から、本発明の仮撚マルチフィラメント糸において、中空率が3%以上の単繊維の割合としては、好ましくは2%未満、より好ましくは1%以下、さらに好ましくは0%が挙げられる。
【0030】
なお、仮撚マルチフィラメント糸を構成している単繊維の中空率は、以下の測定方法で測定された値である。中空マルチフィラメント糸を構成している中空糸の中空率についても、同様にして測定される。
【0031】
<中空率>
仮撚マルチフィラメント糸の横断面を、光学顕微鏡を用いて倍率580倍にて断面写真を撮影し、この断面写真から、各単繊維について中空率が3%未満の単繊維の割合(本数%)をカウントし求める。仮撚マルチフィラメント糸に含まれる単繊維の本数が100本未満である場合は、100本あたりの数値に換算して割合(本数%)を算出する。測定方法の詳細については、実施例に記載の通りである。
【0032】
織編物とした際の遮熱性に優れ、さらに、嵩高の織編物の製造に好適に用いることができる仮撚マルチフィラメント糸とする観点から、単繊維において、中空糸の中空部が圧縮され潰れた部分は、単繊維の中心部に位置していることが好ましい。中空糸の中空部が圧縮され潰れた部分が単繊維の中心部に位置していることにより、仮撚マルチフィラメント糸の強度も維持することができる。
【0033】
本発明の仮撚マルチフィラメント糸の捲縮率としては、特に制限されないが、織編物とした際の遮熱性に優れ、さらに、嵩高の織編物の製造に好適に用いることができる仮撚マルチフィラメント糸とする観点から、好ましくは35%以上、より好ましくは50%以上が挙げられる。捲縮率の上限としては、例えば、80%が挙げられる。仮撚マルチフィラメント糸の捲縮率は、中空マルチフィラメント糸を仮撚加工する際の条件(例えば、ヒーター温度、オーバーフィード率、仮撚係数)を制御することで、調整可能である。
【0034】
なお、仮撚マルチフィラメント糸の捲縮率は、以下の測定方法で測定された値である。
【0035】
<捲縮率>
捲縮率は、下記式(I)から算出する。なお、荷重は、糸条をかせ取りした後、かせを輪にした状態で加えた荷重である。
捲縮率(%)={(A0-A1)/A0}×100 (I)
A1:糸条に90.91×10-3cN/dtexの張力を掛けながらかせ取りし、かせに1.47×10-4cN/dtexの荷重をかけた状態で30分間放置した後、かせに1.47×10-4cN/dtexの荷重をかけた状態で30分間沸水処理する。処理後、水気を拭取り30分以上放置したかせに対して、1.47×10-4cN/dtexの荷重をはずし、1.76×10-3cN/dtexの荷重を掛けた時のかせ長である。
A0:A1の測定後、荷重を1.76×10-3cN/dtexから4.41×10-2cN/dtexに変更したときのかせ長である。
【0036】
本発明の仮撚マルチフィラメント糸を構成する単繊維の繊度としては、特に制限されないが、好ましくは0.5~2.5dtex程度、より好ましくは0.8~2.3dtex程度が挙げられる。単繊維の繊度が2.5dtex以下であると、例えばフィラメント数を増加させた場合に総繊度が太くなり過ぎることがなく、織編物とした際に薄地化が可能となることに加え、織編物表面のカバー性が向上する。一方、0.5dtex以上であると、中空糸の中空部が圧縮された部分を、単繊維の中心部に形成することができるため、遮熱性及び強度に優れる。
【0037】
本発明の仮撚マルチフィラメント糸を構成する単繊維の形状は特に限定されず、丸断面であってもよいし、三角形、四角形又は多葉形状などのような異形断面であってもよい。
【0038】
本発明の仮撚マルチフィラメント糸の伸度は、後加工(例えば、染色加工等を含む一連の加工)において、必然的に付加される張力により仮撚マルチフィラメント糸の物性が変動しやすくなり、織編物の品位品質面でトラブル発生の要因となり得るため、例えば、20~35%であることが好ましい。
【0039】
仮撚マルチフィラメント糸を構成する単繊維は、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、各種の添加剤(例えば、顔料、染料、着色剤、撥水剤、吸水剤、難燃剤、安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、結晶核剤、滑剤、可塑剤、抗菌剤、又は香料)を含有していてもよい。単繊維に添加剤が含まれる場合、その含有量としては、本発明の効果を損なわない範囲で適宜に選択できる。
【0040】
本発明の仮撚マルチフィラメント糸において、織編物とした際の太陽光の拡散反射効果を高めるためには、仮撚マルチフィラメント糸のフィラメント数は多いほうが好ましい。具体的には、フィラメント数は10~200本であることが好ましく、20~120本であることがより好ましい。フィラメント数が10本以上であると、中空糸の中空部が圧縮され潰れた部分の合計数が多くなるため、遮熱性により優れる。一方、フィラメント数が200本以下であると仮撚マルチフィラメント糸の強度が弱すぎることがなく、織編物とした際に、摩擦時にピリング又は単糸切れに起因する毛羽などのような欠陥を抑制できる。
【0041】
本発明の仮撚マルチフィラメント糸において、単繊維の形成に用いる中空糸は、無機酸化物粒子の含有率X(質量%)が2<X≦10であるセグメントAと、無機酸化物粒子の含有率Y(質量%)が2質量%以下であるセグメントBとを有している中空糸(以下、「中空糸S」と表記することがある)ことが好ましい。さらに、中空糸Sの長手方向に対する横断面の形状が、下記(1)~(5)を満足することが好ましい。
【0042】
(1)前記横断面におけるセグメントAの形状が、前記中空糸の中心側から外周側へ放射状に向かう6~30個の葉部を含む多葉形状である。
(2)前記葉部の外周側の先端部が曲線形状である。
(3)前記中空糸の外周長(μm)に対する、前記セグメントAの前記中空糸表面への露出長(μm)の割合が10%以下である。
(4)前記中空糸の中心から前記中空糸の外周までの距離(μm)に対する、前記中空糸の外周から前記葉部までの最短距離(μm)の平均比率が10%以下である。
(5)前記中空糸の中空率が5~30%である。
【0043】
中空糸Sにおいて、セグメントAは、無機酸化物粒子の含有率X(質量%)が2<X≦10であることが必要であり、3≦X≦8が好ましく、5≦X≦8がより好ましい。
【0044】
一方、セグメントBは、無機酸化物粒子の含有率Y(質量%)が2質量%以下であることが必要であり、紡糸操業性等及び織編物としての遮熱効果との両立の観点から、0<Y≦1が好ましく、0<Y≦0.5がより好ましい。
【0045】
中空糸Sの長手方向に対する横断面におけるセグメントAの形状が、中空糸Sの中心側から外周側へ放射状に向かう6~30個の葉部を含む多葉形状であることが好ましく、8~25個の葉部を含む多葉形状であることがより好ましい。
【0046】
ここで、葉部とは、略長方形、略楕円形、略台形等の形状で少なくとも一方の角が曲線であるものをいい、具体的には、例えば、
図1に示す、マルチフィラメント糸を構成する中空糸の長手方向に対する横断面形状(以下、本発明の複合形状と略することがある。)に例示される。なお、葉部は、例えば、略長方形、略楕円形、略台形等における各辺が滑らかである必要はなく、例えば、微小な凸部及び/又は凹部を備えるものや、波線からなるものであってもよい。
【0047】
また、
図1(a)~(d)に例示するように、中空糸Sの複合形状において、セグメントAとして、中空糸1の中心側から外周側に放射状に向かう葉部を有するが、該葉部4は、セグメントBの中で分離して存在しても(例えば、
図1(a)、(c)及び(d))、セグメントBの中で互いに連結してもよい(例えば、
図1(b))。また、6~30個の葉部のうち、一部が連結され、残りがセグメントBによって分離して存在してもよい。
【0048】
前述のように、セグメントAとして、葉部がセグメントBの中で分離して存在する場合は、互いに隣り合う葉部の間隔が0.1~2.0μmであることが好ましく、0.3~1.0μmであることがより好ましい。
【0049】
中空糸Sの横断面におけるセグメントAの形状が、中空糸Sの中心側から外周側へ放射状に向かう6~30個の葉部を含む多葉形状であることから、互いに隣り合う葉部同士の間隔が小さいものとすることができる。さらに、好ましくは該間隔を特定のものとすることにより、葉部の一つに入射し拡散反射した太陽光が隣り合う葉部でさらに拡散反射されることが繰り返されやすくなる。
【0050】
また、葉部は、外周側の先端部が曲線形状であることが好ましい。該先端部が曲線形状である場合、織編物とした際に遮熱効果がより優れたものとなる。これは、マルチフィラメントに入射した太陽光が曲線形状である葉部の先端部が潰れて不規則な形状になることにより拡散反射を起こすことに起因すると推測される。さらに、先端部が曲線形状であると、仮撚加工を施した場合であっても、セグメントAが繊維表面に飛び出し難くなり、無機酸化物粒子が露出しないために、ガイド磨耗等の問題をより抑制できる。
【0051】
中空糸Sは、複合形状において、中空糸Sの外周長(μm)に対するセグメントAの中空糸S表面への露出長(μm)の割合(EC)が10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましい。ECがこのような上限を充足していることにより、曲線形状である葉部の先端部が潰れて不規則な形状となり、マルチフィラメントに入射した太陽光が拡散反射を起こし、織編物とした際に遮熱効果がより優れたものとなる。
【0052】
また、当該ECを10%以下とすることにより、紡糸操業性、製糸工程及び製織編工程における工程通過性が良好なものとなる。
【0053】
中空糸Sは、複合形状の各葉部における中空糸Sの中心から中空糸Sの外周までの距離(μm)に対する、該中空糸Sの外周から葉部までの最短距離(μm)の平均比率(DC)が、10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましい。DCがこのような上限を充足していることにより、曲線形状である葉部の先端部が潰れて不規則な形状となり、マルチフィラメントに入射した太陽光が拡散反射を起こし、織編物とした際に遮熱効果がより優れたものとなる。
【0054】
上記EC、DCは、紡糸ノズルの形状、合成樹脂の粘度、紡糸温度等の紡糸条件を適宜調整することにより上記範囲とすることができる。
【0055】
さらに、中空糸Sの中空率は、5~30%程度が好ましく、10~20%程度がより好ましい。中空率は、紡糸ノズルの形状、合成樹脂の粘度、紡糸温度等の紡糸条件を適宜調整することにより上記範囲とすることができる。中空糸Sの中空率は、中空糸の断面写真から、中空糸の半径及び中空部の半径を測定し、中空糸の断面の面積および中空部の面積を算出し、それら面積比率から算出した値である。中空糸の中空率の測定方法の詳細については、実施例に記載の通りである。なお、中空糸Sの前記中空率は、20本の平均値により算出する。
【0056】
中空糸Sの複合形状において、セグメントAの形状は回転対称形であることが好ましい。ここで回転対称形とは、中空糸Sの横断面の中心点を軸にして一定角回転させると元の形と重なるものをいう。セグメントAの形状が回転対称形であることにより、紡糸ノズルから紡出された中空糸Sがいわゆる糸曲がりの現象を呈し、安定な紡糸性、良好な糸質が得られないとの問題が発生しにくくなる。また、セグメントAの遮蔽性に片寄りが生じにくく、すべての角度に対して均一な遮熱性が得られやすくなる。
【0057】
中空糸Sにおいて、前記セグメントAと前記セグメントBとの質量比(セグメントA/セグメントB)が30/70~90/10であることが好ましく、60/40~80/20であることがより好ましい。
【0058】
中空糸Sの該質量比が30/70以上であると、本発明の仮撚マルチフィラメント糸は、織編物とした場合の遮熱性に特に優れたものとなる。該質量比が90/10以下であると、紡糸操業性、製糸工程及び製織編工程における工程通過性が良好なものとしやすくなる。中空糸Sの該質量比が60/40~80/20であると、本発明の仮撚マルチフィラメント糸は、紡糸操業性、製糸工程及び製織編工程における工程通過性が良好なものとしつつ、織編物とした際に、遮熱性に特に優れたものとしやすくなる点でより好ましい。
【0059】
本発明の仮撚マルチフィラメント糸の製造方法は、特に制限されないが、例えば、以下の方法により好適に製造することができる。
【0060】
(仮撚マルチフィラメント糸の製造方法)
本発明の仮撚マルチフィラメント糸の製造方法は、以下の工程を備えている。
無機酸化物粒子を含有するポリエステル樹脂からなる中空マルチフィラメント糸を用意する工程
前記中空マルチフィラメント糸を、中空率が3%未満の単繊維の割合が95%以上となるようにして、仮撚加工に供する工程
【0061】
すなわち、本発明の仮撚マルチフィラメント糸は、中空マルチフィラメント糸に対して、中空率が3%未満の単繊維の割合が95%以上となるようにして、仮撚加工を施したものである。
【0062】
本発明の仮撚マルチフィラメント糸の製造方法においては、まず、無機酸化物粒子を含有するポリエステル樹脂からなる中空マルチフィラメント糸を用意する。中空マルチフィラメント糸に含まれる無機酸化物粒子の種類や含有量については、前述の本発明の仮撚マルチフィラメント糸と対応している。
【0063】
また、中空マルチフィラメント糸を構成している中空糸の好ましい繊度についても、前述の仮撚マルチフィラメント糸を構成している単繊維の繊度に対応している。中空糸の繊度が0.5dtex以上であると、後加工における毛羽発生等のトラブルが起こり難くい。また、中空糸の繊度が3.5dtex以下であると、同一繊度に対する単繊維本数を増やすことができるので、織編物がより一層優れた遮熱性を発揮することができる。
【0064】
本発明の仮撚マルチフィラメント糸の原糸となる中空マルチフィラメント糸を構成している中空糸の中空率としては、好ましくは5~30%程度、より好ましくは5~15%程度が挙げられる。仮撚加工前の中空糸の中空率が5~30%の範囲であると、仮撚加工後の単繊維において、中空部が圧縮されて不連続となる部分が十分な大きさとなり、織編物の遮熱性がより高められる。
【0065】
仮撚加工が施される中空マルチフィラメント糸としては、延伸糸(SDY、又はFDY)を用いても良いし、高配向未延伸糸(POY)を用いても良いが、高配向未延伸糸を用いる場合、一般的な延伸同時仮撚加工法において延伸倍率を調整することで、延伸糸を用いる場合と同等の仮撚マルチフィラメント糸を得られるうえに、コストダウンも計ることができる。なお、延伸糸とは、伸度が20~80%程度、複屈折率が0.170~0.300程度のものが挙げられ、高配向未延伸糸としては、伸度が80~250%程度、複屈折率が0.025~0.050程度のものが挙げられる。
【0066】
さらに、本発明の仮撚マルチフィラメント糸の製造方法において、中空マルチフィラメント糸を構成している中空糸は、前述の中空糸Sを含んでいてもよいし、中空糸Sのみにより構成されていてもよい。中空糸Sの詳細については、前述の通りである。
【0067】
次に、中空マルチフィラメント糸を、中空率が3%未満の単繊維の割合が95%以上となるようにして、仮撚加工に供する工程を行う。
【0068】
仮撚りの方式は、一般にスピンドル方式とフリクション方式とに大別される。本発明では、これらのいずれの方式も採用できる。一般に、仮撚具としては、スピンドル方式の場合はピンタイプのものを使用し、フリクション方式の場合はディスクタイプのものを使用する。
【0069】
中空率が3%未満の単繊維の割合が95%以上となるようにして仮撚加工を行う観点から、仮撚加工に供する工程においては、スピンドル方式を使用する場合は上記の中空マルチフィラメント糸を温度170~230℃(好ましくは180~220℃)、かつ仮撚係数23,000~35,000(好ましくは25,000~30,000)の条件で仮撚加工することが好ましい。
【0070】
この様に、特定の中空部を有する中空マルチフィラメント糸を上記の様な仮撚加工条件にて仮撚加工を施し、単繊維の中央部に中空部が潰れた部分を有する仮撚マルチフィラメント糸とすることで、前述のように、酸化チタン微粒子の含有割合を過度に高めずとも、織編物を構成する単繊維間での十分な空隙と、単繊維の中央部に不連続な部分を有し、光の反射及び屈折現象がいっそう適切に発現させ得る、遮熱性に顕著に優れる仮撚マルチフィラメント糸とすることができる。また、上記の様な仮撚加工条件にて仮撚加工を施すことで、より捲縮率の高い仮撚マルチフィラメント糸が得られる。
【0071】
スピンドル方式を採用した仮撚工程において、仮撚温度が170℃以上であることにより、得られる仮撚マルチフィラメント糸で十分な捲縮が得られやすくなる。また、230℃以下であることにより、繊維同士が融着し難く、繊維が十分開繊し、布帛にした際の欠点の発生を抑制することができる。
【0072】
また、スピンドル方式を採用した仮撚工程において、仮撚係数が23,000以上であることにより、仮撚マルチフィラメント糸に十分な捲縮を与えることができる。一方、仮撚係数が35,000以下であることにより、糸切れを抑制し、毛羽の少ない仮撚マルチフィラメント糸とし得る。
【0073】
本発明の仮撚マルチフィラメント糸の製造方法においては、その他の仮撚加工条件としては、本発明の効果を損なわない範囲で特に限定されないが、例えば、延伸糸を仮撚原糸とする場合には、延伸倍率が0.9~1.2倍が好ましく、1.0~1.1倍がより好ましい。また、延伸糸の場合は、オーバーフィード率が-2%~5%であることが好ましい。また、加撚張力は延伸糸の繊度に対して1/20~1/5(g)程度が好ましく、解撚張力/加撚張力で表される加撚解撚比は、1.5~3.0程度が好ましい。
【0074】
延伸糸を仮撚する場合において、延伸倍率が0.9倍以下、オーバーフィード率が5%以上であると、仮撚加工時に弛みが発生し、ローラへの糸の巻付きや糸切れの要因となり得る。一方、延伸倍率が1.2倍以上、オーバーフィード率が-2%以下であると仮撚マルチフィラメント糸の繊度、伸度等の糸物性が変わる可能性がある。
【0075】
延伸糸を仮撚する場合において、加撚張力が延伸糸の繊度に対して1/20(g)以上であると、仮撚加工時の弛みの発生を抑制し、ローラへの糸の巻付きや糸切れの要因を減少し得る。一方、加撚張力が延伸糸の繊度に対して1/5(g)以下であることにより、仮撚加工時に糸切れ等の操業性の悪化を抑制し、フィラメント切れによる毛羽の発生を減少し得る。
【0076】
また、解撚張力/加撚張力で表される加撚解撚比は、上記の加撚張力の範囲とするために、1.5~3.0程度が好ましい。
【0077】
本発明の仮撚マルチフィラメント糸の製造方法においては、高配向未延伸糸を用いて仮撚マルチフィラメント糸とする場合、延伸同時仮撚加工における仮撚方式には、一般的なスピンドル方式を用いても良いし、フリクション方式を用いても良い。
【0078】
フリクション方式を採用する場合は、仮撚温度については接触式ヒーターで170~200℃程度、点接触式ヒーターで200~350℃程度の範囲がそれぞれ好ましい。仮撚温度が上記範囲を下回ると十分な捲縮が付与し難く、また、上記範囲を上回ると繊維同士が融着し易くなり、繊維が十分開繊しなくなるので、後に混繊し難くなる。
【0079】
フリクション方式では、一般に、加撚の度合いを仮撚係数で管理するのではなく、K値及びディスク枚数で管理する。これは、両方式の加撚・解撚機構の違いによる。K値とは、解撚張力(F2)と加撚張力(F1)との比(F2/F1)をいい、F2とはディスクを通過した直後の糸張力を、F1とはディスクへ導入される直前の糸張力をいう。フリクション方式では、ディスクの回転により撚りがかかる。したがって、加撚の度合いは、ディスクスピード(D)とディスク枚数とにより決定づけられることになる。
【0080】
D/Yは、ディスクスピード(D)と加工速度(Y)との比(D/Y)をいい、D/Yの範囲としては、一般に1.5~2.2が好ましく、D/Yの数値を上げることで、K値を下げることが可能である。
【0081】
ただし、ディスクスピードを直接的に管理することは、工程管理上あまり効率的とはいえないため、ディスクスピードの変動によりK値が変動する点に鑑み、K値を管理することが一般に効率的であるとされている。
【0082】
フリクション方式において、ディスクとしては、一般にポリウレタン製のものが使用される。ディスク枚数としては、一般に5~7枚が好ましく、ディスクの厚さとしては5~10mmが好ましい。また、K値としては、0.6~1.2が好ましい。K値が0.6未満になると、糸切れが増えることに加え、毛羽の多い仮撚糸となる場合がある。一方、1.2を超えると、サージングが生じやすくなる。なお、サージングとは、加撚された撚りが解撚域で解かれず撚りが残った状態をいう。
【0083】
(織編物)
本発明の織編物は、本発明の仮撚マルチフィラメント糸を含んでいる。本発明の織編物は、遮熱性に優れている。本発明の織編物は、本発明の仮撚マルチフィラメント糸を30質量%以上の混用率で含むことが好ましく、50質量%以上の混用率で含むことがより好ましい。混用率が30質量%以上であると、織編物は遮熱性により優れる。さらに、本発明の仮撚マルチフィラメント糸は、高い捲縮率を付与できるため、嵩高性に優れ、かつ風合も良好な織編物を得ることができる。混用の方法としては、混繊、混紡、交撚、交織又は交編が挙げられる。
【0084】
本発明の織編物において、仮撚マルチフィラメント糸を用いる箇所は、特に限定されず、表面及び裏面のうち何れに使用してもよい。
【0085】
本発明の織編物が織物の場合、その組織の具体例としては、平織、綾織、朱子織、又は絡み織が挙げられる。織物密度としては、経糸密度が150本/インチ以上であることが好ましく、緯糸密度が70本/インチ以上であることが好ましい。経糸密度、又は緯糸密度がこの範囲であると、織物中の構成繊維の間の空隙が過度に多くならず、遮熱性により優れる。
【0086】
本発明の織編物が編物の場合、その組織の具体例としては、カノコ、フライス又はスムースが挙げられる。編地密度としては、(1インチあたりのコース数)×(1インチあたりのウェール数)の値が1,000以上であることが好ましい。編地密度が1,000以上であると、複数の構成繊維の間の空隙が過度に多くならず、遮熱性により優れる。
【0087】
本発明の織編物が織物の場合、1100~2200のカバーファクターを有することが好ましい。また、本発明の織編物が編物の場合、15~50のカバーファクターを有することが好ましい。カバーファクターがこうした範囲であると、厚手となることなく、良好な遮熱性を発現することができる。
【0088】
カバーファクター(CF)は、織物の場合は下記式(II)によって算出され、編物の場合は下記式(III)によって算出される。
CF=WAD×√DT+WED×√DT (II)
CF=CD×√DT+WD×√DT (III)
【0089】
上記式中の略語は、以下のものを示す。
DT:マルチフィラメント糸の繊度(dtex)
WAD:経糸密度(本/2.54cm)
WED:緯糸密度(本/2.54cm)
CD:コース密度(本/2.54cm)
WD:ウェール密度(本/2.54cm)
【0090】
本発明の織編物は、30~300g/m2の目付けを有することが好ましい。目付けがこうした範囲であると、厚手となることなく、良好な遮熱性を発現することができる。
【0091】
本発明の織編物の赤外線反射率は、60%以上が好ましく、61%以上がより好ましい。本発明の織編物の赤外線反射率の上限としては、例えば、80%程度が挙げられる。該赤外線反射率は、中空マルチフィラメント糸の断面形態、無機酸化物粒子濃度、仮撚加工条件などを調整することにより適宜設定することができる。赤外線反射率は遮熱性の指標であり、この値が高いほど遮熱性に優れることを示す。なお、赤外線反射率の求め方は、実施例にて後述する。
【0092】
本発明の織編物は、遮熱性に優れ、さらに嵩高性及び風合いも良好である。そのため、一般衣料用途のみならず、ブラウスなどのオフィス用ユニフォーム用途、又は白衣などの医療用途、スポーツウェア用途において、特に好適に用いられる。
【実施例】
【0093】
以下に、実施例及び比較例を示して本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は、実施例に限定されない。
【0094】
なお、各々の物性の測定方法又は評価方法は以下の通りである。
【0095】
<中空率>
中空マルチフィラメント糸に含まれる各中空糸の横断面、並びに仮撚中空マルチフィラメント糸及び仮撚マルチフィラメント糸に含まれる各単繊維の横断面を、それぞれ、光学顕微鏡(オリンパス株式会社製、商品名「BH2-UMF」)を用いて倍率580倍にて断面写真を撮影した。得られた断面写真から、各中空糸及び各単繊維について、各中空糸及び各単繊維の半径と、その中空部の半径とを測定し、全体の面積と中空部の面積を算出した。そして、各中空糸及び各単繊維について、全体の面積に対する中空部の面積の割合を算出して中空率を求めた。中空率の測定は、仮撚加工する前の中空マルチフィラメント糸(中空糸)と、実施例1、及び比較例1,2の仮撚加工後の仮撚マルチフィラメント糸(単繊維)とについて行い、中空率が0%の単繊維の割合(本数%)と中空率が3%以上の単繊維の割合(本数%)とを表1に示した。なお、それぞれの断面写真において、中空部が目視で確認できないものを中空率0%とした。また、仮撚加工後の仮撚マルチフィラメント糸の断面写真において、中空部が確認できたものについて、上記の方法によって中空率を算出して、中空率が3%以上の単繊維の割合(本数%)を求めた。
【0096】
<捲縮率>
前述の方法にて捲縮率の測定をおこなった。
【0097】
<遮熱性(赤外線反射率)>
島津製作所(株)社製の分光光度計「SIMAZU UV-3100PC」を使用して、対象試料の波長700~1200nmにおける平均赤外線反射率を測定した。
【0098】
<嵩高性(バルキー性)>(官能評価)
実施例及び比較例で得られた織物に対し、触感により下記の基準で評価した。
○:嵩高性(バルキー性)が良好である。
△:嵩高性(バルキー性)が普通である。
×:嵩高性(バルキー性)に乏しい。
【0099】
単糸の外周長(μm)に対するセグメントAの単糸表面への露出長(μm)の割合(EC)
マルチフィラメントから取り出した単糸の、長手方向に対する横断面を光学顕微鏡(INABATA&CO製 PCSCOPE PCS-81X)で観察し、単糸外周長(μm)及びセグメントAの単糸表面への露出長(μm)を測定し、単糸外周長(μm)に対する割合(EC(%))を次式により算出した。
EC=セグメントAの露出長(μm)/単糸外周長(μm)×100(%)
【0100】
単糸の中心から単糸の外周までの距離(μm)に対する、単糸の外周から葉部までの最短距離(μm)の平均比率(DC)
マルチフィラメント糸から取り出した単糸の、長手方向に対する横断面を光学顕微鏡(INABATA&CO製 PCSCOPE PCS-81X)で観察し、単糸の中心から単糸外周までの距離(μm)及び各葉部における単糸外周から各葉部までの最短距離(μm)を測定した。そして、単糸の中心から単糸外周までの距離(μm)に対する各葉部における単糸外周から各葉部までの最短距離(μm)の平均比率(DC(%))を次式により算出した。
DC=単糸外周から各葉部までの最短距離の平均値(μm)/単糸の中心から単糸外周までの距離(μm)×100(%)
【0101】
実施例1、比較例1,2
(中空マルチフィラメント糸の製造)
第一の樹脂として、ポリエステル樹脂(PET、極限粘度:0.65)を常法によりチップ化し、乾燥したものを用いた。このPETに対して、無機酸化物粒子として酸化チタン微粒子(TiO
2)を5.0質量%の割合となるように含有させた。第二の樹脂として、ポリエステル樹脂(PET、極限粘度:0.65)を常法によりチップ化し、乾燥したものを用いた。このPETに対して、酸化チタン微粒子(TiO
2)を0.4質量%の割合となるように含有させた。上記の第一の樹脂及び第二の樹脂であるPETに酸化チタン微粒子を含有させたものを用い、中空用紡糸口金を用いて、第一の樹脂部と第二の樹脂部との質量比(第一の樹脂部/第二の樹脂部)が75/25であって、第一の樹脂部がセグメントAを形成し、第二の樹脂がセグメントBを形成するように、紡糸温度295℃でマルチフィラメントを紡出し、3,000m/分の速度で引取ローラにて引き取り、
図1の(C)にて示すような、中空率が15%、葉部の個数が20個、ECが3%、DCが2%の中空マルチフィラメント糸(160dtex、72フィラメント)(伸度:37.2%、複屈折率:0.230)を得た。中空マルチフィラメント糸の紡糸時に切糸はなく、製糸性は良好であった。
【0102】
(仮撚マルチフィラメント糸の製造)
上記のようにして得られた中空マルチフィラメント糸に対して、表1に示した仮撚加工条件で、中空部が圧縮される(潰れる)ように仮撚加工を施して実施例1の仮撚マルチフィラメント糸を得た。一方、上記のようにして得られた中空マルチフィラメント糸に対して、表1に示した仮撚加工条件で、中空糸の中空部の圧縮(潰れ)を抑制するように仮撚加工を施して比較例1,2の仮撚中空マルチフィラメント糸を得た。実施例1の仮撚マルチフィラメント糸、及び比較例1,2の仮撚中空マルチフィラメント糸の捲縮率、及び中空率を評価に付した。
【0103】
実施例2
(中空マルチフィラメント糸の製造)
第一の樹脂として、ポリエステル樹脂(PET、極限粘度:0.65)を常法によりチップ化し、乾燥したものを用いた。このPETに対して、無機酸化物粒子として酸化チタン微粒子(TiO
2)を5.0質量%の割合となるように含有させた。第二の樹脂として、ポリエステル樹脂(PET、極限粘度:0.65)を常法によりチップ化し、乾燥したものを用いた。このPETに対して、酸化チタン微粒子(TiO
2)を0.4質量%の割合となるように含有させた。上記の第一の樹脂及び第二の樹脂であるPETに酸化チタン微粒子を含有させたものを用い、中空用紡糸口金を用いて、第一の樹脂部と第二の樹脂部との質量比(第一の樹脂部/第二の樹脂部)が75/25であって、第一の樹脂部がセグメントAを形成し、第二の樹脂がセグメントBを形成するように、紡糸温度297℃でマルチフィラメントを紡出し、3,000m/分の速度で引取ローラにて引き取り、
図1の(C)にて示すような、中空率が15%、葉部の個数が20個、ECが3%、DCが2%の中空マルチフィラメント糸(250dtex、72フィラメント)(伸度:145.8%、複屈折率:0.035)を得た。中空マルチフィラメント糸の紡糸時に切糸はなく、製糸性は良好であった。
【0104】
(仮撚マルチフィラメント糸の製造)
上記のようにして得られた中空マルチフィラメント糸に対して、表1に示した仮撚加工条件で、中空部が圧縮される(潰れる)ように仮撚加工を施して実施例2の仮撚マルチフィラメント糸を得た。なお、仮撚方式にはフリクション方式を使用し、仮撚数(D/Y):1.70、糸速500m/min、ヒーター温度330℃、延伸倍率1.60倍の加工条件で仮撚を行った。
【0105】
比較例3
(セグメントAによる葉部を有するが、中空部を有しないマルチフィラメント糸の製造)
ノズルに取り付ける紡糸口金を、中空用紡糸口金から中実用紡糸口金(断面形状が中空を有しない丸断面となるようなマルチフィラメント糸を得るための口金)に変更した以外は、実施例1と同様の操作により、中空部を有しない丸断面のマルチフィラメント糸(168dtex、72フィラメント)(葉部の個数が20個、ECが3%、DCが2%)を得た。
【0106】
(仮撚マルチフィラメント糸の製造)
このポリエステルフィラメント糸に対して、表1に示した条件で仮撚加工を施し、比較例3の仮撚マルチフィラメント糸を得た。
【0107】
比較例4
(酸化チタン微粒子が均一に分散した、中空部を有しないマルチフィラメント糸の製造)
ポリエステル樹脂(PET、極限粘度:1.38)を常法によりチップ化し、乾燥したものを用いた。このPETに対して、無機酸化物粒子として酸化チタン微粒子(TiO2)を2.0質量%の割合となるように含有させた。このPETを用い、紡糸温度295℃でマルチフィラメントを紡出し、3,000m/分の速度で引取ローラにて引き取り、中空部を有しない丸断面のマルチフィラメント糸(160dtex、72フィラメント)を得た。
【0108】
(仮撚マルチフィラメント糸の製造)
このマルチフィラメント糸に対して、表1に示した条件で仮撚加工を施し、比較例4の仮撚マルチフィラメント糸を得た。
【0109】
(織編物の製造)
それぞれ、実施例1~2及び比較例1~4で得られた仮撚マルチフィラメント糸又は仮撚中空マルチフィラメント糸を緯糸に配し、ポリエステルマルチフィラメント糸(ユニチカ株式会社製、56dtex/48フィラメント)を経糸に配して、実施例1~2、比較例1~4の各織編物を得た(平組織、経糸密度:150本/2.54cm、緯糸密度:70本/2.54cm)。各織編物において、仮撚マルチフィラメント糸及び仮撚中空マルチフィラメント糸の混用率(すなわち緯糸の混用率)は、それぞれ、58質量%とした。各織編物に対して、常法に従って精練を行い、170℃×1分の条件で熱セットの仕上げ加工を行って、遮熱性(赤外線反射率)の評価に付した。
【0110】
実施例1~2及び比較例3,4で得られた仮撚マルチフィラメント糸、比較例1,2で得られた仮撚中空マルチフィラメント糸、及びこれらを用いて得た各織編物の評価結果を表1に示す。
【0111】
【0112】
表1から理解できるように、実施例1及び2の仮撚マルチフィラメント糸は、織編物とした際の遮熱性に優れると共に、捲縮率が高いため、嵩高でバルキー性のある風合いの織編物が得られた。
図2は、実施例1の仮撚マルチフィラメント糸の断面写真である(580倍)。
図2から、実施例1の仮撚マルチフィラメント糸は、単繊維の中空部が潰れていることが分かる。
【0113】
実施例1及び2は、比較例3と比較して優れた遮熱性を示した。これは、光が仮撚マルチフィラメント糸及び該織編物を通過する際に、仮撚マルチフィラメント糸を構成している単繊維の中空部が潰れた部分(不連続部分)での反射率及び屈折現象が大きくなるためと理解することができる。また、比較例1,2が、比較例3と比較して優れた遮熱性を示した理由については、仮撚マルチフィラメント糸を構成している単繊維の中空部での反射率及び屈折現象が大きくなるためと理解することができる。
【0114】
比較例1,2においては、中空糸からなる中空マルチフィラメント糸を、中空部の潰れが抑制されるように仮撚加工条件を調整して、仮撚中空マルチフィラメント糸を得た。具体的には、仮撚加工条件において、低いヒーター温度(℃)、及び仮撚数(T/M)で加工を行った。このため、比較例1,2においては、中空部の潰れは抑制されているものの、捲縮率の低い仮撚中空マルチフィラメント糸しか得られず、織編物にした際の風合いも、嵩高性のない織編物しか得られなかった。
図3は、比較例1の仮撚マルチフィラメント糸の断面写真である(580倍)。
図3から、比較例1の仮撚中空マルチフィラメント糸は、単繊維の中空部が残っていることが分かる。
【0115】
また、比較例3においては、中空部を有しない単糸からなるポリエステルフィラメントを仮撚加工して仮撚マルチフィラメント糸を得た。比較例3は、単繊維に中空部や中空部が潰れた部分を有していないため、光の反射及び屈折現象が起こらず、実施例1及び2や比較例1,2と対比すると、遮熱性に劣る織編物しか得られなかった。
【0116】
比較例4においては、単繊維に酸化チタンを均一に分散させて、酸化チタン濃度を実施例1~2、比較例1~3と同一としたポリエステルフィラメントを仮撚加工して、仮撚マルチフィラメント糸を得た。実施例1及び2と比較した結果、比較例4は、比較例3と同様、単繊維に中空部や中空部が潰れた部分を有していないため、光の反射及び屈折現象が起こらず、実施例1及び2や比較例1,2と対比すると、遮熱性に劣る織編物しか得られなかった。
【符号の説明】
【0117】
1 単繊維
2 無機酸化物粒子の含有率X(質量%)が2<X≦10であるセグメントA
3 無機酸化物粒子の含有率Y(質量%)が2質量%以下であるセグメントB
4 葉部
5 中空部