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特許7008242ヒトと同様の胸郭の硬さや性質を有する心肺蘇生マネキン
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  • 特許-ヒトと同様の胸郭の硬さや性質を有する心肺蘇生マネキン 図1
  • 特許-ヒトと同様の胸郭の硬さや性質を有する心肺蘇生マネキン 図2
  • 特許-ヒトと同様の胸郭の硬さや性質を有する心肺蘇生マネキン 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-13
(45)【発行日】2022-01-25
(54)【発明の名称】ヒトと同様の胸郭の硬さや性質を有する心肺蘇生マネキン
(51)【国際特許分類】
   G09B 23/28 20060101AFI20220118BHJP
   G09B 9/00 20060101ALI20220118BHJP
【FI】
G09B23/28
G09B9/00 Z
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020013005
(22)【出願日】2020-01-10
(65)【公開番号】P2021110914
(43)【公開日】2021-08-02
【審査請求日】2020-04-10
【権利譲渡・実施許諾】特許権者において、権利譲渡・実施許諾の用意がある。
(73)【特許権者】
【識別番号】518064662
【氏名又は名称】若松 弘也
(72)【発明者】
【氏名】若松 弘也
【審査官】比嘉 翔一
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-527004(JP,A)
【文献】特開平11-249546(JP,A)
【文献】特開平06-012013(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G09B 1/00- 9/56
G09B17/00-19/26
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バネ係数と長さの異なる少なくとも3個以上の複数のスプリングを内部に有する心肺蘇生マネキンであって、前記複数のスプリングは同心円状に配置されていること、前記スプリングは全て前記マネキンの背中部と接するように配置されていること、一番長いスプリングのマネキン胸部側端部に胸板が配置されていること、当該胸板は前記マネキン胸部のマネキン内面側の面と接していること、を特徴とする心肺蘇生マネキン。
【請求項2】
請求項1に記載の心肺蘇生マネキンと、圧迫深度測定装置を併用して行うことを特徴とする心肺蘇生トレーニング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
心肺蘇生では適切な深さで胸骨圧迫を行うことが重要である。本発明は、適切な深さの胸骨圧迫を行うためにどれくらいの力加減で圧迫すればよいのかを身につけるのに有用な心肺蘇生マネキンと、それを用いた心肺蘇生トレーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
心肺蘇生時には、5cmの深さで胸骨圧迫することで傷病者の予後が改善することが科学的に証明されており、非特許文献1の通り心肺蘇生のガイドラインでも5cmの深さで胸骨圧迫をすることが推奨されている。
【0003】
そのため、加速度センサーを用いて心肺蘇生中に胸骨圧迫の深さを正確に測る圧迫深度測定装置も臨床応用されてはいるが、使用場所は救急車内などに限られており、一般的に蘇生現場で使用されることはない。多くの救助者は自分の胸骨圧迫の深さを正確に知るのは困難であり、自分が加える力の感覚を頼りに胸骨圧迫を行う。
【0004】
心肺蘇生のスキルを身につけるためには、胸骨圧迫の深さを測定できる心肺蘇生マネキンを用い、5cmの深さで胸骨を圧迫する訓練を通じて、胸骨圧迫に必要な力加減を学んでいる。しかし、心肺蘇生マネキンの胸郭の硬さは製造会社によってばらつきがあることが非特許文献2の通り報告されている。また、多くの心肺蘇生マネキンはスプリングを用いており、胸骨圧迫に要する力と胸骨圧迫の深さは線形的である。しかし、非特許文献3の遺体による報告によると、ヒトの胸骨圧迫に要する力と胸骨圧迫の深さは線形的ではない。実際の傷病者とは違う硬さや性質を持つ心肺蘇生マネキンで5cmの深さで圧迫する訓練を積んでスキルを身につけても、実際の傷病者を対象に適切な心肺蘇生ができるとは限らないという問題があった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Travers AH.Part 3:Adult Basic Life Support and Automated External Defibrillation 2015 International Consensus on Cardiopulmonary Resuscitation and Emergency Cardiovascular Care Science With Treatment Recommendations.Circulation.2015;132:S51-S83
【0006】
【文献】若松弘也,松本聡,坂部武史.心肺蘇生用マネキンの胸部圧迫に必要な力の検討.日本救急医学会雑誌 2008;19:616.
【0007】
【文献】Tomlinson AE.Compression force-depth relationship during out-of-hospital cardiopulmonary resuscitation.Resuscitation 2007;72:364-70
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、従来における前記問題を解決するため、実際の傷病者と同様の硬さや性質を持つ心肺蘇生マネキンを作成し、それと胸骨圧迫の深さを正確に測る圧迫深度測定装置を併用して、5cmの深さで胸骨圧迫するトレーニングを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するための心肺蘇生マネキンは、胸骨圧迫の深さとそれに要する力の関係が、非特許文献3の遺体による報告のとおり、ヒトと同じような非線形の関係になるようにする。
【0010】
そのために、心肺蘇生マネキン内部にはバネ係数と長さの異なる複数のスプリングを同心円状に配置する。すべてのスプリングは心肺蘇生マネキンの底面と接するように固定し、一番長いスプリングは胸板を介して心肺蘇生マネキンの胸部と接するように配置する。
【0011】
心肺蘇生マネキンの胸骨圧迫を行うと、まず1番長いスプリングが圧縮され、圧迫長に比例して弾性力が生じる。そして2番目に長いスプリングと同じ長さになった段階から、圧迫には2つのバネの弾性力に抗する力が必要になってくる。このように、適切なバネ係数と長さの異なる複数のスプリング組み合わせることにより、胸骨圧迫に要する力と胸骨圧迫の深さの関係を、非線形のヒトに近づけることが可能となる。
【0012】
前記心肺蘇生マネキンに、市販されている胸骨圧迫の深さを正確に測る圧迫深度測定装置を併用して、5cmの深さで胸骨圧迫するトレーニングをおこなう。
【発明の効果】
【0013】
胸骨圧迫の深さを正確に測る圧迫深度測定装置を用いながら、本発明によるリアリティーの高い心肺蘇生マネキンでトレーニングを行うことにより、実際の臨床で傷病者の予後を改善する5cmの深さの胸骨圧迫に、どれくらいの力加減が必要かを身につけることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明の心肺蘇生マネキンの一例を示す概略図である。
図2図2は、本発明の心肺蘇生マネキンに組み込むスプリングの組み合わせの一例である。
図3図3は、図2のようにスプリングを組み合わせた場合の、胸骨圧迫の深さとそれに要した力の関係をグラフにしたものである。非特許文献3の遺体によるヒトでのデータと重ね合わせて示している。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の心肺蘇生マネキンの一例を示す図1を参照する。心肺蘇生心肺蘇生マネキン内部にはバネ係数と長さの異なる複数のスプリングを同心円状に配置する。すべてのスプリングは心肺蘇生マネキンの底面と接するように固定し、一番長いスプリングは胸板を介して心肺蘇生マネキンの胸部と接するように配置する。市販されている胸骨圧迫の深さを正確に測る圧迫深度測定装置をマネキン前胸部の圧迫部位に配置して胸骨圧迫を行う。心肺蘇生マネキンの胸骨圧迫を行うと、まず1番長いスプリングが圧縮され、圧迫長に比例して弾性力が生じる。そして1番目のスプリングが2番目に長いスプリングと同じ長さになった段階から、圧迫には2つのスプリングの弾性力に抗する力が必要になってくる。このように、適切なバネ係数と長さの異なる複数のスプリング組み合わせることにより、胸骨圧迫に要する力と胸骨圧迫の深さの関係を、非線形のヒトに近づけることが可能となる。
【0016】
本発明の心肺蘇生マネキンに配置するスプリングの組み合わせの一例を示す図2を参照する。一番長いスプリング(スプリング1)の長さをLmmとする。次に長いスプリング(スプリング2)を(L-20)mm、その次に長いスプリング(スプリング3)を(L-40)mmとし、それぞれのバネ係数を500gf/mmm、500gf/mmm、1000gf/mmとする。図2では3個のスプリングの組み合わせを例示したが、スプリングの数を増やすこともできる。
【0017】
図3は、スプリングを図2のように組み合わせた場合の、胸骨圧迫の深さとそれに要した力の関係をグラフに示したものである。グラフは非特許文献3のヒトのデータと重ね合わせて示している。ヒトでの胸骨圧迫の深さとそれに要した力の関係は非線形であるが、3個のスプリングを組み合わせることにより、ヒトの胸骨圧迫の深さとそれに要した力との関係に近づくことがわかる。スプリングの数を増やしてその長さやバネ係数を適切に設定することで、胸骨圧迫の深さとそれに要した力の関係はより滑らかになり、更にヒトのデータに近づけることができる。
【産業上の利用可能性】
【0018】
本発明の心肺蘇生マネキンは、心肺蘇生法のトレーニングに利用できる。本発明の心肺蘇生マネキンはヒトと同様の胸郭の硬さや性質を備えているため、このマネキンを用いたトレーニングで習得したスキルは、実際の傷病者を対象とした心肺蘇生現場でもそのまま役に立つ。
図1
図2
図3