(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-11
(45)【発行日】2022-01-24
(54)【発明の名称】窒化ホウ素ナノチューブのポリマーでの気相コーティング
(51)【国際特許分類】
C23C 14/12 20060101AFI20220117BHJP
D04H 13/00 20060101ALI20220117BHJP
D04H 1/4382 20120101ALI20220117BHJP
C23C 14/58 20060101ALI20220117BHJP
B82Y 40/00 20110101ALI20220117BHJP
【FI】
C23C14/12
D04H13/00
D04H1/4382
C23C14/58 A
B82Y40/00
(21)【出願番号】P 2019502250
(86)(22)【出願日】2017-07-20
(86)【国際出願番号】 US2017043140
(87)【国際公開番号】W WO2018017870
(87)【国際公開日】2018-01-25
【審査請求日】2020-07-14
(32)【優先日】2016-07-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2016-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】516318891
【氏名又は名称】ビイエヌエヌティ・エルエルシイ
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【氏名又は名称】山川 政樹
(72)【発明者】
【氏名】ドゥシャティンスキ,トーマス・ジイ
(72)【発明者】
【氏名】ペドラゾリ,ディエゴ
(72)【発明者】
【氏名】ホイットニー,アール・ロイ
【審査官】山田 貴之
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-507324(JP,A)
【文献】特開平04-045259(JP,A)
【文献】特表2016-519621(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0098389(US,A1)
【文献】特開2004-231457(JP,A)
【文献】特開2012-025785(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00
C23C 16/00
C01B 15/00-23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体のBNNT材料をチャンバ内の支持体上に位置決めし、
前記チャンバを加熱して第1モノマー及び第2モノマーを前記チャンバ内で蒸発させ、
前記支持体を冷却して前記第1モノマー及び前記第2モノマーの
縮合を前記
固体のBNNT材料
の表面上
で引き起
させることで官能化BNNT材料を形成することを含む、
官能化BNNTを合成する方法。
【請求項2】
前記固体のBNNT材料がBNNTパフボール、BNNT粉末、BNNTバッキーペー
パー、BNNT織繊維マット又はBNNT多孔質スキャフォールドの少なくとも1種を含
む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記チャンバが、前記第1モノマー及び前記第2モノマーの蒸発を前記チャンバ内の温
度及び圧力の調節により制御できるように構成されたクヌーセンセルを含む、請求項1
または2に記載の方法。
【請求項4】
前記第1モノマー及び前記第2モノマーがポリイミドのモノマーを含む、請求項1
ないし3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記第1モノマー及び前記第2モノマーが前記
固体のBNNT材料
の表面上にポリアミック酸フィルムを形成するように選択される、請求項1
から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記第1モノマーがジアミンを含み、前記第2モノマーが無水物ガスを含み、前記第1
及び第2モノマーは同時に前記チャンバに導入される又は前記チャンバに交互に導入され
るのいずれか一方である、請求項1
から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記官能化BNNT材料をイミド化することでポリイミドをコーティングしたBNNT
ナノ複合材料を形成することをさらに含む、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記第1及び第2モノマーがポリ(p-キシレン)のモノマーを含む、請求項1
から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記堆積チャンバは、ジ-p-キシレンからp-キシレンモノマーを製造するための気
化及び熱分解チャンバに連結される、請求項1
から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記官能化BNNT材料を所望の形状因子にし、前記官能化BNNT材料を圧縮して不
織マットを形成することをさらに含む、請求項1
から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記官能化BNNT材料を非溶媒溶液に懸濁させることをさらに含み、前記非溶媒溶液
が、金属、セラミック及びポリマーマトリックス材料の少なくとも1種を含む、請求項1
から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
多孔質不織マットを形成するために、前記官能化BNNT材料の真空濾過及び前記官能
化BNNT材料の流延の少なくとも一方をさらに含む、請求項
1から11
のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
ナノ粒子を前記官能化BNNT材料内に吸収させることをさらに含む、請求項1
から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記ナノ粒子が、医薬品、金属、セラミック及び半導体材料の1種以上を含む、請求項
13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本願は2016年7月20日に出願の米国仮特許出願第62/364490号及び2016年11月29日に出願の米国仮特許出願第62/427506号に関連し、これらの出願の内容は参照により本願に明示的に援用される。
【政府からの助成に関する陳述】
【0002】
なし
【技術分野】
【0003】
本開示は官能化BNNT、特には蒸着ポリマー材料及び無機ナノチューブ、特には窒化ホウ素ナノチューブ及びポリイミド、ポリ-p-キシルキシレンの形成に関する。
【背景技術】
【0004】
窒化ホウ素ナノチューブ(BNNT)を取り入れたポリマー材料は、例えば高い強度、良好な電気絶縁性、潜在的に低い誘電率及び良好な伝熱性を含めたその向上した特性ゆえに望ましい。しかしながら、典型的にはそのBNNT含有量は比較的少なく、ポリマー/BNNT複合フィルムの場合、フィルム厚は典型的には50μmより厚くなる。BNNT含有量が少なくそのように比較的分厚いフィルムでは複合材料の有用性は限られてしまい、結果的に用途も限定されてしまう。一般に、用語「薄膜」及び「薄いウェハ」とは約50μm以下の膜厚を有する複合材料を指し、緻密で及び/又は堅く締まっている。一方、メッシュフィルムは一般に、堆積時は多孔性である。典型的なポリイミドフィルムは、BNNTと複合化させるポリアミック酸(PAA)の共蒸着により製造する。ポリマーの分布が不均質になるため、充填量が約40重量%を超えると得られる材料の構造的完全性は失われてしまう。したがって、より高いフィルム均一性及び均質性、また膜厚をより良好に制御できることが望ましい。
【0005】
本明細書で説明するように、PAA前駆体を蒸着させることで、均質な気体の表面吸着及び鎖の重縮合が可能になる。商業的な方法では、極性非プロトン性溶媒においてジアミン及び二無水物モノマーを溶媒和させることで縮合反応により中間生成物であるPAAを生成し、続く堆積及びイミド化工程により複合材料を創り出す。BNNT/ポリイミド複合材料の溶液での形成には、ナノチューブの長いフィブリル特性により前駆体材料の粘性を高くしすぎる高品質BNNT及び似通った構成要素の集塊化により引き起こされる複合フィルムの不均質性に起因する大きな課題がある。
【0006】
電子機器業界ではパリレン(ポリ-p-キシルキシレン)コンフォーマルコーティングが防湿保護材として利用されている。したがって、BNNT表面をパリレンでコーティングすることが望ましいと言える。BNNTのパリレンでの表面コーティングは構造用及び伝熱性複合材料、また高多孔質膜に応用できる。この方法では典型的にはジ-p-キシレンを175℃前後で気化させ、ジ-p-キシレンは熱分解炉(600-700℃)に送られ、p-キシレンモノマーへと変化し、堆積チャンバに送られる。ポリ-p-キシレンは、モノマーの反応に伴って面上で縮合し、コンフォーマルコーティングとなる。チューブ表面上に高品質のコーティングを形成できるため、バッキーペーパー上にコーティングを事前に形成することで、膜として機能的な独自のナノ複合材料が創り出される。さらに、ポリ-p-キシレンをコーティングしたナノチューブは様々な溶解特性及びポリマーマトリックスとの界面を有する。
【発明の概要】
【0007】
本開示では、窒化ホウ素ナノチューブ(BNNT)-ポリアミック酸(PAA)、ポリイミド(PI)及びポリ-p-キシレン(PX)複合材料並びに他の熱可塑性及び熱硬化性複合材料の製造方法、さらに特にはBNNT含有量が高いBNNT-PX、PI及びPAAナノ複合材料の製造方法について説明する。本明細書に記載の方法により、約100nm-約100μm(及び場合によってはそれを超える)の薄膜を製造し得て、BNNT表面上に薄膜コーティングを形成するのに特に適している。得られる官能化BNNTには幅広い有益な用途がある。これらのフィルムは、単なる例ではあるが、他の有益な用途の中でも、電子回路の層及びX線窓にとって有用である。概して、本アプローチではポリマー材料をナノチューブ、特にはBNNT上に化学蒸着(CVD)させる。当業者ならば、開示の実施形態の変化形が想定され、またその変化形は本アプローチから逸脱することなく成し得ることが理解するはずである。CVD工程はBNNT材料のモノマーでのコーティングに用い得て、BNNT材料とは、例えば、BNNTパフボール、BNNT粉末、BNNTバッキーペーパー、BNNT織繊維マット、BNNT繊維、BNNT多孔質スキャフォールド又はBNNT高密度ウェハの1種以上になり得る。一部の実施形態においては、重合及びイミド化を起こすために1つ以上の加熱ステップを行い得て、BNNT上にPIコーティングが形成される。気相法におけるPAAを構成するモノマーからPAAへの熱遷移温度は170℃又はこの温度前後である。さらなる熱化学的遷移は、イミド化反応におけるPAA鎖の環化において約270℃で起きる。結晶化度及び鎖長は、1-100℃/分で段階的に加熱し、反応を最適化するために熱を一定にすることで調節し得る。他の熱硬化性ポリマーも同様の挙動を示す。
【0008】
同様に、PXは、PX前駆体を気化させるためのチャンバを有するシステムで堆積させ得る。前駆体はモノマーに熱分解し得て、調節した温度及び圧力によりモノマーはBNNT表面上でPXとして縮合する。この方法ではジ-p-キシレンを約175℃で気化させ、次に材料を熱分解炉(約600-約700℃)に送り得る。次に、材料はp-キシレンモノマーへと変化し、堆積チャンバに送り得る。ポリ-p-キシレンは、モノマーの反応に伴って面上で縮合し、コンフォーマルコーティングとなる。表面はチャンバ内のBNNT材料を含み得る。BNNT材料は、例えば、BNNTパフボール、BNNT粉末、BNNTバッキーペーパー、BNNT織繊維マット、BNNT繊維、BNNT多孔質スキャフォールド又はBNNT高密度ウェハの1種以上になり得る。一部の実施形態において、BNNT材料は温度制御された構造体、例えばスキャフォールドにより支持され得る。
【0009】
高品質BNNT、すなわち壁、欠陥が殆どなく、長さ対直径が典型的には10000を超え(高アスペクト比)、直径が10nm未満で高い結晶性を有し、触媒を含有しないBNNTを利用することで、電気絶縁性で伝熱性の層として電子回路において有用な、またX線、真空紫外線用の薄い窓、多孔質膜等、装置として有用なBNNT-PI及びBNNT-PXを創り出すことができる。
【0010】
本アプローチの実施形態により官能化したBNNTは多数の有利な用途を有することを理解されたい。PI、PAA及びPXで表面コーティングしたBNNTは非溶媒中に懸濁させ、熱可塑性及び熱硬化性物質に複合化させ、エポキシ、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリイソプレンマトリックスに複合化させ、パーツ、シート、コーティング及び接着剤に形成することができる。本アプローチではさらに、劇的により均一で均質な薄膜コーティングを得ることができる。
【0011】
官能化BNNTの合成方法の実施形態を開示する。概して、BNNT材料はチャンバ内の支持体上に位置決めする。この支持体は温度制御し得るため、支持体温度はチャンバ温度とは独立して制御し得る。チャンバを加熱することでチャンバ内でモノマーを蒸発させ、モノマーをBNNT材料上に蒸着させ得る。この支持体を冷却することでBNNT材料上でモノマーを縮合させ、官能化BNNT材料を形成し得る。冷却は、特定のモノマーを縮合させ、他のモノマーは気相のままとなるように選択的に設定し得る。BNNT材料は最初、BNNTパフボール、BNNT粉末、BNNTバッキーペーパー、BNNT織繊維マット又はBNNT多孔質スキャフォールドの少なくとも1種の形態をとり得る。
【0012】
一部の実施形態において、堆積チャンバは、第1モノマー及び第2モノマーの蒸発をチャンバ内の温度及び圧力の調節により制御できるように構成されたクヌーセンセルになり得る。一部の実施形態において、堆積チャンバは、ジ-p-キシレンからp-キシレンモノマーを製造するための気化及び熱分解チャンバに連結し得る。
【0013】
一部の実施形態は2種以上のモノマーを用いることを特徴とし得る。これらのモノマーはポリイミドのモノマーになり得る。一部の実施形態において、第1モノマーは無水物になり得て、第2モノマーはジアミンになり得る。第1及び第2モノマーはポリ(p-キシレン)のモノマーを含む。別の例として、第1モノマー及び第2モノマーは、BNNT材料上にポリアミック酸フィルムを形成するように選択し得る。さらに別の例として、第1モノマーはジアミンになり得て、第2モノマーは無水物ガスになり得る。第1及び第2モノマーは同時にチャンバに導入し得て、あるいはチャンバに交互に導入し得る。例えば、第1及び第2モノマーを交互にチャンバに導入し、第1及び第2モノマー間の切り換えサイクルは約100ヘルツ未満である。必要に応じて、最初はモノマーを同時に導入し、後にモノマーを交互に導入し得る。同様にその逆も考えられる。求める結果に応じて、本工程は約1時間にわたって継続し得る。一部の実施形態においては、官能化BNNT材料をイミド化することで、ポリイミドをコーティングしたBNNTナノ複合材料を形成し得る。
【0014】
当然のことながら、選択したモノマーは所望の速度でチャンバに供給し得る。例えば、p-キシレンの供給速度はジ-p-キシレンの気化速度により制御し得る。官能化BNNT材料に関し、ポリ-p-キシレンをコーティングしたBNNTは表面修飾ナノチューブとして機能し得る。また、ポリアミック酸及びポリイミドをコーティングしたBNNTは表面修飾ナノチューブとして機能し得る。官能化BNNT材料は所望の形状因子に加工し得る。例えば、官能化BNNT材料を圧縮して不織マットを形成し得る。別の例として、官能化BNNT材料は非溶媒に懸濁させ得る。この非溶媒溶液は、金属、セラミック及びポリマーマトリックス材料の少なくとも1種を有し得る。追加の加工は、以下に限定するものではないが、官能化BNNT材料の真空濾過及び官能化BNNT材料の流延による多孔質不織マットの形成を含み得る。
【0015】
所望の最終用途に応じて、1種以上のナノ粒子を官能化BNNT材料内に吸収させ得る。ナノ粒子は、医薬品、金属、セラミック及び半導体材料の1種以上を含み得る。ナノ粒子は、光子を含めた電磁放射線又は核放射線により活性化できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本アプローチの実施形態による、PAA及びポリ-p-キシレンをBNNTマットに堆積させるための反応チャンバを示す。
【
図2】ポリイミドが生成されるジアミンと二無水物との一般的な反応、官能化BNNT-PAA及びBNNT-PI材料の製造に用いる一般的な官能基を備えた二無水物及びジアミンの基本化学構造を示す。
【
図3】パラ-キシレンに分解し、次に堆積チャンバにおいてポリ-パラ-キシレンとして縮合するジ-パラ-キシレンの一般的な反応を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本アプローチ下で官能化されたBNNTは多数の有益な用途を有する。例えば、電気的絶縁及び伝熱性を必要とする用途では、窒化ホウ素ナノチューブ(BNNT)及びポリイミド(PI)及びポリ-p-キシレン(PX)の結晶性が高く熱的に安定した複合材料にはメリットがある。例にはシングルダイオードを有する電子回路及び10億素子規模の電子集積回路、膜及び低エネルギーX線窓が含まれる。他の用途には、シリコンウェハ結合材、プリント回路基板用の基体並びに回路基板及び電子部品用のヒートシンクコーティングが含まれる。これらは、ナノ複合材料を形成するために気相法により表面をコーティングしたBNNTの多数の潜在的な用途の例にすぎない。用語「ナノ複合材料」とは一般的には、ポリマーの表面吸着によりその直径が変わる、ポリマーで表面をコーティングしたナノチューブのことである。BNNT及びPIの独立型ナノ複合材料の特性は、BNNTの安定化効果に起因する向上した伝熱特性から高く評価されている。同様に、PXは、BNNT上にコーティングした場合、表面が安定化され、化学的により低活性である。PX/BNNTナノ複合材料はポリエチレン膜の代替物である。そのような官能化BNNT及びその合成方法の実施形態については後述する。当然のことながら、具体的に開示した実施形態からの逸脱は、本アプローチから逸脱することなく成し得る。
【0018】
ポリマー処理のために面上に置く前に、BNNTは精製ステップに供し得る(本明細書に記載のいずれの方法であっても)。BNNTの精製は、ホウ素、非晶質窒化ホウ素及び六方晶窒化ホウ素微粒子を除去するための制御されたpH又は分光学的その場分析を伴う酸処理を含み得る。これらの不純物は高い誘電性能も有するが、その熱的特性は散逸的な用途には有益ではない。したがって、最初のBNNT材料の精製は以下の方法を含み得る。硝酸又は他のオキソ酸及び超強酸等の酸を使用し得る。加えて、酸の温度は、活性領域、具体的にはBNNTの結晶端及び不純物での反応速度を上昇させるために、例えば30-200℃等の高い温度になり得る。酸処理に続いて、例えば脱イオン水での充分なすすぎによる生成物の中和及びさらなる酸化反応の防止、また酸化成分の除去を行い得る。BNNTの精製はさらなるステップ、例えば米国仮特許出願第62/427506号(参照により全て本願に援用される)に記載のものを含み得る。例えば、精製では、不要なホウ素及び窒化ホウ素を酸素飽和ボレートへと変化させるための酸素原料を必要とし得る。同時に、水素原料はボレートを、高い処理温度で昇華する水素ボレートへと変化させる。
【0019】
現行の方法では、BNNT含有量が少ないため、BNNT上には伝熱性が不十分なフィルムが形成される。本アプローチでは、BNNTをベースとしたPI及びPX複合材料の合成方法を提供する。本明細書で説明するように、これらの多段階法を用いてBNNT-PI及びBNNT-PX複合材料を合成し得て、またポリマーマトリックスにおけるBNNT密度の低さという制限を克服し得る。得られる官能化BNNTは多数の有利な用途を有する。
【0020】
概して、本アプローチの実施形態は最初のBNNT材料を必要とする。このBNNT材料は、BNNTパフボール、BNNT粉末、BNNTバッキーペーパー、BNNT織繊維マット又はBNNT多孔質スキャフォールドの少なくとも1種を含む。BNNT材料は、例えば、BNNTの壁との表面相互作用に抵抗できる基体上への薄膜の堆積、精製した窒化ホウ素ナノチューブの粉末形態若しくは多孔質スキャフォールドへの凍結乾燥、圧縮による窒化ホウ素ナノチューブのペレット化又はBNNT懸濁液のバッキーペーパーへの蒸着若しくは真空濾過により用意し得る。これらのBNNT形状因子は、モノマーガスのBNNT材料全体への浸透に適した多孔度を維持しており、またナノチューブの均質な表面コーティングを可能にする。十分な多孔性を有するならば、他のBNNT材料でもよい。BNNT形状因子の形成過程では典型的にはBNNT表面上に有機残留物等の不純物が残る。熱処理を行うことでBNNT表面上の残留溶媒を除去し得る。熱処理の間隔及び温度は実施形態に応じて異なり得るが、概して溶媒のタイプ及び気化熱に左右される。基体はBNNTの壁と相互作用するため、BNNTの薄膜用の基体は接着又は剥離特性が最適化されるように選択し得て、用途及び続く製造技法に左右される。堆積/濾過及び良好な剥離のために推奨される基体には、例えば、ドープしていないシリケート、アルミニウム、シリコン及びnドープシリコン及びアルミニウム酸化物ウェハ及びフィルタが含まれる。BNNT-PI及びBNNT PX複合材料を基体から除去する場合、pドープ官能化及びポリマー材料は剥離に最適とはならない可能性がある。最終的なBNNT-PI及びBNNT-PXフィルムが基体上に留まるならば、基体材料はフィルムの基体への接着性が最適となるように選択し得る。例えば、ホウ素ドープシリコンはリンドープシリコンより高い接着性を有する。一部の実施形態において、基体は、ロール・ツー・ロール剥離並びに低い摩擦及び機械的障害を必要とする他の技法で100nm未満の二乗平均平方根(RMS)粗さを有し得る。一般には、走査トンネル顕微鏡法(STM)、原子間力顕微鏡法(AFM)及び表面プロフィルメータ装置を使用して表面形状を測定する。RMS粗さとは、走査した二次元面の表面高さの平均分散であり、測定された変数は表面高さに対応するz軸である。BNNT-PI及びBNNT-PXをカレンダリングするための基体は、250℃を超える融点を有していなくてはならない。
【0021】
BNNT材料はコーティングに先立ってさらに加工し得て、これは特定の形状因子にとって有用となり得る。例えば、凍結乾燥による粉末化又はバッキーペーパーとしての堆積及び溶媒の除去に続いて、得られるBNNTマットをカレンダリングに供することでその厚みを減少させ得る。一部のBNNT合成法ではBNNTパフボール形状因子を製造し、これらも使用し得る。カレンダリング面はnドープシリコン又は同様の材料になり得て、工程中、カレンダリングステップ後に除去可能である。カレンダリング工程では堆積させたフィルムを圧縮して密度を上昇させ、多孔度を低下させる。材料が集塊化した場合に起きるフィブリル化のため、元来のパフボール等の表面積が広い形状因子の清潔で精製されたナノチューブ上にBNNT上ポリマーナノ複合材料を作製することが好ましい。液圧及び機械プレスでもって様々なレベルの圧縮を達成できる。BNNTのバンドギャップは約5.7eVである。改善された誘電特性は、多孔性の改善により達成することができ、例えば電気絶縁性である空隙領域をより多く有する堆積したままのフィルムにおけるものである。しかしながら、より密度の高いBNNTフィルムはより高い伝熱性を有する。カレンダリング工程により、基体面でのBNNTの面内アライメントも部分的に起き得る。
【0022】
様々な形状因子のBNNTはPAAを構成するモノマー、PAA、ポリ-キシレンを構成するモノマー又はポリ-キシレンと複合化し得る。本明細書に記載の実施形態ではBNNT材料にモノマーを表面吸着させ、次にさらに熱化学的工程に供することでBNNT複合材料を合成させ得る。一部の実施形態においては、この方法を用いてBNNT-PI又はオルト、メタBNNT-ポリ-x-パリレン複合材料のスルホン化変化形を合成し得る。一部の実施形態において、堆積はBNNTの多孔質薄膜上に成され、続いてカレンダリングを行う。他の実施形態において、モノマーの堆積は、事前にカレンダリングしたBNNT薄膜上に行い得る。
【0023】
BNNT材料の堆積後、BNNT材料を、PAA又はPXとなるモノマーでの気相での表面処理に供し得る。気相でのモノマー堆積によりフィルムの均一性及び均質性は劇的に改善され、調節すれば、薄膜及び超薄膜を堆積することもできる。これらの工程は、例えばクヌーセンセル、あるいは気体材料がチャンバを満たし且つ基体上のBNNT上で縮合させることができるようなセルにおいて行い得る。Spassovaは、CVDを利用してPAA、さらにはPIを合成する方法について記載している。Spassova,E.”Vaccuum deposited polyimide thin films”,Vacuum.70,pp.551-61,(2003)を参照のこと。しかしながらSpassovaはシリカシート等の物品をPIでコーティングするためにCVD法を行っているだけである。Spassovaの方法ではナノスケールのコンフォーマルコーティングを施しておらず、本アプローチで教示しているような官能化BNNTの形成には不十分な可能性がある。
【0024】
本アプローチの方法では、異なるモノマーを、BNNTパフボール、BNNT粉末、BNNTバッキーペーパー、BNNT織繊維マット又はBNNT多孔質スキャフォールドの形状因子を含めたナノチューブ上に均一に堆積させることができる。
図1は改造したクヌーセンセル11の一実施形態を描いたものであり、基体13上に適用されたBNNTマット12を収容している。ホルダ16は、セル11内のBNNTマット12及び基体13を支持する。典型的には、セル11は始動時に真空状態にされ、工程中、部分圧で維持される。CVD処理中、
図2及び3で論じるPAA及びPXモノマー構成要素、例えばODA14、PMDA15を加熱することでモノマーをクヌーセンセル11又は熱分解炉(図示せず)内へと蒸発させる。モノマーは同時蒸発させ得て、あるいは所望の速度でもって交互に蒸発させ得る。例えば、一部の実施形態では第1モノマーと第2モノマーとの間の切り替えサイクル約100ヘルツ未満になり得る。当然のことながら、モノマーは本アプローチから逸脱することなく変更し得る。クヌーセンセル11の温度は、クヌーセンセル11の壁でのモノマーの縮合又は集積を防止するのに十分な高さでなくてはならない。基体13はモノマー17及び18の重縮合と基体13及びBNNTマット12上での集積を引き起こすのに十分な低さの温度で保持し得る。支持体又はホルダ16を加熱することでクヌーセンセル11の温度と同様の温度を維持し、ホルダ16の上面を若干冷却することで基体13及びBNNTマット12上でのモノマー17及び18の縮合/集積を引き起こし得る。加熱及び冷却ループ110及び111を使用してホルダ16及び基体13を加熱及び冷却することで、モノマー17及び18を基体13及びBNNTマット12面上でのみ集積させ得る。代替の実施形態では熱電気素子を用いてホルダ16及び基体13の加熱及び冷却を行い得る。BNNTマット12全体に温度勾配を作り出すために赤外放射素子19が存在し得る。温度勾配によりモノマー17及び18の優先的集積を制御し得るため、例えばモノマー17及び18はBNNTマット12の基体13側からBNNTマット12を経て、最終的にBNNTマット12の外側(例えば、上部)に優先的に集積する。一部の実施形態において、基体13、BNNTマット12、ホルダ16及び赤外線ヒータ(存在する場合)は逆にし得るため、CVD工程は上向きではなく下向きに進行し、
図1に示す構成で起き得る。一部の実施形態において、基体13、BNNTマット12、ホルダ16及び関連する支持体(図示せず)、加熱及び冷却部品は、BNNTマット12の表面領域全体にわたってCVD工程が均一に行われるようにと回転又は振動させ得る。当然のことながら、BNNT材料(例えば、形状因子)は、本アプローチから逸脱することなく、
図1に示すマット12とは異なるものになり得る。
【0025】
一部の実施形態において、本工程で用いるODA14及びPMDA15モノマーの量は概して同一モル値であり、あるいはジアミンに対して二無水物がわずかに過剰であり(例えば、52:48 w:w)、所望のレベルのCVDをBNNTマットに行うように制御される。一部の実施形態においては、追加のモノマー薄層を含め、モノマー17及び18の薄層を形成するための追加の材料も含み得る。一部の実施形態において、モノマー17及び18のこの追加の薄層は(例えば、同一モノマーになり得る又は新たなモノマーになり得る)はBNNTマット12の外層全体に堆積する。外層用の追加の材料は、滑らかで化学的に均質な最終面を形成するのに望ましいものになり得る。相対的なモノマー量を調節することで、所望の最終生成物を生みだし得る。一部の実施形態においては、この追加層は医療用途、金属基又は量子ドットを面上で作り出すための半金属、触媒作用を有し得る分子又は原子及び光子を含めた電磁放射線又は核放射線により励起し得る分子又は原子になり得る分子を含んだ異なる化学組成のものになり得る。一部の実施形態において、元々の層及び考えられる追加層の両方に関するモノマーは周期的に導入し得て、モノマーの相対蒸気圧は時間と共に変化し、セルの壁の温度は時間と共に変化し、BNNTマットを保持しているスキャフォールドの温度及び温度プロファイルは時間と共に変化する。CVDの当業者ならば、システムの構成要素の全ての時間、温度及び圧力の全てがCVD工程に影響することがわかる。
【0026】
PAAモノマー14及び15をBNNTマット12のBNNT及び外側コーティング(存在する場合)上に集積させるためのCVD工程に続いて、カレンダリングを用いることで、モノマー17及び18が集積しているBNNTマット12の膜厚を小さくし得る。モノマー処理の前に及びPAAを構成するモノマーを100-250℃でPAAに変換する前にBNNTマットをカレンダリングすることが考えられる。次に、熱処理を用いることでBNNTマット12全体に、重合及びイミド化工程によりPAA中間体及び最終的なPIを生成し得る。PAAを構成するモノマーの重要な熱遷移(熱化学反応)は100-200℃(二無水物及びジアミンモノマーの重縮合)であり、PAAのイミド化に関しては220-300℃である。例えば、一部の実施形態において、熱処理は100-300℃の間の、1-100℃/分の間隔で行い得て、PI分子量及び結晶粒度の改善を含めた最適化のために所望の温度で保持する。一部の実施形態において、最終的なBNNT-PIフィルムは、ロール・ツー・ロール加工、コンタクトレジスト剥離及び方法を問わず堆積面からフィルムを洗い流して除去する実施形態を通して剥離し得る。
【0027】
BNNT上のPXコーティングは同様のやり方で合成し得る。当然ながら、出発モノマーは異なる。PXは典型的には二量体原料、例えばオルト、メタ又はパラキシレン、アレーン置換物から堆積される。キシレンモノマー原料の調製で最も一般的な原料はジ-パラ-キシレンである。PXモノマーは、40-200℃で二量体を気化させ、400-700℃の熱分解炉内へと送ることで調製する。熱分解後、モノマーは使用した二量体のモノマーとして存在する。モノマーは堆積チャンバ内の面上で縮合し、アレーン官能基は原料と同じままである。
【0028】
基体から除去するBNNT-PI、BNNT-PAA及びBNNT-PXフィルムの場合、レジストを利用し得る。レジストとは、所望のフィルム又は他の形状因子を得るための、除去が容易な薄膜加工に望ましい材料と定義される。一部の実施形態のレジストは、すすいで簡単に除去できるように溶媒和し得る。これらの方法では、溶媒又は酸溶媒和を介してエッチングし得るポリマー又は金属フィルムについて述べる。例えば、カレンダリング工程ではアルミニウムフィルムを用い得て、続いて例えばリン酸により除去し、すすぎを行うと、カレンダリングされたBNNTウェハが残る。一部の実施形態において、モノマー熱処理、モノマーをPAAに変換する処理はBNNTフィルムの濾過膜上への単離及び乾燥後に行うことができる。モノマー処理用の基体及び酸処理用の支持体は実施形態によって異なり得て、また膜が最終的なBNNT-IPフィルムの一部となるか否か、あるいは膜がBNNT-PIフィルムから除去されるかに左右され得る。一部の実施形態において、BNNT-PIフィルムに留まる濾過膜は200℃を超える融点を有する材料から形成し得て、また極めて高い酸安定性を有する。そうでないと、得られるBNNT-PIフィルムを濾過膜が汚染する可能性がある。この方法では、上述した実施形態と比較して、ポリイミド含有量が著しく低下し得る。しかしながら、基体からフィルムが綺麗に剥離するようにBNNTを結合させることを目的として、一部の実施形態においてはモノマー処理後にカレンダリングを用い得る。
【0029】
図2は、PAA及びPIを調製するための化学的過程を示す。ジアミン及び二無水物の反応は
図2.1のように進行する。本明細書に記載の方法の実施形態は、異なるR基に基づいたジアミン及び二無水物モノマーの変化形を含み得て、例えばそれぞれ
図2.2、2.4及び2.3、2.5に示す例である。他の実施形態では他のR基を利用し得る。
図2.1は、PIのモノマー及びPI最終化学構造脱水重合反応を示す。
図3は、PXを調製するための化学的過程を示す。
【0030】
溶媒へのモノマーの溶解並びにPAA及びPXを構成するモノマーの蒸着を含む技法では、反応セルにおいてモノマーを前処理して含水量を低下させることを必要とし得る。水はPAA鎖の発達を終結させてしまい望ましくない。モノマーの脱水は、不利益な終結を削減するために、分散又はモノマー処理に先立って行い得る。
【0031】
概して、気相CVDでは、湿式化学法の場合よりPX、PAA中間体及びPI最終生成物の鎖が長くなる。蒸着はPAA又はPAAを構成するモノマーの液相堆積より好ましいが、これはPI鎖を高密度及び高結晶化度で合成するためには無水環境が好ましいからである。熱処理により、最適に化学的に安定した結晶化度の上昇を通して、最終生成物のエネルギーが低下し、結晶化度の高いBNNT-PI複合フィルムが得られる。BNNT-PI複合材料の結晶化度が高いと伝熱性が高くなるため、結晶化度を高めることで結晶粒度及びフォノン移動性を上昇させるフォノンチャネルの改善を通して伝熱性が最適化されることを理解されたい。加えて、BNNTの側壁はPAAの発達を促す結晶テンプレートとして機能するため、BNNT表面に沿ってPAA鎖長は長くなる。
【0032】
CVDにより、PIになるモノマーと同様のやり方で他のポリマーを堆積させ、BNNTと複合化させ得る。本明細書に記載の温度レベル及び温度勾配(温度差はマットの一方を冷却し、マットのもう一方を加熱することでBNNT層全体に作り出す)を用いることでBNNT層全体にわたっての堆積速度、またポリマーの最終表面コーティングの堆積速度を制御できる。真空下又は減圧下でのカレンダリングを利用することで空隙を減少させることもできる。
【0033】
基体面内及び面外でのBNNTのアライメントは、伝熱性の向上にとって重要である、所望の熱散逸パラメータに応じて、フォノン経路として十分に機能するようにチューブの配向は調節される。BNNTマットの配向は典型的にはランダムであり、面外伝熱には十分であると考えられ、カレンダリングしたBNNTは面内伝熱の場合、面内を向く。加えて、BNNTは化学的に不活性な支持材料であり、カプセルとしても機能し得る。BNNT内の空洞はナノ粒子、例えば医薬品、金属、セラミック及び半導体ナノ粒子等を吸収し、そのようなナノ粒子を化学分解から保護できる。BNNTは溶媒を速やかに吸収するため、ナノ粒子を溶媒に分散させるとナノ粒子はナノチューブに吸収される。BNNT全体をPX又はPIで封入することで、分解される可能性があり且つ生体適合性ポリマーから構成され得る、あるいは生体適合性になるようにさらに官能化させ得る種を閉じ込めることができる。
【0034】
本アプローチで説明した方法は、その趣旨又は本質的な特徴から逸脱することなく、他の特定の形態で具体化し得る。したがって、開示の実施形態は全ての点において例示と見なされるべきであり、これまでの説明により限定されるものではない。