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特許7007796ABL遺伝子増幅用プライマー、核酸増幅方法及び核酸増幅用キット
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  • 特許-ABL遺伝子増幅用プライマー、核酸増幅方法及び核酸増幅用キット 図1A
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-12
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】ABL遺伝子増幅用プライマー、核酸増幅方法及び核酸増幅用キット
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/11 20060101AFI20220203BHJP
   C12Q 1/6844 20180101ALI20220203BHJP
【FI】
C12N15/11 Z ZNA
C12Q1/6844 Z
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2016208695
(22)【出願日】2016-10-25
(65)【公開番号】P2018068140
(43)【公開日】2018-05-10
【審査請求日】2019-05-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000141897
【氏名又は名称】アークレイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】細見 敏也
【審査官】松原 寛子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第101624623(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第102827935(CN,A)
【文献】国際公開第2014/115779(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/09
C12Q 1/6844
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ABL遺伝子のmRNAと相補的な核酸を増幅するための、下記(a)又は(b)から選択されるいずれか1つのフォワードプライマーであって、配列番号1~配列番号6のいずれか1つの塩基配列からなるオリゴヌクレオチドであるフォワードプライマー:
(a)配列番号1の(21-m)位~35位の塩基配列からなり、mは0~20の整数であるオリゴヌクレオチド、
(b)配列番号2の(18-n)位~32位の塩基配列からなり、nは0~17の整数であるオリゴヌクレオチド。
【請求項2】
請求項1に記載フォワードプライマーを用いて、ABL遺伝子のmRNAを鋳型として逆転写反応によって得られた核酸を増幅することを含む、核酸増幅方法。
【請求項3】
(1)請求項1に記載のフォワードプライマーを用いてABL遺伝子のmRNAと相補的な核酸の増幅を行うこと、及び、
(2)(1)により得られる増幅産物とは異なる増幅産物を得るためのプライマーセットを用いて核酸増幅を行うこと、
を含む核酸増幅方法。
【請求項4】
前記(1)に記載の核酸増幅が、前記(2)に記載の核酸増幅の内部標準として行われる、請求項3に記載の核酸増幅方法。
【請求項5】
前記(1)及び(2)に記載の核酸増幅を一反応液中で行う、請求項3又は請求項4に記載の核酸増幅方法。
【請求項6】
前記(2)に記載の核酸増幅が、WT遺伝子のmRNAを鋳型として逆転写反応によって得られた核酸を増幅するものである、請求項3~請求項5のいずれか一項に記載の核酸増幅方法。
【請求項7】
請求項1に記載のフォワードプライマーを含む、キット。
【請求項8】
(1)請求項1に記載のフォワードプライマー、及び、
(2)(1)により得られる増幅産物とは異なる増幅産物を得るためのプライマー、
を含む請求項7に記載のキット。
【請求項9】
前記(2)のプライマーが、WT遺伝子のmRNAを鋳型として逆転写反応によって得られた核酸を増幅するためのものである、請求項8に記載のキット。
【請求項10】
前記(2)のプライマーが、配列番号17の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドであるフォワードプライマー、及び/又は、配列番号18~配列番号20のいずれか1つに記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドであるリバースプライマーを含む、請求項9に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ABL遺伝子増幅用プライマー、核酸増幅方法及び核酸増幅用キットに関する。
【背景技術】
【0002】
核酸増幅を行う際には、核酸増幅が正常に行われたか否かをモニターするために、常時発現しており発現量に変動が少ないハウスキーピング遺伝子と称される遺伝子を標的とする核酸増幅を、内部標準として行うことがしばしば行われる。発現量を調べるために核酸増幅を行う場合には、内部標準とする遺伝子の選択は非常に重要である。特にリアルタイムPCR(polymerase chain reaction)など、定量値を得るための核酸増幅を行う場合には、内部標準によって補正を行うことによってより正確な定量値を得ることができる。一方、適切でない内部標準を選択した場合には、定量値に大きな誤差を生じる結果となる。
内部標準として用いるハウスキーピング遺伝子としては、特許文献1において用いられているGAPDH(glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase)遺伝子の他、ベータアクチン遺伝子等が多く用いられている。特許文献1においては、ウィルムス腫瘍-1(WT1)遺伝子mRNAの発現量定量の内部標準としてGAPDHが用いられている。
【0003】
しかし、近年では核酸増幅の高感度化が進み、GAPDHやベータアクチン等の従来用いられて来たハウスキーピング遺伝子は、組織や細胞の活動性の相違による発現量の相違があり、発現量は一定ではないことが明らかになってきた。
そこで、より発現量の変動が少ない内部標準が求められていた。
【0004】
非特許文献1及び非特許文献2においては、より発現量の変動が少ない内部標準としてABL遺伝子(Abelson murine leukemia virus gene)が用いられている。非特許文献1では、白血病患者の診断や微小残存病変のモニタリングに利用するWT1遺伝子mRNA発現量の定量において、内部標準として用いる遺伝子を検討した結果、ABL遺伝子が適切な内部標準として推薦されている。非特許文献2では、急性白血病(AML)患者の末梢血や骨髄から採取した試料のWT1遺伝子mRNA発現量を、リアルタイム定量PCR法によって検出及び定量している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開公報WO2014/115779号
【非特許文献】
【0006】
【文献】Leukemia、Vol.17、2003、pp2474-2486
【文献】Journal of Clinical Oncology、Vol.27、No.31、2009、pp5195-5201
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
発明者は、非特許文献1及び非特許文献2においてABL遺伝子mRNAを鋳型として逆転写反応により調製された核酸(つまり、cDNA)の増幅に用いられているプライマーが、反応液中に微量であってもゲノムDNAが存在している場合には、ゲノムDNA上のABL遺伝子も増幅することを見出した。ゲノムDNA上のABL遺伝子の増幅は、少量であれば臨床的な使用に影響はないと考えらえるが、ある程度の増幅が行われれば結果に誤差を生じる。被験試料が、RNA抽出を経たものであっても微量のゲノムDNAが混入することは考えられ、高感度の検出系ではゲノムDNAの混入が検出の信頼性上の問題となる。
そこで、本発明は、ゲノムDNA上のABL遺伝子の増幅が少なく、かつ、ABL遺伝子mRNAのcDNAを効率良く増幅するABL遺伝子増幅用プライマーを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題は以下の手段により解決することができる。
<1> 下記(a)又は(b)から選択されるいずれか1つのABL遺伝子増幅用フォワードプライマー:
(a)配列番号1の(21-m)位~35位の塩基配列からなり、mは0~20の整数であるオリゴヌクレオチド、
(b)配列番号2の(18-n)位~32位の塩基配列からなり、nは0~17の整数であるオリゴヌクレオチド。
<2> mが10~20の整数であり、nが7~17の整数である、<1>に記載のABL遺伝子増幅用フォワードプライマー。
<3> 配列番号1~配列番号6のいずれか1つの塩基配列からなるオリゴヌクレオチドである、<1>又は<2>に記載のABL遺伝子増幅用フォワードプライマー。
<4> <1>~<3>のいずれか1つに記載のABL遺伝子増幅用フォワードプライマーを用いて、ABL遺伝子のmRNAを鋳型として逆転写反応によって得られた核酸を増幅することを含む、核酸増幅方法。
<5> (1)<1>~<3>のいずれか一項に記載のABL遺伝子増幅用フォワードプライマーを用いて核酸増幅を行うこと、及び、
(2)(1)により得られる増幅産物とは異なる増幅産物を得るためのプライマーセットを用いて核酸増幅を行うこと、
を含む核酸増幅方法。
<6> 前記(1)に記載の核酸増幅が、前記(2)に記載の核酸増幅の内部標準として行われる、<5>に記載の核酸増幅方法。
<7> 前記(1)及び(2)に記載の核酸増幅を一反応液中で行う、<5>又は<6>に記載の核酸増幅方法。
<8> 前記(2)に記載の核酸増幅が、WT遺伝子のmRNAを鋳型として逆転写反応によって得られた核酸を増幅するものである、<5>~<7>のいずれか1つに記載の核酸増幅方法。
<9> <1>~<3>のいずれか1つに記載のABL遺伝子増幅用フォワードプライマーを含む、キット。
<10>(1)<1>~<3>のいずれか1つに記載のABL遺伝子増幅用フォワードプライマー、及び、
(2)(1)により得られる増幅産物とは異なる増幅産物を得るためのプライマー、
を含む<9>に記載のキット。
<11> 前記(2)のプライマーが、WT遺伝子のmRNAを鋳型として逆転写反応によって得られた核酸を増幅するためのものである、<10>に記載のキット。
<12> 前記(2)のプライマーが、配列番号17の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドであるフォワードプライマー、及び/又は、配列番号18~配列番号20のいずれか1つに記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドであるリバースプライマーを含む、<11>に記載のキット。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ゲノムDNA上のABL遺伝子の増幅が少なく、かつ、ABL遺伝子mRNAのcDNAを効率良く増幅するABL遺伝子増幅用プライマー、核酸増幅方法及び核酸増幅用キットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1A】実施例4で作成した検量線の1つを示す(セットA)。
図1B】実施例4で作成した検量線の1つを示す(セットB)。
図1C】実施例4で作成した検量線の1つを示す(セットC)。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0012】
本明細書において「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。
また、本明細書において組成物中のある成分の量について言及する場合、組成物中に当該成分に該当する物質が複数存在する場合には、特に別途定義しない限り、当該量は、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
また、本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
【0013】
<ABL遺伝子増幅用フォワードプライマー>
本発明の一実施形態にかかるABL遺伝子増幅用フォワードプライマーは、(a)配列番号1の(21-m)位~35位の塩基配列からなり、mが0~20の整数であるオリゴヌクレオチド、及び、(b)配列番号2の(18-n)位~32位の塩基配列からなり、nが0~17の整数である塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、から選択されるいずれか1つのABL遺伝子増幅用フォワードプライマーである。
【0014】
上記ABL遺伝子増幅用フォワードプライマーは、ゲノムDNA上のABL遺伝子と比べて、ABL遺伝子mRNAのcDNAに対する特異性が高い、ゲノムDNAのABL遺伝子の誤増幅が少ないフォワードプライマーである。
配列番号1の21位~35位の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド又は配列番号2の18位~32位の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを少なくとも含むことによって、ABL遺伝子mRNAのcDNAへの特異性が高く、ゲノムDNA上のABL遺伝子の増幅を少なく抑えつつ、ABL遺伝子mRNAのcDNAの効率的な増幅を可能とするフォワードプライマーが得られる。
【0015】
(a)のフォワードプライマーにおいて、mは5~20の整数であることが好ましく、6~20又は7~20の整数であることがさらに好ましく、8~20又は9~20の整数であることがさらに好ましく、10~20の整数であることが一層好ましい。また、前記それぞれのmの範囲において、mの上限値を15又は14に変更した範囲も好ましく、13又は12に変更した範囲はさらに好ましく、11又は10に変更した範囲は特に好ましい。
【0016】
本発明の一実施形態にかかる、(a)配列番号1の(21-m)位~35位の塩基配列からなり、mが0~20の整数であるオリゴヌクレオチドであるABL遺伝子増幅用フォワードプライマーのうち、好ましく用いられるプライマーの例としては、配列番号1、3及び4のいずれか1つの塩基配列からなるオリゴヌクレオチドであるフォワードプライマーが挙げられる。
【0017】
(b)のフォワードプライマーにおいて、nは3~17の整数であることが好ましく、4~17又は5~17の整数であることがさらに好ましく、6~17の整数であることがさらに好ましく、7~17の整数であることが一層好ましい。また、前記それぞれのnの範囲において、nの上限値を12又は11に変更した範囲も好ましく、10又は9に変更した範囲がさらに好ましく、8又は7に変更した範囲が特に好ましい。
【0018】
本発明の一実施形態にかかる、(b)配列番号2の(18-n)位~32位に示され、nが0~17の整数である塩基配列からなるオリゴヌクレオチドであるABL遺伝子増幅用フォワードプライマーのうち、好ましく用いられるプライマーの例としては、配列番号2、5及び6のいずれか1つの塩基配列からなるオリゴヌクレオチドであるフォワードプライマーが挙げられる。
【0019】
なお、本発明の一実施形態において、ABL遺伝子増幅用フォワードプライマーは、ゲノムDNA上のABL遺伝子の増幅が臨床上の判定に問題が無い程度に抑えられる限りは、各ABL遺伝子増幅用フォワードプライマーの塩基配列に対して1個~3個程度の塩基が伸長、短縮、挿入、欠失、又は置換された塩基配列からなる改変オリゴヌクレオチドであってもよい。
【0020】
<核酸増幅方法>
本発明の一実施形態にかかる核酸増幅方法は、(a)配列番号1の(21-m)位~35位に示され、mが0~20の整数である塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、及び、(b)配列番号2の(18-n)位~32位に示され、nが0~17の整数である塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、から選択されるいずれか1つのABL遺伝子増幅用フォワードプライマーを用いて核酸増幅を行うことを少なくとも含む、核酸増幅方法である。
本発明の一実施形態にかかる核酸増幅方法によれば、ゲノムDNA上のABL遺伝子の増幅を少なく、かつ、ABL遺伝子mRNAのcDNAを効率良く増幅することができる。
【0021】
本発明の一実施形態にかかる核酸増幅方法は、被験対象とする試料からRNAを抽出すること、ABL遺伝子のmRNAと相補的なDNA(つまり、cDNA)を逆転写(Reverse Transcription、RT)反応により調製すること、及び、本発明の一実施形態にかかるABL遺伝子増幅用フォワードプライマーで核酸増幅を行うこと、を含むことが好ましい。核酸増幅においては、前記cDNAを鋳型として、本発明の一実施形態にかかるABL遺伝子増幅用フォワードプライマーと、前記cDNAの領域の少なくとも一部を増幅するためのリバースプライマーとを用いて核酸増幅を行うこと、を含むことが望ましい。前記フォワードプリマーとリバースプライマーを組み合わせて用いて目的とするcDNAの領域の核酸を増幅することができる。
【0022】
RNAの抽出は当業者に公知の方法、例えば、Acid Guanidinium Thiocyanate-phenol-chloroform extraction(AGPC 法)(Chomczynski & Sacchi (1987) Analytical Biochemistry, 162: 156-159)により行うことができる。あるいは、RNeasy Mini Kit(キアゲン社製)のようなシリカメンブレンを用いたスピンカラムによるRNA抽出方法、又は、Maxwell 16 LEV simplyRNA Blood Kit(プロメガ社製)のような磁性体シリカレジンや磁性体粒子を用いたRNA抽出方法により行うことができる。
【0023】
抽出したRNAから、ABL遺伝子mRNAと相補的なcDNAを調製することは、逆転写酵素を用いて行うことができる。逆転写酵素としては、Moloney Murine Leukemia Virus(M-MVL)、Avian Myeloblastosis Virus (AMV)などのレトロウイルスに由来する逆転写酵素などを例示することができるが、これらに限定されない。
cDNAの調製は公知の方法、例えば、Cleveland, D.L. and Ihle, J.H. (1995) Cell 81, 479.又はTartaglia, L.A. and Goeddel, D.V. (1992) Immunol. Today 13,151.に記載の方法によって行うことができる。
【0024】
cDNAの調製は、本発明の一実施形態にかかるABL遺伝子増幅用フォワードプライマーで核酸増幅と一反応液中で行ってもよいし、別個に行ってもよい。一反応液中で行う例として、逆転写PCR法を挙げることができる。
逆転写反応の条件は、例えば、40℃~80℃、1分間~120分間が好ましく、50℃~70℃、5分~30分間がより好ましい。また、逆転写PCR法を行う場合には、耐熱性の逆転写酵素活性を有するDNAポリメラーゼを用いてホットスタート法を採用してもよい。ホットスタート法においては、逆転写反応の直前に、例えば、55℃~99℃、1秒間~10分間のような、プライマーの非特異的なアニーリングを抑制する温度での処理条件が付加される。ホットスタート法においては、予め不活性化したDNAポリメラーゼを用いることが好ましい。DNAポリメラーゼを不活性化するためには、一般に、DNAポリメラーゼの中和抗体やアプタマーを加える方法、DNAポリメラーゼを化学修飾する方法などが行われる。DNAポリメラーゼを予め不活性化することにより、ホットスタートの温度条件でのポリメラーゼ活性によるプライマーダイマーや非特異的な増幅産物の生成を抑制し、良好なリアルタイム定量PCR結果を得ることができる。
【0025】
核酸増幅の方法は、増幅の対照とする核酸配列又はその近傍にハイブリダイズするプライマーを用いて行う方法であれば、特に限定はされない。例えばポリメラーゼを用いる方法等によって行うことができる。その例としては、PCR法、ICAN法、LAMP法、NASBA法等が挙げられる。増幅の反応条件等を調整することは当業者であれば容易である。
【0026】
PCR法に用いるDNAポリメラーゼとしては、通常用いられるDNAポリメラーゼを特に制限なく用いることができる。例えば、従来公知の耐熱性細菌由来のポリメラーゼが使用できる。具体例としては、テルムス・アクアティカス(Thermus aquaticus)由来DNAポリメラーゼ(米国特許第4889818号明細書及び米国特許第5079352号明細書を参照)(Taqポリメラーゼ(商品名))、テルムス・テルモフィラス(Thermus thermophilus)由来DNAポリメラーゼ(国際公開第91/09950号を参照)(rTth DNA polymerase)、ピロコッカス・フリオサス(Pyrococcus furiosus)由来DNAポリメラーゼ(国際公開第92/9689号を参照)(Pfu DNA polymerase;Strategene社製)、テルモコッカス・リトラリス(Thermococcus litoralis)由来DNAポリメラーゼ(欧州特許第0455430号明細書を参照)(Vent(商標);New England Biolabs社製)、GeneTaq(ニッポンジーン社製)、PrimeSTAR Max DNA Polymerase(タカラバイオ社製)、等が商業的に入手可能である。
【0027】
PCR法に用いるDNAポリメラーゼとして、逆転写酵素活性を有するDNAポリメラーゼを用いてもよい。逆転写酵素活性を有するDNAポリメラーゼを用いることによって、RNAからcDNAを合成してPCR法により増幅し、検出する逆転写リアルタイムPCR法を一反応液中において1ステップで実施することができる。逆転写酵素活性を有するDNAポリメラーゼとしては、Tthポリメラーゼ(東洋紡社製など)、HawkZ05 Fast DNA ポリメラーゼ(ロシュ社製)等を挙げることができる。また、DNAポリメラーゼとしては、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を持つDNAポリメラーゼが好ましい。5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を持つDNAポリメラーゼは、PCRの増幅過程において、DNAに結合した蛍光標識プローブを5’→3’エキソヌクレアーゼ活性により分解する。蛍光物質と消光物質とで標識したプローブを用いれば、前記分解により蛍光物質が遊離し、蛍光物質のシグナル強度変化によりDNA増幅量をリアルタイムに測定するリアルタイム定量PCR法を行うことができる。
【0028】
PCR法は、通常用いられる条件を適宜選択して行えばよい。
ポリメラーゼの使用量としては、通常用いられている濃度であれば特に制限はない。例えば、Taqポリメラーゼを用いる場合、例えば、反応溶液量50μLに対して0.01U~100Uの濃度とすることができる。これにより、検出感度が高まるなどの傾向がある。
【0029】
増幅反応において、増幅反応液における試料の添加割合は特に制限されない。具体例として、上記試料が生体試料(例えば、抽出されたRNA試料)の場合、添加割合の下限は、0.01体積%以上であることが好ましく、0.1体積%以上であることがより好ましく、1体積%以上であることがさらに好ましい。また、上記試料が生体試料(例えば、抽出されたRNA試料)の場合、添加割合の上限は、50体積%以下であることが好ましく、30体積%以下であることがより好ましく、15体積%以下であることがさらに好ましい。
【0030】
また、増幅反応の開始前に、上記増幅反応液にさらにアルブミンを添加してもよい。このようなアルブミンの添加によって、例えば、沈殿物又は濁りの発生による影響をより一層低減でき、且つ、増幅効率もさらに向上する。
上記反応液におけるアルブミンの添加割合は、例えば、0.01質量%~2質量%であり、好ましくは0.1質量%~1質量%であり、より好ましくは0.2質量%~0.8質量%である。アルブミンとしては、ウシ血清アルブミン(BSA)、ヒト血清アルブミン、ラット血清アルブミン、ウマ血清アルブミン等が挙げられ、特に制限されない。これらのアルブミンはいずれか1種類を使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0031】
以下、増幅についてPCR法、逆転写PCR法又は逆転写リアルタイムPCR法を例に挙げて説明するが、本発明は、この例に制限されない。
【0032】
まず、鋳型核酸と本発明の一実施形態にかかるABL遺伝子増幅用フォワードプライマーと、目的とする遺伝子領域の核酸を増幅するためのリバースプライマーとを少なくとも含むPCR反応液を調製する。
PCR反応液における各種プライマーの添加割合は、特に制限されない。例えば、フォワードプライマー及びリバースプライマーの添加割合は、0.01μmol/L~50μmol/Lであることが好ましく、0.02μmol/L~5μmol/Lであることがより好ましく、0.05μmol/L~1μmol/Lであることがさらに好ましい。
【0033】
PCR反応液におけるその他の組成成分は、特に制限されず、従来公知の成分が挙げられ、その割合も特に制限されない。他の組成成分としては、DNAポリメラーゼ、ヌクレオシド三リン酸(dNTP)等のヌクレオチド、溶媒等が挙げられる。PCR反応液において、各組成成分の添加順序は何ら制限されない。
【0034】
ヌクレオシド三リン酸としては、通常、dNTP(例えば、dATP、dGTP、dCTP、dTTP、dUTP等)が挙げられる。PCR反応液中のdNTPの添加割合は、目的核酸を増幅する目的で当業界において通常用いられる割合であればよい。
溶媒としては、Tris-HCl、Tricine、MES(2-morpholinoethanesulfonic acid)、MOPS(3-morpholinopropanesulfonic acid)、HEPES(4-(2-hydroxyethyl)-1-piperazineethanesulfonic acid)、CAPS(N-cyclohexyl-3-aminopropanesulfonic acid)、Bicine buffer等の緩衝液が挙げられ、市販のPCR用緩衝液やPCRキットに付属の緩衝液等をそのまま使用すればよい。
また、PCR又は逆転写PCR反応液には、グリセロール、ヘパリン、ベタイン、NaN、KCl、MgCl、MgSO、酢酸マンガン(II)、酢酸カリウム等が含まれていてもよい。
【0035】
PCRは、通常、(i)二本鎖核酸の一本鎖核酸への解離(解離工程)、(ii)プライマーの鋳型核酸へのアニーリング(アニーリング工程)、(iii)DNAポリメラーゼによるプライマーからの核酸配列の伸長(伸長工程)の3工程を含む。各工程の条件は特に制限されない。解離工程の条件は、例えば、85℃~99℃、1秒間~120秒間が好ましく、88℃~95℃、1秒間~60秒間がより好ましい。アニーリング工程の条件は、例えば、40℃~70℃、1秒間~300秒間が好ましく、50℃~70℃、5秒間~60秒間がより好ましい。また、伸長工程の条件は、例えば、50℃~80℃、1秒間~300秒間が好ましく、50℃~80℃、5秒間~60秒間がより好ましい。
サイクル数は特に制限されない。3工程を1サイクルとして、例えば、30サイクル以上が好ましい。上限は特に制限されないが、例えば、合計100サイクル以下、好ましくは70サイクル以下、より好ましくは50サイクル以下である。各工程の温度変化は、例えば、サーマルサイクラー等を用いて自動的に制御すればよい。なお、アニーリング工程と伸長工程とを同じ温度条件とし、2工程でPCRを行ってもよい。
以上のようにして、ゲノムDNA上のABL遺伝子の誤増幅が少ない増幅産物を得ることができる。
【0036】
本発明の一実施形態にかかるABL遺伝子増幅用フォワードプライマーと組み合わせて用いるリバースプライマーは、目的とする領域を増幅するように従来技術により設計すればよい。ABL遺伝子のゲノム配列及びmRNA(又は、cDNA)配列は、公開されている遺伝子配列情報を含むデータベース、例えばNational Center for Biotechnology Information(NCBI)Geneから入手することができる。例としては、NCBI GENEのID:25からABL遺伝子のゲノム配列及びmRNAの配列を取得可能である。リバースプライマーの設計等に利用可能なABL遺伝子のゲノム配列の一部及びmRNAの配列を配列番号12及び配列番号13に示す。配列番号12はゲノム上のABL遺伝子の一部(NCBI Reference SequenceのNG_012034_の140001位~141440位に相当する)であり、配列番号13はABL遺伝子mRNAの一部(1位~1020位)配列を示す。当業者は、これらの配列を参照して、適宜リバースプライマーを設計することができる。
【0037】
リバースプライマーは、本発明の一実施形態にかかるABL遺伝子増幅用フォワードプライマーと組み合わせて核酸増幅を行うことができれば特に限定はされない。好ましいリバースプライマーは、前記フォワードプライマーがABL遺伝子mRNAのcDNA(又は、その増幅産物)にハイブリダイズする領域から3’側に10bp~1000bpの領域にハイブリダイズするものであり、3’側に20bp~300bpの領域にハイブリダイズするものがさらに好ましく、3’側に30bp~200bpの領域にハイブリダイズするものが特に好ましい。リバースプライマーのTm値はフォワードプライマーと近いTm値に設定することが好ましい。例えば、フォワードプライマーのTm値との差が10℃以内に設定することが好ましく、5℃以内に設定することがより好ましい。プライマーの長さ及びTm値は、12mer~40mer及び40℃~70℃、又は15mer~30mer及び50℃~60℃にしてもよい。このようなプライマーの設計手法は当業者に公知である。例えば、OligoAnalyzer(http://sg.idtdna.com/calc/analyzer)などの設計ツールが公開されており、これらを用いることもできる。
増幅産物の塩基長は特に制限されないが、例えば、50mer~1000mer、又は80mer~200merに設定することができる。
【0038】
本発明の一実施形態にかかる核酸増幅方法に好適に用いられるフォワードプライマー及びリバースプライマーの例を以下に示す。フォワードプライマーとリバースプライマーはいずれの組み合わせで用いてもよい。
-フォワードプライマー-
・配列番号1の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド(名称:ABL-F5+10mer)
・配列番号2の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド(名称:ABL-F6+10mer)
・配列番号3の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド(名称:ABL-F5)
・配列番号4の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド(名称:ABL-F5+5mer)
・配列番号5の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド(名称:ABL-F6)
・配列番号6の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド(名称:ABL-F6+5mer)
-リバースプライマー-
・配列番号14の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド(名称:EAC-ABL-R1)
・配列番号15の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド(名称:ABL-R9)
・配列番号16の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド(名称:ABL-R10)
【0039】
本発明の一実施形態にかかる核酸増幅方法は、核酸増幅と増幅産物の検出を一反応液中で行ってもよいし、別個に行ってもよい。増幅産物の検出方法は特に限定はされないが、特異性の観点から、増幅産物に相補的な配列を有するオリゴヌクレオチドを含むプローブを用いることが好ましい。ABL遺伝子の核酸増幅によって得られる増幅産物の検出に好適なプローブは、当業者であれば適宜設計可能である。当業者は増幅産物にハイブリダイズする相補的な塩基配列を有するプローブを、増幅産物の塩基配列に基づいて作成することができる。
【0040】
プローブは、検出の効率性の観点から標識物質を用いて標識することが好ましい。標識物質としては従来公知のいずれの標識物質を用いてもよいが、高感度かつ操作性が良好な蛍光色素を用いることが好ましい。上記蛍光色素としては、特に制限されないが、フルオレセイン、リン光体、ローダミン、ポリメチン色素誘導体等が挙げられる。市販の蛍光色素としては、例えば、Pacific Blue(登録商標、モレキュラープローブ社製)、TAMRA(登録商標、モレキュラープローブ社製)、BODIPY FL(登録商標、モレキュラープローブ社製)、FluorePrime(商品名、アマシャムファルマシア社製)、Cy3及びCy5(商品名、アマシャムファルマシア社製)、Fluoredite(商品名、ミリポア社製)、FAM(登録商標、ABI社製)等が挙げられる。
プローブの標識は、通常の方法に従って行うことができる。Merker Gene Technologies社製のOliGro(登録商標)等の市販のラベリングキットを用いて行うこともできる。
【0041】
蛍光標識されたプローブの具体例として、Dual Labeledプローブを挙げることができる。Dual Labeledプローブは、片方の末端が蛍光色素で修飾され、もう片方の末端がクエンチャーで修飾されている。Dual Labeledプローブが鋳型核酸にハイブリダイズした状態ではクエンチャーによって蛍光が抑制されているが、プライマーの伸長反応の際に5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を持つポリメラーゼによりプローブが分解され、クエンチャーと蛍光色素が分離することで蛍光発光し、蛍光を検出することができる。
【0042】
Dual Labeledプローブは、リアルタイムPCRとして知られる方法に主に用いられる。リアルタイムPCR法によれば、核酸増幅を経時的にモニタリングし、被験試料に含まれる標的配列のコピー数の相対的な比較をすることができる。また、標的配列のコピー数が既知である試料を標準物質として利用して検量線を作成することによって、標的配列のコピー数が未知である試料に含まれる標的配列のコピー数を定量値として得ることもできる。
【0043】
蛍光標識されたプローブのさらなる具体例として、蛍光色素で標識され、単独(相補配列にハイブリダイズしていないとき)で蛍光を示し且つハイブリッド形成(相補配列にハイブリダイズしているとき)により蛍光が減少(例えば、消光)する、蛍光消光プローブが挙げられる。例として、グアニン消光プローブであるQ Probe(登録商標)を挙げることができる。このようなグアニン消光プローブが検出目的配列にハイブリダイズすると、蛍光色素で標識化された末端のシトシン(C)が検出目的配列におけるグアニン(G)に近づくことによって、蛍光色素の発光が弱くなる(蛍光強度が減少する)という現象を示す。このようなグアニン消光プローブを使用すれば、シグナルの変動により、ハイブリダイズと解離とを容易に確認することができる。標識物質は、通常、ヌクレオチドのリン酸基に結合することができる。
【0044】
なお、上記検出方法以外にも、公知の検出様式を適用してもよい。このような検出様式としては、サイクリングプローブ法、RFLP法、Hybridization Probe法、Molecular Beacon法、MGB probe法等が挙げられる。
【0045】
本発明の一実施形態にかかる核酸増幅方法によって得られる増幅産物の検出に好適なプローブの例として、以下に示す配列番号21の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドに標識物質としてTAMRA、クエンチャーとしてBHQ2を付加したプローブ(名称:probe-ABL)を挙げることができる。
・ABL遺伝子の増幅産物を検出するためのプローブの一例(配列番号21)
TAMRA-CCATTTTTGGTTTGGGCTTCACACCATT-BHQ2
probe-ABLは、逆転写リアルタイム定量PCR法においても好適に使用し得るプローブである。
【0046】
逆転写及び核酸増幅は、一反応として逆転写PCR法により行ってもよい。逆転写PCR法は公知の方法で行うことができる。例えば、プロメガ社製の市販キット(Evans, H., and Sillibourne, J. Promega Notes 57, p21.)、クロンテック社製の市販キット(J. Biol. Chem., 2008; 283: 17175-17183.)などを使用して逆転写PCR法を行うことができる。
【0047】
本発明の核酸増幅方法の一実施形態において、本発明の一実施形態にかかるABL遺伝子増幅用フォワードプライマーを用いる核酸増幅(以下、ABLの核酸増幅と称する場合がある)は、前記ABL遺伝子増幅用フォワードプライマーとは異なる領域を対象とする核酸増幅(以下、他の核酸増幅と称する場合がある)と一反応液中で行ってもよいし、異なる反応液中で行ってもよい。他の核酸増幅は1つであってもよいし、複数であってもよい。
【0048】
ABLの核酸増幅は、他の核酸増幅の内部標準としてもよい。他の核酸増幅における内部標準としての使用は、例えば、被験試料の間で実質的に量の差が無い核酸の増幅(本発明においては、ABLの核酸増幅)を他の核酸増幅と並行して行うことを指す。内部標準は、他の核酸増幅が正常に行われているか否かを判定するために用いることができる。さらに、内部標準から得られるシグナル強度やコピー数などの数値によって、他の核酸増幅のシグナル強度やコピー数などの数値の補正を行うことができる。
補正方法は当業者に周知である。例えば、簡易な補正方法の一例として、他の核酸増幅で得られたコピー数を、ABLの核酸増幅で得られたコピー数で除する方法を挙げることができる。
【0049】
他の核酸増幅により増幅される領域は特に限定されない。他の核酸増幅において、ABL遺伝子領域の核酸増幅が行われる場合もある。他の核酸増幅において、ABLの核酸増幅によって増幅される領域と異なるABL遺伝子領域が増幅される場合には、ABLの核酸増幅によって増幅される領域と異なるABL遺伝子領域の核酸増幅は「他の核酸増幅」に相当する。
【0050】
他の核酸増幅により増幅される領域の例として、WT1遺伝子領域を挙げることができる。WT1遺伝子は、急性骨髄性白血病(AML)患者の白血病細胞において高率に高発現しており、WT1遺伝子のmRNAの上昇は白血病細胞の増加に特異的であるといわれている。このような特性から、WT1遺伝子のmRNA測定はAMLの腫瘍マーカーとしてAMLの早期発見や残存病変のモニタリングの目的で既に臨床的に使用されている。WT1mRNAの定量測定の内部標準としては従来用いられているハウスキーピング遺伝子がしばしば用いられているが、ハウスキーピング遺伝子に代えてABL遺伝子をレファレンス遺伝子とすることによって細胞の活動性に依存しないより正確なWT1mRNA発現量を決定することができる。
【0051】
WT1遺伝子の核酸増幅は上記ABL遺伝子の核酸増幅の記載に準じて行うことができる。WT1遺伝子を増幅するためのプライマーセット、逆転写及び核酸増幅の条件を当業者は適宜決定することができる。WT1遺伝子の増幅に好適なフォワードプライマーとリバースプライマーの例を以下に示す。以下のプライマーは、いずれもABL遺伝子の核酸増幅と同一反応液中で核酸増幅を行う場合にも好適に用いることができる。さらには、逆転写反応及び増幅産物の検出についても、ABL遺伝子の逆転写反応、核酸増幅及び増幅産物の検出に好適に使用することができる。
-フォワードプライマー-
・配列番号17の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド(名称:WT1-F10)
-リバースプライマー-
・配列番号18の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド(名称:WT1-R11)
・配列番号19の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド(名称:WT1-R15)
・配列番号20の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド(名称:WT1-R16)
【0052】
WT1遺伝子の核酸増幅によって得られる増幅産物の検出に好適なプローブは、当業者であれば適宜設計可能である。増幅産物にハイブリダイズする相補的な塩基配列を有するプローブを、増幅産物の塩基配列に基づいて作成することができる。好適なプローブの一例として、以下に示す配列番号22の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドに標識物質としてFAM、クエンチャーとしてBHQ1を付加したプローブ(名称:probe-WT1)を挙げることができる。
・WT1遺伝子の増幅産物を検出するためのプローブの一例(配列番号22)
FAM-AGCACGGTCACCTTCGACGGGA-BHQ1
【0053】
他の核酸増幅により増幅される領域の例として、BCR-ABL融合遺伝子領域を挙げることができる。ABL-BCR融合遺伝子のmRNA測定は、慢性骨髄性白血病(CML)の早期発見や残存病変のモニタリングに使用されている。ABL-BCR融合遺伝子の検出のために増幅される領域がABLの核酸増幅により増幅される領域と異なっていれば、ABLの核酸増幅は内部標準として好適に使用することができる。
【0054】
本発明の一実施形態において、本発明の一実施形態にかかるABL遺伝子増幅用フォワードプライマーによる核酸増幅と、前記ABL遺伝子増幅用フォワードプライマーとは異なる領域を対象とする核酸増幅とを一反応液中で行う前に、同じ反応液中で逆転写反応を行ってもよい。前記ABL遺伝子増幅用フォワードプライマーの増幅対象となる核酸領域と、前記ABL遺伝子増幅用フォワードプライマーの増幅対象とは異なる核酸領域の逆転写反応も一反応液中で行うことができる。
前述のABL遺伝子増幅用プライマー及びWT1遺伝子増幅用プライマーは、いずれもABL遺伝子とWT1遺伝子の逆転写反応、核酸増幅及び増幅産物の検出を一反応液中で行う場合にも好適に使用することができる。
【0055】
異なる増幅産物が得られる複数の核酸増幅反応を一反応液中で行う場合には、複数のフォワードプライマーの合計の添加割合は、0.01μmol/L~50μmol/Lであることが好ましく、0.02μmol/L~5μmol/Lであることがより好ましく、0.05μmol/L~1μmol/Lであることがさらに好ましい。リバースプライマーの添加割合は、0.01μmol/L~50μmol/Lであることが好ましく、0.02μmol/L~5μmol/Lであることがより好ましく、0.05μmol/L~1μmol/Lであることがさらに好ましい。
【0056】
異なる増幅産物が得られる複数の核酸増幅反応を一反応液中で行う場合には、それぞれの増幅産物に特異的なプローブを用いて検出することが好ましい。プローブは、それぞれ異なる条件で検出される異なる標識によって標識化されていることがさらに好ましい。このように、異なる標識を使用することによって、同一反応液であっても、検出条件を変えることによって各増幅産物を別個に解析することが可能となる。
複数のプローブに使用する蛍光色素の組み合わせは特に制限されないが、例えば、FAM(検出波長:505nm~515nm)、Pacific Blue(検出波長:450nm~480nm)、TAMRA(検出波長:585nm~700nm)、及びBODIPY FL(検出波長:515nm~555nm)の組み合わせ等が挙げられる。
【0057】
異なる増幅産物が得られる複数の核酸増幅反応を一反応液中で行う場合の具体例として、WT1遺伝子mRNAとABL遺伝子mRNAとを一反応液中で逆転写PCR法によって行う方法を挙げることができる。反応液には、例えば、逆転写酵素、WT1遺伝子mRNAのcDNAを増幅するためのプライマーセット、ABL遺伝子mRNAのcDNAを増幅するためのプライマーセット、WT1遺伝子増幅産物を検出するためのプローブ及びABL遺伝子増幅産物を検出するためのプローブ等が含まれる。逆転写反応、核酸増幅反応および増幅産物の検出は全て一反応液中で行うことができる。このとき、プローブの標識は異なる条件で検出される物質で標識されていることが好ましい。例えば、WT1検出用プローブがFAM、ABL検出用プローブがTAMRAで標識されていれば、検出波長を変えることによって一反応液中のWT1遺伝子増幅産物とABL遺伝子増幅産物を検出することが可能である。
【0058】
本発明の一実施形態にかかる核酸増幅方法の被験試料は、核酸を含む試料であれば特に限定されない。例えば、生体、好ましくは人体から採取した組織又は血液からRNAを抽出して被験試料として使用することができる。被験試料としては、骨髄液又は血液からRNAを抽出した試料が好ましいが、採取の際の侵襲性が低いことから、血液からRNAを抽出し被験試料として使用することが特に好ましい。RNAを抽出するための血液には全血を用いることもできるが、血液を遠心分離して生じる白血球の層(つまり、バフィーコート)を用いることが好ましい。
【0059】
<核酸増幅用キット>
本発明の一実施形態にかかる核酸増幅用キットは、本発明の一実施形態にかかるABL遺伝子増幅用フォワードプライマーを含む、核酸増幅用キットである。
本発明の一実施形態にかかるABL遺伝子増幅用フォワードプライマーを含むことにより、ゲノム上のABL遺伝子の誤増幅が少ないキットとすることができる。加えて、本発明の一実施形態にかかるABL遺伝子増幅用フォワードプライマーによる核酸増幅と、前記ABL遺伝子増幅用フォワードプライマーとは異なる領域を対象とする核酸増幅とを一反応液中で行い得られたABL遺伝子発現量を補正に用いれば、ゲノム上のABL遺伝子の誤増幅が少ないことによって、より正確な補正を行うことができる。このため、前記核酸増幅用キットを用いることによって、核酸増幅についてのより正確な内部標準が得られる。
また、内部標準としては、本発明の一実施形態にかかるABL遺伝子増幅用フォワードプライマーによる核酸増幅だけではなく、例えば、従来知られるハウスキーピング遺伝子等の、他の遺伝子を対象とする核酸増幅を組み合わせて行ってもよい。
【0060】
本発明の一実施形態にかかる核酸増幅用キットは、本発明の一実施形態にかかるABL遺伝子増幅用フォワードプライマーと組み合わせて使用して1つの領域の核酸増幅を行うリバースプライマーを含んでいてもよい。好適なリバースプライマーは前述の通りである。
また、本発明の一実施形態にかかる核酸増幅用キットは、前記ABL遺伝子増幅用フォワードプライマーを用いる核酸増幅の増幅産物を検出するためのプローブをさらに含んでいてもよい。増幅産物の検出を行うためのキットであっても、本発明の一実施形態にかかるABL遺伝子増幅用フォワードプライマーを用いて核酸増幅を行う限りは、本発明の核酸増幅キットに包含される。
プローブ及びプライマーについては、プローブ及びプライマーについて前述した事項をそのまま適用することができる。
【0061】
本発明の一実施形態にかかる核酸増幅用キットは、本発明の一実施形態にかかるABL遺伝子増幅用フォワードプライマーとは異なる領域を対象として核酸増幅を行うためのプライマーセットをさらに含んでいてもよい。このようなプライマーセットの例として、WT1遺伝子増幅用のプライマーセット、BCR-ABL融合遺伝子増幅用のプライマーセットなどを挙げることができる。
本発明の一実施形態にかかる核酸増幅用キットは、本発明の一実施形態にかかるABL遺伝子増幅用フォワードプライマーとは異なる領域を対象とする核酸増幅の増幅産物を検出するためのプローブをさらに含んでいてもよい。
本発明の一実施形態にかかるABL遺伝子増幅用フォワードプライマーとは異なる領域を対象として核酸増幅を行うためのプライマー、及び、前記異なる領域の増幅産物を検出するためのプローブについては、前述した事項をそのまま適用することができる。
【0062】
また、本発明の一実施形態にかかる核酸増幅用キットは、プローブ、プライマー及びその他の試薬類が、別個に収容されていてもよいし、それらの一部が混合物とされていてもよい。
なお、「別個に収容」とは、各試薬が非接触状態を維持できるように区分けされたものであればよく、必ずしも独立して取り扱い可能な個別の容器に収容される必要はない。
試薬類は、例えば、緩衝液中に溶解された状態で含まれていてもよいし、凍結乾燥品として含まれていてもよい。試薬類を収容する容器としては、例えば、ガラス製やプラスチック製のバイアル等を用いることができる。
本発明の一実施形態において、複数のプライマー及び/又はプローブを含む場合、それらは混合された状態で含まれていても、それぞれ別個に含まれていてもよい。
【実施例
【0063】
以下、本発明を実施例にて詳細に説明する。しかしながら、本発明はそれらに何ら限定されるものではない。
【0064】
[試薬等]
ABL遺伝子増幅用の各フォワードプライマーの評価は、WT1遺伝子とABL遺伝子について、逆転写から検出までの一連の操作を一反応液中で行うマルチプレックス系の逆転写リアルタイム定量PCRで行った。表1に示す反応液を用いた。
使用したABL遺伝子増幅用フォワードプライマー(ABL-F-Primer)を表2、ABL遺伝子増幅用リバースプライマー(ABL-R-Primer)を表3に示す。
使用したWT1遺伝子増幅用フォワードプライマー(WT1-F-Primer)及びWT1遺伝子増幅用リバースプライマー(WT1-R-Primer)を表4に示す
使用したABL遺伝子検出用プローブ及びWT1遺伝子検出用プローブを表5に示す。これらのプローブは全ての実験において使用された。
また、表1においてtemplateは遺伝子増幅が行われ得るRNA又はDNAを示す。
【0065】
【表1】
【0066】
【表2】
【0067】
【表3】
【0068】
【表4】
【0069】
【表5】
【0070】
逆転写及びリアルタイム定量PCR(RT-qPCR)は、ABI 7500 Fast(アブライドバイオシステムズ社製)にて行った。逆転写及びRT-qPCRの条件は、表6に示すRT-qPCR条件(1)又はRT-qPCR条件(2)の通りである。
【0071】
【表6】
【0072】
[参考例1]
非特許文献1及び2で用いられたABL遺伝子増幅用フォワードプライマーである、EAC-ABL-F1と、新たに調製したフォワードプライマーABL-F2、ABL-F3及びABL-F4のABL遺伝子について、ゲノム上のABL遺伝子の誤増幅を評価した。
ABL遺伝子増幅用リバースプライマーとして、非特許文献1及び2で用いられたEAC-ABL-R1を使用した。WT1遺伝子増幅用フォワードプライマーはWT1-F10、WT1遺伝子増幅用リバースプライマーはWT1-R11を使用した。
【0073】
また、ヒト慢性骨髄性白血病由来細胞株K562より定法に従ってRNAを抽出し、下記表7の通りに蒸留水で希釈した希釈物を調製した。各希釈物について、RT-qPCR条件(1)でRT-qPCRを行い、WT1遺伝子及びABL遺伝子転写物の検量線を作製した。
【0074】
【表7】
【0075】
ゲノムDNAとして、1テスト当たり5000コピーのHuman Genomic DNA(ロシュ社、表8中に#1ゲノムとして示す)を用い、作製した検量線を用いてゲノムDNA上のABL遺伝子の誤増幅を定量値として求めた。結果を表8に示す。EAC-ABL-F1を用いた場合には734コピーが検出された。ABL-F2、ABL-F3及びABL-F4を用いた場合には、それぞれ495、484及び397コピーが検出された。新たに作成したABL遺伝子増幅用フォワードプライマーは、EAC-ABL-F1と比較して誤増幅の程度は改善されていたが、さらに改善の余地があると考えられた。
【0076】
【表8】
【0077】
[参考例2]
参考例1において、RT-qPCR条件(1)に代えてRT-qPCR条件(2)としたこと以外は、実験例1と同様にしてゲノムDNA上のABL遺伝子の誤増幅を評価した。また、#1ゲノムの他に、ヒト白血球より定法により抽出したゲノムDNAである1テスト当たり3000コピーの#2ゲノム及び1テスト当たり7000コピーの#3ゲノムについても、#1ゲノムと同じ条件でABL遺伝子の誤増幅を評価した。#2ゲノムと#3ゲノムは別の個人から由来する検体である。結果を表9に示す。
#1ゲノムの検出結果はいずれのABL遺伝子増幅用フォワードプライマーを用いた場合にも参考例1より誤増幅の程度が改善したが、さらに改善の余地があると考えられた。
【0078】
【表9】
【0079】
[実施例1]
ABL遺伝子増幅用フォワードプライマーABL-F5、ABL-F6及びABL-F7を作製し、EAC-ABL-F1との比較を行った。ABL遺伝子増幅用フォワードプライマーとしてABL-F5、ABL-F6及びABL-F7を用いたこと以外は、参考例2と同様にしてABL遺伝子の誤増幅を評価した。
【0080】
結果を表10に示す。ABL-F5又はABL-F6を用いた場合には、いずれのゲノムDNAを用いた場合にも、EAC-ABL-F1、ABL-F2~F4及びABL-F7と比較して、ゲノムDNA上のABL遺伝子の誤増幅が大きく減少した。ABL-F5及びABL-F6では、1テストあたり0~34コピーとゲノムDNAの誤増幅が少なかった。ABL-F5又はABL-F6をフォワードプライマーとして用いることによって、ゲノムDNAの誤増幅が非常に少なくなることが確認された。
【0081】
【表10】
【0082】
[実施例2]
ABL-F5及びABL-F6の5’側に、ABL遺伝子のcDNAに相補性を有する5塩基又は10塩基を付加したフォワードプライマーである、ABL-F5+5mer、ABL-F5+10mer、ABL-F6+5mer及びABL-F6+10merを作製した。
ABL遺伝子増幅用フォワードプライマーとしてABL-F5+10mer、ABL-F6+5mer又はABL-F6+10merを用いた以外は、参考例2と同様にしてゲノムDNA上のABL遺伝子の誤増幅について評価した。
【0083】
結果を表11に示す。いずれのフォワードプライマーを用いてもゲノムDNAの誤増幅は少なかった。この結果から、ゲノムDNAの誤増幅は、ABL-F5又はABL-F6を5’側に延長しても臨床的な使用に十分に少ないコピー数に抑えられることがわかる。
【0084】
ABL-F5及びABL-F6の3’端は、ゲノムABL遺伝子と、mRNAとの配列が異なる箇所を含んでいる。ABL-F5及びABL-F6の3’側の配列によって、mRNAに高い特異性を有する結果となったと考えられる。しかし、ABL-F2、ABL-F3、ABL-F4及びABL-F7も、ゲノムABL遺伝子の増幅産物と、mRNAの増幅産物との配列が異なる箇所を3’側に含んでいるが、ゲノムDNAの誤増幅はABL-F5及びABL-F6と比較して非常に高い。したがって、詳細な機序は不明であるが、ABL-F5及びABL-F6の3’側の塩基配列がABL遺伝子のmRNAに高い特異性をもたらすと考えられる。
【0085】
【表11】
【0086】
[実施例3]
ABL遺伝子増幅用リバースプライマーを、EAC-ABL-R1に代えてABL-R9又はABL-R10を用いた以外は、実施例1と同様にしてゲノムDNA上のABL遺伝子の誤増幅について評価した。
【0087】
結果を表12に示す。ABL-R9又はABL-R10を用いた場合にもゲノムDNAの誤増幅は少なかった。フォワードプライマーがABL遺伝子mRNAに高い特異性を有することによって、遺伝子増幅が高い感度で行われると考えられる。
【0088】
【表12】
【0089】
[実施例4]
WT1遺伝子のmRNAとABL遺伝子のmRNAとを同時に定量するための検量線を作成した。ABL遺伝子増幅用フォワードプライマーとしてABL-F5のみを用いたこと、テンプレート(template)として検量線作成用の検量物質を変更したこと、及び、WT1遺伝子増幅用のプライマーセットを変更したこと、以外は実施例1と同様にRT-qPCRを行った。プライマーの組み合わせは、表13に示す通りセットA~Cの3通りで試験した。検量線作成用の検量物質は、WT1遺伝子及びABL遺伝子それぞれから転写されたmRNAをクローニングして得たcDNAから転写して得られたRNAを用いた。cDNAのクローニングおよびインビトロでの転写は定法に従って行った。ネガティブコントロールとして、検量物質の代わりに蒸留水を用いてRT-qPCRを行った。
【0090】
検量物質に含有されるWT1遺伝子mRNA及びABL遺伝子mRNAそれぞれのコピー数、及び、セットA~Cを用いたRT-qPCRの結果として得られた各検量点でのCt値を表14に示す。セットA~Cにより作成した検量線を図1A図1Cにそれぞれ示す。
【0091】
【表13】
【0092】
【表14】
図1A
図1B
図1C
【配列表】
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